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特集 50 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 世界最高水準の表現力を実現する次世代3Dプリント 用データフォーマット「FAV(ファブ)」 The Next-Generation 3D Printing Data Format FAV, Which Enables an Unprecedented Wide Range of Expression 富士ゼロックスは、2016年7月に、次世代3Dプリント用フォー マットFAV(FAbricatable Voxel)の仕様を公開した。これまで デファクトスタンダードだったSTLや、近年提案されている AMF、3MF等のメッシュベースのデータフォーマットで表現でき るのは、物体表面のみである。FAVは、3次元的な画素値であるボ クセルを立体的に積み上げることで、物体内部までデータを表現 できる。さらに、色、材料、強度などの、モノ作りに利用するため の情報をボクセルに格納することで、3Dプリンターの能力のさら なる活用を提案している。また、設計(CAD)データをFAVフォー マットのまま解析(CAE)や検査(CAT)に活用し、解析結果や 製造装置(CAM)の特性を設計に反映するなど、これまで独立し ていた各工程をシームレスに連結するだけでなく、柔軟に相互運 用することで、エンジニアリング領域の業務変革を実現すること ができる。 Abstract In July 2016, Fuji Xerox released the specifications of its next- generation 3D printing data format, FAV, which stands for fabricatable voxel. Other 3D data formats, such as the previous de facto standard STL as well as recently proposed mesh-based data formats such as AMF and 3MF, can only express information about the outer surfaces of three-dimensional objects. Because the FAV format defines 3D data in the form of voxels (the three-dimensional equivalent of pixels) arranged in three-dimensional configurations, it can be used to express information about the internal structures of three-dimensional objects as well as about their outer surfaces. In addition, FAV allows attribute information used for fabrication (e.g., color, material, and connection strength) to be defined for each voxel, enabling users to take fuller advantage of the capabilities of 3D printers. The FAV format makes it possible for individual processes that were separate up until now to be linked seamlessly. For example, it is possible for users to perform design (CAD), analysis (CAE), and inspection (CAT) using 3D model data in the FAV format without converting it into other formats. Users can also reflect the analysis results and fabrication equipment (CAM) characteristics back into the design. By enabling the flexible interoperation of these processes, FAV makes the realization of business transformation in the field of engineering possible. 執筆者 高橋智也(Tomonari Takahashi藤井雅彦(Masahiko Fujii研究技術開発本部 マーキング技術研究所 Marking Technology Laboratory, Research & Technology Group【キーワード】 3Dプリンティング、3Dデータフォーマット、 Additive Manufacturing、ボクセル、製造業、 モノ作り、マスカスタマイゼーション Keywords3D printing, 3D data format, additive manufacturing, voxel, manufacturing industry, fabrication, mass customization

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特集

50 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

世界 高水準の表現力を実現する次世代3Dプリント用データフォーマット「FAV(ファブ)」 The Next-Generation 3D Printing Data Format FAV, WhichEnables an Unprecedented Wide Range of Expression

要 旨

富士ゼロックスは、2016年7月に、次世代3Dプリント用フォー

マットFAV(FAbricatable Voxel)の仕様を公開した。これまで

デファクトスタンダードだったSTLや、近年提案されている

AMF、3MF等のメッシュベースのデータフォーマットで表現でき

るのは、物体表面のみである。FAVは、3次元的な画素値であるボ

クセルを立体的に積み上げることで、物体内部までデータを表現

できる。さらに、色、材料、強度などの、モノ作りに利用するため

の情報をボクセルに格納することで、3Dプリンターの能力のさら

なる活用を提案している。また、設計(CAD)データをFAVフォー

マットのまま解析(CAE)や検査(CAT)に活用し、解析結果や

製造装置(CAM)の特性を設計に反映するなど、これまで独立し

ていた各工程をシームレスに連結するだけでなく、柔軟に相互運

用することで、エンジニアリング領域の業務変革を実現すること

ができる。

Abstract

In July 2016, Fuji Xerox released the specifications of its next-generation 3D printing data format, FAV, which stands forfabricatable voxel. Other 3D data formats, such as the previous defacto standard STL as well as recently proposed mesh-based data formats such as AMF and 3MF, can only express information aboutthe outer surfaces of three-dimensional objects. Because the FAV format defines 3D data in the form of voxels (the three-dimensional equivalent of pixels) arranged in three-dimensional configurations, it can be used to express information about the internal structuresof three-dimensional objects as well as about their outer surfaces. In addition, FAV allows attribute information used for fabrication(e.g., color, material, and connection strength) to be defined for each voxel, enabling users to take fuller advantage of thecapabilities of 3D printers. The FAV format makes it possible forindividual processes that were separate up until now to be linkedseamlessly. For example, it is possible for users to perform design (CAD), analysis (CAE), and inspection (CAT) using 3D model datain the FAV format without converting it into other formats. Users canalso reflect the analysis results and fabrication equipment (CAM)characteristics back into the design. By enabling the flexibleinteroperation of these processes, FAV makes the realization ofbusiness transformation in the field of engineering possible.

執筆者 高橋智也(Tomonari Takahashi) 藤井雅彦(Masahiko Fujii) 研究技術開発本部 マーキング技術研究所 (Marking Technology Laboratory, Research & Technology Group)

【キーワード】

3Dプリンティング、3Dデータフォーマット、

Additive Manufacturing、ボクセル、製造業、

モノ作り、マスカスタマイゼーション

【Keywords】

3D printing, 3D data format, additive manufacturing, voxel, manufacturing industry, fabrication, mass customization

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特集

世界 高水準の表現力を実現する次世代3Dプリント用データフォーマット「FAV(ファブ)」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 51

1. はじめに

近年、Additive Manufacturing技術、いわゆる3Dプリン

ターが注目を集めている。従来のSubtractiveな造形とは異な

り、複数の材料を混ぜ合わせながら造形できること、入り組ん

だり組み合ったりしている複雑な形状を造形できること、物体

の内部形状まで造形できること、などが利点として挙げられる。

これら3Dプリンターの可能性を引き出し、3Dプリンターでし

か作れないものを、簡単に、精度よく、高い生産性で作るため

の技術やアプリケーションが求められている。

3Dプリンター活用の取り組みの1つとして、データフォー

マットの策定が挙げられる。3Dプリンターで用いられるデー

タフォーマットは、長年STL(Stereolithography)ファイル

がデファクトスタンダードとなっていた。しかし、STLファイ

ルで管理されるのは立体の表面形状データのみであり、近年の

3Dプリンターで表現可能となった色や材料、内部構造といっ

た情報を保持できないことが課題として認識されている。これ

らの情報を保持するための新たな3Dデータフォーマットとし

て、AMF(Additive Manufacturing File Format)1)、3MF

(3D Manufacturing Format)2)が提案されている。

これらのフォーマットにおいては、色や材料を表現するため

の方法が用意されている。たとえば、メッシュ*1やパーツ単位

であらかじめ決められた割合で配合する、複数のメッシュにま

たがるようにグラデーション状に配合する、数式を指定して線

形、または周期的に配合する、テクスチャー画像として複雑な

パターンを表面にマッピングする、などさまざまな指定方法が

用意されている。しかし、いずれも物体表面に対する色や材料

の属性情報の付与であり(図1(a))、内部の属性は表面からの

近似、または予測にとどまっている。たとえば、内部が多層に

なっている構造を色分けする、または物体の箇所ごとに異なる

材料配分になるようにデザインする、といった活用をするのが

困難である。

物体の内部構造をデザインするための方法も用意されてい

る。たとえば、数式を指定して線形、または周期的な形状を指

定する、内部充填する形状を指定する、などがある。しかし、

いずれも物体表面データの内側すべてを同じ形状で充填して

おり(図2)、内部形状を自由にデザインできない。たとえば、

内部に任意形状の構造をデザインする、内部構造を部位ごとに

複雑に変化させる、微細構造までデザインする、などといった

3次元的に複雑な構造、精緻な表現をするのが困難である。

このように、3次元物体の表現方法がさまざまに提案されて

いるが、3Dプリンターの能力をすべて活用できているわけで

はない。これは、AMF、3MFといった新たに提案されている

データフォーマットも、STLと同じくメッシュベースのデータ

であることに由来する。

そこで富士ゼロックスは、複雑な内部構造や属性をデータと

して保持し、デザイナーが思ったとおりに、徹底的に、精緻に

デザインできる、ボクセル*2ベースのデータフォーマット

「FAV」を提案した。2次元的な画素値であるピクセル(pixel

= picture cell)を平面に配置していくことで2Dデータ(画像)

を表現するのと同様に、3次元的な画素値であるボクセル

図1 3Dデータ表現方法の違い

(a)従来手法(メッシュ)による

物体の表面形状のみの表現 (b)提案手法(ボクセル)による

物体の内部構造まで含めた表現

図2 物体内部を同一パターンの繰り返しで充填

*1 メッシュ(ポリゴン):3次元的な頂点を結ぶ辺で構成される三角

形などの多角形面。表面形状を面で近似して物体を表現する

*2 ボクセル:3次元的な画素。2次元的な画素であるピクセルで画像を

表現するように、3次元的な画素であるボクセルで物体を表現する

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世界 高水準の表現力を実現する次世代3Dプリント用データフォーマット「FAV(ファブ)」

52 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

(voxel = volume cell)を立体的に配置していくことで3D

データ(物体)の内側の構造、色、材料まで表現できる(図1(b))。

ボクセルによる3Dデータ表現は、基本形状を積み上げるとい

う直感的なデザイン手法や、力や熱などの内部伝導シミュレー

ションが容易であること等がメリットとして挙げられる3)。

2. FAVの概要

当社は、2016年7月に、ボクセルベースデータフォーマッ

ト“FAV”の仕様を公開した4), 5)。モノ作りに利用するための

情報を保持するボクセル(fabricatable voxel)を3次元的に

積み上げることで、3Dモデル内部/外部の構造と属性を自由

にかつ詳細にデザインできる。モノ作りに利用するための情報

とは、次のようなことを示す。

●3Dモデルデータの外部、内部を問わず、形状や材料、色、

接合強度などといったモノ作りに必要な情報が立体的な

位置ごとに明確に定義されていること

●3Dモデルデータのデザイン(CAD)、解析(CAE)など

のプロセスを、データ変換することなく統一的、かつ双方

向的に行うことができること

FAVフォーマットは、これらを兼ね備えた3Dモデルデータ

である。FAVフォーマットは、XML構造によって管理されるた

め、どのようなコンピューターやデバイスでも一般的に利用で

きる。FAVフォーマットの各要素、属性のツリー構造を図3に

示す。< >は要素(Element)を、( )はその要素(Element)

に付与された属性(Attribute)を意味する。

FAVフォーマットでは、次のようなステップで3Dモデル

データを定義する。

1. <palette>にボクセル形状、サイズ、材料情報、等の基本情報

を登録

2. <palette>の基本情報を組み合わせて<voxel>を定義

3. <voxel>で定義したボクセルを<grid>で定義した3次元的な

グリッドに配置していくことで3次元的な形状と属性を同

時にデザイン

次に、各要素の概要を説明する。

2.1 メタデータの保持 <metadata>

モノ作りデータの流通や利活用を考えるうえで重要な情報

となる、FAVファイルの作者<author>、使用許諾<license>、

データ名<title>などのメタデータを付与しておくことができる。

信頼性の担保、適切なライセンス管理などに役立つ。

2.2 基本情報の登録 <palette>

3DモデルデータをFAVフォーマットに基づいて構成する

ための前準備として、ボクセル形状やサイズ、使用する材料の

情報など、基本情報の登録を行う。ボクセル形状は外部ファイ

ルを参照することで、任意形状を利用することもできる。材料

情報はABS、PLAなどの材料名、ISO規格などをはじめ、市販

品の商品名や型番、URLなど一意に定まる情報を指定する。

2.3 ボクセルの定義 <voxel>

このFAVファイルで使用する単位ボクセルを、<palette>で

既定された基本情報の組み合わせで定義する、材料情報は割合

を指定して複数組み合わせることで、ハイブリッド材料を定義

図3 FAVフォーマットのXML構造(仕様書4)からの転載)

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世界 高水準の表現力を実現する次世代3Dプリント用データフォーマット「FAV(ファブ)」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 53

できる。また、利用分野や製造方法に応じた任意のプロパティ

情報を格納することができる。

2.4 物体の3Dデータ<object>

FAVフォーマットにより定義される物体の3Dデータは、次

のように表現される。

● データ階層構造

図4のように、<voxel>で定義した単位ボクセルを<grid>で定

義する3次元的なグリッドに立体的に配置していくことで、物

体の構造<structure>を表現する。構造<structure>は、材料情

報を保持するボクセルの配置によって物体の外部/内部構造

を表す<voxel_map>、各ボクセルが保持する色情報を表す

<color_map>、各ボクセル間の関係性の強さであるリンク情報

を表す<link_map>に分けて保持される。各種mapは積層面の1

レイヤー単位で保持される。このような階層構造でデータを保

持することで、形状や材料および色のうち特定の情報だけを活

用したい場合や、現在積層している1レイヤー分の情報だけ利

用したい場合などに対しても効率的なデータの持ち方ができる。

また、図5のように、1つのFAVファイル内に複数の<object>

を定義することで、複数のパーツの組み合わせからなる物体を

表現できる。さらに、各ボクセル間の関係性の強弱や方向性を、

リンク情報で表現することができる。

● リンク情報

各ボクセル間の関係性の強弱や方向性をリンク情報として

保持することで、次のような特徴や属性を表現できる。

a. 3Dプリント方式特有の異方性*3

b. 製造時の温度や出力などの条件から推測される強度情報

c. シミュレーションから導かれる力や熱などが辿ったルート

の方向性

d. 材料そのものの物性や、複数材料間の関係性から導かれる強

度情報

e. 光や温度、時間などにより特性が変化する場合の方向性

f. 電気回路や光導波路といった任意の経路、および方向性

g. ユーザーが任意にデザインした強弱関係、または方向性

以上のようなリンク情報を保持することで、より精度の高い

構造解析を行えるほか、3Dプリント用に 適化されたツール

パス*4を生成できる。なお、aとbは製造(CAM)工程の情報

を、cは解析やシミュレーション(CAE)工程の情報を、設計

やデザイン(CAD)工程に活用している。このように、FAV

フォーマットを用いることで、各工程への情報の伝達、ならび

に相互活用を効果的に行うことができる。

以上、FAVフォーマットの構造の概要を説明した。詳細な

FAVフォーマット仕様書は当社のホームページにて公開中で

ある4)。

3. FAVの効果

当社が提案するFAVフォーマットを用いて、物体の3Dデー

タを管理することで得られる効果について述べる。

3.1 エンジニアリングプロセスの革新

FAVフォーマットは、設計(CAD)-解析(CAE)-製造(CAM)

の各プロセスを、データ変換することなく同じデータで流通さ

せることができる。そのため、各工程で必要な情報を欠落なく

保持することができるほか、ある工程で判明した設計変更が必

要なポイントを、別工程へとシームレスに受け渡すことができ

る。具体例をもって説明する。

図4 FAVフォーマットで定義される3Dモデルデータの階層構造

図5 ボクセルの配置による形状・色・材料・リンクの表現

*3 異方性:物性が方向によって異なること。3Dプリントでは同一層方

向には強度が高いが、積層方向は相対的に低くなるという異方性を

持つ

*4 ツールパス:切削機や3Dプリンターなどの製造装置の挙動を記述す

る制御コード

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世界 高水準の表現力を実現する次世代3Dプリント用データフォーマット「FAV(ファブ)」

54 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

● FAVデータのデザイン

まず、図6(a)はFAVフォーマットで管理される製造対象

物の3Dデータをフルカラー表示したものである。ボクセルは、

色情報以外にも材料や強度等のさまざまな情報が保持できる。

図6(b)は同じ物体の3Dデータを材料表示したものである。

ここでは、単一の材料(オレンジ)で物体全体を造形するよう

にデザインしている。ボクセルは材料情報を持った有限要素*5

とみなせるため、FAVフォーマットからデータ変換することな

くシミュレーションを実施することができる。

● FAVデータのシミュレーション

図6(c)は、デザインしたFAVデータに対する応力シミュ

レーション結果の表示である。上から圧力をかけたとき、ボク

セル間にどのように力が伝わっていき、その結果どの程度スト

レスがかかっているかをボクセル単位でヒートマップ表示(ス

トレスが高いほど赤く表示)している。このように、ボクセル

単位でシミュレーション結果を得ることができるため、ボクセ

ル単位の設計変更に活用することができる。

● シミュレーション結果の反映(設計変更)

図6(d)は、ある一定以上ストレスの高いボクセルのみ、材

料を硬い材料(水色)に変更した結果である。このように、シ

ミュレーションで算出したストレス値をデザインに活用する

ことで、硬い材料(水色)と柔らかい材料(オレンジ)が複雑

に混ざり合うハイブリッド材料の分布を容易にデザインする

ことが可能となる。全体を硬い材料(水色)で造形した場合に

比べ、コストを抑える、後加工する箇所の硬度を調整しておく、

人体に触れる部分は軟らかくする、等の有効活用ができる。

さらに、複数の材料を指定の割合となるように均一に混合す

る通常のコンポジット材料と異なり、ねらった位置にねらった

材料を分布させるようなハイブリッド材料をデザインするこ

とができる。その結果、これまでの製造方法では難しかった次

のようなモノ作りが可能となる。

・ 質量の異なる材料の分布で重心をコントロール

・ 屈折率の異なる材料の分布で光学特性をコントロール

・ 熱伝導率の異なる材料の分布で熱特性をコントロール

● 設計変更結果の効果確認

図7では、ハイブリッド材料へ設計変更した結果のFAVデー

タ(左)とオリジナルのFAVデータ(右)を並べ、再度応力シ

0.774

0(MPa)

0.387

0.581

0.194

材料表示

カラー表示

シミュレーション 構造/材料/等の設計変更

設計変更結果の

再シミュレーション

硬い材料

軟らかい材料

図6 FAVフォーマットを用いたエンジニアリングプロセス各工程間のデータフロー

図7 材料デザイン変更前後の結果比較

*5 有限要素:解析対象の領域を小領域に分割し、比較的単純で共通

の補間関数を適用できるように近似された単位要素

(a)物体のフルカラー表示 (b)物体の材料表示 (c)物体の応力シミュレーション結果 (d)ハイブリッド材料デザイン

(左)ハイブリッド材料 (右)オリジナル(単一材料)

FAVで可能となる一連のエンジニアリングプロセスの例を

動画でご覧いただけます

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世界 高水準の表現力を実現する次世代3Dプリント用データフォーマット「FAV(ファブ)」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 55

ミュレーションを実施することで効果確認を行っている。その

結果、ハイブリッド材料(左)でストレスが低減できているこ

とが確認できた。

このように、FAVフォーマットを用いることでデザイン

(CAD)工程とシミュレーション(CAE)工程を柔軟に行き

来するようなエンジニアリングプロセスが実現可能となる。さ

らに、FAVデータは3次元的なハーフトーニング6), 7)処理を施

すのにも適しており、3Dプリントでの造形(CAM)工程にお

ける色および質感の再現や、ハイブリッド材料の物性再現など

の取り組みが進められている。

3.2 モノ作り革命

FAVフォーマットを用いることによって、これまで作れな

かったものをデザインし、造形できるようになった。その結果、

つくり方(デザイン手法やエンジニアリングプロセス)が変わ

り、モノ作りに関わるプレイヤーが変わり、モノ作りの市場が

変わる(新たに拓ける)などの、モノ作り革命に貢献できると

考えている。たとえば、以下のようなユースケースが挙げられる。

● マスカスタマイゼーション

FAVフォーマットは、ボクセルという基本形状の積み上げ

でデータ構造を保持している。これは、積み木やブロックと

いった子供のころから慣れ親しんだ概念に通じるため、直観的

に理解しやすいことが挙げられる。また、3次元的な画素値で

あるため、画像(2Dデータ)の切り貼りやコピー、複数パーツ

の合成や演算と言ったような直観的な編集手法が物体(3D

データ)に対しても適用できる。

たとえば図8のように、メーカーが商品の基本形状やテンプ

レートとなる3Dデータを用意しておき、ユーザーがそれを組

み合わせたり部分的な編集を加えたりすることで、好みの商品

にカスタマイズすることが可能となる。また、インターネット

上で流通しているさまざまな3Dデータ8)を組み合わせながら

容易にカスタマイズすることもできるため、一つのメーカーだ

けでは成し遂げられない、無限の商品バリエーションを実現で

きると考えることもできる。モノ作りのための3Dデータをゼ

ロから作り上げたり、専門的なデザインツール(CAD等)を準

備して使いこなしたりといったことは難しくても、画像や写真

と同じ感覚でデータを少しだけ加工することや、他のデータと

組み合わせることは比較的容易である。

これらのことは、同一商品を大量生産するマスプロダクショ

ンから、商品プラットフォームをベースにユーザー要求に対応

するマスカスタマイゼーションへシフトしていくお客様を支

援できる。

● グローカライゼーション

これまでは、ある拠点で企画および設計された商品がある工

場で大量生産されて、同じものが世界中に物理的に流通してい

た。FAVフォーマットでモノ作りデータが欠落なく保持され、

流通可能となると、商品を使用する現地で次のような 適化さ

れたモノ作りが可能となる(図9)。

・ 現地調達可能な安価なリサイクル材料での製造に 適化

するためのシミュレーション、構造 適化

・ 現地調達可能なメンテナンス部品、代替部品にアタッチメ

ントするための設計変更

FAV

モノ作りデータの流通と

トレーサビリティー、フィードバック

世界中のステイクホルダー

とオープンイノベーション

現地エンジニアによる 適化 グローカライゼーション

図9 モノ作りデータの流通とグローカライゼーション、

オープンイノベーション 図8 ボクセルベースの簡易的なカスタマイズツール例

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世界 高水準の表現力を実現する次世代3Dプリント用データフォーマット「FAV(ファブ)」

56 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

また、このように現地でモノ作りがカスタマイズされても、

FAVフォーマットでモノ作りデータが流通することで、どこで

どのくらい作られたのかといったトレーサビリティーを担保

し、適切なライセンス管理を支援することができる。さらに、

どのように設計変更やカスタマイズが行われたのかがモノ作

りデータとしてFAVをベースに管理されることで、現地エンジ

ニアやユーザーが行った使い勝手の向上、デザインの変更、な

どのカスタマイズをフィードバックとして確実に把握できる。

このように、メーカー(上流)からユーザー(下流)への商

品供給という一方通行ではない、モノ作りに対する双方向のコ

ミュニケーションが可能となる。さらには、メーカーに所属し

ないプロダクトデザイナーや人間工学の研究者からよりよい

設計変更案が加えられたり、3rdパーティ製の機械部品やコン

テンツホルダーから提供されるカスタマイズ用データを活用

できたりと、オープンイノベーション的なモノ作り環境を実現

するのにも貢献できる。ここでも、FAVフォーマットはモノ作

りデータであるため、トレーサビリティー、適切なライセンス

管理、フィードバック、等が有効に支援できる。

以上のように、FAVフォーマットは製造業における3Dプリ

ントの活用を支援するだけでなく、これまで作れなかったもの、

これまでの作り方、これまでモノ作りに関れなかったつくり手、

これまで限られていたモノ作りの市場、といったものを変える、

モノ作り革命を起こす可能性を秘めている。

4. おわりに

本稿では、世界 高水準の表現力を実現するボクセルベース

の新たな3DデータフォーマットFAVについて、概要と効用を

述べた。FAVフォーマット Ver1.0の仕様書は2016年7月か

ら当社のホームページにて公開中である4)。

今後は、次のように取り組んでいく。

・ ISOへの国際標準化提案

・ FAVフォーマットの実用化事例の創出

・ FAVフォーマット Ver1.0に対するフィードバック獲得と

バージョンアップ(仕様拡充)

・ 既存のモノ作りデータ(CAD/メッシュデータ/等)から

FAVフォーマットへの変換や、FAVが持つ表現力ならでは

のデザインおよび編集、シミュレーション、3Dプリンター

への出力、等といったFAVを活用するツール類の開発

・ ボクセルに対する次の課題の改善

1. 滑らかな表面表現や、表面精度の実現

2. データサイズの圧縮、メモリ効率化

これらを総合的に取り組むことで、当社はFAVを業界標準

フォーマットとして広く普及させるとともに、モノ作りのデザ

イン、カスタマイズ、シミュレーション、品質評価、フィード

バック、トレーサビリティー、等のワークフローの総合的な革

新をお客様と共に実現していく。

参考文献

1) ADDITIVE MANUFACTURING FILE FORMAT. AMF - home.

http://amf.wikispaces.com/ (参照日: 2017.03.07)

2) 3MF CONSORTIUM. 3mf specification.

http://3mf.io/what-is-3mf/3mf-specification/ (参照日: 2017.03.07)

3) J. Hiller, H. Lipson, "Dynamic Simulation of Soft Heterogeneous Objects", arXiv (2012), id: 1212.2845v1. http://arxiv.org/pdf/1212.2845v1.pdf

4) Fuji Xerox Co., Ltd., “The New 3D Data Format FAV”, http://www.fujixerox.com/eng/company/technology/communication/3d/fav.html (参照日: 2017.03.07)

5) T. Tomonari, A. Masumori, M. Fujii, H. Tanaka, “Intensive 3D Structure Modeling and Seamless Data Flow to 3D Printers Using Voxel-based Data Format FAV (Fabricatable Voxel)”, Printing for Fabrication 2016, pp.124.

6) Alan Brunton, Can Ates Arikan and Philipp Urban, “Pushing the Limits of 3D Color Printing: Error Diffusion with Translucent Materials”, arXiv (2015), id: 1506.02400v2.

7) C. Lin, Y. Sie, T Lin, P. Sun, “Slicing and Halftoning Algorithm for High Quality Color 3D Printing”, IDW (2015), pp.445.

8) Keio University Shonan Fujisawa Campus Social Fabrication

Laboratory, Fab3D (3D data cross search engine),

http://fab3d.cc/ (参照日: 2017.03.07)

筆者紹介

高橋智也 研究技術開発本部 マーキング技術研究所に所属

専門分野:ソフトウェア開発、3Dデータハンドリング技術

藤井雅彦 研究技術開発本部 マーキング技術研究所に所属

専門分野:インクジェット技術、インクジェット技術応用

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