猫のウイルス検査結果に関する一般的コメント -...

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猫のウイルス検査結果に関する一般的コメント FeLV(猫白血病ウイルス) FeLV は白血病や貧血、免疫力の低下、流産、腎臓病などいろいろな病気の原因になり、感染発症 した猫は 3-4 年以内に死亡します。ただし感染しても治ってしまう猫もたくさんいることを覚えておく 必要があります。 <検査方法> スクリーニング検査:ELISA(酵素免疫測定法) 確認検査:IFA(蛍光抗体法)※ELISA 検査陽性のみ対象 <検査結果> ELISA (-):現在FeLVには感染していないと思われます(ウイルス抗原陰性)。 ただし、暴露された可能性がある猫の場合は再検査をお勧めします。 (+):現在FeLVに感染していると思われます(ウイルス抗原陽性)。 中には一過性で治るものもあるので、30 日~60 日の間に再検査を行うか、あるいは確認検査を行い 本当に持続感染かどうか判定する必要があります。 (W+):現在 FeLV に感染していると思われますが、ウイルスの発現が非常に少ないようです(弱陽 性)。30日~60日の間に再検査をお勧めいたします。 IFA (+):持続感染になっているものと考えられます。 また感染源になる危険性があるため、感染猫として対処してください。 (-):白血球減少症の検体では正しい評価ができないこともありますが、通常は骨髄持続感染陰性と 判定されます。 また、ELISA 陽性症例のうち感染初期段階や一過性の感染の場合では陰性となります。このような 場合には 30 日~60 日の間に ELISA と IFA で再検査をして確認してください。 1/6 アイデックス ラボラトリーズ 猫ウイルス一般コメント

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Page 1: 猫のウイルス検査結果に関する一般的コメント - …...FIV(猫免疫不全ウイルス) 猫の間で唾液を介して咬み傷から感染します。人間やサルのエイズウイルスと同類のウイルスによって

猫のウイルス検査結果に関する一般的コメント

FeLV(猫白血病ウイルス)

FeLV は白血病や貧血、免疫力の低下、流産、腎臓病などいろいろな病気の原因になり、感染発症

した猫は 3-4 年以内に死亡します。ただし感染しても治ってしまう猫もたくさんいることを覚えておく

必要があります。

<検査方法>

・ スクリーニング検査:ELISA(酵素免疫測定法)

・ 確認検査:IFA(蛍光抗体法)※ELISA 検査陽性のみ対象

<検査結果>

ELISA

(-):現在 FeLV には感染していないと思われます(ウイルス抗原陰性)。

ただし、暴露された可能性がある猫の場合は再検査をお勧めします。

(+):現在 FeLV に感染していると思われます(ウイルス抗原陽性)。

中には一過性で治るものもあるので、30 日~60 日の間に再検査を行うか、あるいは確認検査を行い

本当に持続感染かどうか判定する必要があります。

(W+):現在 FeLV に感染していると思われますが、ウイルスの発現が非常に少ないようです(弱陽

性)。30 日~60 日の間に再検査をお勧めいたします。

IFA

(+):持続感染になっているものと考えられます。

また感染源になる危険性があるため、感染猫として対処してください。

(-):白血球減少症の検体では正しい評価ができないこともありますが、通常は骨髄持続感染陰性と

判定されます。

また、ELISA 陽性症例のうち感染初期段階や一過性の感染の場合では陰性となります。このような

場合には 30日~60日の間に ELISA と IFA で再検査をして確認してください。

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FIV(猫免疫不全ウイルス)

猫の間で唾液を介して咬み傷から感染します。人間やサルのエイズウイルスと同類のウイルスによって

おこるさまざまな慢性疾患が特徴で、病気が進行して末期にはエイズと考えられる症状を出す猫も

あります。しかしこのウイルスが人間や犬に感染することはありません。

<検査方法>

・ スクリーニング検査:ELISA(酵素免疫測定法)

・ 確認検査:WB法(ウエスタンブロット法)※ELISA 検査陽性のみ対象

<検査結果の解釈>

ELISA

(-):現在 FIV に感染していないと思われます(抗体陰性)。

ただし、暴露された可能性がある猫の場合は再検査をお勧めします。

(+):現在 FIV に感染していると思われます(抗体陽性)。

いわゆるエイズの時期に入っているかどうかは症状の強さから判定します。症状の軽いもの、無症状の

ものも多くあります。

また、生後 6ヶ月齢以内の場合は移行抗体の可能性がありますので、6ヶ月齢以降に再検査を行って

ください。

WB 法

(+):抗体陽性(感染)が確認されました。

感染源になる危険性があるため、感染猫としての対処が必要です。

(W+);弱陽性です。感染猫として扱い、1~2ヶ月後の再検査をお勧めします。

(-):ELISA 陽性でWB陰性の場合は判定が不可能です。

従って必ず 3~4ヵ月後に ELISA とWB法で再検査してください。

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FCoV(猫コロナウイルス)

<検査の意義>

現在、猫には少なくとも大別して 2 種類のコロナウイルスがあります。一番多くみられるのは、

病気を起こす力が弱く腸に感染するコロナウイルスです。しかし一部の猫の体内でこの弱いコロナ

ウイルスは突然変異を起こし、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP ウイルス)に変わります。そのような

猫では FIP の発症がみられます。

この検査は、猫の血液中にコロナウイルスに対する抗体があるかどうかを調べます。この抗体は

弱いコロナウイルス、FIP ウイルス、どちらの場合も陽性になり、この検査だけで 2つを区別する

ことはできません。

日本の飼い猫の約半数は、コロナウイルスに対する抗体を持っています。しかし FIP を発症する

ものはまれです。抗体が高いだけでは FIP と診断することはできませんが、FIP を疑うサインのある

病気の猫では、抗体の検査は診断の補助になります。

家の中の猫を全部検査して、すべて抗体が陰性ならば、その家では FIP は非常に起こりにくいと

いえましょう。しかし、家の中の健康猫に抗体がみつかった場合は、弱いコロナウイルスの感染がまず

考えられますが、今後 FIP が発生する可能性も考えられます。

<検査結果の解釈>

1 猫伝染性腹膜炎に特徴的と思われる症状あるいは異常が見られる場合

特徴的な症状あるいは異常とは:

若い猫または老齢猫 発熱と元気消失

下痢 眼の白濁

神経症状 軽度から中程度の貧血

高蛋白血症(高グロブリン血症) 特徴的な性状の腹水・胸水

腹腔内の肉芽腫病変

<100:

FIP ウイルスに感染していない可能性も高いので、腹水の症状など再検討して真の原因を追究する

必要があります。ただし、FIP ウイルスに感染して発症していても、ウイルスと抗体が免疫複合体を

作るなどの理由で、抗体価が低下してしまう場合もまれにあります。

100~6400:

FIP の診断が支持されます(FIP 発症例では確かに抗体価の高いものが多い)。

2 猫伝染性腹膜炎の特徴的な症状はないが、発熱、食欲不振、消化器症状などあり

<100:

コロナウイルスにも、FIP ウイルスにも感染している可能性はきわめて低いと思われます。

現在の症状は別の原因によるものでしょう。

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100~400:

低い抗体価なので、過去にコロナウイルスと接触したことは明らかですが、現在ウイルスがいるか

どうかははっきりわかりません。ただし、現在の症状の原因としてコロナウイルスの関与もまた考え

られます。これから FIP を発症する確率はあまり高くありませんが、念のため 1ヶ月以上経てから

再検査し、抗体価が下がっていれば安心して良いでしょう。

800~6400:

弱いコロナウイルスの感染でもこのような抗体価が見られることはありますが、普通症状はみられま

せん。したがって、現在 FIP ウイルスが体内にいて、症状の原因になっている可能性も考えておく必

要があります。血清蛋白電気泳動に加え、ドライタイプ FIP を思わせる異常がないかどうか詳しい検

査が必要です。ただし症状が消え、1ヶ月以上経てからの再検査で抗体価が下がれば問題は少ないで

しょう。

3 健康な場合

<100:

現在コロナウイルスに感染しているとは思われないので当面は心配ありません。この猫が室内飼育の

場合、他の猫を導入する際に抗体陰性を確認すれば、この家庭ではFIPの発生はみられないでしょう。

100~400:

低い抗体価なので現在ウイルスがいるかどうかはっきりわかりませんが(一度上がった抗体価が下が

っていく途中のことが多い)、健康なのでまず問題は少ないでしょう。

800~6400:

現在コロナウイルスが体内にいるために抗体価が高いか、あるいは高い抗体価が下がっていく途中かの

いずれかが考えられます。FIP 発生の確率は、猫にストレスがかかった場合、最大で 10%程度です

(猫の体内でコロナウイルスが強毒の FIP ウイルスに突然変異)。このまま健康で 1ヶ月以上経過して

からの再検査で抗体価が下がれば問題は少ないでしょう。

4 再検査の場合

前回より抗体価が下がっている:

ウイルス感染が消失に向かっているよい兆候と思われます。

前回より抗体価が上がっている:

これから FIP 発症に向かう可能性もあるので要注意です。

上がったり下がったりを繰り返す:

複数飼育の猫の中では、弱いコロナウイルスの感染が行き来することがあります。ストレスや他の

ウイルス感染を避けて、ウイルスの突然変異が起こらないようにしましょう。

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<低い抗体価の解釈>

FIP は現段階において確定診断が困難な猫の疾患の一つであります。抗体価の測定を行っても確定

診断にいたらないことが多くあることより、臨床症状、年齢、飼育環境、抗体価、血液検査、胸・腹水の

性状/細胞診検査などから、診断を進めていくことになります。

また、抗体価と臨床症状が合致しないケースもみられることがあります。

低い抗体価の原因

○ FIP ではないが現在弱いコロナウイルスに感染している場合

・ 腸管に感染するコロナウイルスに対する抗体を検出している場合です。

弱いコロナウイルスは、非常に多くの猫で認められています。

○ 過去のコロナウイルス感染の場合

・ 過去の弱いコロナウイルス感染で、一度抗体価が高くなり、その後ウイルスは消失したが,

抗体が下降している途中の場合。

○ 現在 FIP を発症している場合

・ FIP の末期で免疫機能が衰え低い抗体価を示している場合。

・ 幼齢や老齢のため、あるいは他の疾患のため、十分に抗体を産生できない場合。

・ 抗原が過剰で抗体が中和され、血中のフリーな抗体が少なくなっている場合。

・ FIP ウイルス感染中における抗体価は、病気の進行に比例して必ずしも上昇するわけではなく、

上下の変動も多く認められるので、たまたま抗体価が低いタイミングのときに測定をしてしまった

場合。

<まとめ>

○ 抗体価が高いだけで FIP と診断しないでください。

○ 抗体価が高く、腹水・胸水がみられない症例を直ちにドライタイプ FIP と診断しないでください。

腹腔内の肉芽腫性腫瘤あるいは髄膜炎、眼病変などの検出が必須です。

○ 子猫は 4週齢で抗体陽性猫から隔離すればコロナウイルス感染を免れます。

○ 抗体陰性の群から FIP は発生しません。

○ 抗体陽性の群では、最悪の飼育条件で、年間の FIP 発生率は約 10%です。

○ 抗体がみられても、現在 FIP に特異的な臨床症状などが見られない場合は、

1-2 ヶ月おいて再検査を行うのがよいでしょう。

○ FIP に特徴的な異常がありながら低い抗体価の症例もまれに存在します。

その場合、抗体価は考慮に入れず、FIP と仮診断することも可能でしょう。

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トキソプラズマ

IDEXX で行っているトキソプラズマ抗体検査は、ラテックス凝集反応で、結果は抗体価により

下表の通りとなります。

抗体価 <8, 8, 16 32 64, 128, 256, 512, 1024, 2048

結果 [-]

(陰性)

[±]

(擬陽性)

[+]

(陽性)

抗体価 16 以下が陰性、32 が擬陽性、64 以上が陽性です。

○ ただしトキソプラズマは、感染して 4週間経過すると抗体価が上昇するため、結果が陰性の場合

でも 2~4週間の間隔で 2回検査することをお勧めします。

抗体価が 4倍以上上昇すれば、抗体価は 64より低くても感染の可能性が考えられます。

○ 症状が出現していない場合でも、高い抗体価を示し数週間持続することもあります。

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