薬物治療と密接な関係にある臨床検査値 薬剤師の視点でどう...

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1 (0000) 調剤と情報 2014.10(Vol.20 No.10) PR 臨床検査値を活用し 病院への適切なフィードバックを 2014年8月9日、京都府薬剤師会主催のスキルアップセミ ナーが開催された。テーマは「臨床検査値」で、京都府立医科 大学附属病院薬剤部長の四方敬介氏と、同院臨床検査部副部長 の稲葉亨氏が登壇した。 同院は、13年10月に京都大学医学部附属病院が処方箋に検 査値表示を開始したのに続き、14年1月から表示を始めており、 近隣薬局の混乱を避けるためにも検査項目は京大病院と同じ 13 項目 としている。 四方氏は、「検査値が表示されるようになったこの段階で、 薬剤師がいかに臨床検査値を活用するかで、今後の薬剤師業務 の広がり方も変わってくる。薬局は、服薬指導はもちろん、投 与量のチェックなど、病院への適切なフィードバックも重要で ある」と話した。 *検 査 項 目 は WBC、Hb、Plt、PTINR、AST、ALT、TBil、 血 清 Cr、eGFR、CK、CRP、K+、HbA1c の 13 項目。 投与量のチェック・副作用の 早期発見に有効 四方氏はまず、臨床検査値の活用状況について京都府内の薬 局に実施したアンケート結果を発表(848店舗中、273店舗回 答/2014 年 5 月 16 日~7 月 31 日)。 臨床検査値が表示された院外処方箋を応需したことのある薬 局に対する「臨床検査値を活用したか」という質問に、94.1% が活用していると回答。「どのような臨床検査値を活用する(活 用した)か」という質問に対しては、糖尿病の重要な指標 「HbA1c」のポイントが最も高く、次に肝機能(ALT、AST)、 炎症反応(CRP)、血液凝固(PTINR)、腎機能(eGFR)を 見る検査値などが続いた。 臨床検査値を「活用する」あるいは「活用した」という薬局 で、75.1%が腎・肝機能に応じた投与量などのチェックができ る、70.8%が副作用の兆候に気付くことができると答え、臨床 検査値を活用しようとする意識の高さが感じられた。 反対意見があるのも確か。 薬剤師がどうアクションを起こせるかに かかっている 次に、同院の医師(医師381名中、253名回答)へのアンケー ト結果を発表。院外処方箋に臨床検査値を表示することの賛否 について、「賛成」・「原則賛成」は50.2%、「どちらともいえ ない」は36.4%、「原則反対」・「反対」は13.5%。全体の約半 数の医師が賛成の意向を示していたが、反対意見の理由とし て、十分な説明もなく検査結果を患者と薬局に通知することで 院外処方箋に、臨床検査値を表示する大学病院などの基幹病院が増えている。また、セルフメディケー ションの一環で、薬局でも検体測定室を開設できるようになり、薬局薬剤師も臨床検査値に触れる機会が 増えることが予測される。処方箋内容のチェックや服薬指導などに臨床検査値をどう活せるか、薬局薬剤 師の今後の取り組みに期待が高まる。 ここでは、「臨床検査値」をテーマに京都府薬剤師会が開催したセミナーの模様と、昭和大学横浜市北 部病院内科系診療センター臨床病理診断科の木村聡氏のインタビューを通して、薬局薬剤師が今後、どの ように取り組めばよいのか探った。 薬物治療と密接な関係にある臨床検査値 薬剤師の視点でどう読み解き、どう活かすか? 薬剤師のためのスキルアップセミナー「臨床検査値」 (2014 年 8 月 9 日開催/京都府薬剤師会)

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Page 1: 薬物治療と密接な関係にある臨床検査値 薬剤師の視点でどう …臨床検査値を活用し 病院への適切なフィードバックを 2014年8月9日、京都府薬剤師会主催のスキルアップセミ

1(0000)調剤と情報 2014.10(Vol.20 No.10)

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臨床検査値を活用し病院への適切なフィードバックを

2014年8月9日、京都府薬剤師会主催のスキルアップセミナーが開催された。テーマは「臨床検査値」で、京都府立医科大学附属病院薬剤部長の四方敬介氏と、同院臨床検査部副部長の稲葉亨氏が登壇した。同院は、13年10月に京都大学医学部附属病院が処方箋に検

査値表示を開始したのに続き、14年1月から表示を始めており、近隣薬局の混乱を避けるためにも検査項目は京大病院と同じ13項目*としている。四方氏は、「検査値が表示されるようになったこの段階で、

薬剤師がいかに臨床検査値を活用するかで、今後の薬剤師業務の広がり方も変わってくる。薬局は、服薬指導はもちろん、投与量のチェックなど、病院への適切なフィードバックも重要である」と話した。

* 検査項目はWBC、Hb、Plt、PT-INR、AST、ALT、T-Bil、血清Cr、eGFR、CK、CRP、K+、HbA1cの13項目。

投与量のチェック・副作用の早期発見に有効

四方氏はまず、臨床検査値の活用状況について京都府内の薬局に実施したアンケート結果を発表(848店舗中、273店舗回答/2014年5月16日~7月31日)。臨床検査値が表示された院外処方箋を応需したことのある薬

局に対する「臨床検査値を活用したか」という質問に、94.1%が活用していると回答。「どのような臨床検査値を活用する(活用した)か」という質問に対しては、糖尿病の重要な指標「HbA1c」のポイントが最も高く、次に肝機能(ALT、AST)、炎症反応(CRP)、血液凝固(PT-INR)、腎機能(eGFR)を

見る検査値などが続いた。臨床検査値を「活用する」あるいは「活用した」という薬局で、75.1%が腎・肝機能に応じた投与量などのチェックができる、70.8%が副作用の兆候に気付くことができると答え、臨床検査値を活用しようとする意識の高さが感じられた。

反対意見があるのも確か。薬剤師がどうアクションを起こせるかにかかっている次に、同院の医師(医師381名中、253名回答)へのアンケート結果を発表。院外処方箋に臨床検査値を表示することの賛否について、「賛成」・「原則賛成」は50.2%、「どちらともいえない」は36.4%、「原則反対」・「反対」は13.5%。全体の約半数の医師が賛成の意向を示していたが、反対意見の理由として、十分な説明もなく検査結果を患者と薬局に通知することで

院外処方箋に、臨床検査値を表示する大学病院などの基幹病院が増えている。また、セルフメディケーションの一環で、薬局でも検体測定室を開設できるようになり、薬局薬剤師も臨床検査値に触れる機会が増えることが予測される。処方箋内容のチェックや服薬指導などに臨床検査値をどう活せるか、薬局薬剤師の今後の取り組みに期待が高まる。ここでは、「臨床検査値」をテーマに京都府薬剤師会が開催したセミナーの模様と、昭和大学横浜市北

部病院内科系診療センター臨床病理診断科の木村聡氏のインタビューを通して、薬局薬剤師が今後、どのように取り組めばよいのか探った。

薬物治療と密接な関係にある臨床検査値薬剤師の視点でどう読み解き、どう活かすか?

薬剤師のためのスキルアップセミナー「臨床検査値」(2014年8月9日開催/京都府薬剤師会)

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誤解を招く可能性、診療科の特性上、病態を院外薬局が理解できない可能性などの懸念があるという慎重な意見も紹介した。しかし、四方氏によると「同院では検査値表示を開始してか

ら、まだ患者や医師からの苦情を受けていない」という。処方箋に表示された検査値を、投与量の鑑査・副作用早期発見、薬薬連携のより具体的な推進、かかりつけ薬局として患者に寄り沿う取り組みにどう活かすか、注目される。

検査項目の特徴を理解することで臨床的意義がわかる

稲葉氏は、「処方箋調剤に活かす臨床検査の知識」と題し、

基準値の考え方、変動要因、測定方法による違いなどを講演。例えば、血糖値とHbA1c、WBCとCRP、ALTとASTの違いなど、臨床的に重要なものを中心に解説。また、異常値が起こるのは、検体サイドの問題点(採血量・溶血など)、測定サイドの問題点(精度管理など)があることを示し、施設間や試薬で差が出やすい検査値(PT-INR)や、なぜその検査項目が診断やモニタリングに用いられているのかなど、検査項目の特徴と臨床との組み合わせや読み方を、薬局薬剤師にわかりやすく講演した。稲葉氏は、14年4月に示された「検体測定室に関するガイドライン」の話題にも触れ、これからセルフメディケーションにおける薬剤師の役割が重要になるであろうと期待を述べた。

年齢や食事で変動する検査項目に注意

―基幹病院などで、院外処方箋への臨床検査値表示が進んでいます。検査値を読むときのポイントを教えてください。大切なのは、ただ1回の測定で「高い/低い」を見るのでは

なく、経時的な変化を追ってもらいたいと思います。少しずつ数値が上がっているのか、下がってきていて落ち着くところなのか、同じ値でも評価が異なります。短期間で加速度的に上がっている、あるいは悪くなっている数値があれば、それに関係した症状も現れてくるはずですので、医療機関への受診を勧めてください。項目にもよりますが、疾患・症状が明らかな場合や、高齢の

患者さんの場合などは、基準値からある程度オーバーしていても、その値が長期間安定しているのであれば、基本的に急性期の病気はないと考えてよいと思います。―注意すべき検査項目があれば教えてください。年齢で明らかに数値が変わる項目には注意してください。例

えば「貧血」で、ヘモグロビン(血色素量)は高齢になると1~2割ほど低値になります。特に今後、開設が進む検体測定室などでは、高齢者が多く訪れると思いますので、加齢によって変動する項目を意識してもらいたいと思います。

血糖値、中性脂肪などは、食事の影響を受ける項目です。時々「食事はしていないが、栄養ドリンクを飲んできた」という患者さんがいらっしゃいます。栄養ドリンク1本飲んだだけで血糖値は変わりますからね。食事の捉え方が患者さんと医療従事者で違うことがあります。ぜひ、患者さん目線で確認してほしいと思います。患者さんから「この間、病院で高いって言われた」と検査値について訊ねられたら、「病院へ行く前に、何か甘いもの飲んだりしませんでしたか?」と再度、確認したうえで説明してあげるとよいでしょう。

患者さんを見て、臨床検査の数値をイメージする

―臨床検査値を目にする機会が増えてくると思いますが、検査値を読む力が求められますね。臨床検査値を患者情報として断片的に捉えるのではなく、この患者さんにとって本質的な問題は何なのかを判断してほしいです。つまり、1つの検査項目が基準値より上がっただけで「大変だ」と思うのではなく、その関連項目も含めたうえで、患者さんの体に“今何が起こっているのか”を考えられるようになってほしいと思います。

昭和大学横浜市北部病院内科系診療センター臨床病理診断科の木村聡氏に、検査値の読み方や薬局に期待することなどについて話を聞いた。

著者インタビュー

検査値の判読力UPには患者さんをよく観察することから

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医療機関から提供されるデータは、ごく限られた検査項目だけかもしれませんが、ただ数値が異常かどうかではなく、患者さんがどの程度の状態で、どの程度の数値なのか、よく観察してほしいということです。医師は数字を見ながら日々、患者さんを診ているので、患者

さんの状態から検査値をイメージできます。例えば、身長160cmといったらイメージできますよね。「160」という数字がその人の1つのイメージになるわけです。同様に、無数にある検査値と、患者さんの状態を目で慣れてほしい思います。慣れてくると、逸脱した数値に対して、「これは変な値だ」「測定上のエラーではないか」と分かってきます。薬を渡す際に、患者さんの状態をよく観察し、検査値のイ

メージを蓄積し、経験値を積み上げてください。検査値と患者さんの状態がイメージでひもづけられるようになれば、検査値を読む腕前も上がっていきます。

患者さんの人生のキーワードを聞き出す

―検査値情報をもつ薬局に期待することは何ですか。特に慢性疾患で薬を飲んでいる方、例えば糖尿病の患者さん

などは、通院のタイミングに合わせて少し食事を節制したりし

ます。それでは解決になりません。薬局を訪れた患者さんに、「最近気が緩んでいませんか」「最近がんばっていますね」などと声かけして、薬局がチェック機能を担ってもらえると助かります。定期的な動機づけというのはとても大切です。検査と直接、関係ないかもしれませんが、薬局で患者さんが話していたこと(「前回の処方でこんなこと言っていた」)や、患者さん自身の人生のキーワード(「本当はやりたいことがある」)などをフィードバックしてほしいですね。患者さんは医師の前ではかしこまっていても、薬剤師さんの前では本当の自分をさらけだすのではないでしょうか。実はそういう情報が重要だと思います。薬局が医師と患者のメディエーターとなって、よい関係性ができあがり、問診が効率的になると思います。メディエーターとなる情報の1つとして、検査値情報も考えられ、「この間の数値より下がりましたね」「薬が効いていますよ」と評価できたり、ひょっとすると「この薬いらないかもしれませんね」といったところまで考えが及ぶようになるかもしれません。患者さんにどうよい人生を送ってもらうか、全人格的に捉え、いろいろな職種の目で患者さんと検査値を捉えていただけるとよいのではないでしょうか。