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みずほ銀行 中国営業推進部 みずほ銀行(中国)有限公司 中国アドバイザリー部 MIZUHO CHINA MONTHLY みずほ チャイナ マンスリー 2017 1 月号 産業調査 1 中国経済・産業の構造変化にどう向き合うべきか ~日本産業・企業への影響と取るべき事業戦略~ 産業・地域政策 7 環境保護 5 カ年計画の主旨内容と中国環境情勢の現状 ―環境対策の実施効果と環境産業発展促進への展望― 産業・地域政策 12 巨大化する中国自動車市場~トレンドの変化、小型車減税策及び今後の行方~ 中国アドバイザリーの現場から 16 中央経済工作会議にみる 2017 年の中国経済政策方針 中国戦略 21 2016 年度「中国のつながる消費者」調査 ―進化するモバイル―(1) 法務 26 2016 年の中国独占禁止法の関連実務動向に関するまとめ 税務会計 33 増値税の会計処理 人事労務 40 日系企業の福利厚生のトレンドと重要性(2) みずほ銀行の中国情報ホームページ ~中国の経済、市場動向、規制と人民元取引に関する最新情報~ http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/cndb/index.html

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みずほ銀 行 中国営業推進部

みずほ銀行(中国)有限公司 中国アドバイザリー部

MIZUHO CHINA MONTHLY

みずほ チャイナ マンスリー

2017 年 1 月号

産業調査 1

中国経済・産業の構造変化にどう向き合うべきか

~日本産業・企業への影響と取るべき事業戦略~

産業・地域政策 7

環境保護 5カ年計画の主旨内容と中国環境情勢の現状

―環境対策の実施効果と環境産業発展促進への展望―

産業・地域政策 12

巨大化する中国自動車市場~トレンドの変化、小型車減税策及び今後の行方~

中国アドバイザリーの現場から 16

中央経済工作会議にみる 2017年の中国経済政策方針

中国戦略 21

2016年度「中国のつながる消費者」調査 ―進化するモバイル―(1)

法務 26

2016年の中国独占禁止法の関連実務動向に関するまとめ

税務会計 33

増値税の会計処理

人事労務 40

日系企業の福利厚生のトレンドと重要性(2)

みずほ銀行の中国情報ホームページ

~中国の経済、市場動向、規制と人民元取引に関する最新情報~

http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/cndb/index.html

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- Executive Summary -

産業調査 中国経済・産業の構造変化にどう向き合うべきか

中国経済の成長鈍化や中国政府主導による産業構造転換に向けた取組みは、中国との経済的なつなが

りが強まった日本産業に対し大きな影響を及ぼすことが想定される。かかる認識を踏まえ、中国経済・

産業における構造変化が日本の主要産業に及ぼす影響と日本企業が取るべき事業戦略の方向性につ

いて考察する。

産業・地域政策 環境保護 5 カ年計画の主旨内容と中国環境情勢の現状

本稿は、新 5ヵ年計画期における中国の環境保護計画の策定動向と主旨内容を紹介し、近年の中国環

境対策投資の効果と限界及び環境保護産業の発展状況を概観、技術革新と新産業革命の機運増強によ

る環境保護政策の方向性と環境産業の発展を展望する。

産業・地域政策 巨大化する中国自動車市場

巨大化が顕著な中国自動車市場は 2016 年に販売台数約 2,800 万台で日・米・独 3 ヶ国分に相当する

市場規模となっている。本稿では成長トレンド及び消費嗜好の変化、小型車減税策の効果とリスク、

市場の成長を抑制する要因について考察した上で、中国自動車市場のポテンシャルを展望する。

中国アドバイザリーの現場から 中央経済工作会議にみる 2017 年の中国経済政策方針

16 年中国経済は 1)在庫解消に伴う住宅販売拡大と 2)自動車優遇税制の政策効果もあり+6.7%程度

の成長維持。中央経済工作会議は「安定の中で前進を目指す(穏中求進)」基調を重要原則に、供給

サイド構造改革深化と決定。秋の党大会を前に、経済社会の安定を最重視した政策運営に。積極的な

財政政策と穏健(中立的)な金融政策を継続しつつ、金融政策は「穏健中性」との表現が加わり、こ

れまでより引き締め気味となる見通し。

中国戦略 2016 年度「中国のつながる消費者」調査(1)

KPMG 中国ではグローバル消費動向調査の一環として、定点観測的に中国の e-コマース・m-コマース

の動向を消費者サーベイと業界関係者のインタビューから調査・分析し、「中国のつながる消費者」

報告書として継続的に発表している。その結果を数回に分けて紹介する。今回は世界でも先進的であ

る中国の m-コマースの概要と品目別の動向を分析する。

法務 2016 年の中国独占禁止法の関連実務動向に関するまとめ

中国独禁法に関連する法執行や法令制定の動きは 2016 年も活発であり、企業関係者にとっては独禁

法のリスク把握のためにも定期的な情報更新は欠かせない。本稿では、2016 年の中国独禁法の法執行

や法令制定の状況についておさらいし、2017年に予想される動向を確認する。

税務会計 増値税の会計処理

国家税務総局は、2016 年 12 月 3 日付で「増値税会計処理規定」を発表した。この規定は 2016 年 12

月 3日から実施されており、従来の会計処理に比べて、中国増値税の特徴を色濃く反映し、2016年 5

月に実施された営改増の全面改正によって大幅に内容が修正され、従来から存在する会計処理につい

ても見直しを行っている。実務的な会計仕訳を用いてその内容を紹介する。

人事労務 日系企業の福利厚生のトレンドと重要性(2)

パソナは中国に進出している日系企業の現地従業員の給与賞与・福利厚生に関する動向を毎年まとめ

た「現地社員の昇給賞与・福利厚生に関する調査」を発表している。前号に引き続き、2015 年度の調

査結果を一部紹介しながら、日系企業における福利厚生のトレンドを見ていく。

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産業調査

1 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

中国経済・産業の構造変化にどう

向き合うべきか

~日本産業・企業への影響と取るべき事業戦略~

1 中国経済・産業の構造変化

中国は世界から投資を呼び込み、同国の製造業は「世界の工場」と呼ばれるまでに成長した。

その経済規模は、米国に次ぐ世界第 2位となり、世界経済への影響度は増している。経済成長率

は、鈍化傾向とは言え主要先進国を大きく上回っており、2020 年代半ばまでに中国の GDP 規模

は米国を上回るとの見方もある。また、大手インターネット企業の阿里巴巴(Alibaba)や百度

(Baidu)を始め、米国市場への上場を果たし、グローバル展開する中国企業が増加するなど、

中国は、経済規模のみならず産業競争力をも高めつつあると言える。

他方、中国への注目度の高さは、成長率の低下とともに、経済・産業構造の転換が必要な局面

を迎えていることも大きな要因である。これまで投資・生産量拡大を主眼とした成長で中国は鉱

工業生産が世界一となったが、技術面では主要先進国に及ばず、一部では行き過ぎた投資が過剰

供給構造を生み出してしまった。また、高成長による賃金上昇により、安価な労働力に頼ること

も難しい。

今後は、量的拡大に依存した成長パターンから脱却し、イノベーション力、生産性を高める投

資の拡大、投資主導型から消費主導型への転換が求められている。中国で最も重要な経済政策方

針である「第 13次五ヵ年計画」においても、サプライサイドの構造改革により、向こう 5年間

で産業構造を転換し、持続可能な経済成長を目指すことが掲げられた。中国政府が意図するとこ

ろは、過剰供給業種の再編・淘汰を推し進めることや、新産業の育成を通じて所得水準向上に伴

う個人消費の増加や生産性向上等に対応することにより、産業の新陳代謝を促して経済成長の

持続性を高めていくことである。そのために政府は研究開発投資や中国企業の海外進出・海外企

業買収を積極的に支援していくと見られる。

中国経済の成長鈍化や中国政府主導による産業構造転換に向けた取組みは、中国との経済的

な繋がりが強まった日本産業に対し大きな影響を及ぼすことが想定される。日本企業には中国

経済・産業との向き合い方を今一度整理することが求められるのではないかとの問題意識の下、

今後 5年程度を展望し、各産業における中国経済・産業の構造変化が日本産業・企業に与える影

響を論じた上で、日本企業の取るべき事業戦略の方向性を概括的に考察する。

2 中国の構造変化が日本産業に与える影響

前述した中国経済・産業の構造変化は、現在及び将来において日本産業・企業にどのような影

響を与えるであろうか。本節では、重要な要因を 5つ採り上げ、その影響について考察する。

まず、過剰供給が挙げられる。素材を中心とした業種(鉄鋼、非鉄、石油、石炭等)における

過剰供給は中国国内市場のみならず、海外への輸出を通じて、グローバルでの市況悪化をもたら

している。中国政府としても過剰供給の解消は喫緊の課題となっており、政府主導での業界再

編・淘汰が進められているが、この状況は当面続く見通しである。例えば、鉄鋼業界における過

剰供給問題に対しては、中国政府は 2020 年までに 1~1.5 億トンの能力削減目標を掲げている

が、中国の鉄鋼需要は減少に向かう見通しであり、今後 5 年程度での課題解決は困難な見込み

みずほ銀行

産業調査部 総括・海外チーム

木村 祐太

[email protected]

【図表 1】「指導意見」で挙げられた改革の主要項目

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産業調査

2 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

である。斯かる中、日本産業・企業においては、国内外の市況悪化に伴う厳しい事業環境の継続

やアジアを中心としたグローバルでの更なる競争激化が想定される。

過剰供給の一方で、経済成長に伴い将来的に資源需要が更に増大する可能性がある。このた

め、例えば食品業界では川上での買収が活発であり、ガス・LNG業界では将来的に中国が権益争

いを再燃させる可能性がある。食糧・エネルギー等の輸入依存度が高い日本にとっては、調達環

境悪化に伴う価格高騰につながるリスクがあるほか、原材料調達に支障が生じ日本企業の事業

展開に悪影響を及ぼすおそれもある。

中国では、鈍化しているとは言え相対的に高い経済成長による所得水準の向上や更なる都市

化の進展により、個人消費の量的な拡大とともに、ニーズの高度化や細分化が進展すると見込ま

れる。このため、需要増加が見込まれる個人消費関連分野では、単純な量の増加のみならず、価

格重視から品質重視といった消費者の嗜好の変化や EC化の進展に伴う購買チャネルの変化への

対応も求められており、中国に進出している日本企業は事業戦略の見直しが必要となろう。

長年の「一人っ子政策」や成長重視による環境悪化の結果、中国では、高齢化・環境問題等の

社会的問題への対応が急務になっている。また、競争力を強化するための生産性向上等、日本を

はじめとする先進国が経験してきた(あるいは現に直面している)課題にこれから本格的に向き

合うこととなる。日本企業は、課題先進国として国内で鍛え上げた製品・サービスや技術を活か

し、これらの課題に対するソリューションを提供することで、事業を拡大しうると考えられる。

高齢化に伴う医療・介護サービスの高度化・効率化ニーズの高まりや、今後課せられる新エネ車

の販売義務等は、日本産業にとってある意味で好機とも言える。また、中国政府の掲げるハイエ

ンド化推進や賃金上昇に伴うコスト高への対応の必要性から、ロボット等の自動化設備や高ス

ペックな工作機械の需要増加も見込まれよう。

国内外での「中国企業の台頭」も日本産業・企業に大きな影響をもたらし得る要因である。こ

れまでの中国企業が強みとしてきた安価な労働力によるコスト競争力は失われつつあるものの、

巨大な母国市場に裏打ちされた規模の経済性を享受できることは引き続き中国企業の強さの源

泉であり、とりわけ参入規制によって外資との競争を免れている分野では大きなアドバンテー

ジと言える。

更に今後は、中国企業が急速に技術面でキャッチアップを果たし、中国国内、あるいはグロー

バルでの日本の地位を脅かすおそれもある。この背景には、産官学連携・補助金等の政府の政策

的支援があり、特に「中国製造 2025」で重点産業に据えるエレクトロニクスやロボット分野で

はこうした動きが顕著になってきている。また、家電大手美的集団による独ロボットメーカーの

KUKA買収のように M&Aを通じて先進的技術を取り込もうとする中国企業も現れている。

また、規制面の自由度を活かし、中国では先端技術分野の産業化、ビジネスモデル構築が日本

を含む先進国の先を行く可能性もある。例えば、日本でも実用化に向けた取組みが進められてい

る自動運転分野では、百度(Baidu)が 2015年に無人運転車の公道での走行実験を行うなど実用

化に向けた取組みを進めている。つまり、日本にとっての中国企業は、これまで価格帯等で一定

のすみ分けが出来ていた関係から、今後数年間で真正面から競合する関係になり得ると認識す

べきだろう。

以上 5つの要因は、「過剰供給」「資源需要増大」「中国企業の台頭」のように、日本産業・企

業に販売価格の低下や調達価格の高騰、競争激化等、ネガティブな影響をもたらす「脅威」と、

「消費市場の拡大と高度化」「新たな注力領域の広がり」のように、ビジネスチャンスの拡大等

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産業調査

3 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

のポジティブな影響をもたらす「機会」とに大別される。今後 5 年間を展望した場合、中国経

済・産業の構造変化は、こうした脅威と機会の併存を日本産業・企業にもたらすことになろう。

3 中国の構造変化が日本産業に与える影響

中国の経済・産業の構造転換が、中国政府の目指す通りに進展するとは限らないとは言え、先

述した 5 つの要因はいずれも不可逆的な動きであり、日本企業は、脅威に対応しつつ機会を着

実に捕捉するべく事業戦略を検討すべきであろう。本節では、日本企業の採るべき事業戦略の方

向性について、(1)脅威への対応、(2)機会の捕捉に分け、その要因毎に整理する(【図表 1】)。

(1)脅威への対応

まず、過剰供給に対しては、短期間では解消しない可能性が高いことを前提とした事業戦略を

検討せざるを得ない。この問題が深刻な素材分野では、問題の長期化により、将来にわたって汎

用的な素材での収益性確保が困難となるため、川上から川下の各工程でいかに付加価値を向上

させられるかがカギとなる。高級鋼や新素材など日本の技術優位性を発揮できる高付加価値財

を提供したり、総花的に事業を展開せず特定事業に経営リソースを投入し生産性を向上させた

りすることで差別化を図り、採算悪化を防ぐ必要があるだろう。

次に、資源確保の観点では、日本企業が安定的な調達を継続するために、エネルギーの上流権

益投資や食の上流ビジネスの強化が求められる。これには、一企業での取組みには、金額規模や

収益変動の大きさ等から限界がある場合も多く、事業会社と総合商社等との企業連合によるリ

スクシェアや、日本政府による政策サポートが有効であろう。

台頭する中国企業に対しては、自社の相対的な競争優位の有無とその持続性を踏まえて戦略

方向性を見定める必要があろう。あらゆる産業分野で中国企業の競争力が高まっているが、日本

企業との競争格差には大きなばらつきがあるのが実情と言える。中国企業との現在の立ち位置

と今後の方向性、キャッチアップの難度など、競争優位の持続性に応じて取るべき戦略は異なっ

てくる。

まず、足下で日本企業が高い技術力を有するなど、競争力が相対的に高い分野としては、バイ

オ医薬品、ロボット、工作機械、航空機などの「中国製造 2025」において重点産業とされる分

野や、鉄道システム、医療機器が挙げられる。しかし、これらも中長期的に優位性を維持できる

とは限らない。中国企業の台頭に伴い、足下では中国企業との競合が生じていないか、それほど

(出所)みずほ銀行産業調査部作成

中国国内 中国国外

脅威

機会

中国企業の台頭

過剰供給

個人消費の拡大と高度化

考察①

日本企業は脅威にどう対応

するのか

考察②

日本企業が機会を捕捉する

ためにはどうすべきか新たな注力領域の広がり

資源需要増大

【図表 1】 日本企業の事業戦略考察の枠組み

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産業調査

4 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

激しくなくとも、向こう 5 年でその関係が変化する可能性がある業種も見受けられる。よって、

日本企業としては、中国企業に対する競争力格差の見通しを念頭に置いて事業戦略を構築する

必要がある。例えば、技術的なキャッチアップの難度が高く、日本企業が競争優位性を維持する

ことが可能な分野としては、他産業に比べ技術移転が進みにくく、先駆者メリットが大きい工作

機械や、中国企業の規模が小さく技術力も低い医薬品などが挙げられる。こうした分野では、新

規顧客獲得を企図したバリューチェーンの見直しによる価格競争力の強化、顧客利便性の向上

や、積極的な研究開発投資により優位性の更なる拡大を図り、現在のビジネスモデルを発展させ

ることが求められる。

一方、中国企業の台頭が著しい分野や、中国政府の手厚い支援の下で急速なキャッチアップが

予想される分野、例えば、中国政府による国産化の動きが進みつつある医療機器では、先手を打

って第三国の市場を開拓し確固たる地位を確立することによってグローバル競争を勝ち抜くた

めの事業規模を確保するという発想が必要と考えられる。更に、こうした分野では、中国企業と

の win-win の協業関係を構築することも一案であり、具体的には、競争力の源泉となるコア技

術については開示しない一方、ノンコアな技術は敢えて開示するなどにより、中国企業に対して

メリットを供与する代わりに豊富な資金力などを活用するといった、メリハリを付けつつ協働

する戦略が有効となろう。但し、中国企業が M&A による非連続な成長や新たなビジネスモデル

で中国市場での圧倒的な優位性を築き、それをグローバルに展開することで日本企業の競争優

位が一瞬にして喪失してしまうリスクがあることには留意が必要であろう。

一方、足下既に日本産業・企業の競争力が同程度か、相対的に低い分野としてエレクトロニク

ス(家電)に加え、パーソナルケアや食品(製造・販売)、小売といった個人消費関連分野など

が挙げられる。こうした分野では、既に中国国内での競争環境は厳しく、日本企業が単独で中国

市場を獲得するにはハードルは高いため、中国企業との協業を念頭に置いた事業戦略が求めら

れるだろう。例えば、個人消費関連分野では、日本とは商慣習が異なり、そもそも日本企業の中

国内シェアが小さい上に、中国国内における EC 発展に伴う流通チャネルの変化に対応してい

かなければならない。そのためには、地場の EC 事業者・専門店との連携により最終消費者との

接点を確保し、ビジネスチャンスを獲得していく取組みが必要となる。また、エレクトロニクス

(家電)では長年の実績を通じて築かれたブランド力と技術力を提供する代わりに、中国企業の

ネットワークなどを活用することによって、中国国内のみならず、グローバル市場への販売強化

につなげる等、第三国をも含めた協業が戦略として有効と考えられる(【図表 2】)。

(出所)みずほ銀行産業調査部作成

【図表 2】 中国の及ぼす脅威への対応の方向性

脅威

過剰供給

中国企業の台頭

・ 鉄鋼・ 非鉄(アルミ)・ 化学(石油化学)・ 石油 等

・高級鋼や新素材等、高付加価値財の提供による差別化

・特定事業への経営リソース投入

既に競争力が同程度か相対的に低い分野

・ 重電・ パーソナルケア・ 小売 等

・国内、第三国における中国企業との協業

現状、競争力が相対的に

高い分野

・ 工作機械・ エレクトロニクス

(電子部品) 等

・バリューチェーン見直 し、研究開発投資による優位性の維持・向上

資源需要増大 ・ 天然ガス・LNG・ 食品(調達・加工)

・商社とのアライアンス・官民連携の強化

将来において競争優位が

危ぶまれる

将来も競争優位の

維持が可能

・ 医療機器・ 化学(機能性化学)・ 鉄道システム 等

・第三国の開拓・中国企業との協業

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産業調査

5 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

(2)機会の捕捉

成長率が鈍化するとは言え、中国経済が成長を続けることによって日本企業にもたらされる

ビジネスチャンスは確実に存在する。勿論、素材汎用品など地場企業のコスト競争力が優位な低

付加価値財や事実上の参入規制のある分野において、日本企業にとっての機会は小さいと言わ

ざるを得ない。従って、狙うべきは日本の技術・ノウハウを活かし、差別化できる分野であり、

そうした分野を能動的に切り開く取組みが期待される。まず、高度成長期から成熟期に転じつつ

ある中国は、日本を含む先進国が辿ってきた成長過程を後追いしている部分も見られる。日本が

経験から得られた技術・ノウハウなどの蓄積を発揮できる分野は有望だろう。とりわけ、課題先

進国として培ったノウハウを活かせる医療・介護、製造の高度化という中国の目指す方向性に対

して、工作機械・エレクトロニクス(電子部品)などは特にこれまでの蓄積が大いに活かせる業

種と考えられる。例えば、今後、高齢化、社会保障制度の整備や規制緩和の動きが進むであろう

医療・介護分野では、産業界と医療界の連携に加え、先端 ICT技術も活用することで、過度に財

政に依存することのない効率的なサービスの提供が求められる。

一方、先進国でも米国の一部の州に留まっている新エネ車の販売義務導入や、日本以上に広が

る EC市場など、日本が過去の経験から得られた技術やノウハウでは対応することが困難な変化

が見られる分野もある。これらに対応する自動車、小売、パーソナルケア等の業種では、過去の

蓄積を活かすというよりも、むしろ現地事情に即した技術開発やビジネスモデル構築など新た

なチャレンジが求められる。更に言えば、グローバル市場に占める中国市場の存在感の大きさゆ

えに、こうした取組みにより中国市場を捕捉できなければ、世界での競争において不利な状況に

陥るリスクもある。例えば、自動車では環境規制の導入を好機と捉えて新エネ車の投入を積極的

に推し進めることが、量産による生産コスト低減を通じた価格競争力の強化につながり、将来の

グローバル新エネ車市場を獲得するための布石となるだろう。逆に言えば、中国の新エネ車市場

で覇権を握ることに失敗した場合は、グローバル市場でも苦戦を強いられるおそれがあるとい

うことになる(【図表 3】)。

日本企業は、高度経済成長国から経済成熟国に至るまでに蓄積した確固たる技術力や、環境問

題、高齢化など先進国ならではの課題に対する解決力といった強みを保持しており、依然として

多くの分野で、中国企業との競争に打ち勝ち、中国内外で市場を獲得する余地は十分にある。し

かしながら、中国企業の M&A を活用した非連続な成長などによる中国企業の急速なキャッチア

ップや、ECや新エネ車市場といった新たな領域における先進国の先を行くような取組みにより、

日本企業の優位性の維持が困難となる懸念はぬぐえない。こうした分野では中国企業との競争

が今後ますます熾烈化するであろう。日本企業は技術力や課題解決力による差別化等で競争を

克服するのみならず、これまで培ってきた技術やノウハウを敢えて提供することにより中国企

業と協業し、その豊富な資金力や広範なネットワークを活用することで中国内外の市場におけ

日本の経験・ノウハウを輸出できる分野

現地事情に即した対応が必要な分野

・ 医療・介護・ 工作機械・ エレクトロニクス(電子部品)・ ロボット

機会

・ 自動車・ 小売・ 食品(製造・販売)・ パーソナルケア

・ 高付加価値な財・サービスの提供(ハイエンドな製品、効率的なサービスの提供等)

・ 新たなビジネスモデルの構築や技術開発

新たな注力領域の広がり

個人消費の拡大と高度化

【図表 3】 中国のもたらす機会を捕捉するための方向性

(出所)みずほ銀行産業調査部作成

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産業調査

6 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

るプレゼンス向上を目指すといった取組みも、場合によっては必要となろう。中国経済・産業に

おける構造変化は、日本産業に様々な脅威と機会をもたらす。日本企業には、機会を着実に自ら

のものとすることは勿論、今後ますます強まるであろう脅威に対して耐え忍ぶだけではなく、こ

れを逆手にとって機会に変えるという、したたかな戦略が求められよう。

以 上

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産業・地域政策

7 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

環境保護 5 カ年計画の主旨内容と中国環境 情勢の現状―環境対策の実施効果と環境産業 発展促進への展望―

1.はじめに

2006 年に始動した「第 10 次 5 ヵ年計画(2006-2010 年)」で、中国が持続的な発展と循環型社

会構築の重視に政策転換してから、ちょうど 10年が経過した。国内経済成長のスローダウンと国

際的な地球温暖化対策への取組み拡大の中、2005年 2月の京都議定書発効(1997年の国連気候変

動枠組条約第 3回締約国会=COP3に基づく)と 2015年 11月の COP21による「パリ協定」採択な

どにおいて、中国は経済力第 2位と CO2排出第 1位の国として、積極的に地球温暖化防止のための

国際協調枠組みに加わり、応分の義務履行としかるべき役割

発揮を目指している。

一方、中国の国内環境保護は度重なる環境対策の実施展

開にもかかわらず、大きな改善が見られたとは言い難い。

象徴的なのが、PM2.5 に代表される大気汚染問題の長期・

深刻化である。それだけに、新 5 ヵ年計画期における中国

の環境政策策定と目標提示が特に関心を集め、その実施効

果や今後の展望も重要な事項となっている。

本稿では、新 5 ヵ年計画期における中国の環境保護計画

の策定動向と主旨内容を紹介し、近年の中国環境対策投資

の効果と限界及び環境保護産業の発展状況を概観し、技術

革新と新産業革命の機運増強による環境保護政策の方向性

と環境産業の発展を展望する。

2.新 5ヵ年計画期の環境保護計画の強調点と主な内容

2016 年 10 月から、中国は立て続けに新 5 ヵ年

計画期における環境保護関連の政府計画を 4点ほ

ど公表した(表 1下の⑯~⑲)。⑰「生態環境保護

計画(2016~2020)」(以下「保護計画」)は、公表

時期は最後であるが、最も充実した内容で性格的

にも最も基本的なものである。以下では、主に昨

年 12 月に公表された「生態環境保護計画(2016

~2020)」を中心に紹介する。

今次の環境保護 5ヵ年計画は、前 2回の 5ヵ年

計画のそれよりも内容構成とボリュームが大幅

に増加し、これまでになかった事項が多く盛り込

まれている。「保護計画」に掲げられている目標値

は 3大カテゴリー(生態環境のクオリティ、汚染

物排出総量、生態保護修復)に区分され、従来の

環境 5カ年計画に比べて、指標値の系統化に加え、

みずほ銀行

中国営業推進部

研究員 邵 永裕 Ph.D.

[email protected]

No. 環境対策名称(計画・通達など) 公布機関 公布年月

① “12・5”環境保護計画(2011~2015) 国務院 2011年12月

②“12.・5”期における温室ガス排出規制事業方案発行に関する国務院の通知

国務院 2012年1月

③ 藍天科技工程“12・5”特別計画科技部、環境保護部

2012年7月

④中国の“12・5”環境目標を実現するためのメカニズムと政策(摘要報告)

中国環境発展国際合作委員会

2012年12月

⑤ 全国生態保護 “12・5”計画 環境保護部 2013年1月

⑥ 国家環境保護標準“12・5”発展計画 環境保護部 2013年2月

⑦ 大気汚染物質特別排出規制に関する公告 環境保護部 2013年2月

⑧全国石炭燃料機械ユニット脱硫・脱硝施設等重点大気汚染排出削減工程の公布に関する公告

環境保護部 2013年4月

⑨ 京津冀及び周辺地域大気汚染防除計画実施細則 環境保護部など 2013年9月

⑩2014-2015年省エネ・排出削減・低炭素発展行動方案

国務院 2014年5月

⑪ エネルギー業界の大気汚染防除事業強化方案国家発展改革委員会など

2014年6月

⑫大気汚染防治行動計画実施状況考課方法(試行)実施細則

環境保護部など 2014年7月

⑬京津冀及び周辺地域重点業界大気汚染限期治理方案

環境保護部 2014年7月

⑭ 水汚染防除行動計画 国務院 2015年4月

⑮ 土壌汚染防除行動計画 国務院 2016年5月

⑯ “13・5”温室ガス排出抑制工作方案 国務院 2016年10月

⑰ 全国生態保護 “13・5”計画 環境保護部 2016年11月

⑱ 環境保護 “13・5”科技発展綱要(2016~2020)環境保護部、科技部

2016年11月

⑲ “13・5”生態環境保護計画(2016~2020) 国務院 2016年11月

⑳ 生産者責任延伸制度実施方案 国務院 2017年1月

表1 2011年以降の中国政府環境保護政策の展開動向

資料)中国政府関連機関WEBサイトより作成。注)本表は地域版を除く主要な環境保護計画と大気汚染対策を主要対象としているのですべての関連政策が網羅されるとは限らない。

2015年 2020年 〔累計〕1 属 性

地級及びそれ以上都市2の空気質優良日数の比率(%)

76.7 >80 - 拘束性

PM粉末基準値未達の地級及び地級以上都市の濃度削減比率(%) - - 〔18〕 拘束性

地級及びそれ以上都市の重度及びそれ以上汚染日数の削減率(%) - - 〔25〕 予期性

地表水質3がⅢ類水準に達する水域比率(%) 66 >70 - 拘束性

地表の水質が劣Ⅴ類の水域比率(%) 9.7 <5 - 拘束性重要河川湖泊の水機能区域の水質の基準達成率(%) 70.8 >80 予期性

地下水の水質の極差比例(%) 15.7 4 15前後 - 予期性近海海域の水質優良(一、二類)の比率(%) 70.5 70前後 - 予期性汚染された耕地の安全利用比率(%) 70.6 90前後 - 拘束性汚染土地の安全利用比率(%) - 90以上 - 拘束性森林被覆率(%) 21.66 23.04 〔1.38〕 拘束性森林蓄積量(億立米) 151 165 〔14〕 拘束性湿地保有量(億ム) - ≥8 - 予期性草原総合被覆率(%) 54 56 予期性重点生体機能区所属県域の生態環境状況指数 60.4 >60.4 - 予期性

COD排出量 - - 〔10〕アンモニア窒素 - - 〔10〕二酸化硫黄 - - 〔15〕窒素酸化物 - - 〔15〕

重点地域重点業界の揮発性有機物5 - - 〔10〕 予期性

重点地域の窒素総量6 - - 〔10〕

重点地域のリン素総量7 - - 〔10〕

- >95 - 予期性

- ≥35 - 予期性

- - 〔10〕 予期性

- - 〔27〕 予期性注)1[ ]内は5年間の累計値。2は空気質に関する評価は全国の338都市を対象とする(地・州・盟の所在地及び一部の省轄の県級市を含む。3は水環境の質に対する評価のカバー水域範囲が前期5カ年計画の972ヶ所から1940ヶ所へ拡大。4.2013年の数値。5.重点地域・重点業界における揮発性有機物の総量規制を推進し、全国の排出量を10以上に削減すること。6。沿海56都市及び29の富栄養化湖とダムに対して窒素総量の規制を行う。7.リン含有量が標準値を超えた規制単位及び上流の関連地域でリンの総量規制を実施する。

10.水土流失新規整備面積(万k㎡)

生態の保全修復7.国家重点保護野生動物の保護率(%)

8.全国自然海岸線保有率(%)

9.砂化土地新規整備面積(万k㎡)

5.主要汚染物質の排 出 量 削 減 比 率(%)

拘束性

6.地域性汚染物質排出量の削減比率(%)

予期性

2.水環境の質

3.土壌環境の質

4.生態状況

汚染物質排出総量

表2  中国第13次5カ年計画期の生態環境保護の主要目標指 標 名 称

生態環境のクオリティ

1.空気の質

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産業・地域政策

8 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

指標数の追加が見られている(表 2)。合わせて 12

の「拘束性」目標が提示され、生態環境の発展管

理に計 10 項目の指標名称で計画の数量化が図ら

れているが、前期との連続性が不十分であるため

空欄となっている箇所が多いことも特徴のひとつ

と言えよう。

「保護計画」では、「五位一体」(経済建設、政治

建設、文化建設、社会建設、エコ文明建設を一体

的に進めること)の全体的配置を統一的に進め、

「四つの全面的」〈「小康社会」の全面完成」、改革

の全面深化」、「全面的な法に基づく国家統治」、「全

面的な厳しい党管理」〉の戦略配置を調和よく進め

るため、「革新、調和、グリーン、開放、共有」の

5 大発展理念によって生態環境保護分野を導く戦

略的手配を行い、またエコ文明分野の改革を実現

することを謳っている。そこで「全面的小康社会」

実現には、生態環境における「短板」〈欠如・不足〉

を補う効果的方法としているのが、「保護計画」の

策定実施である。

「保護計画」では、環境の質向上を核心に、最も

厳格な環境保護制度を実施し、大気、水、土壌の

汚染防止・処理の 3 大戦役を確実に進め、生態系

の保護と修復を強化し、生態環境リスクを厳密に

予防・制御し、生態環境分野の国家ガバナンス体

制とガバナンス能力の近代化を加速し、生態環境

管理の系統化、科学化、法治化、細密化、情報化レ

ベルをたえず高め、生態環境の質を全体的に改善

することなどを求めている。汚染源の予防・管理

を強化し、グリーン発展の基礎を固め、品質管理

を深化させ、3大行動計画〈「大気、水、土壌 3大

汚染防止・処理の行動計画」〉を強力に実施するこ

とも呼びかけられている。特に注目に値するのが、テーマ別対策を実施し、排出基準の達成と汚

染排出の削減を面的に推進することだと思われ、表 3 と表 4 を通じて、新 5 ヵ年計画期の主要な

推進事業と産業別の強調点が読み取れる。このほか特に地域的に環境汚染対応と生態環境の整備

内容が提示されており、過去の環境保護計画より充実した内容となっている印象を受ける。

「保護計画」の後段では、以下の点について強調されている。地方の各級人民政府は計画実施

の責任主体であり、生態環境保護の目標、任務、措置と重点プロジェクトを当該地域の国民経済・

社会発展計画に盛り込まなければならず、国務院の関係各省庁はそれぞれ責任を負い、緊密に協

力し、資金投入を増やし、計画実施の度合いを強めなければならない。また計画実施状況の年度

配分と評価・考課の仕組みをつくり、2018年と 2020年末に、それぞれ計画執行状況の中間評価と

表3 中国新5カ年計画における環境対策の重点推進事業【1】工業汚染源による全面標準達成での排出:50万t石炭燃料ボイラーと工業園区汚水処理施設の期限限定改造。地級及びそれ以上都市部建設済地域での10t以下ボイラーの基本的廃棄。石炭燃料ボイラーの脱硫・脱硝・除塵改造の遂行。鉄鋼業界焼結設備の脱硫改造、セメント業界の脱硝改造の完遂。鉄鋼・セメント、板ガラス、製紙、捺染、窒素肥料、製糖など業界の安定目標実現不能企業に対する逐一改造。工業園区の汚水処理施設の期限限定改造。【2】大気汚染重点地域の都市ガス普及の徹底化:京津冀、長三角、珠三角と東北地域の天然ガスパイプラインや都市間のガス配送管網、天然ガス貯蔵タンクなどのインフラ施設の整備改善、重点都市でのガスによる石炭代替事業の推進。代替推進目標:石炭燃料ボイラー18.9万t。【3】石炭燃料発電所の超低排出を目指す施設改良:4.2億kwの発電ユニットの超低排出改造事業の完遂と1.1億kwのユニットの標準達成改造の実施、2000万kwの劣後設備と関連の強制的環境基準に満たないユニットの期限限定淘汰の実施。【4】揮発性有機物質の総合対策:石油化学企業に対する揮発性有機物資の処理対策の実施、有機化学工業園区、医薬工業園区、石炭化学工業地域での揮発性有機物の総合対策の実施、給油所、オイルタンクトラック、貯蔵庫のオイルとガスの回収と総合見直しの実施。工業塗装と包装印刷業の揮発性物質の総合処理の推進。【5】良好な地下水源の環境保護:河川源及び378箇所の水質がⅢ類以上の河川、湖、ダムなどに対し、厳格な保護実施。重要河川、湖、ダムの入口汚染排出の対策事業の実施、重要飲用水水源地の基準達成建設事業の実施、水源涵養と生態回復事業推進、地下水保護と廃棄石炭坑、取水井戸の閉鎖・穴埋実施。京津冀と山西省等の地下水修復の実験実施。【6】重点流域・海域の水環境対策:7大流域及び接岸海域水環境の突出した問題に対し、580の優先規制対象先を重点とし、流域水環境保護と総合処理を実施し、点と面の汚染対応と統合河川・湖の生態回復を図る。太湖、洞庭湖、滇池、巣湖、鄱陽湖、白洋淀、烏粱素海、呼倫湖、艾比湖などの重点湖・ダムの水汚染処理総合対策の実施。【7】都市部生活汚水処理施設のフルーカバー達成:都市部にある汚染・悪臭水体の処理実施と343箇所の水質改善区域を重点に汚水の集中処理と重度汚染水の処理を実施する。都市部、県域及び重点鎮の汚水処理施設の建設強化と集中管網の建設を加速し、汚水処理場の改築改善を行い、すべて一級Aの排水基準を満たすこと。【8】環境総合対策の実施:13万の行政村環境総合整備処理を目指し、農業廃棄物資源化実験事業を実施し、汚水、ごみの収集・処理、リサイクル施設を整備し、次第に農村での生活汚水処理を推進し、90%の行政村の生活ごみの処理・整備を実現する。家畜・家禽の大規模養殖場の汚染退治と75%以上の養殖場の固形廃棄物と廃水の処理施設の整備実施。【9】土壌環境の対策:100箇所の農地及び建設用地汚染対策実験場地域と、6箇所の土壌汚染防除総合優先実験地域の建設。1000万ムの汚染された耕地の除染修復と4000万ムーの汚染された耕地のリスク管理・制御を実施する。化工企業撤去移転後の汚染状況の調査と総合除染対策の実施。【10】重点領域環境リスクの防止:生活ごみの焼却飛灰の処理処置の実施と地域的な使用済鉛蓄電池・リチウム電池の回収ネットワークの構築。有毒・有害化学品の環境・健康リスク評価能力の向上と化学品危害特性に関する基礎データバンクの建設、国家化学品計算管理センターと国家化学品計測実験室の設立。大型工業園区、集中飲用水水源地などに向けた異なる類型の危険区域全面的環境リスク管理模範区を50箇所設立。【11】原子力及び放射性物質被害への防除能力の向上:原子力と放射能予防のためのセキュリティモニター管理と技術開発基地を建設し、早期に原子力施設の退役と残留放射性廃棄物の処理処置事業を展開し、5箇所の中低廃棄物処理場と1箇所の放射性廃棄物の処理地下実験室を建設し、ハイリスク放射源実験観測制御システムを構築し、核廃棄物質の100%安全貯蔵などを目指すなど。

資料)中国国務院)「“十三五”生態環境保護計画(2016~2020)」(2016.11.24)より抜粋。

表4 中国新5年計画期の重点業界における汚染退治・排出削減実施内容【製紙業】パルプの元素状塩素漂白またはその他低汚染技術の採用、中段水の生化学処理工法の改善、深度処理プロセスの追加、中間制御の最適化など。【捺染業】低排水による捺染工法の改良と汚水総合利用、浄水・汚水の分流強化と水質による循環処理、サブ品質の再利用、中段の水生化学処理の改善、強酸化の増強、膜処理などの深度処理工法。【味の素】尾液の分離と尾液の凝集沈殿と蒸発濃縮などの方法採用により、外排水の嫌気性と好気性の二段階化学処理工法により、センシティブ地域での深度処理を実施する。【クエン酸】低濃度排水の循環再利用技術と高濃度排水の吹きつけ・造粒技術の採用。【窒素肥料】工法冷却液の水解解析技術改良を行い、シアン化物、アンモニア含有廃水の総合処理を行う。【アルコールとビール業】低濃度廃水に対する物理・生物学的工法採用で前処理をしてから工業団地での集中処理を実施する。ビール業界は現地での洗浄技術を採用する。【製糖業】ろ過布無しの真空吸引ろ過器の採用、高圧水洗浄、甜菜の干法搬送及び圧粕水回収の実施、廃糖蜜、酒精廃膠液発酵還元のリサイクル推進、排水生化利用の奨励。【澱粉業】厭酸素・好酸素生物化学処理技術を採用し、汚水処理施設オンラインシステム・中間制御システムの設立。【スローター業】外部への汚水排出の前処理の強化、センシティブ地域での特別排水制限実施、条件ある場合膜生物反応器による深度処理を実施する。【リン酸化工業】湿法による燐酸浄化改造の実施、過燐酸カルシウム、カルシウム・マグネシウム・燐酸肥料の設備能力増の厳禁。【石炭発電】石炭発電所の超低排出と省エネ改造の加速、露天炭鉱の抑塵措置の強化、条件がある場合、閉鎖式の改築実施。【鉄鋼業】干熄焦の技術改造の完遂、異なる種類の排水に応じて違うような前処理を行う。廃棄計画に入らなかったすべての焼結機と豆炭加工設備の排煙・排ガスに対する脱硫実施、焼結機のヘッドと機尾、コークス炉、高炉の出鉄場、転炉の排煙・排ガス施設の昇級改造の実施、露天原料置き場の密閉化改築と原料運搬施設密封式ベルトコンベアの改造など。【建材業】原料破粋、生産、運輸、積卸などの各段階での全閉鎖状態の処理普及推進。セメントキルン排煙・排ガスの全面脱硝実施など。【石油化学】触媒反応、裂解装置の触媒再生排煙・排ガス処理の実施、安定的に環境基準に満たない硫黄の排出に対し、その尾排ガスを回収する。【非鉄金属】二酸化硫黄が3.5%以上の排煙・排ガスに対して、「二回転・二吸入」などの方式で回収実施。低濃度の排煙・排ガスと製酸尾気排出の基準オーバーの場合脱酸実施。精錬企業の排ガス口の設置位置の規範化を行い、脱硫施設の傍路を除去する。

資料)表3に同じく「“十三五”生態環境保護計画」より抜粋。

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産業・地域政策

9 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

最終考課を行い、その結果を国務院に報告し、社会に公表しなければならない。

このように、「保護計画」は目標や政策手段のみならず、実施効果の点検・開示を含む「PDCA」

を重要視し、重要性と政府の決意の強さがうかがえる。

3.第 12 次 5 カ年計画期の中国環境対策の実施成果と限界

冒頭で触れた通り、中国政府は第 11次 5ヵ年計画期(2006~2010)に省エネと排出削減を主と

した環境保護重視の政策路線を鮮明に打ち出し

た。2015 年に終了した第 12 次 5 カ年計画まで

の間に大きな成果が収められたことは確かであ

るが 1、多くの課題が残されていることも事実で

ある。本節では、これまでの環境対策投資の動

向と、環境産業の発展動向を概観することを通じ

て、中国の環境対策の成果と課題を検討する。

国家環境保護部が毎年発表する「中国環境状

況公報」を見ると、環境保護計画や政策の実施

効果が強調されているのが一般的である。たと

えば、最新の「2015年中国環境保護公報」では、

成果として汚染物質排出量の前年比減少を報告

しているほか、様々な環境保護キャンペーンや政

策アクションによる成果を強調している。今回の

「保護計画」の冒頭でも前期 5 ヵ年計画の成果を

先に述べており、前 5 ヵ年計画期の環境対策目標

は基本的に達成しているとしている。

図 1 のように、第 11次 5ヵ年計画期における環

境対策投資は第 10 次 5 ヵ年計画期の約 3 倍に当

たる 2.4兆元を記録した。第 12次 5ヵ年計画期に

は約 4.3 兆元に拡大し、同期 GDP 総額に占めるシ

ェアは第 10 次 5 ヵ年計画期の 1.19%から 1.47%

に高まった。ただ、これは 5ヵ年計画期間の通期に

よる比較であるが、図 2 に示す第 12 次 5 カ年計画

の各年次ベースで見ると、2011~2014 年は増加傾

向を保ったが、直近の 2015 年の投資額が前年比で

-8.0%と減少に変わり、工業分野の環境対策投資の

減少幅が更に大きく(-22.5%)見られ、経済成長鈍

化の影響を受けているようである。環境保全よりも

経済成長確保のための投資活動が優先されがちで、

構造調整下に置かれている工業分野の場合は尚更

環境対策投資の限界に直面しやすい状況である。

1 紙幅の制限で前 2回に及ぶ 5ヵ年計画期の環境保護計画の達成状況の詳細を見ることはできないが、基本的に目標は達成されていると

され、「中国環境状況公報」(2015年はページ数最多)でも前年より各種環境保護指標が好転していることが報じられている。

図3 中国の主要汚染物質二酸化硫黄排出動向の推移

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年

総排出量

(万トン

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

工業・民生分野別排出シ

ェア

工業分野の二酸化硫黄排出シェア 民生分野の二酸化硫黄排出シェア

資料)国家統計局及び環境保護局公表データより作成。2015年の構成比は推計値。

図2 第12次5ヵ年計画期における中国環境対策投資の推移

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

投資

総額

と工

業分

野へ

の投

資分

(億

元)

0.0%

0.2%

0.4%

0.6%

0.8%

1.0%

1.2%

1.4%

1.6%

1.8%

2.0%

環境対策投資のGDPシ

ェア

投資総額 工業汚染源対策投資 GDPに占める投資総額のシェア

資料)『中国統計年鑑(2016)』より作成。

図1 中国の各5カ年計画における環境対策投資の拡大動向

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

第6次

5ヵ年計

第7次

5ヵ年計

第8次

5ヵ年計

第9次

5ヵ年計

第10次

5ヵ年計

第11次

5ヵ年計

第12次

5ヵ年計

投資額

(億元

0.0%

0.2%

0.4%

0.6%

0.8%

1.0%

1.2%

1.4%

1.6%

GDPに占める環境対策投資の比率

投資額 GDPに占める割合

資料)第11次5カ年計画までは中国政府発表データに基づき、第12次5ヵ年計画期(2011~2015)は実績に基づく計算値より作成。

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産業・地域政策

10 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

一方、環境汚染の動向を見るのに重要な参考指

標である二酸化硫黄(SO2)の排出量と構成比を見

る(図 3)と、第 12次 5年計画には明確な減少傾

向が現れたものの、工業分野による排出比率が拡

大に転じており、直近年に至るまで 90%弱を占め

ていることが読み取れる。また、図 4 のように、

工業分野での環境対策投資が 2013 年に大きく増

大したが、その 8~9割が工業排ガスの対応に向け

られており、近年の大気汚染の深刻化の対応と受

け止められるが、一方で工業排水の対応は手薄に

なってきたことが分かる。

この動向は、図 5 の近年の工業排ガス処理施

設の設置数からも間接的に読み取れる。見方を

変えれば、環境汚染対策の対象が大気汚染問題

に集中していることもうかがえよう。大気汚染

抑制目的で行政命令による製造企業の稼動中止

が時々見られるのも、端的に大気汚染の根治が

できていないことを示している。図 6 は工業分

野の固形廃棄物の排出量とリサイクル比率を示

しているが、排出量が頭打ちになっていると共

に、リサイクル比率も 2010年以前のレベルより

も低下しており、この分野への投資不足を読み取

ることができる。

4.中国環境産業の発展動向と将来展望(結びに代

えて)

中国政府が重要視しており、国内外からの関心

も強い環境産業 2 の発展動向を見ると、成長産業

として近年大きく伸びていることが図 7 と図 8 よ

り確認することができる。「省エネ・環境保護」産

業は、2010 年に打ち出された戦略的新興産業の 1

分野であり、着実に発展しつつあるが、投資不足が続いており、世界の多くの国に比較しても GDP

に占める環境対策投資がまだ 2%にも満たないことが問題とされている(中国環境計画院などの

政策提言レポートなど)。しかし、投資不足の問題を抱えながらも確実に成長している環境産業は、

新興産業育成重視の政府方針にも合致しているだけでなく、経済成長の方式や産業構造の転換促

進のために有益である。また、環境対策の実効性を引き上げるための有力な方途として、今後も中

国政府は環境産業の発展促進を重視しており、様々な育成支援策を講じていくことは間違いない。

第 13次 5カ年計画の始動に向けて、中国政府は科学技術革新=イノベーションの強化促進策を

2 中国では「環境保護産業」と称され、環境保護設備・環境保護サービス・廃棄物リサイクル・環境保護製品の 4分野が含ま

れる。

図5 中国の工業排ガス処理施設設置数と運営費の推移図4 中国の工業排ガス処理施設と運営費用の推移(2000~2014)

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

2000年

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

工業

排ガ

ス処

理施

設数

(セ

ット

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

施設運営費

(億元

工業排ガス処理施設(セット) 施設運営費用(億元)

資料)国家統計局「中国環境統計数据(2014)」より作成。

図6 中国工業分野の固形廃棄物の産出量とリサイクル率の推移

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

2000年

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

工業

固形

廃棄

物の

産出

量と

リサ

イク

ル量

(万

t)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

工業固形廃棄物リサイクル率

(%

工業固形廃棄物産出量(万t) リサイクル量(万t)

リサイクル率(%)

資料)中国国家統計局及び環境保護局公表データより作成。

図4 目的別にみる中国工業分野の環境汚染対策投資の推移

0

200

400

600

800

1,000

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

対策

投資

総額

及び

大気

・水

汚染

分野

別の

投資

額(億

元)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

対策

投資

のG

DPシ

ェア

と大

気・水

汚染

分野

別の

投資

シェ

投資総額 汚水対策投資額 大気汚染対策投資額

汚染対策投資のGDPシェア 大気汚染対策投資シェア 汚水対策投資シェア

資料)中国国家統計局及び環境保護局公表データより作成。汚染対策投資のGDP比は工業分野を含む環境汚染対策投資総額のGDP比率を指す。

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産業・地域政策

11 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

明確に打ち出し、生態環境の保護改善においても積

極的に科学技術の活用と環境産業の育成促進を重要

視している。これは、昨年 11月に「保護計画」との

連動で公布された「国家環境保護“十三五”科技発

展綱要(2016-2020)」(表 1 の⑱)にもはっきり反映

されている。紙幅の制限でこの発展綱要の詳細を取

り上げることはできないが、環境保護技術の開発の

みならず、環境・省エネ技術の応用推進と試験事業

の展開拡大及び国際社会との共同研究と技術協力

の拡大なども提唱されている。

図 9 に示されるように、中国では特に第 11 次 5

ヵ年計画期以降における環境・省エネ技術の発明特

許の申請件数が急増し、特に環境保護設備生産技術

と廃棄物のリサイクル技術分野が全体の半分以上

を占めている。農林業廃棄物の資源化利用に関する

特許申請も顕著に伸びており、環境保護産業の成長

に重要な市場需要を創出している。2015 年末時点

で環境保護産業(省エネ含む)が中国 GDPの 2.1%

となったことが明らかになったが、20年には GDPの

3%を超えると予測されている。

中国環境保護部の高官が最近「保護計画」の説明

を行う記者会見で明言したように、第 13次 5ヵ年計

画からの 5年ないし 10年は、環境保護対策にとって

厳しい試練の続く期間であると同時に、環境産業の

発展の黄金期でもあり、企業にとってチャレンジと

チャンスがともに大きいと思われる。

環境政策の策定と実施監督を行う政府には、環境

政策のポリシーミックスのみならず、環境政策統合 3(Environmental Policy Integration=EPI)な

ども重視すべく、諸官庁の作成する産業政策や地域開発政策の環境保護方針の一致統合と実施効

果の確保体制の整備強化なども求められている。環境保護計画はあくまで一種の制度設計や政策

目標であり、それが地道に実施され、広範な効果を得ることは簡単ではない。世界第 2 の経済大

国として、地球温暖化防止のために、早急に自国の環境汚染対策で目に見える効果を挙げること

が中国の最優先課題である。2018年 1月 1日から中国では初めて環境税の施行が予定され、環境

問題改善への効果が大きく期待されるが、持続可能な低炭素・循環型社会の構築と自律的な生態

環境の保全維持、地球温暖化問題の対応は極めて長期的で難しい取組みであり、排出権取引の推

進など広範な経済的・地域的・国際的な環境ビジネスと技術提携の促進が必要であろう。 以上

3 森晶寿編著『環境政策統合』ミネルヴァ書房(2013年)によると、EPIは広範な内容が含まれるが、基本的に環境政策のポ

リシーミックスを超える高次元での各分野における環境政策の目標と実施体制の統合を示している。無論、現時点において日欧を含め EPIの実現事例は少なく、今後の理想的目標とされるが、中国では今年 1月 3日に国務院から公布された「生産者責任延伸制度実施方案」(表 1⑳)が製造業のリサイクル事業に関して関係の政府部門に責任を負わせる形で政策形成を目指して

おり、EPI指向型の政策と受け止められよう。

図7 中国のリサイクル産業の発展動向(2008~2015年)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

規模以上企業数

(社

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000主要業務収益

(億元

企業数 売上高

資料)『中国統計年鑑』各年版より作成。2011年からの社数の減少は同年に規模以上企業の統計基準の引上げによる。

図8 第12次5ヵ年計画期中国環境保護産業の市場規模

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

企業数

(社

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000売上高

(億元

企業数 売上高

資料)中国社会科学院工業経済研究所『中国工業発展報告』ほかより作成。2015年は政府計画に基づく推計値。

図9 中国の省エネ・環境保護関連の発明特許出願数の推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

10,000

2000年

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

出願件数

(件

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%構成比

(右目盛

環境保護汎用設備(A)高性能省エネ電気機械・機器製造工業固形廃棄物、排ガス、廃液の回収と資源化利用(B)新型の建築材料製造Aの比率Bの比率A+B農林業廃棄物の資源化利用

資料)国家知識産権局計画発展司公表資料「専利統計簡報(2016年第8期)」より作成。構成比は計算値。

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産業・地域政策

12 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

巨大化する中国自動車市場 ~トレンドの変化、小型車減税策及び今後の行方~

1. 成長トレンドと消費嗜好の変化

WTO 加盟(2001 年)後、外資系自動車メーカーの進出やマイカーブームの拡がりに伴い、中国

の自動車産業は著しい成長を遂げた。生産台数は 2008年に米国、2009年には日本を抜き、8年連

続で世界首位となっており、販売台数は 2016年に約 2,800万台で、日・米・独 3カ国分に相当す

る市場規模となっている。世界市場に占める中国のシェアも 2006年の 10%から 2016年の 28%へ

と大きく拡大している。

巨大化が顕著な中国自動車市場は、ほぼ 2 年周期で成長と調整のサイクルを繰り返しつつ、需

要と供給のバランスが取れた成長を遂げた。一方、2012年以降の中国「新常態」経済を受け、同

市場は低成長が続いており、成長トレンドの変化も見うけられる。販売台数の年間平均伸び率を

みると、2001 年~2007 年の 23%、2008 年~2014 年の 16%に対し、20015 年~2021 年には約 5%

に減速すると予測されている(図表 1)。このように中国自動車市場はすでに高度成長期を終え、安

定成長期に突入していると言える。

【図表 1 年次別の自動車販売台数、伸び率】

(出所:CAAMの発表より、みずほ銀行国際営業部作成)

これまでの自動車需要は中国の大都市、沿海都市などの 1 級・2 級都市を中心に増加してきた

が、近年は、中部・西部地域都市及び中小都市(3級都市以下)へ波及する傾向にある。また、中

国の都市部では、「クルマ」は所有者の社会的地位を表すものという消費理念が残される一方、車

のファッション感覚、「三世代家族」(夫婦と子供1人+夫の両親)の増加、低燃費志向、環境規制

の強化などを背景に、「実用性」「コストパフォーマンス」という価値観を持つ消費者も増加して

いる。特に所得の向上やモータリゼーションの進展に伴い、エントリーカー需要に限らず、買い

替えと二台目車需要も無視できない牽引力となっている。これを受け、自動車の購入単価も上昇

しており、「8~18 万元」クラスの車種の割合は 2010 年の 39%から 2015 年の 57%へと拡大して

いる1。

こうした志向の変化や需要の多様化により、近年都市部では、自動車需要もかつてのセダンへ

の一極集中を脱し、若者層やファミリーを中心に SUV はが人気を集めている。ファッション性や

1 Rolandberger「中国汽車市場消費趋勢及用戸洞察」(2015年 11月)による。

みずほ銀行

国際営業部

湯 進 調査役

[email protected]

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1. 市場の拡大~①成長トレンドの変化

23

【図6 中国自動車販売台数の推移】(万台)

高度成長から安定成長へ

0%

10%

20%

30%

40%

50%

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

01年

02年

03年

04年

05年

06年

07年

08年

09年

10年

11年

12年

13年

14年

15年

16年

17年

e

18年

e

19年

e

20年

e

21年

e

CAGR 2001-07 +23% CAGR 08-14 +16% CAGR 15-21 +5%

1級都市家庭の初購入

2・3級都市へ波及

4・5級都市へ波及

車の大衆化・買替増

消費嗜好

の多様化

新エネ車の需要増

導入期 高度成長期 安定成長期

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産業・地域政策

13 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

悪路走破性といった実用性以外の特徴が評価された結果と言えよう。BitAuto のオンライン調査

によると、カテゴリー別の自動車購入者数において、SUV は買い替え市場の 48%、ファーストカ

ー市場の 36%と最も多くの割合を占めている2。実際、2016年の販売台数では、小型車減税の恩恵

を受けたセダンが前年比 4%増に留まったのに対し、SUVは同 46%増で乗用車に占める割合も 37%

(2011年に 11%)に上昇している(図表 2)。

【図表 2 セグメント別の中国自動車販売台数割合】

(出所:CAAMの発表より、みずほ銀行国際営業部作成)

また、中国政府は、①エコカーへの補助金制度の導入、②燃費規制の厳格化(100㎞あたりの燃

料が 2014 年の 7.2ℓから 2020 年の 5ℓに)、③中国版ゼロエミッション規制(ZEV)の導入などを

通じ、電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHV)を中心とする「新エネルギー自動車

(NEV)」の普及を目指している。国家プロジェクト「中国製造 2025」では、自動車市場における

NEVの比率として 2025年に 20%(約 500万台)、2030年に 40%(約 1,500 万台)などの目標を掲

げている。こうした潮流下、中国の NEV(乗用車)販売台数は 14 年に 5.8 万台、15 年に 17.6 万

台、16年には 30万台を超えると予測されている。一方、NEVメーカーが車両生産・出荷を優先す

るため、製品の品質問題も露呈しており、充電スタンド設置の遅れや各地の充電スタンド性能の

相違は、NEV普及の阻害要因となっている。今後、市場と政府がいかにバランス良く役割分担でき

るか、具体的にはインフラの整備や消費者市場への浸透がどのように進められていくのかを引き

続き注目していきたい。

2. 小型車減税策の刺激効果

2015年春以降、景気減速や株式市場の暴落に影響され、中国自動車市場は低迷が続き、マイナ

ス成長のムードが漂っていた。かかる状況中、中国政府は 2015年 10月から 2016年末まで小型車

取得税減税(排気量 1.6ℓ以下の小型車が対象で、車両購置税率 10%から 5%へ引き下げ)を実施

し、自動車消費の喚起を図っている3。同政策はリーマン・ショック後に実施した産業振興策ほど

の効果は及ばないものの、マイナス成長が続くセダン市場の下げ止まりや、新車市場の成長を大

きく支えていた。

小型車販売実績をみると、減税策実施前の月間平均が約 109 万台に対し、実施後は約 147 万台

となっている。すなわち、政策実施後の 15カ月間では約 500万台の小型車販売増に寄与したと推

2 BitAuto指数(2016年 4月)による。BitAutoは中国で新車販売サイト(易車網)及び中古車販売サイトを展開し、自動車ネッ

ト販売やオンライン調査などを行っている。 3 財政部「関与減征 1.6ℓ及以下乗用車購置税的通知」(財税[2015]第 104号、2015年 10月 26日)

70% 69% 67% 64%55% 50%

11% 13% 17% 21%29% 37%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2011 2012 2013 2014 2015 2016

Crossover

MPV

SUV

Sedan

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産業・地域政策

14 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

測される(図表 3)。乗用車販売に占める小型車の比率も減税前平均の 67%から減税後平均の 72%

へと上昇した。勿論、2016年からターボチャージャーエンジン(排気量の小型化効果)の生産拡

大や乗用車搭載率の向上が、小型車販売台数の増加を後押しているが、小型車減税策の実施は消

費の喚起に大きく貢献し、特に低迷するセダン市場の活性化にカンフル剤的役割を果たしたとい

えよう。

【図表 3 小型車減税策対象車の販売台数】

(出所:CAAMの発表より、みずほ銀行国際営業部作成)

一方、減税策終了後の需要減や購買意欲へのマイナス影響を考慮して、政府は減税率を 10%か

ら 7.5%に引き下げる方針で、小型車減税策を 2017年末までに延長すると決意した4。同政策の延

長により、2017 年の中国自動車市場は更に拡大し、前年比 4%増の 2,900 万台に達すると予測さ

れている。

なお、上記の小型車減税策は、市場の急回復を図る側面もあるものの、安定成長する自動車市

場には需要の前倒しによる様々なリスクも残されていると考えられる。政府が小型車取得税(過

去の 15 カ月間で約 15 億人民元)を免除する代わりに、足元の市場成長を最優先する方針が見受

けられる。一方、政策による市場の活性化や消費喚起は両刃の剣であり、業界では今後需要の「踊

り場」による工場稼働率の低下、生産能力の過剰及び価格競争などが懸念されるといった見方も

出ている。

3. 中国自動車市場のポテンシャルと抑制要因

中国自動車市場は今後も拡大傾向であり、2025年に 3,500万台、2030 年には 3,800万台に達す

ると予測されている(中国汽車工程学会)。国内外経済環境の変化、交通状況の悪化及び環境汚

染の対策、エネルギーの制限など、中国自動車市場は懸念事項が多く存在している中、長期的予

測は難しくなっているものの、その潜在力から見る市場としての魅力は依然として高い。

日本・韓国のモータリゼーションは概ねオリンピックの開催により市場の高度成長を遂げた。

千人当たりの乗用車保有台数をみると、日本は 1964 年の 22 台から 1975 年の 154 台へ、韓国は

1988 年の 21 台から 1997 年の 166台へと上昇した。中国は 2015年に 125 台(08 年北京オリンピ

ック時の約 6倍)に達したものの、これは日本(608台)の約 4分の 1に過ぎず、今後も成長余地

が十分に見込まれる。また 2016年の新車販売台数は人口 100人当たりに換算すると、日本は 4.0

4財政部「関与減征 1.6ℓ及以下乗用車購置税的通知」(財税[2016]第 136号、2016年 12月 15日)。

109

14767%

72%

62%

64%

66%

68%

70%

72%

74%

0

50

100

150

200

250

14

年月間平均

減税前月

減税後平均

10

11

12

20

16

年1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

月1

2月

減税対象車販売(万台) 乗用車全体の割合

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産業・地域政策

15 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

台、韓国は 3.5台に対し、中国はまだ 1.9台である5。今後 10数年も経ち、新車販売台数が 100人

に 2.5台(市場規模推測 3500万台)になって始めて、市場の飽和が議論され始めるものと考えら

れる。

ただし、中国では、地域発展のアンバランスや貧富格差の拡大等、自動車販売を抑制する要因

は多く、市場の拡大及び周期的調整はこれらの要因により大きく影響を受ける。現在、保有台数

の増加による道路容量・駐車場の不足が顕在化し、高い自家用車の利用率に加え、大都市圏での

渋滞問題が大きな課題となっている(図表 4)。すでに北京・深センなどの 8都市がナンバープレ

ート規制・新規増加台数の規制による渋滞緩和を図っているが、今後は他都市における規制の導

入も予測されている。こうした規制前の駆け込み消費や景気浮揚策等の外部要因による需要の前

倒しから、定常状態における販売台数よりもオーバーシュートした台数が売れるときは、その後

市場調整期を迎えると考えられる。

【図表 4 日中主要都市の自動車密度・利用交通手段の比較】

(出所:総務省「平成 22年国勢調査」、北京市交通委等より、みずほ銀行国際営業部作成)

中国政府は産業支援策を通じて、省エネ車や小型車市場の拡大を推進し、自動車市場の今後の

発展方向を示唆している。安定成長期に突入した中国自動車市場では、市場競争がますます激化

し、企業統合・淘汰の環境も整いつつある。日本を含めた外資系自動車関連企業も市場の特性や

政策の動向を吟味した上で、今後の中国事業のあり方を再検討する必要があるだろう。

以 上

5 JAMA、KAMA、OICAの統計データにより計算。

東京

395

東京

161

北京

544万台

北京

187

深セン

318

深セン

504台/km

車保有台数(15年) 台/道路km

東京

44.5%

東京

9.4%

大阪

28.6%

大阪

19.1%

北京

25.0%

北京

31.9%

電車利用者割合 自家用車利用者割合

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中国アドバイザリーの現場から

16 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

中央経済工作会議にみる

2017 年の中国経済政策方針

1. 2016年中央経済工作会議の主旨

(1)「安定の中で前進を目指す(穏中求進)基調を堅持」

2017年の中国経済政策の運営方針を議論する「中央経済工作会議(以下、会議)」が 16年 12

月 14〜16 日に開かれた。本会議で定められた方針に基づき、3 月 5 日に開会する全国人民代表

大会(国会に相当)において、17 年の実質 GDP 成長目標をはじめとする経済政策や数値目標が

議論、決定され、同月半ば以降の同会閉会後に公表される。

会議後に公表された文書で中国当局は、経済の現状について「①経済は合理的なレンジを維

持、質と効率が向上。②経済構造は引続き最適化、イノベーションの発展下支え作用が増強され

た。③改革開放には新たな突破、支柱となる改革が打ち出され、対外開放の配置がさらに改善。

④民生は引続き改善、貧困人口 1,000万人以上減少を見込み、生態環境好転、環境に優しい発展

で一応の成果」と肯定的に総括した一方、「過剰生産能力と需要構造高度化の矛盾が突出。経済

成長の内生動力が不足し、金融リスクの累積、一部地区の困難増加などの突出した矛盾と問題は

いまだに存在している」との認識を示した。

こうした現状認識の下、17 年の経済運営について「安定の中で前進を目指す(穏中求進)基

調を堅持し、新たな発展理念をしっかり確立・貫徹実行し、経済発展の新常態に適応、把握し、

それを導く」方針を明らかにした。17 年は 5 年に 1 回開かれる中国共産党大会の年に当たって

おり、「優れた成績で第 19回党大会の勝利の開催を迎えなければならない」(会議後公表文書)。

秋の党大会を前に、経済社会の安定を最重視した政策運営がなされよう。

会議は、「17年は第 13次五カ年計画実施に当たっての重要な 1年で、供給サイド構造改革を

深化させる年」とし、具体的な施策の方向として、①「三去一降一補」(過剰生産能力・在庫・

レバレッジの解消(去産能、去庫存、去槓桿(杠杆))、コスト削減(降成本)、弱い分野の補強

(補短板))の推進を深める、②農業分野における供給サイド構造改革のより一層の推進、③実

体経済振興(高品質の商品・サービス供給拡大等)、④不動産市場の安定的かつ健全な発展の促

進等を挙げた(図表 1)。

このうち、「供給サイド構造改革を深める」として挙げられた「三去一降一補」は、15年の会

議において 16年経済工作「五大任務」として提起されたもので、17年もそれを深めるとしてい

る。

みずほ銀行(中国)有限公司

中国業務部

細川美穂子

[email protected]

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中国アドバイザリーの現場から

17 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

図表 1 17年経済政策方針(中央経済工作会議後公表文書)

○ 現状認識

・経済は合理的なレンジを維持、質と効率が向上。経済構造は引続き最適化、イノベーションの発展下支え作用が増強・改革開放には新たな突破、支柱となる改革が打ち出され、対外開放の配置がさらに改善・民生は引続き改善、貧困人口1,000万人以上減見込み、生態環境好転、環境に優しい発展で一応の成果・過剰生産能力と需要構造高度化の矛盾が突出。経済成長の内生動力不足、金融リスクの累積、一部地区の困難増加などの突出した矛盾と問題はいまだに存在

・17年は十三五計画を実施する重要な一年。供給サイド構造改革を深める年・安定の中で前進を目指す(穏中求進)基調を堅持、経済発展の新常態に適応、把握、リードする

財政、金融、通貨政策、金融リスク防止

○安定の中で前進を目指す(穏中求進)基調は国政運営の重要原則。来年この基調を貫徹することは特別に重要な意義。積極的な財政政策と穏健(中立的)な金融政策を引続き実施・財政政策はさらに積極的且つ有効に、予算編成は供給サイド構造改革推進、企業の租税、費用負担軽減、民生の底支え保障の必要に対応・金融政策は穏健中性(中立)を維持、通貨供給方式の新たな変化に適応、通貨の開閉扉をしっかり調節、通貨政策の波及経路としくみを円滑にし、流動性の基本的安定を維持するよう努力・為替レートの柔軟性を高めると同時に、人民元レートの合理的で均衡な水準で基本的に安定させる・金融リスク防止をさらに重要な位置に置き、一連のリスクとなるポイントを果断に処理、資産バブルを防止、監督管理能力を向上改善、システミック金融リスクが発生しないことを確保

○ 供給サイド構造改革を引続き深める

1「三去一降一補」の推進を深める

・去産能(過剰生産能力解消):鉄鋼、石炭産業の過剰生産能力解消を引続き推進。ゾンビ企業の処理-環境保護、エネルギー消費、質、安全など関連法律・法規、基準を厳格に執行、条件を整えて企業の合併再編を推進、企業の債務を適切に処理し、人員の再就職先手配に取り組む-すでに解消した過剰生産能力の復活を防ぎ、同時に市場、法治のやり方で、他の生産能力過剰が深刻な業種の生産能力削減にしっかり取り組む・去庫存(不動産在庫解消):三、四線都市の教育、医療など公共サービス水準を高め、農業移転人口を引き付け、不動産在庫が多すぎる問題を重点的に解決・去杠杆(デレバレッジ・資産圧縮):企業のレバレッジ引き下げを重点に。法治化された債務の株式転換(DES)・降成本(コスト引き下げ):減税、費用引き下げ、要素コスト引き下げに力を入れる。エネルギー、物流コスト削減。労働市場の柔軟性を高める・補短板(有効供給拡大):貧困脱却政策の着実な推進

2農業の供給サイド構造改革

・緑色(環境にやさしい)高品質農産品の供給増加に突出した位置づけを与え、農産品の標準化生産、ブランドの樹立、品質の安全をめぐる監督管理をしっかりと行う・農村環境の突出した問題をめぐる総合的対策の取り組みを強化し、耕作地を林・湖・草地に戻す取り組みを強化・穀物などの重要農産品の価格形成メカニズムと備蓄制度を積極的かつ安定的に改革・土地請負の「三権(所有、請負、経営権)分離」弁法を実行に移し、新しいタイプの農業経営主体とサービス主体を育成

3実体経済振興に注力

・品質向上と核心的競争力を中心に、イノベーション(創新)駆動の発展を堅持、高品質の製品・サービス供給を拡大・企業がそれぞれ独自の優位性を形成するよう誘導、「職人(工匠)精神」を発揚、ブランド樹立を強化、より多くの「100年の老舗(百年老店)」を育成、製品の競争力を強化・イノベーション駆動の発展戦略を実施、戦略的新興産業の勃興発展を推進する必要があるとともに、新技術・新業態の全面的改善を利用した伝統産業のアップグレード(昇級)をはかる・法治化されたビジネス環境を確立、外資導入工作を強化、外資企業の実体経済発展促進における重要な役割を発揮・産業組織の改善、大企業の質的向上をさらに重視。市場参入、要素配置などの方面で条件を整備し、中小零細企業を公平な市場競争に参入させる

4不動産市場の安定的で健全な発展

・(総合的手段)「家は住むためのものであり、投資のためのものではない」という位置づけを堅持、金融、土地、税・財政、投資、立法などの手段を総合的に運用、中国の国情に合致し、市場の規律に適応した基礎的制度と長期的メカニズムを早急に研究構築、不動産バブルを抑制するとともに、不動産市場の大幅な変動を防止・(貸出制限)マクロ面で金融をしっかりと管理、ミクロ面で貸出政策により居住用の合理的な住宅購入を支援、貸出が投機的な不動産購入に流れることを厳格に制限・(土地供給)人口流動に応じた用地指標確立。地方政府の責任により、価格上昇の大きい都市では土地供給を合理的に増加・(賃貸立法)住宅賃貸市場立法を加速、機関化、規模化された(住宅)賃貸企業の発展を加速・(監督管理強化)開発、販売、仲介などの行為を規範化

(都市化、地域発展戦略)

・新型都市化、出稼ぎ農民の市民化を引続き着実に実施・西部開発・東北振興・中部崛起・東部率先の地域全体戦略実施を引続き深める・京津冀の協同発展、長江経済ベルト発展、一帯一路建設の三大戦略を引続き実施

重点となる改革の歩みを加速

①混合所有制の改革は国有企業改革の重要な突破口。電力、石油、天然ガス、鉄道、民用航空、電気通信、軍需工業などの分野で実質的な歩みを踏み出す。国有資本が投資・運営する企業の改革試行を加速、②知的財産権保護制度の建設を強化し、民法の編纂を着実かつ早急に進め、各種所有制の機構と自然人の財産の保護を強化。企業家の精神を保護し、企業家が革新・起業に専念するよう支援、③税・財政と金融体制改革。中央と地方の財政権限と支出責任区分の改革推進、④金融監督管理体制改革、⑤養老保険制度改革、⑥一帯一路建設で政策、開発、商業的な金融の役割発揮、⑦財政税制、金融、土地、都市化、社会保障、生態文明などで部門を跨る改革推進。・重大改革のトップダウン(頂層)設計に力を入れ、地方・基層の改革推進の積極性主体性を充分に動員

(資料)中国政府網 16年12月16日 http://www.gov.cn/xinwen/2016-12/16/content_5149018.htm

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中国アドバイザリーの現場から

18 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

(2)金融政策は「穏健中性」との表現が加わる

金融・財政政策について、今次会議では、15年の同会議で採用された 16年財政金融政策方針

である「積極的な財政政策、穏健(中立的)な金融政策」の既定路線を 17年も維持することを

確認したが、今次会議では「穏健中性」との表現が加わり、金融政策はこれまでより引き締め気

味とする意図が感じられる。

財政政策について、15 年会議で示された「財政赤字比率引き上げ」への言及はなくなり、代

わって「積極的かつ有効に」との表現となり、「供給サイド構造改革推進、企業の租税、費用負

担軽減、民生」など的を絞った財政支出増、減税も含めた効率的な資金配分が志向されている。

人民元について、昨年の会議では「レート形成メカニズム改善」とあったところ、今次会議で

は、「為替レートの柔軟性を高めると同時に、人民元レートを合理的で均衡な水準で基本的に安

定させる」との表現となった。「柔軟性を高める」方針が、例えば変動幅の拡大や為替レート決

定方式の変更、あるいは水準調整など具体的に新たな政策として打ち出されるかが注目される。

一方、17 年の経済運営方針が大前提として「安定」を強調していることから、後半部分の「合

理的で均衡な水準で基本的に安定」の方がより重視される可能性もある(図表 2)。

図表 2 財政、金融、通貨政策関連部分の表現比較

2. 中国経済の現状と 2017年の見通し

(1)16年は政策下支えにより+6.7%程度の成長を維持

16年の中国経済は 1)在庫解消を目的とした刺激策を受けた住宅販売急増と、2)自動車優遇税

制の政策効果もあり、実質 GDPは+6.7%程度の成長を維持したとみられる。

景気に影響を与えたもう一つの要因に、過剰生産能力解消の進展が挙げられる。

15年の中央経済工作会議では 16年の経済政策方針として「五大任務」即ち①過剰生産能力の

解消(去産能)、②企業のコスト引き下げ(降成本)、③不動産在庫の解消(去庫存)、④有効

供給を拡大(補短板)、⑤金融リスクを防止・解消(去杠杆)」が打ち出されたことから、その

景気に与える影響、下押し要因が強まることが当初は懸念された。

とりわけ①過剰生産能力解消に関して、重点となった鉄鋼と石炭産業における過剰生産能力

積極的な財政政策と穏健(中立的)な金融政策を引続き実施。財政政策はさらに積極的且つ有効に、予算編成は供給サイド構造改革推進、企業の租税、費用負担軽減、民生の底支え保障の必要に対応

金融政策は穏健中性(中立)を維持、通貨供給方式の新たな変化に適応、通貨の開閉扉(バルブ)をしっかり調節、通貨政策の波及経路としくみを円滑にし、流動性の基本的安定を維持するよう努力 為替レートの柔軟性を高めると同時に、人民元レートを合理的で均衡な水準で基本的に安定させる

(要继续实施积极的财政政策和稳健的货币政策。财政政策要更加积极有效,预算安排要适应推进供给侧结构性改革、降低企业税费负担、保障民生兜底的需要。货币政策要保持稳健中性,适应货币供应方式新变化,调节好货币闸门,努力畅通货币政策传导渠道和机制,维护流动性基本稳定。要在增强汇率弹性的同时,保持人民币汇率在合理均衡水平上的基本稳定。)

積極的な財政政策に力を入れ、減税政策を実行、財政赤字比率を段階的に引き上げ、必要な財政支出と政府投資を適度に増加させると同時に、主として減税によりもたらされた財源減収分の補完に用い、政府が負担すべき支出責任を保障する。

穏健(中立的)な金融政策はより一層、機動的に適度にし、構造改革のためにふさわしい通貨金融環境を作り、資金調達コストを引き下げ、流動性の合理的な余裕を維持し社会融資総量の適度な伸びを維持、直接資金調達の比重を高め、貸出構造を最適化 為替レート形成メカニズムを改善

(积极的财政政策要加大力度,实行减税政策,阶段性提高财政赤字率,在适当增加必要的财政支出和政府投资的同时,主要用于弥补降税带来的财政减收,保障政府应该承担的支出责任。稳健的货币政策要灵活适度,为结构性改革营造适宜的货币金融环境,降低融资成本,保持流动性合理充裕和社会融资总量适度增长,扩大直接融资比重,优化信贷结构,完善汇率形成机制。)

2016年(17年方針)

2015年(16年方針)

(資料)中国政府網「中央経済工作会議を北京で挙行」http://www.gov.cn/xinwen/2015-12/21/content_5026332.htm    http://www.gov.cn/xinwen/2016-12/16/content_5149018.htm

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中国アドバイザリーの現場から

19 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

解消進展の過程で、企業の破産処理が加速し、雇用や個人消費に影響が出る可能性も考えられ

た。しかし、実際には、例えば人員が持ち場を離れただけで転職せずに同じ国有企業内にとどま

っているなど、人員配置と債務処理、資産再編に関する実質的な動きは、17 年以降に持ち越さ

れたものも多いとみられる。

なお、雇用に関しては、起業・創業ブームやサービス産業の発展に伴う雇用吸収効果も発揮さ

れたと考えられ、雇用所得環境の相対的な安定と個人消費の堅調につながった。

今回の過剰生産能力解消目標達成の副作用として、鉄鋼、石炭の価格が高騰、ともに 11月時

点で年初比 6〜7割以上値上がりしている。価格上昇に伴い、関連業種における生産が増え、企

業業績も改善、一旦解消された生産能力が復活する動きもみられ、景気にはプラスとなった一

方、構造改革にとってはマイナスの影響も出ている。

(2)2017年中国経済見通し~+6%台半ばの成長を予想

17年の中国経済は、前年の成長を牽引した住宅と自動車の政策下支え要因が弱まることから、

16 年の+6.7%から+6.5%と緩やかに減速はするものの、堅調な成長が続くと予想する。

住宅について、会議で「不動産市場の安定的で健全な発展」に向けた 5 つの方針が打ち出さ

れ、一、二線都市で見られる住宅価格の高騰抑制と、三、四線都市における在庫の解消が図られ

る。

自動車は、財政部と国家税務総局が 12 月 15 日、16 年末までとされていた小排気量の新車購

入を支援する減税措置の期限を 17 年末まで 1 年間延長すると発表、税率は 7.5%と現行の 5%

からは引き上げられ、通常税率の 10%に対する減税幅が 17年は半分(2.5%分)となる1。

需要項目別に見ると、投資は、鉄鋼など過剰生産能力を持つ業種を中心とする製造業で伸び悩

み、三、四線都市で顕著な住宅の在庫を背景に不動産投資も減速が続く。こうした中で、鉄道や

道路、港湾、空港などのインフラ建設投資が下支えするものの、16 年を大きく上回る伸びは期

待しにくい。

今次会議後文書には「他の生産能力過剰が深刻な業種の生産能力削減にしっかり取り組む」と

の文言が、「鉄鋼、石炭産業の過剰生産能力解消を引続き推進」と併せて盛り込まれた。生産能

力解消に向けた指導意見の出ているアルミなど非鉄金属や石化2について、今後、鉄鋼や石炭と

同様の強い政策が出てくるか、注目される。

個人消費も、過剰生産能力解消が引続き推進される中、「企業の優勝劣敗」など産業構造調整

進展の度合い次第では、雇用悪化にも影響が及び、消費が小幅に減速することも想定される。

輸出は、先進国景気の緩やかな回復を受けて 16年よりは改善する見込みであるものの、人件

費や通貨の上昇を受けた競争力低下の影響は続くであろう。

1 国家税務総局ウェブサイト「财政部 国家税务总局关于减征 1.6 升及以下排量乘用车车辆购置税的通知(排気量 1,600㏄以

下の乗用車購入税引き下げに関する財政部、国家税務総局通達)」财税〔2015〕104号(9月 29 日付)は、15年 10月 1日か

ら 16年末まで、排気量 1,600cc以下の乗用車を対象に、自動車取得税の税率を従来の 10%から 5%に引き下げると公表。

http://www.chinatax.gov.cn/n810341/n810755/c1827947/content.html

財政部ウェブサイト「关于减征 1.6 升及以下排量乘用车车辆购置税的通知(排気量 1,600㏄以下の乗用車購入税引き下げに

関する通達) 」http://szs.mof.gov.cn/zhengwuxinxi/zhengcefabu/201612/t20161215_2483048.html 2 中国政府網 16年 6月 16日「国务院办公厅关于营造良好市场环境 促进有色金属工业调结构 促转型增效益的指导意见

国办发〔2016〕42号(非鉄金属の良好な市場環境作り、構造調整、タイプ転換促進、収益増に関する国務院弁公庁指導意

見) 」http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-06/16/content_5082726.htm

16年 8月 3日「国务院办公厅关于石化产业调结构促转型增效益的指导意见 国办发〔2016〕57 号(石化産業の構造調整、タ

イプ転換促進、収益増に関する国務院弁公庁指導意見)」http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-

08/03/content_5097173.htm

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中国アドバイザリーの現場から

20 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

減速するとはいえ、名目 GDP でみて日本の 3 倍以上、世界第 2 の規模となった中国経済が相

対的に高い成長を続け、市場としての存在感をますます高めていくことは見逃せない。今次会議

で具体的には明示されなかった「金融リスク」の顕在化にも注意を払いながら、構造変化や政策

動向に目を向け、それに伴い生じるビジネス機会を見つけていきたい。

以 上

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中国戦略

21 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

2016 年度「中国のつながる消費者」調査 ―進化するモバイル―(1)

エグゼクティブサマリー

中国は、eコマースの世界で起きているモバイル進化の最前線にあります。スマートフォンの

消費者への浸透がますます進む現在、eコマースはモバイル・コマース、別名「mコマース」へ

と急速な変貌を遂げつつあります。KPMG 中国が継続して発行している「中国のつながる消費者

(China’s Connected Consumers)」調査レポートの最新版からは、中国におけるモバイル進化

の更なる潮流が見えてきました。スマートフォンの利用が爆発的に広がっている中国では、mコ

マースは次第にむしろ当たり前になってきています。企業はデジタルプラットフォームの価値

と可能性を理解し、モバイルの進化を率直に受け入れることが重要です。すなわち、中国市場で

競争に勝とうとする企業は、最初の商品リサーチから購入、最終的な決済と購入後のフィードバ

ックに至るショッピングの全行程にわたって、真の意味で一体化され、コネクテッド化された体

験を消費者に提供することを目指さなければなりません。

中国におけるモバイルの進化

中国のオンライン小売市場は、新たな高みへと成長を遂げました。それに伴って消費者へのス

マートフォンの普及も急激に加速し、eコマースからモバイル・コマース(mコマース)への本

質的な変化が起こりつつあります。2016年 11月 11日の「シングルズ・デイ」を見ても、mコマ

ースが中国にもたらした影響は明らかです。この日のアリババのモバイル売上高はほぼ 1 千億

人民元に達しました。これはじつに総売上高の約 82%にあたります。他にも1多数の多国籍企業

が、mコマース・ブームに乗じ、中国のオンラインショッピング界で積極的に足場を固めようと

しています。

mコマースの成長要因の一つとして、中国の消費者が第三者決済のセキュリティを強く信頼し

ていることが挙げられます。さらに、eコマースのおかげで、中国の消費者、特に実店舗への交

通の便があまりよくない三級、四級都市の消費者にとってショッピングが便利になり、気軽にで

きるようになりました。

1 「阿里巴巴集団(アリババグループ)、2016年 11月 11日のグローバル・ショッピング・フェスティバルで取扱高 178 億

ドルを達成(Alibaba Group Generated USD 17.8 billion of GMV on 2016 11.11 Global Shopping Festival)」、アリバ

バ・グループ、2016年 11月 12日 http://alibabagroup.com/en/news/article?news=p161112

中国人消費者の 25%近くがオンラインショッピングに携帯電話を好んで使用する。これに対し

て、米国と全世界平均ではそれぞれ 5.2%と 8.5%にとどまる。

KPMG Advisory (China)編

厚谷 禎一 監訳

www.kpmg.com.cn

www.kpmg.or.jp/jp/china

商品 リサーチ 購入

決済

購入後の

フィードバック

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中国戦略

22 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

中国の消費者が、mコマースへ向かう世界的なトレンドの先頭に立っていることを今回の調査

結果は裏付けています。実際に、この調査で回答した中国人の 90%以上が、過去 1 年間に少な

くとも 1回、スマートフォンでオンラインショッピングをしています。これは他の市場、特に米

国(74%)や英国(74.6%)と比較しても著しく高くなっています。他の市場の消費者は、スマ

ートフォンでのショッピングの頻度が少ないことも顕著です(図 1.1 参照)。中国の 90%以上

という数字は、アジアの平均(84%)、そしてもう一つの高度成長国であるインド(87.8%)と

比較しても高い数字です。加えて、中国人回答者の 50%近くが過去 1 年間、毎月 2~3 回以上、

オンラインで商品を購入しています。これは世界平均の 27.9%を大きく上回ります(図 1.2 参

照)。

中国のオンライン市場、モバイル市場の発展を後押しするのは、2016 年の安定した GDP 成長

率(6.7%)であり、その主な要因は消費の伸びです。国家統計局(NBS)のデータによれば、消

費は中国の 2015 年 GDP の 66.4%を占めるまでに至りました(2014 年比 15.4%ポイント増)。

さらに中国政府の第 13次 5カ年計画は、より優れた商品を提供し、オンラインショッピングを

活発化させ、サービス部門を振興するために、サプライサイドの改革を通じてこの傾向を継続さ

せることを目指しています。政府が国内消費の促進を戦略的に推し進めていることから考えて、

e コマースがこれからも中国経済の重要な成長エンジンであり続けることは間違いありません。

図 1.1: 過去 1年間に 1回以上、スマートフォンを 図 1.2: 過去 1年間に毎月 2~3回以上オンライン

使ってオンライン購入を行った消費者 で商品を購入した消費者

出所: KPMGの調査分析(2016年)

「人々がモールに行かず、オンラインで安い商品を購入するだけなので、eコマースは経済成

長には貢献しないと言う人もいるが、 逆に eコマースは経済に大いに貢献している」と、KPMG

中国のコンシューマー・マーケット担当パートナー、ジェシー・チェンは言います。「eコマー

スは、よりコストパフォーマンスが高く、便利な方法で消費者に商品を届ける。これは、国内消

費を拡大するための非常に有意義な手段だ。3~4 年前なら、中国国内で e コマースの価値を

100%信じられない企業もあっただろう。しかし今では、日用消費財(FMCG)メーカーや小売業

中国人回答者の 90%以上が過去 1 年間

に 1回以上、スマートフォンでオンライ

ンショッピングを実行

中国の回答者の 50%近くが過去 1年間、

毎月 2~3 回以上オンラインで商品を購

入。これは世界平均の 27.9%を大きく上

回る。

インド アジア

イギリス 世界 アメリカ

中国 中国 アジア

世界 北 米 西ヨーロッパ

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中国戦略

23 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

者は eコマースを不可欠な存在とみている。eコマースの成長目標を非常に高いところに置いて

いる企業は私達のクライアントの中にも多い」

NBS のデータを見ても、消費財の 2015 年小売総売上高が前年比 10.7%増の 30 兆 900 億人民

元だったのに対し、2015年のオンライン小売売上高は 3兆 8,800億人民元で前年を 33.3%も上

回っています。2活況を呈する中国の e コマース市場において、この勢いは今後も続くことを今

回の調査結果は示しています。特にアリババや JD.comといった国内の市場が頭角を現したこと

が背景にあります。アリババによれば、2015年の「シングルズ・デイ」の総売上高は、2014年

を 60%も上回り、143億ドル(912億人民元)に達しました。中国の消費者がデジタル時代にな

だれ込んだことから、こうした上昇傾向は今後も続くと予想されます。この勢いに乗って、アリ

ババは最近、「シングルズ・デイ」の買い物客を対象とした多数の試験的プログラムを開始する

計画を発表しました。香港でも試験的プログラムが 1件予定されています。

オンラインとモバイルでの活動が急激に活発化したことは、中国の消費者がより洗練され、情

報を渇望し、支出傾向を強め、多様な商品へのアクセスを熱望していることを示します。調査の

結果から、消費者がオンラインでのショッピングを選択する大きな理由は、実店舗まで出向く必

要がなく便利であることはもちろん、いつでもショッピングが楽しめ、価格を比較し、確実に有

利な買い物ができるからだということがわかりました。デスクトップ PC とラップトップ PC は

相変わらずショッピングに一番よく使われるデバイスではありますが、中国ではスマートフォ

ンの利用が急増していることから(図 1.3 参照)、最初の商品リサーチから購入、最終的な決

済、そして購入後のフィードバックに至るショッピングの全行程で、多くの消費者が m コマー

スを好ましい手段として選ぶようになると私たちは予想しています。

中国人消費者の間では、インターネット上でのブランドやメーカーとのやり取りや消費者同

士のやり取りが活発であることも判明しました。このような背景のもとで最前線に躍り出たの

がデジタルメディアです。中国で事業を展開する企業は、mコマースの影響力の広がりを受け入

れ、消費者の全体的なショッピング体験を高めるための戦略を慎重に練る必要があります。

図 1.3: モバイルの進化

中国の消費者がモバイル時代に突入したことは間違いありません。工業情報化部(MIIT)のデ

ータによれば、2015 年末の時点で中国のモバイルユーザーはのべ 13 億人を超えており、その

29.6%が 4G ネットワークを使用しています。3さらに、2015 年のスマートフォン販売台数は前

年を 17.7%上回り、4億 5,700万台に達しました。4

市場調査会社 eMarketerは、2015年の eコマース売上高の 50%近くを mコマースが占めてい

ると推定しています。52016年の mコマース小売売上高は前年より 51.4%増加し、国内の eコマ

ース小売売上高の 55.5%を占めると推定されます。2019 年には国内モバイルユーザーが、m コ

2 「中国経済、2015年も緩やかながら安定して順調に成長(China’s Economy Realized a Moderate but Stable and Sound

Growth in 2015)」中国国家統計局 2016年 1月 19日

http://www.stats.gov.cn/english/PressRelease/201601/t20160119_1306072.html 3 「2015年通信産業活動報告書(2015 operations report for the telecommunication industry)」MIIT 2016年 1月 21

日 http://www.miit.gov.cn/n1146312/n1146904/n1648372/c4620679/content.html 4 「通信サービス品質に関する工業情報化部の公示(Notice of the Ministry of Industry and Information Technology

on the Quality of Telecommunications Services)(2016年第 1号)MIIT 2016年 1月 28日

http://www.miit.gov.cn/n1146285/n1146352/n3054355/n3057709/n3057719/c4625586/content.html 5 「中国では Eコマースが Mコマースに変化(Ecommerce Turns into Mcommerce in China)」eMarketer 2016年 3月 23日

http://www.emarketer.com/Article/Ecommerce-Turns- Mcommerce-China/1013736

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中国戦略

24 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

マースで約 1兆 5,000 億ドルを支出するようになるとみられます。

中国の mコマース小売売上高(2014~2019年)

2014 2015 2016 2017 2018 2019

mコマース小売売上高

(単位:10億ドル)

$180.40 $333.99 $505.74 $737.07 $1,039.84 $1,410.72

変動率 211.5% 85.1% 51.4% 45.7% 41.1% 35.7%

eコマース小売売上高に占める

割合

38.1% 49.7% 55.5% 61.0% 66.3% 71.5%

小売総売上高に占める割合 4.7% 7.9% 10.9% 14.5% 19.0% 24.0%

出所: eMarketer

注: 為替レート 1ドル=6.15人民元で換算。決済とフルフィルメントの方式を問わず、モバイルデバイス経由

でインターネットを使用して注文した製品・サービスを含む。タブレットによる売上を含む。旅行とイベントチ

ケットは除く。香港は除く。

図 1.4: 中国人消費者のオンラインショッピングで人気のある商品

中国の消費者が昨年

オンラインで購入し

た人気商品トップ 3

は 、 食 品 ・ 雑 貨

(56.7%)、婦人服

(56.7%)、エレクト

ロニクス/コンピュ

ー タ / 周 辺 機 器

(51.2%)。向こう 12

カ月も同様に、これら

3 つのカテゴリーがシ

ョッピングリストの

トップを飾ることが

予想される。

特に目立つのは、中国

の消費者が来年、さら

に多様な商品の購入

を計画していること

である。紳士服、書籍・

音楽、家庭用品・家電、

婦人靴、紳士靴、通信・

電話、家具・室内装飾

品、スポーツ用品/用

具を購入する買い物

客が増えることが期

待される。

過去 12 カ月間

今後 12 カ月間 食品・雑貨

婦人服

エレクトロニクス/コン

ピュータ/周辺機器

紳士服

書籍・音楽

化粧品・スキンケア

アクセサリー

家庭用品・家電

婦人靴

紳士靴

バッグ・革製品

通信・電話

家具・室内装飾品

子供服

スポーツ用品/用具

出所: KPMG の調査分析(2016 年)

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中国戦略

25 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

この調査について

KPMGインターナショナルは、イントゥイット・リサーチに委託し、現在および将来のオンライ

ンショッピング行動と嗜好について、全世界の消費者を対象としたオンライン調査を実施しまし

た。合計 1万 8,340件の有効な調査回答が集まりました。

回答者は 56 カ国以上に居住しています。また、各回答者は過去 1 年間にオンラインで少なく

とも 1回、消費者製品を購入しています。

全世界の調査回答のうち 2,560件が中国です。このレポートでは、これらの回答者のみの結果

を分析しています。

この調査では、回答者のオンラインショッピングでの行動と意思決定プロセスを検証すると同

時に、将来のオンライン購入計画、好んで使う決済方法、購入先企業に対する姿勢に影響を及ぼ

す要因も併せて検討しました。

厚谷 禎一 KPMG Advisory (China) Limited ディレクター

東京工業大学理学部卒業・同大学理工学部修士課程修了(情報科学専攻)

米国ペンシルバニア大学ウォートン校経営学修士(財務専攻)

これまで 20 年以上にわたり、日本、米国、カナダ、英国、韓国にて経営コンサル

ティング会社及び会計事務所に勤務、各国企業顧客に戦略・M&A・オペレーション

等の分野でのアドバイザリー・サービスを提供。

2003年より KPMG LLP(米国)ニューヨーク事務所に勤務、主に日本企業顧客に対

して事業デュー・ディリジェンスを中心とした M&A支援サービスを提供。

2008 年より現職、KPMG 中国の上海事務所にて同じく日本企業顧客に対して M&A

支援サービスを提供。

専門は市場評価、事業計画の精査、M&A 実施後の統合支援等を含む事業デュー・

ディリジェンスだが、日本企業顧客に対しては広く、財務・税務デュー・ディリジ

ェンス、企業価値評価、不正調査、リストラクチャリング支援等を含む、M&A支援

サービス全般のプロジェクト・マネジメント・サービスを提供する。

+86 10 8508 7111

[email protected]

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法務

26 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

2016 年の中国独占禁止法の 関連実務動向に関するまとめ

1. はじめに

本誌 2016 年 1 月号では、「2015 年の中国独占禁止法の関連実務動向に関するまとめ」(以下、

「前稿」といいます)を寄稿しました。2016年は、中国の独占禁止法(以下、「独禁法」といい

ます)の立法・法執行にとって、引き続き目の離せない 1年となりました。本稿を通じて、2016

年の中国独占禁止法の関連実務動向を概観します。

2. 法令制定動向

まずは、独禁法関連の立法動向からみていきます。前稿では、国家発展改革委員会(以下、

「NDRC」といいます)を中心に 6 つのガイドラインの制定が同時に行われており、その動向が

2016年に注目されると述べました。

2016年において、6 つのガイドラインは、まだ正式に公布・施行される段階に至っていません

が、そのすべてが途中公開され、パブリックコメント募集が行われました。以下では、パブリッ

クコメント募集稿段階において、この 6 つのガイドラインで注目されたポイントをピックアッ

プします。

(1) 「知的財産権の濫用に関連する独占禁止のガイドライン」(以下、「知的財産権独占禁止

ガイドライン」といいます)

知的財産権独占禁止ガイドラインは、NDRC 及び国家工商行政管理総局(以下、「SAIC」とい

います)がそれぞれ制定作業を進めており、それぞれ 2015 年 12 月 31 日及び 2016 年 2 月 4 日

にパブリックコメント募集稿を公開しています1。

両募集稿はともに、知的財産権の行使に関して、規制当局は、知的財産権に関連する契約のカ

ルテルへの該当性、知的財産権の行使の市場支配的地位の濫用への該当性、知的財産権に関わる

事業者結合といった側面から内容を定めています。そのうち、知的財産権分野に特有の契約内

容、例えば、競争者間の共同開発や特許に関わる共同経営、又はライセンス関係に基づく制約条

件が一定の要件に該当する場合にはカルテルを構成しうるとしている点は、これまで中国独禁

法関連法令には明確に定められていない事項であり、知的財産権分野に大きな影響を及ぼす可

能性があります。

なお、SAICは、2015年 8月 1日から「知的財産権の濫用による競争の排除・制限行為の禁止

に関する規定」2を施行していますが、同局によると、当該規定は、知的財産権独占禁止ガイド

ラインの一部を先行施行したものとのことです。

1 http://www.sdpc.gov.cn/fzgggz/jgjdyfld/fjgld/201512/t20151231_770234.html

http://www.saic.gov.cn/zwgk/zyfb/qt/fld/201602/t20160204_166506.html 2 2015年 4月 7日公布、同年 8月 1日施行。

金杜法律事務所 上海事務所

パートナー中国弁護士 陳青東

E-mail:[email protected]

URL:http://www.kwm.com

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法務

27 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

(2) 「自動車産業に関する独占禁止ガイドライン」3(以下、「自動車独占禁止ガイドライン」

といいます)

自動車独占禁止ガイドラインのパブリックコメント募集稿は、2016 年 3 月 23 日に NDRC によ

って公開されています。同稿では、垂直的独占カルテルについて、新エネルギー車の販売や、メ

ーカーが価格を決定し販売店を通じた特定のクライアントに対する販売等の特定のケースにつ

いて、個別案件分析の原則のもと、カルテルの除外規定を定める独禁法 15条に該当する可能性

があることを強調しています。また、現行独禁法によって明確に垂直的独占カルテルと定められ

ている再販売価格の固定及び再販売の最低価格の限定に限らず、自動車産業のサプライチェー

ンにおいて、競争を著しく制限する可能性のある地域又は顧客の制限、合理性に欠けるアフター

サービス関連の制限に当たるケースに関しても、垂直的カルテルに該当する可能性があること

に言及しています。

(3) 「水平的カルテル事件のリニエンシー制度適用ガイドライン」4(以下、「リニエンシー適

用ガイドライン」といいます)

リニエンシー適用ガイドラインのパブリックコメント募集稿は、2016 年 2 月 3 日に公開され

ました。同稿の内容を見ると、当該ガイドラインは、水平的カルテル事件において、リニエンシ

ー制度の適用を申請する事業者の申請手続、提出書類、適用を受ける条件、及び法執行機関の審

査、認定に関する規定であり、これによってリニエンシー制度の運用プロセスの明確化を図って

います。

(4) 「独占禁止事件事業者承諾ガイドライン」5(以下、「事業者承諾ガイドライン」といいま

す)

事業者承諾ガイドラインのパブリックコメント募集稿は、2016年 2月 3日に公開されました。

同ガイドラインは、独禁法 45条の事業者による承諾に基づく調査中止、調査終了の手続をより

明確化、詳細化するガイドラインとなります。

(5) 「カルテルの適用除外に係る一般的な条件及び手続に関するガイドライン」6(以下、「カ

ルテル適用除外ガイドライン」といいます)

2016 年 5 月 12 日、NDRC は、カルテル適用除外ガイドラインのパブリックコメント募集稿を

公開しました。

独禁法 15条では、技術進歩及び新製品の研究開発目的等、独禁法の適用除外となる事由を定

めています。独禁法適用除外に関して、主張する事業者が該当性を立証する必要がありますが、

これまで、適用免除申請にかかる手続を明確にした規定はありませんでした。

カルテル適用除外ガイドラインは、適用除外申請にかかる手続に関する規定となります。

公開されたパブリックコメント募集稿の内容によると、適用除外の申請は、当局の調査開始

後、処分決定前に行う必要があり、申請する事業者が適用除外への該当性を証明し、当局が、①

適用除外事由に該当するか、②カルテルが関連市場の競争を著しく制限するか、③消費者がカル

テルによってもたらされる利益を享受できるか等といった要素を総合的に考慮するとされてい

ます。

3 http://jjs.ndrc.gov.cn/fjgld/201603/t20160323_795740.html 4 http://www.sdpc.gov.cn/fzgggz/jgjdyfld/fjgld/201602/t20160203_774288.html 5 http://www.sdpc.gov.cn/fzgggz/jgjdyfld/fjgld/201602/t20160203_774289.html 6 http://www.sdpc.gov.cn/fzgggz/jgjdyfld/fjgld/201605/t20160512_801560.html

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法務

28 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

(6) 「事業者の独占行為による違法所得の認定及び過料の確定に関するガイドライン」7(以下、

「違法所得及び過料に関するガイドライン」といいます)

2016 年 6 月 17 日、NDRC は、違法所得及び過料に関するガイドラインのパブリックコメント

募集稿を公布し、パブリックコメントの募集を行いました。独禁法 46条及び 47条は、カルテル

及び市場支配的地位の濫用に関する法的責任を規定していますが、「違法所得の没収」及び「過

料」という 2 つの経済的処罰について具体的な計算方法は明確にされていないため、当局によ

る法執行及び事業者による法執行基準への理解に一定の困難を与えていることが指摘されてい

ます。

このため、同稿は、違法所得の認定にあたって主要な考慮要素、違法所得の詳細な計算方法、

過料の確定にあたって主な考慮要素及び 3段階のプロセス等を詳細に定めています。

上記の 6つのガイドラインの制定は、国務院独占禁止委員会の計画に基づくものであり、その

すべてがパブリックコメントの募集の段階を終えていることになります。2017 年は、これらの

ガイドラインの公布・施行が注目されます。

3. 法執行動向

(1) 価格独占

2016 年 3 月 4 日、NDRC が公表した 2016 年の独占禁止法執行の重点産業分野によると、商品

分野では医薬品、医療機器、自動車及び自動車部品、工業原材料等、サービス分野では海上輸送

(特に定期船)、電気通信及び金融等の分野、さらに、知的財産権に関する分野も法執行の重点

とするとしています。また、NDRC は、独禁法違反事件に関する情報収集についても、これまで

のメディア報道等に加え、消費者と事業者による告発の強化、独占禁止研究機構及び法律事務所

による公開情報の利用、国外の最新事例の収集、国外事件台帳の確立といった新たな調査・摘発

ルートを打ち出しています。それゆえ、今後、これらの産業分野における価格に関する独占行為

について引き続き注意を払う必要があります。

また、情報技術の発展に伴い、NDRC はアフターサービス市場、オンラインプラットフォーム

市場等の新興の経済領域について関心を払っており、競争者間の情報交換、特に、間接的に情報

交換することでカルテルを形成するような複雑かつ密室型の独占行為に対する調査、分析を強

化しています。

(2) 非価格独占

SAICは、2016年 4月 8日に、「公用企業による競争制限及び独占行為の突出した問題に関す

る公告」8を公布し、給水、給電、ガス供給、公共交通機関、出棺と埋葬等の業界において、強

制取引、料金の不当徴収、商品の抱き合せ販売、不合理な取引条件の付加等の競争制限及び独占

行為が非常に突出していることを背景に、同年 4月から 10月にかけて、全国の範囲内において

公用企業による競争制限及び独占行為に対する特別法執行行動を展開することを決定しました。

その後、四川省、甘粛省、湖南省、湖北省、江蘇省及び海南省等各地の工商行政管理部門は、当

該分野の法執行に重きを置き、同公告に定める要求を貫徹し、不正競争防止及び独占禁止の法執

行を強化しました。

7 http://www.sdpc.gov.cn/fzgggz/jgjdyfld/fjgld/201606/t20160617_807550.html 8 http://www.saic.gov.cn/zwgk/zyfb/zjwj/fld/201604/t20160408_167829.html

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法務

29 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

SAIC が公開した情報によると、各地の工商部門は、上記特別法執行活動を行うほか、市民生

活に直結する業界を法執行の重点分野として各種のカルテル及び市場支配的地位の濫用行為を

取締まっています。2016 年下半期において、工商部門は、引き続き上記特別法執行行動を展開

し、公用企業に存在する問題の整理改革を推進し、市民生活に直結する業界分野における競争制

限・排除行為を積極的に取締り、地域分割・業界独占を打破し、新興業界及び分野における独占

及び不正競争問題への研究も強化することを示しました。

(3) 事業者結合

中国独禁法とその関連法令は、一定の基準を満たす企業が合併をはじめとする事業者結合を

行うときは、たとえそれが中国国外で実行されるものであっても、あらかじめ中国の中央官庁た

る商務部に申告し、その審査を受けなければならないものと定め、申告を怠ると行政罰の対象に

なります。2016年 12月現在、商務部はその公式サイトにおいて計 8件の処罰例を公表していま

すが、同年 5 月 4 日に公表された 3 件のうちの 1 件は日系企業が対象となったケースであり、

日本企業にとって無視しえない問題領域となっています。

2014年 12月以降、事業者結合申告懈怠処罰事件が次々と公表された事実は、商務部の取締強

化の姿勢を示すもので、今後も同種事件の処罰事例が増加し、上限である 50万元の課徴金が課

されるようなケースも現れると予想されます。また、結合取引の停止、取引の原状回復が命じら

れるケースが出現するか否か、この点も今後の関心の的となります。

4. 法執行注目事例

近時、独占禁止法の法執行について明らかになった事件の中で、とりわけ注目された事例につ

いて、次のようなものが挙げられます。

(1) エスタゾラム原薬及び錠剤関連 3社による水平的価格カルテル事件

NDRCが公開した処罰決定の内容によると、同事件に関わった 3社の製薬企業は、会議、面会、

電話、ショートメッセージ、メール等の方法により、エスタゾラム原薬及び錠剤市場において、

それぞれ共同取引拒絶、商品価格の固定又は変更に関するカルテルに合意し、実行しました。

2014年 9月から 10月までの間に、3社の製薬企業は、①各社がそれぞれ生産したエスタゾラム

原薬を自社の錠剤生産のみに使用し、他社向けの販売はしないこと、②エスタゾラム錠剤の集団

的値上げについて共通認識に達しました。同年 10 月以降、3 社は相次いでエスタゾラム原薬の

対外供給を断ち切り、各自生産した原薬を自社のみに使用するようにしました。さらに、同年 12

月以降、3社は販売するエスタゾラム錠剤の価格を大幅に値上げし、値上げ時期も一致していま

した。

NDRCは、3 社が上記カルテルを実施することにより、エスタゾラム錠剤の供給量を減少させる

とともに価格を引き上げ、関連市場の競争を著しく排除、制限し、かつ消費者の利益を損なった

と認定しました。

この事件で注目すべき点は、カルテル参加者とされた 1社は、会議で他社が提案した取引共同

拒絶及び値上げについて明確に同意又は反対を表明しませんでしたが、依然としてカルテルの

形成、実施において追随者に該当し、共同取引拒絶及び価格に関するカルテルを実施したと認定

されたことです。

同事件は、中国独禁法の法執行機関が、事業者がカルテルに含まれる独禁法 13条 2項に定め

る「その他協同行為」を形成、実施したと認定し、かつ処罰を行った初めての事例になります。

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法務

30 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

NDRC が公布した「価格独占禁止規定」及び SAIC による「カルテル行為禁止に関する工商行政管理

機関の規定」によると、事業者の行為が「その他協同行為」を構成するかどうかの判断要素につい

て、関連市場行為が一致性を有するか、何らかの公式又は非公式な意思連絡又は情報交換を行っ

たか否か、関連市場の構造及び変化、及び事業者が一致した行動についてその他合理的な解釈を

行えるか等の要素を考慮するとしています。同事件は、NDRC が上記の要素と証拠を総合的に考

慮し、協同行為の認定基準が改めて示された事件といえます。

(2) テトラパックによる市場支配的地位の濫用に対する摘発事例

SAICは、2016年 11月 16日、液体食品用紙容器の開発・製造を手掛けるテトラパックが市場

支配的地位を濫用し競争を排除・制限する独占行為を行ったとして、違法行為の停止のほか、

2011 年度の中国市場における売上高の 7%、計 6.677 億人民元(約 105 億円)の制裁金支払を

同社に命じたことを発表しました。

SAICによる 2012年 1月の立件から 4年にもわたる全面的な調査の結果によると、テトラパッ

クは 2009~2013年の間、中国大陸で液体食品用無菌紙包装設備、無菌紙包装設備の技術サービ

ス、無菌紙包装材料の 3市場で支配的地位を利用し、正当な理由がないにもかかわらず、抱き合

わせ販売、取引制限及び忠実度リベートを実施したとのことです。同事件の処罰に関しては、以

下の点で注目を集めました。

1) 処罰主体

SAICは、テトラパックグループの 6つの実体(すなわち、テトラパック国際股份有限公司(テ

トラパック経営本部)、テトラパック中国有限公司(テトラパック大中華区経営本部)、テトラ

パック包装(昆山)有限公司、テトラパック包装(北京)有限公司、テトラパック包装(佛山)

有限公司及びテトラパック包装(フフホト)有限公司)を統一的に事件の当事者であると認定し

ました。その上で、これらの統一的な実体が市場支配的地位にあり、濫用行為を行ったと認定し、

全体に対して処罰を課しました。

中国の独占禁止法には、「単一経済体」という概念は存在せず、また、欧州共同体等の法域の

ように「単一経済体」原則の適用のために考慮する要素も明確に規定されていません。もっとも、

法執行の実務からすると、「単一経済体」という概念は、一定程度法執行機関には認識されてい

たようです。例えば、2016 年 1 月に公表されたアロプリノール錠剤関連 5 社による水平的価格

カルテル事件において、NDRCは、そのうちの 2 社を「共同行為者」と認定したことがあります。

「単一共同体」原則がどのような状況下で適用されるか、どのような要素を考慮するべきか、今

後の執行動向が注目されます。

2) 市場支配的地位の認定

SAIC は、テトラパックが上記の 3 市場において市場支配的地位にあることを認定する際、主

に以下の要素を考慮していました。

① テトラパックの市場シェア、及びテトラパックの売上総利益、収益力等の方面から表れ

る市場の競争優位性を含む市場の競争状況

② テトラパックの価格、リベート及びその他の取引条件をコントロールする能力を含む市

場支配力

③ 他の事業者(特に使用者)のテトラパックへの依存度

④ 他の事業者の関連市場への参入の難易度

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法務

31 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

SAIC は、テトラパックのミドルエンド及びローエンドの設備並びに包装材市場における市場

シェアが近年落ちてきていることを究明しましたが、依然として市場支配的地位にあると認定

しました。ここでは、SAIC は、主にテトラパックの利益率と収益力が近年上昇し続けている事

実を根拠に、これらの事実は、関連市場における競争でテトラパックの価格決定力及び製品競争

力が弱体化しておらず、競争者が未だにテトラパックに対して明らかに競争的な拘束力を有し

ていないことを反映したと認定しました。これは、コンプライアンス審査の過程において、市場

シェアのみに基づいてマーケットパワーを判断することは、不十分であることが示されました。

また、テトラパックの市場支配力を分析する際に、SAIC は、テトラパックの 3 種類の濫用行

為を考慮し、テトラパックが不合理な取引条件及び複雑なリベートを附加することができるこ

とは、まさにテトラパックの市場への一種の支配力の反映だと考えています。この観点は、「奇

虎 360VS.腾讯」の事件において最高人民法院により提出されたこともあります。すなわち、競

争を排除、制限することの直接の証拠を踏まえて、事業者の市場地位を評価することができると

いうものです。このような分析的視点は、関連市場の画定が難しい状況下において、特に意義を

有する可能性があります。目下、市場支配的地位の濫用事件の件数は比較的少ないのですが、法

執行機関は、今後、市場を画定せず、直接的に行為及び競争への影響を踏まえて企業のマーケッ

トパワーの評価を行うか否か、それとも、上記分析視点をあくまでマーケットパワーの認定のた

めの補助的な道具とするのか否か、いずれにせよ、今後の実務の動向が注目されます。

3) 市場支配的地位の濫用の認定

同社は、以下の行為により市場支配的地位の濫用行為が認められました。

① 正当な理由がないにもかかわらず、設備市場と技術サービス市場の支配的地位を利用し、

設備と技術サービスの提供過程において、包装材の抱き合わせ販売を実施したこと

② 正当な理由がないにもかかわらず、包装材市場での市場支配的地位を利用し、原料紙サ

プライヤーと競争者との提携や原料紙サプライヤーによる関連技術情報の利用を制限し、

原料紙サプライヤーによる競争者への原料紙供給を妨害したこと

③ 包装材市場の支配的地位を利用し、累計販売量や個別の目標調達量に応じた遡及的な累

計販売量リベート及び個別の購入量目標リベート等、競争を排除制限する忠実度リベー

トを実施し、包装材市場の公平な競争を妨げたこと

同事件は、近時最も重要な独占禁止法事件の 1つであるといえ、同事件に費やされた時間も長

く、事件自体も複雑で関連する法律問題も非常に多いものです。47 頁にも及ぶ処罰決定書にお

いて、SAICは、専門技術、経済学、法律等の多角的な観点から事件の研究、論証を行い、法執行

機関の事件に対する慎重かつ真剣な態度が表れています。特に、SAIC は、同事件において初め

て忠誠度リベートが引き起こしうる濫用問題を独禁法 17条 7項に定める「国務院独占禁止法執

行機関が認定するその他の市場支配的地位の濫用行為」と認定し、規制しており、独占禁止の法

執行において重要な理論上及び実務上の意義がある事件であり、企業のコンプライアンスにと

っても指導的な価値を有するものといえます。

5. おわりに

本稿では、2016 年にあった主な独占行為への摘発、及び重要な法令制定の動向をレビューし

ました。2017 年の独禁法執行の業務方針について、各法執行部門は現時点ではっきりとした情

報を公開していないようですが、依然として 2016年同様に取締の厳しさは維持されると予想さ

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法務

32 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

れます。特に、今までの取締対象のほかに、情報技術の発展に伴うアフターサービス市場やオン

ラインプラットフォーム市場等の新興の経済領域や市民生活に直結する業界等は重点対象とな

ると思われます。また、今まで事実上取締が行われていなかった複雑かつ密室型の独占行為につ

いても、「その他協同行為」や「その他の市場支配的地位の濫用行為」に該当すると認定され、

独占禁止行為として処罰対象となっている事件が出ているため、今後も引き続き、実務の動向に

注目する必要があります。法令制定の動向については、現在 NDRCを中心に独禁法関連で 6つの

ガイドラインが制定中であり、そのすべてがパブリックコメントの募集の段階を終えたことに

なります。2017年はこれらのガイドラインの公布・施行が注目されます。このように、2017年

も依然として、独禁法関連における法令制定の活発な動きが期待されます。

陳青東 金杜法律事務所 上海事務所 パートナー中国弁護士

華東政法大学経済法学部卒業、日本・京都大学大学院法学研究科公法修士。

1991 年中国弁護士登録、1999 年中国証券弁護士登録。1990 年浙江省対外経済法律事

務所、1994 年大水綜合法律事務所、1998 年上海市上正法律事務所、2001 年から上海市

通力法律事務所パートナー弁護士。2006年 7月に金杜法律事務所パートナー弁護士。

得意分野は、外商投資、外商投資企業の各種リストラ、M&A、金融法務、株式公開支援

業務、海事事件等。

上海交通大学法学研究科指導教官、上海市法学会民商法、国際法研究会幹事、中国海

商法協会会員。

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税務会計

33 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

増値税の会計処理

1. 増値税会計処理規定

中国財政部は 2016年 12月 3日付で「増値税会計処理規定」(財会[2016]22号、新規定)を制

定しました。この新規定は 2016年 5月 1日から実施された営業税を増値税に全面的に改正する

営改増実験改革に従って、営改増後の増値税の会計処理を見直したものです。2012 年に制定さ

れた「営業税の増値税改正実験に関連する企業会計処理規定」(財会[2012]13号、旧規定)は

廃止されて、新規定が 2016年 12月 3日以降の増値税取引に適用されます。

なお、2016年 7月に発表された公開草案では営改増の全面改正が実施された 2016年 5月 1日

に遡及してすべての増値税取引に適用するとしていましたが、新規定では、2016 年 5 月 1 日か

ら 12月 2日までの増値税取引については、貸借対照表上の資産と負債に影響を与えるものにつ

いてのみ遡及適用されます。

中国の貸借対照表の負債の部には、「未納税金費用」(会計コード 2221)科目があり、未納税

金費用科目では、未納の増値税、消費税、所得税、資源税、土地増値税、都市擁護建設税、房産

税、土地使用税、車両船舶税、教育費附加等の税金の会計処理が取り扱われています。

今回の新規定はこのうちの未納増値税に関係する部分の改正です。今回の改正では営業税が

実質的に廃止されたことから、従来の損益計算書で売上高(主要営業収入)の次に表示されてい

た「営業税金及び付加」科目は、「税金及び付加」に改称されました。

この「税金及び付加」科目には消費税、都市擁護建設税、資源税、教育費附加と房産税、土地

使用税、車両船舶使用税、印紙税等の税金が含まれますが、従来「管理費用」に計上されていた

房産税、土地使用税、車両船舶使用税、印紙税等は「税金及び付加」科目に計上されます。

2. 未納税金費用と未納増値税の内訳明細

新規定では、未納税金費用の増値税関連の明細科目として、下記の科目が設定されました。

明細科目 中文(日本漢字使用)

未納増値税 応交増値税

未払増値税 未交増値税

予納増値税 予交増値税

控除待ち仕入税額 待控除進項税額

認証待ち仕入税額 待認証進項税額

近藤公認会計士事務所

公認会計士 近藤 義雄

[email protected]

http://kondo.la.coocan.jp/

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税務会計

34 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

振替待ち売上税額 待転銷項税額

増値税控除留保税額 増値税留抵税額

簡易税額計算 簡易計税

金融商品譲渡未納増値税 転譲金融商品応交増値税

代理控除代理納付増値税 代控代交増値税

また、未納増値税については、その補助簿で下記のような特定項目欄(中文で専用欄)を設定

することとされています。この特定項目欄は上述した明細科目と同じような役割を果たしてい

ます。参考に新旧両規定の未納税金費用の内訳明細を比較すれば、次のとおりです。

旧規定の未納税金費用科目 新規定の未納税金費用科目

明細科目 特定項目 明細科目 特定項目

未納増値税 仕入税額 未納増値税 仕入税額

営改増控除売上税額 売上税額控除

納付済税金 納付済税金

- 未払増値税振替

減免税額 減免税額

- 輸出控除国内販売

製品納付税額

売上税額 売上税額

輸出税金還付 輸出税金還付

仕入税額振替 仕入税額振替

- 過大納付増値税振

- 未払増値税

- 予納増値税

- 控除待ち仕入税額

- 認証待ち仕入税額

- 振替待ち売上税額

増値税控除留保

税額

増値税控除留保税額

- 簡易税額計算

- 金融商品譲渡未納増値税

- 代理控除代理納付増値税

これらの明細科目と特定項目の変更は、中国増値税の特徴と営改増の全面改正によるものが

ほとんどですが、従来の科目設定をさらに詳細にしたものもあります。次に、これらの明細科目

と特定項目について新規定の会計仕訳を例示してその内容を紹介します。

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税務会計

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2017年1月号

3. 購入と販売の会計処理

(1) 購入時の増値税専用発票等の未取得の会計処理

中国増値税の特徴は、日本の消費税とは異なりインボイス方式が採用されているため、偽のイ

ンボイス(増値税専用発票等)を使用した脱税、税金還付等を防止するための増値税発票管理シ

ステムが運用されていることであり、かなり厳格な増値税専用発票の発行と取得と認証の手続

が採用されています。

中国では、増値税の売上税から仕入税を控除するためには増値税専用発票等の仕入税額控除

証憑の取得と税務機関による認証手続が必須とされています。新規定では、税額控除証憑を取得

していない場合の会計処理について、次のように規定しています。

一般納税者が購入した貨物等がすでに到着しかつ検収入庫したが、増値税税額控除証憑をま

だ受け取っておらずかつまだ支払っていない場合は、月末において貨物リストまたは関係する

契約書・協議書上の価格で暫定的にみなし記帳し、増値税の仕入税額は暫定的にみなし記帳する

必要はない。翌月の月初に、赤字を用いて旧暫定みなし記帳金額を相殺し、関係の増値税税額控

除証憑の取得を待ちかつ認証を受けた後に、関係原価費用または資産に計上すべき金額で、「原

材料」、「在庫商品」、「固定資産」、「無形資産」等の科目を借方記帳し、控除可能な増値税額で、

「未納税金費用-未納増値税(仕入税額)」科目を借方記帳し、支払うべき金額で、「買掛金」等

の科目を貸方記帳する。

例えば、一般納税者が原材料を購入して検収入庫したが、代金を支払っておらず増値税専用発

票も取得していない場合には、次のような会計仕訳を行います。

① 月末時の会計処理

(借方) 原材料 (貸方)買掛金

② 翌月の月初の会計処理

(借方) 買掛金 (貸方)原材料

③ 増値税専用発票の取得と税務機関による認証後の会計処理

(借方) 原材料 (貸方)銀行預金

未納税金費用-未納増値税(仕入税額)

上記の会計仕訳は、月末に検収入庫した原材料を暫定的にみなし計上しますが、翌月の月初に

は反対仕訳を起こしてこれを取り消し、増値税専用発票の取得と税務機関による認証を受けた

後に、正式に原材料の計上と仕入税額控除を認めるというかなり厳格な会計処理を示していま

す。

2016 年 7 月に発表された公開草案では、次のような会計仕訳が示されていましたが、このよ

うな会計処理は最終的に取り消されて「未納税金費用-認証待ち仕入税額」は使用しないことに

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税務会計

36 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

なり、旧規定の会計処理と同様の会計仕訳となりました。

① 月末時の会計処理

(借方) 原材料 (貸方)買掛金

未納税金費用-認証待ち仕入税額

② 増値税専用発票の取得と税務機関による認証後の会計処理

(借方) 未納税金費用-未納増値税(仕入税額)(貸方)未納税金費用-認証待ち仕入税額

(2) 購入時の「認証待ち仕入税額」

① 認証待ちの仕入税額

新規定では、未納増値税科目に増値税専用発票を取得した後の認証待ちの「認証待ちの仕入税

額」が明細科目で表示されるようになりました。

例えば、一般納税者が当月に商品を購入して代金を支払って増値税専用発票を取得したが、そ

の一部は税務機関による照合審査を終えたが、他の一部は認証が終わっていない場合には、次の

ような会計仕訳になります。

(借方) 在庫商品 (貸方) 銀行預金

未納税金費用-未納増値税(仕入税額)

未納税金費用-認証待ち仕入税額

上記の会計仕訳は、企業が商品を購入して検収が完了し在庫商品を認識して、購入代金を支払

って取得した増値税専用発票の一部は税務機関の認証を受けて当月に仕入税額控除を行い、認

証待ちの仕入税額についてはまだ仕入税額控除を実施していないことを示しています。

② 返品が行われた場合

仮に、上記の取引に関連してその後に返品が行われた場合には、返品がいつ行われたかによっ

て税務処理の取扱いが異なります。例えば、購入時の増値税専用発票の認証が行われる前に返品

が行われた場合にはその増値税専用発票を返却して反対の会計処理が行われます。

税務機関の認証が行われた後に返品が行われた場合には税務機関が発行した赤字増値税専用

発票に基づいて反対仕訳が行われます。例えば、認証済みと認証待ちが別々の増値税専用発票で

あり返品が預金で決済されたとしたならば、反対仕訳は次のように会計処理されます。

(借方) 銀行預金 (貸方) 在庫商品

未納税金費用-未納増値税(仕入税額)

未納税金費用-認証待ち仕入税額

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37 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

③ 税務機関による認証が行われた場合

仮に、認証待ち仕入税額が翌月に税務機関に認証されて仕入税額が認められる場合には、下記

の会計仕訳となります。未納増値税(仕入税額)が借方計上されることは、仕入税額控除ができ

るという意味になります。

(借方) 未納税金費用-未納増値税(仕入税額)

(貸方) 未納税金費用-認証待ち仕入税額

④ 仕入税額控除ができなくなった場合

仮に、上記の認証待ち仕入税額の対象となった商品を従業員の福利厚生に使用したとすれば、

その認証待ちの仕入税額は仕入税額控除ができませんので、税務機関の認証を受けた時に、次の

ような会計仕訳を行います。

(借方) 管理費用 (貸方)在庫商品

未納税金費用-未納増値税(仕入税額振替)

上記の会計仕訳は、福利厚生費に使用された商品とその仕入増値税が費用として会計処理さ

れたことを示しています。未納税金費用の明細科目としては「認証待ち仕入税額」と「未納増値

税(仕入税額振替)」が両建てで表示されます。未納税金費用(仕入税額振替)科目を貸方計上

することは、その仕入税額を原価費用に計上して企業が負担することを意味しています。

(3) 不動産取得時の「控除待ち仕入税額」

2016 年 5 月 1 日の営改増の全面改正では、不動産の販売が増値税の課税対象となり不動産の

仕入税額控除が認められました。増値税の一般納税者が 2016年 5月 1日以後に取得した不動産

については売上税から仕入税を控除する税額控除が認められる一般税額計算が適用されます。

2016 年 4 月 30 日以前に取得した不動産については仕入税額控除が認められない簡易税額計算

が適用されます。

不動産の仕入税額控除については、一般納税者が不動産を取得して固定資産として会計処理

した場合または不動産未成工事を支出した場合には、その仕入税額を 2 年間に分割して初年度

に 60%、第 2年度に 40%の控除割合で仕入税額控除しなければなりません。

例えば、一般納税者が 2016年 5月 1日以後に不動産を取得して固定資産として会計処理した

場合には、その仕入税額は 2 年間で税額控除しますので、初年度には次のような会計仕訳を行

います。

(借方) 固定資産 (貸方) 銀行預金

未納税金費用-未納増値税(仕入税額)

未納税金費用-控除待ち仕入税額

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税務会計

38 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

上記の会計仕訳は、固定資産を計上するとともに初年度分の仕入税額(60%相当)を税額控除

し、翌年度に税額控除する仕入税額(40%相当)を「控除待ち仕入税額」として認識しているこ

とを示しています。この「控除待ち仕入税額」は翌年度に次のとおり「未納増値税(仕入税額)」

に振り替えられます。

(借方) 未納税金費用-未納増値税(仕入税額)

(貸方) 未納税金費用-控除待ち仕入税額

(4) 販売の会計処理

① 販売取引

企業が、貨物、加工修理整備役務、サービス、無形資産または不動産を販売した場合、例えば、

企業が貨物を掛売した場合には次のような会計仕訳を行います。

(借方) 売掛金 (貸方) 主要営業収入

未納税金費用-未納増値税(売上税額)

この販売の会計処理は営改増の全面改正により新たにサービスの一部、無形資産、不動産の販

売が加わっただけで、基本的な会計処理は同じです。返品が発生した場合には、赤字増値税専用

発票に基づいて反対の会計仕訳が行われます。

② 売上計上が納税義務より早い場合

新規定では、販売取引に「未納税金費用-振替待ち売上税額」明細科目が新設されました。中

国の企業会計準則または企業会計制度に基づいて収入または利得(営業外損益)を認識する時点

が増値税の納税義務の発生より早い場合には次のような会計仕訳が行われます。

(借方) 売掛金 (貸方) 主要営業収入

未納税金費用-振替待ち売上税額

実際に増値税の納税義務が発生した時に、次のような会計仕訳が行われます。

(借方) 未納税金費用-振替待ち売上税額 (貸方) 未納税金費用-未納増値税(売上税額)

③ 納税義務が売上計上より早い場合

逆に、増値税の納税義務が企業会計上の収入または利得の認識時期より早い場合には、納税義

務が発生した時に次のような会計仕訳が行われます。

(借方) 売掛金 (貸方) 未納税金費用-未納増値税(売上税額)

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税務会計

39 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

企業会計上の収入または利得を認識すべき時に、次のような会計仕訳を行います。主要営業収

入は増値税の売上税額を含まない金額で計上します。

(借方) 売掛金 (貸方) 主要営業収入

近藤 義雄 近藤公認会計士事務所 所長 公認会計士

早稲田大学大学院商学研究科の修士課程を卒業後、監査法人に勤務して公認会計士として登録、

上場会社等の監査業務に 23年ほど従事した。1986 年から 2年ほど北京の国際会計事務所に日本

人初の駐在員として勤務し、日系企業に幅広いコンサルティング業務を提供。帰国後に「中国投

資の実務」(東洋経済新報社 1990年)を出版し、現在まで中国の投資、会計、税務分野の専門

書を 25冊ほど出版。2001年に近藤公認会計士事務所を開設して中国専門のコンサルティング業

務を提供している。

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人事労務

40 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

日系企業の福利厚生のトレンドと 重要性(2)

給与が年々上昇するなか、リテンション(人材の維持・確保)を目指すために、従業員に対す

る福利厚生制度の充実を図ることは有効だと考えられます。人事制度を構築する上で、評価、昇

給、教育研修等に並び、最適な福利厚生は従業員の帰属意識の醸成やモチベーション向上に寄与

します。

前号に続き、パソナが実施した 2015年度「現地社員の昇給賞与・福利厚生に関する調査」か

ら見えた実態をご紹介します。

通信手当については、「支給あり」が微増(75.1%から 79%)という結果となりました。会社

携帯を支給していないケースが意外と多いですが、今後コンプライアンスや個人情報流出等の

事故防止を考え、運営について見直す必要があると感じています。

▼通信手当 支給の有無

▼通信手当 支給金額

1~

50

51

100

101

150

151

200

201

250

251

300

301

400

401

500

501

系列1 8.1 47.7 8.4 18.1 2.0 10.5 2.0 2.0 1.2

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

保聖那人才服務(上海)有限公司

広州支店長 山内奨

[email protected]

(単位:RMB/月)

あり※携帯

電話支給

(SIMカー

ド支給含

む), 79%

なし,

21%

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人事労務

41 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

次に語学手当は、支給していない企業が年々増えています。2015 年度も「支給あり」と回答

した企業が 2014 年度より 4.3%減少しました。業務に必要な能力として語学力が求められるた

め、一定の水準は職務給として給与に含まれるよう整理されてきたことが背景にあります。よっ

て、業務に必要のない語学力を身に付けていても手当としては反映されていません。なお、支給

金額については、月額 500元以下が 70%以上を占めます。

▼語学手当 支給の有無

▼語学手当 支給金額

最後に、社員旅行は「あり」が 4%増加し、前年検討中の企業が正式に導入したことが見受け

られます。一人当たりの予算として、501~1000元が最も多い結果となりました。

▼社員旅行 実施の有無

(単位:RMB/月)

あり,

21%

なし,

79%

あり,

62%検討中,

12%

なし,

26%

1~

250

251

500

501

750

751

1000

1001

1500

1501

2000

2001

3000

3001

5000

5001

系列1 25.1 45.5 8.7% 14.0 2.7% 2.3% 1.3% 0.3% 0.1%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

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人事労務

42 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

▼社員旅行 一人当たりの予算

各種保険の導入

中国の社会保険制度は、養老保険、労災保険、医療保険、失業保険、出産保険の 5種類があり

ます。またこれ以外に、住宅積立金制度があります。これら 5 つの保険と住宅積立金について

は、各地方によって強制加入の有無が異なります。また、負担割合も異なるため、自社の社会保

険の納付基数が適正な数値になっているかどうか、各地域で毎年チェックする必要があります。

今年の初めには、新「中華人民共和国人口及び計画生育法」が発表され、出産保険と関連する

事項について変更がありました。その一つが、一組の夫婦で 2人の子どもを育てられるという、

一人っ子政策の廃止(出産調整の基本原則の変更)です。また、そのほかにも晩婚休暇の廃止な

どもあり、今年は社内の制度を見直す必要を感じている企業が多いのではないかと思います。さ

らに、広東省では 9月末に育休が 50日伸びたことが話題になっています。このような中国全土

にまつわる法改正や省ごとの条例を踏まえて就業規則の見直しを行うことが大切です。

このような法定内福利厚生に加え、自社で導入する保険のトレンドをご紹介します。これは例

えば、社員が体調を崩して病院へ行った際、社会保険に加入している場合は、一定額の個人負担

がありますが、さらに福利厚生として商業医療保険を従業員に付与している会社もあります。そ

の場合、個人の負担が一層軽減されるので、社員からは喜ばれます。このような商業医療保険の

補いを「あり」としている日系企業が 45.0%あります。また、負担額については「51~100元」

が 38.3%と最も多いです。

(単位:RMB/月)

1~

500

501

1000

1001

1500

1501

2000

2001

2500

2501

3000

3001

4000

4001

5000

5001

系列1 13.50 27.30 9% 12.50 4.60 11% 7.40 9.10 5.60

0.00%

5.00%

10.00%

15.00%

20.00%

25.00%

30.00%

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人事労務

43 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

▼商業医療保険の有無

▼商業医療保険の会社負担額

転職を考える中国人からは、日本人以上に必ずと言っていいほど、このような会社の福利厚生

制度について質問があがります。転職活動を通じて、内定を複数社獲得できる人材であれば、他

企業との条件比較を行う際に、企業の福利厚生の一環として、どのような保険制度が整備されて

いるか気になる人が多いです。

福利厚生制度はコミュニケーションツール

昔に比べ、社員の生活は豊かになり、それに伴い価値観をはじめ、ライフスタイルや求めるも

のが多様化しています。そのため、企業では社員一人ひとりが自ら必要なメニューを選ぶことが

できる、選択式の福利厚生制度(カフェテリアプラン)の需要が今後増加すると考えます。また

選択できるメニューは商品から旅行、医療保険等まで、選択肢が多い方が社員の満足度は高まり

ます。時代や文化にあった制度を導入することで、優秀な社員の囲い込みをはじめ、採用活動で

の PRポイントが増えることで、結果、トータルでの人事コスト削減も達成できます。

優秀な従業員を採用・維持するための方法論を探すためにも、制度を変更するかは別として、

先ずは、今いる社員が会社にどのような制度を望んでいるのかを聞いてみるのも良いかもしれ

ません。中国人スタッフが会社にどのようなロイヤリティを求めているのか、コミュニケーショ

ンを取り、理解しようと試みる行動も、従業員の目には彼らの希望に耳を傾けてくれるマネジメ

ントとして映り、一つのリテンション効果になるのではないでしょうか。優秀なローカル社員の

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人事労務

44 MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

採用や定着を図るには、給与、教育研修制度等に加え、中国の文化に合った福利厚生制度の整備

も企業は整備する必要が今後増加するでしょう。

山内奨 パソナ(保聖那人才服務(上海)有限公司) 広州支店長

パソナ上海の広州支店長。2009 年に立命館大学卒業後、株式会社パソナへ就職。2

年間、東京都千代田区の営業を担当し、新規開拓やパソナグループの人事ソリュー

ション営業に従事。その後中国へ赴任し、2011年~2013年末まで、広州、深せん、

香港の華南地区 3拠点にて、日々顧客の声を聴き、顧客の課題を解決するために、

人材紹介をはじめ教育研修や人事コンサルティングなど、管理部門全般のサービス

を提案。2014 年から現職に就き、広州支店の運営を担当。中国へ初めて赴任する担

当者へのセミナーや中国人大学生向けに日系企業就職セミナーなども実施。

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MIZUHO CHINA MONTHLY

2017年1月号

◎ 上海本店 ● 北京支店 ● 青島支店上海市浦東新区世紀大道100号 北京市朝陽区東三環中路1号 山東省青島市市南区香港中路59号

上海環球金融中心 環球金融中心 西楼8階 青島国際金融中心44階

 21階(業務窓口)、23階(来賓受付) Tel:(86-10)65251888 Tel:(86-532)80970001

○ 東京本店 中国営業推進部 ○ 香港オフィス ○ 台中支店東京都千代田区大手町1-5-5 金鐘道88號太古廣場2座17階 台中市府会園道169号敬業楽群大楼

Tel:(03)5220-8734 Tel:(852)21033000 8階

Fax:(03)3215-7025 Tel:(886-4)23746300

○ 九龍オフィス■ 南京駐在員事務所 九龍海港城永明金融大樓16階 ○ 高雄支店江蘇省南京市広州路188号 Tel:(852)21025399 高雄市中正三路2号国泰中正大楼12楼

蘇寧環球套房飯店2220室 Tel:(886-7)2368768

Tel:(86-25)83329379 ○ 台北支店台北市敦化北路167号宏国大楼2楼

■ 厦門駐在員事務所 Tel:(886-2)27153911

福建省厦門市思明区厦禾路189号

銀行中心2102室

Tel:(86-592)2395571

みずほ銀行の中国ビジネスネットワーク

みずほ銀行(中国)有限公司

 中国営業第一部・第二部 ● 大連支店 ● 広州支店 Tel:(86-21)38558888(ex.2460) 遼寧省大連市西崗区中山路147号 広東省広州市天河区珠江新城

森茂大厦23階、24階-A 華夏路8号合景国際金融広場25階 中国営業第三部・第四部

Tel:(86-411)83602543 Tel:(86-20)38150888Tel:(86-21)38558888(ex.1857)

● 大連経済技術開発区出張所 ● 武漢支店  中国アドバイザリー部

遼寧省大連市大連経済技術開発区 湖北省武漢市漢口解放大道634号Tel:(86-21)38558888

紅梅小区81号ビル古耕国際商務大厦22階 新世界中心A座5階

 中国トランザクション営業部 Tel:(86-411)87935670 Tel:(86-27)83425000

Tel:(86-21)38558888● 無錫支店 ● 蘇州支店

 人民元国際化関連(ex.1277)江蘇省無錫市新区長江路16号 江蘇省蘇州市蘇州工業園区

 トレードファイナンス関連(ex.1273)無錫科技創業園B区8階 旺墩路188号建屋大厦17階

 CMS関連(ex.1230)Tel:(86-510)85223939 Tel:(86-512)67336888

 外為関連(ex.1277)

 シンジケーション関連(ex.1255) 東安大厦18階D、E室

 その他商品(含債券)関連(ex.1209) Tel:(86-512)67336888

 中国金融法人営業部 ● 昆山出張所Tel:(86-21)38558888 江蘇省昆山市昆山開発区春旭路258号

上海国際信貿ビル7階 東南大道333号科創大廈7階

Tel:(86-21)38558888 Tel:(86-512)67336888 (東区)写字楼E2座ABC楼5階

● 上海自貿試験区出張所 ● 常熟出張所上海市浦東新区基隆路55号       江蘇省常熟高新技術産業開発区

● 合肥支店

みずほ銀行

Tel:(86-22)66225588

Tel:(86-22)66225588

● 深圳支店広東省深圳市福田区金田路

皇崗商務中心1号楼30楼

Tel:(86-755)82829000

天津市天津経済技術開発区

新成東路20号濱海新区金融街

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