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ISSN 1346-9029 研究レポート No.460 June 2018 価値創造のための企業価値評価のあり方 ESG 対応から戦略的活用へ- 主席研究員 生田 孝史

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Page 1: No.460 June 2018 - fujitsu.com · 価値創造のための企業価値評価のあり方 ―esg対応から戦略的活用へ― 主席研究員 生田孝史 【要旨】 日本では、esg(環境、社会、ガバナンス)投資に対する関心が高まり、財務情報と非

ISSN 1346-9029

研究レポート

No.460 June 2018

価値創造のための企業価値評価のあり方

-ESG 対応から戦略的活用へ-

主席研究員 生田 孝史

Page 2: No.460 June 2018 - fujitsu.com · 価値創造のための企業価値評価のあり方 ―esg対応から戦略的活用へ― 主席研究員 生田孝史 【要旨】 日本では、esg(環境、社会、ガバナンス)投資に対する関心が高まり、財務情報と非

価値創造のための企業価値評価のあり方

―ESG 対応から戦略的活用へ―

主席研究員 生田孝史

【要旨】

日本では、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資に対する関心が高まり、財務情報と非

財務情報を含めた統合報告を実施する企業が急増している。企業価値の外部評価の例とし

て、年金積立金管理運用独立法人(GPIF)が採用した総合型日本株 ESG 指数について、

2017 年 12 月現在の構成銘柄を調べてみると、統合報告の実施は、ESG指数の選定に必須

ではないが、選定されやすい傾向があった。さらに、ESG 構成銘柄のなかでも、統合報告

実施企業のほうが、ESG 評価が高い傾向にあり、統合報告の有効性が示された。しかし、

GPIF の ESG 指数構成銘柄かつ統合報告実施企業 163 社の開示情報を調べてみると、国

際統合報告フレームワークにおける 6種の資本を参照しながら価値創造プロセスに言及し

た企業は全体の 25%、定量情報を開示している企業はわずか 8%にすぎず、企業自身が企

業価値を総合的に評価・判断して価値創造を図るレベルには至っていない。

企業自身が情報開示や意思決定に企業価値の情報を用いるためには、データの定量化が

望まれる。総合的な企業価値を共通の単位で示すために、非財務情報の金額換算が注目さ

れており、海外では、企業活動による社会への影響(インパクト)の価値を金額換算して

評価する企業が現れている。例えば、LafargeHolcimや Argos は、企業活動に伴うインパ

クトを経済、社会、環境の 3 側面から金額換算する試みを行っており、さらに BASF や

AkzoNobel はバリューチェーンも考慮した評価を行っている。また、Crown Estate は、

国際統合報告フレームワークの 6 種の資本についての金額換算を試みている。

企業が価値評価を有効に活用していくためには、目的を明確にしたうえで、その目的に

対応した取り組みを検討すべきである。ESG対応やステークホルダーへの情報開示を目的

とする場合は、ESG 公開情報の充実を図るべきである。さらに、企業価値評価を意思決定

や事業計画、コミュニケーション等に戦略的に活用しようとすれば、企業価値の定量化に

取り組むことが望ましく、金額換算の試みに加えて、SDGs 貢献の定量評価も今後重視さ

れるだろう。

キーワード:非財務情報、ESG指数、統合報告、価値創造プロセス、インパクト評価

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【目次】

1 はじめに .......................................................................................................................... 1

2 ESG 投資と統合報告における企業価値評価 ................................................................. 4

2.1 ESG 投資と企業価値評価 ........................................................................................... 4

2.2 価値創造プロセス ....................................................................................................... 8

3 非財務情報の金額換算の試み ....................................................................................... 11

3.1 情報開示からインパクト評価へ ................................................................................ 11

3.2 海外企業のインパクト評価(金額換算)の先行事例 .............................................. 12

4 おわりに~企業価値評価の進展に向けて .................................................................... 21

参考文献 ............................................................................................................................... 24

補論:海外企業事例にみるインパクト評価(金額換算)の指標について ........................ 25

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1

1 はじめに

企業活動を取り巻くリスクは広範かつ複雑となり、リスクが顕在化した結果であるクラ

イシスの非予見性も高まっている。企業が長期的に競争力を保持し存続していくためには、

リスクやクライシスの対応による業績向上と、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資1や

SDGs(持続可能な開発目標)2などの社会課題への対応によって、企業価値向上を継続的

に両立するための取り組みが重要である。本研究では、このような危機対応力と社会課題

対応力をもって業績向上と企業価値向上を両立する取り組みを、「サステナブルでレジリ

エントな企業活動」と呼び、先行研究(生田・藤本 2018)において、企業経営(内部管理)

と情報開示のあり方について検討を行った。この先行研究では、まず、内部管理について、

レジリエントな企業活動とサステナブルな企業活動の整合性を確保するために、「将来予

見の情報・文脈の共有」を起点としたリスク視点の共通化が必要であり、組織内のプロセ

スに実装する際には、ISO31000(リスクマネジメント-原則及び指針)と ISO26000(社

会的責任に関する手引き)の両ガイダンスの統合的な活用が有効であると考えた。また、

情報開示については、企業に対して非財務情報開示を要請する動きがグローバルに拡大す

るなか、日本でも非財務報告を実施する企業が増加しており、非財務報告の実施企業は財

務パフォーマンスが高い傾向が見られた。そして、ステークホルダーとの相互理解に基づ

くエンゲージメント・協同の取り組みを進めるためには、企業活動のパフォーマンス評価

が不可欠であることを示唆した。

継続研究である本研究では、長期的な企業価値の向上を実現するために、非財務指標を

含むパフォーマンス評価のあり方について検討を行う。企業活動に対する包括的なパフォ

ーマンス評価の目的の一つは、ステークホルダーの要請への対応である。ESG投資の拡大

に加えて、海外では証券取引所による要請や政府による義務付けなどの広まりが、企業の

非財務情報の開示を促している3。これらの動きはバリューチェーン上の取引先からの要請

や、NPO・NGO による企業評価への活用などにも波及するだろう。また、非財務指標を

含むパフォーマンス評価は、(取り組みの記述だけではなく評価を行うことで)開示情報の

質の向上につながり、企業評価を高めることも期待できる。このような質の高い情報を開

示することで、市場や消費者、人材・パートナー、地域社会からの企業の評判やイメージ

が向上し、ビジネス環境の改善につながることが期待できる。さらに、非財務指標を含め

たパフォーマンス評価を実施する過程において、企業自身の経営革新や、新たな製品・サ

ービスの開発や市場開拓のヒントを見出すなど、イノベーション機会の獲得も期待できる

だろう。

1 企業の環境、社会、ガバナンスの取り組みを考慮(重視)した投資。2.1 に後述。

2 国連加盟 193 か国が署名して 2016 年から開始された 2030 年までに国際社会が達成すべき 17 目標

169ターゲット。

3 非財務情報開示の要請については、先行研究(生田・藤本 2018)で詳述している。

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企業における非財務指標を含めたパフォーマンス評価は、企業レベルの価値評価と、個

別のプロジェクトや製品・サービスなどの事業レベルの価値評価に大別できる(図表 1 参

照)。以下に示すように、両者の価値評価のアプローチは異なっている。

企業レベルの価値評価については、2013 年に国際統合報告評議会(IIRC)が策定した

国際統合報告フレームワークが4、包括的な企業価値評価の取り組みを促すものとして期待

されている。このフレームワークでは、企業価値を構成する 6 種の資本(財務資本、製造

資本5、知的資本6、人的資本7、社会・関係資本8、自然資本9)が明示されており(図表 2

参照)、事業活動のインプットとして用いられた 6 種の資本が、事業活動の結果であるア

ウトプット、さらにはアウトカム(社会変化)10として、それぞれどのように変化(増減)

したかを評価することで、価値創造プロセスを進展につなげるという考えである。

図表 1 非財務指標を含めたパフォーマンス評価

(出所)富士通総研作成

4 http://integratedreporting.org/wp-content/uploads/2015/03/International_IR_Framework_JP.pdf

5 製品生産やサービス提供の際に組織が利用できる製造物(建物、設備、インフラなど)

6 組織的な知識ベースの無形資産(知的財産権や、暗黙知・システム・手順などの組織資本)

7 人々の能力、経験及びイノベーションへの意欲

8 個々のコミュニティ、ステークホルダーグループ、その他のネットワーク間、または内部の機関や関

係、及び個別的・集合的幸福を高めるために情報を共有する能力(共有規範・共通価値や行動、ステ

ークホルダーとの関係性、ブランド・評判などの無形資産、社会的許諾など)

9 環境資源及びプロセス(空気、水、土地、鉱物及び森林、生物多様性、生態系の健全性)

10 インプット→アウトプット→アウトカム→インパクトのフローの考え方については、3.1 に後述。

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図表 2 国際統合報告フレームワークにおける価値創造プロセスの考え方

(出所)国際統合報告評議会(2013)を基に文字サイズを一部拡大

一方、事業レベルでは、企業業績が好調な時に行うような一時的な社会貢献の取り組み

ではなく、本業として継続的に社会課題解決に貢献することが望まれている。このため、

事業価値の評価においては、損益で示される事業性と社会価値(事業による社会インパク

ト)の双方が両立するレベルを判断することが求められる。

以上のような問題意識から、本レポートでは、昨今の非財務情報開示の進展に対応した

企業全体の価値創造に資するパフォーマンス評価のあり方という観点から、企業レベルの

価値評価にフォーカスして検討を行う11。次章以下では、企業の非財務価値の外部評価と

いう点で関心が高まっている ESG指数の評価の考え方と、ESG 構成銘柄と統合報告実施

企業との関係、統合報告における企業価値創造プロセスと定量情報開示の現状を整理した

うえで(2章)、情報開示からインパクト評価への移行と金額換算の試みについて、海外の

先行企業の事例などを分析しながら(3 章)、今後の企業の取り組みのあり方と課題などに

ついて述べることとする(4 章)。

11 事業レベルの価値評価については、SDGs 貢献との関連を含めて、継続研究中。

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2 ESG投資と統合報告における企業価値評価

日本では、2015 年 9 月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG 投資の推

進を提唱する国連責任投資原則(PRI)に署名したことで、ESG 投資に対する関心が急速

に高まっている12。ESG投資に対応するために、財務情報と非財務情報を含めた統合報告

を実施する日本企業の数も急増しており、企業価値レポーティング・ラボの調べによれば、

2017 年末現在 341 社が統合報告を実施しているとのことである13。以下では、外部からの

企業評価と企業の対応という観点から、日本の ESG 投資における企業価値評価と、統合

報告における企業価値に関する日本企業の情報開示の動向について述べることとする。

2.1 ESG投資と企業価値評価

2.1.1 日本株 ESG 指数

GPIF は、2017 年 7 月に日本株を対象とした 3 つの ESG 指数を選定し、国内株全体の

3%程度にあたる 1 兆円規模で運用を開始している14。GPIF が採用した日本株 ESG 指数

のうち、ESG全般を考慮に入れた総合型の指数は、FTSE Blossom Japan Index15(以下、

FTSE-ESG 指数)と、MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数16(以下、MSCI-

ESG指数)の 2 つである17。

図表 3に示した通り、両指数を比較すると、構成銘柄数、評価方法、採用基準、構成銘

柄比率の考え方などが大きく異なっている。例えば、FTSE-ESG指数では、事業活動にお

ける潜在的 ESG リスクへの対応を 14テーマに分類し、企業の特性に合わせた重要テーマ

(エクスポージャー)を特定したうえで、ESG リスクへの対応度合(0~5 の 6 段階)と

エクスポージャーへの対応度合(0~3 の 4 段階)を総合評価するというもので、総合 ESG

評価スコア 3.1 以上が採用基準となる18。一方、MSCI-ESG 指数では、独自の ESG 格付

け(AAA~CCCの 7段階)と不祥事スコア(0~10)に基づいて、ESG 格付け BB以上、

不祥事スコア 3 以上が採用基準(非採用銘柄の場合)となる19。また、両指数とも、除外・

12 PRI 自体は 2006 年に国連で発足している(https://www.unpri.org/)。2018 年 3 月 30 日現在、署名

金融機関数は 1950(うち日本の署名金融機関は 61)である。

13 「国内自己表明型統合レポート発行企業リスト 2017 年版(2018 年 2 月 2 日更新)」(http://cvrl-

net.com/archive/index.html)

14 GPIFの公募には 27 指数の応募があった(http://www.gpif.go.jp/operation/pdf/esg_selection.pdf)。

15 http://www.ftserussell.com/blossom_japan

16 https://www.msci.com/msci-japan-esg-select-leaders-index-jp

17 GPUFが採用した総合型以外の ESG指数は、女性活躍に着目した社会(S)のテーマ型指数である

MSCI 日本株女性活躍指数。

18 詳細は http://www.ftse.com/products/downloads/ftse-russell-esg-presentation-for-jp.pdf 参照。

19 詳細は

https://www.msci.com/documents/1296102/6365510/Japanese+methodology_ESG+Select+Leaders-

JPN.pdf/5aac1188-59cf-48f3-b2d5-e3b7ec89b51f 参照。

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対象外基準を設けており、ESGスコア(格付け)が低下したり、深刻な不祥事が発生した

りすると、構成銘柄に組み入れられないことになる。

2.1.2 ESG指数の構成銘柄

2017 年 12 月時点の構成銘柄数は、FTSE-ESG 指数の 150 に対して、MSCI-ESG 指数

が 251 というように、大きく異なっている。このため、FTSE-ESG 指数の場合、親指数

(FTSE Japan Index)の約 3割の銘柄の選定にとどまっているのに対して、MSCI-ESG

指数では、親指数(MSCIジャパン IMI トップ 500)の半数の銘柄が選定されている。

また、評価方法や採用基準が違うため、構成銘柄数が少ない FTSE-ESG 指数に組み入

れられた企業がMSCI-ESG 指数に組み入れられているとは限らない。例えば、2017 年 12

月時点の構成銘柄を比較すると、FTSE-ESG 指数 150 銘柄の約 2/3 にあたる 102 銘柄が

MSCI-ESG 指数にも組み入れられており、残りの 48 銘柄は MSCI-ESG 指数には組み入

れられていなかった。一方、MSCI-ESG 指数についてみれば、FTSE-ESG 指数と共通な

銘柄は約 4 割に過ぎず、残りの約 6 割(149 銘柄)が MSCI-ESG 指数のみに組み入れら

れていることになる。全体では、FTSE-ESG指数とMSCI-ESG指数の両方あるいはどち

らかに組み入れられているのは 299銘柄となる。

図表 3 GPIFが採用した日本株 ESG 指数(総合型)

FTSE Blossom Japan Index MSCIジャパン

ESGセレクト・リーダーズ指数

指数構成銘柄数 150 251

レビュー回数 年 2回 年 4回

親指数 FTSE Japan Index (502銘柄) MSCIジャパン IMI トップ 500

評価方法

ESG スコア(0~5)を 14 テーマごとに

算出、エクスポージャースコア(0~3)

を勘案して総合評価

ESG格付け(AAA~CCC)と不祥事

スコア(0~10)に基づき選定

採用基準

総合 ESG評価…3.1 以上 既存構成

銘柄

ESG格付け…B以上

不祥事スコア…1以上

非採用

銘柄

ESG格付け…BB以上

不祥事スコア…3以上

構成銘柄比率の

考え方

業種ごとの比率を親指数と同等に調整 親指数の各業種から ESG 評価が高

い銘柄を該当する業種の時価総額

50%になるまで選定

除外基準 ESGスコア…2.5以下 ESG格付け…CCC

不祥事スコア…0

対象外基準 深刻な不祥事発生 深刻な不祥事発生

(出所)FTSE Russel 資料、MSCI 資料を基に富士通総研作成

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FTSE-ESG 指数では ESGスコア、MSCI-ESG 指数では ESG 格付けという名称で、そ

れぞれ企業の ESG パフォーマンスを評価しているが、評価方法の違いを反映して、ESG

評価が高い銘柄にも違いがみられる。図表 4 は、2017 年 12 月現在の FTSE-ESG指数に

おける上位評価(ESG スコア 4.0 以上)13 銘柄と MSCI-ESG 指数における ESG 格付け

最高評価(AAA)10 銘柄を比較したものであるが、両指数ともに名を連ねているのは、国

際石油開発と KDDI の 2 社だけである20。ちなみに、ESG評価の高さは、指数の構成ウェ

イトを反映していない。例えば、2017年 12月現在、FTSE-ESG指数の最大ウェイト銘柄

はトヨタ自動車(7.10%)で ESGスコアは 3.3、MSCI-ESG指数における最大ウェイト銘

柄のキーエンス(2.79%)の ESG格付けは BBB であった21。

図表 4 日本株 ESG 指数における ESG 評価上位銘柄

(出所)FTSE Russel 資料、MSCI 資料を基に富士通総研作成

(注)網掛けは 2つの指数に共通した銘柄

20 対象銘柄の範囲を少し広げて、両指数の構成銘柄の上位評価約 2 割に相当するように、FTSE-ESG

指数の ESGスコア 3.7 以上の 30 銘柄と、MSCI-ESG指数の ESG格付け AA以上の 52 銘柄につい

て比較してみても、共通する銘柄は 10 銘柄にとどまった。

21 これは、構成銘柄比率の考え方において、FTSE-ESG指数では、業種ごとの比率を親指数と同等に

調整することになっており、MSCI-ESG指数でも、親指数の各業種から ESG評価が高い銘柄を該当

する業種の時価総額 50%になるまで選定することになっているというように、親指数における業種の

構成銘柄の状況の影響を受けるためである。

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2.1.3 ESG指数構成銘柄の統合報告実施状況と評価の関係

図表 5 は、2017年 12 月現在の ESG指数構成銘柄と統合報告実施の関係を示したもの

である。FTSE-ESG 指数の構成銘柄数の 73%(110銘柄)、MSCI-ESG 指数の構成銘柄数

の 52%(130 銘柄)の企業が統合報告を実施していた22。逆にいえば、統合報告を実施し

ていない企業の銘柄も指数に選定されており、現状では、統合報告の実施は、ESG指数の

選定に必須ではないと考えられる。

親指数の構成銘柄のうち統合報告を実施している企業数を見ると、FTSE-ESG指数にお

いて 149(全体の 30%)、MSCI-ESG 指数において 204(全体の 41%)であった。それぞ

れ親指数の構成銘柄において統合報告を実施している企業が ESG 指数に選定された比率

を計算すると、FTSE-ESG指数の場合で 74%、MSCI-ESG指数の場合で 64%というよう

に、統合報告を実施していない企業が ESG 指数に選定される比率よりも高い結果が示さ

れた。このことから、統合報告を実施したほうが、ESG指数に選定されやすいといえよう。

さらに、それぞれの ESG 指数の構成銘柄について、統合報告を実施しているグループ

と実施していないグループの ESG評価を比較してみた(図表 6参照)。なお、FTSE-ESG

指数では ESG スコアを比較したが、MSCI-ESG 指数については ESG 格付けを数値に換

算して比較を行った23。その結果、ESG スコア(格付け換算値)の平均値を比較すると、

FTSE-ESG 指数とMSCI-ESG指数の双方とも、統合報告実施グループの評価のほうが実

施していないグループよりも高く、それぞれ 95%信頼区間において有意の差が得られた。

図表 5 ESG 指数構成銘柄の統合報告実施状況(2017 年 12 月現在)

FTSE Blossom Japan Index MSCIジャパン

ESGセレクト・リーダーズ指数

指数構成

銘柄数

親指数の

銘柄数 選定率

指数構成

銘柄数

親指数の

銘柄数 選定率

全体 150 502 30% 251 500 50%

統合報告実施 110 149 74% 130 204 64%

統合報告なし 40 353 11% 121 296 41%

統合報告実施率 73% 30% 52% 41%

(出所)企業価値レポーティング・ラボ、FTSE Russel 資料、MSCI資料を基に富士通総

研作成

22 FTSE-ESG指数と MSCI-ESG指数の両方に組み入れられ、かつ統合報告を実施していた企業は 77

銘柄。

23 ESG 格付けの AAAを 6、AAを 5、Aを 4、BBBを 3、BB を 2、Bを 1 として数値換算を行い、平

均を算出した(CCCの場合は 0 だが、除外基準となるため指数構成銘柄には存在しない)。

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図表 6 ESG 指数構成銘柄の統合報告実施状況と評価の関係(2017 年 12 月現在)

FTSE Blossom Japan Index MSCIジャパン

ESGセレクト・リーダーズ指数

銘柄数 ESGスコア

平均 銘柄数

ESG格付け

(換算値)平均

統合報告実施 110 3.26 130 4.02

統合報告なし 40 3.08 121 3.32

(出所)企業価値レポーティング・ラボ、FTSE Russel 資料、MSCI資料を基に富士通総

研作成

(注)MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数の ESG 格付けは数値換算した

(脚注 23 参照)

2.2 価値創造プロセス

前述のとおり、統合報告の実施は ESG 指数の選定に必須でないが、統合報告実施企業

のほうが ESG 指数に選定されやすく、また、ESG 指数構成銘柄のなかでも、統合報告実

施企業のほうが、ESG スコア(格付け)が高い傾向が示された。このように、ESG 指数

の構成銘柄に選定されることは、外部(特に投資家)から見て、非財務指標を含めた企業

価値が評価されたということであり、その際に統合報告の実施が有効であることが示され

たといえよう。

一方、企業自身が、非財務指標を含めた企業価値の向上を把握し、ステークホルダーに

示す方法として、価値創造プロセスにおける企業のパフォーマンス評価がある。1 章(図

表 2)に前述したように、国際統合報告フレームワークでは、企業価値を構成する 6種の

資本と価値創造プロセスが明示されている。価値創造プロセスにおいて、この 6種の資本

のインプットからアウトカムに至る変化を評価することができれば、企業価値のパフォー

マンスを示すことが可能である。

図表 7 は、2017 年 12 月時点で、GPIF の日本株 ESG 指数(総合型)2 種のいずれか

に組み入れられた 299銘柄のうち統合報告を実施している 163 社を対象に、同時点までに

公開された統合報告書を精査し、価値創造プロセスへの言及、さらには国際統合報告フレ

ームワークの参照状況を調べてみたものである。その結果、統合報告書において価値創造

プロセスについて言及している企業は 115社24(全体の 71%)であったが、国際統合報告

フレームワークに示された 6 種(あるいはそのうち数種)の資本を明示しながら価値創造

プロセスに言及していたのは、40 社(全体の 25%)にすぎなかった。

24 企業によって「価値創造モデル」「ビジネスモデル」「価値向上サイクル」など名称は異なるが、価値

創造のプロセスのフローを示しているものはすべて含めた。

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図表 7 ESG 指数組み入れ+統合報告実施 163社の価値創造プロセス言及状況

(2017 年 12 月現在)

(出所)各社統合報告データを基に富士通総研作成

国際統合報告フレームワークを参照している 40 社においても、うち 23 社は 6 種の資本

について簡単に言及している程度であった。残りの 17 社(全体の 10%)についてみると、

6 種の資本すべて(あるいはいくつかの種類の資本)について定量情報を開示している企

業が 13 社(全体の 8%)であり、そのうち 3 社(全体の 2%)は定量情報に加えて価値創

造プロセスの 6 種資本について詳細な説明を行っている25。一方、定量情報は開示してい

ないが、自社の 6種資本について詳細な説明を試みている企業が 4社であった26。

国際統合報告フレームワークを活用して、一部に定量データを用いながら価値創造プロ

セスの詳細な説明を試みていた 3 社の例を簡単に紹介しよう。まず、日本精工では、「NSK

ビジョン 2026」において、同社の「価値創造プロセス(ビジネスモデル)」におけるイン

プットを 6種の資本で整理し、一部は定量データを開示しており、さらにバリューチェー

ンごとに各資本の関係を例示している27。昭和シェル石油では、「ビジネスモデル」におい

て、「経営資源の投入」について 6 種の資本を示し、それぞれ一部の定量データを開示する

25 「定量情報+詳細説明」に該当する 3 社は伊藤園、昭和シェル石油、日本精工。それ以外の定量情報

開示 10 社は、MS&ADインシュアランスグループ、オムロン、川崎重工業、昭和電工、テイ・エス

テック、東急不動産ホールディングス、野村総合研究所、横川電機が該当。

26 カゴメ、エーザイ、NTN、積水化学工業が該当。

27 日本精工「NSKレポート 2017」(http://www.nsk.com/jp/investors/library/nsk_report.html)

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10

とともに、統合報告書の自社の取り組みの説明部分についても、6 種の経営資源(資本)

ごとに章立てして、定量データを含めながら詳細に記している28。また、伊藤園では、「お

客様第一主義に基づくビジネスモデル」のインプットを競争優位の源泉と位置づけ、6 種

の資本に整理して、一部定量データを開示している29。さらに、アウトカム(創出する価

値)についても 6 種の資本に整理しており、定性的な言及ではあるが、SDGs との関連付

けも試みている。

価値創造プロセスを示し、企業価値を構成する資本の増大を図るためには、定量データ

を基に進捗状況の把握をすることが望ましい。しかし、残念ながら、現状では財務資本を

除く 5種の資本について、定量情報を開示している企業はごくわずかで、しかも一部のデ

ータに限られている。もちろん、価値創造プロセスを示すにあたって、国際統合報告フレ

ームワークの参照が必須というわけではない。ステークホルダーの理解を促し、自社の価

値創造の取り組みが進むのであれば、企業の特性に合わせて独自の価値創造プロセスを示

してもかまわない。今回の調査対象の 163 社のうち 75 社は、国際統合報告フレームワー

クを用いることなく独自の価値創造プロセスを示していた。とはいえ、このうちプロセス

として経営資源・資本という形でインプットやアウトプット(アウトカム)の認識を示し

ていたのは、わずか 7 社にとどまり、インプットとアウトプットの定量データを開示して

いたのは 1社のみという状況であった30。

このように、非財務資本の定量情報開示においては、そもそも開示企業が少ないうえに、

定量情報といっても、人数や比率、数量など様々な単位を持つ数値を示しているにとどま

っている。KPMGジャパンの調査(2018)においても、統合報告実施企業のハイライト情

報セクションにおける非財務 KPI の資本別 TOP3 を集計したところ、開示されている定

量データが極めて乏しいという結果が示されている31。このため、個別 KPI の進捗管理と

しては活用可能だが、企業価値を総合的に判断・評価して価値創造を図るのは極めて困難

というのが現状である。また、企業によって開示データの種類・単位が異なるために、外

部からの比較可能性には乏しいということがいえる。

28 昭和シェル石油「コーポレートレポート 2017」(http://www.showa-

shell.co.jp/ir/corporate/2017/cr_2017_jp.html)

29 伊藤園「伊藤園統合レポート 2017」(https://www.itoen.co.jp/csr/report/)

30 積水ハウスが該当。

31 同調査によると、定量データで示される非財務 KPI の TOP3 は、製造 KPI が設備投資額(37%)、会

社数(6%)、拠点数(6%)、営業面積(2%)、知的 KPI が研究開発費(35%)、研究開発比率

(13%)、特許保有件数(6%)、自然 KPI が CO2 排出量(44%)、廃棄物排出量(18%)、水使用量

(16%)、人的 KPI が従業員数(52%)、女性管理職数・比率(35%)、女性従業員数・比率(15%)、

社会・関係 KPI が社会貢献イベント実績(9%)、会員数・顧客数(6%)、社会貢献支出額(寄付金

額)(6%)、顧客満足度(3%)。(https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-integrated-

reporting-20180323.pdf)

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11

3 非財務情報の金額換算の試み

3.1 情報開示からインパクト評価へ

企業自身が非財務情報を含む企業価値を評価する主な理由として、①企業ビジョンに照

らし合わせた企業活動の成果を把握する、②非財務情報開示の要請や ESG 投資に対応す

る、③バリューチェーンを含めたリスクや機会を評価して最適な事業ポートフォリオを検

討する、などの潜在的なニーズが考えられる。このような情報開示や意思決定に、企業価

値の情報を用いるためにはデータの定量化が望ましい。

定量化といっても、企業価値を総合的に示して評価するためには、データの単位はバラ

バラではなく、共通であることが望ましい。多くのステークホルダーにとって価値を理解

しやすい単位として、非財務情報を金額換算する試みが行われてきた。例えば、環境分野

においては、1990年代後半から、環境会計という形で環境保全コストと効果を評価する試

みが行われてきた32。2010 年頃からは、企業活動による環境に良い影響を「利益」、悪い影

響を「損失」として包括的に評価するような、環境損益計算書33あるいは自然資本会計34と

呼ばれる取り組みも試行されている。一方で、環境分野に加えて社会分野まで含む包括的

な非財務情報の金額換算については、2000 年代に付加価値分配型と呼ばれる金額換算情

報の開示に着手する企業が現れた。これは、CSR 報告の一環として、企業が事業を通じて

得た付加価値のステークホルダーへの配分状況を開示したものである35。

従来の非財務情報開示は、企業の取り組みのインプット(投入資源)とアウトプット(企

業活動実績)を示したものが主であった。しかし、企業の取り組みが社会課題解決などに

どのように貢献したかということを示し、活動の改善などにつなげるためには、アウトカ

ム(企業活動がもたらした変化)からインパクト(企業活動による社会への影響)を示し、

さらにインパクトの価値を計測することが望まれる。

32 例えば、環境省は、環境会計への取組を支援するために、1999 年に「環境保全コストの把握及び公

表に関するガイドライン(中間とりまとめ)」を公表して以降、2005 年の「環境会計ガイドライン

2005年版」まで改版を行った。

33 プーマが、2011 年に初めて環境損益計算書を公開した企業として有名である

(http://about.puma.com/en/sustainability/environment/environmental-profit-and-loss-account)。

34 最近では統合報告との関連性から「自然資本」会計という用語が使われることが増えてきており、国

際的には Natural Capital Coalition(自然資本連合)が、自然資本への影響と依存度を特定、計測、

価値評価するための標準化された枠組みとして、2017 年に自然資本プロトコルを公開している

(https://naturalcapitalcoalition.org/%E8%87%AA%E7%84%B6%E8%B3%87%E6%9C%AC%E3%8

3%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%AB%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%

9E%E7%89%88%E3%80%80%E7%99%BA%E8%A1%A8-japanese-translation-of-the-natural-

capital-protocol/:日本語版)。

35 例えば帝人の場合(2016 年度)、付加価値総額(売上総利益から、運賃や関税、減価償却費、研究開

発費、販売促進費、賃貸料、その他の販管費に属する経費を減じた金額に、独自集計の社会貢献費用

と、環境保全の費用を加算したもの)1,324 億円を、株主:108 億円、社員:600 億円、債権者(金

融機関):22 億円、行政機関(国、自治体):120 億円、地域社会:9 億円、企業(帝人):413 億円、

環境:52 億円に配分している(https://www.teijin.co.jp/csr/economy/)。

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図表 8 伝統的な情報開示からインパクト評価への流れと企業の取り組み状況

(出所)Impact Valuation Roundtable(2017)を基に富士通総研加筆作成

図表 8は、従来の非財務情報開示からインパクト評価への流れの概念と企業の取り組み

の現状を示したものである。日本企業の取り組みについては、一部の企業がアウトカムを

定量データで示し、インパクトについては定性的な記述にとどまっているのが現状である。

前述した付加価値分配型の場合、企業からステークホルダーへの付加価値(金額)の流れ

を知ることができるが、具体的にどのように社会に役に立ったのか、いわゆるインパクト

までは把握できないため、企業の価値創造プロセスの評価に活用することは困難である。

近年、海外では、インパクトの価値を金額換算して評価しようとする企業が現れている。

具体的な取り組みは、次節に述べることとする。

3.2 海外企業のインパクト評価(金額換算)の先行事例

企業活動による包括的な非財務分野におけるインパクトの価値の金額換算を試みてい

る海外企業として、スイスのセメント会社 LafargeHolcim、コロンビアのセメント会社

Argos、ドイツの化学会社 BASF、オランダの化学会社 AkzoNobel といったグローバルな

素材系企業に加えて、イギリスの王室領管理法人である Crown Estate を取り上げたい。

図表 9に示した通り、これら 5社のうち 4社(LafargeHolcim、Argos、BASF、AkzoNobel)

は、経済、社会、環境の 3側面から企業の価値を評価しており、BASF と AkzoNobel は、

バリューチェーンの上流と下流についても同様の評価を行っている。一方、Crown Estate

は、国際統合報告フレームワークの 6 種の資本を参照した価値評価を試みている。

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図表 9 インパクト評価(金額換算)に取り組む海外企業の例

企業名

〔本社所在国:業種〕

公開

開始年 評価対象 評価範囲 目的

LafargeHolcim

〔スイス:セメント〕 2014

経済

社会

環境

意思決定

コミュニケーション

中長期計画の進捗管理

Argos

〔コロンビア:セメント〕 2015

意思決定

コミュニケーション

リスクマネジメント

BASF

〔ドイツ:化学〕 2013

バリューチェーン

を考慮した評価

意思決定

コミュニケーション

インパクトモニタリング

AkzoNobel

〔オランダ:化学〕 2016 意思決定

Crown Estate

〔イギリス:不動産〕 2017

統合報告

6資本 - 意思決定

(出所)各社資料を基に富士通総研作成

(注)評価範囲の「-」は特に言及(バリューチェーンを考慮した評価)なし

評価の目的について見ると、意思決定への活用が 5社すべてに共通しており、金額換算

の取り組みを、ステークホルダーへの単なる情報開示ではなく、自社の取り組みの改善に

つなげる内部管理に活用しようという期待が大きいことを物語っている。LafargeHolcim、

Argos と BASF においては、意思決定に加えて、コミュニケーションや進捗管理・モニタ

リング、リスクマネジメントなどへの活用についても言及している。

以下では、取り組みのタイプ別に各社の取り組み事例を紹介したうえで、現状と課題に

ついて述べることとする。

3.2.1 経済・社会・環境側面の金額換算評価事例

企業活動に伴う社会へのインパクトを経済、社会、環境の 3 側面から金額換算する取り

組みは、LafargeHolcim が 2014 年から「統合損益計算書(Integrated Profit & Loss

Statement)」36、Argos が 2015 年から「付加価値計算書(Value Added Statement)」37

という名称で、それぞれ評価結果を公開している。両者の取り組みを比較すると、用語の

36 https://www.lafargeholcim.com/sites/lafargeholcim.com/files/atoms/files/04062018_lafargeholcim-

sustainability-report-integrated-profit-loss-2017.pdf

37 http://reporteintegrado.argos.co/our-purpose/value-added-statement/?lang=en

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名称、側面の区分、評価に用いる指標などに違いがあるものの、評価手法の基本的な考え

方は同じである。

図表 10 と図表 11 は、LafargeHolcim における 2017 年の統合損益計算書と Argos に

おける 2016 年の付加価値計算書をそれぞれ示したものである。両者とも、左端に財務的

な価値を示し、左から右に、経済・社会・環境の側面内のいくつかの指標について金額換

算された非財務価値を、順に加減(プラスの価値を加算、マイナスの価値を減算)して、

最終的な結果として右端に包括的(統合的)な価値を示すという形式が共通している。

LafargeHolcim の場合、左端から、「財務面(financial dimension)」、「社会・経済面(socio-

economic dimension)」、「環境面(environmental dimension)」、最終的な算出結果を「ト

リプルボトムライン(TBL)」として区分している。Argos では、左端から、「留保便益

(retained benefit)」、「経済外部性(economic externalities)」、「社会外部性(social

externalities)」、「環境外部性(environmental externalities)」、最終的な算出結果を「社

会への総価値(net value to society)」としており、区分の仕方と名称に違いが見られる38。

また、それぞれの側面において採用している指標にも違いが見られる39。

図表 10 LafargeHolcim の統合損益計算書(2017)

(出所)LafargeHolcim (2018) “Integrated Profit & Loss Statement 2017”

38 LafargeHolcim の左端「留保価値(retained value)」と Argos の「留保便益(retained benefit)」

の内容は同一であり、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)から税金、利息、配当を差し引いた

もの。

39 LafargeHolcim と Argos が採用している指標の詳細比較は補論にて後述。

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図表 11 Argos の付加価値計算書(2016)

(出所)Argos (2017) “Value Added Statement 2015-2016”

左端の財務価値と右端の(非財務価値を含めた)包括的な価値を比較すると、

LafargeHolcim が約 1.8 倍(27.1 億スイスフランから 48.5 億スイスフラン)、Argos が約

3.4 倍(2.7億ドルから 9.3億ドル)となっており、両者とも価値が増加する結果となって

いた。内訳を見ると、両者ともステークホルダーへの配分などによる経済側面の金額がプ

ラスとなっているのに対して、環境側面の指標の多くがマイナスとなっているが、経済側

面の総額が環境側面のマイナスを超過する形になっている。一方、両者とも社会側面の価

値の金額規模は、経済側面と環境側面の金額と比べて極めて小さいため、最終的な価値の

総額に与える影響は軽微となっている。

3.2.2 経済・社会・環境側面の金額換算評価(バリューチェーン考慮)事例

経済、社会、環境の 3 側面からの価値を評価する際に、バリューチェーンを考慮して金

額換算する取り組みについては、BASF が 2013 年から「社会価値(Value-to-Society)」

レポート40を公開し、AkzoNobel は 2016 年から「3D 損益計算書(3D Profit and Loss

40 https://www.basf.com/documents/corp/en/sustainability/management-and-

instruments/quantifying-sustainability/we-create-value/BASFs_Value-to-

Society_Method_Paper.pdf

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Accounting)」41, 42を公開している。図表 12と図表 13は、BASF における 2016年の社

会価値アセスメント結果と AkzoNobelにおける 2015年の 3D損益計算書をそれぞれ示し

たものである。

BASFの場合、「経済影響(economic impacts)」、「社会影響(social impacts)」、「環境

影響(environmental impacts)」、AkzoNobel では「経済資本(economic capital)」、「社

会資本(social capital)」、「環境資本(environmental capital)」というように、異なる名

称を用いているが、3 側面で区分する考え方は両者共通である。また、両者とも、自社の

事業活動43に伴う影響(価値)に加えて、バリューチェーンの上流44と下流45についても影

響(価値)を金額換算してそれぞれ示しているが、採用している指標には違いが見られて

いる46。なお、AkzoNobel の場合、下流について、経済、社会、環境の各側面で間接的な

影響(価値)を金額換算している47。

図表 12 BASF の社会価値アセスメント(2016)

(出所)BASF (2017) “Value-to-Society”

41 https://84e1202b204d21a1cb9b-

0e1ab5244fd095dbeb138ed6f973369e.ssl.cf3.rackcdn.com/akzonobel_3d_profit_and_loss_accountin

g.pdf

42 AkzoNobel は 2015 年に「4D損益計算書(4D Profit and Loss Accounting)」を公開したが、側面の

一つとして設定した「社会リスク」が金額換算できなかったため、2016 年から「社会リスク」側面を

除いた 3D 損益計算書に変更した。

43 両者とも「own operation(s)」と表記。

44 BASFは「full external supply chain」、AkzoNovel は「upstream」と表記。

45 BASFは「customer industries」、AkzoNovel は「downstream」と表記。

46 BASFと AkzoNobel が採用している指標の詳細比較は補論にて後述。

47 「estimated economic」「estimated social」「estimated environmental」がそれぞれ該当する。

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図表 13 AkzoNobel の 3D損益計算書(2015)

(出所)AkzoNobel and Ecomatters (2017) “3D Profit and Loss Accounting”

3.2.1 に前述した LafargeHolcim と Argosの場合は、各指標の価値を左から右へ加減し

ていく形式で表示するデザインであったのに対して、BASF と AkzoNobel の両者とも、縦

軸を基軸として、指標の価値がプラスであれば縦軸(=0)から棒グラフを右側に、マイナ

スであれば同じく左側に示す形で、加減することなく縦に並べて表示しており、バリュー

チェーンごとの各指標の価値の比較を重視するデザインとなっている。このため、BASF

と AkzoNobel の両者とも、各指標の価値を加減して包括的に価値の合計を示す形式をと

っていない。また、前述 2社における「留保価値」(あるいは「留保便益」)といった財務

価値の指標は、経済側面の中に含まれている。

BASFと AkzoNobel の両者とも、3 側面の価値を総合するとプラスになっている。これ

は、前述 2 社と同様に、環境側面の価値のマイナス分よりも、経済側面と社会側面の価値

のプラス分が大きいからである。例えば、AkzoNobel の場合、経済側面の価値(バリュー

チェーン合計)が 228 億ユーロ、社会側面の価値が 45 億ユーロ、環境側面の価値がマイ

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ナス 195 億ユーロとなっており、トータルで約 78 億ユーロのプラスの価値が示されてい

る。BASF は具体的な数値が非公開であるが、AkzoNobel において経済側面に含められて

いた指標の一部が、BASF では社会側面に含められていることもあり、社会側面の価値が

経済側面の価値と同規模となっている。また、バリューチェーンごとに比較すると、自社

の事業活動に伴う影響(価値)よりも、上流および下流における影響(価値)の方がプラ

ス・マイナスの双方とも大きい傾向が見られている。

3.2.3 統合報告フレームワーク 6資本の金額換算評価事例

国際統合報告フレームワークの資本 6 種について、価値創造という表現で資本の金額換

算を試みているのが、イギリス国内の資産総額 130億ポンドの不動産を管理している王室

領公益管理法人 Crown Estateである。2013 年に Crown Estate が公開した最初の「総貢

献報告書(Total Contribution Report)」は、経済、社会、環境側面で価値評価を行ったも

のであったが、2017 年に公開した 2回目の「総貢献報告書」では、国際統合報告フレーム

ワークを活用した価値評価が試みられている48。基本的なフレームワークは、インプット

である投資に加えて、事業活動に伴う社内外のポジティブインパクトあるいはネガティブ

インパクト、及び製品・サービスを通じた外部便益や外部費用の発生というフローを勘案

して、価値を評価して金額換算するものである。

図表 14 に示した通り、Crown Estateの 2017 年「総貢献報告書」では、データ入手可

能かつ金額換算可能な 35 指標を選定し49, 50、3 年(年度)間の平均値として価値を算出

し、6 種の資本-財務資本(名称は「financial resources」)、製造資本(同「physical

resources」)自然資本(同「natural resources」)、人的資本(同「our people」)、知的資本

(同「our know-how」)、社会・関係資本(同「our network」)-についてそれぞれ集計し

ている。集計結果は、6 資本全てにおいてプラスとなっている。財務資本(「粗付加価値額

(gross value added)」1 指標のみ)以外の 5 資本には、ネガティブインパクトの指標も

含まれているが、ポジティブインパクトの指標の値の合計のほうが大きいという結果であ

った。このうち、最も金額が大きいのが知的資本の約 3,700億ポンドで、財務資本(約 3,200

億ポンド)、製造資本(約 1,180億ポンド)を加えた 3 資本の価値合計で全体(約 8,500 億

ポンド)の 95%を占めている。一方、残りの自然資本(約 270 億ポンド)、社会・関係資

本(約 150億ポンド)、人的資本(約 10 億ポンド)は、規模が小さい。

48 https://www.thecrownestate.co.uk/media/1023085/crown-estate-aw-1412-mb.pdf

49 Crown Estate によれば、同社のフレームワークに適用した全 60 指標を開発したが、現時点でデータ

入手可能かつ金額換算可能なものが 35 指標であったとのこと

50 Crown Estate が採用している指標の詳細は補論にて後述。

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図表 14 Crown Estateの総貢献報告(2013/14-2015/16)

(出所)Crown Estate (2017) “Total Contribution Report”を基に富士通総研一部加筆

3.2.4 先行事例にみる現状と課題

このように、先行事例といっても、金額換算によるインパクト評価の取り組みは始まっ

たばかりであり、試行錯誤しながら指標や計測・定量化方法の開発・改善を図っている状

況である。各社が公開している評価結果は、現時点でデータが入手可能で金額換算可能な

指標に限られている。データの入手可能性について言えば、一部の事業所(あるいはバリ

ューチェーン上の事業者)からのデータ取得にとどまっていることが多く、できる範囲で

金額換算を行っているという状況である。このように指標の網羅性に欠けるため、総合的

な価値評価に活用できるレベルにはないといえよう。さらに、各社とも採用している指標

に違いがあるため、評価結果を他社との比較に用いることも困難である。

だからといって、これら先行企業の取り組みに意味がないということではない。発展途

上ではあるが、自社の取り組みを金額換算した結果を継時的に把握することができれば、

少なくとも個々の取り組みの進捗評価を行い、改善につなげることは可能である。また、

金額換算によって、例えば、投資とインパクトを比較することで、非財務分野を含めた企

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20

業価値創造という観点から、複数の取り組み間の評価や新たな取り組みに関する優先順位

付けなどの意思決定も容易になるだろう。さらに、非財務分野の金額換算を行うという試

みが、包括的な価値創造に取り組む企業姿勢に対するステークホルダーの認識を深め、個

別の取り組みに関しても円滑なコミュニケーションが図れることが期待できる。図表 9に

前述したように、先行各社は取り組みの目的について、意思決定やコミュニケーションな

どを掲げており、その意味では目的に合致した取り組みを行っているといえる。不完全な

がらも、金額換算によるインパクト評価に着手すること自体が、企業価値を創出する取り

組みにつながるとも考えられる。

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4 おわりに~企業価値評価の進展に向けて

これまで述べてきたように、企業パフォーマンスについて非財務指標を含めて企業価値

を評価・把握したいというニーズから、ESG投資等において外部からの企業価値評価が行

われるようになり、企業自身も統合報告などを通じて非財務情報の開示を進めてきた。

GPIFの日本株 ESG 指数の構成銘柄についていえば、統合報告実施企業のほうが ESG 指

数に選定されやすい傾向があり、同指数に選定された非実施企業よりも評価が高い傾向が

見られた。とはいえ、統合報告実施企業においても、価値創造プロセスに言及している企

業は少なくないものの、国際統合報告フレームワークで示された 6種の資本を明示して詳

細に説明している企業はわずかであった。さらに、定量データを開示している企業となる

とごくわずかであり、企業価値を総合的に評価・判断して価値創造を図るレベルに至って

いない企業がほとんどであった。また、企業価値のインパクト評価を定量的に行っている

日本企業は見当たらなかったが、試行錯誤ながら一部の海外企業が非財務情報の金額換算

を含むインパクト評価に着手している。

今後、企業が自身の価値評価の取り組みを有効に進めていくためには、価値評価の目的

を明確にしたうえで、その目的に対応した取り組みを検討すべきである。図表 15 は、企

業における企業価値評価の取り組みの考え方について、目的と検討フェーズに対応する形

で示したものである。多くの企業にとって、企業価値評価の取り組みの第一の目的は、ESG

への対応やステークホルダーへの非財務情報の開示であろう(Phase 1)。そのためには、

ESG 公開情報の充実を図る必要がある。まずは、ESG 指数等で用いられている評価・選

定基準を参照したうえで、それらに対応した情報公開を検討すべきである(Step 1)。さら

に、投資家に対する説明のしやすさを考慮すれば、統合報告を実施することが望まれよう

(Step 2)。2 章に前述したとおり、国内では、大手企業を中心に、統合報告の取り組みが

急速に進んでおり、このステップに位置する企業が増えている。

企業が価値創造プロセスを進めていこうと考えれば、企業価値評価を、情報開示にとど

まらず、事業活動にかかわる意思決定や事業計画の策定、あるいはステークホルダーとの

コミュニケーション等に戦略的に活用できるようにすることが望まれる(Phase 2)。その

ためには、企業価値の定量化に取り組む必要がある。まずは、統合報告などにおいて、非

財務情報の定量データ開示の充実を図ることになるだろう(Step 3)。この取り組みによっ

て、非財務分野を含む事業計画などにおける目標設定や進捗管理が容易になることが期待

できる。次に、社会課題解決への貢献や効果をより明確に把握し、投資や費用と比較しな

がら意思決定やコミュニケーションなどに活用しようとする場合、インパクト評価の金額

換算を検討することになるだろう(Step 4)。3.2 に前述したように、まだ海外の一部先行

企業が試行錯誤している状況であるが、評価手法の開発・成熟に伴って、着手する企業が

国内外で増えるものと考えられる。

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図表 15 企業における企業価値評価の取り組みの考え方

(出所)富士通総研作成

さらに、今後期待される取り組みとして、企業活動に伴う SDGs貢献の定量評価が考え

られる(Step 5)。現在のところ、SDGs 貢献の定量評価の事例は見当たらないが、価値創

造プロセスと SDGs の関連付けについては、IIRC がレポートを公開しているほか51、GRI

スタンダード52と SDGs ターゲットとの関連づけに関する考え方も提示されている53。国

内でも社会課題解決への貢献を SDGs と関連付けて説明しようとする企業は増えている54。

今後、SDGs 貢献の観点から、自社の価値創造プロセスの実行につなげていくためには、

SDGs 貢献の定量評価が不可欠である。その際には、SDGs の 17 目標レベルではなく、

169ターゲットレベルでの具体的な貢献を定量的に示すことが望まれよう55。

企業価値評価の取り組みは、まだ発展途上であり、様々な課題が議論されている。特に、

インパクトの定量評価に関しては、評価結果の信頼性や比較可能性などの課題について前

述したが、そもそも定量化するためのデータの収集可能性も課題である。データ収集を円

51 http://integratedreporting.org/resource/sdgs-integrated-thinking-and-the-integrated-report/

52 事実上の国際標準となる非財務情報開示のガイドラインを策定してきた国際 NGOの Global

Reporting Initiative が 2016 年 10 月に新たに公開したガイドライン(2018 年 7 月から適用開始)。

53 https://www.globalreporting.org/information/SDGs/Pages/Reporting-on-the-SDGs.aspx

54 生田(2018)「SDGs 定着に向けた日本企業の取り組みと課題」

(http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/opinion/2018/2018-3-4.html)

55 企業自身には SDGs 達成の責務があるわけではないため、あくまで企業活動を通じた政府(あるいは

国際社会)の目標達成への貢献を評価することになる。

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滑に進めるための社内支援56も課題とされている。また、インパクト評価に関して、環境

側面に比べて、社会側面の指標の定量化(金額換算)手法の開発が遅れており、定量化可

能な社会側面の指標57の網羅性が低い状況である58。さらに、定量評価に関しては、インプ

ットからアウトプット、アウトカム、インパクト、インパクト評価に至るフローを見た場

合、最終的な評価結果(あるいはインプットとインパクトの比較)に関心が集中してしま

うことで、インパクトを生み出すまでの活動のプロセスやマネジメントが軽視されかねな

いことが懸念されている。特に社内管理を目的とした評価を行う場合、評価結果を活動改

善につなげられるようなプロセスの評価のあり方についても検討する必要があるだろう。

このように試行錯誤の状況ではあるが、中長期的な視点から社会課題の解決と企業の価

値創造が調和するということを、企業とステークホルダーが相互に理解しながら、さらな

る取り組みの進展につなげるために、共有できる物差し・指標が必要とされていることは

間違いない。ESG投資など外部からの企業価値評価と、企業自身による価値評価の間にお

いても、今後、コミュニケーションを深めながら、それぞれの手法の開発や相互理解が進

展することが期待される。本レポートは、企業価値評価を巡る状況と課題について、現在

起きている事柄をスナップショットとして切り取りながら整理することに主眼をおいたも

のである。本研究が、企業及び関係者にとって、長期的な企業価値向上に向けた価値評価

の取り組みを検討する際の一助となれば幸いである。

56 必要なデータ収集に関して、企業トップ、担当役員、関連部署などへの理解と協力を促す取り組み

や、そのための体制づくりなど

57 国際統合報告フレームワークにおいては、主として人的資本と社会・関係資本の指標に相当(知的資

本の指標の一部も含まれる)。

58 脚注 34 に前述した自然資本連合と連携する形で、社会・人的資本連合(Social & Human Capital

Coalition)が 2017 年に結成され、「社会・人的資本プロトコル」のコンサルテーションペーパー

(2018 年 5 月現在)を公開しているが、現時点で、具体的な指標が例示されているのは、スキル、雇

用、安全の 3 分野にとどまっている(http://social-human-capital.org/)。

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参考文献

生田孝史 藤本健 2018 「サステナブルでレジリエントな企業経営と情報開示」富士通総

研『研究レポート』No.453

MSCI 2017 「MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数~メソドロジー~」

https://www.msci.com/documents/1296102/6365510/Japanese+methodology_ESG+

Select+Leaders-JPN.pdf/5aac1188-59cf-48f3-b2d5-e3b7ec89b51f

企業価値レポーティング・ラボ 2018 「国内自己表明型統合レポート発行企業リスト 2017

年版」http://cvrl-net.com/archive/index.html

KPMGジャパン 2018 「日本企業の統合報告に関する調査 2017」

https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-integrated-reporting-

20180323.pdf

国際統合報告評議会(IIRC)2013「国際統合報告フレームワーク日本語訳」

http://integratedreporting.org/wp-

content/uploads/2015/03/International_IR_Framework_JP.pdf

富士通総研経済研究所レジリエント社会研究チーム 2018 「クライシス対応とレジリエン

トな社会形成」富士通総研『研究アウトルック』

AkzoNobel 2017, “3D Profit and Loss Accounting: Creating shared value across three

dimensions”, https://84e1202b204d21a1cb9b-

0e1ab5244fd095dbeb138ed6f973369e.ssl.cf3.rackcdn.com/akzonobel_3d_profit_an

d_loss_accounting.pdf

Argos 2017, “Value Added Statement 2015-2016”, http://reporteintegrado.argos.co/our-

purpose/value-added-statement/?lang=en

BASF 2017, “Value-to-Society”,

https://www.basf.com/documents/corp/en/sustainability/management-and-

instruments/quantifying-sustainability/we-create-value/BASFs_Value-to-

Society_Method_Paper.pdf

Crown Estate 2017, “Total Contribution Report”,

https://www.thecrownestate.co.uk/media/1023085/crown-estate-aw-1412-mb.pdf

FTSE Russel 2017, “FTSE Russell ESG Ratings”,

http://www.ftse.com/products/downloads/ftse-russell-esg-presentation-for-jp.pdf

Impact Valuation Roundtable 2017, “Operationalizing Impact Valuation”,

http://docs.wbcsd.org/2017/05/IVR_Impact_Valuation_White_Paper.pdf

LafargeHolcim 2018, “Integrated Profit & Loss Statement 2017”,

https://www.lafargeholcim.com/sites/lafargeholcim.com/files/atoms/files/04062018

_lafargeholcim-sustainability-report-integrated-profit-loss-2017.pdf

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補論:海外企業事例にみるインパクト評価(金額換算)の指標について

ここでは、補論として、3.2 に事例紹介したインパクト評価の金額換算を試みている海

外企業 LafargeHolcim、Argos、BASF、AkzoNobel、Crown Estateの 5社について、各

社が採用している指標を詳細に比較検討してみたい。このうち、Crown Estate を除く 4社

については、バリューチェーン考慮の有無の違いはあるが、経済・社会・環境側面から価

値評価を行うという考え方が共通しているため、これら 4 社間の指標を比較しながら紹介

する。続いて、国際統合報告フレームワークを参照している Crown Estate が採用してい

る指標を紹介する。なお、個々の指標における具体的な金額換算方法については、各社の

公開情報を参照のこと59。

1. 経済・社会・環境側面の金額換算評価の指標

3.2.1 と 3.2.2 で述べたように、ここで取り上げる LafargeHolcim、Argos、BASF、

AkzoNobel の 4 社における指標の分類の考え方を比較すると、環境側面については(採用

する指標の違いはあるものの)各社共通であるが、経済側面と社会側面については、企業

によって、同様の指標でも、経済側面と社会側面のどちらに分類するかには違いがある。

LafargeHolcim は、経済側面と社会側面を合わせて一つの区分に整理しており、さらに、

同社と Argos は、財務的な指標として経済(社会)側面の外に示している。また、AkzoNobel

は、バリューチェーンの下流について、経済・社会・環境の各側面で間接的な影響(価値)

の指標を設けている。

1.1 経済側面の指標

経済側面の指標は、基本的にプラスの価値として示されている。前述の通り、

LafargeHolcim は「留保価値(retained value)」、Argos は「留保便益(retained benefit)」

という名称の指標を、経済側面と別の(財務的な)指標として分類しているが、内容は

EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)から税金・利息・配当を差し引いたものであり、

他の 2社では経済側面の指標に含まれている。LafargeHolcim の区分「社会・経済面(socio-

economic dimension)」のうち、「ステークホルダー価値(stakeholder value)」は、従業

員給与、税金、利息、配当などによる乗数効果を一つの指標として示したものである。Argos

の経済側面「経済外部性(economic externalities)」を構成する 3 指標として「給与・便

益(salaries & benefits)」、「利息・配当(interests & dividends)」、「税金(taxes)」を採

用しているが、内容は LafargeHolcim の「ステークホルダー価値」とほぼ同一である。

59 脚注 36、37、40、41、48 を参照のこと(全ての指標について定量化手法が開示されているとは限ら

ない)

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BASFの場合、経済側面(「経済影響(economic impacts)」)は「利益(profit)」と「減価

償却(depreciation)」の 2 指標だけ採用されているが、「利益」の指標には利息が含まれ

ている。さらに、BASF では、社会側面(「社会影響(social impacts)」)に「税金(tax)」

と「給与・便益(wages& benefits)」が分類されている。AkzoNobel では、下流の間接価

値指標を除くと、「経済資本(economic capital)」を構成する指標として採用した「税引後

利益(profit after tax)」、「税金(tax)」、「利息(interest)」、「減価償却(depreciation)」、

「従業員給与(staff compensation)」の 5指標は、他社とほぼ同様の領域をカバーしてい

るが、減価償却の他に「リースレンタル(lease rentals)」の指標を採用しているのが特徴

的である。

1.2 社会側面の指標

社会側面については、LafargeHolcim が「社会・経済面」において 6 指標(「ステークホ

ルダー価値」を除く)、Argos が「社会外部性(social externalities)」において 3 指標、

BASF が「社会影響(social impacts)」において 2 指標(1.1 に前述した他社が経済側面

に分類している 2指標を除く)、AkzoNobel が「社会資本(social capital)」において 2指

標(下流の間接価値指標を除く)をそれぞれ採用している。従業員の健康・安全に関する

指標は、内容に多少の違いはあるが 4 社すべてに共通しており、マイナスの価値として示

される。LafargeHolcim における「労働衛生(occupational health)」60及び「労働災害

(industrial accidents)」、Argos における「健康・安全(health & safety)」、BASF の「健

康・安全(health & safety)」、AkzoNobel の「従業員休業災害(LTI employees)」と「従

業員の逸失所得(future earnings employees)」が該当する。

基本的にプラスの価値として示される指標として、LafargeHolcim の「従業員教育

(employee education)」、Argosの「人材開発(talent development)」、BASFの「人的

資源(human capital)」61の指標が類似している。また、LafargeHolcimの「戦略的社会

投資(strategic social investment)」と Argos の「コミュニティ投資(community

investment)」も類似した指標で、プラスの価値として示される。このほか、LafargeHolcim

は「低所得者層向けビジネス(inclusive business)」と「人権(human rights)」62の指標

を設定している。

1.3 環境側面の指標

環境側面については、LafargeHolcim が「環境面(environmental dimension)」におい

て 8 指標、Argosが「環境外部性(environmental externalities)」において 5指標、BASF

60 LafargeHolcim の「労働衛生」は、指標だけ提示されており、価値算出は行われていない。

61 BASFの「人的資源(human capital)」はバリューチェーンの 3 区分のうち、自社の事業活動に関わ

る部分だけで算出するとされているが、定義の詳細は不明。

62 LafargeHolcim の「人権」は、指標だけ提示されており、価値算出は行われていない。

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が「環境影響(environmental impacts)」において 6 指標、AkzoNobel が環境資本

(environmental capital)」において 7 指標(下流の間接価値指標を除く)をそれぞれ採

用している。

温室効果ガスに関する指標は 4 社とも採用しているが、Argosと BASF がそれぞれ「温

室効果ガス排出(GHG emissions)」、「温室効果ガス(GHGs)」としているのに対して、

LafargeHolcim の 2 指標「上流と自社活動の CO2(CO2 upstream and own operations)」

と「下流の CO2(CO2 downstream)」、AkzoNobel の「CO2の大気放出(CO2 to air)」と

いうように CO2 に限定している。通常の大気汚染に関する指標も各社採用しているが、

LafargeHolcim(「大気(air)」)、Argos(「大気への排出(air emissions)」)、BASF(大気

汚染(air pollution))が 1指標であるのに対して、AkzoNobel は「揮発性有機化合物の大

気放出(VOC to air)」と「その他の大気放出(other emissions to air)」の 2指標を設定

している。水に関しても、4 社とも指標を採用しているが、BASF が「水消費(water

consumption)」と「水質汚染(water pollution)」の 2 指標を設定したのに対して、

LafargeHolcim(「水(air)」)と Argos(「水消費(water consumption)」)は水使用のみ

を対象とし、AkzoNobel は「水への排出(emissions to water)」を対象とするという違い

が見られた。

このほか、生物多様性については、LafargeHolcimと Argos(両者とも「biodiversity」)

が、土地利用については、BASFと AkzoNobel(両者とも「land use」)が、それぞれ指標

を採用している。廃棄物については、LafargeHolcim と BASF(両者とも「waste」)が指

標を採用しているが、エネルギーを含めた資源循環の観点からは、LafargeHolcimが「二

次資源(secondary resources)」、Argos が「代替資源・燃料(alternative materials and

resources)」、AkzoNobel が「エネルギー資源(resources –energy)」と「物的資源(resource

– material)」の指標を採用している。以上のほか、LafargeHolcim のみ「環境事故

(environmental incidents)」の指標を採用している。

環境側面の指標のほとんどは、環境負荷によるマイナス(価値損失)の価値として示さ

れるが、相対的に環境負荷が小さくなる代替資源等の使用に関する指標はプラスの価値と

して示されている。

2. 国際統合報告フレームワーク 6資本の金額換算評価の指標

3.2.3 で述べたように、Crown Estate は、国際統合報告フレームワークを参照して、6

種の資本(財務資本、製造資本、自然資本、人的資本、知的資本、社会・関係資本)につ

いてそれぞれ金額換算を行っている。金額換算のために採用された 35 指標の一部は、不

動産業としての同社の特性を反映したものとなっている。以下、6 種の資本ごとに、同社

が採用している指標を紹介する。

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2.1 財務資本の指標

財務資本(名称は「financial resources」)の指標は、「粗付加価値額(gross value added)」

の 1 指標のみであり、プラスの価値として示されている。「粗付加価値額」は、売上高から

原材料費や仕入れ原価を差し引いたもので、前述 4社における経済側面の指標がカバーす

る領域にほぼ相当している。

2.2 製造資本の指標

製造資本(名称「physical resources」)については、5 指標が採用されている。このう

ち、プラスの価値として示されているのは、「新規開発・補修(new development and

retrofitting)」と「固定資産のアップグレード(fixed asset upgrades)」の 2 指標であり、

「職場活動による物的損害(damage to property due to workplace activity)」と「固定資

産の損耗(wear and tear of fixed assets)」、「外部的事象による価値減少(reduction in

value due to external events)」の 3指標はマイナスの価値として示されている。

2.3 自然資本の指標

自然資本(名称「natural resources」)については 8 指標が採用されている。このうち、

プラスの価値として示されているのは、「特別な生息地への投資(specific habitat

investment)」、「土壌回収戦略(soil recovery strategies)」、「炭素隔離貯留(carbon

sequestered and stored)」、「温室効果ガス排出回避(greenhouse gas emissions avoided)」、

「その他生態系サービス(other ecosystem services」」の 5 指標であり、「温室効果ガス排

出(greenhouse gas emissions)」、「廃棄物発生(waste generated)」、「水消費(water

consumed)」の 3 指標がマイナスの価値として示されている。

2.4 人的資本の指標

人的資本(名称「our people」)については 9 指標が採用されている。このうち、プラス

の価値として示されているのは、「民間医療への貢献(contribution to private healthcare)」、

「公的医療への貢献(contribution to public healthcare)」、「その他福利プログラム投資

(investment in other wellbeing programmes)」、「従業員エンゲージメント(employee

engagement)」、「従業員ボランティアプログラム(employee programmes)」の 5 指標で

あり、「労働災害(workplace injuries)」、「労災死亡(workplace fatalities)」、「病欠日数

(sickness absence days)」、「ジェンダー機会均等(gender equal opportunities)」の 4 指

標がマイナスの価値として示されている。

2.5 知的資本の指標

知的資本(名称「our know-how」)については 7指標が採用されている。このうち、プ

ラスの価値として示されているのは、「従業員訓練・開発(employee training and

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development)」、「研究開発(research and development)」、「付加価値(value added)」、

「公開情報生産(production of public information)」の 4 指標であり、「知識減衰

(knowledge decay)」、「準最適な従業員離職(suboptimal employee turnover)」、「公開

情報消費(consumption of public information)」の 3 指標がマイナスの価値として示され

ている。

2.6 社会・関係資本の指標

社会・関係資本(名称「our network」)については 5 指標が採用されている。このうち、

プラスの価値として示されているのは、「顧客管理システム(customer management

system)」、「地域・広域コミュニティ(local and wider communities)」、「職業紹介

(employment placements)」、「来訪者福利(visitor wellbeing)」の 4指標であり、「取引

先への支払い遅延(late payment of suppliers)」の 1 指標がマイナスの価値として示され

ている。

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研究レポート一覧

No.460 価値創造のための企業価値評価のあり方 ―ESG対応から戦略的活用へ―

生田 孝史 (2018年6月)

No.459 共生ケアの効果と新たな価値 -変化する自立支援の意味と介護サービス-

森田麻記子 (2018年6月)

No.458 地域社会に創発されるレジリエントな組織と知恵 上田 遼 (2018年5月)

No.457 パリ協定離脱を決めた米国の排出削減の行方 -新たな原動力となるビジネス機会の追求-

加藤 望 (2018年5月)

No.456 温室効果ガス削減80%時代の再生可能エネルギーおよび 系統蓄電の役割:系統を考慮したエネルギー技術モデルでの分析

濱崎 博 (2018年4月)

No.455 IoT時代で活発化する中国のベンチャー活動は持続可能か 金 堅敏 (2018年4月)

No.454 地域密着型金融の課題とキャッシュフローレンディングの可能性

岡 宏 (2018年4月)

No.453 サステナブルでレジリエントな企業経営と情報開示 生田 孝史藤本 健

(2018年1月)

No.452 シビックテックに関する研究 -ITで強化された市民と行政との関係性について-

榎並 利博 (2018年1月)

No.451 移住者呼び込みの方策 -自治体による人材の選抜- 米山 秀隆 (2018年1月)

No.450 木質バイオマスエネルギーの地産地消における 課題と展望 -遠野地域の取り組みを通じて-

渡邉 優子(2017年12月)

No.449 観光を活用した地域産業活性化 :成功要因と将来の可能性

大平 剛史(2017年12月)

No.448 結びつくことの予期せざる罠 -ネットは世論を分断するのか?-

田中 辰雄浜屋 敏

(2017年10月)

No.447 地域における消費、投資活性化の方策 -地域通貨と新たなファンディング手法の活用-

米山 秀隆 (2017年8月)

No.446 日本における市民参加型共創に関する研究 -Living Labの取り組みから-

西尾 好司 (2017年7月)

No.445 ソーシャル・イノベーションの可能性と課題 -子育て分野の日中韓の事例研究に基づいて-

趙 瑋琳 (2017年7月)

No.444 縮小まちづくりの戦略 -コンパクトシティ・プラス・ネットワークの先進事例-

米山 秀隆 (2017年6月)

No.443 ICTによる火災避難の最適化 -地域・市民による自律分散協調システム-

上田 遼 (2017年5月)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/

研究レポートは上記URLからも検索できます

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富士通総研 経済研究所

〒105-0022 東京都港区海岸 1 丁目 16 番 1 号(ニューピア竹芝サウスタワー) TEL.03-5401-8392 FAX.03-5401-8438

URL http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/