市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びにgisa-japan.org/conferences/proceedings/2017/papers/p12.pdf市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びに...

4
市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びに 空間的可視化の試行と地域分析への展開 ー 市区町村の木・花・鳥・魚 ー 吉川 慎平 1 ・渡部 俊太郎 2 Spatial trends of symbolic plants and animals of Japan’s municipalities in the area study context – Trial of spatial visualization using GIS – Shinpei YOSHIKAWA and Syuntarou WATANABE Abstract: 現在,全国 1,700 余の自治体の殆どは「市区町村の木・花・鳥・魚」などと銘打 って、地域(郷土)の自然や景観、農林水産物等の中から,代表的な動植物名(種)をそ れぞれ独自に選定し公表している.本研究では、地域分析の一つの切り口として,これら の「市区町村シンボル選定種」を自治体横断的に捉える事に着目し,全国の自治体におけ る選定状況の実態調査,並びに GIS を用いた空間的可視化を通じ,傾向を捉えることを試 みた.本予稿では, 全市区町村におけるシンボル選定状況についての調査結果をまとめた. Keywords: 自治体シンボル(Municipality symbol), 全国調査(Nationwide survey), 地理情報シ ステム(GIS), 地域分析(Regional Analysis) 1. はじめに 現在,全国各地の自治体において,「市区町村の 木・花・鳥・魚」等の項目別に,それぞれ具体的 な動植物名(種)を一つないしは複数挙げ,その 街の「シンボル」として位置付けている 1) これらは,シンボル選定の経緯について詳しく 公表している自治体の資料 2)3)4) を参照する限り, 自治体が選定の義務を負っているといった性格 のものではなく,何だかの機運の高まりにより, その街が自発的かつ主体的に選定に取り組んで いるものと推測される.また,最終的には当該自 治体における一定の合意形成プロセス(議会議決 等)の基,決定(指定)している事も同様の予備 調査から伺える 2)3)4) 2. 本研究の目的と先行研究 本研究では,各自治体が独自かつ任意に選定し て来たこれらのシンボルを,地域分析の一つの切 り口として,各自治体という単位を超えて地域や 地方,全国といったスケールで横断的に捉えてみ ることに着目し,全国の自治体における選定状況 の実態調査(リスト化),並びに GIS を用いた空 間的可視化(マップ化),その他統計的手法を用い, 選定の傾向等を明らかにすることとした.これら を通じ,市区町村シンボル選定種にみる地域分析 への展開について検討することとした。 研究対象に関係した先行研究として,品田・百 (2006)が都道府県の「花」を中心とした選定に 至る経緯について 5) ,上野・曽根・栗原(2014)が既 に市町村の「木」の全国調査について 6) ,それぞ れ報告している.これに対して本研究では,①「木」 に加えて「花・鳥・魚」や,それ以外のシンボル についてもリストにし,それぞれの傾向とシンボ ル項目間の相互性(「木」と「花」等)についても 1 吉川 慎平・自由学園最高学部(大学部) 〒203-8521 東京都東久留米市学園町 1-8-15 Phone: 042-422-4389 E-mail: [email protected] 2 渡部 俊太郎・京都大学フィールド科学教育研究センター

Upload: others

Post on 13-Aug-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びにgisa-japan.org/conferences/proceedings/2017/papers/P12.pdf市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びに

市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びに

空間的可視化の試行と地域分析への展開

ー 市区町村の木・花・鳥・魚 ー

吉川 慎平 1・渡部 俊太郎 2

Spatial trends of symbolic plants and animals of Japan’s municipalities

in the area study context

– Trial of spatial visualization using GIS –

Shinpei YOSHIKAWA and Syuntarou WATANABE

Abstract: 現在,全国 1,700余の自治体の殆どは「市区町村の木・花・鳥・魚」などと銘打

って、地域(郷土)の自然や景観、農林水産物等の中から,代表的な動植物名(種)をそ

れぞれ独自に選定し公表している.本研究では、地域分析の一つの切り口として,これら

の「市区町村シンボル選定種」を自治体横断的に捉える事に着目し,全国の自治体におけ

る選定状況の実態調査,並びに GISを用いた空間的可視化を通じ,傾向を捉えることを試

みた.本予稿では, 全市区町村におけるシンボル選定状況についての調査結果をまとめた.

Keywords: 自治体シンボル(Municipality symbol), 全国調査(Nationwide survey), 地理情報シ

ステム(GIS), 地域分析(Regional Analysis)

1. はじめに

現在,全国各地の自治体において,「市区町村の

木・花・鳥・魚」等の項目別に,それぞれ具体的

な動植物名(種)を一つないしは複数挙げ,その

街の「シンボル」として位置付けている 1). これらは,シンボル選定の経緯について詳しく

公表している自治体の資料 2)3)4)を参照する限り,

自治体が選定の義務を負っているといった性格

のものではなく,何だかの機運の高まりにより,

その街が自発的かつ主体的に選定に取り組んで

いるものと推測される.また,最終的には当該自

治体における一定の合意形成プロセス(議会議決

等)の基,決定(指定)している事も同様の予備

調査から伺える 2)3)4).

2. 本研究の目的と先行研究

本研究では,各自治体が独自かつ任意に選定し

て来たこれらのシンボルを,地域分析の一つの切

り口として,各自治体という単位を超えて地域や

地方,全国といったスケールで横断的に捉えてみ

ることに着目し,全国の自治体における選定状況

の実態調査(リスト化),並びに GIS を用いた空間的可視化(マップ化),その他統計的手法を用い,

選定の傾向等を明らかにすることとした.これら

を通じ,市区町村シンボル選定種にみる地域分析

への展開について検討することとした。 研究対象に関係した先行研究として,品田・百

瀬(2006)が都道府県の「花」を中心とした選定に至る経緯について 5),上野・曽根・栗原(2014)が既に市町村の「木」の全国調査について 6),それぞ

れ報告している.これに対して本研究では,①「木」

に加えて「花・鳥・魚」や,それ以外のシンボル

についてもリストにし,それぞれの傾向とシンボ

ル項目間の相互性(「木」と「花」等)についても

1吉川慎平・自由学園最高学部(大学部)

〒203-8521東京都東久留米市学園町 1-8-15

Phone:042-422-4389

E-mail:[email protected]

2渡部俊太郎・京都大学フィールド科学教育研究センター

Page 2: 市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びにgisa-japan.org/conferences/proceedings/2017/papers/P12.pdf市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びに

検討すること,②2014年以降,新たに選定を実施した自治体のシンボルをリストに加えること,③

GISを用いて空間的な可視化を試行すること,以上を念頭に置いた.

3. 調査対象と方法

基盤となる各自治体のシンボル選定の有無及

び選定種のリスト化については, 2017年 5月〜8 月にかけて調査を実施した.調査対象は全国の1,916市区町村(以下,全市区町村)とした.内訳は,市 791(政令指定都市 20市を含む),町 744,村 183(北方領土 6村を除く)と,特別区 23(東京 23 区)及び政令指定都市の行政区 175 である(いずれも 2016/10/10時点 7).調査方法は,地方

公共団体情報システム機構の全国自治体マップ

検索 7)から全市区町村の公式Webサイト(一般ページ及び例規集等)を網羅的に閲覧・検索し,Excel上に項目別で転記した.同時に選定年,決定プロ

セス(公募,委員会,等)についての記述がある

場合はこれも記載した.公式 Web サイトから選定状況を確認できない自治体は一時保留(不明)

とし,後日当該自治体へ問い合わせることとした. 4. 調査結果

4.1 全市区町村におけるシンボルの選定状況

全市区町村におけるシンボルの選定状況につ

いて調査した結果を Excelでリストにまとめた. 調査から当初想定していたシンボルの項目

(木・花・鳥・魚)以外に,花木,草,草花,貝,

カエル(両生類),虫,蝶,獣,生き物,動物,果

実,竹といった動植物の他,石,星,色,海産物,

技(スポーツ)といったシンボルを挙げている自

治体も確認された.それぞれの指定数については

後述する. また,リスト化に際しては,シンボルの項目名

の表記は自治体ごとに必ずしも統一されておら

ず,次のように整理した.Web 上では主として(例:市・花)「市の花・市花」,と表記されてい

図-1 自治体のシンボル選定の有無及び一自治体当たりの項目選定数(1〜5項目のみ) *政令指定都市については,市と行政区で重複するため省略,他一部省略

背景データ出典:国土数値情報,行政区域データ(平成 28年度)

Page 3: 市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びにgisa-japan.org/conferences/proceedings/2017/papers/P12.pdf市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びに

るが,これとは別に「市民の花,市の推奨花,四

季の花」等と表記されているケースも見られた.

市の花・市花とは別に後者の記載がある場合はリ

ストの備考欄に転記し,逆に前者の記載がない場

合は後者を市の花・市花と判定した. 以上,整理の結果,全体では 1項目以上何らか

のシンボルを設定している自治体は 1,916市区町村中 1,785,93.2%に及ぶことが現在までに確認された. 項目と,当該項目についてシンボルを選定して

いる自治体数は次の通りである(項目名/指定自治体数).木/1,716,花/1,745,鳥/770,魚/127,花木

(左)図-2 木のシンボル選定の有無 (右)図-3 花のシンボル選定の有無 *政令指定都市については,市と行政区で重複するため省略,他一部省略

背景データ出典:国土数値情報,行政区域データ(平成 28年度)

(左)図-4 鳥のシンボル選定の有無 (右)図-5 魚のシンボル選定の有無 *政令指定都市については,市と行政区で重複するため省略,他一部省略

背景データ出典:国土数値情報,行政区域データ(平成 28年度)

Page 4: 市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びにgisa-japan.org/conferences/proceedings/2017/papers/P12.pdf市区町村シンボル選定種の全国調査結果の傾向並びに

/65,獣/26,虫/25,蝶/14,それ以外の項目は指定自治体数が 10以下という結果であった. また,一つの自治体当たりのシンボル項目選定

数は次の通りである(項目選定数/指定自治体数).0項目(未選定又は不明)/131,1項目/89,2項目/838,3 項目/698,4 項目/124,5 項目/27,6 項目/5,7項目/3,8項目/1という結果であった.項目の組み合わせは,最大の 2項目が「木・花」,次位の 3項目は「木・花・鳥」であった.

4.2 選定状況のマップ化

以上の調査成果について,日本地図上にプロッ

トした結果が図-1〜5である.図-1は,自治体の

シンボル選定の有無及び一自治体当たりの項目

選定数を示したものである.また,図-2〜5 は,

多くの自治体が指定している「木・花・鳥」及び

「魚」について,個別にシンボル選定の有無を示

したものである.

4. 調査結果についての考察

図-1 に示した自治体のシンボル選定の有無及

び一自治体当たりの項目選定数に関しては,マッ

プから傾向を読み取ることは難しいが,未選定(0項目,マップ上青色,)の自治体(政令指定都市の

行政区を除き)に関しては,市町村合併後に新し

いシンボルの選定が実施されていないケースが

多いという感触が調査から得られている.その裏

付けとして,直近数年以内に指定した自治体,現

在選定中という自治体の情報も複数確認してい

る. 5. おわりに

今後の課題として以下が挙げられる. ①シンボル不明自治体への問い合わせを中心と

精査とリストの更新作業.

②シンボル選定種は地域呼称や通称等が用いら

れていることから,分析のため標準和名等へ

の変換作業.

③精査したリストを基により詳細な分析の実施.

参考文献

1) 吉川慎平・渡部俊太郎:緑化シンボルとしての「市区町村の木・花」選定種の全国調査結

果と GIS による空間的可視化から,第 48 回日

本緑化工学会大会(ELR2017)研究交流発表会

要旨集,2017.

2) 松山市Web,市章・市花・市歌,https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shis

ei/matsuyama/sisyohanauta/index.html ,

2017. 8参照.3) 渋川市 Web,市の花・木・鳥・キャッチフレーズ,http://www.city.shibukawa.lg.jp/

shisei/profile/shinohana/p002439.html ,

2017. 8参照.4) 磐田市 Web,磐田市のプロフィール,http://www.city.iwata.shizuoka.jp/about/

profile/symbol.php,2017. 8参照.5) 品田早苗,百瀬響:「郷土」と結びつくイメージ―「郷土の花」選定過程を 中心に―,北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)57(1),2006.

6) 上野裕介,曽根直幸,栗原正夫:市町村のシンボル樹種からみた日本人の自然観の地域性・時

代性とランドスケープへの影響,ランドスケ

ープ研究 77(5),2014.7) 地方公共団体情報システム機構 Web,

https://www.j-lis.go.jp/index.html,2017.5〜8 参照.