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1/28 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 作成日: 2009/2/13 調査部: 伊原 賢 水平坑井: うまく使えば、回収率向上の万能薬 (R&D 推進部、SPE、石油技術協会資料ほか) 水平坑井とマルチラテラル坑井(蛸足状に配置された水平坑井)は、石油や天然ガスの貯留層に沿っ て掘削される。通常の垂直・傾斜井に比べ、貯留層との接触体積が多く取れるため、一坑当りの生産量 を数倍に増やすことができ、80 年代後半より広く、石油開発に使われるようになった技術である。広い範 囲(薄層、フラクチャー、コーニング対策、重質油、ガス層、水攻法、EOR/増進回収法、砂岩、炭酸塩 岩)に適用できることから、石油や天然ガスを地下から効率よく沢山回収できる技術、即ち、「回収率向上 の万能薬」として知られる。適用に当たっては、貯留層の厚さ、孔隙率、水平浸透率がキー・パラメータ ーとなる。 本稿では、水平坑井に係る貯留層特性や操業上の問題解決法のトレンドを、掘削・貯留層挙動・生産 の観点から平易に説明したい。具体的には、掘削、貯留層障害、排油面積、坑井間距離、可採埋蔵量、 定常および擬似定常状態での水平坑井内の流体・圧力分布、水平坑井の生産性解析、フラクチャリング や酸処理との組み合わせといった要素技術の使い方について具体的なガイドラインを示す。最後に我 が国企業が関わるケースヒストリーを 2 例(アブダビ海洋油田、重質油)紹介する。 1. 水平坑井の掘削 1-1. 歴史 水平坑井の歴史の始まりは、十分なデータが残されていないために定かではないが、1929 年にテ キサス州Texon において Drainhole Horizontal System と呼ばれる技術を用いて坑井を水平に掘削したの が始まりと言われており、米国において先駆者達により約 75 坑掘削された。これらのほとんどは、水平区 間長さが 15m 以下であったが、垂直井に比較して生産性が飛躍的に向上したと報告されている。 1950 年代に入ると水圧破砕技術(末尾の<参考技術情報>参照)が開発され、その技術発展により Drainhole Horizontal System を用いた坑井数は激減した。 1957 年には旧ソ連にて水平坑井が掘削され、坑井の垂直深度は 300 m、水平区間長さは 100 m との 報告がある。1967 年には中国において、垂直深度 1,100 m、水平区間長さ 500 m の水平坑井が掘削さ れた。この坑井からの産出量は周辺の垂直井と比べ 5~10 倍に増加したが、水平区間が裸坑仕上げの ため、一週間後に水平区間の地層が崩落し、生産が停止した。1968 年には旧ソ連において、垂直深度

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Page 1: 0902 out horizontal well trend...1/28 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

作成日: 2009/2/13

調査部: 伊原 賢

水平坑井: うまく使えば、回収率向上の万能薬

(R&D 推進部、SPE、石油技術協会資料ほか)

水平坑井とマルチラテラル坑井(蛸足状に配置された水平坑井)は、石油や天然ガスの貯留層に沿っ

て掘削される。通常の垂直・傾斜井に比べ、貯留層との接触体積が多く取れるため、一坑当りの生産量

を数倍に増やすことができ、80 年代後半より広く、石油開発に使われるようになった技術である。広い範

囲(薄層、フラクチャー、コーニング対策、重質油、ガス層、水攻法、EOR/増進回収法、砂岩、炭酸塩

岩)に適用できることから、石油や天然ガスを地下から効率よく沢山回収できる技術、即ち、「回収率向上

の万能薬」として知られる。適用に当たっては、貯留層の厚さ、孔隙率、水平浸透率がキー・パラメータ

ーとなる。

本稿では、水平坑井に係る貯留層特性や操業上の問題解決法のトレンドを、掘削・貯留層挙動・生産

の観点から平易に説明したい。具体的には、掘削、貯留層障害、排油面積、坑井間距離、可採埋蔵量、

定常および擬似定常状態での水平坑井内の流体・圧力分布、水平坑井の生産性解析、フラクチャリング

や酸処理との組み合わせといった要素技術の使い方について具体的なガイドラインを示す。 後に我

が国企業が関わるケースヒストリーを 2 例(アブダビ海洋油田、重質油)紹介する。

1. 水平坑井の掘削

1-1. 歴史

水平坑井の歴史の始まりは、十分なデータが残されていないために定かではないが、1929 年にテ

キサス州TexonにおいてDrainhole Horizontal Systemと呼ばれる技術を用いて坑井を水平に掘削したの

が始まりと言われており、米国において先駆者達により約75 坑掘削された。これらのほとんどは、水平区

間長さが 15m 以下であったが、垂直井に比較して生産性が飛躍的に向上したと報告されている。

1950 年代に入ると水圧破砕技術(末尾の<参考技術情報>参照)が開発され、その技術発展により

Drainhole Horizontal System を用いた坑井数は激減した。

1957年には旧ソ連にて水平坑井が掘削され、坑井の垂直深度は300 m、水平区間長さは100 mとの

報告がある。1967 年には中国において、垂直深度 1,100 m、水平区間長さ 500 m の水平坑井が掘削さ

れた。この坑井からの産出量は周辺の垂直井と比べ 5~10 倍に増加したが、水平区間が裸坑仕上げの

ため、一週間後に水平区間の地層が崩落し、生産が停止した。1968 年には旧ソ連において、垂直深度

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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

2,200 m、水平区間長さ500 mの水平坑井が掘削されたが、坑跡をコントロールする技術的課題と経済性

(掘削コストに見合った生産量が確保できない)から、水平坑井の油田開発への適用は 10 年ほど見送ら

れることとなった。

70 年代後半に入るとカナダの Cold Lake 油田において、欧米では本格的な 初の水平坑井が Esso

Resources Canada 社によって掘削された。しかしながら、生産性は予想を下回り、掘削コストは従来の垂

直井に比べ 12 倍以上に達したとの報告であった。Esso Imperial 社が浅い油層に水平坑井を掘削し、

1981 年には旧 Texaco Canada 社が Cold Lake 油田において、水蒸気圧入用に水平坑井を 3 坑掘削し

た。

また、1979年には旧Elf社/IFP(フランス国立石油研究所)が水平坑井の研究プロジェクトを立ち上げ、

4 坑の水平坑井掘削を計画した。これら坑井の掘削には傾斜掘りの技術が用いられ、80 年から 81 年に

掘削された 初の2坑(Lacq 90, Lacq 91)において、水平坑井の坑跡制御、検層作業、検層データ解釈、

仕上げ、生産挙動予測という一連の技術研究が行われ、技術データや適用ノウハウが蓄積された。この

成果は82年にイタリア洋上のRospo Mare油田(フラクチャー型石灰岩)において、世界で 初の海洋に

おける水平坑井の掘削、83 年にはフランス陸上の Castera Lou 油田において垂直深度2,865 m の水平

坑井の掘削成功に結びついた。周辺の垂直井に比べ、生産量が Rospo Mare 油田では 15 倍、Castera

Lou 油田では 8 倍に増加したとの報道がなされた。これを契機に水平坑井は徐々に世界の油田開発に

浸透することとなった。

一方、米国においては 1980 年に旧ARCO 社が Empire Abo 油田において、ガスコーニング(ガスが

垂直井の坑底部に引き込まれ、油の生産を阻害する)問題を軽減するために、垂直井より水平に横たわ

る油層部に向けて、急激に増角していく Short Drainhole を 4 坑掘削した。掘削には旧 Elf 社が適用した

傾斜掘り技術の延長ではなく、特殊な掘削機器を用いた、Short Radius プロファイルであった。

80 年代中期に入ると北海を初め、中東でも生産性を高める手段として、水平坑井が注目され、更に

掘削技術の進歩も伴って、確実に水平坑井が掘削されるようになり、90 年代には油田開発のスタンダー

ドツールの一つとなった。

1-2. 定義と種類

石油会社では、貯留層内を傾斜角度850以上の角度で掘られる坑井を水平坑井と呼ぶ。一般には貯

留層内の流れが Circular Radial Flow から Planer Type Flow に変化する坑井を水平坑井と定義するのが

妥当であろう(図1)。

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図1 貯留層内の流れの比較

出所: 石油技術協会資料より作成

水平坑井は水圧により、横孔を掘削する Ultra Short Radius を除いて、その坑跡と増角率により、図2

に示すように Short Radius、Medium Radius、Long Radius の 3 種類に区別され、貯留層の特性、厚さ、広

がり、仕上げ方法ほか、様々なパラメーターを基に選定される。

図2 水平坑井の種類(坑跡と増角率)

出所: 石油技術協会資料より作成

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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

また、水平坑井の中には 1 基のプラットフォーム基地から、より広範囲の貯留層をカバーするための

技術として、Extended Reach Well あるいは Mega Reach Well と呼ばれる坑井がある。

Extended Reach Well: 掘削深度/垂直深度 > 2

Mega Reach Well: 掘削深度/垂直深度 > 3

(偏距/垂直深度の記録は10.5 @2008年11月時点: 偏距11,569 m、垂直深度1,103 m)

しかし、Extended Reach Drillingが一般的となった今日では、この分類はさほど用いられなくなってい

る。平均的な偏距は800~3,000 m程度であるが、中には、図3に示す1999年にBP Amocoが英国の

Wytch FarmのPoole Bayで掘削した10,728 mや、同じく1999年にアルゼンチンで掘削されたCullen Norte

1の10,560 mといった記録的な例もある。Extended Drillingが数多くかつ成功裏に実施されている地域と

しては北海、メキシコ湾、南シナ海そしてアラスカのMilne Point、Badami、Point McIntyreやNiakuk Field

がある。本邦で 初に適用され、かつ、 も偏距の長い坑井は1994年に旧帝国石油が福島県沖合の磐

城沖ガス田で掘削した偏距3,881 mの坑井であり(図4)、これは当時のアジア記録であった。 近の例

としては、ロシア連邦サハリン州におけるSakhalin-1プロジェクトのChayvo Fieldで2002年から掘削された

2坑となる(図5)。掘削リグは2002年6月に完成したChayvo Yastreb land rigを用い、8,000 m~10,000 m級

の偏距を持つExtended Reach Drillingが可能となった。

Extended Reach Drilling適用の基準として も大きなものは経済性であるが、Wytch Farmのように目

的層の上にヨットハーバーがある観光地であることから景観保護が主目的で選択された場合やChayvo

Fieldのように海洋汚染防止の目的で選択された場合もある。

図3 BPによるWytch FarmでのExtended Reach Drilling

出所: 石油技術協会資料より作成

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図4 磐城沖ガス田におけるExtended Reach Drilling

出所: 石油技術協会資料より作成

図5 Sakhalin-1プロジェクトのおける適用例

出所: 石油技術協会資料より作成

1-3. 目的

多くの場合は、ガスあるいは水のコーニング(水やガスの坑内への流入)問題を削減するために掘削

されている。また排油体積が大きいことから、浸透率の低い(タイトな)貯留層や重質油に対しては、生産

量を劇的に増加させるために有効となる。この排油体積を大きくとれることは、垂直井に水圧破砕法を適

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用するのに比べ、次の利点がある。

水平坑井では貯留層内を数 100 m に亘り掘削することは可能だが、水圧破砕ではフラクチャー

をそこまで延ばすことは困難である。

水平坑井では無限に近い圧力の伝導性(コンダクティビティー)を持っているが、水圧破砕法を

適用した坑井においては、割れ目に装填するプロパント(砂粒状の物質)によりコンダクティビテ

ィーが低くなる。

貯留層内応力に関係なく坑跡を制御できる。

選択的に水平区間を仕上げれば、コーニングを抑えることができる。

垂直なフラクチャーを持った油層、例えば米国のAustin Chalkでは、より多くのフラクチャーを横切る

ことができるため、生産性の向上が可能となった。

海洋油田においては、一つのプラットフォーム基地より複数の水平坑井を掘削することで、より広範

囲の貯留層をカバーすることができ、それによりプラットフォーム基地の数も減らすことが可能だ。今まで

述べた水平坑井の目的を図6 にまとめた。

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図6 水平坑井の目的

出所: 石油技術協会資料より作成

他の目的でも掘削されることがあるが、石油工学の見地からは、薄い貯留層でかつ、垂直浸透率/水

平浸透率(Kv/Kh)の値が 1 に近ければ近いほど、水平坑井の適用が生産性を示す Productivity Index

の比(Jh/Jv)の向上につながる(図7)。

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図7 貯留層の異方性の生産性への影響

出所: SPE 資料より作成

1-4. 掘削実績の傾向

米国オクラホマ州タルサの石油・天然ガス情報発信で定評のある PennWell 社の「Oil and Gas Journal

Energy Database」で水平坑井の掘削データを眺めてみると、以下の傾向が読み取れた。

坑跡と増角率の見地からは、Medium Radius と Long Radius が主流。90 年代より 150/100 ft 以上

の増角率が採れる Medium Radius が増えている。これは、掘削技術の向上に伴い、坑芯の傾斜

測定誤差を 小限にするべく、出来るだけ、曲線部の掘削長さを少なくする努力の表れである。

ほとんどの坑井が偏距/垂直深度 < 2、水平区間長さ/垂直深度 < 1 の範囲に収まる。一

方、垂直深度が600 m以浅の場合には、偏距および水平区間長さ共、垂直深度に比べて長く出

来る。

仕上げ法は、80 年代までは孔明管(スロッテッドライナー)を適用する坑井が過半数を占めたが、

その後は、裸坑仕上げが主流となっている。この傾向は、スロッテッドライナー仕上げ法におけ

る坑井の改修・刺激・廃坑ほかが困難なことによる。現在は、坑壁の崩壊による生産性の急激な

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減少が予想されない場合には、まず裸坑仕上げにて生産する。コーニング対策や坑井刺激が

必要な場合には、選択的な仕上げ方法を適用する傾向にある。

1-5. 掘削のリスクと経済性

垂直深度が深くなればなるほど、より長い偏距が得やすくなることは論を待たない。今日、一般的な

基準としては垂直深度の2倍の偏距は得られるとされている。しかしながら、例えば3,000 m先にターゲッ

トがある場合で垂直深度1,500 mのような浅い坑井の時に安全にかつ安価に掘削できるかというと、否と

いうしかない。

坑井の掘削にトラブルは付き物であり、それらのトラブルも坑井によって異なる。ここでは、垂直井で

もたびたび発生する一般的なトラブルではあるが、水平坑井掘削やExtended Reach Drillingで特に多く

発生するトラブルについて述べる。

① ホールクリーニング

水平坑井やExtended Reach Wellのような高傾斜井の場合には、堀くず(カッティングス)をいかに効

率良く地上に排出するかが大きな問題となる。カッティングスの排出が非効率的である場合には、坑内

に残ったカッティングスは坑内のローサイドに堆積しカッティングスの層を形成し徐々にダウンヒルへ滑り、

悪の場合には坑内ストリング周辺を閉塞してしまい、抑留(ストリングの揚げ降ろしができない)という厄

介な問題を発生させることがある。これを防止する も効果的な対策の一つとしては、定期的にストリン

グを揚降したり(ショート・トリップ)、回転させたりして堆積したカッティングスを機械的には排出することで

ある。

② トルク(torque)&ドラグ(drag)

この問題を簡単に説明すると、坑壁とストリング間で発生する摩擦によりストリングの回転や揚降が妨

げられることであり、傾斜井の掘削では避けて通れない問題である。この問題解決の糸口はいかに摩擦

力を小さく抑えられるかである。 も効果的な方法は摩擦力が も小さな値になるような坑跡を得ること

であり、過去の経験や適切なシミュレーションを行い、慎重に坑跡計算を行うことである。また、循環泥水

の潤滑性を可能な限り高くすることも重要である。

③ 掘進率の向上

Extended Reach Drillingや水平坑井掘削のような高傾斜でかつ掘進長さが長くなる場合、掘削ビット

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へ荷重を効果的に伝達できない場合が多い。また前述したカッティングスの坑内での停滞により、一度

破砕した岩石を再度粉砕しようとすることが起こり、効率的な掘進率が得られない場合が多く発生する。

この場合、ストリングは同じ位置で回転を繰り返す結果となり、坑井のローサイドに溝が形成され(キー・

シート)、揚管が困難になる場合がある。掘進率をいかに高めるかは掘削技術者の永遠のテーマの一つ

であり、大変難しい問題ではあるが、事前に 適な坑跡計算を行い,高いビット荷重を効率的に得られる

ようにすることが重要である。

④ ウェルコントロール

ウェルコントロール(坑井制御)とは、掘進中に異常高圧層に遭遇し、掘削泥水柱の圧力が地層圧力

よりも小さくなり、ガスや油または地層水が坑内に浸入してきた場合に安全に地上へ排出し、掘進を再開

できるようにすることである。この問題はExtended Reach Drillingや水平坑井掘削に限らず、垂直井にお

いても発生する厄介な問題であり、基本的な対策は同じである。しかしながら、垂直井の場合とは異なる

現象が発生する場合があり、注意が必要である。例えば、Extended Reach Wellや水平坑井における掘

進長さと垂直深度との関係は、垂直井の場合とは大きく異なる。例えば、Extended Reach Wellや水平坑

井のような高傾斜井の場合には、浸入する流体が存在する地層の長さが垂直井の場合に比して大幅に

長くなるために、浸入流体の量が多くなる。このため地上圧力や泥水の増加分から計算された浸入流体

の種類を間違え、ガスが浸入しているのにも係わらず地層水と判断してしまい、大きな災害を招く危険性

があるので十分注意すべきである。

また、Extended Reach Wellや水平坑井のような高傾斜井の場合の浸入流体の挙動が、垂直井の場

合とでは異なる場合が多く、計算と大きく異なる挙動を示すことがある。例えば、浸入流体を排出する際

に、ある一定の泥水が地上に循環された後に、浸入流体が地上に現れるのが通常であるが、計算よりも

早く出現したり、数回にわたり出現したりする場合がある。これらの現象は坑井の傾斜角や坑径、泥水性

状や地層圧力などにより異なる。これらの現象は浸入流体と掘削泥水との置換効率が垂直井の場合と異

なることが主たる原因であり、掘削技術者には細心の注意が必要となる。

このようにExtended Reach Drillingの適用を考える場合には、経済性や掘削リグの能力はもちろんの

こと、目標とする貯留層の深度や構造の大きさ、地層の種類や深度および地層圧力、また断層の位置な

どを十分に考慮した上での判断が重要なポイントとなる。

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2. 水平坑井の適用

2-1. 広い適用範囲

表1に示すように広い範囲(薄層、フラクチャー、コーニング対策、重質油、ガス層、水攻法、EOR/増

進回収法、砂岩、炭酸塩岩)に適用できる。適用に当たっては、貯留層の厚さ、孔隙率、水平浸透率がキ

ー・パラメーターとなる。

表1 水平坑井の広い適用範囲 出所: SPE 資料より作成

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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

地質環境へも幅広い適用事例が見られるようだ。

① Shallow Marine Deposits

② Marine Deposit

③ Turbidite Reservoirs

④ Deltaic Reservoirs

⑤ Fluvial Reservoirs

⑥ Naturally Fractured Reservoirs

⑦ Chalk Reservoirs

⑧ Carbonate/Limestone/Dolomite Reservoirs

2-2. 適用を考える際のスクリーニング基準

水平坑井の適用を考える際のスクリーニング基準は、次の 8 点にまとめられるのが一般的である。

① フラクチャーの大きさと方向は、フラクチャー型貯留層の生産性を検討する上で重要。フラクチャ

ーを垂直に横切った水平坑井は、多くの事例で回収率や可採埋蔵量を増やすことが知られている。

一方、フラクチャーに沿って掘られた水平坑井は、垂直井に比べ生産性は、さほど向上しない。

② 坑井間距離は、(排油体積を大きく取るため)垂直井よりも大きく取るとよい。もし、大きく取れないな

ら、生産量の上昇が掘削コストの増加に見合うかどうか見極める必要がある。

③ 水平・垂直方向の流体の動き(水平浸透率 Kh、垂直浸透率 Kv)や貯留層厚さ(h)も知る必要があ

る。水平区間長さ(L)は、少なくとも 6h√(Kh/ Kv)よりも大きいほうが、解析上望ましいとされる。

④ もし貯留層の上にガスキャップ、下に水層がなければ、貯留層厚さが 4 m 程度に薄くても、水平坑

井は掘削できる。

⑤ 一方、ガスキャップや底水層がある場合には、現状の掘削技術で貯留層を貫くには、水平坑井と

ガスキャップや底水層の間隔(図8)は少なくとも 5 m は必要とされる。

図8 水平坑井と底水層の間隔

出所: SPE 資料より作成

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⑥ 掘削前に、地層中の断層位置が検知できているのが望ましい。

⑦ 経済的に掘削できるかも検討ポイント。例えば、フラクチャリングされた垂直井のスキンファクター

が-2~-4 に留まる場合、水平坑井によって生産性向上が図れる場合がある。逆に言うと、フラクチ

ャリングされた垂直井の掘削・仕上げコストは水平坑井の 1/3 程度に抑えることが肝心である。

⑧ 水層やガス層のコーニング対策としての水平坑井を考える場合、事前に、臨界レートの解析や水

平坑井への水のブレークスルー時間の検討(水平区間長さが長くなるとブレークスルー時間が遅

くなる、流体の流入区間と貯留層厚さの比は重要なパラメーター)が大事である。

2-3. 計画する際の留意点

貯留層に対して、実際に水平坑井の適用を計画する際に、頭に留めておかねば情報は次の 9 点と

なろう。

① 掘削コストの試算(垂直・傾斜井と比較して): 洋上 1.2~1.5 倍、陸上の新掘 1.5~2.5 倍、陸上の

改修1~1.4 倍

② 投資(掘削・仕上げコスト)に見合う可採埋蔵量の確保

③ 地質的不確実性: 薄層の位置把握とその掘削は難しい。地震探査による頁岩に近い砂岩を認識

することも難しい。

④ 坑井のタイプ: 新掘/改修/マルチラテラル、垂直部のケーシング径、水平区間径(圧力損失、改

修の可能性)

⑤ 掘削デザインの柔軟性: 掘削中にターゲット深度や方位の変更余地を持つ。

⑥ 人工採油法の適用: 機器の設置位置(通常は垂直部の下部、曲線部や水平部に設置可能か?)、

人工採油法に用いられるポンプ(ESP/Electric Submersible Pump, PCP/Progressing Cavity Pump)

の運転性能

⑦ 坑井の仕上げ法: 裸坑/ライナー、チュービングの下端位置、コーニング抑制のための部分仕上

げ(図9)

図 9 ケーシングを下げ、区間毎に油層へ穿孔した水

平坑井の部分仕上げ

出所: SPE 資料より作成

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⑧ 貯留層: 生産レート、チュービングサイズ、可採埋蔵量の推定、コーニングや水付き対策、貯留層

障害(掘削泥水の選定)と坑井刺激(フラクチャリングや酸処理の必要性) 図10

図10 水平坑井への多段フラクチャリング

(丸印が各フラクチャリングのイメージ)

出所: SPE 資料より作成

⑨ 坑井試験/圧力解析(掘削後): 検層データ解釈による生産寄与区間の同定、垂直および水平浸

透率の評価、生産性の解析解を実データと比較検証、流動形態の把握(過渡状態、定常状態)

3. 我が国企業が経験したケースヒストリー

さて、上述した水平坑井の適用スクリーニング基準と計画時の留意点を参考に、我が国企業が経験

した水平坑井のケースヒストリーを次に紹介しよう。

3-1. 不均質炭酸塩岩油層の開発

(1) 油田概要

① 開発プロジェクト概要

旧ジャパン石油開発(JODCO)は、1963年に発見された可採埋蔵量世界第4位にランクされる超巨

大油田の上部層(上部ザクム油田 / Upper Zakum field)で操業している。上部層と下部層では油層性状

が大きく異なり、性状の良い下部層油田が先に開発に移行した。上部層油田は下部層油田よりも原始埋

蔵量が巨大であるが、浸透率が低く、水押しなどの排油エネルギーも低い。このため開発着手が遅れ、

利権保有者であるメジャー石油会社は技術的、経済的困難さから本油田の開発に参加せず、アブダビ

国営石油会社(ADNOC)とJODCOのみで開発を進めてきた。

開発には当初から水攻法が適用され、油田全体に展開する5点パターン水攻法と周縁水圧入法が

油層の特徴に応じて選定された。しかしながら、開発の進展に伴い新規掘削地点で得られた浸透率は

従前の推定値を下回ることが多く、目標生産能力を達成するためには、基本開発計画の見直しが必要に

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なった。主要油層に適用された5点水攻法パターン進化の 適化や、浸透率が極めて低いため水攻法

が全く働かない地域に対する新しい油層圧力維持方式の考案などが、油田開発の課題となった。

1991年、主要油層において圧入水のブレークスルーが観測され、次第にその数が増加していった。

この現象が想定よりはるかに早期に発生したため、それを引き起こした油層の不均質性の正確な把握と、

油層内の水の挙動を精度良く表現できる油層モデルの開発が重要な技術課題となった。この課題に取

り組むため、業際的アプローチによる油層キャラクタリゼーションが実施され、圧入水の挙動特性を解明

する新手法の開発も行われた。三次元地震探査(3 D震探)データを活用した油層特性把握技術の研究

が進められ、また、水平坑井の大々的な適用に加え、極低浸透率油層では炭化水素ガス圧入やCO2圧

入による開発技術の研究も進められている。

このような水攻法開発計画の 適化と回収率の向上を目指した技術的挑戦は、産油国パートナーお

よび旧石油公団TRCとの協力関係の基に推進されてきた。

② 地質概要

本油田はアラブ首長国連邦アブダビ市の沖合に位置し、その規模は東西50 km、南北30 kmであり、

約330 mの構造高さを有する。

下部白亜系の浅海成炭酸塩岩からなるタママ(Thamama)層群が油層であり、上位よりゾーンIからゾ

ーンIIIまでの3層に分けられる。主要油層であるバレーム期後期~アプト期前期のタママII層は層厚が

約40~45 mで主に石灰岩からなり、一部に薄い苦灰質石灰岩を挟む。本油層は低孔隙率の5枚のスタイ

ロライト(stylolite)層(S 1~S 5)により、上位からII A層~II F層の6つのサブゾーンに区分される(図11)。

図11 タママII層の検層、油層特性、岩相

出所: 石油技術協会資料より作成

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全体的に上方粗粒化を示し、下部のII F層とII E層は有孔虫を含み、基質支持組織(mud-supported

texture)を持つ石灰質泥岩(lime-mudstone)とワッケストーン(wackestone)を主体とする。中・上部のII D

層~II B層は、石灰藻類、ペロイド(peloid)、有孔虫などによる粒子支持組織(grain-supported texture)を

示すグレインストーン(grainstone)とパックストーン(packstone)からなる。 上部のII A層は厚歯二枚貝

(rudist)を含むグレインストーンとパックストーンからなる。

貯留岩性状は、孔隙率の変化に比べ浸透率の変化が大きいという特徴がある。孔隙率は油田東部

で平均25~30 %、西部で15~20 %である。浸透率は東部では5~400 md(局所的に8,000 md)と非常に

不均質であり、西部では5 md以下と低浸透率になる。

(2) 水平坑井の導入

水平坑井は安定生産や生産量増加に資する坑井で良好な費用対効果が得られる。本油田における

水平坑井の導入は1989年に始まり、その後の10年間で175坑が掘削された。これらの水平坑井は、1991

年に発生した油層の不均質性に起因する早期水つきへの対応策としても位置付けられている。

① タママII層における水平坑井の展開

水平掘削の技術進歩と諸問題解決を基に、本油田の主要油層であるタママII層における水平坑井

の変遷について述べる。

第1期(1989~95年) シングルラテラルスロッテッドライナー(single lateral slotted liner)仕上げ

タママII層のすべてのサブゾーンを単一の水平坑井で横断し、サブゾーン間のタイトなスタイロライト

の掘進長を 小化するために、水平坑井の軌跡を階段状にした(図12上)。水平坑井への孔明管(スロッ

テッドライナー)の降下およびコイルドチュービングによる酸処理などの作業にトラブルの発生は無かっ

た。水平坑井の掘削技術の改善により、坑井費用は大幅に削減された。

第2期(1995~98年) マルチラテラル(multi-lateral)裸坑仕上げ

掘削技術の改善により、それぞれ性状の異なるサブゾーンに適切な長さの枝孔水平坑を同一の坑

井から複数掘進し、各枝孔水平坑は各サブゾーンや同一のサブゾーン内に相反する方向に掘削するこ

とが可能となった(図12中)。これによって、水つき生産への対応と生産管理の 適化が図れると期待さ

れ、本期間中に55坑井が掘削された。しかし、タママII層に対するマルチラテラルの適用は、以下の理

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由により1998年に中止された。

タママII層の各サブゾーン間の圧力導通が判明。

枝孔水平坑に対する適切な酸処理、排泥作業、検層作業の実施が困難(コイルドチュービングの降

下が不可)。

枝孔水平坑に対する将来の改修と廃坑作業が困難(re-entryができない)。

それぞれの枝孔水平坑の生産管理が不可能。

第3期(1999年~) シングルラテラル裸坑仕上げ

上記理由から、タママII層の特定のサブゾーンに対する単一の水平坑が掘削され、裸坑で仕上げら

れるようになった(図12下)。スロッテッドライナーは、生産検層情報の入手が困難なこと、水平坑の下部

に排泥しきれない流体が残留することによる腐食が発生すること、将来の改修および廃坑作業が困難な

ことにより使用されていない。

図12 上部ザクム油田における水平坑井の変遷

出所: 石油技術協会資料より作成

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裸坑仕上げではコイルドチュービングを使用する酸処理、排泥作業、検層作業の実施が困難である。

この解決策として以下の対策を講じ、改善を図られている。

掘削計画を含め、水平坑井の軌跡管理(増角率、変角率の見直し)と水平掘削長さの 適化。

酸処理の代替および補助として、掘削泥水による生産障害の排除に有効なエンザイム処理の適

用。

大口径コイルドチュービングの使用や新坑内機器の導入など、コイルドチュービング関連技術の改

善。

3,000 ft水平坑井2坑でのライナー仕上げの試行(セメンチング、穿孔)。

② マルチラテラルタイバックシステム

タママII層の上位にはタママI A層があり、両油層は同一の坑井で2層仕上げされている。タママI A

層にも枝孔水平坑が掘削されているが全て裸坑仕上げであり、タママII層のマルチラテラルの枝孔水平

坑と同様に酸処理、生産情報入手、生産管理、将来の改修および廃坑作業の実施が困難である。マル

チラテラルタイバックシステム(MLTBS:multilateral tieback system)はこれらの問題を既存坑井で解決す

るために開発され、現場で試行された。

実施形態および期間

JODCO、旧石油公団TRC、およびZADCOの3社が、新システムの開発指針、デザインコンセプト、

現場作業手順および緊急時対策を共同立案し、Sperry Sun Drilling Services社が必要な機器の開発設計

を担当した。上記の4社に加えて油田の共同事業者であるADNOCと、掘削作業を請け負っている別の

操業会社であるADMA-OPCOが本プロジェクトに参画した。本プロジェクトの達成には3年を要した。

技術水準

本油田で実施されたMLTBSは既存坑井での事例としては世界初であり、テクノロジーアドバンスメン

トマルチラテラル(TAML)のレベル5( 高位)を達成した。TAMLコンソーシアムは、大手および有力独

立系石油会社が積極的に開発を推進している水平坑井の技術水準(レベル1~5)を定義している。レベ

ル5は特殊仕上げにより分岐部分の圧力遮断を確実にした水平坑井である。

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結果

コイルドチュービングを水平坑井の坑底まで降下することが可能となり、効果的な酸処理が実施でき

た。酸処理後の生産量は酸処理前と比較して、タママI A層で5倍,タママII層で2倍に増加した。また、生

産検層(PLT)による坑内への流体流入分布情報の入手が可能となり、油層モデルなどに反映された。

通常の既存坑井の水平化作業と比べ、穿孔作業および追加坑内機器などのために、約US$2百万の追

加投資が必要となった。

今後の展開

タママ I A 層に続いて、II 層に対する MLTBS 化,および二次的な枝孔水平坑の掘削を検討し実施

する(図 13 右)。二次的な枝孔水平坑とは、MLTBS の水平坑から更に魚の骨状に掘削する枝孔水平坑

を意味し、MLTBS と同じ技術水準を目指す。

図13 MLTBS 現状(左)と今後(右)

出所: JOGMEC R&D 推進部資料より作成

3-2. SAGD(Steam Assisted Gravity Drainage)法の操業

カナダの現地法人JACOS社は、1999年よりアルバータ州アサバスカ地域のHangingstoneフィールド

にて、SAGD法といわれる回収法でオイルサンドから重質油の一つであるビチュメンを生産している。

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(1) SAGD法のメカニズム

オイルサンド中に存在するビチュメンは非常に粘性が高く、初期油層条件下で1,000,000 cPにも達す

る。この高粘性重質油を効率的に回収する熱回収プロセスとして、1978年にButlerが提唱した方法が

SAGD法である。

SAGD法メカニズムを図14に示す。水平坑井を上下数 m間隔に2本掘削し、上部水平坑井(圧入井)

から高温蒸気を圧入する。圧入蒸気は周囲に熱を伝播しながら上昇し、油層上限を覆う帽岩や油層中の

介在泥岩などによって上昇を妨げられて凝縮水に変化する。この凝縮水と共に伝播熱によって粘性が

低下したビチュメンが、境界面に沿って重力で下部水平坑井(生産井)に向かい、混合流体として生産さ

れる。ビチュメンを生産することで油層内に空隙が形成され、蒸気を連続的に圧入することが可能になり、

回収が継続される。

図14 SAGD法メカニズム

出所: 石油技術協会資料より作成

このように、SAGD法とは圧入蒸気とビチュメンの比重差を利用した回収法であり、基本的な排油エネ

ルギーは重力となる。

SAGD法の第一段階として、まず圧入井と生産井内に高温蒸気を循環することによって、坑井周辺の

油層を加温し、周辺流体の粘性を低下させる。これは初期循環作業と呼ばれ一般に3ヶ月間程度行われ

る。その後、圧入井から蒸気を継続的に圧入することによって、本格的にSAGD法が開始される。生産中

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の生産量のコントロールは、圧入蒸気温度と生産流体温度の差(サブクーリング;sub-cooling)を所定の

目標値に調整することによって実施されるが、これはスチームトラップコントロール(steam trap control)と

呼ばれる。SAGD法によるビチュメン生産の成否は、スチームチャンバー(steam chamber;高温蒸気の通

過部分)の成長をいかに効率良くコントロールできるか、すなわち投入熱エネルギーをいかに効率的に

油層に伝播できるかということにかかっている。その観点から、サブクーリングの適正化は非常に重要で

ある。例えば、スチームチャンバーが生産井に到達しスチームのブレークスルーが発生すると、投入熱

エネルギーが地上に流失してしまう。サブクーリングの適正値は圧入蒸気温度、油層条件、操業経過時

間などによって異なるため、生産挙動を監視しながら経験的に決められるが、一般に10~30℃と考えら

れている。

SAGD法実施坑井の典型的な生産挙動を図15に示す。生産挙動は主に三つの区間に大別できる。

図15 SAGD法実施坑井の生産挙動

出所: 石油技術協会資料より作成

SAGD法を開始すると、圧入蒸気が上昇しスチームチャンバーが形成され始める。油層上限などでス

チームチャンバーの垂直方向の成長が規制されるまで、ビチュメンの生産レートは数カ月間にわたって

徐々に上昇する(区間①)。油層上限に到達するとスチームチャンバーは水平方向に広がり始める。この

間、ビチュメン生産レートはピークレートを維持する。ピークレートは層厚、水平区間長さなどに依存して

いる(区間②)。水平坑井1ペア当たりの排油エリアの境界条件を閉境界と仮定すると、境界到達後、ビチ

ュメン生産レートは減退傾向を示す(区間③)。閉境界は、隣接ペアのスチームチャンバーが均一に成

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長し、水平坑井の全区間にわたって同時に接触する状況を想定している。しかしながら現実のフィール

ドでは、スチームチャンバーは不均一に成長し隣接ペアと部分的な干渉を起こすため、現実の生産挙

動は区間②と③の区別が難しく、②と③の区間を通じて徐々に減退すると考えられる。

(2) 水平坑井の掘削

① 坑井デザインと掘削作業

SAGD法では、圧入井と生産井それぞれ1本ずつ、合計2本を1ペアとした水平坑井が掘削、配置さ

れる。圧入井と生産井の水平区間は、上下5 m程度の垂直距離を保って平行に掘削、配置される。それ

らの水平坑井のイメージを図16と図17に示す。

図16 SAGD法の水平坑井イメージ(1)

出所: SPE 資料より作成

図17 SAGD法の水平坑井イメージ(2)

出所: SPE 資料より作成

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水平部には、ケーシングをベースパイプとしたワイヤーラップド・スクリーンパイプが設置される。ま

ず生産井となる水平坑井が、ステアラブルモーター、MWD(measurement while drilling)、LWD(logging

while drilling)などを用いた通常の水平坑井掘削の手法により、所期の位置に掘削され仕上げられる。カ

ナダのアルバータ州アサバスカ地域は極地かつ磁気嵐地域であるために、方位測定には特別な考慮

が必要となる。その5 m程度上方に正確に配置される圧入井は,生産井のプロダクションチュービング内

にワイヤーラインと共にポンプダウンされるMGT(magnetic guidance tool)から発信される強い磁気信号

をMWDが追従することで、生産井との相対位置を検知しながら掘削される。

サーフェスケーシングをセット後、キックオフし水平まで増角し、ヒール部に中間ケーシングをセット

する。水平仕上げ区間は、LWDにて地質状況をモニターし、坑井位置を 適化しながら掘進する。オイ

ルサンド層の掘進時は、温度上昇による坑内状況の悪化を防止するために、泥水冷却装置を使用する。

その後、プロダクションライナー(スクリーンパイプ)、プロダクションチュービング、必要に応じてコイルド

チュービング、サーモカップル(坑内温度測定器)などがセットされる。

垂直深度約300 mに、水平区間長さ 大1,000 m、掘止深度 大1,600 m程度の水平坑井を掘削す

るので、水平区間掘進編成およびプロダクションライナーは自重では坑内に降下しない。このため、掘

削リグにはプルダウン機構(フックブロックを下方に引張るウインチ)が装備されている。

垂直深度約300 mまでに坑跡を水平にする必要があるため、以前は坑口を30度傾斜させて開坑(スラン

トスパッド;slant spud)していたが、 近の十分なエンジニアリングの結果、平均増角率を増加することに

より、現在は垂直坑口で開坑(垂直スパッド)している。このいわゆる垂直スパッドの採用により、坑井方

位に左右されない掘削リグ配置の 適化、隣接井リグ移動時間の短縮、およびパイプハンドリング時間と

坑口作業時間の短縮が可能となり、掘削コストが大幅に削減された。

② 掘削リグ

使用されるリグはパッドリグで、櫓部分とセンターコンソールに分かれ、それらはスーツケースと呼ば

れるコネクターで接続されている(図18)。

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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

図18 パッドリグ配置の例

出所: 石油技術協会資料より作成

スーツケースは 長75 m程度で、これが届く範囲内の隣接井掘削では、坑井間移動時にセンターコ

ンソールを全く移動せずに、トレーラーマウントの櫓とその周辺機器のみが移動する。これにより、隣接

坑井間の移動時間が大幅に短縮され、また掘削泥水などの再利用が効率的に行われるので、掘削コス

トが削減できるのだ。その他、トップドライブシステム、プルダウン機構、パイプハンドリングシステム、櫓

スラント機構など、垂直深度の浅い水平坑井を効率的に掘削するための装備を有する。

現在、17ペアの水平坑井により生産操業が行われている。

③ 課題

本格的な商業開発をする場合には更なる掘削コストの削減が必要である。そのため、一坑井基地当

たり坑井数の 大化、垂直スパッドの採用、また掘削リグとサービスリグの同時稼動によるいわゆるバッ

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チドリリングの採用が考えられる。バッチドリリングでは、リグ能力に応じて浅部掘削、深部掘削およびプ

ロダクションライナー設置作業、チュービング設置作業などを分担し、プロジェクト全体として掘削コストを

削減するものである。

坑井デザインの面では、プロダクションライナーのサイズとタイプの 適化が課題である。また、す

でにスチームが圧入されているエリアでの効率的掘削作業や改修作業なども重要な検討課題となる。

(3) 生産プロセス

JACOS社のHangingstoneフィールドの中央プラントを生産施設の例として紹介する(図19)。JACOS

社では2ステージに分けて、地上施設を建設した。1999年に稼動したステージ1施設は既存施設の改造

であり、一方2000年に稼働したステージ2施設は新設である。各ステージはそれぞれ日産2,000 bblと

8,000 bblのビチュメン処理能力を持ち,合計で10,000 bblとなっている。

図19 HangingstoneフィールドにおけるSAGDプラント

出所: 石油技術協会資料より作成

SAGD法は油層内回収であるため、露天掘りと比較して環境保護の観点から優れているが、アルバ

ータ州の環境基準は厳しく、大気放散、給水、坑廃水、産業廃棄物など、外部への影響を極力減らすこ

とが要求されている。さらにHangingstoneフィールド固有の状況として、利用可能な給水取水量の制限、

および十分な容量を持つ廃水圧入層が近傍にないという事情がある。そのため水のリサイクルは必須と

なる。

また、本フィールドから産出されるビチュメンの密度は水のそれと非常に近いことが特徴で、油水分

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離に工夫を要する。当プラントでは、流体が高温になるほど油水間の密度差が大きくなることを利用して

ビチュメンと水を分離する高温分離方式を採用している。同業他社では、コンデンセートなどの軽質油を

混ぜることによりビチュメンの見掛け密度と粘性を下げて分離する希釈剤方式を採用しているフィールド

もある。高温分離方式は、操業時に運転圧力と温度を常に高くしておかなければならないが、希釈剤の

調達や貯蔵を考慮する必要がなくなるというメリットがある。

4. まとめ

以上見てきたように、水平坑井は、資源ピラミッド(図 20)の支配因子である回収率向上(技術革新)

に大きく寄与することがお判りいただけたと思う。即ち、80 年代から切磋琢磨し、蓄積された当該技術は、

坑跡制御や坑井刺激の技術進歩を背景に、排油エネルギーのサポートや、重質油・非在来型ガス・大水

深に眠る埋蔵量ほかをイージーに地下から採掘できる技術へと着実に育ってきている。

図20 資源ピラミッド

・ 地下資源の基本的性格を表す模式図で、元米国国立地質調査所の地質専門家マッケイブ氏が提案。

・ 上の方ほど品位が高く(優良な油田)、下の方ほど品位が低い(経済価値の低い、或いは技術的に生産が困難な油

田)資源が存在。

・ 一番上の濃い色の三角錐の体積が既に生産(消費)してしまった量、その下のやや濃い色の台形状の部分が現在採

ることができる埋蔵量を表し、一番下の大きい台形状の部分がこれから追加されて来るだろう埋蔵量(条件付き資源量

および想定資源量)を表している。時間と共に各陵が矢印の方向へそれぞれ独自の速度で動いていくが、それによ

って真ん中の台形の底面が広がり、同時に既存消費量の一番上の体積も増大する。従って、真ん中のやや濃い色の

台形状の体積、即ち可採埋蔵量は、各陵が下がる速度と一番上の三角錐が拡大する速度の差によって、大きくなっ

たり小さくなったりするが、一番上の三角錐が全体のピラミッドの底面に達したところで消滅、即ち資源が枯渇する。

・ 右側の数字は、現在の事実上の石油業界標準である米国国立地質調査所の究極可採埋蔵量評価(2000 年)の平均

値。

以上

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<参考資料>

・ 石油技術協会「 近の我が国の石油開発 石油技術協会創立60 周年記念」、1993 年5 月

・ 石油技術協会「石油・天然ガス資源の未来を拓く - 前線からのメッセージ- 石油技術協会創立 70 周年

記念」、2004 年11 月

・ SPE / Joshi Technologies International 「Reservoir Aspects of Horizontal and Multilateral Wells」、2008 年9 月

<参考技術情報>

水圧破砕(フラクチャリング)とは、人工的にフラクチャーを形成・伸展させ、流体の流路を確保することをいう(図a)。

フラクチャリングの基本的なコンセプトを次に示す。

1) 高粘性流体であるジェル(図b)を圧入して岩石を破砕し、フラクチャーを形成する。

2) ジェルの圧入を続け、フラクチャーの長さや幅を大きくする。

3) 形成されたフラクチャーを半永久的に支持するため、プロパント(図c)と呼ばれる砂粒状の物質を徐々にジェ

ルに混ぜ圧入する。

図a フラクチャーの伸展 図b ジェル

図c プロパント

出所: 石油技術協会資料より作成

4) プロパントの濃度を徐々に上げる。

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5) 規定量のプロパントを送り終わったら、圧入ポンプを停止する。

6) 圧入されたジェルは熱により分解され地層に浸み込むため、形成されたフラクチャーは徐々に閉じようとする。

7) しかしながら、プロパントがフラクチャーを支持し完全に閉じるのを防ぐので、ガスの流路が確保される。地層

の小さな隙間に溜まっているガスは、フラクチャーを介して坑井内に流れ込み、高い生産性を確保することが

できる。

フラクチャリング作業時の地上設備の例を図dに示す。フラクチャーを形成するためのジェルを貯めるタンク(①)、

プロパントを貯めておくサイロ(②)、プロパントとジェルを混ぜ合わすブレンダー、そして高圧で圧入するための多

数のポンプ(③)が基本的な装置類である。さらに圧力や圧入レートをモニターし、指示を出すためのコンピュータ

ーを装備した指令室も必要となる。

図d フラクチャリング時の地上設備

出所: 石油技術協会資料より作成