「為替換算損益に関する法人税上の取扱について」-イ url doimeiji university...

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Meiji University Title �-�- Author(s) �,Citation �, 70: 71-90 URL http://hdl.handle.net/10291/4651 Rights Issue Date 1991-06-30 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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Meiji University

 

Title「為替換算損益に関する法人税上の取扱について」-イ

ギリスにおける現行税法上の基準を中心として-

Author(s) 近田,典行

Citation 経理知識, 70: 71-90

URL http://hdl.handle.net/10291/4651

Rights

Issue Date 1991-06-30

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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一 「為替換算損益に関する法人税上の取扱いについて」一 71

「為替換 算損益に関する法人税上の取扱いについて」

一イギリスにおける現行税法上の基準を中心として一

〇ntheCorporationIncomeTaxofForeignExchangeGainsandLosses

-EspeciallyontheBasisoftheTaxsystemforCurrencyfiuctuationsi皿theUK-

近 田 典 行

目 次

1は じめに

皿 イギリスの為替損益の課税 原則

皿 課税所得 と会計関連規定

IV為 替換算損益の課税実践 と問題点

(1)イ ギ リス内国歳入庁SP1/87の 見解

② 為替換算損益課税上の問題点

Vお わ りに

工 は じめに

IMFの 体制の下で,長 い間 とられてきた固定相場制が,ニ クソン ・シ ョッ

クをきっかけに して変動相場制 に移行 して久 しい。そのシステムは,経 済面,

政治面などでさまざまな問題を生んできたことは周知のことである。

今 日,企 業活動における国際間の取引が盛んになればなるほど,企 業の業績

に対する為替変動の影響は深刻 なもの となっていることはいうまで もない。 し

たがって,企 業の意思決定にその問題は深 く関わって くることになる。

法人税 もまた,企 業の生産活動や投資活動 における意思決定 と強 く結び付い

てお り,変 動相場制は,企 業への課税における為替損益の取扱い という重要な

検討課題をわれわれに提供 した。

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72-一 経 理 知 識一

本稿では,為 替損益の課税に関する個別の法律をもたず,イ ギリスの課税原

則にもとついて,裁 判所が個別に判断 した結果を集積 した判例法により課税問

題の処理を行っているイギリスの法人税制度を中心1…,変 動相馴 下の鰭 損

益 の 課税 につ い て検 討 す る。

特 に,イ ギ リス の 内 国 歳 入 庁(theIn}andRevenue)が,1984年 に起 こ っ た

PattisonV.MarineMidland事 案 を受 け て 公 表 した 貿 易 業 者 に 対 す る 課 税 上 の

一 般 指 針 を 明確 にす る た め のStatementofPractice1/87(以 下,SP1/87と 記

す 。)を 題 材 に す る。

具 体 的 に は,ま ず,イ ギ リス に お け る 為 替 損 益 に 関 す る課 税 原 則 を考 察 す る 。

そ して,税 法 上 の所 得 と会 計 関 連 規 定 の 関 係 を明 らか に した う え で,課 税 所 得

の計 算 に深 く関 わ る会 計 上 の 利 益 算 定 の た め の 会 計 関 連 規 定,イ ギ リス会 社 法

(CompaniesAct)と イギ リス の 会 計 基 準 委 員 会(AccountingStandardsCom・

mittee;ASC)が 起 章,作 成 したSSAP(Stateme皿tsofStandardAccounting

Practice)の 為 替 換 算 損 益 の認 識 に 関 す る規 定 につ い て 分析 検 討 す る 。 さ ら に,

そ れ をふ ま え て,最 後 に,sP1/87の 見 解 を軸 に して,為 替 損 益 の 課 税 所 得 計

算 上 の 取 扱 い に 関 す る 問 題 点 に つ い て 考 察 す る 。

(注)

1)DerekA.Ross,TheUKTaxationOfModernFinancial∬nstruments&Transac-

tions,London,CassellEducationalLtd,1989,P.5.

皿 イギリスの為替損益の課税原則

繰 り返 すが,も とも とイギ リスで は,外 国為 替損 益 の課税 を取扱 う個別 の法1)

律 は な く,判 例 法 に よ りそ の処 理 を行 っ て い る。 そ の よ うな 中 で,為 替 差 損 益

に 関す る取 扱 い につ い て は,以 下 の よ うな 三 つ の原 則 が あ り慣 行 と され て きた 。

一 つ め の 原 則 は,営 業 取 引 に関 連 す る為 替 差 損 益 とキ ャ ピ タル ゲ イ ン ・ロ ス

(capitalgainsorIosses)取 引 に よ る為 替 差 損 益 に分 け6 ,,こと を内 容 とす る も

の,そ して,二 つ め の 原 則 は,期 末 にお け る換 算( .translation)損 益 は,営 業

取 引 に 関 連 す る もの で,会 計 上 も損 益 と して 計 上 され て い る場 合 に は税 務 上 も

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一 「為替換算損益に関する法人税上の取扱いについて」-73

損益 と して認 識 す るけ れ ど も,そ れ以外 は,原 則 と して決済(conversion)さ

れ るまで認 識 しな い とい う もの,最 後 に,三 つ めの原則 は,営 業取 引 に関連す

る もの か否か の区分 につ いて,例 えば,固 定資 産購 入 の ための借 入金 に生 じた

換算 差損益 は,固 定資 産購 入 とは別個 の営 業取 引 に関連 しない取 引で あ り,し2)

たが って キ ャ ピタル ゲ イ ン ・ロス取 引 とす る とい う もの であ る。

最初 の原則 は,会 計 上 の一 年基準 に よる長期 ・短期 とい う ような形式 的 な区

分 に もとつ くもので はな く,ま ず営 業取 引 かそ れ以外 の取 引 か とい う実質 的 な

区分 に もとつ い て,税 務 上,個 別 会 社(individualcompanies)の 貨 幣 項 目か

らの為 替差損益 を取 扱 ってい る点 に特徴 が あ る。 この判 断 は,個 々の具体 的 な

事実 関係 に照 ら して行 われ る。 そ して,営 業 取 引に関す る もの は,税 務上 シ ェ3)

ジ ュール(Schedule)Dの ケース(Case)1に 区分 され る ことになる。

二 番 目の原則 は,税 務 上 の課 税所得 計算 の原 則的 な方 法 を述べ た もので あ る。

会計 関連規定 と課税所 得 の計 算 との関係 につ いての基 本 的な考 え方 を示 した も

ので あ る。課 税所得 は,会 計 上 の利 益(税 引前 当期利益)を 基準 と して,税 務

上の加 算 ・減 算 を通 して計 算 され る ことか ら,会 計上 の利益 を求め るた めの基

準 とは不可分 で あ る。

最後 の原則 は,一 番 目の原則 と結 び付 いて,営 業取 引 とキ ャピ タルゲ イ ン ・

ロス取 引 の区別 基準 を明確 化す る もので あ る。

ただ,イ ギ リスで は キ ャピタルゲ イ ン ・ロスの意 味 を資 産 の譲渡 に関す る所

得 と定義付 けてい る。 したが って,営 業取 引以外 の取 引 に よる債務 か らの損益4)

は,所 得 もキ ャピタル ゲ イ ン ・ロス も構成 しない とされてい る点が独特 で あ る。

その結果,例 え ば,イ ギ リスで批 判 の多 か った長期 外貨 建借 入債務 の換 算差損

の損 金不 算入 の問題 の よ うな,会 計 上の換 算損益 が税務 上課税 所得 に勘案 され

ない とい う事 態 を生 んで きた。 そ れが,後 に述べ るPattisonV.MarineMid-5)

land事 案 の背景 ともな って い る。

以上 の原則 は,一 に換 算損益 の税 務上 の取扱 いにつ いて,営 業取 引 に関連 し

た貨 幣項 目(例 えば売掛 金 や買掛 金等)と それ以外 に分 け,後 者 につ いて は,

その内資産 か ら生 じた換 算損 益で あれば キ ャ ピタルゲ イ ン ・ロス と して課税所

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74-一 経 理 知 識一一

得 計 算 に も りこ まれ る とい うこ と,そ して,二 に,さ りとて会計上損 益 と して

認 識 され,当 期 税 引前 利益 の計 算 に加減 され なけ れ ば,税 務 上 いか に も しが た

い とい うこ とを内容 と して い る。(図 一1参 照)

次 章で は,そ の う ち特 に後 者 の原 則 につ い て検 討 す る。

換算損益く図1>

法人税(判 例法)SSAP20CA附 則4の12

1艦鞭 ㌦li;:]=欝

(注)

1)Ibid.,P.5.

2)平 石 雄一 郎 稿r為 替 損 益 に 対 す る主 要 諸 国 の税 制 』 「租 税 研 究 」445号,昭 和61年

11月,29頁 。

3)Ibid.,p.5.

イギ リ ス で は,会 社 の 所 得 は,以 下 の よ うな 「シ ェ ジ ュ ー ル」 と よ ば れ る 区 分

(A,B,C,D,E,Fの6区 分)に 分 け られ る。

〈シ ェ ジ ュール 〉 〈対 象 所 得〉

A 英国にある不動産からの賃貸料収入及びプ レミアム

B 森林所得

C 国又は地方 自治体債券か らの利益

Diケ ー ス ・

i

i

i

i_._____.

iケ ー ス 皿

i.一__一__._一 ー

iケ ー ス 皿

英国居住者の事業からの利益及び非居住者の英国内

における事業からの利益(事 業の定義 は法令上明確

ではな く,判 例によっている。)・ 鯵'・ ・ ユ.傷 ■ 一 工'・ 工.ユ ・.・ 一 ■..ユ ユ ・..頃 ・ 一 ■ ・ 」 ■4・ 一 工.ユA工s≠ ・ 工Lユ ● ← ・ 杳 ← 一'ユ ●,一 一 ← 一 ≡_≡ 一 一_≡ ≡ 一 ≡ 一

英国及び海外での専門的業務から得 られた利益一 ● 一 一 ・ 一 ー 一 ■ 一 ● ● 一 一 ■ 一 ー 一 ■ 一 ● ● ● 一 一 ● 一 ■ 一 ● 一 ■.・ ■ 一 ■ ■ ⇒ 一 ■ 一 ・ ● ● 一 一 ● 一 一 ● 一 ー ー ー ー ー ー 一 ● 一 一 ● 一 一'一 一 ■ ● 一 一 ●

利息,年 金,ロ イヤルテ ィー及びその他 の年次 支払

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一 「為替換算損益に関する法人税上の取扱いについて」一 75

I

I

1

8

1

1

1

,

金 で上記 シェジ ュールCに よって賦 課 されて いない

ものL______ ■'■ ● ● 一 ■ 一'・ ■ 一.---■ ■ 一 ● 一 一 一 口-■ 一 一 一 一 冒'.白 ・ 冒 … 一'・ 冒 ・ …'一 ■ 一 一.一 一-● ■ ● ■ ● ● 一"■ ● ● ● ● ● ■ ● ●

1ケ ー ス 】V海外での抵当証券,債 券等か らの所得

L____._一 一 一 七_一 一_一,,・ 一,.^・.一 よ 一 ユ.■ 一 一.一 ・ 一 ー ー ー ー ー 一 一 ■ 一 一 ■ 一 層 一 一 ー 一.一 層 エ ユ 一 一 ・ ユ ・.→ ・--≡,_一 一_一 一__≡ 一_-

iケ ー スV

i

i

海外にある所有物(株 式,不 動産等)か らの所得及

び海外事業か らの所得L_____,.一 →,F-'一 ← ←',"一 一 ≡ 一 一'一 一'一 ≡ ≡ ≡ ≡ 一'一 ≡ 一 一 一 ≡ 一 ー 一 一 ー 一 一 ー 一 一 ≡ 一'一 ≡ ≡ ≡ ≡ 一 ≡ 一 ← 一 ー 一'一 一 ←'一'一 合 一 一 ← ← ←

iケ ー スV【

ii

所得 の性格 を もった年次 の利益 で,他 の シェジ ュー

ルに よって賦課 されていないすべ ての所得

E 雇用所得

F 英国法人税の納税義務 を負 う英国法人からの受取配

[引 用 文 献]ト ー マ ツEC統 合 チ ー ム編fEC加 盟 国 の 税 法」 中央 経 済 社,平

成2年4月,57頁 。

4)「 前掲 稿 」,29頁 。

「前掲 書i,54・-55頁 。

Ibid.

5)「 前 掲 稿 」,30頁 。

Ibid.,pp.13-14.

皿 課税所得と会計関連規定

法人税における課税所得は,会 計上の利益,ま たはそれを算定するための規

定,つ まり会計関連規定 とどのような関係にあるのであろうか。

武田(昌)教 授が 「法人税における課税所得は,基 本的には企業における利

益を基礎 として算定するのである。この意味では,企 業会計において利益 とい

えないものに対 し課税することはできないことになる。法令上,特 別の規定が

存 している場合はともか くとして,単 なる税法の解釈 をもって,企 業会計にお

ける利益概念からはみ出ているものを課税所得に取 り込むことはで きないので1)

ある。」 と述べ られているように,会 計基準 と税法上の所得の関係は,基 本的

に不可分であるといえる。それゆえ,会 計上の損益認識に関する基準について

検討することがまず求められる。よって為替損益の課税問題についてもまずそ

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76一 経 理 知 識一

こか ら考 察す る こ とにす る。

イギ リスで は,貿 易会 社 につ いて,固 定 項 目に属 す る と判 断 され る もの を除

く為 替換 算差 額勘 定 は,会 計 上 損 益 と して計 上 され る場 合,課 税 上 も企業損 益

と して認 識 され る こ とが 先 で記 した よ うに長 い 間慣 行 と され て きた。 つ ま り,

ロス(DerekA.Ross)も い う よ う に,事 業 所 得 に 関 わ る為 替損 益(決 済損 益

と換 算 損 益 を含 む。 ここ で は後 者 を問 題 とす る。)は,会 計 上 の取 扱 い に準 じ2)

るということである。会計上認識 されない ものに税務上課税するわけにはいか

ないのである。それは,す なわち会計上の損益≧課税所得 という関係 を意味 し

ている。(表 一1参 照)

表一1課 税所得の計算

税引前利益

申告調整[藁

事業所得以外を除外

受取配当金益金不算入

差引:事 業所得

前期繰越損失控除

事業所得以外 を加算

所得合計

所得 に対するチ ャージ

キャピタル ・ゲイン加算

課税所得

×××

(+)

(一)

(一)

(一)

×X×

(一)

c±)

× ××

(一)

(+)

×××

[引用 文献]ト ーマ ツEC統 合 チ ー ム編 『EC加 盟 国 の税法』 中央 経 済社,平 成2年4月,

55頁 。

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一 「為替換算損益に関する法人税上の取扱 いについて」-77

イ ギ リ ス の 内 国 歳 入 庁 の 見 解 で も,具 体 的 に は,SP1/87のpara.8とpara.

9に 記 さ れ て い る よ う に,会 社 法 お よ び 「一 般 に 認 め ら れ た 会 計 原 則

(generallyacceptedaccountancyprinciples)」 に も と つ い て 計 上 さ れ た 為 替 損3)

益 は,課 税 上 も所得 の計 算要素 と して考慮 され る と してい る。特 に,為 替損益

につ いて考慮す る場 合,「 一般 に受 け入れ られた会 計原則」 と して重要 なの は,4)

SSAP20号 と各 業界が公 表す る会計慣行 であ る とされ る。

また,イ ギ リス会 社 法 の 附則 に規 定 されて い るGAAPを 構 成す る もの と し

て,為 替換 算 損益 に関 して も,イ ギ リス会計 基 準委 員会(ASC)が 起 草,作5)

成 したSSAP20号 で あ る と一般 に考 え られて い る。

その ような こ とを勘案 す ると,課 税 所得 の計 算 に関 して,会 計 方法 の選択 が6)

重要 な役 割 を演 じるこ とに な る。 したが って,イ ギ リス会 社 法 とSSAPの 規

定 にお ける為替換 算損益 の認識 に関す る基準 の内容 をまず明確 に理解 す る こ と

が 必要 となる。

ところで,イ ギ リス会社 法 は,1948年 会社 法 を基本 法 ・総括 法 と して,そ の

後1985年 の新 たな総 括 まで立法 を重 ね て きた。 さ らにEC指 令 との調和化 推進

の結果 と して1989年 会社 法 まで新 た な立法が な されて い るが,イ ギ リス会社法

上,利 益 分配 に関す る直接 的な個 別規 定 が初 めて設 け られたの は1980年 の会社

法 の改 正 にお いてで あ る。その よ うな改 正の動 きは,EC統 合 と相侯 って,大

陸系 商法の もつ債 権者保 護の考 え方 が,EC指 令 とい う形 で影響 しての もので

あ る。会社法 中 に実現 ・未 実現 自体 の具体 的意味 につ いて規定 されて はい ない

が,そ れは,1985年 会社 法 の 附則 第4第12項 で,「 貸 借対 照 表 日に実現 した利7)

益 のみ が損 益 計 算書 に計上 され な けれ ば な らない。」 と し,実 現利 益 の みが分

配利 益 とされ る ことが定 め られ た。

一 方,イ ギ リスの会 社法 には,「 真 実 かつ公 正 な る概 観(trueandfairview

;TFV」(1985年 会 社 法第228条2項)と い う固有 の規 定 が存 在 して い る。 こ

の 規定 の趣 旨 は,EC第4号 指 令 に取 り入 れ られ て お り,逆 に イギ リス側 が

EC指 令 に影響 を与 えた もの として位 置付 け られて い る。

為 替 換 算 損 益 につ い て は,貨 幣 項 目(monetaryitems)に 短 期 貨 幣 項 目

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78一 経 理 知 識一

(short-monetaryitems)と 長 期 貨 幣 項 目(long-monetaryitems)の 二 つ が 含

まれ る 。 後 者 の 換 算 損 益 の 計 上 に つ い て は,会 社 法 の 附 則 第4第12項 に よ れ ば,8)

決 済 され る まで は未 実 現 利 益 と して そ の 計 上 が 否 定 され る。 さ らに,慎 重 性 の

概 念(prudencec凹cept)の 観 点 や そ の 流 動 性(convertibility)の 疑 義 か ら問9)

題 あ る場 合 に は,SSAP20号(para.50)で も,特 別 の 配 慮 が 容 認 さ れ て い る。

また,武 田(昌)教 授 が 「法 人税 の立 場 か らは,租 税 の 負担 に堪 え うる所 得 と10)

は,法 人が 自由に処分 しうる利益 を指す もの」 といわれるように,課 税所得の

その ような性格か らして未実現 の利益 をそこに含めることについては問題あ り

との主張 もある。

それで も,決 算 日レー トでそれ ら貨幣項 目の換算が行 われるのは,外 国為替

にまつ わる企業活動 を適切 に開示するとい う企業会計 の最高規範であるTFV

の達 成 の た めで あ る。 具体 的 に は基礎 概 念 と して あ る発 生 主義(accrual

basis)の 考 え(SSAP2号 のpara.14,会 社法附則第4の10~14)や 直接的 に11)

はSSAP20号(para.48),会 社 法 の 附則 第4第15項 を根 拠 に して行 わ れ る。

会 社 法 附 則 第4第15項 は,取 締 役(directors)は,特 別 な 理 由 が あ る な ら

ば,計 算 書 へ の 注記(notes)'を 条 件 に,会 社 法 附 則 第4の 他 の 規 定 か ら離 脱

す る こ とが 許 され る とい う もの で あ るが,離 脱 した場 合 考 慮 され る会 計 規 定 は12)

SSAPや その他のGAAPで ある とされる。それは,い うなれ ば,既 存の会社

法規定だけでは,動 的環境の中にある企業業績の開示 を真実かつ公正た らしめ

ることが十分行いえない事態が生ずる危具があるとの考 えか らでたものである。

このようなことから,理 論的には会計上長期貨幣項 目の換算損益 を計上す る

ことが適切であ るという結論から.して,そ れが会計上の利益 に加わっで くるこ13)

とが前提 されなければな らないとい うことである。 したが って,会 計上の利益

と所得計算の原則的関係 を前提 にすれば,換 算損益の計上 は所与 としてその課14)

税上の取扱いについて検討することが求 められる。以後では,イ ギ リスにおけ

る課税 の実践 を踏 まえ,そ こでの租税原則 を考察す ることにす る。(図 一2参

照)

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一一「為替換算損益に関する法人税上の取扱いについて」一 79

<図 一2>Tsv

会 社 法、

(附 則 第4の15項)、 、、

会 社 法 一:.-S=__-k-SSXAP2。 号

(附則 第4の12項)

税引前当期純利益

↓課税所得計算

'↑

法人税法

(注)'

1>武 田 昌 輔 稿 「税 法 に お け る利 益 概 念 と企 業 利 益 」 「企 業 会 計jVol.38No.3,

1986年3月,33頁 。

2)Ibid.,p.8.

3)国 際課 税 問題 研 究 会 「為 替変 動 に関 す る英 国 国税 庁 の 取扱 通 達 」 「租 税研 究 』455

号,昭 和62年9月,65頁 。

Ibid.

4)Ibid.

5)DavidAlexander,FinancialRePorting「-TheTheoreticatαndRegttlatery

Framewoik.Berkshire,VanNostrandReinhold(UK)Co.Ltd.,1986,p.126.

6)西 野 嘉 一 郎,宇 田 川 璋 仁 編 「現 代 企 業 課 税 論 一 そ の 機 能 と課 題 一 」 東 洋 経 済 新 報

社,昭 和52年3月,123頁 。

7)JohnAldisandMichaelRenshall,TheCompaniesAc'ts1985and1989,Accounting

and、FinancialRequLirements,Lo皿don,IcAEw,1990,pA3.

8)未 実 現 利 益 と して の 為 替 換 算 益 の 処 理 に つ い て,次 の よ う な 為 替 換 算 損 との 相 殺

処 理 方 法 が 提 示 さ れ て い る 。[.

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80 一一 経 理 知 識一

会計期末(12月31日)

〈注 〉

(a)

(b)

1984

1985

1986

1987

表一2長 期借入れ(USド ル)を 組 んだイギ リスの会社 の場合

さ益

上ー

計損

に(

書差£

算善

計為

益る

損れ

250,000

(300,000)

75,000

50,000

未実現損益

£

250,,eOO

250,000

(25,000)

25,000

25,000

50,000

75,000

実現損益

£

50,000

50,000

50,000

`

会社は為替差益の全額を未実現利益 として取扱わなければならない。

(注)

(a)

(b)

(の

(d)

借 入 れ に よ る 為 替 差 損 は 前 期 の 為 替 差 益 と 相 殺 さ れ る と い う 基 準 に も とつ い て,

会 社 が 損 失 の250,000ポ ン ドを 未 実 現 損 失 と して 取 扱 う こ と が で き る の は 正 当 と 思

わ れ る 。

(c)会 社 は 借 入 れ に よ る 過 年 度 の損 失 を 相 殺 す る 範 囲 で 差 益 差 益 を 実 現 利 益 と して 取

扱 う こ と が で き る。,

{d)会 社 は 為 替 差 益 の 全 額(75,000ポ ン ド)を 未 実 現 利 益 と し て 取 扱 わ な け れ ば な ら

な い 。

〈引 用 文 献>

BarryJohnsonandMatthewPatient,・4ccotmtingPreVisiensOftheCempantesAet

1985,London,FartingdonPublishing,1985.P.469.

9)JohnBlake,Accountingstandards2nded.,London,PitmanPublishing,ユ988,

P.168.

DavidAlexander,op.cit.,p.334、

10)「 前 掲 書 』,137~138頁 。

11)DavidAlexander,op.ciL,pp.333-334.

BarryJohnsonandMatthewPatient,op.cit.,p.468.

12)Em・t&Y・ung・ ・dlCAEWi .G・idet・th・C・mPaniesAct1989,AC・mp-r・h・nSive

・4nalツsisandlnteゆretatien(ぢ 輪ChangesinComPanyLawB .rought肋o耐b夕fW

CompaniesAct1989,London,KoganPageLtd,1989,P,37.`

BarryjohnsonandMatthewPatient,loc.cit.

13)以 下 のOECDの 報 告 書 で は,税 霧 当 局 に お い て も,損 益(gainOrloss>の 認 識

の 問 題,つ ま り損 益 を 実 現 す る 前 に 認 識 す べ き か,実 現 す る まで は 認 識 す べ き で な

い の か の 判 断 は,課 税 所 得 の 計 算 を行 う上 で 重 要 な 問 題 で あ る と述 べ られ て い る。

JacquesdeLarosiere,PieterStekandTyttiTunturietal.,"lnformationNeeds

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一 「為替換 算損益 に関する法人税上の取扱いにつ いて」一一81

0fTaxAuthorities,"NewFinancial∬nstruments,DisctosureandAcco"nting,Paris,

OECD,1988,p123.

14)神 森 智 稿 「税 務 会 計 上 の 収 益 概 念 の検 討 に よせ て 」r産 業 経 理」,Vol.38No.12,

1978年12月,9~10頁 。'

そ こ に は,原 則 と して,所 得 金 額 の 計 算 に お い て 収 益 は,商 法 や 「企 業 会 計 原

則 」 等 に した が って 求 め られ るが,そ の 期 間 帰 属(認 識 基 準)等 の 点 で 会 計 上 の 収

益 と こ とな る と ころ が で て くる と述 べ られ て い る。

N為 替換算損益の課税実践 と問題点

(1)イ ギ リス内 国歳 入庁SP1/87の 見 解'

1984年 に起 こ ったPatt{sonV.MarineMidland事 案 を受 け て,イ ギ リス にお

け る為 替 損益 に関す る課 税 原 則 をあ らた め て 明確 にす るため に,イ ギ リス内 国

歳 入 庁 は,事 件 後 の貿 易 業 者 に対 す る課 税 上 の一 般 指針 をSP1/87と い う形 で

公 表 した。

トとこ ろで,そ のPattisonV.MarineMidland事 案 は,銀 行 業 を営 むMidland

社 が 転 換 社 債 の 発 行 を も って15百 万USド ル の資 金 を調 達 した こ とに始 まる

(その時 の ポ ン ド換 算額 は6『百 万 ポ ン ドで あ った)。 そ の後 も調 達 され た資 金

は ドルの まま保 有 され た状 態 で あ った。 つ ま り,こ の事 案 は,同 額 の債 権 債 務

を もち なが ら,銀 行 で あ るため に貸 付 側 の 差損 益 は営 業損 益 と され 課税 され る

に対 して,借 入(債 務)側 の 差損 は,そ れ が資 産 か ら生 じた もので は ない こ と

か らキ ャ ピタルゲ イ ン ・ロスで もな い と され,損 金算 入 で きな か った こ とに関

して 訴訟 した もの で あ る。 そ れ に対 して,裁 判 所 は;1984年 に債 権 債 務 が 同 額1)

の場 合 には益 も損 も両 方 認 識 しな い とい う判 例 を出 して い た。

イギ リス内 国歳 入庁 は,こ の判例 を例 外 的 な もの と位 置付 けて い る。 それ を

受 け て,イ ギ リス 内 国歳 入庁 はSP1/87で 自か らの 見解 をあ らため て公 表 して2)

いるが,そ れは次の二点にまとめ られる。

① 商法お よび会計原則にしたが って計上 された換算損益は,課 税所得計算上

も考慮 されるべ きである。

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82一 経 理 知 識一一

② 固定資 産 ・負 債項 目に関わ る換 算損 益 は,判 例 法 に もとつ く原 則 に したが

って異 な った考 え方が 適用 され るべ きで あ る。

この 見解 は,先 で み て きたイギ リスにお ける課税 上 の原則 とな ん ら変 わ る と

ころは な い。 また,内 国 歳 入庁 は,PattisonV.MarineMidland事 案 の判例 に

つ い て は,課 税 上 そ の よ うな原 則 的 な考 え方 を根本 的 に くつ が えす もので はな

く,固 定資 産 ・負債 項 目に関わ る換算損 益 に どの ような調 整 が加 え られ るか にヨラ

つ いて の判例 を提 供 した にす ぎない と してい る。

この 固定項 目の うち キ ャ ピタルゲ イ ン ・ロス となる資 産取 引 か ら直接発 生 す

る 為 替 換 算 損 益 は,そ れ ゆ え 課 税 所 得 に 算 入 され る。 しか し,PattisonV.

MarineMidland事 案 で 問 題 に な った よ うに,外 貨 の長 期借 入 か ら生pる 債 務

側 の換 算 損益 は,ケ;スDの1の 計 算 に もキ ャ ピタ、ルゲ イ ン ・ロスに も計 上 さ

れ ない。 したが って,資 産側 に換算 益が でて,負 債 側 に換 算損 がで た場合,益

だ けが課税 対 象 に な る とい う不 合 理が生 じる。つ ま り,固 定的 為替換 算損 益 の

税 務 上 の取 扱 い が問題 とな るの であ る。,

その よ うな事 態 に対 す る イギ リスの控 訴 院 ・上 院 の判 決 は,.外 貨借 入 が 同一

通 貨 の資産 と対 応 してい る場 合 には,そ の債務 が営 業取 引 に も とつ くもの ・流

動 負 債(currentliability)の もの か,あ る い は営 業取 引 以外 の もの か ・固 定い

負債(capitalliability)の 区別 な く税務 上相 殺 され る と した。 この判 例 で示 さ

れ た もの は,税 務 上 の資 産 ・負 債 の対 応 原 則(matchingprinciple)な る判 断

基 準 であ る。

しか し,実 際 に はそ の よ うな典 型例 ばか りと限 らな い こ とは想像 に堅 くな い。

そ して,イ ギ リス内 国歳 入庁 は!次 第 で掲 げ る考 え られ るい くつ かの ケ ー ス を

示 し,そ の見解 を述べ て い る。

② 為 替換 算損益 課税 上 の問題 点

よって,こ こで は,為 替換 算損 益課 税 上 の問題 点 と して,特 に瓢外 貨建 固定

負債 の 換算 損益 に関 し=(,外 貨 建 資 産 ・負 債 が完 全 に対 応 しない(unmatch)

場 合 を取 り上 げ,そ の 内容 を分析 し,昨 今 の イギ リスにお け る為替 換 算損益 の

課税基 準 の特 質 を明 らか にす る。

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一 「為替換算損益に関する法人税上の取扱いについて」-83

具体 的 には,資 産 ・負債 の対 応原則 に もとつ く換 算損 益 の税 務上 の取扱 い に

つ いて,次 の よ うな5つ の例示 がSP1/87に おい て提 案 されて い る。 それ は,

単 に対応 原則 に よ り換 算損 益 を税務上取 扱 うとい って も,実 際上,外 貨建資産

・負債 の金 額,内 容 は会計 期 間 を通 じて変動 す る。 したが って,換 算損益 の税

務 調整額 の 決定 に際 して,ど の時点 で対 応 を把握す るか は煩雑 であ る。ゆ え に,5)

継 続適用 を前提 と して次 の ような代 替 的方 法の採用 が提 案 された。 その設例 を

検 討対 象 と してPattisonV.MarineMidland事 案 の判決 に示 され た対応原 則 と

イギ リス におけ る従 来か らの課 税原則 の 関係 を考察 す る。

[例1]

イギ リスのあ る企業が60万USド ル の買掛債 務 を負 って,そ の まま決算 をむ

か えた。 取 引 日レー トは1ポ ン ド=1.5USド ル,決 算 日レー トは1ポ ン ド=

1.25USド ルで あ った。つ ま りポ ン ドが 下 落 した場合 を想 定 す る(以 下 の例 も

同 じ状況 を前提 と して い る。)

B/S (一 部)

流動負債

(買掛 金) $60

£40万

£8万 換算一 ● 一 ■ 一 一 一 一 一 一 ■ 一 己 ー-一 一

(1£=$1.5)

一 ↓ボー

(1£=$1.25)

この場 合 には,営 業取 引 に関連す る債務(買 掛 金)か らの換 算損益 ゆえ問題

な く課 税所得 を構 成す る ことになる。 したが って,税 務 上 の調 整 は不 要 となる。

ちなみ に,換 算差損 益 の損 益 計算書(P/L)計 上額 は,8万 ポ ン ド(換 算差

損)で あ る。本例 は,固 定項 目か らの換 算損益 が ないケ ースであ る。

[例2]

イギ リス のあ る企業 が外 貨建 ての長期 借入 を60万USド ル行 い。15万USド

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84-一 経 理 知 識一

ル は流 動 資 産 と して保 有 し,残 り をポ ン ドに転 換(conversion)し た 。

(取 引 内 容)

$6・万態 く1霊 謙 ㌘(1£==$1.5)

B/S(一 一部)

現金

£30万

固定負債

£40万 $60

流動資産$15万

£10万

換算益 £2万一 一 一 一 一 一 一 一 ー 工 ー ー 一 層 一 一 一 一 一 ● ● 一 ● 一 一 一 ● 一 一 ー ー 一

£8万 換算税務上否認→£6万

一 ■ 一 工 ー ー 一 一 ● ● 一 一 一 一 ● 一 一

この場合,P/Lに 計 上 され る換 算 差 損益 はt、図 に示 され た6万 ポ ン ド(換

算 差損)で あ るが,外 貨 建流動 資 産 と固定 負債 が 対 応 す る15万USド ル部 分 に

相 当す る2万 ポ ン ド分 の換 算損 益 は相 殺 され るが,残 り6万 ポ ン ド分 は対 応 し

な い ため税務 上 否 認 され る。 それ は,固 定 勘 定 の超 過外 貨負債 と して 計 上 され

る こ とにな る。

[例3]

イギ リスのあ る企 業 が外 貨 建 て の長 期借 入 を60万USド ル,そ して 当座 借 越

(overdaftoncurrentaccount)を30万USド ル行 い。15万USド ル は流 動 資

産 と して保有 し,残 りをポ ン ドに転換 した。

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一 「為替換算損益に関する法人税上の取扱いについて」-85

(罐麟ご 麟1撒く:き 繋㍑ 有

S15万

換算益

B/S(1£=$1.5)(一 部)

当座借越£20万現金

£50万

流動資産

£10万

£4万一 ー ー ー ー ー 一 一 一 一 ー ー 一 一 一 一

固定負債

£40万

$30万

換算損

$60万

換算損

£2万一 ー 一 一 一 一 ー ー ー ー ー 一 一 一 -

P/L計 上額=£10万 £8万一 ー 一 ● 一 ● ●一 一 ● 一 一 ー ー 一_一

この場 合,P/Lに 計 上 され る換 算差 損益 は,図 に示 され た10万 ポ ン ド(換

算差損)で あ るが,外 貨 建 固 定負 債 か らの換 算損8万 ポ ン ドと比 べ,P/L計

上 額が 大 きい ので,8万 ポ ン ド部 分 は税務 上 否 認 され る。流動 資 産 ・負 債 か ら

の差 引 き2万 ポ ン ドが課 税 所 得 を構 成 す るこ とにな る。

[例4]

イギ リスの あ る企 業が 外 貨 建 て の長 期借 入 を30万 ポ ン ド,そ して当座 借 越 を

15万USド ル行 い。30万 ポ ン ドは45万USド ル に転 換 し,つ こ う60万USド ル

を関連 会 社 に融資 した。

(£=$1.5)

(丁撫}万篇 鑑   ⇒ 璽竃

B/S(一 部)

$工5万

換算損

当座借越

£10万

$60万

換算益

固定資産

£40万

£2万一 ■ 一 一 ー ー 一.一 ● 一 ー ー 一 一 ●

固定負債

£30万

£8万

一 ■ 一 一 一 聯 ー ー ーレー ー 一 ■ 一£6万=P/L計 上 額

$45万

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86一 経 理 知 識-

P/Lに 計上 され る換算 差損 益 は6万 ポ ン ド(換 算差益)で あ る。 固定資 産

(capitalassets)か らの換 算益8万 ポ ン ドの 内,税 務 上 調整が許 され るの は,

P/L計 上額6万 ポ ン ドとなる。 そ うす る と当該差益 は固定負債 に加 算 され る

こ とになる。

[例5]

イギ リスのあ る企業 が外貨 建 ての長 期借 入 を90万USド ル と長期借 入20万 ポ

ン ドを行 い,ポ ン ドは30万USド ルに転換 され た。 そ して,75万USド ル は関

連 会社 に融資 し,45万USド ル は流動 資産 と して保 有 した。

=:借 一 万の長期… 艦__)(欝

$45万

換算益

S75万

換算益

B/S

(1£=$1.5)・$45万 流動 資 産と

して保 有

(一部)

流動資産

£30万

固定負債£20万万

£6万● ● 一 ●--● ● ● ■ ● ● 一 一_

固定資産

固定負債

£60万

$30万

390万

換算損£50万

£10万一 一 口 ー ー ー ー ー 一 一 ■ 一 一 一 一'

£12万一 ー 一 一 一 一 ー ー ー 一 一 一 一 ー 一 → 一 一

£4万=P/L計 上 額

固定項 目か らの換 算差損 益 は,固 定負 債 か らの12万 ポ ン ド(換 算損)と 固定

資 産か らの10万 ポ ン ド(換 算益)の 差額,つ ま り固定資 産 ・負 債が対 応 しない

部 分の2万 ポ ン ド(換 算損)と な る。P/L計 上額4万 ポ ン ド(換 算 差益)と

比べ金額が 小 さいので 税務上 調整 は不 要 とされ る。 当該4万 ポ ン ドは ドル建 流

動 負債 に加 算 され課税 対 象 とされ る。

以上 の設 例 に示 されて い る判 断 に共 通す る考 え方 は,外 貨資 産 と負 債が 同 じ

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一 「為替換算損益に関する法人税上の取扱いについて」一一87

額 だけ両建 て され対 応 して い る場 合 には,税 務上換 算損 益 を認識 しない けれ ど

も,ど ち らか が大 き く,差 額 がで て い る と きは(対 応 してい ない場 合),そ の

差 額部 分 につ いて,先 で考察 した従 来 の課 税上 の原則 に したが って取 扱 う とい6)

うものである。外貨の種類が二種類以上の取引の場合は,同 一通貨ごとに対応7)

原 則 が適用 され る。

そ れ につ いて ロス(DerekA.Ross)は,対 応 原則 の内容 を以下 の 二つ に ま

とめて い る。① 外貨 建貨 幣資 産 ・負債 が一 会計年 度 で対 応 す る限度 は,損 益 計

算書 に計上 され る為 替差損 益(ま た は準 備 金 として積 み 立 て られて い る為 替 差

額 調 整勘定)に 反 映 され る。② 固定 負債 は,同 一通貨 の固定資産 な らびに流動

資 産 と対応 す る。 た だ し,流 動資 産 につ いて は,流 動 負債 を超 え る範 囲 までの8)

み対応 される。

さらに,先 の設例にでて きた調整申告に関 しては,税 務上調整(ケ ーろ1の

計算においての調整)不 要 とされるケースとして,① 固定資産 ・負債からの為

替換算損益がでない場合,② 固定資産 ・負債項 目からの換算差損 と損益計算書

に計上された一切の換算差益がある場合,③ 固定資産 ・負債項 目か らの換算差9)

益 と損益計算書に計上された一切の換算差損がある場合が上げられる。

そして,固 定資産 ・負債項 目からの換算差益 と損益計算書に計上 された全部

の換算差益 は,い ずれか小 さいほうが非課税 とされる(そ の調整はケLス1の

計算において行われる)。 また,固 定資産 ・負債項 目からの換算差損 と損益計

算書に計上された全部の換算差損のいずれか小 さい方はケース1の 計算の戻 し

(back)に 加算 される。ただ し,こ れら固定資産 ・負債項 目に関連 して要求さ

れる税務上の調整は,損 益計算書に計上された換算差損益の額を超過 しないこ10)

とが求 め られ る。

以上 の よ うに,そ こで は会計上 の換 算損益 を もとに して税 務上 の調整 が行 わ

れてい る中 で・、会計 上損 益 と して認 識 されて い ない もの を税 務上損 益 と して扱

ってい ない こ とが伺 い知 れ る。先 で検 討 した課税 原則 に したが った扱 いで あ る。

一 方 イギ リス にお いて は,原 則 に判 断 基準 を もとめ なが らも,為 替損益 に関す

る個別の法律が存在 しないため,判 例法にしたがって事実関係を処理するとい

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88-一 経 理 知 識一

う制 度 をと って い る。 よって,こ のPattisonV,MarineMidland事 案 の判 決 に

示 され た貸 方側 につ いて 流動 ・固定 の別 を問 わ ない とい うよ うな対 応 原則 に関

す る例外 的解 釈,フ レキ シブ ルな対 処が 行 われ る。今 後 も金融 の 国 際化 の 中で

常 に変化,進 展 す る状 況 に即 応す る この よ うな原則 か ら離脱 した解 釈 が ます ま

す求 め られ る こ とにな る と思 われ る。

(注)

1)国 際課税研究 会 「英国 の為替相場 変動 に関す る課税上 の取扱 い について」

「租税研究』452号,昭 和62年6月,56頁 。

国際課税問 題研 究会 「前掲稿」,64頁6

DerekA.Rosstop.cit.,pp.6-7.

2>「 前掲稿」,65頁 ご

Ibid.,pp.9-10.

3)「 前 掲 稿 」

4)「 前 掲 稿 」,66頁 。

5)「 前 掲 稿 」,66~68頁 。

6)平 石 雄 一 郎 稿 「前 掲 稿 」,30頁 。

Ibid.,pp.10-11.

7)国 際 課 税 問 題 研 究 会 「前 掲 稿 」,65頁 。

8)Ibid.,P、 ユ0,

9)Ibid.,pL11.F

10)Ibid.,pp.10-11.

Vお わ りに

為替換算損益,特 に,外 貨の長期借入(固 定負債)に 関わる為替換算損益が

課税所得計算上含められるかいなかは,そ の計上が会社法 ・GAAPに 合致 し

て行われていることが前提 となるというのが内国歳入庁の見解である。 したが

って,そ の換算損益がか ように会社法 ・GAAPに もとづ き損益計算書 に計上

されるならば,当 該原則の趣旨か らしてそれは尊重されなければならない。

富岡授授が,「 課税所得は,租 税支払能力および租税負担力を有する租税負

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一 「為替換算損益に関する法人税上の取扱いについて」・一一89

担 能 力 あ る課 税 可 能所 得 で な けれ ば な らな い。 …(中 略)… この 意 味 にお い て,

課税 所 得 は,資 産 の 処 分 可 能性,所 得 の分 配 可 能 性 との 関係 で発展 し形 成 され

て きた,い わ ゆ る 『伝 統 的実 現 概 念 』 を基 調 とす る利 益 概 念 を,ま ず 第 一 義 的

に は,一 般 的 な前 提 と し,こ れ を出発 点 と して,そ の うえ に展 開 し形 成 され る

ものである といえる.])と 述べ られているよう{こ,法 人に課税 を行 う場合彊

税理論の上からは,課 税所得 は納税可能なものとして資産的裏付 けを有するこ

とが基本的に求められることになる。それか らすると,為 替換算損益がはた し

てそのようなものであるのかについて問題があるとい う主張 もあながち排除 し

がたい意義 をもつ。

わが国の場合 も,会 計基準 と税法のかい離が存在 している。例 えば,「外貨

建取引等会計処理基準」1の2の(1)な らびに同注解4-2に おいて,外 貨建金

銭債権債務の決算時の処理に関 し,そ れ らを長期 と短期に分けて,短 期項 目に

は決算 日レー トを適用 し,長 期項 目には取得 日レー トあるいは予約 レー トが付

されているときには取得 日レー トとの差額 を予約 日か ら決済 日に至る期間に合

理的に配分することが定め られている。 しか し,税 務上(通 達)は,短 期項 目

については取得 日レー トと決算 日レー トいずれかの選択 とされてお り(令139

の3),長 期項 目について は予約 レー トと取得 日レー トの差額の期間配分を認2)

めていない(基 通13の2-1-6の2)。

しか し,企 業利益の実現 ・未実現の判断や期間配分 など,経 済社会の発展 ・

成熟,新 たなる取引等の誕生にともなって,そ の内容が変わることも十分想定

される。進展する実践 は,時 として既存の制度規定の陳腐化を生ぜ しめる もの

である。

そのような状況の中で,配 分的正義 を行 うことに携わる諸制度は,原 則 とし

て共通の理論的基礎 に立 った内容 をもつ規定であること,そ して,経 済社会の

変化に即応で きるように動的な対処 をすることがで きる制度であることが望 ま

れる。

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go -一経 理 知 識一

(注).・

1)富 岡幸雄稿 「税 務会計理 論 にお お ける 「実現」 の基 本思考一一租 税支 払能力 の配 慮

に よる 「税務 会計的 実現概 念iの 形 成」 「企 業会計』Vol.30No.9,1978年8月,47

頁。

2)井 上 久彌著 「税務 会計論」 中央経済社,1988年10月,193~194頁 。

井上 久彌稿 「為 替取 引 と税務 上 の問題 点 につい て」r租 税研究1459号,昭 和63年

1.月,75・-77頁 。

そ こで は,直 物 と先物 の レー ト差 は,金 利 め差 に よる ものであ り,金 利 とい うそ

の性格 か ら して時 間基準(発 生 主義)に よ り当該 差額 を期 間配分 す る こ とが合理 的

であ るこ とが説 かれてい る。

3)井 上 久彌 稿 「企 業利 益 と課 税 所得 」r企 業 会計jVol.30No.12,1978年11月,109

~110頁 。

西 野嘉 一郎,宇 田川璋 仁編 「前掲 書』,17頁 で は,法 人税 の役割 と して,公 平 な

租 税構 造 の編成 とビジネス ・ゴン トロー ルのための手段 が あげ られて い る○