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Page 1: ウニ用高機能餌料の開発 ~磯やけのウニを商品化す …ウニ用高機能餌料の開発 ~磯やけのウニを商品化する~ 浦和寛[北海道大学大学院水産科学研究院/助教]

ウニ用高機能餌料の開発~磯やけのウニを商品化する~浦 和寛[北海道大学大学院水産科学研究院/助教]加藤 元[ひやま漁業協同組合熊石支所/組合長]

背景・目的

ウニはわが国の重要な水産有用無脊椎動物の一つである。これまでに、ウニ資源量の底上げのために、種苗を育成し稚ウニを放流する事業が推進されている。しかし、北海道日本海沿岸海域では、磯やけ現象などにより餌となる海藻がないため、磯やけ海域にいるウニは身入りの悪いウニがその大半を占めている。古くから、生殖巣の品質改善を図る配合餌料の開発および雑海藻を用いた餌の探索が試みられている。これまで魚肉などをウニに与えると生殖巣は肥大するが、色も悪く、魚臭く、苦味が強くなり商品的価値を失うことが知られている。そこで本申請課題では、磯やけにいるウニの商品化を可能とする餌料の開発を目的とした。

内容・方法

申請者は、餌を開発するにあたり、大きく以下の3点を必須条件とした。1点目は、色合いをよくすること。2点目は、生殖巣を短期間に肥大化させること。3点目は、餌のコストをできるだけ安くすること。以上の3点を重要視し餌作製を行った。これらの条件を満たす成分(特許申請のため成分は非公開)を粉砕し寒天で固め餌として磯やけのウニに与えた。実験群として餌を与えない無給餌群、コンブ投与群、開発餌投与群を設け、濾過循環海水を用いた水槽内において給餌実験を行った。

結果・成果

実験開始時の生殖巣の大きさを表す生殖巣体指数((生殖巣重量/体重)×100%)が約6%だったものが2ヶ月後に、コンブ群で約10%であったのに対し、開発餌投与群では約15%になった(図1、写真1、2、3参照)。図および写真からも分かるように、開発した餌を与え

た場合、コンブを与えた群に比べ短期間(2ヶ月)で商品となる大きさまで肥大化させることができた。また、色においても実験開始時には茶色であった生殖巣がコンブを与えた群と同様にウニ生殖巣独特の鮮やかなオレンジ色を示した。次に重要なポイントは味である。魚肉などを与えた場

合、ウニ生殖巣は苦くなり商品価値を失う。生殖巣が短期間で大きくなったとしても苦くなったのでは意味がない。そこで、本実験終了後に味を評価するために各実験群の生殖巣に含まれる遊離アミノ酸量を測定した。甘味の指標として、アラニン、グリシンを、旨味の指標として、グルタミン、グルタミン酸を、苦味の指標として、ロイシン、バリンの各遊離アミノ酸量を測定した(図2

参照)。遊離アミノ酸量を測定した結果、甘味、旨味の成分指

標となる各アミノ酸量はコンブを与えた群と統計学的に有意な差がなく同程度の量を含んでいた。さらに、苦味成分の指標となるロイシン、バリンの量も開発した餌を投与した場合でも、コンブを与えた群の間に統計学的に有意な差異は認められなかった。これらのことから、開発した餌を磯やけのウニに与えた場合、短期間で、肥大化させ、色合いも鮮やかなウニ特有の色を持たせ、苦味成分も少ない生殖巣を作り出すことに成功した。この

図1

写真1

写真2

写真3

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生殖巣を函館にあるウニ加工場に持ち込み品質評価を行った。先にも述べたように、ウニ生殖巣の品質は、大きさ、色、硬さで決まる。この3点をそなえた生殖巣はA 級品となり、1点を欠いた場合 B級品となる。本実験により作出した生殖巣は加工場の評価では A級品と評価された。最終評価ポイントである「味」においても苦みもなく商品として扱えると評価された。

今後の展望

現在でも磯やけのウニに魚肉を3ヶ月与え生殖巣を肥大化させた後、冷凍コンブを3ヶ月与え味変えを行うという事業を行っている。このように約6ヶ月かけても苦味が残るウニ生殖巣しか出来ない。本研究成果では、開発した餌を約2ヶ月程度磯やけのウニに与えると高品質な生殖巣を作り出すことが可能となり、磯やけのウニを短期間に商品化することが可能となるウニ用高機能人工餌料の基本形が出来上がった。今後の展開として、知財化に向けた餌投与実験を継続して行っており、特許申請を行うと共に餌会社などと提携して、より低コストなウニ用人工餌料の開発を展開すると共に、北海道のみならず日本・世界各地でウニ養殖事業の展開を図るため作製した餌を用いて漁港内あるいは陸上施設などを用いたウニ養殖事業が可能かを探る予定である。このような事業展開が推進されることにより、磯やけ海域から「未利用資源」であるウニを取り上げ開発した餌により商品化できれば、「藻場」の回復の一助にもなると思われる。

図2

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