エピソード記憶と文脈依存効果 ·...

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1漁田研究室教材 2013 10 エピソード記憶と文脈依存効果 静岡大学 漁田武雄 第1章 概念規定 第1節 記憶の概念規定 第2節 文脈の概念規定 第2章 記憶研究の展望 第1節 古典的研究 第2節 短期記憶研究: 認知科学のはじまり 第3節 文脈研究 第3章 環境的文脈研究 第1節 環境的文脈研究のパラダイム 第2節 場所文脈としての環境的文脈研究 第 3 節 メタ分析でカバーできなかった場所文脈研究 第4章 さまざまな環境情報の文脈依存効果 第1節 視覚文脈 第2節 BGM 文脈 第3節 匂い文脈 第4節 ビデオ文脈 第5節 さまざまな環境的文脈の比較 引用文献

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漁田研究室教材 2013 年 10 月

エピソード記憶と文脈依存効果

静岡大学 漁田武雄

第1章 概念規定

第1節 記憶の概念規定

第2節 文脈の概念規定

第2章 記憶研究の展望

第1節 古典的研究

第2節 短期記憶研究: 認知科学のはじまり

第3節 文脈研究

第3章 環境的文脈研究

第1節 環境的文脈研究のパラダイム

第2節 場所文脈としての環境的文脈研究

第 3 節 メタ分析でカバーできなかった場所文脈研究

第4章 さまざまな環境情報の文脈依存効果

第1節 視覚文脈

第2節 BGM 文脈

第3節 匂い文脈

第4節 ビデオ文脈

第5節 さまざまな環境的文脈の比較

引用文献

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第1章 概念規定

第1節 記憶の概念規定

1.伝統的視点

記憶(memory)は,経験を保存しそれを再経験するという心的過程である。通常この過程は,記銘

(memorizing),保持(retention),想起(remembering)の3つの過程に分割して理解されている。最初の

経験が記銘であり,それを保存することが保持,そして再経験することが想起とされている。さらに想起の

過程は,再生(recall)と再認(recognition)という形態で行動に現れる。ここで,再生とは想起した内容をな

んらかの方法で再現または表現することであり,再認とは過去経験と現在の経験との異同を判断すること

である。また,想起という明瞭な形をとらず,過去経験が現在の認知情報処理になんらかの形で影響する

という過程は,プライミング(priming)と呼ばれている。

記憶の科学的心理学研究の創始者である Ebbinghaus (1885) は,意図的想起,非意図的想起,プラ

イミングの全てを記憶に含めて考えていたようである。その証拠に,Ebbinghaus(1885)は,再学習法

(relearning method)という記憶測定法を開発したが,この方法では,想起のみならずプライミングまで反

映されるようになっている。ここで,再学習法とは,1回目の学習(原学習)にかかる時間や反復回数と2回

目の学習(再学習)にかかる時間や反復回数とを比較し,2回目の方が学習時間や回数をどれだけ節約

できるかを調べる方法である。2回目の方が少ない時間や反復回数ですめば,それだけ記憶が残ってい

たことになる。受験時代に暗記した歴史の年代や化学式などを,現時点でほとんど思い出すことができな

くても,すなわち想起できなくても,再学習にかかる時間はかなり節約できるものである。もしそうであるな

らば,受験時代の記憶は今も残っているということになる。

その後,記憶研究法の主流が再生法や再認法に移るにつれて,動物研究を除いて,再学習法はほと

んど使用されないようになった。なにより,再学習法には方法上の問題があることが指摘されているその

問題点とは,再学習法では,記憶ばかりではなく学習方法の学習効果(learning-to-learn effect)が含まれ

てしまうという点(Bunch, 1941; Nelson, 1971)や,原学習時よりも再学習時の再生率を過大評価してしま

いやすい点(Nelson, 1971)である。

記憶研究法が,再学習法から再生や再認の想起法にかわったということは,記憶のとらえ方が想起中

心になったことを示しているようにも見える。実際,現在の記憶研究に大きな影響を与えた Bartlett (1932)

の著書も,タイトルは "Remembering(想起)"である。しかしながら,想起のみを問題としているように見え

る Bartlett (1932) の研究も,実際はプライミングを重視した研究であったといえる。彼は記憶を,「過去経

験の単なる再現ではなく,想起時点における再構成(reconstruction)である。」という。その際,スキーマ

(schema)と呼ばれる情報群が,再構成のための構図や枠組みとして働くという。スキーマもまた,過去経

験によって取り入れられた情報群であるので,スキーマの働きは Ebbinghaus とは違った意味でのプライミ

ングということになる。したがって,スキーマの働きを重要視する Bartlett (1932) の記憶観には,やはり想

起ばかりでなくプライミングも含まれていたといえよう。想起という現象は,プライミング抜きでは成立しない

のである。このような Bartlett (1932) の考えは,現在まで受け継がれている。

2.認知情報処理的視点

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1950 年代頃から,人間の行う認知情報処理の一過程として記憶を位置づける考えが主流となってきた

(e.g., Broadbent, 1958; Miller, 1956)。認知心理学(cognitive psychology)が誕生したのである。そのよう

な情報処理の視点からは,記憶を,「経験を通じて情報を取り入れ,保存し,必要に応じてその情報を取

り出し使用する心的過程あるいは機能」と定義することができる。そして,情報を取り入れ保存の効く形に

変換する過程としての符号化(encoding),情報を蓄え保存する過程としての貯蔵(storage),情報を探し

て取り出す過程としての検索(retrieval)という情報処理過程として理解するようになった。そしてこのような

過程を経て,再生または再認という想起形態で行動に現れると理解される。また,このような過程で働くス

キーマなどのプライミングの働きも,積極的に認められている。そして,1980 年代に入って,プライミング

現象自体が,直接,記憶研究の対象とされるようになってきた(e.g., Tulving, Schacter, & Stark, 1982)。

本研究も,情報処理的観点からの研究であり,上述のように,記憶を「経験を通じて情報を取り入れ,

保存し,必要に応じてその情報を取り出し使用する心的過程あるいは機能」と定義する。また研究の焦点

が,「記銘時に記銘材料とともに存在した記銘材料以外の情報が,想起にあたって重要な役割を果す」と

いう文脈依存効果にある。この文脈依存効果も,やはりプライミングを重要な記憶の側面とみなすことに

なる。もちろん上述したスキーマの働きも,否定するものではない。

3.記憶の分類

さて,記憶を,「経験を通じて情報を取り入れ,保存し,必要に応じてその情報を取り出し使用する心的

過程あるいは機能」と定義するならば,記憶の概念はかなり広い範囲に適用できることになる。個人的な

体験を後で回想(recollection)することも,獲得した知識を必要に応じて取り出し使用することも,記憶に

含まれる。技能や習慣でさえも,上記の定義に当てはめることができる。このような広い記憶の定義を行う

研究者として,Tulving をあげることができる。彼は記憶を命題記憶(propositional memory)と手続記憶

(procedural memory)に分類し,さらに命題記憶をエピソード記憶(episodic memory)と意味記憶

(semantic memory)に分類している(Tulving, 1972, 1983)。エピソード記憶,意味記憶,手続記憶は,そ

れぞれ記憶または想起,知識,技能として研究されてきた心的過程にほぼ対応する。知識や技能も,情

報の取り入れ,保存,取り出し,使用という基本的過程を有しており,そのような点から記憶の1つと考えら

れるというのである。

4.エピソード記憶

エピソード記憶とは個人的体験の記憶である。「旅行中の出来事を思い出す」,「昨日の昼食に食べた

のがカレーライスであることを知っている」などはいずれもエピソード記憶にもとづく行動である。実験室で

行われる標準的な記憶実験も,大半はエピソード記憶を測定しているとされている。標準的な記憶実験

では,実験参加者に,単語,無意味綴り,図形などからなる記銘リストや文章などを提示し,一定時間後

に,再生または再認の形式で,実験参加者の記憶をテストする。ここで問題となる記憶は,ある時間,場

所,状況下で心理学の実験を受けたというエピソードに関する記憶である。そのエピソードには,たくさん

の単語を暗記したということ,その単語群には「サクラ」,「アサヒ」,「キツネ」が存在していたということなど

が含まれているであろう。実験者の印象や実験室の雰囲気なども当然含まれることになるが,従来の記憶

実験では,あくまでも記銘材料に関する記憶のみを調べている。記銘材料に関する記憶についてみても,

実験場面における単語群に「サクラ」,「アサヒ」,「キツネ」が存在していたということは,その実験室内だ

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けで通用する特殊で個人的な記憶である。この点において,エピソード記憶は,世界に関する客観的真

理や一般的知識を問題とする意味記憶とは区別されることになる。

Table 1

エピソード記憶と意味記憶の区分(Tulving, 1983)

区 分 特 性 エピソード記憶 意 味 記 憶情報における相違点源 感覚 理解単位 事象・エピソード 事実・観念・概念体制化 時間的 概念的指示 自己 万物(世界)真実性 個人的信念 社会的一致操作における相違点登録 経験的 象徴的時間的符号化 有・直接的 無・間接的感情 より重要 重要でない推論能力 制限あり 豊富文脈依存性 より顕著 顕著でない被干渉性 大 小アクセス 意図的 自動的検索の質問 時間? 場所? 何?検索の影響 システムの変化 システムは不変検索のメカニズム 協働的 開示的再現意識 記憶された過去 表出された知識検索の報告 ・・・・を覚えている ・・・・を知っている発達の順序 遅い 早い小児健忘症 影響あり 影響なし応用における相違点教育 関連なし 関連あり汎用性 小 大人工知能 不明 優秀人間の知能 関係なし 関係あり実証的証拠 忘却 言語の分析実験室的課題 特定のエピソード 一般的知識法的証言 容認可・目撃者 容認不可・鑑定人健忘症 影響有り 影響なし

Tulving ら(Schacter & Tulving, 1994; Tulving, 1972, 1983)は,エピソード記憶と意味記憶は独立した

システムを構成すると考えた。すなわち,エピソード記憶は,個々の経験によって新たに形成されたもの

であるという。Tulving(1983)は,エピソード記憶と意味記憶の区分特性を 28 個あげている(Table 1)。たと

えば,エピソード記憶は,事象やエピソードを単位として時間空間的に体制化されているが,意味記憶は,

事実・観念・概念を単位とし,概念的に体制化されている。時間空間的に体制化されているエピソード記

憶は,時間にともなう忘却を示すが,意味記憶はそのような時間による忘却は示さないという。けれども,

これらの区分特性の多くは,まだ仮説の段階であり,実証性に問題がないわけではない(海保・加藤,

1986; 太田・小松,1983; see 太田, 1988)。

エピソード記憶と意味記憶という独立したシステムの存在に関しては,現在でもなお反論がある(e.g.,

Anderson & Bower, 1973; Kintsch, 1974; McKoon, Ratcliff, & Dell, 1986; Squire & Zola, 1998; see 榊,

2006)。けれども,現象としてのエピソード記憶の存在に関しては,異論がないようである。独立したシステ

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ムの存在に異論を唱える者も,知識構造すなわち意味記憶に文脈マーカーなどのエピソード情報が付

加されることで,意味記憶の一部が一時的に活性化されたものとして,エピソード記憶現象をとらえている

のである(e.g., Anderson & Bower, 1973; Kintsch, 1974)。

いずれにせよ,Tulving(1972, 1983)がエピソード記憶の概念を提唱したことの意義は大きい。エピソー

ド記憶概念の提唱によって,実験室内で形成した記憶が,一般的知識とは異なったものであることが示

唆されたのである。それまでは,実験室内の記憶と一般的知識とが明確に区別されることがなかった。

Ebbinghaus(1885)によって経験の想起とプライミングとしてとらえられた記憶は,その測定法から,エピソ

ード記憶にほぼ相当する概念であると推定できる。けれども Ebbinghaus(1885)はこの記憶を,一般的知

識の形成と保存の過程と考えていたようである。また後述するように,認知心理学研究の時代における多

重貯蔵モデルでも,実験室内で形成された記憶の中の長期記憶成分と一般的知識をどちらも長期ストア

の関与するものとしてとらえ,両者を区別するということがなかった。このような中で,Tulving は,実験室内

で形成された記憶が,むしろ個人的な思い出や回想などの自伝的記憶に属するものであり,一般的知識

や言語習慣などの意味記憶とは区別されるものであることを提唱した。このことによって,実験室内の記

憶と,思い出や回想などの日常的な記憶との橋渡しが行われたともいえよう。

第2節 文脈の概念規定

1.焦点情報と文脈

経験における情報処理の中心となる情報を,焦点情報(focal information),その他の全ての情報を文

脈と呼ぶ。記銘時における情報処理は,記銘対象となる情報を中心に展開される。したがって,記銘対

象となる情報が焦点情報であり,その他の情報が文脈となる。想起にあたっては,想起の対象となる情報

が焦点情報であり,その他の情報が文脈である。通常の実験室場面では,記銘やテストの対象となる情

報(項目,文,図形等)が,実験者によって明確に指定されている。実験参加者はその指定に従って記憶

活動を行い,再生や再認を行う。このような場合には,記銘材料が焦点情報,その他の情報が文脈という

ように明確に区分されることになる。

このように焦点情報と文脈とを区分することが可能である。しかしながら焦点情報のみでエピソード記

憶が構成されているのではなく,文脈もエピソード記憶の一部を構成している。その理由の 1 つとして,焦

点情報ばかりでなく文脈も想起可能であることをあげることができる。たとえば,単語リストの暗記を行った

実験参加者は,単語の集合のみを記憶しているわけではない。単語リストを暗記するために用いた種々

の記銘方略(文章化,イメージ化など),その結果産出された派生物(文章,イメージ),課題の困難度の

認知,その時の気分,実験室内の情景,実験者に対する印象などのさまざまな情報を,実験者によって

焦点情報とされた単語群とともに記憶している。その証拠に,焦点情報の再生テストなどを行った後に通

常行われる内省報告において,実験参加者は焦点情報以外のさまざまな情報を再生することが可能な

のである。さらに,文脈は意識的に想起されなくても,焦点情報の想起を規定する。このことも,文脈がエ

ピソード記憶の構成要素の1つであることを示している。このように,エピソード記憶痕跡が,焦点情報と

文脈の両方で構成されているのなら,エピソード記憶を研究する際には,焦点情報のみならず文脈も研

究対象とすることが必要である。焦点情報のみを研究対象とするのでは,エピソード記憶の一部分のみを

調べることになってしまうといえよう。

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2.文脈の分類

文脈は焦点情報以外の全ての情報であるので,そこにはさまざまな種類の情報が含まれていることに

なる。このように多様な情報は,記憶に対して一様に機能するとは考えられない。したがって,これらの情

報を分類し整理することが必要である。これまでにも,文脈を構成する情報,文脈の変動性,文脈の機能,

刺激の側面などの観点によって,文脈をいくつかに分類する試みが行われている。

A.文脈構成情報

現在処理している情報から派生する意味情報をもとに成立した文脈は,意味的文脈 (semantic

context: e.g., Light & Carter-Sobell, 1970)と呼ばれる。これに対して,出来事の生起している環境情報か

らなる文脈は,環境的文脈 (environmental context: see Smith, 1988, 1994; Smith & Vela, 2001) と呼ば

れる。

意味的文脈の実験操作は,焦点情報である記銘語とともに存在する非記銘語(文脈語)を用いること

で行われてきた(e.g., Light & Carter-Sobell, 1970)。たとえば,JAM という記銘語とともに文脈語を提示す

るという操作を行うとする。文脈語として"sweet"を提示すると,JAM はジャムとして認知され,符号化され

やすい。これに対して,"traffic"を文脈語として提示すると,交通渋滞と認知されやすくなる。このことは,

意味的文脈が焦点情報の意味の認知や符号化に影響することを示している。

一方,環境的文脈も,これまで多くのものが報告されてきた。中でも,場所や部屋に関する環境情報の

効果が最も多く研究されている(see Smith, 1988; Smith & Vela, 2001)。ただし,標準的な場所操作が存

在するわけではなく,陸上と水中(e.g., Godden & Baddeley, 1975),さまざまな特徴の異なる部屋(e.g.,

Smith, Glenberg, & Bjork, 1978; Smith, 1979),部屋と庭園(e.g., Bjork & Richardson-Klavehn, 1989;

Eich, 1995),実験室と自宅(e.g., Canas & Nelson, 1986)など,多様な文脈操作が行われている。また場

所単独操作よりも,他の要素と組み合わせる方が,より大きな環境的文脈依存効果を引き起こせることも

報告されている(Isarida & Isarida, 2004; Smith & Vela, 2001)。さらに,場所を中心とする複数要素を組

み合わせた複合文脈も研究されている(e.g., 漁田, 1992a; Isarida, 2005; Isarida & Isarida, 2006; 2010)。

場所以外にもさまざまな種類の環境情報の文脈依存効果が研究されている。これまでにも,提示項目

の背景色(e.g., 漁田・漁田・岡本, 2005; 漁田・尾関, 2005; Rutherford, 2004; Weiss & Margolius, 1954),

単純視覚文脈(simple visual context: 提示項目の背景色,前景色,位置を組み合わせた文脈)(e.g.,

Murnane & Phelps, 1993, 1994, 1995),BGM(e.g., Balch, Bowman, & Mohler, 1992; Smith, 1985a),匂

い(e.g., Cann & Ross, 1989; Pointer & Bond, 1998)など,実に多様な環境情報が文脈依存効果を引き起

こすということが報告されている。そして,これらの文脈依存効果が,全体として信頼できることが,メタ分

析によって示されている(Smith & Vela, 2001)。このメタ分析については,第3章 第2節の4で詳述する。

しかし,場所以外の環境的文脈については,まだ研究例が非常に少ない。したがって,これら多様な環

境情報が,どのような機能を持ち,相互に類似しているのか,あるいは異なっているのかについて,まだ

ほとんど解明されていないのが現状である。したがって,それぞれの環境情報の効果を,実証的に整理

していくことが必要である。

なお,意味的文脈における法則と環境 的文脈における法則は,必ずしも一致していない。たとえば,

意味的文脈は,再生と再認の両方に明確な効果をおよぼすが(e.g., Light & Carter-Sobell, 1970),環境

的文脈では,再生には効果が生じても,再認では効果が生じにくい(e.g., Godden & Baddeley, 1975,

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1980; Smith et al., 1978) ことが報告されている。

B.文脈の変動性

文脈の中には,意味的文脈のように項目の継時的提示とともに急速に変化するものから,環境的文脈

のように,実験セッションを通じてほとんど変化しないものまで存在する。Glenberg は,文脈成分の時間

的変動性にもとづいた文脈の分類を行っている(Glenberg, 1979, 1987)。この中で,Glenberg(1979)は,

時間的変動性の高い局所的文脈(local context)と変動性の低いグローバル文脈(global context)という

分類を行っている。そして,局所的文脈として,継時的に提示される記銘項目から派生する意味,連想,

心像,情景などをあげている。これは,ほぼ意味的文脈に相当する。また,グローバル文脈としては,部

屋などの物理的環境や実験参加者の生理的状態をあげている。これも,既述の環境的文脈に対応する

部分が多い。そして,局所的文脈は記銘項目に対する符号化処理に直接影響するのに対して,グロー

バル文脈は影響しないという。この点は,後述する文脈の機能による分類と対応している。

ところで,文脈の変動性が高いほど,その文脈が連合する項目数あるいは情報の量は少なくなる。標

準的な自由再生実験では,局所的文脈は,せいぜい2-3個の項目としか連合しないが,グローバル文

脈は記銘リスト全体と連合しうる。ここで,手がかりの強度が連合する項目数に反比例するとされているこ

と(Watkins & Watkins, 1975)を考慮すると,局所的文脈は手がかり強度が高く,グローバル文脈は手が

かり強度が低いことになる。

C.文脈の機能

文脈の機能にもとづく分類も行われている。ここでは,文脈が焦点情報の符号化処理を規定するかど

うかが中心テーマとなる。

Baddeley (1982) は,独立的文脈(independent context)と相互作用的文脈(interactive context)という分

類を行っている。独立的文脈は,焦点情報とは独立に存在している文脈である。焦点情報と文脈とを分

離して処理すると,文脈が独立的となるという。たとえば,記銘項目の暗記の際に存在している種々の環

境的文脈(e.g., Smith, 1988, 1994; Smith & Vela, 2001)は,記銘項目に対して独立的文脈となるという。

また抽象語を記銘語,数字を文脈語として用いた場合(Gardiner & Tulving,1980)も,両者の刺激形態が

異質なため,数字は独立的文脈となるという。

これに対して,相互作用的文脈は,焦点情報の符号化処理と密接な相互作用を持つ文脈である。相

互作用的文脈は焦点情報の符号化を規定する。たとえば,多義語とともに提示された形容詞によって,

多義語の多義性が解消され,多義語の意味が一義的に決定されるならば,形容詞は多義語に対して相

互作用的文脈として機能したということになる。既述の Light & Carter-Sobell (1970) の実験のように,文

脈語が記銘項目の意味の認知を規定するような場合(sweet JAM と traffic JAM),文脈語は相互作用的

文脈として機能するという。また,継時提示する単語リストの場合も,ある単語の認知は前後の単語によっ

て規定されやすい。この場合も,前後の単語が相互作用的文脈として働くと考えられる。

Wickens (1987)も,Baddeley (1982) の考えを継承している。用語は中性的であるべきという判断から,

独立的文脈に対してアルファ文脈(context α),相互作用的文脈に対してベータ文脈(context β)という命

名を行っている。

一方,Bjork & Richardson-Klavehn (1989)は,統合的文脈( integrative context),影響的文脈

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(influential context),偶発的文脈(incidental context)の3分類を行っている。この分類によると,統合的

文脈は,焦点情報とともに記憶痕跡に統合されてしまう文脈。影響的文脈は,符号化において焦点情報

と統合はしないが,符号化の形態に影響を与える文脈。偶発的文脈は,統合的でなく影響的でない文脈

として排他的に定義されている。けれども,実際は統合的・影響的文脈と偶発的文脈という2分割的な使

用が多い。これは,相互作用的文脈と独立的文脈の分類にほぼ対応している。現在では,なぜか混同が

起こり,相互作用的文脈と偶発的文脈という2分法が,最も多く使用されているようである(e.g., Murnane

& Phelps, 1993; Smith, 1994)。

機能による分類は,各文脈がどのように機能するかによって,文脈を見ていこうとするものであり,実質

的といえる。たとえば,環境的文脈は一般的には独立的文脈,アルファ文脈,偶発的文脈としてみられや

すいが,条件によっては相互作用的文脈,ベータ文脈,統合的あるいは影響的文脈として機能すること

もある。たとえば,JAM という言葉を台所で使用する場合と,車の運転中に使用する場合では,その意味

するところが異なるであろう。

しかしながら,この機能による分類で問題なのは,ともすれば循環論に陥りやすいというということである。

文脈の機能は,その効果によって判定することになる。Baddeley (1982)は,独立的文脈は再生のみに効

果を持ち,相互作用的文脈は再生と再認の両方に効果を持つという。結局,独立的文脈か相互作用的

文脈かの分類は,その効果が再認に生じるかどうかという点によって決まるということになってしまう。抽象

語を記銘語,数字を文脈語として用いた Gardiner & Tulving(1980)の研究での文脈を独立的文脈とした

根拠も,再認記憶に効果がなかったということに他ならない。この論法は,典型的な循環論である。場所

などの環境状況に関する文脈に関しても,Baddeley (1982) の頃は,再認では効果がないとされていた

(e.g., Godden & Baddeley, 1980; Smith et al., 1978)。しかしながら,最近になって再認でも効果があると

いう報告がでてくるようになっている(e.g., Canas & Nelson, 1986; Emmerson, 1986; Smith, 1986)。この点

も,機能による分類を危うくしている。

D.文脈の刺激的側面

刺激的側面からも,文脈を分類することができる。Baddeley(1982)において紹介された Hewitt(1977)

の未発表論文では,文脈を内発的文脈(intrinsic context)と外発的文脈(extrinsic context)に分類してい

る。内発的文脈は,刺激を知覚または理解する際に処理される刺激の側面であり,単語の表記形態,発

音,単語の意味,意味的文脈などが例としてあげられている。これに対して外発的文脈は,刺激の処理

そのものには関係のない刺激状況を指す。例としては,実験室の壁の色があげられている。Baddeley

(1982)は,この分類が受動的過ぎることや刺激に偏重していることを理由として退け,それに代えて独立

的文脈と相互作用的文脈という分類を行った。けれども,刺激の側面は外的操作が可能であるという点

からすると,循環論には陥りにくい長所を持っているといえよう。

E.文脈の分類のまとめ

以上,種々の側面からの分類を見てきた。これらの分類は,それぞれ文脈の異なる側面に注目して行

われたものであるが,その分類結果は相互に類似したものとなっている。意味的文脈,Glenberg(1979)

の局所的文脈,Baddeley (1982) の相互作用的文脈,Wickens (1987) のベータ文脈,Bjork &

Richardson-Klavehn (1989)の統合的・影響的文脈,Hewitt(1977)の内発的文脈は,相互に類似したもの

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である。いずれも,記銘項目に隣接した項目(群)によって派生するものであり,記銘項目の意味内容に

かかわる文脈である。時間的変動性に注目すれば,変動性は高いということになるし,焦点情報との関係

に注目すれば,焦点情報の符号化を規定するということになる。一方,環境的文脈,Glenberg(1979)の

グ ロ ー バル 文 脈 , Baddeley (1982) の 独 立 的 文 脈, Wickens (1987) の ア ル フ ァ 文 脈 , Bjork &

Richardson-Klavehn (1989)の偶発的文脈,Hewitt(1977)の外発的文脈は,いずれも,記銘項目とは直

接かかわりのない文脈であり,主として場所などの環境情報にかかわる文脈である。時間的変動性は低く,

焦点情報の符号化をほとんど規定しない文脈といえよう。

このように,環境的文脈が場所の操作中心で行われていた頃は,ほぼ環境的文脈=グローバル文脈

であった。ところが,最近になって,背景色文脈(e.g., 漁田ら, 2005; 漁田・尾関, 2005; Rutherford, 2004;

Weiss & Margolius, 1954)や単純視覚文脈 (e.g., Murnane & Phelps, 1993, 1994, 1995)は,環境的文脈

ではあってもグローバル文脈ではなく,局所的文脈であることが提唱されている(e.g., Isarida & Isarida,

2007; Rutherford, 2004; Sakai, Isarida, & Isarida, 2010)。この根拠については,視覚文脈の項(第4章

第1節-1)で記述する。また,上述したメタ分析においても,同様な理由から,背景色文脈と単純視覚文

脈が分析から除外されている(Smith & Vela, 2001)。現在,環境的文脈の機能は偶発的というのが定説

になっている(see Bjork & Richardson-Klavehn, 1989; Smith, 1994)。このことは,相互作用的局所的文

脈(意味的文脈)と偶発的局所的文脈(視覚文脈)が存在することを意味する。したがって,文脈の変動

性と機能は,分離して考えられるようになったと言える。ただし,現在も,視覚的環境的文脈もグルーバル

文脈であると考えている研究者が存在していることも事実である(Hockley, 2008)。

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第2章 記憶研究の展望

エピソード記憶を理解するためには,記憶内容を全体として理解することが大切である。しかしながら,

一部の研究を除いて,これまでの記憶研究は,実験者の決めた名目上の焦点情報の記憶のみを取り扱

ってきた。これは記憶の科学研究の創始者である Ebbinghaus 以来の伝統的流れであり,現在も記憶研

究の主流を占めている。これに対して,1970 年代頃から活発化してきた文脈研究は,焦点情報以外の情

報も取り扱っている。この章では,このような記憶研究の流れを,文脈研究以前・以後という視点から概括

し,その問題点を明らかにすることを目指す。

第1節 古典的研究

1.Ebbinghaus の連合論的研究

Ebbinghaus(1885)は,記憶に関する豊かな日常的観察を述べている。しかしながら,実際に実験に

よって解明していったのは,無意味綴り(nonsence syllable)の連合とその解体の過程であった。彼は,心

の構成要素である観念の連合が,記銘時間や反復によって強められると考え,無意味綴りを用いてその

ことを示した。イギリス連合主義の影響下にあったことを考えれば,連合の概念を中心として記憶をとらえ

たことは理解できる。けれども問題としたのは,あくまでも焦点情報同士の連合であった。彼の研究法,す

なわち,記銘すべき項目を集めて記銘リストを作成し,それを記銘し,一定時間後にテストするという方法

は,その後の記憶研究法の原型となったが,それと同時に,焦点情報以外の情報をともすれば軽視して

しまうような研究態度も,現在に至るまで受け継がれているようである。

一方,同じ連合主義的発想であっても,動物実験による学習心理学研究の先駆者といえる Thorndike

(1898, 1932) の研究態度は,Ebbinghaus(1885)とはかなり異なっていた。Thorndike は,彼の中心的概

念である結合(bond または connection)を「刺激場面が特定の反応を生起させる確率」と定義している。

ここでは焦点情報となる刺激のみならず,その他の情報をも含んだ環境全体と反応の連合が問題の中心

におかれている。この発想はその後も受け継がれ,現在,学習過程の基礎研究である動物の条件づけ

研究では,文脈を問題にするのはもはや常識となっている(see Balsam & Tomie, 1985)。

同じ連合主義の観点に立ち,さらに記憶と学習とではオーバーラップする部分が少なくないにもかか

わらず,このような焦点情報以外の情報に対する取り扱いに,2つの流れの間で大きな差が生じたことは

驚くべきことである。

2.行動主義の時代

Ebbinghaus 以降,行動主義の時代が訪れた。この時代になっても,引き続き連合の問題がメインテー

マであったが,Ebbinghaus の頃の観念と観念の連合にかわって,刺激と反応の連合が中心テーマとなっ

た。この頃,記憶(言語学習)の研究法として最も多く採用されたのは対連合学習(paired associate

learning) 法であった。この方法を用いることで,刺激項目と反応項目の連合過程や連合の解体の過程

が研究された(e.g.,McGeoch, 1932; McGuire, 1961)。すなわち,この頃の記憶(言語学習)研究でも,依

然として焦点情報(記銘項目)間の連合が中心テーマであったといえる。その当時は記憶研究(言語学

習)も動物実験を主とした学習研究も,共通な学習理論にもとづいていた(e.g., Hull, 1943)。それらの理

-11-

論において,焦点情報以外の情報が全く考慮されなかったわけではない。McGeoch (1932)は,「学習者

は学習材料間の連合のみならず,文脈の意味的特徴や環境との連合をも形成する。」と述べている。け

れども,こういった焦点情報以外の情報の問題は,動物を対象とした学習研究でもっぱら研究されていた

といえる。というのも,同じ刺激と反応の連合であっても,動物の学習研究では環境(刺激)と行動(反応)

の連合が中心テーマであり,人間の記憶(言語学習)研究では,刺激項目(刺激)と反応項目(反応)の

連合が中心テーマであったのである。

このような行動主義の時代にあって,Bartlett (1932) がスキーマを中心とする理論を提唱したことは注

目に値するであろう。前述したように,彼は,記憶を「想起時点における過去経験の再構成過程」ととらえ

た。この再構成過程において,スキーマは構図や枠組みとして働くという。スキーマは想起の対象となら

ない情報,すなわち焦点情報以外の情報である。しかし残念ながら,この時代には Bartlett (1932) の研

究はほとんど注目を受けなかった。彼の研究はむしろ現代において最も高い評価を受けているといえよ

う。

第2節 短期記憶研究:認知科学のはじまり

1.短期記憶研究

1940 年代後半頃から,心理学ばかりでなく,コンピュータ科学や脳科学も飛躍的進歩を遂げた。ノイマ

ン型計算機が誕生し,Penfield(1952)の脳部位電気刺激の研究もこの頃である。これ以降,認知心理学,

コンピュータ科学,脳科学が,あたかも三位一体のように相互に良い影響を与えながら,認知科学

(cognitive science)を形成していくことになる。この認知科学の形成を促進したのが,短期記憶

(short-term memory)の研究である。

短期記憶の概念は,古くから存在していた。William James は,心理現象の洞察を通して,記憶を一

次記憶(primary memory)と二次記憶(secondary memory)に分類した (James, 1890)。ここで,一次記憶

とは,心理的現在(psychological present)に属する記憶であり,短期記憶に相当する。これに対して,二

次記憶とは心理的過去(psychological past)に属する記憶であり,長期記憶に相当する。この一次記憶の

概念は,Waugh & Norman による記憶の数理モデルでよみがえることになる(Waugh & Norman, 1965)。

1949 年に Hebb は短期記憶の生理学的モデルを提唱した (Hebb, 1949)。このモデルでは,経験によ

って,脳内に反響回路が形成される。これが短期記憶の状態である。この反響回路が実質的な脳の変化

を生じさせることで,長期記憶が形成されるという。もともと,脳内回路を電気的興奮が循環することを,記

憶とみなす力動説(dynamic hypothesis)が存在していた。しかしながらこの考えでは,冬眠やてんかんの

大発作後にも長期記憶が残ることが説明できないという問題があった。Hebb のモデルは,この力動説モ

デルを,長期記憶ではなく,短期記憶に当てはめるものである。

1950 年代に入ると,Miller が"The magical number, seven plus or minus two"という著名な論文を発表し

た(Miller, 1956)。この研究は,処理容量に限界があるという短期記憶モデルを実験的に裏づけるもので

あった。この処理容量の限界は,ヒューマン・インタフェースの研究にも大きな影響を与えている。さらに,

Broadbent(1958)が感覚,知覚,注意,記憶における情報処理過程をモデル化した(Figure 1)。ここでは,

処理の流れがフローチャートによって記述されている。これはコンピュータにおける情報処理をモデルと

して,人間の情報処理を理解しようとする認知心理学のもととなる研究といえる。さらに,短期間で忘却が

-12-

生じることを実証する実験が報告された(Brown, 1958: Peterson & Peterson, 1959)。

Figure 1. Broadbent (1958) による感覚・知覚・注意・記憶の情報処理モデル

さらに脳科学からも,脳外科手術によって海馬を情報が通らなくなることで,前向性健忘(anterograde

amnesia)が生じるという症例が報告された(Milner, Corkin, & Teuber, 1968; Scoville & Milner, 1957)。前

向性健忘とは,新しく記憶を作ることができなくなる記憶障害である。この症例の患者は,新しい記憶を形

成できなくても,古い記憶は正常に検索することができた。この症例は,長期記憶形成(大脳新皮質への

情報貯蔵)の前段階に,情報を一次保存して処理する過程としての短期記憶(海馬)を想定する根拠の1

つとされた。

Figure 2. Waugh & Norman (1965) の吸収マルコフ過程モデル

一方,学習心理学では,経験の獲得が連続に行われるのか(e.g., Hull, 1943; Thorndike, 1932),それ

とも非連続なのか(Estes, 1950; Guthrie, 1935)という論争が,古くから続いていた。非連続説では,未学

習の状態から完全学習の状態に,非連続に移行するとする 2 段階理論にもとづく数理モデルが提唱され,

続いて 3 段階のモデルが提唱された(Atkinson & Clothers, 1964)。このモデルでは,未学習→不完全な

-13-

学習→完全学習という移行を仮定する。このモデルをもとに,未学習→一次記憶→二次記憶という 2 段

階の情報貯蔵を仮定する吸収マルコフ過程モデルが提出され(Waugh & Norman, 1965)(Figure 2),さ

らに感覚情報の一時的保存も考慮した情報処理モデルが提唱された(Atkinson & Shiffrin, 1968)

(Figure 3)。この Atkinson-Shiffrin モデルは,多重貯蔵による情報処理モデルの究極型ともいうべきもの

であった。

2.Atkinson-Shiffrin モデルの概要

Atkinson-Shiffrin モデルでは,入力された外部情報は,感覚モダリティごとに異なる感覚レジスタ

(sensory register)に入る。ここでは,パターン認識などは行われず,生の感覚データがそのままごく短時

間保存される。したがって,一時的ではあれ,莫大な貯蔵容量が必要となる。どれくらい保存可能かは,

感覚モダリティによって異なっている。視覚情報の場合,持続時間が 1 秒以内とされているが(Sperling,

1960),聴覚情報では 4 秒あまり持続するとされている(Darwin, Turvey, & Crowder, 1972)。これらは,新

しい情報が入ってこなかった場合の持続時間であり,通常は,時々刻々と入ってくる新しい感覚データに

よって置換(displacement)されることで,消失してしまう。

Figure 3. Atkinson-Shiffrin モデルの概要(Atkisnson & Shiffrin, 1968)

-14-

感覚レジスタの情報のうち注意された情報が,短期ストア(short-term store)に転送される。短期ストア

に転送された情報は,パターン認識され,意味も付与される。この処理のために,長期ストア(long-term

store)からの情報が逆転送される。これは,概念駆動型処理(conceptually driven processing)(Lindsay &

Norman, 1977)に相当する。短期ストアの情報は,意図的な情報処理を受ける。この処理の過程を,コン

トロールプロセスと呼んでいる。感覚レジスタ,短期ストア,長期ストアがハードウェアに相当するなら,コン

トロールプロセスはソフトウェアに相当する。

情報はリハーサルバッファ(reheasal buffer)に入ることで,意図的な処理を受ける。ここで,意図的な情

報処理を受けている間に,長期ストアに情報が転送される。ここでの情報転送とは,短期ストアから長期ス

トアに情報がコピーされることであり,情報が移動することではない。このリハーサルバッファは,容量に限

界があり,古い情報は,新しい情報によって置換されることで,消失してしまう。けれども,たとえ短期スト

アから情報が消失しても,その前に長期ストアに情報が転送されていれば,情報は半永久的に保存され

ることになる。

短期ストアから長期ストアへの情報転送は,コントロールプロセスの種類によって異なり,転送確率×転

送情報量=一定の関係があるという。記憶術やコーデイング(coding)のような精緻化処理(elaborative

processing)を行えば,転送確率が高くなるが,同時にあまり多くの情報を転送できない。逆に,リハーサ

ル(rehearsal)のような機械的反復処理を行えば,同時に多くの情報を処理することができるが,転送確率

が低くなってしまうという。残念ながら,実証研究は,リハーサル回数の効果の分析に終始したため(e.g.,

Rundus, 1971; Rundus & Atkinson, 1970),このモデルではコントロールプロセスの量のみを問題としたか

のように誤解されがちであるが,実際は,情報処理の質と量の問題にまで言及していたのである。

後に,処理水準(levels of processing)の考え(e.g., Craik & Lockhart, 1972; see Cermak & Craik, 1978)

によって,同じ処理水準にとどまる処理(Type I processing)と処理と共に水準が深まっていく処理(Type

II processing)の区分が提唱された。さらにこの考えを実証するために,もっぱら短期記憶への維持のみ

を目的とする維持リハーサル(maintenance rehearsal)と長期記憶の形成を目的とする精緻化リハーサル

(elaborative rehearsal)を区別する実証研究が行われた(e.g., Craik & Watkins, 1973; Woodward, Bjork,

& Jongeward, 1973)。しかしながら,これらの考えは,Atkinson-Shiffrin モデルによって,十分に予測・説

明が可能なものであった。

3.Atkinson-Shiffrin モデルの問題点

Atkinson-Shiffrin モデルは,上述のように,完成度の高い記憶モデルであったが,現在の記憶研究か

らすれば,かなり問題があった。これらは,このモデルのみの問題というよりは,この時代の記憶観そのも

のの問題ともいえる。

(1) 実験室で形成された記憶と一般的知識とを区別していなかった点

既述したように,現在では,実験室で形成された記憶は一般的知識ではなく,個人体験のエピソード

記憶とされている。イギリス経験主義哲学や学習心理学と同様に,この Atkinson-Shiffrin モデルも,人間

の「知」がどのように形成されるかを説明するためのモデルであった。残念ながら,その実証を,もっぱら

実験室内での自由再生研究で行っていた。これらの実験では,学習からテストまでの遅延期間がせいぜ

い 30 秒程度しかとられなかった。このことは,探求していた「知」も,実験室内で 30 秒後に残っていた記

憶も,長期ストアに貯蔵されている情報という点でまったく区別されていなかったことを意味している。この

-15-

モデルが出て間もなく,Tulving によって一般的知識(意味記憶)と個人体験の記憶(エピソード記憶)の

区分が提唱されたが(Tulving, 1972),この区分が一般的に受け入れられるようになるのは,さらに精緻化

された記憶システム論(Tulving, 1983)が出てきてからといえる。

(2) 検索過程が組み込まれていなかった点

Atkinson-Shiffrin モデルでは,長期ストアに貯蔵された情報は,半永久的に残り,基本的に忘却され

ないとする。すでに,Tulving らによって検索の問題が提起されていたが(Tulving & Pearlstone, 1966),こ

のモデルには取り込まれなかった。現在では最も重要とされている検索の問題が全く欠けている点は,非

常に大きな問題点といえる。

(3) 焦点情報のみを問題としている点

このモデルでは,入力情報に対するコントロールプロセスを仮定している。残念ながら,ここでの入力

情報とは,学習対象となる項目や図形などのような焦点情報であり,同時に存在していたさまざまな情報

である文脈の問題は,全く取り上げられていなかった。現在の記憶理論には不可欠な文脈の問題が欠け

ていたことも,大きな問題点といえる。

4.その他の記憶研究

A.処理水準

多重貯蔵モデルにかわって 1970 年代の記憶研究の中心となったのは,処理水準(levels of

processing: Craik, 1979; Craik & Lockhart, 1972; Craik & Tulving, 1975; see Cermak & Craik, 1978) の

理論である。多重貯蔵モデルが符号化における情報処理の量的側面を中心とした理論であったのに対

して,処理水準は符号化の質的側面を強調する。この理論の基本的主張を,以下の3点にまとめることが

できる。

(1) 情報の処理には,質の異なる無数の水準が存在する。

(2) この処理の水準を,深さ(depth)という基準で順序づけることができる。

(3) 記憶痕跡の強さおよび持続性は,符号化時に行われた情報処理の深さの関数である。

記憶モデルが多重貯蔵モデルから処理水準理論にかわることで,関心の焦点が情報処理の量から質

へと変化したが,個々の痕跡強度を問題とするという点は変わらなかった。処理水準に関する研究の中

心は,個々の名義的項目に対する情報処理のタイプであり,項目間の関係や焦点情報以外の情報との

関係は,問題ではなかったのである。

処理水準の理論は,種々の批判(e.g., Nelson, 1977)を受け,種々の修正を行った。基本的概念も,当

初の「深さ」(depth: Craik & Lockhart, 1972) から「精緻化の広がり」(spread of elaboration: Craik &

Tulving, 1975)へ,そして差異性(distinctiveness: Craik, 1979) へと変遷をたどった。この中で,最後の

差異性の概念が,焦点情報以外の情報も含めた他の情報からの区別されやすさを問題にしている点は

興味深い。もっとも,あくまでも焦点情報の痕跡強度に関する概念であることに違いはない。

B.体制化研究

1950 年代以降の記憶理論の主流は,多重貯蔵モデルおよび処理水準であった。けれども,それと並

行して,個々の痕跡強度ばかりでなく痕跡間の連合や体制化を問題とした研究が行われていたことを忘

れてはならない。

-16-

Bousfield (1953)は,複数の概念カテゴリに分類可能な項目を自由再生させる実験を行った。その結

果,カテゴリごとではなく,ランダムな順序で項目を提示しても,再生時に同じカテゴリの項目が続いて再

生されることを見いだし,群化(clustering)と名づけた。ランダムに提示された項目が,頭の中では,カテ

ゴリによってまとまって記憶されていると推測される。

Figure 4. 試行の関数としての再生語数と主観的体制化(Tulving, 1962).試行とともに,主観的体制

化が期待値を越えて高まっていくことがわかる.SO は,試行間の再生順序の類似性を示す指標である。

また Tulving (1962)は,無関連な単語からなるリストを,毎回ランダムな順序で提示し,自由再生を求め

た。すると,試行を重ねるごとに,同じ順序で再生されるようになることを見いだした。これは,項目同士が

無関連であっても,学習者独自の基準によって項目同士をまとめて(体制化して)記憶していることを示し

ている。これを主観的体制化(subjective organization)と呼んでいる。項目同士のまとまりや組織化,すな

わち記憶の体制化が進むほど,再生成績も上昇する(Figure 4)。

体制化研究は,個々の痕跡ばかりでなく痕跡間の連合や体制化を問題としたばかりでなく,記憶の

検索過程に目を向けさせるという働きもした。体制化の測定は再生資料の分析によって行う。再生資料に

現れる特定の項目同士の近接性を確認することによって,それらの項目群がまとまって記憶されているこ

とを類推するのである。このような場合,これらの項目同士が本当に記憶においてもまとまっているのか,

それとも再生時にまとめて報告されただけなのかが問題となってくる。このような問題は,貯蔵されたもの

と再生されたものとが必ずしも一致しないという問題を含んでおり,貯蔵と再生との間に介在する過程に

対する注意を喚起することになる。検索という概念は,必ずしも体制化研究の流れのみにおいて出てきた

わけではない。けれども,その概念の浸透に体制化研究が大きな役割を果したことは確かである。

これまで述べてきたような種々の貢献をした体制化研究であるが,記憶の全体的理解という点からは,

-17-

やはり問題がある。それは,体制化研究でも焦点情報以外の情報を取りあげていないという点である。こ

こでもやはり,実験者によって設定した焦点情報のみを問題としているのであり,体制化とは,焦点情報

のまとまりであり相互連合にほかならない。文脈のような焦点情報以外の情報に関しては,ほとんど考慮

されていないのである。

5.現代の短期記憶研究

Atkinson-Shiffrin モデルは,概論書等に登場することはあっても,現代ではそのまま問題とされること

はない。現代の短期記憶のとらえ方は,以下の 3 種類に集約することができる。

A. SAM(Search of Associative Memory)

この SAM モデル(e.g., Gillund & Shiffrin, 1984; Raaijmakers & Shiffrin,1981; Shiffrin & Raaijmakers,

1992)は,上述した Atkinson-Shiffrin モデルの問題点を大幅に改良しており,Atkinson-Shiffrinモデルの

改良版といえる。このモデルでは,事象はイメージ(独立し,ユニット化された表象)として貯蔵される。長

期ストアの情報には,さまざまな検索手がかりを介してアクセスする。このさまざまな検索手がかりには,さ

まざまな文脈情報が含まれている。手がかりがイメージを引き出す強さは,イメージと手がかりの既存の関

係(連想関係,意味的関係など)と,イメージと手がかりを対象として,短期ストアで行われる情報処理に

依存する。結局,記憶成績を規定する要因は,項目そのものの貯蔵強度,項目と項目の連合強度,項目

と文脈の連合強度ということになる。

B.作動記憶(working memory)

これはさまざまな認知活動を支える記憶をいう。暗算をするにも,会話をするにも,記憶の支えが必要

である。この点に対して異論を挟む研究者はいない。この作動記憶は「こころ」の作業エリアであり,コンピ

ュータでいうと内部メモリに相当する。Atkinson-Shiffrin モデルでも,この種の記憶をコントロールプロセス

として表現しようとしたようである。しかしながら,既述したように,リハーサル量の効果の研究しか行われ

ず,実質的な意味を持たなかった。

Baddeley & Hitch (1974)の最初のモデル化以来,このような認知活動を支える作動記憶のさまざまな

モデル化が行われている。大半のモデルでは,音声情報の形で情報を反復し維持する音韻ループ

(phonological loop),視覚イメージの形で情報を維持する視空間的記銘メモ(visuo-spatial scratch pad),

2つのシステムの働きを管理し,作動記憶内での情報の流れを制御する中央実行系(central executive)

が仮定されている(Figure 5)。この中央実行系では,言語理解,推理,思考など高次の認知活動の実行

とその結果の一時的保存が行われるという。

問題なのは,この作動記憶のモデルの多様性である。研究者の数だけモデルがあるともいえる。中心

人物の Baddeley にいたっては,何度もモデルの改訂を行っており(e.g., Baddeley, 1986; Baddeley &

Logie, 1999; see Miyake & Shah, 1999),いまだに定まったモデルに至っていないともいえる。1997 年に

コロラド大学で作動記憶のシンポジウムが行われ,各研究者が,自分のモデルを提出した。それをまとめ

た本でのコメントでは,「驚くべきことに,相違点よりも類似点の方が際だっていた(Miyake & Shah,

1999)。」と書かれるくらいに,各研究者の提出したモデルが多様であり,定まったモデルが存在していな

いのである。

-18-

Figure 5. 作動記憶モデルの概念図(Baddeley, 1986; Baddeley & Lorgie, 1999)

C.短期記憶概念の否定

Ebbinghaus(1885)以来の定説として,忘却は保持期間(retention interval, RI)の関数として進行すると

されていた。そして分単位,時間単位で進行する長期記憶と,秒単位で進行する短期記憶に区分されて

いた。

これに対して,長期新近性効果(long-term recency effect: Bjork & Whitten, 1974)の説明のために提

唱された比の法則(ratio rule)を用いれば,短期記憶と長期記憶を区分することなく,包括的に説明する

ことができる。この比の法則とは,忘却は RI に比例し,提示間隔(inter-presentation interval, IPI)に反比

例するというものである。逆にいうと,記憶成績は IPI/RI の比で規定されることになる。ここで,IPI は,出

来事の時間スケールと見ることができる。Peterson & Peterson (1959) のように,1-2 秒の出来事(子音3

文字の提示)は,20 秒程度の RI で忘却してしまう。Ebbinghaus (1885) のように,数分の出来事(無意味

綴りの系列学習)は,1 時間程度でかなり忘却する。Crowder & Neath (1991) は,顕微鏡のアナロジーを

提出している。顕微鏡の倍率に応じて,ノミが巨大に見えたり,殆ど見えないくらいであったりするのと同

じように,IPI に応じて忘却する RI が決まってくる。したがって,短期記憶と長期記憶を区分する必要はな

く,たった 1 種類の忘却の法則(比の法則)があれば十分という。

これまで,短期記憶の忘却を反映するとされていた新近性効果(recency effect)も(e.g., Craik, 1970;

Glanzer & Cunitz, 1966),比の法則によって,より包括的に説明できるという(e.g., Crowder, 1976;

Glenberg, Margaret, Kraus, & Renzaglia, 1983; Glenberg, Bradley, Stevenson, Kraus, Tkachuk, Gretz,

Fish, & Tupin, 1980; Neath, 1993)。特に,連続緩衝課題(continuous distractor paradigm)によって生じる

長期新近性効果は,短期記憶による説明が困難であるが,比の法則によればよく説明できるのである

(e.g., Crowder, 1976; Glenberg et al., 1980, 1983; Neath, 1993)。ここで,連続緩衝課題とは,各記銘項目

-19-

提示の前後に計算課題などの緩衝課題を挿入し,最後に,全項目の自由再生を求める方法をいう(e.g.,

Bjork & Whitten, 1974)。この緩衝課題の時間が 30 秒の場合,最後の項目提示から自由再生開始まで

に 30 秒経過することになる。したがって,この連続緩衝課題で生じる長期新近性効果を,短期記憶で説

明することはできない。

これに対して,比の法則によれば,これまでの新近性効果の出現(e.g., Glanzer & Cunitz, 1966;

Murdock, 1962)や,新近性効果の消失(e.g., Glanzer & Cunitz, 1966),そして長期新近性効果(e.g.,

Bjork & Whitten, 1974; Tzeng, 1973)の全てを説明することができるのである(Figure 6)。まず,直後自由

再生の場合,IPI と RI の両方がほとんどゼロに近い値なので,IPI/RI = 1 となる。次に,30 秒の遅延自由

再生では,IPI がほとんどゼロ,RI が 30 秒なので,IPI/RI = 0 となる。また,連続緩衝課題の場合,IPI と

RI が 30 秒なので,IPI/RI = 1 となる。そして,IPI/RI = 1 の時に新近性効果が出現し,IPI/RI =0 のときに

新近性効果が消失している。さらに,Glenbergらは,数秒から 2週間までの時間間隔において,比の法則

が成立することを実証している(Glenberg et al., 1980, 1983)(Figure 7, 8)。

Figure 7. 比の法則の検証実験。4 秒から 72 秒時間間隔で比の法則が成立することを示している

(Glenberg et al., 1983)。

IPI/RI = 1

IPI = 30 ,RI = 30

直後自由再生 遅延自由再生 連続緩衝課題

IPI/RI = 1

IPI ≒0,RI ≒0 IPI/RI≒0

IPI ≒0,RI = 30 Figure 6. 比の法則による新近性効果の説明

-20-

Figure 8. 比の法則の検証実験。1 日から 2 週間の時間間隔で比の法則が成立することを示している

(Glenberg et al., 1983)。

Figure 9. 24 時間後の自由再生における新近性効果におよぼす文脈復元の効果.SC(same context)

は学習時の文脈が復元される条件。DC (different context) は,学習時の文脈が復元されない条件

(Isarida & Isarida 2006)。

しかしながら,最近になって比の法則に反する現象が報告されている(Isarida & Isarida, 2006)。Isarida

& Isarida (2006) は,「IPI/RI≒0」(IPI が 30 秒で RI が 24 時間あるいは 10 分間)のときでも,学習時の文

脈を復元すれば,新近性効果が生じることを見いだした(Figure 9)。文脈は,場所,副課題,実験者ある

いは BGM という複合要因を操作した複合場所文脈(complex place context)であった。この現象は,独立

した2回の実験で確認されており,信頼できるといえる。Isarida & Isarida (2006) は,この発見にもとづき,

IPI/RI 比を,学習時の文脈内外からの検索の問題で説明できるという提言を行っている。すなわち,IPI

は学習エピソードを取り囲む環境的文脈の大きさを反映し,RI は原学習エピソードとテストエピソードとの

1 2 3 4 5 6 70

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

Pro

babi

lity

of R

ecal

l

Serial Position

SC

DC

-21-

距離を反映する。したがって,IPI/RI 比は,テストが原学習の環境的文脈内で行われる確率を反映するこ

とになるという。もしそうなら,短期記憶の問題とされていたことは,文脈依存効果の問題に還元できるか

も知れない。今後の検討課題といえよう。

第3節 文脈研究

現代では,記憶理論のほとんど全てにおいて,文脈の概念,過程,機能が取り込まれている。SAM

(e.g., Gillund & Shiffrin, 1984; Raaijmakers & Shiffrin,1981; Shiffrin & Raaijmakers, 1992),REM

(Shiffrin & Steyvers, 1997; Wagenmakers, Zeelenberg, Raaijmakers, & Shiffrin, 2003), TODAM,

TODAM2(Murdock, 1983, 1992, 1993), MINERVA2(Hintzman, 1984, 1988), CHARM(Eich, 1982), 行

列モデル(Pike, 1984),ICE 理論(Murnane, Phelps, & Malmberg, 1999)などがある。これらに共通してい

るのは,焦点情報ばかりでなく,文脈を含む全ての情報が記憶を規定するとしているという点である。これ

らのモデルは,グローバル照合理論群(global matching theories)と総称されている(see Clark &

Gronrund, 1996)。

記憶研究において文脈の問題が取り上げられるようになったのは,さほど新しいことではない。たとえ

ば,Ebbinghaus (1885) とほぼ同年代の Galton (1883)は,日常的事象の回想が,原経験と同じ環境下

で行われる時に促進されることを提言している。実証研究としては,被験体としてラットを使用した研究に

さかのぼる。Carr (1925)は,頭上のルームライトを基準にして特定方向に向う迷路でラットが学習し,同じ

照明配置の時の方が,照明配置が変った時よりも,良い成績を示すことを見いだした。動物の文脈依存

効果に関する学習および記憶研究は,現在までに数多くの研究が報告されている(see Balsam & Tomie,

1985)。

しかしながら,人間の記憶理論や研究において,文脈が主要な位置を占めるようになったのは,1970

年代以降のことである。したがって,まだ数多くの問題が残されている。確かに文脈を取り扱った理論は

多く存在するが,実証面が非常に不足しているといえる。特に,後述するように,エピソード記憶が環境的

文脈に依存する機構に関しては,まだほとんど解明されていないといって良いであろう。

1.符号化特殊性原理

記憶研究で文脈の問題がクローズアップされるようになったことには,Tulving のエピソード記憶の概念

(Tulving, 1972, 1983)と,符号化特殊性原理(encoding specificity principle: Tulving & Thomson, 1973)

が大きく貢献している。

すでに述べたように Tulving(1972,1983)は,実験室内の記憶の大半がエピソード記憶であり,一般的

知識に属する意味記憶とは区別されることを提唱した。そして,エピソード記憶は,意味記憶の一部が一

時的に活性化されたものではなく,新たに形成されたものであると主張する。そしてまた,エピソード記憶

の形成過程および使用の過程は,符号化特殊性原理に従うという。

符号化特殊性原理の基本的な命題は,「事象に関する記憶情報の検索は,事象生起に際しての知

覚・認知的表象の全符号化パターンに含まれる検索手がかりによってのみ影響される。」というものである。

この原理は,以下の2つの下位原理から成り立っている。

(1) 符号化された情報は,記銘材料や文脈情報も含めて,全てエピソード記憶に影響する。

-22-

(2) エピソード記憶情報の検索は,符号化された情報のみによって規定される。符号化時に存在しな

かった情報は,たとえ記銘材料と強い意味的関係を持っていても,エピソード記憶に影響しない。

この原理では,焦点情報ばかりでなく,焦点情報とともに存在する文脈情報も,エピソード記憶の符号

化や検索に関与するという。こういったことから,焦点情報以外の情報にも関心がよせられるようになり,

記憶における文脈の効果が研究されるようになったのである(e.g., Light & Carter- Sobell,1970; Thomson

& Tulving, 1970)。

2.意味的文脈依存効果

A.再生の意味的文脈依存効果

Thomson & Tulving (1970) は,符号化において単語を単独で提示する条件(e.g., バラ)と弱い連想

関係を持つ単語(文脈語)と対提示する条件(e.g., 鉛筆-バラ)を設けた。また,文脈語と記銘語の関係

について考え,関連づけることで,後のテストで有利になると教示した。テストにおいて,バラと強い連想

関係にある単語(e.g., トゲ)を検索手がかりとして提示する条件と,符号化時と同じ弱連想語(鉛筆)を検

索手がかりとして提示する条件を比較した。その結果,符号化時に単独提示した条件では,強連想語手

がかり条件が弱連想語手がかり条件よりも,再生率が高かった。これに対して,符号化時に弱連想語と対

提示した条件では,逆に弱連想語手がかり条件が,強連想語手がかり条件よりも高い再生率を示した

(Figure 10)。この結果は,以下のように解釈できる。単語を単独で提示した場合,符号化の際の処理に

おいて,連想関係が強いほど,その情報と一緒に符号化される確率が高くなる。したがって,検索の際に

強い連想語ほど,良い手がかりとなりやすい。これに対して,弱連想語と対提示された場合,その弱連想

語と共に符号化されることになる。鉛筆とバラの場合,「バラのデッサンをする」といった内容の符号化が

生じやすくなる。このような場合,検索において,「トゲ」よりも「鉛筆」の方が,良い検索手がかりとなる。こ

の実験によって,符号化の際に存在しなかった情報は,たとえ焦点情報と強い意味的関係を持っていて

も,検索の手がかりとはなりにくいことが示されたのである。

Figure 10. 再生の意味的文脈依存効果(Thomson & Tulving, 1970).

-23-

B.再認の意味的文脈依存効果

Light & Carter-Sobell (1970) は,多義語と形容詞とを対提示する方法で,再認記憶における意味的

文脈の機能を調べた。たとえば,符号化において文脈語"sweet"と記銘語"JAM"(甘いジャム)を提示し,

再認テストにおいて同じ"sweet JAM(甘いジャム)"を提示する条件(同文脈条件)と,テスト時には"traffic

JAM(交通渋滞)"を提示する条件(異文脈条件)の再認成績を比較した。ここでも,文脈語と記銘語の関

係について考え,関連づけると,後のテストで有利になると教示した。その結果,同文脈条件の方が,異

文脈条件よりも再認成績が良いという文脈依存効果を見いだした。この結果は,再生ばかりでなく再認で

も意味的文脈依存効果が生じること,そして再認にも検索過程が存在することを意味している。

この研究まで有力とされていた生成-再認モデル(generation – recognition model: e.g., Kintsch, 1970)

では,再生が連続した2つの段階から成り立っているとする。第1段階は再生反応の候補を生成する段階

で,第2段階はその候補が記銘リストにあったかどうかを判断する段階である。また,再認には第1段階が

なく,第2段階のみから成り立っているという。この理論では,第2段階の判断は,各候補の熟知性

(familiarity)にもとづいて行われるとされる。しかしながら,再認の意味的文脈依存効果の発見により,こ

の生成-再認モデルは修正を余儀なくされた。

Anderson & Bower (1972)は,生成-再認理論を修正して文脈要素判断による理論を提唱した。この

理論では,それまでの生成-再認理論が第2段階を熟知性の判断過程としていたのを修正し,再認を項

目と結びついた文脈要素(contextual elements)の比較判断過程とした。記銘項目は記銘時に存在するさ

まざまな文脈要素と連合する。そこで,テストでは,判断の対象となる項目,すなわち再生では生成した

候補語,再認では記銘項目とディストラクター(緩衝用に挿入された非記銘項目)と連合している文脈要

素を調べ,それが記銘時の文脈要素であるかどうかの判断を行う。判断の対象となる項目が記銘項目で

あれば,記銘時の文脈要素とより多く連合しているであろうし,判断の対象となる項目が非記銘項目であ

れば,記銘時の文脈要素とは,ほとんど連合していないと予想される。この理論では文脈要素として,温

度,時刻,実験参加者の内的状態,実験者の服装など,実にさまざまなものをあげている。記銘項目とと

もに存在した全ての情報をあげているといっても過言ではない。

この修正を契機に,既述したグローバル照合理論群が次々と産み出されることになった(cf. Clark &

Gronrund, 1996)。残念ながら,この理論の実証のために直接操作した文脈は,リスト文脈等ごくわずかの

意味的文脈要素に過ぎなかった。この名残は,現在も受け継がれており,多くのグローバル照合理論群

の問題点とされている(Clark & Gronrund, 1996)。

C.意味的文脈研究の限界

このように,符号化特殊性原理の実証研究として Tulving 達が取り扱ってきた意味的文脈は,明確な

文脈依存効果を引き起こすことが見いだされてきた(e.g., Light & Carter-Sobell, 1970; Thomson &

Tulving, 1970)。このような研究法から推察すると,Tulving のエピソード記憶とは意味情報の再体制化さ

れたものといえる。もちろん,ここでの意味情報の再体制化されたものは,一般的真理ではなく,情報群

のユニークなまとまりである。「ユカタ」と「スミレ」が一緒に存在するという内容の記憶は,実験室内だけで

通用する特殊な記憶であり,この点において一般的知識を問題とする意味記憶とは区別される記憶とい

える。

しかしながら,これでは実験室の中だけでしか通用しない記憶の研究に終始することになってしまう。

-24-

言葉と言葉の関係のみを取り上げ,「環境の問題を無視するという Ebbinghaus以来の伝統」から一歩も出

ていないといえよう。このような特殊な記憶の研究で明らかになった法則が,本当に我々の日常体験の記

憶に適用できるのであろうか。生態学的妥当性(ecological validity)の高い記憶法則を探るためには,言

葉と言葉の関係の研究に終始するのではなく,よりグローバルな文脈や環境に関する文脈の研究が必要

といえる。

4.エピソード定義文脈

記憶をエピソード記憶として特徴づけ,各エピソードの識別や特徴づけに利用できる文脈は,エピソー

ド定義文脈(episode-defining context)と呼ばれている(Murnane et al., 1999)。エピソード記憶を解明する

ためには,このエピソード定義文脈の機能を解明することが,必須となる。

エピソード記憶が,焦点情報と文脈からできているので,全ての文脈が,条件次第でエピソード定義

文脈となりうる。たとえば,意味記憶において,BLACK という語は white という語と強い連想関係を持って

いる。けれども,実験において BLACK(記銘語)— train(文脈語)という単語対を符号化すれば,white よ

りも train と強く関係を持った「BLACK という記憶」が形成される。ここで形成された「記憶 BLACK」は,実

験課題に随伴して形成されたユニークな記憶であり,white と強い関係を持つ意味記憶とは異なっている。

確かにこのような意味において,ここでの「記憶 BLACK」は,実験状況に依存して特異的に形成された

記憶であり,意味記憶とは異なる性質を持つエピソード記憶と見なすことができる。そして train という語は,

この場合のエピソードを特徴づけるエピソード定義文脈となりうる。

しかしながら,エピソード定義文脈の概念は,日常体験の記憶を特徴づけ,各日常体験エピソードの

識別に役立つ文脈として提唱されている(Murnane et al., 1999)。日常場面における符号化や想起の過

程では,単語と単語の意味的関係はほとんど役に立たない。日常場面では,もっとグローバルな文脈情

報が想起の際に使用される。日常場面のエピソード記憶は,「いつ」,「どこで」,「どのような時」,「誰と」

のような時間,場所,状況,社会的要因などに関する情報とともに符号化される。想起に際しては,これら

の情報を手がかりとして,焦点情報を検索することになる。これらの情報は,上述した文脈の分類では,

環境的文脈,グローバル文脈,アルファ文脈などとされていたものに対応する。これらの文脈は,焦点情

報の符号化を規定しないとしても,出来事を通じて変化しないので,エピソード記憶構成要素のほとんど

全てと連合しうる。このことは,日常場面では,これらの文脈が,各エピソードを識別する文脈になりうるこ

とを意味している。

-25-

第3章 環境的文脈研究

第1節 環境的文脈研究のパラダイム

環境的文脈研究のパラダイムとして,これまでに 3 種類のものが報告されている。以下にその 3 種類を

概観する。これらの中で,最も多く使用されているのが,復元(reinstatement)パラダイムである。

1.復元パラダイム

環境的文脈依存効果の実験パラダイムで最も一般的なのは,復元パラダイムである。復元パラダイム

では,焦点情報を経験した文脈あるいは別の文脈のもとで,記憶のテストを行う。元の文脈が復元された

時に,別の文脈のもとでよりも,焦点情報がより良く想起される時,環境的文脈依存効果が生じたとする。

復元研究の歴史は,かなり古い。たとえば,上述した Galton (1883)の提言や,Carr (1925)の動物実験

は,いずれも復元パラダイムに相当する。人間での環境的文脈の復元効果研究は,古くは Smith &

Guthrie (1921)が報告している。言語材料の暗記において,場所(屋内と屋外)と匂いの有無を組み合わ

せて文脈を操作し,文脈復元効果を見いだしている。その後,場所(e.g., Godden & Baddeley, 1975;

Smith et al., 1978),BGM(e.g., Balch et al., 1992; Smith, 1985a),匂い(e.g., Cann & Ross, 1989; Pointer

& Bond, 1998),姿勢(Rand & Wapner, 1967),背景色(e.g., Isarida & Isarida, 2007; Rutherford, 2004)な

どのさまざまな環境情報において,文脈復元効果が報告されている。

A. 物理的復元と心的復元

上述した復元効果は,実際に学習時の文脈を提示することで,想起が促進されるという現象である。物

理的環境情報の提示による効果であるので,物理的復元(physical reinstatement)と呼ばれている。これ

に対して,学習時の文脈を思い浮かべることで,物理的復元効果と同様な効果が生じることが報告されて

いる(e.g., 漁田・漁田, 1998; Smith, 1979, 1984)。これを心的復元(mental reinstatement)と呼んでいる。

実験操作では,学習時の部屋の写真を見せるという方法も採られるが(Smith, 1979, 1984),物理的環境

の写真提示を行わなくても,学習時の状況に関するさまざまな質問をすることで,心的復元が生じること

が報告されている(e.g., 漁田・漁田, 1998)。さらに,物理的復元と心的復元の両方の操作を組み合わせ

た場合と,物理的復元と心的復元を単独で行った条件とに記憶成績の差がないことから(漁田・漁田,

1998),物理的であろうと心的であろうと,復元される文脈は,同じ文脈であることが推察される。

心的復元を促進する方法が,目撃者の記憶を補助することが見いだされている(e.g., Malpass &

Devine, 1981)。このことを利用して,目撃証言の精度を高める認知面接法(cognitive interview method)

が開発されている(e.g., Geiselman, Fisher, MacKinnon, & Holland, 1986; see 漁田, 1996)。昔通ってい

た小学校を訪れると,その頃のことがよみがえってくるというような場合(物理的復元)を除いて,日常的想

起の場合,明確な手がかりが存在していない。そのような場合に思い出すという活動は,心的復元を行っ

ていることに他ならない。朝持って行った傘を帰宅時に持っておらず,どこで傘を置き忘れたかを思い出

そうとする場合,通常はその日の行動を朝から順に頭の中でたどることを行う。これはまさに心的復元を

行っていることになる。実際に,その日の行動をもう一度行えば物理的復元といえるが,そのようなことは

普通行われない。

-26-

心的復元は,物理的復元効果を減少させると予想される。学習時と異なる文脈下でも,心的復元に成

功すれば,物理的復元条件と同等の記憶成績をあげることができる。その結果,物理的復元効果が減少

あるいは消失してしまうことになる。Bjork & Richardson-Klavehn (1989) は,物理的復元効果が不安定な

原因として,この心的復元の存在をあげている。Smith & Vela (2001) のメタ分析でも,保持期間が 1 日

以内の場合(.22~.28)と,1 日以上の場合(.63)で文脈依存効果の大きさに際だった差が見いだされて

いるが,これも心的復元の容易さと関係していると推測できる。

2.干渉減少パラダイム

干渉減少パラダイム(interference reduction paradigm: e.g., Bilodeau & Schlosberg, 1951; Greenspoon

& Ranyard, 1957)は,学習リストと干渉リスト(Table 2)を使用する。学習リストと干渉リストが異なる環境で

学習された時に干渉効果が減少すると,文脈依存記憶を示す証拠と解釈される。文脈手がかりが,挿入

学習リストと関連せず,原学習リストのみと関連するならば,再生で使用される文脈情報は,挿入学習リス

トの手がかりとはなりにくく,それだけ干渉効果が小さくなる。これに対して,統制群の実験参加者は,2つ

の学習リストを区別するために文脈手がかりを利用できないので,干渉を受けやすいと説明される。

環境的文脈依存効果は,物理的復元パラダイムよりも,干渉減少パラダイムの方が強力である(Smith,

1988; Smith & Vela, 2001)。既述したように,物理的復元効果の心的復元による抑制を指摘した Bjork &

Richardson-Klavehn (1989) は,干渉減少パラダイムの実験参加者には,干渉リスト文脈を心的復元する

理由がないということを指摘する。干渉リスト文脈の心的復元は,学習リストの記憶の手がかりにならない

ばかりか,干渉する記憶を復活させるということから,逆効果になりかねないからである。これに対して,物

理的復元研究では,文脈が復元されない条件では,心的復元によって記憶を改善することができる。し

たがって,心的復元を行う意味が存在する。

Table 2

逆向抑制の干渉減少パラダイム(Smith, 1994 より)

3.マルチ文脈パラダイム

-27-

マルチ文脈パラダイム(multi-context paradigm)も文脈依存記憶に関係する方法である。このパラダイ

ムでは,学習リストを同一文脈内,あるいは異なる文脈内で反復提示し,中立的文脈下で記憶をテストす

る。当初は,学習文脈が同一でなく変化する時に,再生が良くなるという結果(異文脈反復優位)が得ら

れていた(Glenberg, 1979; Smith et al., 1978)。この後の一連の研究については,後で詳述する(第3章

第3節-2A)

第2節 場所文脈としての環境的文脈研究

1.初期の環境的文脈研究

環境的文脈研究が,広く行われるようになったのは,海中と陸上という劇的な環境操作を行った

Godden & Baddeley (1975) の実験を契機とするといえる。彼らは,スコットランドのダイビングスポットで,

アクアラングを付けて5m の海底で符号化や自由再生テストを行う条件と,海岸で符号化や自由再生テス

トを行う条件を組み合わせた4条件を用いて,環境的文脈依存効果の実験を行った。その結果,符号化

とテストの環境が一致する条件が,一致しない条件よりも高い再生成績を示した(Figure 11)。これに引き

続いて,Smith を中心として,部屋の物理的特徴を操作した一連の研究(Glenberg, 1979; Smith, 1979,

1982, 1984, 1985b; Smith et al., 1978; Smith & Rothkoph, 1984)が行われた。さらに,この一連の研究で,

(1) 自由再生では環境的文脈依存効果が生じるが,再認では生じないこと,(2) 符号化時の環境をイメ

ージすることで心的復元が促進されること,(3) 多様な環境での符号化により,再生が促進されることなど,

環境的文脈依存効果に関する諸現象が見いだされた。

特に,環境的文脈依存効果が再生では生じるが再認では生じないという現象については,Godden &

Baddeley が 1975 年の実験と同じ環境的文脈操作を行い,再認で記憶をテストし,文脈依存効果が生じ

ないという結果(Godden & Baddeley,1980)を出したことにより,確実な現象として受けとめられるようにな

った。上述した Baddeley (1982) による独立的文脈と相互作用的文脈の区分にも,この現象が大きく貢

献している。

その後 1985-86年に,再認でも環境的文脈依存効果が生じるという結果が相次いで報告された(Canas

& Nelson, 1986; Emmerson, 1986; Smith, 1985b, 1986)ことにより,再認では環境的文脈依存効果が生じ

ないという定説は崩れることとなった。その後になって,(1) Smith (1986) の実験操作に問題があったこと

Figure 11. 水中と陸上の間で生じる環境的文脈依存効果

-28-

を Smith 自身が報告したこと(Smith, Vela, & Williamson, 1988),(2) Canas & Nelson (1986) の実験は,

文脈変化とテスト場所が交絡していること,(3) Emmerson (1986) の実験においても,場所変化とテストボ

ードの色が交絡している可能性があることが指摘されている(e.g., Markopoulos, 2006)。このように,そろ

って出てきたこれらの研究が,いずれも見直しを迫られることとなっている。ただし,これらの研究の後にも,

再認における環境的文脈依存効果が報告されており(e.g., Dalton, 1993; Russo, Ward, Geurts, &

Sheres., 1999),定説が崩れたことに違いはない。現在では,再認では環境的文脈依存効果が生じにくい

というとらえ方に変化している。

また,この頃の環境的文脈研究においては,環境的文脈は場所文脈と同義であった。環境的文脈依

存効果の意味づけに研究者間で相違があったとしても,エピソード定義文脈を変化させるという方向で研

究が行われていたことは間違いないといえる。

2.環境的文脈依存効果の信頼性への疑義

Fernandez & Glenberg(1985)が,現状の環境的文脈依存効果には、信頼性を見いだすことができな

いという批判を行った。彼らは,部屋の操作による環境的文脈実験を8種類も行い,信頼できる環境的文

脈依存効果を検出できなかった。彼らは,部屋の操作による環境的文脈研究の問題として,(a) 「実験室

という環境」と「記銘材料を暗記するという事象」との間に必然性あるいは因果関係がないということ,(b)

実験参加者からすれば「実験場面という文脈」の中で全てが進行しているのであって,部屋を変えたくら

いでは文脈の十分な変化とはいえない,という点をあげている。そして,(a) 環境と必然的関連があると知

覚される出来事の記憶を取り扱うこと,(b) 記憶課題と必然的関連があると知覚されるような環境的文脈

の成分を操作することによって,信頼できる環境的文脈依存効果を検出できるであろうという提言を行っ

た。さらに,Bjork & Richardson-Klavehn(1989)も,実験参加者内要因として環境的文脈を操作し,複数

の実験で有意な文脈依存効果を見いだすことができなかった。Bjork & Richardson-Klavehn(1989)は,

偶発的に存在する環境情報は,信頼できる文脈依存効果を引き起こせないという提言を行った。

これらの提言は,符号化やテストにおける環境の物理的特性をどんなに精緻に操作しても,それだけ

では本当の意味の文脈依存効果を引き起こせないということであり,エピソード定義文脈操作の重要性を

指摘したものと受けとめることができる。

記憶研究の世界に大きな影響力を持つ研究者の Glenberg と Bjork が,環境的文脈依存効果の信頼

性を否定したことは,環境的文脈研究の世界に大きな陰を投げかけたといえる。このため,その後の 10

数年間は,場所文脈を操作した研究がほとんど見受けられなくなった。有力国際誌では,単発的に顔の

再認の環境的文脈依存効果(Dalton, 1993; Russo et al., 1999)と,場所文脈を気分が媒介するという論

文(Eich, 1995)が掲載されたに過ぎない。

3.環境的文脈依存効果の内的過程媒介説

環境的文脈依存効果,とりわけ場所文脈の信頼性に問題があるということが示されたこと,さらに上述

した環境的文脈研究の方法に対する Fernandez & Glenberg (1985) の批判は,環境的文脈依存効果の

とらえ方の変更をもたらした。当初は,環境情報と焦点情報の単純な連合モデルが想定されていたようで

ある(e.g., Glenberg, 1979)。この時期に,環境的文脈依存効果の内的過程媒介モデルが登場してきた。

-29-

Figure 12. 符号化時とテスト時の気分一致度と再生率の関係。図中の I は狭い実験室を示し,O は公

園内の日本庭園を示す。

A.気分媒介説

内的過程媒介説の中で代表的ともいえるのが,場所文脈依存効果を気分が媒介するという説である

(Eich, 1995)。Eich (1995)は以下の実験を行った。場所文脈の操作として,大学の実験室と大学の近く

の公園内の日本庭園という2つの場所を用いた。符号化課題として,自伝的想起を用いた。具体的には,

感情的に中性的な普通名詞(e.g., ship, street)を,1 個ずつ実験者が読み上げ,その名詞を手がかりとし

て過去の自伝的記憶を報告させた。普通名詞は 16 個用い,読み上げた後 2 分たっても自伝的想起を報

告できないときは,次の名詞に移った。自伝的想起を報告できたときは,その出来事の感情性(9 段階),

個人的重要性(5 段階),想起の鮮明さ(5 段階)を評定させた。自由再生テストは,符号化の 2 日後に行

った。自由再生テストでは,符号化において思い出した出来事またはその手がかりとなった普通名詞を,

任意の順序で口頭再生させた。自由再生テストの後,符号化の時とテストの時の気分の一致度を,11 段

階で評定させた。この実験の結果,符号化とテストにおける場所の一致不一致にかかわらず,符号化時

-30-

とテスト時の気分の一致度に,再生成績が相関することを見いだした(Figure 12)。Eich (1995)は,この結

果により,場所文脈依存効果を気分が媒介するという説を提唱した。場所文脈

依存効果は,場所と焦点情報が直接結びつくことで生じるのではなく,場所変化によって気分変化が生

じ,その気分が焦点情報を規定すると説明する。

しかしながら,文脈依存効果や場所文脈依存効果を,気分依存効果(mood-dependent effect, see

Blaney, 1986)で説明するという考えには問題がある。なにより問題なのは,気分依存効果の脆弱さや不

安定さである。Bower, Gilligan, & Monteiro (1981) は,催眠術を使って気分を誘導する実験を行った。

しかしながら,3つの実験のうち気分依存効果を示したのは,たった1つに過ぎなかった。Eich & Metcalfe

(1989)は,音楽を用いて気分を誘導するという実験を行った。ここでも,実験参加者が単語を生成すると

気分依存効果が生じるが,提示されたときに生じていない。Eich (1995) の実験でも,単語提示でなく単

語生成を行わせている。既に述べたように,環境的文脈依存効果は,実験参加者が単語を生成しなくて

も,単語を提示される条件で十分に生じる。そして,この効果の信頼性は,メタ分析によって確認されてい

る(Smith & Vela, 2001)。このように見てくると,環境的文脈依存効果の方が気分依存効果よりも頑健で

あり安定しているといえる。したがって,頑健で安定した現象を,より脆弱で不安定な過程が媒介するとい

う説明には無理があり過ぎるといえよう。

B.心的文脈の媒介

環境的文脈依存効果を内的過程が媒介するとしても,それは気分を含むもっと幅広い過程ではなかろ

うか。Smith (1995) は, Eich (1995) 論文に対するコメントにおいて,環境的文脈依存効果を媒介する

のは,もっと包括的な心的文脈(mental context)であり,気分はその心的文脈に包含されると述べている。

Smith (1995) は,心的文脈として,気分と周囲の環境の表象だけでなく,実験参加者の心的セット,生理

学的事象,その時点で活性化している記憶などが心的文脈に含められるという。ただし,Smith (1995)

は心的文脈の存在を直接立証する実験は行っていない。Smith の環境的文脈依存効果研究は,環境の

物理的側面の操作に限定されており(e.g., Smith, et al., 1978),それが Fernandez & Glenberg (1985) の

批判の中心となったのである。包括的な概念を提案すれば,多くのものを説明できるが,実証できないの

ではほとんど意味がないといえよう。実際,心的文脈のような内的要因が,環境的文脈を媒介するという

仮説を検証した実験はほとんど存在しない。

そんな中で,漁田・漁田(1999)は,大学における教室の変化(200 名規模の講堂と 30 名規模の小教

室)と場面の変化(授業時間と休憩時間)をクロスさせて操作した。その結果,教室の変化にかかわらず,

場面変化が文脈依存効果を引き起こしたが,場面一定の条件下では,教室の変化は文脈依存効果を引

き起こさなかった。このことは,環境的文脈依存効果を引き起こすのは,物理的環境ではなく,場面など

の心理的環境あるいは心的文脈であることを示している。

4.Smith & Vela のメタ分析

そのような中にあって, Smith & Vela は,環境的文脈依存効果が全体として信頼できることを,メタ分

析によって実証した(Smith & Vela, 2001)(Table 3)。また,Fernandez & Glenberg(1985)が追試に失敗し

た実験の追試を再度試み,成功したという報告もなされるにいたった(Rutherford, 2000)。これらの研究

によって,一応,環境的文脈依存効果の信頼性の問題は解決されたといえる。

-31-

Smith & Vela (2001) は,パラダイム,テストの種類,符号化時の項目間連合処理,刺激提示のモダリ

ティ,実験者交代の有無,保持期間,復元の種類ごとの重みづけ効果サイズ(weighted effect size)を算

定している。その結果,パラダイム,符号化時の項目間連合処理,実験者交代の有無,保持期間におい

て,効果サイズに有意な差が検出された。すなわち,(a) 復元パラダイムは他のパラダイムよりも効果サイ

ズが小さいこと,(b) 項目間連合処理によって,効果サイズの著しい低下が生じること,(c) 環境情報と実

験者を組み合わせて操作すると効果サイズが著しく増加すること,(d) 保持期間が 1 日を超えると効果サ

イズが著しく増加することを見いだした。既述したように,環境的文脈依存効果が再認では生じにくいこと

が知られているが,このメタ分析では自由再生と再認とに明確な差は見いだされなかった。かわって,手

がかり再生が唯一信頼できないという結果となった。

Smith & Vela(2001)のメタ分析で,すべての環境的文脈依存効果の信頼性が確認されたわけではな

い。気分や生理的状態など,状態依存記憶(state-dependent memory)と呼ばれているもの (e.g., Eich,

1980) は,分析からはずされている。背景色文脈(Dulsky, 1935; Weiss & Margolius, 1954)や単純視覚

文脈(Murnane & Phelps, 1993, 1994, 1995)は,変動性が高いとして除外されている。さらに,匂い文脈

(e.g., Cann & Ross, 1989; Herz, 1997)は,研究例が少なすぎるとして除外されている。

結局のところ,Smith & Vela(2001)のメタ分析で明らかになったのは場所文脈の機能であり,除外され

Table 3 Smith & Vela (2001) のメタ分析結果

-32-

た環境的文脈についての実証的な機能の同定が,今後の課題として残されているといえる。

いずれにせよ,Smith & Vela(2001)のメタ分析で,場所文脈研究に決着がついた感がある。メタ分析

以降に国際誌に掲載された論文は,(a) メタ分析から除外された単純視覚文脈,背景色文脈,匂い文脈

に関する研究と,(b) メタ分析に 1 例しか含まれなかった BGM 文脈に関する研究,そして (c) 場所を中

心とした複合文脈に関する研究である。また国内誌では,場所文脈で再生や再認以外の記憶課題(単

語完成課題:山田・中條, 2009;偽りの記憶:山田・鍋田・岡・中條, 2009)を対象とした研究も生まれてい

る。

第 3 節 メタ分析でカバーできなかった場所文脈研究

1.場所文脈における再認の文脈依存効果

A.単語の再認における場所文脈依存効果の不明確な証拠

場所文脈依存効果の証拠は,特に単語の再認において,非常に不明確である。多くの研究者は,場

所文脈依存効果は再生では生じるが,再認では生じないという考えを,かつては受け入れていた(e.g.,

Baddeley, 1982; Godden & Baddeley, 1975; Smith et al., 1978)。この考えは,再生での場所文脈依存効

果を発見したのと同じ実験操作を用いたにもかかわらず,再認では文脈依存効果が生じなかったという

発見にもとづいていた(Godden & Baddeley, 1975, 1980; Smith et al., 1978)。しかしながら,その後になっ

て,再認における有意な場所文脈依存効果の報告が相次いだ(Canas & Nelson, 1986; Emmerson,

1986; Smith, 1985b, 1986)。これらの発見は,「場所文脈依存効果は再生では生じるが再認では生じな

い」という多くに受け入れられた考えに致命的影響を与えた。

けれども,これら有意な文脈依存記憶再認を報告した実験の多くには,方法論上の問題が存在してい

る(Canas & Nelson, 1986; Emmerson, 1986; Smith, 1986)。たとえば,Canas and Nelson (1986)は,実験

室と自宅の電話口との間で,場所文脈操作を行っている。この文脈操作には,文脈の異同とテスト場所

が交絡する。なぜなら,異文脈条件の実験参加者は必ず自宅の電話口でテストを受けるのに対して,同

文脈条件の実験参加者は必ず実験室でテストを受けるからである。Emmerson (1986)は,ボートの上と深

度 16mの海中(深度 5mの Godden and Baddeley, 1980 よりも深い)との間で,文脈操作を行った。学習項

目は,学習もテストも A4 判の白色ボード(Formica slate)を用いて提示した。この白色ボードは,ボード上

では白色に見えるが,水中では緑色に見えるのではなかろうか。そして,背景色は単独で場所文脈依存

再認を引き出すことが報告されているのである(e.g., Isarida et al., 2005; Rutherford, 2004)。もしそうなら,

場所と背景色が交絡する可能性が存在することになる。Smith (1986)は符号化の処理水準を操作し,浅

い処理では場所文脈依存効果が生じるが,深い処理では生じないことを見いだした。しかしながら,

Smith とその共同研究者達(Smithet al., 1988)は,この発見の追試に失敗した。そして,浅い処理は必ず

しも文脈依存再認を引き起こさないと結論した。このように,有意味単語の再認が場所文脈に依存するか

どうかは,いまだに不明確なのである。

他方で,未知または無意味な材料(未知顔,非単語など)の再認では,明確な場所文脈依存効果が見

いだされている(e.g., Dalton, 1993; Malpass & Devine, 1981; Russo et al., 1999)。Dalton (1993)は,未知

顔の再認で場所文脈依存効果を見いだしている。Russo et al. (1999)は,未知顔の文脈依存再認の追試

に成功し,さらに,場所文脈依存効果が非単語(nonword)では生じるが単語では生じないことを見いだし

-33-

た。また,さまざまな目撃証言研究が,犯人の顔(もちろん未知顔)の場所文脈依存再認を報告してきて

いる(e.g., Klafka & Penrod, 1985; Malpass & Devine, 1981; Smith & Vela, 1992)。これら発見は,場所文

脈依存再認が,未知あるいは非意味材料に限定されているかのようである。

B.メタ分析の問題点

場所文脈依存効果が,再生と再認とで同程度の効果サイズを示すことは,Smith and Vela (2001) のメ

タ分析で実証されているはずである。けれども,このメタ分析を詳細に見ていくと,多種多様な実験データ

が混在しており,有意味単語の文脈依存再認については,既述した文献レビューと変わらないことがわ

かる。このメタ分析では,再認については,31 例の独立した実験条件をカバーしている。しかしながら,こ

のうち 2 例は自由再生実験である(Cousins & Hanley, 1996)。残り 29 条件のうち,8 条件では,重みづけ

効果サイズの 95%信頼区間がゼロを超えている。この 8 条件には,3 例の目撃証言実験(Klafka &

Penrod, 1985; Malpass & Devine, 1981; Smith & Vela, 1992)と 2 条件の疑惑研究(Canas & Nelson,

1986; Smith, 1986)が含まれている。それ以外に,有意味単語の再認のデータが3条件含まれている

(Smith, 1985b; Smith et al., 1988)。さらに,重みづけ効果サイズが 0.3 以上の 5 条件を見てみると,未知

顔実験が 2 条件(Dalton, 1993),疑惑研究が 2 条件(Emmerson, 1986; Smith, 1986),そして有意味単語

の再認のデータが1条件含まれている(Smith et al., 1988)。驚くべきことに,Smith et al. (1988)論文の本

文をいくら見ても,有意な文脈依存再認の記述を見いだせない。Smith et al. (1988)自身が以下のように

述べている:"yet there was no clear effect of EC manipulation on recognition accuracy at any level of

processing." (1988, p. 540)。さらに,Russo et al. (1999) の研究がメタ分析に含まれていない。この研究で

は,未知顔と非単語の有意な文脈依存効果と単語では効果がなかったことが報告されている。結局の所,

単語の再認では,たった1例の研究のみ(Smith, 1985b)が有意な場所文脈依存効果を見いだしたことに

なる。

C.単語の場所文脈依存における2つの傾向

もし場所文脈依存再認が,未知あるいは非意味材料で見いだしやすく,既知あるいは有意味材料で

見いだしにくいとしたら,それは何によるのであろうか?多くの研究者達は,記銘材料の特性に原因を帰

属する。 Dalton (1993) は,未知の材料が特定の場所文脈(実験セッションの環境)のみと連合するのに

対して,既知の材料は多様な環境と連合しており,そのために実験セッションの環境は,多様な環境の中

に埋没してしまうと言う。さらに,Russo et al. (1999) は,未知材料は,既知材料よりも,場所文脈と相互作

用的に処理されるという。もしもこれらの説明が妥当であるなら,既知あるいは有意味材料の場所文脈依

存効果は,再認ばかりでなく再生でも困難なはずである。けれども,数多くの研究が有意味単語の自由

再生で,有意な場所文脈依存効果を見いだしている(Smith, 1988; Smith & Vela, 2010)。したがって,記

銘材料の特性によって,一義的に文脈依存効果が規定されるという説明は,なりたたないことになる。

Isarida, Isarida, & Sakai (2012)は,場所文脈依存再認の結果に,2 つの傾向があることを提案した。そ

の 1 つは,上述の記銘材料の熟知性あるいは有意味性が文脈依存効果の成立に影響するという傾向で

ある。既述したように,有意味な単語での場所文脈依存再認が不明確であるのに対して,未知または無

意味な材料(未知顔,非単語など)の再認では,明確な場所文脈依存効果が見いだされている(e.g.,

Dalton, 1993; Malpass & Devine, 1981; Russo et al., 1999)。特に,Russo et al. (1999)は,同じ手続きを

-34-

用いて,有意味単語では文脈依存再認が生じないのに対して,非単語では生じることを見いだしている。

もう一つの傾向は,有意味材料の場所文脈依存再認が,学習時間の関数として減少するというもので

ある。Smith らは,2.5秒と3秒の学習時間を用いた。その結果,文脈依存再認を見いだした研究 (Smith,

1985)と,見いだせなかった研究 (Smith et al., 1978) の両方を報告している。Godden & Baddeley (1980)

は,学習時間は 2 秒であるが,3 項目ごとにアクアラングの呼吸時間 4 秒を挿入しており,実質的な提示

時間は 3.3 秒になる。そして文脈依存再認は見いだされていない。Russo et al. (1999) は 5 秒の学習時

間を用いて,有意味単語では文脈依存再認が生じず,非単語で生じている。Smith et al. (1988)は,処理

水準を操作して 4 つの実験を行った。そのすべての浅い処理条件と深い処理条件で,文脈依存再認が

生じなかった。実験1と2で 10 秒の学習時間を用い, 実験4では5秒を用いている。実験3の学習時間は

明示されていないが,方向づけ課題をこなすには,3秒以上はかかると推測できる。このように,有意味材

料の場所文脈依存再認と学習時間とのおおざっぱな傾向が推察できる。けれども,この傾向で有意な文

脈依存再認を見いだした研究は,疑問のある研究 Canas & Nelson, 1986; Emmerson, 1986; Smith, 1986)

を除くと,1 例しかない(Smith, 1985)。したがって,文献レビューのみからは,明確な傾向を提示できな

い。

そこで,Isarida et al. (2012, 実験1)は,有意味単語の文脈依存再認と学習時間の関係を,直接実験

で調べた。学習時間として,いままでの文脈依存再認研究で用いられた学習時間よりも短い 1.5 秒/項

目と,単語の文脈依存再認が生じないと予測される 4.0 秒/項目を用いた。その結果,1.5 秒/項目では,

Figure 13. Isarida, Isarida, & Sakai (2012) の結果。左が実験1,右が実験2。

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d'を指標とする再認弁別(recognition discrimination)で文脈依存効果が生じたが,4.0 秒/項目では生じ

なかった(Figure 13)。さらに実験2では,単語では文脈依存再認が生じなかった 4.0 秒/項目条件で,

有意味単語と非単語を実験参加者内要因として,文脈依存再認を調べた。その結果,単語では文脈依

存再認が生じないが,非単語では生じることを見いだした(Figure 13)。なお,Russo et al. (1999)は,5.0

秒/項目条件で,有意味単語では文脈依存再認が生じないのに対して,非単語では生じることを見いだ

した。ここでは,有意味単語と非単語の実験は,別の実験として行われている。

C.符号化特殊性原理とアウトシャイン原理

Isarida et al. (2012) の結果は,符号化特殊性原理とアウトシャイン原理 (outshining principle: e.g.,

Smith, 1994)で説明できる。符号化特殊性原理は,文脈依存再認が生起するメカニズムを説明できる。

そして,アウトシャイン原理は,文脈依存効果がどのような条件下で生起し,生起しないかを説明できる。

(1) 符号化特殊性原理による説明

再認テストでは,現在提示されている項目(テスト項目)が,学習エピソード内で提示されたかどうかの

判断が求められる。符号化特殊性原理によれば,テスト項目を検索手がかりとして,旧項目を取り囲むエ

ピソードを想起することになる。このようなエピソードの想起は,学習文脈の復元によって促進される。学

習エピソードが想起されると,そのエピソードに含まれていたターゲットと含まれていなかったディストラク

ターとの弁別(再認弁別)が促進される。その結果,再認弁別指標(d')において,文脈依存効果が生じる。

さらに,学習文脈が手がかりとして存在するとき(SC 条件),ターゲットに対する yes 反応(Hit)が増加し,

ディストラクターに対する yes 反応 (false alarm, FA) が減少する。その結果,Hit 率では SC 条件>DC 条

件となり,FA では SC 条件<DC 条件となる。この予測は,Figure 12 の 1.5 秒/項目条件と非単語条件で

実証されている。

特にポイントとなるのは,FA における逆文脈依存効果である。後述する ICE 理論では,学習エピソード

の想起ではなく,項目や文脈の熟知度の総合的判断によって,再認反応が生じると予測する。このため,

FA でも文正の文脈依存効果が生じると予測する。

(2) アウトシャイン原理による説明

アウトシャイン原理は,項目特定手がかり(item-specific cue)と文脈手がかりの相対的強度を問題とす

る。そして,項目特定手がかりは,たった1項目のみと連合しているのに対して,場所文脈が全項目と連

合していることから,項目特定手がかりの手がかり強度が,場所文脈よりかなり強いという。手がかり強度

は,手がかりと連合している数の逆数とされているのである(Watkins & Watkins, 1975)。より強力な項目

特定手がかりが,より弱い場所文脈手がかりをアウトシャインする(to outshine:より明るい太陽が,より暗い

月や星を見えなくすること)ので,場所文脈がターゲット項目の手がかりになれない。このため,一般的に,

再認では文脈依存効果が生じにくいことになる。

けれども,もし項目特定手がかりが文脈手がかりよりも弱ければ,文脈が手がかり機能を発揮し,文脈

依存再認が生じるという。実際,Hit 率の低い学習時間 1.5 秒/項目条件と非単語条件で,文脈依存再

認が生じている。さらに詳細に見ると,文脈手がかりを利用できない DC 条件での Hit 率が 60%程度であ

るとき,文脈依存再認が生じ,70%を超えると,文脈依存再認が生じないという結果になっている。文脈

情報処理は自動的とされている(e.g., Glenberg, 1979)。このことからすると,文脈手がかりは,常に自動的

に Hit 率を 70%以上に引き上げるように機能しており,文脈手がかりがなくても(DC 条件),70%以上の

-36-

Hit 率を上げることができるとき,文脈機能は表面化しないのかもしれない。

Isarida et al. (2012)では,学習時間がごく短いときしか,有意味単語では文脈依存再認が生じなかった。

この結果を見ると,有意味単語では,ほとんどの場合に文脈依存再認が生じないことになってしまう。け

れども,学習時間が長くても,yes 反応の正答率を下げることができれば,有意味単語の文脈依存再認を

見いだすことができるかもしれない。ここで,Isarida et al. (2012) の実験をはじめ,ほとんどの再認テスト

では,ターゲットとディストラクターが同じ数提示される。このため,Hit 率のチャンスレベルは 50%になっ

ている。したがって,Hit 率 60%と 70%における yes 反応の正答率は,それぞれ 20%と 40%となっている。

ここで,選択肢の数を増加させてチャンスレベルを下げれば,自動的にyes反応の正答率が下がるので,

長い学習時間でも文脈依存再認が生じるかもしれない。これに対して,強制選択方式の再認テスト

(forced-choice recognition test)を用いて,学習時間が 4.0 秒/項目条件の場所文脈依存再認を調べた

ところ,2択条件(チャンスレベル 50%)では文脈依存再認が生じなかったが,4択条件(チャンスレベル

25%)では生じたという(漁田, 1992b)。この点は,さらに検討すべき課題といえよう。

2.複合場所文脈研究

場所操作は,水中と陸上(Emmerson, 1986; Godden & Baddeley, 1975, 1980),広さ・内装・調度品・明

るさなどが異なる部屋(e.g., Smith et al., 1978),実験室と自宅の電話口(Canas & Nelson, 1986),小部屋

と庭(Bjork & Richardson-Klabehn, 1989; Eich, 1995)など様々であり,いまだに標準化された場所操作

は存在しない。そのような多様な場所操作の中には,場所操作にともなって心的要因が交絡しているとみ

なされるものが少なくない。たとえば,陸上と海中(Godden & Baddeley, 1975),実験室と自宅の電話口

(Canas & Nelson, 1986),小部屋と庭(Bjork & Richardson-Klabehn, 1989; Eich, 1995)などの場合,環境

変化とともに,不安,緊張,安心,リラックス等の気分や心的要因の交絡が推測できる。場所要因と場所

以外の要因の交絡が疑われるのであれば,最初から場所と心的要因に影響する要因を組み合わせて操

作することで,より客観的な操作が可能となるといえる。

これまでも,物理的環境要因の一部として,実験者の性別,人種,服装が場所の特徴とともに操作さ

れることはあった(e.g., Bjork & Richardson-Klavehn, 1989)。Smith & Vela(2001)のメタ分析でも,場所単

独よりも場所と実験者を組み合わせた方が,文脈依存効果サイズが大きいことが報告されている。しかし

ながら,ここでの実験者はあくまで物理的環境の一部として操作されたのであり,仮に心理的あるいは社

会的環境要因が共変したとしても,それは実験操作上の交絡というしかない。

Isarida & Isarida (2004) は,場所と副課題(計算課題,動作課題)を組み合わせた複合文脈とそれ

ぞれ単独操作の文脈が,自由再生と心的要因におよぼす効果を調べた。その結果,場所や副課題の単

独操作では文脈依存効果が有意にならない場合でも,場所と副課題とを組み合わせることで有意な文脈

依存効果を得た。また,場所は焦点情報の処理の場を提供するが,情報処理内容の認知に影響しない。

これに対して,副課題は実施されている処理内容の認知に影響することを見いだした。これらの要因が,

単純加算的ではなく相互作用的に機能することで,文脈依存効果を生じさせていると結論している。

A.複合場所文脈と単純場所文脈の機能

Smith ら(1978)は,場所単独操作の文脈を用い,同じ文脈内,あるいは異なる文脈内で,2回の学習

をおこなわせ,学習時の文脈とは異なる中立文脈下で自由再生をテストした。学習反復の分散間隔と保

-37-

持期間は3時間であった。その結果,学習文脈が同一でなく変化する時に,再生が良くなるという結果

(異文脈反復優位)を見いだした。また,Glenberg (1979) は,実験参加者を増やして追試に成功した。こ

れに対して,漁田・漁田(2005a)は,場所,符号化課題,社会的要因(個別 vs 集団)を複合操作し,反

復の分散間隔と保持期間が1週間の条件下で,同一文脈内反復の成績が良くなるという結果(同文脈反

復優位)を見いだした。これは,それまでの異文脈反復優位とは正反対である。ただし,これまでの研究と

は,文脈操作方法と分散間隔・保持期間がともに異なっていたので,何が逆転現象を引き出したのかが

不明であった。

そこで,Isarida & Isarida (2010) は,反復の分散間隔と保持期間がどちらも1日と10分間の条件下で,

単純場所文脈(simple-place context: 場所のみを操作),2要素(場所と社会的要因)の複合場所文脈,

3要素(場所,社会的要因,符号化課題)の複合場所文脈を用いて,同文脈反復と異文脈反復の成績を

比較した。その結果,単純場所文脈では異文脈反復有意の結果が出たが,2要素と3要素の複合場所

文脈では,同文脈反復優位の結果を得た(Isarida & Isarida, 2010)。これらの結果は,単純場所文脈と複

合場所文脈が,異質な機能を持つことを示している。これまでも,場所と他の文脈要素を組み合わせるこ

とで,より大きな物理的復元効果が生じることが報告されている。Smith & Vela (2001) のメタ分析によっ

て,場所単独操作よりも場所と実験者を組み合わせた方が,文脈依存効果が大きいことが見いだされて

いる。さらに,Isarida & Isarida (2004) は,場所単独操作で有意な物理的復元効果が生じない場合も,

場所と副課題を組み合わせることで,有意な効果が生じることを見いだしている。これら物理的復元研究

でも,文脈要素複合の効果は見いだされていたが,それは効果の大きさという量的な差に反映されるとい

うことにとどまっていた。これに対して,マルチ文脈パラダイムでは効果の逆転という質的な差が見いださ

れている。この点は注目に値する。

さらに Isarida & Isarida (2010) は,反復の分散間隔が 10 分と保持期間が1日間という条件下で,単純

場所文脈と 3 要素複合場所文脈を用いて,同文脈反復と異文脈反復の成績を比較した。その結果,複

合場所文脈では,分散間隔と保持期間が等しい場合と同様に,同文脈反復優位の結果が生じた。これ

に対して,単純場所文脈では,異文脈反復優位の現象が消失した。Isarida & Isarida (2010) は,この結

果を,比の法則(第2章 第2節5C)で説明している。分散間隔がIPI,保持期間がRIに対応するので,

比はほぼゼロとなる。単純場所文脈の異文脈反復優位の現象は,比が 1.00(IPI = RI)の時に生じ,比が

ゼロの時に消失する。このことは,単純場所文脈の現象が比の法則に従うことを意味している。これに対

して,複合場所文脈の同文脈反復優位の現象は,比の大きさに関わらず生じる。この複合場所文脈の現

象は,比の法則に従えば消失するはずの新近性効果が,複合場所文脈の復元によって生じた結果

(Isarida & Isarida, 2006)と同じ原理と言える。以上より,Isarida & Isarida (2010) は,複合場所文脈が実

験参加エピソードを定義する文脈として機能し,単純場所文脈はそのエピソード定義文脈内で変動する

文脈として機能すると結論づけている。

B.複合場所文脈内外からの想起

漁田らは,様々な記憶現象が,複合場所文脈内からの想起と文脈外からの想起で,形状が異なること

を報告してきた。Isarida (2005) は,学習時間効果(study-time effect)が,学習時の文脈が復元された時

に生じるが,復元されない場合,(a) 項目間連合が形成される時は効果が半減し,(b) 項目間連合が抑

制されるときは効果が消失することを見いだした。また,学習時の文脈が復元されると,反復の分散効果

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(spacing effect)やリハーサル回数の効果(rehearsal effect)が生じるが,文脈が復元されないと消失(漁

田・森井, 1986),または著しく減少すること(漁田, 1992a)が見いだされている。さらに Isarida & Isarida

(2006) は,自由再生の新近性効果(recency effect)が,文脈が復元された時に生じるのに対して,文脈

が復元されないときに消失することを見いだした。この発見は,短期記憶をはじめとして,さまざまに説明

されてきた新近性効果の説明の再点検を迫るものである。

これまでの記憶研究は,ほとんどが学習とテストが 1つのエピソード定義文脈内で完了する場面で行わ

れてきた。大半の実験では,学習からテストまでが,同じ実験室,同じ実験者のもとで,すなわち 1 つの実

験セッション(実験文脈)内で実施される。長期遅延のために,実験参加者が実験室を離れることもあるが,

再び同じ実験室,実験者のもとでテストが行われるのが通常である。このように,これまでのほとんどのエ

ピソード記憶研究は,学習時あるいは復元された文脈内での想起のみを調べてきたといえる。これに対し

て,日常場面では,学習時の文脈外からの想起が少なくない。旅行先の出来事を想い出して家族に話

す,置き忘れた傘のありかを想い出そうとするなどは,いずれも文脈外からの想起である。このように,文

脈内外からの想起は,エピソード記憶研究にとって,中心課題でありながら,ほとんど取り組まれてこなか

った。このことより,今までの記憶研究は,エピソード記憶の性質の半分しか解明してこなかったといえる。

この点において,複合場所文脈内外からの想起を調べる研究は,エピソード記憶の性質全部を解明

するものであり,今後さらに研究を進めることが必要である。

-39-

第4章 さまざまな環境情報の文脈依存効果

Smith & Vela (2001) のメタ分析以降,場所文脈に替わって,さまざまな環境情報の効果に関する論

文が出てきた。これは,一見,エピソード定義文脈機構解明のための研究が後退し,環境と結びついた

記憶の研究に換わってきたようにも見受けられる。けれども,この時期のさまざまな環境情報に関する研

究が,後々の環境的文脈研究に,多大な貢献をすることになった。

第1節 視覚文脈

視覚的環境情報の文脈として,背景色文脈(e.g., Isarida & Isarida, 2007; 漁田ら, 2005; Rutherford,

2004; Sakaiet al., 2010),単純視覚文脈(e.g., Murnane & Phelps, 1993, 1994, 1995),絵画文脈

(Murnane et al., 1999),背景写真文脈(Gruppuso, Lindsay, & Masson, 2007; Hockley, 2008)などの研究

が存在している。

1.再生における背景色文脈研究

背景色文脈研究の歴史は,意外に古く,最初の国際公刊論文は,Dulsky (1935) の対連合を用いた

実験である。この実験では,項目対をカード提示する際に,10 対全部の背景色が異なる条件と,全背景

色が同じ条件を設定した。そして,学習時の背景色とテスト時の背景色が同じ文脈(same context, SC)

条件と,学習時とテスト時で背景色が異なる文脈(different context, DC)条件の成績を比較した。ここで,

もしも SC 条件の成績が DC 条件の成績よりも良いならば,背景色文脈依存効果が生じたことになる。実

験の結果,背景色全部が異なる条件で背景色文脈依存効果が生じ,学習時の背景色が全て同じ場合

では文脈依存効果が生じなかった。背景色全部が異なる条件で文脈依存効果が生じるという現象は,そ

の後 Weiss & Margolius (1954) が追試に成功している。また,全ての対の背景色が同一の条件では文

脈依存効果が生じないことも Petrich & Chiesi (1976) によって追試されている。このように,背景色が全

て異なるとき背景色文脈依存効果が生じ,全ての項目で同一背景色を用いた場合,背景色文脈依存効

果が生じないという点で一致しており,この結果は信頼できるといえよう。

背景色は,記銘項目提示において,学習者の視野に常に存在しており,最も記銘項目に近接した環

境情報といえる。特に,学習者が集中して記銘しているとき,学習者の視野には記銘項目と背景色のみ

が存在する状態になっている。環境的文脈と項目との連合が,近接性の原理(law of contiguity)によって

生じるのなら,背景色は最も強力な文脈依存効果を生じさせると予想できる。しかしながら,これまでの研

究結果は,必ずしもこの予測と一致していない。既述したように,全ての項目が同一背景色で提示される

ときに,背景色文脈依存効果は生じないのである(Dulsky, 1935; Petrich & Chiesi, 1976)。これに対して,

場所,BGM,匂い等の環境的文脈では,全ての項目が同一の環境的文脈のもとで提示されるのが普通

であり,その条件下で文脈依存効果が見いだされてきた(e.g., Balch et al., 1992; Cann & Ross, 1989;

Smith, 1988)。このような発見は,背景色の文脈依存効果が他の環境情報よりも弱いか,あるいは異質な

機能を持っているかを示している。

初期の背景色文脈依存効果の研究は,20 年に1度というペースで,カード提示による対連合の実験が

3例存在するだけであった。記憶研究方法の中心が,対連合から自由再生に移ると,背景色文脈依存効

-40-

果研究は全く見かけなくなってしまった。このことには,自由再生における背景色文脈依存効果検出の

困難さが関係している。自由再生では,全ての項目の背景色を異ならせると,テスト時の背景色の手がか

り提示に問題が生じてしまう。テストにおいて,学習時の背景色の半数を手がかり提示するには,画面を

分割して提示することになる。この場合,背景色としての意味が失われ,むしろ前景色としての手がかり提

示になってしまう。かわって,多くの背景色の中の1色のみを手がかり提示すれば背景色として提示でき

るが,1項目の手がかりしか提示できなくなってしまうのである。

対連合以外の再生実験では,Pointer & Bond (1998)が,便箋に印刷された文章の再生で背景色の文

脈依存効果を調べた。結果として,便箋に付けた匂いの文脈依存効果は有意であったが,便箋の色で

は文脈依存効果が生じないことを報告している。この結果も,全ての項目が同じ背景色で提示されると文

脈依存効果が生じないという結果(Dulsky, 1935; Petrich & Chiesi, 1976) と一致している。ただし,

Pointer & Bond (1998)が用いた背景色(便箋の色)は白色と淡黄色であり,色彩要因に十分な条件差が

確保されていたかについての疑問は残る。

最近になって,Isarida & Isarida (2007) が,はじめて自由再生で背景色文脈依存効果を調べることに

成功した。彼らは,背景色すべてを変化させるのではなく,2色の背景色をランダムに変化させ,テスト時

に一方の背景色を提示する方法を開発した。その結果,(a)背景色文脈依存効果が生じるためには,項

目ごとに背景色が変化することが必要であるが,(b)すべての背景色が異なっている必要はなく,2色のラ

ンダム変化で十分であること,(c) 文脈依存効果の消失の条件は,すべての背景色が同じというのでは

なく,(d) 背景色が5項目以上続くことで文脈依存効果が消失すること,(e)学習時間の関数として,文脈

依存効果効果サイズが変化しないこと,(f)背景色にもとづく群化が生じないことを見いだした。さらに,

Sakai et al. (2010) は,(a) 6項目を1画面に同時提示する場合では,背景色文脈依存効果が生じること,

(b) 項目が提示された画面ごとの群化は生じるが,異なる画面も含めた背景色全体では群化が生じない

こと,(c)さらに,6項目同時提示の文脈依存効果は,背景色のランダム変化では生じるが,単純交替では

生じないことを見いだしている。

場所,BGM,匂いは,すべての項目が 1 種類の文脈下で符号化や想起が行われる条件下で文脈依

存効果が生じる。これに対して,背景色文脈では,背景色というよりは,提示された画面と項目(群)との連

合がもっぱら形成されているようである(Isarida & Isarida, 2007; Sakai et al., 2010)。この点で,他の環境

的文脈と異なる性質を持つといえる。すなわち,場所,BGM,匂いは,グローバル文脈として機能し,背

景色文脈やその他の視覚文脈は局所的文脈として機能するといえよう。

2.再認における視覚文脈研究

A. ICE(item-context-ensenmle theory)理論

対連合研究の後,しばらくの間,背景色文脈研究は途絶えていた。1990 年代に入ると,Murnane を中

心として,単純視覚文脈を操作した再認研究が重ねられた(Dougal & Rotello, 1999; Murnane & Phelps,

1993, 1994, 1995)。この単純視覚文脈は,コンピュータ画面の偶発的情報が知覚運動学習(タイピング

学習)におよぼす効果を調べる際に考案されたものである(Wright & Shea, 1991)。Murnane らは,場所

文脈と等価な環境的文脈として,この単純視覚文脈を取り扱っていた(Murnane & Phelps, 1993, 1994,

1995)。そして,その集大成として ICE 理論が提出されたのである(Murnane et al., 1999)。

ICE 理論では,項目(item),文脈(context),アンサンブル(ensemble)の3要素によって,再認を説明

-41-

する(Table 4)。すなわち,再認判断での yes反応は,テスト時に提示される項目(テスト項目)とテスト時の

記憶(記憶)の一致度を,項目(Ij),文脈(C),アンサンブル(E)のそれぞれを取り込んだグローバル活性

化の度合い(M)に依存するという(式(1))。

単純視覚文脈や背景色文脈のように,文脈が意味内容(meaningful content)を含まない場合はアンサ

ンブルが形成されないので,項目と文脈の要素のみで再認が説明され,テストにおける yes 反応率は,項

目と文脈におけるテスト項目と記憶の一致度を取り込んだ関数となる。また,項目の一致度と文脈の一致

度は独立に作用する。さらに,絵画文脈のように意味内容を含む文脈の場合,項目と文脈とが統合され

て,アンサンブルが形成されるという。ここで,学習時に提示された項目を旧項目(old item = ターゲット),

テスト時に新たに追加された項目を新項目(new item = ディストラクター)と呼び,学習時に提示された文

脈を旧文脈(old context),テスト時に新たに追加された文脈を新文脈(new context)と呼ぶことにする

(Table 4)。

旧項目 新項目 旧項目 新項目

項目 (I) + - + -

文脈(C) + + - -

アンサンブル(E) + - - -

+ = 一致; -= 不一致.

Table 4

ICE理論 (Murnane, Phelps, & Malmberg, 1999)における再認照合

情報

旧文脈 新文脈

単純視覚文脈や背景色文脈のようにアンサンブルが形成されない場合についてみてみる。テストにお

いて,旧項目が旧文脈で提示される場合と新文脈で提示される場合を比較すると,文脈の一致度の分だ

け,旧文脈下で提示される方が yes 反応率が高くなる。旧項目に対する yes 反応が Hit なので,Hit 率に

おいて文脈依存効果が生じることになる。同様なことは,新項目においても生じる。新項目に対する yes

反応が FA なので,FA 率も旧文脈の方が高くなる。この新旧文脈間の差は,ともに新旧文脈の熟知度の

差を反映しているので,Hit 率と FA 率で等しくなる。したがって,d’や CRS(Hit 率-FA 率)といった再認

弁別の指標では,Hit 率の文脈依存効果と FA 率の文脈依存効果が相殺されてしまい,再認弁別での文

脈依存効果が消失することになる。

ここで,学習セッションで背景色赤と背景色緑が,同じ時間だけ提示されており,ネコという項目が背景

色赤で提示されたとする。この場合,ネコという項目は,テストにおいて,学習時と同じ背景色赤で提示さ

れても,もう1つの背景色緑で提示されても,ICE 理論では yes 反応率は同じと予測する。背景色赤と背

景色緑の一致度が同じであるからである。換言すると,学習時に「ネコ-赤背景」が対提示されたという経

験は記憶されず,項目と文脈の熟知度が独立に増加するだけということになる。これに対して,アンサン

ブルが形成されると,項目と文脈の対提示経験がアンサンブルとして記憶される。したがって,d’や CRS

-42-

といった再認弁別指標でも,文脈依存効果が生じることになる。

Murnane らは数多くの実験によって,単純視覚文脈における予測を支持するデータを得ている

(Murnane & Phelps, 1993, 1994, 1995)。また,他の研究者による追試も成功している(Dougal & Rotello,

1999)。さらに,絵画文脈でアンサンブルが生じるという実験も 1 例行われ,成功している(Murnane et al.,

1999)。

B.2重過程説(dual-process theory)

古くは Mandler (1980) によって,再認が検索過程と熟知性判断の2重過程で説明できるという理論が

提出された。けれども,それぞれの過程を分離・測定することができなかった。その後になって,Jacoby

(1991) の過程分離手続きをもとに,Remember/Know 手続きが考案された(Gardiner, 1988; Tulving,

1985)。この手続きでは,実験参加者が yes 反応(旧反応)をした項目に対して,さらに Remember か

Know かの判断を求める方法である。Remember とは,その項目を学習したときのこと(項目の視覚的印象

ややそのときの状況など)を意図的に想起できる状態とされている。これに対して,Know とは,その項目

が旧項目だと判断できるが,項目を学習したときのことを意識的に回想できない状態という。当初は,

Remember 反応がエピソード記憶,Know 反応が意味記憶に対応すると考えられていたが(Tulving,

1985),現在では Remember 反応は回想(recllection),Know 反応は熟知性(familiarity)にもとづく判断

に対応するとみなされている (cf. Yonelinas, 2001)。

Macken (2002) は,Remember/Know 手続きを用いて,単純視覚文脈依存再認を調べた。その結果,

単語と非単語の新旧文脈間変動(SC 条件では項目と対提示された文脈でテストし,DC 条件では新文脈

でテストする方法)でも,単語の旧文脈内変動(SC 条件では項目と対提示された文脈でテストし,DC 条

件では項目と対提示されなかった旧文脈でテストする方法)でも,Remember 反応では文脈依存再認が

見いだされたが,Know 反応では見いだせなかった。この結果を受けて,再認は ICE 理論の提唱するよう

なグローバル活性の過程ではなく,回想にもとづく過程と主張した(Macken, 2002)。さらに,Gruppuso et

al. (2007) は,背景写真を文脈として顔の再認をしらべ,Mecken (2002) を支持する結果を得ている。

これに対して,Hockley (2008) は,単純視覚文脈や背景写真文脈を用いた実験を7例行った。その結

果は一貫しており,Hit 率と FA 率の両方で,旧文脈条件の方が新文脈条件よりも高い値を示した。この

結果は,Remember 反応と Know 反応の両方で見いだした。FA とは,新項目に対する yes 反応である。

新項目は旧文脈と対提示された経験を持たないので,項目と文脈の連合にもとづく想起が生じていたと

しても,旧文脈は新項目の想起に何ら貢献できない。旧文脈が FA 率を上昇させるとしたら,旧文脈の一

致度の高さが yes 判断を上昇させたと考えるしかない。したがって,Hockley (2008) は,環境的文脈依存

再認を規定しているのは,項目と文脈の連合にもとづく想起ではなく,グローバル活性化判断と結論づけ

た。Remember 反応は,実際の回想ではなく,グローバル活性化にもとづく何らかの主観的回想感

(subjective feelings of recollection)に過ぎないのではないかという。

3.再認における背景色文脈研究

A.手がかり過負荷の問題

アンサンブルが形成されない限り,項目と文脈の対提示経験がエピソード記憶に符号化されないという

ICE 理論の前提を受け入れる前に,手がかり負荷の問題を検討しておく必要がある。これまでの ICE 理

-43-

論を支持する実験は,かなりの手がかり負荷がかかる条件下で行われている(Dougal & Rotello, 1999;

Murnane & Phelps, 1993, 1995; Murnane et al., 1999)。たとえば,Murnane & Phelps(1993)の実験1-3

を見ると,最も低い条件の1文脈あたりの手がかり負荷は,1回の実験では 12 単語とあまり多くないように

見受けられる。けれども,同じ文脈を用いた実験を 10 回行いその結果を平均していることからすると,1文

脈あたりの実質的手がかり負荷は非常に高いと推測される。Murnane & Phelps(1993)の実験4-5では,

108 対を同時に使用しており,1文脈あたりの手がかり負荷は最低でも,3 種類の文脈を用いた条件での

36 単語となる。その他の実験も Murnane & Phelps(1993)の実験4-5の手続きをほぼ踏襲している。この

ことから,これらの実験では,本来生じるはずの文脈依存効果が,手がかりの過負荷によって抑制されて

しまっていることが疑える。もしそうなら,ICE 理論の見直しが必要になる。

Rutherford(2004)は,ICE 理論よりも手がかりの過負荷の方が,再認弁別における背景色文脈依存効

果をよく説明できるという結果を報告している。Rutherford (2004) は,項目が1種類の背景色で提示され

た場合と3種類の背景色で提示された場合の A’ (再認弁別指標) を比較した。既述したように ICE 理論

によると,アンサンブルが形成されにくい背景色文脈では,再認弁別の文脈依存効果が生じないと予測

する。しかしながら,背景色が1種類の場合では文脈依存効果が検出されなかったものの,背景色が3種

類の条件では,再認弁別においても文脈依存効果が検出された。

Rutherford (2004) は,この結果を以下のように説明している。背景色が 1 つの場合,全ての項目がそ

の背景色と連合しなければならないので,手がかり過負荷が生じた。これに対して,背景色が3種類の場

合,文脈に対する手がかり負荷が3分の1になるので,文脈の手がかり過負荷が生じず,再認弁別でも文

脈依存効果を検出することができた。既述したように,これまでに行われてきた ICE 理論を支持する実験

では,かなりの手がかり負荷がかかる条件が用いられている(Dougal & Rotello, 1999; Murnane & Phelps,

1993, 1994,1995; Murnane et al., 1999)。そのため,「アンサンブルが形成されない限り,項目と文脈が対

提示されたという経験がエピソード記憶に符号化されない」という結果は,手がかり過負荷という実験操作

の問題によって引き出された偽現象(artifact)である可能性があることになる。

ただし,Rutherford (2004)の実験では,手がかりの過負荷と記銘時の背景色の変化が交絡していた。

すなわち,手がかりが過負荷の条件では背景色が変化せず,過負荷にならない条件では背景色が変化

した。先に述べた対連合学習で背景色文脈依存効果を調べた実験では,全項目対が異なる背景色で

提示される場合に文脈依存効果が生じ(Dulsky, 1935; Weiss & Margolius, 1954),全ての対が同じ背景

色で提示される場合に文脈依存効果は消失した(Dulsky, 1935; Petrich & Chiesi, 1976)。これでは,

Rutherford (2004)の主張するように,手がかり過負荷によって背景色文脈依存効果が消失したのか,全

項目が同一背景色で提示されたために,文脈依存効果が消失したのかが特定できないのである。

B.手がかり過負荷を回避した研究

漁田らは,全ての条件で背景色が変化する条件を用いることで,手がかりの過負荷と背景色の変化の

交絡を解消して,再認実験を行った(漁田ら,2005; 漁田・尾関, 2005)。

漁田ら(2005)は,新旧文脈変動条件を用いて,再認における背景色文脈依存効果を調べた。背景色

は 2 色と 6 色を用い,提示においては,背景色をランダムに変化させた。2 色の場合(実験1),Hit 率で

は文脈依存効果が生じたが,再認弁別の指標である CRS では文脈依存効果が消失した。この結果は,

ICE 理論を支持する。しかしながら,背景色を6色に増やし,手がかり負荷を軽減させると,Hit 率ばかりで

-44-

なく CRS でも文脈依存効果が生じた(実験2)。さらに,この実験2の結果は,実験3での追試によって確

認された。この結果は,Rutherford (2004) の1種類の背景色条件で文脈依存効果が消失したのは,背

景色の変化がなかったためではなく,手がかりの過負荷が原因であったことを示唆している。したがって,

ICE 理論による予測は,手がかりが過負荷であるときに成り立つという Rutherford (2004) の主張を支持

することになる。

さらに,漁田・尾関(2005)は,旧文脈内変動の効果を調べた。ICE 理論によれば,同じ提示頻度の旧

文脈は,同じ熟知度を持つために,学習時に対提示されたか否かにかかわらず,同じ Hit 率を生じさせる

と予測する。したがって,旧文脈内変動では Hit率に差が生じないことになる。漁田・尾関(2005)の実験1

では 2 色の背景色を用い,ICE 理論の予測通りに旧文脈内変動にともなう差が生じなかった。しかしなが

ら,実験2で6色の背景色を用いると,同一旧文脈条件が変化旧条件よりも高い Hit 率を示した。そしてこ

の実験2の結果は,実験3での追試で確認された。この結果は,ICE 理論の説明と完全に矛盾する。また

単純視覚文脈を用いた実験でも,旧文脈内変動の効果に関する実験は1例しかなく,有意傾向という不

明確な結果が報告されているのみである(Murnane & Phelps, 1994)。

4.背景色文脈とその他の視覚文脈

これまでの研究結果を概括すると,背景色文脈以外の視覚文脈(単純視覚文脈,背景絵画文脈,背

景写真文脈文脈)を用いた実験は,ほとんどすべてが ICE 理論を支持する結果を見いだしているといえ

る(e.g., Dougal & Rotello, 1999; Murnane & Phelps, 1993, 1994,1995; Murnane et al., 1999)。

Remember/Know 手続きを用いた実験によって,ICE 理論を支持しない結果も報告されたが(Gruppuso et

al., 2007; Macken, 2002),その後の詳細な分析によって,これらの結果も ICE 理論の枠ぐみでよりよく説

明できることが示されている(Hockley, 2008)。これに対して,背景色文脈を用いた実験は,すべて ICE 理

論を否定する結果を得ている(漁田ら,2005; 漁田・尾関, 2005; Rutherford, 2004)。以上の結果は,背

景色文脈と背景色以外の視覚文脈とが異なる機能を持つことを示唆している。

背景色以外の視覚文脈の実験で,手がかり負荷の問題を考慮したものは,国際誌には存在しない。し

たがって,背景色文脈によって提示された手がかり過負荷の問題が,背景色以外の視覚文脈にも当て

はまる可能性がある。けれども,再認弁別の結果のみでは手がかり過負荷ですべてが説明できるかもし

れないが。FA 率に注目するとそうではないことが分かる。Hockley (2008) が指摘するように,FA 率の結

果を見ると,背景色では新旧文脈間で差がないのに対して,背景色文脈以外では旧文脈の方が新文脈

よりも FA 率が高くなっている。この結果は,背景色とその他の視覚文脈の性質が異なっていることを意味

している。

要するに,背景色文脈では,文脈を手がかりとする想起にもとづいて再認判断が行われているのに対

して,背景色以外の視覚文脈では,熟知性にもとづく再認判断が行われているようである。

A.文脈に含まれる焦点情報に関する情報

単純視覚文脈と背景色文脈とで異なる機能を持つとしたら,それは前景色と文字位置が文脈要素に

加わっているか否かの違いになる。漁田・酒井・漁田(2011)は,前景色と文字提示位置のみを文脈とし

て操作し,単純視覚文脈と同じ結果を得た。さらに,漁田・梶山・酒井・漁田(2010)は,項目のフォントを

文脈として操作し,新旧文脈間変動で ICE 理論の予測通りの結果が出ることを見いだした。しかしながら,

-45-

旧文脈内変動では,手がかり過負荷を回避する手続きを用いると,ICE 理論の予測に反して,文脈依存

効果が生じることを見いだしている(漁田・梶山・片山・宮崎, 2009)。これらの実験は,いずれも文脈の手

がかり過負荷の生じない条件下で行っている。

以上の結果より,焦点情報特徴を文脈要素に持つ場合,新旧文脈間変動では,ICE 理論の予測通り

の結果が生じるといえよう。しかしながら,旧文脈内変動では ICE 理論の予測に反して,文脈依存効果が

生じるのではなかろうか。そしてその効果が,手がかり過負荷によって遮蔽されてしまっているのであろ

う。

B.項目と文脈の連合の強さ

Munane らの一連の実験では,記銘項目を対提示する(e.g., Dougal & Rotello, 1999; Murnane &

Phelps, 1993, 1994,1995; Murnane et al., 1999)。これは,記銘項目が対提示されている文脈ではなく,そ

の前後の文脈と連合することを防ぐためという。確かに,項目を対提示すれば,項目対間の連合が促進さ

れるため,当該文脈と隣接した文脈との連合が抑制されやすくなる。けれども,もしそうなら,当該文脈と

の連合も抑制されるのではなかろうか。要するに,Munane らの一連の実験は,項目と文脈が連合しにく

い条件下での実験になっているといえよう。

また,背景写真の場合,実験操作の上では,項目が焦点情報で写真が背景(文脈)とされている。けれ

ども,通常,写真は背景としてではなく,焦点情報としてみるものである。そうすると,項目と写真の両方が

焦点情報として処理されやすいため,項目と写真は連合されにくいと予想される。実際,Gruppuso et al.

(2007) の実験では,項目と写真を意図的に連合させる手続きが加えられている。

もしそうであるなら,ICE 理論の説明する世界は,項目と文脈の連合が弱い条件下では,文脈を手がか

りとした項目の想起が生じにくいという世界に限定されるのかもしれない。項目と文脈の連合強度が低け

れば,文脈は項目の検索手がかり機能を果たしにくくなる。その結果,項目や文脈の熟知感が,再認判

断に影響することになることは,十分に予想できる。

C. 絵画文脈と文字表示の偶発性

なお,Murnane et al. (1999) の実験では,絵画文脈と項目との間にアンサンブルが形成されることを示

す結果が得られている。この場合,背景絵画として,教室の黒板,居間にあるテレビの画面,行き先表示

板,配達トラックの側面のように,通常何らかの文字が表示される絵画が選ばれている。このような絵画は,

表示される文字の種類とは偶発的であっても,文字表示自体とは偶発的といえない。松田・漁田・漁田

(2011) はこの点を調べ,文字表示がされやすい背景写真では,Murnane et al. (1999) と同様に,再認

弁別で文脈依存効果が生じた。この結果は,アンサンブルの形成で説明可能である。けれども,風景写

真のように文字表示自体とも偶発的な背景写真では,再認弁別で文脈依存効果が生じなかった。ICE 理

論では,文脈に豊富な意味内容(meaningful content)が存在することで,アンサンブルが形成されるとし

か説明していない。しかしながら,松田ら(2011)の結果は,文脈と文字表示の偶発性も問題にすべきで

あることを示している。

第2節 BGM 文脈

-46-

聴覚環境情報に関する研究は,BGM 文脈に関する研究しか行われていない。その BGM 文脈依存効

果も,まだ研究例が非常に少なく,BGM 文脈の機能については,まだ未解明の点が多々残されている。

最初の国際誌論文の Smith (1985a)では,48 時間後の最終自由再生(final free recall)で文脈依存効果

を見いだしている。また,楽曲のジャンル(クラシック,ジャズ)が影響しないことも報告している。しかしな

がら,直後の自由再生の影響など不明確な点が少なくない。この他の研究には,BGM 文脈依存効果を

導入として,気分依存効果をメインとするものが多い。Balch らは,BGM 文脈依存効果を楽曲のテンポが

規定しており(Balch et al., 1992),そのテンポ依存効果は気分依存効果に起因するとしている(Balch, &

Lewis, 1996)。Mead & Ball (2007) は,楽曲の調性(tonality)が BGM 文脈依存効果に影響することを,

気分依存効果の証拠としている。いずれも,十分な条件分析をしないまま,短絡的に気分依存効果に導

いており,BGM 文脈依存効果の性質の解明は不十分なまま残されている。国内誌では,(a)BGM 文脈

依存効果が意図学習では生じにくいこと,(b)文脈依存効果の大きさが学習時間によって変化しないこと

が報告されている(漁田・漁田・林部, 2008)。

以下,個別の問題点を整理していくことにする。

1.保持期間の効果

Smith(1985a)は,同一リストの再生テストを2回繰りかえした。学習直後に第1テストを行い,2日後に第

2テストを行った。第1テストでは学習文脈とテスト文脈の一致不一致の効果は有意でなかったが,第2テ

ストでは有意であった。この結果は,実験1と2の両方で得られている。問題は,第1テストでいずれも文脈

依存効果が検出できなかったことである。Smith(1985a)の関心は,第2テストにおける文脈依存効果の検

出であり,第1テストは,これで実験が終わったという感じを持たせることで,第2テストまでの保持期間のリ

ハーサルを防ぐために導入したと書いてある。もしも,第1テストの再生水準が 100%近く,天井効果

(ceiling effect)が疑われる水準であるなら,このような説明も納得できる。しかしながら,40 個の項目に対

して,第1テストでの再生数は,15-18 個である。再生率で 50%に届かない程度の水準であり,天井効

果が疑われるどころか,条件差が非常に検出しやすい水準である。Smith(1985a)は,この点についても

っと問題にすべきであった。

これに対して,Balch et al.(1992)は逆の効果を得ている。直後再生と2日後の再生は,実験参加者間

で操作している。そして直後再生では文脈依存効果が生じたが,2日後のテストでは生じないという結果

を,2つの実験で一致して得ている。ただし,2日後の遅延再生で BGM 文脈依存効果が出ないという結

論には,疑問がある。それは,2日後の遅延再生において,24 個の記銘項目のうち,5-6個しか再生さ

れていないということである。20-25%の再生率しかなくて,有意差が出ない場合,まず床効果(floor

effect)を疑うのが常道である。偶発学習において,項目の快-不快を評定するという方向づけ課題を用

いたため,2日後にそれ程多くの再生が期待できないとしたら,方向づけ課題を変えるか意図学習を用い

るかによって追試すべきであった。同じ方向づけ課題を用いて,同じような低水準で,有意差の出ない結

果を追試できたとしても,あまり意味がないといえる。Balch et al.(1992)は,直後再生で BGM 文脈依存

効果が生じ,遅延再生で生じない結果を,刺激般化(stimulus generalization)を用いて説明しようとしてい

る。しかしながら,そのような説明の前に,もっと慎重に,現象そのものを確定する実験を繰り返すべきで

あった。

Balch & Lews (1996) と漁田ら (2008) は,直後再生のみを用いて,文脈依存効果効果を検出してい

-47-

る。この結果は,直接的には,直後再生で文脈依存効果効果が生じなかった Smith(1985a)の結果に疑

問を生じさせる。さらに,2日以上の保持期間でも文脈依存効果が生じることを推測させる。なぜなら

Smith & Vela (2001)のメタ分析によれば,保持期間が 1 日以内よりも,1 日以上の方が,際だって文脈依

存効果が大きいからである。このことは,Balch et al.(1992)の直後再生で文脈依存効果が生じ,遅延再

生で生じなかった結果が,床効果などによる偽現象であった可能性が高いことを示唆している。未公刊

論文であるが,Shen (2006) は,1 週間後の自由再生で文脈依存効果を検出している。

2.意図学習と偶発学習

Balch et al.(1992) と Balch & Lewis (1996) は,偶発学習で文脈依存効果を見いだしている。これに

対して,Smith(1985a)の場合,明示されていないのであるが,方法の記述全体から,意図学習場面であ

ったと推定できる。直接影響する第1テストでは文脈依存効果は生じていない。既述したように,これは天

井効果によるものではない。一方,第2テストは,意図学習された項目の2日後の再生というよりは,「意図

学習した語を直後に半数弱思い出した」というエピソードの偶発学習を,2日後に再生すると理解するの

が妥当であろう。そうすると,BGM 文脈依存効果は,意図学習では生じず,偶発学習で生じるという問題

が浮かび上がってくる。ただし,ここでの意図学習と偶発学習は,保持期間と交絡しているので,さらに条

件をそろえた実験が必要である。

この点を漁田ら(2008)は検討し,偶発学習では文脈依存効果が生じたが,意図学習では生じないと

いう結果を得ている。漁田ら(2008)は,意図学習で BGM 文脈依存効果が生じにくい理由として,以下の

2つをあげている。

その1つは,項目間連合処理(inter-item associative processing)の有無である。既述したように,このよ

うな項目間連合処理によって文脈依存効果の大きさが著しく減少することが,Smith & Vela (2001)のメタ

分析によって見いだされている。有意味材料を用いた意図学習では,通常項目相互を連合させる項目

間連合処理が行われ,その結果,主観的体制化が生じる(Tulving, 1962)(第 2 章 第 2 節 4-B 参照)。

Glenberg (1979) は,意図学習にかける時間の関数として,(a) 項目個々の痕跡強度,(b) このような主

観的体制化あるいは項目間連合の強度,(c) 項目と文脈との連合強度が,ともに増加するという理論(成

分水準理論: component levels theory)を,それを実証するデータとともに提出している。

これに対して,リスト内の項目を個別に処理することを方向づける偶発学習では,項目間連合処理や

主観的体制化は生じにくくなる。個々の項目についての情報処理を行えば方向づけ課題を遂行できる

ので,項目間連合処理を行う理由がないのである。このことを利用して,個別の項目処理を方向づける課

題を用いた偶発学習課題が,項目間連合を抑制する課題として用いられてきた(e.g., Glenberg &

Lehman, 1980; Tulving, 1966)。したがって,意図学習ではこのような項目間連合処理によって,BGM文

脈依存効果が抑制されてしまうが,偶発学習では項目間連合処理が抑制されるので,BGM文脈依存効

果が抑制されないというのが,現時点で最も妥当な解釈といえよう。

意図学習で BGM 文脈依存効果が生じにくい理由の2つ目は,BGM 自体の特性に求めることができる。

項目の学習に集中すると,BGM がほとんど意識されなくなってしまうことは,よく知られている。「ながら」

勉強の経験がある人には容易に理解できるであろう。このように,意図学習では BGM が聞こえにくくなり,

偶発学習ではより聞こえるのであれば,意図学習で BGM 文脈依存効果が生じにくい現象をよく説明でき

る。このような BGM の特性は,どんなに集中していても,項目と一緒に見え続ける背景色や単純視覚文

-48-

脈とは異なっている。しかしながら,場所の場合は,むしろ BGM に類似した傾向を示す。実験当初はそ

の場所に慣れなくて,落ち着かない場合が多いが,やがて実験に集中してくると,場所が意識されなくな

るのが普通である。この点では,BGM と場所はよく似ている。それにもかかわらず,場所文脈では,意図

学習で多くの文脈依存効果が報告されている(see Smith, 1988; Smith & Vela, 2001)。このことは,この第

2 の理由が本質的ではないことを意味しているようである。

さらに最近,西村・漁田・漁田(2010)は,意図学習での BGM 文脈依存効果を発見した。この実験でも,

1.5 秒/項目という非常に短い学習時間で文脈依存効果が生じたが,3.0 秒/項目になると,文脈依存

効果が消失している。ここで注目すべきは,意図学習では文脈依存効果が生じないとした漁田ら(2008)

は,5.0 秒/項目という学習時間を用いている点である。

これらの結果を総合すると,BGM 文脈依存効果の成否を規定しているのは,項目間連合処理といえよ

う。意図学習では学習時間とともに項目間連合処理が増加するために,長い学習時間条件では文脈依

存効果が生じにくくなる。これに対して,偶発学習では,項目間連合処理が生じにくいので,5秒程度の

学習時間であれば文脈依存効果が生じやすい。偶発学習の実験を行うためには,実験参加者の意識を

記憶からそらせるために,方向づけ課題(orienting task)を用いる。この方向づけ課題を行うには,3 秒以

上の提示時間(学習時間)が必要である。意図学習と偶発学習の効果を比較するためには,意図学習の

学習時間も 3 秒以上にしなければならない。このため,漁田ら(2008)の実験では,意図学習で文脈依存

効果が生じなかったのではなかろうか。

3.テスト方法の問題

BGM文脈依存効果研究の公刊論文では,すべて自由再生を用いている(Balch et al., 1992; Balch, &

Lewis, 1996; Mead & Ball, 2007; 漁田ら, 2008; Smith, 1985a)。これに対して,BGM以外の文脈では,

再認やプライミングなどのテスト方法が用いられている。場所文脈では,かなりの再認研究が行われてい

る(第3章,第3節の1)おり,プライミング(Parker, Dagnall, & Coyle, 2007; Parker, Gellatly, & Waterman,

1999; 山田・中條, 2010)や偽りの記憶(山田ら, 2009)に関する研究も報告されている。視覚文脈の研究

は,再生よりも再認の方が主流になっている(第4章,第1節)。匂い文脈では,後述するように,再認にと

どまらず,再学習法やプライミングなど,多様なテスト法での研究が報告されている。

そんな中で唯一,西村ら(2010)は,再認でのBGM文脈依存効果を報告している。この報告によると,

1.5 秒/項目という短い学習時間で,再認での文脈依存効果が生じるが,3.0 秒/項目になると,文脈依

存効果が消失することを見いだしている。この結果は,場所文脈における再認の文脈依存効果(Isarida

et al., 2012)と,非常に類似した結果といえる。

4.楽曲の選択の問題

BGM 文脈研究では,楽曲の次元に言及しているものが大半である。Smith (1985a) は楽曲のジャンル

が,BGM 文脈依存効果に影響しないと結論している。Balch et al. (1992) は,楽曲のジャンルは影響し

ないが,楽曲のテンポが BGM 文脈依存効果を規定すると結論づけている。ここでの楽曲のジャンルとは,

ジャズかクラシックかであり,Smith (1985a)はジャズ 1 曲,クラシック 1 曲を使用している。Balch et al.

(1992) は,テンポとジャズを組み逢わせ,速いジャズ,遅いジャズ,速いクラシック,遅いクラシックについ

てそれぞれ 1 曲ずつを選定し,使用している。Balch & Lewis (1996) は,中速のクラシックとジャズを 1 曲

-49-

ずつ選定し,キーボードのピアノ音色で演奏した。その演奏を速いテンポ(140♪/分)と遅いテンポ(60♪

/分)にして録音して使用した。さらに,キーボードの音色を変化させ,ピアノとブラスの2種類を使った。

Mead & Ball (2007) は調性(tonality)が BGM 文脈依存効果に影響すると結論づけている。彼らも,ショ

パンの短調のピアノ曲 1 曲と,それを長調に転調したものを用いている。このような方法には2つの問題が

ある。その1つは,時限の効果がないのか,それとも選定された曲に固有の効果なのかが判別できないと

いうことである。もう1つは,同一楽曲のテンポや調性を変えた場合,未知楽曲であれば,SC 条件はそれ

でも良いかもしれない。けれども,DC 条件の場合違和感を生じさせるという疑念が生じる。

漁田・松永・漁田(2012)は,Balch ら(Balch et al., 1992; Balch & Lewis, 1996)の実験を再検討した。

BGM として,実験参加者にとって未知であり,中速 (108♪/分-120♪/分) である楽曲を 4 曲選曲し,

テンポをそれぞれ速いテンポ(180♪/分) と遅いテンポ(80♪/分)に,コンピュータで変換したものを使

用した。使用した楽曲は純粋にテンポの効果を調べるために,調性は長調,使用する楽器はピアノ,ジャ

ンルはクラシックで統一した。そして,符号化とテストで提示する BGM において,楽曲とテンポが同じ条

件(SS),楽曲が異なるが同じテンポの条件(DS),楽曲もテンポも異なる条件(DD)の文脈依存効果を比

較した。楽曲が同じでテンポが異なる条件(SD)は,違和感を生じさせる恐れがあるので,設定しなかった。

実験の結果,SS 条件が他の2条件よりも再生率が高く,DS 条件と DD 条件の間に有意な差がなかった。

この結果は,BGM 文脈依存効果の発現に,楽曲のテンポが関与していないことを示している。Balch et

al. (1992) で BGM 文脈依存効果をテンポが媒介するという結果が生じたのは,テンポよりは使用楽曲に

固有の効果であったことが示唆される。また,Balch & Lewis (1996)の場合,使用楽曲の効果に,違和感

の効果が加わっていることが疑われる。

さらに,周・池谷・漁田・漁田(2011)は,Mead & Ball (2007)の再検討を行った。BGM として,実験参

加者にとって未知の楽曲を,,短調 2 曲,長調 2 曲選出した。純粋に調性の効果を調べるために,テンポ

は Modelato,ジャンルはクラシックで統一した。そして,符号化とテストで提示する BGM において,楽曲と

調性が同じ条件(SS),楽曲が異なるが同じ調性の条件(DS),楽曲も調性も異なる条件(DD)の文脈依

存効果を比較した。楽曲が同じで調性が異なる条件(SD)は,違和感を生じさせる恐れがあるので,設定

しなかった。実験の結果,楽曲変化の際に調性まで変化すると,有意な文脈依存効果が生じた。反面,

楽曲変化条件内における調性変化の有無の効果は有意ではなかった。この結果は,調性変化は,文脈

依存効果の大きな要因となるけれども,調性変化だけでは記憶成績に影響できないことを示している。調

性変化が記憶成績に影響しないのであれば,気分変化も記憶成績に影響しないことになる。

5.BGM 文脈依存効果と気分依存効果

A.BGM 文脈依存効果の気分媒介説

最初の公刊論文の Smith (1985a) は,聴覚環境刺激としての BGM が環境的文脈依存効果を持つか

どうかを調べたようである。BGM と一緒に白色雑音の効果を調べたことからも推察できる。けれども,その

後の研究では,BGM 変化が気分変化を引き出し,気分変化が記憶に影響することを示すことを目的とし

た研究ばかりである。

Balch et al.(1992)は,3つの実験の結果,BGM 文脈依存効果を引き起こす音楽の成分は,音楽のジ

ャンル(クラシック,ジャズ)ではなく,曲のテンポ(速い,遅い)であることを見いだした。Balch & Lewis

(1996)は,4つの実験によって,BGM 文脈依存効果はテンポ依存効果で説明でき,テンポ依存効果は

-50-

気分依存効果(see Blaney, 1986)で説明できることを示す実験を報告した。実験1と2において,楽曲の

テンポと音色(timbre)が,BGM 文脈依存効果を引き起こすか否かを調べた。その結果,BGM 文脈依存

効果を引き起こすのは,楽曲のテンポであり,音色ではないことを見いだした。続いて実験3で,楽曲のテ

ンポが気分の覚醒(arousal)次元に影響することを見いだした。そして実験4で,学習時とテスト時で気分

が一致する方が,不一致の場合よりも,再生成績が良いという気分依存効果を見いだした。さらに Mead

& Ball (2007) は,BGM 文脈依存効果に楽曲の調性が影響することを実証した。その結果,BGM の調

性変化が気分変化を導き,気分変化が記憶に影響するとした。

音楽が気分の誘導に用いられることは,よく知られている(e.g., 谷口,1991)。したがって,BGM 文脈

依存効果を調べる際に,気分の問題を避けて通れないことは確かである。しかしながら,BGM 文脈依存

効果の実験そのものが,まだ非常に少なく,さらにそれらの実験方法に問題があるとするなら,安易に気

分媒介という説明に走る前に,BGM 文脈依存効果の現象そのものを,もっと確実なものにしておくことが

必要である。既述したように,Balch らの気分媒介説(Balch et al., 1992; Balch & Lewis, 1996)の鍵となる

テンポ依存効果は,複数の楽曲を用いた実験によって否定されている(漁田ら, 2012)。そして,Mead &

Ball (2007)の気分媒介説の鍵となる調性依存効果も同様に否定されている(周ら, 2011)。

B.音楽を用いた気分依存効果研究

BGM 文脈依存効果と類似した実験手続きをとって,文脈依存効果ではなく気分依存効果の研究とし

て行われたものもある。

Eich & Metcalfe(1989)は,楽しい(happy)クラシックか悲しい(sad)クラシックを実験参加者に聴かせた。

音楽が流れている間に,単語を読み上げられる条件と,与えられたカテゴリに属する単語を生成する条

件を用意した。48 時間遅延再生テストでは,最初と同じ音楽を聴きながら再生する条件と異なる気分を引

き出す音楽を聴きながら再生する条件を比較した。その結果,単語を生成する条件では気分依存効果

が生じたが,単語を読みあげられた条件では気分依存効果が生じなかった。

また,Balch, Myers, & Papotto (1999) は音楽依存記憶ではなく,音楽によって誘導された気分の効

果を調べる研究を行っている。彼らは,実験参加者に音楽を聴かせながら,頭文字とヒントをもとに該当

する単語を生成させた(word-generation technique)。そして音楽を聴かせながら(実験1-3),あるいは

気分を誘導するシナリオを聞かせながら(実験4),単語を再生させた。気分を覚醒次元と快次元とに分

離 し た と こ ろ , 覚 醒 依 存 記 憶 ( arousal-dependent memory ) は 生 じ な か っ た が , 快 依 存 記 憶

(pleasantness-dependent memory)は一貫して生じた。これらの結果は,記憶に作用する情動の2次元理

論(two-dimensional theories of emotion)によって説明されている。

ここで問題なのは,既述したように,気分依存効果は脆弱で不安定という点である(第 3 章 第 3 節-3

A)。特に気分依存効果は,自己生成した単語では生じるが,提示された単語では生じない。これに対し

て,BGM 文脈依存効果は,提示された単語でも生じている。したがって,気分媒介説は,より脆弱な現

象がより頑健な現象を媒介するという矛盾した説明になってしまう。

いずれにせよ,BGM 文脈依存効果の研究は,まだあまりにも少ない。もっと基礎データを多く集積し,

その性質を科学的に同定する段階ですらまだ不十分といえる。たとえば,既述したように,Balch & Lewis

(1996)は,テンポ依存効果が,気分の覚醒次元に影響すると報告している。これに対して,Balch et al.

(1999)は,気分の覚醒次元ではなく,快不快次元が記憶に影響すると結論づけている。このように,媒介

-51-

するとされる気分にも食い違いが生じることは,気分の媒介を支持する結果の不安定さを示している。

第3節 匂い文脈

匂いの文脈依存効果の研究も始まったばかりである。それでも,BGM 文脈に比べれば,多くの研究が

報告されている。記憶測定法としても,自由再生(Herz, 1997; Parker, Ngu, & Cassaday, 2001; Schab,

1990),再認(Cann & Ross, 1989; Parker et al. 2001),再学習法(Parker et al. 2001; Smith, Standing, &

deMan., 1992)なども用いられている。さらに,単語完成法(Ball, Shoker, & Miles, 2010; 山田・中條,

2010)も用いられており,非常に多様である。しかしながら,それぞれの研究が,個別特殊的に行われて

おり,体系的とはとてもいえない現状である。

1.特定の匂いの有無の効果

匂い文脈研究で目立つのは,特定の匂いが存在する条件と存在しない条件を組み合わせた実験

(Table5A)が多いということである(e.g., Herz, 1997; Schab, 1990, 実験 1・2;Pointer & Bond, 1998; 山

田・中條, 2010)。匂い以外の文脈でこのような操作は行われていない。この操作の問題は,匂いが検索

手がかりとなっているのか,それともある種の匂いのする環境が手がかりとなるのかが不明確という点であ

る(Schab, 1990)。

この問題を解決するためには,学習時とテスト時で,同じ匂いが存在する条件と,異なる匂いが存在す

る条件を比較する必要がある(Table 5B)。これは,学習時とテスト時の匂いの一致不一致を操作する実

験となる(e.g., Cann & Ross, 1989; Parker et al., 2001; Schab, 1990, Experiment 3)。場所や背景色の場

合,その環境情報が存在しない条件がありえないので,学習時とテスト時の環境情報の一致不一致の実

験のみが行われてきた。これに対して,匂いや BGM では,その環境情報が存在しない場合がありうる。

けれども,環境情報の有無を操作する実験は,匂いでのみ行われてきた。

2.匂いの選定の問題

Table 5A

匂いの有無を操作する実験計画

Table 5B

匂いの一致不一致を操作する実験計画

○は匂いが手がかり効果を持つ

×は匂いが手がかり効果を持たない

○は匂いが手がかり効果を持つ ×は匂いが手がかり効果を持たない A,Bは匂いの種類

-52-

BGM と同様,匂いはランダムサンプリング変数なのに,恣意的に選んだ1個あるいは1対の匂いを使っ

た実験がほとんどである。これでは,使用した匂いに固有の現象なのか,匂い全般に一般化できるのか

が不明確である。さらに最近になって,匂いの次元に言及する研究が出てきている。たとえば Herz

(1997)は,distinctiveness が検索手がかりに関与しており,novelty があまり影響しないと述べている。しか

し,そのような結論を出すには,取り扱っている匂いの種類が少なすぎる。したがって,匂い次元全般に

一般化できる現象なのか,それとも特定の匂いに限定される現象なのかが,いまだに不明確といえよう。

この点において,酒井・古閑・漁田・漁田(2009)は,まず日本人にとって身近な匂いの調合香料 14 種

類をを用いて,SD 法による印象評定を行った。次に,その印象評定データを多変量解析し,匂い間のユ

ークリッド距離を求めた。そして,その距離データの離れている匂い対を 2 つ選出し,匂い刺激とした。 こ

の方法で出た結果は,14 個の身近な匂い全体に一般化できるであろうし,さらに日本人にとって身近な

匂い全般に一般化できるとも言えよう。

3.長期遅延テストの問題

匂い文脈依存記憶の実験では,ほとんどが2日間にわたる長期遅延テストを用いている。実際,Parker

et al. (2001)が 4 週間,48 時間が 3 例(Cann & Ross, 1989; Herz, 1997; Smith et al, 1992),24 時間が 1

例(Schab, 1990)に対して,5 分は 1 例しかない(Pointer & Bond, 1998)。

匂い文脈の場合,このような長期遅延テストを用いる方法には,2つの問題がある。

(1) 2 日間にまたがる実験では,実験参加者自身がつけている匂いが異なる。たとえば香水,化粧品,

コロン,整髪料等の香料が異なる可能性がある。また,このような香料をつけていなくても,衣服,食事,

汗等によって,個人の匂いは異なってくる。このような匂いは,実験操作を混乱させる。もしかしたら,実験

参加者が,自分自身の匂いには順応しているかもしれない。けれども,その順応したはずの匂いが,実験

を混乱させないという保証はない。

(2) また,保持期間中に実験で操作する匂いと接触する可能性がある。日常的な匂いを使うほど,この

危険性は増すといえる。

匂い文脈依存記憶の実験は,プルーストの逸話(何十年ものあとに,ある匂いで思い出がよみがえる)

に触発されているため,多くの研究者が長期遅延テストを用いているようである。しかし,匂い文脈依存記

憶のメカニズム解明のためには,むしろ 2 日間のセッションをともなう長期遅延は問題である。

けれども,保持期間を短くすると,符号化時に提示された匂いに順応してしまい,テスト時に提示する

匂いを感覚できなくなるという危険性がある。もし順応が続いている場合,同文脈条件の匂い刺激を感覚

できなくなってしまい,手がかり効果が生じなくなってしまう。この点を解決するために,酒井・片山・漁田・

漁田(2010)は,5 分間の保持期間の冒頭に,符号化時とテスト時の両方の匂いと異なる中間的匂いを,

短時間提示するという方法を開発した。その結果,中間的匂いを提示すると文脈依存効果が生じたが,

中間的匂いを提示しないと文脈依存効果が生じなかった。この結果は,中間的匂いの提示によって,順

応が解除され,テスト時で匂い刺激が機能するようになったことを意味している。この方法を用いれば,短

期保持期間で匂い文脈依存効果の実験が可能になり,2 日間にまたがる実験の問題を解決できる。

第4節 ビデオ文脈

-53-

最近になって,Smith & Manzano (2010) はビデオ文脈の効果を調べている。彼らは,5 秒間のビデ

オ・クリップ(音声付き)に単語をスーパーインポーズして提示し,意図学習させた。その際,30 個の単語

を 2,10,30 種類のビデオで提示した。そして,自由再生テストにおいて,学習時の半分のビデオクリップ

を文脈手がかりとして5秒ずつ提示した。その結果,(a) 非常に大きな文脈依存効果が生じること,(b) 特

に,1文脈あたりの手がかり負荷が小さいほど,大きな文脈依存効果サイズが得られることを見いだした。

このような視聴覚文脈の研究は,今後の新しい方向を示すものといえよう。

Smith & Manzano (2010)は,未だかつてない程の大きな文脈依存効果サイズを得ることに成功した原

因として,(a) 視聴覚情報の複合文脈であること,(b) 手がかり過負荷を小さく押さえることができることを

あげている。けれども,彼らの実験には,いくつかの問題点がある。

1.対連合学習の問題

Smith & Manzano (2010)は,項目と文脈の関係に注目させたり,項目と文脈の連合を促進するような

教示を与えている。ここで,通常注意されない文脈情報も,注意させることで,焦点情報になることを見過

ごしてはいけないであろう。焦点情報と焦点情報の連合は,文脈連合ではなく対連合に他ならない。けれ

ども,「この手続きは文脈依存効果の手続きではなく,対連合学習の手続きではないか?(この論文審査

における漁田のコメント)」との指摘に対して,Smith & Manzano (2010)は,過去の意味的文脈の研究でも

同様の教示を用いていたので(第2章 第3節-2),文脈依存効果の研究の範囲を逸脱しないといって

いる。確かに意味的文脈の研究ではその通りである。けれども,項目と文脈とを意図的に関連づけさせる

手続き自体に,やはり問題があるのではなかろうか。この研究だけでなく,背景写真の研究でも同様の手

続きが用いられている(Grupusso et al., 2007)。これに対しても,Hockley (2008) は,この手続きはむしろ

対連合学習のものだとの指摘を行っている。

2.筆記再生の問題

これは Smith & Manzano (2010)に限られたことではないが,英米の記憶研究は,なぜか聴覚提示で筆

記再生という手続きをとるのが主流のようである。Smith & Manzano (2010) の場合も,再生は筆記である。

集団実験を用いているので,筆記再生しか利用できないという事情もあるようである。けれども,筆記再生

には,種々の問題があり,特に文脈依存効果の研究では避けるべきである。

(1) 自分の再生が手がかりとなる

1枚のシートに再生反応を筆記するという方法では,文脈だけでなく,先行反応も検索手がかりになる。

筆記再生では,反応の記録を,何度も見返すことが可能である。この点において,口頭自由再生の場合,

反応とともに消えるので,手がかりになりにくい。文脈依存効果の研究の場合,文脈以外の手がかりをで

きるだけ抑制することで,より明確な文脈依存効果を測定することができる。やはり,文脈依存効果研究

では,口頭自由再生を用いるべきである。

(2) 反応中に文脈手がかりを見なくなる。

反応を筆記する際には,手がかりビデオから視線をそらして,筆記を行わねばならない。その分,手が

かり提示が機能しなくなってしまう。この点でも,口頭再生の場合,手がかりビデオを見ながら反応するこ

とが可能である。したがって,すべての手がかりビデオを均等に観察することができる。

-54-

3.その後の研究

酒井・宮本・漁田・漁田(2011)は,口頭自由再生を用いて,ビデオ文脈依存効果をしらべた。その際,

手がかり負荷を1とし,項目と文脈の関連づけを行わせる条件と,行わせない条件を設けた。その結果,

関連づけの有無にかかわらず,文脈依存効果が生じた。また,関連づけをした方が,しない条件よりも,

きわだって大きな文脈依存効果を見いだした。実際,関連づけ条件では,テスト時にビデオ手がかりが提

示される条件の単語が 70%再生されたのに対して,提示されない条件の再生はほとんどゼロであった。こ

れは,Smith & Manzano (2010) の結果よりも,はるかに大きな効果と言える。内省報告によると,テスト時

のビデオ提示が干渉効果を持ち,そのビデオ以外の項目の再生を抑制するとのことであった。

以上から,(a) ビデオ文脈依存効果は,関連づけ教示がなくても生じること,(b) 口頭再生の方が,筆

記再生よりも大きな文脈依存効果が生じること,(c) テスト時に手がかりビデオを系列提示する手法が,ビ

デオ文脈依存効果の発現に大きな影響を与えているかもしれないことが示唆される。今後の課題として,

(a) 関連づけ教示なし条件と筆記再生を組み合わせたときに,文脈依存効果が生じるのか否か,(b) 再

認ではどのような効果が生じるのかなど,多くが存在している。

第5節 さまざまな環境的文脈の比較

これまで様々な環境情報の文脈の研究を概観してきた。これらは,一括して環境的文脈と称される。け

れども,これらがすべて等価な機能を持っているかどうかは,まだ実証されていない。それにもかかわらず,

Murnane らの研究が出てからというもの,環境的文脈研究の大半は,単純視覚文脈や背景写真などの視

覚文脈の研究となった(第 4章 第1節)。特に,それまで環境的文脈研究の中心を締めていた場所文脈

は,国際誌では Isarida らによるもののみの状態である(第 3 章 第 2 節-2)。

この大きな理由として,視覚文脈の実験は,場所文脈の実験よりも実験実施が容易という事があげられ

る。視覚文脈の場合,コンピュータ画面の文字や画像を処理するだけで,いくらでも文脈を作り出すこと

ができる。複数の異なる場所を用意し,実験者まで変化させる実験に比べれば,はるかに容易に実施で

きる。

問題なのは,場所文脈も視覚文脈も,焦点情報にとっての偶発的環境刺激であるので,等価な機能を

持つととらえられていることである。Murnane らの単純視覚文脈の実験が出てくるまで,環境的文脈依存

効果は再生では生じるが,再認では非常に不明確ととらえられていた。Murnane らは,場所文脈の問題

点やこれまでの実験方法の問題点を指摘し,それを改善した実験として,単純視覚文脈を使った実験を

行い(Murnane & Phelps, 1993, 1994, 1995),その集大成として ICE 理論を提出した(Murnane et al.,

1999)。その後,Smith & Vela (2001) のメタ分析によって,再認でも再生と同等の文脈依存効果が生じる

ことが示された。けれどもそのメタ分析の再認の部分に問題があることは,すでに論じた(第 3 章 第 3 節

-1B)。この節では,同じ環境的文脈に分類されている文脈の相違点と類似点をまとめる。

1.グローバル文脈と局所的文脈

一時期まで,環境的文脈とグローバル文脈は,ほぼ同義語であった。現在もそれを踏襲している研究

者もいるが(Hockley, 2008),最近では,背景色文脈や単純視覚文脈などの視覚文脈を局所的文脈とと

らえる考え方が出てきている(文脈の分類,視覚文脈の項参照)。ごく最近に研究が開始されたビデオ文

-55-

脈も,局所的文脈に分類できよう。これらの文脈に共通しているのは,コンピュータの 1 画面ずつが,独立

したエピソードを構成しているということである。たとえば,同一画面に複数項目を提示した場合,その複

数項目は群化するが,その画面と同じ背景色で提示された項目同士は群化しないことが報告されている

(Sakai et. al., 2010)。これに対して,グローバル文脈に分類される場所,BGM,匂いなどでは,それらの

文脈が提示されていた符号化セッション全体が 1 つのエピソードを構成することになる。

実験参加者の視点に立てば,1 回の実験参加で,グローバル文脈は 1 つのエピソードを記憶すること

になるが,局所的文脈では数十個のエピソードを記憶することになる。1 度に数十のエピソードを記憶す

るということが,生態学的妥当性から見て問題がないかどうかという点も検討課題の 1 つと言える。少なくと

も,視覚文脈でも,場所文脈研究と同様に,1 回の実験で 1 個のエピソードの記憶を調べているという分

析態度は改める必要があるであろう。

2.背景色文脈とその他の視覚文脈

背景色文脈とその他の視覚文脈は,視覚文脈の項で述べたように,同じ視覚文脈であり,局所的環境

的文脈である。けれども,再認におよぼす効果は,背景色文脈とその他の視覚文脈で明確に異なってい

る。背景色文脈では,符号化特殊性原理を支持する結果がでるのに対して,その他の視覚文脈(単純視

覚文脈,背景絵画文脈,背景写真文脈,フォント文脈)では,ICE 理論を支持する結果が得られている。

この違いは,背景色文脈が焦点情報となる項目の背景になりやすいのに対して,その他の視覚文脈は,

焦点情報の情報を含む,あるいは項目と並んで焦点情報として処理されやすいなどの理由から,項目の

背景になりにくいという性質にあるといえる。

このように,同じ視覚文脈の中にも,異なる機能を持つ文脈が存在するのである。これでは,焦点情報

に対して偶発的な環境情報であれば,すべて等価な機能を持つという考えは,とうてい成立できないとい

えよう。

3.単一環境情報と複合環境情報

同じように環境的文脈と称されていても,単一環境情報からなる文脈と異なる種類の環境情報からなる

文脈が存在する。これらが等価な機能を持つことというも,非常に考えにくい。

背景色,BGM,匂いなどは,単一環境情報によって構成される文脈である。これらの文脈は,それぞ

れの環境情報の性質によって特徴づけられる。また,単純視覚文脈は,異なる種類の視覚情報を組み合

わせてはいるが,視覚情報のみからなる文脈である。これらの文脈は,それぞれの感覚の特性にもとづく

機能を有する。また,単純視覚文脈は,焦点情報の特徴をも含んでいるために,それを含まない背景色

文脈とは異なる機能を持つようになる。

これに対して,ビデオ文脈は視覚情報と聴覚情報の複合文脈である。この文脈がどのような機能を持

つのかは,まだほとんど解明されていない。また,単純場所文脈も,視覚情報,聴覚情報,匂い情報など

で構成されているので,複合感覚情報の文脈ということができる。

複合場所文脈は,実験者や副課題など異なる種類の文脈情報によって構成されている。単純場所文

脈でも,水中と陸上など大きな環境変化が生じる場合,物理的環境ばかりでなく,心理的要因までもが共

変することが見いだされている。これを,交絡にとどまらせていたのでは,実験操作上の問題になる。そこ

で,心理的要因の影響する文脈要素の明示的な実験操作として,場所操作に加えたのが,複合場所文

-56-

脈である。既述したように,単純場所文脈と複合場所文脈は,機能が異なることが報告されている。

4.学習時間効果との交互作用

環境的文脈依存効果と学習時間効果の交互作用については,3つのパターンを想定することができる

(Figure 14)。パターンAは,学習時間とともに文脈依存効果が増加するというパターン(diversing)。パタ

ーンBは変化しないパターン(pararllel)で,パターンCは減少するパターン(conversing)である。

(1) 実験的発見

既述したように,漁田らは,複合場所文脈を用いて,文脈内外からの自由再生における記憶現象の形

状変化を調べている。その中の学習時間効果については,他の環境的文脈でも,自由再生を用いて同

様の研究を行っている。複合場所文脈では,パターンAを見いだした(Isarida, 2005)。背景色文脈

(Isarida & Isarida, 2007),BGM 文脈(漁田ら, 2008),匂い文脈(酒井・漁田・漁田, 2011)のいずれにお

いても,自由再生ではパターン B が見いだされている。

Table 6

環境的文脈依存効果と学習時間の関係のまとめ

パターン 文脈(複合) テスト・測度 研究

A 場所 自由再生 Isarida (2005)

B 背景色 自由再生 Isarida & Isarida (2007)

B 背景色 再認,Hit, CRS 漁田・漁田・岡本 (2005

B 単純視覚 再認,Hit Dougal & Rottelo (1999)

B 単純視覚 再認,Hit Murnane & Phelps (1995)

B BGM 自由再生 漁田・漁田・林部 (2008)

B 匂い 自由再生 酒井・漁田・漁田 (2011)

B ビデオ 自由再生 酒井・山本・漁田・漁田 (2012)

C BGM 再認,Hit, CRS 西村・漁田・漁田 (2010)

C 場所(複合) 再認,Hit, d' Isarida, Isarida, & Sakai (2012)

一方,再認研究でも,同様の分析が行われている。視覚文脈では,パターンBが見いだされている。背

景色文脈では,Hit と再認弁別においてパターンBを見いだしている(漁田ら, 2005; 漁田・尾関, 2005)。

単純視覚文脈でもパターンBが見いだされているが,これは再認弁別ではなく,あくまでも Hit にとどまっ

Figure 14. 環境的文脈依存効果と学習時間効果の交互作用における 3 つのパターン。

-57-

ている(Dougal & Rottello, 1999; Murnane & Phelps, 1995)。これに対して,複合場所文脈では,パターン

Cが見いだされている(Isarida et al., 2012)。また,BGM 文脈でも,パターン C になることが報告されてい

る(西村ら, 2010)。

このように,複合場所文脈の場合,再生と再認で対称的なパターンを示しているのが興味深い。これま

での記憶研究のほとんどが SC 条件で行われてきたことを考慮すると,自由再生で,SC 条件で学習時間

効果がより明確なのに対して,再認では DC 条件でより明確になることが分かる。既述したように(第3章

第3節-3B),これまでの自由再生研究では,SC 条件で確認されてきた記憶現象が,DC 条件では消失

したり,著しく減少することが見いだされている。これに対して再認では,今までほとんど実験されていな

かった DC 条件の方が明確であることからすると,これまで発見されていなかった再認現象を,DC 条件の

採用によって発見できる可能性が示唆される。

(2) One-shot 仮説

Malmberg & Shiffrin (2005) は,one-shot 仮説を提唱している。One-shot 仮説によると,符号化の最初

の 1-2 秒で文脈情報の取り込みが完了する。その後の符号化時間は,項目情報処理(意味的処理,項

目間連合など)に費やされるという。集的学習(学習開始から終了まで連続する:集中反復 massed

repetition,学習時間,処理水準)の場合,符号化が 1 回の符号化事象で構成されるため,1-2 秒以上の

集的学習では,集中学習時間が長くなっても,文脈効果の大きさは変化しない(パターン B)という。これ

に対して,分散学習(学習と学習の間に時間間隔を置く学習:分散反復 spaced repetition)では,複数の

符号化事象で構成される。このため,符号化事象ごとに文脈情報が取り込まれるので,符号化事象が多

くなるほど,文脈効果の大きさが増加する(パターン A)と予測する。

この one-shot 仮説は,リスト強度効果(list strength effect: Ratcliff, Clark, & Shiffrin, 1990; Shiffrin,

Ratcliff, & Clark) や REM(Retrieving Effectively from Memory: e.g., Shiffrin, & Steyvers, 1997;

Schooler, Shiffrin, & Raaijmakers, 2001) にもとづいて提唱されている。ここでの文脈はあくまでも説明概

念であり,実際に文脈を操作した実験結果にもとづいていない。そして,one-shot 仮説が参照しているデ

ータは,コンピュータ画面の属性を操作した視覚文脈のみ(Murnane & Phelps, 1995)である。

実際,多くの環境的文脈依存効果は,パターン B を示しており(Table 6),one-shot 仮説と一致している。

しかしながら,場所文脈では自由再生と再認の両方において,one-shot 仮説に反する結果が見いだされ

ている。BGM の再認でも,パターン C が見いだされている(Table 6)。このことを見ると,one-shot 仮説を,

環境的文脈効果全般に一般化するのは無理といえよう。また,それを取り込んでいる REM も修正する必

要があるといえよう。

(3) 学習時間効果との交互作用のまとめ

Table 6 をみると,環境の感覚情報の文脈依存効果は,視覚情報(背景色,単純視覚),聴覚情報

(BGM),視聴覚複合情報(ビデオ),匂い情報のいずれにおいても,パターン B を示している。パターン

A と C はいずれも複合場所文脈が示している。このことから,偶発的環境の感覚情報は,one-shot 仮説の

説くように符号化されるのかもしれない。これらの環境的文脈効果は,実験エピソードの中で変動する文

脈と捉えることができる(Isarida & Isarida, 2010)。例外的に,再認における BGM 文脈のみが,複合場所

文脈と同じパターンを示している。ただし,この発見は,まだ追試されていない。科学的に確実な現象か

-58-

どうかは,今後の検討課題である。

これに対して,複合場所文脈は実験エピソードを定義する文脈と見なすことができる(Isarida & Isarida,

2010)。このような文脈の場合,想起対象となるエピソードの中に存在した時間が長いほど,あるいはエピ

ソード定義文脈との接触時間が長いほど,文脈を手がかりとする想起が促進されるのであろう。この点に

ついては,再認における BGM 文脈の問題とともに,さらに検討する必要がある。

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