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This document is downloaded at: 2020-06-08T18:51:25Z Title 小学生向けラジオ工作教材の開発及び実践 Author(s) 武藤, 浩二; 丸田, 秀一郎; 野依, 一正; 井上, 浩之; 柳井田, 正司 Citation 平成22年度 第9回教材開発シンポジウム, pp.17-20; 2011 Issue Date 2011-03-05 URL http://hdl.handle.net/10069/24683 Right NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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Title 小学生向けラジオ工作教材の開発及び実践

Author(s) 武藤, 浩二; 丸田, 秀一郎; 野依, 一正; 井上, 浩之; 柳井田, 正司

Citation 平成22年度 第9回教材開発シンポジウム, pp.17-20; 2011

Issue Date 2011-03-05

URL http://hdl.handle.net/10069/24683

Right

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE

http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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小学生向けラジオ工作教材の開発及び実践武藤 浩二

長崎大学 教育学部丸田 秀一郎 野依 一正 井上 浩之(財)北九州産業学術推進機構

柳井田 正司北九州市

1 まえがき

近年,理系離れ,とりわけ電気・電子離れがいわれており,大学の入試状況等にもその傾向が見えてきている.半導体産業においては LSI 設計技術者をどのように育成・確保するかが課題となっており,各地で様々な取り組みがなされているのと同時に,学会においても大規模集積回路の設計技術者をどう養成するかが議論されている [1].例えばテレビやゲーム機を開けたとしても,現在は LSIが数個基板に載っているだけで,これらの LSIがどう動いているのかを理解して子どもに説明するのは保護者には困難であり,子どもの興味を電気・電子分野に引きつけることは非常に難しいといわざるを得ない.北九州学術研究都市では企業技術者や大学生を対象

としたアナログ集積回路設計技術の講座を多数実施しているが [1],電気・電子技術の面白さを子供達に伝えて将来の人材確保に資する目的で小中学生に対するエレクトロニクス工作教室を 2種類(「小学生ラジオ工作教室」及び「コウモリマイク工作教室」)開催している [2].本論文では,これらのうち 2010年度で終了したラ

ジオ工作教室の教材開発及び 6年間の実践により得られた知見を述べる.まずラジオ工作教室の概要及び開発した教材について説明する.毎回の工作教室では,参加者に対してアンケート調査を行っており,その分析結果を次に示す.最後に本論文を総括する.

2 ラジオ工作教室の概要及び開発教材

2.1 概要

この工作教室は「ラジオを題材に身近なエレクトロニクス製品の仕組みを探るとともに,ものづくりの楽しさ,身近なものを使って工夫することを学ぶ」ことを目的に,北九州学術研究都市の学園祭「ひびきの祭」のイベントとして 2005年度から開催しているものである.将来エレクトロニクス分野に進む児童が出ることを期待し,初年度 60名,以降は毎年 50名ずつの参加者を募って開催してきた.毎回抽選倍率が 2倍を越える工作教室であったが,2009年度から応募者数が減少し始める状況がみられ,保有部品も終了したので2010年度でラジオ工作を終えることとした.工作教室は 3時間の枠を設定し,当初 40分で電波

とラジオの仕組み及び製作要領を説明した後,工作に取り組んでもらっている.3年生以下の参加者は保護

VCC = 1.5[V]

32Ω phone1kΩ

470Ω

100kΩ

100μF

0.1μF

0.1μF

0.1μF

VolumeLarge

Small

L1

L1:

U1

U1: LMF501TQ1: 2SC1815GR

Q1

VC

トイレットペーパ芯0.32φ UEW 120回

(a) 当初回路

VCC = 3[V]

32Ω stereophone

10kΩ

10kΩ

330μH

1kΩ

100μF

100μF

100Ω

Q1~4 : 2SC1815GR

0.1μF

0.1μF

1kΩ

Q2 Q4

1kΩ

0.1μF

0.1μFQ3

Q1

L2

VC

1MΩ

4.7kΩL2:本文参照

(b) 2008年度以降の回路

図 1 開発したラジオ教材回路図

者同伴とし,工作の援助をお願いしている.

2.2 開発教材

開発したラジオ教材の回路図を図 1に示す.当初は3端子型の 1チップラジオ ICを用いていたが,生産終了となったために 2008年度から同図 (b)に示す独自設計の 4石トランジスタ直結回路に変更した.この 4石回路は,Q1及びQ2の差動増幅回路と Q3

及びQ4のエミッタ接地増幅回路でそれぞれ高周波増幅を行っている.Q4は低周波でも動作させるため,エミッタのバイパスキャパシタは大きな値(100[µF])としている.Q4 のコレクタ負荷は直接ステレオヘッドホンとなっており,数十 [Ω]程度とエミッタ抵抗に比べて非常に小さく設定しているので,動作点は直流負荷線の中央ではなく電源電圧近傍に偏ることとなる.このため,コレクタ電流波形は片側がほぼクリップする半波整流状の波形となる.この特性を利用し,コレクタに積分キャパシタを付加することで包絡線検波を実現することができる.ゲルマニウムラジオではなくストレート方式を採用

した理由は,家庭に持ち帰ってからのアンテナとアースについてフォローが必要なく,戸建て・マンションを問わず受信できること,100円ショップのヘッドホンを用いた方がクリスタルイヤホンと比較して音質もはるかに良好で安価に準備できることにある.

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平成22年度 第9回教材開発シンポジウム 5 March, 2011

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(a) ラジオ全体

(b) ソルダーレスブレッドボード部

図 2 ラジオ教材製作例

低学年でも「紙工作の感覚」で製作できるように,工作の重点をティッシュペーパ空箱やトイレットペーパの芯を利用したアンテナコイルとバリコンづくりに置いている.また回路製作は安全面と時間節約のため,小型のソルダーレスブレッドボードに部品を挿入する方式を採用した.図 2に製作例を示す.バリコンは図 3 に示すように,同軸状に出し入れ

できるよう加工した 2つのトイレットペーパの芯にアルミホイルを貼り付けることにより構成している.可動部となる内側用の芯は縦に切り開き,数 [mm]ほど重なるようにして再度筒状に組み直し,直径を少し小さくしている.この作業も実際に子供たちに行ってもらっている.アルミホイルの貼付けには液体ノリを用いているが,乾くまではノリ成分による誘電損のためキャパシタとして機能しない.このため,バリコンの製作を一番最初に行うようにしている.アンテナコイルも当初は図4のようにトイレットペー

パの芯にポリウレタン被覆導線(UEW線)を 120回巻いて作るようにしていた.しかしながら 16[m]ものUEW線を絡げることなく巻くのは,子供たちと同伴の保護者にとって非常に大変な作業であった.このため,2007年度以降は図 2(a) のように 8[m] 長のラッピングワイヤを十字枠に巻くループアンテナに変更した.不足するインダクタンスは直列に固定インダクタを接続することで対処している.ループアンテナの枠はティッシュペーパ空箱の上面から切り出した紙を用いて製作している.

図 3 トイレットペーパ芯で作ったバリコン

図 4 当初のアンテナコイル製作

本ラジオ教材は市販の組立キットではなく,個別に部品を集めてハンダづけの必要な部品への事前加工と仕分けを行ったオリジナルキットである.トイレットペーパの芯は(アンテナコイルの巻き数や)同調容量に大きく影響するため,ビルメンテナンス会社に依頼して同一径のものを収集した.テキストは電磁石と電磁誘導の仕組みを用いてアン

テナから放射される電磁波の概念を紹介し,その後放送局とラジオ受信機の簡単な仕組み及び本教材の回路図を示している.製作手順は図 5 に示すように,カラー写真,カラー図版を多用して “step by step”で説明した.特にバリコンとアンテナコイルについては,家庭で壊れても作り直しができるように配慮している.工作に必要な道具(はさみ,液体ノリ,セロハンテー

プ,アルミホイル,ドライバセット,定規)は一人 1セットの割合で準備している.

3 アンケート結果の分析

本工作教室では,参加した児童生徒に対してアンケート調査を毎回実施している.調査項目は学年,居住地,講義の難易度,工作の難易度,工作時間の適度,再度参加の希望及び希望題材,自由記述の 8項目であり,同伴の保護者にも自由記述欄への記入をお願いしている.本節では,6年間にわたって 270名の参加者から回収したアンケート調査結果を分析する.図 6に参加者全体の学年分布を示す.この図からも

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平成22年度 第9回教材開発シンポジウム 5 March, 2011

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図 5 テキストの一節

1年生14.8%

2年生13.3%

3年生16.3%

4年生25.9%

5年生23.0%

5.9%6年生

図 6 参加者の学年分布

明らかなように 4・5年生の関心が最も高く,全体のほぼ半数を占めている.6 年生の参加は極端に少く,残りを低学年がほぼ均等に占めている.6年生の参加が少ない理由としては塾通いや,年齢を長じるにしたがって興味関心が他に移っていることが考えられるが,今後さらに検証することが必要である.なお参加者の抽選は全応募者に対して行なっている.図 7に参加者の居住地分布及び北九州市内各区ごと

の児童数分布 [3]を示す.開催地から離れた門司・小倉北・小倉南・戸畑の各区からの参加者が少なく,その減少分を地元である若松区及び近隣市町村(中間市,直方市,芦屋町,水巻町,遠賀町,岡垣町)からの参加者が補っている構造が明らかとなっている.参加者の募集はWEB,市政だより,チラシ等の媒体を用い

ているが,近くで開催されるということが参加を促す大きな要因であることがわかる.なお市外の中には,下関市,行橋市,福津市から参加した児童も少数ながらいた.講義及び工作の難易度の調査結果をそれぞれ図8及び 9 に示す.講義部分については,理科で電気の初歩を既習した 4年生以上にフィットした内容となっていることがわかる.工作については,保護者の援助があっても低学年には難しく感じられている.4・5年生で難しかったという解答が 4割程度あるのは,スタッフの指導はあっても基本的には自分で製作しているためだと考えられる.ブレッドボードへの部品挿入位置を間違えると回路はもちろん動作しないが,そのようなミスも「難しかった」という回答に関連していると考える.ただし工作時間については図 10に示すように「ちょうど良かった」「長かった(余った)」という回答がほとんどであるので,時間が足りなくて難しく感じるということではないようである.以上のことより,本教材は 4年生以上の学年向きであることが明らかとなった.このような工作教室にまた参加したいか,という問

には 5年生以下ではほとんどが「また参加したい」との意向を示しているが,6年生になるとその傾向は見られない.もともと参加者が少ない傾向にあるのと関連しているのではないかと考えられる.なお回答のあった 270名中,3人の 4年生が「参加したくない」との意思を明確に示している.

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平成22年度 第9回教材開発シンポジウム 5 March, 2011

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小倉北10.4%

小倉南15.6%

若松20.7%

八幡西28.9%

市外10.0%

八幡東7.0%

4.4%戸畑

2.2%門司

(a) 参加者居住地の分布

門司10.1%

小倉北16.1%

小倉南23.8%

若松8.5%

八幡西28.2%

八幡東6.2%

7.0%戸畑

(b) 区別児童数分布

図 7 参加者の居住地分布

1年生

2年生

3年生

4年生

5年生

6年生 ちょうど良かった: 75.0%簡単だった

50.0% 47.2% 2.8

61.4% 29.5% 6.8

39.6%

29.0%

55.7% 5.7

61.3% 9.7

18.8%

15.4 7.7難しかった: 76.9%

図 8 講義の難易度

1年生

2年生

3年生

4年生

5年生

6年生 ちょうど良かった: 68.8%簡単だった

25.0% 5.0

58.3% 36.1% 2.8

63.6% 27.3% 6.8

42.9% 47.1% 8.6

40.3% 45.2% 12.9

12.512.5

難しかった: 67.5%

図 9 工作の難易度

1年生

2年生

3年生

4年生

5年生

6年生 ちょうど良かった: 87.5%

短かった22.5%

22.2%

42.5% 35.0%

47.2% 27.8%

18.2% 47.7% 29.5%

6.3

15.7 54.3% 30.0%

11.3 61.3% 25.8%

長かった

図 10 工作時間の適度

1年生

2年生

3年生

4年生

5年生

6年生

また参加したい: 75.0%

97.2%

84.1%

71.4%

83.9%

56.3% 18.8%

12.9

22.9%

11.4

2.8

12.5

4.3%

わからない

図 11 再参加の意向

4 むすび

本論文では,北九州学術研究都市において開催してきたラジオ工作教室の教材とその実践状況について述べた.本教材はソルダーレスブレッドボードを採用することでハンダづけを排し,製作の容易性を確保したものであるが,実際にはそれでも低学年層には難しく高学年向きの内容・程度だったことが明らかとなった.ラジオ教材についてはひとまず区切りとしたが,来

年度に向けて新たな教材開発とテキストづくりを今後実施する予定である.その際には低学年層にも製作のしやすいものとしたい.この工作教室を最初の年に受けた 6年生が,来年度

は高校 3年の就職・進学期を迎えることとなる.この子供たちが今後どのような進路に進むのかという追跡調査は,これをどのように実施するのかということも含めて今後の課題である.

文献[1] 大規模集積回路設計技術教育プログラム調査専門委員会編,LSI設計教育の現状と課題,電気学会 技術報告,No.1131,Sept. 2008

[2] 武藤浩二,丸田秀一郎,野依一正,柳井田正司,“小中学生向け電子工作教室とそのアンケート・追跡調査分析,” 電気学会論文誌 C, vol.129, no.8, pp.1541–1548,Aug. 2009

[3] 北九州市,“市内小学校 学校・学級・児童・教員・職員数”,学校基本調査 統計諸表(平成 22 年 5 月 1 日現在),http://www.city.kitakyushu.jp/file/79010200/kihonchousa/003.pdf,2011年 2月 4日閲覧

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