瀬戸内国際芸術祭の 成果と未来展望 - 高松大学・高 …...1...

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瀬戸内国際芸術祭の成果と未来展望

四国支部

高松大学経営学部 正岡 利朗

日本計画行政学会第39回全国大会WS

瀬戸内海の未来展望と戦略(観光関連取組)

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2016年11月17日 地域経済情報研究所定例研究会報告用資料

・今大会のテーマが「多様性ある地域のかたち」であること

・瀬戸内海地域を本WSの題材として取り上げること

・紹介する取組について、瀬戸内海の未来展望と戦略との関連に言及すること

・取組は世界的に評価され、発展の可能性を持つべきものであ

ること

・報告時間は15分程度であること

1.与えられた企画の吟味

⇒「多様性は地域に理解されているのか」を含意する

⇒パネリストごとに自支部関連の特色ある取組を紹介する

⇒現在進行中であり、将来も継続する可能性の高いものが望ましい

⇒四国支部としては、「瀬戸内国際芸術祭」が適切であると考えた

⇒同芸術祭について本企画の趣旨に沿った内容を紹介する

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3年に一度、香川県・岡山県の島しょ部を舞台に開催される「現代アート」の祭典で、基本テーマは「海の復権」である。

・「総括報告」によると、2004年に香川県庁の若手職員による政策研究で発案され、2005年に直島福武美術財団が島々を会場とする文化芸術イベントを提唱、2008年に実行委員会が設立され、2010年の第1回開催に至る。

・第1回の総括報告の後、好評により、第2回を2013年に開催することが決定される。同様に第3回も開催が決定され、2016年現在、開催中。

2.瀬戸内国際芸術祭とは?

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舞台となる地域

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©瀬戸内国際芸術祭2016公式HP

第1回目は、直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺、宇野港周辺であったが、第2回目にはこれらに沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島が加わった。第3回も同様。

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第2回で規模が大幅拡大し、基本パターンが完成している(ように見える)。

・第1回は会期を7/19~10/31と集中させていた(105日間)。これが第2回では春(3/20~4/21)、夏(7/20~9/1)、秋(10/5~11/4)と会期を分散(108日間)。第3回も3会期(108日間)。

・会場数は、第1回は9会場であったものが、第2回は14会場に規模拡大、第3会も第2回と同様の14会場。

・参加アーティストと作品数は第1回が18の国と地域、76点、第2回が26の国と地域、207点、第3回が25の国と地域、177点。

3.第1回から第3回までの相違点は?

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来場者数は第1回から当初見込みの30万人を大幅に越えて94万人、第2回は107万、収支は第1回から黒字である。

・第3回の来場者数については、中間報告によると第2回とほぼ同様。各島等に数カ所、計24カ所の基準施設を設け、その合計数を来場者数としてカウントしている。島の人口は、第2回の11島の場合、合計約3万6千人。

・実行委員会の収支状況は、前3年間の合計で見て、第1回が、収入793-支出689=104百万円、第2回が、収入1,175-支出1,015=160百万円。

4.来場者数と収支は?

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女性が約7割程度、30代以下が6割以上を占めており、居住地については、香川県+岡山県在住者が4割以上を占めている。

・第1回、2回とも「来場者アンケート」を実施し、回収数は第1回が11,476、第2回が17,297であった。

・その他の居住地については関東、関西がそれぞれ約2割程度であり、国外在住者は3%以下である(うち台湾が約3割)。

5.来場者の特徴は?

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第2回の場合、経済波及効果が132億円で、それぞれの島では島民同士の結束力が強まり、参加アーティスト等との交流も盛んになされたなどの報告があった。

・経済波及効果は平成17年香川県産業連関表等を用いて推計したもので、前提となる実来場者数を30万人と設定している。

・宿泊、飲食関連業者については約3割程度の、離島航路については約4割程度の利用増加があったようだ。

・島民の結束とアーティスト等との交流については、それぞれの島内で完結しているようだ。

6.開催効果は?

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第3回では「瀬戸内アジア村」などの国際色を打ち出したイベント、盆栽や獅子舞などの地域色を打ち出したイベントとのコラボが見られる。

・その他にも、高松市近郊の庵治半島や屋島に、芸術祭にコラボした作品が設置されている。

・さらに、同芸術祭のパートナーシップ事業として、「かがわ・やまなみ芸術祭」(主催:NPO法人かがわ・ものづくり

学校等)が香川県内の中山間部で開催されている。こちらには「国際」が冠せられていない。

7.同芸術祭を巡る新たな動き

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経済効果もそれなりにあり、それぞれの島の活性化には確実に寄与している。来訪する側には、風景や異文化体験を含めたエコツーリズムになりうる。

・「大地の芸術祭」(2000年~)の成功事例を導入したもので、成算は高かったものと思われる。

・現代アートにのみ(多少)興味のある、あるいは単にイベント好きな来場者であったとしても、瀬戸内の島の現状を垣

間見て、心に残ることがあったのではないか。

・島に恒常的にヒトが訪れる仕組みが確立できれば、新たな田舎ビジネスのチャンスが広がる。

8.同芸術祭についての考察(その1)

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同芸術祭自体は今後しばらくは継続可能なように思えるが、それぞれの島の風景や文化の維持にはよりいっそうの努力が要求される。

・基本的にハコモノを作らず、大量のボランティアに支えられている、金のかからない仕組みであるがゆえ、継続できる。ただし、同種のイベントが全国各地に続々誕生しつつある。

・ボランティア参加者や来場者あるいはアーティストの中には移住等をするヒトが確実に存在する。彼ら抜きには風景や

文化の維持(さらに創造)は困難である。

・海外富裕層やハンディキャッパーにまで対応できるかについては相当困難である。

9.同芸術祭についての考察(その2)

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同芸術祭自体の開催規模は現状程度が適切で、瀬戸内海全体への拡大は想定されていない。代わりに香川県外の13のアートイベントと「広域連携事業」を実施している。

・沿岸部はともかく、島に恒常的にヒトが訪れるようにするには、多様性を商品としたエコツーリズムの振興が必須。

・「島は近くて遠い」という感覚を払拭するためには、宿泊、交通の改善、担い手の確保等が必要。現状では著しく困難。

・今後、連携組織において、これらについての合意が形成され、スポンサーや人材が確保されたとしても、2020年までには...。

10.同芸術祭の瀬戸内海全体の連携への寄与の可能性

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具体的には該当する離島の活性化であるが、イベント実施時だけでなく、常時活性化のための活動が本格化するのはこれからである。

・香川県・岡山県では、2015年の「瀬戸内海環境保全特別措置法」の改正を受けて、瀬戸内海の環境の保全に関する県の計画を変更して「エコツーリズム等の推進」を新たに追加している。これらの動向を受けて、当該地域ではエコツーリズムを導入しやすい機運は高まっている。

・多自然居住地域の果たす役割は重要であるものの、移住がなかなか進まないまま、高齢化が相当進行し、維持自体が困難になりつつある(瀬戸芸効果のある当該地域は他よりまし?)。

追加1.「海の復権」は実現できるか?

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自然・歴史・文化など地域固有の資源を生かした観光のことである。

・近年はインバウンドが注目を集めていることもあり、外的な状況が大きな変化を迎えている。外国人来訪者も、リピートする場合には、新たな地域で新たな体験を求めるということで、近接離島にもスポットが当たりつつある。

・近年の移住希望者はかつてよりも平均年齢が相当低下し、「農的な生活(半農半X)」を志向する若者も少なからず存

在する。農林水産業や生活関連サービス業のみでは条件が不利であり、離島を次世代へ継承させるためには、適切な職業を創造することが肝要である。

追加2.エコツーリズムとは何か

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「行政とNPO等が連携し、補助金を活用して単発的にイベントを実施する、しかも、自然環境が対象の中心」と表現できる。

・現在、いくつかの近接離島に関わるNPO等でエコツーリズムをよくこなしうる人材の育成が「目的」として掲げられているものの、実際の「活動実績」はあまり見受けられない。

・地域に存在する歴史文化(及びそれらをもとにした景観や生活様式)をよく認識し、商品として価値を整備し、これを

(スモール)ビジネスとして提供する近接離島内の事業者はほとんど存在しない。これらのことより、現状に疑問を呈さざるを得ない。

追加3.近接離島におけるエコツーリズムの現状

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地域創業支援事業計画をはじめとして、推進施策のあり方にも問題がある。

・地域創業支援事業計画とは、近年、起業をさかんに奨励している経済産業省による補助施策として、各地方における各種の創業を支援する市町村の計画である。当方は、その計画を審査する「認定評価委員会」の四国地域委員長を務めているが、そこにおいて目を通す(多自然居住地域を包含する)各市町村の充実した各種創業支援メニュー(創業スクールなど)にも、現在、エコツーリズムを視野に入れたものは見受

けられない。このようなことから、エコツーリズムを推進する施策は不十分であると言わざるを得ず、何らかのチャレンジが望まれる。

追加4.エコツーリズム推進施策の問題

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終了

ご静聴ありがとうございました

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