論 文】 ラオスの初等教育問題と日本の国際協力 · はじめに...

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はじめに ラ オ ス 人 民 民 主 共 和 国(Lao People’ s Democratic Republic)はビエンチャンを首都 とする人口約689万人(2014年)の国である。 近年は高い経済成長(2014年7.5%)を遂げ ているが,2014年のラオスの実質GNI は約 117.7億ドル,1人当たり名目GNI は1,600ド ルであり,ASEAN諸国の中でも未だに後発 発展途上国である。所得水準が1.25ドル未 満の貧困層の人々は,約150万人(2012年) もおり,国民の23.2%を占める 1) ラオスは,国土の多くが山岳地域で占めら れ,民族的言語的にも多様な国家である。 2005年の国勢調査では49の民族集団が確認 されている 2) 。これらの民族集団は4つの民 族系統と6つの言語系統に分類される。ラオ ス語を生活言語とする①タイ・カダイ系が全 人口の66.2%を占める。それ以外の少数民 族は,②オーストロ・アジア系が22.9%, ③モン・ヤオ系が7.4%,④シナ・チベット 系が2.7%であり,それぞれ独自の言語や文 化を持っている。このような民族的言語的多 様性が初等教育にも影響している。 民族集団はつぎのような特徴を持ってい る。①タイ・カダイ系はラオスの多数派民族 である。ラオス語(ラオ・プータイ語)を話 し,仏教徒が多く,ラオスの政治文化を担っ てきた。メコン川沿いの丘や低地に居住す る。②オーストロ・アジア系はラオスの先住 民であり,山腹に住み,稲作を行っている。 言語系統はモン・クメール語とヴィエット・ ムアン語に分かれる。③モン・ヤオ系(モ ン・ヤオ語)は約200年前に中国南部から移 住してきた。山岳地域に住み,焼き畑農業や ケシ栽培を行っている。④シナ・チベット系 (チベット・ビルマ語とホー・ハン語)は中 国との国境近くの山岳地域に住む。他の民族 集団との接触をほとんど持たず,独自の言語 や文化を持っている 3) 【論 文】 ラオスの初等教育問題と日本の国際協力 馨* はじめに 1.ラオスにおける初等教育の現状と問題 1-1 ラオスの初等教育の現状 1-2 ラオスの初等教育の問題 2.ラオスに対する日本の国際協力 2-1 ODAによる初等教育支援 2-2 NGOによる初等教育支援 むすび * 神戸大学大学院経済学研究科教授 1)ラオスの経済指標については,World Bank (2015)。 2)外務省(2009)『ラオス教育分野の評価報告書』。 3)乾(2004), 60-64頁。 35 Agora: Journal of International Center for Regional Studies, No.13, 2016

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Page 1: 論 文】 ラオスの初等教育問題と日本の国際協力 · はじめに ラオス人民民主共和国(Lao People’s Democratic Republic)はビエンチャンを首都

はじめに

ラオス人民民主共和国(Lao People’ s

Democratic Republic)はビエンチャンを首都とする人口約689万人(2014年)の国である。近年は高い経済成長(2014年7.5%)を遂げているが,2014年のラオスの実質GNIは約117.7億ドル,1人当たり名目GNIは1,600ドルであり,ASEAN諸国の中でも未だに後発発展途上国である。所得水準が1.25ドル未満の貧困層の人々は,約150万人(2012年)もおり,国民の23.2%を占める1)。ラオスは,国土の多くが山岳地域で占めら

れ,民族的言語的にも多様な国家である。2005年の国勢調査では49の民族集団が確認されている2)。これらの民族集団は4つの民族系統と6つの言語系統に分類される。ラオス語を生活言語とする①タイ・カダイ系が全人口の66.2%を占める。それ以外の少数民族は,②オーストロ・アジア系が22.9%,③モン・ヤオ系が7.4%,④シナ・チベット系が2.7%であり,それぞれ独自の言語や文

化を持っている。このような民族的言語的多様性が初等教育にも影響している。民族集団はつぎのような特徴を持ってい

る。①タイ・カダイ系はラオスの多数派民族である。ラオス語(ラオ・プータイ語)を話し,仏教徒が多く,ラオスの政治文化を担ってきた。メコン川沿いの丘や低地に居住する。②オーストロ・アジア系はラオスの先住民であり,山腹に住み,稲作を行っている。言語系統はモン・クメール語とヴィエット・ムアン語に分かれる。③モン・ヤオ系(モン・ヤオ語)は約200年前に中国南部から移住してきた。山岳地域に住み,焼き畑農業やケシ栽培を行っている。④シナ・チベット系(チベット・ビルマ語とホー・ハン語)は中国との国境近くの山岳地域に住む。他の民族集団との接触をほとんど持たず,独自の言語や文化を持っている3)。

【論 文】

ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

石 黒 馨*

はじめに1.ラオスにおける初等教育の現状と問題1-1 ラオスの初等教育の現状1-2 ラオスの初等教育の問題

2.ラオスに対する日本の国際協力2-1 ODAによる初等教育支援2-2 NGOによる初等教育支援むすび

* 神戸大学大学院経済学研究科教授1)ラオスの経済指標については,World Bank (2015)。2)外務省(2009)『ラオス教育分野の評価 報告書』。3)乾(2004), 60-64頁。

35Agora: Journal of International Center for Regional Studies, No.13, 2016

Page 2: 論 文】 ラオスの初等教育問題と日本の国際協力 · はじめに ラオス人民民主共和国(Lao People’s Democratic Republic)はビエンチャンを首都

図1 ラオスの少数民族居住地域

図2 地域別の少数民族居住比率

注)濃い部分は少数民族居住比率が60%以上の地域を表す。出所)本稿の統計付録をもとに筆者作成。

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

注)1~17の番号は図1の番号と対応し,本稿の統計付論の都県名を表す。1はビエンチャン都,2~9が北部,10~13が中部,14~17が南部。

出所)本稿の統計付録をもとに作成。

36 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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ラオスは北部をミャンマーと中国,南部をカンボジア,東部をベトナム,西部をタイと接する内陸国家である。図1と図2は地域別の少数民族居住比率を表す。ラオス北部(2ポンサリー・3ルアンナタム・4ウドムサイ・5ボケオ・7ファバン・9シェンクアン)や南部(14サラワン・15セコン・17アッタプー)は少数民族の居住比率が高い。チャンパサック県を含む南部4県は,少数民族が居住する貧しい山岳地域であり,ベトナム・カンボジアと国境を接し,「CLV(カンボジア・ラオス・ベトナム)開発の三角地域」4)の一角を占めている。本稿の目的は,ラオスにおける初等教育の

現状と問題を明らかにし,ラオスに対する日本の初等教育分野の国際協力について検討することである。特に初等教育の現状と問題については,地域的民族的な多様性という点に注目し,ラオスにおける初等教育の問題が地域的な貧困や民族格差と関係していることを検討する。以下,本稿はつぎのように構成される。第

1節では,ラオスの初等教育の現状と問題について検討する。1-1では,ラオスの初等教育の現状について,①識字率,②就学率,③最終学年まで到達する割合,④留年率と中退

率という点から検討する。1-2では,ラオスの初等教育の問題について,①学校施設の問題,②教員の問題,③カリキュラムの問題,④教科書の問題,⑤家庭の問題という5つの問題を明らかにする。第2節では,ラオスに対する日本の国際協力について検討する。2-1では,ODAによる初等教育支援について検討し,2-2では,NGOによる初等教育支援について検討する。

1.ラオスにおける初等教育の現状と問題

1-1 ラオスの初等教育の現状

ラオスの教育制度は,①就学前教育,②一般教育,③技術・職業訓練,④高等教育の4つに分けられる。①就学前教育には保育所や幼稚園が含まれる。②一般教育は,小学校にあたる初等教育5年(1~5年生),中学校にあたる前期中等教育4年(6~9年生),高等学校にあたる後期中等教育3年(10~12年生)からなる。③技術・職業訓練や④大学に相当する高等教育は分野・学問領域などによりその修学期間は様々である。6歳以上の国民にとって5年間の初等教育は義務教育であり,公立校は教育段階に関わらず無償である5)。

写真1 ラオス北部ウドムサイの少数民族カムの女性

出所)2015年2月、前西靖啓氏撮影。

4)2004年のASEAN首脳会議で日本政府が提示した開発構想。5)外務省「諸外国・地域の学校事情 ラオス人民民主共和国」。

37石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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ラオス政府は,2000年に国連ミレニアム開発目標(MDGs)にあわせ「教育戦略構想(2010-2020)」を提示し,貧困の根本的解決に向けて基礎教育の普及を政策の優先事項と位置づけた。2004年には,「万人のための教育国家行動計画(EFA-NPA)」を発表し,2015年までの初等教育の完全達成に向けた基礎教育分野への国家政策と行動のための戦略的枠組みを提示した6)。さらに,2006年に「第6次教育開発5カ年

計画」(the Sixth Five Year Plan of Educational

Development 2006-2010)を策成し,初等教育に関する以下のような達成目標を定めた7)。①初等教育の総入学率を2015年までに98%にする。②初等教育の純入学率を2015年までに98%にする。③初等教育の残存率を2015年までに95%にする。④初等教育の進学率を2015年までに98%にする。⑤生徒1人当たりの教科書保有率を2015年までに各教科1冊にする。⑥学校給食プログラムを39郡に拡大する。⑦トイレと水供給源を保有する小学校の数を50%にする。ラオスにおける初等教育の現状をMDGsの

指標をもとに検討しよう。MDGsの初等教育に関する項目は「普遍的な初等教育の達成」である。そこでは,①青年(15歳~24歳)の識字率,②純就学率,③最終学年まで残る率という3つの指標を用いている。ここでは,初等教育の留年率や中退率にも注意しながら,ラオスの初等教育の現状を見ていこう。

1)識字率ラオスの青年の識字率(15-24歳の総人口

に対する推定識字者の割合)は89%であり,カンボジア(88%)とほぼ同じであり,ASEAN先進国のベトナム(97%)やインドネシア(99%)だけではなく,ミャンマー

(96%)よりも低い。図3の識字率は,『世界子供白書』で確認できた2013年までの直近のデータであり,この間識字率の改善が見られない。女子の識字率は79%と,男子よりも10ポイントも低い。このような男女格差の背景には,女子教育を軽視するラオスの伝統的な慣習がある。女子は家事の重要な労働力であり,就学よりも家庭を持つ準備をする方が重要と見なされている8)。図4は民族系統別・男女別の識字率の相違

を表す9)。多数派のタイ・カダイ系の識字率は男性が80%以上,女性が60%くらいである。少数民族系統のシナ・チベットは男性が20%,女性は5%以下である。この数字はアジア開発銀行が2000年に公表したものであり,現在の識字率はもっと高いと思われる。ここで重要なのは,ラオスでは民族系統別・

6)外務省(2009)『ラオス教育分野の評価 報告書』。7)津曲(2012), 21頁。8)乾(2004), 99頁。9)乾(2004), 75頁。

図3 15-24歳の識字率の推移

図4 民族系統別の識字率

85

89 89 89 89 89

80 79 79 79 79 79

75

80

85

90

95

100

2008 2009 2010 2011 2012 2013

注)『世界子供白書』各年版で指定されている期間内に利用できる直近年次のデータ。

出所)UNICEF『世界子供白書』各年版より作成。

0

2040

60

80100

出所)乾(2004),75頁をもとに作成。

38 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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男女別に識字率に大きな相違があるという点である。ラオス政府はラオス語を普及するためにノンフォーマル教育の中で識字教育を進めてきたが,山岳地域の少数民族にまでその効果が及んでいない。

2)純就学率図5はラオスの初等教育の純就学率を表す。

この数字は,UNICEF『世界子供白書』各年版で確認できたデータである。MDGsでは「2015年までに初等教育の完全普及」を目指している。この図からわかるように,ラオスの初等教育の純就学率は,ここ数年で上昇し男女共に95%以上になっている。ただし,女子の就学率は以前から男子の就学率よりも低いことがわかる。児童の就学を阻害する要因には,①学校へ

の物理的・心理的距離(アクセスの困難さ),②就学の費用,③子供への労働力としての期待などがある10)。山岳地域の農村では,通学可能な範囲に学校がない場合も多い。このような地域では,安全な通学路の確保のためにある程度年齢が上がってから親が入学させることもある。また学校があったとしても不完全校が多く,学年が上がると,就学率が低下する。少数民族の場合には,授業言語が生活言語

と異なることが就学を阻害する場合がある。

また初等教育は授業料や入学金などは無償であるが,通学費・制服代・教科書や文房具代などの費用が必要になる。貧困家庭にとってはこのような就学費用は負担になる。さらに貧困な家庭の場合には,子供は家計の重要な労働力となり,親が子供の就学を喜ばない場合もある。就学率については,男女間の格差だけでは

なく,地域格差や民族格差がある。北部のファバン県のような山岳地域では純就学率が低い。また少数民族の多い南部のセコン県やアッタプー県も純就学率が低い。このような就学率の地域格差や民族格差の背景には地域間の貧困格差がある。図6を見ると,純就学率と非貧困率(=非

貧困村/総村数)の動きに相関が見られる。豊かな地域は純就学率が高く,貧しい地域は純就学率が低い。相関係数を計算すると,純就学率と非貧困率の相関係数は0.43でかなり高い。純就学率の地域的な相違は,地域間の貧困格差と相関が強いのである。本稿の統計付録をみると,純就学率は,地域における小学校の充足率(=小学校数/総村数)と相関が強いようにみえるが,純就学率と小学校充足率の相関係数は0.09と小さい。

3)最終学年まで到達する割合(残存率)図7はラオスにおける初等教育の最終学年

まで残る率を表す。2013年の調査データで10)津曲(2012), 23頁。

図5 ラオスの初等教育の純就学率の推移

8684 84

98 98 97

81 81 81

95 96 95

75

80

85

90

95

100

2008 2009 2010 2011 2012 2013

注)『世界子供白書』各年版の指定期間内で利用できる直近年次のデータ。

出所)UNICEF『世界子供白書』各年版より作成。

図6 純就学率と非貧困率の関係

99.287.8 90.1

95 94.3 97.590.6

98.6 97.6 94.7 95.3 92.687.6

94.2 93.197.8

89.9

0

20

40

60

80

100

120

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

注)非貧困率=非貧困村/総村数出所)本稿の統計付録をもとに作成。

39石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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はこの値は70%である。2008年の62%と比較すると,8ポイント上昇している。しかし,カンボジアの61%よりも高いが,ミャンマーの75%,インドネシアの88%,ベトナムの94%と比べると低い。2010年の世界平均(調査データ)は91%である。2011年のデータでは,純入学率は男女平均97%である。しかし,最終学年まで残る率は70%である。つまり約3割の児童が途中で辞めてしまうことになる。

4)留年率と中退率入学者のうち最終学年まで残るのは

2010/11年は68.7%しかいない。多くの児童が初等教育の途中で留年したり中退したりする。図8のように,児童の留年率も退学率も共に学年が低いほど高い。2010/11年に1年生は4人に1人が留年している。児童の留年や中退の理由のひとつは,ラオス語を母語としない少数民族の子どもがラオス語の授業についていけなくなることである。また家庭の貧困により,児童が家計の労働力として期待され,親が子供を学校に行かせない場合もある。図9を見ると,初等教育の留年中退率(=

留年率+中退率)は,地域における貧困率よりも小学校の充足率と相関が強い。相関係数をみると,留年中退率と小学校不足率は0.42,留年中退率と貧困率は0.28である。

先のように初等教育の純就学率の地域的な相違は,地域の貧困格差と相関が強いが,留年中退率は小学校の不足率と相関が強い。児童が小学校に就学する際には家庭の貧困が問題になる。しかし,就学した児童が留年や中退をしないためには,小学校の充足率が重要であり,学校へのアクセスや完全校の拡充が重要になる。不完全校に入学した児童が小学校を修了するには転校しなければならい。転校の際には通学距離や時間がかかるので,転校を期に児童が中退する可能性が大きい。図10は,児童の留年中退率と少数民族居

住地域率との関係をみたものである。この図から分かるように少数民族の居住比率が高い地域で,留年中退率が高いことが分かる。少数民族の場合には授業言語が生活言語と異なり,ラオス語の学習自体が進まず,就学を阻害することになる。

図7 ラオスの初等教育の最終学年まで残る率

62

67 6765

6870

50

55

60

65

70

75

80

2008 2009 2010 2011 2012 2013

注)2009年度のデータは調査データ,その他の年は政府データ。『世界子供白書』各年版の指定期間内で利用できる直近年次のデータ。

出所)UNICEF 『世界子供白書』各年版より作成。

図8 児童の学年別留年率と中退率

図9 留年中退率と小学校不足率

25.7

11.5

7.34.1

1.6

12.4

6 6.6 5.9 5.4

0

5

10

15

20

25

30

1 2 3 4 5

出所)津曲(2012), 22-24頁を参考に作成。

11.2

47.1

34.6

42.736.6 36.8

44.3

2629.9

26.4 26.1

44.6 4548

56.4

24.7

52.2

-10

0

10

20

30

40

50

60

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

注)留年中退率=留年率+中退率。小学校不足率=100×(村数-小学校数)/村数

出所)本稿の統計付録をもとに作成。

40 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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1-2 ラオスの初等教育の問題

ラオスの初等教育の現状は厳しいものがある。その背景には以下のような問題が考えられる。①学校設備の問題,②教員の問題,③カリキュラムの問題,④教科書の問題,⑤家庭の問題。以下ではこれらの問題について検討しよう。

1)学校施設の問題学校施設の問題とは,学校数や教室数の不

足や校舎の老朽化のことである。学校施設が近くに十分にないと,児童は学校に通うことができない(交通アクセスの問題)。また学校や教室が不足し,不完全校が多くなると,児童の退学が増え,最終学年まで到達する割合も低くなる。学校や教室の不足は二部制や複式学級の原因にもなる。表1はラオスの小学校数の推移を表してい

る。小学校数は,2010年をピークに減少した。1校あたりの児童数は,102人(2009年)から99人(2012年)に総児童数の減少のために改善されている。小学校については不完全校が多いことも問題である。2010年の8,968校のうち約43%の3,856校が不完全学校である。不完全学校とは,義務教育の5年間を提供できない学校である。不完全校の場合,児童は学年が上がると転校を余儀なくされる。ラオス政府は,一つの村に一つの小学校を

作るという「一村一校」を目標としている。2004年時点で,ラオス全国に10,574の村があるが,小学校数は8,486である。ここで,小学校充足率=100×小学校数/総村数とすると,充足率は80.1%である。1つの村に複数の小学校がある場合もあるので,実際には充足率はさらに低くなる。小学校の問題には交通アクセスの問題や老

朽化の問題もある。シャンティ国際ボランティア会へのヒアリング調査によると,地方の山岳地域では,雨期になると通学路が遮断され学校まで行けない子どもも多い11)。また校舎の老朽化による雨漏りのために,雨期には学校が休校になることもある。2013年9月に訪問したビエンチャン都のバ

ンタム小学校についてみてみよう(写真2)。この小学校はラオスでは比較的恵まれてい

図10 留年中退率と少数民族居住比率

0102030405060708090

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

出所)本稿の統計付録をもとに作成。

表1 初等教育における学校数・教員数・児童数の推移

小学校数 教員数 児童数 児童数/学校数

児童数/教員数

教員数/学校数

2009年 8,871 29,000 909,000 102 31 3.3

2010年 8,968 32,000 916,000 102 29 3.6

2011年 8,902 33,576 900,123 101 27 3.8

2012年 8,912 34,453 883,938 99 26 3.9注)小学校数は完全校と不完全校の合計。出所)Lao Statistics Bureau, General Educationより作成。

11)神戸大学石黒馨研究会(2013)「シャンティ国際ボランティア会ヒアリング報告書」9月6日。

41石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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る。全校生徒127人(男子55人,女子72人),全教師5人(男性2人,女性3人)。学年ごとに1クラス(1年36人,2年24人,3年25人,4年28人,5年24人)あり,各学年に1人の担任がいる。教員は高卒で,教員研修を1年間受けている。教員の給料は月280~290ドル(公務員の給料は月200ドル)であり,副業をしている教員はいない。午前8時から午後4時までの全日制で授業

をおこなう。授業はラオス語で行われ,少数民族の子供はほとんどいない。卒業後はほぼ全員が中学に進学する。2012年度の留年は各学年1~2人で,中退者は全員で6人である。日本のNGOからの支援は,1997年にBAC仏教救済センターから5,600万kipの支援を受け,教室・トイレ・井戸が作られた。現在,民際センターから児童が奨学金を得ている。

2)教員の問題教員の問題には,①教員の不足と②教員の

質の問題がある。優秀な教員が十分にいないので,子供たちは十分な教育を受けることができない。その結果,子供たちは留年したり退学したりすることになる。

①教員の不足ラオスでは小学校の教員の数が不足してい

る。教員の数が足りないと,教員1人当たりの児童数が増え,児童は十分な教育を受けることが出来なくなる。また,教員の不足は,学校数の不足の問題とともに,不完全校や二部制の原因となっている。教員の数が特に不足しているのは地方であ

る。地方の小学校教員が不足している理由は,シャンティ国際ボランティア会によれば,教師になりたい人達がビエンチャン都などの都市部の職場を希望するために,地方の教員が足りなくなるからである12)。また,地方の少数民族の出身者は教師のような公務員になりにくいという問題もある。表1からもわかるように,小学校1校あた

り教員数は2009年の3.3人から2012年の3.9人に改善されているが,各学年に1人の教員がいないという状態である。また,教員1人あたり児童数も2009年の31人から2012年の26人へと改善されているが,これは教員数の増加もあるが,児童数が減少しているからでもある。

②教員の質小学校教員の能力不足が初等教育における

写真2 校舎の様子

注)バンタム小学校の校舎は平屋建て5教室,教室に電灯はなく,窓や扉は木製。出所)2013年9月,筆者撮影。

12)神戸大学石黒馨研究会(2013)「シャンティ国際ボランティア会ヒアリング報告書」9月6日。

42 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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児童の留年や中退の原因のひとつとして指摘されている13)。ラオスで教員の質を測る指標として,「教員資格」がある。有資格教員は,2000/01 年 に は 77% で あ っ た が,2005/06年には97%にまで上昇した。この背景には,UNICEFなどの支援による教員研修の実施がある。ただし,教員研修によって有資格者は増えたが,数週間の研修では教授法まで向上させることは難しい。ラオスの教員は学歴が短く,教科教育法を

十分に学んでいない。教員の学歴をみると,小学校卒業という者も多い。特に無資格教員の場合,7.5%(1998年)が小学校を卒業していない。無資格教員の最終学歴は,小学校卒業が35.5%,中学校卒業が43.9%,高校卒業が13.2%である14)。このような傾向は地方の教員ほど顕著で,この結果,無資格教員の比率を高めることになる。小学校教員の多くは少数民族に対する教育

法を学んでいない。多くがラオス語を母語とするタイ・カダイ系統(80%以上)であり,少数民族の言語を十分に理解していない15)。少数民族出身の教員は少ない。地方に赴任す

る教員も,少数民族の日常言語や慣習をよく理解していないので,子供たちと十分なコミュニケーションがとれない。少数民族の子供たちにとって,このような教育環境は授業への関心や理解度に影響する。優秀な小学校教員が集まらないのは教員の

待遇が良くないからである。教員の給料は安く,多くの教員は生活のために副業をしている。学校の隅の売店で子供たちにお菓子や食事を提供する教員もいる(写真3)。副業のために,授業の準備が疎かになる。教員の勤務時間は短く,放課後に学校で残業をすることもない。放課後や週末はいろいろな仕事に従事し,生活費を稼いでいる。地方では,農業を兼業する者も多く,農繁期には学校に行かない教員もいる16)。

3)カリキュラムの問題現在の初等教育のカリキュラムと教科書

は,2005年に開始されたEDPⅡの下で改訂されたものである17)。この新しいカリキュラムでは,3年生から英語の授業が導入された。1授業時間が50分から45分に短縮された。1

13)津曲(2012), 25頁。14)乾(2004), 77頁。15)乾(2004), 76頁。16)乾(2004), 41頁。17)津曲(2012), 26頁。

写真3 小学校の売店と休み時間の様子

出所)2013年9月,バンタム小学校,筆者撮影。

43石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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学年は33週間,年間授業回数は,1~2年生の場合,25×33=825回(618時間45分),3~5年生の場合には25×33=858回(643時間30分)となる。しかし,教室や教員の不足から午前と午後の二部制が行われるような場合も多く,このような場合には授業時間数は半分になる。ラオス政府は,世界銀行の支援を受けなが

ら 3年に 1回 ASLO(Assessment of Learning

Outcomes)を実施し,児童の学力を評価している。この学力評価は,サンプル郡の5年生を対象としてラオス語,算数,身の回りの世界の3科目で行われる。各科目とも,①レベル1(前期中等教育での学習が可能),②レベル2(社会の一員として生活可能),③レベル3(社会の一員としての機能を十分に果たせない)の3つのレベルに評価される。2009年の学力試験(433校6,188人対象)の

結果は以下の通りである。表3から特に,算数の学力に問題があるこ

とが分かる。この結果によれば,算数に関しては70%以上の児童がラオスの社会の一員としての役割を果たせない。また中等教育へ進学可能な児童が1%未満である。ラオス語についても,中等教育へ進学可能な児童が20%未満であり,国語教育の問題も明らかである。ラオス語については,女子は男子より総じて成績がよく,独自の生活言語を持つ少数民族については総じて成績が良くない。カリキュラムの問題のひとつは授業言語が

ラオス語に単一化されていることである。ラオス政府は少数民族の権利を憲法上は保障しているが,教育政策やカリキュラム編成にまで十分に及んでいない。少数民族の子供は,小学校入学時に初めてラオス語に接する。先生の言葉が理解できず,授業について行けな

表2 初等教育の1週間の科目別授業数

表3 ASLOの学力結果(2009年,%)

授業回数

科 目 1年 2年 3年 4年 5年

国 語 12 10 8 6 6

算 数 3 4 5 6 6

英 語 0 0 2 2 2

そ の 他 10 11 10 12 12

週 合 計 25 25 26 26 26

年 合 計 825 825 858 858 858

出所)津曲(2012), 26頁。

レベル ラオス語 算数 身の回りの世界

1(進学可能) 19.13 0.16 43.34

2(社会生活可能) 77.55 27.08 44.22

3(社会生活不可) 2.48 72.77 12.1注)数字は引用文献のママ。合計は100%にはならない。出所)津曲(2012), 27頁。

44 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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くなり,留年したり退学したりする。少数民族のなかには,ラオス語よりもむしろ雇用や収入につながる英語に関心を持っているものもいる18)。

4)教科書の問題教科書の問題は,①教科書の不足と②教科

書の内容や質が悪いことである。教科書の不足は,児童の授業への関心を低下させ,授業の理解不足をもたらし,さらに児童の出席率の低下につながる19)。教科書問題の解決は,留年率や中退率および最終学年まで残る率を改善することになる。シャンティ国際ボランティア会によると,

ラオスでは,教科書は政府が印刷し配布することになっている。しかし,政府の配布する教科書の数が足りなく,複数の児童で教科書を共有している。同会がルアンパパーン県ヴィエンカムイ郡で行った聞き取り調査では,児童4人に1冊の教科書しかなかった20)。2013年9月に筆者らが調査を行ったビエンチャン都のバンタム小学校でも,鉛筆やノートは持っていても,教科書がなく,何人かで共有していた(写真4)21)。

少数民族の子供たちにとって問題は教科書がラオス語で書かれ,内容がかれらの社会生活や慣習とかけ離れていることである。授業言語が日常言語と異なることは,国語以外の教科の学習にも大きな影響を及ぼす。また教科書の内容が多数派のタイ・カダイ系の生活を想定して書かれているので,少数民族の児童にとっては教材に興味が持てない。

5)家庭の問題児童の家庭には,①家庭の貧困と②親の理

解不足や慣習という問題がある。ラオスの義務教育は無償であるが,実際には洋服代・文房具代などの費用がかかる。貧しい家庭では,子供は家事の労働力として期待される。また地方では,教育を受けてもそれを活かせるような雇用機会が限られている。親が教育を受けていない場合には,子供の教育の重要性が分からない。これは民族的な慣習とも関係している。例えば,モンの女性は若くして結婚・出産する。このような慣習が女性の教育の重要性の理解の障害になっている。表4はラオスの貧困状況を示している。ラ

オスの絶対的貧困者比率(1日1.25ドル以下

写真4 授業風景

出所)2013年9月、バンタム小学校、筆者撮影。

18)乾(2004), 160頁。19)神戸大学石黒馨研究会(2013)「シャンティ国際ボランティア会ヒアリング報告書」9月6日。20)神戸大学石黒馨研究会(2013)「シャンティ国際ボランティア会ヒアリング報告書」9月6日。21)神戸大学石黒馨研究会(2013)「バンタム小学校ヒアリング報告書」9月5日。

45石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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の所得層の割合)は減少傾向にあるものの,2007/08年で依然として27.6%である。2008年の発展途上国(中国を除く)の平均貧困率が25%であるが,ラオスの貧困率はこれよりも高い水準にある。単純計算では,小学校の児童900,123人のうち約248,434人が貧困層に属することになる。図11は,ラオスの地域別の貧困率と少数

民族居住比率との関係を表す。少数民族の多い地域は貧困率(=貧困村数/総村数)も高い傾向がある。両者の相関係数は0.52である。貧困地域は純就学率も低い傾向がある。ということは,少数民族が多い地域では,純就学率も低くなる傾向があるということである。

図11 貧困率と少数民族居住比率

2.ラオスに対する日本の国際協力

ラオスに対する初等教育分野の日本の国際協力について検討しよう。特に,ODAやNGOによる支援を具体的に検討する。日本のODA支援事業は約4割(2002-11年)が教育関係である。またODAと連携するNGOの活動は学校施設や教育プログラムに関する事業を行っている。これに対して,ODAと連携しないNGOは,家庭支援の事業も行っている。

2-1 ODAによる初等教育支援

1)日本の対ラオスODAの概要22)

ラオスに対する経済協力は,1958年10月に行われた「日本国とラオスとの間の経済及び技術協力協定」の署名に始まった。1991年以降,日本は,ラオスに対する二国間援助では第一位の援助国である。支援実績:1958年の支援開始から,2011

年度までの支援累計額は,①円借款が231.0億円,②無償資金協力が1,353.5億円,③技術協力が574.7億円である。2011年度だけで見ると計126.8億円であり,①円借款41.7億円(33%),②無償資金協力41.8億円(33%),③技術協力43.3億円(34%)である。支援内容は形態別にみると,以下のように

なる。①円借款は,電力・運輸分野を中心としたインフラ整備や財政支援からなる。②無

表4 ラオスの貧困状況

貧困指数 1992/93年 1997/98年 2002/03年 2007/08年 2012/13年

絶対貧困者比率% 46 39.1 33.5 27.6 22.3

絶対貧困人口 2,054,020 1,987,060 1,849,444 1,656,105 1,500,000

総人口 4,468,830 5,087,012 5,519,368 6,000,379 6,770,000

注)貧困指標は2008年に世界銀行によって定義。出所)Lao Statistics Bureau, “Poverty in Lao PDF 2008, = .Poverty Trends."

0102030405060708090

100

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

出所)本稿の統計付録をもとに作成。

22)外務省「国別データブック2012 ラオス」。

46 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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償資金協力は,主に運輸部門を中心とするインフラ整備,教育・保健等の社会開発,農業・農村開発等の支援を行ってきた。③技術協力は,人材育成,社会基盤整備,農業・農村開発,保健医療,教育分野を中心として協

力を実施してきた。図12は2002年度から2011年度までのODA

の推移である。この10年間の有償資金協力と無償資金協力の合計は215件で,総額約429.8億円である。図13は,この10年間の日本のラオスへのODAの分野別の割合を示す。分野別では,教育研究が37%と一番大きい割合を占めている。支援の特徴:日本のラオスへのODAには,

つぎのような特徴がある。第1に,ラオスへの2国間援助では,日本は第1位の援助国である。第2に,ODAの中では贈与の割合が大きい。ラオスは現在も後発発展途上国であり,円借款の割合は多くはない。ただしここ数年,円借款も増え始めている。第3に,運輸インフラや衛生設備整備などのインフラ整備支援よりも,教育という人道的支援が件数的にも支援額的にも多い。支援方針:表5は,ラオスに対する日本の

ODAの支援方針について,援助の基本方針(大目標),重点分野(中目標),開発課題(小目標)に分けて表したものである。支援における留意点:日本のODAによる

支援には,ラオスの国情を考慮し3つの留意

図12 ラオスへの日本のODAの推移

図13 ラオスへのODAの分野別割合

-20

0

20

40

60

80

100

120

140

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

注)支出額ベース、単位は100万ドル。出所)外務省『政府開発援助(ODA)白書』各年度より

作成。

15%

37%

13%

5%

16% 14%

0%5%

10%15%20%25%30%35%40%

出所)外務省「ラオス 約束状況」各年度より作成。

表5 日本のODAの基本方針

基本方針(大目標) 重点分野(中目標) 開発課題(小目標)

MDGs達成およびLDCからの脱却

①経済・社会インフラ整備

1. 交通・運輸網の整備

2. 電力供給の拡大

3. 投資・輸出促進の環境整備

4. 環境調和型社会の実現

②農業の発展と森林の保全5. 農水産業の生産性向上

6. 森林資源の持続的活用

③教育環境の整備と人材育成7. 基礎教育の充実

8. 高等・技術教育の拡充

④保健医療サービスの改善 9. 保健システムの強化出所)外務省(2012a)「対ラオス人民民主共和国 国別援助方針」より作成。

47石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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事項がある23)。第1に,開発促進や援助効果向上のために,行財政能力の強化や法制度の整備などのガバナンス面の強化に留意する。第2に,「グリーン・メコンに向けた10 年」イニシアチブに関する行動計画に基づき,①環境と経済成長の両立,②持続可能な開発,③気候変動対策などに留意する。第3に,ラオス全土に残存する不発弾が農地やインフラ用地の拡大を妨げ,社会経済発展の障害となっているので,セクター横断的な問題として,同国の不発弾処理の必要性に留意する。

2)ODAのラオス教育支援

① ラオス教育支援の実績図14は,日本のラオスに対する初等教育

支援の分野別実績を示す。2002年度~2011年度の10年間における初等教育分野への日本のODAは全部で53件である。それらは,①学校施設36件(68%),②教育プログラム16件(30%),③家庭支援1件(2%)に分けられる。ここで,①学校施設には,校舎の建設・修繕や机・椅子などの備品の供与が含まれる。②教育プログラムは教員養成プログラ

ムや図書の普及である。③家庭支援は児童への奨学金である。ラオスへの初等教育支援をODAの援助形

態別に見ていこう。初等教育分野の支援は,無償資金協力と技術協力である。無償資金協力はNGOが係わる場合も多く,さらに①-1日本NGO連携無償資金協力,①-2草の根技術協力(A. 草の根協力支援型,B. 草の根パートナーシップ型,C. 地域提案型),①-3草の根・人間の安全保障無償,①-4日本NGO事業補助金などに分けることができる。

①-1 日本NGO連携無償資金協力24)

日本NGO連携無償資金協力は,日本のNGOが開発途上国・地域で行う経済社会開発事業に外務省が資金援助を行う制度である。この制度を利用できるNGOは,特定非営利活動法人または公益法人として登記されている日本のNGOであり,任意団体の期間も含め団体として2年以上の国際協力の活動実績があるものである。このスキームによる初等教育支援はこの間12件である(表6参照)。そのうち6件が図書推進,4件が学校支援,2件が教育行政に関わるものである。

①-2 草の根技術協力25)

草の根技術協力は,国際協力の意志を持つ日本のNGO・大学・地方自治体・公益法人などが,開発途上国の地域住民の生活改善や生計向上に直接役立つ分野を対象に,JICA

のODAの一環として支援を実施するものである。この草の根技術協力は,A)草の根協力支援型,B)草の根パートナーシップ型,C)地域提案型に分けられる。A)草の根協力支援型は,国内での活動実

績はあるが,開発途上国への支援実績が少ないNGOの活動をJICAが支援するものである。

23)外務省(2012a)「対ラオス人民民主共和国 国別援助方針」。24)外務省「平成25年度日本ODA連携無償資金協力申請の手引き(実施要領)」,在ラオス日本大使館「日本

NGO連携無償資金協力」。25)JICA「草の根協力支援型って何?」,JICA「草の根パートナー型って何?」,JICA「地域支援型って何?」。

図14 初等教育に対する日本のODA

36

16

105

10152025303540

注)ODA形態は無償資金協力,期間は2002年~2011年度。出所)外務省「ODA案件検索」,JICA「JICA knowledge

site分野課題・国別一覧」より作成。

48 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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表6 日本NGO連携無償資金協力による初等教育支援

表7 草の根技術協力による初等教育支援

団体 年度 事業内容

1. シャンティ国際ボランティア会 2003年 ビエンチャン特別市子ども教育開発センター建設事業

2. ラオスのこども 2003年 読書推進・青少年活動推進事業

3. シャンティ国際ボランティア会 2006年 ラオスにおける村ぐるみの学校教育支援事業

4. シャンティ国際ボランティア会 2008年 ラオス・サラワン県における少数民族の子どもを中心とした初等教育改善事業

5. シャンティ国際ボランティア会 2009年 ラオス国における公共図書館推進事業

6. エファジャパン 2009年 セコン県における子ども文化センターの設立と少数民族の子どもの発達支援

7. ラオスのこども 2009年 小学校における図書活用強化事業

8. ラオスのこども 2009年 ラオス国における公共図書館推進事業

9. シャンティ国際ボランティア会 2010年 ラオス・サラワン県における初等教育の質改善事業

10. ラオスのこども 2011年 小中学校における図書活用強化事業(第1期)

11. シャンティ国際ボランティア会 2012年 ルアンパバーン県における住民参加型による教育環境改善事業

12. ラオスのこども 2012年 小中学校における図書活用強化事業(第2期)

出所)在ラオス国日本大使館「日本NGO連携無償資金協力」をもとに作成。

団体 年度 支援形態 事業内容

1. シャンティ国際ボランティア会 2004年

草の根パートナーシップ型

公共図書館支援を通じた図書・読書活動普及事業

2. ラオスのこども 2005年 読書推進運動の自主的運営のための拠点構築事業

3. ラオスのこども 2009年 読書推進運動自立的運営の定着化

4. シャンティ国際ボランティア会 2009年 公共図書館を通じた読書推進活動

5. ラオスのこども 2012年 学校図書室の地域への展開事業

出所)JICA「草の根パートナー型って何?」をもとに作成。

49石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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期間は3年以内,規模は総額で2,500万円以内の事業である。B)草の根パートナーシップ型は,開発途

上国への支援について一定の実績を持っているNGOなどをJICAが支援するものである。これまでの活動を通じて蓄積した経験や技術に基づいてNGOが提案する国際協力活動に対して,期間5年以内,総額1億円以内の事業に支援が行われる。C)地域提案型は,地方自治体が主体とな

り,その地域社会がもつ知識や経験を活かし事業を実施することにより,開発途上地域の経済や社会の発展に貢献することを目的としている。開発途上国からの人材の受け入れや現地への技術指導などの事業を実施する。期間3年以内,総額3,000万円以内である。このスキームの初等教育支援は5件ある。

表7のように,すべてが草の根パートナーシップ型であり,図書館建設や図書の普及活動に関するものである。

①-3 草の根・人間の安全保障無償資金協力26)

草の根・人間の安全保障無償資金協力は,開発途上国の地方公共団体や教育・医療機関,途上国において活動しているNGOなどが,途上国の多様なニーズに応えるために草の根レベルで行う援助である。この資金援助は日本の在外公館が中心となっている。2003年から2012年までの間に,初等教育

対象の案件は30件ある。そのうち25件が学校建設や学校環境整備事業,1件が図書推進事業,その他の事業が3件である。

①-4 日本NGO事業補助金27)

日本NGO事業補助金は,NGOの事業実施能力や専門性向上のため,NGOの事業促進

に資する活動を支援する制度である。対象となる事業はプロジェクト調査事業,国内における国際協力関連事業,海外における国際協力関連事業である。1件当たりの交付額は総事業費の2分の1以下であり,かつ30万円以上200万円以下である。このスキームでは2002年度から2012年度

までに合計14件の事業が行われた。この多くが事業調査費である。教育関連の事業は2件のみで,2件のうち1件が図書館建設,もう1件が学校建設に関するものである。

② ODAの初等教育支援事業日本の技術協力プロジェクトとして実施さ

れた JICAの「南部3県におけるコミュニティ・イニシアティブによる初等教育改善プロジェクト」について見てみよう28)。プロジェクトの背景:日本政府は,2004

年11月のASEANサミットの際に,ラオス南部とベトナム・カンボジアの国境地域を貧困の度合いが高い「CVL(カンボジア・ベトナム・ラオス)開発の三角地域」として位置づけ,支援を公表した。2005年にラオス政府から具体的な要請が行われ,2007年から2011年にかけてこのプロジェクトが実施された。初等教育の現状:ラオスの南部3県は少数

民族が多く居住する貧困地域であり,初等教育も遅れている。2006年当時の初等教育の純就学率は,ラオス平均が84.2%(2005年)に対してサラワン県81.9%,セコン県74.2%,アッタプー県67.8%である。学校教育環境も十分ではなく,校舎・教員・教科書・教材などが不足している。これらの地域において児童が不就学になる要因として以下の点が指摘されている。①家庭の貧困と子供の教

26)在ラオス日本大使館「草の根人間の安全保障無償資金協力」,外務省「ODAとは? 草の根・人間の安全保障無償資金協力」。

27)外務省「NGO事業補助金 実績一覧」,外務省「ODAとは? NGO事業補助金」。28)JICA(2011)「南部3県におけるコミュニティ・イニシアティブによる初等教育改善プロジェクト評価調査結果要約表」。

50 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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育についての親の理解不足,②学校施設の劣悪さ,③学校に行っても知識が身につかない,④学校での勉強が生活の役に立たない。事業の内容:以上の状況をふまえ,これら

の地域の初等教育の改善のために以下のような事業が提案された。第1に,児童の父母を中心とした地域住民に対する教育の重要性に関する啓発活動や,校長や教員の学校・学級運営の改善である。第2に,プロジェクト終了後も地域社会が学校環境の改善を維持できるような仕組み作りである。この点は,ラオスの地方の教育予算が,教員給与以外は,地域社会の寄付によって賄われているということからも重要である。事業の成果:この事業によって期待された

成果はつぎの点である。①校長や教員の学校・学級運営における能力の向上:校内指導を実施し,主要3教科の授業計画を作成し,学習達成度を記録する。②教員の教材作成・利用能力の向上:主要3教科の教材を作成する。③村教育開発委員会の指導能力の向上:委員会の会議を増やし,学校改善計画を立案し実施する。④教育省・県教育局・郡教育局の「コミュニティ参加による学校改善促進活動」の指導能力の向上:研修を実施する。

事業目標の達成は以下のように確認されている。①純就学率は,98%の目標に対して,サワラン県99.6%,セコン県99.1%,アッタプー県96.3%である。②純入学率は,サワラン県99.4%(目標98%),セコン県99.1%(目標98%),アッタプー県92.7%(目標93%)である。③各学年の中退率を1%以下にする目標に対して,サワラン県0.6%,セコン県1.4%,アッタプー県2%であり,サワラン県は目標を達成した。④各学年の留年率を10%低下にする目標に対しては,サワラン県5.8%,セコン県7.4%,アッタプー県16.6であり,アッタプー県以外は目標を達成した。

2-2 NGOによる初等教育支援

ラオスにおいて初等教育を支援しているおもなNGOは25団体ある。表9はこれらのNGO

の活動の概要である。NGOの活動分野は,①学校施設,②教育プログラム,③家庭支援に分けられる。この3つの活動以外では,スタディツアーによるラオスのこどもたちとの交流や学校運営のためのラオスの大人たちへのセミナーなどがある。

表8 南部3県における初等教育改善プロジェクト

1. 事業の目的 南部3県におけるコミュニティ・イニシアティブによる初等教育の改善

2. 事業期間 2007年12月21日~2011年12月20日

3. 対象地域 サラワン県,セコン県,アッタプー県

4. 受益者 サラワン県・セコン県・アッタプー県の6郡・90校の児童・教員・教育機関・地域住民

5. 総事業費 21,378万円

6. ODAの形態 技術協力

7. 事業内容

①村教育開発委員会に対する指導②校長や教員の学校・学級運営能力の指導③教員の教材作成の指導④教育省・県教育局・郡教育局の「コミュニティ参加による学校改善促進活動」の指導

出所)JICA(2011)より作成。

51石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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1)ODAと連携するNGOの初等教育支援

◎シャンティ国際ボランティア会シャンティ国際ボランティア会(Shanti

Volunteer Association: SVA)は,1981年に曹洞宗ボランティア会として結成され,1999

年に現在の名称に変わった。ラオスでの活動内容は①図書館や②学校建設などである。図書館事業では,図書館の設置,絵本などの図書の出版,図書館員の育成,移動図書館活動などを行っている。学校建設事業では,学校や教室が不足している地域において地域の住

表9 ラオスで初等教育支援をするNGO

団体名 ①学校施設 ②教育プログラム ③家庭支援 ODA連携

1. アイユーゴー 〇

2. アジア教育友好協会 〇

3.「茨城アジア教育基金」を支える会 〇 〇

4. エファジャパン 〇 〇 〇

5. 香川国際ボランティアセンター 〇 〇

6. グリーンフォーラム 〇

7. 高知ラオス会 〇 〇

8. 国際協力NGO IV-JAPAN 〇

9. コープクン・マーク 〇

10. シャンティ国際ボランティア会 〇 〇 〇 〇

11. じゃっど 〇

12. 難民を助ける会 〇

13. 日本ユネスコ協会連盟 〇

14. プラン・ジャパン 〇 〇 〇

15. ブレイン 〇 〇

16. 民際センター 〇 〇 〇

17. ラオスのこども 〇 〇

18. ラオスを愛する会 〇

19. ワールド・ビジョン・ジャパン 〇

20. AEFA 〇 〇

21. BAC仏教救援センター 〇

22. DEFC 〇 〇

23. NGOアジア連帯委員会 〇 〇

24. Shared Smile Japan 〇 〇

25. World Pure Eyes 〇

出所)各NGOのWebsiteより作成。

52 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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民や教員と共に校舎・トイレ・給水場所などを建設している。2013年9月5日に SVAラオス事務所を訪問

し,ラオスでの初等教育支援について話を聞いた(写真5)。以下では,同会の学校建設事業についてみてみよう。SVAは,2012年から2013年にかけてラオス北部のルアンプラバン(ルアンパバーン)県ビエンカム郡において学校教育環境の改善事業を実施した。ビエンカム郡の状況:ビエンカム郡はラオ

ス143郡のなかでも13番目に貧しいと言われている29)。人口の85%以上をカムやモンな

どの少数民族が占めている。初等教育の現状は以下の通りである。純就学率が98.6%(全国平均92.2%),残存率が64%(全国平均74%)である。純就学率は全国平均よりも高いが,5年生までの残存率が64%であり,全国平均よりも10ポイントも低い。1年生の進級率が67.4%であり,1年生の32.6%が留年ないし中退している。教員は児童と同じ少数民族であるが,1年生にとってラオス語の学習は難しくその壁は高い。ラオスでは,2010年以降,ファスト・ト

ラ ッ ク・イ ニ シ ア テ ィ ブ(First Track

写真5 SVAラオス事務所

出所)2013年9月5日,筆者撮影。

表10 ルアンパバーン県の住民参加による学校教育環境改善事業

29)SVA(2012)「2012-2013 学校教育支援授業計画」SVAラオス事務所。

1. 事業の目的 ルアンパバーン県における2つの小学校の住民参加による学校教育環境の改善

2. 事業期間 2012年12月1日~2013年11月30日

3. 対象地域 ルアンパバーン県ビエンカム郡

4. 受益者 ドンケオ小学校:児童111名,教員2名,地域住民339人プーカン小学校:児童186名,教員3名,地域住民589人

5. 総事業費 19,601,514円

6. ODAの形態 日本NGO連携無償資金協力

7. 事業内容①教育施設の整備(2校の校舎建設・教室増,トイレ整備)②教育家具の調達(机・椅子)③教員・地域住民に対する学校運営・維持の指導

出所)外務省(2012b)より作成。

53石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

Page 20: 論 文】 ラオスの初等教育問題と日本の国際協力 · はじめに ラオス人民民主共和国(Lao People’s Democratic Republic)はビエンチャンを首都

Initiative: FTI)による学校環境整備が行われている。これは全国143郡のなかで60郡を重点地域に指定し,教室建設・教員研修・教材供与を行うものである。ビエンカム郡はこのプロジェクトから外されているが,学校環境設備は不十分である。不完全校が43%あり,複式学級も多い(例えば調査165クラスのうち110クラスが複式学級)。同郡には233クラスあるが,教員数は169人であり,1人で複数のクラスを持っている教員もいる。事業の内容:表10のように,SVAは2012

年12月から2013年11月にかけてルアンパバーン県ビエンカム郡において住民参加による学校教育環境の改善事業を実施した。この事業は日本NGO連携無償資金協力によって行われた30)。ビエンカム郡の2つの小学校に教育施設・

家具を整備し,教員・地域住民に対して学校運営・維持の指導を行った。①ドンケオ小学校は,児童数111名,教員数2名,地域住民数339人の学校である。事業以前には校舎が老朽化し,教室が2つしかなく,トイレや給水も不十分であった(写真6右)。この事業によって,3教室のコンクリート校舎が建設され,トイレや給水タンクが設置された(写

真6左)。②プーカン小学校は,児童数186名,教員数3名,地域住民数589人の学校である。事業以前には,木造3教室と1職員室で,トイレや給水が不十分であった。この事業によって5教室と1職員室のコンクリート校舎が建設され,トイレや給水タンクが設置された。

SVAは,教員と地域住民からなる「学校建設委員会」を設置し,この事業に地域住民が参加できるように指導した。村人は木材調達,基礎作り,掃除などで学校建設に参加した。また教員・地域住民・児童が学校施設の運営・維持を行うための研修を行った。これによって,事業完了後の校舎やトイレなどのメンテナンスを可能にした。事業の成果:ドンケオ小学校では,教室数

が2から3に増加し,1教室あたりの児童数が55人から37人に減少し,児童1人あたりの教室床面積(ラオス政府の標準:1.05m2)が0.75m2から1.32m2に増大した。プーカン小学校では,教室数が3から5に増加し,1教室あたりの児童数が62人から37人に減少し,児童1人あたりの教室床面積が0.75m2から1. 12m2に増大した。両校には,男児・女児・教員別のトイレが設置された。これに

写真6 ドンケオ小学校の新校舎(左)と旧校舎(右)

出所)外務省(2012b)。

30)外務省(2012b)。

54 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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よって,特にトイレがないために学校に行きたくないという女児の通学の心理的負担が取り除かれた。

2)ODAと連携しないNGOの初等教育支援

◎民際センター民際センターは,経済的に貧しく学校に通

えない子供たちに「民際力」によって教育支援をするNGOである。1987年にタイの子供たちへの奨学金供与のために設立され,現在は教育支援によって東南アジア諸国の貧困削減と平和構築を目指している。民による国際貢献活動を「民際」と呼び,国際ではなく民際によって教育支援をしている。活動形態は,日本国内で寄付を集め,ラオス・カンボジア・ミャンマーなどの貧しい子供たちを奨学金や学校建設によって支援している。2013年7月11日に民際センター東京事務所,

同年9月6日に民際センターラオス事務所を訪問し,A)少数民族の教員養成とB)ダルニー奨学金について話を聞いた(写真7)。

A)少数民族の教員養成ラオスには,現在49の民族がおり,これ

らの民族は言語文化的に4つに分類される。ラオスの国語であるラオス語以外の言語を使用する少数民族の子供たちにとって,小学校入学の際に初めて習うラオス語の修得は大きな課題になっている。ラオス語が分からないために,留年したり中退したりする児童が多い。この課題を克服する1つの方法は,児童と同じ少数民族出身の教師が子供たちの学習をうまく指導することである。しかし,少数民族出身の教師の養成は遅れ,人数は少ない。民際センターは少数民族出身者の小学校・

プレスクールの教員養成を支援している。この事業の目的は,奨学生には出身村での雇用機会を与え,少数民族の教員不足を緩和し,少数民族の児童に適切な教育環境を与えることである。ラオス教育省と連携し教員養成短大の学生に1人年間3万円の奨学金を支給している31)。この奨学金によって 2003 年~2011年の間に,計114人が教員養成短大(2年間)を卒業し教員になった。奨学金の対象者は,ラオス語を母語としな

い少数民族出身の高校卒業者である。奨学生の募集地域は,中部のサバナケット県,カムアワン県,南部のチャンパサック県,セコン

写真7 民際センターのラオス事務所と支援校の子供たち

出所)2013年9月5日,筆者撮影。

31)2013年7月の調査当時の金額。現在は年間12万円。

55石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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県,サラワン県であり,パクセ・サバナケット・サラワンの教員養成短大の学生に奨学金が支給されている。奨学生は,教員養成短大を卒業後,数年間は教員として働かなければならない。

B)ダルニー奨学金ダルニー奨学金とは,支援する人がどの子

どもを支援しているのかがわかる里親型の奨学金制度である。子供たちも誰に支援を受けているのか分かっている。奨学生の選考基準は,学校の成績ではなく経済的な貧しさである。選考委員はラオスの県教育委員会や教師がなっている。奨学金は,2012年度までは1人年間10,000円(2013年度以降14,400円)である32)。奨学金の支給は国や地域によって異なるが,ラオスでは学用品(教材・文房具)・制服・運動着・靴・交通費などの現物支給である。ラオスでの奨学金は1997年(対象者70人)

から開始された。支援対象の地域は,ラオス南部のセコン県,カムアン県,サバナケット県,サワラン県である。2012年度までは,小学校3年~5年生にも奨学金を支給していた(現在は中学生のみが対象になっている)。支給対象者は毎年数千人であり,2012年度の小学生の支給実績は,3年生843人,4年生1,367人,5年生1,262人,計3,472人である。この他に中学生が715人いる。ダルニー奨学金の対象は,現在は中学生で

あり,小学生には行われていない。この背景には,ラオスにおける初等教育の就学率や進級率の全体的な向上がある。またラオス政府の要請もあるようである。ただし,山間部に居住する少数民族の貧しい家庭の中にはこのような奨学金がなお必要な児童もいるように思われる。

むすび

本稿は,ラオスの初等教育の現状と問題について明らかにし,ラオスに対する日本の初等教育支援について検討した。本稿の結論は以下のように要約される。第1に,ラオスの初等教育の現状は,①純

就学率が低く,②最終学年まで到達する割合が低く,③青年(15-24歳)の識字率が低い。このようなラオスの初等教育の背景には,①学校施設の問題,②教員の問題,③カリキュラムの問題,④教科書の問題,⑤家庭の問題という5つの問題がある。第2に,ラオスに対する日本の初等教育支

援については以下のような特徴がある。ODAによる初等教育支援事業は,約70%が校舎の建設のような学校施設関係である。ODAと連携するNGOの活動は,学校施設や教育プログラムに関する支援事業を行っている。他方,ODAと連携しないNGOの活動は,多くの団体が教育プログラムに関する事業を行っており,家庭支援の事業を行っている団体もいくつかある。日本のラオスに対する初等教育支援の今後

の課題は,当面は校舎や教室の不足を解消するような学校施設の充実を図り,ハード面の教育環境を整えることが重要である。その上で,教員の質や量の問題を解決するような教育プログラムへの支援や家庭の問題を解決するようなソフト面の支援に,初等教育支援の幅を広げる必要がある。

32)以前の10,000円の内訳は,奨学金48%,現地事務経費17%,東京事務経費20%,その他調査費など15%である。現在の14,400円の内訳は,75%が奨学金,25%が事務局経費である。

56 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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統計付録表11 各指標の地域間格差(2010/11年)

県 少数民族 貧困率 村数 小学校数 学校充足率 完全校% 純就学率 G1

留年率G1退学率

1 ビエンチャン都 5 11.1 499 500 100 91 99.2 8.5 2.7

2 ポンサリー 70 57.1 605 532 87.9 42 87.8 36.6 13.2

3 ルアンナムタ 65 60 381 386 101 56 90.1 33.7 12.2

4 ウドムサイ 75 85.7 592 449 75.8 60 95 33.4 21.2

5 ボケオ 60 66.6 355 261 73.5 68 94.3 33.5 11.1

6 ルアンプラバン 65 36.4 867 762 87.9 67 97.5 27.5 12.4

7 ファバン 45 87.5 779 737 94.6 54 90.6 38.4 12.6

8 サヤブリー 25 50 494 417 84.4 93 98.6 27.2 3.9

9 シェンクアン 60 57.1 539 478 88.7 58 97.6 28 8.6

10 ビエンチャン県 30 33.3 591 510 86.3 75 94.7 25.5 9.9

11 ボリカムサイ 30 50 327 322 98.5 80 95.3 30.8 4.5

12 カムアワン 15 55.5 804 606 75.4 62 92.6 34 12.9

13 サバナケット 20 46.7 1546 1155 74.7 60 87.6 39.5 12.2

14 サラワン 40 37.5 724 556 76.8 51 94.2 32.6 18

15 セコン 85 50 252 216 85.7 85 93.1 46.8 14.4

16 チャンパサック 10 40 924 758 82 70 97.8 17.4 11.3

17 アッタプー 60 60 211 185 87.7 77 89.9 32.2 16.9

全国 * 44.2 10,574 8,830 83.5 65 94.1 30.9 12.1

注)貧困率=貧困村/総村数×100。総村数は2004年,小学校数は2007/08年。中部のサイソンブーン県(治安上の理由から国防省によって統治され,2013年12月に県として復活)のデータは欠損。学校充足率=小学校数/村数×100。

出所)貧困率と留年中退率は津曲(2012)23頁,学校数は外務省(2009) 『ラオス教育分野の評価 報告書』,村数は総務省(2006)『ラオスの行政』,少数民族居住地域比率は外務省(2009)同上,県のカタカナ表示は外務省(2009)に従う。

参考文献(本・論文)乾美紀(2004)『ラオス少数民族の教育問題』明石書店。オンパンダラ・パンパキット(2010)「ラオス現代教育制度の変遷」山田紀彦編『ラオス チンタ

ナカーン・マイ(新思考)政策の新展開』アジア経済研究所。平良那愛(2011)「ラオスにおける村教育開発委員会の初等教育就学率向上に対する影響」『国

際教育協力論集』第14巻第1号,45-55頁。瀧田修一(2008)「ラオス:貧困削減に向けた基礎教育支援」廣里恭史・北村友人編著『途上国

における基礎教育支援下』学文社。津曲真樹(2012)『ラオス教育セクター概説』IMG: Development Consultants

http://jp.imgpartners.com/image/A5E9A5AAA5B9B6B5B0E9A5BBA5AFA5BFA1BCB3B5C0E22

012_Final.pdf (2015/3/9)

57石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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(報告書)神戸大学石黒馨研究会(2013)「シャンティ国際ボランティア会ヒアリング報告書」9月6日。神戸大学石黒馨研究会(2013)「バンタム小学校ヒアリング報告書」9月5日。神戸大学石黒馨研究会(2013)「民際センターヒアリング報告書」9月5日。

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http://www.nsc.gov.la/index.php?option=com_content&view=article&id=29&Itemid=156 (2015/3/

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Lao Statistics Bureau, “Poverty in Lao PDF 2008 = .Poverty Trends,"

http://www.nsc.gov.la/index.php?option=com_content&view=article&id=55&Itemid=80 (2013/09/

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http://www.ibe.unesco.org/fileadmin/user_upload/Publications/WDE/2010/pdf-versions/Lao_PDR.

pdf (2013/09/29)

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http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/laos/sect08_01_index.html

(2015/3/9)

外務省(2012a)「対ラオス人民民主共和国 国別援助方針」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000072258.pdf (2015/8/10)

外務省(2012b)「ルアンパバーン県における住民参加による学校教育改善事業」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/data/zyoukyou/ngo_m/e_asia/laos/121130.html

外務省「諸外国・地域の学校事情 ラオス人民民主共和国」http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/world_school/01asia/infoC12100.html (2015/8/10)

外務省「政府開発援助(ODA)白書」各年度http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo.html (2015/8/10)

外務省「ラオス 約束状況」各年度http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/region/e_asia/laos/exchange.html (2013/06/29)

外務省「国別データブック2012 ラオス」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/12_hakusho_pdf/pdfs/ 12_all.pdf (2013/06/

29)

外務省「国別データ ラオス」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/laos/pdfs/sect08_05.pdf (2013/

09/29)

外務省「ODA案件検索」http://www3.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/display.php?in_anken_name=&in_area_id=&in_scheme_

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外務省「NGO事業補助金 実績一覧」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/jh_j.html (2013/07/ 01)

外務省「援助形態別の概要・取組 技術協力とは」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/keitai/gijyutsu/about.html (2013/08/21)

外務省「援助形態別の概要・取組 無償資金協力とは」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/keitai/musho/about.html (2013/08/21)

58 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

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外務省「援助形態別の概要・取組 有償資金協力とは」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/keitai/enshakan/about.html (2013/08/21)

外務省「国際協力 報告書・資料」http: //www. mofa. go. jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/bangladesh/kn01_ 01_0503.

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外務省「平成25年度日本ODA連携無償資金協力申請の手引き(実施要領)」http://isfj.net/ronbun_backup/2011/b01.pdf (2013/07/01)

外務省「日本の援助の概要」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/laos/pdfs /sect08_04.pdf (2013/

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外務省「ODAとは?援助政策 ミレニアム開発目標(MDGs)とは」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs/about.html (2013/09/29)

外務省「ODAとは? 草の根・人間の安全保障無償資金協力」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/kaigai/human_ah/index.htm(2013/07/01)

外務省「ODAとは? NGO事業補助金」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/hojyokin_g.html(2013/ 07/01)

在ラオス日本大使館「草の根人間の安全保障無償資金協力」http://www.la.embjapan.go.jp/jp/japans_oda_to_laos/the_grant_assistance_scheme_for_japanese_

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在ラオス日本大使館「日本NGO連携無償資金協力」http://www.la.embjapan.go.jp/jp/japans_oda_to_laos/the_grant_assistance_scheme_for_japanese_

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総務省(2006)『ラオスの行政』http://www.soumu.go.jp/main_content/000096650.pdf (2013/3/9)

JICA(2010)「ラオス人民民主共和国 貧困プロファイル調査(アジア) 最終報告書」http://www.jica.go.jp/activities/issues/poverty/profile/pdf/lao_02.pdf (2015/3/9)

JICA(2011)「南部3県におけるコミュニティ・イニシアティブによる初等教育改善プロジェクト 評価調査結果要約表」http://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/2011_0608978_3_s.pdf (2015/3/9)

JICA「JICA knowledge site 分野課題・国別一覧」http://gwweb.jica.go.jp/km/ProjectView.nsf/VW02040101?OpenView&Start=1&Count=

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JICA「草の根協力支援型って何?」http://www.jica.go.jp/partner/kusanone/what/shien.html (2013/07/01)

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(NGO関係)アイユーゴー http://aiyugo.fc2web.com/jigyouhoukoku.html (2013/06/24)

アジア教育友好協会 http://justgiving.jp/npo/277 (2013/06/24)

「茨城アジア教育基金」を支える会 http://www.saefi.org/ (2013/06/24)

エファジャパン http://www.efa-japan.org (2013/06/24)

ラオスのこども http://homepage2.nifty.com/aspbtokyo/ (2013/06/24)

ラオスを愛する会 http://www.lovelaoclub.npo-jp.net/ (2013/07/09)

香川国際ボランティアセンター http://www.npokvc.org/(2013/07/09)

グリーンフォーラム http://www.greenforum.jp/index.html (13/06/24)

高知ラオス会 http://snn.npgo.jp/koutilaos.html (2013/07/09)

国際協力NGO IV-JAPAN http://www6.ocn.ne.jp/~iv-japan/ (2013/06/24)

コープクン・マーク http://www.ab.auone-net.jp/~khoop/ (2013/07/09)

シャンティ国際ボランティア会 http://sva.or.jp (2013/06/24)

59石黒 馨:ラオスの初等教育問題と日本の国際協力

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シャンティ国際ボランティア会(2010)「日本NGO連携無償資金協力事業完了報告書」https://sva.or.jp/about/pdf/nreport/report-2009-001.pdf (2013/07/01)

シャンティ国際ボランティア会(2012)「2012-2013 学校教育支援授業計画」SVAラオス事務所http://sva.or.jp/activity/oversea/laos/pdf/laos_2012-2013_plan.pdf(2013/07/01)

じゃっど http://www2.synapse.ne.jp/jaddo/ (2013/06/24)

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ワールド・ビジョン・ジャパン http://www.worldvision.jp/child/world/laos.html (2013/07/09)

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BAC仏教救援センター http://www.sir.or.jp/org/detail.asp?id=109 (2013/06/24)

DEFC http://npodefc.web.fc2.com/ (2013/07/09)

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World Pure Eyes http://worldpureeyes.web.fc2.com/ (2013/07/09)

60 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)