特別支援教育と医療の連携 ―保護者と教育側の子ども理解の ......disability...

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堀口・宇野:特別支援教育と医療の連携 71 1 国立精神・神経センター 精神保健研究所社会精神保健部(Department of Social PsychiatryNational Institute of Mental HealthNational Center of Neurology and Psychiatry2 筑波大学大学院 人間総合科学研究科(Graduate School of Comprehensive SciencesUniversity of TsukubaⅠ はじめに 発達障害の早期の発見,療育は重要であ 1)(2。しかし,子どもの問題について専門 家を含めた周囲が気づきながらも保護者が気 づいていないといった「子ども理解」(本稿で はこれを「認識」と呼ぶ)の「ズレ」がある 場合には,受診を促したり,療育や園・学校 での対応,そのほか社会資源や支援の活用に ついて話し合う際,保護者に遠慮したり 3保護者との意見の一致が得られず 3)(4効果的 な対応が遅れることもある。 保護者と専門家の認識の「ズレ」とは別に, 発達障害概念の複雑さや歴史的変遷などによ り,子どもを支える人(支援者)が持つ概念 が違う場合もある 5)(6)(7)(8。たとえばアメリカ 公法における発達障害の定義は PL88-164 1963年)では精神遅滞(mental retardation: 特別支援教育と医療の連携 ― 保護者と教育側の子ども理解の「ズレ」― 堀 口 寿 広 宇 野  彰 Collaboration of Special Support Education and Medicine: Discrepancy in Recognition of Children between Parents and Teachers HORIGUCHI Toshihiro UNO Akira 【要旨】 発達障害における医療と教育の連携に資する目的で,①学習障害(LD)の質問紙 PRS)と,②特別支援教育の診断基準を調査票としたものについて,保護者と教師 に記入してもらった。結果,①PRSは学習の遅れのうちLDを正しく判定できない例が あった。②調査票のうち注意障害や多動,学習の遅れは保護者,対人関係の問題は教 師からの回答が多かった。保護者と教師の間で子どもの状態について理解の「ズレ」 があり,教師や専門家が発達障害について正しい知識を欠く場合には「ズレ」が拡大 し,円滑な連携に基づく支援が行われないと考えた。特別支援教育においては,保護 者への説明と同意に基づき個人情報を保護しつつ,地域のネットワークづくりが必要 である。教育側は医療側に任せきりにせず保護者との理解の「ズレ」の解消を図り, 医療側は仲介役として,診断を最終目標とせず保護者と教育側とともにその後の支援 を考えることが求められる。 【キーワード】 医療,特別支援教育,子ども理解(認識),発達障害,保護者

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堀口・宇野:特別支援教育と医療の連携 71

1 国立精神・神経センター精神保健研究所社会精神保健部(Department of Social Psychiatry, National Institute of

Mental Health, National Center of Neurology and Psychiatry)2 筑波大学大学院人間総合科学研究科(Graduate School of Comprehensive Sciences, University of Tsukuba)

Ⅰ はじめに

発達障害の早期の発見,療育は重要であ

る(1)(2)。しかし,子どもの問題について専門

家を含めた周囲が気づきながらも保護者が気

づいていないといった「子ども理解」(本稿で

はこれを「認識」と呼ぶ)の「ズレ」がある

場合には,受診を促したり,療育や園・学校

での対応,そのほか社会資源や支援の活用に

ついて話し合う際,保護者に遠慮したり(3),

保護者との意見の一致が得られず(3)(4)効果的

な対応が遅れることもある。

保護者と専門家の認識の「ズレ」とは別に,

発達障害概念の複雑さや歴史的変遷などによ

り,子どもを支える人(支援者)が持つ概念

が違う場合もある(5)(6)(7)(8)。たとえばアメリカ

公法における発達障害の定義はPL88-164

(1963年)では精神遅滞(mental retardation:

特別支援教育と医療の連携―保護者と教育側の子ども理解の「ズレ」―

堀 口 寿 広1 宇 野  彰2

Collaboration of Special Support Education and Medicine: Discrepancy in

Recognition of Children between Parents and Teachers

HORIGUCHI Toshihiro UNO Akira

【要旨】

発達障害における医療と教育の連携に資する目的で,①学習障害(LD)の質問紙

(PRS)と,②特別支援教育の診断基準を調査票としたものについて,保護者と教師

に記入してもらった。結果,①PRSは学習の遅れのうちLDを正しく判定できない例が

あった。②調査票のうち注意障害や多動,学習の遅れは保護者,対人関係の問題は教

師からの回答が多かった。保護者と教師の間で子どもの状態について理解の「ズレ」

があり,教師や専門家が発達障害について正しい知識を欠く場合には「ズレ」が拡大

し,円滑な連携に基づく支援が行われないと考えた。特別支援教育においては,保護

者への説明と同意に基づき個人情報を保護しつつ,地域のネットワークづくりが必要

である。教育側は医療側に任せきりにせず保護者との理解の「ズレ」の解消を図り,

医療側は仲介役として,診断を最終目標とせず保護者と教育側とともにその後の支援

を考えることが求められる。

【キーワード】

医療,特別支援教育,子ども理解(認識),発達障害,保護者

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第6号,2006年72

MR)をはじめさまざまな診断を明記してい

たが,PL95-602(1978年)では具体的な疾

患的規定を除外している(6)(9)。発達障害のと

らえ方には「ものさし」としての医学的診断

と,現在の状態像による「入れ物」的な分類

法とがあり,教育現場では後者が多く見られ

る(5)(6)(7)(10)。

従来「特殊教育」というとき,医学的な診

断ではMRの子どもが多く対象に含まれてい

た(6)。一方「情緒障害」は,自閉症(医学的に

は広汎性発達障害:pervasive developmental

disorders: PDD)の子どもをさすことが多い。

彼らは情緒障害児学級を利用していたが,学

校によっては不登校の子どもが同学級に含ま

れるなど,利用の実態はこれまで明らかでは

なかった。

また,教科学習の困難な状態を「学習の遅

れ」と呼ぶことがあるが,原因の検索はない

まま多くの子どもがさまざまな指導を受けて

いた。これに対して文部科学省は学習障害

(learning disabilities: LD)児を「知的発達は

正常(IQ値が70以上)であるにもかかわらず,

努力しても読むこと,書くこと,計算するこ

となどのある特定の能力を身につけることが

困難,あるいは不可能であり,中枢神経系に

原因があると推定される」と定義したが,

医学的な診断(たとえばdiagnostic and

statistical manual of mental disorders- fourth

edition: DSM-IV)でLDは読み(reading),書

き(writing),計算(mathematics)(あわせ

て3Rsとよぶ)に困難を限定しており(11),文

部科学省の定義と同一ではない(10)(12)(13)(14)(15)

(16)。

さらに,「気が散りやすい」「落ち着きがな

い」など,注意力の低下や多動を呈する子ど

もには注意欠陥・多動障害(a t t e n t i o n -

deficit/hyperactivity disorder: AD/HD)が含ま

れる。アメリカの小学校では5%の子どもが

AD/HDと診断され(11),わが国でも一時期

AD/HDは学級崩壊の原因と誤解されたことも

あった(17)。

これらPDD,LD,AD/HDでは,MRを伴わ

ない場合,療育手帳が取得できず,手帳の取

得を前提とするわが国の公的支援を利用でき

なかった(12)(13)。全国調査ではLD親の会各会

長の86%が福祉法適用を必要と答え(12),会員

保護者の75%が手帳を作ることに賛成してい

た(13)。

このような中,2001年に世界保健機関

(W H O)が採用した国際生活機能分類

(international classification of functioning,

disability and health: ICF)(18)は,個人の状態

を環境要因を含め総合的に記述することで,

障害概念を塗り替えるものとして期待され,

ケアプランの作成など個人の支援(1)(19)から

障害の特徴を明らかにする試み(20)までひろ

く応用されている。ICFは医学的診断と併用

することによって相互に意義を高めることが

できる(20)が,発達障害において従来の方法

論に基づく診断との照合により概念の整理を

行うことが必要である(19)。

加えて,わが国では発達障害者支援法(以

下,支援法)が平成17(2005)年4月より施

行され,さらに特別支援教育の制度化にあた

り各地でモデル事業が実施されている。支援

法の対象はおもにPDD,特別支援教育の対象

は具体的にはPDD,LD,AD/HDなどである(21)(22)。しかし,支援法の定義において「軽

度」の概念があいまいである点(7),法の施行

にともない地域ネットワークによる支援をめ

ざして多くの都道府県で支援センターがつく

られているものの,東京都でも1ヶ所のみ設

置(平成17(2005)年度現在)であり地域格

差の解消には程遠い(20)など,課題は山積し

ている。

また,特別支援教育では医療を含め地域の

社会資源を活用した支援が提案されている(21)

(22)。これまでも医療の場では診断の過程で,

ふだんの学校や家庭での様子を把握する情報

源として質問紙を用いることがあった。発達

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堀口・宇野:特別支援教育と医療の連携 73

障害の専門医師のうち,幼稚園・学校教諭と

連携を行なった医師は77%であった(23)が,

実際の連携はこのような質問紙のやり取りが

多いと考えられる。医師が診療にとどまらず

人的・制度的支援の情報の交通整理をする(24)

ことは利用者のメリットにつながり,そのた

めに信頼できる評価尺度が求められる。

そこで本論ではまず,①「学習の遅れ」を

示す子どもを対象にLDのスクリーニング・

テストであるthe pupil rating scale(PRS)を

実施し教師の認識を検証した。つづいて②さ

まざまな困難を持つ子どもを対象に特別支援

教育で提案されている基準を用いて,保護者

と教師の認識の「ズレ」について検討を加え

た。以上をもとに医療と教育の連携に必要と

される取り組みについて考察した。

Ⅱ 研究①

1 対象

「学習の遅れ」を主訴として某センターの

専門外来を受診した児のうち,3Rsの困難を

呈しとくにLDとの鑑別が求められた9人

(男7人:女2人)。平均(±SD)年齢は11

歳1月±1歳1月である。(表1)

2 方法

P R S (2 5)はアメリカのマイクルバスト

(Myklebust,H.R.)によって作成されたLD

のスクリーニング・テストで,子どもの学級

内での様子についての24の質問に,それぞれ

同学年の子どもと比べて1(その低下がもっ

とも目立つ)から5(優れた特徴をもってい

る)の5段階で評定する。各評定を得点とし

て前半9問の合計点を言語性LD得点,後半

15問を非言語性LD得点とし,全質問の合計

点を算出する。言語性LD得点が20点以下の

とき言語性LDサスペクト,非言語性LD得点

が40点以下のとき非言語性LDサスペクト,

合計点が65点以下のときLDサスペクトと判

定する。

今回,保護者への説明と同意に基づき,検

査の一環として保護者を通じて,対象児を半

年以上担任する教師にPRSの記入を依頼し

た。なお,依頼に際しては,PRSの表紙にLD

の語があり,回答に予断を与える可能性があ

ったため表紙をはずした。判定をDSM-IV(11)

にしたがって行なった医学的診断と照合し

た。

表1 研究①の対象となった児童のプロフィール

症例番号 年齢(歳;月)

性別 知能指数(IQ)

言語性 動作性 全検査

PRS

言語性LD

非言語性

LD 総合得点

診断 その他の情報

1

2

3

4

5

6

7

8

9

平均標準偏差(S.D.)

11;00

12;10

13;00

13;00

11;90

10;00

7;00

10;00

11;00

11;10

1;10

68

96

82

54

96

65

79

56

74

74.4

15.4

85

106

80

45

104

61

87

101

80

83.2

20.2

72

101

79

45

100

59

81

75

75

76.3

17.7

20

26

23

15

27

19

24

17

20

21.2

4.1

39

39

37

33

44

34

43

28

31

36.4

5.4

59

65

60

48

71

53

67

45

51

57.7

9

受容・表出性言語障害

LD(読字・書字障害)

LD(書字障害)

MR

LD(読字障害)

MR

PDD(HFPDD)

LD(読字障害)

LD(算数障害)

左前頭葉くも膜嚢胞

下垂体性小人症

脳波異常

PDDの合併あり

眼球運動の異常

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第6号,2006年74

3 結果

2人(男女各1人)で知能検査の結果全検

査知能指数(FIQ)が70を下回り,MRの域に

あった。DSM-IVの基準(11)に従うとLDは5人

(55.6%)であった。

PRSの結果は表1に示すとおりであった。

知能検査の言語性知能指数(VIQ)とPRSの

言語性LD得点(Spearmanの順位相関ρ=0.98,

p=0.006),PRS非言語性LD得点と総合得点

(ρ=0.95,p=0.007)の間に相関があった。

[表1]

PRSの基準に従ってLDサスペクト児を判定

したところ,言語性LDは5人,非言語性LD

は7人,総合判定は7人がLDとされた。医

学的診断とPRSの対応は,LD5人中4人(症

例2,3,8,9)がLDサスペクト児,1

人(症例5)はLDではないと判定された。

診断によりLDではないとされたうち3人

(症例1,4,6)はPRSでLDとされ,1人

(症例7)は診断とPRSが合致してLDではな

いとされた。したがって罹患している者を陽

性と判定する率である敏感度は0.80,罹患し

ていない者を陰性と判定する率である特異度

は0.50であった。

Ⅲ 研究②

1 対象

某小児科診療所「子ども相談室」(26)を受

診した16人(男12人:女4人)。平均年齢は

9歳±2歳6月。初診時の主訴は「不注意が

多い」「片づけができない」など6人,同級

生とのトラブル6人,ことばの遅れ2人,睡

眠障害1人,過換気症候群1人であった。

2 方法

文部科学省が発表した「今後の特別支援教

育の在り方について(最終報告)」の「定義

と判断基準(試案)等」など(27)(28)(29)から項

目を抽出し,質問の語句を平易に改め質問の

領域ごとに並べ替えた表を作成した。(表2)

LDに関する4項目,AD/HD18項目(うち注

意力の障害9項目,多動性6項目,衝動性3

項目),高機能自閉症(high function PDD:

HFPDD)28項目,各状態に共通する3項目

(うち1項目はLDに関する項目として利用)

の合計53項目から成る。最近2週間の様子に

ついてそれぞれの質問に「ある」か「ない」

で回答し,どちらか決めかねるときは空欄に

してもらう。

15人の子どもについて,学校での様子と家

庭での様子を知るための調査票として,保護

者への説明と同意を得て保護者と対象児を半

年以上担任している教師に記入を依頼した。

1人は保護者のみ記入とした。両者の記入結

果を相談の過程で両者に提示し,必要と考え

られる支援について話し合った。

3 結果

16人の子どもについて,それぞれの保護者

と,15人の担任・園,2人の通級指導担当教

師が回答した。

知能検査の結果は平均の言語性知能(VIQ)

が95.4±17.9,動作性知能(PIQ)が85.1±

18.4,全検査知能(FIQ)が89.5±17.8であり,

男子2人がFIQ70を下回っていた。医学的診

断としてDSM-IVのLDの基準(11)に従うと

AD/HD5人,PDD5人,発達性協調運動障害

(developmental coordination disorder: DCD)

2人,MR,てんかんが各1人,初診時に

「片付けられない」「学校での友人とのトラブ

ル」が訴えられたものの本人には問題を認め

なかったものが1人であった。

「ある」の該当項目数(質問49はMRとの鑑別

項目と考えられ「ない」を計数)は全体で平

均13.9±9.1個あり,保護者(14.9±8.6)と

担任・園(12.5±10.3),通級指導担当教師

(16.5±0.7)の間に差はなかった(Wilcoxson

の符号付順位検定)。

両者の回答を比較すると,「気が散りやす

い(質問8)」,「手足をそわそわ動かす(11)」,

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堀口・宇野:特別支援教育と医療の連携 75

表2 調査票の項目と該当者数

内容*ない

教師保護者

ある

教師保護者(人)

1. 園(学校)での勉強(学習や課題)で,細かいところまで注意を払わなかったり,

不注意による間違いをしたりする。

2. 課題や遊びの活動で注意を集中し続けることが難しい。

3. 面と向かって話しかけられているのに,聞いていないようにみえる。

4. 指示に従うことができず,また仕事を最後までやりとげない。

5. 勉強(学習)などの課題や活動を順序だてて行なうことが難しい。例:ものごと

を最初からやらずに途中からやったり,また最初に戻ったりと,ばらばらになる。

6. 気持ちを集中させて努力し続けなければならない課題を避ける。

7. 勉強(学習)などの課題や活動に必要な物をなくしてしまう。例:鉛筆などをよ

くなくしてしまい,たびたび買いなおすことになる。

8. 気が散りやすい。

9. 毎日の活動で忘れっぽい。

10.手足をそわそわ動かしたり,着席していてもじもじしたりする。

11.授業中や座っていなくてはならない時でも席を離れてしまう。

12.きちんとしていなければならない時に,過度(必要以上)に走り回ったりよじ登

ったりする。

13.遊びや余暇活動におとなしく参加することが難しい。

14.じっとしていない。または,まるで機械で動いているかのように,何かに駆り立

てられるように活動する。

15.過度(必要以上)にしゃべる。

16.まだ相手の質問が終わらないうちにとつぜん答えてしまう。

17.順番を待つのが難しい。

18.他の人がしていることをさえぎったり,じゃましたりする。

19.目と目で見つめ合うことや,身振りなどの多彩な非言語的な行動が難しい。

20.同年齢の仲間関係をつくることが難しい。

21.楽しい気持ちを他人と共有することや気持ちを通い合わせることが難しい。

22.友達と仲良くしたいという気持ちはあるけれど,友達関係をうまくきずけない。

23.友達のそばにはいるが,一人で遊んでいる。

24.球技やゲームをする時,仲間と協力してプレーすることが考えられない。

25.いろいろなできごとを話すが,その時の状況や相手の感情,立場を理解しない。

26.周りの人から共感を得ることが難しい。

27.ことばの基礎的な能力にいちじるしいアンバランスがある。例:年齢から見て,

話すことと書くことのできぐあいに大きな差があるなど。

28.周りの人が困惑するようなことも,配慮しないで言ってしまう。例:はっきりも

のを言いすぎる,おせじが言えないなど。

29.話し言葉のおくれがあり,それを身振りなどによって補おうとしない。

30.他人と会話をはじめ,続けることが明らかに難しい。例:会話がとぎれとぎれに

13 10 1 6 A

8 6 7 8 A

9 7 6 6 A

9 7 3 7 A

9 6 4 9 A

8 7 6 7 A

8 7 7 7 A

12 6 4 7 A

11 7 5 5 A

9 3 5 11 H

3 5 10 11 H

1 3 13 12 H

4 5 9 11 H

3 1 12 12 H

6 4 8 11 H

7 4 9 11 I

3 3 11 13 I

5 5 8 11 I

2 3 10 7 P

3 7 10 7 P

1 5 13 10 P

6 11 8 4 P

3 3 9 11 P

3 5 10 10 P

6 5 7 7 P

2 6 11 4 P

5 3 9 8 L

7 6 6 7 P

2 4 13 11 P

3 5 13 9 P

お子さんのようすについての調査票

なまえ:          (男・女)  歳   ヶ月

答えを書いた人:            答えを書いた日:   年   月   日

最近(2週間ぐらい)のお子さんのようすについて、あてはまると思われるものに○をお付けください。中には年齢によ

って適当ではないなどご回答の難しい項目もあると存じます。どちらにあてはまるかはっきりしないところは記入せず

に空欄のままで結構です。園や学校のスタッフが記入する場合、ふだん担当されているスタッフだけでなく、原則とし

てスタッフ全員の了解にもとづいて、同年齢のお子さんたちと比較した状態として判断してください。

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第6号,2006年76

なる,話のキャッチボールが難しい。

31.いつも同じで反復的な(繰り返しの)言葉をつかったり,本人に独特なことばの

使い方や言い回しがある。例:テレビコマーシャルの同じセリフだけをくり返す,

本人が勝手に作った辞書にはないことばなど。

32.その年齢にふさわしい,変化に富んだ自発的な「ごっこ遊び」や社会性のある物

まね遊びができない。

33.含蓄(含み)のある言葉の本当の意味が分からず,表面的に言葉通りに受けとめ

てしまうことがある。ことわざやたとえ話の理解が難しい,冗談が通じない,腹

芸が通じないなど。

34.会話の仕方が形式的であり,抑揚なく話したり,間合いが取れなかったりするこ

とがある。例:カーナビのような話し方,ロボットと話をしているような印象な

ど。

35.強いこだわりがあり,限定された興味だけに熱中する。例:何かの数を数えるな

ど,こだわりの中身に関連して,興味の持てることにならば熱中して取り組むこ

とができる。

36.特定の習慣や手順にガンコなまでにこだわる。例:いつも同じ通学(園)路をつ

かう,いつも同じ時間に何か決まったことをする。

37.反復的な変わった行動(例えば,手や指をぱたぱたさせるなど)をする。

38.物の一部に持続して熱中する。例えば,おもちゃのうち,あまり重要ではない特

定の一部分(例:ミニカーのタイヤ)だけに強い興味を示すなど。

39.みんなから,「○○博士」「○○教授」と思われている(例:カレンダー博士)。

40.同じ年代の他の子どもは興味がないようなことに興味があり,「自分だけの知識

世界」を持っている。

41.空想の世界(ファンタジー)に遊ぶことがあり,現実との切り替えが難しい場合

がある。

42.特定の分野の知識をたくわえているが,丸暗記であり,その意味をきちんとは理

解していない。

43.とても得意なことがある一方で,極端に苦手なものがある。

44.ある行動や考えに強くこだわることによって,簡単な日常の活動ができなくなる

ことがある。例:手が汚れることがいやで,手を洗いながらおにぎりを食べるな

ど。

45.自分なりの独特な日課や手順があり,変更や変化を嫌がる。例:いつもと違う通

学(園)路を通ろうとするとパニックを起こす,遠回りであるとか工事中である

など理由を言って聞かせてもなだめることができない。

46.常識的な(社会的に見てその状況で適切と思える)判断が難しいことがある。

47.動作やジェスチャーがぎこちない。

48.現在の状態は少なくとも6カ月以上続いている。

49.知的な発達の問題(「おくれ」など)は感じられない。

50.胎生期周生期(おなかにいるとき,うまれる前後)の状態,既往歴(これまでに

かかった病気について),生育歴または検査の結果から,中枢神経系(脳など)

のはたらきの問題を疑う特徴がある。

51.資料を集めてみると,現在の状態の直接的な原因として、他の問題や環境的な要

因(学校での対人関係や家庭環境)が関係していないと考えられる。

52.現在の状態によって社会生活や園(学校)生活をいとなむ上で支障があると判断

できる。

53.いちじるしい不適応が園(学校)や家庭など、特定の場面に限らず複数の場面で

認められる。

3 3 11 12 P

2 2 12 9 P

3 8 9 7 P

0 2 14 12 P

6 6 9 8 P

2 1 13 10 P

2 1 13 13 P

1 3 14 11 P

0 0 15 15 P

2 0 12 13 P

3 0 12 13 P

0 1 13 10 P

6 5 9 8 P

2 2 14 11 P

1 1 14 11 P

2 5 9 8 P

1 4 12 8 P

12 6 1 2

5 2 4 12 L

2 2 13 4 L

4 2 3 6 L

6 4 5 7

2 2 8 8

*内容は質問項目の作成に当たり使用した基準が示す診断。Aは注意力の低下,Hは多動性,Iは衝動性をさし、AD/HDの3つの構成要素である。そのほかPは高機能自閉症,LはLDのための項目をさす。DSM-IVなどで各診断に共通して用いられる項目は空欄で示した。

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堀口・宇野:特別支援教育と医療の連携 77

「6カ月以上の持続(48)」は保護者で「ある」

が多く,友人関係の苦手さ(20,21,22),

「冗談が通じない(33)」は教師で「ある」が

多かった。

回答全体で「ある」を1,「ない」を0

(質問49は「ない」を1)のダミー変数に置

き換えたところ,内的整合性を示す

Cronbachのα信頼性係数は0.93であった。

それぞれの子どもの得点状況を53項目すべ

てについて一括して表示するのは困難である

ことから,各項目が標的とする特徴ごとの得

点の多寡を視察的に把握する目的でチャーノ

フ(Chernoff)の顔グラフで図1に示した。

質問の該当項目数にしたがって,注意障害:

眉の角度,多動性:両眼の距離,衝動性:眼

の傾き,HFPDD:鼻の長さ,LD:口の長さ,

その他の項目:耳の大きさ,該当項目総数:

耳の位置の高さ,VIQ:顔の上半分の長さ,

PIQ:顔の下半分の長さ,FIQ:顔全体の長

さ,年齢:髪の長さで表した。

図1 調査票の対象となった子どもたち

1-P 1-T 1-Tc 2-P 2-T 3-P

3-T 4-P 4-T 5-P 5-T 6-P

6-T 7-P 7-T 8-P 8-T 9-P

9-T 10-P 10-T 10-Tc 11-P 11-T

12-P 12-T 13-P 13-T 14-P 14-T

15-P 16-P 16-T

質問項目の該当項目数の多さを,顔の部位の大きさや長さで表した。(本文に記載)それぞれの数字は子どもの個別番号(症例番号)であり同じ子どもを示す。向かって左が保護者(P),右が担任(T)または通級指導担任(Tc)の評価を表す。診断は1から6がAD/HD,7から11がHFPDD,12から13がDCD,14がMR,15がてんかん,16が問題を認めなかった例である。

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第6号,2006年78

視察的に判断し,保護者と教師の両者の評

価がほぼ等しいと考えられたものは3人(症

例番号7,8,14)であった。2人(1,10)

では所属学級の担任と通級指導の担任との評

価が得られたが,ともに両者の評価が異なっ

ていた。症例1では通級指導の担任は衝動性

と学習障害について,所属学級の担任は他動

性と衝動性について,保護者と理解が異なっ

ており,症例10では学習障害の程度について

通級指導の担任と所属学級の担任とで理解が

異なっていた。

診断との関連では,保護者と教師の評価が

等しかった3人のうち2人がPDD(HFPDD)

であり,AD/HDやDCDでは保護者と教師の評

価は一致しなかった。保護者の評価だけをみ

ると,5人(症例5,8,10,13,15)で類似

しており,このうち2人(8,10)の診断は

PDDであった。その他は同じ診断でも保護者

間で個別の評価が異なっていた。一方,教師

の評価では,症例1の通級担任と10と16,症

例3と12,症例4と8で,それぞれ類似して

いたが,各組のうちで診断は同一でなかっ

た。

それぞれの結果について,回答用紙を提示

して保護者および教師と話し合うことで,症

例1,4,9,10では園や学校は現在の状態の

うち多動や衝動性を問題と感じていることを

保護者に提示できた。症例1では保護者は

AD/HDのペアレント・トレーニングを目的と

したカウンセリングを利用し始め,症例4で

は保護者と園がその後も継続的な話し合いを

もち,園は就学に向けて子ども家庭支援セン

ターと連携することができた。症例9では友

人とのトラブルが相手の細かな感情を読み取

れないことによるものとして集団活動での配

慮を教師に依頼した。症例3,5,6,10で

は不注意や多動を問題と感じる意識は保護者

の方が強かったため,家庭での対応方法を提

案し,聞き逃しによる不利益を避けるため授

業の内容理解や指示を随時確認してもらうこ

とを教師に依頼した。症例11では話し合いの

過程で過呼吸発作が対象児の「こだわり」に

もとづくパニックの表現であることがわか

り,パニックが起きそうになった際の保健室

の自発的利用など医療側で提案した予防策を

学校と保護者が共有できた。

Ⅳ 考察

1 発達障害における理解の「ズレ」

発達障害をめぐる保護者の理解・認識につ

いては,これまで診断告知後の過程を扱った

研究が多い(30)(31)。保護者が心理的に混乱す

ることで医療者からの説明が正しく理解され

ない(31)(32)こと,成長の過程で新たな困難に

直面し再度「できないこと」の受容を迫られ

ることが指摘されているが,一方でさまざま

な支援を利用するうちに本人についての情報

が散逸し適切な支援に支障をきたすこともあ

る(33)。これらがまず,支援者との認識の

「ズレ」につながると考えられる。

このとき,支援者である医療側および学校

側が発達障害の概念に対する認識で混乱して

いると,保護者の認識との「ズレ」がさらに

大きくなると考えられる。たとえば,全国の

保育園・幼稚園を対象とした調査(34)による

と,回答した園の48%が「落ち着きのない子

どもが増えた」とした。しかし,類似した状

態は他の原因でも生じるため就学前のAD/HD

の診断は容易でなく(3)(35),保育園・幼稚園が

受診を促すことを戒める立場(35)がある。ま

た,3歳時にLDが疑われた子どもの35%がそ

の後通常の発達を遂げたとする追跡調査(36)

がある。診断を正しく伝えないことは医療者

としてインフォームド・コンセントの理念に

反する(32)(37)が,一方では不用意に診断をつ

けるなど無責任で科学的根拠のない「エセ専

門家」による生活の蹂躙が,保護者の早期発

見に対するイメージを悪くしている(2)ので

ある。

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堀口・宇野:特別支援教育と医療の連携 79

2 PRSの検討

そこでわれわれはまず,LDが疑われた子

どもたちを対象にPRSを実施し,担任の「学

習の遅れ」に対する認識を検証した。その結

果7人が「LDサスペクト児」と判定された

がうち3人の診断はLDではなかった。

PRSはMRやPDDからLDを鑑別するための

検査として作成された(25)が,知能検査のIQ値

と相関し,IQが低くなると「LDサスペクト

児」の判定が出やすくなることが知られてい

る(38)。今回VIQとPRSの言語性LD得点が高い

相関を示した。他方,7人のLD児がいずれも

PRSでLDではないとされた報告(39)もある。

PRSの問題点として,①読字・書字の評価

項目がないことがあげられる(38)。また,わ

れわれの検討でPRSの総合得点は非言語性LD

得点と相関し,②判定に非言語性LD得点の

重みが大きいことが示唆された。ただし,こ

の非言語性LDまたは社会性LDについては,

③LDの本態は言語機能の障害であるにもか

かわらず「非言語性」とよぶ矛盾(5)(7),不器

用さはDCDと,社会性LDはPDDとの鑑別に

ついて論じられるべきであるという議論(7)(8)

(10)がある。また,心理的要因として,④教

師のみが評価することで教師の主観が入る可

能性がある。さらに統計学の見地でマニュア

ルを読むと,⑤1から5までの段階的な評定

は定量的ではなく,仮に評定を順序尺度とみ

なしても,⑥各合計点は離散値をとる間隔尺

度であり四則演算が適用されないのに,検査

の標準化にあたりパラメトリック検定

(Studentの対応のない平均値の検定:t検定)

を使用している点,⑦さらに各項目の妥当性

を検証するためにt検定を用いてLD群と正常

群の群分けをしているのはG-P分析(Good-

Poor Analysis)と考えられるが,判定の正し

さを判別分析などによって別途検証していな

い点などが指摘できる。

PRSは言語機能を客観的にとらえていない

のに言語障害の判定に使う報告(40)や,そも

そも学齢期児童の言語能力を評価する検査が

ないとする主張(41)がある。専門家の誤った

認識や知識の不足にもとづき,「学習の遅れ」

の原因として教師がPRSを通じて言語能力の

客観的な評価ではなく「非言語」領域とされ

る地誌的見当識や集団行動の評価に向いてし

まうと,これが連携に当たり医療側と教師の

認識の「ズレ」になり,保護者に伝えられて

「ズレ」を拡大することが危惧される。

3 特別支援教育の調査票

つぎにわれわれは,特別支援教育の診断基

準を調査票に使用し,保護者と教師の結果の

違いを子どもの状態についての認識の「ズレ」

とみなした。われわれの調査票は項目に診断

基準を用いているが,診断を主たる目的とし

ていない。記入者の「子ども理解」をとらえ

るためのものとしたことで,保護者にとって

は担任教師の目に子どもがどのように映って

いるかを知ることができ,教師や支援者にと

っては保護者が現在の状態をどこまで認識し

ているかを知ることができる。

その結果,注意の障害,多動性,衝動性,

学習の遅れは保護者で,対人的なコミュニケ

ーション能力の問題は教師で,それぞれ認識

されやすい特徴であり,逆に言えば相手に気

づかれにくい特徴であると考えられた。この

うち対人関係の問題については,学校側は集

団行動を直接目にする機会が多いためと考え

られ,家族内での行動だけを見る場合に家族

が見逃してしまうためかもしれない。注意の

障害や多動,学習の遅れは宿題や提出物の忘

れや授業中の行動により,学校側が気づきや

すいと考えられるが,じっさいには保護者の

方が問題意識を持っており,保護者が子ども

の忘れ物の確認などを行なうことと関係して

いると考えられる。今後はこの5点(注意の

障害,多動性,衝動性,学習の遅れ,対人的

なコミュニケーション能力の問題)を保護者

と教育側の認識の「ズレ」が生じやすい領域

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第6号,2006年80

ととらえ,重点的な情報の収集が必要である

と考えられる。

また,各特徴の多寡を視覚的に評価したと

ころ,PDDでは保護者と教師の認識が一致し

ているようであったが,とくにAD/HDについ

ては両者の認識は一致せず,同じAD/HDを持

つ子どもであっても,子どもによって状態の

認識が異なることがわかった。このことは,

教師の印象や判断は保護者のものと一致しな

いだけでなく,いずれも医学的な診断とは異

なるものであることを示し,教育的な支援の

検討にあたっては保護者からの訴え,学校か

らの情報のいずれか一方のみを重視せずに,

診断を含めた子どもの状態の評価とそれに応

じた配慮といった,医療側の客観的な判断を

要することを意味する。

4 今後の課題

特別支援教育では,学校には校内委員会が

設けられ,委員会の意見調整と地域社会との

連携には特別支援教育コーディネーターが当

たる。一つの学校の中だけではなく地域で支

援するという視点は今後ますます重要となろ

う。

このとき医療と教育が連携するために,地

域の身近な医療機関を積極的に活用すること

が期待される。ある疾患に特定の特徴が見ら

れても,同じ特徴を持つ者すべてが同じ疾患

を持っているわけではない(42)。教育との連

携の前提として正確な診断は欠かせない(15)。

診断をひとつの仲立ちとして,学校と保護者

が相互の認識を持ち寄り,子どもにとっては

社会に等しい学校生活(14)の充実のために,

彼らの「苦手さ」や「困りごと」に着目して

支援方法を話し合う必要がある。したがって

「苦手さ」についてお互いの認識の範囲や程

度の違いを容易に知覚できるとよい。

本研究に基づいて行なった保護者と教師を

交えた話し合いの場では,実際にそれぞれが

記入した回答紙を見ながら,どの項目で回答

が一致しなかったのか話し合う場面が多く見

られた。そして,その項目が子どものどのよ

うな側面を見ているのか,その関連項目で

「ある」が多かった場合にどのようなことが

考えられるのか,といった情報が必要になっ

た。すなわち「どの項目に該当したか」とい

う情報に加えて,「どの傾向が強いと認識し

ているか」といった見方も併せて行なったほ

うが,保護者と教師の双方の認識の「ズレ」

を相互が認知しやすいと考えた。また回答紙

のみで説明を行なうよりも,回答紙に加えて,

得点の傾向を表す方法があればよいと考え

た。使用した質問紙は53項目あることから,

各個人の得点状況を一括表示するために容易

に視認できる方法を用いる必要があると考え

た。多くの数値を同時に表示する方法にはレ

ーダーチャートなどさまざまな方法もある

が,本研究はより容易に視認できる方法であ

り,親しみやすい図柄としてチャーノフの顔

グラフを採用した。今後は本稿で試みたチャ

ーノフの顔グラフを併せて導入し領域ごとの

特徴の多寡を提示し,認識の共有化を促進し

たい。

また学校だけでなく医療機関も発達障害児

のための地域支援ネットワークを育成してい

く努力が必要である(23)(32)が,その際の課題

は,個人情報の扱い(2)(32)と人権への配慮(2)

であろう。保護者に対する説明と同意(イン

フォームド・コンセント)は必須であり,書

面を用いることが勧められる(43)。特別支援

教育モデル事業においては,保護者の同意を

得る前に校内委員会等が指導教師の配置や通

級指導の利用など児童の処遇を決定し実行し

ている例(44)も見受けられ,人権への配慮に

ついて改善の余地がある。

すなわち教師や学校,コーディネーターは,

医療側に子どもの情報を提供し判断を任せき

りにせず,また医療者も診断をつけて終わり

にしその後の対応を学校へ任せきりにせず,

保護者との認識の「ズレ」を解消し保護者と

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堀口・宇野:特別支援教育と医療の連携 81

ともに支援のあり方を考える必要がある。こ

れらの取り組みをすべての支援者が協働して

行なうことで,充実した支援が実現されると

思われる。

付記

本研究の一部は平成17年度文部科学省科学

研究費補助金(特別研究員奨励費)「国際障

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社会参加のための支援方法の開発」(研究代

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