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1 漏電ブレーカ(ELB)の安全使用と漏電状況の調査 操作・取扱い方法、誤動作・誤不動作の考え方、接地との関連、漏電の調査・測定器の使用例 九州産業コンサルタント協会 増永秀人労働安全コンサルタント・電気部門1.はじめに 1-1漏電現象及び発生する危険 (感電・漏電火災) 1-2漏電ブレーカの効果、使用に伴う不具合 ELB が落ちるとは) 2.漏電動作時のブレーカ操作による停電復旧操作 (落ちた場合には) 2-1ブレーカ操作による復旧 2-1-1.基本的な操作手順 (リセット操作) 2-1-2.実施時の注意事項 a) 操作前の確認項目(漏電表示他) b) 各種の ELB と動作の違い 2-2復旧できない場合 2-2-1.子ブレーカが切でも親 ELB が入らない a) 不良箇所の未分離 (外線引出、ニュートラルスイッチ等) b) ELB 本体不良 2-2-2.子ブレーカが投入されても親ELBがトリップしない a) 不安定な漏電 b) もらい動作 (他設備不具合の影響) c) 設備特性 2-2-3.親ブレーカが ELB ではない (中性相欠相、事故及び保護) 3.ELB の取扱い (誤動作・誤不動作防止) 3-1動作試験 (単体での正常確認) a) テストボタン b)専用試験機 c) 試験時の注意点 d)電路から取外しての単体試験 3-2設置方法及び選定 3-2-1.二次側接続設備の最適化 (一次送り) 3-2-2.逆接続 (漏電検出回路保護) 3-2-3.感度電流、時延、インバータへの対応 保護協調・高調波3-3. 接地 漏電検出動作への接地の影響) 3-3-1.外箱等の接地 (安全動作要因) 3-3-2.共通接地によるもらい動作 D 種・ELB 専用接地、B 3-3-3. MCCB の漏電トリップと ELB の過電流トリップ 3-3-4.接地による漏電(地絡)現象の違い a) 非接地系 (ELB が適用できない理由及び設備例b) 灯動共用設備V 結線・Y 結線c) 接地システムTTITNT、太陽光設備例4.漏電調査 4-1停電しての絶縁抵抗測定 メガでの絶縁測定・太陽光・高圧4-2停電しないで行う測定 零相電流 Io による推定4-2-1.臨時に行う方法 a) クランプリークメータ b)漏電現象の記録 c)活線漏電点標定器 4-2-2.常時監視を行う方法 (B 種接地線の電流測定a) 絶縁監視装置(IoIorIgr 方式) b) 漏電火災報知器(LGR4-2-3.設備運用状態との比較検討 (漏電記録、聞き取り調査4-2-4目視外観点検 update_2020/02/03

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1

漏電ブレーカ(ELB)の安全使用と漏電状況の調査

操作・取扱い方法、誤動作・誤不動作の考え方、接地との関連、漏電の調査・測定器の使用例

九州産業コンサルタント協会 増永秀人(労働安全コンサルタント・電気部門)

1.はじめに

1-1.漏電現象及び発生する危険 (感電・漏電火災)

1-2.漏電ブレーカの効果、使用に伴う不具合 (ELBが落ちるとは)

2.漏電動作時のブレーカ操作による停電復旧操作 (落ちた場合には)

2-1. ブレーカ操作による復旧

2-1-1.基本的な操作手順 (リセット操作)

2-1-2.実施時の注意事項

a) 操作前の確認項目(漏電表示他) b) 各種の ELBと動作の違い

2-2.復旧できない場合

2-2-1.子ブレーカが切でも親 ELBが入らない

a) 不良箇所の未分離 (外線引出、ニュートラルスイッチ等) b) ELB本体不良

2-2-2.子ブレーカが投入されても親ELBがトリップしない

a) 不安定な漏電 b) もらい動作 (他設備不具合の影響) c) 設備特性

2-2-3.親ブレーカが ELB ではない (中性相欠相、事故及び保護)

3.ELBの取扱い (誤動作・誤不動作防止)

3-1.動作試験 (単体での正常確認)

a) テストボタン b)専用試験機 c) 試験時の注意点 d)電路から取外しての単体試験

3-2.設置方法及び選定

3-2-1.二次側接続設備の最適化 (一次送り)

3-2-2.逆接続 (漏電検出回路保護)

3-2-3.感度電流、時延、インバータへの対応 (保護協調・高調波)

3-3. 接地 (漏電検出動作への接地の影響)

3-3-1.外箱等の接地 (安全動作要因)

3-3-2.共通接地によるもらい動作 (D種・ELB専用接地、B種)

3-3-3. MCCBの漏電トリップと ELBの過電流トリップ

3-3-4.接地による漏電(地絡)現象の違い

a) 非接地系 (ELBが適用できない理由及び設備例)

b) 灯動共用設備(V結線・Y結線) c) 接地システム(TT・IT・NT、太陽光設備例)

4.漏電調査

4-1.停電しての絶縁抵抗測定 (メガでの絶縁測定・太陽光・高圧)

4-2.停電しないで行う測定 (零相電流 Ioによる推定)

4-2-1.臨時に行う方法

a) クランプリークメータ b)漏電現象の記録 c)活線漏電点標定器

4-2-2.常時監視を行う方法 (B種接地線の電流測定)

a) 絶縁監視装置(Io、Ior、Igr方式) b) 漏電火災報知器(LGR)

4-2-3.設備運用状態との比較検討 (漏電記録、聞き取り調査)

4-2-4.目視外観点検

(update_2020/02/03)

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1. はじめに topへ

漏電ブレーカ(ELB)はビル、工場、工事現場から家庭まで、感電・漏電火災・設備損傷等の災害防止

に不可欠な設備です。しかしながら、おかしな動作で関係ない所まで停電する(誤動作)、使用しているの

にビリッとする、漏電火災が心配だ(誤不動作)等のご相談もお受けします。ここでは、私がご相談を受け

た、及び、ご説明のために調査検討した各種事項の取り纏めという形での記述を行います。動作時(落ち

た場合に)にどのようにするか?でも、多岐にわたる関連要因を知っておくことが安全・安心な操作のた

めに役立ちます。

関連項目として、漏電ブレーカの内部構造、スターデルタ始動電動機の漏電調査、高圧ケーブルの絶縁

測定を添付しています。九州産業コンサルタント協会ホームページへ戻り、ご参照ください。

1-1.漏電現象及び発生する危険 (感電・漏電火災) topへ

漏電は、電源から送出された電流の一部が電気設備の外(大地等)へ漏れ出す現象です。電気設備の電

圧がかかる部分(充電部)は、電気を通さない物質(不導体)で被覆、又は他の部分と接触しないように離

隔することで絶縁されています。絶縁が不良になると、電流が大地へ「漏れ」出し、漏電(電源へ帰ってこ

ない)電流が発生します。右図に漏電状態を示します。

漏電が無い場合は、ブレーカ出の電流 I1と戻の電流 I2は同

時同量ですが、漏電が生じると差が生じます。ELB はこの差

を検出して、「トリップ」と呼ばれる自動的な OFF(開放)動

作を行います。

漏電電流は拡散して消滅することはありません。どこか?を

経過して電源である変圧器へ戻ります。電気的な特性です。電

流経路に人体が入ると、感電と呼ばれる災害になります。漏電

電流は、ほとんどの場合はmA(千分の 1アンペア)単位の大

きさですが、人体を流れると、けいれん等の障害が生じます。

工場等の動力用で、絶縁がゼロになる完全地絡と呼ばれる事故

では 10A 以上にもなります。設備外箱等に生じる電圧での電

撃で転倒して頭を打つ、高所から墜落する、溺れる等の重大災

害が二次的に発生する危険もあります。

変圧器へ戻る途中では水回り、金属製配管、建屋鉄骨等の予期していなかった経路に集中して流れるこ

とがあります。発熱等による絶縁劣化が進行し、電流はさらに大きくなります。建物金属部(接続部・金

具・釘など)へ集中した場合は赤熱し、近くの木部・堆積したゴミ等に着火する場合があります。ケーブル

等では線間の絶縁も劣化させ、短絡して大電流が流れると(地絡短絡と呼ばれる電気事故)、短時間で火災

等の事故になります。

右図は、工場の ELB保護がない動力ケーブルでの金属電線管

内部の漏電(地絡)事例です。電線管引込時にケーブルについた

傷からの劣化進行と考えられます。ケーブルは蒸し焼き状態で、

電線管には地絡電流によると考えられる穴までも開いています。

周辺に可燃物があれば、火災になったと考えられます。

漏電による災害は絶縁物劣化のみでなく、接触しないと信じ込んでいた部分への人体の接触、電気配線

設備

感電

ELB

発熱

火災

B種接地

電路(配線)I1

I2分岐ブレーカ

漏電でI1≠ I2

動作

漏電電流

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の間違いなど、発生までは予想しなかった原因でも生じます。絶縁劣化の要因も雨濡れ、化学的劣化(使

用環境)・物理的劣化(ケーブルの無理な折り曲げ、振動)、小動物の食害等多種多様です。ネズミがかじっ

たケーブルが雨漏れで濡れる等、複合することがあります。電気使用設備までのあらゆる場所で発生し、

漏電原因を完全に予防することは極めて困難です。ELBによる保護が必要になります。

※ 漏電検出方法の概要

ELB本体下部(二次側)に内蔵されている ZCTと呼ばれるドーナツ状のも

の(鉄心)で検出されます。図は 3極式(三相動力又は単相三線式)の検出部

の分解例です。左側の白矢印の部分が ZCTです。赤、白、青の 3本の負荷(二

次側)ケーブルを貫通させて、同時に測定することで差分である漏電成分(帰

ってこない)を検出します。電源側(一次側)の漏電の検出できません。負荷

側には右側矢印の、電磁力で機械的に動作する過電流検出コイルも付帯して

います。1-1図での 2極式も基本的には同様です。構造例は添付「漏電ブレーカの内部構造」をご参照くだ

さい。

※ 漏電発生時の疑問例

・電力料金の増加

漏電すると電気料金はどれくらい増えるか?を考えます。漏電量として感電防止用 ELB の感度電流

30mA(人体にとっては危険)が流れ続けた場合、100V での電力換算では 3W、1 か月では 3×24×30≒

2.2kWh、電力料金単価 25 円/kWh として 55 円/月となります。通常は気づくことのできない金額です。

ELB等の保護がなければ、感電・火災等発生の危険を放置してしまうことになります。現在は、全ての家

庭用の受電分電盤には ELBが使用されています。電圧 100Vの電線等から電気が漏れるのに、小さな電流

しか流れないことは不思議ですが、これは国内の低圧電気設備は「電気設備技術基準」により、電源(系

統)接地と設備外箱等(機器)接地を別に施工されているためです。工場動力 200Vでは 10A以上が流れ、

危険な状態が継続する場合がありますが、全体の電力使用量が大きいため、料金で知ることは困難です。

・漏電が生じない電気事故(ELBで防止できない電気火災)

短絡事故で大きな電流が発生しても、接地が不適であれば漏電(対地)電流が流れないため、ELBの動

作はありません。例えば、絶縁性の壁に取付けられたクーラ外箱の接地が無い場合、内部不良での短絡電

流が流れても、焼損等(電気火災)で漏電(短絡地絡)が発生するまで動作できません。いったん発生(着

火)した火災は ELB動作で電流が消滅しても続きます。安全安心な運用のためには、本体の取り扱いと同

じく、接地を含む使用状態の理解が重要です。感電防止についても同様です。使用効果が認められない場

合を含めての、ELBと接地システムとの関連を 3-3-1節に記述します。

短絡による発火抑制止には、「コード短絡保護付き」の分岐ブレーカの採用が考えられます。災害での停

電後のコード挟み込み等による「通電火災」にも対応できます。

・漏電している電気設備の使用

電気設備の絶縁不良では大地への「漏れ」である漏電と、相(線)間の短絡(ショート)が生じます。シ

ョートは電路の接触等で、大電流になりますが、電流は事故点で電源に戻ります。設備には電流が流れず、

設備の使用はできなくなります。照明が点灯しない等です。漏電(地絡)は大地への「漏れ」で、前述の接

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地等の各種の抵抗分に制限された大きさです。漏れた分は電源が負担して事故点より先の設備にも電流が

流れます。漏電中であっても、照明ではちらつき等が感じられることがありますが、設備の停止は生じま

せん。200V動力での影響は更に少なくなります。

・高圧部への波及

高圧6600V受電の自家用設備では、電圧変換は絶縁変圧器で行われ、高圧-低圧間は絶縁されています。

低圧部で大きな漏電が生じても(大きな地絡電流が流れても)、漏電電流は低圧部の接地を通して循環し、

高圧部の故障としては検出されず、高圧部の停電は発生しません。しかしながら、低圧部の漏電を防止し、

接地を良好にしておくことは、高圧受電スイッチ(PAS)用保護装置(SOG)の動作安定のために必要で

す。3-3-1節の ELBの「もらい動作」で説明します。

・漏電と地絡

充電部(電路)と大地(アース)間の絶縁不良現象で、理論的には同じものです。漏電は低圧部で一定の

対地絶縁がある状態で電流が生じている場合、地絡は高圧配電線等で絶縁がほぼゼロの状態(電流がない

場合を含めて)とも考えることができます。高圧で絶縁がゼロではない場合は、微地絡とも呼ばれます。

1-2.漏電ブレーカの効果、使用に伴う不具合 (ELB が落ちるとは) topへ

ELBは漏電成分電流の検出で、原因に関係なく「トリップ動作」(自動的な OFF)を行います。「落ちる」

とも呼ばれています。右図がトリップ動作の状態です。ハンドルをそのまま上げても

入りません。ハンドルを下に押し下げる、リセット操作(2-2-1節参照)が必要です。

保安設備であるため、操作者が事故発生を認識した後の入り操作を要求しているため

です。

分電盤での使用例を示します。図・左は自家用設備(工場、事務所等)、図・右は一

般用設備(家庭)です。親(受電用)ブレーカとして ELBが使用されています。一般用の場合はリミッタ

(契約ブレーカ)が ELBの前に取り付けられます。リミッタは受電電流が受電契約アンペア値を超過する

と、電気的な故障はなくても動作し、電気の使用を停止させます。制限する電流により色別が定められて

います。リセット操作は不要で、使いすぎの原因になった家電(ドライヤー、レンジ等)を停止してハンド

ル(レバー)を上げるとそのまま入ります。

子ブレーカ

親ブレーカ

リミッタ

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ELBが親(受電用)ブレーカとして使用されている自家用設備での分電盤結線図例を示します。子(分

岐用)安全ブレーカ B が 10~20 台分岐しています。ブレーカ B は回路

の短絡(コード、コンセント又は使用機器等)、電気の使いすぎ(タコ足

配線、電気ポットを 2 台つないだ等)による過電流事故で動作します。

漏電が設備のどこかで生じると、親ブレーカ(ELB)が動作し、分電盤全

体を停電させます。漏電に対しては安全が保たれますが、健全な部分まで

同時に停電するという、設備使用に対しての不具合となります。漏電部分

離による安全と、利便性の相反(トレードオフ現象)となります。

ELBには誤動作(もらい動作・3-3-2節)も発生します。分岐回路毎の

使用が最良ですが、経費面等で、特に電灯(100V)分電盤では、受電が

ELBで、コンセントなどへの子ブレーカには安全(漏電検出機能の無い)

ブレーカが使用されることが一般的です。医療用等で停電範囲を極小化する必要がある場合は、子ブレー

カに ELBが使用されます。2-2-3節に概要を記述します。

※ 事業所(自家用)と家庭用の違い

事業所でも、家庭用と類似の盤が電灯分電盤として使用されます。リミッタは

ありません。基本料金はリミッタの契約電流ではなく、事業所全体で実測された

最大電力(デマンド)で自動的に、又は協議により決定されるためです。自家用以

外で同様にリミッタがないものに、小規模な動力で「負荷設備契約」「主開閉器契

約」が適用されている場合、取引用電力計がスマートメータの場合があります。

電流制限機能のあるスマートメータは契約電流超過で遮断し、一定時間後に自動投入されます。

2.漏電動作時のブレーカ操作による停電復旧操作 (落ちた場合には) topへ

2-1. ブレーカ操作による復旧

分電盤の受電(親)ELB動作時の応急復電処置として使用される方法です。分岐(子)ブレーカと親(ELB)

ブレーカの交互操作により、分岐回路単位で漏電部を見つ

け、切離すことで健全部を復旧させます。手順は、東北電気

保安協会殿ホームページに、右図のように、わかりやすい説

明が記載されています。一部を引用して私なりの補足を加え

ます。

2-1-1. 基本的な操作手順

・手順 1:全ての子(配線用)ブレーカを「OFF」にします。

負荷設備が漏電部も含めて、切り離されます。

・手順 2:親ブレーカ(ELB)のハンドルを「OFF」位置ま

で押下げて固定(リセット)した後、「ON」位置まで押上げ

ます。漏電部が切り離されているので ELBは入ります。

・手順 3-1:子ブレーカを数秒間隔で一つずつ、ELBが動作

しないことを確認しながら「ON」にします。漏電個所がつな

がった子ブレーカが「ON」になると、漏電状態になり ELB

B

B

B

B

B

B

B

B

B

B

B

B

B

B

電源より

負荷へ

負荷へ

ELB

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が動作します。その子ブレーカを再度「OFF」にします。

・手順 3-2:ELBを「ON」にして、他の子ブレーカを「ON」にします。漏電個所以外の停電は回復しま

す。漏電個所の子ブレーカは「OFF」で、切り離しのままとします。別途の点検修理が必要です。

この方法は、事業用・家庭用ともに行うことができます。測定器等は必要ありません。しかしながら、か

なりの割合で復旧できない場合があります。復旧できない例を次節にご紹介します。復旧できた場合にも、

継続して安全使用するためには保安協会、電気工事店等の専門員に対応を依頼することが必要です。東北

電気保安協会殿ホームページにも、「漏電ブレーカが動作したとき、原因を確かめないで ONにすることは

危険です。ONにする前に東北電気保安協会へ必ず連絡してください。」と記されています。

※ トリップの確認とリセット

ELBは漏電検出で「トリップ」位置になります。ハンドルの操作でトリップ位置とすることはできませ

ん。ON位置のハンドルを手で押し下げると、内部

の(蓄勢された)バネの力で瞬時に OFF位置にな

ります。図・左がトリップ位置で、ハンドルは中

立、上側の緑 OFF 表示と下側の赤 ON 表示が半

分ずつ見える状態です。ハンドルはフラフラする

だけで、上にあげても ON位置にはなりません。壊れていると勘違いすることもあります。ハンドルを図・

中の OFF位置まで、やや強く押し下げることで機械的にリセットされます。リセット操作が異常の確認と

もなっています。この後ハンドルを押上げると、図・右の ON 位置となります。事業所等で使用される 3

極の過電流保護専用ブレーカ(MCCB)も同様のトリップ動作を行います。この動作が原則ですが、トリ

ップ動作によりそのまま OFF位置になる ELBもあります。

旧型で、トリップ時のハンドルが中立より上向きになって、目視では判断できにくい

場合もあります。右図は、壁の方(分電盤)でパチと音がして電気が全部消えたのに、

ELBは ONのままと誤認された例です。ON、OFFの表示もありません。ブレーカは入

っているのに電気がこないと思いこむと、以後の調査は面倒なものになります。ON位

置のハンドルは、それ以上は ON方向には動かないので、ハンドルが上の方向に動く場合はほぼトリップ

状態です。この例でも通常のリセット操作で ONとなりました。

※ 漏電感度電流と動作の関係

ELBは、安全のために、設定された感度電流までに必ずトリップするように作られています。実際には

最少動作(定格不動作)電流と呼ばれる、設定値の 1/2から設定値までの間で動作します。感電防止用の設

定値 30mA の場合は 15mA以上 30mA以下(概ね中央値 22.5mA)での動作です。過電流保護用(安全)

ブレーカは定格電流値(例えば 20A)以上で一定の時間が経過した後にリップするように作られています。

このために、ELBは頻繁に動作しすぎると感じられることもあります。

安全ブレーカはMCCB(Molded Case Circuit Breaker)又はNFB(No-Fuse Breaker・商品名)とよ

ばれています。ELBも本来は ELCBと記すべきですが、本稿では一般的な ELBを使用しています。

2-1-2.実施時の注意事項 topへ

復帰操作を行う場合の留意点を説明します。

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a) 操作前の確認項目

・ブレーカの状態

手順 1では、子ブレーカに OFFのものがあれば、マークしてから実施します。他の原因で OFFとなっ

ている場合に、手順 3の ON操作で、OFF処置されていたブレーカまで間違えて ONにすることがありま

す。除外されていた故障までもが再発します。

漏電が危険であると広く知られるようになったためか、電気がおかしい原因は漏電である、との先入観

があり、ポット 2 台使用での電気の使いすぎでの子(安全)ブレーカの動作、蛍光管の 2 灯同時故障での

不点灯、ヒータを使用中にコンセントを引き抜いて火花が出る等の場合も、漏電による障害だと思いこま

れることがあります。ブレーカ状態と設備運用状態が把握できれば、原因の推定ができます。平常状態の

マーキングがあれば、異常発生時のブレーカ動作確認のためにも役立ちます。

・漏電表示ボタンの確認(過電流有無の確認)、復帰

手順 2では、漏電表示ボタンを確認し、復帰した後に ONにしま

す。トリップ動作で表示ボタン(この機種では黄色)は、図・左のよ

うに突出した状態になります。押込むと図・右のように復帰します。

ハンドルの ON操作に連動して復帰するものもありますが、手動復帰が可能です。

一般的な ELBは過電流での遮断動作も行います。過電流動作では表示ボタンが突出せずにトリップし

ます。復帰させておかないと、次の動作が過電流であっても、漏電と間違えることになります。分岐

(子)ブレーカが劣化している場合等には、親 ELBが先に過電流動作する場合があります。過電流動作

については 3-3-3節で説明します。

表示ボタンは、白、黄色が一般的ですが、メーカ・製造年代・用途により色・配置共に各種のものがあ

ります。図の緑矢印が

いずれも動作表示ボタ

ンです。赤矢印は、後

述する手動試験(テス

ト)ボタンです。「動

作表示」等の文字を確認することが必要です。動作表示の復帰忘れと思いこんでテストボタンを押し、使

用中の設備を停電させることは、残念ながらよくある失敗です。

b)各種の ELBと動作の違い

ELBには各種のものがあり、動作にも違いがあります。いくつかの例を示します。他にもいろいろな

ELBがあるので、本体の表示を読んで理解して操作することが必要です。

・漏電保護専用のブレーカです。試験ボタンのみがあり、漏電表示ボタンはありませ

ん。緑色が一般的(旧 JIS規格)です。過電流遮断(消弧)能力は無いので、電源(一

次)側に過電流保護(安全)ブレーカが必要です。既設の回路に漏電保護を追加する場

合等に使用されます。

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・漏電を検出してもトリップしないブレーカです。本体表面に「漏電アラーム」等の表

示があります。表示灯(緑矢印)が点灯し、本体(または分電盤)にブザーがある場合

は鳴動させます。工場等で、漏電時も安全のために停電させることのできない設備に使

用されます。労働安全衛生法等で ELBの設置が義務付けられている場所での使用はで

きません。ブレーカ操作による漏電復旧は、親ブレーカ ONのまま、表示灯による確認

になります。トリップ動作は過電流のみよるため、トリップ時の子ブレーカ操作での故障調査は危険です。

メーカにより本体が白色のもの、オプションで漏電トリップ要素を付加されている場合もあります。

・家庭用等のコンパクト型電灯分電盤専用品として、最近使用されはじめられている ABF型と呼ばれる

ブレーカです。二次側ブス引出が側面にあります。左が ON状

態、右がトリップ状態です。矢印の窓が黄色に変わりますが、

ハンドルは中立ではなく OFF位置になります。リセット操作は

不要で、そのまま ONとなり、窓の表示もハンドルに連動して

復帰します。家庭用等で、リセットなしに再動作しても、大事

故につながらない場合はこれでも良いとの発想ではないかと思います。

・分岐(子)ブレーカと同じ寸法・形状の 2極式です。親ブレーカ

が ELBでない場合等に、分岐回路毎の漏電保護を行います。漏電検

出の感度電流は 30mAで、過電流兼用です。図左は、漏電表示があ

り、テストボタン(赤矢印)の上に漏電表示ボタンがある例です。

漏電検出ではハンドル位置もトリップ位置になります。リセット後

に ON操作ができます。漏電表示ボタンはハンドルに連動して復帰します。図右は漏電表示ボタンがな

い、遮断容量 30Aと 20Aの例です。トリップ位置はなく、漏電又は過電流で直接 OFF位置になりま

す。漏電の確認は二次側の絶縁測定が必要です。OFF位置からそのまま ON操作ができます。漏電動作

がない漏電警報付きもあります。

※ 点検時の安全

自家用分電盤の中扉(緑矢印)を開くと、母線(ブス)等の絶縁されていない充電部(赤矢印)が露出し

ます。中扉で覆うことで操作者との離隔(絶縁)を取り、安全を保つ構造とな

っています。家庭用では、外箱を外すと充電部が露出します。活線状態での充

電部を露出させての点検・ブレーカ操作は、接触しないはずの充電部接触によ

る感電の恐れが大きい作業です。事業所では、労働安全衛生規則の低圧活線近

接作業になり、「低圧電気取扱教育」が必要です。ブスは前列が触れても感電

の少ない中性(接地)相となってのものがほとんどですが、極性(電圧)相が

前列になっている場合もあり、注意が必要です。

改造されていない分電盤で、中扉または外箱を閉じた状態でのブレーカ操

作は安全です。本稿では中扉を開いた状態での図も掲載していますが、技術員でない方は理解するための

参考としてご覧ください。

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2-2. 復旧できない場合 topへ

基本的な操作手順では復旧できない場合を、3例に分類して記述します。

① 手順 1で全ての子ブレーカを切っても、手順 2の親 ELB が入らない場合

② 手順 2のあと、手順 3-1で全ての子ブレーカを入れても親 ELBがトリップしない場合

③ 設備構成が異なる(親ブレーカが ELBでない)場合

漏電ブレーカに各種のものがある以上に、実際の使用状態は千差万別です。接続されている各種負荷の

特性も複雑に関連します。分電盤にはブレーカ以外のものも設置されています。原因調査には一定の知識

と経験が必要です。専門家に依頼すべきものですが、状況と概要を理解しておくことは、安全操作のため

にも必要です。

2-2-1.子ブレーカが切でも親 ELBが入らない

a) 不良個所の未分離

子(分岐)ブレーカが全数 OFFでも、漏電している回路が分離されない場合です。親 ELB二次側は漏

電状態のままであり、再度トリップします。

・親 ELBと子ブレーカの関係間違

分電盤に二台の親ELBがあり、親ELBと子ブレーカの関係を盤面から判断することが困難な場合です。

分電盤の盤面形状の例と結線図を示します。

ELBが二つある例(中扉表面) 盤の母線配置 電気結線

この例では子ブレーカの母線は左右分割で、左 ELBが左側母線、右 ELBが右側母線です。上下分割で、

左 ELB が上側、右 ELB が下側の場合もあります。親 ELB と子ブレーカの関係は内部調査を行うとわか

りますが、停電時にはその余裕がありません。間違えて、関係のない側の子ブレーカを切っても、漏電回

路の切り離しはできません。ブレーカの関係を盤面に表示し、停電時には慌てないようにしておくことが

早期の停電復帰につながります。

類似の間違いとして、分電盤本体を間違えて、異なる分電盤を点検することがあります。盤名称があい

まいな場合等に発生します。点検そのものが意味不明となります。分電盤の所在、どのような設備が接続

されているかを調べておくこと(単線結線図の作成)が事前対策の第一歩です。

・ELBの二次側から外部への電源引出

ELBの二次側母線から負荷ケーブル(外線)が直接引出されている場合です。図では赤白黒のケーブル

が引出されています。外線以降に漏電があると、子ブレーカ全数を OFFとしても、漏電部の切離しはでき

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BE BE

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BE BE

左右分割 上下分割

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ません。

分電盤の増設があった場合によく認

められます。増設分電盤は、炊事場の奥、

書棚の後ろ等、見つけにくい「どこか

に?」にあることが普通です。前項同様

に平常時の調査が有効です。

外線引出では、結線図の○印の場所に

法規(電気設備技術基準等)により分岐

ブレーカを設置するようになっていますが、引出先の分電盤に受電ブレーカがあるので安全である(途中

のケーブルの短絡事故は無い・経費節減)の考えで直接引出しを行ったと考えられます。分岐ブレーカが

あれば子ブレーカ同様の操作ができます。4-1 節の、停電しての絶縁測定を安全・効率的に行うためにも、

外線をブレーカで母線から切り離しできるようにしておくことが必要です。

・制御用電源の引出

制御用電源が直接引き出されている場合です。図・左は二次側母線

からの引き出し、図・右は受電ブレーカの二次側からの引き出し例で

す。ネジ止めの黄色(IV)線が引出部です。動力盤の場合は三相のう

ち 2相が単相 200Vとして使用され、R1、S1等の線番号が付けられ

ています。単相 3線式では R、N等が使用されます。

制御回路は安全だという発想ですが、屋内盤でも雨漏れ・空調配管

の結露による水滴等で水濡れし、防水性能が弱いマグネットスイッチ等の内部に浸水することがあります。

分電盤に制御機器が設置されて制御盤に近い状態になっている場合、リミットスイッチ等が屋外現場に引

き出されている場合もあります。制御回路はワタリが多く、切分けは極めて困難です。ネジ等を外しての

漏電調査は、時間がかかり副次的な障害の危険もあります。制御電源引出点に 2 極式のブレーカを設置し

ておくことが必要です。

・ニュートラルスイッチによる中性相(接地側)並列配線

古い分電盤で、下部にニュートラススイッチと呼ばれる中性相集合端子台がある場合です。子ブレーカ

の全数切りで親ブレーカが入りますが、中性相が並列接続されているため、いずれかの子ブレーカの入り

で絶縁不良部の回り込みが生じ、親ブレーカが動作します。子ブレーカ操作による絶縁不良部の判定は極

めて困難です。図の黄色い部分が NS

です。スナップ型(図左)とプル型(図

右)があります。NSには電流の開閉能

力はないため、受電中の切操作は厳禁

です。

子ブレーカは 1線切(1P)で、極性

(対地電圧がある)相に使用されます。負荷への他の 1 線(白線)は、盤下部にある中性相ブスバーに連

設された、黄色のニュートラルスイッチ(NS)に接続されます。NS 全数入りでは、切とした子ブレーカ

二次側の絶縁測定を行っても、ほとんどの場合ゼロになります。一対一に対応している NS を切としなけ

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BE

B

B

B

どこかに?

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れば、2線切ブレーカと同様の測定はできません。

NSは劣化していることが多く、レバーが折れる等で再投入不能になることも多発します。NSの入忘れ・

投入不良があると「中性相喪失」(2-2-3 節)の異常電圧で、接続されている電気品の焼損等が生じます。

上図左では、不具合設備の分離のため NS の 2 台が運用中でも開放されています(対応する子ブレーカも

切)。NS 切での絶縁測定等の後、間違えて入りとすると、除去されていた不良が再発します。ブレーカ操

作による調査はできないと考えることが安全です。2P型ブレーカに更新することが最良です。分岐ブレー

カの更新と、極性相はそのまま、接地相を中性相ブスから引き戻すことで更新できます。

NS が正常であることは、停電中には NS 端子の下側端子と中性相ブス間の抵抗がゼロであることをテ

スタで確認、受電中には下側端子では検電器が動作しないことで確認ができます。

※ ブレーカ本体に NS(図の黄色部)が付属した型もあります。子ブレーカの

配線は 2P型同様に 2本です。NSはブレーカハンドルと連動での動作はしない

ため、個別に切にしなければ中性相は分離されず、集合端子と同様の現象が生じ

ます。一対一対応の NSを探す操作は不要です。

子ブレーカ(1P)の二次側の端子から 2本の配線が出ている型もあります。1

本は極性相として負荷へ接続され、もう 1 本は NS の上側端子に接続されます。

NSの上側端子からブレーカ(極性側)に配線が引き戻され、極性相と中性相が短

絡しているようにも見えます。3 極構成の NS が使用さ

れているため、負荷設備からの中性相配線は NS 入りで

は中性相ブスに接続され、NS切位置では上側端子と接続

されます。受電ブレーカ OFFでNSを全数切位置とする

と、ブレーカとNSとの関連(一対一)を考えずに、ブレ

ーカ二次側で極性と中性相の絶縁測定ができます。運用

状態の NS入りの状態では、NS上側配線では検電器が動作、下側配線では不動作が正常です。

b) ELB本体不良(誤動作と誤不動作)

ELBは漏電と過電流の二つの保護要素を持つ、内部に電子回路基板とバネ・精密リンク機構がある、故

障しやすい装置です。劣化が生じると、ON操作が不能になる場合があります。通常の電流アンバランス、

電流による電磁振動でもトリップする等の「誤動作」も生じ易くなります。

ELB のメーカ更新推奨年数は 15 年ですが、本体の白ボケ・ハンドルの緩み・トリップボタンのぐらつ

き等が発生している状態で使用されている場合が多数あります。故障時の分解修理は不可能で、復旧には

交換品手配の時間がかかります。旧型で取合いが異なる場合は母線改造が必要になり、更に時間がかかり

ます。電気の安全・安心な使用のためには、予防保全としての ELB本体更新が最良の手段です。

※ 誤動作と誤不動作

設備安全には、「誤動作」と「誤不動作」の考え方があります。安全の面からは「誤動作」は許容できて

も、「誤不動作」は許容できません。ELBの「誤動作」は二次側に不具合が無いのに ONでなくなること、

「誤不動作」は不具合があるのに ONのままであることです。「誤動作」は二次側が停電するので電気の使

用での支障がありますが、漏電・感電・火災等は発生しません。「誤不動作」は不具合がある設備に電気が

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流れ続け、重大災害につながります。ELBが劣化又は故障した場合、または漏電が疑われる場合は、安全

側の「誤動作」方向である「落ちる」ことが設計の基本となっています。

・漏電検出部の劣化

検出回路不良と考えられる場合は、ハンドルを上げると同時に、跳ね返されるようにトリップ動作しま

す。リーククランプを取り付けても、漏電電流は表示されません(電流発生前)。右図上部の緑色の部分が、

ELB内部の漏電検出部です。通常のプリント基板がむき出しで使用されています。基板の診断は不可能な

ため、二次側が良好であること(絶縁測定、子ブレーカの全数切等)と外見劣化からの推測になります。故

障状況によっては機械的不良と同様に「落ちやすい」状態にもなります。

ELB 内部に水が浸入した誤動作例です。受電 ELB のトリップが多発しました。二次側絶縁は良好でし

た。分電盤内部への水漏れがあり、端子台も水濡れ(発錆)が認められました。

乾燥させると(しばらく時間が経つと)再投入できますが、時間が経つと不規

則にトリップしました。本体不良と判断し、新品更新で正常復帰しました。取

外し品のメガと単体試験は正常でした。分解調査で、内部二次側の矢印部に浸

水の跡と考えられる錆状のものが認められました。水濡れによる検出部劣化が

生じていたと考えられます。

水没等の場合は、検出部のみでなく、機構部も含む劣化が生じます。水害、分電盤への水漏れ等による

内部浸水の疑いがある場合は、乾燥後に絶縁が回復しても、内部機構は損傷したままと考えて、無条件で

の更新が必要です。

中性相欠相(2-2-3節)保護が付属している場合、表示は漏電と共用のため、検出回路誤動作で表示ボタ

ンが出て動作します。漏電ではないと判断される場合の緊急対策として、一次側電圧と二次側ブス電圧を

確認して、検出リード線を外すことで ONになります。リード線が結線されていなくとも ON 動作への影

響はありませんが、至急の更新が必要です。

・ハンドル機構部の劣化

ELBは ON時のハンドル押し上げの力で内部バネを圧縮(蓄勢)したまま、ラッチで固定します。ラッ

チが劣化すると、「ON」位置が不安定になります。負荷電流変化の電磁振動でもトリップする、「落ちやす

い」とも言われる現象です。ハンドルの上げ操作には硬さがあり、正常であれば途中からカチと入ります。

OFF動作は内部圧縮バネの開放によるため、ハンドルを少し押し下げるだけで動作しますが、劣化すると

引っかかったような状態で動作することがあります。一般的に OFF動作が不安定な場合は、ON位置での

保持も不安定になります。

トリップしてハンドルが ON にも OFF にもならなくなった(訳が分からなかっ

た?)例です。図のように漏電表示は不動作、ハンドルは中立位置で上下のどちらへ

もフニャフニャの状態(リセット不能)でした。電圧測定で一次側は正常、二次側は

無電圧で、開放中であることは確認できました。電灯分電盤で子ブレーカ 4台を持つ

受電(親)としての使用です。分電盤から取り外したあと、原因は不明ですが OFF(リセット)可能とな

りました。動作試験(後述)では、22.5mAで正常に動作しましたが、再度、フニャフニャ状態になりまし

た。漏電検出部ではなく、機構部に不具合があったと考えられます。子ブレーカの一つの二次側の相間が

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短絡していたので、子ブレーカの動作前に過電流で動作し、そのまま操作不能になったと考えられます。

親ブレーカ 30A、子ブレーカ 20A で短絡感度が近いことが原因であった可能性があります。

・経年劣化

照明等の入切スイッチ兼用として使用されている場合は、原因不明の OFF動作が頻発することがありま

す。ブレーカの更新推奨時期は 15年・開閉回数で 10,000回以下です。2回/1日の操作で、600回/年(300

日)、12,000回/20年になります。大幅に超過して使用されている例がよくあります。機械的な劣化が進ん

だものとしての更新が必要です。本来はブレーカ出側に入り切りスイッチを設置し、ブレーカは事故防止

と回路の停止切り分けにのみ使用するべきものです。

※ ハンドルが ON位置になったにも関わらず、二次側に通電しない場合があります。MCCBでも同様の

故障が生じます。ハンドルと主接点は一体構造でないために、ハンドル ON でも主接点が閉じない、また

は接点の接触不良(酸化被膜発生等)が原因です。正常に ON になっているかは、二次側電圧のテスタ測

定で確認できます。三相の場合は検相器で相回転確認でも可能です。検電器は、二次側ケーブル、主接点

部等の誘導による電圧でも作動することがあります。検電器は誘導も含めて、電圧が無い事を確認するも

のです。商用の電圧があることの確認はできません。

ごく稀に、接点の焼付き、ハンドル機構の不良等、OFF位置であるのに二次側が通電のままである故障

もあります。

2-2-2.子ブレーカが投入されても親 ELBがトリップしない topへ

子ブレーカが全て投入されても、親 ELBがトリップしないこともよく発生します。そのまま電気の使用

ができます。子ブレーカ ON 操作の時点では漏電状態ではないためです。不安定な漏電、他の個所の漏電

によるもらい動作、設備特性による ELBの誤動作等が原因です。そのままにしておくと、再度停電するこ

とも起こります。4-2に説明する、漏電個所調査を行うことが安全です。

a) 不安定な漏電

・不完全な絶縁劣化

停電中に絶縁が回復する場合です。二次側設備の不完全漏電(地絡)が考えられます。ELBは ONにな

りますが、時間がたって漏電状態に戻れば、再度トリップします。通常は、通電しておけ

ば電流による発熱で絶縁は回復していきますが、そうでない場合もあります。入切り、又

は運用状態が急変した設備はないか、雨漏れ、水道の漏水・蛇口開きすぎでのコンセント

等の水濡れ、ふらついている照明等の周辺調査が有効です。右図は 1/4まで水が溜まって

いた屋外照明灯グローブの例です。この状態でも連続した漏電は発生していませんでした。充電部の水没

がなく、温度が下がることで内部の湿度が下がったとも考えられますが、正確な原因不明でした。4-2-3.設

備運用状況との比較検討に他の例も説明しています。

・故障機器の切り離し

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ブレーカ直接ではなく、ブレーカ二次側の分電盤内の制御機

器を通して接続される場合です。図・左は照明用リモコンリレ

ーです。遠方の壁付けスイッチ等で、天井灯等の点灯・消灯を

行います。図・右はマグネットスイッチ(MgS)です。複数の

外灯等の一括入切り、ポンプの起動停止等に使用します。リモ

コンリレーが OFF 表示、MgS の中央部(赤矢印)が引込んでいない(OFF)の状態では、接続機器は切

り離されています。停電で OFF になると、盤面または他の個所のスイッチで入り操作をするまでは OFF

のままとなることがあります。漏電部が切り離されるため、ELBは ONになります。ON操作の後、普段

は動いているのに停止している設備がないかを探すことが有効です。動力回路ではリレーによる自己保持

と呼ばれる方式が使用されるため、よくある現象です。電灯回路ではスナップスイッチなど、機械的にそ

のままの状態(入残保持)となる場合が多いので、あまり発生しません。入残スイッチとMgSが直列の場

合には、ELBを ONして、一呼吸おいて(MgS入りで)再度トリップする場合があります。

絶縁不良の電気品を使用しようとして、コンセントを差し込んだとたんに停電したため、停電に驚いた

人があわてて引き抜くことがあります。寮等ではよくある現象です。昼間に工事等で電動工具を使用して

停電したので、ELB動作のまま帰ってしまい、夕方に他の人が気づく場合もあります。漏電原因が消滅し

ているため、ELB は ON のままになります。「電気修理が得意」な人がいないか、何かの工事をしていな

いかを聞き取りすることが有効です。

※ 勘違いによるマグネットスイッチ(MgS)の危険な操作

設備の動作中にはMgSのマグネットが引込み位置であることを知っている人が、出ているマグネットを

漏電表示と勘違いをして、指等で押しこむことがあります。危険な操作です。二次側が短絡状態の場合、

押し込んだとたんに大電流が流れて遮断不能になり高熱アークが噴きだし、重大な人災につながる恐れが

あります。MgSが付属のサーマルリレー(過電流保護装置、通常はMgSの下側)で動作している場合は、

更に危険です。判断は専門技術員により行う必要があります。

b)他の系統からの「もらい動作」

電灯回路に発生が多くなっている誤動作現象です。動作した ELBの二次側ではない設備での大きな漏電

等により偶発的に発生します。系統の異常であり、ELBの異常ではありませんが、運用上では誤動作にな

ります。自系統の漏電ではないため、ほとんどの場合、そのまま復帰します。「もらい動作」の考えが無け

れば、なにが悪いのかわからない状況での不要な調査に時間を取られることになります。インバータ設備

等の対地容量(キャパシタンス)の大きな設備が多くなっていること、接地系統が旧来のままであること

等も原因と考えられます。詳細は 3-3-1節.ELB使用設備の接地に記述します。もらい動作が疑われる場

合は、2-1節の子ブレーカの操作前に、まず再投入してみることも方法の一つです。

c)設備特性による「ELB誤動作」

二次側に接続されたサーバ用の無停電装置などにより誤動作が生じることがあります。漏電は出て行っ

た電流が帰ってこない現象です。無停電装置は、ある意味で電流をため込む装置です。漏電判断は時間的

な平均値ではないため、タイミングの関係でため込まれた電流は帰ってこないと判断され、漏電として検

出されることがあります。安定運用のためにも、ELB 二次側の接続ではなく、3-2-1 節に示す一次送りが

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安全です。同様の現象がノイズフィルタ等の静電容量分(キャパシタンス)の大きい機器でも生じること

があります。

動力設備に古い ELBが継続使用されている場合、インバータ等による高調波による誤動作が生じること

があります。3-2-3節に記述します。いずれも、偶発的に生じることが多く、ほとんどの場合、そのまま復

帰します。

2-2-3.親ブレーカが ELBではない topへ

・中性相欠相保護ブレーカの使用

電灯分電盤で中性相欠相保護専用ブレーカが使用されている場合です。テストボ

タンがあり、ELBにそっくりですが、中性相欠相による線間電圧の異常高(135V以

上)で動作し、表示ボタンは電圧異常で突出します。中性相欠相を改修しなければ、

再投入はできません。ブレーカ ON操作を行うと、二次側設備に異常電圧がかかり、

絶縁破壊を起こす場合があります。誤操作防止のためには、ブレーカに「ELBでは

ない」等の表示をつけておくと安全です。

図・左が全体配置です。矢印の白色リード線が電圧検出用

リード線で、ブレーカ二次側の中性相(対地電圧≒0V)に接

続されます。分解可能なブスの場合は、それ以上は分解でき

ない末端部がリード線の接続位置です。

親ブレーカの漏電動作は無いので、次節の 3-2-1の「一次

送り」の配線は不要です。図・左でも一次送りブレーカ取付

け用個所は空になっています。子ブレーカ上段のロック用の

赤キャップが付いているところが誘導灯等の回路で、安全ブ

レーカ(過電流)が使用されています。

漏電保護が必要な分岐回路のブレーカには、図・右の安全ブレーカと同じ外型の ELB が使用されます。

漏電による停電範囲を制限できるので、医療機関などでの採用が増えています。

※ 中性相欠相による電圧異常

電灯 100Vで使用される単相 3線式は、右図のように、電源変圧

器で単相 200Vの中点を B種接地して中性相としています。接地は

事業用では受電設備で、家庭用では電力会社の配電変圧器(柱上)

で施されます。それぞれの線間電圧 V1 と V2 は、中性相が健全な

場合は接地(中性)点が電圧基準となり、共に 100V です。中性相

が図の×点で断線(欠相)すると基準点がなくなり、電源変圧器の

200Vが負荷の抵抗分であるR1とR2で分圧されるため、通常 100V

である V1と V2が変動します。R1>>R2の場合には、V1≒200V

になります。これは、故障発生前の V2で使用される機器の容量が V1で使用される機器よりも極めて大き

い(負荷電流が大きい)状態です。

負荷配分が適切であり、R1≒R2(中性相電流が小さい運用)の場合、中性相欠相状態でも V1、V2共に

100V 近くが保たれ、気づかないことがあります。この場合も、大容量の単相負荷を使用すると、電圧配分

100V

100V

R1

R2

200V

V1

V2

V1=R1+ R2

R1× 200

電源変圧器

B種接地

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が変化して基準値(101±6V)以上の変動となり、照明のフリッカなどの異常が発生します。中性相欠相保

護ブレーカであっても 135Vまでは動作しないことに注意が必要です。

中性相欠相と漏電が同時に発生すると、さらに大きな事故になりま

す。ナイフスイッチの爪付きヒューズの中性相ネジ緩みによる中性相

欠相の状態で、分電盤の雨漏れによる漏電が発生した事故例を右図に

示します。漏電発生以前にも若干の線間電圧異常が発生していたとは

考えられます。片線が漏電での接地状態となるため、R1と R2の負荷

分担に関係なく、漏電していない側の対地電圧は電源変圧器の発生電

圧である 200V まで上昇します。電圧上昇側のタイムカード、コンピ

ュータ等の電子回路を使用した設備のほぼ全数が損傷する結果とな

っています。機器の安全には線間電圧のみでなく、対地電圧も影響します。

100V配電で使用される単相 3線式は、中性相が健全であることが絶対条件です。分電盤受電ブレーカ二

次側での相間電圧がバランスしていること、対地電圧が 100V であることで確認ができます。内線規程

(1375-2)により、事業所用の単相三線式分電盤の受電用 ELB はほとんどが中性相欠相保護付きとなって

います。家庭用分電盤にも適用すべきですが、残念ながらほとんど使用されていません。

※ 中性相欠相保護のためのブレーカ更新

かつては、図・左のナイフスイッチ(KS)が多用され、中性相欠相事故がヒ

ューズの取付緩み、劣化断線、歯受・端子の緩み等で多発していました。なぜ

か中性相を選んで劣化が生じる?ともいわれ、中性相はヒューズではなく、断

線のない銅線(バー)が使用される等の対策も取られていました。中性相欠相

で異常電圧が生じても電球が切れる程度の支障でしたが、最近は電子基板焼損

等の大きな損害が発生します。KS は全相同時遮断を行うブレーカに更新する

ことが安全です。ブレーカ外形は同容量の KSより小さいので、盤改造なしに更新できます。KSの二次側

に母線がない場合は、図・右の例のように検出リード線(白)を二次側端子に直付けにすることで対応で

きます。

三相 200V 動力では線間電圧が 200V であるために、中性相欠相による異常電圧での障害は発生しませ

んが、ヒューズが 1 本だけ断線すると、欠相という故障状態になります。奇妙な部分停電、電動機の回転

異常・大電流による焼損等の事故が発生します。100V電灯と同様に、残存している KSはブレーカに更新

することが安全です。

・親ブレーカの省略

もっとも困るのが、親(受電)ブレーカがない分電盤です。図・左がその例で、端子台で受電されていま

す。他所の送電元に ELBがあれば漏電保護はできますが、ブレーカ操作による復旧は不可能です。

100V

100V

R1

R2

電源変圧器

B種接地

漏電

200V

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受電ブレーカは漏電・過電流の保護のみでなく、配電系統の安全な分割も目的としています。図・右は

親ブレーカがなく、部分停電ができないために活線状態で作業を行い、母線を短絡させて焼損した例です。

母線撤去・仮設等の応急修理を行った後のものですが、中扉

裏側の焼け跡から事故の激しさがわかります。受電端子一次

側の引込ケーブルに着火しなかったので、火災にならなかっ

たのが、不幸中の幸いという事故です。受電ブレーカがあれ

ば、作業中の地絡(漏電)又は短絡(過電流)はブレーカトリ

ップで保護されます。事故は無いと過信するのではなく、適

切な受電ブレーカを設置することが必要です。分電盤整備で

停電が必要な場合に、電源ブレーカ(キュービクル配電盤等)

を探しまわる、余分な作業も発生しません。

親ブレーカ、子ブレーカ共に ELBが使用されていない電灯分電盤もあります。頻繁な停電は操業に悪影

響を与えるという理由のようですが、不安全な設備です。

※ 分岐盤

電源分割のための「分岐盤」として設置された後、ブレーカが増設されて分電盤同様になっていること

があります。「分岐盤」からの配線先は受電ブレーカを持つ分電盤であり、使用設備への直接配線は行わな

いことが原則です。

3.ELBの取扱い topへ

安全安心に使用するためには、ELBが単体で正しく動作することと、使用される電気システム内で適正

に配置されることが必要です。誤動作及び誤不動作を引き起こす要因と対策を考えます。

3-1.動作試験(単体での正常確認)

a) テストボタン

使用(受電)状態で、本体のテストボタンを押すと実働でトリップ動作試験ができます。負荷側が停電

してもよい状態での試験になります。通常の使用では年に数回、環境が悪い場合は月に1回が推奨されて

いますが、ほとんど実施されていないのが現状です。試験以外での漏電テストボタンでの OFF動作は、ブ

レーカの負担が大きいため、避けるべきです。テストボタンの色と位置は 2-1-2 節のように各種のものが

あります。「試験・TEST」等との表示があることの確認が必要です。

テストボタンは漏電検出部(ZCT)に微小模擬電流を流す電気的スイッチで、軽く・短く押すだけで動

作します。点検中に誤って触れ、動作させてしまうこともあります。強く、長く押すことの効果はありま

せん。押したままでトリップ動作がなければ、制御回路が動作のままとなり、過熱して焼損することもあ

ります。3-2-2の逆接続の節に制御回路の接続図の例を示しています。

動作試験は単体での動作確認です。二次側に漏電が発生した場合の動作を確認するものではありません。

3-3節のシステムとしての接地を正しく行うことが必要です。

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※ 一部の ELB と殆どの MCCB には、過電流引

外し機構を機械的に動作させる、押し込み式のト

リップボタン(push to trip)があります。図の赤

丸で囲っている部分です。先が細いもので押込む

ことで動作し、ハンドルはトリップ位置になりま

す。MCCB では赤色が多いようですが、テストボ

タン同様に各種のものがあります。動作表示はなく、ハンドル位置で確認します。

停電中は制御電源がないため、「テストボタン」を押しても開動作はしません。災害時などは、ハンドル

による手動での OFF 操作が必要です。「トリップボタン」は機械的な引き外しなので、停電中又はハンド

ル機構損傷であっても動作します。トリップ動作は内部の蓄勢されたバネにより、いつでも実行できるこ

とがブレーカの責務とされています。

b) 専用試験機

設定された感度電流(3-2-3節)で正しく動作するか?の疑問は ELB試験機で判断することができます。

ELBには制御機構単独の試験機能はないため、運用中の設備では、テストボタン同様に実動作(二次側停

電)を伴うものになります。

試験機には動作電流と動作時間を測定することができるもの、動作時

間のみの測定ができるもの等、各種があります。右図は受電状態で、全

自動で感度電流と時間(時延)が測定できる、乾電池式の専用試験機で

す。15mA、30mA、50mA、100mA、200mA、500mA を設定しての

試験ができます。取説に従い、黒プローブを電源側接地極、赤プローブ

を負荷側極に当てることで全ての試験が終了します。プローブを 200V 受電状態の端子につけても安全な

ように設計されています。

c) 試験時の注意点

受電状態の試験では、方法によらず、制御装置(電気的)又は主接点(機械的ラッ

チ機能等)の不良で、本体が焼損することがあります。右図は試験機で不良判定が

出た直後に発煙焼損した動力用 ELBを分解した例です。下部の黒い箱の部分(制御

装置)の黒化と、上部の主接点にアーク跡が認められます。

テストボタン試験でも、ボタンを押して動作しなかった直後に焼損する事例があ

ります。電撃、火炎噴出で驚いて点検台を踏み外し、転倒しケガをするなどの二次

災害も生じます。試験で動作しない場合は、できるだけ早くハンドルによる手動 OFF

操作をすることが安全です。私は、試験を行うときは火炎噴出に備えて、ELB 本体

の斜め前に立つことにしています。MCCBの操作でも同様の火炎が生じることがあります。

d)電路から取外しての単体試験

前述の専用試験機を使用する場合と汎用 GR 用試験機を使用する場合の例を示します。いずれも、試験

機の取説に記載されていない方法ですが、試験可能と考えています。試験前には各相間の絶縁を確認しま

す。相間絶縁がない場合の試験は危険です。故障撤去品では特に注意が必要です。

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・ELB専用試験機使用

試験には制御回路を活かすための試験電圧と、作動させるための

試験電流が必用です。専用試験機には電圧発生機能がないため、電

源安全のために汎用試験機 IPR の PUN 出力を使用しています。

試験電圧は制御電源極である一次側の左極と右極に接続します。動

作電圧の確立は、テストボタンが動作することで確認できます。

200V用 3極型ですが、70V以上で動作可能になりました。

試験電流は ZCT 貫通の試験線への供給ができないので、一次二

次端子間に流します。一次右極(白矢印)に試験機の一次接地側プローブ、二次左極(赤矢印)に二次負荷

側プローブに接続することで、試験機→二次左極→一次左極→IPR 巻線→一次右極→試験機と流れると考

えています。IPR電源側の ELB(30mA)の動作は生じていません。

供試 ELBは 30mA感度設定で、最少動作値 15mAとの中間値である 22.5mAで動作しています。動作

値の振れは全くありません。

・GR試験機使用

取合いは右図のように全て試験機の付属コードのクリップを使用して、一次と二

次の端子で行います。試験電圧は補助電源 P1・P2 を一次側左極と右極、試験電流

は Kt・Ltを一次側中極と二次側中極、トリップ検出は T1・T2を二次側左極と二次

側右極にとります。一次端子左から P1、Kt、P2、二次端子左から T1、Lt、T2 と

なっています。

補助電源(AC100V)を試験電圧(AC70V以上で動作)とトリップ検出に使用し

ています。ELBが ONでは二次側にも補助電源がかかりますが、トリップすれば無

電圧になります。試験機のトリップ検出を電圧位置にしておけば動作を検出できます。試験電流は中極の

一次と二次の間に流れるので、電源への影響はありません。電流調整により電流感度の測定ができます。

試験機を設定位置で電流調整し、試験操作を行うと動作時限(時延)測定ができます。戸上社製試験機で

は設定位置で流れる調整電流で ELBがトリップするため、設定時は Kt・Ltを短絡して行う必要がありま

す。電流感度のみの測定であれば T1・T2の接続は不要です。

基本的には PAS 用 GR 試験と同様の操作です。GR 試験機が 200mA・200msec 程度以上を考えている

のに対して、ELBは 30mA・30msec(高速型)なので、測定精度は悪くなります。

3-2.設置方法および選定 topへ

3-2-1 二次側接続設備の最適化 (一次送り)

・ELB二次回路の接続設備の組合せが不適であるために生じる不都合

ELBは「漏電発生」又は「漏電が疑われる」場合に、速やかにトリップして二次側を停電させる装置で

す。誤動作は安全側として許容されていると考えられます。二次側は停電しても支障の少ない機器を接続

するための電源となります。予定しない停電により事故が生じる恐れがある設備(マグネット型のクレー

ン)、最後まで維持が必要な保安設備(火災報知器・誘導灯等)、停電での障害が大きく感電する恐れの少

ない設備(サーバー等)を接続することは不適です。

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20

他の回路(例えば炊事場コンセント)と並列に接続

されることでの障害もあります。例として、厨房用コ

ンセントとサーバが同じ ELB の二次側にある場合を

右図に示します。ポット等からの水漏れ→コンセント

濡れ→漏電→ELB動作→サーバ停電となります。

天井裏ファンコイルなどの結露、外灯の防水不良な

どでも ELB は動作します。工場の製品検査設備が、

使用していない老巧化した建物の雨漏れで停電する

等の事業所運営にかかわる場合も生じます。増設等

で、空いているブレーカから安易に重要設備の電源が引き出されると、ELB二次側での不用意な分岐配線

になる例がよくあります。対地静電容量の大きな設備が増設されると、3-3-1 節の漏電ではない、「もらい

動作」のおそれも大きくなります。

・一次送りによる電源分割の最適化

分電盤で、重要な設備を親 ELB の二次側ではなく、一次側から配線する方法です。「一次送り」と呼ば

れています。下図・左に示すようにブレーカを別の場所に取り付ける方法(A)と分岐ブレーカの一次配線

を変更する方法(B)があります。(A)は誘導灯等で最初から設置される場合、(B)は増設等の場合に多

く使用されます。図・中が(A)、図・右が(B)の例で、矢印がそれぞれの一次送りブレーカ例です。

(B)の場合は配線がわかりにくいので注意が必要です。この例では、他の子ブレーカが次節での逆接続と

なっており、さらにわかりにくくなっています。漏電保護が無くなるので、専用電源として、予備のコン

セント口はつけない等の、他の目的での使用はできないような処置が必要です。

親(受電)ブレーカが ELBでない場合は、漏電保護の必要性に応じて、分岐ブレーカに ELBと安全(過

電流)ブレーカを使い分けることで対応されています。中性相欠相保護付きの場合にも、誘導灯は一次送

りとなっている場合もあります。消防法等の見解があると考えられます。

※ 一次送りのブレーカは配電盤MCCBに直結されることになります。引出ケーブル短絡の恐れがある場

合には短絡遮断容量 Icu(Icn)についても検討が必要です。受電用(親)ブレーカと同レベルの Icu を持

つブレーカ使用が原則になります。Icu については、九州産業コンサルタント協会ホームページの「OCR

整定での保護協調線図・・」の「5-3」節をご参照ください。

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BB

BE

B

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※ 安全確保のための電源分割

安全(過電流)ブレーカの場合でも、電源分割の検討が必要です。医療用コンセント回路に並列増設さ

れたコンセントで故障している掃除機が使用され、ブレーカが動作し、救命設備までが停止した事例があ

ります。保安上、キュービクル配電盤から直接引き出すべき高圧受電用 PAS の SOG 電源が現場分電盤引

出しに改造されると、低圧部事故での電圧変動で高圧を含む全停電となる事例もあります。空いている場

所から電源を分岐するのではなく、設備の目的・特性による適正な電源分割を行うことが必要です。

3-2-2 逆接続

・逆接続とは

ブレーカの配線は一般的には、上側が電源(一次)で下側が負荷(二次)ですが、下図・左の単線結線図

のように、下側が電源、上側が負荷となる配線です。下図・中が実際の配線で、左端の親ブレーカの下側が

電源で上側が負荷側母線です。結線図では複雑に見えますが、実際の配線では、すっきりとして電線も節

約されたものになります。ELBは下側の主端子から制御電源を取るため、逆接続には「逆接続可」のが表

示された型の使用が必要です。下図・右がその例で、本体に「逆接続可能」の表記があります。

・逆接続での注意点

逆接続可でない ELB を逆接続に使用した場合、トリップ動作時に本体焼損のおそ

れがあります。逆接続不可(通常の ELB)の制御回路の例を右図に示します。本体表

面に示されていることがあります。漏電検出回路の動作、又は試験ボタンでトリップ

コイル(TC)に電圧がかかり、機構部分を駆動して主接点(しゃ断部)が OFFにな

ることを示しています。電源が上側であると、主接点 OFF で下側である制御電源も

喪失しますが、電源が下側であると、OFF 後も充電のままです。TC は短時間定格

(1sec 程度)であるため、制御装置の動作状態によっては過熱焼損する場合があります。手動試験で主接

点が完全な開動作がない状態で、試験ボタンを押し続けた状態と同様です。逆接続可型では、図の矢印の

位置に主接点と連動のスイッチが付けられ、制御電源を停止するようになっています。スイッチは「メガ

テスト切替」として手動単独で操作できる場合もあります。過負荷電流の電磁機械力等で動作するMCCB

は、制御回路がないため基本的にはこの問題は発生しませんが、他の要素もあるため、メーカによる指定

に従う必要があります。

逆接続では、ELB切位置でも下側(一般的な二次側)が充電のままです。ブレーカを切ると下側は停電

していると思いこむことが多く、絶縁測定等の作業時の危険も生じます。逆接続はできるだけ避けるほう

が安全です。

※ 太陽光の低圧連携(売電あり)の受電点には、系統側の地絡事故保護のために ELB が設置されます。

BB

BB

BB

BB

BE

BB

BB

BB

BB

電源

BE

電源

通常接続逆接続

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発電時と受電時で電源が入れ替わるため、逆接続型が使用されます。3-3-3 節-C)に関連事項を説明してい

ます。

3-2-3 感度電流と時延の選定・高調波対策等

・感度(設定)電流の選定

感度電流は ELBが必ず動作する電流値です。一般的な感度は、15、30、(50)、100、200、500mAです。

JISには他の数値もありますが、通常はほとんど見かけません。感度電流の 1/2は最小動作電流と呼ばれ、

これ以上になると動作する可能性がある値です。実際に動作する電流は最少動作電流と感度電流の中間値

が多いようです。感度 30mAの場合は、最小動作が 15mAで実動作は 22.5mAになります。

感電保護用と幹線保護用の二つの

目的の感度があります。感電保護用は

人体に流れる電流を停止させて、感電

災害を防止することが主目的です。

15mA(浴室等の水濡れ場所)又は

30mA(その他の場所)が使用されま

す。家庭用分電盤では感電保護用のみが使用されています。後述する時延は 0.1sec(高速型)に固定され

ています。幹線保護用は事業所用分電盤の受電用、設備又は配電線の電源用として使用され、漏電電流に

よる火災の防止、設備の損傷保護が主目的です。100、200、500mAが使用されています。

近年は、感度電流を変更できるものが多くなっています。図の黄矢印が切替部で、ドライバでの現場変

更が可能です。図では、いずれも最小値の 100mAに設定されています。右端の写真の青矢印のように、後

述の「時延」の設定が切替できるものもあります。

※ 感度電流の選定根拠

漏電保護の目的で選定され、ブレーカの容量により自動的に決まるものでないことに注意が必要です。

感電保護用の感度電流及び動作時間の根拠としては感電した場合の、人体通過電流の大きさと電流継続時

間よる生理学的影響を評価した、安全限界の考えがあります(末尾参考資料 2)。

幹線保護用には一定の基準はありません。二次側の全ての対地電流が流れるため、不要動作(誤動作)

防止のためには、設備容量、負荷特性等を考慮して選定することが必要です。高調波成分なども考えて、

不要動作を行わない、できるだけ小さい値を選定します。生産設備用の場合には、設備本体が ELB動作に

より停止しても安全方向であること(急停止による危険・生産障害等がない)の確認も必要です。200mA、

500mA設定も多用されています。

※ 受電(主幹)用としての感度 30mA高速型使用

分電盤の受電用ブレーカには全ての二次側設備の対地静電容量による電流が流れます。状態によっては

10mA 程度の零相電流が常時存在し、動作方向に向かってのバイアスがかかっている状態になります。自

設備の起動時等の誤動作のみでなく、通常は動作しないレベルでの他系統事故での 3-3 節に説明する「も

らい動作」のおそれが大きくなります。30mA感度の高速型 ELBを、受電と感電保護の兼用として使用す

る場合、停電での支障がある負荷は 3-2-1節の二次側設備の最適化が必要です。

・時延(動作時間)の選定による保護協調

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電源から負荷設備までに複数台の ELBが使用される場合、例えば ELBが受電用と分岐用に使用されて

いる場合、感度が受電用>分岐用であっても、受電用が先に動作して分電盤全体の不要停電になることが

あります。漏電電流が動作域になってから動作までの時間は、感度(mA)ではなく、「時延」と呼ばれる

時間設定(sec)によるためです。時延には「高速型」と「時延型」があり、感電保護用の高速型は 0.1sec

(以内)固定、幹線保護用の時延型は 0.1、0.3、0.8、1.2sec等の固定又は可変になっています。

感度設定が受電(上流側)200mA、分岐(下流側)30mA、「時延」

は同じく高速型の場合を考えます。200mA 以上の漏電電流が発生し

た場合は、受電、分岐ともに動作域であるため、同時にトリップ動作

に入り、偶発的に受電用が早く動作することも発生します。この状態

は受電用の最少動作電流である 100mA程度以上から発生する可能性

があります。漏電電流は 4-2-3節での記録例にも示しますが、瞬時(ス

テップ状)に発生することがよくあります。

時延設定の調整で、分岐 ELB により停電範囲を限定することがで

きます。受電用を時延型 0.3secにすれば、不動作時間の 0.15secより

前に分岐用が 0.1sec 以内で動作するため、受電用の動作は防止でき

ます。受電用を時延型にする場合、感電防止の必要がある回路には、分岐用に高速型 ELB を設置します。

※ 保護協調の考え方

ELBは保護継電器等と同様の「保護装置」です。一つのシステム内に上流と下流の直列で使用される場

合は、下流側を先に動作させる「保護協調」が必要になります。感度と時延の二つが協調要素であり、保護

協調線図によれば、わかりやすくなります(末尾参考資料 3)。感度設定が小さい ELB が無条件に、早く

動作する(時延が小さい)のではないことに注意が必要です。

保護協調の考えは過電流の場合にも必要です。劣化などにより過電流動作時限が親(受電)ブレーカ>

分岐(子)ブレーカ<受電の動作時間(時延)となっている場合、例えば、過電流動作感度が受電(親)で

30A、分岐(子)で 20A であっても、故障電流が概 40A 以上であると、受電ブレーカが先に動作します。

ELB が正常であれば、動作時間は漏電(地絡)<過電流となっています。一般的な受電設備と同様に、

1線地絡からの 2線短絡が防止できます。

・インバータでの誤動作

インバータ使用設備で、絶縁は良好であるのに ELBが動作することがあります。インバータで発生する

高周波による、ケーブル等の対地静電容量による電流(Ioc)が大きくなり、漏電分として検出されるため

です。生産設備を NC 機器に更新したが電源設備は旧来のままの場合、二次側に複数の設備(一斉速度調

整)を並列接続した場合等によく発生します。高調波は、電灯回路の機器内蔵のインバータ(空調機、製氷

機等、LED照明の点灯回路)でも生じることがあります。「これまでは発生しなかった」の考えにとらわれ

ずに、使用設備の更新に併せて、電源設備の見直しが必要です。

高周波カットフィルタ等の対策が取られている、「高周波対応型」の ELB の使用で防止できます。最近

(1992年 JIS改定対応)の製品には標準となっています。同様

の対策として、「衝撃波不動作型」があります。スイッチを入れ

た時の起動電流が大きい時に動作する、雷がなった場合に動作す

30mA0.1s(高速型)

漏電

200mA0.1s(高速型)

0.3s(時延型)

変更

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る、等の場合等は取替の検討が必要です。最近のものはほとんど対応済みですが、前節の時延(この場合

は高速型)特性と共に、本体に表記されています。

※ 高調波の有無は、簡易的には、リーククランプメータによる Io 測定のフィルタ ON、OFF による差

(1/2以上程度に減少)を見ることでわかります。高調波聴音器(ウルトラホン等)で、使用状態のケーブ

ルを外皮から聴音しても高調波振動音の確認ができることがあります。

低圧用インバータは一般的に入出力トランスがなく、一次と二次間は絶縁されていません。二次側設備

を含む対地電流は一次側から供給され B 種接地線に戻ります。一次側に ELB を設置すれば、二次側設備

を含む漏電保護ができます。電流感度は二次側の負荷全体を考える、分電盤の受電用と同じく、幹線保護

用としての設定になります。高調波による誤動作を考えて、通常での実測漏電 Io の約 10 倍を推奨してい

るメーカもあります。

インバータ二次側での ELB 使用はできません。主回路(二次側右極と左極)から取られる Io 検出回路

の電源が高調波を含むものとなり、検出回路が焼損する恐れがあります。

3-3.接地 topへ

ELBは絶縁劣化(地絡)を直接検出するのではなく、劣化により生じる漏電(対地)電流を検出して

動作します。安全安心な使用のためには、漏電電流を正しく、かつ安定に流すための二種類の接地(アー

ス)が必要です。しかしながら、接地は異常電圧による災害・機器損傷防止を主目的として定められたも

のです。保護リレーの動作安定、ELBの動作、漏電電流の測定は接地による電気現象を活用して得られる

効果であることを理解しておくことも必要です。

① 機器の接地(機器接地):低圧機器の外箱等に施される接地で、D種(電圧により C種)接地と呼ば

れています。機器内部の絶縁不良により、外箱等(筐体)の人体に触れる部分の対地電圧が危険な電圧と

なることを防止することが目的です。器具等の漏電電流は機器接地を通って大地等へ流れます。使用電圧

が 300V 以下は D 種として 100Ω以下、300V を超える場合 C 種として 10Ω以下が基準となっています。

通常は機器個別の接地ではなく、電源と併せて配線される接地線により接地極に接続されます。

② 電源の接地(系統接地):電源変圧器の中性点又は低圧側の 1相に施される接地で、B種接地と呼ば

れています。本来は、高圧と低圧の混触(変圧器内部での巻線接触等)時に高圧電圧が低圧側に移行し、低

圧電路の電圧が危険な範囲まで高くならないようにすることが目的です。低圧側が 150V 以上にならない

抵抗値で接地されています。高圧配電線(6.6kV)の 1 線地絡電流は 2A~3A になるように系統切分けが

行われているので、電気設備技術基準により、接地抵抗は 75Ω(150÷2)~50Ω(150÷3)以下が一般的

です。150Vは「東電」の前身である「東京電灯」があった時代に安全と考えられた経験値であると言われ

ています。

器具等から流れ出した漏電電流の電源への戻り経路になるため、絶縁監視の測定箇所としても多用され

ています。低圧部電路の対地電圧は B 種接地方式により決定されるため、対地抵抗分電流と対地静電容量

による充電電流の合成である漏電電流の大きさにも影響します。

3-3-1.外箱等の接地 topへ

機器接地がなければ、正常な ELBが使用されているのにビリっときたという、誤不動作を生じます。絶

縁が不良になり、外箱の対地電圧が上昇しても、外箱→D種接地→大地→B種接地の電流経路がないため、

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漏電電流が流れません。人体が外箱に触れて「感電」し、外箱→人体抵抗→大地→B 種接地の電流経路が

できることで ELBは動作します。ELB選定が適正であると、重大災害となる前(高速型では 0.1sec以内)

に遮断されますが、安全面からは良好とは言えません。1-1節の例の外箱接地がないクーラの場合、人の感

電、または線(相)間短絡による火災が進展しての「地絡」発生後に、ELBが動作します。

・家庭用電気品の接地

コンセント 100V接続の家庭用電気品にも、洗濯機等には、電源と

アース線(緑色)が出ています。アース用端子がないコンセントを使

用する場合は、実用上、近くの接地が取れている金属体等にアース線

を取り付けます。図左は水道管に縛着した状態です。アースの確認

は、低圧検電器を被覆検出位置として外体に触れることで判断でき

ます。図右は自家用設備で使用されているアースをとっていない冷蔵庫(家庭用)の側壁で検電器が動作

している状態です。家庭用のコンセントは受電盤の 30mA 高速型 ELB で保護されていますが、ビル・工

場事務所等の事業用では保護が不完全な場合も多く、注意が必要です。

※ 交流用検電器は検電器の対地浮遊静電容量がアースとなって、検電対象物の対地電圧による微弱電流

を対地に流すことで動作します。直流電圧は、静電容量による電流が流れないため検出できません。

・仮設分電源等での接地不具合

右図に分電盤の接地端子が接地母線に接続されていない場合を

示します。使用設備の機器接地線が分電盤接地端子に接続されてい

るにも関わらず、接地がとれていない状態になります。漏電しても

(絶縁不良となっても)ELB は動作しません。この状態でも ELB

のテストボタン試験は良好です。テストボタンは 3-2-2 に示すよう

に、ELB本体の試験回路のみを動作をさせるためです。

工事用仮設プレハブの分電盤で考えます。プレハブ本体がブロッ

クなどで大地から絶縁されていると、使用設備の絶縁不良部がプレ

ハブ本体に接触しても ELB は動作せず、プレハブ金属部に触った

人が感電する事態になります。接地極~分電盤、分電盤~使用設備

の工事担当者が異なるために生じることの多い不具合です。分電盤

接地端子が接地母線に正しく接続されていることの最良の確認は

接地抵抗測定ですが、測定用補助極がない場合等の応急対策として、分電盤の ELB極性相二次側と接地端

子間に試験電流を流す実働試験ができます。ELB動作と、接地端子が接地母線につながっていることが同

時に確認できます。試験電流を流すためには、3-1-2 節の試験機の使用、模擬抵抗の接続用等があります。

実電流を流すため、上流側に感度の近い ELBがあれば不要動作を行う恐れがあります。

※ 分電盤に接続された設備が運用中であれば、前項同様に低圧検電器を使用しての確認ができます。動

作する場合は、接地母線の確認が必要です。本設分電盤に接続されている機器でも、工事等で接地線がつ

ながっていない状態になることがあります。なにか変だ、思われる場合は、まず外箱等を検電してみるこ

とが感電防止になります。

・仮設発電機の接地

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電源に移動用発電機を使用する場合は電圧のみでなく、発電機接地にも注

意が必要です。機器(使用設備の外箱等)接地が施されていても、電源の接

地がないと ELB の正常動作はできません。移動用発電機には系統接地同等

の「漏電リレー用接地」端子があり、100Ω以下での接地を行います。O は

配電用中性点であり、接地用端子でないことに注意が必要です。災害避難所

等での仮設電源使用時の留意事項になると考えられます。

3-3-2.共通接地によるもらい動作

電灯 100V 回路に発生が見られる、他の設備での大きな漏電に伴って偶発的に発生する、「もらい動作」

とも呼ばれている誤動作現象があります。動作した ELBの二次側の絶縁が良好であっても発生します。2-

2-2節の子ブレーカが全数投入されても親 ELBが動作しない場合の原因の一つです。対地静電容量(キャ

パシタンス)の大きな設備等が多くなっていることと、接地極が共通であることが要因とされています

・D種接地の共用(ELB専用接地の理由)

もっとも頻度が高いと考えられている、ELBでないブレーカ(MCCB)設備の漏電での、D種接地極の

対地電圧上昇による誤動作です。設備の機器外箱等にはD

種接地が施されていますが、個別に接地工事を行うので

はなく、右図のように同一の接地極から分岐した接地線

が使用されています。MCCBの設備 1で大きな漏電が発

生した場合の現象を説明します。

① ELBではないため大きな漏電電流が流れる

② D 接地抵抗に流れる電流で接地母線の対地電圧が上

がり、設備の対地電圧も上がる

③ 設備 2の対地静電容量により充電電流が増加する

絶縁不良による電流と対地静電容量による電流の分別は

ELBではできないため、感度設定によっては動作します。

最近の設備では対地静電容量と高調波成分が多くなっていることも要因であると考えられます。ELB動作

は正常ですが、運用上では誤動作になります。設備 1のブレーカが ELBである場合も、感度と時延の設定

により発生することがあります。他の回路での漏電発生状況(漏電電流の大きさ等)の確認が必要です。4-

2-2節の絶縁監視装置が設置されている場合は、全数

の変圧器の漏電記録を確認し、設備全体としての運用

状態を把握することで判断できます。

対策として、右図の接地極の分割があります。ELB

使用設備の D 種接地を、専用接地とする方法です。

ELBでない設備での漏電が発生しても、ELB用接地

極には漏電電流が流れないため、電圧上昇がなく、対

地電流は増加しません。

ELB 専用接地の例を下図に示します。図・左は、

ELB用(黒→)と、他機器用(緑→)の区分された接

地極がある一般的な例です。図・中は、より安全のために、雷撃時等の接地極間の電位差防止のための避

接地抵抗

ELB専用 D種

漏電電流

漏電

ELB使用設備

ELBでない設備

電圧上昇なし

漏電電流

接地抵抗D種

対地静電容量

電圧上昇

接地分離

漏電電流

漏電

MCCB

漏電電流

設備 1

ELB動作

ELB

誘導電流

漏電電流

電圧上昇

設備 2

対地静電容量

接地抵抗

電圧上昇

充電電流

D腫接地極

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雷器(SPD・黄色)がある例です。図・右のように、分電盤での D種接地母線も、ELB用と他機器用に区

分されます。増設等の場合に、間違えた母線に接続をしないように注意することが必要です。

※ D 種接地が分離されていない場合の、もらい動作が頻発する場合の応急的対応としては、外箱等の接

地を、接地抵抗が D種の基準以内である建物鉄骨等に移動させる方法も用いられます。計器の動作安定の

ために、計器専用の接地 Ekが設けられていることもあります。

※ 高圧受電 PAS用 GR(SOG)のもらい動作

高圧受電設備では、ELBと同様の高圧地絡(漏電)保護を、受電点 PASの GR(SOG)

で行います。地絡による高圧電流の不平衡を PAS内の ZCTで検出して、PASを開放

します。高圧→低圧の変換は絶縁変圧器で行われるため、低圧部の漏電電流が高圧側

に転移することはありませんが、高圧地絡検出部である Z2端子の接地が低圧の D種

の場合、ELBのもらい事故と同様の誤動作が GRに発生し、全停電したことがあると

されています。最近は対策として、地絡信号検出部である Z2 端子が D 種接地ではなく、制御線シールド

により PAS本体の A種と共通になっています。図は地絡を電流の大きさのみでなく、方向も併せて検出す

る方向性 DGRと呼ばれるものです。低圧部からのもらい動作はさらに少なくなると考えられます。

・B種接地の共用

動力設備の大きな漏電で電灯設備の ELB に生じる誤動作です。100V 電灯と 200V 動力には相互の関係

は無いように思えますが、対地電圧の基準である中性相の B種接地は共通となっているためです。

① ELBではない動力回路での大きな漏電が発生

② B 種接地抵抗に流れる電流で B 種接地母線の電圧が上がり、電灯

回路の対地電圧が上がる

③ 電灯設備の対地静電容量により対地間に電流が流れる

動力 200V の 1 線が完全地絡した場合、地絡電流は B 種接地抵抗に

よって制限されるので、接地抵抗を 4Ωとすれば概 200/4=50A が B種

接地極に流れます。実際の電流はもうすこし小さいと考えられますが、

10A の地絡電流でも単純計算では接地端子(中性相)の対地電圧は 40V

高くなります。電灯設備の静電容量によっては、100mA程度の対地電流が流れることがあります。いずれ

かの ELBに集中した場合は動作(もらい動作)となります。200V電動機の地絡事故で、動力用は電灯用

とは無関係と考えて、調査のためのMCCBの入切りを繰り返すと、電灯用回路での ELB が多発すること

があります。

近隣で落雷があった場合にも、雷電流による接地極の大きな電位上昇で、複数の ELB が同時にもらい動

作することがあります。防止対策としては、接地抵抗の適正化、後述する等電位ボンディング等が考えら

動力変圧器電灯変圧器

B種接地

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れます。

3-3-3. MCCBの漏電トリップと ELBの過電流トリップ

MCCBは過電流検出を 1線毎に行うため、1相であっても、漏電(地絡)電流が大きい場合は過電流要

素で動作します。30A 定格の MCCB に前述の 1 線完全地絡事故電流 50A が流れる場合等です。高漏電が

しばらく続いた後、MCCBがトリップ動作(過電流の動作時延は長い)し、漏電が消滅します。4-2-2節の

絶縁監視装置がある場合は、動力変圧器の高漏電と同時に電灯変圧器にも漏電が生じ、同時に消滅するこ

とで、動力回路に地絡事故が発生したと判断することができます。

1線完全地絡の原因としては、ケーブルの断線接地、クレーン給電線等の露出充電部の接触、建屋工事で

のビスのケーブル貫通、更新工事時の極性相と接地相の誤結線等の各種が発生します。地絡電流がそのま

ま大地に流れた場合は設備の運用は続行できることがほとんどで、気づきにくいこともあります。地絡時

の電流制限のためには、B種接地は低いほど安全なものではありません。

※ ELBを ONにすると同時に、本体内部からの「ビビビ」等の異音、振動、内部からの青白い発光等

があって再トリップする場合は、短絡等の大電流による過電流動作です。漏電によるトリップは通常の負

荷電流の範囲内なので、内部のバネによる動作音のみで動作します。

過電流の原因となるブレーカ二次側配線の短絡、コンセントの破損、電動機故障等は常に予想しておか

なければならない事故です。測定器による調査と同様に、配線・端子の緩み、電流

痕、変色、焦げたにおい等の点検が有効です。右図は、分電盤内で小動物が持ち込ん

だ異物が母線に絡んでいた例です。湿気を持つと漏電、小動物が乗ると母線短絡の原

因となります。100mA程度以下の漏電連続から相間短絡に進展することもありま

す。事故発生後は焼損してしまう、短絡の衝撃で原因となった小動物が外れてしまう

等で、原因不明となることもあります。異物、糞等の侵入跡がないかの日常目視点検

が事故防止に有効です。こまった異物としては、盤内に金属製工具等が仮保管されて

いることもあります。

3-3-4.接地による漏電(地絡)現象の違い(誤動作要因④)

これまでの説明は電源の中性点または 1相が B種で接地され、負荷機器の外箱等が D種(または C種)

で接地されている、国内の一般的なシステムを前提としたものです。接地には各種の方法があります。漏

電電流の発生状態も異なるため、ELBの安全安心な使用のためには、接地を含むシステム全体を考える必

要があります。

a ) 非接地系

B種接地を行わない方式です。家庭用及び業務用では電力会社の配電系統に B種接地があるため、受電

部としては存在しません。

絶縁不良が生じ、D(C)種接地が良好であっても、漏電電流の帰路となる B 種接地がないために、漏

電電流はほとんど生じません。ELBの使用は不適です。ケーブル一括クランプでの絶縁不良判断も困難で

す。対地絶縁の低下で発生する漏電電流による危険性(発熱による絶縁劣化の進行・設備の損傷)と外箱

の対地電圧上昇による危険性を評価して、前者が大きいと考えられる下記のような設備に採用されます

(詳細は関連法規により御確認ください)。

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・発変電所で技術員が常駐している設備。

・高圧連携太陽光発電設備で、電源に混触防止板付変圧器使用する設備。ELB(幹線保護用の感度)を使

用するためにメーカ判断により B種接地をとることは任意です。

・爆発雰囲気で使用され(粉塵爆発等)、電源に混触防止板付変圧器使用する設備。

・水中照明等で人体に被害を受けない電圧を使用し、電源に混触防止板付変圧器使用する設備。

線間電圧はトランス巻線で決まりますが、対地電圧は接地方法で決まります。非接地系(接地コンデン

サを使用しない)であっても、電路の対地静電容量より仮想的に接地されるため、正常時での各相の対地

電圧はほぼ等しい値になります。いずれかの相の対地電圧が極度に小さい場合は、地絡して接地相の状態

になっている可能性が大と判断できます。他の相の対地電圧は高くなります。平常からの、各相の対地電

圧の測定・管理でも判断することができます。対地絶縁不良(地絡)を放置すると、2 相地絡短絡等の大

事故につながる恐れがあります。重要な設備で、地絡監視が必要な場合には電圧異常(地絡過電圧)検出

装置(OVGR)が使用されます。一相地絡の状態では一括クランプでの漏電測定で指示が出る場合があり

ます。

※ 絶縁変圧器が使用されることで、非接地系になる場合があります。高低圧混触の恐れがない低圧-低圧

の変圧器の二次側は電気設備技術基準による B種接地は求められていません。二次側の接地は任意なので、

接地をとらなくても使用できます。設備の保護を目的として接地をとる場合は、A種は高圧機器の外体、B

種は高圧-低圧の混触危険防止が目的なので、D(C)種でも妥当(低圧機器の外箱と同様)ですが、キュー

ビクル内部では B種接地が共用されます。

① スコットトランス

三相 200V を、単相 2 回路(二線式または三線式)に変換する変圧器です。二次側の 2 回路の単相負荷

が平衡していると、一次側の三相負荷が平衡します。高圧受電設備等で商用電源と非常用発電機電源を切

り替え、保安電源等を確保する目的で多用されています。

保安設備には非接地系の特性を利用している設備もあります。漏電監視として既存の設備に接地を追加

すると、対地(漏電)電流による絶縁劣化の急増等の、予期しなかった障害が生じる場合があります。接地

をとれば安全になるという考えは、無条件に正しいものではありません。各相の対地電圧などの漏電電流

以外の管理方法もあります。

一次側が高圧である場合は、技術基準により B種接地が必要です。低圧側の 2回路が独立している場合

は、それぞれに B 種接地が必要です。各種の結線があるので、高圧、低圧ともに変圧器本体に表示してあ

る結線図で確認しての接地取り付けが必要です。

② サーバ等の無停電電源等

絶縁トランスを備えた無停電電源設備の負荷側です。メンテナンスなどでバイパスして商用電源に切り

替えると、電源側 ELBが動作することがあります。非接地系でほとんど流れていなかった漏電電流が、B

種接地による漏電電流の通路ができることで急増するためです。スコットトランス二次側に接地を追加す

る場合と同様です。

③ 昇圧トランス

外国製電動機の使用等での 200/400V昇圧トランス二次側です。通常は一次側Δ-二次側 Y結線の絶縁変

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圧器が使用されます。400Vであっても、一次二次共に低圧であるために接地は任意です。水中ポンプ等の

使用で、ELBを適用するためには、二次側の中性点 O端子の接地を行います。二次側に漏電電流が流れて

も、一次側には移行しません。一次側の電源である受電用変圧器の B 種接地線に設置した 4-2-2 節の絶縁

監視装置での監視はできません。一次側電流は二次側電流の概 2 倍になり、使用設備の電流値のみで判断

すると、受電変圧器が過負荷になることもあります。起動電流の考慮も必要です。長期使用であれば、動

力専用 6600V-400VのΔ-Y結線変圧器の使用が安全です。

④ 降圧トランス

200V動力制御盤等で、100V 操作電源として使用する場合です。絶縁トランスとしては

最も多く使用され、二次側の接地はほとんどありません。制御用電源にのみ限定された使

用法です。右図に例を示します。高圧 VTでは 1相に D種接地がとられています。

400V(380V)機器を国内の 440V変圧器(60Hz)で使用するための降圧トランスが要

求される場合があります。変圧器タップは 6600V電圧が不足した場合を補償するものがほ

とんどです。接地システムと同様に、400V級電圧には各種の仕様(380-400-440他)があります。設備計

画時点での確認が必要です。

b ) 灯動共用設備(三相四線式)

4本の配線で単相(電灯)と三相 3線式(動力)を併せて供給する設備です。一般的に使用されている単

相三線式、Δ結線一相接地とは B種接地位置が異なるため、ELB(3極式)が誤動作(過敏な動作又は不要

動作)をする場合があります。V 結線方式と Y結線方式を説明します。

・V結線方式(低圧配電等)

家庭用等への低圧配電では、単相変圧器 2台を組合せた V 結線方式が使用さ

れています。電柱上等に二台の単相変圧器が設置され、単相と三相を併せて発

生する共用相(図では左側)と動力のみを発生する専用相(右側)と呼ばれま

す。B種接地(電柱上は A種と共用)は下図に示すように共用相の中点に取ら

れます。変圧器から需要家分岐までは、中性(接地)相を含む 4線で 100V/200

V電灯と 200V三相動力が配線され、三相四線式と呼ばれることもあります。受電点以後は、電灯は単相 3

線式、動力は三相 3線式となります。3極式 ELBでの漏電及び過電流保護ができます。

自家用事業場の高圧受電設備でも使用されて

います。B種接地は受電設備(キュービクル)の

共用相変圧器の二次側中点で取られています。変

圧器二次の配電盤で電灯は単相三線式、動力は三

相三線式になります。

三相配線には接地相が無く、すべての相に対地

電圧があることが特徴です。極性相の対地電圧が

異なるため、ELBの動作に若干の違いが出ること

があります。4-2-2節の Ior方式は使用できません。

V 結線には、動力専用 V 結線もあります。B 種接地は変圧器の結合部(s 相)に取られます。Δ結線の

一相欠落と同様の三相動力専用となります。

柱上変圧器

V結線

受電点

灯動共用四線式 低圧配電線

中性相共用相専用相

三線式単相電灯 三相動力

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・Y結線方式(事業場)

Δ-Y 結線の低圧側中性点 O 端子が B 種接地され、N 相と呼ばれる 4 本目の配線が負荷設備まで引き出

されます。極性相(R,S,T)の 3 線で三相負荷が使用され、極性相と N 相間、下図・左の例は T-N 相で

単相負荷を使用している状態です。

国内ではほとんど使用されていませんでしたが、最近、大容量単相負荷が使用されるデータセンター、

特に、輸入(太陽光)設備等で使用されるようになっています。説明不足のまま使用されていることがあ

り、注意が必要です。N 相を単相電源として使用しているにも関わらず、接地線と思いこんで図・左の位

置に 3極式 ELB を使用した場合、負荷電流は機器外箱の漏電電流と同様に ZCT を通過しないで電源に戻

ります。単相負荷の使用と同時に ELB が動作(誤動作)します。mA レベルの負荷(数 W)であっても、

ELBの感度電流に対しては誤動作要因です。本来はMCCB仕様であったものを、習慣的に(親切心で)3

極式 ELBが設置されることがあり、注意が必要です。図・右のように 4極式 ELBを単相負荷電源側に設

置し、外箱に C種接地をとれば、漏電保護ができます。

N相は接地線ではなくの電流は設備の対地電流ではなく負荷電流です。図・右のようにN相を接地極か

ら引き出した場合は、変圧器の B 種接地線は負荷の帰線となります。B 種接地線電流での絶縁推定は極め

て困難です。後述する 4-2-2節の絶縁監視装置が想定しているシステムではなく、適用できません。

現場まで配線される N 相を外箱等の機器接地として使用した場合は、次節の接地システムで説明する

TN接地系となります。4極式 ELBを使用しても、絶縁劣化による外箱等への漏電電流は ZCTで打ち消さ

れるため、漏電要素でのトリップ動作はありません。しかしながら、相間(例では T-O 間)が短絡状態

になるため、ELBは過電流要素で動作します(MCCBで可能です)。

440V(60Hz標準)では、極性相とN相間の単相線間電圧は 254Vになります。電気設備技術基準の 202

±20V の範囲外です。国内の単相設備を使用する場合は電圧が対応できるかの検討が必要です。線間電圧

400V(50Hz標準)、380V等も使用されています。接地種別は線間電圧によるので C種になります。対地

電圧は三相部でも 254Vで 300V 以下になると考えれば、絶縁抵抗は 0.2MΩ以上で良好となります。

※ 三相三線式 Y結線(動力専用)

N 相(中性)を使用しない場合は動力専用 Y 結線になります。B 種接地線の電流(Io)は漏電成分電流

になりますが、Δ結線一相接地の場合とは異なる特性(Iocはベクトル的にキャンセルされるため一般的に

Io検 出

ZCT

B種 接 地

3極 式 ELB

Io検 出

ZCT

B種 接 地

4極 式 ELB

単相

負荷

単相

負荷

C種 接 地

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は極めて小さい)があるので、絶縁管理での注意が必要です。

接地を変圧器の O点ではなく、Δ結線と思い込んで 1線(S相等)に取った場合は、他相の対地電圧は

相電圧の 254V ではなく線間電圧の 440V になります。国内産の電動機等が頻繁に地絡故障を生じること

があります。接地を変圧器本体の O端子ではなく、キュービクル母線に取っている場合に生じやすい間違

いです。

灯動共用変圧器については、九州産業コンサルタント協会ホームページへ戻り、「灯動共用 V結線の運用

取扱と容量計算」も参照ください。

c ) 接地システム

接地には、電路に行う系統接地と、機器外箱等に行う機器接地があります。機器接地と系統接地の組合

せで、異なる接地システムとなります。最近はこれまで使用されてこなかった接地システムの設備(海外

製等)に設置された ELB が、「このような設備になぜ使用したのか?」ともいうべき不適切な動作を行う

例も増加しています。

・接地系の種類

系統接地と機器接地の組合せで、大きく分けて三種類の方式があります。アルファベットの 1文字目が

系統側、2 文字目が機器側を示します。機器内部での絶縁不良(地絡)現象は接地システムにより異なる

ので、保護方式も異なる物となります。

① TT接地系

国内で一般的な接地システムで、系統接地 B 種と機器接地 D(C)種が個別に取られている場合です。

3-3-1 節と 3-3-2 節は B 種と D 種の接地が取られている TT 接地系での現象です。電路または機器での地

絡(絶縁不良)の場合は直ちに漏電(対地)電流が生じるので ELBでの保護ができます。

② IT接地系

系統接地がなく(又は高インピーダンス接地)、機器接地のみが取られている場合です。a )節の非接地

系は IT 接地系です。絶縁不良が生じても漏電電流はほとんど流れません。地絡は健全相の対地電圧上昇

を検出する OVGR(地絡過電圧)で保護します。ただし電路に接地コンデンサがある場合は ELB も適用

できます。

③ TN接地系

系統接地と機器接地が共用である場合です。b )節の Y結線三相四線式は TN接地系です。中性線と保護

導体の使用形態で 3 種類のものがあります。中性相が外箱接地に使用されている機器内部の絶縁不良は、

極性相と中性相の短絡となるのでMCCBが過電流動作することで保護ができます。

ELBは世界共通に適用されているものではなく、TT接地系の設備にのみ適用されるものです。安全な

使用のためには、ELBの本体設定だけでなく、B種接地がない場合等の、接地方式が異なる場合の現象を

理解しておくことが必要です。私が非接地(IT 系)の事業所(ELB は使用されていない)で勤務してい

たころ、街(接地系)専門の工事店は、中性線が接地されていると信じ込んでいるので危険だ(感電防止

に注意が必要だ)、というのが先輩から受けたアドバイスであったことを覚えています。

※ 太陽光発電設備での ELBの使用

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・高圧(特別高圧)連携

昇圧変圧器がΔY の場合、接続には二つの方法が使用されていま

す。図・上は一般の受電設備用と同様の方式で、変圧器低圧側中性点

に B 種接地が取られ(TT 接地)、接続には ELB が使用されます。

図・下は混触防止板付変圧器が使用され、低圧部に B種接地はなく非

接地系で(IT 接地)、接続には MCCB が使用されます。図・下の方

式が多くなってきており、一部メーカでの推奨事項にもなっていま

す。昇圧変圧器の接地はパワーコンディショナ(PC)の絶縁トランス

有無によっても変わります。極性相の対地電圧安定化または ELB 使

用のために、接地がとられることもあります。

図・上では ELB の、誤動作?(不要動作)が多発することがあり

ます。発電中の電流の向きは、変圧器(系統)←PCなので、負荷側が対地絶縁されているのではなく、変

圧器巻線を通して B種接地により地絡している状態です。中性点の対地電圧は三相平衡では発生しません

が、不平衡になり対地電圧が生じると、接地抵抗による地絡電流が発生して ELB動作につながります。設

備に何らかの変化があったとは考えられますが、本来の目的である絶縁不良による動作(感電防止)では

ありません。ELBが設置されてしまっている場合は、幹線保護用と同様の考えで、感度に余裕を持たせる

ことでの対応となります。仕様ではMCCBであるのに、工事店等の親切心?により ELB 設置になった例

もあり、不用意に(習慣的に)使用しないことが必要です。

しかしながら、図・上でも、電気技術設備基準等の安全法規に反するものではありません。高低圧の混

触による危険防止のための B 種接地と、低圧の漏電防止のための ELB 使用は安全処置としては満足して

います。ELB誤動作による発電機会の損失(経済的損失)防止・効率運用は発電事業者の任意であり、安

全法規が目的としているものではありません。

非接地系では、1線の絶縁不良による漏電(地絡)電流は微小であるため、図・下ではMCCBでの Io測

定で得られる値の取り扱いにも注意が必要です。

・低圧連携

配電用の V 結線の共用相変圧器に接続する場合は、単相出力の PC が使用されます。系統連携点には系

統側を含む地絡保護用として ELBの設置が義務付けられています。日中の発電時と夜間の停止時に電源が

入れ替わるため、3-2-2 節の逆接続可型の使用が必要です(普通型を使用した設備もあります?)。共用相

変圧器には B 種接地があり、配電線が長いなどでの静電(浮遊)容量も大きくなります。不要動作(誤動

作)防止のためには、メーカHP等に公開されている、PC台数・容量を考慮した推奨値を参照しての選定

(感電保護用ではない)が必要です。漏電または過電流での誤動作は、いずれも系統側から見れば安全側

であるので、対応は発電事業者の責任となっています。連携用 ELBは系統側の雷撃による誤動作も生じや

すくなります。

高圧以上で連携する場合の系統側の地絡保護用としては低電圧リレー等の、より高度の保護システムが

要求され、整定値は電力会社より指定(協議)されます。

※ ABD接地極のワタリの影響

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小容量の受電設備では A・D種接地極と B種接地極に図・左の矢印のように「ワタリ」(接続バー又は短

絡線)が取られ、共通となっていることがあります。実質的には TN接地系に近い状態(TN-S?)と考え

られます。接地抵抗の絶対値としては基準以下を

満足しますが、ELB による保護を行う TT 接地

系としては良い方法ではなく、ELB の動作にも

違い出る(過敏に動作する?)と考えています。

図・右はワタリがない例です。この場合、次項

で説明するように受電中は二極間には電圧差が発生しています。短絡するとスパークが発生し、ELBが誤

動作する場合があります。受電中の接地抵抗測定でのクリップ取付け等では注意が必要です。ワイヤブラ

シ等による清掃は危険です。

避雷器用 A 種接地極(雷電流保護)、ELB 専用 D 種接地極(TT 接地系での誤動作防止)は共通化でき

ません。

・等電位ボンディング

B種と D種が分離されている場合、接地抵抗が法規(電気設備技術基準)の適正値であっても、分電盤

等の中性相(B種接地)と D種接地端子との間には、数百mV の電圧が発生していることがあります。漏

電が生じていない場合でも、ケーブルの静電容量などにより対地電流(mA 単位)が流れるための、接地

抵抗による電圧差と考えられます。電源容量としては大きいため、コード等で短絡すると火花が発生して

電流が流れることがあります。D種接地の電路に ELBがある場合は動作します。

一つの設備(システム)に異なる接地がある場合、雷撃等の地絡大電流発生時には接地間に大きな電圧

差が発生し、電気設備が絶縁破壊することがあります。雷撃等以外でも、接地極間の電圧差による、電子

基板等の電源の B種とグランドとしての D種が近接しているための損傷、汗ばんで抵抗が下がった人体に

よるマイクロショックと呼ばれる感電現象等が生じる恐れがあるとされています。

この現象は D種接地が複数の接地極を持つ場合にも生じます。一つのシステム内では接地を一点にする

ことが有効です。より安全のためには、混在する電源、通信、避雷等の複数のシステムを個別接地ではな

く、全ての接地電位を同一にする等電位ボンディングと呼ばれる接地とする必要があります。電源・情報

ケーブル・外部引出金属管等の、人が触れる可能性のある金属部を同一電位にすることができるので、感

電防止として有効です。3-3-1 節の ELB 用 D種接地と A・D 種接地の SPDでの結合は、雷撃時の等電位

を目的としていると考えられます。

4.漏電調査 topへ

漏電状態の調査には、停電して行う絶縁測定と、停電しない(使用中のまま)で行う電流成分等による

測定があります。操業への支障が少ない、間接測定が優先されるようになっています。いずれも安全対策・

測定器取扱に専門知識が必要です。

漏電現象は天候・湿度・他の設備を含めての使用状況等の複合的な要因によることが多く、不安定にな

ることがよくあります。各種の調査を並行して行い、総合的に判定することが重要です。例えば、絶縁抵

抗測定(直流)でゼロ(不良)であっても、漏電成分電流(交流)はなく、ELBは動作しない等の不思議

な現象が日常的に存在します。実施にあたっては工事店、電気管理技術者等の専門家へ依頼することが安

全・効果的です。

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4-1.停電しての絶縁(対地)抵抗測定

対地絶縁をメグオーム(MΩ)単位で測定し、漏電の原因である絶縁劣化部を調査

します。設備を停電させ、絶縁抵抗測定器(メガ)を使用し、右図のように測定プロ

ーブを直接あてて、使用電圧に適合した直流電圧で測定します。設備特性で指示が変

動する場合は、1分経過での指示値を使用します。

低圧用メガを下図に示します。発生する測定電圧の切替えができ、JIS規定電圧以

下の低電圧まで対応可能なものが増えています。左はアナログ表示(25-50-125-250V

切替)、中はデジタル表示(50-125-250-500V切替)型です。プローブはいずれも、分電盤用の細いものを

装着しています。右は絶縁抵抗測定がで

きると勘違いされることの多いテスタで

す。内部電池の電圧(1.5V)で測定する

ため、絶縁抵抗の測定はできません。

測定電圧は電路または機器の対地電圧

で決定されます。JISでは良好判定の基準値は、電灯 100V部は DC125Vで 0.1MΩ以上、動力 200V部は

DC250V で 0.2MΩ以上と規定されています。いずれも常用での対地交流電圧の波高値以下となっていま

す。500Vレンジは、竣工検査で設備が接続される前にのみ使用します。

停電点検などの調査では、最初に配電盤での幹線測定を行い、基準値を満足できない場合は現場分電盤、

分岐等の測定(上流側から下流側)を行います。分岐がある場合は、並列に接続された分岐回路の絶縁抵

抗がオームの法則の従って影響します。「合成」とも呼ばれる測定値低下の現象です。MCCBなどでの分岐

できる回路毎に JIS 値が満足できれば良好とします。電灯 100V で 0.1MΩ(1000Ω)であれば漏電電流

は 100V/1000Ω=1mA になります。30mV 感度 ELB では二次側に 20 台以上の分岐回路があっても動作

はありません。

現場分電盤から負荷側の絶縁(不良)部調査では、JIS規定電圧の半分程度の電圧での測定が安全です。

100V 部を 50Vレンジで測定しても、不良部の検出は可能です(指示値はほとんど同じ)。電子部品が多く

なり、AC100V設備の DC125V 測定では基板等に不具合を起こしたとの苦情を受けることがあります。設

備の状況によっては 25Vレンジも使用します。測定器を ON位置としたまま、プローブを接触させる、又

は離すと被測定側にサージによる異常電圧がかかることがあるともされています。プローブを当ててON、

OFFとして離す操作が安全です。

※ 接地相(中性相)の絶縁

健全性の測定で一相のみを行う場合は接地相(一般的には白相)を優先します。接地相は通常では対地

電圧がほとんどないため、絶縁不良となっても漏電電流が発生しません。ELBは動作できず、次節の絶縁

監視装置でも検出されません。

設備の運用を継続するため、2 線式配線では、極性相の絶縁劣化時の緊急処置として極性相と接地相が

振替えられていることがもあります。しかしながら、同一電源の他の設備に漏電が生じ、絶縁不良個所か

ら漏電電流が流入して電源側に向かって流れると、原因不明の動作(もらい動作)が生じます。ELBには

電流の向きを判断する機能(方向性)がないためです。他相の劣化進行のおそれも大きいと考えられます。

接地相であっても保全を行いうことが必要です。

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分岐ブレーカが 2P1E 型の場合は、極性相に過電流(E)要素がなくなるため、N表示が

ある側に中性相を接続することが原則です。2P2E 型(電灯 200V に使用されることが多

い)とは外形上の見分けは困難です。Nの表示があることで確認できます。

※ ELB制御回路の保護

制御電源は左右極間からとられています。定格電圧(200V が一般的)以上を加えると制御回路焼損の危

険があります。本体には右図のように左右極間での絶縁測定をしないようにと

の表示があります。竣工検査等での 500V測定では、二次側配線を外し、ELB本

体には電圧をかけないように測定すれば安全です。逆接続の節での「メガテスト

切替」があれば、テスト位置にすることで制御回路が切り離され、安全な測定が

できます。電気料金削減?のための電子ブレーカも同様と考えられます。

3極式の ELBを 2線式回路で使用する場合は、左右相を使用すれば、制御回路が活きるので、漏電検出

機能が使用できるようになります。

※ その他のメガ

・太陽光用メガ(直流回路)

直流回路でも絶縁が劣化すると漏電が発生します。直流は交流のように電圧ゼロとなることがないため、

感電時の人体への電撃は大きく(同一電圧で数倍以上の危険性)、漏電火災発生時の消火も極めて困難(燃

え尽きるまで待つしかない)とされています。

太陽光電池は日光がある場合は常に直流電圧を発生します。一般用メガを使用しての直流部の絶縁測定

は、発電が停止する深夜に作業する、P-N 極を活線(発電)状態で短絡する等の危険な作業が必要になり

ます。太陽光用メガを使用すると発電中の絶縁測定を行うことができます。

いくつかのメーカから各種のものが販売されています。図は P極(赤)、

N極(黒)、E極(緑)の 3極の測定端子があり、絶縁不良セルの特定機能

を持つものです。直流電圧の影響を電気的にキャンセルする機能を持つも

のなので、交流回路の無停電測定はできません。直流では、通常使用される

交流専用検電器は動作しません。直流検電器をアース端子を接地して(対

地浮遊静電容量での微弱電流はない)使用することが、作業時の感電防止

には必要です。

絶縁管理は保安のためのものです。発電能力維持のために必要な条件ですが、より効率的に発電するた

めには、V-I特性等の太陽光電池の特性を考慮しての機能管理が別途必要です。

・高圧用メガ

高圧(6600V 等)以上での絶縁劣化による故障現象は「地絡」と呼ばれ、電力会社配電系統にまで波及

する恐れがある大事故になります。高圧部の絶縁測定には直流 1000V 以上の電圧(高圧)を発生し、GΩ

(ギガオーム)単位での測定ができる高圧用メガを使用します。低圧では安全な絶縁物も、高圧では絶縁

破壊が生じます。低圧部の測定に高圧用メガを使用すると、即時に絶縁破壊が発生します。1000V レンジ

がある高低圧兼用メガでは、間違えて低圧部を高圧で測定しない注意が必要です。

右図は DC10kVまでの電圧で測定を行うことができる、高圧専用の可変電圧メガです。極性側プローブ

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(灰色)は測定時の漏れ電流を防止する特殊な構造になっています。記録

計出力があり、漏洩電流の時間変化(キック現象)、絶縁値の電圧依存性を

測定することで、ケーブル等の簡易絶縁診断も可能です。添付「高圧ケー

ブルの絶縁測定」をご参照ください。

受電用変圧器の一次側と二次側の巻線は絶縁されているため、一次(高

圧)側は、二次(低圧)側の接続状態に関係なく測定できます。高圧配電線の中性点は直接接地ではない

(電力変電所での高抵抗又はリアクトル)ので、高圧部地絡時の電気的な現象は低圧部の漏電とは若干異

なる状態となります。

4-2.停電しないで行う測定 topへ

漏電の疑いがある場合に分電盤等で臨時に行う方法と、自家用設備(事業所)等の受電変圧器の B種接

地線に固定設置して、常時監視を行う方法があります。組み合わせると、より効果的な調査ができます。

4-2-1. 臨時に行う方法

a) クランプリークメータ

mA単位の電流を測定できるクランプリークメータ(クランプ)で対象ケーブルを一括クランプして(は

さみ込んで)測定します。漏電(帰ってこない)電流があれば、出入りの電流差である Io(電気理論での

零相成分電流)が発生するという、ELBの漏電検出と同じ原理による測定です。中性相のみの絶縁劣化の

場合は、漏電電流が小さいので、判断が困難なことに注意が必要です。

クランプメータには各種の大きさ・形

状があり、測定部に適した大きさ、形状

を使用します。図・左は小型での分電盤

分岐ブレーカ二線式での測定、中は中型

でのキュービクル配電盤の三線式での

測定、右は大型アダプタと小型クランプを併用した大口径 3線ケーブルでの測定例です。

アース配線(機器接地に使用されている)を含めて測定すると、漏電電流が往復状態になり測定できま

せん。アース線はクランプ部の外に出して測定します。多芯ケーブルでは、1芯をアースに使用しているこ

とがあるので、注意が必要です。測定レンジの切り替えがある場合は、大きなレンジでは誤差が大きくな

るので、測定可能な範囲での小さなレンジを使用します。クランプ部のかみ合いが甘いと、指示が大きく

なります。指示が大き過ぎると考えられる場合には再度かみ合わせてみます。測定線をクランプ内の中央

にしないと誤差が出ると言われていましたが、最近は CT 部の鉄心設計の改善で、配線位置の影響はほと

んど無いとされています。Ioが大きい部分が漏電の疑いがあると判断します。

家庭用では分電盤出口ではなく、屋外の電力メータ引込口での測定も多用され、1mA 以下(100V では

0.1MΩ以上)が良好とされています。事業用では、負荷設備特性・ケーブル等による影響が大きいので、

明らかに漏電とわかる電流(50mA 程度以上)でなければ、実態を勘案しての他の部分との比較で判断し

ます。

※ 真の漏電値推定

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クランプでの測定値 Ioは、絶縁劣化による抵抗成分 Iorと、電路等の対地静電容量による成分 Ioc(Ior

と 90 度の進み位相)のベクトル合成です。Ior は真の漏電値とも呼ばれるこ

とがあります。ケーブル長さ等で対地静電容量が大きくなる、または使用設備

の特性(インバータの使用)で高調波成分が増えると Iocが大きくなり、Ioが

大きくなります。対地静電容量を C、高調波周波数をf、電圧を V とすると

Ioc は 2π×f×C×V となります。高次高調波成分の電圧は基本波成分に比

較して小さくなりますが、fが大きくなるため Iocは大きくなります。Iorに

は周波数依存性はありません。Iorの推定で漏電箇所の判断がより正しくなります。

① フィルタスイッチ(高調波成分の除去)

「WIDE⇔50・60Hz」、「フィルタ ON」等の切替がある場合、使用位置(高調波成分除去)で測定しま

す。高調波による Ioc成分が抑制され、Iorにより近い値が測定できます。設備特性によって変わりますが、

私の経験では、フィルタ使用と除外で、13mAと 190mA、35mA と 80mA等です。ELBが動作した場合、

フィルタ入り切りでの指示値の差で、静電容量分電流による不要動作要因があるかを判断することがます。

mAレンジでは内蔵されていることが多いようです。

高調波成分が大きい時には、ケーブルから高調波音(うなり音)がする場合があり、ウルトラホン(高調

波聴音器)の聴音で聞き取ることができる場合もあります。フィルタ使用でも Io値が大きい場合は Ior測

定を行います。

② Ior測定装置(基本波 Ioc成分の補正)

高調波フィルタでは対応できない基本波による Ioc成分抑制のために使用されます。Ior測定装置の使用

で、指示値はフィルタ使用のみの値、例えば 60mAから 10m程度まで小さくなります。物理的に Iocを補

正する方式と、波形分析により Iorを演算する方式があります。

図は Ioc と逆位相になる電流をクランプ内に流すことで補正する測定器です。動

力配線に使用している状況を示します。赤矢印が試験器(補正電流発生器)です。

非接触で検出した R-T相電圧を基準とした補正電流を発生し、クランプ内に通すこ

とでクランプメータ表示は Ior に該当する値になります。クランプメータの持つ高

調波分フィルタに Ioc 補正を追加した測定になります。操作には若干の習熟が必要

ですが、測定原理が分かりやすく、Io測定用の各種形状のクランプメータを活用で

きることが利点です。

クランプメータにフィルタと演算機能を内蔵させた型も市販されています。電圧の位相と Ioの位相を比

較して、Ior成分を算出します。より高精度の演算を行う装置が活線メガとしても販売されています。

いずれの方式も、電灯では中性点接地、動力ではΔ結線 S 相接地での特定の絶縁劣化を前提とする処理

を行うため、前提から外れた漏電が生じている場合は測定誤差になります。3 相の場合に前提とされるベ

クトル図を 4-2-2、c)節に示します。Ior 測定値を絶縁抵抗値に直接的に換算することはできないため、現

状では法規による絶縁測定の代替えとはできません。

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※ 設備構成の確認

右図のスターデルタ(YΔ)始動装置では、デルタ運用中に、ブレーカ(B)一

次①を三相一括測定した場合は正しく測定できますが、主マグネッの②、Δ用マグ

ネット(Δ)の③の部分等を測定すると数 A程度の指示が出ます。モータ(M)の

巻線などの特性による循環電流が含まれるためです。②と③で測定する場合は M

へ行っている、合わせて 6本(UVWと XYZ)を一括測定すれば Ioが得られます

が、ほとんど不可能です。実際のマグネット配置と配線は分電盤組込みで異なりま

す。片側が短絡(又は一次二次間短絡)された動力用マグネットがある場合、YΔ

装置があると考えて、測定個所の選定に注意する必要があります。添付「スターデ

ルタ始動電動機の漏電調査」をご参照ください。

YからΔ切り替(タイマ動作)時に発生するサージは、上流側に ELBがあれば、誤動作要因となります。

スターデルタ始動装置は、使用する電動機の起動で電源電圧が大きく変動しない(電源容量が大きい・イ

ンバータ起動・指導補償機等)場合は必須ではありません。

b)漏電現象の記録 topへ

漏電は不安定(間欠的)に発生することも多く、Io 値の記録を行うと原因追究に役立ちます。クランプ

メータに記録用出力があれば、連続記録を行うことができます。パソコン接続可能の記録計と組合せにな

った市販品を使用すればより簡単です。

現場分電盤での記録の例を図・左に示します。大口径

クランプを分電盤電源、小口径クランプを漏電が疑わし

い設備への分岐に取り付けています。記録例を図・右に

示します。上側のグラフが電源、下側が分岐配線です。

同じ変動であり、分岐配線に間欠的な漏電があること判

断できます。絶縁不良の機器が接続され、間欠的に運用

されていると考えられます。受電用 ELBの感度が 30mA(定格不動作 15mA)であれば、不安定に動作す

ることが考えられます。記録値に変動がなく、ELBが動作する場合には、ELB本体に異常があるとも判断

できます。変圧器の B 種接地線に取り付けると、その変圧器に接続されている設備全体による漏電量の記

録ができます。記録例を 4-3に紹介します。

※ 測定器の各種設定、記録の作成は付属専用ソフトをインストールしたパソコンに接続して行います。

現場での本体操作は非常に面倒です。測定作業前に測定対象を検討し、事前にレンジ等の設定をしておく

ことが必要です。現場での作業はクランプと本体の安全な取付け、取外しだけと考えておくべきです。

c)活線漏電点標定器

配線が複雑でクランプメータを使用できない場合、多数の点数を短時間に行う場合等は活線漏電点標定

器の使用が有効です。次節の Igr 絶縁監視装置方式と同じ原理による測定です。信号発生器と注入トラン

スにより B種接地線等に基準信号を注入し、漏電(絶縁不良)点へ流れる信号を、一相毎に専用の検出器

で探査します。クランプメータ測定では検出されない、中性相の絶縁不良にも対応します。

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図・左が測定器構成で、信号発

生器、注入トランス、検出器で

す。図・中が B 種接地線への信

号注入、図・右が絶縁低下相の探

査状況です。前述したニュート

ラルスイッチの場合も、2線を同時に測定する必要がないので対応可能です。しかしながら、測定結果の絶

対値での表示は無く、発信機出力・検出器感度調整、結果判定に「感」と「経験」

が最も必要とされる調査です。100mA 程度以上の漏電電流が流れる絶縁不良でな

ければ判定が困難です。

※ 注入トランスは分電盤では右図のような取付けもできます。漏電が大きく、ブ

レーカが ONにできない場合(死線)です。二次側に信号経路としての接地配線を

仮設して信号を注入します。分岐ブレーカ、配線、器具等の外部からの不良個所調

査が可能になります。負荷設備内部の配線都合でメガ測定値が同じ場合でも、漏電

点の場所によっては応答が異なり、不良相が推定できることもあります。

同様の方式が、次節の Igr式交流絶縁監視装置と、能動式直流絶縁監視にも使用されています。

4-2-2.常時監視を行う方法(高圧需要設備の場合)

変圧機 B 種接地線の電流の常時監視により負荷設備の絶縁を推

測します。二次側が B種接地されている場合、その変圧器気を電源

とする負荷設備で漏電した電流は、B種接地線を経由して変圧器に

戻る特性を利用したものです。右図に単相三線式の例を示します。

電気事業法による設備は絶縁監視装置、消防法による設備は漏電火

災警報器(LGR)と呼ばれます。

B 種接地線での測定値は配電盤での回路別の測定値の合計より

も小さくなります。漏電成分 Ioの回路毎の位相差によるものです。

分電盤での一括測定値と分岐ブレーカ測定値の合計も、同様に差が

発生します。

※ TT 接地系であるとして説明をしています。ABD 共用の接地系(疑似 TN 系)でも、D 種接地され

た機器外箱の大地に対する漏電であれば同様です。

a) 絶縁縁監視装置

図・左が絶縁監視装置の本体例です。キュービクル内等に後

付けで設置されています。図・右の緑色ケーブルが変圧器の B

種接地線、黄色○印が検出用 CT(分割型)です。電源は予備ブ

レーカ又は、他の電源からの分岐となっています。同様の固定

CT 固定が赤○印のように直列に取り付けられていることがあ

ります。これは、次に記述する漏電火災警報器用です。

電気事業法による保安管理を外部委託している場合は、装置取付けが、月次点検頻度を毎月から隔月に

変更する条件ともなっています。接地線電流が 50mA または 44mAで漏電、200mAで高漏電の 2 段で警

信号注入

漏電

設備等電源変圧器

中性線

B種接地

検出器

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報が発生し、発生時には管理技術者等に伝送されます。記録が残る場合は、3-2-1のもらい事故の確認等の

漏電状況の調査にも役立ちます。

※ ダブルパワー(コンビネーション)変圧器、V 結線共用相の並列運用の場合は、それぞれの中性点が

緑色ケーブルで連携されます。負荷状況により、中性点連携線にはアンペア単位の循環電流が流れます。

変圧器中性点に接続されている緑色の線の電流は Io 電流であると決めてかかり、間違えて取り付けると、

原因不明の高漏電との勘違いになります。

・監視方式の種別

B 種接地線の電流測定値 Io をそのまま使用する Io 方式、Io から真の漏電値とも呼ばれる対地抵抗分成

分 Ior を演算する Ior 方式、B 種接地線に専用の模擬信号を注入する Igr 方式があります。一般的には Io

→Ior→Igr方式の順に真の漏電値が推定できるとされています。

① Io 方式:B 種接地線の電流を 4-2-1 a)のリーククランプで測定する場合と同様の方法です。測定値を

連続監視している状態です。高調波フィルタが内蔵されていますが、基本波による Ioc 分はそのまま残る

ため、負荷設備の静電容量が大きくなると、Io も大きくなります。動力用ではインバータ更新等で、絶縁

劣化に関係なく、指示値が大きく変わることがあります。電灯用でも LED照明などで高調波が増える場合

があります。

② Ior 方式:Ioc が大きい動力設備等に、より高度のフィルタとし

て適用されます。演算型の Ior測定器と同様に、Ioと線間(基準)電

圧の位相を検出して、Iocの影響を演算補正するものです。三相Δ結

線で S相接地の場合を右図に示します。Iocはそれぞれの線間電圧か

ら 90 度進んだ電流のベクトル合成であるため基準電圧(Vrt)と同

相、抵抗分による(漏電)電流 Iorは線間電圧と同相の電流の合成で

基準電圧と 90 度の位相差があるものとして演算を行います。Io と

Vrt の測定値により位相差θを cpu で波形処理演算することで、

Ior=Io×cosθとして求められます。

※ 演算はローパスフィルタ機能により抽出された基本波成分により、Δ結線で 1 端子が接地され、各相

が同レベルの絶縁劣化をしていることを前提として行われます。想定されていない高調波成分がある場合、

または絶縁劣化がある場合は誤差になります。

V結線変圧器、コンビネーション変圧器では動力用と兼用される電灯用巻線の中性点が接地され、Vrtと

Ior、Ioc の位相差が異なるため適用できません。Y 結線変圧器は中性点が接地され、三相それぞれの相電

圧による Iocはベクトル的に打ち消しあうため、演算は不要です。三相の絶縁劣化が同レベルの場合も、Io

も 120°の位相差で打ち消しあうので、Δ結線 S相接地に比べて極めて小さな値(数mA)となります。Y

結線変圧器の B種接地線に電流が発生した場合は 1相の絶縁不良が生じていると判断できます。

③ Igr方式:演算処理を行うのではなく、B種接地線に専用の測定信号を注入して、絶縁劣化部より大地

へ分流する測定信号の戻り成分を測定するものです。測定信号に対応する検出用 CT と B 種接地線に信号

を注入するための装置(4-2-1cの活線漏電点標定器の注入トランス相当)が必要です。Ior 方式では対応

できない全ての変圧器結線と、Io、Ior 方式共に対応できない中性相の漏電にも対応できます。現在は Ior

Vrt

基準電圧

Ior

Ioc

Io

S相接地

Vrs Vts

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演算が cpuで簡便に実施できるため適用例は少なくなっています。

・絶縁監視装置で検出されない場合

絶縁監視装置では検出されない故障があるので注意が必要です。

① 短絡のみで漏電(地絡)電流がない場合。

絶縁監視装置は絶縁そのものではなく、絶縁不良により生じる B 種接地線に戻る電流 Io を監視します。

絶縁変圧器等が使用さることで非接地系となっている部分で絶縁不良が生じても、B 種接地線に漏電電流

が帰ってこない場合ため検出できません。

右図はネオンサイン設備で、絶縁変圧器で高圧に昇圧された(非接地系とな

った)高圧ネオンケーブルが建物に触れてショート・焼損したものです。絶縁

被覆が損傷して芯線が建物金属に触れても、非接地系であるため、漏電(対地)

電流はほとんど発生しません。もう一方のケーブルが損傷し、線間アーク放電

が発生し短絡焼損したと考えられます。視覚的には火花が飛び散る大事故です

が、絶縁監視装置が予測している漏電状態ではないため、検出できません。

外箱の接地が不良である設備の内部でも、短絡(火災発生)から地絡に移行するまでの間は同様に検出

できません。同様の例として、変圧器を使用してプール用照明等のより安全な低い電圧に変換されて使用

されている場合(漏電電流抑制のために非接地系)、海外製機器等を使用するために昇圧または降圧をして

いる(二次側に接地を取っていない)場合等があります。

② 負荷設備の ELBが正常動作した場合

ELBは絶縁監視装置の検出時間より早く動作します。漏電状態がなくなるので絶縁監視装置は動作(発

報)しません。機器内部の保護ヒューズが溶断した場合も同様です。漏電(1線地絡)による電流がヒュー

ズの溶断電流以上である場合は、ヒューズ溶断が最も早いため、ELBの動作もありません。

③ 中性相の絶縁劣化の場合

中性相は運用中の対地電圧が小さいため、絶縁劣化が生じても、漏電電流はほとんど流れません。中性

相以外の劣化は B種接地線の Io増加につながり、絶縁監視装置で検出できますが、中性相の場合には検出

できません。絶縁監視装置がある設備での絶縁測定では中性相(接地相)が必要です。

Igr方式の場合は測定信号を注入しているため、中性相の絶縁劣化にも対応します。

・絶縁監視装置のもらい動作

地絡事故により B 種接地線に大電流が流れた場合は、3-3-1 での B 種接地電位の上昇、及び並行する B

種接地線への電磁誘導等により、漏電していない他の変圧器の B種接地線に 50mA以上(多い場合は 300

mA 程度)の電流が流れることがあります。高漏電警報と、他の変圧器の漏電の同時発生は、危険な地絡

事故が発生していると考えることができます。例えば、1線地絡電流が 50A程度まで流れ、MCCB動作の

場合は、高漏電と他の電灯変圧器の数分程度(MCCB動作時間)の漏電動作が発生し、同時に復帰します。

b)漏電火災警報器(LGR)

測定原理は Io方式の絶縁監視装置と同じです。検出用 CTも前項の図のように、B種接地線に絶縁監視

用と直列に取り付けられています。消防法(施行令 22条)によりラスモルタル構造建築物の火災防止とし

て設置される装置で漏電発生時に、外壁モルタル下地のラス(金網)を流れる漏電電流による発熱・発火

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を防止することが目的です。根拠となる法規が違うため、絶縁監視装置との共用は

できません。ラスモルタル構造以外であっても、漏電電流でケーブルラック接続部、

屋外壁トタンのめくれ部、壁の釘等の思いもかけない場所が過熱することもありま

す。漏電火災原因としての漏電電流値を直接的に監視していると考えることができ

ます。

キュービクル仕様として製造時に取り付けられるので、検出部(CT)は固定であ

り、電源は専用ブレーカで取られています。警報は 100mA 以上の可変設定となっているものが一般的で

す。図では設定値は 100、200、400、600mAになっています。ケーブル長、インバータ等による高調波の

影響を受けやすいので、負荷設備の状態を見て設定することが必要です。

小型のキュービクルでは、複数の変圧器(電灯と動力)の B種接地線を 1台のCTに

通して監視しているものがあります。設定値は 2台の合成分になります。

警報用の無電圧接点が別置端子台に引き出され、外線が結線されている場合は事務所

等の警報盤に「低圧地絡」等として表示されます。結線されていない場合は、キュービ

クル、電気室等で動作(本体の鳴動、表示灯点灯)を確認することになります。絶縁監視装置は後付けなの

で、警報盤等の既設部に信号が送られることはありません。

※ Io方式絶縁監視装置と同様に、LGR の動作試験は検出 CTに試験線を通し、GR試験機(Kt―Ltを短

絡)などで試験電流を流して、警報発生を確認することで行うことができます。Ior方式絶縁監視装置は電

流値のみでなく位相の調整も必要です。

4-2-3.設備運用状態との比較検討(漏電記録の例) topへ

使用設備の運用状況との関係を把握すると、漏電部を推定できることがあります。変圧器 B種接地線の

電流 Io 記録による推定例を示します。Io 記録は 4-2-1bに示した記録計による作成です。漏電発生部によ

り、いろいろなパターンを示すことが分かります。設備運用担当者に提示することで、漏電状態を説明す

ることができます。

・ホール天井電灯回路の不良の例

ELB が入っていない電灯 100V 回路での漏電例です。最高値は 600mA です。朝夕のホール(玄関)天

井灯使用時間と一致しました。日中は(どこかで)スイッチが切れているため判定不良(漏電電流無し・絶

縁抵抗良好)でした。天井灯の不良と判断し、場所を特定しての点検で配線不良が見つかりました。人が

触れない場所であっても、ELB を設置すれば安全です。

天井配線が不良であったため、使用時間の間を通して変動の少ない漏電電流が流れたと考えられます。

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天井照明の工事後には極性相と接地相の誤結線での漏電(地絡)が生じることがあります。

・充電設備不良?の例

動力 200V 回路での連続漏電例です。終業後に発生し、始業時に終了しています。電動フォークリフト

のバッテリー充電時間と一致しました。開始時期の最高値は約 12A、その後時間とともに下がりました。

停電しての絶縁測定時には、充電コンセントのプラグ(三相四極式プラグの接続間違い?)が外されてい

たためか、まったく異常はありませんでした。フォークリフト充電回路の点検後、漏電現象は消滅しまし

た。B 種接地線に戻る過程で建物鉄骨が帰路となれば、接合部の電気抵抗による過熱が発生し、火災の原

因となることもあります。夜間無人時に使用する設備には ELBが必要です。

充電電流がそのまま地絡になって電源に戻り、充電特性により電流が変動したと考えられます。

・クレーン不良の例(断続的変化)

動力 200V 回路での間欠漏電例です。クレーン運転と同時に秒間隔での 1A 程度の漏電が頻発しました。

巻き上げモータの不良が発見されました。クレーンの駆動部に不良があり、インチング運転操作に合わせ

て、漏電電流が変動したと考えられます。パンタグラフのケーブルが不良となり地絡する場合は、より大

きな電流になります。運転状態との比較での判断になります。漏電発生は短い時間ですが、感電墜落災害

等の人的災害を引き起こすには十分な時間です。

設備の組込ヒータ不良状態でコントローラの温調動作に合わせて入り切りが繰り返される場合にも、急

変の繰り返しが生じます。温度上昇で絶縁が劣化する場合には、使用開始の後、時間経過後に発生します。

ヒータは高温になるため専用の耐熱コードが使用され、絶縁被覆が無い場合も多く、ワークの移動等で端

子部が本体に接触して、断続的な 1線地絡になることがあります。

ブレーカを ELBにすれば漏電は解消できますが、電源喪失による急停止等で、設備運用に危険性がない

かの検討が必要です。

・通常での電流変動の把握

絶縁が劣化していない場合でも、Io は設備の運用状況によって大きく変動します。通常での変動状態を

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把握しておくことで、漏電調査が早くなります。

昼休みでの動力変圧器 Io 変動記録を示します。

インバータ設備の停止により急激な減少が生じて

いると考えられます。Iorの測定結果は 7mAだった

ので、昼休み中の 40mA弱が 60Hzによる Iocであ

り、稼働設備の高周波により 65mA程度に増加する

と考えることができます。Ior 測定との組合せで、

絶縁不良の設備が運用されているためではないと判断できます。

・設備運用状況の聞き取り等調査

Io が急に大きくなった場合は、最近使用されるようになった設備、増設又は電気部品(インバータ等)

が交換された設備のみではなく、動きがおかしい・冷えなくなった・温まらない等の現象が生じている設

備がないかの聞き取り調査することも役立ちます。漏電(絶縁不良)が設備の不具合と関連することがよ

くあります。接地相側に異常があると、設備の運転に影響される、不安定な漏電になります。電灯 ELBの

動作であっても、3-3-1節の共通でのもらい事故の場合も考えて、動力設備の運用状況も調査することが必

要です。

4-2-4. 目視外観点検 topへ

設備状況の目視外観点検は漏電原因の推定に重要です。測定器による調査を行う場合の測定個所の判断

にも役立ちます。

・水濡れ、湿潤

コンセント等が水濡れすれば、即時に絶縁不良となります。乾くと絶縁が回復し、原因不明となります。

3-2-1節のポットの水漏れ、上部に設置されたシンクのオーバーフロー、設備水洗時の飛沫、雨濡れ等の表

面からのみでなく、壁等の背面からの水分の滲み出し、排水管不良による天井・床下の水濡れに注意が必

要です。水濡れでの滲みの跡でも推定ができます。フロアコン

セントは最初に疑うべき個所です。

図・左はケーブル配管からの浸水で、一次側端子台に錆が発

生したブレーカの例です。錆は短期間で発生し、漏電のみでな

く、内部へ落ち込みでの短絡の危険も生じます。外部からの引

込部では、ケーブルを一旦下げる、電線管に水抜き穴を開ける

等の水切り対策が必要です。図・右は低部より侵入した湿気が分電盤の天板で冷却されて水滴となったも

のです。盤上部の空調配管結露による水滴落下等で、制御盤内部への漏れ込みだけでなく、扉を開くとき

に、天板上に溜まったドレンが一度に落ちてくることがあります。

雨天・早朝に事業所が全停電したあと、通常は電流があるための温度で乾燥していた所が露等で湿潤し

て漏電することがあります。復電したあと、しばらくは注意が必要です。

・ケーブル、コードの変形変色、コンセント等の劣化・緩み

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無理に曲げられた個所、通路で踏みつけられる等の傷、固定のための外力がかか

って変形している部分(固定用ステップルの食い込み)、コンロなどの高温物加熱部

の横では絶縁劣化が通常以上に進展します。外装が変色していることもあります。

右図は MCCB 出口でタコ足配線が行われ、無理に曲げられたケーブルの外装が割

れてしまった例です。汚損・高湿度でさらに絶縁が低下し、漏電する恐れがありま

す。極度に変形させられた個所は芯線の抵抗が増加し、内部からの発熱(ジュール

熱)でも絶縁が劣化します。

コンセントプラグに電流痕(焼け跡)がないかも要注意です。電気ポット、充電器、仮設コンプレッサ等

を停止せずにコンセントを引き抜くとアーク(火花)が発生し、本体の熱変形、受刃の溶損で漏電につな

がることがあります。

照明器具の差し込み式コネクタ等では劣化による緩みで、極性相の電線が本体に接触することがありま

す。消灯時の電磁振動で発生するため、照明停止の時に ELB が動作する、不思議な現象も生じます。天井

照明器具を外して作業用通路とした場合等に、不注意な作業で緩むこともあります。電気工事以外でも電

気品の近くでの作業がなかったかの確認が必要です。ウルトラホンで高調波音を検出できることもありま

すが、引っ張ってみる、竹ヘラ等で配線を軽く叩きながらの目視等の原始的方法も有効です。

・小動物、植物等の侵入跡

ブレーカ一次端子上にラ化した小動物(ヤモリ?)が見つかった例を示しま

す。古い設備では端子カバーがなくなったものが多く、感電したものと考えら

れます。捕食しようとして、より大きな動物が侵入すると、直接的な漏電(地

絡)・短絡を生じます。ブレーカ周辺・分電盤内部に糞・卵の跡等がないかの点

検が必要です。周辺に食物ゴミがあると、小動物はさらに集まりやすくなりま

す。絶縁被覆の食害、持ち込んだ木屑等での端子の埋没(水濡れが重なる)ことがあります。

盤内に蔦等の植物が侵入して充電部に触れることがあります。高圧部ではそのまま地絡事故ですが、低

圧部では湿気を持った時に漏電になります。蔦等は小動物の侵入経路にもなります。

・ELB使用回路の確認

時間的余裕が少ない場合、分岐(又は子)ブレーカが ELBでありトリップしていない場合は、二次側の

漏電の可能性は少ないとして他の回路の測定に重点を置くことができます。電源の ELB が離れた場所にあ

る場合は、漏電で ELBトリップしても現場ブレーカでは復電できず、原因不明の停電になることもありま

す。ELB使用の有無、設置場所(保護範囲)を把握しておくことが必要です。

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参考資料

資料 1・漏電時の復旧操作

東北電気保安協ホームページ

http://www.t-hoan.or.jp/030_service/030_20_personal/030_20_03_breaker/breaker.html

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資料 2・感電電流安全限界

「接地・等電位ボンディング設計の基礎知識」 P.16

高橋竜彦 オーム社 ISBN978-4-274-94330-0

資料 3・時延による協調

「配線用遮断器と漏電遮断器による過電流、地絡協調の考え方と保護協調曲線」

月刊誌オーム 2015年 12月号 P.13 浜田桂伸

資料 4・漏電ブレーカの構造など

日本電気技術者協会、技術講座

http://www.jeea.or.jp/course/contents/08105/