揮発性有機化合物(voc)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1)...

92
平成 18 年度経済産業省 請負調査報告書 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する調査 調査報告書 平成19年3月 みずほ情報総研株式会社

Upload: others

Post on 22-Jan-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

平成 18年度経済産業省 請負調査報告書

揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する調査

調査報告書

平成19年3月

みずほ情報総研株式会社

Page 2: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

―i―

目次

1. 目的 ............................................................................ 1

2. 調査対象とする VOCの用途の検討........................... 2

3. VOC排出抑制対策についての調査............................ 6

3.1 調査概要 ............................................................................................. 6

3.2 VOC対策技術の概要.......................................................................... 7

3.3 VOC対策技術の詳細.........................................................................11

Page 3: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

1

1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

制については、平成16年に改正された大気汚染防止法に基づき、規制と事業者による自主

的取組みを適切に組み合わせて、固定発生源からのVOC排出量を平成22年までに平成1

2年度比で3割程度抑制することが目標とされた。 このような情勢の中、経済産業省は、所管の業界団体に対し、VOC排出抑制に係る自主

行動計画の策定、提出を要請しており、そのとりまとめ結果は、毎年、産業構造審議会産業

環境リスク対策合同ワーキンググループに報告し公表することとしている。これまでに、3

0の業界団体から27件の自主行動計画の提出があり、取組みに参加している事業者は9,

341社にまで及び、排出抑制に係る知見やノウハウ、技術等が各方面の事業者へと浸透し

始めたところである。 しかしながら、同ワーキンググループにおいても議論されているとおり、中小規模の事業

者や業界アウトサイダーが自主行動計画へ参加し、更には、上述の排出抑制に係る知見やノ

ウハウ、技術等を入手し排出抑制対策を実行に移すことが重要であり課題にもなっている。 (2) 本調査の実施目的と内容 本調査は上記のような課題に対応して、VOC排出抑制対策をとりまとめることを直接的

な目的とし、その調査結果は、中小企業等に対する排出抑制対策の周知に用いられると共に、

その周知を通じて、VOC排出抑制の必要性に係る啓発にも寄与することを意図するもので

ある。 そのために、調査結果の内容は、図表を多用し、安価であって直ちに実行可能な措置から

大掛かりな措置等々、成功事例を交えながら紹介することとする。更に、排出抑制対策から

得られるメリット等も盛り込む。また、VOCは多種多様な事業者で利用されているが、本

調査では、屋外塗装、屋内塗装、洗浄工程等の VOC排出現場での適用を念頭に置く。

Page 4: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

2

2.調査対象とする VOCの用途の検討 本調査は、中小規模の事業者および業界アウトサイダーがVOC排出抑制に係る自主行動

計画に参加し、排出抑制に係る知見やノウハウ、技術等を入手し、排出抑制対策を容易に実

行に移すことに資するものである。 そのうち、本調査では、国内での VOC排出状況をマクロな視点で把握した上で、以下の条件に合致する分野(業種)を主対象とする。 ①VOCの排出量が多い。

②中小規模の事業者や業界アウトサイダーからの排出割合が多い。

(1) VOC排出量の多い用途

図 2.1に、固定発生源からの VOCの排出量の内訳を示す。 VOC排出の多い用途としては、塗装(屋内、屋外)、洗浄、給油、化学製品製造、印刷、接着が挙げられる。なかでも塗装からの排出がもっとも多く、固定発生源からの排出の 5割以上を占めている。

図 2.1 固定発生源からの VOCの排出量の内訳(2000年度の推計)

(出典:(社)環境情報科学センター「平成 14 年度 揮発性有機化合物(VOC)排出に関する調査 ~VOC排出インベントリ~」)

Page 5: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

3

表 2.1に、上記の VOCの排出量の多い用途について、排出源となっている主な業種と排出物質の特徴を示す。

表 2.1 我が国での産業界における主要なVOC排出源と特徴

用途 主な VOC排出業種 排出物質の特徴 全VOCに占

める割合注)

塗装

(屋内)

輸送用機械器具製造業、金属製品製

造業、一般機械器具製造業、電気機

械器具製造業など

塗装

(屋外)

塗装工事業など

塗装からの排出が全 VOC の 6 割を占めるとされてい

る。

そのうち、キシレン、トルエンといった芳香族化合物が

半分程度で、残りは、アルコール類、ケトン類などであ

る。

57 %

洗浄

金属製品製造業、一般機械器具製造

業、電気機械器具製造業など

塩化メチレン、トリクロロエチレンといった塩素系溶剤が

VOC の 7 割近くを占める。それ以外は、脂肪族炭化水

素である。排出源は中小・零細企業が多い。排出量、

排出係数ともに高い傾向にある。

9 %

給油 燃料小売業 VOC のほとんどは、n-ブタン、イソブタンといった脂肪

族炭化水素である。 8 %

化学製

品製造

化学工業 排出されている VOC 成分は幅広く、数多くの物質が含

まれる。 8 %

印刷

パルプ・紙・紙加工品製造業、出版・

印刷・同関連産業など

排出されている VOC 成分は比較的幅広い。そのうち、

3 割程度をトルエンが占める。他は、酢酸エチル、メチ

ルエチルケトン、イソプロピルアルコールなどである。種

類の異なる物質が混在している。

5 %

接着

ゴム製品製造業、パルプ・紙・紙加工

品製造業、プラスチック製品製造業な

(木工・建築工場、建築現場、ラミネー

ト、靴履物など使用分野は幅広い。)

主な排出物質は、トルエン、酢酸エチルである。この 2

物質だけで、接着剤の使用による VOC 排出全体の 6

割を占める。 5 %

製 油 ・

油槽

石油製品・石炭製品製造業 n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、cis-2-ブテンといっ

た脂肪族炭化水素である。給油所からの排出物質と類

似している。

5 %

ゴ ム 製

品製造

ゴム製品製造業 主な排出物質はトルエンとトリクロロエタンなどであり、こ

の2物質だけで、ゴム製品製造によるVOC排出全体の

8割を占める。

2 %

ドライク

リーニン

洗濯業 主な排出物質は、石油系溶剤(デカン等)であり、石油

系溶剤はクリーニングによるVOC排出の9割を占める。 2 %

注)この数字は、(社)環境情報科学センター「平成14年度 揮発性有機化合物(VOC)排出に関する調査 ~VOC

排出インベントリ~」での値である。

Page 6: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

4

(2) 排出事業者の事業規模から見た重点用途の選定 下図表に、PRTR 届出データでの大気排出量の多い上位 10 業種の内訳のデータを示す。ここで対象とした物質は、PRTR で大気排出の届出のある全物質の中から、大気汚染防止法施行令の一部を改正する政令において揮発性有機化合物から除外されている物質(例えば、

HCFC-141b等)を除いたものである。 この図表から、大気排出量うち中小規模事業者の占める割合が大きい業種としては、プラ

スチック製品製造業、金属製品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業、出版・印刷・同関連

産業、その他の製造業が挙げられる。これらの業種での VOCの用途は、表 2.2に示すように、塗装、洗浄、印刷、接着などであると考えられる。 また前節で VOCの排出量の多い用途として挙がっていた給油(業種名は燃料小売業)およびドライクリーニング(業種は洗濯業)は、主要排出物質である石油系溶剤が PRTR 対象物質ではないので、この上位 10 業種には出てきていないが、表 2.2に示すように、これらも小規模事業者が圧倒的に多い用途である。

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000

輸送用機械器具製造業

プラスチック製品製造業

化学工業

金属製品製造業

パルプ・紙・紙加工品製造業

出版・印刷・同関連産業

ゴム製品製造業

一般機械器具製造業

その他の製造業

電気機械器具製造業

大気排出量合計(t/年)

従業員数0~300人従業員数301人~

22% 78%

79% 21%

59% 41%

81% 19%

72% 28%

85% 15%

51% 49%

37% 63%

84% 16%

54% 46%

図 2.2 PRTR届出データでの大気排出量の多い 10業種の従業員規模

(平成 16年度 PRTRデータを元に作成)

Page 7: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

5

表 2.2 PRTR届出データでの大気排出量の多い 10業種の従業員規模と用途

従業員300人以下

従業員301人以上

件数(件)従業員300人以下

従業員301人以上

大気排出量(t/年)

輸送用機械器具製造業 48% 52% 2,696 22% 78% 52,170 塗装、洗浄プラスチック製品製造業 84% 16% 1,464 79% 21% 28,266 塗装、印刷、接着化学工業 82% 18% 7,424 59% 41% 26,216 化学原料、化工溶媒金属製品製造業 88% 12% 2,461 81% 19% 17,677 塗装、洗浄パルプ・紙・紙加工品製造業 76% 24% 438 72% 28% 15,817 接着出版・印刷・同関連産業 87% 13% 567 85% 15% 14,707 印刷ゴム製品製造業 62% 38% 545 51% 49% 11,198 接着、洗浄一般機械器具製造業 61% 39% 1,385 37% 63% 10,863 接着、洗浄その他の製造業 87% 13% 707 84% 16% 9,905 接着、洗浄電気機械器具製造業 51% 49% 1,911 54% 46% 9,180 塗装、印刷、洗浄燃料小売業 100% 0% 77,666 98% 2% 1,366 給油洗濯業 99% 1% 77 97% 3% 349 ドライクリーニング

93% 7% 106,001 58% 42% 229,816 -全業種の合計

上位の10業種

その他

業種 想定される主な用途

排出事業所数 大気排出量

(平成 16年度 PRTRデータを元に作成) (3) まとめ 上記の結果から、中小規模事業者での VOC 排出抑制を考える場合、塗装、洗浄、印刷、接着、ドライクリーニング、給油が重要な用途分野であると考えられる。 したがって、本調査ではこれらの用途での VOC対策を調査対象とする。

Page 8: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

6

3.VOC排出抑制対策についての調査

3.1 調査概要 (1) 対象とする対策の種類 前章で示したとおり、本調査での調査対象は、塗装、洗浄、印刷、接着、ドライクリーニ

ング、給油での VOC排出抑制対策とする。 本調査では、情報をできるだけ網羅的に収集するが、特に機械装置に重点を置き、排出抑

制装置、回収装置等の VOC対策技術を主な対象として、収集情報の整理を行う。 また、本報告書への収録に際しては、調査時点で実際に導入可能な技術であることや VOC

対策としての有効性を考慮する。 さらに、装置を導入する事業者の規模としては、中小規模事業者を念頭に置くが、これら

の事業者の中には従業員数が数百人程度の規模の事業者もあり、大手・中堅企業と同等の技

術を導入できる可能性もあるので、情報収集する技術は、中小規模事業者向けということに

限定しないこととする。

(2) 情報の収集方法 対策技術の情報は、以下の方法によって収集する。 ①メーカー・販売店へのヒアリング ②パンフレット、文献の入手、web等による検索 ③事業者へのヒアリング など 上記①のヒアリング先は約 40社、③のヒアリング先は 3社である。そのうち、①については、日本産業機械工業会などの工業団体からの装置メーカーの紹介を受けたものもある。

Page 9: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

7

3.2 VOC対策技術の概要 VOC対策技術は、大別すると、 ・ 回収・再生方式 ・ 密閉方式 ・ 燃焼・分解方式 ・ 物質代替方式 の 4つの方式に分類できる。 以下に、各方式について概要を記す。

(1) 回収・再生方式 回収・再生方式とは、排ガスから VOC分を回収して、溶剤として再生し、再利用する方式である。一般に、洗浄や接着など、使用される VOC の成分が単一物質からなる場合は、VOCを回収すると溶剤として再利用できるので、回収・再生方式が適している。 回収・再生方式に該当する技術を表 3.1に示す。

表 3.1 代表的な回収・再生方式

処理方法 原理 特徴 課題

吸着法 吸着剤(活性炭,ゼオ

ライト等)に VOCを

吸着

ガスの種類,濃度,

処理量の適応範囲

が広い

吸着剤再生用加熱減が必要

スチーム脱着では廃水処理装置が必要で,

水溶性 VOCは回収(再利用)できない

冷却法 VOC の露点以下に冷

却し凝縮・回収

高濃度VOC処理向

処理後の VOC濃度の低減化(冷却温度低温

化)は効率悪い

吸収法 溶剤に吸収 石油プラント向け

(出典:環境管理, 40(11) pp.1097(2004)などより作成)

前章で検討した調査対象とする用途を考えると、主に吸着法と冷却法が対象となる。 以下にこれらの処理方法について、技術の概要を記す。

(a) 吸着法 吸着法は、回収・再生の方法としては代表的な方法であり、その中でも特に活性炭吸

着法が一般的である。 活性炭吸着法には、活性炭を吸着塔内に詰めた固定床式と、活性炭が装置内を循環す

る流動式がある。また、活性炭の形状としては、粒状、繊維状、ハニカム状、ビーズ状

がある。固定床式では、粒状、繊維状、ハニカム状が使われ、流動式ではビーズ状が使

われる。 活性炭以外の吸着剤としては、疎水加工を施したシリカゲルが使われる場合もある。

Page 10: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

8

シリカゲルは不燃性で触媒作用がないという特徴がある。 吸着剤は、VOCを十分吸着すると吸着能力が低下するので、VOCの脱着か吸着剤の交換が必要になる。 最近の新しい技術としては、印刷インキ用の溶剤の再利用に適用した例が挙げられる。

印刷工程から出る溶剤(VOC)は混合物であるため、従来は、回収しても、メリットが小さかった。しかし、近年、2成分の溶剤ですべての色に対応できる印刷インキが開発され、印刷工程から出る溶剤を回収して再利用することが可能となった。

(b) 冷却法 冷却法は、VOCを凝縮温度以下に冷却して液化回収する方法である。VOCの濃度が高い場合に有効な方法である。 今回の調査対象とする用途の中では、主として洗浄用途で加圧深冷凝縮法という冷却

法が使われている。 (2) 密閉方式 密閉方式は、VOCを使用している装置全体を囲って、VOCガスが装置外に拡散・流出す

ることを防ぐ方式である。 装置は、密閉された空間内で工程が進むように設計されており、また物の出入りに伴う

VOCの拡散・流出をできるだけ防止するように、例えば、扉の開閉部を 2重にするなどの工夫が施されている。 用途としては、洗浄やドライクリーニング分野で使われている。

(3) 燃焼・分解方式 燃焼・分解方式は、VOCを二酸化炭素や水などに分解することによって、VOCを処理す

る方式である。従来型の塗装や印刷などに代表されるように、物質や成分比の異なる複数の

VOCを使用する場合は、VOCを回収・再生しても再利用するメリットが小さいので、燃焼・分解が向いている。 燃焼・分解方式の中でも、燃焼によって VOCを分解する方法は、日本では 1960年頃から使用されており、燃焼方法としては、直接燃焼法、触媒燃焼法、蓄熱燃焼法などがある。

表 3.2に、代表的な燃焼方式の特徴を示す。

Page 11: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

9

表 3.2 代表的な燃焼方式

直接燃焼法 触媒燃焼法 蓄熱燃焼法 濃縮+燃焼

処理方法

バーナーによる直接加

熱。処理温度 650~760℃

触媒を使用し、低温

で接触酸化。処理温

度 300~400℃

蓄熱体により熱交換

後、燃焼室で酸化。

処 理 温 度 800 ~900℃

吸着剤に吸着後、脱

着濃縮して燃焼。

適用濃度 10,000~

20,000ppmC (トルエン換算)

3,500~20,000ppmC (トルエン換算)

3,500~20,000ppmC (トルエン換算)

700~7,000ppmC (トルエン換算)

効率 98~99%以上 95~99%以上 95~99%以上 80~95%以上 設置スペース 中 中 中 大 設備重量 小 中 中~大 中~大 初期投資額 小 中 大 大 熱回収率 50~65% 50~65% 85~95% 50~95% 燃料費 大 小~中 小 小 消費電力 小 中 大 中 (出典:「東京都VOC対策ガイド[工場内編]」(2006))

燃焼装置は、処理する排ガスの風量が大きいと装置サイズが大型化し、燃料費がかかるが、

小型化するために、排ガスの風量を下げる濃縮装置が併用されている場合もある(表 3.2の「濃縮+燃焼」)。 また、燃焼装置は大風量向けの大型の装置が多いが、近年は、中小規模の工場を対象とし

た小風量向けの触媒燃焼装置も販売されている。 さらに最近では、マイクロガスタービンを使った燃焼装置も開発され、数社から商品化さ

れている。この装置では、VOCを燃焼・分解するとともに、燃焼熱で水蒸気を発生し、タービンで電力を発生する。VOCを単に分解するだけではなく、水蒸気や電力という形でエネルギーを回収することを狙った装置である。 他の燃焼・分解方式としては、生物分解法、光触媒分解法、プラズマ分解法、オゾン分解

法などがあり、分解効率の向上、処理可能な濃度範囲の拡大などの技術開発が行われている。 (4) 物質代替方式 物質代替方式は、VOCを使わないで別の物質に代替することや、VOCの含有率を減らす工夫をすることなどで VOCの排出量を削減する方式である。 代替物質としては、水系塗料や水性インキなど、水を利用した技術が開発されている。ま

た粉体塗料など、VOCをまったく含まない技術もある。 これらの技術を導入する際には、工程自体が変わるので、単に塗料、インキ、洗浄剤など

を入れ換えるだけでなく、新規装置の導入が必要になる場合が多い。また、乾燥性の向上や

排水処理などの付帯設備の導入も伴う場合が多い。 しかし中には、例えば、塗装分野ではハイソリッド塗料や 2液形塗料(ウレタン系など)など、溶剤系塗装の設備がそのまま使える技術もある。

Page 12: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

10

(5) 今後、普及・実用化が望まれる技術の例 参考情報として、次節に収録する対策技術以外に当該分野において、今後、普及、実用化

が望まれる技術の例を以下に記す。

(a) 生物処理法(バイオ) 微生物の中には、VOC 等の有機溶剤を栄養源として摂取し、それを CO2と H2O に

分解する性質をもつものがある。このような微生物を充填層に保持し、その中に排ガス

を通過させて、VOC除去する技術である。 処理効率は低いが、イニシャルコスト、ランニングコストが安いのが特徴である。 運用に際しては、微生物の活性を維持するために、保湿及び凍結や極端な高温を避け

るなどの温度対策が必要である。また塩素系など殺菌作用のある物質には適用できない。

(b) プラズマ分解法 放電によって発生するプラズマを利用して、VOCを酸化し、二酸化炭素、水などに

分解する技術である。

常温、低濃度に向いている、ランニングコストが安価であるといった特徴がある。

(c) 光触媒法 酸化チタン(TiO2)に光を当てると、水酸基ラジカル(・OH)やスーパーオキシド

(O2-)などの活性酸素が発生する。これらの活性酸素のもつ強力な酸化力を利用して、VOCを二酸化炭素と水に分解する技術である。 低風量に向いているという特徴がある。

Page 13: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

11

3.3 VOC対策技術の詳細 本節では、VOC排出抑制のための対策技術の詳細を示す1。対象とする方式は、回収・再

生方式、密閉方式、燃焼・分解、代替物質である。調査対象としては、主として機械装置導

入によるものに重点を置いた。

表 3.3に、記載した対策技術の一覧を示す。

表 3.3 VOC対策技術一覧

主な適用分野 方式 対策技術名

塗装(屋内)

塗装(屋外)

印刷

接着

洗浄

ドライ

クリーニング

給油

技術番号

活性炭吸着装置(固定床) ○ ○ ○ ○ 1- 1

活性炭吸着装置(流動) ○ ○ ○ ○ 1- 2

冷却凝縮装置 ○ 1- 3

廃溶剤回収再生装置 ○ ○ 1- 4

溶剤回収型乾燥装置 ○ 1- 5

ガソリンベーパー回収システム(地下タンク) ○ 1- 6

回収・

再生

ガソリンベーパー回収装置(給油ノズル) ○ 1- 7

密閉型洗浄装置 ○ 2- 1 密閉 一体型ドライクリーニング装置(ホット機) ○ 2- 2

直接燃焼装置 ○ ○ ○ 3- 1

触媒燃焼装置 ○ ○ ○ 3- 2

蓄熱燃焼装置 ○ ○ ○ 3- 3

マイクロガスタービン ○ ○ 3- 4

ハニカムローター型濃縮装置 ○ ○ ○ 3- 5

燃焼・

分解

乾燥エア循環装置 ○ 3- 6

水系塗料、水性塗料 ○ ○ 4- 1

粉体塗料 ○ 4- 2

ハイソリッド塗料 ○ ○ 4- 3

無溶剤型UV塗料 ○ 4- 4

電着塗料 ○ 4- 5

水性インキ ○ 4- 6

UV硬化型インキ ○ 4- 7

水なし印刷システム ○ 4- 8

水性系接着剤(エマルジョン形接着剤) ○ 4- 9

水性系接着剤(ラテックス形接着剤) ○ 4-10

ホットメルト接着剤 ○ 4-11

水系洗浄剤 ○ 4-12

代替

物資

水洗い(ウェットクリーニング) ○ 4-13

その他 回転霧化静電塗装機 ○ 5- 1

1 対策技術のランニングコストは諸条件によって異なるため、調査対象外とした。ランニングコストについては、メーカーや販売店に相談されたい。

Page 14: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

12

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 1-1 回収・再生方式

活性炭吸着装置(固定床タイプ) 排ガス中の VOCを活性炭に吸着させて、VOCの排出を抑制する方法である。 回収した VOCは再利用することができるので、その分、溶剤購入費が節約できる。特に単一成分からなる溶剤に有効である。 原理

活性炭は VOCなどの有機化合物に対して強い吸着力(分子間力)を持っているので、活性炭中に VOCガスを通すと、VOCが活性炭表面に吸着する。 また活性炭の表面は多数の細孔から構成されており、表面積が広いので、多くの VOCを吸着することが可能である。表面積は活性炭 1g当たり 800~1,500m2にもなる。 活性炭吸着法は、活性炭のこのような性質を利用して、排ガス中の VOCを除去する方法

である。例えば、キシレンの場合、活性炭の重量の 2~4割程度まで吸着することができる。 装置と処理プロセス

活性炭

冷水

アフタークーラー

分離器

廃液処理

溶剤回収

タンク

冷却水

コンデンサ

活性炭吸着塔

蒸気加熱機

蒸気

VOC含有排気

乾燥・冷却空気(外気)

ブロワー1

ブロワー2

活性炭 活性炭

冷水

アフタークーラー

分離器

廃液処理

溶剤回収

タンク

冷却水

コンデンサ

活性炭吸着塔

蒸気加熱機

蒸気

VOC含有排気

乾燥・冷却空気(外気)

ブロワー1

ブロワー2

活性炭

※活性炭の吸着塔は、連続処理の必要がない場合は 1 塔式が使われる。連続処理が必要な場合はこの図のような 2塔式が使われ、吸着と脱着が交互に入れ替わって処理される。

①VOC吸着

活性炭が充填された吸着塔内

に排ガスを通す。 排ガス中のVOCは、活性炭表面で吸着、除去される。

②VOC脱着

活性炭が VOC を十分吸着し、吸着能力が低下すると、水蒸気で活性炭

を加熱して VOCを脱着させる。

③VOC液化

脱着した VOC と水蒸気を、コンデンサで冷却・液

化する。

④VOC分離

VOC と水を、水分離器で比重差によ

り分離する。

⑥排水

分離後の水をばっ気処理し、残 VOCを除去する(その VOC は、再度、吸着塔に戻して処理される)。処理後の

水は、クーリングタワーの補給水、ボイ

ラー給水などとして再利用する。

⑤VOC回収

分離された VOC は溶剤回収タンクに回収される。回収 VOC は、再び溶剤として利用する。

Page 15: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

13

処理可能なVOC

◇VOCの例: トリクロロエチレン、塩化メチレン、テトラクロロエチレン、アセ

トン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、MEKなどほとんどの VOC◇処理風量: 4~数百 Nm3/min ◇処理濃度: 100ppm~1%

VOC排出抑制効果

回収装置内に入る VOCは 95%以上が回収できる。通常、回収処理後の出口濃度は平均 25ppm、最大 50ppmが保証値となっている。 ただし、回収装置に取り込まれずに、作業環境等に拡散・流出してしまう VOC分があり、その分を考慮すると、実際の VOC削減効果は 50~80%である。

特徴

長所

・ 入口の VOC濃度が変動しても安定処理が可能である。 ・ ダンパー以外に吸着塔には可動部がないので、故障が少ない。 ・ 風量の適用範囲が広い。

短所

・ 塩素系化合物には触媒作用があり、分解する可能性がある。 ・ また塩素系化合物の分解物は腐食性が強いので、吸着塔各部に耐塩素系の材

料を使用する必要がある。 ・ 排水処理が必要である。

技術の種類

代表的な活性炭の特性比較 形状 粒状 繊維状 原料 木炭、椰子殻、石炭、オイルピッチ、

フェノール樹脂等 レーヨン、アクリロニトリル、フェノール樹脂等の

繊維 吸脱着速度 遅い 速い

(装置の小型化可能。ハロゲン系溶剤の

場合でも耐食材料を使用しなくてよい。)

活性炭の価格 安価 高価 ※他にハニカム状などがあるが、工業用途では主に粒状と繊維状が使われる。

設置条件

◇装置サイズ: 数m2以上 ◇導入コスト: 1千万円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力、スチーム(蒸気脱着の場合)

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 活性炭を使用し続けると吸着能力が低下するので、活性炭を定期的に交換する必要があ

る(3 ヶ月~数年程度)。特に、可塑剤や高級脂肪酸などの活性炭劣化物質を含む場合は、交換頻度が高くなる。

Page 16: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

14

・ VOC成分にMEK、MIBKなどのケトン類が含まれる場合は、夜間に蓄熱して、活性炭が発火する可能性がある(特に粒状活性炭の場合)。対策としては、必ず脱着してから

停止すること、停止後は窒素封入や水封入することや活性炭を定期的に取り換えること

が挙げられる。またケトン類の濃度低下のための前処理や、温度センサー、非常用の消

火設備の設置も挙げられる。 参考文献

1) 機器メーカーのパンフレットおよびヒアリング. 2) 「普及版 脱防臭技術集成」エヌ・ティー・エス(2002).

Page 17: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

15

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 応 用 事 例

- 交換式活性炭吸着装置 - ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

VOCの脱着・回収を外部の専門業者が一括して行うサービスが行われている。この方法は、VOCの脱着・回収にかかる付帯設備の設置および運用・管理が不要になるので、特に規模の小さい事業所の場合、有用である。 事業所内には活性炭吸着タンクが設置され、タンク内の活性炭に VOCが十分に吸着した段階で専門業者が取り換える仕組みである。回収された VOCは、精製後、事業所に戻して再利用される。 あるサービス業者の場合、VOC の吸着状態は吸着タンクの出口に付けられた VOC 排出濃度センサーで連続監視され、活性炭が VOCを十分吸着し、吸着能力が低下すると、インターネット等を経由して、業者に信号が送信される仕組みになっている。

VOC排出源

脱着 回収

吸着タンク

事業所 外部の専門業者

VOC排出源

脱着 回収

吸着タンク吸着タンク

事業所 外部の専門業者

VOCの例: トリクロロエチレンなどの塩素系、HCFC などのフッ素系、

臭素系、炭化水素系、アルコール系、芳香族系など VOC処理風量 10~50 m3/min その他 サービスが行われている地域は限定されている。 出典 サービス業者のパンフレットおよびヒアリング.

④VOC回収

業者は、活性炭吸着タンク内の

VOCを回収する。

⑤VOC精製・分解等

回収した VOC は条件に応じて、精製処理、あ

るいは燃料化、分解処

理などが行われる。

①VOC吸着

VOC ガスは活

性炭吸着タンク

に入り、活性炭

に吸着される。

③タンク搬送

業者は、活性炭吸着タンクを

トラックで自社に運搬する。

②タンク取り換え

活性炭が VOC を十分に吸着した段階

で、吸着タンクは再

生済みのタンクに取

り替えられる。

⑥VOC再利用

精製処理の場合は、精製後のVOCは元の事業者に受け渡され、溶剤として

再利用される。

Page 18: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

16

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 1-2 回収・再生方式

活性炭吸着装置(流動タイプ) 排ガス中の VOCを活性炭に吸着させて、VOCの排出を抑制する方法である。 回収した VOCは再利用することができるので、その分、溶剤購入費が節約できる。特に単一成分からなる溶剤に有効である。前項の固定床タイプに比べて、高濃度の場合に適している。 原理

前項の固定床タイプの場合と同様に、活性炭の VOCに対する吸着力を利用して、排ガス中の VOCを除去する方法である。 流動タイプの場合は、ビーズ状の活性炭が回収装置内を移動し、その間に VOCの吸着・脱着を繰り返す。 活性炭の粒径は 0.6~0.8mmである。 装置と処理プロセス

多孔板

気流搬送管

脱着チューブ

浄化ガス

原ガス

加熱スチーム

脱着ガス

搬送ガス 分離槽へ

コンデンサ

吸着部

脱着部

ガスの流れ

粒状活性炭の流れ

多孔板

気流搬送管

脱着チューブ

浄化ガス

原ガス

加熱スチーム

脱着ガス

搬送ガス 分離槽へ

コンデンサ

吸着部

脱着部

ガスの流れ

粒状活性炭の流れ

ガスの流れ

粒状活性炭の流れ

①VOC吸着

排ガスは、この多孔板を通って、活性

炭とは逆に、下から上に流れる。 排ガス中のVOCは、多孔板を通過する間に活性炭に吸着され、浄化された

ガスが上部から排気される。

③VOC液化・回収

脱着した VOC 成分は、冷却・液化して回

収される。

活性炭は、多段層に

並んだ多孔板を通っ

て、吸着部の上から

下に流動する。

④活性炭、上部に移動

脱着後、活性炭は搬送ガスによって

上部に移動し、吸着部に入って、上

記の吸着プロセスに戻る。

②VOC脱着

VOC を吸着した活性炭は、吸着部から脱着部に移動する。 そこで、活性炭は窒素(あるい

は、空気、スチームなど)で加

熱され、VOCを脱着する。

Page 19: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

17

処理可能なVOC

◇VOCの例: 塩化メチレン、テトラクロロエチレン、トルエン、キシレン、MEKなど

◇処理風量: 数 Nm3/min~数百 Nm3/min ◇処理濃度: 100ppm~1%程度

VOC排出抑制効果

回収装置内に入る VOCの 90%以上を回収できる。出口濃度が一定になるように調整するので、回収装置内に入る原ガスの濃度によって回収効率は変わる。

特徴

長所

・ 連続運転のため、吸着率の時間変動が少ない。 ・ 活性炭の蓄熱がないので、ケトン類や可燃性 VOCにも適用できる。 ・ 排水がほとんど発生しない。 ・ 回収溶剤中に水分が少ない。

短所

・ 摩耗によって粉化する。 ・ 風量、濃度が大幅に変動する場合は、変動調整装置が必要である。 ・ 設置面積としては固定床タイプより小型になるが、装置の高さが高い。

技術の種類

脱着ガスとしては、可燃性溶剤の場合は窒素が使用される。またハロゲン系溶剤の場

合は、空気や水蒸気が使用されている。 設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上 ◇導入コスト: 1千万円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力、スチーム(蒸気脱着の場合)

◇導入状況: 中堅規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 活性炭の補充頻度は、活性炭の劣化がない場合や活性炭再生装置を設置した場合では、

数ヶ月に 1度である。 ・ 原ガスダクトのシール不良による雨水の浸入や、紙片、布切れ、オイルミストなどの混

入が原因となって、活性炭の流動性が低下する場合があるので、シール不良や異物混入

を防止することが重要である。 参考文献

1) 機器メーカーのパンフレットおよびヒアリング. 2) 「普及版 脱防臭技術集成」エヌ・ティー・エス(2002).

Page 20: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

18

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 応 用 事 例

- 印刷溶剤の回収・再利用システム - ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

軟包装グラビア印刷の印刷工程から出る溶剤(VOC)は混合物であるため、回収しても、従来は粗洗浄用などにしか用途がなかったので、回収メリットが小さかった。 しかし、近年、2成分の溶剤ですべての色に対応できる印刷インキが開発され、このこと

により、印刷工程から出る溶剤を回収して再利用することが可能となった。溶剤の回収は、

活性炭吸着装置によって行われ、回収した溶剤は、脱水精製、成分調整の後、インキ溶剤と

して再利用される仕組みである。 脱水精製工程は、自社内で設備をもつ場合と、外部に委託する場合がある。また印刷時の

温度管理が必要になる。 初期投資額は VOCの風量や濃度によって変わるが、大手の印刷工場を想定すると、活性炭吸着装置が約 2~3億円程度、精製装置が約 1億円程度であると考えられる。

コンデンサー

水分離器

凝集液タンク

精製 静

置分離

脱水

排水の蒸留

インキ(溶剤は2成分)

精製溶剤タンク

↑成分調整

インキ溶剤として再利用

溶剤(VOC)の流れ

溶剤

溶剤

不純物排水

共沸物

溶剤回収

脱水・精製

印刷工程 活性炭吸着装置

吸着↓脱着

コンデンサー

水分離器

凝集液タンク

精製 静

置分離

脱水

排水の蒸留

インキ(溶剤は2成分)

精製溶剤タンク精製溶剤タンク

↑成分調整

インキ溶剤として再利用

溶剤(VOC)の流れ

溶剤

溶剤

不純物排水

共沸物

溶剤回収

脱水・精製

印刷工程 活性炭吸着装置

吸着↓脱着

出典 機器メーカー・インキメーカーのパンフレットおよびヒアリング.

Page 21: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

19

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 1-3 回収・再生方式

冷却凝縮装置 冷却によって VOCガスを液化し、回収・再利用する装置である。 特に単一成分からなる溶剤の場合に有効である。 原理

高濃度の VOCガスを吸引し、それを加圧や深冷凝縮によって液化して VOCを回収する装置である。 小風量、高濃度の排出設備に適しており、洗浄機の洗浄槽や医薬品原薬製造における混

合・造粒装置などで利用されている。

予冷 加圧 深冷 回収予冷 加圧 深冷 回収

VOCガスの処理プロセス

装置と処理プロセス

①VOC吸引

VOC ガスを高濃度の状態で吸引する。

②③VOC圧縮

排ガスを予冷後、コンプレッサ

ーで圧縮する(0.5~0.6MPa)

⑥残 VOC吸着

深冷凝縮器で液化できなかった VOCガス(数百から数千 ppm)を活性炭ユニットで吸着する。

⑦⑧VOC回収

凝縮液タンクに溜まった回収

VOC は、水分離器で水分を分離して再利用する。

④⑤VOC液化

圧縮したVOCガスを水冷凝縮器および深冷凝縮器で液

化する。 ここで、ほとんどのVOCガスが液化する。

Page 22: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

20

処理可能なVOC

◇VOCの例: トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、CFC、HCFC、PFC、HFE、1-ブロモプロパン、IPA・メタノール等のアルコール類など

◇処理風量: 150~500リットル/分 ◇処理濃度: 50 ppm~数 10万 ppm

VOC排出抑制効果

吸引ガスの回収率は 99%以上である。ただし、洗浄工程の場合、ワーク(洗浄対象物)に付着して、作業環境に持ち出された VOC ガスは回収困難であるので、実際のVOC削減効果は、50~80%である。

特徴

長所

・ 液劣化を抑制し、品質の高い液が回収できる。

短所

・ 可燃性溶剤には不向きである。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上 ◇導入コスト: 約 500~600万円程度以上

それ以外に、水分離器等の付帯設備あり。 ◇ユーティリティ: 電力、冷却水

※冷却水は、冷水機を用いて循環利用すれば、電力のみで稼

働可能である。

◇導入状況: 主として中堅規模以上の企業で導入されているが、中小規模

の企業でも導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ コンプレッサーのメンテナンスが必要となる(稼働時間 5,000時間ごと)。 ・ フィルター類の掃除・交換など(3ヶ月ごと)。 ・ 二次廃棄物として、極僅かであるが水が排出されるので、産業廃棄物としての処理が必

要となる。その量は、10~100リットル/月程度である(季節による湿度や稼働時間によって変動する)。

参考文献

1) 機器メーカーのパンフレットおよび提供情報. 2) 化学装置 4月号別冊 環境・リサイクルビジネス最前線, p.43 (2005). 3) 環境省 平成16年度 環境技術実証モデル事業 VOC 処理技術分野(ジクロロメタン等有機塩素系脱脂処理技術)(平成 17 年 6月).

Page 23: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

21

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 1-4 回収・再生方式

廃溶剤回収再生装置 廃溶剤を回収・再生する装置である。再生溶剤は、器具の洗浄用などに再利用できる。溶剤購入

量の削減だけでなく、廃棄物削減にもなる。

原理

装置・器具の洗浄に使った廃溶剤(廃 VOC)を蓋の付いた容器に溜めておき、それを蒸留によって再生する装置である。 他の装置のように VOC の排出ガスを直接、回収・分解する訳ではないが、VOC が排出する可能性を減らすことになる。 装置と処理プロセス

遠心分離器と蒸留装置から構成されている。 メーカーによっては、遠心分離器が付いていない装置もある。 また 200℃以上の高沸点溶剤を再生するために、減圧機能が付いている装置もある。防爆型の装置もある。 (1)回収プロセス

遠心分離器

廃溶剤、廃塗料、廃インキ、廃ウエスなど

遠心分離器

廃溶剤、廃塗料、廃インキ、廃ウエスなど

①VOC保管

装置・器具を洗浄した

後の廃溶剤や洗浄時

に使用したウエス等を

蓋付きの容器に溜めて

おく。

②VOC回収

廃溶剤・ウエス等が

溜まった段階で、遠

心分離器に移す。 遠心分離によって、

ウエス上に付着して

いた溶剤・顔料等が

脱離し、回収される。

③ウエス再利用

きれいになったウエス

は粗洗浄用に再利用

できる。

Page 24: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

22

(2)再生プロセス

加熱

冷却

蒸留装置

回収タンク

加熱

冷却

蒸留装置

回収タンク 処理可能なVOC

◇VOCの例: 塗装や印刷等での洗浄用に使用される溶剤 ◇処理風量: - ◇処理濃度: -

VOC排出抑制効果

粗洗浄用溶剤の使用量削減になる。 廃溶剤中の 80~95%程度の溶剤を回収できる(溶剤の種類・状態によって変動あり)。

特徴

長所

・ 再生した溶剤は、洗浄溶剤として再利用できる。 ・ 脱溶剤したウエスは、粗洗浄用などに再利用できる。 ・ 洗浄溶剤の購入量を減らせる。 ・ 廃溶剤、廃ウエスの廃棄物量が減らせる。

短所

・ 蒸留に時間がかかる(18リットルで 4時間程度)。

③VOC再利用

液化した VOCは一斗缶などに

回収される。回

収された溶剤

は、粗洗浄など

に再利用する。

加熱用オイルは電熱ヒーターで

加熱される(200℃前後)。

②VOC蒸留(液化過程)

ガス化したVOC成分は冷却されて液化する。冷却方式

は、水冷か空冷である。

①VOC蒸留(ガス化過程)

回収した溶剤等は加温され、

VOC成分はガス化する。

Page 25: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

23

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 約 0.9 m×約 0.4 m(ある商品の例) ◇導入コスト: 約 60万円以上(処理量 10 リットル、非防爆タイプの場合)

約 160万円以上(処理量 10 リットル、防爆タイプの場合) ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 廃溶剤、廃ウエスは、蓋付きの缶・容器などで保管する必要がある。 ・ 蒸留用の熱媒体オイルの交換の目安は、実働 1,000時間程度である。 ・ タンクに溶剤を入れすぎると、加熱時に汚れた溶剤がタンクから溢れ、浄化溶剤に混ざ

ってしまうので注意する。 ・ 冷却コイルが詰まった場合は、エアコンプレッサーでコイル内を掃除する。 参考文献

1) 装置メーカーのパンフレットおよびヒアリング. 2) 日本印刷産業連合会「印刷産業における VOC排出抑制自主的取組推進マニュアル」(2006).

Page 26: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

24

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 1-5 回収・再生方式

溶剤回収型乾燥装置 被洗物の乾燥工程において、揮発するクリーニング液を回収して再利用する装置である。

大気に排出していたクリーニング液を回収・再利用することにより、クリーニング液の使用量が

削減され、その分、コスト削減にもなる。 原理

被洗物の乾燥工程において、揮発するクリーニング液を回収して再利用する装置である。 密閉循環方式によって、ドライクリーニングの乾燥工程において、石油系溶剤を回収する

方法である。 乾燥工程において、ドラム内のガスを抜き取り、そのガスは冷却・液化して、回収される。

回収 VOCは、再度、ドライクリーニング液として使われる。 装置と処理プロセス

冷却

(液化)

水分離

(水分除去)

回収

(再利用)

冷却

(液化)

水分離

(水分除去)

回収

(再利用)

②VOC液化

ドラム内のガスの一部を抜き取っ

て、冷却装置で冷却し、ガス中に

含まれる VOCを液化させる。

④VOC回収・再利用

回収した VOC は、クリーニング液として再

利用する。

①VOC揮発

ドラム内で被乾燥物に熱風を

当て、VOC(クリーニング液)を揮発させる。

③水分除去

液化物には水分が

含まれているので、

水分離機で VOC と水に分離する(VOCは回収される)。

Page 27: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

25

処理可能なVOC

◇VOCの例: 石油系溶剤 ◇処理風量: - ◇処理濃度: -

VOC排出抑制効果

VOC排出抑制効果は、60~95%程度である。 クリーニング液の量では、22 kg標準負荷の場合、0.76リットルが 0.15リットルに減るというデータがある。 高回収乾燥機 一般的な乾燥機 リース料金 255万円×2台

7年リース(年率 1.43%) 1ヶ月当たり、73,000円 1日当たり、2,920円

75万円×2台 7年リース(年率 1.43%) 1ヶ月当たり、21,500円 1日当たり、860円

1日のコスト ※排水処理費用

等は含まない計

算値

溶剤単価:1㍑ 110円と想定 1 回の乾燥(22kg)での VOC 消失量(排出量) 3.4㍑×5%=0.17㍑(回収率 95%)1日のコスト VOC 消失量×VOC 単価×稼働回数+リース料金 =0.17㍑×110円×20回+2,920円=3,290円

溶剤単価:1㍑ 110円と想定 1 回の乾燥(22kg)での VOC 消失量(排出量) 3.5㍑※×100%=3.5㍑(回収なし) 1日のコスト VOC消失量×VOC単価×稼働回数+リース料金 =3.5㍑×110円×20回+860円 =8,560円 ※一般的なドライ機の排出量を想定。

(装置メーカー提供資料より) 特徴

長所

・ クリーニング液の使用量が節減できる。

短所

・ コンプレッサーやフィルターのメンテナンスが必要となる。 ・ 二次廃棄物として水が排出されるので、産業廃棄物としての処理が必要とな

る。 設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 約 1.0m×約 1.5m(ある商品の例) ◇導入コスト: 約 300万円以上 ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 石油系溶剤は引火性があるので、正常な状態で運転するようにメンテナンスが必要であ

る。 ・ 引火爆発事故の原因となる乾燥中に発生する静電気は、洗浄溶剤に洗剤を規定量投入す

Page 28: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

26

ることで防止できる。洗剤の濃度は 0.5%以上に管理することが必要である。 ・ 特殊な洗剤(シンナー、アルコールなど引火点の低い溶剤の入ったもの)は使用しない。 ・ コンプレッサーのメンテナンスが必要となる(稼働時間 5,000時間ごと) ・ フィルター類の掃除・交換など(3ヶ月ごと)。 ・ 二次廃棄物として、極僅かであるが水が排出されるので、産業廃棄物としての処理が必

要となる。その量は、10~100リットル/月程度である(季節による湿度や稼働時間によって変動する)。

参考文献

1) 機器メーカーのパンフレット、提供情報およびヒアリング. 2) ドライクリーニング研究会石油研究部会「石油系ドライクリーニングマニュアル-石油系ドライの安全と品質向上のために-」(1993 年 4 月).

3) 産業機械, 2005 年 11 月号(662), p. 21.

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

導 入 事 例 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

実際に、溶剤回収型乾燥装置を導入した事業所での事例を下表に示す。 両ケースとも回収によって溶剤の消費量は大きく削減している。

ケース No. ケース1 ケース2 導入前の VOC

石油系溶剤 (以前は、パークやエタンを使って

いた)

石油系溶剤

設備 コールドタイプ 16kgドライ機 2台 乾燥機 2台 うち 1 台は従来装置(回収率 7 割程度)、もう 1台は新装置(回収率 95%)

ドライ機:35kg 1台、22kg 1台 乾燥機:40kg 2台、22kg 4台(22kgは旧式で最近は回収していなかっ

た) 対策:既存の乾燥機 3 台を廃棄、新装置 4台導入。

導入前 年間 28,000㍑ 注) 年間 25,000㍑ 消 費 量

導入後 導入前の約半分 溶剤消費量は以前の1/5 自然乾燥、静止乾燥する分が多いの

で 回収量 5ワッシャーで約 10㍑ 回収再生率は約 80% 備考 装置は、取引機材商からの紹介 電気代は増えるが、溶剤費の削減に

比べればわずか。 出典 全ドラ 平成 18年 10月 20日の記事 全ドラ 平成 18年 7月 10日の記事注)原典では、溶剤消費量は「6 缶/週」となっていたが、1缶 18 ㍑、週 5日稼動として換算した。

Page 29: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

27

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 1-6 回収・再生方式

ガソリンベーパー回収システム

(地下タンク) ガソリンをタンクローリーからガソリンスタンドの地下タンクに送る際に、蒸発ガスが大気中に

出ないように防止する装置である。ガソリンの蒸発ロスを抑制でき、その分、無駄を抑えられる。

原理

ガソリンをタンクローリーから地下タンクに移し替える際に、ガソリンが地下タンクに入

ると、それと入れ替わりに蒸発ガスが抜け出ることになる。 抜け出た蒸発ガスは、そのままでは大気中に排出されてしまうが、これを回収してタンク

ローリー内に入れる仕組みである。

ガソリン(液体)

蒸発ガス

注入される

ガソリン

抜け出る蒸発ガス

これを回収する

ガソリン(液体)

蒸発ガス

注入される

ガソリン

抜け出る蒸発ガス

これを回収する

装置と処理プロセス

ローリー

ベーパー

リターンホース

ベーパー

ガソリン

切換弁

自動弁

ローリー

ベーパー

リターンホース

ベーパー

ガソリン

切換弁

自動弁

②蒸発ガス放出

ガソリンの注入と入れ

替わりに、地下タンク

から蒸発ガスが抜け

出る。

③蒸発ガス回収

抜け出た蒸発ガスを回収して、タンクローリーに内に入れる。 回収した蒸発ガスは油槽所に運ばれ、処理装置で処理される。

①ガソリン注入

タンクローリーから地下

タンクにガソリンを注入

する。

Page 30: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

28

(出典:あるメーカーのパンフレットより)

処理可能なVOC

◇VOCの例: ガソリン ◇処理風量: - ◇処理濃度: -

VOC排出抑制効果

地下タンクへの注入時に排出するガソリンの 95%以上を回収できる。 特徴

長所

・ ガソリンの蒸発ロスが抑制でき、その分、無駄を抑えられる。

短所

・ タンクローリー側にもベーパーリターン接続設備が取り付けられていること

が前提となる。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 切替バルブのサイズ 約 20 cm程度 タンク自体を取り替える必要はない。

◇導入コスト: バルブ 約 4万円程度(1系統あたり) 専用ホース 約 4万円程度 ※別途、工事費がかかる。

◇ユーティリティ: -

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 例えば東京都など、このシステムの設置を条例で義務付けている自治体もある。 参考文献

1) 機器メーカーのパンフレット、提供情報およびヒアリング. 2) 埼玉県環境部「埼玉県炭化水素類対策指導指針」の解説(1988).

Page 31: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

29

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 1-7 回収・再生方式

ガソリンベーパー回収装置

(給油ノズル) ガソリンを自動車に給油する際に、蒸発ガスが大気中に出ないように防止する装置である。

ガソリンの蒸発ロスを抑制できるというメリットがある。蒸気の引火防止にもつながる。 原理

ガソリンを自動車に給油する際、ガソリンが燃料

タンクに入るのと入れ替わりに、燃料タンクから蒸

発ガスが抜け出て来る(注入するガソリンの体積を

100とすると、出て来る蒸発ガスの体積は 150程度と言われている)。 抜け出た蒸発ガスは、そのままでは大気中に排出

されてしまうが、これを回収して地下タンクに戻す

仕組みである。 ガソリン(液体)

抜け出る

蒸発ガス

これを回収する

注入される

ガソリン

蒸発ガス

ガソリン(液体)

抜け出る

蒸発ガス

これを回収する

注入される

ガソリン

蒸発ガス

装置と処理プロセス

ベーパー吸引口

二重管

二重管

ベーパーライン

ベーパー

ガソリン地中タンク

二重構造のホース

アダプタ

ブロア

ガソリン

ガソリン

ベーパー

ベーパー吸引口

二重管

二重管

ベーパーライン

ベーパー

ガソリン地中タンク

二重構造のホース

アダプタ

ブロア

ガソリン

ガソリン

ベーパー

ガソリン

ガソリン

ベーパー

①ガソリン注入

ガソリンを燃料タン

クに注入する。

③蒸発ガス回収

ホースは二重構造

になっており、吸

引された蒸発ガス

はホース内部を通

って、地下タンクに

戻される。

②蒸発ガス吸引

注入したガソリンと入れ替わりに、蒸発ガ

スが出てくるので、それをノズル管とブー

ツの間から吸引する。

Page 32: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

30

処理可能なVOC

◇VOCの例: ガソリン ◇処理風量: - ◇処理濃度: -

VOC排出抑制効果

この装置の導入によって、給油時に燃料タンクから出てくる蒸発ガスの 2/3程度を回収できるとされている。 設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 従来と同程度 ◇導入コスト: 6本ホース仕様(片面に3本ずつ)の計量機の場合、

従来品よりも 1台当たり約 100万円程度アップ ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

参考文献

1) 機器メーカーのパンフレット、提供情報およびヒアリング.

Page 33: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

31

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

2―1 密閉方式

密閉型洗浄装置 洗浄装置を密閉化して、VOCの拡散や流出による排出ロス量を最小限に抑えた装置である。

原理

VOCの拡散や流出を抑制するために、洗浄を閉鎖空間内で行うようにした装置である。ワーク(被洗物)が洗浄槽に入るまでに二重の扉が設けられており、洗浄槽が直接、外気に

触れないようになっている。 装置と処理プロセス

排ガス回収装置

蒸気発生槽洗浄槽

フード室ワーク

A扉

B扉

C扉排ガス回収装置

蒸気発生槽洗浄槽

フード室ワーク

A扉

B扉

C扉

処理可能なVOC

◇VOCの例: 溶剤系洗浄剤(例えば、塩化メチレン、トリクロロエチレン等) ※炭化水素系の洗浄剤の場合は、引火の原因となる空気(酸素)を

遮断するために、真空(減圧)洗浄装置が使われる場合が多い。 ◇処理風量: - ◇処理濃度: -

①VOC

A扉、B扉、C扉を閉

じて、洗浄槽全体を

密閉した状態で洗浄

を行う。

②VOC

蒸気洗浄時のみ

Aを開けて、蒸

気を供給する。

③VOC

洗浄後、フード室

に被洗浄物を上

げ、Bを閉める。

④VOC

溶剤ガスを回収し、Cを開け

て被洗浄物を取り出す。

Page 34: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

32

VOC排出抑制効果

この装置の導入による排出量削減効果は、通常、70%~80%程度である。 特徴

長所

・ 溶剤のロスが少なくなり、その分、コスト削減になる。

・ 手作業から自動機に変えることで作業性がアップする。

・ 作業場の臭気がなくなる。

・ 縦型の装置の場合、設置床面積が狭まる。

短所

・ 前のワークが出てくるまで、次のワークが入れられない。

・ 縦型の装置の場合、ワークの投入位置が高くなる。

・ ワークの出入口が小さい方が密閉化しやすいので、ワークサイズが小さい方

が適している。

技術の種類

このタイプの洗浄装置の中には、真空ポンプ等を使い、外部へのガスの出入を極力遮断す

るように工夫した装置も商品化されている。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上 ◇導入コスト: 約 1千万円前後以上 ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス ・ 取扱は基本的に他の洗浄装置と同様である。 参考文献

1) 機器メーカーのパンフレット、提供情報およびヒアリング. 2) クロロカーボン衛生協会「クロロカーボン適正使用ハンドブック」(2000).

Page 35: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

33

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

2―2 密閉方式

一体型ドライクリーニング装置

(ホット機) クリーニング後に被洗物を乾燥機に移し換える作業をなくすことで、移し換え時に発生する

クリーニング液の揮発を防ぐ装置である。

原理

ホット機とは、1 台で洗濯、脱液、乾燥まで行うタイプのクリーニング機のことである。装置は密閉式で、洗濯・脱液後、被洗物を移し換えずに乾燥まで行うので、衣類の移し換え

に伴うクリーニング液の揮発を防ぐことができる。また乾燥工程で揮発するクリーニング液

は回収される。 通常、石油系のコールド機では、引火点が 42℃前後のクリーニング液が使われる。それに対して、ホット機では引火点が高いクリーニング液が使われるので、爆発の危険性は低く

なる。 装置と処理プロセス

処理可能なVOC

◇VOCの例: ドライクリーニング溶剤 ※現在、このタイプのクリーニング装置で使用されているクリーニ

ング液の種類には、シリコーン系、フッ素系、臭素系、リモネンな

どがある。 ◇処理風量: - ◇処理濃度: -

VOC排出抑制効果

装置の回収効率は 99%程度以上である。

①VOC

洗濯、すすぎ、脱液を行う。

②VOC

熱風によって、被乾燥物から

溶剤(クリーニング液)を揮発

させる。

③VOC

溶剤ガスをクーラーで冷却・

液化させる。

④VOC 液化物を、水分離機で溶剤

と水に分離する(溶剤は回収

される)。

⑤VOC 回収した溶剤はクリーニング

液として再利用する。

Page 36: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

34

特徴

長所

・ クリーニング液を回収して再利用できるので、クリーニング液の使用量削減

になり、その分、コスト削減になる。

・ 作業環境が改善する(臭気改善、手荒れ防止)。

・ 衣類を移し換える作業が減るので、その分、作業効率が上がる。

短所

・ 他のクリーニング方式に比べて、装置が高価である。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2程度 ◇導入コスト: 約 800万円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中堅規模以上の工場で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス ・ 乾燥工程での安全対策には、(1)減圧方式、(2)窒素置換方式、(3)濃度管理方式のいずれかが採用され、爆発限界以下に制御されている。

参考文献

1) ドライクリーニング研究会石油研究部会「石油系ドライクリーニングマニュアル-石油系ドライの安全と品質向上のために-」(1993 年 4 月).

2) 「環境に配慮したドライクリーニング」第 5回クリーニングに関する情報セミナー, 33(2001). 3) 社団法人繊維学会「第3版 繊維便覧」丸善株式会社(2004). 4) 機器メーカーのパンフレット、提供情報およびヒアリング.

Page 37: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

35

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

3-1 燃焼方式

直接燃焼装置 VOCを燃焼することで、二酸化炭素、水などに分解する装置である。VOCの分解原理、装置構成が単純なので、装置としての信頼性は高い。 原理

VOCの多くは、炭素、水素、酸素などから構成されている化合物である。これらの化合物は、燃焼すると酸化して二酸化炭素、水などに分解する。 <例:トルエンの燃焼反応> C6H5CH3+9O2 → 7CO2+4H2O この装置では、補助燃料を用いて、650~800℃程度の高温下で VOC を燃焼させる。補助燃料には、灯油、重油、軽油等の液体燃料や、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)等のガス燃料が使われる。 装置と処理プロセス

主な構成機器は、燃焼装置(バーナー)、燃焼室、滞留室、熱交換器である。

原ガス入り口処理ガス(排気筒)

プレヒート熱交換器

滞留室

バーナー

混合機構

原ガス入り口処理ガス(排気筒)

プレヒート熱交換器

滞留室

バーナー

混合機構

①VOC予熱

入口から入った VOCは、熱交換器を通って予熱される

(熱回収率は、一般的に 60~70%)。

②VOC燃焼

予熱された VOC は燃焼室に入り、バーナーの炎によっ

て発火点以上に加熱され、

燃焼する。

③VOC滞留

燃焼プロセスだけでは未分解の

VOC や二次生成物が残る。これらの成分は、700~800℃に保持された滞留室を通過する間に、さ

らに酸化され、分解する。

④VOC排気

上記のプロセスによって処理され

たガスは、排気筒から排出され

る。

Page 38: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

36

処理可能なVOC

◇VOCの例: ほとんどの VOCに適用可能 ◇処理風量: 約 20~4,000 Nm3/min程度 ◇処理濃度: 約 200~3,000 ppm程度

VOC排出抑制効果

装置に入った VOCは 98~99%以上分解される。

特徴

長所

・ VOCの分解効率が高い。また年数を経ても、分解効率が低下しない。 ・ VOCの風量・濃度が変動しても、分解効率にはほとんど影響しない。 ・ 操作および保守管理が容易である。活性炭や触媒を用いないので、これら

の処理剤を定期交換する必要がない。

短所

・ 他の燃焼方式に比べて燃焼温度が高いので、補助燃料を多く使う場合があ

る。その分、ランニングコストがかかる。

技術の種類 この装置は高温になるので、廃熱を有効利用するために、通常、廃熱回収装置が付設され

る。廃熱利用によって、ランニングコストの負担が減る。 廃熱回収の方式には、蒸気または温水ボイラー回収、ホットエア回収、熱媒体(油)ボイ

ラー回収などがあり、ユーザーの使用条件に合わせて適切な方式を検討することになる。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 約 10 m2以上 ◇導入コスト: 約 1千万円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力、燃料など

◇導入状況: 中堅規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス ・ この装置は火気を使用するので、運転操作には注意を要する。特に、失火時に原因を究

明せずに連続的に着火すると、滞油および着火性ガスの充満によって爆発することがあ

る。 ・ 装置停止後、炉内温度が 150℃以下になるまで、アフターパージを行う必要がある。 ・ 不完全燃焼の場合は、有害物質を出す可能性があるので注意する。 参考文献

1) 機器メーカーのパンフレットおよび提供情報. 2) 産業調査会事典出版センター「大気環境保全技術と装置事典」(2003). 3) 塗装技術, 2006 年 9 月号, p.73. 4) 「普及版 脱防臭技術集成」エヌ・ティー・エス(2002).

Page 39: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

37

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

導 入 事 例 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

設備 ロールコーター用乾燥炉(既設電気炉×2、新設熱風炉×1) 被塗物 SUS鋼鈑 W300~800mm 塗料 ゴム系塗料(有機シリコン、フッ素化合物含む) 排風量 6,000 Nm3/hr(=100 Nm3/min) 主な VOC成分 MEK、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン

排ガス測定結果 VOC成分 処理前(ppmC) 処理後(ppmC)

MEK 4,400 72 トルエン 1,050 18 キシレン 496 ND シクロヘキサノン 6,600 22 全炭化水素 12,546 112

出典 日本塗装機械工業会技術部会「VOC法規制の具体的影響と自主取り組みの概要」第6回塗装技術シンポ

ジウム資料.

Page 40: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

38

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

3-2 燃焼方式

触媒燃焼装置 前項と同様に、VOC を二酸化炭素、水などに分解する装置であるが、触媒を使って分解するので、分解温度が低いという特徴がある。 原理

VOCの多くは、炭素、水素、酸素などから構成されている化合物である。これらの化合物は、燃焼すると酸化して二酸化炭素、水などに分解する。 <例:トルエンの酸化分解反応> C6H5CH3+9O2 → 7CO2+4H2O

この装置は、前項 3-1の直接燃焼装置と同様に、VOCを加熱することによって酸化分解するものであるが、触媒を使うことで、酸化分解に必要な温度を下げることができる。燃焼

による VOCの酸化分解温度は 650~800℃であるが、触媒を使うことで 200~400℃まで低下する。触媒には白金系やパラジウム系がある。 装置と処理プロセス

主な構成機器は、熱交換器、予熱バーナー、触媒である。 装置の起動時や排ガスの予熱温度が足らない場合は、起動バーナーによって、排ガスが予

熱される。バーナーの熱源には、都市ガス、LPG、電気、灯油などが使われる。 触媒には、直径 4~6mm の球状アルミナ担体に白金を添着したものや、発砲金属担体、

ハニカム構造などがある。

予熱バーナ

触媒 熱交換器

原ガス

燃焼室

約350℃触媒燃焼炉

予熱バーナ

触媒 熱交換器

原ガス

燃焼室

約350℃触媒燃焼炉

①VOC予熱

VOC を含んだガスは、熱交換器を通って加熱される(熱回収

率は、一般的に 50~65%)。

②VOC加熱

予熱バーナーあるい

は電気ヒーターによ

って、触媒酸化分解

反応に必要な温度

(200~400℃)まで

③VOC酸化分解

VOC は触媒層を通過する。その間に、VOC は触媒の作用で酸化分解する。

③VOC排気

上記のプロセスによ

って処理されたガス

は、熱交換器を通っ

て、排気筒から排気

される。

Page 41: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

39

処理可能なVOC

◇VOCの例: トルエン、キシレン、酢酸エチル、MEK、アルデヒド類、ケトン類、アルコール類など

◇処理風量: 5~20 m3/min ◇処理濃度: 約 500~3,000 ppm

※最適濃度は、トルエン換算で 950~1,480ppm ※950ppm以下ではヒーターが必要

VOC排出抑制効果

装置に入った VOCは 95~99%以上分解される。

特徴

長所

・ 直接燃焼法に比べて低温なので、燃料費が安くなる(直接燃焼法の 1/3程度)。・ 酸化分解の反応速度が速いので、装置サイズを小さくできる。 ・ 温度が低いので、NOxの発生量が少ない。 ・ 乾式のため、廃水が出ない。

短所

・ シリコン化合物、有機燐化合物、硫黄化合物が含まれる場合は、混入が微量

でも、触媒寿命が短くなってしまう。 ・ 触媒のメンテナンス(交換等)に費用がかかる。

技術の種類

触媒の形状としては、ハニカム状、球状、発砲金属状が代表的である。処理風量やガス成

分によって使い分けられている。 触媒の特性比較 注 1)

触媒の種類 ハニカム状 球状 発砲金属状

担体 コージライトアルミナ アルミナ 多孔質ニクロ

ム合金

VOC処理効率 注 2)

SV(1/h)

中程度

3 万~4万

低い

2 万

高い

4 万~6万

通過風速 速くできる 速くできない 中程度

小型化 可能 困難 中程度

触媒の価格 高価

(ただし、触媒使用

量は少ない)

安価

耐機械衝撃性 弱い 中程度 強い

耐熱性 強い 中程度 弱い

その他 触媒毒への適用

性に優れる。

触媒の流動による

破砕、粉化などの

可能性あり。

注 1) この表は、これらの 3種類の触媒間での相対的な比較である。

注 2) 一定の触媒容積に対する単位時間当たりの処理ガス量(SV 値)の比較である。

SV=処理ガス量(Nm3/h)/触媒量(m3)

Page 42: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

40

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 約 2.5 m×約 1.5 m以上 ◇導入コスト: 約 1千万円程度以上

※小型の装置では、風量 2.5 Nm3/minで約 250万円のケースもある。

◇ユーティリティ: 電力など

◇導入状況: 主として中堅規模以上の企業で導入されている。

小型の装置は、中小規模の企業でも導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ シリコン化合物(印刷の消泡剤・スリップ性付与剤、塗料などに含まれる)、有機燐化

合物(界面活性剤などに含まれる)、硫黄化合物が含まれる場合は、混入が微量でも、

触媒寿命が短くなってしまう。触媒毒(触媒性能を劣化させる物質)対策としては、テ

ストピースを付けたり、触媒の前段階に除去用のフィルターを付設するなどの方法があ

る。触媒の効率を長期間維持するには、触媒前のフィルター交換も重要である。 ・ ヤニ成分、ダストによって焼き付けが発生するので、前処理が必要である。 参考文献

1) 化学装置 2005年 4月号別冊「環境・リサイクルビジネス最前線」, p.47 (2005). 2) 産業調査会事典出版センター「大気環境保全技術と装置事典」(2003).

Page 43: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

41

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

導 入 事 例

- 小型の触媒燃焼装置 - ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

◇スクリーン印刷の乾燥炉

スクリーン印刷工場での設置例である。 印刷物を乾燥炉で約 50℃で乾燥させると臭気が発生する。 触媒燃焼装置を通すことによって、酸化触媒反応でガスは浄化されて排出される。

発 生 源

乾燥炉

電気炉

機械装置 等

触媒燃焼装置 大気放出

Page 44: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

42

◇カチオン電着塗装の乾燥炉

カチオン電着塗装の乾燥炉から排出される白煙とVOCガスの除去に適用した例である。 装置設置後は、以下のような測定結果となった。

処理後の測定結果 入口 出口 除去率

臭気濃度 10,000 3,200 68%

VOC濃度

(ppmC)

398 119 70%

◇ワニス塗布の乾燥炉

巻線コイル製造工場での設置例である。 巻線コイルに塗布したワニス乾燥の際、乾燥炉から発生する排ガスを酸化触媒反応によ

って浄化する。

出典 メーカー提供資料.

塗布機 乾燥炉

触媒燃焼装置

・・・フード

・・・ダンバー

塗布機 乾燥炉 塗布機

乾燥炉

大気放出

Page 45: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

43

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

導 入 事 例

- 軟包装グラビア印刷工場 - ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

事業内容 プラスチックフィルム等へのグラビア印刷 対策実施の きっかけ

・県条例による VOC排出規制 ・周辺住民からの悪臭苦情

印刷設備 グラビア印刷機 8色機 1台、7色機 3台

処理対象 乾燥工程からの排ガス(乾燥機 29ユニットすべて)

排出 VOC ・成分:MEK、トルエン、酢酸エチル、IPAなど ・各ユニットの排ガス濃度:数 10ppm~3,000ppm ・総排風量:2,178m3/min(低濃度・大風量)

設置条件 屋外設置はスペースなし、機械室は設置可能

導入装置 ・本処理:触媒燃焼装置 ・前処理:溶剤ガス濃度コントロールシステム ※技術番号3-6 乾燥エア循環システム参照

導入結果

臭気濃度 導入前:980 → 導入後:170

省エネ効果 LPGの使用量削減(主に溶剤ガス濃度コントロールシステムによる効果)

集合ダクト

希釈ダンパー

(自然焼時作動)

吸気ダンパー

(脱臭装置起動用)

排ガス送風機

機械排気送風機

機械排気送風機

機械排気送風機

機械排気送風機

処理排ガス

触媒燃焼装置

熱交換器

(40℃-325℃)

バイパスダンパー

(自然焼時作動)

(自然焼時消火)

バーナー

LPG

MAX. 218℃

40℃

MAX. 495℃

325℃触媒(白金)

325℃

インバーター

M

No.1グラビア印刷機

インバーター

M

インバーター

M

インバーター

M

No.2グラビア印刷機

No.3グラビア印刷機

No.4グラビア印刷機

インバーター

M

集合ダクト

希釈ダンパー

(自然焼時作動)

吸気ダンパー

(脱臭装置起動用)

排ガス送風機

機械排気送風機

機械排気送風機

機械排気送風機

機械排気送風機

処理排ガス

触媒燃焼装置

熱交換器

(40℃-325℃)

バイパスダンパー

(自然焼時作動)

(自然焼時消火)

バーナー

LPG

MAX. 218℃

40℃

MAX. 495℃

325℃触媒(白金)

325℃

インバーター

M

インバーター

M

No.1グラビア印刷機

インバーター

M

インバーター

M

インバーター

M

インバーター

M

インバーター

M

インバーター

M

No.2グラビア印刷機

No.3グラビア印刷機

No.4グラビア印刷機

インバーター

M

出典

1) におい・かおり環境学会誌, 35(3), p.11 (2004). 2) 印刷新報, 2005年 9月 15日 21面, 2005年 9月 22日 22面. 3) VOC排出抑制の取組事例について -グラビア印刷におけるVOC燃焼装置の導入-, 環境省主催 平成 17年度 VOC(揮発性有機化合物)排出抑制推進セミナー(平成 17年 12月 7日).

①ロールカーテン設置

印刷部をカバー(塩ビ製のロール

カーテン)で覆い、インキパンや容

器から発散するVOCガスをできるだけ乾燥機の方に流す。

②溶剤ガス濃度コントロールシステム設置

各ユニットの乾燥機内で、自動ダン

パーの開閉により、低濃度の排気

は給気にリターンさせ、濃度を高め

てから燃焼装置に送る。

③触媒燃焼設置

高濃度になった VOC ガスを触媒燃焼法で分解する。

Page 46: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

44

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

3-3 燃焼方式

蓄熱燃焼装置 前項と同様に、VOC を二酸化炭素、水などに分解する装置であるが、蓄熱材を使って、使用燃料の量を減らした装置である。 原理

VOCの多くは、炭素、水素、酸素などから構成されている化合物である。これらの化合物は、燃焼すると酸化して二酸化炭素、水などに分解する。 <例:トルエンの燃焼反応> C6H5CH3+9O2 → 7CO2+4H2O このように、VOCを分解する原理は、直接燃焼装置、蓄熱燃焼装置と同様に、酸化分解反応である。 この装置の特徴は、セラミック製の蓄熱材を使った廃熱回収にある。燃焼後に高温になっ

た VOCガスの熱は蓄熱材に吸収され、その熱が燃焼前の VOCガスの加熱に使われる。 装置と処理プロセス

運転初期の昇温時、および原ガス中の VOC の発熱量だけでは分解温度(800~900℃)に達しないときに、燃焼を補助するためにバーナーが用いられる。

触 媒

前処理剤

蓄 熱 剤

回 転 式

切 換 弁

処理ガス

浄化ガス

処理ファン

パージファン

触 媒

前処理剤

蓄 熱 剤

回 転 式

切 換 弁

処理ガス

浄化ガス

処理ファン

パージファン

①VOC加熱

VOC を含んだ

排ガスは、高温

になった蓄熱体

の中を通過し、

600~ 700℃まで加熱される。

蓄熱体はセラミ

ック製であり、蓄

熱体自体は 、

200~ 700℃となっている。

②VOC燃焼分解

高温になったガスは燃焼室に入り、VOC成分はバーナーによって酸化され、二酸化

炭素と水などに分解する。この時の酸化温

度は、800~1,000℃である。

③蓄熱体の加熱

浄化されたガスは

再び蓄熱体の中

を通過して、出口

に至る。ただし、こ

の時、通過する部

分は、上記①の際

とは別の温度の低

い部分であり、②

で高温になったガ

スが通過すること

によって、蓄熱体

が加熱されること

になる。

Page 47: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

45

処理可能なVOC

◇VOCの例: ◇処理風量: 約 70~1,300 Nm3/min程度

※風量が大きい場合は、塔数の増加か、設置台数の増加が必要 ◇処理濃度: 約 40~1,000 ppm程度

VOC排出抑制効果

装置に入った VOCは 95~99%以上分解される。

特徴

長所

・ 熱回収率が高い(通常 85~95%)。 ・ VOC 濃度が 1,000ppm 程度で自燃する(トルエン換算で、3 塔式の場合は

300~900ppm で自燃、1 チャンバー式の場合は 450ppm で自燃)ので、補助燃料の消費が削減できる。

・ 補助燃料の使用量が少ないので、NOxの発生量が少ない。 ・ 中・低濃度、大風量の VOC処理にも適している。 ・ 触媒を使用していないので、維持管理が容易である。

短所

・ 広い設置スペースが必要である。 ・ 蓄熱体を充填するので、重量が重い。 ・ 装置の運転開始時に昇温時間が長くかかる(蓄熱体の昇温のため)。 ・ 有機シリコン含有ガスには不向きである。

技術の種類

代表的な方式として、3塔式、1チャンバー式がある。 排ガスと蓄熱体間の熱交換を効率的に行うために、排ガスの通過場所を変える必要がある。

その方式としては、塔切換式や連続回転式がある。

パージ工程では、予熱工程において、蓄熱塔下部に滞留した未燃焼ガスを、燃焼室の排ガ

スで置換して、予熱工程から放熱工程に切り替わる際に VOCが排出するのを防止する。

① ② ③ ②① ③②① ③

原ガス

蓄熱体

燃焼室

第1サイクル 第2サイクル 第3サイクル

① ② ③ ②① ③②① ③

原ガス

蓄熱体

燃焼室

第1サイクル 第2サイクル 第3サイクル

3塔式の蓄熱燃焼装置

Page 48: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

46

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 約 2.0m×約 2.3m以上(ある装置の例) ◇導入コスト: 約 1千万円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力、補助燃料(LNG、LPG、灯油、A重油など) ◇導入状況: 中堅規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス 装置のトラブル防止のために、処理するガスの条件によって、以下のような対策が必要と

なる。 処理するガスの

条件 対策

タール分を含む

ガスの場合 タール分を含むガスの場合、装置入口のセラミックブロック内部

に付着して、セラミックブロックを閉塞する懸念がある。閉塞する

と、排気ファンの消費電力が増加し、ランニングコストが増える。

対策としては、前段にスクラバーなどを設置するなどの前処理が

必要である。 タール含有量が少量の場合は、ベークアウト運転(空焼き運転)

を行うことで、タール分を燃焼、除去することができる。 有機シリコンを

含むガスの場合 有機シリコンを含むガスを燃焼室内で燃焼すると、シリカを形成

してセラミックブロック内に付着する。 対策としては、有機シリコンがダスト状の場合は、前処理による

除去が可能であるが、ガス状の場合は、除去ができない。 長時間運転によってセラミックブロックが閉塞した場合は、交換

する必要がある。 腐食性成分を含

むガスの場合 特に酸などを多量に含むガスの場合、セラミックブロックの材質

によっては、化学変化によって風化し、蓄熱体として機能しなくな

る。 対策としては、耐腐食性のセラミックブロックの使用や、前段で

のスクラバー等での除去がある。 高沸点成分を含

むガスの場合 原料中に含まれる高沸点の不純物は、ミストとして飛来し、蓄熱

材下部や制御弁などに付着し、出口側処理ガス中に混入するなどの

運転上支障を来す場合がある。 これについては、以下のような対策がある。 ・ 不純物が付着してもガス流路が閉塞しにくい蓄熱材を選定す

る。 ・ 付着した不純物が除去できるヤニ焼きサイクルを採用する。 ・ 入口側のガスを高沸点成分の沸点以上の温度を維持するように

予熱処理をする。 ・ 原ガスラインに高温の排ガスをリターンさせる。

高温のガスの場

合 自燃領域を越える高濃度の VOC をそのまま処理すると、燃焼室内が耐熱温度(1,000℃程度)以上の高温となり、機器の損傷を招くおそれがある。 このような場合は、排ガスの一部は蓄熱材を介さずに燃焼室から

直接、煙突へとバイパスさせることでコントロールする。 参考文献 1) 機器メーカーのパンフレットおよび提供情報. 2) 塗装技術, 2005年 11月号, pp.64. 3) 「普及版 脱防臭技術集成」エヌ・ティー・エス(2002).

Page 49: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

47

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

3-4 燃焼方式

マイクロガスタービン VOCをマイクロガスタービン内で燃焼処理し、燃焼エネルギーで電力と蒸気を発生する装置で

ある。

原理

VOCをマイクロガスタービン内で燃焼処理し、燃焼エネルギーで電力と蒸気を発生する装置である。 個々の要素技術自体は特に目新しい技術ではないが、VOC処理装置としては、電力・蒸気としてエネルギーを回収できる点に新規性がある。 装置と処理プロセス

処理可能なVOC

◇VOCの例: トルエン、酢酸エチルなど ◇処理風量: 120 Nm3/min(あるメーカーの例) ◇処理濃度: 21,000 ppmC(あるメーカーの例)

VOC排出抑制効果

装置内に送り込まれた VOCの除去率は 98%以上である(吸気 21,000 ppmC、排気 400 ppmC以下)。

①VOC燃焼

装置内に送り込まれた

VOC は、タービン内の燃焼によって分解される。燃

焼温度は約 500℃で、分解効率は 90%である。

③VOC触媒処理

タービンでの燃焼後の

VOC は、さらに触媒によって、分解される。①の工

程と合わせた分解効率は

98%以上である。

②発電

タービンの回転に

よって発電する。

④蒸気発生

燃焼して高温になった

排ガスの熱を利用して、

水蒸気を発生させる。

Page 50: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

48

発電出力は 285 kW、蒸気発生量は 1.7 t/hである。 タービン燃焼の燃料源としては、都市ガスや灯油が用いられる。VOCを燃焼させること

で、燃料の消費量を最大半分まで抑えることができる。

(出典:メーカーのホームページより) 回収した蒸気は乾燥工程で利用可能である。乾燥工程で必要な水蒸気量は、印刷機の稼動

状態等によって時々刻々変動するが、ベースとして必要な水蒸気量はこのマイクロガスター

ビンからの回収蒸気を使い、変動分は既存の装置で補うというような利用方法が考えられて

いる。

特徴

長所

・ 電力と蒸気が発生する。 ・ 一般の燃焼装置に比べて、装置サイズが小型である。

短所

・ 蒸気の利用先がないとメリットが小さくなる。 ・ 排気中に窒素、リン、硫黄、シリカを含む場合は、前処理が必要である。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 1.5 m×4.5 m[発電装置のみ](ある商品の例) ◇導入コスト: タービン本体:約 8千万円~約 3億円程度

付帯設備の含めた全体:約 1億円~5億円程度 ※メーカーによって幅がある。

◇ユーティリティ: 燃料(都市ガス 13A、LNG) ◇導入状況: 大手の包装加工工場で実証試験が行われている。

◇その他: ベース負荷として、300kWの電力と 1.7t/hの蒸気の需要がないと、コストメリットが出ない。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 排気中に窒素、リン、硫黄、シリカを含む場合は、前処理が必要である。 ・ ボイラ取扱技術講習修了者以上の資格者が必要である。 参考文献

1) 機器メーカー等のパンフレットおよびヒアリング.

Page 51: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

49

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

導 入 事 例 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

現在、包装加工メーカーにおいて、実プラントでの連続稼動による実証試験が行われてい

る。

工程 ラミネートフィルムの生産

VOC 酢酸エチル、トルエン、キシレンなど

発電出力 285 kW

蒸気発生量 1.7 t/時

建設費用 約 1億円

出典 メーカーおよび事業者提供資料.

VOCガス入口 マイクロガスタービン

蒸気ボイラー

Page 52: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

50

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

3-5 燃焼・分解方式

ハニカムローター型濃縮装置 排ガスの前処理装置であり、排ガスの風量を下げることで、小型の燃焼・分解装置でも処理

可能にするための装置である。

原理

VOCの吸着と脱着を繰り返して、VOCを濃縮する装置である。 装置と処理プロセス

排ガスの濃度が低く、風量が大きいと、燃焼や回収といった処理装置は大規模な設備にな

り、初期投資・ランニングの費用も大きくなるが、VOC濃縮装置を使うと、排ガスの濃度を上げ、風量を下げることができ、処理装置が小型化できる。

VOC濃縮装置としては、ハニカムローターを使ったものが代表的である(下図)。 ローター部は、ハニカム状に成型された吸着剤が充填されている。吸着剤としては、ゼオ

ライト、活性炭、シリカゲルなどが使われる。近年は、活性炭が可燃性であることから、ゼ

オライトを用いたものが多くなっている。 下図のように、ローター部は、処理ゾーン、再生ゾーン、冷却ゾーンの 3 つのゾーンに区分けされており、表面積の大半が吸着ゾーンになっている。またローターは連続的に回転

するようになっている。

クーリングゾーン

再生ヒーター

再生ゾーン再生ファン

処理ファン

プレフィルター

処理ゾーン

ギアードモーター

VOC濃縮ローター

クーリングゾーン

再生ヒーター

再生ゾーン再生ファン

処理ファン

プレフィルター

処理ゾーン

ギアードモーター

VOC濃縮ローター

③VOC冷却

ローターが加熱された

ままだと吸着率が悪い

ので、ローターは冷却

ゾーンに回転移動し

て、冷却空気で冷却さ

れる。冷却ゾーンを通

過した空気は加熱さ

れ、②での脱着用の熱

風となる。

②VOC脱着

VOC を吸着したローターは再生ゾーンに回転移動し、吸着している VOC は熱風(110℃前後)によって、脱着・濃縮する。濃縮の度合いは 5~15倍程度である。

①VOC吸着

VOC を含む排ガスはローターの処理ゾーンを通過する。その

際、VOC は吸着剤に吸着され、排ガスが浄化される。

Page 53: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

51

処理可能なVOC

◇VOCの例: トルエン・キシレンなどの芳香族類、脂肪族、ケトン類、アルデヒ

ド類、エステル類、エーテル類、アルコール類、アミン類、有機酸

類など ◇処理風量: 10~2,000 Nm3/min程度 ◇処理濃度: 10~250ppm程度

ただし、濃度が高すぎて、濃縮後に爆発下限界を超える場合は、適

用できない。

VOC排出抑制効果

VOCを 5~15倍程度に濃縮できる。

特徴

長所

・ ランニングコストが安価である。 ・ 低濃度・大風量の排ガスを、高濃度・低風量に変換することによって、後工

程の VOC処理装置を小型化できる。

短所

・ 排ガス温度が 40℃を越える場合は、吸着除去率が低下する。 ・ 高沸点物質やオイルミストが含まれる場合には、前処理が必要である。

技術の種類

吸着剤に使われるゼオライト、活性炭の比較 種類 疎水性ゼオライト 活性炭 難燃性 不燃 難燃 入口温度 60℃以下 40℃以下 再生温度 150~220℃

(高温耐熱仕様の場合、300℃まで可能) 110~140℃

運 転 条 件

耐熱温度 500℃(ローター素子) 180℃ (出典:機器メーカーのパンフレット等より) ※活性炭は、シクロヘキサノンやヘビーケトン、アルコール等が含まれる場合は、使用できない。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 直径 1 m程度~10m程度 ◇導入コスト: 数百万円以上 ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中堅規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス ・ ローター部の目詰まりなどには水洗浄が可能である。また吸着剤がゼオライトの場合は、

熱処理による高温賦活も可能である。 ・ 濃縮ガス量は、濃縮後の VOC濃度が以下のどちらか小さい方を目安として決められる。 ・ VOCガスの爆発下限界の 1/5 ・ 触媒酸化装置における VOC自燃濃度

参考文献

1) 機器メーカーのパンフレットおよびヒアリング. 2) 月刊ディスプレイ, 11(11), pp.73(2005).

Page 54: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

52

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

導 入 事 例 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

濃度 [ppm] 風量 [m3/min] 入口 出口

除去率 [%]

備考

処理側 750 240.4 10.7 95.5% 5倍濃縮 印刷工場 (トルエン、IPA、酢酸エチル等)

濃縮側 150 1,146.5 8.0 99.3% 触媒 処理側 300 32.9 1.6 95.1% 5倍濃縮 機械工場塗装ブース

(キシレン等) 濃縮側 20 469.5 1.4 99.7% 触媒

(出典:メーカーのパンフレット)

塗装ブースからの排ガスを濃縮装置を通して低風量・高濃度化した後に、燃焼処理してい

る事例である。中規模の工場でも導入実績がある。 VOCの処理工程は以下のとおりである。

<排ガスの濃縮処理> ・ 塗装ブースからの排ガスは、風量が 700 m3/min、濃度が 100 ppmであり、大風量・低濃度である。

・ まず、濃縮の前処理として、湿性ダストや粘着性ミスト等を除去するために、排ガスは

ロールフィルターを通る。 ・ その後、排ガスは 2台の濃縮ローターに分岐して濃縮される。濃縮後の排ガスは、風量は 45 m3/minまで低減し、濃度は 1,400 ppmまで上昇する。

<排ガスの燃焼処理> ・ 濃縮された排ガスは、焼付け乾燥炉からの排ガスと合流し、風量 350 m3/min、濃度 610

ppmとなる。 ・ その後、排ガスは直接燃焼装置に入り、燃焼処理される。燃焼熱は熱交換器によって、

濃縮装置の再生用熱風の加熱に使われる。

Page 55: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

53

大気放出

浄化ガス

700m3/min

再生用熱風

45m3/min 110℃

45m3/min

1400ppm

再生濃縮ガ

脱臭ローター

排気ファン

熱交換器

煙突

直燃式脱臭炉350m 3/min 610ppm

ハニカムローター型濃縮装置

塗装ブース

焼付け炉排気 305m 3/min 500ppm

被処理ガス 700m 3/min 100ppm

ロールフィルター

250℃350m3/min

大気放出

浄化ガス

700m3/min

再生用熱風

45m3/min 110℃

45m3/min

1400ppm

再生濃縮ガ

脱臭ローター

排気ファン

熱交換器

煙突

直燃式脱臭炉350m 3/min 610ppm

ハニカムローター型濃縮装置

塗装ブース

焼付け炉排気 305m 3/min 500ppm

被処理ガス 700m 3/min 100ppm

ロールフィルター

250℃350m3/min

浄化ガス

700m3/min

再生用熱風

45m3/min 110℃

45m3/min

1400ppm

再生濃縮ガ

脱臭ローター

排気ファン

熱交換器

煙突

直燃式脱臭炉350m 3/min 610ppm

ハニカムローター型濃縮装置

塗装ブース

焼付け炉排気 305m 3/min 500ppm

被処理ガス 700m 3/min 100ppm

ロールフィルター

250℃350m3/min

※この事例では、VOCの処理には直接燃焼法が使われているが、他の処理方法でも適用可能である。

排ガス処理の効果の測定例 VOC濃度 測定時点

入口 出口 処理効率

試運転時 74.5ppm 3.5ppm 95.3%1年後 71.6ppm 4.4ppm 93.8%2年後 112.6ppm 12.2ppm 89.1%

※VOCの成分は、トルエン、メチルイソブチルケトン、IPA、酢酸エチルなど。 出典 機器メーカーのパンフレットおよびヒアリング.

Page 56: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

54

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

3-6 燃焼・分解方式

乾燥エア循環システム 排ガスの前処理システムである。印刷物の乾燥に使うエア(温風)を循環利用することによっ

て、排出する VOCの風量を下げ、処理する燃焼・分解装置を小型化するためのシステムである。

原理

通常の軟包装グラビア印刷では、印刷面積の小さいユニットや半調部のユニットでは、乾

燥工程から出る排気の VOC濃度が 100ppm以下であることが多い。これをそのまま処理すると、過大な風量なため、大型の処理装置が必要になる。処理装置を小型化するためには、

排気の風量を下げる必要がある。 風量を下げる方法としては、前項のハニカムローター型濃縮装置のような濃縮装置以外に、

(ⅰ)排気を循環する方法と、(ⅱ)少ない風量で乾燥させる方法が挙げられる。 (ⅰ)排気を循環させる方法(溶剤ガス濃度コントロールシステム)

印刷物の乾燥に使ったエア(温風)を一度使っただけで排出するのではなく、乾燥後の

エアを給気に戻して、再び乾燥エアとして利用する。

乾燥炉給気 排気

再び給気に戻す

乾燥炉給気 排気

再び給気に戻す

(ⅱ)乾燥風量を下げる方法

乾燥炉の中を分割することによって、乾燥に必要なエアの風量を下げる。 この場合、乾燥炉の内部を分割して、エアを VOC濃度の低い領域から高い領域へと順番に流すことになる。

給気

VOC高濃度領域の給気にする

排気

乾燥炉

VOC低濃度領域

VOC高濃度領域

給気

VOC高濃度領域の給気にする

排気

乾燥炉

VOC低濃度領域

VOC高濃度領域

Page 57: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

55

装置と処理プロセス

(ⅰ)排気を循環させる方法(溶剤ガス濃度コントロールシステム)

常時、ガス濃度を濃度計で測定し、給気・

排気ダンパーが自動的に開閉するように連

動している。 使用しないユニットは、熱風循環ファンの

停止に連動させて、閉止している。 溶剤ガスの濃度は、光波干渉式などで測定

している。 溶剤の爆発下限界(LEL)は約 1.7vol%(17,000ppm)であるが、安全のため、濃度限界は LELの 1/4以下に設定されている。

溶剤濃度調節計

給気ファン

乾燥炉

蒸気ヒーター

給気自動ダンパー

新鮮エア

排気自動ダンパー

排気

再び乾燥に使う

溶剤濃度調節計

給気ファン

乾燥炉

蒸気ヒーター

給気自動ダンパー

新鮮エア

排気自動ダンパー

排気

再び乾燥に使う

(ⅱ)乾燥風量を下げる方法

VOC低濃度領域

VOC高濃度領域次の

乾燥へ

仕切り

VOC低濃度領域

VOC高濃度領域

VOC低濃度領域

VOC高濃度領域次の

乾燥へ

仕切り

②次の乾燥へ

エアの VOC 濃度がまだ低いので、

VOC 濃度が高い領域での乾燥に

使う。

①VOC低濃度領域へ

新鮮なエアは、まず

VOC 低濃度領域に入り、印刷物を乾燥する。

③排気へ

VOC を含んだ乾燥後のエアは排気・処理される。

Page 58: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

56

処理可能なVOC

◇VOCの例: グラビア印刷インキから発生する VOC ◇処理風量: - ◇処理濃度: -

VOC排出抑制効果

上記(ⅰ)の排気を循環させる方法の導入によって、排風量が約 2,178m3/min から最大460Nm3/minに減ったという事例がある。 また(ⅱ)の方法では、70 m3/minの風量が 37~40 m3/minに減るというデータがある。

特徴

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: (ⅰ)循環用ダクトの設置スペース必要 (ⅱ)従来とほぼ同じ

◇導入コスト: (ⅰ)1ヶ所当たり 200万円程度 (ⅱ)新設の場合、1ヶ所当たり 250万円程度 既設の場合、レイアウト等により変動

◇ユーティリティ: - ◇導入状況: (ⅰ)中堅規模以上の企業で導入されている。

(ⅱ)中小規模以上の企業で導入予定である。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 濃度限界を上げすぎると、溶剤の爆発の可能性が高くなるので注意する。また VOCを含んだエアで乾燥させるため、印刷品質についても考慮する必要がある。

参考文献

1) 機器メーカーのパンフレットおよびヒアリング. 2) におい・かおり環境学会誌, 35(3), p.11 (2004).

長所

・ VOCの燃焼・分解装置等を小型化できる。 ・ 乾燥に必要なエネルギーを節減できる。 ・ 風量が下がるので、ダクトの径を小さくできる。

短所

・ VOCを含んだエアで乾燥するので、品質の確保に留意する必要がある。 ・ VOCを濃縮するので、爆発等の安全性の確保に留意する必要がある。

Page 59: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

57

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

4-1 代替物質

水系塗料、水性塗料 溶媒として水を主成分に使うことで、VOCの含有率を下げた塗料である。

原理

通常、塗料に使う溶媒は有機溶剤であるが、この塗料は水を溶媒に使った塗料である。 塗装の際には水系、水性塗料対応の機器を使用する。

装置構成と処理プロセス

塗装方式としてもっとも多く実施されているスプレー塗装の場合について、以下に記す。 スプレーガンは水系塗装専用ものを使うことが望ましい。また塗装ブースは防錆のために

ステンレス製のものを使うことになる。 さらに、通常の溶剤系塗装の場合とは異なり、温度・湿度管理のために、給気装置が必要

となる。また排水処理も必要となる。

前処理

排水処理

セッティング 乾燥塗装

塗装給気

前処理

排水処理

セッティング 乾燥塗装

塗装給気

湿度管理

湿度により塗料の状態(NV、粘度)が変わるので、湿度管理は

品質確保のために重要である。

特にメタリックやパールなどの高

級塗装の場合、塗料のタレ、塗

りムラなどの概観不良が生じや

すく、湿度 70%前後での管理が必要である。

除塵

給気の取り入れ

口に油ミストが

入る可能性があ

る場合は、油ミス

ト吸着用に油用

高性能フィルタ

ーを使用する。

温度管理

通常、15℃以上の給気温度が要求されるので、

冬季および寒冷地では

加温が必要となる。 加温には、一般的に蒸

気によるエロフィンヒータ

ーが使われる。大風量の

場合は、直接燃焼方式も

使われる。

塗装機器

水系塗料対応の塗装機器を使用する。選定

に際しては、被塗物の形状、品質等を考慮

し、試験も行うことになる。 寒冷地向けに塗料を加温できる塗装機器も

ある。

少しの汚れでハジキ

や付着不良を起こし

やすいので、金属塗

装の場合は、脱脂を

念入りに行う必要が

ある。プラスチック塗

装の場合は、塗着性

を向上させるために

被塗物表面に前処

理を行う場合もある。 排水処理が必要と

なる。

塗膜中に水分が残

っていると、乾燥の

際に気泡や艶引け

などの不具合が生じ

るので、セッティング

時間を長く取る必要

がある。

水は溶剤系に比

べて蒸発速度が

遅いので、乾燥時

間の延長や予備

乾燥装置の導入

などが必要となる。

Page 60: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

58

VOC排出抑制効果

溶剤型塗料に比べて、6~9割の VOCを削減できる。 常温での乾燥性(造膜性)を得るために、微量の VOCを含有する場合がある。

特徴

長所

・ 臭気が少ない。 ・ 被塗物が湿っていても、塗装が可能である。 ・ 多色塗装に適用可能である。

短所

【屋内塗装、屋外塗装共通】

・ 塗装用具の洗浄水や残塗料などの排水処理が必要になる。

【屋内塗装】

・ 塗装時および塗料保管時に温度・湿度の管理が必要となる。 ・ 水が溶媒なので、ワキなどの塗膜不良を生じやすい。 ・ 乾燥性が悪いので、タレ、スケなどの塗膜不良を生じやすい。 ・ 表面張力が大きいので、少しの汚れでもハジキや付着不良を起こしやすい。

そのため脱脂が必要になる場合がある。 【屋外塗装】

・ 梅雨時期などの高湿度時や寒冷地区では、乾燥性、塗膜品質が低下する。 ・ 溶剤型塗料に比べて塗装作業性が劣るので、仕上がり概観が低下しやすい。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 現状設備のスペースに加えて、数 m2~数十 m2以上のスペー

スが必要(純水装置、廃液分離処理装置等の設置用として)。

◇導入コスト: 約 1,500万円(温度・湿度の管理対策まで含めると、3,000~4,000万円)という事例がある(次ページ参照)。

◇ユーティリティ: 電力等

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

【屋内塗装】自動車(新車)の本体および部品を中心として、

水系塗料による金属塗装が行われている。プラスチック塗

装でも一部の企業で水系塗装が行われている。

【屋外塗装】周辺環境への臭気に対する配慮から、特に塗り

替えの際には水性塗装が実施されている。しかし、船舶や

構造物のように、鉄素材が使われる分野では、防食性が要

求されるため、水性塗料の普及には課題がある。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 上記のように、排水処理が必要となる。また塗装時および塗料保管時の温度・湿度管理

が必要となる。 ・ 屋外塗装の場合、塗装環境の湿度、温度等の制限がある。

参考文献

1) 塗装技術, 2006年 8月号, p.100. 2) 表面技術, 56(10), p.38 (2005). 3) 塗社団法人日本塗料工業会「「技術レポート」VOC排出抑制に向けた塗料・塗装の先行技術調査 第

2報」(平成 18年 3月). 4) 塗装事業者へのヒアリング.

Page 61: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

59

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

導 入 事 例 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

〔概要〕

対象工程 プラスチック樹脂の塗装(屋内塗装) 事業内容 弱電製品の精密塗装 従業員数 約 40名 導入の動機 発注元からの要請。 検討プロセス 塗料メーカー・塗装機メーカーと協力しながら検討。 導入のメリット ・水系塗料は溶剤系とは異なり、樹脂素材を侵さないので、ソルベントアタ

ックによるクラック、クレージングなどの問題を起こしにくい。 ・塗料を取り扱う作業者の有機溶剤の暴露量が低減。 ・塗料に引火性がないので、安全性確保につながる。

初期投資額 約 1,500万円。 温度・湿度の管理対策まで含めると、3,000~4,000万円。

〔処理プロセス〕

塗料純水 塗料純水

オイルブース 騒音・異臭対策、産業廃棄物の低減とラ

ンニングコストを考え、オイルブースを選

択。汚れたオイルは、クリーニングするこ

とで再利用可能。

スプレーガン 塗装機メーカー推進の霧化が良い

ガンを使用。スプレーガン選定の際

には、塗装ムラ等の不具合を考慮。

防錆対策 ポンプ、ロボット、スプレーガン、塗

装治工具を水系対応(ステンレス

製)に変更。水系塗装ではラインの

防錆は特に重要。

純水装置 活性炭を使った純水装置で毎時 500 リットルの純水を確保。 水道水でも塗装可能だが、pHが 7から大きく離れている場合や、雑イオンを多

く含む場合などは、塗料が増粘する可

能性があるため。

廃液分離処理機 塗装工程だけでなく、塗料洗浄工

程でも水使用のため、大量の廃水

が発生。 廃水は、遠心分離による廃液分離

処理機で、水と塗料(固形分)に分

離。分離した水は、排水処理後、

下水に流す。

Page 62: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

60

〔導入における課題と解決策〕

1液タイプの場合

課題 解決策 塗料の安定性の確保が必要である

(ゲル化、増粘化など)。 室温 10~30℃の冷暗場所で保管する。 購入を小口にする。

ハジキなどの不具合が生じやすい。

雨期には白化が生じやすい。 塗装室での温度・湿度をコントロールする。

塗装前に素材を IPA あるいはヘキサン等で脱脂する。

ワキ(発泡)が発生しやすい。 塗料の攪拌時、流動時に泡立たせないように

工程管理を行う。 溶剤系塗料に比べて霧化しにくく、

霧化圧を高めにすると、パールやメ

タリックの場合、塗装ムラが生じや

すい。

携帯電話の塗装用に開発された低圧霧化・少

吐出量タイプのパールガンで試験塗装を行

い、最適な塗装条件を設定する。

2液タイプの場合

課題 解決策 塗料ポットライフが短い(約 30~40分しかない)。

生産数に応じたロット単位で、こまめに塗料

を調合する。 塗料調合・塗装・洗浄のタイミングについて、

工程すべての時間シミュレーションを作成

することで、塗料の無駄・生産ロスのない工

程を確立する。 水の配合比が非常に微妙で、高粘度

になりやすい。 塗料ポンプ、スプレーガン、塗料ろ過、攪拌

方法を改善する。 攪拌の程度で粘度挙動が異なる。

塗料供給時から攪拌を継続的に行う。ただ

し、極端に激しく攪拌すると、容器壁面で塗

料が付着・製膜してしまい、ブツ不良などの

原因となるので注意する。 溶剤系塗料に比べて霧化しにくく、

霧化圧を高めにすると、パールやメ

タリックの場合、塗装ムラが生じや

すい。

携帯電話の塗装用に開発された低圧霧化・少

吐出量タイプのパールガンで試験塗装を行

い、最適な塗装条件を設定する。

出典

1) 塗装技術, 44(10), p.66 (2005.10). 2) ホームページ情報:www.sunac.co.jp/~coating/rupo/pdf/243.pdf 3) 実施事業者へのヒアリング.

Page 63: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

61

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

4-2 代替物質

粉体塗料 VOC 成分をまったく含まない粉状の塗料で塗装する方法である。特に金属塗装を単色で大量生産する場合に適しているが、色替えのある場合にも導入されている。

原理 粉体塗料は粉末状の塗料で、有機溶剤を含まず、固形分のみの塗料である。 塗料の回収・再利用が可能であることや高度な塗装テクニックを必要としないというメリ

ットがある。

装置と処理プロセス

導入に際しては、専用のスプレーガン、帯電装置、粉体専用ブース、回収機(あるいは集

塵機)などが必要となる。また色替えのある場合は、色替え装置が必要になる。 塗装の際には、まず粉体塗料を浮遊させ、それを空気、静電気等の力で被塗物に塗着させ

る。塗着した塗料は、加熱溶融して塗膜にする。

被塗物に塗着しなかった塗料は、回収して、再利用することが可能である。回収するため

の回収装置も販売されている。

VOC排出抑制効果

粉体塗料からの VOC排出はない。

特徴

長所

・ 被塗物に塗着しなかった塗料を回収して、再利用することができる。 ・ 高度な塗装テクニックが不要である。 ・ ワキ、タレ、流れが生じない。 ・ 溶剤臭が出ない。 ・ 厚塗りができるので生産効率が高い(静電塗装法では 1度で 30~100μm、流動浸漬法では 1度に 200~1,000μm)。

・ 塗膜が厚いので、耐食性を要するものには適している。 短所

・ 小口塗装や短納期対応が困難である。 ・ 現場での調色ができない。 ・ 焼付け温度が高いので、エネルギー消費量が大きくなる。またプラスチック

塗装には向かない。 ・ 色替えに手間、時間がかかる(最新のブースでは、数分単位に短縮できるシ

ステムもあるようである)。 ・ 薄塗り、平滑化が困難である。溶剤系に比べて、仕上がり感が低下する。 ・ 安全衛生上、粉塵対策が必要である。 ・ 新規の専用設備が必要である。

Page 64: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

62

技術の種類

粉体塗料の下記の塗装方法は、被塗物の形状や要求品質によって使い分けられる。

静電塗装法

コロナ方式

静電塗装法

摩擦(トリボ)帯電方式

流動浸漬塗装法

静電ガンと被塗物の間でコロナ放

電させて粉体塗料を帯電させ、電

界および空気流で粉体塗料を被

塗物に運ぶ方式である。

ガン内壁を通過する際の摩擦に

よって粉体塗料を帯電させ、被塗

物に付着させる方式である。

流動浸漬槽の下部から空気を吹

き込んで、粉体塗料を流動させ、

予め加熱しておいた被塗物を浸

漬し、被塗物表面に粉体塗料を

融着させる方式である。

塗料の選択性に比較的制限がな

い。

複雑な形状でも比較的均一で良

好な塗装ができる。

200~1,000μm 程度の厚膜塗装

が容易にできる。

流動槽の設備が安価である。

凸凹の大きな場合は、凸部の周り

が厚膜になりやすい傾向にある

が、近年、改善されつつある。

塗料のタイプ・湿度・回収塗料な

どで帯電率が変化することがあ

る。

薄膜塗装ができない。

被塗物の形状や大きさ・板厚保な

どが制限される。

最も多く使用されている方式であ

る。

平板などの凹凸の小さな被塗物

に適している。

複雑な形状への塗装や塗膜高外

観が要求される塗装に適してい

る。

厚膜塗りが可能なので、例えば水

道用部品など厳しい耐食性、耐

薬品性や衝撃性が要求される用

途に適している。 (出典:日本塗料協会「塗料と塗装 基礎知識」(2004)、塗装技術, 2006 年 1 月号, pp.81 など) 設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上 ◇導入コスト: 1千万円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

導入に際しては、品質面、作業効率面、安全衛生面等でのチェックが必要となる。 また、粉体塗料は容易に燃焼するため、高濃度の場合は、粉塵爆発が生じる可能性がある。

爆発等の防止のため、最近の装置にはバッグフィルターなどの集塵機のアース、塗装機の接

触時の安全装置などが整備されている。それ以外の防止対策としては、被塗物の落下や被塗

物同士の接触でスパークが生じないように被塗物の吊り方を工夫することや、爆発原因であ

る塗料を堆積させないこと、静電気や放電を生じさせないことなどが挙げられる。 参考文献

1) 日本塗料工業会・日本塗装機械工業会「ISO14001認証取得・継続のための塗装ハンドブック」 (2001年 5月).

2) 日本塗装機械工業会技術部会「VOC法規制の具体的影響と自主取り組みの概要」第6回塗装 技術シンポジウム資料.

3) 日本塗料協会「塗料と塗装 基礎知識」(2004). 4) 塗装技術, 2006年 9月号, pp.121. 5) 塗装技術, 2006年 1月号, pp.81. 6) メーカーへのヒアリング.

Page 65: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

63

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

4-3 代替物質

ハイソリッド塗料 通常の溶剤系塗料よりも不揮発成分の含有率を多くした塗料である。

原理 ハイソリッド塗料は、通常の塗料よりも不揮発分の含有割合が高い塗料である。 粘度を下げるために、分子量の低い樹脂を使うことによって、粘度調整に必要な VOC量を少なくしている。 塗装時点で、固形分の含有率はおおよそ 70%以上である。

装置と処理プロセス ハイソリッド塗料による塗装は、基本的に従来の塗装設備と同様で、設備を大幅に変更し

なくても使用できる。

VOC排出抑制効果 ハイソリッド塗料は、従来の溶剤系塗料に比べて、VOC排出の 2割~5割程度を削減す

ることができる。

特徴

長所

【屋内用】 ・ 既存設備を大幅に変更することなく利用できる。 ・ 艶感の向上が可能(乾燥炉での体積収縮が少ないため)。 ・ 一度に厚膜で塗装できる(隠蔽性に優れる)。 ・ 性能、作業性は溶剤型塗料と同等である。 【屋外用】 ・ 他の代替塗料に比べて、塗膜性能の低下が少ない。 ・ 一度に厚膜に塗装できる。

短所

【屋内用】 ・ 塗料が敏感でハジキ易い。ハジキ防止剤を添加する。 ・ タレ易い。タレ止め剤を添加する。 ・ 色替えの際、塗料の固形分濃度が高い分、塗料(固形分)のロスが多くな

りやすい。 ・ 粘度が若干高いので、洗浄性が悪く、洗浄シンナーの使用量が増加する場

合がある。 ・ 粘度が若干高いので、微粒化が悪く、きれいな塗膜肌を得るのが難しい。

【屋外用】 ・ 溶剤型塗料に比べると、塗装作業性がやや劣る。 ・ ポットライフ2が低下する。

2 ポットライフとは、塗料混合後、塗装に使用可能な時間。

Page 66: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

64

設置条件と導入状況 塗装設備はおおむね通常の溶剤系塗料と同様である。

◇装置サイズ: (溶剤系塗料用の設備のままで導入可能である。) ◇導入コスト: (溶剤系塗料用の設備のままで導入可能である。) ◇ユーティリティ: (溶剤系塗料用の場合と同じである。)

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス ・ 粘度を下げるためにシンナーを追加しすぎないように注意する。 ・ 樹脂が低分子なので、タレ易く、ハジキ易いので、タレ止め剤、ハジキ防止剤が必要と

なる。 参考文献

1) 日本塗料工業会・日本塗装機械工業会「ISO14001 認証取得・継続のための塗装ハンドブック」(2001年 5月).

2) 社団法人日本塗料工業会「「技術レポート」VOC 排出抑制に向けた塗料・塗装の先行技術調査 第2報」(平成 18年 3月).

3) 日本塗装機械工業会技術部会「VOC法規制の具体的影響と自主取り組みの概要」第6回塗装技術シンポジウム資料.

Page 67: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

65

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

4-4 代替物質

UV硬化型塗料 VOC を含まない塗料であるとともに省スペースなどの生産性向上、高硬度、耐摩耗性等の機能もある。

原理 紫外線(UV)を照射すると化学反応を起こし、極めて短時間に硬化する樹脂(紫外線硬

化樹脂)を用いた塗料である。 紫外線硬化樹脂は、分子内に二重結合を有しており、光重合開始剤存在下において 200~400nm の波長の紫外線照射より硬化反応が起こる。この光化学反応は光開始剤または光増感剤が特有の波長光を吸収、励起してラジカルを発し、樹脂中の二重結合の調合開始を促

進する。

装置と処理プロセス 秒単位の短時間で硬化するので生産性が著しく向上し、プレコート金属、木材やテープ、

紙などの大量生産塗装に向いている。 紫外線硬化樹脂の硬化方式は、光開始剤の活性種の種類によって次の 3 種類に分類できる。

反応形式 特徴

ラジカル反応 速硬化、多種原料、設計幅が広い、安価、酸素重合阻害有 カチオン反応 酸素重合阻害小、高価、原料が少ない チオール・エン反応 酸素重合阻害小、高価、臭気大 現在は、ラジカル重合形が主流であるが、カチオン重合形も一部では特殊用途に採用され

ている。 紫外線硬化樹脂の種類としては、不飽和ポリエステル樹脂、各種アクリレート樹脂が種々

の光開始剤と組合せられて使用されている。

VOC排出抑制効果

使用時に溶剤を使用する場合もあるが、ほとんど揮発せずに化学反応を起して塗膜を構成

する。

Page 68: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

66

特徴

長所

・ 乾燥(硬化)時間が極めて速い ・ 硬化に必要なエネルギーが少ない ・ 溶剤形から無溶剤形まで可能 ・ 組合せによる性能幅が広い ・ 塗膜は柔から硬まで可能

短所

・ 紫外線の当たらない部分は硬化しない ・ エナメルタイプは困難(カチオン重合形は除く) ・ 硬化による収縮歪大 ・ 塗膜表面の酸素硬化阻害がある(カチオン重合形は除く)

技術の種類

種類 特徴 用途

不飽和ポリエステル/スチレンモノマー 比較的安価

発泡し易い

フローリング、サンダーストップ板等のフ

ィラーや中塗

不飽和ポリエステル/アクリレートモノマー やや高価

耐発泡性有

フローリング、合板、家具部材等のフィラ

ーや中塗

エポキシアクリレート/アクリレートモノマー

塗膜強靭

接着性良

硬化速度速

フローリング、合板、家具部材等のフィラ

ーや中塗

ウレタンアクリレート/アクリレートモノマー

塗膜硬度高

硬化速度高

耐光性良

ハードコート、フローリング、家具等の仕

上げ塗料

ポリエステルアクリレート/アクリレートモノマーやや安価

低粘度 一般木工の中塗や上塗

ポリエーテルアクリレート/アクリレートモノマー

塗膜軟質

やや安価

低粘度

軟質塗膜用途

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上 ◇導入コスト: 百万円程度以上(UV照射装置) ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 紫外線を当てにくい複雑な形状の製品の塗装には向かないとされてきたが、最近では椅

子などの立体形状を持つ製品への適用も可能になってきた。 ・ 紫外線を規定量照射しなければならないが、紫外線ランプの経時能力低下があるので、

常に紫外線量を把握しておく必要がある。 参考文献

1) 社団法人日本塗料工業会「工場塗装ラインにおける塗装・塗料管理ハンドブック」平成 14年 11月.

Page 69: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

67

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

4-5 代替物質

電着塗料 電気めっきと同様の塗装方法であり、塗料は溶剤をほとんど含まない水系である。

下地の塗装に使われていることが多い。

原理 電気めっきと同様に、被塗物を塗料溶液中に浸漬し、直流電流を印加するとこによって、

被塗物表面に塗料を析出させる塗装方法である。 塗料は、水の中でコロイド状に分散している。

O2H2

R-NH+

OH- H+

O2H2

R-NH+

OH- H+

装置と処理プロセス 塗料には、溶剤をほとんど含まない水系が使われる。 加熱によって塗膜の硬化が行われる。

電源

前処理装置

湿度調整器

フィルタ

水洗シャワー

バスバー

電着槽

被塗物

検知装置乾燥炉

エアブロー

電源

前処理装置

湿度調整器

フィルタ

水洗シャワー

バスバー

電着槽

被塗物

検知装置乾燥炉

エアブロー

Page 70: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

68

VOC排出抑制効果 塗装工程からの VOC排出はない。

特徴

長所

・ 被塗物の形状にかかわらず、塗膜を均一にできる。 ・ 流れ、タレ、ピンホールがない。 ・ 塗着効率が高い(ほぼ 100%)。 ・ ランニングコストが低い。 ・ 自動管理が可能なので、人件費が節約できる。 ・ 清掃の手間が少ない。 ・ 火災の危険性が少ない。

短所

・ 設置面積の大きな専用の塗装設備が必要である。 ・ 色替えが困難なので、一色に限定される。 ・ 焼き付け温度が高温である(150~180℃)。 ・ 被塗物が浮きやすい場合は適さない。 ・ 二次タレ、ブリッジが生じることがある。

技術の種類 電着塗装には、 ・カチオン型:被塗物を陽極にする。 ・アニオン型:被塗物を陰極にする。 がある。 アニオン型の場合、金属素材が溶出して錆の問題が生じるので、カチオン型が使用されて

いる場合が多い。 設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数十m2程度以上 ◇導入コスト: 数億円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中堅規模以上の企業で導入されている。 特に自動車ボディ・部品の下塗りやアルミサッシ、電気機器

の塗装などに使われている。防食性の高い製品、平板形状の

塗装に適している。

取扱上の留意事項・メンテナンス ・ 液槽中の塗料の管理が必要である。 参考文献

1) 日本塗料工業会・日本塗装機械工業会「ISO14001 認証取得・継続のための塗装ハンドブック」(2001年 5月).

2) 機能材料, 26(3), pp.30(2006). 3) 「早わかり 塗料と塗装技術」株式会社理工出版会(2001). 4) 機器メーカーへのヒアリング.

Page 71: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

69

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

4-6 代替物質

水性インキ 溶媒として水を主成分に使うことで、VOCの含有率を下げたインキである。

原理 軟包装グラビア印刷には、通常、溶剤系のインキが使われているが、代替として、水性イ

ンキを使って印刷する方式である。既に商用として実施している企業もある。 従来の軟包装グラビア印刷に使われている溶剤系インキには、80%程度の VOCが含まれているが、水性インキの場合は、VOCはアルコール類等が 20%程度含まれているだけであり、それ以外は水である。

装置と処理プロセス

溶剤として水が使われているので、水性グラビア印刷の場合は、インキの乾燥性が課題と

なる。この課題を解決するために、(ⅰ)版の浅版化、細線化と(ⅱ)乾燥機の能力増強が

行われている。また、水性インキとの相性を良くするために、(ⅲ)フィルムの改良も行わ

れている。 (ⅰ)版の浅版化、細線化 版の浅版化、細線化のためには、レーザー製版が使われている。浅版化、細線化の例を

下表に示す。 また、浅版化、細線化によって、インキの塗布量が減ることによる濃度不足を補うため

に、固形分(顔料)を増加したインキが使われている。

浅版化、細線化の例 インキの種類 溶剤型 水性 VOC含有率 80%程度 20%程度 線密度 175線/インチ 200~250線/インチ 版深度 20~25μm 14~20μm

(ⅱ)乾燥機の能力増強

水性インキの場合、水を乾燥させるので、乾燥機の能力増強(風量・風速増強)が必要

となる。また、防錆対策を施した設備であることが必要となる。乾燥方法は、基本的に従

来の溶剤型インキの場合と同じである。 (ⅲ)フィルムの改良 軟包装では、印刷物がプラスチックフィルムなので、水性インキの場合は、溶剤型イン

キに比べて濡れ性が低下する。現在、OPP、NY、PET、PVC 等のフィルムで、水性対応のフィルムが販売・実用化されている。水性インキとの相性を良くするために、添加剤

が加えられている。

Page 72: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

70

VOC排出抑制効果

溶剤型インキは、VOC含有率 80%程度であるが、水性インキは、VOC含有率 20%程度である。

特徴

長所

・ 溶剤系インキの場合よりも、鮮明なカラーの再現や幅広い色調の再現が可能

となる。 これらの特徴は、版が浅版化、細線化すること、および乾燥が悪いことで、

逆にインキの転写が良くなることに起因するものである。溶剤系インキの場

合は揮発しやすいのでかすれやすいのに対して、水性インキの場合は 3%という小さな網点印刷が可能である。

・ 金、銀以外の特色が不要になる(色数が減らせる)。 溶剤型インキでは、特色を使用して 6~8 色で印刷しなければ色調再現が困難であったが、水性グラビア印刷では、プロセスカラー色の 5色(スミ、シアン、マゼンタ、イエロー、白)でほぼ色調再現が可能である。 その結果、製版本数が減らせる。

・ 作業環境が良くなる。 VOCの使用量が減るため、作業現場での臭気が改善する。

短所

・ インキの乾燥性が悪いので、乾燥設備の増強等が必要である。 ・ インキの粘度・品質を保つために、印刷時およびインキの保管時に温度・湿

度管理が必要となる。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: (溶剤系インキの場合と同様である。) ◇導入コスト: (乾燥設備の増強、版の変更等が必要になる。) ◇ユーティリティ: 電力等

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。 OPP、NY、PET、PVC等のフィルムに適用可能である。

設置条件

・ 基本的に、設備は従来の溶剤型インキの場合と同様であるが、乾燥設備の増強と、防錆

対策が必要となる。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 乾燥設備の増強が必要である。 ・ インキの粘度・品質を保つために、印刷時およびインキの保管時に温度・湿度管理が必

要となる。 ・ 溶剤系インキの場合に比べて、ドクターナイフと版の摩擦係数が上がり、滑走性が悪く

なる。そのため、インキかぶり汚れや、ドクターナイフの交換頻度増加、版の再販頻度

増加が発生する可能性がある。これらの課題を解決するために、ドクターナイフおよび

版の材質の改良が行われている。 参考文献

1) 軟包装グラビア印刷業者へのヒアリング及びホームページ情報. 2) におい・かおり環境学会誌, 35(3), 139 (2004). 3) 日本印刷学会誌, 43(6), 2 (2006). 4) コンバーテック, 34(1), 74 (2006). 5) 社団法人日本印刷産業連合会「印刷産業における VOC 排出抑制自主的取組推進マニュアル」

(2006.3).

Page 73: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

71

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 4-7 代替物質

UV硬化型インキ 紫外線(UV)でインキを硬化させるタイプのインキであり、溶剤を含まないので VOC は発生しない。 原理

紫外線でインキが硬化し、乾燥するインキを使用して印刷、UVランプによってインキを瞬時に乾燥させる。UV硬化型インキは速乾性なので、最終製品までの仕上がりが早い、印

刷直後に裁断・加工でき次工程をインライン化できるなどの長所がある。 装置と処理プロセス

厚紙を使用し、スプレーパウダが望ましくない紙器、速乾性を要求するプラスチックフィ

ルムとビジネスフォーム、ラベル・ステッカー、皮膜強度を要求する金属印刷に利用されて

いる。 また、平版だけでなく凸版印刷やスクリーン印刷にも使用されている。小ロット化、短納

期化に対応するために、商業印刷分野でコート紙・上質紙の枚葉オフセット印刷にも、UV方式が採用され始めている。 また、ニス引きの替わりに、UVニスを印刷、またはコーティング方式で塗布する方法も

採用されており、用途が拡大している。 UV照射装置は印刷機にランプを組み込む方式によって、次のような種類がある。

UVランプの組み込み方式 2)

Page 74: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

72

VOC排出抑制効果

不揮発成分が高いので、VOCの揮発はほとんどない。 特徴

長所

・ セットや乾燥工程を簡素化できる。 ・ 印刷直後に裁断・加工できるので、次工程をインライン化できる。 ・ パウダーを使わないので、作業環境が良くなる。 ・ 乾燥スペースを削減でき、省エネルギーにもなる。 ・ プラスチックなどの非吸収体にも印刷できる。 ・ インキの臭気が残らない。 ・ インキ皮膜が厚く、こすれ傷が出にくい。 ・ 耐溶剤性、耐薬品性が高い。

短所

・ 粘弾性の付与が難しい。 ・ 硬化させるために照射設備が必要である。 ・ インキの値段が高い。 ・ インキが皮膚刺激性である。 ・ 硬化不足または硬化過度の場合、インキ皮膜に欠陥が出やすい。 ・ 照射波長に耐える印刷物に限定される(厚紙、厚板など)。 ・ 光沢が不十分である。 ・ 被印刷体によっては密着性が悪いことがある。 ・ 機械の掃除には特殊溶剤を使用する必要がある。

(出典:脚注の参考文献 1)、2))

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上(UV照射装置) ◇導入コスト: 百万円以上(UV照射装置、スクリーン印刷の場合)

※ライン中に組み込む場合は、さらに高額になる。 ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 専用の装置の導入が必要。設置スペースがあれば、追加設備でも対応可能である。UV装置を取り付けるためには、設備面では次の点に留意する。 ①ランプハウジングの取り付けスペースの確保 ②ランプからの熱の排熱 ③排気のオゾン臭 ④使用部品の耐熱性と耐オゾン性 ⑤UV光もれ対策

・ UV硬化型インキ化が進んでいない分野もあるので確認が必要である。 ・ インキには皮膚刺激性があり、人によっては手などにカブレが出る場合があるので、取

扱いに注意する。 参考文献

1) 「印刷インキにおける環境対策とその技術動向」色材協会誌、71(12)、784(1998) 2) オフセット印刷技術協会編・著「オフセット印刷技術-作業手順と知識-」社団法人日本印刷技術協会(2005)

Page 75: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

73

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 4-8 代替物質

水なし印刷システム

(オフセット印刷用) オフセット印刷では、インキをはじくのに湿し水を使うのが一般的であるが、これはシリコンゴ

ムでインキをはじく技術である。大型のカラー印刷など、高品質が要求される分野で導入実績が

ある。

原理

<通常の水あり印刷>

通常の水ありオフセット印刷では、湿し水と呼ばれる水を使い、水が油(インキ)をはじ

くという性質を利用して、非画線部が形成される。 画線部の形状は凸である(平凸版)。

感光層

アルミ板

湿し水

インキ

感光層

アルミ板

湿し水感光層

アルミ板

湿し水

インキ

<水なし印刷>

水なしオフセット印刷では、シリコンゴムが油をはじくという性質を利用して、シリコン

ゴムで非画線部が形成される。 画線部の形状は凹である(平凹版)。

シリコーンゴム

感光層

プライマー層

アルミ板

インキ シリコーンゴム

感光層

プライマー層

アルミ板

インキ

装置と処理プロセス

自動現像機を新規に導入する必要がある。 また原材料については、インキを水なし印刷専用インキに転換するとともに、版も専用の

Page 76: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

74

版に変える必要がある。

VOC排出抑制効果

湿し水およびエッチ液を使わないので、これらに含まれる VOC(イソプロピルアルコール等)の発生がなくなる。

特徴

長所

・ 印刷時に水を使わないので、紙のファンアウトが少なく、見当精度が良く、

品質が保たれる。 ・ 網点再現性が良く、高品質化する。 ・ 見当合わせが容易なので、準備時間が短縮できる。また損紙の発生量が減る。

特に小ロットの場合に効果的である。 ・ 圧胴などが錆びないので、洗浄作業やメンテナンスが簡略化される。 ・ 排水は通常の下水に流すことができる。

短所

・ 版(アルミ)などの材料費が高い。 ・ 工場内の温度・湿度管理、インキローラ・版面の温度管理が必要である。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上(自動現像機) ◇導入コスト: 自動現像機は 700万円程度。

それ以外に、アルミ版にコストがかかる。 ◇ユーティリティ: 電力等

◇導入状況: 中堅規模以上の企業で導入されている。

枚葉印刷、オフ輪印刷で導入されている。高品質化という点

で、大きなサイズのカラー印刷で導入されている。

またインキは紫外線硬化型も販売されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 静電気が発生しやすいので、工場内の湿度を 50%以上に保つようにする。 ・ 印刷機のインキローラ、版面の表面温度が 25~29℃になるようにインキローラ冷却装置の循環温度を調整する。

参考文献

1) 機器メーカーのパンフレットおよびヒアリング. 2) オフセット印刷技術協会編・著「オフセット印刷技術-作業手順と知識-」社団法人日本印刷技術協会

(2005).

Page 77: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

75

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 4-9 代替物質

水性系接着剤

(エマルジョン形接着剤) 微粒子化した樹脂を水で分散させたものであり、VOCは含まない。木材や紙などに優れている。 原理

接着剤は、樹脂が固化することによって接着作用が発現する。この樹脂は油性なので、溶

剤系の接着剤では溶媒に有機溶剤(VOC)が使われている。 一方、エマルジョン形接着剤は、微粒子化した樹脂の表面を、親水性のある乳化剤や保護

コロイドで取り囲むことによって、樹脂を水に分散させたものである。 エマルジョン形接着剤が成膜化するには、水の蒸発による乾燥と、樹脂が皮膜化するとい

う 2段階プロセスを経る。 エマルジョン形接着剤中には、水が 40~65%程度含まれている。

樹脂微粒子0.01~20μm

乾燥(水の蒸発)

皮膜化

樹脂微粒子0.01~20μm

乾燥(水の蒸発)

皮膜化

エマルジョンの成膜過程

エマルジョン形接着剤の成分構成

(酢酸ビニル樹脂系の場合)

成分 構成比 樹脂 乳化剤 成膜助剤、可塑剤

35~60%

水 40~65% 装置と処理プロセス

エマルジョン形接着剤では、水を蒸発させる必要がある。したがって、木質や紙などの多

孔質の材料に利用されている。被着材が多孔質材料でない場合は、予め乾燥させてから貼り

合わせるドライラミネーション方式(コンタクト接着)が行われている。 溶剤系接着剤からエマルジョン形接着剤に転換する際は、接着工程の変更、塗布機や乾燥

設備、ライン速度の調整などが必要になる。 エマルジョン形接着剤を使った代表的な接着プロセスを以下に示す。

Page 78: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

76

VOC排出抑制効果

接着剤そのものには VOCは含まれない。

特徴

長所

・ 木材や紙などの繊維素材に対して優れた接着性を示す。 ・ 室内環境であれば、長期耐久性に優れる。 ・ 乾燥皮膜が透明なので、グルーラインが目立たない。 ・ 乾燥皮膜に柔軟性があるので、切削器具を傷めない。 ・ 水性なので、器具の洗浄が容易である。

短所

・ 乾燥速度が遅いので、乾燥に多大なエネルギーや時間が必要である。 ・ プラスチック類などの表面張力の低い被着材には適さない。 ・ 被着材が吸水することによって、反りが出たり、膨れたりする。 ・ 接着物は耐水性に乏しいので、水周りでの使用や屋外環境での用途に適さな

い。 ・ 最低造膜温度3以下では、乾燥しても皮膜にならない。 ・ 低温では、増粘や凍結が起こる。 ・ 接着剤を洗浄した後の液は排水処理が必要である。

3 最低造膜温度については、例えば酢酸ビニル樹脂エマルジョン木材接着剤の場合、JIS K 6804で以下のように規定されている。

種類 1種 2種 3種 区分 通年用 夏用 冬用

最低造膜温度 2℃以下 2℃を越え、15℃以下 2℃以下

①塗布

はけ、へら、ローラー、スプレーなどで塗布する。 塗布量は、一般的に、30~250g/m2程度。

②堆積

接着剤を塗布した部材を積み重ねておく。 数分~30分程度。 堆積時間は、塗布量、不揮発分、気温、湿度により調整。

③圧締

専用の締め付け治具かプレスを使って、十分な接着強さが発

現するまで押さえ込む。 数分~数時間。

④養生

接着層周辺に残っている水分を十分乾燥させる。 半日~数日。

Page 79: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

77

技術の種類

エマルジョン形接着剤としては、酢酸ビニル系が多く使われており、他には、エチレン酢

酸ビニル(EVA)系、アクリル系、ウレタン系がある。

エマルジョン形接着剤の主なタイプと特徴・用途 タイプ 特徴 用途

酢酸ビニル系 ・多孔質材料(木質、紙)

等の被接体に良好な接着

性。 ・速乾、初期接着性良好。

・安価。

建築内装(壁、床、天井)材の接着 建築パネル 木質複合材(ツキ板、集成材等) 家具・キャビネットの組立 木質板・無機質板の化粧紙オーバーレイ 紙工用 ・段ボール、化粧箱組立 ・合紙(貼り合わせ) ・紙管、紙袋、製本

エチレン酢酸ビニル

(EVA)系 ・プラスチックコート紙、

プラスチックシート等に

良好な接着性。

建築資材 ・セメント混和 ・コンクリート打ち継ぎ剤 木質板とプラスチックシートの接着紙工用 ・プラスチックコート紙の接着 ・プラスチックフィルムと紙の接着

アクリル系 ・皮膜に柔軟性あり。 ・耐アルカリ、耐候性良好。

・軟質から硬質まで幅広く

樹脂設計ができる。

建築資材 ・セメント混和 ・コンクリート打ち継ぎ剤 容器ラミネート ウエットラミネート(フィルム/紙) ドライラミネート(フィルム/フィルム) ポリオレフィンフィルム・発泡体

ウレタン系 ・プラスチックシート等に

良好な接着性。 ・皮膜に柔軟性あり。

化粧フィルムオーバーレイ ウエットラミネート(フィルム/紙) ドライラミネート(フィルム/フィルム)

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上(排水処理設備) ◇導入コスト: 百万円程度以上(排水処理設備) ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 水を媒体として使っているので、貯蔵の際、0℃以下になると凍結するので、特に冬場は保管場所・保管温度に注意する必要がある。凍結した場合は、50℃前後の湯で加温すると元に戻る場合もある。

・ 酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの場合、通常、pH=3~5 の弱酸性である。器具や被着材の錆が問題になる場合は、pHを中性域に調整したものを使用する。

・ エマルジョン形接着剤の場合、最低造膜温度(MFT)があり、それ以下の温度では乾燥しても皮膜化しないという性質がある(酢酸ビニル樹脂系の場合、MFT=18~20℃)。そのため、気温が低くても皮膜化させるために、成膜助剤(可塑剤)が添加される。成

膜助剤には、従来、フタル酸エステル系の DBP が使われてきたが、内分泌攪乱化学物質(「環境ホルモン」)等の環境影響問題などの懸念から、近年は、非フタル酸系可塑剤

や無可塑剤技術が開発されている。 参考文献

1) 日本接着学会編「初心者のための接着技術読本」日刊工業新聞社(2004). 2) 日本接着学会編「接着剤データブック第2版」日刊工業新聞社(2001). 3) 日本接着剤工業会「VOC排出抑制ガイドライン 第二版」(2005).

Page 80: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

78

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 4-10 代替物質

水性系接着剤

(ラテックス形接着剤) 接着成分であるゴムをコロイド状に水に分散させた接着剤である。

原理

直径が 0.1~数μm程度の形状のゴムを接着成分として、コロイド状に水に分散させている。接着方式には、ウェット方式とドライ方式があり、用途によって使い分けられる。 装置と処理プロセス

ラテックス形接着剤の接着方式には、ウェット接着方式とドライ接着方式の 2種類ある。これらの接着法は用途によって使い分けられている。 溶剤系接着剤からラテックス形接着剤に転換する際は、塗布機は溶剤系と同様の物が使え

るが、接着工程の変更、乾燥設備、ライン速度の調整などが必要になる。 ラテックスの皮膜は、そのままでは強度が不足し、耐熱性・耐溶剤性なども不十分なので、

通常は、架橋が行われる。

ラテックス形接着剤の接着方式

接着方式 ウェット接着方式 ドライ接着方式 接着プロセス注)

③の工程では、ホットプレス等を用いて皮膜を

軟らかくし、密着性を高めることも効果的であ

る。

主な用途 フィルム、シートラミネーション、不燃布、

織物ラミネーション、フロック加工、繊維/

ゴム、化粧合板、フラッシュパネル、家具組

立、建築部材組立、建築内装、タイル、モル

タル混和など

[コンタクト接着]

化粧合板、ラミネーション、床工事、防水

工事、家具・建具、建築内装、ウレタンフ

ォーム接着など

[粘着]

粘着テープ、医療・電気絶縁テープ、粘着

壁紙・床材など

①塗布

被着材の片面に接着剤を塗布する。

②貼り合わせ

塗布直後に、被着材を貼り合わせ

て、固定する。

③乾燥

水を蒸発させて乾燥する。

①塗布

被着材の両面あるいは片面に接着

剤を塗布する。

②乾燥

水を蒸発させて乾燥する。

③貼り合わせ

乾燥した皮膜を貼り合わせて、数秒

間プレスする。

Page 81: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

79

VOC排出抑制効果

接着剤そのものには、VOCはほとんど含まれない。

特徴

長所

・ 火災の危険性が少ない。 ・ 溶媒の揮発速度が遅いので、作業性が良くなる。 ・ 水性なので、器具の洗浄が容易である。 ・ 接着力向上のために樹脂ポリマーの分子量を高くしても、ラテックスの粘度

は高くならない。 ・ 樹脂ポリマーの粒子径と分布をコントロールすることによって、ラテックス

の粘度を低く保ったまま、約 70%まで高濃度化できる。 短所

・ 貯蔵中や使用中にポリマーが凝集して使用できなくなる場合がある。 ・ 耐水性、耐湿性が良くない。 ・ 乾燥速度が遅い。 ・ 最低成膜温度(MFT)が存在する場合は、MFT 以下では接着性が発現しない。

・ 乳化剤の影響で、溶剤形に比べてコンタクト性が悪い。 ・ 接着剤を洗浄した後の液は排水処理が必要である。

技術の種類

ラテックス形接着剤には、天然ゴムである NRラテックスと、合成ゴムである SBRラテックス、NBRラテックス、CRラテックスなどがある。

ラテックス形接着剤の主なタイプと特徴・用途 タイプ 特徴 用途

NRラテックス (シス -1,4-ポリイソプレン)

・パラゴムノキの樹皮から分泌される乳白色の

液体が原料。 ・造膜性に富む。

・湿潤ゲル強度が高い。

紙、布、皮など 例:フリーアルバムの台紙、

封筒など

SBRラテックス (スチレンとブタジ

エンの共重合体など)

・比較的安価。 ・塗布作業性が容易。

・湿潤ゲル強度が低い。

・極性物質との接着性が弱い。

・変色する。

・耐油性、耐溶剤性に劣る。

例:紙のクレーコーティング

や含浸加工、硬質ビニルタイ

ル、カーペット、人工芝など

NBRラテックス (アクリロニトリル

とブタジエンの共重

合体)

・耐油性、耐薬品性、耐摩耗性に優れる。

・未加硫でもかなりの皮膜強度がある。加硫

によって物性が著しく向上する。

・皮革などと強い接着力がある。

・樹脂との相溶性が良い。

・皮膜が熱や光で黄変する。

金属、プラスチック類(塩化

ビニル、ナイロン、ポリエス

テル)、繊維、木材、皮革、極

性の強い被着材など 例:ガソリンタンクと燃料パ

イプのジョイントなど

CRラテックス (クロロプレン共重

合体)

・抗張力、耐クリープ性、耐熱性に優れる。 ・フェノール樹脂などと相溶性が良い。

・極性材料全般に接着できる。

・作業が容易。

・柔軟である。

・剥離強度、曲げ強度、疲労強度が大きい。

・ドライ接着用途に使われる。

・貯蔵中に脱塩酸反応を起こす傾向がある。

・皮膜が熱や光で変色しやすい。

ゴム、プラスチック、繊維、

金属、木材、皮革など

Page 82: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

80

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上(排水処理設備) ◇導入コスト: 百万円程度以上(排水処理設備) ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 水を媒体として使っているので、貯蔵の際、0℃以下になると凍結するので、特に冬場は保管場所・保管温度に注意する必要がある。一旦、凍結すると、ラテックスは元には

戻らないものがほとんどである。 ・ また水を使っているので、被着物が金属の場合は錆の発生がないように注意する必要が

ある。 ・ 機械塗布の場合は、ステンレス製の錆びない材質の機器を選定する必要がある。 ・ 接着剤をポンプで供給する場合は、通常、溶剤形で使われているプランジャポンプでは、

エマルジョンが凝集してしまい、スプレーガンが詰まりやすいので、ダイヤフラム形(ベ

ロー形ともいう)のポンプを使うことが望ましい。 参考文献

1) 日本接着学会編「初心者のための接着技術読本」日刊工業新聞社(2004). 2) 日本接着学会編「接着剤データブック第2版」日刊工業新聞社(2001). 3) 日本接着剤工業会「VOC排出抑制ガイドライン 第二版」(2005).

Page 83: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

81

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 4-11 代替物質

ホットメルト接着剤 被着材に塗布するために、溶剤を使わずに加熱溶融する方式の接着剤である。

原理

接着剤の主成分である樹脂は、高分子化合物であるので、流動しにくいという性質をもつ。

したがって、被着剤の上に接着剤を均一に塗布するためには、接着剤の粘度を下げる必要が

ある。 粘度を下げる方法としては、主に以下のようなものが挙げられる。 (ⅰ)接着剤に有機溶剤や水等を混合する(接着剤を有機溶剤や水等に溶かす)。 (ⅱ)加熱する。 (ⅲ)接着剤を構成する高分子の分子量を下げる。 溶剤系の接着剤は(ⅰ)の方法によるものであるが、ホットメルト接着剤は(ⅱ)の方法

によるものである。 装置と処理プロセス

ホットメルト接着剤を塗布する際には、接着剤を加熱して溶融し、塗布するために、ホッ

トメルトアプリケーターという専用の装置が使われる。 塗布の方法には様々あるが、例えば、以下のようなものが挙げられる。

フィルムや粉末状の接着剤に熱風、熱プレスをかける方法 棒状、ひも状にした接着剤を必要な量だけ溶かして、ハンドガンから吐出する方法 溶融タンクで予め溶かした接着剤をロールやノズルを使って機材に塗布する方法 スプレーで噴霧する方法 アプリケーター内で不活性ガスを高圧で混入し、塗布後、発泡させる方法

アプリケーターの選定は、接着剤の種類、使用量、被着剤の形態・種類、組立工程の速度

などに基づいて検討される。

ホットメルト接着剤

トレー

ロール

基材

ホットメルト接着剤

トレー

ロール

基材

ホットメルト接着剤

タンク

基材

ポンプ

ノズルホットメルト接着剤

タンク

基材

ポンプ

ノズル

ロールによる塗布 ノズルによる塗布

VOC排出抑制効果

基本的に接着剤に VOCは含まれない。

特徴

ホットメルト接着剤の種類は多数あり、それぞれ特徴が異なるが、一般的な特徴を挙げる

と以下のようになる。

Page 84: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

82

長所

・ 接着時間が短いので、生産性の向上が期待できる。 ・ 不揮発成分が少ないので、溶剤による危険や衛生上の問題が少ない。また乾

燥工程が不要である。 ・ 工程が自動化できる。

短所

・ 耐熱性、接着強さに限界がある(特に反応性ホットメルトでない場合)。 ・ 専用のアプリケーターが必要である。 ・ オープンタイム(半乾きまでの時間)が短い。 ・ 高温で使用するので、やけど等に気を付ける必要がある。 ・ 一般には手作業が無理である。

技術の種類

ホットメルト接着剤には、大別して、熱可塑性タイプと反応性タイプがある。 熱可塑性タイプは耐熱性に劣るが、反応性タイプでは耐熱性を向上させるために、樹脂分

子同士を架橋反応させている。

ホットメルト接着剤の主なタイプと特徴・用途 タイプ 種類 特徴 主な用途

EVA(エチレン

酢酸ビニル)系

・ホットメルトでもっとも一般的。

・短時間(数秒)で接着可能。

・各種素材に良好な接着性を示す。

・比較的安価。

・耐油性、耐溶剤性に劣る。

・長時間使用で炭化するので、定期メンテナンス必

要。

包装(カートン、段ボー

ル)、製本(雑誌、単行本、

電話帳)、合板、家具、緩

衝材など

オレフィン系 ・ポリエチレン、ポリプロピレンなどの非極性表面への

接着性に優れる。

・オープンタイムが長く設計できる。

・固化後は耐熱性が高い。

屋根の防水、カーペットの

バッキングなど

スチレン系

(ゴム系)

・ポリエチレンやポリプロピレンといった難接着材料

への接着性に優れる。

・熱劣化、粘度変化しやすい種類がある。

・低温でのタックや高温での保持力に限界あり。

・耐候性に乏しい。

包装用テープ、ラベル、衛

生材料、自動車用等のプ

ロダクトアセンブリーなど

ポリエステル系 ・耐溶剤性、耐洗濯性に優れる。 接着芯地、カーペットなど

熱可塑性

タイプ

ポリアミド系 ・金属材料、極性ポリマー材料などに対して、優れた

接着性を示す。

・耐薬品性、耐熱性に優れる。

・溶融温度が高く、熱安定性が良くない。

・接着時の水分管理が必要。

電気部品、自動車部品、

木工、製靴、製缶、グラビ

ア印刷インキ、繊維(レザ

ー織布、接着芯地)、被覆

鋼管など

反応性

タイプ

ウレタン系 ・熱に弱い材質にも塗布可能(使用温度 120℃)。

・貼り合わせ後に架橋するので、耐熱性、耐久性、耐

溶剤性に優れる。

・耐寒性に優れる。

・1液系のため、使用時の計量混合が不要。

・使用中の硬化防止のため、メンテナンスが重要。

・残存モノマー(MDI)の吸引・暴露に注意を要する。

建材(ドア、パーティション

など)、家具・木工(縁貼り、

システムキッチン)、家電

(電気カーペット、電気毛

布)、自動車(シート、カー

ペット、ドア内貼り)など

※ホットメルト形接着剤は、無溶剤型接着剤の 1種である。無溶剤型接着剤は VOC成分をまったく含まない接着剤のことを指し、ホットメルト形接着剤のような固形タイプと、液状

タイプがある。液状タイプには、エポキシ樹脂系、シアノアクリレート系、ウレタン樹脂系、

アクリル樹脂系(SGA系、嫌気性、UV硬化系等)、変成シリコーン樹脂系などがある。

Page 85: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

83

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上 ◇導入コスト: 数百万円以上 ◇ユーティリティ: 電力

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 最適な濡れを確保できるように、適正な温度(一般的に 160~200℃)で溶融・塗布する必要がある。また人体へは火傷に注意する必要がある。

・ 高速度で塗布・圧着が行われるので、わずかな機械、温度、環境の調整ミスがトラブル

につながるので注意する。 ・ 被着材が感熱性の場合、変形や溶融を起こす可能性がある。また塗装やコート材で包装

材が表面加工されている場合は、接着不良を生じる可能性がある。 参考文献

1) 日本接着学会編「初心者のための接着技術読本」日刊工業新聞社(2004). 2) 日本接着学会編「接着剤データブック第2版」日刊工業新聞社(2001). 3) メーカーへのヒアリング.

Page 86: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

84

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 4-12 代替物質

水系洗浄剤 溶剤の代わりにアルカリ性や中性などの水系洗浄剤を使って汚れを落とす洗浄方法である。

原理

水系洗浄剤には界面活性剤が含まれ、この界面活性剤が油汚れの除去に重要な役割をする。 界面活性剤の分子は、油に溶けやすい親油性の部分(親油基)と水に溶けやすい親水性の

部分(親水基)を併せもつ構造になっている。 界面活性剤が溶けた水溶液中に、油性の汚れが付着したワークが入れられると、まず油性

の汚れの表面に界面活性剤の親油基が吸着する。吸着した界面活性剤の作用によって、汚れ

が浮き上がる。さらに汚れとワーク表面の間に界面活性剤が浸透し、汚れがワーク表面から

分離・分散する。

油性の汚れ

汚れの分離・分散

界面活性剤分子

界面活性剤分子の吸着

ワーク表面

← 親油基

← 親水基

油性の汚れ

汚れの分離・分散

界面活性剤分子

界面活性剤分子の吸着

ワーク表面

← 親油基

← 親水基

洗浄剤の化学的作用だけでは洗浄効果が不十分な場合は、超音波、スプレーなどの物理的

作用も併用される。

作用 効果

界面活性能 分散、乳化、可溶化

アルカリ効果 ビルダー効果注)

洗浄剤

化学反応 酸化、還元、ケン化

化学的作用

溶媒 溶解、浸透

物理的作用 超音波、スプレー、ブラッシング、浸漬 注)ビルダー効果とは、炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、硫酸ソーダ、有機酸などのビルダーを界面活性剤と併用する

ことによって、洗浄力が向上することである。

装置と処理プロセス

水系洗浄の装置は、洗浄、すすぎ、乾燥、付帯設備で構成されることが多い。 洗浄剤の種類、すすぎ工程での水の純度、乾燥工程および付帯する機能などに関しては、

具体的方法・付帯設備は多種多様である。

Page 87: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

85

すすぎに使った水の排水は、排水不可の場合が大半であるので、排水処理装置や純水リサ

イクル装置などを設置する必要がある。 処理可能なVOC

塩素系等の有機溶剤に比べて洗浄力が弱いので、導入に際しては、洗浄性能のチェックが

必要となる。

VOC排出抑制効果

基本的に VOCの排出はない。

特徴

長所

・ 洗浄剤・洗浄液が不燃性である。 ・ 毒性が少ない。 ・ 樹脂類に影響を与えない場合が多い。 ・ 洗浄剤を水で 10~20倍に希釈するので、洗浄剤コストが比較的安価である。・ 固形物汚れも除去可能である。

短所

・ 塩素系溶剤に比べて洗浄力が弱い。そのために、シャワー、スプレー、超音

波、液中噴流、揺動を併用する。 ・ 洗浄、リンス工程で細かい孔に浸透しない。 ・ 防錆剤の添加、防錆剤槽の設置など、金属に対する防錆対策が必要である(ア

ルカリ性洗浄剤は防錆力を持つものが多い)。 ・ 洗浄剤の再生ができない。 ・ 乾燥が遅い。そのため、真空乾燥、エアナイフ、遠心分離、パーフルオロカ

ーボン乾燥(置換、蒸留)等を利用する。 ・ 排水処理(BOD、COD、n-ヘキサン抽出分)が必要である。 ・ 新設洗浄設備、排水処理設備が必要(投資が多い)。 ・ 工程数が多くなり設置スペースを要する。

技術の種類

水系洗浄剤には、アルカリタイプ、中性タイプ、酸性タイプがある。 洗浄剤の

種類

汚れ 主な用途 特徴 洗浄メカニズム

アルカリ性 切削油、圧延

油、加工油、

研磨粉、切削

鋼板、伸線、金属部品、ガラス ①安価

②粒子汚れの除去性がよい

③金属を腐食しやすい

④安全性に課題がある

アルカリ効果(中

和、ケン化)、キ

レート効果

中性 加工油、切削

油、ピッチ、ワ

ックス、液晶

精密部品、アルミ部品、光学レン

ズ、液晶パネル

※エマルジョン洗浄剤は、従来

溶剤系洗浄が使われていた分野

での使用が検討されている。

①油性汚れに適している

②金属を腐食しにくい

③安全で取扱が容易

界面活性能(乳

化、分散、可溶

化)

酸性 錆、スケール 配管、熱交換器 ①特殊な汚れを除去できる

②金属を腐食する

③安全性に課題がある

化学反応の効果

(分解、溶解)

出典:日本産業洗浄協議会編著「よくわかる洗浄のすべて」日刊工業新聞社(1999).

Page 88: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

86

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上 溶剤系の洗浄装置の場合に比べてリンス工程、乾燥工程の増

強が必要な場合が多く、また防錆対策、排水処理対策も必要

となる。その分、設置スペースが必要となる。 ◇導入コスト: 1千万円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力、水

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ 排水処理対策が必要となる。 ・ 鉄系などのように錆びやすい材料を用いた装置の場合は、防錆対策が必要である。 参考文献

1) 日本産業洗浄協議会ホームページ. 2) 日本産業洗浄協議会編著「よくわかる洗浄のすべて」日刊工業新聞社(1999). 3) 日本産業洗浄協議会編「洗浄剤・洗浄装置活用ノート」工業調査会(2004). 4) 「洗浄技術」用語辞典」日刊工業新聞社(2002). 5) 「工業洗浄の技術」地人書館(1996). 6) 日本産業洗浄協議会編「はじめての洗浄技術」工業調査会(2005).

Page 89: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

87

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油 4-13 代替物質

水洗い(ウェットクリーニング) 水溶性の界面活性剤を使って汚れを落とすクリーニング方法である。

原理

「ウェットクリーニング」とは、表示マークがドライ指定の商品でも、水洗いができない

かを検討し、水洗いによって汚れを落とすクリーニング方法である。 装置と処理プロセス

水洗いを実施する場合、機械力の弱いクリーニングを行う必要がある。 そのための方法としては、例えば、 ・手洗いする ・家庭用洗濯機を使う ・ランドリーの回転数を減らす などがある。 本洗浄工程の負担を少なくするために、汚れのひどい部分だけを洗液でブラシ掛けするこ

とも行われている。場合によっては、繊維を損傷しないように、手洗いや手絞りが行われる

こともある。 洗剤は、ウェットクリーニング専用の洗剤が使用される。

VOC排出抑制効果

基本的に VOCの排出はない。 特徴

長所

・ ドライでは落ちにくい水性の汚れや汗じみ等が落とせる。特に夏物の汗によ

る汚れを洗い落とすには、水洗いは適している。 ・ 衣類が色出しにくい、収縮しにくい、皺になりにくい。

短所

・ ハンドアイロンによる仕上げの手間がかかるので、生産性が落ちる。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 数m2以上 ◇導入コスト: 本体 500万円程度(業務用 25kgの場合)

本体 600万円程度(業務用 40kgの場合) ◇ユーティリティ: 電力、水

◇導入状況: 中小規模以上の企業で導入されている。 特に、化学繊維物は水洗いに変更しやすいケースが多い。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ ドライクリーニングとは異なった水洗い及び仕上げの技術が必要になる。

Page 90: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

88

・ 耐水性の弱い繊維では、水との接触時間をなるべく短くしなければならない場合もある。 ・ 物理的強度の弱い繊維に対しては、予備洗浄として、洗液に一定時間浸漬しておいて、

汚れの膨潤や解膠を促して、機械的な力を節約することも可能であるが、一方で、これ

によって繊維が脆化したり、染料が流れ出すおそれがあるので注意が必要である。 参考文献

1) 「工業洗浄の技術」株式会社地人書館(1996). 2) 機器メーカー等へのヒアリング.

Page 91: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

89

塗装(屋内)、塗装(屋外)、印刷、接着、洗浄、ドライクリーニング、給油

5-1 その他

回転霧化静電塗装機 スプレーガン先端のノズルが回転する遠心力で塗料を噴霧し、塗りパターンと塗りムラを向上

させることで、塗料の使用量が削減できる技術である。

原理

エアガンの先端がエアの力で回転するよう

になっており、塗料はエアと共に回転し、遠心

力で微粒化する。 回転数は 6万回転/分程度である。

(写真の出典:機器メーカーの webサイトより)

装置と処理プロセス

通常のエアスプレーガンでは、被塗物のコーナー部を塗る際に、塗り合わせで色合いが変

わるのを防ぐために切り返しが行われている。 それに対して、回転霧化塗装機では、パターン形状が円形なので、切り返しをしないで、

一筆で塗ることができる。その分、オーバースプレーが削減できる。

エアスプレー(楕円パターン) 回転霧化(丸形パターン)

(出典:機器メーカーの webサイトより) また、塗りムラについては、従来の楕円パターンのエアスプレーガンでは、塗りムラを消

すために、何度も塗り重ねたり、ワーク形状に合わせた複雑なガンプレーで膜厚の均一化が

図られている。 それに対して、回転霧化塗装機では、生成粒子の径が均一なので、塗り肌のムラが出にく

い。そのため、塗り重ねの回数が少なく、塗料の使用量が少なくて済むという特徴がある。 塗料使用量(ミリリットル/分)

0

50

100

150

200

250

エアスプレー 回転霧化静電

サイクルタイム(秒)

0

20

40

60

80

エアスプレー 回転霧化静電

教示時間(分)

0

20

40

60

80

100

120

エアスプレー 回転霧化静電

エアスプレーと回転霧化静電の比較 (出典:機器メーカーの webサイトより) ※ワークの形状によっては、上記のような特性が出ない場合がある。

Page 92: 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策に関する …...1 1.目的 (1) 本調査の背景 浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出抑

90

VOC排出抑制効果

塗料の使用量を最大 30%程度削減できる。

特徴

長所

・ 塗料使用量、サイクルタイムが削減できる。 ・ ロボットの教示時間も削減できる。

短所

・ 導電性のため、メタリックでは適用できない場合もある。

設置条件と導入状況

◇装置サイズ: 本体サイズ(あるメーカーの例) ・荷電タイプ 465 mm ・非荷電タイプ 230 mm

◇導入コスト: 本体 300万円程度以上 ◇ユーティリティ: 電力、エア

◇導入状況: 中堅規模以上の企業で導入されている。

金属塗装全般に適用可能である。樹脂塗装に使われる場合も

ある。 静電塗装で使われることが多い。導電性の影響で、メタリッ

クでは適用できない場合もある。

取扱上の留意事項・メンテナンス

・ ある程度の塗装規模がないと、投資効果が出にくい。 参考文献

1) 機機器メーカーのパンフレット、ホームページ情報および提供情報. 2) 工業塗装, No.204, pp.15(2007).