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平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ 論文題目 転写因子ALL1HSF-1 をターゲットとした阻害剤の 探索 Search of inhibitors for transcription factor ALL1 and HSF-1 薬品製造学研究室 6 年 07P242 本間 繭鼓 (指導教員: 浅田 真一)

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  • 平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ

    論文題目

    転写因子ALL1、HSF-1 をターゲットとした阻害剤の

    探索

    Search of inhibitors for transcription factor ALL1 and HSF-1

    薬品製造学研究室 6 年

    07P242 本間 繭鼓

    (指導教員: 浅田 真一)

  • 要 旨

    基本転写因子はDNA 結合領域と転写活性化領域からなり、転写の引き金となるタンパク質である。DNA 結合領域は転写される標的遺伝子の上流に存在するプロモーター領域と結合し、転写活性化領域は転写調節因子を介してRNA ポリメラーゼ複合体と結合することで転写が活性化される。基本転写因子には、転写活性化領

    域中のα-ヘリックス構造の核となるΦXXΦΦ モチーフを介して転写調節因子と相互作用するものが知られている。このモチーフ配列が転写活性化領域中に存在する

    ことが明らかになっている基本転写因子として、急性リンパ芽球性白血病の転写に

    関与しているALL1 や、変性タンパク質の分子応答において重要な役割を果たしていることが知られているHSF-1 がある。しかし、これらのα-へリックス領域とそれぞれ特異的に相互作用する転写調節因子は明らかになっていない。本研究では、

    核内で相互作用してこれらの活性化の調節に働く核内転写調節因子を探索し、これ

    ら基本転写因子の核内活性化調節メカニズムを明らかにすることで、これらの転写

    因子を原因因子とする疾患を対象とした創薬に繋げることを最終目標としている。 本研究ではプルダウンアッセイによりこれらの転写因子が持つ α-へリックス領

    域と特異的に相互作用するタンパク質を探索するために、ALL1、HSF-1 やコントロールとして用いる ESX とリンカーとして用いる Polyproline Rod からなる融合プローブの合成と、Western Blotting を用いて核抽出液の分画方法の検討を行ったが、融合プローブを合成できず、細胞質と核の分離も上手くいかなかった。今

    後は核抽出液の取得と融合ペプチドの作成方法を検討し直し、プルダウンアッセイに繋

    げ核内転写調節因子を探索する。そして、ALL1、HSF-1 の核内活性化調節メカニズムを明らかにすることで、これらの基本転写因子をターゲットとする阻害剤の開発や、がん、

    関節リウマチ、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、眼科疾患などの局所的疾患への幅広

    い応用が可能となり、新しい治療薬が開発されることが期待される。

  • キーワード

    1.基本転写因子 2.ALL1 3. HSF-1

    4.Polyproline Rod 5.ESX 6.ΦXXΦΦ 7.α-ヘリックス領域 8.融合プローブ 9.アセチル化

    10.ジスルフィド架橋 11.CCRF-HSB2 12.急性リンパ芽球性白血病

    13.細胞培養 14.細胞分画 15.SDS-PAGE

    16.Western Blotting 17.Actin 抗体 18.核抽出液

    19.MALDI-TOF-MS 20.プルダウンアッセイ

  • 目 次

    1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

    2.実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

    2-1.試薬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

    2-2.細胞培養 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

    2-3.細胞分画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

    2-4.Western Blotting ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

    2-4-1.SDS-PAGE ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

    2-4-2.メンブレンへの転写 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

    2-4-3.分子量マーカーの染色・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

    2-4-4.ブロッキング ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

    2-4-5.抗体反応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

    2-4-6.発色 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

  • 2-5.融合プローブの合成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

    2-5-1.合成ペプチドのアセチル化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

    2-5-2.Polyproline Rod と合成ペプチドのジスルフィド架橋・・・・・・・ 6

    2-5-3.融合プローブの精製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

    3.結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

    3-1.Western Blotting による核、細胞質分離の確認・・・・・・・・・ 7

    3-2.ジスルフィド架橋による融合プローブの合成 ・・・・・・・・ 9

    3-3.ALL1 と Polyproline Rod のジスルフィド架橋・・・・・・・・・ 10

    3-4.HSF-1 と Polyproline Rod のジスルフィド架橋・・・・・・・・・ 11

    4.考察・おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

    謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

    引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

  • 略語表

    ALL1 :Acute Lymphocytic Leukemia or Acute Lymphoblastic Leukemia HSF-1 :Heat Shock Factor-1 CHCA :α-Cyano-4-hydroxycinnamic acid HPLC :High performance liquid chromatography

    MALDI-TOF-MS:

    Matrix-assisted laser desorption / ionization-time of flight-mass spectrometry Npys :3-Nitro-2-pyridinesulfenyl SDS-PAGE:Sodiumu Dodecyl Sulfate PolyAchrylamide Gel Electrophoresis

    試薬

    Ac2O :Acetic Anhydride BSA :Bovine Serum Albumin BPB :Bromophenol Blue CBB :Coomassie Brilliant Blue DMF:N,N-Dimethylformamide dimethyl acetal FBS :Fetal Bovine Serum PBS :Phosphate buffered saline SDS :Sodium Dodecyl Sulfate SLB :Sample Loading Buffer TBS-T :Tris-Buffered-Saline with Tween TBS :Tris-Buffered-Saline TEA :Triethylamine TFA :Trifluoroacetic acid Tris :Tris (hydroxymethyl) aminomethane

  • 1

    論 文

    1. はじめに

    基本転写因子は DNA 結合領域と転写活性化領域からなり、転写の引き金となる

    タンパク質である。DNA 結合領域は転写される標的遺伝子の上流に存在するプロモーター領域と結合する。また、転写活性化領域は転写調節因子と特異的に相互作

    用することが知られ、転写調節因子を介して RNA ポリメラーゼ複合体と結合することで転写が活性化される。基本転写因子には、Heat Shock Factor-1 (HSF-1)やAcute Lymphocytic Leukemia or Acute Lymphoblastic Leukemia (ALL1)などが存在する。HSF-1 は、熱ストレスを始めとするストレス応答に関与し、変性タンパク質を感知して Heat Shock Protein (HSP) の発現を調節している転写因子である 1。細胞は、熱 (約 42℃) をかけることにより、細胞内のタンパク質に変性が起こり、変性したタンパク質とHSPが結合する。HSPがHSF-1から解離し、HSF-1が単量体から三量体を形成することで、HSF-1 が核へ移行し、転写が活性化される 2。また、ALL1 (HRX、MLL とも呼ばれる) は急性リンパ芽球性白血病の発症に関与する転写因子で 3-5、急性リンパ芽球性白血病において、ELL や AF9 などと融合遺伝子を形成し、その転写活性が悪性形質転換に大きく寄与する転写因子であ

    る 6。 これらの基本転写因子の転写活性領域に存在する α-ヘリックス構造中には

    ΦXXΦΦモチーフ (Φは疎水性アミノ酸、X は任意のアミノ酸) があり、それを介して転写調節因子と相互作用する。HSF-1、ALL1 以外の基本転写因子として、ESX、Nuclear factor-κB (NF-κB ) などが報告されている 7。しかし、これらの α-ヘリックス領域とそれぞれ特異的に相互作用する転写調節因子は明らかになっていない。

  • 2

    Fig. 1 プルダウンアッセイによる核内転写調節因子の探索 (Ref.8 引用)

    合成ペプチドがタンパク質と結合する様子。リンカーと

    して Polyproline Rod を合成ペプチドに結合させた場合 (A) と Polyproline Rod を結合させていない場合(B) とでは、Polyproline Rod が結合したほうがターゲットタンパク質と結合しやすい。

    そこで、本研究では詳細

    に解析されていない

    ΦXXΦΦモチーフをもつALL1、HSF-1 と核内で特異的に相互作用し、これら

    の活性化の調節に働く核

    内転写調節因子をプルダ

    ウンアッセイによって探

    索することで (Fig.1)、基本転写因子の核内におけ

    る活性化調節のメカニズ

    ムを明らかにするとともに、これらの転写因子をターゲットとする阻害剤を探索す

    ることを目標とした。しかし、プルダウンアッセイを行う際に、アガロースビーズ

    は非常に大きな分子であるためΦXXΦΦモチーフをもつ ALL1、HSF-1 と相互作用するタンパク質が立体障害によって検出されにくくなることが考えられる。そこ

    でリンカーとして Polyproline Rod を使用し、合成ぺプチド (Fig.2)と結合させることでこの問題を回避させようと考えた。Polyproline Rod は proline がペプチド結合で複数個つながった polyproline 鎖を持ち、長さ 27Åの直鎖状の polyproline II へリックスと呼ばれる細長い構造をとることから、ΦXXΦΦモチーフをもつALL1、HSF-1 をアガロースビーズから「突出」させることができ、相互作用部位がタンパク質の奥深い所にあった場合でも、タンパク質との相互作用をより効率的

    に行うことが可能となる 8。 なお、Uesugi らによって、Polyproline Rod を用いた探索法による Indomethacin

    の新しい標的となり得る glyoxalase-1 (GLO-1) の単離が可能であることが報告されている 9。

  • 3

    2. 実験

    2-1. 試薬

    合成ペプチドのアセチル化、精製時に使用した試薬類は SIGMA‐ALDRICH (東京)、渡辺化学 (広島) より購入した。特に記載されていないものは Wako Pure Chemical (大阪)より購入した。

    2-2. 細胞培養

    HSF-1、ALL1 の活性に関与する急性リンパ芽球性白血病細胞 CCRF-HSB2 10

    ( ヒューマンサイエンス振興財団 研究資源バンク (大阪)より入手) は、10% fetal

    Fig. 2 合成ペプチドの配列 ALL1、HSF-1、Polyproline Rod のほかにコントロールとして用いる ALL-1・

    HSF-1 の Ala 置換体、ESX を合成した 8。オレンジで囲ったところは ΦXXΦΦ モチーフ配列を示す。赤字は Ala に置換した部分。ΦXXΦΦモチーフの N 末端及び C末端の疎水性アミノ酸 (Φ)を Ala に置換することで、α-ヘリックスをとれなくなり転写調節因子と相互作用を示さない。水色で示した Cys は各ペプチドと PolyprolineRod をジスルフィド架橋させる部分である。

  • 4

    bovine serum (FBS:biowest,Lot S05495) を含む RPMI1640 培地 (300 mg/L L-Gln (+):ナカライテスク (京都)) にペニシリン (10 µg/mL) -ストレプトマイシン (10 mg/mL) を用い、5%CO2、37 ℃で培養を行った。

    2-3. 細胞分画

    以下の操作については、特に記載のない限り、4 ℃で行った。1000×104 個のCCRF-HSB2 細胞を Phosphate buffered saline (PBS) 40 mL で洗浄し、Buffer A (10 mmol/L HSPES (pH 7.4)、 1.5 mmol/L MgCl2、10 mmol/L NaCl) 1 mL を加え懸濁した。懸濁後、Downce 型ホモジナイザー (WHEATON, Lot 357544) に入れて約 40 ストロークですりつぶし、遠心分離 (8,000rpm、15 min (TOMY MRX-150)) して、上清 (細胞質)と沈殿物 (核)に分け、上清を細胞抽出液とした。また、沈殿物に上清と同量の Lysis (1% Np-40) を加えて懸濁し、核画分とした。

    2‐4. Western Blotting

    2‐4‐1. Sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis (SDS-PAGE)

    電気泳動によるタンパク質の分離は Laemmli の方法に従い、10%アクリルアミドゲル

    を用いて行った 11。各レーンに Sample Loading Buffer (SLB:1 mol/L Tris (hydroxymethyl) aminomethane (Tris-HCl:(pH 6.7))、0.35 mol/L Sodium Dodecyl Sulfate (SDS)、6.8 mol/L Glycerol、0.15 mol/L Bromophenol Blue (BPB)) と 1:1 で調製したサンプルを 10 μL ずつ注入し泳動した。また、分子量マーカーとして APRO-Marker (Unstained) : (日本ジェネティクス (東京)) を 10 μL 同時に泳動した。なお、核画分は粘性が高いため超音波破砕機を用いて (OUT PUT、2.5×2 sec) 粘性を下げてから注入した。

  • 5

    2‐4‐2. メンブレンへの転写

    泳動終了後、メンブレン (HybondTM-P : GE ヘルスケアバイオサイエンス (東京))

    に 200 mA、5 V で 1 hr 転写した。

    2‐4‐3. 分子量マーカーの染色

    転写終了後、転写された分子量マーカー部位を切り出し、 Coomassie Brilliant

    Blue (CBB :0.3 mmol/L CBB (R-250)、50%MeOH、10% AcOH) に 30 min 振とうしながら染色し、50% MeOH、5% AcOH で脱色した。

    2‐4‐4.ブロッキング

    2.5% Bovine Serum Albumin (BSA)、2.5%スキムミルク/PBS を Blocking Buffer

    として用い、転写後のメンブレンを浸して 1 hr 振とうさせた。

    2‐4‐5. 抗体反応

    1 次抗体に actin (l-19) (SANTA CRUZ BIOTHECNOLOGY (U.S.A))、2 次抗体

    に donkey anti-goat IgG –HRP (BIO-RAD (U.S.A)) を用いて、1:200 (抗体 : Blocking Buffer) に調製した。1 次抗体は 1 hr、2 次抗体は 30 min 振とうさせ、1 次抗体反応後は Tris-Buffered-Saline with Tween (TBS-T:20 mmol/L Tris-Cl (pH 8)、 150 mmol/L NaCl、0.005% Tween-20) で 3 回 wash を行い、2 次抗体反応後は1 次抗体の時と同様に TBS-T で 3 回 wash を行った後、Tween を取り除くためにTris-Buffered-Saline (TBS:20 mmol/L Tris-Cl (pH7.5)、150 mmol/L NaCl) で 1回 wash した (10min)。

  • 6

    2‐4‐6. 発色 発色液は AmershamTM ECL Plus Western Blotting Detection System (GE ヘル

    スケアバイオサイエンス (東京)) を使用した。Solution A (4mL) に Solution B (100 μL) を加えメンブレンに浸し、化学発光検出した。

    2-5. 融合ペプチドの合成 2-5-1. 合成ペプチドのアセチル化

    HSF-1、ALL1、HSF-1・ALL1 の Ala 置換体、ESX をそれぞれ 2.0 mg 量りと

    り、Triethylamine (TEA) 175 μL、N,N-Dimethylformamide dimethyl acetal (DMF) 3.75 mL、Acetic Anhydride (Ac2O) 118 μL を加え室温で混和した (30min)。混和後、冷エーテル 20 mL が入っているチューブに滴下して遠心分離 (4℃、3,500rpm、10 min (TOMY EX-125)) した。遠心後、上清を捨てデシケーターで真空乾燥し(10 min)、4℃で保存した。 2-5-2. Polyproline Rod と ALL1、HSF-1 のジスルフィド架橋

    アセチル化した ALL1、HSF-1 を用いて、Polyproline Rod とジスルフィド架橋させた。ペプチド 2 mg に対し、1.5 当量の Polyproline Rod を用いた。ALL1 は Tris-HCl (pH8) 375 μL で、HSF-1 は H2O 375 μL で溶解し、Polyproline Rod に加え、混和した (12 hr)。 2-5-3.融合プローブの精製

    Polyproline Rod に ALL1、HSF-1 がそれぞれ結合した融合プローブを逆相 High performance liquid chromatography (HPLC) を用いて精製を行った。分取用カラムに COSMOSIL 5C18 AR-Ⅱ (4.6×250 mm)を用いて、溶媒流出速度を 1 ml/min に設定した。移動相に 0.05 (v/v)% TFA/H2O と 0.05 (v/v)% TFA/acetonitrile を使用し、0.05 (v/v)% TFA/acetonitrile の初期濃度を 20%、30 min 後の濃度を 50%になるよう

  • 7

    Fig. 3 Western Blotting の条件 sup は上清、ppt はペレットを示し

    ている。 2.5 % BSA を Blocking Buffer として用いた。1 次抗体にactin (l-19)、2 次抗体に donkey anti-goat IgG –HRP を用いて反応させた。 発色液に AmershamTM ECL Plus Western Blotting Detection System を用いて化学発光を検出した。

    に設定し、分取を行った。精製し終えたペプチド溶液は凍結乾燥させ、Matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight-mass spectrometry (MALDI-TOF-MS :Autoflex Ⅲ (Brucker Daltonics (Germany)) で同定した。 3.結果

    3-1. Western Blotting による核、細胞質分離の確認

    培養した細胞から細胞核抽出液を得るために、細胞分画により上清と沈殿物に分け、

    Western Blotting で actin を指標として核と細胞質が分離できているか確認した。Blocking Buffer は 2.5%BSA を、1 次抗体は actin (l-19)、2 次抗体は donkey anti-goat IgG –HRP を使用した。実験の結果から、メンブレンのバックグラウンドが高いことがわかった (Fig. 3)。これより、TBS と TBS-T での wash が甘かった、二次抗体が古い、ブロッキングが上手くいかなかったことが考えられたため、Blocking Bufferや二次抗体を変えて再び実験を行った。また、actin が沈殿物と上清両方に見られたので、細胞分画時にストローク数を増やしてホモジナイズした。

  • 8

    Fig. 4 Western Blotting の条件 sup は上清、ppt はペレットを示し

    て い る 。 2.5 % ス キ ム ミ ル ク をBlocking Buffer として用いた。1 次抗体に actin (l-19)、 2 次抗体にdonkey anti-goat IgG –HRP を用いて反応させた。 発色液に AmershamTM ECL Plus Western Blotting Detection Systemを用いて化学発光を検出した。

    Blocking Buffer を 2.5%スキムミルクに、2 次抗体を 4℃で保存してあるものから

    -84℃で保存してあるものに変更した。前回は wash 時間を 5 分としたが今回は 10 分にした。また、分画時の細胞を潰す作業を 20 ストロークから 40 ストロークに変更して実験を行った。結果から沈殿物と上清の両バンドに actin が存在することが分かり、細胞質と核が分離していないことが分かった (Fig.4)。

  • 9

    3-2. ジスルフィド架橋による融合プローブの合成

    プルダウンアッセイに用いるアガロースビーズ CNBr-activated Sepharose 4B は非常に大きい分子であるために ALL1、HSF-1 と相互作用するタンパク質が立体障害によって検出されにくくなることが考えられる。そこで、Polyproline Rodをリンカーとして用いて ALL1、HSF-1 と融合プローブを合成することを検討した。また ALL1、HSF-1 と Polyproline Rod 両ペプチドに含まれる Cys 残基の SH基でジスルフィド架橋させることにした。 ジスルフィド架橋させる前に、まず、精製した ALL1、HSF-1 の Arg 残基、Lys

    残基にあるアミノ基と N 末端の Acetyl 化を行った。これは、CNBr-activated Sepharose 4B がリガンドとなるタンパク質やペプチドなどの構造内の一級アミノ基または類似の求核性官能基を介してカップリング反応を行うことに起因する。こ

    のため、ALL1、HSF-1 の Arg 残基、Lys 残基の NH2基と N 末端および Polyproline Rod の N 末端のアミノ基を介した反応を防ぐ方法としてアミノ基の Acetyl 化を行った。

    Fig. 5 融合プローブの合成 A : HSF-1 と Polyproline Rod の融合プローブ B : ALL1 と Polyproline Rod の融合プローブ Cys 残基間でジスルフィド架橋させることで融合プローブを形成する。

  • 10

    Fig. 6 HPLC による Polyproline Rod と ALL1 をジスルフィド架橋したペプチドの分析条件 分析用カラム、COSMOSIL 5C18AR-Ⅱ (4.6 × 250 mm)。流出速度、1ml/min。分析温度、42℃。検出波長、220 nm。移動相、0.05 (v/v)% TFA/H2Oと0.05 (v/v)% TFA/acetonitrile。0.05(v/v)% TFA/acetonitrile の初期濃度を20%、30 min 後の濃度を50%になるように分析した。

    3-3. ALL1 と Polyproline Rod のジスルフィド架橋

    ALL1 をアセチル化した後で Polyproline Rod とのジスルフィド架橋を行った。架橋させる際に、ALL1 を DMF や MeOH、H2O で溶解を試みたが不溶であった。そこで Tris-HCl (pH8.0) を用いたところ溶解できた。 分析結果から peak1 か peak2 が目的物であると考え、MALDI-TOF-MS を行な

    ったところ、peak1 は Polyproline Rod についていた保護基である Npys 基が外れているアセチル化されたPolyploline Rod の質量値が、peak2はサンプルがのらなかったのかマトリックスの値が検出された(Fig.6)。

    Table 1 MALDI-TOF-MS の結果 (Matrix に α-Cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA)を用い、Positive mode により分析した)

    Peptide Calc. Found

    Polyproline Rod +

    ALL1

    [M]+

    [M-ALL1]+4769.798 2232.663

    2232.000 [M-ALL1]

  • 11

    peak2

    peak1

    Fig. 7 HPLC による PolyprolineRod と HSF-1 をジスルフィド架橋させたペプチドの分析条件 分析用カラム、COSMOSIL 5C18AR-Ⅱ (4.6 × 250 mm)。流出速度、1ml/min。分析温度、42℃。検出波長、220 nm。移動相、0.05 (v/v)% TFA/H2Oと0.05 (v/v)% TFA/acetonitrile。0.05 (v/v)% TFA/acetonitrile の初期濃度を20%、30 min 後の濃度を50%になるように分析した。

    3-4. HSF-1 と Polyproline Rod のジスルフィド架橋

    ALL1 と同様にアセチル化した後で Polyploline Rod とのジスルフィド架橋を行った。HSF-1 は ALL1 と異なり、H2O で容易に溶解した。

    分析結果から peak1 か peak2 が目的物であると考え、MALDI-TOF-MS を行なったところ、peak1 は Npys 基が外れてアセチル化された Polyploline Rod の質量値が、peak2 は Npys 基が外れ、二量体化した Polyploline Rod の質量値が検出された (Fig. 7)。

    Table 2 MALDI-TOF-MS の結果 (Matrix に CHCA を用い、Positive mode により分析した)

    Peptide Calc. Found

    Polyproline Rod +

    HSF-1

    [M]+

    [M-HSF-1]+4769.798 2232.663

    2232.326 [M-HSF-1]+

    4407.983

  • 12

    4.考察・おわりに

    本研究で行なった核と細胞質の分離と合成ペプチドと Polyproline Rod のジスルフィ

    ド架橋について実験が上手くいかなかった理由を考察した。 Western Blotting では細胞質と核に分離することはできなかった。この結果から、まずホモジナイズのストローク回数が少なかった、核と細胞質を分ける際に上手く細胞質を

    取り除くことができていなかったなど分画時の手技に問題があるのではないかと考えられ

    た。また、抗体を Actin 抗体から抗核抗体であるヒストン抗体に変更して Western Blotting を行うことで、核と細胞質の分離を確認できるのではないかと考えた。 ALL1、HSF-1 と Polyproline Rod のジスルフィド架橋については、ALL1、HSF-1共に Polyproline Rod と架橋したものは確認できず、HSF-1 においては Polyproline Rod 同士が結合し二量体化したものが確認された。この結果から、使用した Polyproline Rod の量に対して使用した合成ペプチドの量が少なすぎたため Polyproline Rod と架橋されず、Polyproline Rod 同士で架橋が起こってしまったのではないかと考えた。また、ジスルフィド架橋させるための過程で 12 時間の空気酸化があったが、今回は 12 時間では足りなかったのではないかと考えた。これらのことから、使用する合成ペプチドの量と空

    気酸化の時間について検討する必要がある。 今回の研究結果を踏まえ、核抽出液の取得と融合ペプチドの作成方法を検討し直し、

    プルダウンアッセイに繋げ核内転写調節因子を探索する。そして、ALL1、HSF-1 の核内活性化調節メカニズムを明らかにすることで、これらの転写因子をターゲットとする阻害

    剤の開発や、がん、関節リウマチ、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、眼科疾患などの局

    所的疾患への幅広い応用が可能となり、新しい治療薬が開発されることが期待される。

  • 13

    謝 辞

    本研究の終わりに、随時有益なご助言とご指導頂きました新潟薬科大学薬学

    部薬品製造学研究室 北川 幸己 教授に心から感謝致します。

    本研究を進めるにあたり、直接のご指導とご鞭撻を賜りました新潟薬科大学

    薬学部薬品製造学研究室 浅田 真一 助教に深く感謝致します。

    本研究を進めるにあたり、合成ペプチドの分取精製にご協力頂いた新潟薬科大学

    薬品製造学研究室卒業生 久間田 佳彦 氏に感謝致します。

    本研究を進めるにあたり、実験協力をして頂いた、新潟薬科大学薬学部薬品

    製造学研究室 樋口 晴香 氏に感謝致します。

    最後に、薬品製造学研究室のみなさまに感謝致します。

  • 14

    引 用 文 献

    1. Morimoto R. I., Genes Dev., 12, 3788-3796 (1988). 2. Robert E. Kingston., Jeffrey S. Larson., Thomas J. Schuetz., Biochemistry,

    34, 1902-1911 (1995) 3. Tkachuk D. C., Kohler S., Cleary M. L., Cell., 71, 691-700 (1992). 4. Gu Y., Nakamura T., Alder H., Prasad R., Canaani O., Cimino G., Croce

    C. M., Canaani E., Cell, 71, 701-708 (1992). 5. Conaway J. W., Conaway R. C., Science, 248, 1550-1553 (1990). 6. Prasad R., Yano T., Sorio C., Nakamura T., Rallapalli R., Gu Y.,

    Leshkowitz D., Croce C. M., Canaani E., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 92, 12160-12164 (1995).

    7. Uesugi M., Nyanguile O., Lu H., Levine A. J., Verdine G. L., Science, 277, 1310-1313 (1997).

    8. 久間田 佳彦., 「平成23年度 新潟薬科大学 薬学部 卒業論文Ⅱ」, (2011). 9. Sato S., Kwon Y., Kamisuki S., Srivastava N., Mao Q., Kawagoe Y., Uesugi M.

    J. Am. Chem. Soc.,129, 873-880 (2007). 10.Taguchi T., Jpn. J. Genet., 62, 109-117 (1987). 11. Laemmli UK., Nature., 227, 680-685 (1970).