患者さんや来院者、職員を守る 病院全体の感染管理の意識を高め … ·...

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-1- もっと詳しく! 病院全体の感染管理の意識を高める 感染対策チーム 患者さんや来院者、職員を守る 感染制御室師長 木村理恵感染管理認定看護師 感染対策への本格的な取り組みは 2002 年から 当院では2002年に医療安全室を設置しました。ICT(感染対策チー ム)を組織して医療安全と感染対策を担当する専任者を配置し、本格 的な院内感染対策が始まりました。 私はそのメンバーの一員として活動しましたが、感染管理の知識と 判断力を磨きたいと、北海道医療大学認定看護師研修センター感染管 理分野に 2008 年の 6 月から 12 月の半年間在籍して専門的な研修を 受け、2009 年に「感染管理認定看護師(ICN)」の資格を取得しました。 ICNとなった私の役割は、「患者さんや面会に訪れるご家族、職員 など、当院に出入りする全ての人を感染症から守る」ことです。多職 種で構成する ICT チームを率いて感染制御活動を展開し、広い視野で 感染のリスクを調べて予防因子を探し、院内感染の効果的な予防及び 管理の実践を行います。具体的には、感染サーベイランス(監視・調 査)を実践しながら、最新の感染管理の知識をもって予防や管理を行 い、職員への啓発教育などを主導します。 2009 年から「リンクスタッフチームの組織化」へ向けた取り組み を開始。最初の 2 年間は、感染対策の知識や方法を学ぶ学習会を継続 的に開催しました。ICTの下部組織として「感染対策リンクスタッフ チーム」を設置し、 「看護部門」「薬剤部門」「技術系部門」「事務部門」 の 4 部門が合同で会議やラウンドを行っていましたが、患者さんに直 接かかわる職種とそうでない職種では、職場環境や求められるスキル が大きく異なるため、2012年からは「看護部門」と「薬剤・技術・ 事務部門」の 2 グループに分かれ、それぞれに活動する新体制となり ました。 また、リンクスタッフが自分の役割を自覚し、感染対策を所属セク ションの通常治療やケアのプロセスに導入するなど、自主的な活動も 行われるようになりました。 2 グループの合同会議は年 3 回開催し、多職種が共通認識をもって 対応できる体制を維持しています。 感染管理認定看護師(ICN) 日本看護協会が認定する認 定看護師の一つで認定開始 は 2001 年 8 月から。感染管 理の専門知識を有し、「医療 関連感染サーベイランスの実 践」「各施設の状況の評価と 感染予防」「管理システムの 構築」などを行うキーパーソ ン。 リンクスタッフ 感染制御室と病棟看護師を つなぐ(リンクさせる)役割 を担う。病棟スタッフの指導・ 改善活動、病棟での情報収集 などを行う。 ワゴン α No. 9 木村理恵師長

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Page 1: 患者さんや来院者、職員を守る 病院全体の感染管理の意識を高め … · 査)を実践しながら、最新の感染管理の知識をもって予防や管理を行

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もっと詳しく!

病院全体の感染管理の意識を高める感染対策チーム

患者さんや来院者、職員を守る

感染制御室師長 木村理恵感染管理認定看護師

感染対策への本格的な取り組みは2002年から

 当院では2002年に医療安全室を設置しました。ICT(感染対策チー

ム)を組織して医療安全と感染対策を担当する専任者を配置し、本格

的な院内感染対策が始まりました。

 私はそのメンバーの一員として活動しましたが、感染管理の知識と

判断力を磨きたいと、北海道医療大学認定看護師研修センター感染管

理分野に2008年の6月から12月の半年間在籍して専門的な研修を

受け、2009年に「感染管理認定看護師(ICN)」の資格を取得しました。

 ICNとなった私の役割は、「患者さんや面会に訪れるご家族、職員

など、当院に出入りする全ての人を感染症から守る」ことです。多職

種で構成するICTチームを率いて感染制御活動を展開し、広い視野で

感染のリスクを調べて予防因子を探し、院内感染の効果的な予防及び

管理の実践を行います。具体的には、感染サーベイランス(監視・調

査)を実践しながら、最新の感染管理の知識をもって予防や管理を行

い、職員への啓発教育などを主導します。

 2009年から「リンクスタッフチームの組織化」へ向けた取り組み

を開始。最初の2年間は、感染対策の知識や方法を学ぶ学習会を継続

的に開催しました。ICTの下部組織として「感染対策リンクスタッフ

チーム」を設置し、「看護部門」「薬剤部門」「技術系部門」「事務部門」

の4部門が合同で会議やラウンドを行っていましたが、患者さんに直

接かかわる職種とそうでない職種では、職場環境や求められるスキル

が大きく異なるため、2012年からは「看護部門」と「薬剤・技術・

事務部門」の2グループに分かれ、それぞれに活動する新体制となり

ました。

 また、リンクスタッフが自分の役割を自覚し、感染対策を所属セク

ションの通常治療やケアのプロセスに導入するなど、自主的な活動も

行われるようになりました。

 2グループの合同会議は年3回開催し、多職種が共通認識をもって

対応できる体制を維持しています。

感染管理認定看護師(ICN)

 日本看護協会が認定する認

定看護師の一つで認定開始

は2001年8月から。感染管

理の専門知識を有し、「医療

関連感染サーベイランスの実

践」「各施設の状況の評価と

感染予防」「管理システムの

構築」などを行うキーパーソ

ン。

リンクスタッフ

 感染制御室と病棟看護師を

つなぐ(リンクさせる)役割

を担う。病棟スタッフの指導・

改善活動、病棟での情報収集

などを行う。

ナース ワゴン αNo.9

木村理恵師長

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勤医協中央病院 医療関連 感染対策マニュアル 2.資料 勤医協中央病院 組織図 1/1

2013.10.1 Ver.4

勤医協中央病院 感染制御体制

組織図

感染対策リンクスタッフチーム

院長

ICC(感染対策委員会) 病院長、事務長、副事務長、総看護師長、 副総看護師長、一部 ICTメンバー、 以下、各科(課)の代表者 診療部門、看護部門、薬剤部門、技術部門 (検査部、放射線部、臨床工学部、リハビリ部、 栄養部)、事務部門

<看護部門>

感染対策

リンクスタッフ

<薬剤部門>

感染対策

リンクスタッフ

<事務部門>

感染対策

リンクスタッフ

<診療部門>

科長又は副科長

又は医長

感染制御部門

感染対策責任者;感染症専門医(専任)、 感染管理者;感染管理認定看護師(ICN、専従)、 感染制御認定薬剤師(BCPIC、専任)、 臨床検査技師(細菌検査、専任)、 感染管理実践者(ICP、臨床検査技師(事務作業兼務)、専従)

ICT(感染対策チーム)

上記メンバーに下記を追加してICTとする。

感染制御医師(ICD)、医師、研修医、看護師、薬剤師

<技術系部門>

感染対策 リンクスタッフ

看護ケアが良いと感染防止効果も大きい

 看護部の15の全セクションには一人ずつリンクスタッフがいます。

ICTに所属する看護主任5人と私が加わり、月1回、「感染対策リン

クスタッフ会議」を開催しています。会議の前半は、ICNである私が

「院内の感染状況」「中心静脈栄養の感染率」などを報告し、後半は5

つの小グループ(4人)に分かれて、看護部門の各セクションをラウ

ンドします。

 ラウンドの時間は30分。前回のラウンド時に改善の必要性を指摘

した場所が適切に改善されているかどうかを確認後、新たな場所のラ

感染対策リンクスタッフ・5つのグループ❶手指衛生

❷スタンダード・プリコーション

❸カテーテル関連血流感染予防

❹手術部位感染予防

❺人工呼吸器関連肺炎予防

ICUラウンドの様子

ICTメンバー 宮川元子 主任

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ウンドを実施します。

 ラウンドでは、まず該当セクションのリンクスタッフが感染対策の

手順や理由を説明し、他部署のスタッフが「客観的な視点」で質問や

意見を交換しながら、小グループのメンバー全員で改善策を導き出し

ます。こうしたディスカッションを感染対策の知識を有する主任看護

師が、その場でサポートします。ラウンドの内容はチェックシートに

記録し、報告書として該当セクションへ戻します。改善の必要性を具

体的に示すために写真などを添えることもあります。

 報告書を受けたセクションでは、リンクスタッフを中心にしながら

主体的に改善策を考えます。

 どうしたら感染対策ができるのか、何が問題で、どんな工夫が必要

なのか。それぞれの環境にあった対策を立てるために、スタッフが知

恵を出し合う行為そのものが、有効な感染対策になります。また、他

から見られているだけで、職員の意識が変わり感染防止の行動へとつ

ながります。

 医療行為とケアの部分を知っている看護師がケアの感染管理に果た

す役割はとても大きいと思います。教育された看護師がいると感染管

理の質は向上します。

 医療安全室を設置した2002年当時のICTラウンドは、「管理職か

らの指導」というニュアンスがあり、各セクションの自主的な感染対

策活動につながりませんでした。そこで、「感染対策リンクスタッフ

チーム」には、各セクションから一人ずつ参加メンバーを選出しても

らったのです。自分たちの代表者がラウンドに参加することで、「現

場の意見や要望を尊重しながら、自主的に改善案を考える」流れがで

きたと思います。

煩雑なベッドヘッドの棚の上が

スッキリと整理されました。一度

使用した備品をそのまま放置して

いました

改善例1

ワゴンの中を整理整頓すると、使

い勝手が向上しました

改善例2

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院内認定制度でエキスパートを育成

 当院では、院内認定制度を2012年に設けました。専門知識を持つ

エキスパートを育成する5つのコースがあります。

●オストミー ・排泄ケアコース

●創傷・フットケアコース

●緩和ケアコース

●感染管理コース

●ケアプロセスコース

 感染管理コースでは、「患者さんや家族をはじめとする病院への来

院者および職員に対して、医療関連感染を防止するための感染対策の

知識と技術」を2年にわたって学び、修得します。

 現在、1年目の研修を受けているのは9人、2年目は12人です。

 2013年3月には、当院初の感染管理院内認定看護師が誕生し、感

染管理エキスパートとして各セクションでの感染対策活動の強化をサ

ポートします。

 専門知識を得たスタッフが増えると各セクションのスキルが底上げ

され、病院全体の医療の質が向上します。

感染管理院内認定コース研修プログラム【1年目】

1回目 院内で問題になる微生物の特徴とその対策(耐性菌を含む)

2回目 抗菌薬の話、微生物検体の採取について

3回目 洗浄・消毒・滅菌について、感染性廃棄物の取扱いについて

4回目 人工呼吸器関連肺炎予防、手術部位感染予防

※4回目終了後に中間試験

【2年目】

5 ~ 6回目 看護ケアに関る感染対策手順書の作成、その教育、遵守状況の監査

7回目 手順書作成の成果発表会

研修の様子の写真

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感染対策を徹底させる仕組みづくり

 セクションで自主的に考えた改善策が持続しなかったり、元に戻っ

てしまったりすることがありますが、患者さんに直接接触する看護師

が、「忙しさ」「慣習」を理由に感染対策を怠ることは決してあっては

ならないことです。各セクションの環境は同じではありませんから、

それぞれが現状に合った一番良い方法は何か、どうしたら改善策が定

着するかを迅速に考える必要があります。

 そんなときに、看護部の各セクションを広域的視点でサポートする

のがICTチームです。環境改善が進まない場合は、該当セクションに

出向きアドバイスや指導を行います。感染対策活動が滞ることなく、

継続できるよう必要に応じて介入します。

 ICTチームは週1回のラウンドを実施しています。患者さんの感染

管理に直接関わり、感染症発生や疑い時、注意を要する場合などの対

応を行います。万が一の場合に感染拡大を防ぐ重要な役割を担います。

 感染症の疑いがある患者さんが入院するとき、検査室で耐性菌が検

出されたときなどは、感染制御室のICTチームに直接連絡が入るよう

になっています。迅速に病棟へ出向き、感染対策に不足はないかを確

認し、必要であれば早急に指導・改善を行います。

 現場での気づきや必要な情報を収集・分析・解釈し、報告・共有す

るためには、日ごろからの良好なコミュニケーションが欠かせません。

感染症の患者さんが入院

電話

検査室で耐性菌検出

ファックス

感染制御室・ICTチーム

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オリジナルイメージキャラクターで啓発活動

 感染対策において、もっとも重要となるのが手指衛生です。対象者

は、患者さんや面会されるご家族、職員など、病院を訪れるすべての

人々ですが、個人任せにすることなく、組織の問題として取り組む必

要があると考えています。

 2013年度の手指衛生強化月間(11 ~ 3月)の取り組みの一つと

して、「手洗い推進ポスター」のイメージキャラクターを募集しました。

 エントリーされた16のイメージキャラクターを公開し、1階ラウ

ンジに投票箱を設置したところ、職員521人、患者さんや来院者の

皆さん97人から投票がありました。現在集計中ですが、最も多くの

投票を獲得したキャラクターが院内掲示などに登場し、感染対策の啓

発活動をサポートします。

 感染対策は個人任せではなく病院を訪れる全ての人々を対象に、組

織的に情報発信を継続することが大切だと考えています。   (了)

エントリーされたキャラクター(一部)

正面入口のモニタや、掲示物などで来院された方へ感染対策を呼びかけています