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平成27年度国際エネルギー使用合理化等対策事業 インドにおける蓄電池導入政策調査 報告書 平成 28 2 株式会社野村総合研究所

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Page 1: インドにおける蓄電池導入政策調査 - Minister of Economy ...・India Energy Storage Alliance(IESA) 2 インドへの蓄電池導入に必要となる政策提言案の作成

平成27年度国際エネルギー使用合理化等対策事業

インドにおける蓄電池導入政策調査

報告書

平成 28年 2月

株式会社野村総合研究所

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はじめに

世界的なエネルギー需要の増大に伴い、中長期的なエネルギー需給の逼迫・不安定化や、

化石燃料の消費増加による二酸化炭素排出量の増加がもたらす地球温暖化が懸念されてい

る。再生可能エネルギーの導入はこれを解決する有力な手段として、また、昨今の再生可能

エネルギー設備の価格下落により発展途上国等においても電源確保の手段として期待され

ており、世界各国が積極的に導入を進めている。

電力需給の増大が予測されているインドでは、モディ首相の積極的なイニシアティブも

あり、2022年までに175GWの再生可能エネルギー設備を導入することを計画して

おり、既に多くの風力発電設備及び太陽光発電設備の導入が進んでいる。

他方で、インド市場においては、そもそもベース電源やバックアップ電源となる火力発電

設備や揚水設備等の電力供給力が需要に追いついておらず、停電が頻繁に起きる等電力品

質に課題が多いことから、数年の内に再生可能エネルギー設備の大幅な導入により更なる

電力網の不安定性をきたすことが予想されている。

我が国においては、再生可能エネルギー等の不安定な電源を調整するための一つの手段

である蓄電池技術に知見・ノウハウを有しており、インドでも蓄電池技術が今後電力網の不

安定性を解消するための手段の一つとなることが期待されているが、導入支援制度無しに

は蓄電池の導入は困難な状況である。なお、インド政府も日本と協力してインド市場への蓄

電池導入に向けて政策面を含めた検討実施を希望している。

このため、本事業においては、インドの電力市場を分析・調査するとともに、蓄電池技術

や国内外の電力分野における蓄電池ビジネスの実態を分析し、インド市場への蓄電池導入

に適切な技術及び必要となる政策等に関するインド政府への提言案を作成することを目的

として実施した。

なお、電力系統の安定化を目的とした蓄電池の活用可能性を本事業の対象としているた

め、インドにおいても可能性の高いオフグリッド向けや需要家向けの蓄電池導入可能性に

ついては本事業では分析を行っていない。

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目次

I 調査方法 .......................................................................................................................... 3

1 インドにおける蓄電池導入のための技術及び市場分析 ............................................. 3

2 インドへの蓄電池導入に必要となる政策提言案の作成 ............................................. 4

3 日印両政府による蓄電池協議の支援 ........................................................................... 4

II 調査結果 .......................................................................................................................... 5

1 蓄電池の市場機会 ........................................................................................................ 5

1.1 2020年頃のインドの姿........................................................................................ 5

1.2 蓄電池の必要性 .................................................................................................... 8

2 蓄電池のコスト ......................................................................................................... 12

3 蓄電池技術の適合性 .................................................................................................. 15

3.1 蓄電池のアプリケーション ................................................................................ 15

3.2 蓄電池の経済性効果 ........................................................................................... 20

4 蓄電池の市場規模 ...................................................................................................... 31

4.1 市場規模の推計結果 ........................................................................................... 31

4.2 市場規模の推計事例 ........................................................................................... 34

5 蓄電池導入に必要となる政策提言(案) ................................................................. 36

5.1 有望なアプリケーションの絞込み ..................................................................... 36

5.2 アプリケーション1:スピニング・リザーブ確保義務の代替 ......................... 37

5.3 アプリケーション3:タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整 ........... 39

5.1 アプリケーション6:屋根設置型太陽光の緩和 ............................................... 42

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I 調査方法

1 インドにおける蓄電池導入のための技術及び市場分析

ここでは「インドにおける電力市場の現状(電力網、再エネ設備投資状況等)」、「電力

市場の課題と有望蓄電池技術の把握」、「インドにおける蓄電池市場規模推計」を行った。

インドにおける電力市場の現状(電力網、再エネ設備投資状況等)については、インド

政府、インド新・再生可能エネルギー省(MNRE:Ministry of New and Renewable

Energy)により、2022年までに 175GW の再生エネルギーを導入するという目標が大々

的に公表されていることなどから、デスクトップでの調査をまず実施し、そのうえでイン

ド政府およびその関係者へのヒアリングを実施した。

本調査において、インド現地でヒアリングを行った政府および関連機関は以下の通りで

ある。

・Central Electricity Regulatory Commission(CERC)

・Ministry of New and Renewable Energy(MNRE)

・Power System Operation Corporation(POSOCO)

・Western Region Load Dispatch Centre(WRLDC)

・India Smart Grid Forum

・Dakshesh Energy

電力市場の課題と有望蓄電池技術の把握にあたっては、前述の調査により実態を踏ま

え、各種蓄電池技術(新型鉛電池、NAS電池、レドックスフロー電池、リチウムイオン電

池)のインド市場への適合性(蓄電池保有者、蓄電池設置箇所等)について日本国内の関

連事業者・メーカとのヒアリング・ディスカッションを実施した。それにより、課題の本

質および有望蓄電池技術の抽出を行った。

日本国内でヒアリングを行った関連事業者・メーカは以下の通りである。

・東京電力

・富士電機

・日本電気

・日本ガイシ

・日立化成

・東芝

・住友電工

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インドにおける蓄電池市場規模推計にあたっては、インドで既に市場規模の推計を行っ

ている以下の 2機関へのヒアリング・ディスカッションを通じて、推計方法および市場規

模感の確認を実施した。

・Center for Study of Science, Technology & Policy(CSTEP)

・India Energy Storage Alliance(IESA)

2 インドへの蓄電池導入に必要となる政策提言案の作成

特定した適切な蓄電池技術を商業ベースでインド市場に導入するために必要となる具体

的な政策(設置義務要件、導入インセンティブ、電力料金を含む電力制度等)について、

海外および日本の政策を踏まえ、インド政府への提言案を作成した。海外政策の把握には

主にデスクトップ調査を実施した。

政策提言案については、経済産業省とディスカッションを行い、また、国内関連企業に

もヒアリングを行ったうえで作成した。

3 日印両政府による蓄電池協議の支援

経済産業省及びインド新・再生可能エネルギー省(MNRE)が平成28年2月19日に

日本で開催した「日印エネルギー貯蔵タスクフォース」に出席し、本調査で取りまとめた

政策提言等に関する発表を行うとともに、議論の支援を行った。

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II 調査結果

1 蓄電池の市場機会

本章では、2020年頃に向けたインドにおける蓄電池の市場機会について示す。

1.1 2020年頃のインドの姿

1.1.1 一人当たり GDPと電力品質

2020年を過ぎる頃になると、インドの一人当たり GDPが 1万ドルを超えると想定さ

れ、かつての日本の状況を踏まえると、相応の電力品質が必要となってくると考えられ

る。

日本においても、1970年代から GDPが 1万ドルを超えた 1980年代にかけて急速に電

力品質が改善している。

図 II-1 1人当たり GDPと電力消費量の見通し

出所)IMF - World Economic Outlook Databases (2015/10)、IEA - KEY WORLD ENERGY STATICS 2014

より NRI作成

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図 II-2 日本の停電回数と停電時間の推移

出所)海外電力調査会

1.1.2 再生可能エネルギーの導入目標

一方で、インドでは 2022年に向け大量の再生可能エネルギーの導入が計画されている

ため、インドの電力システムは不安定な再生可能エネルギーの導入、特に、太陽光と風力

の影響により、大きな課題に直面すると考えられる。

なお、現在の課題となっているインドにおけるピーク時の電力不足の解消は、大量の再

生可能エネルギー導入と火力発電所の増設等により、近い将来に解消されると予測されて

いる。このため、次の段階として変動する再生可能エネルギーへの対応が求められる。

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図 II-3 再生可能エネルギーの導入目標

出所)MNRE

1.1.3 電力システムの目指すべき姿

インドでは、2020年以降に向け電力システムのパラダイムシフトを起こすことが期待さ

れている。具体的には下表の通りであり、本調査では、蓄電池を活用した目指すべき姿の

実現可能性について検討を行った。

表 II-1 電力システムの目指すべき姿

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1.1.4 電力システムの改善による効果

目指すべき姿の実現により、電力システム全体のコストが下がり、電力会社の収益改善

にも貢献する。逆に、再生可能エネルギーの最大活用を行わず、現在のままでいると、非

経済的な電力システムになる可能性がある。

図 II-4 国民経済の観点から見た電力システムの姿

1.2 蓄電池の必要性

1.2.1 現在の電力システム

インドでは、全ての発電事業者にアンシラリーサービスアンシラリーサービスアンシラ

リーサービス用に 5%の予備力(スピニング・リザーブ)を保持することを義務付け(5%

spinning reserve mandate)ているが、需要ピーク時に電力供給が不足するため、稼動可

能な発電所はフル稼働しており、ルールが遵守されていない状況にある。ただし、このよ

うな最大電力の不足や電力供給量の不足は今後 2から 3年で大きく改善すると見込まれて

おり、改善後には予備力の義務化が厳しく管理されることにより、アンシラリーサービス

アンシラリーサービスへの着目度が高まると考えられる。

次に、電源ディスパッチのルール上、再生可能エネルギーが最も優先順位の低い電源に

位置づけられている。よって、送電会社は再生可能エネルギーに予測していなかった出力

変動が発生した際に、送電網の品質安定を優先し、再生可能エネルギーの送電網への接続

を安易に遮断している状況にある。

また、配電網においても、配電網の品質維持のために積極的な負荷遮断が行われてい

る。特に、配電小売事業者(DISCOM)は、末端価格統制があり、末端価格が安価に設定

されているため、ピーク需要時にコストの高い電源を調達せずに負荷遮断を選択してい

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る。

このような状況にあるため、需要家側では、ディーゼル発電機や蓄電池を設置して、停

電時に備えている。

図 II-5 現在の電力システムのイメージ (2015)

なお、インドにおける周波数のグリッドコードは 2014年に 49.90~50.05Hzに強化され

たが、実際には、以前のグリッドコードである 49.7~50.2 Hzですらまだ守られていない状

況にある。

図 II-6 インドの周波数変動

出所)CERC - REPORT “THE COMMITTEE ON SPINNING RESERVE 2015”

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1.2.2 2022年の電力システム(現状趨勢ケース)

現状のまま、再生エネルギーの大量導入が進んだ場合、次のような非常に深刻な状況に

なることが想定される。

①不安定時に再生可能エネルギーを解列するため、火力依存は変わらず、石炭火力の設

備増強が今後も必要となり、結果的に過剰な発電設備投資が必要となる。

②不安定時や供給過剰時には再生可能エネルギーを積極的に解列するため、大量に導入

すれば導入するほど再生可能エネルギーの設備利用率が下がる。

③屋根設置型太陽光が増加すると、配電系統での電圧変動・電力余剰による予期せぬ停

電が増加する。

図 II-7 2022年の電力システムのイメージ(現状趨勢ケース)

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1.2.3 2022年の電力システム(蓄電池導入ケース)

蓄電池を導入することで、次のような効果が考えられる。

不安定な再生可能エネルギーを許容できるアンリラリーサービスを蓄電池で提供するこ

とが可能となる。

再生可能エネルギーの余剰電力を蓄電池で貯蔵し、必要なときに放出することが可能と

なる。

増加する需要に併せた送配電設備の増強を回避することが可能となる。

再生可能エネルギー電源を安定電源として活用することが可能となることにより、火力

発電への設備投資が軽減できる。

蓄電池の設置場所としては、火力発電所、再生可能エネルギー発電所、送電網、配電網が

考えられる。

図 II-8 2022年の電力システムのイメージ(蓄電池導入ケース)

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2 蓄電池のコスト

本章では、現在(2015年)の実績ベースの蓄電池コストおよび 2020年を想定した将来

のコストについて示す。

複数メーカへのヒアリングをベースに一部推計を含め分析を実施した。対象は4種類の

蓄電池、すなわち、新型鉛電池(Ad-Lead)、リチウムイオン電池(LIB)、NAS電池、レ

ドックスフロー電池(Flow)である。

本コストは、初期コストだけではなく、運転コストも考慮したライフサイクルベースの

コストである。また、次章で各アプリケーションの効果との比較を行うので、充放電効率

も考慮したコストとした。ただし、初期に必要となる設置工事費は考慮していない。

リチウムイオン電池に関しては、国内に複数のメーカが存在するため、平均的なコスト

として推計を行っている。よって、最も競争力のあるコストの低いメーカは、図で示すラ

インよりもさらにコストが低くなっている。

4種類の電池を比較すると、リチウムイオン電池のコストが 2015年から 2020年にかけ

て最も大きく下がると予想されている。

以下に蓄電池コストの計算方法を示す。なお、短期用途向けでは、放電 Cレートを1と

4のケースを計算した。これは、短期用途の中でもアプリケーションによって求められる

Cレートが異なるためであり、現状実際に使われている Cレートの範囲がほぼ1から4と

なっている。

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図 II-9 日本の蓄電池のコスト(現在と将来)

出所) メーカヒアリング等より NRI作成

長期用途向けとは、タイム・シフト(再エネの発電余剰時に蓄電し、需要ピーク時など

他の時間帯に放電する)やランピングなどの時間単位のアプリケーション向けを想定して

いるため、容量(MWh)当たりのコストとした。長期用途向けでは、NAS電池およびレ

ドックスフロー電池のコストが相対的に低い結果となった。リチウムイオン電池は、2020

年の将来コストであっても NAS電池およびレドックスフロー電池の現在の実績コストに

及ばない。なお、本コスト分析に当たっては、10時間のアプリケーション向け蓄電池コス

トにより試算しているものであり、使用時間が短いアプリケーションの場合は、特に NAS

電池、レドックスフロー電池の場合は単価が増加する可能性が高いことを考慮する必要が

ある。

短期用途向けとは、主にアンシラリーサービス用途向けである。ハワイのケースに代表

される再生可能エネルギーの発電所から送電網に接続する際に秒単位から分単位の出力変

動を緩和させる再エネ出力調整アプリケーションには出力 Cレートが1から2程度の電池

が主に使われている。

また、米国の PJMの短期の周波数制御市場(frequency regulation)やドイツの短期の

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周波数制御市場(primary control reserve)のような秒単位のアプリケーション向けには、

出力 Cレートが4程度の電池が主に使われている。

1Cの比較では、現状コストと将来コスト同様に、新型鉛電池、リチウムイオン電池、

レドックスフロー電池の順にコストが低い結果となった。ただし、リチウムイオン電池の

中には、新型鉛電池よりも低いコストのメーカは存在する。

4Cでは、技術的に対応できる蓄電池がリチウムイオン電池しか存在しない。コストで

は、1Cよりも低くなっている。

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3 蓄電池技術の適合性

本章では、インドで再生可能エネルギーの大量導入に向け、系統安定化対策として蓄電

池を活用した主なアプリケーションについて、その経済性評価分析を行った結果を示す。

3.1 蓄電池のアプリケーション

3.1.1 全体像

以下の図では、蓄電池の設置場所と短期・長期用途毎に整理した。アプリケーション3「タ

イム・シフトおよび再エネと既存発電の調整」とアプリケーション6「屋根設置型太陽光の

緩和」は短期と長期の両方に対応している。

アプリケーション7「バックアップ用」およびアプリケーション8「再エネとのハイブ

リッドシステム」は、市場としては顕在化しているものの、冒頭述べたとおり本調査の対

象外としている。

図 II-10 蓄電池のアプリケーションの全体像

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各蓄電池のアプリケーションについて、概要を整理した。

表 II-2 蓄電池の各アプリケーションの概要

注)インドにおけるスピニング・リザーブには、所謂、プライマリー、セカンダリー、ターシャリーの全

てを含む。

アプリケーション1「スピニング・リザーブ確保義務の代替」に関連して、インドの CERC

(Central Electricity Regulatory Commission:中央電力規制委員会)によると、スピニング・

リザーブは近い将来に義務化できると述べている。

アプリケーション3「タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整、アプリケーション

6「屋根設置型太陽光の緩和」には複数の効果が含まれている。アプリケーション1と同様

にスピニング・リザーブ代替の効果もあり、タイム・シフト、ランピングの効果もある。イ

ンドにおけるタイム・シフトは、、太陽光発電の減少する夕方に家庭需要が立ち上がり電力

需要ピークを迎えるため、通常、太陽光発電量の多い昼間に生じる余剰電力を充電し、ピー

ク時に放電するというパターンが必要となる。インドにおけるランピングには 2 種類が想

定され、1つは太陽光および風力発電の想定外の出力低下によるケースと、朝方及び夕方の

太陽光の発電開始時及び発電終了時の出力が大幅に変動するケースが考えられる。夕方の

時間帯は急速に太陽光の発電量が低下する一方で、急速な家庭用需要の立ち上がりがある

ため、想定外の需給バランスの悪化が発生しやすい状況にある。

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送配電投資先送りは、再生可能エネルギー導入に伴う系統混雑を蓄電池で緩和させるこ

とにより、送配電の投資を先送りする効果がある。

3.1.2 アプリケーション1:スピニング・リザーブ確保義務の代替

現在、5%のスピニング・リザーブの確保義務は存在するものの、強制力がなく遵守され

ていない状況にある。

しかし、近い将来、スピニング・リザーブ確保義務が強制された場合、蓄電池導入により、

5%またはその一部を代替することが可能なる。ただし、蓄電池による効果が高いのは即応

性が必要な短期の周波数制御が中心となる。

類似のケースは、チリで存在する。チリでは全ての発電所が発電容量の 7%を供給予備力

として確保する義務を負っており、その 7%の一部を蓄電池等エネルギー貯蔵技術で代替で

きる。

図 II-11 スピニング・リザーブ確保義務の代替の概要

3.1.3 アプリケーション2:再エネ出力の調整

再エネ出力の調整は、変動する再生可能エネルギーの発電出力を、発電事業者自らが電圧

および周波数を調整して、系統に出力するものである。

他のアプリケーションと比較すると、規制の設定およびそれを受けた蓄電池の運転方法

も単純である。つまり、再生エネルギーの発電所に併設して、その発電事業者が蓄電池シス

テムを整備することとなる。ただし、各再生可能エネルギーの発電所で調整をかける本方法

は、離島のように発電所の数が少なく系統容量が小さい場合には有効であるが、そうでない

場合には、経済性評価の面でやや非効率と言える。

類似ケースとしては、日本の徳之島では、リチウムイオン電池を使用して、出力変動の調

整を行っている。また、ハワイのマウイ島では、現地の電力会社(Hawaii Electric)が、系

統連系する 25~50MW の新規風力発電のランプレート(出力変動)を 2~3 MW/min の範

囲内に抑えるよう制限しており、風力発電所併設型の蓄電システム導入のドライバーとな

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っているため、リチウムイオン電池を使用して出力が調整されているといった事例がある。

図 II-12 再エネ出力の調整の概要

3.1.4 アプリケーション3:タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整

蓄電池を活用し、主に需給ギャップの調整を行うことが可能となる。主に送電系統運用者

(TSO)が蓄電池を保有して系統安定化を行うことが想定されるが、送電系統運用者が保有

することにより、タイム・シフト以外にも、ランピング、周波数制御、送配電投資の先送り

などの効果が生じる可能性もある。ただし、これらの効果を副次的に得るための蓄電池容量

や運用方法については非常に複雑であり開発段階にある。

類似ケースとしては、イタリアの送電系統運用者である TERNAの事例がある。

図 II-13 タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整の概要

出所)NRI

3.1.5 アプリケーション4:電力取引市場向け

蓄電池により通常の発電電力と同様に電力取引市場で電気の売買を行う。再生可能エネ

ルギーの余剰電力を充電して市場のピーク価格で売電することが想定される。時間帯価格

が設定されることにより、昼夜等の価格差により蓄電池をビジネスに活用される可能性が

ある。

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将来的に再生可能エネルギーの導入量が増えると、現在よりも取引量が増大し、価格差も

大きくなる可能性がある。

図 II-14 電力取引市場向けの概要

3.1.6 アプリケーション5:アンシラリー取引市場向け

事業者が蓄電池を保有して、アンシラリーサービスアンシラリーサービス取引市場向け

に売買を行う。現在、インドにはアンシラリーサービスアンシラリーサービスの取引市場が

存在しないため、まずは取引市場の創設が必要となる。蓄電池はアンシラリーサービスアン

シラリーサービスの中でも即応性の高い周波数制御向きである。類似ケースとして、米国

PJMの Frequency Regulation市場(FR市場)、ドイツの Primary control reserve 市場など

があげられる。

なお、スピニング・リザーブ確保義務を強化した場合に、一つの方法として市場が開設さ

れる可能性がある。

図 II-15 アンシラリー取引市場向けの概要

3.1.7 アプリケーション6:屋根設置型太陽光の緩和

蓄電池を活用し、主に需要家側に設置される屋根設置型太陽光の出力変動対策として活

用する。主に配電系統運用者(DSO)が蓄電池を保有して系統安定化を行うことが想定され

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る。配電系統に蓄電池が設置されることにより、タイム・シフト、ランピング、周波数制御、

送配電投資の先送りなどの効果が期待できる。屋根設置型太陽光により、特に発電ピーク時

の逆潮流による電圧上昇を抑制するといった電圧変動の制御にも対処可能である。

アプリケーション3と同様に、これらの効果を副次的に得るための蓄電池容量や運用方

法については非常に複雑であり開発段階にある。

類似ケースとしては、米国カリフォルニア州、イギリスの事例などがある。なお、蓄電池

の規模としては、配電変電所併設型の MW クラスのものと、柱上変圧器など末端の変圧器

近くに設置する、コミュニティー・エナジー・ストレージ(CES)と呼ばれる kW クラスの

両方が存在する。

図 II-16 屋根設置型太陽光の緩和の概要

3.2 蓄電池の経済性効果

後述するとおり各アプリケーションによる経済的効果を試算し、前述した蓄電池コスト

と比較を行った。インドで効果が高いと想定されるものは、「火力発電の代替効果」(アプリ

ケーション1の副次的効果)、と「ランピング効果」との結果が導き出された。

「タイム・シフト効果」に関しては、副次的効果である新規の石炭火力発電への投資抑制

を買取価格に反映し、買取価格を引き上げるインセンティブを考慮することで将来的に経

済性評価の得られる可能性があると算出された。

また、インドのデータを用いた算出は行っていないが、一般的に効果が高いと評価されて

いるのが、「短期の周波数制御効果(Frequency Regulation)」と「送配電投資先送り効果」

である。

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図 II-17 蓄電池の経済性評価

注)周波数制御、電圧の制御、送配電先送りの効果は、インドのデータを用いた試算ではなく海外の効果

出所)メーカヒアリング等より NRI作成

短期用途に関して、「周波数制御効果」は米国 PJM、ドイツ、イギリスの市場における価

値を引用しており、同価格が設定されれば経済性は高いと考えられるが、現時点でインドに

はアンリラリー市場が存在しないため、あくまで参考値となる。

「再エネ出力の調整効果」は現在の蓄電池コストでは経済性評価を得にくい結果となっ

た。「電圧の制御効果」についても、インドでの試算ではなく米国での事例であるが、現在

の蓄電池コストでは経済性評価が得にくい結果となった。ただし、リチウムイオン電池の将

来の蓄電池コストをベースにすれば、「再エネ出力の調整効果」、「電圧の制御効果」ともに

経済性評価が得られる可能性はある。

長期用途に関して、「送配電投資先送り効果」は、インドでの試算ではなく米国での事例

である。「送配電投資先送り効果」は適用する地域の環境により計算結果にかなり幅が出て

いるものの、米国の報告では比較的経済性評価が高いと位置づけられている。「タイム・シ

フト」と「送配電投資先送り効果」は現在の蓄電池コストでは経済性評価が得られにくい状

況であるが、将来の新型鉛電池、NAS 電池、レドックスフロー電池の蓄電池コストであれ

ば、経済性評価が得られる可能性がある。

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前述のアプリケーションごとに経済性評価を整理すると以下の結果となる。

表 II-3 アプリケーション別の経済性評価の一覧

出所) 各種資料および推計により NRI作成

3.2.1 火力発電の代替効果

チリの事例をもとに、副次的効果であるインドにおける石炭火力発電所の代替効果を求

めた。石炭火力発電所の発電量の回復効果により算出した。

算出の結果、その効果は 0.100M$/MW/年と算出された。

表 II-4 類似の事例

出所)公開情報より NRI作成

低ケース 高ケース 備考1. スピニング・リザーブ確保義務の代替

周波数制御(FR) M$/MW/year 0.100 0.250 米国PJM、ドイツ、イギリスの取引市場の最も即応性の高い市場を参考とした。火力発電の代替 M$/MW/year 石炭火力の設備利用率向上を副次的な効果として算出した。

2. 再エネの出力調整太陽光 M$/MW/year 出力調整しないと系統接続を制限する規制の導入が前提。風力 M$/MW/year 太陽光は日本の徳之島のケース、風力はハワイのケースをベースに算出した。

3. タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整周波数制御(FR) M$/MW/year 0.100 0.250 米国PJM、ドイツ、イギリスの取引市場の最も即応性の高い市場を参考とした。

タイム・シフト M$/MWh/year 0.017 0.043低ケースは電力市場のピーク価格での販売することを想定して算出した。高ケースは、石炭発電所の投資抑制効果を考慮して算出した。

ランピング M$/MWh/year ガス火力発電の代替として、インドの想定ロードカーブをもとに算出した。送配電投資先送り M$/MWh/year 0.023 0.047 イギリスのケースを参考とした。

4. 電力取引市場向け 低ケースは電力市場のピーク価格での販売することを想定して算出した。 タイム・シフト M$/MWh/year 0.017 0.043 高ケースは、石炭発電所の投資抑制効果を考慮して算出した。5. アンシラリー取引市場向け 取引市場の設立を前提とした。

周波数制御(FR) M$/MW/year 0.100 0.250 米国PJM、ドイツ、イギリスの取引市場の最も即応性の高い市場を参考とした。6. 屋根設置型太陽光の緩和

電圧の制御 M$/MW/year 米国のRMIのレポートを参考とした。周波数制御(FR) M$/MW/year 0.100 0.250 以下については、用途3と同様タイム・シフト M$/MWh/year 0.017 0.043ランピング M$/MWh/year送配電投資先送り M$/MWh/year 0.023 0.047

0.064

0.050

0.100

0.0170.048

0.064

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- 23 -

図 II-18 火力発電の代替効果の試算

出所)各種資料より NRI推計

3.2.2 再エネ出力の調整効果

日本及びハワイの事例をもとに、インドにおける再エネ出力調整の効果を試算した。売電

価格はインドで標準的な再エネの買取価格と設定している。この買取価格は、再エネ出力調

整を考慮したものではない現在の買取価格であるため、その効果は太陽光で 0.017M$/MW/

年、風力で 0.048M$/MW/年と比較的小さく算出された。よって、将来的に出力調整を行っ

た再エネ電気の買取価格にインセンティブを付与するなどの政策的対応が取られればその

経済性評価は高くなる。

表 II-5 類似の事例

出所)公開情報より NRI作成

図 II-19 再エネ出力の調整効果の試算

出所)各種資料より NRI推計

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- 24 -

3.2.3 タイム・シフト効果

タイム・シフト効果は、アプリケーション3「タイム・シフトおよび再エネと既存発電の

調整」、アプリケーション4「電力取引市場向け」、アプリケーション6「屋根設置型太陽光

の緩和」で得られる効果である。

以下の図は 2022年の夏の需給カーブをインド全体で推定したものである。これより、昼

をピークとして昼間に太陽光発電による余剰電力が発生することが分かる。一方で、夕方の

6時から朝の 8時までの約 10時間に渡り電力不足が生じている。

仮に蓄電池がない場合に再生可能エネルギーを優先的に使おうとすると、その代わりに

石炭の設備利用率を落として対応することとなる。結果的に石炭の設備利用率が低下し、

65%になると推定している。一方で、蓄電池がないと夕方から夜間、翌朝にかけての電力不

足も解消しないこととなる。

言い方を変えると、蓄電池を活用することで、電力不足の解消と石炭の設備利用率の向上

の両者が図れることとなる。一般的に石炭火力の設備利用率は 80%程度であるため、15%

程度の改善が図れることとなる。

図 II-20 ロードカーブとタイム・シフト(2022年の夏)

出所)各種資料より NRI推計

ただし、本ロードカーブの推計はインド全体の平均的なものであり、地域ごと、州ごとに

見ていくとタイム・シフトの時間は短くなると想定される。

実際、2015 年実績のロードカーブを見ると、地域によって形状が異なることが分かる。

つまり、蓄電池を導入する地域または州のロードカーブを十分に考慮したうえでタイム・シ

フトの時間と必要な発電量を設定する必要がある。

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図 II-21 地域別のロードカーブ(2015年)

出所)POSOCO

タイム・シフト効果を、ピーク時の電力価格と再エネの発電コストの差から算出した。こ

の結果、太陽光で 0.021M$/MWh/年、風力で 0.017M$/MWh/年と小さな効果となった。

図 II-22 タイム・シフト効果の試算

出所)各種資料より NRI推計

一方で、前述にようにタイム・シフトによる副次的効果として、石炭火力発電所の設備利

用率を向上させ、結果として新規の石炭火力発電所の建設を抑制できるという効果がある。

そこで、その効果を試算すると、0.026M$/MWh/年の追加的な効果となった。つまり、前述

の効果に副次的な効果を加えると、風力では 0.043M$/MWh/年となる。

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図 II-23 副次的なタイム・シフト効果の試算

出所)各種資料より NRI推計

参考までに、本来であれば捨てられていたかもしれない余剰の太陽光を活用するという

観点で、発電コストをゼロとして計算すると 0.044M$/MWh/年となり、副次的な効果を考慮

した結果と近い値であった。

図 II-24 発電コストゼロとしたタイム・シフト効果の試算

出所)各種資料より NRI推計

3.2.4 ランピング効果

ランピング効果は、アプリケーション3「タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整」、

アプリケーション6「屋根設置型太陽光の緩和」で得られる効果である。

本試算では、夕刻時の急速な太陽光発電量の低下と一方で急速に立ち上がる家庭用・電灯

需要によるダックカーブ対策を対象とした。

2022 年の夏の需給カーブをインド全体で推定した結果、夕刻時にダックカーブが発生す

ると想定される。また、前述の各地域別のローカーカープ実績からも、夕刻時におけるダッ

クカーブの発生が見て取れる。

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図 II-25 ロードカーブとダックカーブ(2022年の夏)

出所)各種資料より NRI推計

ランピング効果として、石炭火力発電から蓄電池に充電した電力をガス火力発電の代替

として使用するという仮定で算出した。なお、現在のインドではガス火力発電所が存在する

ものの、ガス不足で設備利用率が低く、ランピングには石炭火力を使用しているケースも多

い。

ただし、将来的にはダックカーブが先鋭になり石炭火力では追従が困難になること、加え

て、一部の石炭火力発電所がダックカーブ対応のためだけに使われるという非効率性、すな

わち、結果的に石炭火力であっても発電コストが高くなることを考慮すると、ガス火力発電

の代替と仮定して試算することの妥当性はあると考える。

試算の結果、0.06M$/MWh/年とタイム・シフトよりも大きな効果となった。

図 II-26 ランピング効果の試算

出所)各種資料より NRI推計

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3.2.5 周波数制御(FR)効果

周波数制御効果は、アプリケーション1「スピニング・リザーブ確保義務の代替」、アプ

リケーション3「タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整」、アプリケーション5「ア

ンシラリー取引市場向け」、アプリケーション6「屋根設置型太陽光の緩和」で得られる効

果である。

現在、インドにはアンシラリー取引市場が存在しないため、海外の取引市場における効果

を参考とした。具体的には、米国の PJMにおける Frequency Regulation(FR)市場、ドイ

ツの Primary Reserve Control 市場、英国の Commercial Frequency Response 市場で、い

ずれも蓄電池の即応性などの特徴が活かせる市場である。

これらの海外の市場価格より、0.1~0.25M$/MW/年の経済性評価があると試算した。

なお、現在のインドではスピニング・リザーブの定義が曖昧であり、分類等が全くなされ

ていない状況にある。CERCのレポートによると、現在のインドのスピニング・リザーブは

下表にあるすべての分類を包含しているとのことである。

表 II-6 海外のアンシラリー市場

出所)各種資料より NRI作成

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3.2.6 送配電投資の先送り効果

送配電投資の先送り効果の算出は、想定する地域の環境により結果が大きく異なってく

る。実際に、米国の RMI(Rocky Mountain Institute)のレポートからも、算出条件によって

その効果にはかなりの幅があることが分かる。RMIのレポート以外にも、米国 EPRI(Electric

Power Research Institute)が実施したレポート「Electricity Energy Storage Technology

Options(2010)」や「Cost-Effectiveness of Energy Storage in California(2013)」があるが

いずれも送配電投資の先送り効果は相対的に高く評価されている。

図 II-27 ランピング効果の試算

出所)Rocky Mountain Institute “THE ECONOMICS OF BATTERY ENERGY STORAGE” (2015年 10月)

次に、イギリスでの送配電投資の先送り効果を算出した事例を示す。

ロンドン近郊の配電会社の UKPN(UK Power Networks)の Smarter Network Storageプ

ロジェクトにおいて、2017年に必要となる見通しの 1次変電所(35KVA)の増強回避のた

めに 2014年に大型蓄電池を設置した。

その効果試算の結果は 0.023~0.047 M$/MWh/年となった。

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表 II-7 送配電投資の先送り効果の試算例(イギリスの UKPN)

出所)ヒアリング等より NRI作成

3.2.7 電圧の制御効果

電圧の制御効果の算出も、想定する地域の環境により結果が異なることが想定されるた

め、ここでは米国の RMI(Rocky Mountain Institute)のレポート(図 II-27)を参照し、

0.05 M$/MW/年とした。

米国 EPRI(Electric Power Research Institute)が実施したレポート「Electricity Energy

Storage Technology Options(2010)」では、相対的に経済性評価が低いと評価している。

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4 蓄電池の市場規模

本章では、インドにおける蓄電池の市場規模の推計を行う。また、既に市場規模が公表

されている他の推計結果との比較を行う。

4.1 市場規模の推計結果

4.1.1 全体像

本調査では、前段の経済性評価分析において、導入効果の相対的に大きかったスピニン

グ・リザーブ(主に周波数制御)、ランピング、タイム・シフトについて試算を行った。

試算の結果、インドで再生エネルギーの導入に伴う蓄電池の市場ポテンシャルは非常に

大きいことが分かった。

もっとも大きな市場は、タイム・シフトであり、330GWhであった。ランピングは

25GWhと算出されたが、本調査の試算上はランピングとタイム・シフトは重複する部分

がかなり大きいと考えられる。これは夕方のランピング対応で昼間に充電することを想定

して試算しているためである。また、スピニング・リザーブは蓄電池の特性の活かせる周

波数制御を対象として算出した結果、2GWhとなった。

その他に、系統向けではないが、比較感のために参考値としてオフグリッドの太陽光向

け市場(10GWh)とマイクロ・グリッド向け市場(5GWh)を算出した。

図 II-28 蓄電池の市場規模

出所)NRI

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4.1.2 スピニング・リザーブの市場規模

インドのスピニング・リザーブの中でも、蓄電池の特性が活かせる即応性の高いものを

代替するという想定で市場規模を推計した。具体的には、ドイツ市場で言うプライマリ

ー・コントロール(Primary control)に加えて、セカンダリー・コントロール(secondary

control)までを対象とした。

プライマリーとセカンダリーの合計容量については、CERCのレポート「REPORT OF

THE COMMITTEE ON SPINNING RESERVE(2015年 9月)」に記載されている CERC

の推計結果を用いている。CERCの推計結果が 2022年の石炭火力の設備容量(推計値)

に 5%のスピニング・リザーブ容量を乗じたものと規模感が一致したため、そのまま

CERCの推計結果を用いた。さらに、チリの Angaomos発電所の事例を適用して市場規模

を推計している。

推計の結果、スピニング・リザーブの市場規模は 2GWhとなった。

図 II-29 スピニング・リザーブの市場規模

出所)各種資料より NRI作成

4.1.3 タイム・シフトの市場規模

図 II-20より、インド全体において夕方の 6時から朝の 8時までの約 10時間に渡り電力

不足が生じているため、その電力不足量を昼間の電力余剰からシフトさせるという考え方

で試算を行った。その結果、タイム・シフトの市場規模は 330GWhと巨大なものとなっ

た。

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4.1.4 ランピングの市場規模

同じく、図 II-25より、インド全体において夕方の 6時から急激なダックカーブが発生

するため、この時間帯の想定外の需給変動に対応することを想定して、放電時間2~3時

間でのランピングの市場規模をロードカーブより推定した。

その結果、25GWhとなった。

4.1.5 オフグリッド太陽光向けの市場規模

MNREにより、需要家側への屋根設置型太陽光の導入量として 40GW が計画されてい

る。一方で、これまでの計画達成率から、実際の導入量としてはその 66%程度になると想

定した。さらに、専門家等へのヒアリングの結果から導入量の 30%程度がオフグリッドに

なり、その 15%の容量の蓄電池が 8時間分(朝 4時間、夕方 4時間放電)必要という想定

をした。

その結果、市場規模は 10GWhとなった。

4.1.6 マイクロ・グリッド向けの市場規模

インドのスマートグリッドロードマップによると、1万件のマイクロ・グリッドプロジ

ェクトが存在し、平均的に 500kW/件の規模となる。計画達成率を 66%とし、専門家等へ

のヒアリングの結果から、それぞれのマイクロ・グリッドに設備容量の 20%分の蓄電池が

8時間分(朝 4時間、夕方 4時間放電)必要という想定をした。

その結果、市場規模は 5GWhとなった。

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4.2 市場規模の推計事例

4.2.1 CSTEPによる推計

インドの CSTEP(Center for Study of Science, Technology & Policy)による蓄電池の市

場規模推計結果を以下に示す。

CSTEPの試算は、セグメント毎の導入量試算であり、用途別の試算ではない。また、

経済性評価などの試算は実施していない。

系統用(Grid Level Storage)の蓄電池容量は 300~350GWhと本調査での試算結果と近

くなっている。

図 II-30 CSTEPによる市場規模の推計結果

出所)CSTEP 2016年 1月の日印エネルギー対話での発表スライド、ベースは米印パートナーシップの

もとで 2015年 10月に実施された''Energy Storage for Renewable Deployment in India: Potential,

Economics and Technology Options''からの引用

本調査では、CSTEPに推計ロジックについてのヒアリングを実施しており、その結

果、比較的大胆な市場規模推計を実施していることが分かった。

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図 II-31 地方電化と屋根設置型太陽光向けの市場規模の推計方法(CSTEP)

出所)CSTEPへのヒアリングより NRI作成

4.2.2 IESAによる推計

インドの IESA(India Energy Storage Alliance)による蓄電池の市場規模推計が行われ

ており、レポート(有料)で公開されている。

IESAとのディスカッションの結果、本調査での市場規模推計と大きな違いはないこと

を確認した。

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5 蓄電池導入に必要となる政策提言(案)

本章では、有望なアプリケーションを絞り込んだ上で、海外のケーススタディからイン

ドで必要となる政策の提言を行う。

5.1 有望なアプリケーションの絞込み

ここまでに実施してきた経済性評価分析および市場規模分析の結果などから、有望アプ

リケーションの絞込みを行う。

5.1.1 メリット・デメリット分析

メリット・デメリットを整理すると、アプリケーション1「スピニング・リザーブ確保

義務の代替」、アプリケーション3「タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整」、ア

プリケーション6「屋根設置型太陽光の緩和」の3アプリケーションの優先順位が高いと

考えられる。特に、アプリケーション3と6は、技術面および運用面での課題があり今後

の開発が必要ではあるが、メリットが大きいと考えられる。

表 II-8 各アプリケーションのメリット・デメリット

出所)NRI

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5.1.2 日本企業の競争力の視点からの絞込み

日本企業の競争力の視点からの絞込みを行った結果、同様にアプリケーション1「スピ

ニング・リザーブ確保義務の代替」、アプリケーション3「タイム・シフトおよび再エネ

と既存発電の調整」、アプリケーション6「屋根設置型太陽光の緩和」の3つのアプリケ

ーションの優先順位が高いと考えられる。

日本企業の競争力の視点としては、以下の3つを取り上げた。

「技術面の難易度」、日本メーカの先進的な蓄電池はインド地場メーカの鉛蓄電池と比

較して高機能・高コストであるため、技術面での難易度が高いアプリケーションのほうが

有利である。

「経済性評価」、これは前述の分析通りであるが、日本企業の蓄電池で経済性評価の得

られないアプリケーションについては展開可能性が低い。

「政策・制度面の必要性」、政府間の協力、日本からの政策提言を考えると、既に制度

が整備されていて市場が存在するアプリケーションや、制度等の整備があまり必要とされ

ないアプリケーションの優先順位は下がる。

表 II-9 日本目線でのアプリケーションの絞り込み

5.2 アプリケーション1:スピニング・リザーブ確保義務の代替

スピニング・リザーブの確保義務を負うのは発電事業者であるため、蓄電池の導入を行

うのは発電事業者となる。

最も重要な施策は、5%のスピニング・リザーブ確保義務を徹底することである。先進国

で非遵守者への罰則を設けるケースは稀であるが、徹底するために罰則についても検討す

る余地がある。

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また、インドのスピニング・リザーブの定義が曖昧で、すべての区分を包含しているた

め、蓄電池の特長が活かしやすい区分けをする必要がある。この点については、CERCが

現在検討中であることが CERCのレポート「REPORT OF THE COMMITTEE ON

SPINNING RESERVE(2015年 9月)」に記載されている.

インセンティブについては、米国 PJMの Pay for Performanceルールが最も有名であ

る。蓄電池は従来の設備に比較して、即応性の高さ、放電量の多さなどハイスペックであ

るため、そのハイスペックに応じた対価が支払われるルールを設けることで蓄電池のイン

センティブとなる。

柔軟性については、米国やチリでも行われている、第三者による蓄電池の保有・サービ

ス提供を許容することが望ましい。

表 II-10 アプリケーション1

「スピニング・リザーブ確保義務の代替」に係る政策提言(案)

5.2.1 米国 PJMの Pay for Performance

PJMはレスポンスの速さに対する対価を支払うことを推奨する FERC ORDER755に倣

い、米国で最も早期である 2012年 10月に Pay for Performanceを導入した。

具体的には、負荷追従性の高いリソースに対して、より高い価値を支払うような市場価

格決定方法の導入であり、パフォーマンスの実績や便益係数等を基にパフォーマンスに対

する対価が計算され、市場価格が決定されている。

実際に、Pay for Performanceの導入前後で市場価格が 3倍程度高くなっている。

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図 II-32 米国 PJM のパフォーマンスを考慮した市場価格決定方法

出所)米国 PJM

表 II-11 Pay for Performance導入前後の市場価格

出所)米国 PJMデータより計算

5.3 アプリケーション3:タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整

系統安定維持の義務を負うのは送電系統運用者(TSO)であることから、蓄電池の導入

を行うのは送電系統運用者となる。

インドのグリッドコードでは、系統品質維持のために負荷遮断が主要な手段として許可

されているため、実際に多くの送配電系統運用者がコストをかけて供給を確保するよりも

負荷遮断を選択している。負荷遮断が許されている限りにおいては蓄電池を含むコストの

高い系統安定化対策の導入可能性は低い。

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つまり、系統全体を安定化し、負荷遮断を含む停電を極力回避するための責任を送電系

統運用者に負わせることが必要であり、多くの国で課題となる発送電分離による送配電事

業者の蓄電池保有の可否の法的位置付けが必要となる。

なお、経済性評価分析で示したように、例えば、蓄電池の導入による新規発電所の投資

回避効果が見込めるため、投資コストが高くても、相応の効果が見込めると考えられる。

表 II-12 アプリケーション3「タイム・シフトおよび再エネと既存発電の調整」

に係る政策提言(案)

5.3.1 イタリア TERNAのケース

イタリアの TERNAは、同国北側からの大量の電力輸入に加え、近年の南部における再

生可能エネルギーの大量導入が進み、南北に伸びたくし型の系統では安定運用を図ること

が困難との判断を早くからしていたため、その対策としてエネルギー貯蔵設備の保有・活

用を主張してきた経緯がある。

国際的に見て、TSOが蓄電池を含めたエネルギー貯蔵設備を保有して運用を行うという

ケースは稀である。そのため、政府・規制機関を始め、ステークホルダー間の議論が 2年

に渡り行われ、最終的に TSOとして電池を保有することの許可が得られた。

その間、研究機関や大学等を巻き込み、ビジネスケースを策定し、フィージビリティス

タディが実施され、蓄電池を含めたエネルギー貯蔵設備の経済性評価が検討された。経済

性評価の分析の結果、エネルギー貯蔵設備の導入が必ずしも経済性評価の高いものである

わけではないという結論となったため、TERNAは当面、実証レベルでの蓄電池導入を進

めることとなった。

2013年より、TERNA 主導による実証プロジェクトが開始されている。大きく2つのタ

イプの実証プロジェクトであり、Power Intensiveプロジェクトでは、40 MW の蓄電池を

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導入し、再生可能エネルギーが多く導入されたシチリア島およびサルディニア島における

電力システムの信頼性向上を目的としている。他方の Energy Intensiveプロジェクトで

は、高圧送電線における局所的な系統混雑の緩和を目的としている。

図 II-33 イタリア TERNAの実証プロジェクト

出所)TERNA - Terna 9M2013 Consolidated Results(2013年 11月)

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5.1 アプリケーション6:屋根設置型太陽光の緩和

系統安定維持の義務を負うのは配電小売事業者(DISCOM)であることから、蓄電池の

導入を行うのは配電小売事業者となる。

配電小売事業者に義務を負わせるにあたり、最も重要な施策はインセンティブ制度とな

る。末端の小売価格統制が存在するインドでは、配電小売事業者の財務状況が悪く、投資

余力が存在しない、または、投資しても結局、その投資回収ができない状況にある。現

状、多くの支援策が配電小売事業者に対して取られているものの、蓄電池への投資を行う

には、さらに追加的な支援策が必須となる。

送電事業者と同様に現状では系統安定化対策として負荷遮断が多く用いられているた

め、蓄電池の導入を促進するためには、配電事業者による負荷遮断を極力規制する必要が

ある。

表 II-13 アプリケーション6「屋根設置型太陽光の緩和」に係る政策提言(案)

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5.1.1 米国カリフォルニア州(CA州)のケース

CA州は、2020年に発電容量の 33%に相当する再生可能エネルギーが導入される見通し

である。特に今後増加するのは太陽光発電であり、系統運用がより困難となるためより即

応性の高いリソースやピークシフトが必要となる。

また、需要が伸びている一方で設備の老朽化が激しく、送配電系統への投資回避が必要

な状況もある。

このような状況を受けて、エネルギー貯蔵設備の導入規制(AB2514)が施行された。

規制を受けた電力各社は蓄電池等の導入目標を設定している。導入形態は、自社設備とし

ての保有だけでなく、PPAや共同所有等など複数パターン存在し、2020年までに 1.3GW

のエネルギー貯蔵設備の導入をすることとなっている。

表 II-14 AB2514による蓄電池の導入目標(MW)

出所)CPUC(California Public Utilities Commission)

導入のインセンティブとしては、蓄電池をはじめとした先進的なエネルギー貯蔵技術の

導入に対して、1.46$/W(ただし、~1MW の設備)のリベートが提供される。このリベー

トは非常に大きく、蓄電池導入時の初期費用をほぼ 100%カバーできると考えられる。

米国カリフォルニア州では、2020年まで継続的に$83M/年規模の補助金が拠出されるこ

とが決まっており、予算額のうち約 75%が蓄電池を含んだ、先進技術(emerging

technology)に適用されている。

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なお、その他に SGIP(Self Generation Incentive Program)という1MW 以下の需要家サ

イド設置のエネルギー貯蔵システムに対する補助金も設定されている。

表 II-15 カリフォルニア州のインセンティブ(2015)

出所)各種資料より NRI作成