電着によるサンゴ移植技術の調査研究 - japan …...長さ2.0 m , 幅1.5 m,...

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海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTECTR 21 (1989) 電着によるサンゴ移植技術の調査研究 大西 毅゛1 工藤 君明゛1 サンゴ礁造園技術の研究開発において,サンゴ礁の回復を人為的に加速,補強す るため,サンゴの無性生殖の能力を利用したサンゴ破片移植技術の研究を実施して いる。そのためサンゴ礁環境と共存できる人工のサンゴ礁構造物を構築し,サンゴ 破片を固着,増殖する技術を確立する。この目的を達成するため本研究では,電着 によるサンゴ移植技術について調査を実施しており,62年度はサンゴ破片を早期に, より確実に固着する電着条件について調べた。実験は水温が約9 ℃の海水循環型水 槽内で,棒状に加工したサンゴ試験片を用いて行い,固着力に優れた基盤構造と通電 条件について調査した。また沖縄県近海の高水温における電着力を推定するため, 一条件について25 ℃の水温の下でも実験を行った。 さらにサンゴ試験片をコンク リートブロックに水中ボンドで接着したものについて固着力を調査し,電着力の相 対的評価を行った。 キーワード:サンゴ礁造園技術,サンゴ破片移植,電着,基盤構造,通電条件 Investigation of Coral Colonization Technique by Electrodeposition Takeshi ONISHI *2 Kimiaki KUDO *2 In the coral reef project, in order to promote the recovery of coral reef arti- ficially,the research and developoment of coral colonization technique are schemed by means of reproduction of coral fragments. For this purpose, it is required to construct an artificial coral reef and ensure the settlement and colonization techni- que of coral fragments. As a means of coral colonization technique, the elec- trodeposition method was investigated. In 1987, the electrodeposition conditions to fix the coral fragments on the electrodeposition base with shorter period and with higher stiffening strength were studied. Experiments were performed in a seawater circulation tank where the temperature is about 9°C and using the coral specimens processed in a bar-shape, and the base structure and energizing conditions to get higher stiffening strength of coral specimens were studied. Moreover, to evaluate the water temperature in Okinawa, one experiment was made under 25°C. At the same time, as a relative 99 崋1 海洋開発研究部 ●2 Marine Research and Development Department

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Page 1: 電着によるサンゴ移植技術の調査研究 - Japan …...長さ2.0 m , 幅1.5 m, 深さ1.5 mのFRP製 水槽に1mの深さまで海水を入れ,1 m3 / h の割合で給・排水した。なお25

海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTECTR 21 (1989)

電着によるサンゴ移植技術の調査研究

大西  毅゛1 工 藤  君明゛1

サンゴ礁造園技術の研究開発において,サンゴ礁の回復を人為的に加速,補強す

るため,サンゴの無性生殖の能力を利用したサンゴ破片移植技術の研究を実施して

いる。そのためサンゴ礁環境と共存できる人工のサンゴ礁構造物を構築し,サンゴ

破片を固着,増殖する技術を確立する。この目的を達成するため本研究では,電着

によるサンゴ移植技術について調査を実施しており,62年度はサンゴ破片を早期に,

より確実に固着する電着条件について調べた。実験は水温が約9 ℃の海水循環型水

槽内で,棒状に加工したサンゴ試験片を用いて行い,固着力に優れた基盤構造と通電

条件について調査した。また沖縄県近海の高水温における電着力を推定するため,

一条件について25 ℃の水温の下でも実験を行った。 さらにサンゴ試験片をコンク

リートブロックに水中ボンドで接着したものについて固着力を調査し,電着力の相

対的評価を行った。

キ ーワード:サンゴ礁造園技術,サンゴ破片移植,電着,基盤 構造,通電条件

Investigation of Coral Colonization Technique by Electrodeposition

Takeshi ONISHI *2 Kimiaki KUDO *2

In the coral reef project, in order to promote the recovery of coral reef arti-

ficially, the research and developoment of coral colonization technique are schemed

by means of reproduction of coral fragments. For this purpose, it is required to

construct an artificial coral reef and ensure the settlement and colonization techni-

que of coral fragments. As a means of coral colonization technique, the elec-

trodeposition method was investigated.

In 1987, the electrodeposition conditions to fix the coral fragments on the

electrodeposition base with shorter period and with higher stiffening strength were

studied.

Experiments were performed in a seawater circulation tank where the

temperature is about 9°C and using the coral specimens processed in a bar-shape,

and the base structure and energizing conditions to get higher stiffening strength

of coral specimens were studied. Moreover, to evaluate the water temperature in

Okinawa, one experiment was made under 25 °C. At the same time, as a relative

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崋1  海洋 開発研究部

●2  Marine Research and Development Department

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evaluation of the electrodeposition ability, the coral specimens were fixed.on the

concrete block with bond and the stiffening strength was compared with elec-

trodeposition.

key word: coral reef project, coral fragment, colonization, electrodeposition, base

structure, energizing condition

1. は じ め に

沖縄のサンゴ礁は, 1970 年代後半の オニヒト

デの大発生と赤土などの被害により大きな打撃を

受け,自然の状態ではサンゴ礁が元の状態まで回

復するために数十年かかると予想されている1)'。

このサンゴ礁の回復を人為的に加速,補強する

ため,サンゴ礁造園技術の研究開発が着手され,

その中でサンゴの無性生殖の能力を活用したサン

ゴ破片の移植技術が主要技術課題としてとり挙げ

られた2)。

一般にサンゴはサンゴ破片の分散による無性生

殖の能力を有している3)。特に繊細な形の樹状種,

葉状種は波尽どの物理的な力によって壊されやす

いが,それらの破片は別の群体として成長を続け

る能力を有することが知られている。しかし自然

の状態では,これらのサンゴ破片は波等によって

動かされ,容易に岩盤へ固着することができない。

また海底が砂泥質の場合にも,底質の移動や砂に

よる埋もれ等のためサンゴが固着することはでき

ない。一方樹状のサンゴの死骸などは凹凸があり,

構造的にサンゴの固着,生育に適しているが,死

骨格は海綿などの穿孔を受けやすく,やがて崩れ

てしまう。そのため死骸上に固着したサソゴは基

盤ごと消失してしまう可能性が高い。これらの状

況から,自然の状態では,サンゴ破片が無性牛殖

の能力によって定着,繁殖する可能性は非常に低

いとされている。したがって,サンゴの無性生殖の

能力を利用したサンゴ破片の移植技術を確立する

ためには,サンゴ礁環境と共存できる人工のサン

ゴ礁構造物を構築し,サンゴ破片を固着,増殖す

る技術を確立する必要がある。この目的を達成す

るため本研究では電着によるサンゴ移植技術につ

いて調査を実施する。

電着は海中に陽極と,金網を主体とする鋼構造

100

物を陰極として設置し。その両極間に微弱な電流

を流すことによって海水中に溶存しているカルシ

ウムやマグネシュウムを陰極の表面に付着( 電着)

させ, コンクリート状の構造物を形成する技術で

ある。この電着をサンゴ移植技術に適応すること

によって次の効果が期待できる。

④  構造物本体は金網を主体とする構造物であ

るため,形状や大きさを海域環境に応じて任

意に設定することができる。

② 微弱電流を通電して電着形成するため,サ

ンゴ自身の固着力に電着力が重畳され,サン

ゴ破片を短期間に固着することができる。

③ 電着物の主成分はCaCo3 とMg (OH) 2

であり,サンゴ礁に近い基質であるため,サ

ンゴとの親和性に優れ海域環境にも適合した

基盤を形成することができる。

本研究では電着によるサンゴ移植技術を調査す

るため,サンゴ破片の固着・移植効果に関する基

礎的調査を行い,さらに人エノル(人エサンゴ礁)

を構築して,サンゴ破片の固着・移植技術を実証

する予定である。このため62年度はサンゴ破片を

早期に,より確実に固着する電着条件について調

査を行った4'・5)。 実験は水温が約9℃の自然海水

循環水槽内で,棒状に加工したサンゴ試験片を用

いて行い,固着力に優れた基盤構造と通電条件に

ついて調査した。ま・た沖縄近海の高水温における

電着力を推定するため,一条件について,25℃の

水温の下でも実験を行った。さらに電着固着力を

相対的に評価するため,サンゴ試験片をコンクリ

ートブロックに水中ボンドで接着したものについ

て固着力を調査し,電着固着力と比較したo

2. 調 査 内 容

サンゴ破片の形状は樹状,塊状,葉状等の各群

JAMSTECTR  21 (1989)

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体形状に大別されるが,いずれも複雑な立体形状

を有しているため,それらを基盤に確実に固着さ

せるためには,サンゴ破片の形状に適した基盤構

造と電着条件を明らかにする必要がある。

本調査では樹状サンゴ破片を想定したサンゴ試

験片を用いて,電着固着力に優れた基盤構造と通

電条件について検討を行った。基盤構造に関して

は,金網単板にサンゴ試験片を横置きする方式と,

二重金網にスチールウール及びグラスウールを封

入したものにサンゴ試験片を差し込む方式のもの

について調査した。また通電条件については,上

記の実験において最も高い固着力が得られた基盤

構造を用いて,通電条件と固着力の関係を調査し

た。なお実験は水温が約9℃の自然海水循環水槽

を用いて行ったが,沖縄近海の水温に対する評価

をも行うため,一条件について25℃の水温でも実

験を行った。さらに電着力に対する相対評価とし

て,サンゴ試験片をコンクリートブロックに水中

ボンドで接着したものについても固着力を調べ,

両者の比較を行った。

2.1. 調 査 方 法

図1に試験要領を示す。

山  実験材料及び装置

(a) サンゴ試験片

沖縄の海岸で採取した樹状サンゴの破片を写

真1に示すように,直径約10・ ,長さ約20皿の

棒状に加工し実験に使用した。

(b) 電着基盤

金網単板,金網・グラスウール基盤(二重金

網にグラスウールを封入)及び金網・スチール

ウール基盤(二重金網にスチールウールを封入)

の3種類の基盤について試験を行った。写真2

図1 試 験 要 領

Fig. 1 Testing met hod

写真1  サンゴ試験片

Photo. 1 Coral specirr χ?ns

(a)金網単板基盤

Single wire gauze base

(b)金網・スティールウール基盤(サンゴ試験

片差込み)

Wire gauze ・ steel wool base (coral

specimens inserted )

写真2 試 験 基 盤 の 一 例

Photo. 2 Samples c:f test bases

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に一例として,金網単板基盤及び金網スチール

ウール基盤を示す。

(c) 実験水槽

長さ2.0 m , 幅1.5 m, 深さ1.5 m のFRP製

水槽に1mの深さまで海水を入れ,1 m3 / h

の割合で給・排水した。なお25℃の水温に対す

る実験は小型の水槽を用いて行い,パイプヒー

ターにより水温を25℃に保持した。

(d) 陽 極 板

チタン基材に貴金属酸化物をコーティングし

た寸法50 皿 ×50 mm X 2 mm のエキスパンドメ

タルを使用し,電着ができるだけ均一となるよ

うに試験基盤上約50 cm の位置にセットした。

(e)電源装置

電流制御式直流電源(容量: 1~5A)を各

基盤に1台使用した。

(2) 測定及び評価

水槽内の水温及び電流,電圧を連続的に測定し

た。またサンゴ試験片の固着力を引張試験により

調査した。なお引張試験の値は試験片3本の平均

により求めた。

2. 2. 電着基盤構造の調査

サンゴ試験片を早期に,より確実に固着する電

着基盤構造について調査を行った。そのため最も

一般的に用いられる金網単板構造の外に,基盤と

サンゴ試験片との接触をより多くすることを目的

として,金網・グラスウール基盤及び金網・スチ

ールウール基盤を調査した。実験は所定の電流密

度(金網基盤表面積当りの電流値)で14日間電着

した後,サンゴ試験片の固着力を比較した。表1

に試験条件を示す。

2.3. 電着通電条件の調査

基盤を, 2.2 の実験で最も高い固着力が得られ

た金網・スチールウール構造とし,電流条件を一

定電流型と段階的(高→中→低)に変動させるフ

ェージング型の2種類について,電流値を変化さ

せて固着力を調査した。表2に試験条件を示す。

2.4. 固着力と水温の関係

表2において,A3基盤以外は全て水温約9℃

の自然海水で行った。一方沖縄近海の高水温に対

する評価を行うため,A3基盤に対して通電条件

をA2基盤と同一とし,水温を25℃として電着を

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表1 基 盤 構 造 と 試 験 条 件

Table l B ase structure and test condition

表 2  電 着 通 電 試 験 条 件

Table 2 E1 eetrodeposition eneregizing condition

行い固着力を調査した。

2.5. 水中ボンドによる接着力との比較

電着による固着力を相対評価するため,表2の

B1基盤において,サンゴ試験片をコンクリート

ブロックに水中ボンドで接着し,一定期間浸漬後

その固着力を電着力と比較した。

JAMSTECTR  21 ( 1989)

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3. 調 査 結 果

3.1. 電着基盤構造の調査

各試験基盤における電着物の付着状態,並びに

サンゴ試験片の固着力について調査を行った。

(1) 電着物の付着特性

・(a) 金網単板基盤

写真3(a),(b)に電流密度が0.2 mA/cm2 及

び1.0 mA/cm2 で14 日間電着した場合の基盤

状態を示す。これより電着量は電流密度が高い

ほど多く付着することがわかる。しかしサンゴ

試験片の引張試験後の電着物剥離状況より,電

流密度が0.2 mA/cm2 と低い場合には硬質の

電着物が形成されるが,電流密度が1.0 m A/

cm2と高い場合には軟質の電着物が形成されて

いる。

一般に電着形成量は電流密度と通電時間との

積に比例して増大するが,電着物の硬さは電流

密度が低い程硬くなり,電流密度が高い程軟化

する傾向にある。これは電着物の主成分である

CaCCh とMg(OH)2 の組成比率が,電流密度

が低い場合には硬質のCaCOa が多くなり厂電

流密度が高い場合には軟質のMg(OH) 2 が増

加することによる。

(b) 金網・グラスウール基盤

写真4に電着物の付着状況を示す。電流密度

が高いため,基盤表面には軟質の電着物が付着

している。一方サンゴ試験片を引き抜いた後の

穴の内面には電着物の形成がみられない。この

ことは,二重金網に非導電性のグラスウールを

封入しても電着は金網側にのみ付着し, グラス

ウール内部には形成しないことを示している。

この結果,グラスウールに差し込まれたサンゴ

試験片はほとんど固着されていない。

(c) 金網・スチールウール基盤

電着物の付着状況を写真5に示す。基盤表面

には,軟質の電着物が形成している。一方サン

ゴ試験片を引き抜いた穴の内面には電着物の形

成が認められる。これはスチールウールが通水

性の導電体であるため,スチールウールの内部

にまで電着通電が行われたことを示している。

またスチールウールは繊維状の非常に細い素線

で出来ているため,ウール全体の表面積が大き

くなり,素線表面の電流密度が小さくなる。こ

J AMSTECTR 21 ( 1989)

(a) 0.2 mA/cm2  ・ 14 days

(b) 1.0 m A / cm2 ・ 14 days

写真3  金網単板基盤の電着形成

P hoto. 3 Electrodeposition to single wire

gauze base

(1.0 mA/cm2  ・ 14days )

写真4 金網・グラスウール基盤の電着形成

Photo. 4 Electrodeposition to wire gauze ・

glass wool base

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( 1.0 mA/cm2  ・ 14 days )

写真 5 金網 ・スティーノレウーリレ基盤 の電着 形成

Photo. 5  Electrodeposition to wire gauze ・

steel wool base

のため各素線表面には比較的硬質の電着物が形

成されるものと考えられる。この結果,スチー

ルウール内に差し込まれたサンゴ試験片はスチ

ールウール内の電着により,全体的に固着され

るととなる。

図2は上述の各基盤構造に対する電着形成を

模式的に示したものである。

(2)固着力の比較

図3に金網単板,金網・グラスウール及び金網

・スチールウールの各基盤に対するサンゴ試験片

の固着力を示す。これより,金網・スチールウー

ル基盤が約1.1 kgと最 も高い値を示している。こ

れは前述のごとく,金網・スチールウール基盤で

は,スチールウール内に差し込まれた部分が全体

的に電着されるためである。また金網・グラスウ

ール基盤では,グラスウール内に電着物が形成し

ないため,電着による固着力はほとんど生じてい

ない。

一方金網単板基盤にサンゴ試験片が横置きされ

る方式では,電流密度が低く電着物が硬質の場合

に電着による固着力が認められるが,サンゴ試験

片と基盤とは2~3点で接触するのみであるため,

金網・スチールウール基盤に比べ固着力が低い状

態となっている。

上記調査結果より,サソゴ試験片の固着に対し

ては,基盤をスチールウールを封入した二重金網

構造とし,サンゴ試験片を差し込む方式が固着力

の面で優れていることが明らかとなった。

104

図2

Fig. 2

基盤構造 と電着形成

Base structure and el e ct rodeposi t i on

図3

Fig. 3基盤構造と固着力

Base structure and stiffening strength

JAMSTECTR  21 ( 1989)

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3.2. 電着条件と固着強度

基盤を,固着力に優れた金網・スチールウール

構造(二重金網にスチールウールを封入)とし,

サンゴ試験片を差し込む方式において,通電条件

と電着形成及び固着力との関係について調査を行

った。

(1) 通電条件と電着形成

写真6,7に,A4基盤(1500 mA 一定電流

条件)及びA8基盤(1500 mA フェージング電

流条件)の3日目及び14日目の電着状態を示す。

一般にスチールウールへの電着形成は電流が高い

程,また通電日数が長い程多くa:る傾向にある。

さらにA4基盤とA8基盤の3日目の比較では,

A8基盤の方が多く電着物が形成している。これ

はA8基盤においては初期に高電流( 3750 mA )

(b) 14 days

写真6 一定電流条件の電着形成(1500 mA )

Photo. 6 Electrodeposition under constant

current condition (1500 mA )

JAMSTECTR  21 ( 1989)

が通電されたためである。すなわちフェージング

条件では,初期の高電流時に比較的軟質の電着物・

が大量に付着した後,低電流時に比較的硬質の電

着物が形成し,全体として硬質と軟質の組み合わ

された組織(フェージング)を示す。このため,

一定電流型による均一組織の電着物に比べ剥離等

に対する抵抗力が増すものと考えられる。

(2) 通電条件と固着力

図4,5に一定電流条件における固着力と通電

日数, 固着力と電流値との関係を示す。これより,

サンゴ試験片に対する固着力は電流値及び通電日

数の増大に伴って増加する傾向にあり,上述の電

着形成と対応している。

次に,フェージング型通電条件における平均電

流密度と固着力との関係を図6に示す。これより,

(b) 14 days

写真7 フェージング電流条件の電着形成(平均-㎜-㎜ --・・1500 mA )

Photo. 7  Electrodepositi on under phasing

current condition (Ave. 1500 mA )

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図4

Fig. 4

3        7             .H

通 電 日 数 と 固 着 力( 一 定 電 流 条 件 )

Energizing period and stiffening

strength (const ant current condition)

図5 電流値と固着力(一定電流条件)Fig. 5 C urrent and stiffening strength

(constant current condition )

固着力は平均電流値が高い程大きくなる傾向にあ

るが,特にA8基盤(平均電流値1500 m A, 通

電日数14日)では一定電流条件のA4基盤(1500

mA ,通電日数14日)に比べ固着力が約3倍の3

k9に達し,電着物のフェージング効果が認められ

106

図6 平均電流値と固着力(フェージング電

流条件)

Fig. 6 Average current and stiffening

strength (phasing current condition )

る。

上記調 査結果より,通電条件としては電流値

を比較的高くし,さらにフェージング条件を採用

することが固着力の向上に有効であることがわか

った。

3. 3. 固着力と水温の関係

図4において,A3基盤は通電条件をA2基盤

と同一とし,水温のみを25℃の状態で電着した場

合の固着力 を示している。 これより水温が9 ℃

のA2基盤に比べ固着力が約2倍になっている。

これは水温が高い程硬質のCaCo3 の割合が増 す

ためである。この結果,水温の高い沖縄県ではよ

り短期間に固着力の高い電着物を形成できること

が考えられる。

3.4. 水中ボンドによる接着力との比較

図7に水中ボンドによる接着力と電着力との比

較を示す。これより,本実験では電着による固着

力は最も大きい場合(A8基盤),水中ボンドに

よる接着力の約1/2 に達している。電着による固

着力は,サンゴ試験片の差し込み深さや通電条件

JAMSTECTR  21 ( 1989)

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等を工夫することによってさらに増大させること

が可能であるため,電着はサンゴ破片の固着に対

して有効と判断される。

図7

Fig. 7

基 盤 の 種 類 と 固 着 力

Kind of base arχl stiffening strength

4. 結  言

4.1. 調 査 結 果

電着によるサンゴ移植の基礎的調査として,サ

ンゴ破片を早期に,より確実に固着する電着条件

について実験を行った。試験は水温が約9℃の自

然海水循環型水槽内で,樹状サンゴ破片を棒状に

加工した試験片を用いて行い,主に固着力に優れ

た基盤構造と通電条件について調査した。また電

着力に及ぼす水温の影響を調べるため,一条件に

ついて25℃の水温の下でも実験を行った。さらに

電着力を相対的に評価するため,サンゴ試験片を :

コンクリートブロックに水中ボンドで接着し,そ

れらの固着力を比較した。

(1)電着基盤構造

基盤をスチールウールを封入した二重金網構造

としサンゴ試験片を差し込むことにより,より確

実にサンゴ試験片を固着できることが確認された。

(2)電着通電条件

金網・スチールウール基盤においては,固着力

は電流及び通電日数の増大に伴って増加するが,

JAMSTECTR 21 ( 1989)

さらに電流を段階的(高→中→低)に変動させフ

ェージング効果を重畳することにより,固着力を

より一層向上させ得ることがわかった。

(3)固着力と水温の関係

25℃で電着されたサンゴ試験片の固着力は,9

℃の水温に対し約2倍の値を示した。この結果,

沖縄海域ではより高い固着力が期待できる。

(4) 電着力の相対評価

サンゴ試験片に対する電着固着力は水中ボンド

による接着力の約1/2の値を示した。この固着

力は,電着条件を工夫することによりさらに向上

させることが可能であることから,電着は固着力

の面でサンゴ破片の固着に有効と判断される。

4.2. 今後の課題

上記の調査結果より,サンゴ破片を固着するた

めの基本的な電着条件が明らかとなったが, 今後,

実際の生きたサンゴ破片を固着・移植する技術を

確立するため,沖縄県の実海域において以下の内

容について調査研究を行う予定である。

(1) 生サンゴ破片の電着固着条件の調査

(a)樹状,塊状,葉状等実際のサンゴ破片の形

状に適した基盤構造及び固定方法を調査する。

(b)生サンゴは,自らの石灰質の分泌により基

盤に固着する能力を有しているが,電着基盤を

。採用することにより,サンゴ自身の固着力に電

着力が重畳される結果固着強度の向上が期待さ

れる。このため,サンゴ破片を効率良く固着す

るための電着通電条件について調査を行う。

(2) サンゴ育成効果の調査

電着物の主成分はCaCo 3とMg(OH)2 であり,

サンゴ礁に似た基質を形成するためサンゴとの親和

性に優れる。そのため電着基盤に固着された生サ

ンゴについて生育度を調査し,サンゴの生育に適

した電着条件を明らかにする。

(3) サンゴ移植技術の実証研究

サンゴ礁造園モデル地区に実機規模の人エノル

(人エサンゴ礁)を構築し,サンゴ固着・移植技

術の効果を実証する。

5. お わ り に

本研究は海洋科学技術センターと沖縄県との共

同研究であるサンゴ礁造園技術の研究開発の一環

として行ったものであり,関係各位による御協力

を感謝いたします。

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参 考 文 献

1) サンゴ礁造園技術,海洋科学技術センターニ

ユース,なつしま, Na 90 (1987)

2) サンゴ礁造園技術の研究開発,研究計画書喇,

海洋科学技術センター( 1988)

3) 沖縄のサンゴ礁,琉球大学公開講座委員会

( 1986 )

4) サンゴ造園技術の研究開発,昭和62年度調査

研究報告書,海洋科学技術センター( 1988)

5) 電着技術のサンゴ固着・移植効果の研究,サ

ンゴ破片移植の電着条件に関する試験報告書,

海洋科学技術センター・三井造船㈱( 1988)

108

(原稿受理:1988 年11 月11 日)

JAMSTECTR 21 (1989)