日本の oda とngo の連携による...

48
ISFJ2015 最終論文 1 ISFJ2015 政策フォーラム発表論文 日本の ODA NGO の連携による カンボジアの貧困削減 1 ~マイクロファイナンスによる家畜保有支援~ 神戸大学 石黒研究会 国際分科会 堂本未央 小森亮人 畑田麻衣 山本佑樹 2015 年 11 月 1 本稿は、2015 12 5 日、6 日に開催される、ISFJ 日本政策学生会議「政策フォ―ラム 2015」のために作成した ものである。本稿の作成にあたっては、石黒馨教授(神戸大学)をはじめ、日本国際ボランティアセンター(JVC)、 HERO、国際開発救援財団(FIDR)、三原真智人教授(東京農業大学)、World Vision JapanAsia Community TrustACT)、かんぼれん、ヤシの木、テラ・ルネッサンスなど、多くの方々から有益且つ熱心なコメントを頂戴し た。ここに記して感謝の意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任はいうまでもなく筆者 たちの個人に帰するものである。

Upload: others

Post on 15-Oct-2019

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

ISFJ2015 最終論文

1

ISFJ2015 政策フォーラム発表論文

日本の ODA と NGO の連携による

カンボジアの貧困削減1

~マイクロファイナンスによる家畜保有支援~

神戸大学 石黒研究会 国際分科会

堂本未央

小森亮人

畑田麻衣

山本佑樹

2015年 11 月

1 本稿は、2015 年 12 月 5 日、6 日に開催される、ISFJ 日本政策学生会議「政策フォ―ラム 2015」のために作成した

ものである。本稿の作成にあたっては、石黒馨教授(神戸大学)をはじめ、日本国際ボランティアセンター(JVC)、

HERO、国際開発救援財団(FIDR)、三原真智人教授(東京農業大学)、World Vision Japan、Asia Community

Trust(ACT)、かんぼれん、ヤシの木、テラ・ルネッサンスなど、多くの方々から有益且つ熱心なコメントを頂戴し

た。ここに記して感謝の意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任はいうまでもなく筆者

たちの個人に帰するものである。

ISFJ2015 最終論文

2

要約

本稿の目的は、ODA による日本の国際社会における地位の向上、さらには貧困削減によ

るカンボジア経済の発展を通じた日本の経済利益の拡大のため、ODA の有効な利用法を提

案することである。

本稿の結論は、日本の ODA と NGO の連携によりマイクロファイナンスを利用した家畜

保有支援を行うことで、日本の国際社会における地位の向上及び、貧困削減によるカンボジ

アの経済発展を通じて日本の経済利益の拡大を図るという点である。

現在、国際社会では極度の貧困の撲滅や初等教育の完全普及などの 8 つの目標からなる

国連ミレニアム開発目標(MDGs)が定められており、本年度はその達成期限である。依然

として世界に数多く存在する様々な課題に対して、ODA はそれらの課題に対応するための

有効な手段とされているが、近年日本の ODA 予算額は減少傾向にある。限られた ODA 予

算を効率的に利用し、日本の国際社会における地位の向上、また日本の経済利益の拡大を図

るために、ODA の見直しは喫緊の課題である。本稿では、ODA の有効な利用法として ODA

と補完的な関係にある NGO に着目し、ODA と NGO の連携を用いた政策提言を行う。

カンボジアは東南アジアの中でも高い経済成長率を達成している国であるが、都市と農

村における格差は非常に大きい。カンボジア農村部での主要な収入源である農業は、土地の

限界の問題により長期的な収入の増加は見込まれないが、一方で土地の直接的制約を受け

ない畜産は農家の収入増加が期待できる。そこで本稿では、ODA と NGO の連携によるマ

イクロファイナンスを利用した家畜保有支援に焦点をあて、現状分析とカンボジア国内の

データを用いた実証分析、並びに政策提言を行う。

以下本稿の構成について述べる。

第 1 章では、問題意識及び現状分析について述べる。第 1 節では、ODA を通じた国際貢

献と、カンボジアに対する支援の意義について述べる。第 2 節では、カンボジアに対する日

本の ODA、日本の ODA と NGO の連携の現状について述べる。第 3 節では、カンボジア

の貧困についての現状分析を行う。

第 2 章では、貧困世帯の現状とその要因を明らかにするため、カンボジア並びに他地域

の農村において貧困世帯の動向を分析した先行研究を参照し、本稿の位置づけを行う。本稿

では、3 つの先行研究を参考にした。1 つ目が Likanan Luch(2012)“A Role of Remittances

for Smoothing Variations in Household Income in Rural Cambodia”、2 つ目が矢倉健次

郎(2008)『カンボジア農村の貧困と格差拡大』、3 つ目が櫻井武司,キムゼインガ・サバドゴ

「戦乱ショックと貧困-ブルキナ・ファソ農村の事例」である。さらに、これら 3 つの先行

研究に依拠した本稿のオリジナリティについて述べる。

第 3 章では、カンボジアの貧困に関する実証分析を行う。本稿では、カンボジア国内の州

別マクロデータを用いた重回帰分析とミクロデータを用いたプロビット分析をすることに

よって、貧困に影響を与える要因を分析した。分析の結果、マクロデータを用いた重回帰分

析では識字率が高い州ほど、また、豚保有数(1km2 当たり)および家禽類保有数(1km2 当た

り)が多い州ほど貧困率が低いということがわかった。ミクロデータを用いたプロビット分

析では米生産量、豚保有数、アヒル保有数が多い家計ほど収入が多いことが明らかとなった。

この分析により、貧困削減においては豚の保有が有効であることを説明する。

第 4 章では、家畜保有を通した貧困削減をおこなうために、ODA と NGO の連携による

マイクロファイナンスの導入と養豚支援について検討する。第 1 節ではカンボジア貧困削

減における課題と政策提言の概要を説明する。政策提言に際して行ったカンボジア農村部

での現地調査により、現在の養豚には、経済的課題、経営的課題、技術的課題の 3 つが存在

ISFJ2015 最終論文

3

することが明らかとなった。これらの課題を解決し、養豚による所得向上をはかるために、

I マイクロファイナンスの導入による養豚開始支援、Ⅱ母豚共同保有による養豚経営、Ⅲ養

豚技術指導の実施と飼料の統一、の 3 つの政策を検討する。

第 4 章第 2 節では、政策Ⅰマイクロファイナンスの導入による養豚開始支援について説

明する。具体的には初期費用が大きいために貧困農家が養豚を始められないという経済的

課題を解決するために、ODA のマイクロクレジット原資事業を用いて農家にマイクロクレ

ジットとマイクロ保険を導入する。低金利のマイクロクレジットによって初期費用を貸し

出すことで貧困農家でも養豚を開始しやすくし、グループでの積み立てによるマイクロ保

険を導入することで豚が死亡した際のショックを軽減し、養豚を開始する際の参入障壁を

低くする。

第 4 章第 3 節では、政策Ⅱ母豚共同保有による養豚経営について説明する。具体的には、

グループで共同保有する母豚が出産した子豚を分配し、育てて販売することで費用を抑え

る。また、育てた成豚をグループ単位で一括販売することで価格交渉能力を高め、効率的な

養豚経営を目指す。

第 4 章第 4 節では、政策Ⅲ養豚技術指導の実施と飼料の統一について説明する。具体的

には、養豚を行う過程で豚が死亡してしまったりうまく育たなかったりするという技術的

課題を解決するため、NGO の支援員が農家に対して養豚技術指導を行い、飼料を統一する

ことで豚の数と質の向上を目指す。

第 4 章第 5 節では、本稿の政策提言における費用について説明する。

以上の提言により、ODA の効率的な利用によるカンボジア農家の所得向上および貧困脱

却を図り、日本の国際社会における地位の向上と経済利益の拡大を目指す。

ISFJ2015 最終論文

4

目次

はじめに…6 頁

第1章 問題意識・現状分析…7 頁

第 1 節 問題意識…7 頁

第 1 項 ODA を通じた日本の国際貢献

第 2 項 対カンボジア支援の意義

第 2 節 対カンボジア ODA と NGO の貧困支援の現状…8 頁

第 1 項 日本の ODA

第 2 項 ODA の対カンボジア貧困支援

第 3 項 ODA と NGO の連携による対カンボジア貧困支援

第 3 節 カンボジアにおける貧困の現状…13 頁

第 1 項 貧困の定義

第 2 項 貧困の指標と達成状況

第 3 項 カンボジア農村部における貧困の現状

第 2 章 先行研究及び本研究の位置づけ…16 頁 第 1 節 Luch(2012)の研究…16 頁

第 1 項 ショックによる収入の変化

第 2 項 ショックに対する出稼ぎの影響

第 3 項 Luch(2012)のまとめ

第 2 節 櫻井・サバドゴ(2005)の研究…16 頁

第 1 項 出稼ぎの停止と家計の反応

第 2 項 脆弱性

第 3 項 櫻井・サバドゴ(2005)のまとめ

第 3 節 矢倉(2008)の研究…17 頁

第 1 項 家畜保有の現地調査

第 2 項 家畜保有を決定する要因

第 3 項 矢倉(2008)のまとめ

第 4 節 本稿の位置づけ…18 頁

第 3 章 カンボジアの貧困に関する実証分析…19 頁 第 1 節 分析の概要…19 頁

第 2 節 マクロデータを用いた重回帰分析…19 頁

第 1 項 モデル

第 2 項 変数の定義とデータの説明

第 3 項 推定結果

ISFJ2015 最終論文

5

第 3 節 ミクロデータを用いたプロビット分析…23 頁

第 1 項 モデル

第 2 項 記述統計

第 3 項 推定結果

第 4 節 分析のまとめと考察…26 頁

第 4 章 カンボジアの貧困削減のための政策提言…27 頁 第 1 節 貧困削減の課題と政策提言の概要…27 頁

第 1 項 貧困削減の課題―カンボジアにおける養豚の場合―

第 2 項 政策提言の概要

第 3 項 ODA と NGO の連携

第 4 項 支援の対象

第 2 節 経済的課題の改善―マイクロファイナンスの導入による養豚開始支援―…31 頁

第 1 項 農家グループの形成

第 2 項 マイクロクレジット

第 3 項 マイクロ保険

第 3 節 経営的課題の改善―母豚共同保有による養豚経営―…34 頁

第 1 項 母豚共同保有

第 2 項 成豚の一括販売

第 4 節 技術的課題の改善―養豚技術指導の実施と飼料の統一―…35 頁

第 1 項 養豚技術指導

第 2 項 飼料の統一

第 5 節 政策提言における諸費用…36 頁

第 1 項 養豚支援事業にかかる費用

第 2 項 NGO の運営費

おわりに…40 頁

付録…41 頁

先行論文・参考文献・データ出典

ISFJ2015 最終論文

6

はじめに

本稿の目的は、ODA による国際貢献を通じた日本の国際社会における地位の向上、さら

には貧困削減によるカンボジア経済の発展を通じた日本の経済利益の拡大のため、ODA の

有効な利用法を提案することである。現在、国際社会では極度の貧困の撲滅や初等教育の完

全普及などの 8 つの目標からなる国連ミレニアム開発目標(MDGs)が定められており、本

年度はその達成期限である。しかし、都市部と農村部の格差など、世界には依然として様々

な課題が存在している。MDGs の後続であり 17 の目標を掲げる「持続可能な開発目標

(SDGs)」が 2015 年 9 月に採択され、世界有数の経済大国である日本にはさらなる効率

的・効果的な ODA の活用による国際貢献が求められる。しかし近年、財政難を理由に日本

の ODA 予算額は年々減少している。MDGs や SDGs といった国際社会共通の開発目標の

達成に貢献することは、日本の国際的な地位を向上させることにも繋がるため、開発目標を

達成するための有効な手段であるとされる ODA の見直しは喫緊の課題である。

カンボジアは東南アジアの中でも高い経済成長率を達成している国であるが、都市と農

村における格差は非常に大きく、いまだに後発開発途上国(Least Developed Country:LDC)

に設定されている。日本はこれまでカンボジアに対して、ODA による多額の支援を行って

きているが、貧困者が最も多いとされる農村部にはあまり支援がなされていない。しかしカ

ンボジア農村部の発展に資する国際貢献は、カンボジア経済の発展を通じて、日本の経済利

益を拡大させることにも繋がる。そこで、ODA と補完的な関係にある NGO に着目し、ODA

と NGO の連携で ODA を見直す題材にカンボジアの貧困問題を取り扱うことにした。

本稿の結論は、日本の ODA と NGO の連携によりマイクロファイナンスを利用した家畜

保有支援を行うことで、日本の国際社会における地位の向上及び、貧困削減によるカンボジ

アの経済発展を通じて日本の経済利益の拡大を図るという点である。カンボジア農村部で

の主要な収入源は農業であるが、土地の限界の問題により長期的な収入の増加は見込まれ

ていない。そこで、土地の直接的制約を受けない畜産により農家の収入増加が期待できる。

家畜保有を行うにあたっては、(1)経済的課題、(2)経営的課題、(3)技術的課題の 3 つの課

題が存在する。マイクロファイナンスの導入(マイクロクレジット、マイクロ保険)や、母

豚の共同保有、NGO を主導とした養豚技術指導等を行い、これらの課題を解決することで、

カンボジアにおける農村世帯の所得向上、貧困削減が可能となる。以上の提言より、カンボ

ジア農村部の貧困問題は解消され、カンボジアの持続的な経済発展が見込まれる。日本の支

援によるカンボジアの経済発展は、日本の国際社会における地位が向上するだけでなく、日

本の経済発展も期待できる。

以下、本稿の構成について説明する。第 1 章では、問題意識及びカンボジアの現状分析を

述べる。第 1 節では問題意識、第 2 節では対カンボジア ODA と NGO の貧困支援の現状、

第 3 節ではカンボジアにおける貧困の現状分析を行う。第 2 章では貧困世帯の現状とその

要因を明らかにするため、カンボジア並びに他地域の農村において貧困世帯の動向を分析

した先行研究を参照し、本稿の位置づけを行った。第 3 章では家畜の保有が貧困削減に与

える影響を調べるため、カンボジア国内の(1)州別マクロデータを用いた重回帰分析と、(2)

世帯別ミクロデータを用いたプロビット分析を行う。(1)州別マクロデータを用いた重回帰

分析では、貧困率に影響を与える要因を明らかにし、(2)世帯別ミクロデータを用いたプロ

ビット分析では、所得を向上させる要因を明らかにする。第 4 章では貧困世帯における家

畜保有促進のための政策提言を行う。第 1 節では家畜保有をするにあたっての課題を明ら

かにし、政策提言の概要を述べる。第 2 節ではマイクロファイナンスの導入、第 3 節では

母豚の共同保有、第 4 節では養豚技術指導についてそれぞれ説明する。最後に第 5 節にお

いて以上の政策提言に必要な費用を述べる。

ISFJ2015 最終論文

7

第 1章 問題意識・現状分析

第 1節 問題意識 第 1 項 ODA を通じた国際貢献

現在、国際社会では極度の貧困の撲滅や初等教育の完全普及などの 8 つの目標からなる

国連ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)2が定められており、

本年度はその達成期限である。2015 年 7 月 6 日に発表された MDGs の報告書3によれば、

2 億人以上が飢餓から抜け出すことができ、MDGs はこれまでの歴史でもっとも成功した

貧困削減の取り組みであったとしているが、都市部と農村部の格差や基本的サービスへの

アクセスが乏しいなど、世界には依然として様々な課題が存在している。ODA はこれらの

課題に対応するための有効な手段とされているが、日本の ODA は経済インフラ(運輸・通

信等)への支援に偏重しており、効率的な支援がなされているとは言い難い。MDGs の後続

であり 17 の目標を掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)4」が 2015 年 9 月に採択され、世

界有数の経済大国である日本には、ODA の改善を通じたさらなる効率的・効果的な国際貢

献が求められる。MDGs や SDGs といった国際社会共通の開発目標の達成に貢献すること

は、日本の国際的な地位を維持・向上させることに繋がる。

MDGs が制定されて以来、日本は目標を達成するための有効な手段であるとされる ODA

を活用し、積極的に MDGs の達成に貢献してきた。しかし近年、財政困難を理由に ODA の

予算額は減少傾向にある。日本は慢性的な財政赤字であり、更に東日本大震災の復興予算や、

2020 年開催予定である東京オリンピック関連の予算も必要となっていることから、ODA の

予算が増加する見込みはない。そこで本稿では、ODA の有効な利用法として、ODA と NGO

の連携を用いた政策提言を行う。豊富な資金力から大規模かつ広範囲な支援を行うことが

可能であるが、地域のニーズを直接的に反映した草の根レベルの支援が難しい ODA と、草

の根レベルの支援を得意とするが大規模な支援に必要な資金をもたない NGO、両者の取り

組みを補完し合うことで、より効率的で効果的な国際貢献が可能となる。

第 2 項 対カンボジア支援の意義

カンボジアは東南アジアの中でも高い経済成長率を達成している国であるが、都市と農

村における格差は非常に大きく、いまだに後発開発途上国(Least developed country:LDC)

に設定されている。近年の傾向として貧困率の低下がみられるが、実際には貧困線をわずか

に上回っただけで容易に貧困状態に転落しうる家計が多く存在すると考えられる。

日本はカンボジアの最大の援助国であることから、ODA はこれまで多額の支援を行って

きているが、貧困者が最も多いとされる農村部にはあまり支援がなされていないのが現状

だ。カンボジアの経済発展に資する国際貢献は、カンボジア経済の発展を通じて、日本の経

済利益を拡大させることにも繋がる。そこで、ODA と NGO の連携で ODA を見直す題材

にカンボジアの貧困問題を取り扱うことにした。

本稿では、ODA と NGO の連携による、マイクロファイナンスを利用した家畜保有支援

に注目する。カンボジア農村部での主要な収入源は農業であるが、土地の限界の問題により

長期的な収入の増加は見込まれていない。そこで、土地の直接的制約を受けない畜産により

農家の収入増加が期待できる。家畜保有を行うにあたっては、(1)経済的課題、(2)経営的課

2 国連ミレニアム開発目標(MDGs)とは、開発分野における国際社会共通の目標のこと。2000 年 9 月にニューヨーク

で開催された国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言を基にまとめられたものであり、2015 年ま

でに達成すべき 8 つの目標を掲げている。(外務省「ミレニアム開発目標(MDGs)とは」) 3 国際連合広報センター「国連ミレニアム開発目標報告 2015」。 4 国連開発計画「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」。

ISFJ2015 最終論文

8

題、(3)技術的課題の 3 つの課題が存在する。マイクロファイナンスの導入(マイクロクレ

ジット、マイクロ保険)や、母豚の共同保有、NGO を主導とした養豚技術指導等を行い、

これらの課題を解決することで、カンボジアにおける農村家計の所得向上、貧困削減が可能

となる。

以上の提言より、カンボジア農村部の貧困問題は解消され、カンボジアの持続的な経済発

展が見込まれる。日本の支援によるカンボジアの経済発展は、日本の国際的な地位が向上す

るだけではない。経済発展を通じてカンボジアが日本の経済パートナーとなることで、投資

と貿易の拡大が見込まれ、日本の経済利益の拡大も期待することができる。

第 2節 対カンボジア ODA と NGO の貧困支援の現状 第 1 項 日本の ODA

(1)日本の ODA の概要

2 国間 ODA5の援助形態は①有償資金協力(円借款)、②無償資金協力、③技術協力があ

る(図表 1 参照)。①有償資金協力とは、開発途上国に対し低金利で返済期間の長い緩やかな

条件で開発資金を貸付ける援助形態であり、インフラ建設等の支援に効果的とされる6。②

無償資金協力とは、開発途上国が経済社会開発のために必要な資機材、設備及びサービスを

購入するために必要な資金を贈与する援助形態であり、国際社会のニーズに迅速かつ機動

的に対応するための有効な手段となる7。③技術協力とは、開発途上国の経済社会開発の担

い手となる人材を育成するため、日本の技術や技能、知識を開発途上国に移転、あるいはそ

の国の実情にあった適切な技術などの開発や改良を支援するとともに、技術水準の向上、制

度や組織の確立や整備などに寄与する援助形態のことである8。日本政府が行う技術協力に

ついては、研修員受入、技術協力専門家派遣などがあり、国際協力機構(JICA)が中心的な役

割を担っている。

図表 1 ODA の援助形態

出所)外務省「開発協力の形態」9より筆者作成

図表 2 は日本の ODA 予算額の推移を表している。高度経済成長期にあたる 1960~70 年

代にかけて支援額は増加し、1989年にはアメリカを抜いて世界 1位のODA拠出国となる。

しかし、1997 年まで恒常的に増加していた支援額は年々減少し、2007 年には ODA 拠出額

世界 5 位に転落した。2015 年度予算は 5422 億円であり、最も多かった 1997 年に比べる

5ODA とは Official Development Assistance(政府開発援助)の略称。政府または政府の実施機関によって開発途上国

または国際機関に給与されるもので、開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上に役立つために行う資金・技術提供

による公的資金を用いた協力のこと。(外務省「ODA って何だろう」) 6外務省「援助形態別の概要・取組 有償資金協力」。 7外務省「援助形態別の概要・取組 無償資金協力」。 8外務省「援助形態別の概要・取組 技術協力」。 9外務省「国際協力の形態」。

ODA

二国間援助

政府貸付有償資金協力

・プロジェクト借款

・ノンプロジェクト借款

贈与

無償資金協力

・一般プロジェクト

・日本NGO連携無償

・草の根、人間の安全保障無償 等

技術協力

・専門家派遣

・機材給与

・留学生受入 等

多国間援助

ISFJ2015 最終論文

9

と、約半分の規模にまで減少していることが分かる。

図表 2 ODA 一般会計予算額の推移 (単位:億円)

出所)外務省「ODA 予算」10より筆者作成

(2)日本の ODA の特徴

日本の ODA の特徴としては、①アジアへの支援が多いこと、②有償資金協力(円借款)

の比率が高いこと、③経済インフラが中心となっていることの 3 つが挙げられる。

①アジアへの支援が多いこと

日本の ODA の配分は、ASEAN 諸国や中国などのアジア地域、中東・北アフリカ、サブ

サハラ・アフリカが中心であるが、全体の約 3 割をアジアが占めている11。日本と密接した

関係にあるアジア地域においては、日本の安全と繁栄において重要な地域であることを踏

まえ、多額の支援が行われている。

②有償資金協力(円借款)の比率が高いこと

2013 年度において、日本の 2 国間 ODA は有償資金協力(円借款)が全体の半分を占め

ているが12、DAC13主要国においては ODA のほとんどが贈与であり、ODA 全体に占める借

款の比率が高いことは日本だけの特徴である。多くの先進諸国の ODA は、経済インフラ

(道路や鉄道の建設)から社会インフラ(教育や保健支援)へと重心をシフトしている。

③経済インフラが中心となっていること

図表 3 は 2013 年度における日本の 2 国間 ODA の分野別実績である。道路や鉄道の建設

といった経済インフラが 54%と一番多く、次に学校建設といった教育支援や保健支援の社

会インフラが 21%となっている。一方で、農林水産業への支援は 4%と非常に少ない。

慢性的な財政難により、ODA 予算額が近年減少傾向にある日本において、償還が必要と

なる有償資金協力が経済インフラに多く使用されることは必然であるのかもしれない。し

かし、発展途上国において多くの人口が従事する農林水産業への支援が少ないことから、相

手国への事情・真のニーズに則した、効率的な援助がなされているとは言い難い。

10外務省「ODA 予算」。 11 外務省(2015)「2014 年度版 政府開発援助(ODA)白書」189 頁。 12 外務省(2015)「2014 年度版 政府開発援助(ODA)白書」186 頁。 13 DAC(Development Assistance Committee-開発援助委員会)とは、①対途上国援助の量的拡大とその効率化を図

る。②加盟国の援助の量と質について定期的に相互検討を行う。③贈与ないし有利な条件での借款の形態による援助の

拡充を共通の援助努力によって確保する。の 3 項目を目的とし、OECD 加盟国中の 28 ヵ国と、欧州連合(EU)の合計

29 メンバーから成る。(外務省「OECD 開発援助委員会(DAC)の概要」

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

ISFJ2015 最終論文

10

図表 3 日本の 2 国間 ODA の分野別実績(2013 年度)

出所)外務省(2015)「2014 年度版 政府開発援助(ODA)白書」14より筆者作成

第 2 項 ODA の対カンボジア貧困支援の現状

カンボジアに対する経済協力は 1959 年に始まり、これまでに技術協力、無償資金協力、

有償資金協力や日本初の PKO 派遣等、きめ細やかな支援を行っており、日本はカンボジア

に対する最大の援助国となっている。

(1)ODA の対カンボジア援助方針

対カンボジア国別援助方針15によると、日本がカンボジアを援助する意義として以下の 4

点を挙げている。①30 歳以下の若年層が人口の半数以上を占めていることから、更なる成

長が見込まれること、②カンボジアの復興・開発に積極的に関与し、平和構築支援の成功例

となっていること、③日経企業が多数進出する製造業などの重要拠点としての基盤整備が

進んでいること、④日本はカンボジアの最大の援助パートナーであり、国際場裏の各種課題

について日本を支持する立場であること。

また日本はカンボジア政府の掲げる「四辺形戦略」16を基盤とする開発戦略達成を支援し

ており、援助の基本方針、重点分野、開発課題をまとめたものが以下の図表 4 である。

図表 4 対カンボジア援助方針

出所)外務省(2012)「対カンボジア王国 国別援助方針」17より筆者作成

(2)対カンボジア ODA の支援実績

図表 5 は 2009 年度から 2013 年度までの支援実績を表している。平均して年間約 185 億

14 外務省(2015)「2014 年度版 政府開発援助(ODA)白書」198 頁。 15 外務省(2012)「対カンボジア王国 国別援助方針」。 16 四辺形戦略とは、グッドガバナンスを中心的課題とし、農業分野の強化、インフラの復興と建設、民間セクターの

開発と雇用創出、能力構築と人材開発の 4 点を重点課題とした国家戦略のこと。(外務省「対カンボジア王国 国別援

助方針」)

17 外務省(2012)「対カンボジア王国 国別援助方針」。

21%

54%

4%3%

18%

社会インフラ 経済インフラ 農林水産業 工業・建設業 商品援助

援助の基本方針 重点分野 開発課題

①経済基盤の強化(a)経済インフラの整備(b)民間セクターの強化(c)農業・農村開発

②社会開発の促進

(a)上下水道インフラの整備(b)保健医療の充実(c)教育の質の改善(d)対人地雷除去

③ガバナンスの強化 (a)ガバナンスの強化

着実かつ持続可能な経済成長と均衡のとれた発展

ISFJ2015 最終論文

11

円が支援されており、2013 年度の支援累計額は円借款(有償資金協力)が約 89 億円、無償

資金協力が約 75 億円、技術協力が約 39 億円となっている18。2010 年度と 2012 年度にお

いては対カンボジアの円借款は行われていないが、近年では円借款の割合が大きいのがみ

てとれる。

図表 5 対カンボジア援助形態別実績 (単位:億円)

出所)外務省「国別データブック」より筆者作成

ODA の対カンボジア貧困支援19は、2002 年から 2015 年までに 6 件行われている(付録

1 参照)。しかし ODA がカンボジアに対して行ってきた支援案件の多くは、道路や橋の建

設といったインフラ整備がほとんどであり、貧困問題に対しては支援があまり行われてい

ない。

第 3 項 ODA と NGO の連携による対カンボジア貧困支援

2015 年 10 月現在、カンボジアで活動する日本の NGO は 68 団体20存在し、それぞれの

団体の支援内容は農村開発、教育、小規模融資など多岐にわたる。

ODA は先進国から直接的に、或いは国際機関を通じて間接的に途上国政府機関に資金や

技術を提供する。一方で NGO は、直接または現地 NGO を通じて支援活動をすることによ

り、地域に根ざした草の根レベルの支援が可能である。2 つの援助は互いに性質が異なるた

め、両者の取り組みを補完し合うことで、より効率的で効果的な国際貢献が可能となる。

(1) ODA と NGO の連携支援制度

ODA と NGO の連携は、主に「資金協力」、「活動環境整備」、「対話」の 3 つの方法に大

別することができる。「資金協力」は、日本の NGO が海外での事業等の際に必要とする資

金を提供するものであり、さらに①日本 NGO 連携無償資金協力、②NGO 事業補助金、③

草の根・人間の安全保障無償資金協力、④草の根技術協力事業に分類される。以下①~④の

概要を説明する。

①日本 NGO 連携無償資金協力21

日本の NGO が開発途上国・地域で行う経済社会開発事業に外務省が資金協力を行う制度

である。支払い限度額は事業によって、1000 万~1 億円まで様々であり、支援対象となる

事業は、開発協力事業、NGO パートナーシップ事業、リサイクル物資輸送事業、緊急人道

18外務省「国別データブック」。 19カンボジアにおいては、農産業に従事する人口割合が多いこと、また第 3項にて後述の通り農村部の貧困者が多いこ

とから、貧困支援の実績については農村・農業分野に絞って見ていくこととする(保健医療、教育 等は含まない)。 20 JANIC「NGO ダイレクトリー カンボジア」。 21外務省「日本 NGO 連携無償資金協力 申請の手引き」。

0

50

100

150

200

250

2009 2010 2011 2012 2013

円借款(有償資金協力) 無償資金協力 技術協力

ISFJ2015 最終論文

12

支援事業、地雷関係事業、マイクロクレジット原資事業、平和構築事業である。また資金供

与額は年々増加しており、2012 年度には約 36 億円が使われた。22

②NGO 事業補助金23

NGO の事業実施能力や専門性の向上のため、NGO の事業促進に資する活動を支援する

ための制度である。交付限度額は総事業費の 2 分の 1、かつ 200 万円以下。対象事業は、プ

ロジェクト調査事業、国内における国際協力関連事業、海外における国際協力関連事業の 3

事業である。

③草の根・人間の安全保障無償資金協力24

開発途上国における経済社会開発を目的とし、現地において実施する比較的小規模な事

業(原則 1000 万円以下の案件)に対して資金協力を行うものである。機動的な対応が可能

な「足の速い援助」であるという特徴を持つ。

④草の根技術協力事業25

国際協力の意志を持つ日本の NGO、大学、地方自治体及び公益法人等の団体による、開

発途上国の地域住民を対象とした協力活動を、JICA が ODA の一環として、促進し助長す

ることを目的に実施する事業のことである。開発途上国の人々の生活改善・生計向上に直接

役立つ分野で、草の根レベルの活動が行われる事業が対象となる。また、対象となる支援団

体、事業規模、事業期間により、(a)地域提案型、(b)草の根協力支援型、(c)草の根パートナ

ー型の 3 種類に分類される。以下それぞれについて概要を記す。26

(a)地域提案型

【対象団体】地方自治体、自治体と連携する団体等

【事業期間】3 年以内

【事業規模】3000 万円以内

(b)草の根協力支援型

【対象団体】国際協力の経験が少ない団体(国内外での活動経験が 2 年以上)

【事業期間】3 年以内

【事業規模】2500 万円以内

(c)草の根パートナー型

【対象団体】国際協力の経験が豊富な団体(国際協力活動実績が 2 年以上、日本の法人

格を有している)

【事業期間】5 年以内

【事業規模】1 億円以内

(2)実績

2003年から2015年の期間に行われていた、カンボジアの貧困問題に対するODAとNGO

の連携支援件数は 10 件である(付録 2 参照)。この貧困支援の総額は約 4 億 5 千万円であ

り、これは対カンボジア支援総額約 65 億円の 1 割にも満たない27。

22 外務省「国際協力と NGO」5 頁。 23外務省「国際協力と NGO NGO 事業補助金」。

24外務省「国際協力と NGO 草の根・人間の安全保障無償資金協力」。

25 JICA「草の根技術協力事業って何?」。

26 外務省「国際協力と NGO」13 頁。 27 外務省「日本 NGO 連携無償資金協力実績一覧」。

外務省「NGO 事業補助金実績一覧」。

外務省「草の根・人間の安全保障無償資金協力 国別約束情報」。

JICA「草の根技術協力事業 国別事業一覧(カンボジア)」。

ISFJ2015 最終論文

13

第 3 節 カンボジアにおける貧困の現状 第 1 項 貧困の定義

(1)貧困線

本稿において扱う貧困とは、カンボジア国家貧困線をみたす収入がない状態である。カン

ボジアにおいて定められている国家貧困線とは、1 人が 1 日に必要最低限のエネルギーとし

て 2200 キロカロリーの食料を確保するのに必要な金額に、生活上必要と考えられる食料以

外の支出額を加えて算出される28。貧困線は地域ごとの生活水準を考慮して定められており、

首都プノンペン、その他都市部、農村部でその水準は異なっている。

(2)貧困率

カンボジア政府の定める貧困率は、都市部、農村部ごとの貧困線以下の人口を各地域の総

人口で割ることで求められる。図表 6 は、2009 年における地域ごとの貧困線の水準と貧困

率を示したものである。

図表 6 2009 年地域別 1 人当たり貧困線・貧困率

1 日当たり貧困線

(米ドル)

月当たり貧困線

(米ドル)

貧困率

(%)

プノンペン 1.53 46.55 12.8

その他都市部 1.05 31.92 19.3

農村部 0.84 25.69 24.6

カンボジア全体 0.93 28.39 22.9

出所) ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY

ANALYSIS 2014” P.5 29より筆者作成

第 2 項 貧困の指標と達成状況

貧困状態を計測する指標として、国際社会において 1990 年から 2015 年の間までに達成

すべき課題をまとめたミレニアム開発目標(MDGs)が定められている。また、カンボジア国

内では MDGs における指標をカンボジアの実情に沿うように変更したカンボジアミレニア

ム開発目標(CMDGs)が定められている。それぞれ貧困問題について極度の貧困と飢餓の撲

滅という共通のゴールに対し、より具体的なターゲットが複数定められている。MDGs と

CMDGs において、特に貧困率と関係したターゲットを以下の図表 7 で示した。

図表 7 MDGs と CMDGs におけるゴールとターゲット

ゴール ターゲット

MDGs

極度の貧困と

飢餓の撲滅

2015 年までに 1 日 1.25 ドル未満で生活する人

口の割合を 1990 年の水準の半数に減少させる

CMGDs

国家貧困ライン以下で生活する人口の割合を

19.5%以下に減少させる

出所) 外務省「ミレニアム開発目標(MDGs)とは」30

Ministry of Planning (2013) “CMDG Annual Progress Report 2013” P.531より筆者作成

MDGs の指標については、世界全体の開発途上国の貧困率が 1990 年の 26.7%から 2010

28 ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY ANALYSIS 2014” P.4

29 ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY ANALYSIS 2014” P.5

30 外務省「ミレニアム開発目標(MDGs)とは」。

31 Ministry of Planning (2013) “CMDG Annual Progress Report 2013” P.5

ISFJ2015 最終論文

14

年には 22.0%を記録した32。カンボジア国内においても 1 日 1.25 ドル未満で生活する人口

の割合は 1993 年の 39%から 2010 年には 10%33にまで低下しており、MDGs における指

標はすでに達成状態にあるといえる。一方で CMDGs についても、国家貧困線による貧困

率も減少傾向を示しており、2007 年には 47.8%であった貧困率は 2012 年には 20.0%34を

記録していることから、達成に向かいつつあるように見える。

第 3 項 カンボジア農村部における貧困の現状

前項にて指摘したように、カンボジア全体の貧困率は減少傾向にあるが、カンボジア国内

の貧困率は地域によって異なっている。図表 8 は地域ごとの貧困率の推移を示したもので

ある。

図表 8 カンボジア地域別貧困率推移

出所) ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY

ANALYSIS 2014” P.4 35より筆者作成

図表 8 で示されたように、地域ごとの貧困率の差は収束していく傾向にあるものの、農

村部の貧困率が都市部を上回っているのが現状である。図表 9 は、カンボジアの地域別の 1

世帯における月当たり実質収入額(2010 年基準)を示したものである。

図表 9 地域別の 1 世帯月当たり実質収入額(2010 年基準, 単位:千リエル)

2009 2010 2011 2012 2013

プノンペン 1,961.5 1,987 1,919 2,048.2 2,814

その他都市部 1,059.2 1,504 1,236.5 1,633.3 2,361.2

農村部 541.6 697 768 886.2 1,040.9

出所) Cambodia National Institute of Statistics (2013) “Cambodia Socio Economic

Survey Tables 2013 Income” 36

Index mundi(2014) “Cambodia-Consumer price index”37より筆者作成

32 国連開発計画(UNDP) 「ミレニアム開発目標 極度の貧困と飢餓の撲滅」。 33 ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY ANALYSIS 2014” P.8 34 ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY ANALYSIS 2014” P.4 35 ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY ANALYSIS 2014”P.4

36 Cambodia National Institute of Statistics (2013) “Cambodia Socio Economic Survey Tables 2013 Income” 37 Index mundi(2014) “Cambodia-Consumer price index”

0

5

10

15

20

25

30

35

2008 2009 2010 2011 2012

プノンペン その他都市部 農村部 カンボジア全体

ISFJ2015 最終論文

15

図表 9 より、各地域とも収入金額が上昇する傾向にあるが、首都であるプノンペンと農

村部では収入額に 2 倍以上の格差が存在している。

農村部の収入上昇傾向の要因としては農業技術の向上や米価の上昇が指摘されているが

これらの農業と関連した要因以外に村外への出稼ぎからの仕送りも大きな要因となってお

り、カンボジア農村部の 40.6%が農業以外に国内外への出稼ぎ労働からの仕送りを受け取

っているという報告がある38。そのため、農村での収入の増大が農村の発展のみで達成され

ているかは不透明である。

さらに、MDGs における貧困線を上回った家計においてもその脆弱性が指摘されている。

Asian Development Bank (2014) CAMBODIA COUNTRY POVERTY ANALYSIS 2014 に

おける 2011 年の数値において、国家貧困線以下の貧困率はプノンペンでは 10.9%、その他

都市部では 22.5%、農村部では 20.7%であり、カンボジア全体の貧困率は 19.8%であった。

一方で、1 日の消費額が 2 ドル以下の人口はカンボジア全体の 41%、3 ドル以下の人口は

72%にも達している39。これらの所得水準の人々は国家貧困線の水準は上回っているため貧

困状態とは定義されないが、貧困に対して脆弱な状態であり、所得に対して何らかのショッ

クが加わった場合には容易に貧困状態に転落する可能性がある。これらの分析により、カン

ボジア農村部において貧困率の減少が見られるものの、都市部との収入格差に加え、農村外

への出稼ぎによる収入への依存や、貧困に対し脆弱な家計が多く存在することから貧困か

らの脱却が順調に進んでいるとは言えない状況にある。

38 ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY ANALYSIS 2014” P.10

39 ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY ANALYSIS 2014” P.8

ISFJ2015 最終論文

16

第 2章

先行研究及び本研究の位置づけ

前章において、私たちはカンボジア農村部における都市部との収入格差、出稼ぎの影響

の大きさ、貧困への脆弱性を指摘した。本章ではこれらの問題点を対象とした先行研究を

参照し、問題点の具体的な影響や解決策について検証する。Luch(2012) “A Role of

Remittances for Smoothing Variations in Household Income in Rural Cambodia”では農

村家計における出稼ぎの影響を分析し、家計へのショックに対する出稼ぎの有効性を検証

している。 櫻井・サバドゴ (2005)「戦乱ショックと貧困- ブルキナ・ファソ農村の事

例」では出稼ぎが途絶えた際の家計の行動を分析することで貧困への脆弱性を低下させる

要因を分析している。矢倉(2008)「カンボジア農村の貧困と格差拡大」はカンボジア農村

部の収入向上の手段として家畜の保有に着目し、家畜保有を促進する要因を分析してい

る。

第 1 節 Luch(2012)40の研究 第 1 項 ショックによる収入の変化

第 1 の先行研究では、カンボジア経済社会調査 2009(CSES 2009)のデータをもとに家計

へのショックの影響と、出稼ぎによる仕送りが所得平準化に果たす役割について考察して

いる。分析の手法は家計の所得平準化の程度を推計する二段階推定法を用いて家計の所得

平準化の程度を計測した。第一段階では通常時の継続的収入と一時的収入を推計してい

る。第一段階の推計結果からは村レベル、個人レベルのショックのそれぞれに対し家計は

資産の売却によって一時的収入を増加される動きが見られた。その際、村全体へのショッ

クでは村全体が一斉に資産の販売を行うことで資産価値が低下するため、ショックの影響

はより深刻になることが示唆されている。

第 2 項 ショックに対する出稼ぎの影響

第二段階では、トービットモデルを用いて第一段階で得られた推計値を出稼ぎによる仕

送り額に回帰させている。分析の結果、村内の恒常的収入が大きいほど仕送りの規模も大

きいことが分かった。ショックにより収入が減少すると出稼ぎによる送金額は上昇し、シ

ョックの影響を緩和ことが示されたが、収入の減少を完全に補完することはできなかっ

た。また、出稼ぎはショックの影響を 40%程度緩和するが、残った影響については、家計

は資産の販売などで対処していることが示唆された。

第 3 項 Luch(2012)のまとめ

カンボジア農村部におけるショックに対して、家計では資産の販売と出稼ぎの仕送り額

の上昇という二つの動きが見られた。出稼ぎによる仕送りはショックの影響を緩和し資産

の販売規模を減少させる働きがあるものの、ショックの影響を完全に補完するには不十分

であることが示された。

第 2 節 櫻井・サバドゴ(2005)41の研究

40 Likanan Luch(2012) “A Role of Remittances for Smoothing Variations in Household Income in Rural Cambodia”

『農林業問題研究』48 巻 2 号,pp.204-215. 41櫻井武司・キムゼインガ・サバドゴ「戦乱ショックと貧困-ブルキナ・ファソ農村の事例」,大塚啓二郎・櫻井武司編

著(2007)『貧困と経済発展』東洋経済新報社,159-185 頁。

ISFJ2015 最終論文

17

第 1 項 出稼ぎの停止と家計の反応

第 2 の先行研究では、ブルキナ・ファソの事例をもとに出稼ぎによる仕送りを受けてい

た地域において出稼ぎが遮断された際の家計の行動を分析している。出稼ぎの停止により

調査家計では、出稼ぎ労働者の帰還による家計規模の拡大と送金の停止による所得の減少

という 2 つのショックを被った。ショックに対して家計がいかにして消費を平準化してい

るかを、被説明変数に家計の実質消費支出額、説明変数に送金額や家計の特性や資産を含

むランダム効果モデルによる分析を行った。結果、ショックを受けた家計は農外所得を増

加させることで送金の停止に対処する反応を示したが所得は平準化されず、消費支出の減

少が見られた。しかし、送金額の消費支出への影響は家畜資産の多い農家では小さく、家

畜資産の少ない農家では小さかった。これらの結果より、家畜資産の多い家計ほど送金額

の変動を家畜の販売により緩和し、消費支出の変動を抑えていることが示される。

第 2 項 脆弱性

櫻井(2005)では、「家計が貧困線以下に落ち込む確率」を脆弱性と定義し、送金停止の

ショックに対する家計の脆弱性を分析している。ショック後の貧困世帯の出現率をショッ

ク前の家計の初期特使に回帰させたトービットモデルによる分析を行った。結果、脆弱な

家計の特性として家畜保有が乏しい、耕畜を採用していない、稼動年齢の男性が少ないな

どが挙げられた。家畜保有が脆弱性に対し有効であるという結果は前項の分析結果と整合

的である。

第 3 項 櫻井・サバドゴ(2005)のまとめ

出稼ぎの停止というショックに対して、農村部では農外所得である資産等を販売するこ

とでその影響を緩和する動きが見られ、家畜保有の多い農家ほどショックの緩和が見られ

た。また、家畜の保有は家計の脆弱性を低下させ、貧困状態に陥る可能性を低下させるに

も有効である。

第 3 節 矢倉(2008)42の研究 第 1 項 家畜保有の現地調査

第 3 の先行研究では、カンボジア農村部における土地の制約を受けない収入向上手段と

して、家畜の保有に着目している。家畜ごとの初期投資の大きさや販売価格を比較した結

果、豚が貧困削減に適していると考え、カンボジア農村部で豚の飼育状況の現地調査を行

っている。調査結果、豚を死なすことなく販売できた場合、一年で 400%の収益率を上げ

ることができるとしている。一方で飼育における豚の死亡率は 30%近く、死亡率が高い原

因としてワクチン接種をしないこと、飼育環境の悪さ、餌不足を指摘している。また、養

豚の開始や規模拡大におけるにおける制約についてヒアリング調査を行った結果、資金不

足と飼育途中での死亡リスク、えさ不足であることが示された。

第 2 項 家畜保有を決定する要因

農村家計の豚の飼育頭数を決定する要因を明らかにするために、被説明変数に家計の豚

保有数、説明変数に家計の規模を表す変数を用いたプロビットモデルによる分析を行い、

結果は土地所有規模や資産が優位となった。この結果から、土地所有規模が大きい農家は

米生産量も大きく、豚の餌となる糠を大量に入手できることと、資産を多く持つ家計ほど

家畜に対して十分な投資を行い飼育におけるリスクを減少させていることが示唆されると

している。

第 3 項 矢倉(2008)のまとめ

42矢倉健次郎(2008)『カンボジア農村の貧困と格差拡大』昭和堂、133-175 頁。

ISFJ2015 最終論文

18

現地調査とプロビット分析の結果から、本研究では畜産により所得を増加させるために

は次の 2 点が重要であるとしている。1 点目は病気のリスクを小さくすることである。多

くの農家は家畜・家禽の健康・病気に対しする知識に乏しく、死亡リスクが高い状況であ

る。2 点目は低利資金の供給である。養豚における制約のヒアリング調査において「資金

不足」という回答が多かったことから、リスクの低下に加えてマイクロクレジット等によ

る資金の供給が家畜保有の促進において必要になる。

第 4 節 本稿の位置づけ 図表 10 は先行研究の結果をまとめたものである。第 1 論文ではではカンボジア農村部に

おいて出稼ぎは家計へのショックに対してその影響を緩和する効果があるものの、出稼ぎ

だけではショックへの対策として不十分であることが示された。第 2 論文では出稼ぎによ

る仕送りの停止や貧困状態への脆弱性に対して家畜保有が有効であることが示された。第 3

論文では家畜保有による収入の向上について述べられている。

第 1 の Luch(2008)の研究ではカンボジア農村部において出稼ぎは家計へのショックに対

してその影響を緩和する効果があるものの、出稼ぎだけではショックへの対策として不十

分であり、家計は資金の借り入れや資産の売却を行う必要があることが示された。

第 2 の櫻井・サバドゴ(2005)の研究では農村におけるショックについて、人的資本に加え

て家畜資産の保有の優位性が示された。また、同研究における調査農村の状況は多くの出稼

ぎ労働者が存在していることや、ショックに対して脆弱な家計が多く存在するなどの点で

カンボジアと似通っており、同研究で示された結果はカンボジアにおいても有効であると

考えられる。

第 3 の矢倉(2008)の先行研究ではカンボジア農村部の現状は農業収入のみから所得を向

上させるには限界に達しているということが指摘され、その中で家畜による所得向上の効

果に着目し、それぞれの家畜ごとの飼育上の課題やそれらへの対策として病気リスクへの

対応や低利資金の供給が指摘された。

以下の図表 10 はこれらの結果をまとめたものである。

図表 10 先行研究まとめ

第 1 論文 第 2 論文 第 3 論文

事象 家計へのショッ

仕送りの停止 脆弱性 収入の向上

家畜 ○ ○ ○

出稼ぎ △

人的資本 ○

(注)○:事象に対し有効である

△:事象に対し効果があるが不十分である

出所)筆者作成

これらの結果より、前章にて指摘した出稼ぎは貧困の削減には十分でなく、家畜の保有が

収入の向上と脆弱性の低下に有効であることが示された。しかし、第 2 論文の研究地域は

カンボジアではなく、第 3 論文についても使用されているデータは古いものであるうえに

家畜保有の有効性について、他の要素を加えた検証を行っていない。そのため本稿では、カ

ンボジア国内の州別のマクロデータと、2015 年 4 月にカンボジアシェムリアップ州農村部

にて、各世帯を対象に実施されたアンケート結果に基づくミクロデータを用いた実証分析

を行い、家畜の保有が今日のカンボジア農村部の貧困削減に有効であるかを検証する。

ISFJ2015 最終論文

19

第 3章 カンボジアの貧困に関する

実証分析

第 1 節 分析の概要 先行研究より、農村家計における収入の向上と貧困へのショックに対して家畜の役割の

重要性が示された。しかしながら、Luch(2012)ではカンボジア農村部においてショックに

対する出稼ぎの効果と限界が示されているが、家畜の有効性についての分析は成されてい

ない。櫻井・サバドゴ(2005)ではブルキナ・ファソにおいて貧困に対して脆弱な家計の特

徴を分析し、家畜資産の保有が少ない家計がより脆弱であると結論づけている。矢倉(2008)

ではカンボジアにおいて畜産により得られる収入や家畜保有数を決定する要因は示されて

いるものの、収入と家畜保有の関係についての実証分析は成されていない。そこで本章で

は、カンボジア国内の州別マクロデータを用いた重回帰分析と世帯別ミクロデータを用い

たプロビット分析を行うことで、家畜の保有が貧困削減に与える影響を調べる。

第 2 節 マクロデータを用いた重回帰分析 第 1 項 モデル

本節ではカンボジアの州別貧困率データを用いて重回帰分析を行うことで、貧困率に影

響を与える要因を分析する。

はじめにモデルおよび用いる変数を述べる。

モデル

Y=β0+β1X1+β2X2+β3X3+β4X4+β5X5 ⑴

変数

Y:貧困率

β0:定数項

X1:ha 当たり米収穫量 (ton/ha)

X2:一人当たり米収穫量 (ton/人)

X3:識字率

X4:天然貯水池の数

X5:1km2あたり牛保有数

:1km2あたり豚保有数

:1km2あたり家禽類保有数

ここで、保有する家畜の種類によって貧困に与える影響が異なると考えられるため、X5

に牛保有数を入れた場合、豚保有数を入れた場合、家禽類保有数を入れた場合の 3 種類の

モデルで分析を行う。

第 2 項 変数の定義とデータの説明

本項では上記モデルにおける変数の定義とデータについて説明する。

Ⅰ.貧困率

被説明変数には、Ministry of Planning(2014)の州別貧困率データ43による国家貧困ライ

ンで測った貧困率を使用した。

43 Ministry of Planning (2014) “ANNUAL PROGRESS REPORT 2013” p.6 Figure2.2.

ISFJ2015 最終論文

20

Ⅱ.ha 当たり米収穫量

各州の土地生産性を測るため、Council for the Development of Cambodia (2014)のデー

タ44を利用し、米総収穫量(ton)を耕地面積(ha)で除して算出した。矢倉(2008)では、稲作

所得向上のためには単収(単位面積当たり米生産量)の向上が必要であるとされている。

Ⅲ.一人当たり米収穫量

農家一人当たりの労働生産性を測るため、米総収穫量を第一次産業従事者数で除して算

出した。米総収穫量は Council for the Development of Cambodia (2014)のデータを、第

一次産業従事者数はカンボジア計画省統計局(2009)のデータ45を利用した。矢倉(2008)に

よると家族労働投入当たりの所得に関して稲作が重要であるとされており、一人当たり収

穫量が大きいほど労働投入当たりの所得が高くなると考えられる。

Ⅳ.識字率

各州の教育水準が貧困に与える影響を調べるため National Institute of Statistics,

Ministry of Planning(2014)の 15 歳以上の識字率のデータ46を説明変数として利用した。

櫻井・サバドゴ(2005) の研究では人的資本の少ない家計ほど貧困に対して脆弱であること

が明らかにされており、教育水準の高い州では貧困に陥りにくいと考えられる。櫻井・サ

バドゴ(2005)では教育水準を示す指標として学歴を使用しているが、本研究ではマクロ

データとして州レベルの識字率を使用した。

Ⅴ.天然貯水池の数

農業のインフラ設備として、Council for the Development of Cambodia (2014)の天然貯水

池の数を説明変数として使用した。貧困削減におけるインフラの役割を指摘した論文には

澤田ら(2006)47 などがある。同論文はインフラとして灌漑設備をとりあげ、灌漑インフラ

が貧困削減効果を持つことを明らかにしている。

Ⅵ.1km2当たり牛保有数、豚保有数、家禽類保有数

家畜保有が貧困に与える影響を調べるため、Mr. Aum Sitha, Centre for Livestock and

Agriculture Development (2012)のデータ48を説明変数として使用した。州ごとの面積の

違いを考慮し、単純な数ではなく面積当たりの保有数を使用した。

使用したデータをまとめたものが図表 11 である。なお、数値左の丸数字はそれぞれの

指標の上位 5 州を表している。

図表 11 カンボジア州別記述統計

44 Council for the Development of Cambodia (2014) “Cambodia Municipality and Province Investment Information

2013”. 45 カンボジア計画省統計局(2009) 「カンボジア 2008 年人口センサス確報結果 分析レポート No.8 経済活動と雇

用」183 頁。 46 National Institute of Statistics, Ministry of Planning (2014) “Cambodia Inter-Censal Population Survey 2013”

p.36 Table 3.13. 47澤田康幸・庄司匡宏・菅原慎也(2006)「慢性的貧困および一時的貧困の削減におけるインフラの役割:国際協力銀行

のスリランカ灌漑支援事業のケース」『開発金融研究所報』32 巻。 48 Mr. Aum Sitha, Centre for Livestock and Agriculture Development (2012) “National Assessment of Cambodia's

Main Crop and Fodder Resources” p.9 Table2.

ISFJ2015 最終論文

21

(注)表の数値左の丸数字はそれぞれの指標の上位 5 州を表している

出所)筆者作成

Ⅰ.貧困

率(%)

Ⅱ.ha 当

たり米収

穫量

(ton/ha)

Ⅲ.一人

当たり

米収穫

(ton/人)

Ⅳ.識字

率(%) Ⅴ.天然

貯水池

の数

Ⅵ.1km2

あたり牛

保有数

Ⅵ.1km2

あたり豚

保有数

Ⅵ.1km2

あたり家

禽類保有

1. Phnom

Penh ①3.1 3.15 1.090 ①91.8 8 34.1 ⑤34.37 ⑤356.63

2. Preah

Sihanouk ②11.9 3.1 1.049 ②87.3 8 3.97 4.82 62.88

3. Svay

Rieng ③14.3 2.74 2.207 ⑤82.9 10 ⑤55.53 ③53.9 ④416.41

4. Kandal ④15 ①3.801 0.938 ③87.3 N/A 41.96 22.19 227.95

5. Takeo ⑤16.2 ④3.5 ③2.879 82.7 ⑤93 ①106.04 ②56.47 ②614.31

6. Prey

Veng 16.6 ②3.75 ⑤2.375 79.7 ③110 ③67.34 ①78.87 ①647.38

7. Kep 17.4 3.119 0.734 82 14 ②84.61 ④49.78 ③456.39

8.Kampong

Speu 17.5 3.11 1.225 ④83.1 ①374 ④58.87 17.11 225.67

9. Pailin 17.7 ③3.55 1.716 80.9 N/A 6.61 6.23 96.13

10.

Campong

Cham

19 ⑤3.5 1.057 74.9 2 40.01 15.63 180.84

11.

Battamban

g

20.1 2.957 2.017 81.4 18 15.39 4.56 102.71

12.

Kampong

Chhang

20.1 2.997 ①3.39 70.9 69 40.04 19.45 283.36

13. Kampot 20.3 3.106 ②3.164 80.5 45 45.46 22.88 273.55

14. Banteay

Meanchey 21.3 3.349 ④2.570 76 33 16.08 13.05 124.55

15 Siem

Reap 21.3 2.96 1.654 73.4 N/A 25.36 10.85 212.23

16. Pursat 22.3 3.4 1.998 77 6 9.56 4.55 83.19

17. Koh

Kong 22.7 2.89 0.759 76 ④98 0.56 0.74 4.22

18. Kratie 22.9 3.189 1.073 74.5 8 8.74 2.81 22.31

19

Kampong

Thom

22.9 2.17 2.204 69 49 19.5 5.53 62.29

20. Stung

Treng 24.8 2.92 1.740 66.7 44 2.17 3.16 8.75

21. Preah

Vihear 25.2 2.6 2.019 65.1 ②219 5.9 11.54 19.08

22.

Mondulkiri 26.1 2.043 1.474 58.1 7 1.01 0.73 3.65

23. Oddar

Meanchey 27.9 3 2.269 70.9 79 8.88 11.47 35.89

24.

Ratanakiri 28.6 2.6 1.140 54.8 9 2.54 2.7 8.99

平均 19.8 3.0625 1.781 76.1 62.05 29.176 18.891 188.7233

標準偏差 5.55 0.4331 0.7566 8.99 88.54 28.835 20.907 190.9595

ISFJ2015 最終論文

22

図表 11 を見ると、貧困率の低い州は、識字率が高く、面積当たり家畜保有数も多いと

いう傾向が見える。

図表 12 はこれらの指標を図で表したものである。家畜は 1km2当たり豚保有数のデータ

を使用した。

図表 12 州別貧困率、識字率、1km2あたり豚保有数

出所)筆者作成

図表 12 を見ると貧困率と識字率、貧困率と豚保有数(1km2当たり)のグラフがおおよそ

逆の動きをしていることがわかる。このことからもこれらの変数の間には負の相関関係が

あると推測できる。

第 3 項 推定結果

推定結果をまとめたものが以下の図表である。

図表 13 推定結果

モデル 1(牛) モデル 2(豚) モデル 3(家禽

類)

定数項 53.71659***

(0.0000)

51.65778***

(0.0000)

48.30060***

(0.0000)

X1(ha 当たり米収穫量) 2.565490

(0.2539)

2.969909

(0.1669)

3.254367

(0.1202)

X2(一人当たり米収穫量) 0.754957

(0.4326)

0.921304

(0.3111)

1.182721

(0.1938)

X3(識字率) -0.560201***

(0.0001)

-0.547290***

(0.0000)

-0.514309***

(0.0001)

X4(天然貯水池の数) 0.008089

(0.3324)

0.006832

(0.3711)

0.006899

(0.3467)

X5(1km2あたり牛保有数) -0.032615

(0.2862)

X5(1km2あたり豚保有数) -0.067542*

ISFJ2015 最終論文

23

(0.0849)

X5(1km2あたり家禽類保

有数)

-0.009482**

(0.0404)

自由度修正済み決定係数 0.714440 0.748281 0.768748

(注)括弧内は P 値

(注)*** 1%で有意、**5%で有意、*10%で有意

出所)筆者作成

3 つのモデルのいずれにおいても識字率は係数が負で有意な結果となった。また、面積

当たり豚と家禽類の保有は係数が負で有意な結果が得られた。このことから識字率の高い

州ほど、また、豚保有数あるいは家禽類保有数が多い州ほど貧困率が低いと言える。一般

に貧困と関係があると言われる ha 当たり米収穫量 1 人当たり米収穫量、インフラ設備の

代替指標としての天然貯水池の数はこの分析においては有意な結果が得られなかった。

第 3 節 ミクロデータを用いたプロビット分析 第 2 節ではカンボジアの州別マクロデータを用いて回帰分析を行ったが、世帯ごとの収

入に影響を与える要因は解明できていない。そこで本節では日本国際ボランティアセンタ

ーが行った調査をもとに、収入を向上させる要因を、プロビット分析を行うことによって

解明する。同調査は日本の NGO 団体である日本国際ボランティアセンターが 2015 年に

カンボジアのシェムリアップ州内で 6 つの村に対して、収入や食料の生産などについてア

ンケートを行ったものである。このデータを使用することにより、地域の制約はあるもの

の農村部における最新の状況を把握することができる。

第 1 項 モデル

モデルと用いる変数は以下のとおりである。

モデル

Y=α+β1X1+β2X2+β3X3+β4X4+β5X5+β6X6 +ui ⑵

変数

Y:収入

α:定数項

X1:性別ダミー

(男性であれば 1、女性であれば 0 をとる)

X2:世帯構成員数

X3:米生産量(kg)

X4: 池所有ダミー

(池を所有していれば 1、所有していなければ 0 をとる)

X5: 燃料ダミー

(木以外の燃料源を持っていれば 1、持っていなければ 0 をとる)

X6: 牛保有数

豚保有数

鶏保有数

アヒル保有数

ui:誤差項

ISFJ2015 最終論文

24

ここで、収入は農村部の国家貧困ラインを越えているかどうかで分け、分析を行った。

性別ダミーと家計構成員数は家計の特徴を表す変数として使用した。木島ら(2008)49の

研究では生産ショック後の農業所得決定因として家計構成員人数と女性家長家計ダミーが

説明変数とされていることから、収入と家計の特徴に何らかの関係があると考えられる。

池所有ダミーと燃料ダミーはインフラを表す変数として使用した。第 2 節と同様に X5 に

牛、豚、鶏、アヒルの 4 種類をいれた 4 つのモデルで分析を行う。

第 2 項 記述統計

はじめに調査村の特徴を把握する。図表 14 は調査家計数、村ごとの平均収入とその標

準偏差、それぞれの村において出稼ぎを除いた収入が農村部における国家貧困ラインであ

る 1 日 0.84 ドル未満の家計の割合をまとめたものである。

図表 14 村別平均収入

調査家計数 平均収入(単位:万

リエル)

標準偏差 出稼ぎを除いた収入

が貧困線未満の家計

の割合

A 村 14 456.1 439.0 42.9%

B 村 53 385.3 414.6 47.2%

C 村 23 472.2 396.5 34.8%

D 村 44 797.9 1062.0 27.3%

E 村 12 767.0 766.9 41.7%

F 村 33 497.8 766.9 39.4%

6 村全体 179 549.8 670.9 38.6%

出所)筆者作成

図表 14 から、調査した村によって平均収入が大きく異なることがわかる。最も平均収

入の低い B 村は最も平均収入の高い D 村の半分ほどであり、シェムリアップ州の中でも

村によって収入格差が存在することがうかがえる。標準偏差も高くなっており、各村間の

収入格差だけでなく村の中にも収入格差が存在することがわかる。また、D 村を除き、ど

の村も 3 割以上の家計が貧困線未満の収入しか得られていない。調査家計全体でも約 4 割

の家計が貧困線未満の収入となっており、農村部の厳しい貧困の現実が見て取れる。

図表 15 は村ごとの鶏、アヒル、豚、牛の 4 種類の家畜の 1 世帯当たり平均保有数を表

したものである。

図表 15 村別 1 世帯当たり平均家畜保有数

鶏保有数 アヒル保有数 豚保有数 牛保有数

A 村 9.4 (10.861)

0.6

(2.318)

1.4

(2.321)

2.4

(1.450)

B 村 12.0 (11.643)

1.7

(3.292)

1.1

(1.914)

1.6

(2.692)

C 村 13.2 (19.987)

14.0

(63.132)

0.5

(1.314)

3.2

(4.924)

D 村 17.0 (13.002)

1.0

(2.468)

3.5

(5.727)

3.2

(2.402)

E 村 13.0 1.1 0.0 2.8

49 木島陽子・松本朋哉・山野峰「第 6 章 農業生産の短期的ショックと貧困―ウガンダ農村の事例

」大塚啓二郎・櫻井武司編著(2007)『貧困と経済発展』東洋経済新報社 ,141-157 頁。

ISFJ2015 最終論文

25

(7.692) (2.361)

(0) (1.675)

F 村 10.0 (9.614)

0.9

(2.417)

1.0

(2.876)

1.9

(1.564)

6 村全体 12.877

(13.044)

2.9

(23.179)

1.6

(3.562)

2.4

(2.782)

(注)括弧内は標準偏差

出所)筆者作成

図表 15 から鶏はどの村でも飼育数が多く、豚が比較的少ないことがわかる。図表 14 と

合わせて考えると、最も平均収入が大きく貧困線以下の家計割合が低かった D 村は鶏、

豚、牛保有数が他の村と比べて多いことからこれらの家畜を保有することが収入に影響を

与えていると考えられる。

図表 16 は、6 村 179 世帯の収入と豚保有数をグラフで表したものである。

図表 16 各世帯の収入および豚保有数

出所)筆者作成

図表 16 を見ると、2 つのグラフが同じ動きをする部分が見られ、収入と豚保有数の間に

正の関係があると考えられる。

第 2 項 推定結果

推定結果は以下の図表 17 のとおりである。

図表17 推定結果

モデル1(牛) モデル2(豚) モデル3(鶏) モデル4(アヒル)

定数項 -0.133538

(0.6962)

0.187654

(-0.5885)

-0.121141

(0.7241)

-0.121701

(0.7229)

X1(性別ダミー) -0.062330

(0.7594)

-0.054034

(0.7908)

-0.040160

(0.8428)

-0.007481

(0.9708)

X2(世帯構成員

数)

-0.032058

(0.5626)

-0.024939

(0.6521)

-0.028782

(0.6065)

-0.048710

(0.3892)

X3(米生産量) 0.000147** 0.000161** 0.000169*** 0.000187***

ISFJ2015 最終論文

26

(0.0245) (0.0159) (0.0094) (0.0040)

X4(池所有ダミ

ー)

0.272784

(0.2025)

0.302960

(0.1561)

0.303733

(0.1553)

0.316478

(0.1368)

X5(燃料ダミー) 0.210596

(0.3784)

0.247060

(0.3047)

0.227258

(0.3443)

0.120581

(0.6214)

X6(牛保有数) 0.061804

(0.1545)

X6(豚保有数) 0.100116**

(0.0432)

X6(鶏保有数) 0.002832

(0.7322)

X6(アヒル保有

数)

0.073727**

(0.0378)

マクファーデン

の決定係数

0.071446 0.081970 0.062312 0.084484

(注)*** 1%で有意、**5%で有意、*10%で有意

出所)筆者作成

説明変数のうち、米生産量はどのモデルにおいても有意な結果となった。家畜に関して

は、豚保有数とアヒルの保有数で有意な結果が得られた。

第 4 節 分析のまとめと考察 本章では家畜の貧困削減に与える影響を確かめるために、マクロデータ・ミクロデータ

の2つを用いて分析を行った。結果としてマクロデータを用いた分析では識字率、豚保有

数(1km2当たり)、家禽類保有数(1km2当たり)が貧困率を下げる要因であり、ミクロデ

ータを用いた分析では米生産量、豚保有数、アヒル保有数が所得を上げる要因であるとい

うことが分かった。この結果は貧困削減における家畜の有用性を示した先行研究の結論と

整合的である。米生産量が 2 つの分析によって結果が異なったのはミクロデータとマクロ

データの違いなどが理由として考えられる。

以上の結果より、本稿では貧困削減のために豚の保有に着目する。分析において有意性

が高かったのはマクロデータにおける識字率とミクロデータにおける米生産量であった

が、識字率を上げるためには教育の改善が必要であり、それには「長い時間をかけた投資

行動」50が必要とされ、教育制度を外から変えるのは難しい。また、米生産量は矢倉

(2008)で述べられているように、土地所有という制約を受けるため、大規模な土地を持た

ない貧困農家の所得向上にはつながらないと考える。他に有意であった家禽類は豚に比べ

て死亡率が高く51、収益率が低いために安定した収入源として考えづらい。以上の理由か

ら本稿では豚を取り扱うこととする。

50 大塚啓二郎・櫻井武司「貧困削減の戦略」大塚啓二郎・櫻井武司編著(2007)『貧困と経済発展』東洋経済新報社,

258 頁。 51 矢倉(2008)の研究によると、調査した 2 つの村のうち一方の村では 27.3%、もう一方の村では 49.6%の成鳥が死亡

したという結果が得られており、ヒナを含めると死亡率はさらに高くなると考えられる。

ISFJ2015 最終論文

27

第 4章 カンボジアの

貧困削減のための政策提言

第 3 章において、マクロデータとミクロデータを用いて実証分析を行った結果、貧困削

減には「家畜保有」が有効であることが明らかとなった。特に貧困農家にとって「豚の保

有」は、初期投資費用が高いために困難ではあるが、優位性が高く、カンボジアの貧困削

減において重要な要因である。

この結果をふまえ、ODA を効率的かつ効果的に活用するために、カンボジアの貧困削

減を目的とした養豚支援政策を提言していく。具体的には、ODA の資金協力と NGO の草

の根支援を通して、以下の 3 つの養豚促進政策を行う。

Ⅰマイクロファイナンスの導入による養豚開始支援

Ⅱ母豚共同保有による養豚経営

Ⅲ養豚技術指導の実施と飼料の統一

次節以降では、この政策提言に際して私達が行ったカンボジア農村部での現地調査の結

果を基に、政策提言について詳しく述べていく。まず、第 1 節では農家へのヒアリング調

査により明らかとなった、養豚の課題と政策提言の概要について述べる。第 2 節、第 3

節、第 4 節では、課題の解決方法を中心に政策提言の詳細について述べ、第 5 節にて政策

にかかる費用を記載する。

第 1 節 貧困削減の課題と政策提言の概要 第 1 項 貧困削減の課題―カンボジアにおける養豚の場合―

政策提言の実施にあたって、現在のカンボジアの養豚の仕組みを知るために、2015 年 9

月、カンボジアシェムリアップ州の農家 19 世帯に対してヒアリング調査を行った。その

際、養豚を行っている農家 8世帯の豚小屋や豚の飼育環境を視察した。農家及び NGO へ

のヒアリング調査から、現在のカンボジアの養豚では⑴経済的課題、⑵経営的課題、⑶技

術的課題の 3 つの課題が存在することが明らかとなった。以下それぞれについて説明す

る。

⑴経済的課題

養豚を開始する際に存在する課題である。具体的には、初期費用の高さと、それに伴う

豚が死亡した際のリスク(費用の問題)が存在する。

⑵経営的課題

成豚を販売する際に存在する課題である。農家の価格交渉能力が低いこと、そして貧困

農家が購入できる少ない子豚の数では利益が出ない(経営の問題)。

⑶技術的課題

養豚を始めてから販売するまでの過程に存在する課題であり、豚が育つ前に死んでしま

うこと(数の問題)、豚が大きく育たないこと(質の問題)、が存在する。

貧困農家に養豚を普及させるためには、この 3 つの課題を解決することが必要不可欠で

ある。

第 2 項 政策提言の概要

ヒアリング調査より明らかとなったカンボジアにおける養豚の課題をふまえ、養豚を普

及させるために、NGO が ODA 資金を用いて、カンボジアシェムリアップ州貧困農家 400

世帯に対して養豚支援を行う。ここで第 1 回の支援対象としてシェムリアップ州を選択し

た理由は、同州の貧困率の高さである。2011 年の統計においてカンボジア全体の貧困率

ISFJ2015 最終論文

28

19.8%に対し、シェムリアップ州の貧困率は郡レベルでは 30%、家計レベルでは 31% で

あり、いずれも他州と比べ高い水準となっている。このことから第 1 回の支援対象をシェ

ムリアップ州とした。

具体的な支援内容は、第 1 項で述べた経済的課題に対して、政策Ⅰマイクロファイナン

ス(マイクロクレジットとマイクロ保険)52の導入、経営的課題に対して政策Ⅱ母豚共同

飼育による養豚経営、技術的課題に対して政策Ⅲ養豚技術指導の実施と飼料の統一、を行

うことで各課題を解決し、貧困農家の養豚による所得向上を目指す。

図表 18 政策提言の概要

出所)筆者作成

52 マイクロファイナンスとは、貧困層向け小規模金融サービスの総称である。小規模無担保融資はマイクロクレジッ

ト、サービス内容が預金である場合は、マイクロセービング、保険である場合はマイクロ保険という。(大和証券株式

会社「マイクロファイナンス特集 TOP」より)

ISFJ2015 最終論文

29

図表 18 は政策提言の概要図である。概要図中の、①~⑩は政策提言の手順を示してい

る。以下、政策提言を実現するための手順について述べる。(以下の手順の説明は、概要

図中の番号と対応をしている)

①NGO 団体「Pig and Micro Finance(以下 PMF)」を設立する。本部を日本に、支

部をカンボジアシェムリアップ州におく。

②PMF 日本本部が外務省に ODA 資金(日本 NGO 連携無償資金)を申請し、マイクロ

クレジット事業の事業化を行う。

③PMF カンボジア支部がシェムリアップ州において事前調査を行い、支援農家を決定

したのち、5 世帯 1 グループの農家グループをつくる。

④各農家に豚小屋、井戸又は水瓶、ワクチンと、1 グループに母豚 2 匹をマイクロクレ

ジットによって貸し付ける。

⑤PMF の支援員と農家で、グループで共同保有する母豚 2 匹に種づけを行い、母豚が

出産した子豚をグループで配分し、各農家が飼育を行う。

⑥PMF が、日本企業から配合飼料を一括で購入する。また、PMF は農家に対して養豚

技術指導を月 1 回行う。技術指導の際に 1 ヶ月分の飼料を農家に販売する。飼料は仕

入れ値から 100 円値上げした価格で販売する。

⑦⑥の飼料の販売利益は、豚が死亡した際の農家への保険として、グループ共同で毎月

積み立てる。豚が死亡した際は、PMF が、その保険積立金を利用して、死亡した豚 1

匹につき月 2000 円の補償を農家に支払う。

⑧豚が 80 ㎏~100 ㎏に育ったら(約 6 ヶ月)、グループで市場に販売し、グループ全

体で返済額を決定し、PMF に返済する。

⑨成豚を売ったのちは、④~⑧をもう 1 クール行う。

⑩手順①~⑨によって、養豚の各課題が解決され、貧困農家の所得向上へとつながる。

農家は、④~⑦を 4 クールおこなうことで初期投資の返済を終えることができる。以

後の養豚による利益は全て農家のものとする。

また、第 1 回の支援対象 400 世帯が返済完了した後は、回収した資金を第 2 回の支援の

マイクロクレジット原資とし、支援を別の農家へと拡大していく。

図表 19 は、3 つの政策がカンボジアの貧困削減に及ぼす効果を記している。農家のグル

ープ制度による政策Ⅰマイクロファイナンスの導入によって、養豚を開始できる農家を増

やし、経済的課題(費用の問題)の解決を行う。政策Ⅱ母豚の共同保有、政策Ⅲ養豚技術

支援の実施により豚の数と質の向上を目指し、経済的課題(経営の問題)と技術的課題の

解決を行う。この 2 つの課題が解決されることで、貧困農家の所得は向上し、貧困削減へ

と繋がる。これらの政策は、ODA による莫大なマイクロクレジット原資の提供と、NGO

の細やかな草の根支援によって可能となる。次節にて ODA と NGO について述べる。

ISFJ2015 最終論文

30

図表 19 政策がカンボジア貧困削減に及ぼす効果

出所)筆者作成

第 3 項 ODA と NGO の連携

本章の政策提言には、莫大な資金と農家への密接なサポートが必要である。ODA と

NGO が連携することで、ODA を用いて NGO が地域に密着した支援を行うことが可能と

なる。従来、ODA では資金を投入するだけにとどまってしまい、NGO だけでは資金が足

りずに支援が十分に行われない、という現状があり、その現状を打破する方法として、

ODA と NGO の連携が有効であると考える。以下は、提言における ODA と NGO の概要

である。

①ODA

ODA の形態は「日本 NGO 連携無償資金協力」を用いる。日本 NGO 連携無償資金協力

の事業 6 つのうち、本稿の政策で用いるマイクロクレジット原資事業の支給上限は 2000

万円である53(付録 3 参照)。

②NGO

この政策提言の実施にあたって、金融的役割・養豚支援の 2 つの役割を行う NGO「Pig

and Micro Finance(以下 PMF)」を設立する54。カンボジア養豚支援の準備段階とし

て、国際支援事業を 2 年間、マイクロファイナンス事業を 3 年間、対カンボジア支援以前

に行う。NGO の構成員として 20 人を集め、日本に本部、カンボジアに支部を置く。日本

では主に、外務省との ODA に関するやりとりと、カンボジア支部との連絡を行う。そし

てカンボジアでは、4 つの農家グループに対し 1 人の支援員がつき、マイクロファイナン

スと養豚に関するサポートを行う。

53 外務省「平成 26 年度日本 NGO 連携無償資金協力 申請の手引き(実施要領)」。 54現地で実際に支援を行っている NGO を参考にした。具体的に、金融的役割を果たす NGO として、現地でマイクロ

ファイナンスの普及を行っている World Vision Japan、畜産支援の役割を果たす NGO として、現地で養鶏支援を行

う国際開発救援財団、1 農家を対象に養豚支援を行っている HERO を参考にした。

ISFJ2015 最終論文

31

第 4 項 支援の対象

次に、支援の対象となる農家を述べる。支援の対象は、カンボジアシェムリアップ州に

おいて貧困線未満の生活水準にあり、かつ養豚を行っていない家庭である。シェムリアッ

プ州の全世帯 172,260 世帯中、貧困線未満の生活水準にあり養豚を行っていない世帯は、

約 63,541 世帯であると考えられる55 。この農家 63,541 世帯のうち、本稿で扱う ODA の

形態である日本 NGO 連携無償資金協力の予算 2,000 万以内で援助可能な 400 世帯を、第

1 回の支援対象とする。予算のうち 296 万円は NGO の運営費とし、残りの 1704 万円で

支援可能な世帯数として 400 世帯と設定した。返済を終えた農家には、家畜飼育で得られ

る利益による経済的自立を目指して、サポートを行う。

第 2 節 経済的課題の改善―マイクロファイナンスの導入― 家畜保有のためには初期費用として、家畜購入代、毎月の飼料代、小屋代、ワクチン代

などがかかる。現在のカンボジア農村では、これらの費用のために貧困世帯は養豚を始め

ることができないという経済的課題がある。また、かつて畜産を行っていた農家も、急病

による支払い等の理由で家畜を売却した後はもう 1 度家畜を購入する資金がないために、

畜産の再開をすることができない、といった問題がある(カンボジア農家へのヒアリング

調査、2015 年 9 月 6 日)。そして、そのような農家に対し養豚支援を行っていたとして

も、資金不足から支援を中止せざるを得ない NGO が多く存在する(公益財団法人国際開

発救援財団56へのヒアリング調査、2015 年 7 月 6 日)。

本節では、この初期費用の課題を改善するために、ODA を利用してカンボジア農村へ

のマイクロクレジットの導入を行う。また、家畜が死亡した際には飼料代と家畜購入金額

等の損失がでる。その損失を軽減し、貧困農家が養豚を行えるよう、マイクロ保険を導入

する。以上の政策を効率的に行うため、本政策では 5 世帯 1 組のグループ制度を用いる。

第 1 項 農家グループの形成

本政策を行うにあたって、農家の中で 5 世帯 1 組のグループを形成する。図表 20 はグ

ループ制度の仕組みである。

グループ制度の利用方法は、①マイクロクレジット、②マイクロ保険、③母豚の共同保

有、④成豚の一括販売である。以下、①~④について説明する(以下①~④は、図中の番

号と対応している)。

①マイクロクレジット

NGO“PMF”が各農家に初期投資(豚、飼料、小屋、ワクチン)を貸付け、各農家は

その費用を、飼育した成豚の販売利益にて返済する。貸付け及び返済をグループ単位で行

うことで、資金の不正使用や貸倒れの防止、返済リスクの軽減が見込まれ、本来融資を受

けることができずに養豚を始めることが出来ない農家も、養豚事業への参入が可能とな

る。

②マイクロ保険

所得の低い農家ほど、家畜を全滅させた場合の損失を回避するために畜産を行わないと

いう問題が存在する。そこで各農家に保険料を付加した飼料の購入を義務付け、各グルー

プ内で保険金の共同積み立てを行う。万が一、豚が死亡する等のリスクが発生した場合に

55 神戸大学石黒馨研究室(2015)「特定非営利活動法人 JVC カンボジア事務所ヒアリング報告書」9 月 7 日より。ア

ンケート調査を行った 179 世帯のうち、貧困線未満の農家は 69 世帯、豚を保有していない農家は 114 世帯、貧困線未

満かつ豚を保有していない農家は 66 世帯であった。この結果より、シェムリアップ州全農家のうち、約 3 割が貧困線

未満かつ豚を保有していない農家であると仮定した。 56公益財団法人国際開発救援財団様以下、本研究でヒアリング調査を行った NGO の事業内容等の情報は、付録 4 に記

載。

ISFJ2015 最終論文

32

も、グループ共用の積立金によって損失を賄い農家の短期ショックを軽減することが可能

となる。

③母豚共同保有

貧困農家でも購入可能な数の子豚(約 1、2 匹)を購入・販売したとしても、価格交渉

能力が低く利益がでないという経営的課題が存在する(第 3 節にて詳細を後述)。そこで

各グル―プの 2 世帯に母豚 2 匹を貸付け、また、生まれた子豚をグループ内で均等に配分

することで、母豚 2 匹の購入代のみで比較的数の多い子豚を手に入れることが可能とな

る。この費用は、生まれた子豚を同じ数購入して飼育する場合の金額よりも低い。

④成豚の一括販売

上記③にて述べた、貧困農家が購入可能な子豚の数ではたとえ育てた成豚を販売しても

利益がでない(価格交渉能力がない)という課題に対し、グループ単位での成豚一括販売

を行うことで、農家の価格交渉能力の改善を図ることが可能となる(第 3 節第 2 項にて詳

細を後述)。

次項以降、このグループ制度を利用した経済的課題、経営的課題の改善方法を述べる。

図表 20 グループ制度の仕組み

ISFJ2015 最終論文

33

第 2 項 マイクロクレジット

マイクロクレジットの導入にあたって、概要、具体的な仕組み、意義に関して述べる。

まず、マイクロクレジットの概要に関して述べる。カンボジアでは、商業銀行が非貧困

層、登録 NGO が一般貧困層、その他 NGO が極貧層を対象にマイクロファイナンスを行

っている57。本政策では、比較的少額の融資が可能なマイクロクレジットによって資金を

貸し付けることで、貧困農家の養豚事業への参入を可能にする。このマイクロクレジット

の金利を低く設定することで、所得の低い農家でもマイクロクレジットを利用するインセ

ンティブを与える。

政策提言におけるマイクロクレジットの具体的な仕組みは、まず各グループに 1 つの窓

口を PMF 内に設ける。次に、初期投資(豚小屋、井戸、ワクチン)を各農家に、母豚 2

匹を各グループに配布する。PMF が豚小屋等の購入を管理し、第 4 節にて後述する養豚

技術指導を通して農家のモニタリングを行うことで、資金の不正使用や貸し倒れを防止す

る。貸付資金の返済は、成豚を販売した利益の一部から支払い、グループ単位で返済額を

決定し、管理する。また、融資の条件として、1 回目の返済を遅延なく行ったグループの

みが、2 回目の融資を受けることができる。1 回の支援で、各家庭に 34,600 円ずつ、合計

1,384 万円の貸し出しを行う。予算 2,000 万円のうち、NGO“PMF”の運営費が 296 万

円であり、これを除いた 1,704 万円をマイクロクレジットの原資にあてる。1 世帯あたり

の養豚に必要な資金が 34,600 円であるため、1,704 万円の予算内で支援可能な数を 400 世

帯とした(34,600 円×400 世帯=1,384 万円)。また、マイクロクレジットによって貸し

出した 1,384 万円は、2 年で農家より全額回収を行う。支援開始 3 年目以降は、回収した

2,382 万円(利子込)をマイクロクレジットの財源とし、対象を別の農家、さらには他の

州の農家へと拡大していく。

また、マイクロクレジットの導入にグループ制度は有効か、という点について、途上国

でマイクロファイナンスを行う NGO(特定非営利活動法人 world vision japan)へのヒア

リング調査(2015 年 8 月 6 日)にて以下のような見解を得た。

グループで連体責任にすることで、他のメンバーに迷惑をかけたくないという意識から

貸し倒れのリスクを軽減することが可能となる。支援対象は農村地域でも特に生活を改

善するチャンスに恵まれていない人々であり、融資の際はグループに対し無担保で行わ

れるが、返済率は高い水準を維持している。

このグループ制度は、マイクロファイナンスの先駆けであるバングラデシュのグラミン銀

行でも用いられている手法であり、貧困線未満の生活水準の家計においても有効であると

いえる。

最後に、マイクロクレジットの意義として、多くの家計へ貧困脱却の機会を与えること

が可能である点があげられる。マイクロクレジットの特徴は、他の金融機関では返済能力

が低いと判断され借り入れができない家計にも低金利で貸し出しを行えること、また、グ

ループを形成することによって返済リスクを軽減できることがある。よって、本政策で対

象とする貧困農家でも有効である。

第 3 項 マイクロ保険

豚が成長過程で死亡した際は、それまでにかかった飼料代や豚の購入金額等の損失が発

生する。所得の低い農家ほど、家畜を全滅させた場合の損失を回避するために畜産を行わ

ないという課題に対し、マイクロ保険の導入を提案する。

57 カンボジア政府は、マイクロファイナンスの融資対象とはならない極貧層が NGO の支援を受けて融資対象に包摂さ

れるよう、未登録 NGO の強化を図っていため、NGO によるマイクロファイナンスが可能である。(Royal

Government of Cambodia(2007)“Financial Sector Development Strategy 2006-2015 “より)

ISFJ2015 最終論文

34

ここで提案するマイクロ保険は、グループ制度を活用したものである。その仕組みは、

豚が死亡した際の損失額をグループ共用のマイクロ保険から賄い、次の養豚の際の飼料代

やワクチン、生活費にあてる。これにより、豚が死亡した際の短期ショックは軽減され、

所得が低く脆弱性の高い農家であっても、安心して畜産を開始することが可能になる。

このマイクロ保険の資金源は、第 4 節第 2 項にて後述する、豚の飼料の卸売利益であ

る。PMF が一括して企業から飼料を安く購入し58、農家には PMF からの飼料の購入を義

務づける。毎月、PMF は飼料の仕入れ値から 100 円値上げした価格で農家に販売し、値

上げ分の収益を 5 家庭共用の保険積立金とする。豚が死亡した際には 1 匹につき 2000 円

を毎月農家に支払う。ここで保障額は豚売却による利益より低くし、まじめに育てるイン

センティブを与える。これにより、1 農家の豚が死亡した際でもグループ共用の積立金に

よって損失を賄い、農家の短期ショックを軽減することが可能となる。

第 3 節 経営的課題の改善―母豚共同保有による豚の一括販売― 現在のカンボジアの養豚では、貧困農家でも購入可能な数の子豚(約 1、2 匹)を購入

し、その子豚を飼育、販売したとしても、農家の価格交渉能力が低く利益がでないという

経営的課題が存在する。現在、カンボジアにおいて養豚支援を行う NGO、HERO へのヒ

アリング調査(2015 年 9 月 5 日)によると、通常、市場にて豚は㎏あたり 200 円で販売

されるが、農家が 1、2 匹の成豚しか一度に販売できない場合、豚の値段は 0.8 倍にまで

下がる、との見解を得た。

この課題に対し本政策では、第 2 節で述べたグループ制度を用いて母豚の共同保有を行

うことで、子豚の購入金額を無くし、各農家の子豚保有数の増加を可能にする。また、グ

ループ単位で成豚を一括販売することで、農家の価格交渉能力の改善を図る。

第 1 項 母豚の共同保有

養豚経営の方法として、第 2 節で述べたグループ制度を利用して、1 グループ 2 匹の母

豚を農家が共同で保有し、その母豚から生まれた子豚を 5 世帯で均等に分配、飼育すると

いう方法を導入する。

図表 21 農家グループの構成

出所)筆者作成

58 企業から一括購入することで、値引きされるシステムがカンボジアにも存在する。(神戸大学経済学部石黒馨研究

会(2015)「特定非営利活動法人テラ・ルネッサンスカンボジア事務所ヒアリング報告」9 月 6 日より)

ISFJ2015 最終論文

35

図表 21 はグループの構成である。母豚を保有する農家は、農家 A・B→農家 C・D→農

家 E・A という流れでローテーションを組み、順に母豚の保有と飼育を行う。母豚は一度

に 10 匹程度の子豚を生むため、従来よりも多くの子豚保有が可能になる。グループ制度

の場合、母豚 2 匹(24,000 円)で 1 回約 20 匹の子豚が出産され、各農家に 4 匹の子豚が

配布される。仮にグループ制度を用いない場合、子豚 20 匹を市場で購入することにな

り、5,000 円×20 匹=100,000 円かかる。グループ制度を用いた母豚共同保有は、費用を

安く抑え、子豚を多く保有することが可能となる。

第 2 項 成豚の一括販売

従来では、各農家がそれぞれ市場に成豚を販売していた。本政策では、成豚をグループ

単位で販売することで、1 度に販売する成豚の数を増やし、農家の価格交渉能力の改善を

図る。

HERO へのヒアリング調査によると、1 度に販売する豚の数が 10 匹以上であれば、価

格交渉能力は高くなり、1kg あたり 200 円で販売が可能になる。グループで一度に保有す

る豚は約 20 匹であり、豚の販売価格を上げることが可能である。

販売先は、これまで各農家が販売を行っていたカンボジアの市場をはじめ、精肉メーカ

ーや飲食店等である。

また、新たな販売先の例として商社をあげる。日本の商社である双日株式会社へのヒア

リング調査(2015 年 10 月)によると、双日株式会社は、ベトナムにおいて、家畜の飼料

販売から鶏肉の飼育・加工販売事業までの一貫した流通システムを構築するなど、人口増

加により食肉の需要が急増する東南アジアにおける販路の拡大に着手している。また、カ

ンボジアにおいても、こうした商社がもつ大規模な流通のノウハウを用いて、販売ルート

の拡大が可能である、と述べている。

これまでカンボジア市場内のみに流通させていた豚肉を、商社独自の販売ルートを用い

てカンボジア市場以外にも販売を行う。具体的には、タイ・インドネシア・ベトナム・カ

ンボジアを結ぶ陸路販売ルートを用いて、カンボジア以外の国への販売を目指す。これに

より、販路拡大による所得増加が可能になる。

第 4 節 技術的課題の改善―養豚技術指導の実施と飼料の統一― 家畜の保有による所得向上を図る上で重要となるのが、豚の保有数と質である。家畜の

保有数を増やす上で大きな障害となるのが病気による死亡であり、家畜を育てる際に必要

な知識が十分でない農家では、ワクチンの接種や病気の治療を行わないため、死亡リスク

が高くなる。また、家畜をより高い値段で販売するためには、一度に多くの家畜を販売

し、同時に一匹一匹の体重を重くする必要があるが、現在のカンボジア養豚では飼料代の

負担削減のために粗悪な餌を与えるため、家畜が十分に育たない(農家へのヒアリング調

査、2015 年 9 月 6 日)。

本節では、これらの課題を改善するために、PMF による養豚技術指導と、飼料の統一

について検討する。

第 1 項 養豚技術指導

PMF が豚の飼育方法に関する技術指導を農家に行うことで、病気による死亡のリスク

を軽減させる。具体的には、母豚への種づけ、出産のサポート、ワクチンの接種、餌の与

え方の指導を行う。また、豚は清潔な環境を好むため、豚や豚小屋の掃除について指導を

行う。技術指導は、月に 1 回グループの代表者に行い、グループ内で方法を広めていく方

式をとる。ヒアリング調査の結果では、ワクチンの接種を行っている農家の豚の死亡率は

約 10%程度にまで低減されるため、ワクチンの接種を義務付ける。特に、支援初期は、

PMF が母豚の妊娠・出産の際のサポートを行い、生まれた子豚に対してワクチンの接種

をおこなう。

ISFJ2015 最終論文

36

農民の技術への参加意欲であるが、カンボジアにおいて支援活動を行う NGO ヤシの木

が農民に対して行ったアンケートでは、NGO に行ってほしいトレーニング内容として、1

位 家畜飼育、2 位 裁縫、という回答が多く、農民側からも養豚技術指導への需要は高い

と考えられる(ヤシの木へのヒアリング調査、2015 年 8 月 10 日)。

現在、ヒアリング調査を行った農家 19 世帯のうち、NGO により飼育方法について技術

指導を受けているのは 1 世帯のみであり、また、ODA と NGO の連携によるカンボジア支

援案件 389 件のうち、農村の畜産支援は 0 件59と、カンボジアの畜産における技術的課題

に対して有効な支援はなされていないため、この政策は必要であると考えられる。

第 2 項 飼料の統一

粗悪な飼料の購買を防止するために、PMF が豚の飼料を一括で仕入れ、農家には PMF

からの飼料の買い取りを義務づける。具体的には、カンボジアで品質が良いとされている

配合飼料を PMF が安く一括購入し、仕入れ値から 100 円値上げした価格で、毎月、養豚

技術指導の際に農家に販売する。この値上げ分の利益は、マイクロ保険料として、グルー

プで積み立てを行う。

用いる配合飼料の例として、日本の商社である双日株式会社が販売を行う60配合飼料を

あげる。2013 年、双日株式会社は、健康でいい肉質をもつ家畜の成長を促すために、カン

ボジアをはじめとする東南アジアにおける独自の配合飼料事業の展開を開始61するなど、

日本の企業にとっても、質の高い飼料を後発途上国へ販売することへのインセンティブが

あることが伺える。双日株式会社へのヒアリング調査(2015 年 10 月)によると、この配

合飼料の原料は、トウモロコシ、キャッサバ、米ぬか等の原材料と、アミノ酸やカルシウ

ム等の添加物を加工した、日本でも使用されている質の高い配合飼料であり、カンボジア

産の原材料を使用している。双日株式会社は、質の高い配合飼料のシェア拡大によって、

カンボジア農村の所得向上に大きく貢献すると考えている。

飼料の統一は、①農家の粗悪な餌の購買を防ぐことができる点、②企業からの一括購入

により飼料代を安くできる点、③利益をマイクロ保険の積立金にできる点、で有効であ

る。

第 5 節 政策提言における諸費用 政策提言にあたって必要な資金を考える。本章の政策提言に必要な資金は、①養豚支援

事業にかかる費用と、②PMF の運営費である。この費用は ODA によって賄うこととす

る。

第 1 項 養豚支援事業にかかる費用

養豚支援事業にかかる費用は、以下の図表のとおりである。

59 JANIC「NGO ダイレクトリー カンボジア」。 59 外務省「国際協力と NGO」5 頁。 59 外務省「国際協力と NGO 協力」。 60 双日株式会社「ニュースリリース 双日、カンボジアで配合飼料の生産・販売事業に参入」。 61 双日株式会社「東南アジアにおける配合飼料の展開」。

ISFJ2015 最終論文

37

図表 22 養豚支援事業にかかる費用(1 回目)

項目 1 世帯あたり 単位数 小計

支出

1.豚小屋 8,000 円 5 世帯×80 グループ 3,200,000 円

2.井戸 3,000 円 5 世帯×80 グループ 1,200,000 円

3.母豚 12,000 円 2 世帯×80 グループ 1,920,000 円

4.ワクチン 320 円

(80 円×4 匹)

5 世帯×80 グループ 128,000 円

5.種 1,200 円 2 世帯×80 グループ 192,000 円

6.飼料 18,000 円

(600 円×5 匹×6 か

月)

5 世帯×80 グループ 7,200,000 円

(豚死亡時の保

証)

(12,000 円)

(1 匹当たり)

(1,600 匹×0.05) (960,000 円)

合計 13,840,000 円

(注)豚死亡時の保証は餌の収入で賄うため費用には含めていない

出所)国内・海外フィールドワークを基に、筆者作成

図表 22 では、1 グループに 2 匹の母豚を配布し、母豚が合計 20 匹の子豚を出産、各農

家に 4 匹ずつ子豚を分配した例で計算を行っている。子豚の飼育期間は 6 ヶ月であり、成

豚の体重は 100kg、市場で販売すると 20,000 円で販売すると仮定する。400 世帯の養豚

開始に必要な費用は 1,384 万円であり、1 家計あたりの内訳は以下のようになる。

家計あたりの収支

初期費用(豚小屋、井戸、母豚、ワクチン、種)

-16,600 円

飼料購入代 -18,000 円

成豚の売り上げ 80,000 円

利益 45,400 円

PMF は農家が成豚を売った際に得られる利益の一部を貸付資金の返済に充てさせ、2 年

かけて資金を回収する。以下、マイクロクレジットによる貸付資金の回収方法を述べる。

PMF は 1 グループに対して 173,000 円を貸し付ける。その内訳は

① 豚小屋 8,000 円×5 世帯=40,000 円。

② 井戸 3,000 円×5 世帯=15,000 円。

③ 母豚 12,000 円×2 世帯=24,000 円。

④ ワクチン 80 円×4 匹×5 世帯=1,600 円。

⑤ 種付け代 1,200 円×2 世帯=2,400 円。

⑥ 飼料 600 円×5 匹×5 世帯×6 か月=90,000 円。

利子は月 3%単利とし、6 か月を 1 クールとして 4 クール、すなわち 2 年で農家は全額返

済する。

第 1 クールでは農家はこの資金をもとに豚を飼育し、6 か月後に成豚を販売する。豚の

売り上げは 1 グループあたり 20,000 円×4 匹×5 世帯=400,000 円である。すなわち利益

は 400,000-173,000=227,000 円で、このうち 74,450 円を PMF に返済し、94,000 円を

次のクールの養豚資金とする。残った 58,550 円が農家 1 グループの収入となる。

ISFJ2015 最終論文

38

第 2 クールでは豚小屋、井戸、母豚といった初期費用がかからないので、必要な資金は

94000 円である。豚の売り上げは第 1 クールと同様に 1 グループあたり 40,000 円であ

る。利益は 400,000-94,000=306,000 円で、このうち 74,550 円を PMF に返済し、

94,000 円を次のクールの養豚資金とする。残った 137,550 円が農家 1 グループの収入とな

る。

第 3、第 4 クールも第 2 クールと同様に行う。第 4 クール終了時点で対象農家グループ

は利子を含めた資金を全額返済することになる。第 5 クール以降は 306,000 円のうち

94,000 円を次のクールの養豚資金とし、残りの 212,000 円が収入となる。PMF は第 4 ク

ールが終わったら回収した資金をもとに対象を別の農家へと移していく。このようにする

ことで PMF は農家から資金を確実に回収することができる。

費用に関して各項目の説明は以下のとおりである。

1.豚小屋

PMF 指導のもと、屋根のついた一般的な豚小屋を農家に建設する。初期投資の一部で

あり、1 回目の豚出荷の後は同じものを使用する。

2.井戸(水瓶)

豚の飲み水・豚を洗う際に使用する水の供給源となる井戸(又は水瓶)を設置する。す

でに対象農家の身近に水の供給源がある場合は、設置しなくてもよい。①と同様に初期費

用の一部である。

3.成長した雌の豚

妊娠・出産可能な健康な豚を、カンボジアの市場で仕入れる。母豚は 1 グループに対し

て 2 匹配布する。

4.種

カンボジアの農家では、一般的に雌の豚に対して注射で種づけを行う。母豚は約 6 か月

ごとに種づけを行い、1 年に 2 回出産する。

5.ワクチン

病気による死亡のリスクを減らすために、PMF がワクチンの接種を管理し、全農家に

対して生まれた子豚へのワクチン接種を義務づける。

6.飼料

豚に与える飼料は、PMF が管理を行う。カンボジアでは飼料を一括購入することで飼

料が安くなる。飼料は仕入れ価格の 100 円値上げ価格で NGO から農家に販売し、粗悪な

飼料の購買の防止のため、PMF 以外からの買い付けを禁止する。この値上げ分の収益

を、豚が死亡した際の農家への保険にあてることで、農家への豚の死亡による短期ショッ

クを軽減する。

7.豚死亡時の保証

豚が死亡した際には、収入ショックを軽減するため 1 匹につき月 2000 円の保証金を与

える。死亡率を全体の 5%と仮定し、1600 匹のうちの 80 匹が死亡するとして計算する。

その際の費用は飼料の値上げ価格の積立金から拠出する。

第 2 項 NGO の運営費

図表 23 は PMF の運営費をまとめたものである。

図表 23 PMF の運営費(1 年目)

項目 単価 単位数 小計

1.人件費 10,000 円 20 人 2,000,000 円

2.交通費 2,000 円 20 人×12 回 480,000 円

3.土地費 30,000 円 12 か月 360,000 円

4.事務費 10,000 円 12 か月 120,000 円

合計 2,960,000 円

ISFJ2015 最終論文

39

出所)国内・海外フィールドワークを基に、筆者作成

PMF の運営に係る費用は 296 万円である。また、各費用についての説明は以下の通りで

ある。

1.人件費

支援を行う PMF の支援員に対して支払う人件費である。ヒアリング調査を行った NGO

の税務表を参考に作成した。

2.交通費

農家を養豚支援する上で、必要な交通費である。1 回の交通費の上限を 2,000 円とし、

モニタリングを含む養豚トレーニングを 7 回、マイクロクレジットの農家への事前調査 2

回、事後調査 1 回、予備として 2 回分、計 12 回の農家への交通費を、PMF の構成員に支

給する。

3.土地費.

PMF のオフィスの賃貸料、また、維持費である62。

4.事務費

コピー代やネット費用等の、事務に係る雑費である。使用上限を月 1 万円とし、超過分

は私費によって賄う。

以上、①養豚開始費用約 1,384 万円と、②PMF の運営費 296 万円、あわせて 1680 万円

が政策提言に必要な費用である。「日本 NGO 連携無償資金協力」のマイクロクレジット

原資事業による資金贈与は上限 2,000 万円であり、この予算内に収まるため、実現可能で

あると言える。

62 エーペックスカンボジアトラベルサービス「クロマー 賃貸・住居探し」。

ISFJ2015 最終論文

40

おわりに

本稿の目的は、ODA による国際貢献を通じた国際社会における日本の地位の向上、さら

には貧困削減によるカンボジア経済の発展を通じた日本の経済利益の拡大のため、ODA の

有効な利用法を提案することである。現在、国際社会では極度の貧困の撲滅や初等教育の完

全普及などの 8 つの目標からなる「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」が定められており、

本年度はその達成期限である。しかし、都市部と農村部の格差や基本的サービスへのアクセ

スが乏しいなど、世界には依然として様々な課題が存在している。MDGs の後続であり 17

の目標を掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」が 2015 年 9 月に採択され、世界有数の経

済大国である日本にはさらなる効率的・効果的な ODA の活用による国際貢献が求められ

る。

しかし近年、財政難などの理由から日本の ODA 予算額は年々減少している。MDGs や

SDGs といった国際社会共通の開発目標の達成に貢献することは、日本の国際的な地位を向

上させることに繋がるため、開発目標を達成するための有効な手段であるとされる ODA の

見直しは喫緊の課題である。

カンボジアは東南アジアの中でも高い経済成長率を達成している国であるが、都市と農

村における格差は非常に大きく、いまだに後発開発途上国(Least Developed Country:LDC)

に設定されている。日本はカンボジアの最大の援助国であることから、ODA はこれまで多

額の支援を行ってきているが、貧困者が最も多いとされる農村部にはあまり支援がなされ

ていないのが現状である。しかしカンボジア農村部の経済発展に資する国際貢献は、カンボ

ジア経済の発展を通じて、日本の経済利益を拡大させることにも繋がる。そこで本稿では、

ODA と補完的な関係にある NGO に着目し、ODA と NGO の連携で ODA を見直す題材に

カンボジアの貧困問題を取り扱うことにした。

本稿の結論は、日本の ODA と NGO の連携によりマイクロファイナンスを利用した家畜

保有支援を行うことで、国際社会における日本の地位の向上及び、貧困削減によるカンボジ

アの経済発展を通じて日本の経済利益の拡大を図るという点である。カンボジア農村部で

の主要な収入源である農業は、土地の限界の問題により長期的な収入の増加は見込まれな

いが、一方で土地の直接的制約を受けない畜産は農家の収入増加が期待できる。家畜保有を

行うにあたっては、(1)経済的課題、(2)経営的課題、(3)技術的課題の 3 つの課題が存在する。

本稿では(1)経済的課題を解決するためにⅠマイクロファイナンスの導入(マイクロクレジ

ット、マイクロ保険)、(2)経営的課題を解決するためにⅡ母豚の共同保有、(3)技術的課題を

解決するためにⅢ養豚技術指導の実施、の 3 つの政策を提言する。

以上の提言より、カンボジア農村部の貧困問題は解消され、カンボジアの持続的な経済発

展が見込まれる。日本の支援によりカンボジアが経済発展することは、国際社会における日

本の地位を向上させるだけでなく、新たな市場としてカンボジアを開拓でき、貿易と投資の

拡大による日本の経済利益の拡大も期待できる。

ISFJ2015 最終論文

41

付録

付録 1 対カンボジア ODA の貧困支援事業一覧 年度 形態 案件名

2014

技術協力

流域水資源利用プロジェクト

2009 流域灌漑管理および開発能力改善プロジェクト

2009 農業資材品質管理能力向上計画

2006 バッタンバン農村地域振興開発計画プロジェクト

2006 灌漑技術センター計画プロジェクト フェーズ 2

2009 無償資金協力 コンポンチャム州メモット郡村落飲料水供給計画

出所)JICA の HP63より筆者作成

付録 2 対カンボジア ODA と NGO の連携による貧困支援事業一覧 年度 形態 案件名 被供与団体名

2005

日本 NGO

無償連携

資金協力

カンダール県における持続的農業・農

村開発及び農村開発従事者のための資

料情報センタープロジェクト

日本国際ボランティ

アセンター

2013 スバイリエン州農作物組合(SAC)の

持続的な経営体制の確立を通じた

農村における貧困削減事業

特定非営利活動法人

IVY

2014 "" (フェ―ズⅡ) ""

2015 "" (フェ―ズⅢ) ""

2015 コンポンチュナン州農村開発事業 公益財団法人

国際開発救護団体

2006

草の根技術

協力事業

(草の根パー

トナー型)

女性による野菜共同生産・出荷を

通じた農村復興プロジェクト

特定非営利活動法人

国際ボランティアセ

ンター山形

2009 伝統産業の復興による農産物加工技術

復興プロジェクト

国立大学法人

名古屋大学

2010 カンボジア国コンポンチャム州におけ

る持続可能な農業生産環境の構築

特定非営利活動法人

環境修復保全機構、

東京農業大学

2013 最貧困家庭の女性の経済的自立を目的

としたコミュニティファクトリー事業

の自立化プロジェクト

特定非営利活動法人

かものはしプロジェ

クト

2013 カンボジアにおける農作物・加工品の

安全性向上プロジェクト

国立大学法人

名古屋大学

63 JICA「ODA プロジェクト一覧 無償資金協力」。

JICA「技術協力 国別取り組み」。

ISFJ2015 最終論文

42

出所)外務省の HP64より筆者作成

付録 3 日本 NGO 連携無償資金協力の概要

出所)外務省「平成 27 年度 日本 NGO 無償資金協力 申請の手引き」65より筆者作成

付録 4 フィ―ルドワークの概要 本稿を執筆するにあたり、国内外で多数のヒアリング調査を実施した。以下には、それら

の概要を示した。

Ⅰ国内フィ―ルド

①「公益財団法人国際開発救援財団(FIDR)」

【日時】2015 年 7 月 6 日

【場所】東京都千代田区神田駿河台 2-1

【担当者】支援事業部長 小山直行氏

【目的】農村開発、養鶏支援事業の実態調査。

②「東京農業大学」

【日時】2015 年 7 月 6 日

【場所】東京都世田谷区桜丘 1 丁目 1-1 東京農業大学

【担当者】三原真智人氏

64 外務省「日本 NGO 連携無償資金協力実績一覧」。

JICA「草の根技術協力事業 草の根パートナー型」。 65 外務省「平成 27年度 日本 NGO無償資金協力 申請の手引き」。

対象事業 マイクロクレジット原資事業

事業概要現地でマイクロクレジット事業の実績をもつ日本のNGOに対して、マイクロクレジットの原資となる資金が提供される

資金供与限度額(予算)

2,000万円

留意点

①過去3年以上にわたり、マイクロクレジット事業の実績があること。②申請団体が実施するマイクロクレジットの貸付け目的が、貧困者の生産手段の確保・拡充・所得向上等、貧困削減に資するものであること。③補助金やドナーからの支援への依存が少なく、貸付け利子で運営費用をカバーできていること。④エンド・ユーザー本位の融資をしていること(小規模融資について、簡易・迅速な対応を可能としつつ、連帯責任等の返済促進のための処置をとっていること)

日本NGO無償資金協力

ISFJ2015 最終論文

43

【目的】「東京農業大学」が実施する、農村開発の実態調査。

③「特定非営利活動法人 World Vision Japan」

【日時】2015 年 7 月 7 日

【場所】東京都中野区本町 1-32-2

【担当者】松本謡子氏

【目的】「World Vision Japan」が実施する、融資事業の実態調査。

④「公益信託 Asia Community Trust(ACT)」

【日時】2015 年 7 月 7 日

【場所】東京都文京区駒込 2-12-13 アジア文化会館

【担当者】ACT 理事/事務局長 鈴木真理氏

【目的】「公益信託 Asia Community trust(ACT)」が実施する、マイクロファィナン

ス支援事業の実態調査。

⑤「特定非営利活動法人 HERO」

【日時】2015 年 8 月 7 日

【場所】東京都八王子市千人町 3-14-7

【担当者】代表理事 橋本博司氏

【目的】「HERO」が実施する、養豚支援事業の実態調査。

⑥「NGO ヤシの木」

【日時】2015 年 8 月 10 日

【場所】奈良県奈良市三条桧町 20-8

【担当者】戸田 義和氏

【目的】「NGO ヤシの木」が以前実施していた、マイクロクレジット支援事業およ

び家畜銀行の実態調査。

⑦「かんぼれん」

【日時】2015 年 8 月 12 日

【場所】東京都千代田区紀尾井超町 7-1

【担当者】代表 ボネット・ビセンテ氏

【目的】「かんぼれん」が実施する、農村開発および牛銀行の実態調査。

⑧「日本国際ボランティアセンター(JVC)」

【日時】2015 年 8 月 12 日

【場所】東京都台東区上野 5-3-4

【担当者】カンボジア事業代表 山崎勝氏

【目的】「日本国際ボランティアセンター(JVC)」が実施する、農村開発と養鶏支援

事業の実態調査。

Ⅱ海外フィ―ルド(カンボジア)

①「特定非営利活動法人 HERO」

【日時】2015 年 9 月 5 日

【担当者】代表理事 橋本博司氏

【目的】「HERO」が実施する、養豚支援事業の現地調査及び、支援事業対象者へのヒ

アリング調査。66

②「特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス」

【日時】2015 年 9 月 6 日

【担当者】江角泰氏

66 質問項目は、名前/家族構成、月あたり収入/支出、家畜保有数/仕入れ価格/販売価格/エサ代等の資材価格、借金の有

無/どこから借りているか/利息、である。

ISFJ2015 最終論文

44

【目的】「テラ・ルネッサンス」が実施する、農村開発事業の現地調査及び、家畜保有

者へのヒアリング調査。

③「日本国際ボランティアセンター(JVC)」

【日時】2015 年 9 月 7 日

【担当者】皆嶋円氏

【目的】「日本国際ボランティアセンター(JVC)」が実施する、農村開発と養鶏支

援事業の現地調査及び、家畜保有者へのヒアリング調査。

ISFJ2015 最終論文

45

参考文献・データ出典

<先行論文> 櫻井武司,キムゼインガ・サバドゴ「戦乱ショックと貧困-ブルキナ・ファソ農村の事例」

大塚啓二郎・櫻井武司編著(2007)『貧困と経済発展』東洋経済新報社、159-185

頁。

矢倉健次郎(2008)『カンボジア農村の貧困と格差拡大』昭和堂、133-175 頁。

Likanan Luch(2012) “A Role of Remittances for Smoothing Variations in Household

Income in Rural Cambodia”『農林業問題研究』48 巻 2 号、204-215 頁。

<参考文献> 大塚啓二郎・櫻井武司「貧困削減の戦略」大塚啓二郎・櫻井武司編著(2007)『貧困と経済

発展』東洋経済新報社。

澤田康幸・庄司匡宏・菅原慎也(2006)「慢性的貧困および一時的貧困の削減におけるイン

フラの役割:国際協力銀行のスリランカ灌漑支援事業のケース」『開発金融研究

所報』32 巻。

木島陽子・松本朋哉・山野峰「第 6 章 農業生産の短期的ショックと貧困―ウガンダ農村の

事例」,大塚啓二郎・櫻井武司編著(2007)『貧困と経済発展』東洋経済新報社 、

141-157 頁。

<データ出典> Council for the Development of Cambodia (2014) “Cambodia Municipality and Province

Investment Information 2013”

(http://www.jica.go.jp/cambodia/english/office/topics/c8h0vm000001oaq8-

att/investment_02.pdf) 2015/11/2 データ取得

Ministry of Planning Phnom Penh (2014) “Annual Progress Report 2013” P.6

(http://www.mop.gov.kh/LinkClick.aspx?fileticket=UUcFslM6jTI%3d&tabid= 156&mid=676) 2015/11/2 データ取得

National Institute of Statistics, Ministry of Planning (2014), “Cambodia Inter-

CensalPopulation Survey 2013” pp.36.

(http://www.stat.go.jp/info/meetings/cambodia/pdf/c13ana07.pdf)

2015/11/2 データ取得

Mr. Aum Sitha, Centre for Livestock and Agriculture Development (2012) “National

Assessment of Cambodia's Main Crop and Fodder Resources” pp.9.

(http://nature.berkeley.edu/~dwrh/FAO_ECTAD_FMD_Cambodia/Documents /AS2012.pdf) 2015/11/2 データ取得

総務省統計局「カンボジア 2008 年人口センサス確報結果 分析レポート No.8 経済活動

と雇用」、183 頁。

(http://www.stat.go.jp/info/meetings/cambodia/pdf/rp8_ant5.pdf)

2015/11/2 データ取得

<Web ページ・その他> 国際連合広報センター「国連ミレニアム開発目標報告 2015」

(http://www.unic.or.jp/files/e530aa2b8e54dca3f48fd84004cf8297.pdf)

2015/11/2 データ取得

ISFJ2015 最終論文

46

国連開発計画「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」

(http://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sdg/post-2015-development-

agenda/) 2015/11/2 データ取得

国連開発計画「ミレニアム開発目標 極度の貧困と飢餓の撲滅」

(http://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sdg/mdgoverview/mdg_1.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「援助形態別の概要・取組 有償資金協力」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/keitai/enshakan/index.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「援助形態別の概要・取組 無償資金協力」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/keitai/musho/index.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「援助形態別の概要・取組 技術協力」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/keitai/gijyutsu/index.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「国際協力の形態」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/oda/oda_keitai.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「ODA 予算」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/yosan.html)

2015/11/2 データ取得

外務省(2015)「2014 年度版 政府開発援助(ODA)白書」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/14_hakusho_pdf/pdfs/1

4_all.pdf) 2015/11/2 データ取得

外務省(2012)「対カンボジア王国 国別援助方針」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000072231.pdf)

2015/11/2 データ取得

外務省「国別データブック」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000072234.pdf)

2015/11/2 データ取得

外務省「国際協力と NGO」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000071852.pdf)

2015/11/2 データ取得

外務省「国際協力と NGO NGO 事業補助金」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/hojyokin_g.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「国際協力と NGO 草の根・人間の安全保障無償資金協力」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/kaigai/human_ah/)

2015/11/2 データ取得

外務省「日本 NGO 連携無償資金協力実績一覧」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/jngo_j.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「ミレニアム開発目標(MDGs)とは」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs/about.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「平成 27 年度 日本 NGO 無償資金協力 申請の手引き」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000104480.pdf)

2015/11/2 データ取得

外務省「日本 NGO 連携無償資金協力実績一覧」

ISFJ2015 最終論文

47

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/jngo_j.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「NGO 事業補助金実績一覧」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/jh_j.html)

2015/11/2 データ取得

外務省「草の根・人間の安全保障無償資金協力 国別約束情報」

(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/data/zyoukyou.html)

2015/11/2 データ取得

JICA「草の根技術協力事業 国別事業一覧(カンボジア)」

(http://www.jica.go.jp/partner/kusanone/country/cambodia.html)

2015/11/2 データ取得

JICA「草の根技術協力事業って何?」

(http://www.jica.go.jp/partner/kusanone/what/) 2015/11/2 データ取得

JICA「ODA プロジェクト一覧 無償資金協力」

(http://www.jica.go.jp/oda/allsearch/grant-aid.html) 2015/11/2 データ取得

JICA「技術協力 国別取り組み」

(http://www.jica.go.jp/project/cambodia/index.html) 2015/11/2 データ取得

JICA「草の根技術協力事業 草の根パートナー型」

(http://www.jica.go.jp/partner/kusanone/partner/index.html)

2015/11/2 データ取得

JICA (2010) 「カンボジア王国貧困プロファイル調査(アジア)最終報告書」

(http://www.jica.go.jp/activities/issues/poverty/profile/pdf/cam_02_01.pdf)

2015/11/2 データ取得

JANIC「NGO ダイレクトリー カンボジア」

(http://directory.janic.org/directory/) 2015/11/2 データ取得

National Institute of Statistics (2013) “Cambodia Socio Economic Survey Tables 2013

Income

(http://www.nis.gov.kh/nis/CSES/Data/CSES_2013/CSES_Income_Expe

nse.htm) 2015/11/2 データ取得

Royal Government of Cambodia(2007)“Financial Sector Development Strategy

2006-2015”

(http://www.law.hku.hk/aiifl/research/documents/EnglishLayout.pdf)

2015/11/2 データ取得

ASIAN DEVELOPMENT BANK (2014) “CAMBODIA COUNTRY POVERTY

ANALYSIS”

(http://www.adb.org/sites/default/files/institutionaldocument/151706/cambodia

-country-poverty-analysis-2014.pdf) 2015/11/2 データ取得

Ministry of Planning (2013) “CMDG Annual Progress Report 2013”

(http://www.mop.gov.kh/LinkClick.aspx?fileticket=UUcFslM6jTI%3D&tabi

d=156&mid=676) 2015/11/2 データ取得

Index mundi (2014) “Cambodia-Consumer price index”

(http://www.indexmundi.com/facts/cambodia/consumer-price-index)

2015/11/2 データ取得

大和証券株式会社「マイクロファイナンス特集 TOP」

(http://www.daiwa.jp/microfinance/) 2015/11/2 データ取得

双日株式会社「双日、カンボジアで配合飼料の生産・販売事業に参入」

(http://www.sojitz.com/jp/news/2011/12/201112071.php) 2015/11/2 データ取得

双日株式会社「東南アジアにおける配合飼料の展開」

(https://www.sojitz.com/jp/csr/priority/advance/post-4.php)

ISFJ2015 最終論文

48

2015/11/2 データ取得

<ヒアリング報告書> 神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「外務省ヒアリング報告書」6 月 25 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「JICA ヒアリング報告書」7 月 3 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「公益財団法人国際開発救援財団ヒアリング報告書」

7 月 6 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「特定非営利活動法人 World Vision Japan ヒアリン

グ報告書」7 月 7 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「東京農業大学ヒアリング報告書」7 月 7 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「公益信託 Asia Community Trust ヒアリング報告

書」7 月 7 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「特定非営利活動法人 HERO ヒアリング報告書」

8 月 7 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「ヤシの木ヒアリング報告書」8 月 10 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「かんぼれんヒアリング報告書」8 月 12 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター

ヒアリング報告書」8 月 12 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「特定非営利活動法人 HERO カンボジア事務所ヒアリ

ング報告書」9 月 5 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス カンボジア

事務所ヒアリング調査」9 月 6 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター

カンボジア事務所ヒアリング報告書」9 月 7 日。

神戸大学経済学部石黒研究会(2015)「双日株式会社ヒアリング報告書」10 月 13 日。