日本人の社会意識構造と地域間格差 -...

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Page 1: 日本人の社会意識構造と地域間格差 - SPIRIT象的な理論が多く、どの理論が不公平感とより関連するかも不明である。 手続き公正理論の、大きく2つが存在する。そして分配公正の主な3原理として衡平、平等、必要原理がある。しかし柚

日本人の社会意識構造と地域間格差89

分析の結果、人々の脱物質志向は強く、また多くの人が再分配政策を求めていることが分かった。多くの地域で、政

識櫛造が、第二次大戦後の急激な人口移動と産業化の影響を受け、地域により大きく異なっているためと考えられる。

部住民の方が政治参加が多いため、農村部住民が問題と感じている、政治不信や閉塞感に関する政策の方が、実現さ

治不信や平等志向と、社会不公平感は強く結びついている。これらの志向と関連するような政治改革や、再分配政策

れやすいと考えられる。社会意識の構造は、農村部と都市部で大きく異なることが、本研究により解明された。

が、多くの人々に望まれていると言える。とくに都市部では、格差是正のための平等政策が望まれている。ただ農村

日本人の社会不公平感は強いが、何に問題を感じているのかは先行研究でも未解明である。これは、日本人の社会意

社会不公平感の具体的内容を明らかにし、不公平感の規定メヵーーズムを解明するため、全国調査データを分析した。

日本人の社会意識構造と地域間格差

I社会不公平感と政策志向に関するSSM調査の分析I

[キーワード]全般的不公平感再分配政策2+5水準モデル

社会学研究第七十二号東北社会学研究会二○○二年十二月

村瀬洋

iIIIlI腱Ⅷ一

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1 90

日本でなぜ不公平感が高いのか、不公平感2

現在のところ不明である。わずかに織田・阿蔀

差や平等に関する問とが関連していることを、

究では不明である。

織田

資産、

も社会の現体制への評価であると主張している。

総合する位置にはないことを、因子分析により明らかにした。また、社会不公平感は自民党好感度と関連が強く、どちら

過半数は、個人的な生活には満足しているのである。しかし、これほど社会不公平感が強いのにもかかわらず、不公平感

全国調査の結果を見ると、図1のように、男性の約六割、女性の約七割が、現在の日本社会を「不公平」と答えている。

だが、具体的に社会の何に関して、人々が不満を感じているのかは、現在のところ不明である。図2のように、日本人の

の具体的な内容は現在のところ明らかではない。社会のどのような分野の問題と不公平感が関連しているのかも、先行研

1.1日本社会の特徴と社会意識構造

1問題の所在と本研究の目的

一九八五年社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)を分析し、社会への全般的不公平感は、多くの領域別不公平感を

不公平感研究については既に多くの研究があり、大規模な国際比較調査も実施されている。海野・斎藤二九九○)は、

日本人の社会意識の特徴として、自分の生活には満足しているが、現在の社会に問題を感じていることがあげられる。

職業威信などで不公平感に違いはない。つまり不公平感を規定する要因は不明である。各種の先行研究を読んでも、

(一九九八)の一九九五年SSM調査の分析によると、社会不公平感と基本属性との関連は小さく、年齢や所得、

不公平感の具体的内容は何なのか、またどのような政策と不公平感が関連するのかは、

阿部(二○○○二○八)が、社会への全般的不公平感と、政治不信や資産格

を、相関係数を用いて説明した程度である。その他の不公平感に関する先行研

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日本人の社会意識構造と地域間格差9J

治参加研究や資源動員論において広く指摘されている。また、日本人、とくに男性は居住地域でのネットワークが少ない

会的地位が低いと測定される農村部住民が、政治に多く参加するからである。このことはこの『日の目」。(]田②)などの政

しもあてはまらないという議論も、国目四m目(]①『P]@用)や盲、一の訂『〔伜国目口、目(]g「)、片瀬・海野(二○QU)

などで存在する。だが、社会意識論や社会心理学的研究には、これらの特徴をふまえた上での統計的分析は、ごく少ない。

間関係が多く影響力は大きいことなどは、よく知られている。また百m一の訂『((]①。)や百m一の目『【(]①g)は、豊かな

社会において脱物質主義が増えることを主張した。しかし日本人の意識は西欧諸国とは異なり、百m]①盲『芹の議論は必ず

影響力が低いなど非一貫的な階層が多く存在する。日本において、農民層や自営業層は、学歴の平均は低いが地域での人

などの、地域コミラーティーの代わりのような活動が多い。

象的な理論が多く、どの理論が不公平感とより関連するかも不明である。

手続き公正理論の、大きく2つが存在する。そして分配公正の主な3原理として衡平、平等、必要原理がある。しかし柚

究については、【一巨の、の一の白一・(]@℃、)や斎藤(一九九八)、]囚⑫の。(]①g)などで詳しいので、ここでは詳述しないが、

宮野編(一九九八)や海野編(二○○○)などの先行研究は、多くが公正理論に基づいている。これには分配公正理論と

や社会移動の閉鎖性が注目されている。どんな国にも不平等は存在するが、日本にはいくつかの特殊な社会現象が見られ

たが、最近は、佐藤(二○○○)や橋本(二○○一)のような社会階層研究や、マスコミ等での議論でも、不平等の拡大

る。例えば多くの国では、社会的地位が高い人ほど政治に参加するが、日本では地位と政治参加の相関は見られない。社

ことや、地域社会での活動が少ないことも良く知られている。その代わりに、日本企業では、会社内の運動会や親睦活動

今田・原(一九七九)が指摘した階層構造の非一貫性も日本社会の大きな特徴である。日本には、所得は高いが政治的

さて、社会意識に影響を与えている日本社会の特徴とは何だろうか。日本は先進諸国の中では平等な社会と言われてき

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92

大都市のとくに低学歴住民の間で、創価学会の加入率や、公明党の支持率はかなり高い。

な人間関係からの脱出と、都市部での未整備な生活環境、人口密度は過密だが希薄な人間関係、多少なりとも近代的、西

洋的価値観の中での生活を意味する。例えば第二次大戦後の都市部において、比較的低学歴な新住民は、近隣との人間関

係を持たなかったため、創価学会などの新宗教に加入して、新たに人間関係を築いたことはよく知られている。現在でも、

上記のような日本社会の特徴の多くは、急激な人口移動と産業化が原因と考えて良い。例えば都市部の日本人が居住地

域でネットワークを持たないのは、都市部に住み始めてまだ数世代しかたっていないためである。少なくとも、ここ帥年

ほどの日本において、産業化と都市化、そして都市部への人口移動が急速に起こったため、地域間格差が大きいことは事

実である。|-一宅(一九八五二一四’’一六)などの政治学者は、都市部への人口移動は「伝統的政治基盤からの物理的離脱

価値観は大きく異なることは、良く知られている。より詳しく言えば、人口移動は、農村部における伝統的価値観や濃密

民だったが、自分はホワイトカラーという日本人は多い。現代の日本社会は、表面的には脱産業社会で第三次産業就業者

を意味し、政治的浮動化をもたらし、脱保守の機会を与える」ことを指摘している。つまり、地域により、人々の政治的

が過半数である。しかし日本人の多くは、もともとは農村部に住んでいた者が多いし、今でも東京周辺以外の多くの地域

では、人々は農村的な価値観や人間関係を持っている。例えば関東地方であっても、強い性別役割意識や保守的な政治的

環境などが、今でも存在することは、よく知られた社会的事実である。したがって日本人の社会意識の構造は、かなり複

雑である。日本社会は、社会変動が急激であったため、地域によって、価値観も人間関係も大きく異なり、先進国の中で

も特殊な社会だと言うことができる。

1.2人口移動と産業化の社会意識への影響

また、印年前の日本社会は、第一次産業就業者が全就業者の側%だったが、現在では5%である。つまり、親世代は農

(1)

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日本人の社会意識構造と地域間格差”

容を複数提示したい。日本人は、具体的に、社会のどのような側面に問題を感じているのか、また問題を改善するために、

(1)

統計的に分析し、日本人の社会意識の全体構造を解明することである。とくに、社会の評価(社会不公平感)の具体的内

多く、社会意識の具体的内容について、データにもとづいて解明した研究は少ない。本研究の目的は、全国調査データを

く貢献できるであろう。性別、地域別の分析も行い、不公平感の規定メカニズムの、地域による違いも明らかにする。

どのような政策を望んでいるのかを解明できれば、社会階層と社会意識研究の発展につながり、今後の政策形成にも大き

ある。また、不公平感の具体的な内容も不明である。日本人の社会意識論は各種あるが、科学的根拠のない日本人論も数

は、男性の管理職は⑬%だが女性は1%未満である。したがって皿

重要だが、大規模なデータを用いた、社会意識の地域別の分析は、

1.4仮説

上記で検討した日本社会の特徴を考えると、社会意識の構造は、農村部と都市部とで大きく異なると考えられる。そこ

また、日本人の社会意識が、男女で異なることは、既に多くの研究で明らかになっている。そもそも、社会的地位と役

割の代表的指標である職業の構成自体が、男女で大きく異なる。例えば一九九五年SSM調査(AとBの合併データ)で

で不公平感の規定メカニズムについても、以下のように地域を考慮した仮説を提示したい。

1.3研究目的

日本人の不公平感は強く政治不信感も強いが、だからと言って、多くの日本人が政治的行動は起こさないことは事実で

閉塞感仮説

て社会意識の分析は、性別、かつ地域別に分析することが

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これまでにほとんど例がないのである。

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11

94

題を感じることが多い。そのため都市部住民は、環境や福祉などの脱物質志向を重視し、このような志向が不公平感と関

不平等)と不公平感

題にしない。そのた

⑤脱物質志向仮説

ロ〃■■■■、■■■・■■mDBDP■■ロ■■q△■●・■■■■■‐l■■Ⅱ!■・・■|■■

都市部住民は、物質的には恵まれているが、

(4) 都市部住民は、物質的には恵

とくに都市部では、手続き公正

、■■■■■▽。●■■PⅡ■‐。■■■g-dローーー‐0ロローーー・■■■Ⅱ■

都市部住民は、物質的には恵●まれているため、物質の分配より●も、公正な手続きにより興味を持つ者が多い。そのため、

③政治不信仮説

も強い。自己の個人的な境遇が良い場合、それを正当化するために、社会の評価も良くなる。

したがって、社会を評価するときも、個人的な問題を基準として評価するので、個人的な生活満足感が強い者は不公平感

感じることが多い。そのため、不公平途

②私生活満足仮説(自己正当化仮説)

は、人間は興味がないことは重視しないため、都市部住民は大規模な社会での問題は重視せず、個人的問題が重要である。

である。都市部の社会は巨大であり、自分の外部の大きな社会にはあまり興味を持たないことが多い。認知科学的説明で

農村部住民は伝統的に、平等主義的価値観が強く不平等を嫌うため、農村部ではとくに、分配公正(社会の現状の各種

都市部住民には西洋的価値観が浸透しており個人主義的志向が強いため、多くの人々にとって個人的な生活満足が重要

農村部には、伝統的価値観や慣習が多く存在するため、農村部住民は、古い慣習や世襲の多さなどの、社会の閉鎖性を

じることが多い。そのため、不公平感の内容の多くの部分を閉塞感が占めており、閉塞感が不公平感と関連する。

不平等認識仮説

と不公平感が関連する。都市部住民は西洋的価値観が浸透しているため実力主義志向が強く、不平等をあまり問

い。そのためため、平等志向と不公平感は関連しない。

(例えば政治のしくみの問題)と不公平感が関連する。

過密のための日常生活におけるストレスや他者への不親切など精神的な問

36.060■凸■■■■■OIBqII●09--

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95-日本人の社会意識構造と地域間格差

性7割が

(2)

権威主義的態度、政策への士心向などを用いた。

間部、目次未満の地域を都市部とした。分析には、SSM調査B票の各種の社会意識の中から、不公平感、生活満足感、

3.1男女別の集計結果

図1の不公平感に関する一九九五年SSM調査の結果では、日本人の社会に対する不公平感は強く、男性の約6割、女

3 以下の地域別の分析では、

よ》っに分類した。具体的には、

連する。また、女ユ

問題に興味がある。

(男女各四sの人)を抽出、有効回収数は男性]暖国人と女性]急画、合計の回収率は①『」次だった。

日本全国の加歳以上、歳末満の男女、層化三段無作為抽出法により、全国の三一一一六地点より個人を対象としてg呂人

2データ

分析に用いるデータは一九九五年SSM調査B票二部でA票も分析)である。母集団は選挙人名簿に記載されている

分析結果

「いまの世の中は不公平」と答えている。その一方、図2のように個人的な生活に満足している人は、男性で約

女性の方が、社会的役割分業や役割期待のため、他者への思いやりを重視する傾向があり、より精神的な

そのため、女性は脱物質志向をより重視し、この志向と不公平感が関連する。

九九五年SSM調査の一一一三六地点を、第一次産業人口比により、人口がほぼ3等分になる

第一次産業就業者の人口比が「・←頚以上の地域を農村部、]・『ま以上刃今次未満の地域を中

’ 』、軒・コ鐸・酔咄囎四・鐘〉朝.、・一再

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96

6割、女性で7割である。

社会のさまざまな側面につ

いての認識や、政策への志向

に関する結果が図3である。

これは男女であまり差がない

ので一つの図を提示した。初

めの2問が政治不信に関する

問である。「国民の意見や希

望は、国の政治にはほとんど

反映されていない」という問

は、「そう思う」「どちらかと

いえばそう思う」を合わせて

6割以上がそう思うと答えて

いる。「政府は豊かな人を増

税してでも福祉を充実させる

べき」という回答は男女とも

6割を越え、再分配政策への

志向は強い。また、資産格差

男性

女性

40% 60%0% 20% 80% 100%

□公平だ囮だいたい公平だ園あまり公平でない曰公平でない国DK/NA

図1.「一般的にいって、いまの世の中は公平だと思いますか」1995年SSM調査AB票

ロロエ二口男性 1

’一詞壹女性 1

20% 40%0% 60% 80% 100%

図2.「あなたは生活全般に満足していますか、それとも不満ですか」1995年SSM調査AB票

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11丙

日本人の社会意識構造と地域間格差97

国民の意見や希望は、国の政治にはほとんど反映されていない

今の政党の中には、慣頼のおけるものはない

政府は豊かな人からの税金を増やしてでも、恵まれない人への福祉を充実させるべきだ

今の日本では資産の格差が大きすぎる*

これからは.物質的な豊かさよりも、心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたいと思う*

これからは、経済成長よりも週境保護を重視した政治を行うべきだ

本人の社会的地位は、家庭の豊かさや親の社会的地位で決まっている*

どんな学校を出たかによって人生がほとんど決まってしまう

lOOOb

図a政策志向や社会への意織1995年SSM調査B票*のついた項目は、選択肢の言葉が「ややそう思う」など若干ことなる

関連はない。

る。女性の農村部でも、若干、□【ヘヱンが多いが、これ

も誤差範囲内であろう。表面的には、地域と不公平感は、

閉塞感の問として用いる。

居住地域と社会不公平感の関連についてが図4である。

男性では、都市部の方が、若干、公平という回答が多い

ように見えるが、違いはわずかであり誤差の範囲内であ

が大きすぎるという回答も多く、不平等に問題を感じる

人は依然として多い。心の豊かさや環境保護政策に関し

ては、肯定的意見が非常に多い。それに対して、親の社

会的地位の重要さ、出身学校の重要さなど、階層構造の

閉鎖性に関する問は、賛否がきっ抗している。多くの人々

が再分配政策を望んでいることは明確だが、階層固定化

や教育問題の対策については、どのような政策が今後、

望まれるかは微妙である。最後の2つの問を、以下では

3.2地域による不公平感規定メカニズムの違い

不公平感が起こるメカニズムを解明するために、共分

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.:.:÷:48>:÷:.:÷:. ;;〃iIlj〃! 13

ロそう思う囚どちらかといえばそう思う□どちらともいえない

□どちらかといえばそう思わない曰そう思わない ロDK/NA

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98

男性農村部429人

中間部399人

都市部414人

女性

農村部470人

中間部487人

都市部505人

80% 100%60%40%20%0%

ロ公平だ囮だいたい公平だ園あまり公平でない白公平でない国DK/NA

図4.「一般的にいって、いまの世の中は公平だと思いますか」1995年SSM調査AB票

雨颪]、《J0.6研蚕霧圓丁]、41、49

私生活評価

i詮と壼;蓋iil

蕊係的資 、15

、02.、23

.38

29の

閉塞感

、67.45教育年数●

二2機itごi↓;i;政治不信-.48 44

、34

平等志向 、54●

.31-.20E済的資

物質志佑:!

ii雷雲i不公平感

劃IIJ

〃公

〃公-.22

、19、21、28権威主苛

~29-.26

20●

]垂壺i過凋2N脈ii薑f;:H尊戸可蒜 、31

図5.鑑不公平感の規定i塾する5水準ぞ勢し標準化係数,《995年SSM調査凰村部男性変数下の斜字体数字はR-squaTe誤差項は省略Chi-squareこ226.86

.f=157p=、00GFI=、94AOFI=、92CFI=、92AIC=332.86RIm=、23RHSEA=、04

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日本人の社会意識構造と地域間格差99

・61,~亟癩豆慰

E雲I1i簿l:iI

散構造分析(構造方程式モデル)を行った。最終的な被説明変数は、以下の図で右端に位置する「社会への不公平感」

(図1で見たように4段階回答で、不公平と答えるほど数字が大きい)である。図中の長方形の変数は観測変数(現実の

質問項目)、楕円の変数は潜在変数(因子)である。左から右に、原因から結果の因果関係の流れとなっている。説明変

》“糖

割■生活向上感14四一“

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30

、53平等志向

鶚ii、26-

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、18

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不公平懇●

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、41

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-.20.“、24

男、、33293(平等志向

ザl蓋墾誓;、33平等志向●●

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図7.鰹不公平感の規定1鍋する5水単ぞ勢し標準化係数2lb95年SSM調査都市部男性変数下の斜字体数字はH-square誤差項は省略Chi-square=209.81

.f=155p=、OOGFI=、95AGPI=、93CFI=、94AIC=319.81mm=、26RjlSEA=、03

I 】

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Ti1Ii

100

質志向因子と「福祉充実すべき」

分析結果を検討しよう。まず、

(3)

考慮Iしたモデルとなっている。一」のモデルを以下で2+5水準モデルと呼ぶ。

向の因子)である。これに不公平感を加えた5水準の変数を用いた。さらに、地域と性別を考慮しているので、7水準を

数として用いたのは、Ⅲ基本属性(年齢、教育年数、保有資産数で測定した経済的資源)、②関係的資源(有力者とのつ

きあいがあるかどうかに関する質問から構成した潜在変数)、③権威主義意識(4つの質問項目から構成した因子であり、

個人のパーソナリティに関わるもの)、仰社会の諸側面への意識(私生活評価、閉塞感、政治不信、平等志向、脱物質志

として2つのパスについて固定母数をlとした。その部分は図でパスを太線とした。また、図皿の都市部女性のみ、脱物

なパスのみが存在する結果を採用した。最終的な結果が、図5から図mである。今回の分析では、誤差間相関は設定して

幻三闇シはどの図でも肺以下であり、無駄に複雑な部分はない。2+5水準モデルは、十分に変数間の関連を説明してお

り、妥当なモデルだと言える。図5の農村部男性では、図右端の不公平感への矢印を見ると、政治不信からの矢印の規定

力が.色ともっとも大きい。多くの他の地域も同様である。政治不信を強く規定するのは年齢で’・閨と負の規定力がある。

つまり若いほど政治不信が強い。図5の農村部男性では、不公平感を規定するメインパスは、低年齢↓高政治不信↓不公

平感である。農村部では、閉塞感の規定力が.gと強いのが1つの特徴である。農村部住民の不公平感の内容として、閉

た、どのモデルでも、モデル全体の適合度係数は良い。シ○国はすべてPg以上で、モデルの複雑性を評価する係数

て、因子から観測変数への1つのパスを固定母数lとすると、因子から他の変数へのパスが有意でなかったので、初期値

いないしとくに無理な仮定を設けていないので、通常型のパス解析と同様のモデルと考えてよい。ただし一部の図におい

初めは、考えられるすべてのパスを設定し、その後、統計的に有意でないパスを除いて分析を繰り返し、最終的に有意

男女別の3地域、計6つの分析すべてで、政治不信(外的有効感)の規定力が強い。ま

のパスが有意でなかったため、このパスは設定しなかった。

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日本人の社会意識構造と地域間格差JOJ

威主義が負の規定力を持ち、経済的資源が正の直接効果を持つのも特徴である。

いう特徴がある。都市部では平等志向が、より重要なようだ。また、私生活評価から不公平感へのパスがん①と、他の地

域と比べてかなり大きい。つまり、都市部では、私生活評価と不公平感が、強く結びついているということができる。権

育年数から‘.gの直接効果があるのが特徴であり、高学歴ほど不公平感は低い。

主義からの直接効果も‐・農ある。その他、農村部では、不公平感への多くのパスが存在し、平等志向、私生活評価、経済

的資源、教育年数も有意な規定力を持つ。農村部では、さまざまな要因が、不公平感に影響を及ぼしていることが分かる。

図6の中間部男性は、不公平感にささるパスが少なく、この地域では、不公平感を規定する要因が少ないことが分かる。

源から不公平感への正の直接効果があるのもこのモデルの特徴である。有力者との人間関係を持つ人ほど不公平感が強い

のである。その他、私生活評価や年齢なども有意な規定力があり、不公平感へ多くのパスがある。

図9の中間部女性は権威主義の規定力が.・堂ともっとも強く、権威主義的な人は不公平感が低いという関連がある。ま

主義的なことを重視しない人は、社会の問題を感じないようだ。逆に言うと、物質主義的なことを気にする人は、農村部

政治不信の規定力がもっとも大きく、私生活評価が負の規定力を持つことは他の地域と同じである。中間部男性では、教

塞感が存在する。低学歴↓高権威主義↓高閉塞感↓不公平感というパスが、農村部のもう一つのメインパスである。権威

た、平等志向も・色と、ほぼ同様の規定力を持つ。政治不信、閉塞感、私生活評価なども有意な規定力がある。関係的資

の貧しさなど、現在の社会の問題を気にするという解釈も可能である。政治不信も他の図と同様規定力を持つ。関係的資

図8の農村部女性では、平》

に不公平感が規定されるのが、

図7の都市部男性は、平等志向の因子が合ともっとも大きい規定力を持ち、平等志向が強い人ほど不公平感が強いと

平等志向がもっとも規定力が大きく園である。次に脱物質志向の’・患が大きく、脱物質志向

この地域の女性の特徴である。脱物質志向が強い人は不公平感が低い。農村部女性で物質

‐‐-・Pr■69口r■■‐凸・■u■4.:.jj・凸兵団・田■・・・凸卍ゴー『■!j咄咄■『』h0J4■咀叩凸咀q『日仏、Pq切守刈司浬貯埒弼1.』.j口ft学則哩壯咄轤劉皿鏑藝劉過鋼翻銅勒・判邇剰總瓢塑雫『一

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〃源のかわりに教育年数が直接効果を持つのも

図、の都市部女性は政治不信と平等志向の規定力が強い。私生活評価、関係的資源も有意な規定力を持つ。関係的資源

は、農村部女性と同様、正の直接効果がある。ただ不公平感の決定係数(重回帰分析の勾鱒)が・巴と女性の中でもっとも

、6:、63.81議員

.40:44I-ZE扉i工蔚私生活評価係的資I

16

ikfi篭:!、11

28

、1 8、50

』雌

閉塞感

割、5

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、43 ● ̄

の格差大

平等志向 11平

鶚壽.〃

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□、司り

藝噂:、29.

-.36

3泊.33 、22、27〈.権威主可 特徴である。

、13~」 不公平感

雨i釜q言ri嵩;;舌E:lL5 ・55N誘耐 、55

、32

図8鰹不公平感の規定に関する5水準ぞ勢し標準化係数`《995年SSM調査農村部女性変数下の斜字体数字はR-square誤差項は省略Chi-square二262.11

.f=l58pROOGFI=、92AOFI=、90CFI=、87AIC=366.l1RHR=、31RllSEA=、05

、71

:ツョミ蝿團zl、48:割-蕊両。=尉&私生活評価係的資

、16、12

:男…]

l篝」!.”

、3 1。30

閉塞感 ●

・42.18

:政治不信-.49 、5

、00、21

1平等志向

=上 、36●

、29 ̄、14

.-.25経済的資源

物質志侑 :;

強、33

12雫:、28-.13

2L、26 .22 、16権威主』

不公平感

雨i黒房Ti壼託主為‘ 、34

図,、鑑不公平感の規定i鑑する5水準斜し標準化係数'01995年SSM調査中間部女性変数下の斜字体数字はR-square誤差項は省略Chi-square巨257.34

.f=157p=・OOGFI=、94AGFI=、91CFI=、88AIC=363.34Rlm=、25RHSEA=、04

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日本人の社会意識構造と地域間格差

噸意見も強い。そして、豊かな人々への増税があったとしても、福祉など再分配政策を求める意見は強いのである・最近の

社会と言われて来たが、3.1で見たように、全国調査の結果によると「今の日本では資産の格差が大きすぎる」という

人で、かなりの違いがあると考えられる。年齢層によっても

4●

でも、都市部女性の全体像の平均を表したにすぎない。しか

し今回のデータでは、これ以上分割するには、人数が十分で

不公平感の規定メカニズムが異なるだろう。図汕は、あくま

ということも、重要な知見である。これは、都市部女性には、

不公平感を規定する他のメカニズムが存在するか、あるいは、

都市部女性は多様なため、さらにデータを分割しなくてはな

らないのか、どちらかであろう。女性には、常勤、非常勤、

無職の人がいるし、無職でも、裕福な専業主婦とそうでない

はない。

4結論

低く、このモデルでは不公平感を説明できない部分が大きい

日本人は、現在の社会を否定的にとらえており、過半数の人が社会を不公平と答える。日本は先進諸国の中では平等な

社会不公平感の内容と政策志向

iiii1i露

蕊議員

、33

、16

、06●

、19印

、27.09.」β--

IMIi為

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、57

…1三二一 璽旦、05

32

-.26

8卍.31、1510.28樋威主 、17

不公平感●

・6Z.=以前やり方 虚ii蜀凋56魎壼、癒癩誌 、21

、19

図10:鰹不公平畷の蝦に関する5水迦モ熱し標単化係数!81995年SSM調査iii市部女性変数下の斜字体数字はR-square誤遷項は省略Chi-squareE301、40

.f=159p二・OOGFI=、93AOFI=、91CFI=、82AIC=403.40MB=、28RHSEA=、05

'

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104

閉塞感は、単純集計レベルでは強くないが、農村和

かつたが、多くの地域で不公平感を規定している。

本属性、関係的資源、権威主義意識、諸側面への意識と、不公平感を考慮した2+5水準モデルを用いて分析を行った。

その結果、3.2で述べたように、農村部男性は、政治不信や平等志向も不公平感に対して規定力があるが、その他に、

閉塞感が強いほど、また反権威主義的な人ほど、不公平感が強いことが分かった。これは閉塞感仮説の予想通りである。

持たないものも多い。また、男女で社会的役割分業や意識が違うこともよく知られている。そこで、地域と性別の他、基

値観としての平等主義志向や、濃密な人間関係が残っている。都市部住民は、実力主義志向が強く、近隣との人間関係を

次大戦後の日本では、急激な都市部への人口移動と産業化があったためだと考えられる。農村部には現在でも、伝統的価

4.2地域と性別による不公平感の規定メカニズムの違い

政治不信のような手続き公正に関して、人々はより問題を感じているのである。

感の内容としては、政治システムへの不信がもっとも大きな部分を占めるようだ。日本社会に関しては、分配公正よりも、

日本は、実力主義や受益者負担の原則が言われることが多いが、現在でも、平等志向(再分配政策を求める志向)は、か

なり強いと言える。また、心の豊かさや環境重視など、脱物質志向と関連する問への賛成意見は、図3で見たようにかな

り強い。親の地位の重要性など閉塞感については、賛否が割れている。

3.2で述べたように、多くの地域で社会不公平感と強く関連するのは政治不信、平等志向、私生活評価であり、不公

平感の内容としてこれらのものがあると考えられる。とくに政治不信は、どの地域でも不公平感と強く関連する。不公平

表面的には、どの地域でも不公平感は強いが、不公平感の規定メカニズムは、地域によりかなり異なる。これは、第一

農村部では、不公平感と関連している。権威主義の直接効果は予想していな

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105 本人の社会意識構造と地域間格差

日のために、社会に何らかの問題を感じているようだ。

関係的資源を保有することは、農村部と都市部の女性で、不公平感への正の規定力を持つ。有力者とのつきあいが日常

的にある女性は、自分か夫の社会的地位の高い女性だと考えられる。このような人は、経済的には豊かで私生活には満足

年齢が不公平感に直接効果を持つのも、農村部女性の特徴である。高齢の女性は、このモデルでは取りあげていない要因

平感と関連している。脱物質志向仮説はある程度は正しいが、都市部では不公平感への有意な規定力がなかった。また、

村部は、比較的みんな平等であるのに対し、都市部の方が、格差を感じることが多いため、格差の認識と不公平感とが結

びついているとも考えられる。また、農村部と都市部の男性は、経済的資産とが不公平感に対して直接効果を持ち、財産

しれない。

を持つ人ほど不公平感が強い。裕福な人が不公平感を感じているのである。これは、今後の社会変動への要因となるかも

政治不信の規定力も大きいが、これは農村部も同様であり、都市部で政治不信が不公平感を、とくに強く規定してはいない。

難しいので、社会のさまざまな側面を考慮するよりは、個人的な生活の満足感にもとづいて社会の公平さを判断している

とも考えられる。いずれにせよ、個人的な生活満足と社会不公平感に統計的に有意な関連があることは一つの知見である。

遇に満足している人は社会の評価も高いのである。一種の自己正当化をしている可能性がある。他の解釈としては、都市

部では個人主義的価値観が広まっており、私生活を重視する傾向が強いため、私生活の評価が重要であり、社会全体の評

価にも結びつくことが考えられる。あるいは、都市部の社会は巨大であり、個人が、社会全体を考慮して判断することは

女性はどの地域でも、平等志向と政治不信が不公平感を強く規定していた。ただし脱物質志向は、農村部女性のみ不公

都市部では、平等志向と不公平感が、農村部よりも強く関連しており、これは不平等認識仮説とは逆の結果だった。農

都市部男性は、1.3において私生活満足仮説で予想した通り、私生活満足が強い人は不公平感が弱かった。自分の境

’-111

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106

目的変数である、社会への不公平感自体を因子にして分析できれば、よりモデルの適合度は上がるだろうが、これも今後

世代間移動や地域移動、

較も課題である。現在皿

域で3分割してかつ従業上の地位について分けるのは困難である。配偶者の社会的地位なども考慮した分析も必要だろう。

信や閉塞感に関する政策の方が、より実現されやすいだろう。

都市部では、格差是正のための平等政策が、望まれているようだ。ただ、農村部住民の方が政治参加が多いし、日本には

種類があるが、これらの志向と関連するような政治改革や、再分配政策が、多くの人々に望まれていると言える。とくに

較も課題である。現在は、他国で日本と同様の質問項目はあまりないが、意識や行動の国際比較は、今後、より重要であ

ろう。地域による社会意識構造の違いは、他国でも見られるのかなどは、今後の検討課題である。また、今回の最終的な

本研究により、社会意識の構造は、農村部と都市部で大きく異なることが解明された。この点が、日本人の社会意識の

大きな特徴である。全般的に、政治不信と平等志向は、どの地域でも不公平感と関連が強い。また、政策にはさまざまな

していたとしても(実際、経済的資源は、関係的資源と私生活評価の両方と統計的に有意な関連がある)、不公平感が強

い。おそらくこのような女性は、実力があっても女性は昇進できない、自分の実力を発揮する機会がないなど、何らかの

社会の問題を感じている人々と考えられる。関係的資源が多い女性は政治的影響力が強いと考えられるが、不公平感も強

(4)

い。影響力が強い人々が、社会の変化を望んでおり、ムマ後の社会の変化につながるのではないだろうか。

るし、常時雇用、臨時雇用、無職の3つに分けて分析すれば、より明確な結果が出る可能性がある。しかし現状では、地

の課題である。

一票の格差の問題もあり、農村部の意見が、国政により反映されやすい。そのため、農村部住民が問題と考える、政治不

今後の課題として、まず、女性の社会意識構造をより詳細に分析することが挙げられる。女性の無職は4割ほど存在す

領域別の不公平感を考慮した分析も課題として残されている。他国との不公平感や政策志向の比

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「1llIIl-l-1lII1ll-l-lI1IIl-l11lllIlIlIl-I1Il

日本人の社会意識構造と地域間格差107

(3)例えば私生活評価は、「あなたは生活全般に満足していますか、それとも不満ですか」と「あなたの生活水準は、この皿年

(2)意識の分析には、一九九五年SSM調査B票の中の、問羽-1(社会不公平感)、問珊(生活水準変化)、問師(生活満足

(1)ただし地域間格差は、イタリアや韓国、中国など、急激に産業化がすすんだ国において、よく見られる問題であり、必ず

識)、問扣a(規制緩和)と.(政治家のリーダーシップ)、f(保革自己イメージ)は、他の問と比べ異質であり無回答も

多いため、分析に用いなかった。他の社会意識項目の、問〃(生活価値意識)と問鯛(性別役割意識)、問調12(領域別不

間でどう変わりましたか」という2つの質問項目から、閉塞感は「親の地位が重要」と「学校で人生が決まってしまう」と

公平感)も、政策志向と性質が異なるため分析に用いなかった。質問文について詳しくは一九九五年SSM調査コード・ブッ

識)を分析に用いた。ただし問泌a(他人に追い越されそうな不安)と問釦aからe(女性と仕事、および学歴に関する意

感)、問肥(自己評価や心の豊かさ)、釦(日本社会についての意見)、問調(政治的有効性感覚と権威主義)、問仙(政治意

定化に向かう可能性もある。

急速な地域移動は、既に終息しているし、産業構造の変動も以前ほど急激ではない。日本も近い将来、他の先進諸国と同様

いう2項目から構成した潜在変数(因子)である。基本属性は、年齢のような人口統計学的なものと、その他の社会的資源

クを参照。データ使用にあたり一九九五SSM研究会の許可を得た。

が問題である。また北米や南米などの移民国家では、職業よりも人種間格差が問題になることが多い。日本での都市部への

しも日本のみが特殊なわけではない。急激な産業化が既に終息した多くの先進諸国では、地域間格差よりも、職業間の格差

に、さらに分けることもできるが、モデルをシンプルにするためにあえて分けなかった。分析では□【ミンはすべて除いた。

になるとも考えられる。非一貫性や日本の平等性は、急激な社会変動によって起こった一時的な現象であり、今後は階層固

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’108

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今田高俊・原純輔一九七九「社会的地位の一貫性と非一貫性」。富永健一編著、『日本の階層構造』東京大学出版会。

橋本健二二○○|『階級社会日本』青木書店。

句一四コ四mロゴ・の8一一○・』①、画・薑三8mこ『】。、く四一Eのn.自由のヨンロくロゴ。且ヨロロの(『一口一の。。]⑦どのい葛0.冒己日日ざ③再)へ菖日』②冒巨苛的]、⑰①,

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】。、|のゴロ『戸幻●目一□・己。.『鳶思』⑮菖宛go』ミミ涙で『ヨ88コごローくの『の一[望で『のいめ。Ⅱ一一一宅一郎・金丸輝男。富沢克訳。一九七八『静

(4)今回の分析では、抽象的な公平理論は、あまり役にたたなかった。社会のどの分野に関して不公平感が強いのか、不公平

引用文献

かなる革命l政治意識と行動様式の変化』東洋経済新報社。

構造の説明には有効でないようだ。

]国②。

公平理論や数理モデルによって説明するのは不可能である。筆者の意見では、数理モデルは、秩序の説明には役に立つが、

感の規定因として、なぜ地域を分けてから分析した方がよいのか、なぜ不公平感の他に4水準が重要なのか等についてを、

政治的無力感(内的有効感)の因子も存在したが、政治不信の因子と内容が似ており、相互の関連が強いため、今回の分析

従来型の探索的因子分析では、おおむね5つの因子が見いだされたので、諸側面への意識としてこの5つを用いた。その他、

では用いなかった。

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日本人の社会意識樹造と地域間格差109

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海野道郎編二○○○『日本の階層システム2公平感と政治意識』東京大学出版会。

佐藤俊樹二○○○『不平等社会日本lさよなら総中流』中央公論新社。

斎藤友里子一九九八「ジャスティスの社会学」。高坂健次・厚東洋輔編、『講座社会学1理論と方法』東京大学出版会。

織田輝哉・阿部晃士二○○○「不公平感はどのように生じるのかI生成メカニズムの解明」.海野道郎編、『日本の階層シズ

織田輝哉一九九八「不公平感の生成メカーーズムーなぜ属性・社会的地位は不公平感と結びつかないのか」。宮野勝編、『ss

宮野勝編一九九八『SSM調査シリーズ8公平感と社会階層』’九九五年SSM調査研究会。

三宅一郎一九八五『政党支持の分析』創文社。

片瀬一男・海野道郎二○○○「無党派層は政治にどう関わるのかl無党派層の変貌と政治参加の行方」・海野道郎編、『日本

【一口の、の一・]四ョの⑫宛..□四く区の・二四8コロゴ已国の『己乏の、の。①『のQの.]の①m・のCa巨一巨豊8§巨弔さ(葛日一○香§殉国PSへ胃(〕頁討s司冒

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宛のご荷こぐ○一・℃今]四画0』①、.

M調査シリーズ8公平感と社会階層』F囹・一九九五年SSM調査研究会。

テム2公平感と政治意識』】9,局m・東京大学出版会。

雅文訳。’九九三『カルチャーシフトと政治変動』東洋経済新報社。

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」国②①と②】の。

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海野道郎・斎藤友里子一九九○「公平感と満足感l社会評価の構造と社会的地位l」。『現代日本の階層機造2階層意

ご己…一:『の冊l三宅一郎・蒲島郁夫・小田健訳.一九八一、『政治参加と平等l比較政治学的分析』東京大学出版会。

識の動態』ヨー】困・東京大学出版会。

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(立教大学社会学部)