これからのビジネスモデルとしてのソーシャルゲーム · –...
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これからのビジネスモデルとしてのソーシャルゲーム
2015/7/3 コロキウムat国際大学GLOCOM
慶応大学経済学部&国際大学GLOCOM
田中辰雄
高い成長性
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50
100
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250
300
350
400
450
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
十億円
プラットフォーム種類別のゲーム売上の推移
スマフォ
携帯
PCオンライン
専用機
ゲーム専用機
スマフォ
携帯
PCオンライン
出所:ファミ通ゲーム白書
高い利益率を維持
-20%
-10%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
経常
利益
/売
上(%)
ゲームメーカーの利益率の推移利益率=経常利益/売上
DeNA
GREE
GungHo
任天堂
SCE
SquareEnix
DeNA
出所:各社IR資
料、決算公告、
プレスリリース
GREE GungHo
任天堂
Square Enix
SCE
• 売上高利益率は30~40%弱で推移している。
• 比較:iphone 50%, Yellow page 40%, Microsoft40%
ソーシャルゲームのネガティブイメージ
20本の記事のうち半分はネガティブ記事
ソーシャルゲームの影。儲からないソーシャルゲームの一生とは
ソーシャルゲーム開発者の裏側を描いた漫画・・・
「ソーシャルで勝つ人は課金した人か長時間プレイした人のどちらかではなくてはいけない」
ソーシャルゲーム、バブル崩壊後の過酷な競争 :日本経済新聞
ソーシャルゲームは落日なのか? 力押し課金に限界 - THE PAGE
「課金しているのは医者やキャバ嬢。女性向けゲームでは『つけま
LINEも見捨てたソーシャルゲーム:日経ビジネスオンライン
ソーシャルゲーム批判 - しっきーのブログ
PSKMT inside:ソーシャルゲームは社会的善になれるのか
ソーシャルゲームの闇wwwwwwww : 終わらないコンテンツ速報
ソーシャルゲームへの批判
• (1)健全なビジネスモデルではない • ほとんどが無料ユーザでごく一部の課金者に大きく依存するいびつな構造。
• ビジネスモデルとしては一過性で、維持困難である
• (2)ユーザの弱みにつけこんでいる • 依存性:addictionを作り出している。たばこ、酒とおなじ
• 賭博性:ギャンブル性向を利用している:カジノ、賭博とおなじ
• 規制のない酒・たばこ、規制のないカジノ・賭博はもうかって当たり前
• (3)ゲームとして質が低い • 物語性、感動、達成感などがない
ln(課金額) プレイ時間:時間/週係数 p値 係数 p値
協力 0.024 0.19 1.242 0.00 ***感謝 0.041 0.03 ** 0.394 0.16挨拶 0.100 0.00 *** 1.653 0.00 ***強くなる 0.025 0.31 1.274 0.00 ***ランキング 0.028 0.11 0.260 0.31デッキ 0.103 0.00 *** 0.715 0.01 **気に入りキャラ -0.096 0.00 *** -0.914 0.00 ***交換 -0.004 0.78 0.896 0.00 ***ユーザ対戦 0.091 0.00 *** -0.552 0.02 **ひまつぶし -0.041 0.03 ** 0.689 0.01 **1アイマス 0.244 0.00 *** -2.378 0.01 ***2バハムート 0.012 0.84 -6.383 0.00 ***3オーディンバトル -0.018 0.78 1.277 0.184eワンピース外部モニタ -0.524 0.00 *** -0.309 0.775探検ドリランド -0.376 0.00 *** -2.217 0.03 **6ドラゴンコレクション -0.492 0.00 *** -0.695 0.507 聖戦ケルベロス -0.083 0.63 2.093 0.418その他バトル型Sゲーム 0.072 0.38 5.015 0.00 ***定数項 0.148 0.226 -4.331 0.016 ** ゲームダミーの基準は R2 0.0879 0.0707 ワンピース内部モニター n 5636 5633
*** 1%有意、**5%有意、*10%有意
ソーシャルゲームとは何か?
• ソーシャルゲームとは? →なんらかのソーシャル性(人と人とのコミュニケーション)を持ったゲーム
• ソーシャル性があれば、ユーザ数が多いほどユーザの効用は高まる→ネットワーク効果が生まれる。
出所 田中・山口 2015 『ソーシャルゲームのビジネスモデル』勁草書房
ソーシャルゲームのビジネスモデル:ネットワーク効果と価格差別
支払意志額P, 費用MC
アクティブユーザ数 x
(支払意志額の高い順に左
から並んでいる)
P(x, X) x番目の人の支払意志額
市場全体の利用者数Xにも依存(ネットワーク効果)
プレイしている人が多いほど満足感が大きい
P2
x2
R2
P(x、、x2)
x1
X0
P(x, X0)
P1
R1
1)無料にする。ネットワーク効果を働か
せて需要曲線を右シフト
2) 一部の支払意志額の高い人に課金す
る価格差別を行う。
このビジネスモデルの結果、社会全体の余剰は増えている事に注意
(ネットワーク効果による余剰増加+無料でプレイできることによる余剰増加)
フリーミアムのビジネスモデル
• アニメのDVD – 無料:テレビ視聴者、違法合法ダウンロード視聴者
– 課金:DVDレンタル<DVD購入者
• AKB – 無料:テレビラジオ視聴者、違法合法ダウンロード視聴者
– 課金:CD購入者<握手権購入者<ライブ参加者
• LINE – 基本は無料:スタンプが有料
• ウェブサービス全般 – ニコニコ動画、
• 一般会員 vs プレミア会員(500円/月で優先配信)
– CookPad • 一般サービスvsプレミアサービス(検索、アップできるなど)
– DropBox • 無料プラン(2GB) vs 有料プラン(1TB, 1200円/月)
– Evernote • 無料プラン vs 有料プラン(月額240円、容量2GB+追加機能)
– Spotify • 無料視聴 vs 定額聞き放題
フリーミアムはなぜ増えてきたのか フリーミアムの前提と今後
• (1)限界費用がゼロに近い(追加ユーザの費用がほぼゼロ)
– デジタル財はすべてあてはまる。
– ネットワークの普及でウエブ上のサービスも追加費用はかからない。
• (2)ネットワーク外部性が働く(あるいは需要曲線の左端が跳ね上がる)
– 左端が低いままでは価格差別が効かない(例、新聞)
このうち(1)の限界費用のゼロの条件は今後も拡大する
なぜなら、デジタル化とネットワーク化は今後も変わらない趨勢だから。
(2)で価格差別をうまく使えたケースではフリーミアムが広がっていく。
ソーシャルゲームのビジネスモデルは一般的な類型のひとつであり、
いわば“ありふれた”もの。一過性ではなく維持可能であろう。
MC=0
[2]価格差別をして支払意志額の高いユーザから収益を得る
ビジネスモデルのまとめ
[1] 無料にして、ユーザ数を拡大。ネットワーク効果で需要曲線を上に
シフト。
価格差別についての詳細と課題
ネットワーク効果の帰結と課題
価格差別の工夫
• 価格差別の工夫その1 ガチャ
– 支払意志額の高い人は高課金を。
– そうでない人には軽課金を
– 経済厚生は改善することもある
支払意志額
ユーザ数
固定価格P
O A
B
D:固定価格の時の支払意志額
D’:ガチャがある時の平均支払意志額
• 価格差別の工夫その2 交換・進化
– 無課金と重課金者を調和的に共存させる仕組みが必要
• PCオンラインゲームでは課金で伝説の剣を買えるとゲーム世界が壊れる。
– 重課金者はお金を投入してガチャをまわす。余ったカードを無課金者の持つ回復剤と交換。無課金者は時間をかけて歩き回って回復剤を拾う(お金と時間という2大資源の保有差による貿易)
– 重課金者は無課金者がいるから回復剤が手に入り、また自慢もできる。無課金者は重課金者がいるから強カードが手に入る。
コアユーザ
(重課金)
カジュアルユーザ
(無課金)
システム(運
営側)
強カード
通貨、回復剤
通貨
回復剤 投入
時間
強カード
ガチャ
課金
価格差別の難しさーある失敗例
• あるバトル型カードゲームK
– 途中で価格差別に失敗して、ユーザ離れを招いた。
– 不満を覚えたユーザが2万字に及ぶ要望書を提出したという珍しい事例
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
16000
18000
20000
2011年
05月
2011年
06月
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07月
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08月
2ちゃん書き込み数の推移 : カード型バトルゲームK
コンプガチャ禁止・
すべてのカードの交換
制限
最強カードの交
換禁止
交換不可の回復剤
導入
バザーの導入
A
B
C
D
• 失敗1:交換の停止
– RMT(リアルマネートレイド)対策として人との交換を禁止
ユーザの要望書より
「ユーザー離れが起きている一番の原因はトレード制限のため・・」
「トレードを月1日でいいから解禁して欲しい」
「トレード制限が実施された時に、戦友・ギルメンの引退が続出しました」
「今のKの低迷は流通を全
てストップした事による弊害だと思っています。」
出所 田中・山口 2015 『ソーシャルゲームのビジネスモデル』勁草書房
交換禁止の影響 他のゲーム
出所 田中・山口 2015 『ソーシャルゲームのビジネスモデル』勁草書房
• 失敗2:課金誘導のやり過ぎ – ガチャ回数の増加、ひと月に2回が5回に増加 → 課金額の増加
– 新属性の導入で旧属性が一挙に無価値化→課金しなおし
• パラメータの水準が一挙に5倍以上
– ギルド内交換禁止(ギルド内での強カード貸し借り不可)→自分で課金
– 交換不能の回復剤 → 回復剤は自分で課金
– 無課金でも最強カードが得られる召喚(限定召喚)を廃止 → 課金せざるをえない
何ら新しい楽しみがあるわけでなく
単に課金額が増える→値上げ
ユーザが減る。ネットワーク効果があ
るのでさらに減少する
普通のエンターティメント産業
ユーザ要望書より
「とても月3万円の中ゲー
ムを続けて行く事が出来ず…。この状態を続けれ
ば間違いなく課金者が引退して減っていきゲーム自体がなくなる事になるでしょう。
「世間一般的に家庭を持っているお父さん方のお小遣いの平均が約3万(昼食代込みの方多数)」
「何事も課金、課金。だんだん嫌になってきました」
なぜ課金誘導が行き過ぎたのか? KPIの問題
• KPIで売上最大化を目指すと短期的になりやすい
– 時系列分析の宿命的問題。例:財政政策→景気刺激は検出できるが財政悪化→長期的な成長率低下は検出しにくい
• KPIに頼らない運営の試み
– パズドラ:「ゲーム開発にKPIやマネタイズは禁句」
売上 = DAU × 課金率 × ARRPU
Daily Active User 課金する人 Average Revenue per Paid User
ユーザ数 の割合 課金者の一人当たり課金額
KPIに代わる運営指標の必要
ユーザが楽しんでやっている事がわかるような指標
ネットワーク効果の帰結ー参入の困難化
• ユーザ数が多いとユーザの便益が高いなら、最初にユーザを獲得したゲームが競争上有利。→ 新規参入が困難。独寡占が維持されやすい
– PCのOSでのWindowsの独占、検索でのGoogle、音楽配信でのiTune、書籍通販でのアマゾン、料理レシピでのCookPad
ベスト30内に登場するゲームタイトル数では、ソシャゲは従来型ゲームの1/3
ベスト30内に滞在する時間では、ソシャゲは従来型ゲームの3倍の長さ
371
111
0
50
100
150
200
250
300
350
400
専用機上のゲーム iPhone上のゲームアプリ
2013年の週間売上ベスト30に1回でも登場したゲーム総数
出所:VGhart, AppAnnie
4.2
14.1
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
12.0
14.0
16.0
専用機上のゲーム(371) iPhone上のゲームアプリ(111)
2013年の週間売上ベスト30内の平均滞在週数
出所:VGhart, AppAnnie
SD=6.7 SD=16.4
出所 田中・山口 2015 『ソーシャルゲームのビジネスモデル』勁草書房
順位の推移
0
5
10
15
20
25
30
35 1月
6日
1月
13日
1月
20日
1月
27日
2月
3日
2月
10日
2月
17日
2月
24日
3月
3日
3月
10日
3月
17日
3月
24日
3月
31日
4月
7日
順位の推移:iPhone用ゲームアプリ
年初週にベスト10のゲームのその後の順位
Puzzle & Dragons 拡散性ミリオンアーサー
釣りスタ by GREE(グリー) LINE POP
プロ野球PRIDE 暴走列伝 単車の虎
不良道~ギャングロード~ GUNDAM AREAWARS
秘宝探偵 運命のクランバトル(クラバト)
従来型ゲームでは、1月初週にベスト10内にいたゲームのうち8本が3カ月で消える。ソシャゲでは、 すべて生き残っている
出所 田中・山口 2015 『ソーシャルゲームのビジネスモデル』勁草書房
参入の困難さ → 産業として停滞
• エンターティメント産業としては新しいアイデアが出なくなって停滞する
– 先行例1:コンソールゲーム。 開発費の高騰で参入困難→シリーズものの氾濫(ずっとファイナルファンタジーとドラクエとポケモンと三国志とモンハン)
– 先行例2:かつての邦画 ゴジラと寅さん(釣りバカ)
• 停滞を回避した事例。
– 先行例1:マンガ。同人から商業へさらにアニメ化。ラノベからアニメ化
– 先行例2:アメリカの映画。B級映画サポート、映画学校支援、制作支援
ソーシャルゲームでは今後はネットワーク効果に加えて、開発費も
高騰する兆しがある。参入はますます困難に
対策をとる必要はないか?
同人 → 商業 → アニメ
ラノベ
同人 → 小規模 → アプリ
ゲーム アプリ
若手支援の賞?、ファンド? 専用ショップ?
分業化?制作支援企業?、ミドルウエア?
ソーシャルゲームの課題
• (1)社会からの理解
– ビジネスモデルとしての健全性
– 依存性・賭博性の有無
– 子供(教育)への影響
• (2)価格差別の工夫
– ガチャに代わる価格差別方法
– KPIに代わる指標の工夫
• (3)参入の維持(競争の維持)
– 挑戦者の道の確保
• (4)国際展開
– 外国にいかに売るか
– コンソールを繰り返さない?、繰り返す?
• (5)プラットフォーム独占(Appstore,Google playによる寡占)
– 3割の手数料は妥当か。
– ビジネス展開への制限
• (6)その他 – 役に立つソーシャルゲーム(任天堂の戦略に学ぶ「脳トレ」「Wii Sports」)
– フリーミアムのメディアミックス(ゲーム以外で収益を上げる)