matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/wp-content/uploads/2018/09/272454a1a... · web...

Click here to load reader

Upload: others

Post on 28-Dec-2019

7 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

松浦良充研究会

2018年度 夏課題

これからの高大連携活動のあり方

〜高校生の進路意識に着目して〜

慶應義塾大学 文学部 人文社会学科 教育学専攻 4年

11509732 髙野美季

目次

アブストラクト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

序章 本論文の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

第1章 高校生・大学生の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

 第1節 高校生の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

 第2節 大学生の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

 第3節 大学への入学目的と大学での学習・適応の関連性・・・・・・・・・・・・・・・5

 第4節 高校生の進路選択・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

 第5節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

第2章 高大接続改革について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

 第1節 高大接続改革とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

 第2節 高大接続改革における3つの改革・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

 第3節 高大接続改革における2つの側面・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

 第4節 高大接続改革に関する先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

 第5節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

第3章 高大連携活動について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

 第1節 高大連携とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

 第2節 高大連携の変遷と類型・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

 第3節 高等学校のキャリア教育での高大連携活動の実践・・・・・・・・・・・・・・・22

 第4節 高大連携活動の実施状況と具体的内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

 第5節 高大連携活動の問題点とまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

第4章 アメリカのアドバンスト・プレイスメント・プログラム(APプログム)について・・・28

 第1節 APプログラムの概要と歴史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

 第2節 APプログラムの実施状況と特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

 第3節 APプログラムの効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

 第4節 近年のAPプログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

 第5節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

反省点・今後の方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

アブストラクト

 本論文は、高等学校と大学の円滑な接続のために、今後どのような取り組みが必要なのかを考えることを目的とする。日本では大学全入時代が到来したが、大学に明確な目的を持たずに進学する高校生が多い。また、日本の大学生の学習時間の短さも問題となっている。このような状況の中で、高校生が大学に目的を持って進学し大学での学習を充実させるために、高校と大学の円滑な接続が求められている。

 本論文では、まず、高校生が大学に目的を持って進学し大学での学習を充実させるためには、大学進学の際に『大学の本来機能』に関連した目的を持って進学することが重要であることを確認する。そして、現在行われている高大接続改革に注目し、高大接続改革には「高校生が大学での学びについて知り、大学入学後について考える機会を提供する」という視点が欠けているため、改革によって、高校生が『大学の本来機能』に関連した目的を持って進学することが可能にはならないのではないかということを確認する。その上で、高大連携活動に着目し、「継続的な高大連携活動」の重要性を述べ、特に「大学における講義の聴講(大学における学修の単位認定)」の制度に着目し、アメリカのAPプログラムとの比較を通して日本への示唆を得る。

 本論文の流れを以下に示す。

 序章では、本論文の目的を述べる。

 第1章では、アンケート調査の結果などをもとに高校生と大学生の現状を示し、高校生の大学進学理由の不明確さ、大学生の学習時間の短さを確認する。そして、その2つの問題の関連性を確認し、『大学の本来機能』に関連した目的を持って進学することが重要であることを確認する。

 第2章では、高校と大学の円滑な接続を目的として現在行われている高大接続改革の概要を示す。その上で、高大接続改革が『選抜接続』と『教育接続』の改革に偏り、「高校生が大学での学びについて知り、大学入学後について考える機会を提供する」ための改革が行われていないという問題点を確認する。

 第3章では、高校生が大学入学後について考えるために有効であると考えられる、高大連携活動に着目してその概要を示す。その上で、一時的な連携活動にとどまっているという問題点を確認し、継続的な高大連携活動の必要性を確認する。特に「大学における講義の聴講(大学における学修の単位認定)」の制度に着目し、その重要性を述べる。

 第4章では、日本の高大連携活動への示唆を得るため、「大学における講義の聴講(大学における学修の単位認定)」の制度に類似しており、アメリカ国内で広く普及している高大連携プログラムであるAPプログラムを取り上げ、その概要や特徴を確認する。

 最後に夏課題の反省点と今後の方針を述べ、本論文を終える。

 

序章 本論文の目的

 大学全入時代が到来し、誰もが希望すれば大学に入れる時代となった。2017年度の大学・短大進学率は54.8%となり[footnoteRef:1]、同世代の半数以上が大学や短大に進学している。このような状況の中で、大学進学の理由が不明確なまま「とりあえず」進学する者が多いことが問題視されている。そして、目的意識を持たずに大学に進学する高校生は近年増加傾向にある。 [1: 文部科学省「平成29年度学校基本調査について(報道発表)」,2017年8月3日http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2017/08/03/1388639_1.pdf (アクセス日:2017年10月1日)]

 また、日本の大学生は海外の大学生に比べて学習時間が短く、大学生の学習に対する取り組みも問題となっている。「日本では大学に入るまでは大変だが、入ってからは楽だ」とよく言われるが、今後、グローバル化・情報化がさらに進展し、様々な課題に対応できる力を持った人材が求められる中で、大学入学後の学びを充実させる必要がある。

 大学への入学目的と大学での学習への取り組みには関連性があり、進路意識や目的意識が希薄なまま大学に進学することで、大学での学習への取り組みに問題が出るという指摘もある。そのため、大学での学びやその後の進路の充実のためにも高等学校から大学への進学の際に進学理由を明確にし、大学入学後について考える必要があるといえる。これは高校と大学の接続に関わる問題であり、高校と大学の円滑な接続が求められる。

 そこで、本論文では現在行われている高大接続改革や高大連携活動に着目し、海外との比較を通して、高校と大学の円滑な接続のために、今後どのような取り組みが必要なのかを考えていきたい。

第1章 高校生・大学生の現状

 本章では、日本の高校生と大学生の現状を見ていく。アンケート調査などの結果から、高校生の大学進学理由のうち、消極的な理由や無目的によるものが多いことを確認する。また、日本の大学生の学習時間の短さなどをデータで確認する。そして、大学への入学目的と大学での学習の関連性を示した上で、高校生が大学に進学し大学での学習を充実させるためには『大学の本来機能』に関連する進学動機を持つことが重要であることを述べる。

第1節 高校生の現状

 ここでは、高校生の現状として、大学進学者が受験大学や進学大学を選んだ理由を見ていく。

 2008年、2012年、2016年に大学1〜4年生を対象に行われた調査[footnoteRef:2]では、「大学選択で重視した点(複数選択)」に関する18項目のうち、「興味のある学問分野があること」の項目を選んだ学生は、2008年は64.8%、2012年は62.1%、2016年は54.5%と減少傾向にある。また、「取りたい資格や免許が取得できること」は、2008年は19.8%、2012年は22.9%、2016年は20.5%とほとんど増加していない。一方で「合格が早く決まること」は、2008年は8.7%、2012年は10.5%、2016年は11.4%と増加しており、「上記にあてはまるものはない」も2008年は3.4%、2012年は3.4%、2016年は5.2%と増加している。この結果から、大学での学習内容や将来の職業を意識して大学を選んだ学生数は減少・停滞傾向にある一方で、大学での学習内容に関係のない理由や、特に何も意識せずに大学を選んだ学生の割合は増加傾向にあることがわかる。 [2: ベネッセ教育総合研究所「第3回 大学生の学習・生活実態調査報告書」,2016年http://berd.benesse.jp/up_images/research/3_daigaku-gakushu-seikatsu_02.pdf (アクセス日:2017年10月1日)]

 また、2008年と2013年に大学生に行われた調査[footnoteRef:3]では、大学進学理由として「資格や免許を取得する」の項目を選んだ学生は、2008年の79.7%から2013年では67.9%、「専攻学問を研究したい」は、2008年の77.7%から2013年では61.2%と減少した。一方で「すぐに社会に出るのが不安だから、とりあえず進学」は、2008年の52.3%から2013年では64.4%、「周囲の人がみな進学する」は、2008年の41.5%から2013年では63.7%、「先生や家族が勧める」は、2008年の42.7%から2013年では58.2%、「なんとなく」は、2008年の27.5%から2013年では48.7%となり、大幅に増加している。この結果から、学問や資格取得などの積極的な理由を挙げる学生は減少し、反対に、周囲の人々からの影響や無目的による進学が増加していることがわかる。 [3: 進研アド「なぜ、その大学に入学したのか」,2014年http://shinken-ad.co.jp/between/backnumber/pdf/2014_2_tokubetsu.pdf (アクセス日:2017年10月1日)]

 このように、消極的な理由や明確な目的を持たず、進路意識や目的意識が希薄なままに大学に進学する者の割合は停滞・増加傾向にあることが確認できる。

第2節 大学生の現状

 次に、大学生の現状を見ていく。特に学習時間に注目し、アメリカの大学生との比較、国内の小中高生との比較を通して現状を確認する。

 2007年に大学生44905人を対象に行われた調査[footnoteRef:4]では、日本とアメリカの大学生の「大学の授業に関連する学習の時間(1週間あたり)」に関する質問に対しての回答がなされた。日本の大学生では、一番多いのが「1〜5時間」で57.1%、次いで多いのが「6〜10時間」で18.4%、次が「11〜15時間」で7.3%となり、全く勉強しない「0時間」は9.7%であった。ここから、日本の大学生の約85%は、一週間のうち授業に関連する学習時間が10時間以下であることがわかる。一方、アメリカの大学生では、一番多いのが「6〜10時間」で26.0%、次に「11〜15時間」で22.3%、次に「16〜20時間」で16.8%であった。「0時間」は0.3%でほぼ皆無であり、「21〜25時間」と「26時間以上」を合わせると19.3%となった。ここから、アメリカの大学生の約6割が週に11時間以上、授業に関連する学習を行っており、さらに、約2割は21時間以上の時間を費やしていることがわかる。 [4: 東京大学 大学経営政策研究センター(CRUMP) 「全国大学生調査」,2007年http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/gakubukei2008_01.pdf (アクセス日:2018年5月3日)]

 このデータから、日本の大学生の学習時間はアメリカの大学生と比較すると短く、ほとんど授業に関連した学習をしない学生も一定数存在することが確認できた。

 また、2011年に総務省が実施した「社会生活基本調査」[footnoteRef:5]では、小学生から大学院生までの学生の1日の学業時間(授業、予習・復習などに費やす時間)が学年別に示されている。このうち、学業時間が最も長いのは高校3年生で6.17時間、次いで多いのが中学3年生の6.06時間となっている。大学生の学業時間は3.33時間であり、小学6年生の5.10時間よりも短くなっている。 [5: 総務省「平成23年 社会生活基本調査 結果の概要」,2011年http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/pdf/youyaku2.pdf (アクセス日:2018年5月3日)]

 このように、日本の大学生の学習時間は日本の学生全体の中でも短いことがわかった。大学生は小学生から高校生に比べて授業数が少ないため、授業自体に費やす時間は短くなると考えられるが、それを考慮しても日本の大学生は全体としての学習時間が短いと言えるだろう。

第3節 大学への入学目的と大学での学習・適応の関連性

 ここでは、大学への進学目的と大学での学習がどのように関連しているのか確認する。

 まず、明確な目的を持たずに大学に進学することにより、大学入学後の大学での適応度が低くなるという指摘がある。2002年に行われた「大学生の学習意欲に関する調査」[footnoteRef:6]では、大学や学部への適応度が高い学生と低い学生では進学時に重視することが異なっていることが明らかになった。専門分野への適応度が低い学生は「興味・関心」「得意科目」「職業」「資格」「知識・技術」をあまり重視せずに、単に「学歴」を得ることや「周囲のすすめ」を重視して進路選択を行っているという結果が示された。また、大学を志望した理由が「親が行けというから」「周りが行くから」「なんとなく」のような消極的な理由である場合、大学において友人関係でつまずく傾向にあるとされている[footnoteRef:7]。また、進路決定に問題があったり、未熟なまま決定されたりすると、その後の生活に適応することが困難となり、大学での学習意欲の欠如、無気力、留年、心身症などの様々な適応現象を起こすことも指摘されている[footnoteRef:8]。 [6: 柳井晴夫他「大学生の学習に対する意欲等に関する調査研究」,高等教育学力調査研究会『文部科学省教育改革の推進のための総合的調査研究委託報告書, 平成12・13年度』,2002年] [7: 斎藤浩一「大学志望動機が入学後のストレッサーおよび大学嫌いに及ぼす影響」,『進路指導研究』21(1),2002年,pp.7-14.] [8: 柳井修『キャリア発達論』,ナカニシヤ出版,2001年,p.88.]

 このように、大学進学理由と大学適応の間には関連があり、明確な目的を持たずに「とりあえず」大学に進学することで、その後の大学での学習への取り組みに悪影響が出る可能性があることがわかった。そのため、大学進学時には、「学歴を得るため」、「周囲のすすめ」、「なんとなく」、などの理由ではなく、自分の興味・関心や、就きたい職業、身に付けたい知識・技術など、「大学で学ぶ内容に関連した動機」を持って進学することが望ましいと考えられる。

第4節 高校生の進路選択

 高校生が進路の選択決定を行う過程には、様々な要因が影響している。将来を展望し主体的に進路を選択する生徒がいる一方で、進路決定が困難であったり、将来の人生設計があいまいで安易に選択をしてしまう生徒も存在する。以下では、高校生の進学志望動機や進路選択の際に必要としている指導について確認する。

 渕上[footnoteRef:9]は、高校生の進路選択に関わる5つの因子を提示している。渕上は、高校生を対象に45項目の進学志望動機を5段階評定させ、その結果を因子分析した結果、以下の5つの因子が抽出された。 [9: 渕上克義「進学志望の意思決定過程に関する研究」,『教育心理学研究』32,1984年,pp.59-63.]

①『大学の本来機能』

②『家族への配慮と規範機能』

③『モラトリアム機能』

④『大学の副次的機能』

⑤『大学の経済的価値機能』

第1因子の『大学の本来機能』は「専門知識を深めたい、広く教養を身につけたい、自分の可能性を求める」などの欲求からなる。第2因子の『家族への配慮と規範機能』は「親孝行のため、親が勧めるから」などの項目からなる。第3因子の『モラトリアム機能』は、「周りの人が進学するので、まだ社会に出たくない、大学で遊びたい」などの項目から構成される。第4因子の『大学の副次的機能』は「大学で多くの人と知り合いたい、大学でクラブ活動をやりたい」などの項目からなる。第5因子の『大学の経済的価値機能』は、「裕福な生活を送りたい、一流企業に就職したい」などの項目から構成される。

 前節では、大学への進学目的と大学での学習の関連性を確認し、大学「学歴を得るため」、「周囲のすすめ」、「なんとなく」という理由ではなく、自分の興味・関心や、就きたい職業、身に付けたい知識・技術など、「大学で学ぶ内容に関連した動機」を持って進学することが重要だと述べたが、「大学で学ぶ内容に関連した動機」とは、渕上が示した5つの因子の中の第1因子である『大学の本来機能』に関する動機にあたると考えられる。そのため、本論文は、高校生が『大学の本来機能』に関する目的を持って大学に進学することが望ましいという前提のもとで、そのためにはどのような取り組みが必要なのかを考えていきたい。

 では、次に、高校生は進路選択の際に高校がどのような指導をすることを望んでいるのか見ていく。国立教育研究所が2012年に公立高校卒業者を対象に行った調査[footnoteRef:10]では、「将来の生き方や進路について考えるために指導してほしかったこと(複数選択)」について、以下の図1のような結果が示された。ここでは、「社会人・職業人としての常識やマナー」、「自分の個性や適性(向き・不向き)を考える学習」、「卒業後の進路(進学や就職)に関する情報の入手方法とその利用の仕方」についで、「上級学校(大学、短期大学、専門学校等)の教育内容や特色」の項目を選んだ人の割合が4番目に多く、27.9%と約3割に上っている。 [10: 国立教育政策研究所「キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査第一次報告書」http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/career_jittaityousa/career-report.htm (アクセス日2018年5月8日)]

図1[footnoteRef:11] 「将来の生き方や進路について考えるために指導してほしかったこと(複数選択)」 [11: 同上]

(自分で作り直します)

 また、ベネッセが2015年に全国の高校3年生に対して行った「高校生活と進路に関する調査」[footnoteRef:12]では以下の図2のような結果となった。「進路選択について悩んだこと(進路別)」に関する質問に対し、「進みたい進路に関する情報が不足している」という項目に対して、四年制大学に進学予定の高校生の35.3%が「よくあった」または「ときどきあった」と回答していることがわかる。つまり、高校3年生の3分の1以上が、大学進学時の進路に関する情報の不足を感じているのである。 [12: ベネッセ総合研究「『高校生活と進路に関する調査』ダイジェスト版 [2015]」,2015年https://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=4766 (アクセス日:2018年9月8日)]

図2[footnoteRef:13] 「進路選択について悩んだこと(進路別)」 [13: 同上]

(自分で作り直します)

 これらの調査の結果から、高校から大学への進路選択の際に、比較的多くの高校生が大学に関する情報を十分に得られていないと感じており、指導が不十分であったと考えていることがわかった。

第5節 まとめ

 これまで、明確な目的を持たずに大学に進学する高校生が増加傾向にあること、日本の大学生の学習時間が短いことを確認した。そして、大学進学目的と大学での学習への取り組みとの間には関連性があることを確認し、大学での学習や大学生活を充実させるためには『大学の本来機能』に関する目的を持って大学に進学することが重要であると述べた。

 高校生が『大学の本来機能』に関する動機を持って進学するためには、高校の段階で大学での勉強についての十分な情報を得て、大学入学後について考えることのできる環境を作ることが大切だと考えられる。しかし、前節で確認したように、比較的多くの人が高校において、大学の教育内容などについての情報の提供が不十分であったと考えており、現在の高校生が進路選択の際に大学での学習に関する十分な情報を得られていないことがわかった。そのため、より多くの情報を提供していく必要があると考えられる。

 そこで、本論文では高校生が『大学の本来機能』に関する進学目的を持って大学に進学するために今後どのような取り組みが必要なのかを考えていくこととする。

 そこで、まず次章では、高校から大学への進学について考える上で重要な政策であり、現在行われている改革である「高大接続改革」について見ていく。

第2章 高大接続改革について

 第1章では、高校生が大学進学の際に『大学の本来機能』に関する進学目的を持って進学することの重要性を述べた。本章では、高校と大学の円滑な接続を目的として現在行われている高大接続改革の概要を示す。その上で、高大接続改革により『大学の本来機能』に関する目的を持った大学進学が可能になるかどうか考えていきたい。

第1節 高大接続改革とは

 高大接続改革は、グローバル化の進展、技術革新、国内における生産年齢人口の急減などに伴い、予見の困難な時代の中で新たな価値を創造していく力を育てることを目的とするものである。高大接続改革においては、高校教育、大学教育、大学入学者選抜を通じて学力の3要素を確実に育成・評価する、三者の一体的な改革を進めることが極めて重要であるとされ、これらの改革に向けての取組みが進められている[footnoteRef:14]。 [14: 文部科学省「高大接続改革」,2017年http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/koudai/index.htm (アクセス日:2018年5月3日)]

 「高大接続」とは「高等学校と大学との接続」の略称であり、「初等中等教育と高等教育との接続」を象徴的に表す用語として教育関係者の間で古くから使われていたものであるが、高大接続が公式の場で初めて本格的に取り上げられたのは、1999年12月に中央教育審議会が文部大臣に答申した「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」である。この答申では初等中等教育と高等教育との接続について、「学生がいかに自らの能力・意欲・関心に合った高等教育機関を選択するか、あるいは大学が求める学生を見いだすか、特に、今後はいかに高校教育から高等教育に円滑に移行させていくかという観点から、接続の問題を考えるべき」であるとし、「入学者選抜の問題点だけでなく、カリキュラムや教育方法なども含め、全体の接続を考えていくことが必要である」[footnoteRef:15]とされた。 [15: 文部科学省「初等中等教育と高等学校との接続の改善について(答申)」,1999年12月16日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/toushin/1309737.htm (アクセス日:10月2日)]

 高大接続改革のこれまでの動向は以下の表1の通りである。

表1[footnoteRef:16] 高大接続改革の議論・検討の流れ [16: 文部科学省 高大接続改革PT「高大接続改革の動向について」,2017年1月31日 をもとに作成http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/02/15/1381780_3.pdf (アクセス日:2018年5月3日)]

2012年 8月

中央教育審議会へ諮問「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」

2013年10月

教育再生実行会議「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」

2014年12月

中央教育審議会「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」

2015年1月

文部科学大臣決定「高大接続改革実行プラン」

2015年3月〜2016年3月

「高大接続システム改革会議」

自由民主党文部科学部会「高大接続改革に関する小委員会」

2016年4月〜

文部科学省内に検討・準備グループ等を設置

現在、高大接続改革は2014年の中教審答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(以下、高大接続答申)をもとに進められている。この高大接続改革においては、答申では高大接続改革の目標は、「『大学入試』の改革を一部に含むものではあるが、高等学校教育と大学教育において、十分な知識・技能、十分な思考力・判断力・表現力、および主体性を持って多様な人々と協働する力の育成を最大限に行う場と方法の実現をもたらすこと」[footnoteRef:17]にあるとしている。そして、「①高校教育改革」、「②大学教育改革」、「③大学入学者選抜改革」の3つの改革が一体的に行われている。 [17: 文部科学省「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」,2014年12月22日,p.9http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/01/14/1354191.pdf (アクセス日:2018年5月3日)]

第2節 高大接続改革における3つの改革

 高大接続改革においては、「①高校教育改革」、「②大学教育改革」、「③大学入学者選抜改革」の3つの改革が行われていると述べた。これら3つの改革では、社会で自立的に活動していくために必要な「学力の3要素」をバランスよく育むことが必要とされ、「学力の3要素」を中心に改革の目的が定められている。「学力の3要素」とは、次の3つの要素を指す[footnoteRef:18]。 [18: 文部科学省「高大接続改革」,前掲資料]

1.知識・技能の確実な習得

2.(①を基にした)思考力・判断力・表現力

3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度

 以下では、「①高校教育改革」、「②大学教育改革」、「③大学入学者選抜改革」の3つの改革では具体的にどのような取り組みが行われているのか見ていく[footnoteRef:19]。 [19: 文部科学省 高大接続改革PT「高大接続改革の動向について」,前掲資料]

(1)高校教育改革

 高校教育改革では「『学力の3要素』の確実な育成」を目的として以下の取り組みが行われている。

①学習指導要領の抜本的な見直し

・育成すべき資質・能力を踏まえた教科・科目等の見直し

・カリキュラムマネジメントの普及・促進

②学習・指導方法の改善と教員の資質能力の向上

・アクティブ・ラーニングの視点からの学習・指導方法の改善

・教員の養成・採用・研修の見直し

③多面的な評価の推進

・学習評価の改善

・多様な学習成果を測定するツールの充実→「高等学校基礎学力テスト(仮称)の導入」

(2)大学教育改革

 大学教育改革では「『学力の3要素』のさらなる伸長」を目的として以下の取り組みが行われている。

①三つの方針(卒業認定・学位授与、教育課程編成・実施、入学者受入れ)に基づく大学教育の質的転換

・関係省令の改正(「三つの方針」の一体的な策定・公表の制度化)

・「三つの方針」の策定・運用に関する「参考指針」の作成

・各大学において育成を目指す人材像や具体的な教育活動の明確化

・入学から卒業までの、大学教育を充実するためのPDCAサイクルを強化

②認証評価制度の改善

・高大接続改革の趣旨を踏まえた評価項目・方法の改善(「三つの方針」に基づく大学教育の質的転換促進や、内部質保証を重視した評価)

(3)大学入学者選抜改革

 大学入学者選抜改革では「『学力の3要素』の多面的・総合的評価」を目的として以下の取り組みが行われている。

①「大学入学共通テスト」の導入

…思考力・判断色・表現力の一層の重視が目標とされ、2020年度からセンター試験に代わる「大学入学共通テスト」が実施される。2017年に「大学入学共通テスト」の実施方針が決定され、国語と数学においては記述式問題を導入、英語においては4技能(読む・聞く・話す・書く)を適切に評価するため、 民間等が実施する資格・検定試験を活用することが予定されている。

②個別入学者選抜の改革

…明確な「入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)」に基づき、「学力の3要素」を多面的・総合的に評価する選抜へ改善新たな評価方法の開発・普及、新たな選抜実施ルールの構築、「調査書」の改善や「学力計画書」等の充実が行われる。

 このように、高大接続改革では、学校の教育内容の改革である「高校教育改革」と「大学教育改革」、そしてその間をつなぐ「大学入学者選抜改革」という3つの改革が一体的に行われることによって高校と大学の円滑な接続が目指されている。高大接続改革は今まさに進められている改革であり、文部科学省は2015年度から2024年度にかけての改革のスケジュールを示し、計画的に改革が行われている。

第3節 高大接続改革の2つの側面

 ここまで高大接続改革における3つの改革について見てきたが、高大接続における「接続」には2つの側面があると指摘されている。

 先﨑[footnoteRef:20]は、高大接続は大きく2つの概念から構成されているとしている。1つは入学者選抜の結果として生じる「進学」であり、もう1つは高校教育課程から高等教育課程への円滑な移行、すなわち「学校教育の連続」である。1999年の答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」の中では、この「進学」と「学校教育の接続」ともに問題を抱えていることが示されている。 [20: 先﨑卓歩「高大接続政策の変遷」,『年報公共政策学』4, 59-89, 2010年,pp.59-60.]

 まず「進学」とは、高校生(大学進学希望者)の身分から大学生に移行することであり、その関門が「選抜」の手段である大学入試となる。これは選抜に当たる接続であり、『選抜接続』とされる。そして、「学校教育の接続」とは、高校生から大学生への移行は、高校教育(普通教育)を修め、大学教育(専門教育)に進むことを意味しており、はいわゆる『教育接続』とされる。

 このように、高大接続における接続には『選抜接続』と『教育接続』の2つの側面があることが指摘されているが、これは現在行われている高大接続改革の内容にも当てはまると考えられる。第2節では、高大接続改革には「①高校教育改革」、「②大学教育改革」、「③大学入学者選抜改革」の3つの改革があることを確認したが、このうち「③大学入学者選抜改革」は『選抜接続』の改革にあたり、「①高校教育改革」と「②大学教育改革」は『教育接続』の改革であると考えられる。そのため、高大接続改革では『選抜接続』と『教育接続』の2つの側面の改革を行うことにより、高校と大学が円滑に接続することが目指されているといえる。

第4節 高大接続改革に関する先行研究

 前節まで高大接続改革の概要を見てきたが、改革に対しては様々な考え方が存在する。以下では高大接続改革に関する先行研究を見ていく。

 高大接続改革の特質と論点として大多和[footnoteRef:21]は次に挙げる3点を指摘している。1点目は、「入試の大改革」(前節の『選抜接続』)という特質である。現行の大学入試センター試験が客観性の行き過ぎた平等観に基づくものであったとして新たな平等観に基づいて実施される新テストにおいて、「新たな平等観」が不公平につながらないよう慎重にチェックする必要があると指摘する。2点目は、授業方法を軸とした「学びの改革」(前節の『教育接続』)という特質である。知識偏重型の入試対策勉強や研究と比べて教育を重視しない大学の教育体制が、学生・生徒の「主体的な学び」を阻害しているとして、高校では「課題発見と解決に向けた生徒の主体的・協働的な学習・指導方法の充実」が、大学では「アクティブ・ラーニング」が盛り込まれている。この点においては、講義とアクティブ・ラーニングの二項対立関係があることや、政策レベルで一律に推し進めるべきものであるかについて、疑問を感じるとしている。3点目は「学校段階の縦断的改革」という特質である。1点目の入試方法や2点目の教育方法に加えて、各教育段階の学校が提供する学問知の社会的重要性の視点が大切だとし、日本の教育システムでは、学問知の社会的重要性が低く認識されており、学問知自体への期待そのものが社会のレベルにおいて低いため、「主体的な学び」が成立しにくくなっていると指摘している。そして、高大接続改革においては実用知が重視され学問知が軽視されていると指摘している。 [21: 大多和直樹「高大接続改革の特質と論点(小特集 大学・高等学校教育改革のこれから 高大接続改革実行プランをふまえて)」,『大学時報』64(362),2015年,pp.72-75.]

 以上の大和田の指摘より、改革においては『選抜接続』と『教育接続』、そして「学校段階の縦断的改革」の3点に問題があると指摘されていることがわかった。

 ここでは、高校生が『大学の本来機能』に関する進学目的を持って大学に進学することが重要であるという前提のもとで、現在行われている高大接続改革によってそれが可能であるかを考えていきたい。そのため、ここからは、高校生の進路選択に着目し高校側・高校生側の視点から高大接続改革について言及している先行研究を取り上げる。

 まず、三浦ら[footnoteRef:22]は、中教審が2011年に出した答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育のあり方について」の記述に言及し、現在の高大接続改革についての考えを述べている。この答申は、本章第1節でも触れた1999年の中教審答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」を受けて2011年に出されたものであるが、三浦らは、答申の中の若者世代についての以下の記述を取り上げている。 [22: 三浦泰子・川上泰彦「高大接続改革をめぐる研究動向レビュー –大学での選抜と学び、高校での指導と進路意識を中心に−」,『兵庫教育大学学校教育学研究』30,2017年,p.198.]

「コミュニケーション能力など職業人としての基本的な能力の低下や、職業意識・職業感の未熟さ、身体的成熟傾向にもかかわらず社会的自立が遅れる傾向、進路意識や目的意識が希薄なまま進学する者の増加など、『社会的・職業的自立』に向けて、さまざまな課題が見受けられる」[footnoteRef:23] [23: 文部科学省「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」,2011年1月31日http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/02/01/1301878_1_1.pdf (アクセス日:2017年10月1日)]

三浦らは、高校から大学への進路選択もこの議論の範疇に含まれるはずであるにもかかわらず、現在の高大接続改革の基盤となっている2014年の接続答申の中では、進学先の決定の際の「進路意識」や「目的意識」についてほとんど言及がなされていないことを指摘している。その上で、高大接続改革においては、知識偏重の「従来型の学力」に代わる「学力の三要素」の視点から高大接続の課題を指摘するという制約があるために、このような言及がなされないのはやむを得ないとしつつも、進路選択における目的意識の醸成は、もっと重視するべき課題であると指摘している。また、三浦らは、高大接続改革における大学入学者選抜改革において、大学側の「入学者受入の方針(アドミッション・ポリシー)」の明確化と、その内容の入学者選抜方法への具体化が挙げられている点からもこの問題を指摘している。高大接続改革においては、大学進学を希望する時点で、生徒が大学側が示す「アドミッション・ポリシー」をもとに進学先を決定するだけの「進路意識」や「目的意識」を持つことが前提となっており、高校教育がこれに呼応できているのか改めて問い直す必要があると述べている。

 さらに、冨田ら[footnoteRef:24]は、「高大教育接続問題は、もっぱら大学教育の文脈で議論されており、高校教育の実践に焦点化した議論が少ない」ことに加え、「学習者の視点が欠けている」ことを指摘する。その代表的な例が、多くの先行研究の指摘する「主体的な学び」や、進学先の決定の際の「進路意識」や「目的意識」であり、主体的な学びをいかに成立させるか、高校教育において「進路意識」をいかに育てるかについては、研究や実践が十分とはいえないとしている。このように、富田らも先ほどの三浦らと同様に、高大接続改革において学習者(高校生)の「進路意識」や「目的意識」の形成という視点が欠けていることを指摘している。 [24: 富田知世・須藤康介・佐藤昭宏「高校時の学習行動と大学での学業適応の関連教科学習と探究学習への取り組みに着日して」,『大学評価研究』13,2014年,pp.123-134.]

 また、田口[footnoteRef:25]は、高大接続の問題においては「高等学校側の努力だけ、大学側の努力だけではどうにもならない」と述べ、「高等学校と大学の接続点である大学入試の方法を改善するだけでは、これらの問題を解決することができない」と指摘している。つまり、前節における選抜『接続』だけを重視するのではなく、高校と大学が協働して高大接続の問題に取り組むことが重要であると述べている。さらに、それを踏まえ、「今後の高大の接続のあり方については、大学が求める能力を持った高校生を、高大連携により、見出したり育成したりする観点からその取組を見直していくことが重要になってくる」とし、高大接続における高大での連携活動の重要性を強調している。 [25: 田口哲男 高崎経済大学産業研究所『高大連携と能力形成』,日本経済評論社,2013年,pp.27-29.]

 以上のように、高大接続改革には様々な問題点が存在することがわかった。特に、高校側・高校生側の視点からの分析においては、改革において高校生に進路意識や目的意識を持たせるための取り組みが欠けており、高校と大学の連携によってそのような意識を持たせることの重要性が指摘されていることが確認できた。

第5節 まとめ

 本章では、現在文部科学省によって進められている高大接続改革の概要を確認した上で、改革に関する先行研究を見てきた。高大接続改革では「①高校教育改革」、「②大学教育改革」、「③大学入学者選抜改革」の3つの改革が一体的に行われており、これらは「③の大学入学者選抜改革」としての『選抜接続』と「①高校教育改革」・「②大学教育改革」にあたる『教育接続』に分けられることがわかった。そして、高大接続改革では、高校生に進路選択の際の「進路意識」や「目的意識」を持たせるための取り組みが不十分であること、また、単に高校側と大学側の教育の改革、大学入学者選抜改革を行うだけでは不十分であり高校と大学の連携が求められることが先行研究で指摘されていた。

 それらを踏まえ、現在の高大接続改革では、第1章で述べたような『大学の本来機能』に関する大学進学の目的を高校生に持たせることができないのではないかと筆者は考える。高大接続改革は『選抜接続』の改革である「③大学入学者選抜改革」と『教育接続』の改革である「①高校教育改革」・「②大学教育改革」に終始しており、先行研究の指摘にもあるように、高校生が進路意識や目的意識を持つことを可能にするような「高校生が大学での学びについて知り、大学入学後について考える機会を提供する」という視点が欠けていると考えられる。

 大学側が高校生に大学での学びについての情報を提供し、それらに基づいて高校生が大学入学後について考える機会を与えるという重要な視点が足りていないため、高校生は大学での学びについて十分に知ることができず、『大学の本来機能』に関する動機を持って大学に進学することができないのではないか。その結果、大学での学習意欲の低さや大学への不適応につながってしまうのではないかと考える。

 そこで、次章では「高校生が大学での学びについて知り、大学入学後について考える機会を提供する」ために有効であると考えられ、先行研究でも必要性が強調されていた「高大連携活動」に着目し、その概要を見ていきたい。

第3章 高大連携活動について

 本章では、「高校生が大学での学びについて知り、考える機会を提供する」ために有効であると考えられる高大連携活動に着目し、その概要を示した上で、考えられる問題点を確認していきたい。その上で、『大学の本来機能』に関連する動機を持って進学するためには、今後どのような高大連携活動を重点的に行っていくべきなのか考えていきたい。

第1節 高大連携とは

 まず、高大連携の意味について確認する。高大連携とは、言葉通り、「高等学校と大学とが連携して行う教育活動」のことを指すとされる[footnoteRef:26]。「高大接続」は、高校と大学の接続に関わる事項全体を指すのに対し、「高大連携」は高校と大学が連携・協力して行う具体的な活動のことを指す。高大連携には多様な側面があるが、勝野[footnoteRef:27]によると高大連携は、「狭義の高大連携」と「広義の高大連携」の2つに区分することができる。 [26: 田口哲男 高崎経済大学産業研究所,前掲書,p.17.] [27: 勝野頼彦『高大連携とは何か』,学事出版,2004年,pp.68-73.]

 まず、「狭義の高大連携」とは「高校生を対象として、大学の教育資源を活用して行う高校の教育活動」である。これには、大学における通常講義の聴講、高校生を対象とする講義や講座への参加、体験入学やオープンキャンパスへの参加、特定の大学での実験・実習や個別指導が含まれる。これらは、大学や高校内だけでなく、図書館や生涯学習センター等の教育施設なども利用して行われる。

 一方で、「広義の高大連携」とは「高校と大学の連携による高校教育及び大学教育の改善充実に資する取組」のことを指す。これには、大学生を対象とした基礎学力向上のための補習授業等の実施や、高校における教科指導等の充実のための研究会の開催、高校教員と大学教員による指導力向上のための研修会等の開催などが含まれる。

 本論では、「高校生が大学での学びについて知り、考える機会を提供する」ことに直接関係すると考えられる「狭義の高大連携」に限ってその内容を見ていきたい。

第2節 高大連携の変遷と類型

 次に、高大連携の変遷を確認し、どのような取り組みが行われているのかを見た上で、それらがどのように類型化されるのか確認する。

 文部科学省が高大連携の推進の姿勢を初めて明確に打ち出したのは、1999年の中教審答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」である。この答申では、大学での学習を高校の単位として認定することや、高校の協力も得て大学で補習授業を行うことなど、具体的な連携の在り方が示された。ここでは、具体的な教育上の連携方策として、以下のように5つの観点から提言がなされた[footnoteRef:28]。 [28: 田口哲男 高崎経済大学産業研究所,前掲書,pp.20-22.]

①高校生が大学レベルの教育を受ける機会の拡大

・夏季等の休業期間中の大学での集中講義

・大学入学後にその大学での集中講義を単位認定する

・大学の教官が高等学校を訪れ専門分野の学問の紹介や講義を行う

・公開講座やSCS等の通信衛星による教育

②大学が求める学生像を的確に周知する

・入学者受け入れ方針(アドミッション・ポリシー)の明確化と積極的な情報公開

・キャンパスの見学会・模擬講義、インターネットのホームページ等

③高等学校における進路指導や学習指導の充実

・高等教育や職業生活についての実際的・体験的な情報提供

・体験入学や就業体験の機会の充実

・退学の教育内容に応じた適切な履修ガイダンス

④履修歴の多様化に対応した大学教育への円滑な導入の工夫

・大学教育に円滑に移行するための方法論からなるガイダンス

・大学教育の基礎として足りない部分の補習授業

・入学時からの指導教官制(チューター制)

・オフィス・アワーを設ける

・インターネットを活用しての常時履修相談

⑤高等学校関係者と大学関係者の相互理解の促進

・大学関係者と高等学校関係者が一堂に会した連絡協議会の促進

・大学教員が高等学校で学問紹介や講義を行う

・大学での補習授業に高等学校教員が協力する

これらの方策には、今日行われている高大連携の取り組みのほとんどが示されている。ここでは、高大連携を拡大させることが、高校と大学の円滑な接続につながることが示されており、①②③が第1節で述べた「狭義の高大連携」に関わる項目であると考えられる。

 2000年には、大学審議会答申「大学入試の改善について」が出された。この答申では、大学は、高校生に対して大学レベルの教育を受ける機会を提供することよりも、入学希望者の中から「大学が求める学生」を見出しどのように選抜するか、選抜した学生をどのように大学で育てるかという部分が重要視された[footnoteRef:29]。 [29: 田口哲男 高崎経済大学産業研究所,前掲書,pp.22-23.]

 そして、2001年の学校教育法の一部改正により、飛び級入学の対象分野(数学・理科)および年齢制限の撤廃が行われ、対象分野を限定せずに飛び入学ができる制度が法律に明記されるようになった。さらに、2002年度から文部科学省は、科学技術・理科教育の充実のための取り組みを、総合的・一体的に推進するため、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)やサイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)などの取り組みを開始し、結果として、理工系分野においては大学と高校との距離が接近した。また、文部科学省は2002年度から、高校の英語教育の先進事例となるような学校づくりを推進するために、英語教育を重点的に行う高校をスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)として指定し、英語教育を重視したカリキュラム開発や、大学等との効果的な連携方策等についての実践研究が行われた[footnoteRef:30]。 [30: 田口哲男 高崎経済大学産業研究所,前掲書,pp.24-25.]

 そして、2005年の中教審答申「我が国の高等教育の将来像」、2008年の中教審答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善について」、「学士課程教育の構築に向けて」などを通して様々な取り組みが行われている。2008年の中教審答申「学士過程教育の構築に向けて」では、高校と大学の接続のあり方については以下のような提言がなされている[footnoteRef:31]。 [31: 文部科学省「学士課程教育の構築に向けて(答申)」,2008年http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2008/12/26/1217067_001.pdf (アクセス日:2018年9月11日)]

①いままでのように高等学校・大学は、入試によって学力水準を担保できるという考え方から、様々な方法で客観的に学力を把握し、それを高等学校の指導の改善や大学入試、大学での初年次教育の基礎資料として役立てていくことを通じて学力水準の向上を図るという考え方へ転換する。

②それぞれの学校段階において、一人一人の生徒や学生に対し、学力を客観的に把握する指標を活用し、そこで得られた情報を高等学校と大学間で共有することにより、教育の質を保証する新たな仕組みを構築していく。

③生徒・学生が意欲を持って学んでいくことができるよう、高等学校及び大学の関係者が緊密に連携を図り、これらの点を踏まえた新たな枠組みづくりに向けた主体的な議論を進めていく。

 

 ここまで高大連携の変遷やその内容を見てきたが、様々な活動が行われている。勝野[footnoteRef:32]は、以下の図3のように高大連携活動を整理している。 [32: 勝野頼彦,前掲書,p.74.]

図3[footnoteRef:33] 高大連携の現状イメージ (自分で作り直します) [33: 同上]

 図3では、第1節で示した「狭義の高大連携」における取り組みが取り上げられていると考えられる。ここでは、「狭義の高大連携」が、以下の5つに分類されている。

①大学説明会

②体験入学・オープンキャンパス

③出前講義・講演会

④公開講座

⑤大学における講義の聴講(大学における学修の単位認定)

 図の縦軸(専門性重視—体験重視)は、主として取り組み内容に着目し、高大連携活動の取り組みが「内容の専門性を重視したものであるか、大学や大学生活の体験を重視したものであるかどうか」によって区分したものである。横軸(大学外—大学内)は、取り組みが行われている場所というよりは、条件面で高校生がどの程度参加しやすいかという度合いによる区分である。

 ここでは、「大学における講義の聴講(大学における学修の単位認定等)」は専門性が比較的高く、大学内で行われることから、その分野への関心や進路希望が比較的強い一部の高校生を対象としたものとして位置づけられる。また、「体験入学・オープンキャンパス」は、大学内で行われるものの、内容的には大学生活の紹介や体験などといった、専門性の高くない多様なものであることから、多くの高校生の参加が期待できる取り組みである。「公開講座」は内容面では、大学での講義や体験入学等と重なる場合がある一方で、大学外での開催もあり得るという点で最も多様である。そして、大学外で行われる取り組みの多くは高校が主催するものであり、「出前講義」や「講演会」、「大学説明会」等は多くの高校生の参加が期待できる取り組みである。

 このように、1999年の答申を契機として推進されてきた高大連携活動は多様であり、その専門性や実施条件などにより、参加する高校生の層や参加の度合いが異なることがわかった。

第3節 高等学校のキャリア教育での高大連携活動の実践

 高大連携活動は、高校での「キャリア教育」の枠組みで実践されることが多い。ここでは、高校でのキャリア教育に注目し、高大連携活動について見ていく。

 現在、高等学校では2011年の文部科学省「高等学校キャリア教育の手てびき」に基づき、キャリア教育が行われている[footnoteRef:34]。この中では学科ごとにキャリア教育の課題とねらいが示されている。そのうち、普通科のものは以下のようにまとめられる[footnoteRef:35]。 [34: 文部科学省「高等学校キャリア教育の手引き」,2011年http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/11/04/1312817_02.pdf (アクセス日:2017年10月2日)] [35: 小泉令三・古川雅文・西山久子『キーワード キャリア教育 —生涯にわたる生き方教育の理解と実践—』,北大路書房,2016年,p.115.]

・課題

約8割の生徒が大学や専門学校などの高等教育機関に進学するが、目的意識が明確でないまま進学する者が少なくない。一方、就職希望者の就職状況は厳しい。進学の意義の明確化や将来の職業生活に向けた基礎的知識・技能に関する学習機会の充実を図る必要がある。

・ねらい

進学希望者が多い学校では、大学などの進学先や先の会社を意識させ、将来の職業分野との関連を考察させる授業の工夫をする。就職希望者が多い学校では、将来の職業生活に向けて学習できる教育課程を編成し、就業体験など啓発的体験を伴う取り組みの充実を図る。

 高校でのキャリア教育の実践は、①教科・科目等を通した実践と、②体験的な学びを生かした実践の大きく2つに分けられるが、それぞれの具体例を以下に挙げる[footnoteRef:36]。 [36: 小泉令三・古川雅文・西山久子,前掲書,pp.117-119.]

①教科・科目等を通した実践

・国語科:言語活動を通して自己理解を深めたりコミュニケーション能力を高めたりすることで自己管理能力や人間関係形成能力を上げる

・公民科:雇用・労働問題、社会保障や労働法などの働く上で基礎となる知識の理解を促す

・家庭科:働くことと家庭、社会とのつながりについての理解を促す

・総合的な学習の時間:職業調べによって職業観を育成、進路適性検査の実施により自己理解を促進

②体験的な学びを生かした実践

・職場等の訪問・見学

・インターンシップ

・卒業生の講演

・企業の方を招いての講演・技術指導

・オープンキャンパス

・大学等の講義の受講

 主に①では、自己理解や働くことに関わる知識の習得、②では、具体的な進路(職業・大学等)を生徒が考えることを促しているといえる。②における活動が高大連携と結びついていると考えられる。

 ②の体験活動の実施率を見ると、2006年の公立の全日制・定時制高校でのインターンシップの実施率は、普通科で49.1%、専門学科で75%、総合学科で28.3%であった。また、大学の講義を受講させている高校は、普通科で31.7%、専門学科で25.0%、総合学科で28.3%、大学の教員による模擬授業を実施する高校が、普通科で57.7%、専門学科で34.0%、総合学科で40.0%であった[footnoteRef:37]。ここから、普通科高校ではインターンシップよりも大学の授業の体験に力を入れている傾向が確認でき、比較的多くの高校の高校生が大学の授業の体験を経験していることがわかる。 [37: 藤田晃之・高校教育研究会『講座 日本の高校教育』,学事出版,2008年,p.80.]

第4節 高大連携活動の実施状況と具体的内容

 高大連携活動の実施状況について見ていく。文部科学省の2012年の調査[footnoteRef:38]の結果は以下の図4・図5のようになっている。 [38: 文部科学省「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について ~すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるために~ 参考資料」,p.17.http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/12/24/1354209_1_3_1.pdf (アクセス日:2018年5月7日)]

図4[footnoteRef:39] 高校生が大学教育に触れる機会の提供(平成24年度) (自分で作り直します)  [39: 同上]

図5[footnoteRef:40] 大学入学前の既修得単位の認定 (自分で作り直します) [40: 同上]

 図4は、高校生が大学教育に触れる機会の提供について、項目別に実施校の数を示したものである。この結果より、オープンキャンパスや大学教員の講演、体験授業などは比較的多くの高校で行われていることがわかる。その一方で、大学の通常授業の履修や大学教員の定期的な講義・授業などはあまり活発には行われていない。ここから、高大連携活動においては、1日で終わるようなイベント的な活動は比較的多くの高校で行われている一方で、継続的な活動はあまり行われていないということがいえる。

 また、図5には大学入学前の既修得単位の認定を行っている大学数・生徒数が示されている。高校在学時に現在、高校生が大学の科目等履修生として大学の授業科目を受講する取組も徐々に広がっており、その成果として取得した大学の単位は大学入学後に既修得単位として認定を受けることも可能である。平成21年度から平成24年度にかけて単位の認定を行う学校が増加しているが、実施大学数は平成24年度では79校、生徒数は2089人と少なく、制度が広く普及していないことがわかる。

 では、高大連携活動では具体的にどのような取り組みが行われているのであろうか。取り組みの内容は多岐にわたるが、ここでは全国的に行われている取り組みであるスーパーサイエンスハイスクール(SSH)とスーパーグローバルハイスクール(SGH)を取り上げる。また、大学レベルの教育を高校生向けに提供している例としてお茶の水女子大学の実践を紹介する。

(1)スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

 第2節でも触れたように、SSHとは2002年度から文部科学省によって行われている取り組みであり、生徒の科学技術離れ、理数離れを危惧し、科学技術・理科教育の充実のための取り組みを、総合的・一体的に推進していくものである。具体的には、理科・数学に重点を置いたカリキュラム開発、大学・研究機関等との効果的な連携方策等についての研究を希望する高校等を指定し、高大接続のあり方、大学との共同研究、創造性・独自性を高める指導方法、あるいは学習指導要領によらないカリキュラムの開発などについて、先進的な理数教育を大学・研究機関の支援の下に取り組む事業である[footnoteRef:41]。2002年当初のSSH指定校は26校であったが、10年後の2014年には178校にまで拡大し、2017年には203校となった[footnoteRef:42]。 [41: 田口哲男 高崎経済大学産業研究所,前掲書,p.24.] [42: 国立研究開発法人 科学技術振興機構「スーパーサイエンスハイスクール 指定校一覧」https://www.jst.go.jp/cpse/ssh/school/list.html (アクセス日:2018年5月7日)]

 SSH指定校では高校生が大学の研究室を訪問する、各指定校の代表生徒が一堂に会して研究発表会を行い大学の研究者から評価してもらう、などの取り組みが行われている。

(2)スーパーグローバルハイスクール(SGH)

 SGHとは文部科学省により2014年度より行われている取り組みであり、5年間行われることが予定されている。急速にグローバル化が加速する現状を踏まえ、語学力とともに、幅広い教養、問題解決力等の国際的素養を身に付け、将来的に政治、経済、法律、学術等の分野において国際的に活躍できるグローバル・リーダーを、高等学校段階から育成することを目標とするものである。国際化を進める国内外の大学や企業、国際機関等と連携を図り、外国語(特に英語)を使う機会の飛躍的増加、先進的な人文科学・社会科学分野の教育の重点化等に取り組む高等学校等を「スーパーグローバルハイスクール」に指定し、質の高いカリキュラムの開発・実践やその体制整備を支援している[footnoteRef:43]。SGH指定校数は2016年度当初は56校であったが、2019年度には123校まで増加した[footnoteRef:44]。 [43: 文部科学省「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について ~すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるために~ 参考資料」,前掲資料,p.21.] [44: 文部科学省「平成29年度スーパーグローバルハイスクール都道府県別指定校数」,2017年http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/11/__icsFiles/afieldfile/2017/11/28/1398762_002_1.pdf (アクセス日:2018年5月7日)]

 具体的には、人文科学・社会科学分野の先進的な教育課程の開発・実践やグループワーク・ディスカッション、調査研究・論文作成・プレゼンテーションの実施(英語によるものも含む)などが行われている。大学と連携した活動としては、人文科学・社会科学分野の教員や、帰国・外国人教員の派遣、入試の改善による生徒の学習内容の適切な評価、単位認定を含む高大連携プログラムの提供などが行われている。

(3)お茶の水女子大学の取り組み

お茶の水女子大学では、と附属高校の連携により、①「『教養基礎』教育プログラム」、②「『選択基礎』教育プログラム」、③「大学の授業の受講」が実施されている。それぞれの詳しい内容は以下に示す通りである[footnoteRef:45]。 [45: お茶の水女子大学「高大連携」http://www.ao.ocha.ac.jp/cooperation/index.html (アクセス日:2018年5月7日)]

①「『教養基礎』教育プログラム」

…国語、数学、英語の3教科について、既存の高等学校における教科教育を基本線に、附属高校、大学教員双方の協力により、より深く、幅広い「基礎・基本」の学力の育成をめざすプログラム。

②「『選択基礎』教育プログラム」

…大学教員が担当し、志望専攻分野に対する興味、関心、意欲を膨らませるとともに、その分野と高等学校における各教科内容との関連を示し、高校の教育課程における学習の意欲付けの啓発を目標とするプログラム。ここで取得した単位は、お茶の水女子大学進学の場合には、入学後、大学の単位として認定される。

③「大学の授業の受講」

…附属高校生が放課後の時間を利用して、各自の興味関心に応じ、大学における入門的内容を中心とした科目を受講する。より深い教養と幅広い視野の育成が図られるとともに、将来の進路決定のための判断材料を得る機会ともなる。ここで取得した単位は、お茶の水女子大学進学の場合には、入学後、大学の単位として認定される。

 お茶の水女子大学では以上のような高大連携活動が行われており、②と③の取り組みでは、大学レベルの教育を高校生向けに提供し、それが大学入学後に単位として認定される。

 以上のように、現在様々な高大連携活動が行われている。

第5節 高大連携活動の問題点とまとめ

 次に、高大連携活動の問題点を確認し、今後のあり方を考える。

 ここまで様々な高大連携活動を見てきたが、全体として高大連携活動は広がりを見せているものの、オープンキャンパスや体験入学等の一時的な取り組みが多く、継続的な取り組みが行われていないという問題点があることがわかった。SSHやSGH指定校、また、お茶の水女子大学のような制度がある学校では継続的な高大連携活動が行われているといえるが、そのような学校は限られている。これは、前節で示した、大学入学前の既修得単位の認定を行っている生徒数が2012年度において約2000人のみに限られていることからも明らかである。

 高大連携活動において継続的な活動が少ないという問題点は先行研究でも指摘されている。田口[footnoteRef:46]は、「比較的多くの生徒が参加できる、模擬授業やオープンキャンパスなどのプログラムは総じて単発的、イベント的であり、ここの学問分野の表面的な紹介にとどまることが多い」と述べている。日本での高大連携活動の実施状況や先行研究から、効果的な高大連携を行うには、一時的な連携活動にとどまるのではなく、継続的な高大連携活動を多くの学校が行うことが重要であると考えられる。 [46: 田口哲男 高崎経済大学産業研究所,前掲書,p.38.]

 以上のことを踏まえ、現在の日本の高大連携活動において継続的な活動が欠けているという問題点を解決するには、第2節での勝野による高大連携活動の分類の以下の5つのうち、最も継続的な連携活動であるといえる「⑤大学における講義の聴講(大学における学修の単位認定)」をより普及させるべきなのではないかと考える。それにより、高校生が『大学の本来機能』に関する進学目的を持って大学に進学することが可能になるのではないか。

①大学説明会

②体験入学・オープンキャンパス

③出前講義・講演会

④公開講座

⑤大学における講義の聴講(大学における学修の単位認定)

 そこで、次章以降では、「⑤大学における講義の聴講(大学における学修の単位認定)」に関連して、高校生が高校在学中に履修した大学レベルの授業の単位が大学卒業後に単位として認められる、という仕組みを持つ、アメリカのアドバンスト・プレイスメント・プログラム(APプログラム)に着目し、日本への示唆を得たい。

第4章 アメリカのアドバンスト・プレイスメント・プログラム (APプログラム)について

 本章では、日本の高校と大学の連携活動に関して示唆を得るために、アメリカにおける高大連携活動に着目する。

 アメリカでは古くから高大接続・連携に関する取り組みが行われており、APプログラムはアメリカ国内に広く浸透しており、高く評価されている。また、前章でも述べた通り、日本の「大学における学修の単位認定」をより普及させるためには、高校生が高校在学中に履修した大学レベルの授業の単位が大学卒業後に単位として認められる、という「大学における学修の単位認定」と類似した仕組みを参考にすることで日本への示唆を得られるのではないかと考え、アメリカのAPプログラムを取り上げる。

第1節 APプログラムの概要と歴史

 アメリカのAPプログラム(Advanced Placement Program)とは、大学と高校が、双方の教員の協力のもとで、学業成績が優秀な高校生に対して大学1、2年次レベルの科目を履修する機会を与え、その試験結果が良好であれば、大学の単位として認定される全国規模のプログラムである[footnoteRef:47]。APプログラムの教科を教えるために十分な訓練を受け、その資格の認定を受けた高校の教員が教育を行うものであり、最も一般的なコースは、英語、文学、数学、自然科学の各分野、第二言語(外国語)、歴史等の教科・スキル、行動科学・社会科学を学ぶ。教材は、大学の教員によって書かれたものを使用する。一般的には、高校の最後の2年間で24単位を学修し、APプログラムを管理運営する民間の非営利団体であるカレッジ・ボードによって行われる外部試験(AP試験)を受け、それに合格すると大学の単位として認定される。この単位を大学進学の際に利用することにより、大学の学士課程の一部が免除され、より進んだレベルからの履修が可能となる[footnoteRef:48]。このAP試験は、成績が1から5までの5段階で示され、カレッジ・ボードは3以上の成績を収めた生徒については、大学レベルに達していると判断している[footnoteRef:49]。さらに、AP試験結果が大学入学者選抜の際に有利に働くことが多い。 [47: 小川佳万・小野寺香『アメリカのアドバンスト・プレイスメント・プログラム』,広島大学高等教育研究開発センター,2009年,p.1.] [48: 日本高等教育学会『高大接続の現在』,玉川大学出版部,2011年,p.135.] [49: 小野寺香「アメリカにおける高大接続プログラムの比較研究」,『東北大学大学院教育学研究科研究年報』59,1,2010年,p.417.]

 高校生がAPプログラムを受ける際には、高校のアカデミック・カウンセラーが生徒とプログラムとの最初の接点であり、実質上のスクリーニング役となっている。大学側では、入学選考を取り扱うアドミッション・オフィスが入学選考等に際しての取扱方法を周知するほか、実際の入学選考の判断材料として取り扱う。学生の入学後は、学部レベルのアカデミック・アドバイザーが、学生と進路や科目履修計画について相談する中で、APプログラムの合格認定科目をどのように単位免除に活用し、効率的な履修計画を立てるかについての指導を行う[footnoteRef:50]。 [50: 日本高等教育学会,前掲書,pp.135-136.]

 APプログラムは、1955年に開始されたプログラムであり、現在までで60年以上続く非常に長い歴史を持ったプログラムである[footnoteRef:51]。そもそもAPプログラムは、フォード財団による教育振興基金の援助のもと1950年代初頭に開始された2つの研究から始まったものである。一つは「一般教育に関する高校と大学の研究(School and College Study of General Education)」、もう一つは「優等生の入学許可に関する高校と大学の研究(School and College Study of Admission with Advanced Standing)」である。一つ目の研究では、アメリカにおいて、高校後半の2年間と大学前半の2年間の教育課程の学習内容が重複しており、それが時間の浪費と生徒の士気の低下につながることが指摘された。また、高校4年生(第12学年:大学に進学する前年の学年)が大学レベルの学習をすることができるようにカリキュラムを調整し、また、到達度テストで好成績を挙げた生徒については、大学での飛び級を可能にすることも勧告された。このように、この研究においては、有名大学においては、学力の高い生徒が大学での学習準備が整った状態で入学することが理想的であり、そのために大学レベルの内容を先取りして学習させることによって知的意欲を低下させないようにすることが望ましいと考えられていた。もう一つの研究でも、一つ目の研究と同様に、アメリカの教育制度は学力の優秀な生徒の時間を浪費しているとの指摘がなされ、高校で大学レベルのカリキュラムを開発する必要性が強調された。そして、1952年にはアメリカの高校7校を対象にAPプログラムが試行された[footnoteRef:52]。 [51: 小川佳万・小野寺香,前掲書,p.11.] [52: 同上,pp.11-12.]

 このような研究や実験の結果、1953年にAPプログラムが制度化し、1955年からカレッジ・ボードがAP試験を開始した。プログラムが成立した背景には、高校における学習内容と大学での学習内容の重複を避け、さらに、意欲の高い優秀な学生に対して早い段階で能力にあったレベルの学習ができるように、高校と大学が連携するべきであるという考えがあった。そのため、APプログラムは、成立当初、少数の限られた優秀な高校生を対象としたものであった[footnoteRef:53]。 [53: 同上,pp.12-13.]

 APプログラムは、1970年以降、10年ごとに2倍以上のペースでアメリカ国内に普及した[footnoteRef:54]。 [54: 日本高等教育学会,前掲書,p.134.]

プログラム開始当初はAP試験の結果に応じて単位認定等の措置を行っていたのは130大学に限られていたが、その後プログラムへの参加大学は増加し続け、2008年には全米で3809大学がAP試験の結果を活用して単位を認定している。2008年におけるアメリカ国内の大学数は4409であり、そのうちの90%にあたる3809大学がAPプログラムに参加しているということを考えると、プログラムは非常に広く普及していったといえる[footnoteRef:55]。 [55: 小野寺香,前掲資料p.415.]

第2節 APプログラムの実施状況と特徴

 ここまでアメリカにおけるAPプログラムの概要と歴史を見てきたが、ここではプログラムの実施状況について詳しく確認する。

 APプログラムの科目は、芸術(Arts)、英語(English)、歴史・社会科学(History and Social Science)、数学・情報科学(Math and Computer Science)、科学(Sciences)、世界言語・文化(World languages and Cultures)、学際的分野(Interdisciplinary)の7分野に分かれており、2017年時点では38科目である[footnoteRef:56]。それぞれの科目名と2017年の参加学生数、参加高校数は以下の表2に示す通りである。表2に示されている通り、様々な科目が設置されており、多くの高校において高校生がプログラムの各科目を履修していることがわかる。 [56: College board, AP Cources and Exams, 2017年https://apcentral.collegeboard.org/courses?affiliateId=ap|home&bannerId=herob2|apc-crsindx (アクセス日:2018年9月14日)]

表2[footnoteRef:57] AP科目名と参加高校数・参加者数 (2017年) [57: College Board, AP Program Participation and Performance Data 2017. をもとに作成https://research.collegeboard.org/programs/ap/data/participation/ap-2017 (アクセス日:2018年9月14日)]

科目

高校数

参加者数

科目

高校数

参加者数

芸術史

2,157

25,178

イタリア語・文化

460

2,571

生物学

11,363

254,270

日本語・文化

653

2,429

微積分AB

14,442

316,099

ラテン語

1,147

6,647

微積分BC

7,674

132,514

音楽理論

3,145

19,215

化学

9,216

158,931

物理学C 電気学・磁気学

2,536

24,249

中国語・文化

1,873

13,091

物理学C 力学

4,379

54,862

情報科学A

5,040

60,519

物理学1

7,421

170,447

情報科学原理

2,625

44,330

物理学2

2,393

24,985

マクロ経済学

5,356

141,649

心理学

8,710

302,369

ミクロ経済学

4,430

87,858

APリサーチ

310

5,787

英語・作文

13,474

579,426

APセミナー

680

19,943

英文学・作文

14,019

404,137

スペイン語

7,971

168,307

環境科学

6,359

159,578

スペイン文学

1,906

25,834

ヨーロッパ史

4,268

105,347

統計学

9,008

215,840

フランス語・文化

3,440

22,621

線画

3,956

19,957

ドイツ語・文化

1,153

5,089

2-Dデザイン

4,748

32,732

比較政治学

1,471

22,404

3-Dデザイン

1,606

5,571

アメリカ政治学

9,459

319,612

アメリカ史

13,311

505,302

人文地理学

5,117

199,756

アメリカ政治学

7,255

298,475

 次に、APプログラムへの参加者数を詳しく見ていく。前節でも触れたが、APプログラムは開始以来、急速に拡大し続けている。以下の表3は、最新のデータではないが、AP試験へ参加した「高校数」、AP試験への「参加者数」、AP試験の「受験者数」、AP試験の結果を単位として認定する「大学数」の推移を5年ごとに示したものである。ここに示される数字は、AP科目の履修ではなく、AP試験への参加を基準としている。また、生徒1人が複数科目のAP試験を受験することも多いため、「生徒数」よりも「参加者数」が多くなっている。表中の数字からわかるように、AP試験参加数は年々増加し続けている。

表3[footnoteRef:58] AP試験参加数 [58: 小川佳万・小野寺香,前掲書,p.18をもとに作成]

年度

高校数

生徒数

受験者数

大学数

1955-56

1960-61

1965-66

1970-71

1975-76

1980-81

1985-86

1990-91

1995-96

2000-01

2005-06

104

1,126

2,518

3,342

3,937

5,253

7,201

9,786

11,712

13,680

16,000

1,229

13,283

38,178

57,850

75,651

133,702

231,378

359,120

537,428

844,741

1,339,282

2,199

17,603

50,104

74,409

98,898

178,159

319,224

535,186

843,423

1,414,387

2,312,611

130

617

1,076

1,382

1,580

1,955

2,125

2,587

2,895

3,199

3,638

 このように、APプログラムは開始以来、アメリカ国内で広がり続け、毎年多くの高校生が様々なAP科目を履修し、AP試験を受けていることが確認できた。

第3節 APプログラムの効果

 次に、APプログラムの効果について見ていく。

 従来からアメリカでは、高等教育における学生の卒業率の低さが指摘されている。このような課題に対してカレッジ・ボードは、APプログラムの効果の一つとして大学卒業率の改善につながることを期待している。つまり、高校生がAPプログラムに参加することによって、高校生のうちから大学レベルの学習内容に触れることでスムーズに大学の授業へ適応することが可能となり、大学を途中で退学せずに卒業できる学生が増加すると考えているのだ[footnoteRef:59]。 [59: 小野寺香,前掲資料,p.426.]

 APプログラムへの参加と大学の卒業率の関係については、ドウアティ(Dougherty, C)らによって2006年に行われた研究がある[footnoteRef:60]。この研究は、APプログラムに�