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7-142 第9節 生態系 1.調査結果の概要 1.1 調査手法 (1)動植物その他の自然環境に係わる概況 動植物に係わる概況は、「第7節 陸域及び陸水域の動植物」及び「第8節 海域、干潟及 び河口域動植物」の動物相と植物相における調査結果を用いています。 その他の自然環境に係わる概況は、現地調査において主要な微地形、水系等の自然環境の 概況から把握しています。 (2)地域を特徴づける生態系の注目種・群集の状況 都市計画対象道路事業実施区域及びその周辺における既存文献及び現地調査結果をもとに、 事業実施区域及びその周辺の生態系における食物連鎖の関係、選定する種の生活史や共生関 係などを勘案して行っています。 注目種は、生態系を構成する生物相の中から、各生態系の特性に応じて上位性、典型性、 特殊性という視点から選定し、注目種の考え方は表 7-68 に示すとおりです。 表7-68 注目種(上位性、典型性、特殊性)の考え方 注目種 上位性 ・地域を特徴づける生態系の上位に位置する種 生態系を形成する生物群集において、相対的に栄養段階の上位に位置する種 を対象とする。陸域ではワシ、タカなどの猛禽類、キツネ、クマ等の大型哺 乳類が代表とされ、海域では魚食性魚類等も含まれる。生態系内の様々な食 物連鎖に留意し、上位種を選定する。 典型性 ・生態系の特徴を典型的に表す種・群集、多様性を特徴づける種・群集 生物間の相互作用や生態系の機能に重要な役割を担うような種・群集。食物 連鎖における生産者や低次の消費者で、対象地域に優占する植物種又は植物 群落、それらを食する動物、個体数が多い動物などで、生態系の中で重要な 機能的役割をもつ種や、多様性を特徴づける種。 食物連鎖を考慮し、地域の生態系を特徴づける典型種を選定する。 特殊性 ・特殊な環境であることを示す指標となる種・群集 相対的に分布範囲が狭い環境又は質的に特殊な環境に生息・生育する動植物 種が挙げられる。小規模な湿地、洞窟、石灰岩地域等の特殊な環境や、孤立 した環境など、周囲にはみられない環境に注目し、そこに生息する種・群集 を選定する。

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第9節 生態系 1.調査結果の概要 1.1 調査手法 (1)動植物その他の自然環境に係わる概況

動植物に係わる概況は、「第7節 陸域及び陸水域の動植物」及び「第8節 海域、干潟及

び河口域動植物」の動物相と植物相における調査結果を用いています。 その他の自然環境に係わる概況は、現地調査において主要な微地形、水系等の自然環境の

概況から把握しています。

(2)地域を特徴づける生態系の注目種・群集の状況

都市計画対象道路事業実施区域及びその周辺における既存文献及び現地調査結果をもとに、

事業実施区域及びその周辺の生態系における食物連鎖の関係、選定する種の生活史や共生関

係などを勘案して行っています。 注目種は、生態系を構成する生物相の中から、各生態系の特性に応じて上位性、典型性、

特殊性という視点から選定し、注目種の考え方は表 7-68に示すとおりです。

表7-68 注目種(上位性、典型性、特殊性)の考え方

注目種 内 容

上位性 ・地域を特徴づける生態系の上位に位置する種 生態系を形成する生物群集において、相対的に栄養段階の上位に位置する種を対象とする。陸域ではワシ、タカなどの猛禽類、キツネ、クマ等の大型哺乳類が代表とされ、海域では魚食性魚類等も含まれる。生態系内の様々な食物連鎖に留意し、上位種を選定する。

典型性 ・生態系の特徴を典型的に表す種・群集、多様性を特徴づける種・群集 生物間の相互作用や生態系の機能に重要な役割を担うような種・群集。食物連鎖における生産者や低次の消費者で、対象地域に優占する植物種又は植物群落、それらを食する動物、個体数が多い動物などで、生態系の中で重要な機能的役割をもつ種や、多様性を特徴づける種。 食物連鎖を考慮し、地域の生態系を特徴づける典型種を選定する。

特殊性 ・特殊な環境であることを示す指標となる種・群集 相対的に分布範囲が狭い環境又は質的に特殊な環境に生息・生育する動植物種が挙げられる。小規模な湿地、洞窟、石灰岩地域等の特殊な環境や、孤立した環境など、周囲にはみられない環境に注目し、そこに生息する種・群集を選定する。

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1.2 調査結果 1.2.1 自然環境に係わる概況 (1)地形の状況

事業実施区域は北九州市門司区の新門司から、小倉南区朽網までの周防灘に面した沿岸部

内陸側を通過します。地形は計画地の中央付近に山地が含まれ、それ以外の場所は造成地や

石灰岩採掘後の平地、干拓による埋立地(工場、空港跡地、水田)です。 調査地域とその周辺の概況は、新門司地区の海岸線は入り組んだ自然の海岸地形(埋立地

を除く)で、沖合約 5kmまでは水深 10m以浅の浅海域が広がっています。 また、恒見、吉田地区の背後には山地があり、西側は樹林地帯ですが、東側は石灰の採石

により広範囲で崖部の急斜面となっています。 曽根、吉田地区は江戸、明治、昭和と次々と干拓が進められ、現在のような地形となって

おり、海岸線及び河川は堤防で囲まれ、自然海岸の区間はない状況です。また、曽根新田か

ら沖合約 5kmまでは 517haの泥質~砂泥質の「曽根干潟」が存在します。

(2)水系の状況 事業実施区域及びその周辺の主な河川は、2級河川の竹馬川、貫川、相割川の3河川と、

準用河川の大野川、朽網川の2河川です。このうち、相割川は新門司港へ流入し、竹馬川、

貫川、大野川、朽網川は曽根干潟へと流入しています。稲作期間は、これらの河川から農業

用水路を通って吉田地区、曽根地区の水田に水が供給され、水田排水はそれぞれの地区の潮

遊溝へ流入します。潮遊溝からは干潮、満潮の潮位差によって排水扉が開閉し、河川や干潟

に排水されている状況です。ため池は採石場の敷地内と、磯崎海岸の提内(ゴルフ練習場西

側)、竹馬川左岸先端(ゴルフ練習場東側)、大浜池の4つが存在しています。採石場の敷地

内とゴルフ練習場両側の池は、低地に周辺の雨水が流れ込んでおり、水域としてのつながり

はみられません。大浜池は灌漑用池で、大野川から取水された農業用水が、水田水路を経て、

大浜池へ流入し、潮遊溝へ流れ込みます。

(3)植生の状況 調査地域の地形は、石灰岩の採石場である海岸に接する山地と、主に採石に関連する埋立

地、水田・畑地等の干拓地に大別されます。 植生区分としては、西南日本の大部分を占めているヤブツバキクラス域(常緑広葉樹林域)

に属しています。現存植生は、面積の大きい順に、水田雑草群落、路傍・空地雑草群落、セ

イタカアワダチソウ群落、市街地となっており、人為的植生が大部分を占めます。水田雑草

群落、セイタカアワダチソウ群落は、主に調査地域の中央部から南側に広く分布しており、

路傍・空地雑草群落は主に調査地域の竹馬川左岸側の中央部から北側に広く分布しています。

一方、樹林はタブノキ群落、メダケ・ネザサ群落、街路樹等からなる広葉樹植栽地等からな

り、これらは人為的な植生です。 塩生植物群落は、磯崎海岸や大浜海岸の護岸沿いの砂地に、海浜植生のハマヒルガオ群落が、

竹馬川上流の河川合流部などの泥質地には、ヨシ群落が分布しています。大野川や朽網川、大

野川河口に隣接する大浜海岸には、複数の塩生植物群落で構成された塩沼地植物群落がみられ

ています。なお、自然植生は河口部、沿岸部に成立する塩生植物による群落のみです。

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1.2.2 地域を特徴づける生態系の状況 現地調査の結果を基に作成した現存植生図と、環境影響評価方法書で作成した自然環境類型

区分図を基に、主要な地形や水域、植物群落等の種類及び分布を整理して、地域を特徴づける

生態系を構成する動植物の生息・生育基盤の設定を行いました。 地域を特徴づける生態系の生息・生育基盤を表 7-69に示します。

表7-69 地域を特徴づける生態系の生息・生育基盤

生態系区分 生息・生育基盤 地形・水域 植生区分 代表種 山地 低山地 タブノキ群落

アカマツ群落 広葉樹植栽地 モウソウチク・マダケ群落

タブノキ アカマツ サクラ モウソウチク

採石場及び 関連施設

低山地 低地

タブノキ低木群落 モウソウチク・マダケ群落 ネザサ・メダケ群落 広葉樹植栽地 チガヤ群落 ススキ群落 ダンチク群落 路傍・空地雑草群落 採石場・工場

タブノキ モウソウチク ネザサ キョウチクトウ チガヤ ススキ ダンチク タチスズメノヒエ ハリエンジュ

造成・施設跡地 低地 路傍・空地雑草群落 チガヤ 宅地 低地 路傍・空地雑草群落 タチスズメノヒエ

森林・採石場生態系

ため池 陸水域 開放水域 スイレン、イトモ 埋立地 低地 セイタカアワダチソウ群落

ネザサ・メダケ群落 セイタカアワダチソウ ネザサ

空港跡地 低地 造成裸地 (造成前:チガヤ等)

草原生態系

耕作地 低地 水田雑草群落 畑地雑草群落 休耕地雑草群落 セイタカアワダチソウ群落 路傍・空地雑草群落

イネ、チョウジタデ オランダミミナグサ イヌタデ セイタカアワダチソウ シロツメグサ

水田 低地 水田雑草群落 イネ、ノチドメ 畑地 低地 畑地雑草群落 ダイコン、トウバナ 休耕田 低地 休耕地雑草群落 ケイヌビエ 造成・施設跡地 低地

低地 路傍・空地雑草群落 ススキ群落

セイタカアワダチソウ ススキ

ため池・潮遊溝 陸水域 ヨシ群落 開放水面

ヨシ オオカナダモ

水田生態系 (吉田地区)

ゴルフ練習場・ 公園

低地 公園・ゴルフ練習場 市街地

オヒシバ セイヨウタンポポ

水田 低地 水田雑草群落 イネ、ノチドメ 水田水路 低地 水田雑草群落 カワヂシャ 休耕田 低地 休耕地雑草群落

ヨシ群落 セイタカアワダチソウ群落 ススキ群落 チガヤ群落 ヒメガマ群落 路傍・空地雑草群落

ケイヌビエ ヨシ セイタカアワダチソウ ススキ チガヤ ヒメガマ オオクサキビ

畑地 低地 畑地雑草群落 果樹園

コスズメガヤ ウメ

潮遊溝 陸水域 タブノキ群落 開放水域、ヨシ群落

タブノキ ヨシ

水田生態系 (曽根地区)

大浜池 陸水域 ヨシ群落 ヨシ 護岸・岩礁 海岸 沿岸生態系 沿岸域 浅海域 干潟・河口 干潟

域 干潟生態系 浅海域 浅海域

海域の「地域を特徴づける生態系の区分」地域特性から、

藻場、干潟、さんご群集等のように区分される。 参考)港湾分野の環境影響評価ガイドブック 1999 (財)港湾空間高度化センター 港湾・海域環境研究所

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(1)森林・採石場生態系 本生態系の生息・生育基盤は、「採石場及び関連施設」、「山地」、「造成・施設跡地」、「ため

池」から構成されています。陸域の生態系区分の中では最も環境が多様であり、生態系の生

産者となる植物の確認種数は 405種と最も多い結果です。 当該生態系の断面模式は図 7-44に、食物連鎖の関係は図 7-45に示すとおりです。これを

もとに、「上位性」、「典型性」、「特殊性」の点で注目される種として、ハヤブサ、テン、タヌ

キ、タブノキ群落、ハヤブサ営巣地(調査範囲外)が抽出されます。

図7-44 森林・採石場生態系の断面模式

図7-45 森林・採石場生態系における食物連鎖

 テン  ハヤブサ

 イノシシ  ハヤブサ営巣地

 ジムグリ  タヌキ  ノウサギ

 マムシ  イタチ属の一種

 ニホンアカガエル  アカネズミ  カヤネズミ  カワラバト  ウシガエル

 ハツカネズミなど  スズメ

 ムクドリなど

 ヒメハルゼミ  マダラツマキリヨトウ  ツチイナゴ  ハラビロカマキリ  タイワンウチワヤンマ

 ノコギリクワガタ  ツマキリヨトウ類  ナナホシテントウ  ハイイロゲンゴロウ  チョウトンボなど

 ヒメオサムシなど  ハバチ類など  モンキアゲハなど  シオカラトンボなど  ユスリカ類

 タブノキ  ヤマヤブソテツ  エノコログサ  セイタカアワダチソウ  ヨシ

 シロダモ  ヤブラン  チガヤ  チガヤ  スイレン

 ヤマモモなど  ベニシダなど  ススキなど  ススキなど  イトモなど

基盤

鳥類

哺乳類

鳥類

昆虫類

哺乳類爬虫類

哺乳類

昆虫類

哺乳類

森林・採石場生態系

昆虫類 昆虫類昆虫類

山地 採石場及び関連施設 造成・施設跡 池

両生類 両生類哺乳類

草本類 草本類生産者

木本類 草本類 草本類

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(2)草原生態系 本生態系の生息・生育基盤は、「空港跡地の一部」、「前面の埋立地」、一部の「耕作地」か

ら構成されますが、ほとんどは空港跡地内の造成裸地と埋立地内の草地です。本生態系区分

を構成する環境は最も単純であり、生態系の生産者となる植物の確認種数は 162種と少ない状況です。 当該生態系の断面模式は図 7-46に、食物連鎖の関係は図 7-47に示すとおりです。これを

もとに、「上位性」、「典型性」、「特殊性」の点で注目される種として、ハヤブサ、タヌキ、ア

オダイショウが抽出されます。

図7-46 草原生態系の断面模式

図7-47 草原生態系における食物連鎖

 ハシブトガラス  ハヤブサ  イタチ属の一種

 ハシボソガラスなど  タヌキ

 アオダイショウ  カワラバト  ノウサギ

 カナヘビ  スズメなど

 シマヘビ

 ヌマガエル(成体)  カヤネズミ  アマガエル

 ヌマガエル(幼生)

 ユスリカ類、ミジンコ類  ツユムシ  オオカマキリ

 藻類、デトリタスなど  アワダチソウグンバイ  キチョウ

 (一時的な水たまり)  アミメアリなど  ヤマトシジミなど

 マンテマ  ススキ  スギナ

 オオアレチノギク  セイタカアワダチソウ  イヌタデ

 オオクサキビなど  クズなど  ヤハズソウなど

基盤

草原生態系

鳥類

生産者

爬虫類

哺乳類

鳥類

耕作地

草本類

空港跡地の一部

草本類 草本類

哺乳類

昆虫類 昆虫類

前面埋立地

昆虫・水生微小生物

鳥類 哺乳類

両生類(水たまり) 両生類

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(3)水田生態系 1)吉田地区

本生態系の生息・生育基盤は、「水田」、「畑地」、「休耕地」、「造成・施設跡地」、「ゴルフ練

習場・公園」、「ため池・潮遊溝」から構成されています。生態系の生産者となる植物の確認

種数は 313 種です。

当該生態系の断面模式は図 7-48に、食物連鎖の関係は図 7-49に示すとおりです。これをもとに、「上位性」、「典型性」、「特殊性」の点で注目される種として、ハヤブサ、ミサゴ、チ

ュウヒ、タヌキ、陸ガモ類、オオヨシキリ、ヨシ群落が抽出されます。

図7-48 水田生態系(吉田地区)の断面模式

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図7-49 水田生態系(吉田地区)における食物連鎖

7-148

 ハヤブサ

 チュウヒ、オオタカ

 ミサゴなど

 ダイサギ  アカミミガメ  イタチ属の一種  シマヘビ

 アオサギ  クサガメ  タヌキ  カナヘビ、トカゲ

 コサギなど  ヤモリなど

 陸ガモ類  ヌマガエル  コイ  オオヨシキリ  カヤネズミ  ノウサギ

 マガモ、カルガモ  アカガエル属(幼生)  ギンブナ  オオジュリン

 ヒドリガモなど  シュレーゲルアオガエル  バラタナゴ属など  スズメなど

 モノアラガイ  モノアラガイ  マイコアカネ  タイワンウチワヤンマ  ヒロバネカンタン  コバネナガカメムシ

 トビイロウンカ  イトミミズ類  イトミミズ科  コガムシなど  ジュウクホシテントウ  キタテハなど  ギンヤンマ

 オンブバッタなど  ゲンゴロウ類など  ユスリカ科など  など  ウスバキトンボなど

 ノチドメ  イネ  ヨシ  トウバナ  ケイヌビエ  コマツヨイグサ  オヒシバ、チガヤ

 スズメノトウガラシ  微小藻類  エビモ  スベリヒユ  ミゾソバ  チガヤ、ススキ  シロツメグサ

 チョウジタデなど  枯死堆積物など  オオカナダモなど  エノキグサなど  コウキヤガラなど  エノコログサなど  アレチハナガサなど

基盤

昆虫類

鳥類

昆虫類

鳥類

鳥類

哺乳類

哺乳類

昆虫類

魚類

爬虫類

生産者

水田生態系(吉田地区)

ため池・潮遊溝 ゴルフ練習場造成・施設跡地畑地 休耕田

草本類 草本類草本類

水田生物

爬虫類

昆虫類

両生類

鳥類

哺乳類

底生動物 昆虫類

 タイワンハウチワウンカ

草本類

水田

草本類(休耕期) 草本類(耕作期) 草本類

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2)曽根地区 本生態系の生息・生育基盤は、主に「水田」、「水田水路」、「休耕地」、「畑地」、「堤防沿い

の潮遊溝」、「大浜池」から構成されています。生態系の生産者となる植物の確認種数は 347種となります。 当該生態系の断面模式は図 7-50に、食物連鎖の関係は図 7-51に示すとおりです。これを

もとに、「上位性」、「典型性」、「特殊性」の点で注目される種として、ハヤブサ、ミサゴ、チ

ュウヒ、タヌキ、陸ガモ類、オオヨシキリ、バラタナゴ類、ヨシ群落が抽出されます。

図7-50 水田生態系(曽根地区)の断面模式

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図7-51 水田生態系(曽根地区)における食物連鎖

7-150

 ハヤブサ

 チュウヒ

 オオタカ

 ダイサギ  アカミミガメ  ミサゴ  イタチ属の一種  シマヘビ  アカミミガメ

 コサギなど  クサガメ  タヌキ  カナヘビ  クサガメ

 陸ガモ類  ヌマガエル  メダカ、カダヤシ  ボラ、スズキ  アカネズミ  オオヨシキリ  バラタナゴ属

 マガモ、カルガモ  アマガエル  ウナギ、タモロコ  ウナギ、タモロコ  カヤネズミ  オオジュリン  ギンブナ

 ヒドリガモなど  バラタナゴ属など  メダカなど  ノウサギ  スズメなど

 イチモンジセセリ  モノアラガイ  モノアラガイ  イシマキガイ  キリギリス  タテスジナガドロムシ  アジアイトトンボ

 ナナホシテントウ  イトミミズ類  イトミミズ類  ヨシエビ  ウスイロササキリ  ゲンゴロウ類  イトミミズ類

 ブタクサハムシなど  ゲンゴロウ類など  ゲンゴロウ類など  クロベンケイガニなど  モンシロチョウなど  ガムシ類  ゲンゴロウ類など

 ノチドメ  イネ、アオウキクサ  ウリクサ、ヒデリコ  ヨシ、オオカナダモ  コスズメガヤ  ヨシ、ススキ  ヨシ

 オオバコ  微小藻類  オオカナダモ、ヨシ  エビモ  キツネノマゴ  セイタカアワダチソウ  マコモ

 ハハコグサなど  枯死堆積物など  エビモなど  枯死堆積物など  カタバミなど  ヒメガマなど  オオカナダモなど

基盤

生産者

草本類草本類(稲作期)草本類(休耕期)

鳥類 鳥類

草本類 草本類

昆虫類

草本類 草本類

魚類(大浜池)魚類(水路)

爬虫類

昆虫類

鳥類

底生動物

爬虫類

鳥類

水田生物

両生類 魚類(潮遊溝)

水田生物(水路)

水田生態系(吉田地区)

大浜池潮遊溝 畑地水田 休耕田水田水路

昆虫類昆虫類

哺乳類 爬虫類

哺乳類 鳥類

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(4)沿岸生態系、干潟生態系 海域の生態系(沿岸生態系、干潟生態系)については既存資料※1にて評価されており、こ

れを参考としています。その他に既存資料※2と、既存資料※3もそれぞれ参考資料としていま

す。

海域については、「港湾分野の環境影響評価ガイドブック※4」に従い類型区分されています。

沿岸生態系の生息・生育基盤は、「護岸・岩礁」、「浅海域」の 2区分、干潟生態系は、「干潟」、

「浅海域」の 2区分から構成されています。

当該生態系の食物連鎖の関係を図 7-52 に、断面模式を図 7-53 に示しています。これをも

とに、「上位性」、「典型性」の点で注目される種として、ミサゴ、マガキ、シャコ、オサガニ

類が抽出されます。

なお、調査区域内の河口、沿岸域には、沿岸、河口域の「塩沼地」という特殊な環境に成

立した「塩生植物」が生育しており、これらの環境に成立した塩生植物群落を「特殊性」の

視点から注目種として抽出します。

※1 資料:「新門司南地区公有水面埋立事業環境影響評価書」平成 19年4月 北九州市 ※2 資料:「曽根干潟環境調査(平成 7年度~17年度)結果」平成 18年3月 ※3 資料.:「曽根干潟に飛来した鳥類調査報告書」日本野鳥の会北九州支部 平成 20年 3月 ※4 資料:「港湾分野の環境影響評価ガイドブック 1999

(財)港湾空間高度化センター 港湾・海域環境研究所」

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図7-52 沿岸生態系及び干潟生態系の食物連鎖

資料:「新門司南地区公有水面埋立事業環境影響評価書」 北九州市 平成 19 年 4月

図7-53 沿岸生態系及び干潟生態系の断面模式

資料;「新門司南地区公有水面埋立事業環境影響評価書」 北九州市 平成19年4月

植物プランクトン

スケレトネーマ コスタータム,タラシオシラ属、クリプト藻類など

スズキ、アカエイ、ツバクロエイなど

大型魚食性魚類

底生動物

シズクガイ、ダルマゴカイ、アサリ、サルボウガイ、ニホンドロソコエビなど

ボラ、ジンドウイカ、サッパ、コノシロなど

魚類等 底生魚類等

シャコ、ヨシエビ、シログチ、コチ、シロギスなど

マガキ、フジツボ、チリハギガイなど

潮間帯付着生物

タラシオシラ属、キートケロス属、クリプト藻綱

植物プランクトンゴカイ類、カニ類、ヨコエビ類など

底生動物

オサガニ類、シオフキガイ、

底生微小藻類

魚類

サッパ、コノシロ、

ボラ、マハゼなど

ヘナタリガイ、ゴカイ類

キセワタ、シズクガイなど

かいあし亜綱ノープリウス幼生オイトナ属コペポダイト幼生

動物プランクトン

アジサシ、ウミネコなど

浅海域

哺乳類

スナメリ

動物プランクトン

かいあし亜綱ノープリウス幼生オイトナ属コペポダイト幼生

魚類・稚仔魚

小型底生動物

堆積物

干潟

護岸・岩礁

ハゼ類、ギンポ類、

アイナメなど

珪藻類(フラギラリア属、

ナビクラ属、アンフォラ属)

藍藻類(メリスモペディア属)など

懸濁物

堆積物

潮間帯 潮下帯

鳥類

ミサゴ、カイツブリ、

鳥類

ミサゴ、ハマシギ、チュウシャクシギ、

シロチドリ、オナガガモ、コサギなど

懸濁物

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1.2.3 地域を特徴づける生態系の注目種 環境影響評価方法書に掲示した生態系における地域を特徴づける注目種については、調査結

果に基づき各生態系ごとに再整理して注目種の見直しを行うものです。 生態系の観点から指標となりうる種を抽出したもを表 7-51に示します。 注目種の選定には、その種が消失すると、生物群集や生態系が異なるものに変質してしまう

ような種、多様性の要となっているような種、食物連鎖の上位に位置する種、異なる生物間に

おいて相互に密接に結びついた共生関係となる種、その地域において象徴的な種などの観点か

ら注目種を再選定します。 その結果、上位性として「ミサゴ、ハヤブサ」を、典型性として「タヌキ、陸ガモ類、バラ

タナゴ属、ヨシ群落、マガキ、オサガニ類」を、特殊性として「塩生植物」の 9つを選定します。 なお、注目種として選定した理由は表 7-70に記載するとおりです。

表7-70 各生態系類型区分の指標となりうる種

生態系区分 上位性 典型性 特殊性 森林・採石場生態系

・テン ・ハヤブサ

・タヌキ ・タブノキ群落

・ハヤブサの営巣地 (調査範囲外)

草原生態系 ・ハヤブサ ・アオダイショウ ・タヌキ ・該当種なし

水田生態系 (吉田地区) ・ミサゴ

・ハヤブサ ・チュウヒ

・タヌキ ・陸ガモ類 ・オオヨシキリ ・ヨシ群落

・該当種なし 陸

水田生態系 (曽根地区)

・ミサゴ ・ハヤブサ ・チュウヒ

・タヌキ ・陸ガモ類 ・オオヨシキリ ・バラタナゴ属 ・ヨシ群落

・該当種なし

沿岸生態系 ・ミサゴ ・マガキ

・シャコ ・該当種なし 海

域 干潟生態系

・ミサゴ ・オサガニ類(ヤマトオサガニ,オサガニ) ・陸ガモ類

・塩生植物

備考)海域の注目種については、「新門司南地区公有水面埋立事業環境影響評価書」 北九州市 平成 19年 4月 における注目種の中から抽出した。 表中の太文字は、注目種として選定した種を示す。

Page 13: 第9節 生態系 - Kitakyushu · 第9節 生態系 1.調査結果の概要 1.1 調査手法 (1)動植物その他の自然環境に係わる概況 動植物に係わる概況は、「第7節

7-154

1.2.4 生態系注目種の調査結果 地域を特徴づける生態系の注目種(上位性、典型性、特殊性)として選定したミサゴ、ハヤ

ブサ、陸ガモ類、タヌキ、バラタナゴ属、ヨシ群落、マガキ、オサガニ類、塩生植物群落の調

査結果は以下に示すとおりです。 (1)上位性:ミサゴ 1)生息基盤の利用状況 現地調査では、沿岸干潟域及び沿岸陸域、河口域、潮遊溝などで採餌行動が確認されてお

り、調査範囲内の水域を採餌場として利用しています。出現範囲は、元来、水辺に依存する

ミサゴの生態を反映し、間島から旧空港の誘導灯付近を含む曽根干潟(海上)上空、干潟に

流入する河川、曽根および吉田地区の潮遊溝付近など、調査地域内に存在する水辺域が中心

です。 現地調査では、竹馬川河口で探餌行動を行っていた個体が、潮遊溝上空を通過しながら南

方向へ移動し、朽網川周辺で探餌した後に、再び北方向へ飛行して竹馬川河口での探餌行動

を行っており、沿岸部を中心に広い範囲で採餌行動を行っている様子が確認されています。 また、これらの場所で餌を捕獲した個体は、苅田町雨窪方面、昭和池方面、吉田地区北側

方面など多方面に運搬していく状況を確認しており、曽根・吉田地区から離れた周辺各地に

生息するミサゴが、曽根干潟およびその周辺の水辺域に飛来し、餌場として高頻度に利用し

ている状況が推察されています。 2)他の生物との関係 ミサゴは魚食性の猛禽類で、水田、沿岸域及び干潟域の生態系の上位に位置する代表的な

種です。ミサゴと他の動植物との食物連鎖の関係を図 7-54に示します。 餌はボラを主体にコノシロ、サッパ、スズキなどの中型魚類となります。これらの魚類の

うち、小魚や甲殻類を食べるスズキ以外は、プランクトン、底生動物、底生微小藻類を食べ、

スズキはこれら中型魚類の稚魚やエビ類を採餌します。このように、調査地域の陸水域及び

海域では、ミサゴを頂点とした食物連鎖が成立しています。

図7-54 ミサゴと他の動植物との食物連鎖図

ミサゴ

      底生微小藻類 珪藻類(フラギラリア属) ナビクラ属、アンフォラ属)、 藍藻類(メリスモペディア属)など

   雑食性魚類 ボラ、コノシロ、 サッパなど

魚食性魚類スズキ

     動物プランクトン かいあし亜綱ノープリウス幼生 オイトナ属のコペポダイト幼生など

    底生動物 ヨシエビ、シバエビ、 クルマエビなど

    デトリタス 動植物死骸、糞塊、 バクテリアなど      植物プランクトン

 スケレトネマ コスタータム タラシオシラ属 クリプト藻類など

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7-155

3)分布状況 ミサゴは沿岸域の広範囲で確認されており、その確認場所は、「柄杓田海岸沖」、「新門司港

沖の防波堤付近」、「曽根干潟及び前面海域」、「朽網川河口及び潮遊溝周辺」の大きく 4箇所に個体はやや集中しています。 また、調査範囲では、竹馬川河口、貫川河口、朽網川河口、曽根新田北地区、南の潮遊溝

にて探餌行動が確認されています。 (2)上位性:ハヤブサ 1)生息基盤の利用状況 陸域の各生態系の上位性種で、海域においても多くの鳥類が捕食対象となり、陸域、海域

ともに各生態系の上位性種となっています。 また、調査範囲外ですが、森林・採石場生態系に近い採石場跡地の崖に営巣場所が存在し

ています。この繁殖番つがい

の採餌場所は沿岸域から曽根干潟と考えられ、本調査範囲を採餌場所

として利用しているものと考えられます。また、冬季は繁殖個体以外の越冬個体の増加によ

り、本調査範囲内のハヤブサは冬季に個体数が増加しています。 本調査範囲の利用は、主に採餌場としての利用です。吉田地区の電波塔、曽根地区は電波

塔と電柱が採餌のための主な「待ち伏せ」場所となっており、獲物に狙いをつけて高い場所

から急降下している状況が確認されています。曽根新田南地区では、広い耕作地を狩り場と

して頻繁に利用しており、また、干潟域ではカモメ類を襲う状況が確認されています。

2)他の生物との関係 ハヤブサは主に鳥類食性の猛禽類で、まれにネズミやウサギを捕食します。森林・採石場、

草原、水田の各生態系の上位に位置する代表的な種です。ハヤブサと他の動植物との食物連

鎖の関係を図 7-55に示します。 餌は内陸部ではヒヨドリやカワラバトで、干潟や海域ではシギ・チドリ、カモ類です。な

お、現地調査では、カモメ類を狙う行動が確認されましたが、成功には至っていません。ハ

ヤブサの餌となる鳥類は、干潟や耕作地で動植物を採餌しており、調査地域ではハヤブサを

頂点とした食物連鎖が成立しています。

図7-55 ハヤブサと他の動植物との食物連鎖図

 耕作地等の昆虫類トビムシ類、ハエ類、甲虫類、チョウ類、バッタ類など

干潟動物貝類、ゴカイ類、昆虫類、小型甲殻類など

海域、干潟域マガモ、カルガモ、ヒドリガモなど

       陸域植物オオバコ、スズメノトウガラシ、ウリクサ、スベリヒユ、ケイヌビエなど

    デトリタス 動植物死骸、糞塊、 バクテリアなど

     植物プランクトンスケレトネマ コスタツムタラシオシラ属、クリプト藻類など

後背地ヒヨドリ、ツグミ、カワラバトなど

 海域、干潟域シギ・チドリ類、カモメ類など

ハヤブサ

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7-156

3)分布状況 現地調査では、恒見の採石場跡地、吉田地区の電波塔、曽根地区の電波塔及び電柱では、

複数回確認されています。その他、吉田地区の耕作地、曽根地区の耕作地、干潟に残った空

港誘導灯などでも確認されており、確認された捕獲対象種は、キジバト、ツグミ、タヒバリ、

カワラバト、カモメで、ほとんど曽根新田南地区の耕作地でみられています。 (3)典型性:陸ガモ類 1)生息基盤の利用状況 陸ガモ類は、昼間は曽根干潟の汀線付近で採餌しています。採餌場所は潮の満ち引きに沿

って、沖側と沿岸側を汀線とともに移動しながら水辺で採餌を行っています。また、曽根干

潟に流入する竹馬川、大野川、貫川、朽網川の河口や澪筋も採餌場所として利用しています。

休息は干出した干潟や、曽根漁港へ通じる海床路、朽網川導流提、間島周辺を利用しており、

昼間は曽根干潟の広範囲を採餌、休息の場として利用しています。 また、曽根干潟の陸ガモ類は、夜間は後背地に移動して採餌を行っています。陸ガモ類の

後背地への移動は、日没から約 1時間が経過し、暗闇となって姿が確認できなくなる頃から始まります。数羽から数十羽の小群で、曽根干潟から後背地の耕作地へ移動します。 夜明け 2,3 時間前頃から干潟への移動が始まり、夜明け前には、ほとんどの個体は干潟に移動しています。 利用する耕作地は、吉田地区、曽根地区の水田環境で、曽根地区の方が個体数は多くみら

れています。また、耕作地に残ったカモの足跡は、県道 25号線や国道 10号線バイパスの近くでも確認されていますが、数が多く把握が難しい状況です。耕作地の広い範囲を利用して

いるものと考えられます。また、吉田地区は内陸側を通過する市道の近くでも個体が目撃さ

れています。 耕作地での行動は、明け方近くまで採餌と休息を繰り返しています。3 種とも、主として植物食ですが、マガモ、ヒドリガモは植物食が主な雑食性です。 現地調査では、ヒドリガモは耕起された耕作地に、短い草本類が生え出した区画に多くみ

られ、カルガモは二番穂水田や、耕起から一定期間が経過して、耕作地に水が溜まったよう

な区画に、マガモは耕起間もない区画や、カルガモと同一環境で確認されることが多い結果

です。 マガモは耕作地を歩行しながら餌を探し、カルガモは耕起された区画に水が溜まるような

場所で、水表面を濾過するように採餌しています。また、ヒドリガモは、短い草本類を引き

ちぎるように採餌する様子が確認されています。

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7-157

2)他の生物との関係 陸ガモ類のうち、マガモ、カルガモ、ヒドリガモは、主に植物食が強い雑食性です。これ

ら 3種は、陸上及び水面・浅い水辺で採食する水面採食型で、水中や水面では藻などを食べ、陸上では、草本類の葉や種子などを食べています。ただし、その詳細は明らかにされてはい

ません。これは、地域や季節によって植物相が異なることから、その地域で生育する植物に

あわせて採餌するためと考えられます。 夜間に耕作地で採餌した陸ガモ類の糞の内容物を顕微鏡にて調べた結果、ヒドリガモは、

耕作地の一面に生育するスズメノカタビラ、レンゲソウが混生する耕作地で確認されること

が多く、その場に食痕と緑色の糞を残しています。カルガモは、耕起後の耕作地の水たまり

に褐色の糞を残しており、細かく粉砕された植物根のような繊維が確認されています。マガ

モの明らかな糞は採取出来ませんでしたが、後背地で採餌したツクシガモの糞には、粉砕さ

れた多量の小型甲殻類(等脚類や端脚類等)が、砂混じりの状態で確認されました。採取さ

れたツクシガモの糞は、干潟で採餌した直後の糞と推測されます。 陸ガモ類の餌については不明な部分が多く、明確ではありませんが、干潟生態系と水田生

態系の食物連鎖において典型性を代表する種と考えられます。 陸ガモ類と他の動植物との食物連鎖の関係を図 7-56に示します。

図7-56 陸ガモ類と他の動植物との食物連鎖図

草本類スズメノカタビラレンゲソウ

草本類植物の根

デトリタス動植物死骸、糞塊、バクテリアなど

付着藻類

デトリタス動植物死骸、糞塊、バクテリアなど

植物プランクトンタラシオシラ科キートケロス属クリプト藻綱

鳥類ハヤブサ

水田生態系 干潟生態系

小型動物ミミズ類、貝類昆虫類、魚類

哺乳類イタチ属、タヌキ

陸ガモ類マガモカルガモヒドリガモ

動物プランクトンカイアシ亜綱ノープリウス幼生

オイトナ属コペポダイト幼生など

小型動物カニ類、貝類など

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7-158

3)分布状況 吉田地区は、曽根地区ほど陸ガモ類の個体数は多くありませんでした。この要因として、

2つのことが考えられます。1つは、曽根地区ほど耕作地面積が広くはないことで、安心し

て採餌する面積が少ないこと。もう1つは、8 月に行われた稲刈り後の耕起時期が早く、曽根地区のように二番穂が生育する区画が少ないことが考えられます。水田内に局所的にみら

れたカルガモは、未耕起の二番穂が生育する水田を利用しており、早い時期に耕起された耕

作地は、陸ガモ類が渡来する秋頃には耕作地表面はやや固くなり、水たまり等がないことで、

採餌が難しいためでないかと考えられます。また、冬季頃より、耕作地一面に草本類が生え

始め、カルガモよりもヒドリガモの方が、吉田地区の利用は多い傾向となっています。なお、

吉田地区でカルガモの確認回数が多い東の休耕地は、水がたまった湿地となっており、水面

採餌型のカルガモが利用しやすい環境であったものと考えられます。 曽根新田北地区は、やや海側に近い場所に分布が集中し、ヒドリガモの確認地点が多い傾

向です。曽根新田南地区は、中心付近にカルガモの分布が集まっています。また、曽根新田

南地区の朽網川に近い耕作地にヒドリガモの集中がみられます。これは、この区画周辺は、

耕起時期が一緒であったのか、耕起後に草地化した区画が広がっており、ヒドリガモの利用

が多かったものと考えられます。 曽根地区の水田の耕起時期は、吉田地区のように稲刈り後にほぼ一斉に耕起されることは

なく、二番穂区画、耕起直後の区画、耕起後に草地化した区画など、同じ水田環境でもそれ

ぞれ微妙に異なっています。明確な傾向ではありませんが、水田の状況に応じて利用場所を

選択している可能性が考えられます。 なお、耕作地に残ったカモの足跡は、県道 25号線や国道 10号線の近くでも確認されており、耕作地の広い範囲を利用しているものと考えられます。

(4)典型性:タヌキ 1)生息基盤の利用状況 現地調査によるタヌキの痕跡は、調査範囲の全域で新門司から朽網川までの広範囲に及び

ます。タヌキの痕跡は、山地よりも低地に多く、特に水田環境に多く確認されています。確

認は、目撃、足跡、ため糞、無人撮影装置です。 タヌキの痕跡が多い水田環境では、潮遊溝に沿うように分布するヨシ群落や、休耕地や造

成地のセイタカアワダチソウ群落、ススキ群落等の高茎草本類がみられる場所に「けもの道」

がみられています。移動は、これらの高茎草本類などの身を隠せる場所に沿って移動してい

るものと考えられます。曽根地区で積雪がみられた日には、雪上に残る足跡の追跡を行い、

移動ルートとなる潮遊溝沿いの草地から耕作地へ出入りする無数の足跡や、吉田地区では、

舗装された農道と市道を通って、民家周辺に向かう足跡を確認しましたが、何らかの理由で

途中で引き返す様子が確認されています。 稲刈り後は広い開放空間となる耕作地へは、潮遊溝沿いの草地のどこからでも自由に出入

りしており、耕作地への特定の移動経路はみられていません。 また、タヌキの糞の中には、カキ、カボチャ等の種子、イネ等が混じっており、消化が良

く原形を留めない糞も多数存在しています。また、1匹のタヌキの行動域には約 10 ケ所のた

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7-159

め糞があるといわれており※1、水田の畦等に点在するため糞から、水田環境の広範囲を採餌

場所として利用しているものと考えられます。また、干潟沿岸域や河川にも足跡が確認され

ており、干潟域も行動圏に含まれていると考えられます。

2)他の生物との関係 タヌキは典型的な雑食性で、ビワ、ナシ、カキ、ドングリなどの果実や穀類、木や草の根

や地下茎、コガネムシ、バッタなどの昆虫、カエル、ヘビ、タニシ、カニ、ミミズ、小魚、

小鳥、ネズミなど、多様な生物を捕食します。また、ため糞からはイネも食べている状況が

確認されています。生息痕跡は陸域及び干潟の沿岸域で確認されており、探餌行動の範囲は

非常に広く、その行動圏や食性の広さから典型性を代表する種です。タヌキと他の動植物と

の食物連鎖の関係を図 7-57に示します。

図7-57 タヌキと他の動植物との食物連鎖図

3)分布状況 現地調査結果によると、竹馬川を挟んでそれぞれ別家族が生息しているものと考えられま

す。けもの道の配置から、大野川、貫川は橋梁を渡っている様子がうかがえますが、竹馬川

に関しては、大きく迂回し、かつ住宅地内を通らなければならないことから、曽根地区と、

吉田地区の個体は別個体と推測されます。ただし、干潟に足跡が残されており、干潮時に竹

馬川を渡っていれば同一個体の可能性が考えられます。吉田地区、曽根地区ともに最大 3個体を同時目撃しています。

※1 資料:川の生物図典 平成 8年、(財)リバーフロント整備センター

干潟動物貝類、ゴカイ類、昆虫類、小型甲殻類など

       陸域植物イネ、オオバコ、スズメノトウガラシ、ウリクサ、スベリヒユ、ケイヌビエなど

   ため糞(糞塊)未消化動植物や種子、バクテリアなど

     植物プランクトンスケレトネマ コスタツムタラシオシラ属、クリプト藻類など

耕作地等の動物シマヘビ、ヌマガエル、アカネズミ、小魚など

 海域、干潟域魚類等の死骸、カニ類、エビ類など

タヌキ

民家周辺家庭台所の生ゴミ、民家周辺の果実、野菜

 耕作地等の昆虫類トビムシ類、ハエ類、甲虫類、チョウ類、バッタ類など

水田・耕作地イネ、穀物など

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7-160

(5)典型性:バラタナゴ属 1)生息基盤の利用状況 バラタナゴ属が確認されたのは、吉田地区の潮遊溝、中曽根東地区の水路と大浜池、曽根

新田北地区の水路と潮遊溝です。個体数は、曽根新田北地区に最も多く、中曽根東地区でも、

多くの個体を確認していますが、吉田地区の潮遊溝ではわずか 2個体が確認されたのみです。バラタナゴが数多く生息する水田水路には、重要種のメダカ、特定外来種のカダヤシ、普通

種のフナ属の幼魚が数多く生息しています。これは、水田から排水される有機物や微小藻類、

水田生物等が、これらの小型魚類や稚仔魚の餌となり、河床や水際に生育する植物が、隠れ

場所や生息場所となっていること、また、これらの植物が水生昆虫や微小動物の生息基盤と

なっていることで、多くの生物を維持できる環境が形成されているためと考えられます。 2)他の生物との関係 タナゴ類の繁殖は、雌が二枚貝類(イシガイ類)へ生殖管を挿入して産卵し、その後、雄

が放精して二枚貝内部で受精を行います。当水域に生息するイシガイ類はドブガイであり、

ドブガイの体内で受精した卵は、体内で孵化し、仔魚の期間をドブガイ体内で過ごしたのち

にドブガイから遊出してきます。この稚魚を食べるため、ヨシノボリ類やドジョウ類等の底

生性魚類は、ドブガイの付近に集まります。一方、ドブガイの幼生であるグロギディニウム

幼生は、これらの底生性魚類に一時寄生する生活史をもっており、ドブガイ周辺にタナゴ類

の仔魚を食べに集まった底生性魚類に寄生し、成長と分散を行います。このようにタナゴ類、

ドブガイ類、底生性魚類の間で共生関係が成立しています。食物連鎖上においては、タナゴ

類は、水田から排出される有機物や、植物プランクトン、それらを食べる微小動物を餌とし

ています。一方で哺乳類、魚食性魚類、鳥類に被食されます。これらのことから、水路内に

おいて個体数が多いバラタナゴ属は、他の生物との共生関係や食物連鎖の関係において、水

田生態系(曽根地区)の典型性を示す指標と考えられます。バラタナゴ属と他の動植物との

食物連鎖の関係を図 7-58に示します。

図7-58 バラタナゴ属と他の動植物との関係

ドブガイの幼生(グロギディウム幼生)(魚類へ寄生)

哺乳類

タヌキ、イタチ属など

鳥類ダイサギ、コサギ、アオサギなど

植物プランクトン浮遊珪藻類、緑藻類、デトリタスなど

肉食魚類潮遊溝内及び水路

ブラックバス、スズキなど

動物プランクトン・小型底生動物ワムシ類、ミジンコ類、

小型底生動物(イトミミズ類)など

       底生性魚類    ヨシノボリ類、ドジョウ類 (タナゴ類の仔魚を         捕食する際に寄生)

 バラタナゴ属(仔魚)

ドブガイ(二枚貝類)タナゴ類の産卵母貝孵化仔魚は体内で生育

バラタナゴ属(成魚)

産卵

幼生産卵

寄生

仔魚遊出

仔魚捕食 濾過採餌

採餌

採餌

捕食 捕食 捕食

:共生関係:食物連鎖関係

二枚貝へ成長

捕食

成長

捕食

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7-161

3)ニッポンバラタナゴの既存文献等 既存文献によると、九州北部の水域には、純粋なニッポンバラタナゴの生息域がまだ多く

残されているといわれています。「ニッポンバラタナゴの分布の現状」についての概要を表

7-71に示します。

表7-71 ニッポンバラタナゴの分布の現状(概要) 「ミトコンドリア DNAと形態から見た九州地方におけるニッポンバラタナゴの分布の現状」

三宅琢也.日本水産学会 74(6),1060-1067(2008) ニッポンバラタナゴは本州、四国において 1980年代にほとんどの集団が絶滅したにもかかわらず、九州では福岡、佐賀、熊本、大分、長崎の 5 県において現存するとされている。※1三宅らは、九州地方に

おけるニッポンバラタナゴの分布ならびにタイリクバラタナゴの侵入の実態を把握するため mtDNA※2

分析と側線有孔鱗そくせんゆうこうりん

の調査を、九州中北部の河川と農業用水路 46地点で実施している。 その結果、46集団中 41集団(全体の 89.1%)でニッポンバラタナゴ型のmtDNAが確認されており、このうちニッポンバラタナゴ型の mtDNA のみが認められたのは 28 集団(全体の 60.9%)で、残りの13集団(全体の 28.3%)においては両亜種のmtDNAが観察されている。残り 5集団(全体の 10.9%)についてはタイリクバラタナゴ型の mtDNA のみがみられている。また、水系別では、29 水系中 25 水系(全体の 86.2%)においてニッポンバラタナゴ型の mtDNA がみられ、このうちニッポンバラタナゴ型のみのmtDNAのみが確認されたのは約半分の 13水系(全体の 52.0%)であり、残り 12水系においてはタイリクバラタナゴ型のmtDNAもみられている。 このことから、九州地方におけるニッポンバラタナゴの分布は、鹿児島県を除く九州周辺域の平野部の

河川に生息し、従来考えられていたよりも広範囲な地域に渡る可能性が示唆されている。 なお、ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴは安易に交雑を行うことが知られており※3、過去の研

究では、野外において両亜種が同所的にみられる集団は、程度の違いがみられるもののすべて交雑個体

群であることが判明している。また、九州におけるタイリクバラタナゴの分布は、筑後川から菊池川水

系にかけた筑紫平野の中東部を除き、ほとんどの水域に侵入していることが明らかとなっており、タイ

リクバラタナゴの分布拡大の要因として、アユの放流、観賞用個体の放流・放棄、二枚貝類の移植の 3つが大きくあげられている※3。しかし、九州においては観賞用個体の放流・放棄が可能性としては最も

高いと考えられている。また、今回、ニッポンバラタナゴのmtDNAのみが確認された集団 28集団(全体の 60.9%)の近隣には、タイリクバラタナゴないし交雑集団が確認されており、タイリクバラタナゴの遺伝子が広範囲に拡大する危険性が極めて高いことも示唆されている。 なお、両種の表現形質による識別においては、これまで腹鰭

はらびれ

前縁部ぜんえんぶ

の白色帯の有無が有効とされてき

た。しかし、タイリクバラタナゴにおける白色帯未発達個体の存在や、季節的消長など、本形質が両亜

種ないし交雑個体群の識別においては必ずしも有効ではないことが指摘されている。また、両種におい

ては、側線有孔鱗数が異なることが知られている。今回、ニッポンバラタナゴのmtDNAのみが確認された集団の側線有孔鱗数の範囲は 0~4であったのに対し、タイリクバラタナゴのmtDNAのみがみられた集団は 3~7と、両者の間で若干の重なりがみられている。このことは、側線有孔鱗数のみを判定形質として用いた場合には、ある程度の危険性が内在することを意味している。しかし、mtDNAと側線有孔鱗数の関係では、両者の間には極めて高い正の相関が認められており、側線有孔鱗数による外部

形態からの判断は、ニッポンバラタナゴの同定において優れた表現形質であるものの、個体レベルでな

く、集団レベルでの比較において用いることが適切と考えられている。

※1「福岡県の希少野生生物-福岡県レッドデータブック 2001-」2001年 福岡県環境部自然環境課 「佐賀県の絶滅のおそれのある野生動植物-レッドデータブックさが-」2000年 佐賀県環境政策局環境企画課 「熊本県の保護上重要な野生動植物-レッドデータブック くまもと-」1998年 熊本県環境生活部自然保護課 「レッドデータブックおおいた~大分県の絶滅のおそれのある野生生物~」2000年 大分県生活環境部生活環境課

※2 mtDNA:ミトコンドリア DNAは母親から子に受け継がれる特性を生かして、家系を追跡するための研究に利用される。但し、ミトコンドリア DNAは母系をたどることしかできない。

※3長田芳和,タイリクバラタナゴ 純血の危機.「日本の淡水生物、侵略と攪乱の生態学」1980年

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7-162

また、中曽根東地区では「北九州空港移転跡地内環境補足調査業務委託 平成 18年 12月 北九州市」において、水田水路にバラタナゴ属が生息することが確認されています。 この調査で確認されたバラタナゴ属は、外部形態及びアイソザイム分析の結果、交雑個体

という結果でした。 この調査において、空港跡地内の調整池及び水路、中曽根東地区の水路及び潮遊溝にてバ

ラタナゴ属が確認されています。 現地で採取された個体は、すでに外部形態にタイリクバラタナゴの特徴である腹鰭前縁部

の白線が現れている個体と、白線が現れていない個体の両方が確認されており、両種間の雑

種個体が混在している可能性から、アイソザイム分析※1を行っています。アイソザイム分析

の結果、ニッポンバラタナゴと雑種個体の遺伝子の両方が検出されています。

4)分布状況 現地調査では、曽根新田北地区で最大で 1,000個体程度のバラタナゴ属を確認しています。バラタナゴ属が多く生息する水域は、中曽根東地区と曽根新田北地区の2地区で、吉田地区

では潮遊溝でわずかに確認した程度です。

5)潮遊溝と水路との関係 潮遊溝と水田水路は水域でつながっており、確認される魚類、底生生物は共通種が多い結

果です。稲作時期の水田水路の水位は高く、多くの小型魚や幼魚、底生動物の生息場所とな

っています。水路では、水田から放出される有機物を利用し、多くの生物が生産されている

状況です。 また、潮遊溝にはボラ、コイ、スズキ、オオクチバスなどの大型魚が多数生息しています。

特にボラの個体数は多い状況です。ボラ、コイは雑食性の魚類で、スズキ、オオクチバスは

肉食性の魚類です。これらは水田水路から潮遊溝へ流入してくる有機物や、水路で生産され

た生物を餌として生息しています。水田水路で生産された多くの生物は、陸上動物の餌とな

り、潮遊溝では魚類の餌として利用されています。冬季は水田水路の水位低下に伴い、水路

の生物は潮遊溝へ移動します。このように水田水路と潮遊溝間で生物は移動しており、水田

水路と潮遊溝の生態系は関連が深いものと考えられます。潮遊溝は、豊かな水田生物の維持

のためにも重要な存在となっているものと考えられます。

※1 アイソザイム分析:アイソザイム分析酵素は、両種で明らかに表現型が異なる「乳酸脱水酵素(LDH)」と、「6フォスフ

ォルグルコネート脱水酵素(6PGD)の 2酵素を用いたテンプルゲル電気泳動法により行った。

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7-163

(6)典型性:ヨシ群落 1)生育基盤の利用状況 本調査地域は沿岸域にあり、湿地帯に広がるヨシ群落は、本来であれば当該地域の原風景

を構成する典型的な植物群落であると考えられます。本調査範囲における自然植生は、河口、

干潟域に成立する塩生植物群落のみであり、陸域を除く、河口、干潟域のヨシ群落について

は全て自然植生となります。 現地調査では、陸域においては採石場の池の水際、ゴルフ練習場東側のため池、ゴルフ練

習場西側のため池、大浜池の周辺、休耕田、水田水路、潮遊溝等にみられ、河口、海域にお

いては、各河川及び沿岸に比較的まとまったヨシ群落が形成されています。 一般的にヨシ群落が成立する場所は、湖沼や河川の岸、湿地などの水辺ですが、本調査地

域では、水田地帯の休耕田にも群落が形成されています。休耕田にヨシ群落が成立する要因

は、水分条件と関連しており、休耕田となった始まりの頃は、休耕田内に周辺の水田から比

較的水が入っていたものと考えられます。休耕田内に水が入り、湿地化することでヨシ等の

植物が生育し、長い年月、ヨシが生い茂ることにより、枯れた植物体などが堆積しているも

のと考えられます。その結果、休耕田に水が入りにくくなった、若しくは管理者により水入

れがやめられた様な休耕田では、時間の経過とともに土壌表面が乾燥化し、ヨシ群落内にセ

イタカアワダチソウ等の植物が侵入してきている区画が多くみられます。このような環境の

ヨシ群落は、水辺のヨシ群落よりも草丈は低い傾向にあります。長い時間の経過とともに更

に土壌の乾燥化は進行し、生育する植物は変化していくものと考えられます。 ヨシ群落の成立基盤は、水辺や休耕田の泥湿地ですが、水辺では、水流の少ないところに

育ち、多数の茎が水中に並び立つことから、その根本には泥が溜まりやすくなります。泥が

溜まり堆積する区域は、貝類や甲殻類の餌場や隠れ場所となり、水中は稚仔魚の餌場と生息

場となります。また、カヤネズミ、オオヨシキリ、ヒクイナ等は繁殖場として利用し、乾燥

化した区域ではタヌキやウサギ等はねぐらや移動ルートとしてヨシ群落を利用しています。 このようにヨシ群落は多くの生物の生息場所として機能しています。

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7-164

2)他の生物との関係 ヨシ群落と共生する生物は多く、多くの生物の生息空間となります。ヨシは水中表面につ

く付着生物や、群落内に生息する貝類、甲殻類等の働きを通じて、有機物の分解、栄養塩類

の吸収などを行っており、干潟動物とはお互いに共存関係にあります。また、幼仔魚は隠れ

場所として、アシハラガニやヒロクチカノコガイ等の干潟動物は、生息場所として利用して

います。陸域では、カヤネズミやオオヨシキリ、ヒクイナ等が繁殖場として、タヌキ、ウサ

ギ等はねぐらや移動ルートとしてヨシ群落を利用しています。 また、食物連鎖上においては、ヨシは水中の栄養塩類や底泥の栄養分を吸収するなど、生

育する上で水質浄化等に寄与しており、また、枯死した植物体や葉は、バクテリアにより無

機物へ分解され、底生動物の餌としても利用されます。 陸域では、ヨシを食草とする昆虫類や、ヨシに集まる昆虫類は、小型鳥類の餌となり、小

型鳥類はヨシ群落内で採餌、休息するチュウヒの餌となります。このように、ヨシ群落は、

生態系の中で重要な機能を果たしており、多様性を特徴づける典型性の指標と位置づけられ

ます。ヨシ群落と他の動植物との関係を図 7-59に示します。

図7-59 ヨシ群落と他の動植物との関係

3)分布状況 ヨシ群落は、調査地北側の採石場内の池の水際、造成地の水際、調査地南側の水田ため池

の水際、放棄水田の跡地、潮遊溝、竹馬川河口、大野川河口、大浜海岸、朽網川河口に存在

しています。これらの場所は、常に冠水している過湿又は水はけの悪い湿った立地基盤です。 植生高は平均 1.4m で、優占種であるヨシを群落区分種とし、水はけの悪い放棄水田跡地

ではセイタカアワダチソウ、ヤエムグラ、アゼナルコ、サナエタデ等の陸生植物と混生して

います。ため池や潮遊溝の水際など常に過湿な環境では、セリ、ヒメガマ、クサヨシなどの

水生植物や湿生植物がわずかに混生していますが、ヨシ 1種のみで群落の多くを構成しています。前者の陸地性の群落は構成種が多く、後者はきわめて少なくなっています。このよう

に立地基盤の水分条件により、様々な構成種の組成が認められる群落となっています。

付着藻類ナビキュラ、フラギラリアなど

(水中部に付着)

哺乳類カヤネズミ

(繁殖場、生息場)

稚仔魚・干潟動物アシハラガニ、オカミミガイなど

(生息場所)

昆虫類チャバネセセリ、ヨシツトガ、

ヨシカレハなど

鳥類オオヨシキリ、ヒクイナ

(繁殖場)

哺乳類タヌキ、ウサギ、イタチ属(移動ルート、ねぐら)

無機物バクテリア

(有機物を無機物化へ分解) デトリタス

動植物死骸、糞塊、

魚類サッパ、コノシロ、スズキ、ボラなど

鳥類ミサゴ、カイツブリダイサギ、コサギなど

干潟動物貝類、ゴカイ類、昆虫類、

小型甲殻類など

鳥類セッカ、オオジュリン、スズメ、ツリスガラなどの小型鳥類

鳥類

チュウヒなど

ヨシ群落

生物の生息基盤の安定化

生息場所

生息場所

生息場所

付着場所

生息場所

栄養分

栄養分

:食物連鎖関係:共生関係

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7-165

4)ヨシ群落と共生する鳥類 オオヨシキリは、夏鳥として 5 月頃より 8 月頃まで、繁殖のためヨシ群落を利用します。

一方、チュウヒは、冬鳥として 11 月頃より 3 月頃までヨシ群落を採餌、休息の場所として利用します。調査ではチュウヒは 2月上旬から下旬にかけて曽根地区での越冬を確認しています。両種ともヨシ群落に生息を大きく依存しており、ヨシ群落の縮小及び消失は、直接的

に生息基盤の縮小となります。 なお、確認位置図に示したオオヨシキリの位置は、4回の調査を午前、午後と 2回に分け

て実施した全ての確認位置で、422 点ありますが、個体数は重複しており、1 回の調査における最大確認数は 47個体です。

(7)典型性:マガキ 1)生態 マガキは、潮間帯から潮下帯の護岸・岩礁に付着生活する軟体動物で、主に植物プラ

ンクトンやデトリタスなどの有機物を濾過して食べます。

2)他の動植物との関係 マガキは、護岸や岩礁で付着生活する二枚貝類で、調査地域の護岸・岩礁における生態系

の特徴を典型的にあらわす種です。 マガキと他の動植物との食物連鎖の関係を図 7-60に示します。 本種は、護岸や岩礁に付着し、主に植物プランクトンを餌としています。護岸・岩礁に付

着したマガキの殻や、殻と殻の間には、付着藻類が生育し、また海水中のデトリタスが堆積

します。これらを餌としてゴカイ類、カニ類等が生息し、これら底生動物をハゼ類、ギンポ

類などの魚類が補食しています。このように、調査地域の護岸・岩礁では、マガキを付着基

盤として付着藻類、付着動物が生息し、これらを含めた食物連鎖が成立しています。

図7-60 マガキと他の動植物との関係

小型魚類・稚仔魚ハゼ類、ギンポ類、アイナメ、カサゴなど

付着動物ゴカイ類、カニ類、ヨコエ

ビ類など

植物プランクトンタラシオシラ科キートケロス属クリプト藻綱

デトリタス動植物死骸、糞塊、バクテリアなど

魚食性魚類等スズキ、

ジンドウイカなど

鳥類カイツブリ類ウミアイサなど

動物プランクトンかいあし亜綱ノープリウス幼生オイトナ属コペポダイト幼生など

巻貝類イボニシ

マガキ

付着藻類

護岸・岩礁

堆積

共生

付着

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7-166

(個体/0.3×0.3㎡)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

H14.11

秋季

H15.2

冬季

H15.5

春季

H15.8

夏季

直立護岸

消波ブロック

出現個体数(g/個体)

0

1

2

3

4

5

6

7

H14.11秋季

H15.2冬季

H15.5春季

H15.8夏季

直立護岸

消波ブロック

1個あたりの湿重量

(個体/0.3×0.3㎡)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

H14.11秋季

H15.2冬季

H15.5春季

H15.8夏季

等脚類

カニ類

ヨコエビ類

ゴカイ類

直立護岸(個体/0.3×0.3㎡)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

H14.11秋季

H15.2冬季

H15.5春季

H15.8夏季

等脚類

カニ類

ヨコエビ類

ゴカイ類

消波ブロック

3)分布状況 ①マガキの出現個体数、湿重量 既存資料による、直立護岸、消波ブロックの 2地点で行われたコドラード法によるマガキ

の調査結果を図 7-61に示します。 これをみると、出現個体数は直立護岸が概ね 100~150個体/0.3×0.3㎡、消波ブロックが

50~100個体/0.3×0.3㎡と、直立護岸の方が消波ブロックよりも多いのに対し、1個体あたりの湿重量は消波ブロックの方が大きい結果です。 また、1個体あたりの湿重量は、いずれの地点も夏季に小さくなっています。

資料:「新門司南地区公有水面埋立事業環境影響評価書」 北九州市 平成 19年 4月

図7-61 マガキの出現個体数及び 1個体あたりの湿重量

②マガキと共生する動物の出現個体数 マガキの現地調査を行ったコドラート内で採取されたゴカイ類、ヨコエビ類、カニ類及び

等脚類の出現個体数を図 7-62に示します。 これによると、総出現個体数は 100~1,300個体/0.3×0.3㎡であり、秋季と冬季に多い結果です。種類別にみると、ゴカイ類が最も多く、次いで等脚類、ヨコエビ類、カニ類となっ

ています。このように、マガキが生息する護岸にはゴカイ類を中心に、多くの動物が生息し、

付着藻類やデトリタスを摂餌するとともに、これら動物は魚類の餌となっています。

資料:「新門司南地区公有水面埋立事業環境影響評価書」 北九州市 平成 19年 4月

図7-62 マガキと共生する動物の出現個体数

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7-167

(8)典型性:オサガニ類 1)生態 曽根干潟では、オサガニ類として、ヤマトオサガニとオサガニの 2種が生息しています。 ヤマトオサガニは北海道を除く全国の干潟に生息するカニの中で最も普通にみられる種で

す。オサガニは、ヤマトオサガニと比べて生息地が少なく、福岡県レッドデータブックでは

準絶滅危惧種とされています。 2)他の動植物との関係 ヤマトオサガニとオサガニは、干潟で底生生活をするスナガニ類で、調査地域の干潟(曽

根干潟)における生態系の特徴を典型的にあらわす種です。ヤマトサガニ、オサガニと他の

動植物との関係を図 7-63に示します。 ヤマトオサガニとオサガニは、干潟に巣穴を掘って生息し、主に干潟上の底生微小藻類や

デトリタスを餌としています。これらの幼生プランクトンと稚ガニは、魚類に、成体はズグ

ロカモメやダイシャクシギなどの鳥類に補食されます。このように曽根干潟では、ヤマトオ

サガニ、オサガニが中位に位置した食物連鎖が成立しています。

図7-63 オサガニ類と他の動植物との関係

底生微小藻類珪藻類(フラギラリア属、

ナビキュラ属、アンフォラ属)など

デトリタス動植物死骸、糞塊、バクテリアなど

鳥類ズグロカモメ

ダイシャクシギ、ホウロクシギなど

魚 類トビハゼ、マハゼ、サッパ、コノシロなど

ヤマトオサガニオサガニ

幼生・稚ガニ成体

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7-168

3)分布状況 干潟上の 23メッシュ(各 500m×500m)に設定した調査地点におけるヤマトサガニ、オサガニの調査結果を図 7-64に示します。 各メッシュに設定した調査地点の周辺5ヶ所に 50cm×50cm のコドラートを置き、深さ

30cm 程度内に生息するカニ類を掘り出し計測した結果、曽根干潟で個体数が多く、比較的

広範囲に分布するカニ類は、ヤマトオサガニとオサガニの 2種という結果です。これによるとヤマトオサガニは泥分の多い砂泥底の岸よりの地点に多く、オサガニはその沖の砂泥また

は砂質の地点で多くみられており、概ね棲み分けています。 なお、曽根干潟におけるオサガニ類の総個体数を 1㎡あたりの個体数と面積から推定すると、約 5,000万個体となります。

資料:「曽根漁港海域環境調査委託報告書」北九州市経済局 平成 8年 3月

図7-64 オサガニ類の出現傾向

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7-169

4)オサガニの分布と底質の関係 一般に、スナガニ類の生息域と底質の粒度組成との関係は、下層(深さ 10cm)よりも表

層(深さ約 1mm)の粒度組成と相関があることが報告されています※1。そこで、前述のオ

サガニ類の分布と、干潟上を踏査して得られた目視結果による粒度分布(図 7-65)を比較すると、岸よりの泥質部分にヤマトオサガニが、海よりの砂泥質部分にオサガニが分布してい

ることが分かります。

資料:「曽根漁港海域環境調査委託報告書」北九州市経済局 平成 8年 3月 図7-65 干潟表面の粒度分布

※1 資料:「干潟の自然史-砂と泥に生きる動物たち」和田恵次 2000年

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7-170

(9)特殊性:塩生植物群落 1)生育基盤の利用状況 調査地域は、過去からの干拓や、採石場の関連施設等によって沿岸域は埋立られており、

自然海岸が存在しないことから、塩生植物群落は、河川の両岸や、堤防前面、堤防の角地に

土砂が堆積して出来た場所に局所的に分布している状況です。 曽根干潟を含め、沿岸、河口域の主な底質基盤は泥質です。塩生植物群落がみられる場所

も泥が堆積し、波浪等の影響が少ない場所に成立しています。この様な場所は河口、沿岸部

に局所的にしか存在せず、当該地域には塩生植物の生育基盤は非常に限られてきます。 曽根干潟に流入する 4河川のうち、竹馬川の河床は泥質ですが、貫川、朽網川の河床は砂

質、大野川は砂泥質の河床です。貫川、朽網川に関しては流心部は砂質ですが、両岸もしく

は片岸に泥の堆積がみられます。 塩生植物はこの泥が堆積する場所に多く生育し、塩生植物が生育することで更に泥が堆積

しているものと考えられます。

2)生育基盤と他の動植物との関係 塩生植物は、塩分耐性を持つため、ハママツナなどの一部の種では、海水の浸透圧調節の

ために細胞に塩分を含んでいます。このため塩生植物を好んで食する昆虫類は限られてくる

ものと考えられますが、それらの食物連鎖等については不明です。 しかし、塩生植物は潮間帯に分布するため、満潮時は小型魚類や底生動物の隠れ場所や産

卵場所、増水時や波浪等の荒天時は、魚類や底生動物の避難場所となります。また、塩生植

物が生育する場所は、浮泥が溜まりやすく、かつ、浮泥を流出させにくいことから、底質環

境を安定化させています。そのほか、塩生植物は、シマヘナタリガイ、オカミミガイ、アシ

ハラガニ、カクベンケイガニなど、多くの底生生物の生息場所となっています。このように

食物連鎖上では、他の生物との結びつきは少ないですが、多くの底生生物の生息場所となっ

ており、多様な生物に生息場所を提供する重要な存在です。塩生植物と他の動植物との関係

を図 7-66に示します。

図7-66 塩生植物と他の動植物との関係

干潟動物アシハラガニ、

オカミミガイなど(生息場所)

魚類幼魚、小型魚

(満潮時の生息場所)

洪水時・波浪時魚類、底生動物(緊急避難場所)

底質基盤の安定化泥の堆積促進泥の流出防止

(生息・生育基盤の安定化)

栄養分河川、海域から栄養分の供給

(生息場所)

デトリタス

動植物死骸、糞塊、

無機物バクテリア

(有機物を無機物化へ分解)

塩生植物群落

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7-171

3)分布状況 塩生植物群落は、河川の両岸や、堤防前面、堤防の角地に土砂が堆積して出来た場所に局

所的に分布しています。その中で、ヨシ群落が最も多く、全体の約 50%を占めており、次はシオクグ-ヨシ群落で、全体の約 25%を占めています。残り 25%がヨシを除く塩生植物群落です。 重要な種及び群落は、ハマボウ及びハマボウ群落、ハマサジ、ウラギク、シバナがが該当

しており、また、福岡県の RDB に記載された「塩沼地植物群落」には、曽根地区に群落が成立する、ハママツナ群落、ハマサジ群落、シバナ群落、シオクグ群落、シオクグ-ヨシ群

落、アイアシ群落が該当します。 ※福岡県 RDB に記載された「塩沼地植物群落」では、当該地域は地域指定されていませんが、その他の所在地として「北九州市小倉南区曽根」と記載されており、同等の扱いとしています。 曽根地区の塩生植物においては、「大野川河口のシバナ群落」、「朽網川河口のハマボウ群落」

が、地域性や希少性から、特に重要と考えられます。 落葉低木であるハマボウは、河口や海岸の砂泥地に生育する種で、北九州市では響灘側の

洞海湾に小規模な群落があります。当地域の個体は、樹高は 5mに達しており、通常みられる樹高 2~3mの個体よりもはるかに大きいのが特徴です。成熟したこの個体は、周辺に浮漂種子を分散させていますが、朽網川以外で周辺に種子が定着できる環境は少なく、朽網川を

中心に分布しています。 このような樹高 5mを超えるハマボウは非常に珍しく、周辺の周防灘沿岸に自然分布のハマボウ個体群が存在していないことを考慮すると、本種の存在は周防灘沿岸において重要で

あるものと考えられます。 また、シバナ群落は、大野川河口部と、大浜海岸に群落が確認されています。過去におい

ては希に大野川河口の沖合で単群落が確認されていますが、これらは種子が定着しても波浪

等により流出しており、出現と消失を繰り返しています。これは種子が供給されることによ

って存在する個体と考えられます。 現在、大浜海岸の前面護岸に沿って群落を形成している個体群は、過去から確認されてい

た個体群ではなく、近年に確認された個体群です。護岸前面に存在する捨石の存在により、

波浪等による影響を回避して生育しているものと推測されます。この大浜海岸の個体群の由

来は、大野川のシバナ個体群から分散供給されて定着した個体群であると推測されます。こ

こ数年、大きな波浪等が発生していないため、大浜海岸の生育環境は比較的安定している様

子です。 種子の供給源となる大野川のシバナは、現在、河床掘削等による生育環境の変化もなく、

安定した個体群を維持していますが、種子の分散により周辺に安定した群落が形成され難い

ことを考えれば、この河川内の個体群の存在は、曽根周辺のシバナ個体群の維持のためには、

特に重要な存在と考えられます。

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7-172

2.予測 2.1 予測手順 調査の結果、調査地域の上位性の注目種として、ミサゴ、ハヤブサを、典型性の注目種とし

てタヌキ、陸ガモ類、バラタナゴ属、ヨシ群落、マガキ、オサガニの 6種を、特殊性の注目種は塩生植物群落を選定しています。 生態系の予測手順を図 7-67に示します。

図7-67 生態系の予測手順

調査の結果

注目種の選定

・ミサゴ:海域の各生態系、水田生態系の上位性 ・ハヤブサ:陸域の各生態系の上位性 ・タヌキ:陸域の各生態系の典型性 ・陸ガモ類:水田生態系の典型性 ・バラタナゴ属:水田生態系(曽根地区)の典型性 ・ヨシ群落:水田生態系の典型性 ・マガキ:沿岸生態系の典型性 ・オサガニ類:干潟生態系の典型性 ・塩沼地植物群落:干潟生態系の特殊性

影響要因との比較

【建設機械の稼働及び工事用車両の運行】 ・建設機械の稼働等に伴う騒音による生息環境の変化

【盛土工・既存工作物撤去】 ・降雨時の濁水の発生による生息環境の変化

【橋梁等の基礎掘削】 ・底質の掘削に伴う濁りの発生による生息環境の変化

【道路(地表式・嵩上式)の存在】 ・道路の存在に伴う生息、生育地の消失・縮小

・道路の存在に伴う移動経路の分断

【自動車の走行】 ・走行時の動物の衝突 ・走行時の騒音及び照明(夜間)による生息環境の変化

事業計画との重ね合わせ 道路構造による環境変化

注目種及びその餌生物の生息状況等の調査結果 知見、事例等の引用

注目種への影響予測

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7-173

生態系の予測については「道路環境影響評価の技術手法(第3巻)(財)道路環境研究所」に

基づき、生息、生育基盤の消失・縮小及び移動経路の分断、並びに生息環境の質的変化につい

て予測を行います。また、事業特性により、工事による濁りが発生することから、盛土工工事

区域の雨水排水等による濁りと、橋梁基礎掘削の濁りについてと、自動車の走行による影響に

ついて予測します(表 7-72参照)。 なお、工事施工ヤードの設置及び工事用道路の設置については、「第6章 事業に係る環境影

響評価の項目並びに調査・予測及び評価の手法」の「表6-2 環境影響評価項目の選定結果一覧表」で示したように、道路計画地と同じエリアに設置するために、「道路の存在」に含めるも

のとし、影響要因として取り上げていません。

表7-72 予測対象と影響要因との対応

工事の実施 道路の存在 供用(自動車の走行) 環境要因

重要な種 及び群落

建設機械の 稼働等に 伴う騒音

工事による 濁りの発生

生息・生育 基盤の

消失・縮小

移動経路の 分断

日陰による 生育阻害

走行時の 衝突

走行時の 騒音及び 照明(夜間)

ミサゴ (海域、水田:上位性) ○ ○ ○ ○ - ○ ○

ハヤブサ (陸域全域:上位性) ○ - ○ ○ - ○ ○

陸ガモ類 (水田:典型性) ○ - ○ ○ - ○ ○

タヌキ (陸域全域:典型性) ○ - ○ ○ - ○ ○

バラタナゴ類 (水田(曽根):典型性) - - ○ ○ - - ○

ヨシ群落 (水田:典型性) - - ○ - - - ○

マガキ (沿岸:典型性) - ○ ○ - - - -

オサガニ類 (干潟:典型性) - ○ ○ ○ - - -

塩生植物群落 (干潟:特殊性) - - ○ - ○ - -

注)建設機械の稼働等に伴う騒音とは、「建設機械の稼働及び工事車両の運行に伴う騒音」の意味

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7-174

2.5 予測結果

2.5.1 注目種ごとの予測結果 各注目種の生息・生育状況の予測結果を表 7-73~81に示します。

1)ミサゴ:上位性

表7-73 生態系注目種の予測結果

区 分 注目種 影響要因等 予測結果

建設機械の

稼働等に伴

う騒音

建設機械の稼働等に伴う騒音の予測結果は、境界から 100mの

範囲で見ると、建設機械の稼働は 83~59dB、工事用車両の運行

は 60~48dB の範囲であった。営巣場所は道路周辺には存在しな

いことから、営巣に対する影響はないと予測される。潮遊溝に

よる採餌は、騒音等の複合的影響により少なくなると予測され

るが、ミサゴの行動範囲は広く、餌場も多岐に渡ることから、

影響は小さいと予測される。

工事の実施

工事による

濁りの発生 工事による濁りの発生として、盛土工・既存工作物除去におい

て降雨により発生する水の濁りと、橋梁等の基礎掘削において

底質攪乱により発生する水の濁りが考えられる。 降雨による水の濁りの予測結果によると、放流後の SS 寄与濃度は 2.4~4.9mg/L となっている。また、底質攪乱による水の濁りの予測結果によると、放流後の SS寄与濃度は 0.0019mg/Lとなっている。 以上の予測値は、「水産用水基準」において設定されている「水

生生物の生息環境として維持することがのぞましい基準(人為

的な負荷)」である「5 mg/L」よりも下回っている。 よって、工事中の濁りによる、ミサゴが餌とする魚類への影響

は極めて小さいと予測される。 生息基盤の

消失・縮小 本種は、沿岸域において、河口と潮遊溝が主要な採餌場所とな

っており、計画されている道路は、本種の採餌場所を直接的に

消失、縮小させることはない。また、計画道路は竹馬川を橋梁

にて通過するが、本種の当該位置での採餌行動の頻度は少なく、

竹馬川河口部やその沖合の澪筋、曽根干潟浅海域の利用の方を

多く利用していることが既存文献でも確認されている。よって、

生息基盤の消失・縮小の影響は極めて小さいと予測される。

道路の存在

移動経路の

分断 本種は高空を飛行して移動するため、基本的に移動経路の分断

は発生しないものと考えられる。 走行時の衝

突 潮遊溝で採餌を行うミサゴの飛行高度及びホバリングの高さ

は、水面から 20~40m の範囲であり、走行中の自動車に衝突

する可能性は小さいものと考えられる。

ミサゴ

道路の供用

(自動車の

走行)

走行時の騒

音及び照明

(夜間)

自動車の走行に係る騒音の予測結果によると、騒音レベルは、

50~55dBの範囲(地上高 1.2m)であり、忌避行動を起こす程度のレベルではないこと、また、営巣場所は道路周辺に存在し

ないことから、影響は極めて小さいと予測される。 ミサゴは昼行性であり、また、営巣場所は道路周辺には存在し

ないことから、自動車前照灯や道路照明による光の影響はない

と予測される。

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7-175

2)ハヤブサ:上位種 表7-74 生態系注目種の予測結果

分 注目種 影響要因等 予測結果

工事の実施 建設機械の稼働等に伴

う騒音

建設機械の稼働等に伴う騒音の予測結果は、境界から 100mの

範囲で見ると、建設機械の稼働は 83~59dB、工事用車両の運行

は 60~48dB の範囲であった。本種は、採石場の重機や車両等の

騒音が著しい場所で営巣しており、騒音に対する適応性は高い

と考えられること、また、行動範囲も広いことから、建設機械

の稼働等に伴う騒音による影響は極めて小さいと予測される。

生息基盤の

消失・縮小 本種は、曽根新田南地区の広い耕作地を主な採餌場所として利

用している。ここを採餌場所として利用する理由は、広い耕作

地内に電柱が存在しているためで、この電柱を使って餌となる

鳥類を待ち伏せたり、飛行速度をあげるため急降下し加速に利

用している様子が確認された。 曽根新田南地区では、電柱を中心とした飛行範囲の端に道路が

計画されており、計画道路の一部が重なっているが、重なる部

分はごくわずかである。 餌となる鳥類は耕作地を餌場としており、現状の農業活動が維

持されれば、現状を維持するものと考えられる。 さらに、計画道路による耕作地の消失・縮小率は 0.15%と極めて小さい。 よって、生息基盤の消失・縮小によるハヤブサへの影響は極め

て小さいと予測される。

道路の存在

移動経路の

分断 本種は高空を飛行して移動するため、基本的に移動経路の分断

は発生しないと考えられる。 走行時の衝

突 本種は高空を飛行して移動するため、飛行時に走行中の自動車

に衝突することは考えにくい。 採餌についても、広い耕作地内を利用しており、また、鳥類と

自動車の衝突を防ぐ目的で、道路両端部に高木、亜高木、低木

からなる緩衝緑地帯を設ける計画である。 よって、ハヤブサが、走行中の自動車に衝突する可能性は極め

て小さいと予測される。

ハヤブサ

道路の供用

(自動車の

走行)

走行時の騒

音及び照明

(夜間)

自動車の走行に係る騒音の予測結果によると、騒音レベルは、

50~55dBの範囲(地上高 1.2m)であり、忌避行動を起こす程度のレベルではないこと、また、建設機械の稼働等に伴う騒音

のところで述べた理由から、自動車の走行に伴う騒音の影響は

極めて小さいと予測される。 ハヤブサは昼行性であり、営巣場所は計画地からかなり離れた

崖地であることから、自動車前照灯や道路照明による光の影響

はないと予測される。

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7-176

3)陸ガモ類:典型種 表7-75 生態系注目種の予測結果

分 注目種 影響要因等 予測結果

工事の実施

建設機械の

稼働等に伴

う騒音

建設機械の稼働等に伴う騒音の予測結果は、境界から 100mの

範囲で見ると、建設機械の稼働は 83~59dB、工事用車両の運行

は 60~48dB の範囲であった。陸ガモ類は夜行性で、夜間は耕作

地内で採餌するが、昼間は干潟若しくは海域で生活している。

よって、建設機械の稼働等に伴う騒音による影響は極めて小さ

いと予測される。 生息基盤の

消失・縮小

陸ガモ類は、吉田地区、曽根地区の広い耕作地を夜間に採餌の

ため利用している。これらの種は主に植物食で、ヒドリガモは

耕作地に生えた草本類、カルガモについては植物の地下茎等を

食べていることが、糞の内容物から把握された。また、吉田地

区、曽根新田北地区、曽根新田南地区でそれぞれ耕作地内にお

ける分布に差がみられることから、二番穂水田、草地化、耕起

水田、湿地など、後背地の状況に応じて採餌場所を選択して利

用していると推測される。曽根新田北地区では、現地調査時の

分布は計画道路上やその周辺に偏っていたが、この原因につい

ては明確ではない。ただ、足跡は耕作地の広範囲に確認されて

いることから、常に沿岸域を選択的に利用しているとは考えに

くい。 当該地域は、耕作地面積が広いことから、計画道路の存在によ

る消失・縮小率は 0.15%と極めて小さい。 よって、生息基盤の消失・縮小による影響は小さいと予測され

るが、陸ガモ類による耕作地の選択性については明確な裏付け

が取れていない点で不確実性が残る。

道路の存在

移動経路の

分断

陸ガモ類は高空を飛行して移動するため、基本的に移動経路の

分断は発生しないと考えられる。

走行時の衝

夜間は採餌のため干潟から耕作地へ移動するが、その際の飛行

高度は様々で、安全であれば、比較的低空を飛行している。 計画では、鳥類と自動車の衝突を防ぐ目的で、道路両端部に高

木、亜高木、低木からなる緩衝緑地帯を設けることから、陸ガ

モ類は、この樹木を越えて耕作地に移動するものと考えられる。 よって、陸ガモ類が走行中の自動車に衝突する可能性は極めて

小さいと予測される。

陸ガモ類

マガモ

カルガモ

ヒドリガモ

道路の供用

(自動車の

走行)

走行時の騒

音及び照明

(夜間)

自動車の走行に係る騒音の予測結果によると、騒音レベルは、

50~55dBの範囲(地上高 1.2m)であり、忌避行動を起こす程度のレベルではないものと考えられる。 陸ガモ類は、夜間、耕作地内で採餌を行うが、自動車は耕作地

よりも高い盛土上を走行すること、また、その多くが直線部で

あること、さらに、道路両端部には高木、亜高木、低木からな

る緩衝緑地帯を設ける計画であることなどから、自動車前照灯

の灯りが直接的に陸ガモを照らす可能性は小さい。また、道路

照明は植栽樹より低い位置に設置、使用する照明も生物に影響

が少ない高圧、低圧ナトリウム灯等を使用する計画である。 現地調査(夜間)の際、通常の自動車の走行による陸ガモ類の

忌避行動は見られなかった。 以上を勘案すると、夜間の自動車の走行(騒音、前照灯や道路

照明の光)による影響は極めて小さいと予測される。 ただし、緩衝緑地帯による遮光については、様々な不確定要素

があり、不確実性を伴う。

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7-177

4)タヌキ:典型性 表7-76 生態系注目種の予測結果

区 分 注目種 影響要因等 予測結果

工事の実施

建設機械の

稼働等に伴

う騒音

建設機械の稼働等に伴う騒音の予測結果は、境界から 100mの範囲で見ると、建設機械の稼働は 83~59dB、工事用車両の運行は 60~48dB の範囲であった。現在は、街中で生息している個体も多いことから、人工的な騒音にはかなり適応性があるものと考えられる。よって、建設機械の稼働等に伴う騒音による影響は極めて小さいと予測される。

生息基盤の

消失・縮小

本種は、調査範囲の広範囲で目撃や痕跡が確認されている。調査地域における本種の生息基盤は、採餌場所やねぐらとなる水田、畑地、休耕地、草地化した造成地、潮遊溝、干潟河口域、市街地と様々である。本種は、沿岸の草地化した造成地、休耕地等をすみかとし、耕作地や民家周辺を採餌場所として利用していると考えられる。 計画道路は、生息場所となる草地化した造成地や耕作地を通過することから、生息地の一部を消失させることが考えられるが、その消失・縮小率は 0.11%と極めて小さい。 また、計画道路周辺には、多くの生息環境があり、周辺の造成地や山地等へ一時すみかを移す可能性が考えられること、事業計画地以外の藪や草むらは残り、工事完了後に再び生息できる環境が残ることから、生息基盤の消失・縮小による影響は小さいと予測される。

道路の存在

及び供用

移動経路の

分断

休耕地、草地化した造成地、潮遊溝沿いヨシ群落、水田の畦道などに多くのけもの道や、ため糞を確認しており、タヌキは移動経路として草地や畦道を利用している。また、大野川、貫川の橋梁を通過している痕跡も確認されているが、主な移動経路としては、草が生い茂り、姿を隠すことができる潮遊溝沿いの草地である可能性が高い。 計画道路により、これら移動経路が遮断される可能性が考えられるため、その緩和措置として、吉田地区、曽根地区の盛土部に、水田の畦と接続するようにボックスカルバートを配置する計画である。また、道路と橋梁が接続する部分は、接合部分に大きく空間を設け、動物の移動が自由に行える構造とするよう配慮している。 よって、道路の存在により移動経路の分断が発生するが、これら緩和措置により、影響は低減できるものと予測される。 ただし、ボックスカルバートへの誘導などの点で、裏付けの不十分さは否めず不確実性が残る。

走行時の衝

道路を新設する区間は盛土構造であり、道路上に進入する可能性が考えられる。この対策として、ボックスカルバートの配置や、橋梁と接続する部分に大きな空間を設けるなどにより、移動経路を確保する計画である。 よって、タヌキが走行する自動車に衝突する(ロードキル)可能性は小さいと予測される。 ただし、前項と同様の理由により不確実性が残る。

タヌキ

道路の供用

(自動車の

走行)

走行時の騒

音及び照明

(夜間)

自動車の走行に係る騒音の予測結果によると、騒音レベルは、50~55dBの範囲(地上高 1.2m)であり、忌避行動を起こす程度のレベルではないものと考えられる。 タヌキは夜行性であり、採餌行動は主に夜間に行われるが、自動車は耕作地よりも高い盛土上を走行すること、また、その多くが直線部であること、さらに、道路両端部には高木、亜高木、低木で構成される緩衝緑地帯を設ける計画であることなどから、自動車前照灯の光が直接的に地上部を照らす可能性は小さい。また、道路照明は樹木より低い位置に設置、使用する照明も生物に影響が少ない高圧、低圧ナトリウム灯等を使用する計画である。 以上を勘案すると、夜間の自動車の走行(騒音、前照灯や道路

照明の光)による影響は極めて小さいと予測される。 ただし、緩衝緑地帯による遮光については、様々な不確定要素があり、不確実性を伴う。

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7-178

5)バラタナゴ属:典型性 表7-77 生態系注目種の予測結果

区 分 注目種 影響要因等 予測結果

生息基盤の

消失・縮小 本種は水田水路、潮遊溝、大浜池、曽根東小学校横の池に

生息している。計画道路は曽根地区の沿岸部を通過するこ

とから、水田水路のうち盛土区間における生息面積は減少

するが、この部分についてはボックスカルバートを設置す

る計画であるため、水面の面積に変化はなく、水路として

の機能は維持される。しかし、ボックスカルバートの部分

は暗渠となり、バラタナゴ属を含む多くの生物の生息、生

育には適さない環境へと変化する。その率は、全体の水路

面積の約 5%と小さい。 偶然であるが、農業用道路舗装工事に伴い、当水路の一部

にボックスカルバートが施工された。このボックスカルバ

ート内の魚類調査を行った結果、コイ 1個体、フナ属約 50個体、メダカ 200個体、バラタナゴ属 19個体と狭い空間に多くの個体数が確認された。調査月は1月で水路の水深は

浅く、水深が深い場所は周辺にはここだけであり、越冬、

避難場所として利用していたものと推測される。壁面内側

にコンクリートの粉末が残り、カルバートの底には泥の堆

積もない中での利用であり、暗渠の問題を解決すればバラ

タナゴ属が利用する可能性を示唆している。

道路の存在

移動経路の

分断 バラタナゴ属は、稲刈り後の水田水路の水位低下に伴い、

潮遊溝や局所的に存在する水路の深み等に移動して越冬す

る。ボックスカルバートの設置により、その部分の水域は

暗渠となり、一般的に魚類を含む生物の生息、生育には適

さない環境へと変化する。しかし、潮遊溝との連続性は確

保できているため、移動だけの目的であれば、充分に利用

する可能性はある。 よって、ボックスカルバートを設置することで、移動経路

の分断による影響は、かなり緩和されるものと予測される。 ただし、暗渠であり、その延長が 40mと長いことを考慮すると、不確実性は残る。

バラタナゴ

道路の供用

(自動車の

走行)

走行時の騒

音及び照明

(夜間)

自動車の照明や道路照明の光による影響が考えられるが、

自動車は耕作地よりも高い盛土上を走行すること、また、

その多くが直線部であること、さらに、道路両端部には高

木、亜高木、低木で構成される緩衝緑地帯を設ける計画で

あることなどから、自動車前照灯の灯りが直接的に水路面

を照らす可能性は小さい。また、道路照明は樹木より低い

位置に設置、使用する照明も生物に影響が少ない高圧、低

圧ナトリウム灯等を使用する計画である。 よって、自動車前照灯や道路照明による光の影響は極めて

小さいと予測される。

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7-179

6)ヨシ群落:典型性 表7-78 生態系注目種の予測結果

区 分 注目種 影響要因等 予測結果

道路の存在 生育基盤の消失・縮小

本種は各生態系にそれぞれ分布しており、陸域では、池の周

辺、湿地、休耕地、潮遊溝などの湿地に、海域では、各河川

の岸と海岸の一部に群落を形成している。本来、水辺や湿地

帯に生育する種だが、本調査地域では休耕田にも群落を形成

している。事業により消失するのは、休耕田に成立するヨシ

群落と、ゴルフ練習場西側のため池に成立する群落となる。 消失・縮小により影響を受けるのは、陸域及び海域の面積を

含む、ヨシ群落全体の 16.1%である。ヨシ群落はオオヨシキリの繁殖場であり、チュウヒの狩り場でもあるとともに、タ

ヌキやイタチ属の移動経路や採餌場、ねぐらなどとして利用

されている。 以上よりヨシ原の消失・縮小は、多くの生物へ影響を与える

ことが予測される。 これを受けて、回避・低減策を検討したが、農業政策的に農

地を減少させることはできないとの判断から、線形を陸側に

振ることができず、やむを得ず代償措置を検討した。代償措

置としてのヨシ群落の創出は、道路の潮遊溝側約 2,300m 区間に、幅 10mのヨシ群落を創出することとした。これは全体の 20.9%に相当し、消失分を上回る面積のヨシ原が出現する。 よって、生息基盤の消失・縮小による影響は小さいと予測さ

れる。ただし、ヨシ原の維持管理や創出したヨシ原は幅が狭

く、単調であることから、オオヨシキリが繁殖するか、チュ

ウヒが採餌するか、など、不安材料が多々ある。現地調査で

は、道路横の幅 5m程度のヨシ原で繁殖しているオオヨシキリを確認しているが、裏付けとしては不十分であり、やはり

不確実性が残る。

ヨシ群落

道路の供用

(自動車の

走行)

走行時の騒

音及び照明

(夜間)

ヨシ群落そのものには、ほとんど影響はないと考えられるが、

ヨシ群落を利用している動物、例えば毎年繁殖しているオオ

ヨシキリや、採餌場として利用しているチュウヒなどへの影

響が懸念される。 自動車の走行に係る騒音の予測結果によると、騒音レベルは、

50~55dBの範囲(地上高 1.2m)であり、忌避行動を起こす程度のレベルではないものと考えられる。 自動車は耕作地よりも高い盛土上を走行すること、また、そ

の多くが直線部であること、さらに、道路両端部には高木、

亜高木、低木で構成される緩衝緑地帯を設ける計画であるこ

となどから、自動車前照灯の光が直接的に水路面を照らす可

能性は小さい。また、道路照明は樹木より低い位置に設置、

使用する照明も生物に影響が少ない高圧、低圧ナトリウム灯

等を使用する計画である。よって、自動車前照灯や道路照明

による光の影響は極めて小さいと予測される。ただし、植物

による遮光については、様々な不確定要素があり、不確実性

が残る。

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7-180

7)マガキ:典型種 表7-79 生態系注目種の予測結果

区 分 注目種 影響要因等 予測結果

工事の実施 工事による濁りの発生

工事による濁りの発生として、盛土工・既存工作物除去にお

いて降雨により発生する水の濁りと、橋梁等の基礎掘削にお

いて底質攪乱により発生する水の濁りが考えられる。 降雨による水の濁りの予測結果によると、放流後の SS 寄与濃度は 2.4~4.9mg/Lとなっている。また、底質攪乱による水の濁りの予測結果によると、放流後の SS 寄与濃度は0.0019mg/Lとなっている。 以上の予測値は、「水産用水基準」において設定されている、

水生生物の生息環境として維持することがのぞましい基準

(人為的な負荷)5 mg/Lよりも下回っていることから、マガキへの影響は極めて小さいと予測される。

マガキ

道路の存在 生息基盤の消失・縮小

計画道路は、陸域を対象としており、沿岸、海域に生息する

本種の生息基盤を消失・縮小することはなく、よって影響は

ないと予測される。

8)オサガニ類:典型性 表7-80 生態系注目種の予測結果

区 分 注目種 影響要因等 予測結果

工事の実施 工事による濁りの発生

工事による濁りの発生として、盛土工・既存工作物除去にお

いて降雨により発生する水の濁りと、橋梁等の基礎掘削にお

いて底質攪乱により発生する水の濁りが考えられる。 降雨による水の濁りの予測結果によると、放流後の SS 寄与濃度は 2.4~4.9mg/Lとなっている。また、底質攪乱による水の濁りの予測結果によると、放流後の SS 寄与濃度は0.0019mg/Lとなっている。 以上の予測値は、「水産用水基準」において設定されている、

水生生物の生息環境として維持することがのぞましい基準

(人為的な負荷)5 mg/Lよりも下回っていることから、オサガニ類への影響は小さいと予測される。

生息基盤の

消失・縮小

オサガニ類

道路の存在

移動経路の

分断

計画道路は、陸域を対象としており、沿岸、海域に生息する

本種の生息基盤を消失・縮小することも、移動経路を分断す

ることもなく、よって影響はないと予測される。

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7-181

9)塩生植物:特殊性 表7-81 生態系注目種の予測結果

区 分 注目種 影響要因等 予測結果

生育基盤の

消失・縮小 調査地域は、過去からの干拓や、採石場の関連施設等によ

って沿岸域は埋立てられており、自然海岸が存在しないこ

とから、塩生植物群落は、河川の両岸や、堤防前面、堤防

の角地に土砂が堆積して出来た場所に局所的に分布してい

る状況である。 本事業では、各河川部には橋梁を設置する計画であるため、

橋梁下では橋梁の日陰により日照が不足し、植物の生育が

困難となる。本事業実施区間には、大野川河口のシバナ群

落と、朽網川河口のハマボウ群落、ハマサジ群落、ウラギ

ク群落、シバナ群落が形成されており、群落の一部の個体

において消失・縮小の影響が予測される。 一方で、消失が予測される重要な塩生植物については、「7節 1項 海域、干潟及び河口域植物」において、保全措置として、影響が考えられる範囲に生育する個体の移植が行

われる。

塩生植物 道路の存在

日陰による

生育阻害 橋梁の存在による影響は、上記の生育基盤の消失、縮小と

同じである。ただし、日陰による日照不足の影響範囲につ

いては、橋梁の向きや高さで影響範囲は異なってくる。 1 日の日照時間 4 時間未満で生長に影響があるとされているが、安全を考慮して 6 時間に設定しているが、それぞれの種に応じて時間は異なるものと考えられる。 予測の結果、橋梁部から上流 4m、下流 6mの範囲に生育するハマボウ、ハマサジ、ウラギクの 3種は移植対象とする。なお、日陰だけでなく、気温、湿度、風等の微気象も変化

すると考えられることから、予測については不確実性を伴

う。また、定期的に行われている除草などの人的圧力も、

適度な攪乱として種の維持には必要な場合があり、河口域

特有の洪水時の河岸の掘削やその後の堆積など、色々な影

響要因も把握しておく必要があると考えられる。 本事業による生育環境の質的変化の影響は極めて少ないと

予測されるが、今後の様子を継続的にみていく必要がある。

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7-182

3.評価 3.1 環境保全措置の検討状況 3.1.1 検討対象 環境保全措置を検討するにあたり、予測結果から影響が考えられるタヌキ、バラタナゴ属、

ヨシ群落の 3種を対象としています。

3.1.2 環境保全措置の検討内容 予測の結果から、環境影響がない、または環境影響の程度が極めて小さいと判断される場合

以外においては、事業者により実施可能な範囲内で環境影響をできる限り回避、低減し、また

は必要に応じて代償することを目的として環境保全措置の検討を行っています。 なお、環境影響評価手続き段階から、その時点で判明した自然環境への影響の内容を反映さ

せており、重要度の高い生育地や生息域を可能な限り回避し、工事施工ヤードを事業実施区域

外にとらないなど、地形改変の最小化を図った上で都市計画対象道路の線形を決定しています。 以上の対策でも環境影響を回避、低減できなかったタヌキ、バラタナゴ属、ヨシ群落の 3種については、環境保全措置の検討の結果、移動経路の分断の影響が考えられるタヌキ、バラタ

ナゴ属については、ボックスカルバートの施工による低減措置を、ヨシ群落については新たに

ヨシ群落を創出する代償措置とします。 ただし、ボックスカルバートについては内部の暗渠化、ヨシ群落の代償については、施工時

期や維持管理が課題ですが、ここでは、事業計画に含まれる部分も併せて記述しています。 環境保全措置の検討結果については、表 7-82に示したとおりです。 なお、保全対策の実施については、事業実施段階において専門家の意見を聞きながら決定し

ます。 なお、緩和措置の実施例については、第7節2項の動物の緩和措置の実施例(P.7-108)に記

載しています。

Page 42: 第9節 生態系 - Kitakyushu · 第9節 生態系 1.調査結果の概要 1.1 調査手法 (1)動植物その他の自然環境に係わる概況 動植物に係わる概況は、「第7節

7-183

表7-82(1) 環境保全措置の検討結果

環境要因 移動経路の分断

保全対象 タヌキ

保全措置の種類 タヌキの道路横断用にボックスカルバートを設置

実施主体 事業者

種 類 低減

実施内容 位 置

・地表式区間(吉田採石場付近)地下トンネル施工 ・盛土式区間(吉田地区、中曽根東地区、曽根新田北地区、

曽根新田南地区) ボックスカルバート施工

・橋梁部(吉田地区、大野川両側、貫川両側、朽網川左岸側) 法面との空間創出

環境保全措置の内容

・採石場付近では、山地から既存道路を通過して草地へ向かう移動

経路が存在する。ここは地表式区間であることから、地下トンネ

ル式により移動阻害の影響を低減する。 ・吉田地区、曽根新田北地区、曽根新田南地区は、潮遊溝沿いにけ

もの道があり、タヌキが生息する。盛土式区間でありボックスカ

ルバートの施工により移動経路の阻害を低減する。 ・各河川の橋脚部は堤防を越える構造であり、橋梁から道路接合部

の法面に広く隙間を空けることで、動物が利用しやすい広い空間

をつくり、移動経路の阻害を低減する。 環境保全措置の

効果の程度 効果の程度は大。

効果の不確実性

多くの実績例があり、不確実性は小さいが、移動しやすい道路を横

断する可能性が考えられる。また、地下トンネルについては不確実

性が高い。

環境保全措置の実施

に伴う環境影響 想定されない。

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表7-82(2) 環境保全措置の検討結果

環境要因 道路(地表式)の存在

保全対象 バラタナゴ属

保全措置の種類 カルバート施工箇所の中央分離帯に採光空間を設置

実施主体 事業者

種類 低減 実施内容

位置 事業実施区域内の水路横断部(中曽根東地区、曽根新田地区)

環境保全措置の内容

中曽根東地区、曽根新田地区の水田水路にはメダカやタナゴ類が多

数生息し、潮遊溝と水田水路を移動している。暗渠化するカルバー

ト内の移動をスムーズにするため、中央分離帯に空間を設け、カル

バート内部へ光りを取り入れる。

それでも利用がみられない場合、採光する空間の壁面にステンレス

等の反射板を設置したり、昼間だけ蛍光灯を使用するなど、対策を

検討することで影響は低減される。

環境保全措置の効果の程度 効果の程度は大。

効果の不確実性 不確実性の程度は大きい。

環境保全措置の実施に伴う

環境影響 想定されない。

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表7-82(3) 環境保全措置の検討結果

環境要因 生育地の消失・縮小

保全対象 ヨシ群落

実施主体 事業者

種 類 代償

実施内容 位 置

事業実施区域のうち、中曽根東地区から曽根新田地区にかけての潮遊

溝側に縦約 2,300m×幅 10mの範囲

保全措置の内容

・「回避・低減」策を検討したが、農業政策的に農地を減少させること

はできないとの判断から、線形を陸側に振ることができず、やむを

得ず代償措置に至った。 ・空港跡地から南へおおよそ 300m の地点から、朽網川までの約

2,300m区間において、計画道路から潮遊溝側に幅 10mのヨシ群落(約 2.36ha)を創出することにより、消失するヨシ群落を代償する。

・ヨシ群落は、チュウヒ、オオヨシキリ等の生息場所であり、同時に

両種の生息環境も代償する。

効果の程度 効果の程度は大きい。

環境保全措置の実施に伴

う環境影響

環境保全措置が行われる区域は、休耕田、水田、畑地、造成裸地など

で、休耕田の一部にはヨシ群落が存在するが、基本的に人為的改変区

域である。新たな環境影響は発生しない。

効果の不確実性 オオヨシキリの繁殖やチュウヒの採餌など、不確実性は大きい。

回避/低減が困難な理由

路線決定に関しては、動植物の生育・生息場所に配慮し、これらを可

能な限り回避/低減した上での結果である。また、曽根地区の将来に

わたる農業維持を考慮して、可能な限り農地面積を縮小させず、かつ、

休耕田のヨシ群落の安定的維持へ配慮した措置でもある。

代償措置により

損なわれる環境

代償措置が実施される区域は、現在、水田、畑地、休耕田、造成地で

あり、休耕田のヨシ群落以外は人為的環境が多くを占める。

代償措置により

創出される環境

現在使用されている水田と畑地及び造成地は新たなヨシ群落として創

出され、現在、点在しているヨシ帯は帯状に創出される。

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3.1.4 事後調査 予測の不確実性の程度が大きい場合又は効果に係わる知見が不十分な環境保全措置を講ずる

場合は事後調査を実施します。 環境保全措置を実施する3種、タヌキ、バラタナゴ属、ヨシ群落については、保全措置の効

果に不確実性が大きいことから、「北九州市環境影響評価技術指針」に基づき、事業着手前に事

後調査計画書を作成します。 なお、工事中の騒音についても、動植物への影響評価の不確実性が高いので、特に鳥類の繁

殖時期には状況を把握する必要があります。 3.2 評価

3.2.1 評価の手法

回避または低減に係わる評価については、道路の存在および供用によって、陸域動物の重要

な種および生息育範囲に及ぼす影響が、実施可能な範囲内で回避または低減、代償されている

か否かについて事業者の見解を明らかにすることにより行っています。 3.2.2 評価結果 道路の存在に伴う重要な種および種の生態から推測される生息域への影響は、事業計画の検

討段階から、自然環境の改変量を極力抑える計画としていること、また、環境影響評価におけ

る現地調査中でも、新たな情報を常時検討し、重要度の高い生育地や生息地を可能な限り回避

し、事業による影響を低減させるルートを検討しています。 また、環境保全措置を行いますが、効果については不確実性が残ることから、環境保全措置

の実施段階から事後調査を実施し、専門家の助言を受けたうえで、状況に応じた対応を行うこ

とにより、不確実性は低減できるものと考えられます。 以上のことから、環境への影響は事業者の実施可能な範囲内で回避又は低減が図られている

ものと判断します。