画像処理による食品の品質評価手法の開発 ·...

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- 51 - 群馬県立産業技術センター研究報告(2012) 画像処理による食品の品質評価手法の開発 細谷 肇・高橋仁恵* Investigation of a food quality evaluation method by means of image processing Hajime HOSOYA, Hitoe TAKAHASHI 製品の品質検査の一つに外観検査がある。特に食品の場合、消費者は同一種類の製品であれ ば、外観の良い方を選択する傾向にある。したがって、外観検査は非常に重要である。しかし、 中小企業における食品の外観検査は目視によるものが多いが、当然判定バラツキも多いものと 思われる。そこで今回、画像処理による自動外観検査を机上で行い、目視による外観検査結果 との定性的な比較を実施した。 キーワード:食品、外観検査、画像処理 Appearance check is one of the quality check technique for a production. Consumers select good appearance production, especially in case of a food selection. Therefore appearance check is important. In small businesses, visual inspection is used for the appearance check. In general visual inspection has screening variety. Then we try to apply image processing technique to food quality evaluation, and compare qualitative performance to visual inspection method. Keywords : Food, Appearance check, Image processing はじめに 製品の品質を決める要素の一つに外観品 質がある。工業製品の場合には、決められた 寸法通りに加工され、仕上げられるために、 外観品質のバラツキは殆ど無い。しかし、食 品の場合、特に焼き菓子の場合には、中への 空気の混ざり具合や膨らみ具合は千差万別 であり、必ず製品間の外観品質バラツキは生 ずる。食品に関して消費者は、外観品質は良 いものを選択する傾向にあるため、外観品質 検査は重要な工程となる。中小の食品生産企 業の場合、生産には自動化を取り入れている ところも多いが、外観検査に関しては目視に 計測係、 *バイオ・食品係 頼る所も多い。そこで、この外観検査を目視 で行った場合と、画像処理により自動で行っ た場合の判定結果の比較を実施した。今回対 象とした食品は、パン生地を焼いた製品とし た。そして、その穴のあき方が大きいか小さ いかを生産現場の検査員が目視により分類 した結果と、画像処理により分類した結果を 定性的に比較した。画像処理で穴のあき方を 判定するプログラムは自作した。 検討内容 今回、目視検査と画像処理による検査の比 較対象として採用した食品の写真を図1に示 す。これは、パン生地をスライスしたものを

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Page 1: 画像処理による食品の品質評価手法の開発 · 穴を画像処理により検出するプログラム は、日本ナショナルインスツルメンツ社製の labview

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群馬県立産業技術センター研究報告(2012)

画像処理による食品の品質評価手法の開発

細谷 肇・高橋仁恵*

Investigation of a food quality evaluation method by means of image processing

Hajime HOSOYA, Hitoe TAKAHASHI

製品の品質検査の一つに外観検査がある。特に食品の場合、消費者は同一種類の製品であれ

ば、外観の良い方を選択する傾向にある。したがって、外観検査は非常に重要である。しかし、

中小企業における食品の外観検査は目視によるものが多いが、当然判定バラツキも多いものと

思われる。そこで今回、画像処理による自動外観検査を机上で行い、目視による外観検査結果

との定性的な比較を実施した。

キーワード:食品、外観検査、画像処理

Appearance check is one of the quality check technique for a production. Consumers

select good appearance production, especially in case of a food selection. Therefore

appearance check is important. In small businesses, visual inspection is used for the

appearance check. In general visual inspection has screening variety. Then we try to

apply image processing technique to food quality evaluation, and compare qualitative

performance to visual inspection method.

Keywords : Food, Appearance check, Image processing

1 はじめに

製品の品質を決める要素の一つに外観品

質がある。工業製品の場合には、決められた

寸法通りに加工され、仕上げられるために、

外観品質のバラツキは殆ど無い。しかし、食

品の場合、特に焼き菓子の場合には、中への

空気の混ざり具合や膨らみ具合は千差万別

であり、必ず製品間の外観品質バラツキは生

ずる。食品に関して消費者は、外観品質は良

いものを選択する傾向にあるため、外観品質

検査は重要な工程となる。中小の食品生産企

業の場合、生産には自動化を取り入れている

ところも多いが、外観検査に関しては目視に

計測係、 *バイオ・食品係

頼る所も多い。そこで、この外観検査を目視

で行った場合と、画像処理により自動で行っ

た場合の判定結果の比較を実施した。今回対

象とした食品は、パン生地を焼いた製品とし

た。そして、その穴のあき方が大きいか小さ

いかを生産現場の検査員が目視により分類

した結果と、画像処理により分類した結果を

定性的に比較した。画像処理で穴のあき方を

判定するプログラムは自作した。

2 検討内容

今回、目視検査と画像処理による検査の比

較対象として採用した食品の写真を図1に示

す。これは、パン生地をスライスしたものを

Page 2: 画像処理による食品の品質評価手法の開発 · 穴を画像処理により検出するプログラム は、日本ナショナルインスツルメンツ社製の labview

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焼いて作る焼き菓子であり、製品には多数の

穴が空いている事が分かる。今回は、この穴

が多いと判断されるものと、少ないと判断さ

れるものの二種類に分類する作業を、評価対

象の外観検査として設定した。

目視による確認は、製造メーカの検査員に

より実施した。また、画像処理による判定は、

一旦デジタルカメラで撮影した後、その画像

を自動で順次解析し判定することとした。撮

影中の様子を図2に示す。光源には白色のLED

を使用した。焼き菓子表面の穴を浮きたたせ

るために、LED光は横から照射する必要があ

る。このため、LED光源はバー型のものを使

用した。

図 3 は、焼き菓子を撮影した際の LED 照明

の照射状況を示している。照射角度は、水平

からほぼ 30°である。焼き菓子は、焼かれる

過程で収縮し、反っている。照射角度が少な

い場合、図 4 に示す様に、焼き菓子の淵の部

分の影が出来てしまう。また、角度が多い場

合、光が穴の上面から照らすことになるため、

図 1 焼き菓子外観

図 2 焼き菓子撮影時の配置

図 3 LED 照明の照射状況

図 4 照射角度が小さすぎる事例

穴とそれ以外の部分の間のコントラストが

確保できない。30°の照射角度は、影が出来

ず、かつ、穴のコントラストがはっきりする

角度として選定した。

穴を画像処理により検出するプログラム

は、日本ナショナルインスツルメンツ社製の

LabVIEW を使用して作成した。作成したプロ

グラム内での画像処理のフローを図 5 に示す。

プログラムでは、保存されている個々の焼き

菓子の JPEG 画像を読み込み、二値化、明る

さ補正、境界削除、収縮、膨張、穴埋めを実

施した後、穴の寸法や数などの情報の取り込

みを行う事を画像の数だけ繰り返している。

ここで、収縮、膨張、穴埋め処理は、穴の内

部やその周囲のノイズ、穴として寸法測定す

るには小さすぎる穴などを画像から除去す

るための処理である。

図 6 に穴の抽出処理を行う前の画像と行っ

た後の画像を並べて示す。この画像を見ると

目視で捉えられる特徴のある穴は、抽出出来

ている事が分かる。なお、抽出を行う際に収

縮と膨張はそれぞれ 3 回ずつ実施するのが、

LED光源 デジカメ

LED光源

Page 3: 画像処理による食品の品質評価手法の開発 · 穴を画像処理により検出するプログラム は、日本ナショナルインスツルメンツ社製の labview

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図 5 画像処理フロー

図 6 元画像と穴の抽出処理後

ノイズと穴を分離するのに適していた。この

抽出処理後の画像に対して、各穴の面積、個

数を計測するとともに、統計処理を実施した。

3 検討結果

穴の大きさの判定に使用した焼き菓子は、

全部で 60 枚である。その中で、肉眼で観察

した時に明らかに大きい穴が多数空いてい

ると判断出来るものと、そうでないものを抽

出し、画像認識での穴の多さの判定ロジック

作成用の試料とした。図 7 は、画面の上部か

ら各穴に順番に番号を割り振り、それを横軸

に、その各穴の面積(画素数)を縦軸にプロッ

(a) 大きい穴が多数開いている場合

(b) 大きい穴が少ない場合

図 7 焼き菓子上の穴の分布

トしたものである。したがって、場所による

穴の大きさの分布に相当する。図 7 の上の図

(a)は大きい穴が多いもの、下の(b)はそうで

ない場合である。これを見ると、両者ともに

小さい穴は満遍なく開いているが、大きい穴

はその中に点在していることが分かる。した

がって、穴の面積の分布の標準偏差を取ると、

穴の多さの判定が出来ると思われる。

そこで、焼き菓子の画像を、画像処理にて

標準偏差が小さかった順番に並べたものと、

生産現場の検査員が目視により分類した結

果の画像を並べたものを比較してみた。図 8

は、目視判定による結果であり、半分から上

は穴が小さいと判定されたもの、下は大きい

穴が多いと判定されたものである。図 9 は画

像処理結果によるものであり、穴の面積の分

布の標準偏差の小さい順に、左上から右下に

向かって並べたものである。図 8 の目視の場

合、穴が小さいと判定されているものにも大

きいものが、また逆に大きいと判定されてい

るものに小さいものが散見される。しかし、

図 9 の画像処理の場合には、見た目と判定結

果の間の違和感は少なく、うまく分類出来て

いると判断される。

4 まとめ

焼き菓子の表面の穴が多いか、少ないかを、

生産現場の検査員が目視により分類した結果

と、画像処理により分類した結果を定性的に

JPEG写真読込み

収縮

膨張

境界削除

明るさ補正

統計処理

File出力

粒子情報取得

穴埋め

個数

面積

個数

面積

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比較した結果、以下の事が分かった。

(1)画像処理による焼き菓子上の穴の多さ判

定には、穴の分布の標準偏差が有効と考え

られる。

(2)その判定結果は、今回の例では、定性的

に目視による判定結果よりも優れていた。

図 8 現場の検査員による目視判定の場合

図 9 画像処理による場合

小大

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