腎細胞がん - ganjoho.jp · 画像検査で診断ができない場合には生検...
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各種がん
腎細胞がん
国立がん研究センターがん対策情報センター
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「がん情報サービス」https://ganjoho.jp
がん相談支援センターやがん診療連携拠点病院、がんに関するより詳しい情報はウェブサイトをご覧ください。
国立がん研究センターは、皆さまからのご寄付で全国の図書館に信頼できるがんの冊子をお届けするキャンペーンを行っています。ぜひご協力ください。
国立がん研究センターがん情報サービス
について
がん相談支援センターは、全国の国指定のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がんの相談窓口」です。患者さんやご家族だけでなく、どなたでも無料で面談または電話によりご利用いただけます。わからないことや困ったことがあればお気軽にご相談ください。
がん相談支援センターで相談された内容が、ご本人の了解なしに、患者さんの担当医をはじめ、ほかの方に伝わることはありません。どうぞ安心してご相談ください。
各種がん
患 者 さんとご 家 族 の 明日のために
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腎じ ん さ い ぼ う
細胞がん受診から診断、治療、経過観察への流れ
「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないでください。なるべく早く受診しましょう。
受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。
治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。
治療が始まります。気が付いたことは担当医や看護師、薬剤師に話してください。困ったことやつらいこと、小さなことでも構いません。よい解決方法が見つかるかもしれません。
がんや体の状態に合わせて、担当医が治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を見つけましょう。
担当医から検査結果や診断について説明があります。検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り返し質問しましょう。検査が続くことや結果が出るまで時間がかかることもあります。
がんの疑い
受 診
検査・診断
治療法の選択
治 療
経過観察
がんの診療の流れこの図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。あなたらしく過ごすためにお役立てください。
目 次
がんの診療の流れ
1. がんと言われたあなたの心に起こること ........................... 1
2. 腎細胞がんとは ...................................................................... 3
3. 検査 .......................................................................................... 5
4. 病期 ......................................................................................... 7
5. 治療 ......................................................................................... 9
1 監視療法 ...................................................................... 12
2 手術(外科治療) ........................................................... 12
3 局所療法 ....................................................................... 13
4 放射線治療 .................................................................. 14
5 薬物療法 ...................................................................... 14
6. 転移・再発 ............................................................................ 16
7. 経過観察 ............................................................................... 17
診断や治療の方針に納得できましたか? ................................ 18
セカンドオピニオンとは? ....................................................... 18
メモ/受診の前後のチェックリスト ....................................... 19
がんの冊子 腎細胞がん
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がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。しばらくは、不安や落ち込みの強い状態が続くかもしれません。眠れなかったり、食欲がなかったり、集中力が低下する人もいます。そんなときには、無理にがんばったり、平静を装ったりする必要はありません。
時間がたつにつれて、「つらいけれども何とか治療を受けていこう」「がんになったのは仕方ない、これからするべきことを考えてみよう」など、見通しを立てて前向きな気持ちになっていきます。そのような気持ちになれたらまずは次の2つを心がけてみてはいかがでしょうか。
あなたに心がけてほしいこと■ 情報を集めましょう まず、自分の病気についてよく知ることです。病気によってはまだわかっていないこともありますが、担当医は最大の情報源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問してください。 病気のことだけでなく、お金、食事といった生活や療養に関することは、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士などが専門的な経験や視点であなたの支えになってくれます。
1. がんと言われた あなたの心に起こること
2がんの冊子 腎細胞がん
がんと言われたあなたの心に起こること1また、インターネットなどで集めた情報が正しいかどうかを、
担当医に確認することも大切です。他の病院でセカンドオピニオンを受けることも可能です。「知識は力なり」。正しい知識は考えをまとめるときに役に
立ちます。※参考 P18「セカンドオピニオンとは?」
■ 病気に対する心構えを決めましょう がんに対する心構えは、積極的に治療に向き合う人、治るとい
う固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け止める人など人によりいろいろです。どれがよいということはなく、その人なりの心構えでよいのです。そのためにも、自分の病気のことを正しく把握することが大切です。病状や治療方針、今後の見通しなどについて担当医から十分に説明を受け、納得した上で、あなたなりの向き合い方を探していきましょう。
あなたを支える担当医や家族に自分の気持ちを伝え、率直に話し合うことが、信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合うことにつながります。
情報をどう集めたらいいか、病気に対してどう心構えを決めたらいいのかわからない、そんなときには、巻末にある「がん相談支援センター」を利用するのも1つの方法です。困ったときにはぜひご活用ください。
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腎臓は、ソラマメのような形をした、成人の握りこぶしよりもやや大きい臓器です。腹部に左右1つずつあり、腸管全体を包み込む腹膜と背中の間にあたる、後
こうふくまくくう
腹膜腔という場所に位置しています。高さとしては、ちょうど肋
ろっこつ
骨の下端あたりです。
腎臓の主な働きは、血液をろ過して尿をつくることです。尿は腎実質(実質はさらに皮質と髄質に分けられるます)でつくられ、腎じ ん う
盂に集められたあと、尿管を通って膀ぼうこう
胱へと送られます。また、腎臓は血圧のコントロールや造血に関するホルモンの生成もしています。
腎細胞がんは、腎臓にできるがんのうち、腎実質の細胞ががん化して悪性腫瘍になったものです。同じ腎臓にできたがんでも、腎盂にある細胞ががん化したものは「腎盂がん」と呼ばれ、腎細胞がんとは区別されます。腎細胞がんと腎盂がんでは、がんの性質や治療法が異なるためです。ここでは、腎細胞がんについて解説します。なお、一般的に「腎がん」とは腎細胞がんのことをいいます。
腎細胞がんには、特徴的な症状はありません。そのため、小さいうちに発見される腎細胞がんは、他の病気のための検診や精密検査などで、偶然に発見されるものがほとんどです。肺や脳、骨に転移したがんが先に見つかり、結果として腎細胞がんが見つかることも少なくありません。
2.腎細胞がんとは
4がんの冊子 腎細胞がん
腎細胞がん(腎盂を除く腎のがん)にかかる割合は、10万人に約6人です。がん全体のうちの約1%を占め、やや男性に多い傾向にあります。腎細胞がんは50歳ごろから増加し、70歳代まで高齢になるほど高くなります。
腎細胞がんの発生する要因としては、喫煙と肥満があります。また、腎細胞がんと関連する疾患として、遺伝子が原因で発症するフォン・ヒッペル・リンドウ(Von Hippel-Lindau:VHL)病や、後
こうてんせいのうほうじん
天性嚢胞腎が知られています。
図1. 腎臓の構造
腎細胞がんとは2
副腎
腎臓
腎静脈
下大静脈
膀胱
腎動脈
髄質
腎杯
腎盂腹部大動脈
尿管
ふくじん
ずいしつ
じんぱい
じ ん う
皮質腎実質
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腎細胞がんでは、CT検査、超音波(エコー)検査、MRI検査の画像検査で診断します。画像検査で診断ができない場合には生検を行うことがあります。血液検査は、全身状態や腎臓の機能を調べるために行います。
CT 検査1
一般的な腎細胞がんでは、診断のために、造影剤を使ったCT検査が行われています。造影剤を静脈から急速に注入し、短時間にたくさんの画像を撮影することで、がんと考えられる部位の血液の動態をみる撮影方法です。肺への転移がないかを調べるために、胸部の撮影を行うこともあります。
超音波(エコー)検査2
超音波検査は、超音波を体の表面にあて、臓器から返ってくる反射の様子を画像にする検査です。健康診断でよく用いられ、こうした検査で腎細胞がんが見つかることもあります。体の全体を検査するためには、超音波検査だけでは不十分なため、CT検査やMRI検査を追加します。
MRI 検査3
MRI検査では、磁気を利用して、がんの大きさや周囲臓器への広がり(浸潤)、良性腫瘍か悪性腫瘍かを診断します。CT検査で
3.検査
6がんの冊子 腎細胞がん
検査3使われる造影剤に対してアレルギーがある場合や、CT検査や超音波検査のみでは診断が難しい場合に行います。
生検4
細い針を刺して組織の一部をとって、がんであるかどうか、悪性度はどうかなど、組織の状態を顕微鏡で詳しく調べる検査です。いろいろな画像検査を行ってもはっきりとした診断ができず、それが治療に支障を来す場合に行われることもあります。
骨シンチグラフィ5
骨の痛みなどの症状や、血液検査の結果などから、骨への転移の可能性が高いと考えられる場合に行われることがあります。
PET 検査6
がんの再発や、他の部位への転移を診断するために行われることがあります。
血液検査7
体の状態を把握するための検査です。腎細胞がんでは、血小板数・総タンパクの値が低い、CRP・LDH・アルカリフォスファターゼ・AST・ALT・クレアチニンの値が高いといった、異常がみられることがあります。
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治療方法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。病期は、ローマ数字を使って表記することが一般的です。
腎細胞がんの病期(表2)は、がんの進展の程度を示すTNM分類(表1)に基づいて決められています。Tは原発腫瘍(primary Tumor)、Nは所属リンパ節(regional lymph Nodes)、Mは遠隔転移(distant Metastasis)を意味します。
4.病期
T1a 腎細胞がんの直径が 4cm 以下で腎臓にとどまっている
T1b 腎細胞がんの直径が 4cm を超えるが 7cm 以下で腎臓にとどまっている
T2a 腎細胞がんの直径が 7cm を超えるが 10cm 以下で腎臓にとどまっている
T2b 腎細胞がんの直径が 10cm を超えるが腎臓にとどまっている
T3a 腎細胞がんが腎静脈または周囲の脂肪組織まで及んでいるが、ゲロタ筋膜 ※
を越えない
T3b 腎細胞がんが横隔膜より下の大静脈内に広がっている
T3c 腎細胞がんが横隔膜の上の大静脈に広がる、または大静脈壁まで及んでいる
T4 腎細胞がんがゲロタ筋膜を越えて広がる(同じ側の副腎まで及んでいる場合を含む)
N0 所属リンパ節への転移なし
N1 所属リンパ節に 1 個転移あり
N2 所属リンパ節に 2 個以上転移あり
M0 別の臓器に転移なし
M1 別の臓器に転移あり
表1. 腎細胞がんの進展度(TNM分類)
※ゲロタ筋膜:腎臓をおおっている一番外側の膜
日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編「泌尿器科・病理・放射線科 腎癌取扱い規約 第4版(2011年)」(金原出版)より改変
8がんの冊子 腎細胞がん
病期4表2. 腎細胞がんの病期分類
日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編「泌尿器科・病理・放射線科 腎癌取扱い規約 第4版(2011年)」(金原出版)より改変
別の臓器やリンパ節に転移がない
別の臓器に転移はないが、所属リンパ節に 1 個転移がある
別の臓器に転移があるか、所属リンパ節に 2 個以上転移がある
N0 N1 N2 N0~N2
M0 M0 M0 M1
T1 I III IV IV
T2 II III IV IV
T3 III III IV IV
T4 IV IV IV IV
● 予後予測因子を用いたリスク分類について予後とは、病気や治療などの、医学的な経過についての見通しのことです。腎細胞がんでは、予後と関連する複数の項目(予後予測因子)があり、予後予測分類(リスク分類)は治療の選択に用いられています。MSKCC分 類 は、米 国 のMemorial Sloan-Kettering Cancer Center(MSKCC)のMotzerらによって提唱された、予後を予測するための分類方法です。転移性の腎細胞がんの予後を予測する指標として用いられています。IMDC分類は、Hengらによって提唱された、予後を予測するための分類方法です。分子標的治療の予後を予測する指標として用いられています。
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治療法は、標準治療に基づいて、体の状態や年齢、患者さんの希望なども含め検討し、担当医とともに決めていきます。
腎細胞がんに対する標準治療は「手術(外科治療)」ですが、がんが小さい場合は、体への負担が手術よりも少ない「局所療法」が選択されることも増えてきています。また、がんが広がっていたり、転移がみられたりする場合に、薬物療法や放射線治療を行うこともあります。
図2は、I期・II期・III期の腎細胞がんに対する治療方法を、図3はIV期の腎細胞がんに対する治療方法を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
5.治療
10がんの冊子 腎細胞がん
治療5図2. 腎細胞がんの治療の選択(I期・II期・III期)
臨床病期
治療
Ⅰ期およびⅡ期(リンパ節転移なし・遠隔転移なし)
Ⅲ期(リンパ節転移1個あり および/または 腎静脈・
下大静脈内への広がり。遠隔転移なし)
T1a N0 MO
*1: 早期のがん(がんが腎臓内に留まっている・がんが小さい)で、高齢者や合併症をもつ場合に選択 されることがある*2: がんが小さければ、高齢者や、重篤な合併症をもつ場合、手術を希望しない場合などに選択される ことがある
T1b N0 M0 T2 N0 M0 T3a N0~1 M0 T3b~c N0 M0
腎部分切除術または
腎摘除術(腹腔鏡または
開腹)
腎摘除術(腹腔鏡
または開腹)
腎摘除術(+リンパ節郭清)
(監視療法 *1) (経皮的凍結療法・ラジオ波焼灼術 *2)
腎摘除術・静脈内腫瘍塞栓
摘除術
腎摘除術(開腹または腹腔鏡)
T1 またはT2 N1 M0
(術前の分子標的治療)
日本泌尿器科学会編「腎癌診療ガイドライン2017年版」(メディカルレビュー社)より改変
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図3. 腎細胞がんの治療の選択(IV期)
治療
臨床病期
Ⅳ期(ゲロタ筋膜を越える局所的な広がり または 同じ側の副腎まで及んでいる
および / または 2 個以上のリンパ節転移 および / または 遠隔転移あり)
予後予測因子を用いたリスク分類
遠隔転移なし(M0)
(術前の分子標的治療)
転移巣
腎摘除術(+リンパ節郭清)
腎摘除術ができない場合
腎摘除術(腹腔鏡または開腹)
腎摘除術+浸潤臓器合併切除術(+リンパ節郭清)
手術(転移巣切除)薬物療法(分子標的治療、免疫療法)
放射線治療(局所療法)
(術前の分子標的治療)
T1~3 N2 M0 T4 N0~2 M0
遠隔転移あり(M1)
日本泌尿器科学会編「腎癌診療ガイドライン2017年版」(メディカルレビュー社)より改変
12がんの冊子 腎細胞がん
監視療法1
手術などの治療をせず、CT検査、MRI検査、超音波検査の画像検査を定期的に行いながら、がんや体の状態などの経過を観察することを監視療法といいます。がんが小さく、腎臓内にとどまっているような、いわゆる早期のがんの場合に選択されることがあります。特に、高齢であったり、他の病気にかかっていたりするために、手術をするには危険性が高い患者さんでは選択肢の1つです。
一般的には、腎摘除術が標準的な術式です。しかし、近年の画像診断技術の向上などに伴って、がんがまだ小さいうちに見つかることが多くなってきたため、可能であれば腎部分切除術を行うことも増えてきました。
手術の術式としては、おなかを切開して行う「開腹手術」や、おなかに開けた小さな穴から腹腔鏡を入れて行う「腹腔鏡下手術
(後腹膜鏡下手術)」があります。腎部分切除術では、手術用ロボットを遠隔操作して行う「ロボット支援手術」もあります。
手術の術式は、がんや体の状態などによって決められます。
がんを取り除くために、がんが生じている部位の腎臓を部分的に切除する術式です。残った腎臓の機能を温存できるという利点があり、長期的な視点でみたときに、腎機能の低下とそれに伴う合併症への影響を小さくできることから、より好ましい術式であると考えられています。主に4cm以下の小さながんの
手術(外科治療)2
1)腎部分切除術(腎機能温存手術)
治療5
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場合に選択されますが、がんの位置などによっては選択できない場合があります。
がんのある側の腎臓をすべて取り除く術式です。腎部分切除術の実施が適切ではない場合に選択されます。腎臓の頭側にある副腎を一緒に切除するかどうかは、がんの位置や副腎への転移の有無をふまえて決められます。がんの状況によっては、腎臓だけでなく、周囲の臓器や、血管内にあるがんを切除(静脈内腫瘍塞
そくせんてきじょ
栓摘除術)することもあります。
通常は、手術で片方の腎臓を摘出しても、残ったもう片方の腎臓で機能を補うことができるため、日常生活に支障を来すことはあまりありません。しかし、自分の腎臓の機能のみでは生命維持が難しい場合には、人工透析を行います。
どこの施設でも行うことができるという一般的な方法ではありませんが、状況に応じて選択されることがあります。
腎臓に血液を送っている腎動脈を人工的に閉塞させることで、がんに血液が流れ込まないようにする方法です。がんの摘出ができない場合や、大きながんを摘出する場合に、手術に先立って行われることもあります。治療後、一時的に発熱や痛みなどが起こることがあります。
2)腎摘除術(根治的腎摘除術)
3)手術の合併症について
局所療法3
1)動脈塞栓術
14がんの冊子 腎細胞がん
治療5 小さいがんに対する経皮的局所療法として、経皮的凍結療法、ラジオ波焼灼術(RFA)があります。体の外から特殊な針をがんに直接刺し、凍らせたり、熱で焼いたりしてがん細胞を死滅させる方法です。通常、超音波検査、CT検査、MRI検査を用いて確認しながら行われます。高齢者や、重篤な合併症をもつ場合、手術を希望しない場合に選択されることがあります。
放射線治療は、高エネルギーのX線を照射することで、がん細胞を死滅させる治療法です。脳や骨に転移がある場合、がんの進行を抑えたり、痛みを和らげたりするために行うことがあります。腎臓にあるがんへの放射線治療は有用性が低いとされており、腎細胞がんそのものに対しては、根治的な治療を目的として放射線治療を行うことはあまりありません。
腎細胞がんの薬物療法には、分子標的治療、免疫療法があります。薬物療法の主流は、長らく、免疫療法の1つであるサイトカイン療法でしたが、現在では、分子標的治療が1次治療(初回治療)の標準治療となっています。 薬物療法に用いる薬剤は、がんや体の状態、前の治療で使用した薬剤の種類をふまえて選択します。
2)経皮的局所療法
放射線治療4
薬物療法5
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分子標的治療は、腎臓にあるがんやそこから転移したがんを手術で取り除く前に、がんの大きさを小さくする目的で行われることもあります。 治療によってあらわれる副作用は、使用する薬剤ごとに異なるため、期待される治療効果と副作用について、治療開始前に十分な説明を受けましょう。
免疫療法とは、サイトカイン療法や、免疫チェックポイント阻害剤による薬物療法のことです。進行性の腎細胞がんの場合に選択されることがあります。 1次治療で、分子標的薬の使用が適さない場合は、サイトカイン療法も選択肢の1つです。治療によってあらわれる副作用の症状はさまざまです。個人差が大きいですが、一般的には、発熱やだるさ、食欲不振、悪心・嘔
おうと
吐、頭痛、脱毛、白血球減少などが報告されています。 免疫抑制阻害療法(免疫チェックポイント阻害剤)は、現在のところ2次治療、3次治療の選択肢の1つです。主な副作用としては、疲労感、味覚異常、吐き気のほか、下痢・口内炎などの胃腸障害、かゆみ・発疹などの皮膚障害があります。その他、腎臓や肝臓などの内臓機能の障害、糖尿病や甲状腺機能障害などの内分泌系の障害、貧血、横紋筋融解症、間質性肺炎など、全身のあらゆる部位にさまざまな症状を引き起こす可能性があります。治療終了後、数週間から数カ月たって副作用があらわれることもあるため注意が必要です。
1)分子標的治療
2)免疫療法
5治療
16がんの冊子 腎細胞がん
転移・再発66.転移・再発
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。また、再発とは、治療の効果によりがんがなくなったあと、再びがんが出現することをいいます。
腎細胞がんは、さまざまな部位や臓器に転移する可能性がありますが、特に転移しやすい部位は肺です。骨や脳などに転移することもあり、転移した場所によって、あらわれる症状も多岐にわたります。 転移に伴う症状としては、肺への転移では、胸の痛み・咳・血けったん
痰・黄疸など、骨への転移では、骨の痛み・骨折など、脳への転移では、頭痛・片側の運動麻
ま ひ
痺などがみられます。また、がんが全身へ広がる(転移する)のに伴って、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状があらわれます。 転移した場合の治療では、がんや体の状態に応じて、薬物療法や放射線治療を行います。また、腎臓内のがんの量を減らしたり、転移したがんを取り除いたりするために、手術が選択されることもあります。
がんが腎臓にとどまっていて、根治的に腎摘除を行った場合でも、その後、20 ~ 30%の患者さんで再発するとされています。しかし、再発する可能性の高さを知るための手法は確立してお
転移1
再発2
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7経過観察
治療後の体の状態や、がんの転移・再発の有無を確認するために、定期的に通院して検査を行います。転移や再発を早い段階で見つけることで、手術を含めたさまざまな治療が選択でき、治療効果の向上も期待できます。
定期検査は、CT検査やMRI検査、超音波検査の画像検査が中心です。検査の種類や時期は、病気の状況をふまえた上で、担当医と相談しながら決めていきます。
一般的に、腎細胞がんは、治療後10年以上経過してからも再発を起こすことがあります。病院への定期通院が終わったあとも、健康管理の意味も含めて、健康診断や人間ドックなどを受けましょう。
7.経過観察
らず、どのような患者さんで再発する可能性が高いかは明確ではありません。 再発した場合の治療は、転移のある腎細胞がんに対する治療と同様に、薬物療法が中心です。再発したがんの状況によっては、がんを手術で取り除くことも治療の選択肢の1つとなる場合があります。 なお、再発予防を目的として手術後に薬物療法を行うことは、現時点ではその効果が明確ではなく、重篤な副作用の報告もあることから、推奨されていません。
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治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではなく、患者さん自身が満足できる方法が一番です。 まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、担当医に何でも質問してみましょう。治療法は、病状によって異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分に合った治療法であることを確認してください。 診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。
担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セカンドオピニオンを聞く」といいます。ここでは、①診断の確認、②治療方針の確認、③その他の治療方法の確認とその根拠を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、「セカンドオピニオンを聞きたいので、紹介状やデータをお願いします」と担当医に伝えましょう。
担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれませんが、多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと理解しています。納得した治療法を選ぶために、気兼ねなく相談してみましょう。
診断や治療の方針に納得できましたか?
セカンドオピニオンとは?
診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは?
がんの冊子 腎細胞がん
メモ/受診の前後のチェックリスト
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参考文献:日本泌尿器科学会編.腎癌診療ガイドライン2017年版,メディカルレビュー社日本泌尿器科学会・日本病理学学会・日本医学放射線学会編.泌尿器科・病理・放射線科腎癌取扱い規約第4版,2011年,金原出版Tamaki T, Dong Y, Ohno Y, et al. The burden of rare cancer in Japan:Application of the RARECARE definition. Cancer Epidemiology 2014; 38: 490-495.
受診の前後のチェックリスト□ 後で読み返せるように、医師に説明の内容を紙に書いてもらったり、自分でメモをとったりするようにしましょう。
□ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝えましょう。
□ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点について、聞いてみましょう。
□ 勧められた治療法が、どのようによいのか理解できましたか。□ 自分はどう思うのか、どうしたいのかを伝えましょう。□ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。□ 症状によって、相談や受診を急がなければならない場合があるかどうか確認しておきましょう。
□ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、わかるようにしておきましょう。
□ 説明を受けるときには家族や友人が一緒の方が、理解できて安心だと思うようであれば、早めに頼んでおきましょう。
□ 診断や治療などについて、担当医以外の医師に意見を聞いてみたい場合は、セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。
●
メモ( 年 月 日)
● 病期(ステージ) [ I 期 ・ II 期 ・ III 期 ・ IV 期 ]● 大きさ [ ] cm 位● リンパ節への転移 [ あり ・ なし ]● 別の臓器への転移 [ あり ・ なし ]
メモ/受診の前後のチェックリスト
協力者(五十音順):北村 寛(富山大学附属病院泌尿器科) 込山 元清(国立がん研究センター中央病院泌尿器・後腹膜腫瘍科) 国立がん研究センターがん対策情報センター 患者・市民パネル
がんの冊子 各種がんシリーズ 腎細胞がん編集・発行 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター 〒 104-0045 東京都中央区築地 5-1-1印刷・製本 図書印刷株式会社
2008 年 9月第 1版第 1刷 発行2017 年12月第 3版第 1刷 発行
上記の冊子や書籍は、全国のがん診療連携拠点病院などの「がん相談支援センター」で閲覧・入手することができます。
ウェブサイト「がん情報サービス」で、冊子ファイル(PDF)を閲覧したり、ダウンロードして印刷したりすることができます。
0570-02-3410 ( ナビダイヤル 平日10時 ~15時 )*通信料は発信者のご負担です。一部のIP電話からはご利用いただけません。
●がんの冊子各種がんシリーズ、小児がんシリーズ、がんを知るシリーズがんと療養シリーズ がんと心/がんの療養と緩和ケア/もしも、がんと言われたら/他社会とがんシリーズ 家族ががんになったとき/身近な人ががんになったとき/他がんと仕事のQ&A
●がんの書籍(がんの書籍は書店などで購入できます)がんになったら手にとるガイド普及新版別冊『わたしの療養手帳』もしも、がんが再発したら
がん情報サービス https://ganjoho.jp
上記の冊子・書籍の閲覧方法や入手先がわからないときは、「がん情報サービス」または「がん情報サービスサポートセンター」でご確認ください。
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