hlw地層処分における地下水淡塩分布調査法に 関する技術開発...2015/06/15  ·...

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革新的実用原子力技術開発費補助事業 平成15年度成果報告書概要版 Innovative and Viable Nuclear Energy Technology (IVNET) Development Project HLW 地層処分における地下水淡塩分布調査法に 関する技術開発 平成16年3月 応用地質株式会社 早稲田大学 財団法人 産業創造研究所

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Page 1: HLW地層処分における地下水淡塩分布調査法に 関する技術開発...2015/06/15  · HLW地層処分における地下水淡塩分布調査法に関する技術開発(平成15年度)

革新的実用原子力技術開発費補助事業

平成15年度成果報告書概要版 Innovative and Viable Nuclear Energy Technology (IVNET)

Development Project

HLW 地層処分における地下水淡塩分布調査法に

関する技術開発

平成16年3月

応用地質株式会社

早稲田大学

財団法人 産業創造研究所

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本報告書は、応用地質株式会社、早稲田大学、財団法人産業創造研

究所が連携して、経済産業省資源エネルギー庁からの補助金を受け

て実施した平成15年度革新的実用原子力技術開発費補助事業の報

告書です。

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HLW 地層処分における地下水淡塩分布調査法に関する技術開発(平成 15 年度)

Development of the investigation method for characterizations of underground fresh and salt water distribution in the HLW geological disposal system.

応用地質株式会社 東 宏幸、亀谷裕志、小西千里、櫻井 健

早稲田大学 野口康二、汪 振洋、古見 晋、金澤 麻矢

財団法人産業創造研究所 鈴木和則、高橋康裕、大岡政雄

「HLW 地層処分における地下水淡塩分布調査法に関する技術開発」を平成 15 年度単年度

のフィージビリティ・スタディとして実施した。本報告書ではその成果について報告する。

要旨 キーワード:

高レベル放射性廃棄物(HLW)地層処分、沿岸地域、堆積軟岩、地下水淡塩分布、媒質の電

導度、IP(Induced Polarization:強制分極)

1. 目的

研究目的:

「粘土鉱物を含む地盤の媒質(間隙以外)の電導度を IP(強制分極)特性を測定す

ることで把握可能か、文献調査と岩石及び人工材料による室内実験により明らかにす

る。」

この研究は、 終目標である全体開発技術「HLW 地層処分事業のための、沿岸地域堆

積軟岩を対象として物理探査を主にした3次元的地下水淡塩分布調査システムの開

発」の中のブレイクスルー部分と考えられ、今年度フィージビリティ・スタディとし

て実施した。

2. 技術開発成果

文献調査および室内実験から以下の成果が得られた。 ① 文献調査により,粘土鉱物を含む地盤の媒質の電導度を評価する手法として IP 特性

測定の有効性を示すことができた。 ② 人工材料による室内実験結果から、粘土鉱物を含む材料が IP 特性(分極特性)を示

す原理について定性的に明らかにした。この結果は文献調査と整合性がある。

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③ 粘土鉱物を含む岩石を用いた室内実験結果から、IP 特性と全電導度および媒質の電導

度の明瞭な相関関係を得た。さらに,人工材料の実験結果も含めて考察することによ

り、IP 特性から媒質の電導度を導く式を求めることができた。 ④ 以前に取得した原位置データである検層結果を用いて IP 特性から媒質の電導度の評

価を行い、地下水淡塩分布(電導度分布)の推定を行い、別途実施した地下水サンプ

リングにより求めた淡塩分布と調和的なことを示した。 以上から、粘土鉱物を含む地盤の媒質(間隙以外)の電導度を、IP(強制分極)特

性を測定することで把握可能であることが、文献調査と実際の岩石及び人工材料によ

る室内実験により明らかにすることができた。

3. まとめ

文献調査と室内実験により、粘土鉱物を含む岩石の媒質(間隙以外)の電導度を、IP 特

性を測定することによって把握できるかどうか検討、研究した。 [1] 文献調査では IP 特性の概要について調べ、さらにこれまでは主に金属などの鉱床探査

に用いられてきた IP 特性が粘土鉱物を含む岩石、地盤の調査に有効であること、またその

原理について調査できた。 [2] 粘土鉱物を含む人工材料による室内実験では文献調査の結果と整合的な IP 特性の出現

の原理について定性的に示すことができた。 [3] 実際の岩石を用いた室内実験では媒質の電導度を IP 特性との相関を確認し、関係式と

して表すことができた。 さらに、実際のフィールドへの展開として、この結果を既往の検層結果に適用したところ、

地下水の淡塩分布(電導度分布)を的確に捉えることができた。 以上のことから、今回の IP 特性による媒質の電導度評価手法は、原理的に明らかであり、

また原位置地盤への適用性も確認されたことから、本フィージビリティ・スタディの目的

が達せられたと判断できる。

次年度以降、 終目標である全体開発技術「HLW 地層処分事業のための、沿岸地域堆積軟

岩を対象として物理探査を主にした3次元的地下水淡塩分布調査システムの開発」にむけ

て研究を展開していく予定である。

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Development of the investigation method for characterizing underground fresh and salt water distribution in the HLW geological disposal system.

Hiroyuki Azuma, Hiroshi Kameya, Chisato Konishi, Ken Sakurai (Oyo Corporation)

Koji Noguchi, Zhenyang Wang, Susumu Furumi, Maya Kanazawa (Waseda University)

Kazunori Suzuki, Yasuhiro Takahashi, Masao Ohoka (Institute of Research and Innovation)

We have studied feasibility of the development of the investigation method for charactering fresh and salt-water distribution in the HLW geological disposal system for the year of 2003. This document reports its result. Abstract Key words: HLW geological disposal system, Coastal area, Soft sedimentary rock, Underground fresh and salt water distribution, Electric conductivity of a medium, IP(Induced Polarization) 1. Objective of the study The goal of this study is to clarify whether the electric conductivity of the rock matrix including clay minerals can be estimated by measuring the IP effect of the rock, by means of reviewing published literature and laboratory tests of natural and artificial rock samples. This study is one of the most important parts in the development of the investigation method for characterizing fresh and salt-water distribution in a soft sedimentary rock for the HLW geologic disposal system. Therefore it has been performed as one-year feasibility study. 2. Results of the study Literature study and laboratory tests revealed the followings: (1) Literature study reveled that measurement of the IP effect of a rock can be effectively used for estimating electric conductivity of a rock matrix including clay minerals. (2) Laboratory tests of artificial rock samples qualitatively showed the mechanism of the IP effect of the rock samples including clay minerals. This is supported by the published literature. (3) Laboratory tests of natural rock samples including clay minerals showed the clear relationship between the IP effect and electric conductivity of the whole rock and the

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rock matrix. A formula for estimating electric conductivity of a rock matrix from its IP effect was derived considering the laboratory test results of both natural and artificial rock samples. (4) Using existing well log data, electric conductivity of a rock was estimated from its IP effect to image fresh and salt water distribution in an actual field. The estimated value was validated by laboratory measurements of electric conductivity of groundwater sampled in-the borehole at the site. As mentioned above, literature study and laboratory tests with natural and artificial rock samples have proven that the electric conductivity of a rock matrix including clay minerals can be estimated by measuring its IP effect. 3. Summary We have studied on possibility of estimation of the electric conductivity of a rock matrix including clay minerals by measuring its IP effect through literature study and laboratory tests of rock samples. The study revealed the following conclusions: (1) Through literature study, the IP effect of a rock, which has been mainly used for

exploration of metal mines, can be employed for characterization of a rock including clay minerals.

(2) From laboratory tests of artificial rock samples including clay minerals, the mechanism of the IP effect of a rock was qualitatively clarified, which is supported by existing studies. (3) Based on the laboratory tests of natural and artificial rock samples including clay minerals, a formula relating the IP effect of a rock to its electric conductivity was derived. This relationship has been validated by applying it to the actual well log data. The study results mentioned above has proven the feasibility of the method using IP effect of a rock for estimating its electric conductivity in an actual field, which is the goal of the study. From next year, we are planning to progress this study aiming at the final goal, that is to develop a three-dimensional investigation method based on geophysical exploration for fresh and salt water distribution in a soft sedimentary rock for the HLW geologic disposal system.

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目 次 1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.1 事業実施の背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.2 研究開発目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

2.技術開発計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 2.1 全体の技術開発内容と本年度フィージビリティ・スタディの関係・・・・7 2.2 フィージビリティ・スタディの計画・・・・・・・・・・・・・・・・・9 2.3 研究体制と活動内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

3.成果の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 3.1 文献調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 3.2 媒質の電導度把握のための室内実験と検討・・・・・・・・・・・・・・16 3.3 得られた成果のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 3.4 実施計画と進捗状況の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

4.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 4.1 成果の概要-IP 特性を用いた媒質の電導度評価手法について・・・・・・30 4.2 今後の計画 -地下水淡塩分布調査システムへの組み込み・・・・・・・・30 4.3 得られた事業成果に対する自己評価・・・・・・・・・・・・・・・・・33

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1

1. はじめに 1.1 事業実施の背景と目的 1.1.1 研究の背景および目的 わが国では、高レベル放射性廃棄物

(HLW)は地下深部の地層中に処分(地層処

分)することを基本方針としている。その

地層処分施設の建設地について、数年後か

ら概要調査が始まり、その約 10 年後からは、

精密調査地区の選定が始まることになって

いる(図 1.1-1)。 今回のフィージビリティ・スタディを含

む全体開発技術は、「沿岸地域の堆積軟岩を

対象として物理探査を主にした3次元的地

下水淡塩分布把握システムの開発」であり、

処分位置選定に際して重要な情報である地

盤中の淡塩分布を、簡便,迅速,非破壊な

らびにローコストで 3 次元的に求める技術

の実用化のために行うものである。 その成果は、わが国の原子力発電及び核

燃料サイクルの安全性・経済性の向上に資

することを目的としている。 本年度はフィージビリティ・スタディと

して、全体開発技術の中で も重要かつブ

レイクスルー部である媒質の電気伝導度把

握の方法について研究した。 1.1.2 地下水淡塩分布把握の重要性 島国であるわが国では沿岸地域が広く存在し、沿岸地域の地下水の流れは山間部や丘陵

部のそれに比べて小さいことや、海に近く核廃棄物を船で直接搬入できる立地条件など地

層処分サイトとして適している条件が多い。 沿岸地域の地下では、一般的に海水域と淡水域とに分かれた淡塩境界を形成しており、

その形状は塩水と淡水の密度差による Ghyben-Herzberg の関係 2)(図 1.1-2)や、海へ向

かう淡水の流れなど 3)により説明されている。

図 1.1-1 終処分施設建設地選定までの流れ 1)

「高レベル放射性廃棄物の最終処分施設の設置可能性を調査する区域」を全国の市町村から公募

(平成14年12月19日開始)

「高レベル放射性廃棄物の最終処分施設の設置可能性を調査する区域」を全国の市町村から公募

(平成14年12月19日開始)

文献調査

地震等の自然現象による地層の著しい変動の記録がなく、かつ、将来にわたってそれらが生じるおそれが少ないと見込まれること等を確認

概要調査地区の選定(平成10年代後半頃)概要調査地区の選定(平成10年代後半頃)

概要調査:ボーリング調査、地表踏査、物理探査 等

最終処分を行おうとする地層およびその周辺の地層が安定していること、坑道の掘削に支障がないこと、地下水の水流等が地下施設に悪影響を及ぼすおそれが少ないと見込まれること等を確認

精密調査地区の選定(平成20年代前半頃)精密調査地区の選定(平成20年代前半頃)

精密調査:地上からの詳細調査、地下の調査施設での測定・試験 等

最終処分を行おうとする地層の物理的・化学的性質等が最終処分施設の設置に適していると見込まれること等を確認

最終処分施設建設地の選定(平成30年代後半頃)最終処分施設建設地の選定(平成30年代後半頃)

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2

図 1.1-2 Ghyben-Herzberg による淡塩境界

近年、沿岸地域の堆積軟岩の間隙中に海水起源と考えられる化石塩水が存在することが

明らかになった 4) (図 1.1-3)。この塩水域は前述の Ghyben-Herzberg 式から算出される

淡塩境界と異なり、地層と調和的な分布形状を示す。

ffs

f hzρρ

ρ−

=

塩水淡水

海水面

地下水面

内部

境界

fh

海 ZZ

各地質柱状図の左側に水理試験時採水試料、右側にコアプレス抽出試料をヘキサダイヤグラムで示した。各 ダイヤグラムはヘキサ EC値毎に色分けした。

PW-80

PW-100

PW-110

PW-123

PW-140

PW-159

PW-180

PW-200PW-210PW-220

PW-220

HT-2/3

HT-3/4

HT-4/6

HT-6/4

HT-9/4

HT-11/6

HT-13/5

PW-90.19PW-92.88

PW-102.69PW-114.17

PW-125.92

PW-138.29

PW-150.1PW-156.08

PW-163.26PW-174.92

PW-180.91PW-192.42

PW-198.26PW-209.92

PW-221.63

PW-233.26

PW-245.53

PW-266.72

PW-295.59

PW-314.92

PW-338.13

PW-359.38

PW-369.71

PW-379.78

PW-390.93

PW-399.72

PW-417.12

PW-430.13

HT-1/3

HT-3/2

HT-4/2

HT-5/2

HT-7/5

HT-8/6

HT-9/4

HT-10/3

HT-11/2

HT-13/2

HT-14/2

HT-15/2

500500

Na+K ClCa

SO4

HCO3Mg

Meq/lCation Anion海水

500500

Na+K ClCa

SO4

HCO3Mg

Meq/lCation Anion

500500

Na+K ClCa

SO4

HCO3Mg

Meq/l 500500

Na+K ClCa

SO4

HCO3Mg

Meq/l500

Na+K ClCa

SO4

HCO3Mg

Meq/l

Na+K ClCa

SO4

HCO3Mg

Na+K ClCa

SO4

HCO3Mg

CaSO4

HCO3Mg SO4

HCO3Mg

HCO3MgMg

Meq/lCation Anion海水

HT-17/11

Ⅳ Ⅲ

Ⅰ~Ⅳは、水質区分

2000~10000

10000~15000

15000~20000

20000~25000

25000~35000

EC(μS/cm)

2000以下

35000以上

2000~10000

10000~15000

15000~20000

20000~25000

25000~35000

EC(μS/cm)

2000以下

35000以上

ⅡとⅢの漸移帯

水質Ⅳ深部

ⅢとⅣの漸移帯

ⅡとⅢの漸移帯

ⅢとⅣの漸移帯

各地質柱状図の左側に水理試験時採水試料、 右側にコアプレス抽出試料をヘキサダイヤグラムで示した。 各ヘキサダイヤグラムはECの値ごと に色分けし た。

新第三紀鮮新統

新第三紀中新統

図 1.1-3 地層と調和的な塩水域の調査事例

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3

この塩水域では、年代測定結果や地層と調和的に分布域が存在することから、度重なる

海進、海退の時代を経て、長期的にその影響を受けずに地層堆積中の海水を保持している

と推定できる。したがって、地下水の流れが非常に微小であると考えられ、地層処分の天

然バリアとして高い性能を期待できるものと思われる。 また、塩水部は表 1.1-1 に示すように地下水の流れが小さいことの他に、HLW 地層処分

場の要件である人間進入の観点からも処分場に適しているといえる。

表 1.1-1 塩水部と淡水部での処分場としての環境や条件の比較 4) 項目 淡水域 塩水域

人の接近 可能性が有る 可能性が低い

水の利用 利用する可能性有り 利用する可能性低い

地下水の流れ 陸から海への流れ 一般的に淡水部より小さい

一方、塩水の上部に位置する淡水部分では大きな地下水の流れが存在し、さらに背面に

広がる山岳部からの動水勾配や流体の密度差のために、塩水、淡水の接触面で上方に向かっ

て起こる流動が存在するとされている。日本各地で地下水の流出が沿岸部の海底で報告さ

れており、淡塩境界部で上方への大きな地下水流動があるとする予測と調和的である。こ

のことは、HLW 地層処分においては危険側に作用する。 人工バリアの観点からは、廃棄体設置場所の地下水成分(淡水、塩水)は、廃棄体との接

触による腐食の問題などのためにバリアの設計上、大きな問題である。

以上のことから、沿岸部での深部地下水の淡水、塩水の分布状況(淡塩分布)を調べるこ

とは地層処分場の天然及び、人工バリアの観点から極めて重要であるといえる。 地層処分の深度は、地層処分研究開発第 2 次取りまとめにおいて、設計検討の軟岩系デー

タセットを深度 500mとしている。このような大深度におよぶ淡塩境界や淡塩分布を求める

には、多くのボーリング孔と多深度にわたる水理、水質に関するデータが必要で、多額の

コストと時間を費やすこととなる。また、淡塩分布は陸域から海域に向かい深度方向に 2次元的に変化するだけでなく、地質構造や地表水の流れの影響を受けて 3 次元的にも変化

する。しかし現状では 3 次元分布を求める場合、孔間の淡塩分布は地質や水理構造をもと

にした補完やシミュレーションに頼るしかなく、不確実性が残る。 本手法が確立し、物理探査により淡塩分布が 3 次元的に把握出来た場合、処分位置の重

要な検討資料となるだけでなく、調査位置やボーリング位置の選定,調査精度の向上,調

査期間の短縮ならびに調査費用の低減に寄与することは確実で、本研究成果による処分位

置選定事業に対する効果は非常に大きいものと考える。

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1.1.3 参考文献 (1)土宏之他(2003):高レベル廃棄物地層処分にかかわる概要調査地区選定上の考慮事項

について,土木学会第 58 回年次学術講演会,2003.9 (2)河野伊一郎(1989):地下水工学,鹿島出版会 (3)大西有三(1996):地下水の科学Ⅲ―地下水と地質―,土木工学社 (4)財団法人産業創造研究所(2000):地下水流動調査報告書

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1.2 研究開発目標 現状の広域にわたる地下水淡塩分布調査は数多くのボーリング孔を必要とし、多額のコス

トと時間がかかるうえに、3 次元的分布把握においてはボーリングによる点の情報を面的に

補間せざるを得ない。

現状での広域深部地下水の淡塩分布状況を求める方法は以下の通りである。

①ボーリングと掘削による孔内水の混入の影響を防ぐため、予想される地質区分

や水質区分ごとにパッカ-で仕切った多段の採水装置を用いて採水、水質分析を

行い、孔近傍の区分ごとの淡塩分布を求める。

②掘削した孔において物理検層結果から、孔近傍の連続的な地下水淡塩分布を求

める。

③別途、得られた地質構造、予想される水質構造と組み合わせて、内挿、外挿による

補間を行って広域的地下水淡塩分布の推定を行う。

この方法は多くのボーリング掘削と地下水調査のために多大な費用・時間を必要とするほ

かに、点の情報を広域に展開しようとするときに、地質情報、水質分布情報などによる補

間せざるを得ず、あいまいさが残る。

今回のフィージビリティ・スタディを含む全体の技術開発は、処分位置選定事業に適用

されることを想定して、地上からの物理探査手法を主体にして数少ないボーリング調査結

果と組み合わせることによって、広い領域を連続的に簡便に少ない費用で合理的にかつ 3

次元的に調査するシステムを構築しようとするものである。 本調査システムの概要は以下の通りである。図 1.2-1 にフロー図として示す。図 1.2-2

に測定システムのイメージと適用フィールド模式図を示す。本調査システムは、まず概要

調査(精密調査地区選定)の範囲(数 km 四方)に対して地上からの複数の物理探査手法を

組み合わせることによって、3 次元的地下水電導度分布を求める。次に数本(原則1本)の

ボーリング孔調査結果により、キャリブレーションを行い、調査地域の 3 次元的地下水淡

塩分布を求める。

本調査システムの適用が可能になれば、従来は概要調査の範囲に対して少なくとも 500m

クラスのボーリングが 4 本から 5 本以上必要であったものが、参照データとして 低 1 本

あれば全範囲に対して 3 次元的に淡塩分布を求めることができる。さらにこのことは廃棄

体設置後の地下水流動の観点から概要調査段階であまり多くのボーリングを実施できない

こととよく適合しているといえる。

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6

物理探査による測定 ・ 高密度 IP 法電気探査 ・ 弾性波探査など

原則1本のボーリング調査 ・ 地下水採水分析 ・ 物理検層

3 次元解析

3 次元的地下

水淡塩分布

本開発部分

図 1.2-1 終開発目標である地下水淡塩分布調査システムフロー図

原海水

淡水

塩水

原海水

淡水

塩水

原海水

淡水

塩水

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2. 技術開発計画

2.1 全体の技術開発内容と本年度フィージビリティ・スタディの関係

2.1.1 全体の技術開発内容 本年度のフィージビリティ・スタディを含む全体の技術開発内容は「沿岸地域の堆積軟

岩を対象として物理探査を主にした3次元的地下水淡塩分布把握システムの開発」である。

この開発は大きく以下の3要素からなっている。①地下水電導度取得のための地盤の電導

度構成3要素分離、②高電導度地盤の高精度測定ハードウェアの開発、③沿岸地域(海近

傍)での3次元電気探査解析ソフトウェアの開発。

このなかで も困難視され、全体開発のブレイクスルー部分と考えられる①地下水電導

度取得のための地盤の電導度構成3要素のうち、媒質の電導度把握手法の研究をフィージ

ビリティ・スタディとして本年度取り上げた。

全体の技術開発内容のうち「①地下水電導度取得のための地盤の電導度構成3要素分離」

の部分について以下に詳述する。

物理探査手法を用いて、地下水の淡塩分布を求めるには地下水の電導度(電気伝導度)

を求めれば良い。その手法の原理と現状の問題点を以下に記す。

(1)地盤の電導度構成3要素

飽和している地盤の電導度は、求めようとする地下水の電導度を含んで以下の式で記述

できる。この式はアーチーの式(Archie,1942)に媒質の電導度の効果を含んだものであり、並

列回路モデル(Katsube-Hume(1983)など)の式として知られている。

したがって、上式から示されるように地下水の電導度を求めるためには地盤の電導度、

間隙率、媒質の電導度を求めることが必要である。これら3要素は全て地表からの物理探

査手法を用いて求めることが要求される。

(2)現状で3要素を求めるための適用候補となる物理探査手法とその問題点

a. 地盤の電導度

地表電気探査を用いる。一般的な地盤対象では高密度電気探査として現状、ある程度

完成されている手法といえる。しかし、沿岸地域の堆積軟岩で海水を含むシルト岩は高

い電導度(低比抵抗)を示すので高い S/N の測定のために今後の技術開発が必要である。

媒質

間隙(地下水)

Cf = a・Cw・φm + Cm Cf:地盤の電導度 Cw:地下水電導度(間隙中) Cm:媒質の電導度 φ:間隙率 a,m:定数

地盤の電導度

間隙率=間隙÷全体

図 2.1-1 地盤の電導度模式図

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8

b. 間隙率

石油、ガス探査の分野では堆積岩に対して弾性波速度や音響インピーダンスと間隙率

の関係が研究されている。例えば Dvorkin(2002)では粘土含有量をパラメータにした弾性

波速度と間隙率の関係が示されている。今後の技術開発としてはコストの観点とわが国

への適用性に関して研究が必要である。

c. 媒質の電導度

現状では決め手となる地表からの探査手法がない。ここに大きなブレイクスルーが要

求される。堆積軟岩のシルト岩では砂岩などと異なり、媒質の電導度は無視できない。

粘土鉱物が高電導度である原因は鉱物表面と間隙水の接触部にできる電気二重層(正電

荷と負電荷が集中した層)の存在である。電気二重層を電流が流れるときにある種の分

極が生じるとされており、その分極現象を IP (Induced Polarization:強制分極)法でとらえ

られる可能性がある。粘土鉱物の IP に関する研究が産創研(2002)で報告されている。

この部分を本年度フィージビリティ・スタディの部分とした。

2.1.2 本年度フィージビリティ・スタディの内容と目的 上述の c. 媒質の電導度把握手法の研究を行う。IP(強制分極)による方法を有力として

いるが、まだ、明確な原理や有効性が示されているわけではない。

本年度フィージビリティ・スタディは室内実験や内外の文献調査を行い、粘土鉱物を含

む媒質の電気的特性について研究を行い、地表からの媒質の電導度を測定する物理探査手

法の選定を目的とする。図 2.1-2 に、地盤電導度の3要素と今年度フィージビリティ・スタ

ディの関係を示す。

図 2.1-2 地盤の電導度の3要素分離とフィージビリティスタディの関係

地盤の電導度

媒質の電導度

間隙率

高密度比抵抗電気探査

IP 法電気探査?

反射法弾性波探査など 地下水電導度 (淡塩分布)

(測定方法) (地盤の 3要素)

フィージビリティ

スタディ部分

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2.1.3 参考文献 (1) Archie(1942):The electrical resistivity log as an aid in determining some reservior

characteristics,AIME,Vol.146,p.54-62

(2) Katsube,T.J. and Hume,J.P.(1983):Electrical resistivities of rocks from Chalk River,

Proc,Ws,Geoghys,Geosci.Res. at Chalk River,p105-114

(3) Dvorkin,J. and Gutierrez,M.A.(2002):Grain Sorting, Porosity,and Elasticity,

PETROPHYSICS, vol43,No3,p185-196

2.2 フィージビリティ・スタディの計画 計画は以下の 3 つの部分に分かれている。

(1) IP(強制分極)法に関する文献調査、原理検討

IP 法は物理探査の分野ではこれまで主に金属鉱床探査に用いられて、分極が大きいとさ

れる鉱物を含む硫化物鉱床、黒鉱鉱床、磁鉄鉱、赤鉄鉱鉱床などを対象としてきた。

本研究では IP 現象を、粘土鉱物を含む媒質の電導度把握に利用しようとしているが、こ

のことは原理的に明らかでなく、また、適用事例も少ないことが予想される。文献調査で

はこの目的に関係する過去の研究事例を調査し、レビューすることにより、粘土鉱物を含

む媒質の電導度把握に IP 現象を用いることの適用性を検討し原理についても検討を行う。

(2) 室内実験、理論検討

粘土鉱物をふくむ人工材料と実際の岩石コア試料を用いて、室内試験により IP 現象を測

定する。人工材料は複数の粘土鉱物を用いて、間隙水電導度を変えたものを作製し、IP 特

性の出現の機構について研究する。岩石試料は、同じ媒質と判断される岩石コアを用いて、

通水により間隙水の電導度を変えたものを複数個、複数シリーズ作製する。また、使った

試料は陽イオン交換容量、間隙率、鉱物分析など、必要と思われる物性のデータを取得す

る。ここでは媒質の電導度が IP 特性で評価できるか、できるとすればどのように表せるか

について研究する。

(3) 成果の評価と全体の技術開発である調査システムへの組み込み検討

得られた文献調査、室内試験結果の評価を行い、 終開発目標である調査システムへの適

用性を検討する。

2.3 研究体制と活動内容

(1)研究実施機関

研究、技術開発の実施機関は以下の3機関である。全て国内の会社、大学、研究機関で

ある。

本年度フィージビリティ・スタディの実施機関を以下に示す。

① 応用地質株式会社:エンジニアリング分野を対象とした物理探査部門を持つ会社。

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② 早稲田大学理工学部 野口康二教授:地盤の電気的性質の研究を専門とする。

③ 財団法人産業創造研究所:原子力関係(高レベル放射性廃棄物地層処分事業も含む)

の研究機関。

(2)各機関の連携と研究活動内容

3機関による協議、打ち合わせを研究開始、中間、レポート執筆の各時期に実施する。さ

らに、電子メールなどを用いて、各機関に対して、実験データ、文献調査結果の迅速な閲

覧により、進捗状況の確認、方向性の再検討を行い、研究の実施を円滑に行うこととした。

また、岩石コアを用いた室内実験では、コア保管は産創研、通水、諸物性取得は応用地質、

IP 特性試験は早稲田大学、試験後間隙水抽出は産創研と、3機関の連携がとくに必要なた

め、情報の共有についてはとくに留意することとした。

研究をすすめるにあたり、それぞれの役割を以下のように定めた。

① 応用地質株式会社

研究代表者として、研究全体のコーディネートを行い、3機関による協議、打ち合わせを主

催する。

IP 現象に関する文献調査を実施し、野口教授指導のもと、取りまとめを行う。

岩石コアの室内試験実施にあたって、岩石コアの物性諸元を測定し、異なる電導度を

有する間隙水を通水するなど、測定前の試料準備を行う。

レポート執筆にあたって、全体の調整を行い 終仕上げをする。

・レポート担当:1 章、2 章、3 章、4 章、全体調整

② 早稲田大学

IP 現象の文献調査結果の評価をおこない、とりまとめにあたり、指導を行う。

粘土鉱物を用いた人工材料と岩石コアによる室内試験の実施と成果の評価を行う。

・レポート担当:3 章、4 章

③ 産業創造研究所

HLW地層処分事業のニーズ側の観点から本研究の位置づけ、必要性について調査す

る。とくにこれまで産業創造研究所で実施してきたフィールド研究成果との関連と発展

について調査する。

室内実験において、用いる岩石コアの選定と試験後の供試体からの間隙水抽出と分析

を担当する。成果の評価と全体開発計画システムへの適用性について検討する。

・レポート担当:1 章、4 章

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3. 成果の概要 3.1 文献調査

3.1.1 目的

地盤中の導電性金属による IP 現象はよく知られており、実際に鉱床探査で用いられてい

るが、粘土鉱物による IP 現象については、まだ詳細に理解されてはいない。

本章では文献調査により、まず IP 現象について概説し、次に粘土鉱物による IP 現象を

利用するにあたりこれまでの研究をレビューし、その適用性について述べる。

3.1.2 IP 現象の概説

IP 現象とは、地盤に電流を流したとき、

地盤のある物質がコンデンサーのような働

きをし、電荷の一部が粒子の表面などに蓄

えられることにより生じる現象と考えられ

る。これは、地盤に直流電流を流したとき

に電流遮断後も微少な電流が流れる現象で

あり、地盤に交流電流を流したときに、発

生する電位に位相差が生じる現象である。

このような IP 現象は、比抵抗の周波数依

存として測定される。実際には、時間領域

の測定では充電率(m)として測定され、

周波数領域の測定では位相差φとして測定

されるほか、高周波数での比抵抗値と低周

波数での比抵抗値から求められる周波数効

果(PFE)という量で表される。また、スペ

クトル IP 法では、多くの周波数について、

周波数毎の比抵抗値の振幅と位相として測

定される。複素比抵抗として表されること

もある。

I V

間隙水

金属鉱物粒子

電流 ++ --

二次電位

一次電位

C P P

IP法の原理

図 3.1-1 IP 法の原理

充電率:m VV dt

tpst

t= ∫

1 11

2

( )100⋅

−=

dc

acdcPFEρ

ρρ

ここで,ρdc;低周波数による比抵抗

ρac;高周波数による比抵抗

3.1.3 粘土鉱物による IP 現象

岩石に粘土鉱物が含まれることによる IP 現象の発生は、主として粘土鉱物粒子の表面に

形成される電気二重層の存在によるものと考えられている。粘土鉱物の粒子表面は負に帯

電しているため、陽イオンを吸着し、電気二重層を形成する。このとき、粘土粒子の周り

はイオン濃度が高くなり、表面伝導現象が生じる。粘土鉱物は固相の表面積が大きいため、

表面伝導の効果が大きいと考えられる。形成される電気二重層の大きさは、粘土鉱物の CEC

(陽イオン交換容量)の大きさによって異なる。CEC は粘土鉱物が吸着できる陽イオンの量

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と考えられるため、CEC の大きな粘土鉱物ほど、形成される電気二重層も大きいと考えられ

る。電気二重層内では、イオン濃度の異なる溶液が存在するため、拡散電位が生じ、この

拡散電位が比抵抗変化や位相遅れを生じさせていると考えられる。このような粘土鉱物粒

子表面で生じている現象は、導電性金属粒子の表面で生じている現象と同様に考えること

ができる。

3.1.4 地盤(岩石)の電気的モデル化

比抵抗電気探査から得られる岩石の比抵抗が、間隙水の比抵抗に比例するということが Archie(1942)

によって経験的に示されて以来、多くの研究がこのArchieの式を基にして行われてきた。これは、電流が

間隙中の液相のみを流れると考えたモデルである。

ρ φ ρfm

wa= −

(3.1.1)

ρ f :地盤の比抵抗,ρw:間隙水の比抵抗,φ:間隙率,m:膠結定数

しかし、岩石が粘土鉱物を含むような場合は、電流が間隙中の液相を流れるだけでなく、媒質中の微少な

粘土の導電性粒子が媒体となるため、比抵抗値が低下する。このような現象を、Patnode and Wyllie(1950)

は導電性粒子の比抵抗ρcを用いて、並列回路モデルとして表している。また、Katsube-Hume(1983)は、表

面伝導の効果を取り入れて、同様に並列回路の式として表している。両者とも式の形は同じで以下のよう

に表せる。

1 1 1ρ ρ ρf w cF

= + ,Fam=

φ (3.1.2)

この式を電導度について書き直すと、次の式で表される。

mWm

f CCaC +⋅⋅= φ (3.1.3)

ここで,Cf;地盤の電導度,Cw;間隙水の電導度,φ;間隙率,Cm;媒質の電導度,a;定数である。

媒質の電導度Cmは、粘土鉱物が含まれた場合、または表面伝導による効果を考えた場合に生じるもの

である。

図 3.1-2 並列回路モデルの模式図

F wρ

ρc

ρ f

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次に、Maxwell理論に基づく、Bussian(1983)のモデルを考える。このモデルは、ある物質に導電性の物

質が分散して混ざり合った状態の比抵抗(電導度)の関係を示したものである。電導度に関する式は次の

ように表せる。

σ σ φσ σσ σo w

m r w

r o

m

=−−

⎛⎝⎜

⎞⎠⎟

11

(3.1.4)

ここで、σ o:混合体の電導度,σ r:分散した導電粒子の電導度,σ w:母体となる物質の電導度,m:

幾何係数

このとき、σ wを間隙水の電導度とし、σ rを粘土粒子の電導度と考えれば、σ o が粘土鉱物を含む岩石の

電導度を表すことになる。

式は次のように簡略化できる。

( )σ σ φ φ σo wm m

rm= + −1 (3.1.5)

この式を 3.1-3 式と見比べると、係数が異なるだけで、同じ形で表すことができる。つまり、粘土鉱物を

含む岩石をBussian(1983)のモデルにおいても並列回路モデルと同様に取り扱うことができる。

3.1.5 粘土鉱物とIP現象に関するこれまでの研究事例

高倉ほか(2000)では、粘土鉱物を含む岩石の比抵抗測定を行い、粘土粒子表面の電気二重層の存在に

よる比抵抗の変化を測定している。Vinegar and Waxman(1984)は、粘土鉱物を含む砂岩サンプルで実験を

行い、陽イオン交換容量(CEC)の導電性を等価イオン電導度という係数を用いて評価している。彼らはさ

らに、粘土鉱物の対イオン置換と、粘土鉱物がイオン選択性膜としてはたらくことによる膜分極の効果も

考慮したモデルとしている。電導度はC C CI Q= + として表され、CIが粘土鉱物の導電性をも含んだ、

導電体としての電導度であり、CQが分極、つまり IP 現象による電導度である。

Kemna et al.(2004)では、複素電導度を求めることにより、通常の直流の比抵抗探査では判別しにくい

ような岩相の違いを検出できたという例を報告している。彼らの方法は、複素電導度を次のように表す。

(σ *は複素数を表している。)

[ ]σ σ σ ω σ σ ω σ ω∗ ∗= + = + +el surf el surf surfi( ) ' ( ) ' ' ( ) (3.1.6)

ここで、σ el:間隙内部の導電体による電導度,σ ωsurf* ( ) :表面伝導による電導度である。

3.1.6 式からわかるように、表面伝導に関する電導度のみが複素数となっており、IP 現象による周波数

依存を考えている。実数で表されている部分が、通常の比抵抗探査で得られる情報であり、虚数で表され

る部分がIP現象による情報と考えられる。Borner et al(1996)によれば、σ ' ' surf と間隙内部の表面積S porには線形に近い関係があり、粒径との間にも反比例の関係があることが示されている。また、陽イオン交

換容量(CEC)の増加も表面伝導に関係することがわかっている。つまり、表面積やCEC、粒子サイズなど

によってσ ' ' surf が異なることは、IP法探査が粘土鉱物を含んだ場合の地層の判別には有効であるといえる。

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図 3.1-3 は、σ surf"

を用いて粘土を含む地層の判別を行った例である。IP 現象を含むことにより、粒子の

比表面積や粒径の違いを判別できている。

このような事例は、原位置測定においても、粘土鉱物が地盤の比抵抗に及ぼす影響をIP現象によりうま

く把握できるということを示している。

図 3.1-3 Kemna et al.(2004) の結果図 (a)実数部(同相部)(b)虚数部(離相部)(c)位相角

3.1.6 文献調査のまとめ

本章の文献調査ではまず、IP 現象について概説し、地盤の電気的モデル化について示した。次に、これ

まで金属鉱床探査に主に用いられてきた IP 現象を、粘土鉱物を含む材料への適用という観点から文献調

査した。

その結果の概要は以下のとおりである。粘土鉱物を用いたモデルも並列回路で示すことができる。粘土

鉱物粒子表面の電気二重層の存在が IP 現象に関係している。電気二重層の大きさは粘土鉱物の陽イオン

交換量の大きさによって異なる。電気二重層のイオン濃度と周囲のイオン濃度で拡散電位が生じ、拡散電

位が位相遅れを生じさせている。さらに、現位置におけるトモグラフィを実施した例が報告されており、

粘土鉱物を含む地盤を対象に IP 現象の測定を行い地盤の判別に有効であることを示している。

以上から、今回の研究の目的である「粘土鉱物を含む岩石、人工材料の IP 現象を測定し媒質の電導度

を求める」について、その可能性を示唆していることがわかった。

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3.1.7 参考文献

(1)Archie,G.E(1942):The electrical resistivity log as an aid in determinig some reservoir

characteristscs,Trans.A.I.M.E.,146,p54-62

(2)Patnode and Wyllie(1950):The presence of conductive solids in reservoir rocks as a factor in

electric log interpretation, Trans.A.I.M.E.,189,47-52

(3)Katsube and Hume,J.P.(1983):Electrical resistivities of rocks from Chalk River, Proc. Ws.

Geophys, Geosci.Res. at Chalk River,105-114

(4)Bussian,A.E.(1983):Electrical conductance in a porous medium, Geophysics, Vol.49,No.9,

p1258-1268

(5)高倉伸一・小西欣弥・西澤修・青木正博(2000):粘土鉱物を含む試料の比抵抗測定,物理探

査,Vol.53,No.2,p119-128

(6)H.J.Vinegar and M.H.Waxman(1984) : Induced polarization of shaly sands,

Geophysics,Vol.49,No.8,p1267-1287

(7)Andreas Kemna, Andrew Binley, and Lee Slater(2004):Crosshole IP Imaging for engineering and

environmental applications,Geophysics,Vol.69,No.1,p97-107

(8)F. D. Borner, J. R. Schopper and A. Weller(1996):Evaluation of transport and storage properties

in the soil and groundwater zone from induced polarization measurements, Geophysical prospecting,

44, p583-601

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3.2 媒質の電導度把握のための室内実験と検討

3.2.1 概要

室内実験ではIP現象の測定を行い,その測定結果とこれまで得られたデータを用いて考察を加え、媒

質の電導度評価手法について検討した。

実験では今回の研究対象としている沿岸域に分布する堆積軟岩そのものと、その中に含まれる粘土鉱物

の電気的特性について基礎的知見を得るために人工材料の 2 種類をサンプルとして用いた。

使用したサンプルの種類は以下のとおりである。

①沿岸域の堆積軟岩(新第三紀鮮新統の極細粒砂質シルト岩)

②人工材料(3 種類の粘土鉱物を塩水で飽和したもの)

これらの材料を試料準備段階で,さらに複数の電導度の間隙水で飽和した上で測定を行った。

考察、検討に当たっては今回、新たに測定した堆積軟岩、人工材料の実験結果に加えて、実験に用いた

堆積軟岩のサンプリング場所における物理検層結果と既存の人工材料実験結果も合わせて用いた。

3.1 の文献調査の項で示したように地盤全体の電導度は以下の式で記述できる。実験の目的はこの式で

示す媒質の電導度Cmを評価することである。

mWm

f CCaC +⋅⋅= φ

(3.2.1)

ここで,Cf;地盤の電導度,Cw;間隙水の電導度,φ;間隙率,Cm;媒質の電導度,a;定数

3.2.2 測定システムの検討

(1)測定原理およびシステム

室内のIP現象の測定は,一定電流を流した際

の電位応答を計測する。測定の内容は比抵抗測定

と同じであり,電位応答の過渡現象に着目すると

ころが異なる。ここでまず岩石や土質材料の比抵

抗測定原理を図 3.2-1 に示す。

比抵抗は、サンプルの軸方向に平行となるように

電流(交流または交替直流)を流し、ある区間の電位

差を測定することで求められる。すなわち、サンプ

ルの断面積を S、電位差の測定区間の長さを∆L、サ

ンプルに流した電流値を I、測定電位差を∆V とすると、サンプルの比抵抗ρは

IV

LS ∆∆

=ρ (3.2.2)

となる。比抵抗の単位は[Ωm]であり,その逆数が電導度(単位は[Ω-1m-1] =[Sm-1])になる。サンプルの

図 3.2-1 岩石・土質材料の比抵抗測定の原理

∆V

∆L

V

I

L

S

4 電極法

2 電極法

サンプル

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比抵抗の測定方法としては一般的には 2 電極法と 4 電極法がある。2 電極法はサンプルの両端に電極を取

り付けて、電極間の電位差とサンプルに流れる電流とを測定する方法である。4 電極法は電流を流す電極

のほかに 2 つの電位電極をサンプルに接触させ、その電極間の電位差を測定する方法である。2 電極法は、

接触抵抗や誘電分極の影響など電極とサンプルとの界面の影響が測定値に入るため、4 電極法に比べて高

精度の測定は期待できない。したがって、今回は4電極法を用いた。また、過渡現象に着目するIP現象

の測定ではさらに電位電極の構造にも検討が必要である。

IP現象の測定には時間領域での測定と周波数

領域での測定の 2 種類が存在する。時間領域での

測定は,一定電流を流しておき,その電流遮断後

の過渡的な電位を測定することにより行う。この

場合,IP 現象は遮断前後の電圧の比率から充電率

(Chargeability)として定義される。周波数領域で

の測定では,交流電流を流し,周波数による比抵

抗および位相差の変化として測定を行う。周波数

領域で測定を行なった場合,IP 現象を表すパラ

メータとして周波数効果 PFE ( Percent

Frequency Effect)が次のように定義される。

( )100⋅

−=

dc

acdcPFEρ

ρρ

(3.2.3)

ここで,ρdc;低周波数による比抵抗

ρac;高周波数による比抵抗

今回の実験では,周波数に応じたIP現象が捉

えられることを考え,周波数領域での測定を実施

した。測定システムの概要を図 3.2-3 に示す。図

中の周波数特性分析器は、被測定系の周波数応答

を分析する装置である。まず、発振器により設定

した正弦波電流をサンプルに与え、次いで試料内

の電位差および検出抵抗を介した電流電位を分析

部に取りこむ。この 2ch の信号をフーリエ積分の

手法によって解析して比抵抗と位相差を測定・記

録する。

図 3.2-3 測定システムの概念図

18.210021.3

14.321.3=⋅

−=PFE

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

3

3.05

3.1

3.15

3.2

3.25

0.1 1 10 100 1000周波数(Hz)

位相(deg)

比抵抗(Ωm)3.21

3.14

図 3.2-2 周波数効果(PFE)の概念図

周波数分析器 output CH1 CH2

VIコンバーター 差動アンプ

電流検出抵抗サンプルホルダー

電位電極

差動アンプ

シールドボックス

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(2)電位電極の構造とブランクテスト

前述のように,4 電極法を採用して電位電極を電流電極と分離することにより電流電極の周りで生じる

誘電分極の影響は避けることが可能であるが,電位電極自体も電位の変動に伴い間隙水⇔-金属電極の間に

電荷の授受が行われるため,これに起因する電位変動や過渡現象が生じる。この影響を避けるため、電位

電極には、金属電極と共通のイオン(例えば鉛電極⇔塩化鉛溶液)を介した非分極性電極を用いることが

必要となる。また、この電極部を電位測定位置に設置させた状態とするために、共通イオンを多量に有す

るたとえば飽和 KCL 溶液で液絡させるのが通例である。この液絡部分は塩橋と呼ばれ,溶液の滲出や拡

散を少なくするために寒天などで固め、先端を毛細管状にしたものを用いることが多い。

今回の実験では,電位電極として市販の飽和甘

コウ(塩化第一水銀)電極を用いた。この電極は

安定性および再現性に優れ、電気化学の分野では

照合電極として用いられるものである。飽和甘コ

ウ電極は,その形状からそのまま電位電極として

用いることは困難であるため,図 3.2-4 に示すよ

うに飽和 KCL 溶液を固めた寒天を塩橋として用

いた。電極をサンプルの所定位置に設置する冶具

のことをサンプルホルダーと呼ぶ。今回の測定で

はサンプルホルダーは 1 対のアクリル製の円筒溶

液の中にKCL溶液(比抵抗1Ωm)を寒天で固め,

その間にサンプルを挟みこむ構造とした(図3.2-5,

写真 3.2-1)。電流は両端から真鍮網を介して流し,

電位差の測定は図 3.2-4 に示した塩橋をサンプル

ホルダー両端の寒天に差し込んで測定した。

写真 3.2-1 測定時の状況

飽和KCL水溶液+寒天(塩橋)

飽和甘コウ電極

飽和KCL水溶液

図 3.2-4 電極および塩橋の概念図

電位電極(塩橋)

電流電極(真鍮網)

10mm

50mm

50mm

20mm

KCl 水溶液

寒天

図 3.2-5 サンプルホルダーの概要

(ブランクテスト時の状況)

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サンプルの測定に先立ち装置の応答性が実験結果に影響を与えないものであることを確認するためにブ

ランクテストを行った。これは,サンプルの代わりに周波数による変化が無い材料をセットし装置の特性

の影響を見るテストであり,ここでは図 3.2-5 に示したようにKCL 水溶液をアクリル円筒内に入れて測定

を行った。ブランクテストの例を図 3.2-6 に示す。比抵抗は周波数による変動はほとんど認められない。

また位相の変化も 大で約 0.4°(7mrad)とわずかで,測定システムとして十分な性能を有している。

0.1 1 10 100 10000123456789

10

-100-80-60-40-20020406080100

Frequency [Hz]

Res

istiv

ity [Ω

m]

Pha

se D

ela y

[millr

ad]

図 3.2-6 ブランクテストの結果(2ΩmKCL 溶液による)

3.2.3 沿岸域堆積軟岩の測定結果

(1)実験に用いた試料

今回の実験に用いた試料は国内太平洋沿岸部で

掘削されたボーリングコアより採取した,新第三

紀鮮新統の極細粒砂質シルト岩である。対象地点

のシルト岩の物理特性を表 3.2-1 に示す。土粒子

の密度が 2.56 とやや小さく(一般の鉱物粒子では

2.6~2.7 程度)間隙率が 52.7%と大きいのが特徴

であり,顕微鏡観察により確認されている珪藻殻

の存在が影響しているものと考えられる。

X線回折による鉱物分析結果では石英・斜長石

を主体とし,スメクタイト・緑泥石などの粘土鉱

物の存在が確認されている。

表 3.2-1 堆積軟岩の物理特性

土粒子の密度 g/cm3 2.56

湿潤密度 g/cm3 1.73

含水比 % 43.3

間隙比 1.12

間隙率 % 52.7

砂分 % 19

シルト分 % 52

粒度特性 粘土分 % 29

注;GL-100~400m の平均値

測定に先立つ試料の準備手順を図 3.2-7 に示す。対象地点では地下水採水結果やコアからの間隙水抽出

結果により間隙水の塩分濃度の分布が把握できている。1 深度の同等とみなせる試料について 5 供試体(直

径 5cm,長さ 5cm)を用意し,そのうちの 1 供試体(図の[4])は現地相当濃度の塩水で飽和を行った。

Measurement Result (Resistivity)

Measurement Result (Phase Delay)

Theoretical Resistivity (before)Theoretical Resistivity (after)

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20

図 3.2-7 試料の準備方法

残りの4供試体については片側から所定濃度の

塩水を注入することにより,強制的に間隙水の置

換を行った。使用した塩水の濃度は 0ppm(純水)

から 20000ppm(海水相当)である。この置換に

は三軸透水装置を改造して使用し,抽出される間

隙水の電導度の連続計測を実施した。この塩水通

水の状況の一例を図 3.2-8 に示す。抽出水の電導

度は元の間隙水の電導度に向かって上昇を続ける

が,間隙内部の水が注入水で置換されるに従い抽

出水の電導度は注入水の電導度に近づいていく。

本概要報告書に記した 3 試料については通水時

間を 2.5~3.5 週間とした。図 3.2-9 に塩水置換作

業終了時の注入水と抽出水の電導度の関係を示す。

抽出水の電導度は注入水と等しくはないが、供試

体ごとに段階的に異なる電導度を与えるという目

的は十分達成している。媒質の電導度を評価する

際にはこの抽出水の電導度を供試体間隙水のそれ

として取り扱っている。

図 3.2-8 塩水置換時の電導度変化

図 3.2-9 抽出水の電導度

0 10000 20000 300000

100

200

10-2

10-1

100

101

通水

量 

(cm

3 )

試料間隙水の電気伝導度

注入水の電気伝導度

抽出

水の

電気

伝導

度(S

/m)

通水時間  (min)

深度(m)

159-1

260267

1 2 3 4 5

+物理試験

CEC・X線分析薄片作成

1試料から5供試体を成形

現地相当水で脱気・飽和

真空槽

4

所定

濃度

の塩

で置

塩分(NaCl)濃度は7200ppm

注入

抽出

2

注入水の塩分(NaCl)濃度は0(純水),500,2000

20000ppm

電気伝導度連続計測

0m

50m

100m

150m

200m

250m

300m

350m

400m

0.01 0.1 1 100.01

0.1

1

10

注入水の電導度 S/m

抽出

水の

電導

度 

S/m

159-1 260 267

現地相当水で飽和

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21

(2)試料と間隙水の比抵抗

図3.2-10に試料と間隙水の比抵抗の関係を示す。

間隙水の比抵抗が増大するに従い,試料の比抵抗

は増大する傾向が認められ,同時に間隙水の比抵

抗が大きくなった場合,試料の比抵抗は一定値に

近づく傾向を示す。これは間隙水の比抵抗が大き

な場合は,媒質の電導度の成分が支配的になるた

めである。図中に示した回帰直線は式(3.2.1)を比

抵抗の関係に書き直したもので,これから媒質の

電導度として以下の値が得られる。

試料 159-1 Cm=637μS/cm

試料 260 Cm=805μS/cm

試料 267 Cm=952μS/cm

図 3.2-10 試料と間隙水の比抵抗の関係

(3)IP 特性

図 3.2-11 に PFE および位相差と周波数の関係

を示す。PFE は式(3.2.3)における高周波数の比抵

抗を 1000Hz 時とし、低周波の周波数を変えた場

合の変化率を求めたものである。PFE は 1000Hz

で 0%となり,周波数が低くなるに従い増大して

1Hz 時には 3~7%程度の値を示す。図の供試体

の凡例は通水した塩分濃度が低い順番,すなわち

供試体/間隙水の比抵抗が高い順番に並べている

が,PFE の大きさもほぼこの比抵抗の順番に並び,

比抵抗が大きな試料ほど PFE が大きくなってい

ることが見て取れる。一方,位相差については周

波数が 1000Hz で 大値を示し,周波数が低くな

るに従い減少する。供試体間の大小関係は PFE

の場合と同様であり,比抵抗が大きいほど位相差

も大きくなる傾向を示す。

図 3.2-11 に示すように PFE は周波数に応じて

変化する値であるが,ここでは一定の周波数間の

値に着目してみる。測定時にチェックしたところ

1Hz 付近より下の周波数ではやや再現性に欠け

図 3.2-11 堆積軟岩のIP特性

1 10 100 10000

2

4

6

8 260-1(0ppm) 260-2(500ppm) 260-3(2000ppm) 260-4(7200ppm) 260-5(20000ppm)

周波数 (Hz)

PFE 

 (%

)

1 10 100 10000

10

20

30

周波数 (Hz)

位相

差 

(mill

i rad

.) 260-1(0ppm) 260-2(500ppm) 260-3(2000ppm) 260-4(7200ppm) 260-5(20000ppm)

0.1 1 10 1000.1

1

10

100

間隙水の比抵抗 ρ w Ωm

試料

の比

抵抗

 ρ

f Ω

m

 1/ρf = 1/(F・ρw)+1/ρc1/ρc = Cm

159-1 260 267

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22

るため,10-1000Hz 間の値について整理した。図

3.2-12 はこの PFE の位相差の 大値(1000Hz

での値)を対比したもので,両者は比例関係にあ

ることが分かる。このことは位相差も PFE も同

じ特性をほぼ正確に捉えていることを表し,試料

の特性との関係は2つのうちのどちらかで評価す

ればよい。以下ではPFE を中心に整理を行う。

図 3.2-13 に試料の比抵抗と PFE の関係につい

て示す。比抵抗と PFE の関係は,ばらつきはあ

るものの次の関係で整理できそうである。

BfAPFE ρ⋅= (3.2.4)

今回の結果ではB はほぼ 0.5 となっている。

ここで Kema et al.(2004)にも示されているよ

うに周波数効果は表面伝導(媒質の電導度)成分

のみに現れることを考えると、今回測定された

PFE は 10%以下であり,式(3.2.1)・(3.2.3)より,

( ) ( )f

m

f

f

f

f

CFC

CFCFPFE ∆

=∆∆

=)(

100≒

ρρ

(3.2.5)

が成り立つ。ここで, mff CC ∆⋅∆⋅∆ρ

はそれぞれ比抵抗,電導度,媒質の電導度の周波

数(F)による変化を表す。

ここで,図 3.2-13 の横軸を比抵抗(ρf)の代

わりに媒質の電導度と試料の電導度の比(Cm/C

f)として図 3.2-14 に示す。このとき 3 つの試料は

ほぼ同一の関係を示し,関数で近似すると,

52.0

80.5 ⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛⋅=

f

m

CC

PFE (3.2.6)

なる関係を得ることができる。

1 2 4 10 201

5

10

試料の比抵抗 ρf (Ωm)

PFE

(10-

1000

Hz)

(%) 260 PFE=1.59×ρf

0.52159-1 PFE=1.38×ρf

0.50

267 PFE=1.68×ρf0.54

0.1 0.2 0.4 11

5

10

Cm/Cf

PFE

(10-

1000

Hz)

(%)

159-1260267

図 3.2-14 PFE とCm/Cfとの関係

図 3.2-12 位相差とPFE の関係

図 3.2-13 試料の比抵抗とPFE の関係

0 5 10 15 20 25 300

2

4

6

8

位相差の 大 (milli rad.)

PFE

(10-

1000

Hz)

(%) 159-1

260 267

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23

3.2.4 人工材料の実験結果

今回の人工材料による実験は、粘土鉱物の種類

と間隙水電導度を変えることで、分極特性は何に

起因しているのか明らかにすることを目的とした。

人工材料は粘土鉱物として Na-モンモリロナイ

ト,Ca-モンモリロナイト,カオリナイトの 3 種

類を用い,これを 3 種類の KCL 溶液(比抵抗

1,10,100Ωm)で飽和して測定を行った。

測定結果の 1 例として、カオリナイトの位相遅

れの周波数による変化を図 3.2.15 に示す。図から、

明らかなように間隙水電導度が小さくなる(比抵

抗が大きく)なるにつれて位相遅れの量、すなわ

ち分極特性(IP現象)は大きくなる。

実験結果全体を概観するために図3.2-16に各種

材料の全比抵抗と充電率の関係を示す。図から比

抵抗が大きくなるほど充電率が大きく、すなわち

IP現象が大きく現れていることがわかる。また,

同じ比抵抗で比較すると陽イオン交換容量(CE

C)が大きいモンモリナイトの方がカオリナイト

よりも充電率が大きくなっている。

粘土鉱物試料の模式図を図 3.2-17 に示す。粘土

鉱物の周りにできる電気二重層と間隙水のイオン

の間には濃度差が生じ、それにより拡散電位が生

じる。この拡散電位によりIP現象が生じている

と考えられる。間隙水のイオン濃度が小さい(比

抵抗が大きい)と濃度差が大きくなり分極特性は

大きくなり,さらに電流の流れは電気二重層内(表

面伝導=媒質の電導度)が支配的となる。このた

め全体の比抵抗が大きな程IP現象は大きく現れ

る。また、CECが大きければ電気 2 重層内のイ

オン濃度は大きくなり、同様の傾向を示す。

堆積軟岩の実験結果も同様の結果を示しており、

これと同じ原理で説明できると考えられる。

図3.2-16 人工材料の全比抵抗と充電率の関係

0.1 1 10 100 10000.01

0.1

1

10

比抵抗 ρ f Ωm

充電

率 

Naモンモリナイト CEC=84.4 Caモンモリナイト CEC=76.4 カオリナイト    CEC= 2.0

図 3.2.15 カオリナイトの分極特性

図 3.2-17 粘土試料の模式図

0.1 1 10 100 1000-20

0

20

40

60

80間隙水の比抵抗

1Ωm 10Ωm 100Ωm

位相

遅れ

(mill

i rad

.)

周波数 (Hz)

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24

3.2.5 既存データとの対比と検討

(1)既存室内実験データとの対比

これまでに実施した既存データも含めて、種々の

材料のIP特性について整理した。

既存データは,市販の粘土に砂を混入して作成し

た人工材料で,試料作成時の間隙水塩分濃度を変化

させ,圧密により間隙率を変化させることにより,

比抵抗を変化させた。図3.2-18に比抵抗の値とPFE

の関係を示す。使用した粘土は,堆積軟岩と比べ,

陽イオン交換容量(CEC)の値が小さいものであっ

た。図3.2-18に示すように堆積軟岩よりも人工材料

の方が,また人工材料でも粘土分が少ない方が同じ

比抵抗の試料でPFE が小さくなっている。

人工材料と堆積軟岩のデータに対する,Cm/Cf

とPFE の関係が図 3.2-19 であり,材料によらずほ

ぼ一定の関係となる。関数で近似すると,

5.0

24.5 ⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛⋅=

f

m

CC

PFE (3.2.7)

なる関係を得ることが出来る。

図3.2-18人工材料を含む比抵抗とPFE の関係

図3.2-19 PFEとCm/Cfの関係

1 5 10 501

5

10

試料の比抵抗 ρ f (Ωm)PF

E (1

0-10

00H

z )

(%)

人工材料 粘土100% 粘土75% 粘土50% 粘土25%

堆積軟岩 159-1 260 267

0.01 0.05 0.1 0.5 11

5

10

Cm/Cf

PFE

(10-

1000

Hz

) (%

)

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25

(2)既往検層データを用いた検討

今回実験に用いた試料の採取地点では,種々の検層,地下水分析等が行われ地盤の比抵抗や間隙水の電

導度などが明らかとなっている。ここでは今回得られた知見とこれら検層データから間隙水の電導度を推

定することを試みた。検討に用いる検層データを図 3.2-20 に示す。使用するのは密度検層,電導度検層,

IP検層の 3 種類である。図には室内で岩石コアの測定結果を合わせて示しているが,両者の結果は調和

的である。

図 3.2-20 検討に用いた検層データ(密度検層,電導度検層,IP検層)

式(3.2.7)を展開することにより,媒質の電導度

を地層または試料の電導度と PFE から求めるこ

とが出来る。すなわち, 2

24.5⎟⎠⎞

⎜⎝⎛⋅=PFECC fm (3.2.8)

文献調査、人工材料実験で示した陽イオン交換

容量(CEC)と電気2重層の関係を確かめるため、

図 3.2-20 に示した岩石コアのIP測定結果に式

(3.2.8)を当てはめ媒質の電導度を算出し CEC と

対比した(図 3.2-21)。図から、陽イオン交換容

量が大きなほど媒質の電導度が大きくなる傾向が

得られ、全体に整合性があることがわかる。

図 3.2-21 媒質の電導度とCEC の関係

0 1 2

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

深度

  

密度  g/cm30 2000 4000 6000

地層電導率 μS/cm

 岩石コア 検層・探査結果

0 2 4 6

2 4 6 8

充電率 mV/V

PFE %

0 10 20 300

500

1000

1500

陽イオン交換容量CEC

Cm

μS/

cm

 岩石試験からの計算値 人工材料の測定値(φ≒0.5) 堆積軟岩の測定値

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26

図3.2-20に示した地層の電導度とIP検層結果

からも式(3.2.8)を用いて媒質の電導度を求める

ことが出来る。ただし,IP検層のデータは時間

領域の測定(測定結果は充電率)であるため,別

途岩石コアで時間領域/周波数領域のパラメータ

の関係を求め,充電率を PFE に換算して計算を

行った。その結果を図 3.2-22 に示す。計算によれ

ば対象地点の媒質の電導度は 200~1300µS/cm の

間で分布する。その値は間隙水の電導度を変化さ

せて求めた値(図の印)と整合するものである。

また,深度方向へのトレンドとして,

深度方向に全体的には増加傾向にある

GL-300~350m 付近および 400m以深で部分

的に低下する

となるが,この傾向は自然放射能の値と整合的

である。自然放射能は粘土鉱物の含有量と関係が

あり,このようなトレンドの一致は計算結果の妥

当性を表すものと考えられる。

媒質の電導度と地層の電導度が既知であれば,

式(3.2.1)を用いることにより間隙水の電導度を求

めることが可能となる。ここで式(3.2.1)に現れる

パラメータ,φ(間隙率)は,図 3.2-20 に示した

密度の値から算出した。求めた間隙水の電導度を

ボーリングコアからの塩水抽出結果と対比して図

3.2-23 に示す。算出された間隙水の電導度は抽出

水による測定値の有する深度方向への増加傾向を

ほぼ的確に捉えている。

図 3.2-22 媒質の電導度の算出結果

図 3.2-23 間隙水の電導度の算出結果

103 104 105

0

100

200

300

400

500

 計算値 抽出水による測定値

間隙水伝導度(μS/cm)

深 

度 

 (

m)

101 102 103 104

0

100

200

300

400

500

50 100 500 1000

Cm (μS/cm)

深 

度 

 (

m)

自然放射能(CPS)

Cm(計算値) Cm(測定値) 自然放射能

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27

3.3 得られた成果のまとめ

3.3.1 フィージビリティ・スタディの目的(再掲)

得られた成果と対比のために本研究の目的を以下に再掲する。

「粘土鉱物を含む地盤の媒質(間隙以外)の電導度を、IP(強制分極)特性を測定することで把握可能

か、文献調査と実際の岩石及び人工材料による室内実験により明らかにする。」

3.3.2 得られた成果の一覧

文献調査および室内実験から以下の成果が得られた。

⑤ 文献調査により,粘土鉱物を含む地盤の媒質の電導度評価方法としてIP特性測定の有効性を示す

ことができた。

• 粘土鉱物を含む岩石の IP 現象(分極特性)は粘土鉱物粒子周辺の電気二重層のイオン濃度と

間隙水のイオン濃度の差によって生じる拡散電位に関係する。

• 電気二重層のイオン濃度は陽イオン交換容量と関係している。

• 原位置においてトモグラフィ手法による測定を行い、IP 特性から粘土鉱物の含有量の多少を評

価している文献がある。このことは本手法が室内だけでなく、原位置への展開の可能性を示し

ている。

⑥ 人工材料による室内実験結果から、粘土鉱物を含む材料が IP 特性(分極特性)を示す原理について

定性的に明らかにした。この結果は文献調査と整合性がある。

• 粘土鉱物と間隙水の電導度を変えて測定した結果、間隙水の電導度が小さい(比抵抗が大きい)

ほど、IP 特性が大きくなることがわかった。間隙水の電導度が小さな場合は電気二重層のイオ

ン濃度と間隙水のイオン濃度の差が大きいために分極特性が大きくなり、これに加え電気の流

れは電気二重層内(表面伝導=媒質の電導度)が支配的となるためである。

• 陽イオン交換容量が大きな粘土鉱物のものが分極特性は大きくなる。これは陽イオン交換量が

大きな粘土鉱物では、その周辺に形成される電気二重層が大きくなるためである。

⑦ 粘土鉱物を含む岩石を用いた室内実験結果から、IP 特性と全電導度および媒質の電導度の関係を得

た。さらに、人工材料の実験結果も含めて考察することにより、IP 特性から媒質の電導度を導く式

を求めることができた。

• 新第三紀の堆積軟岩(シルト岩)を用いて、間隙水の電導度を変化させて、IP 特性を測定した。

その結果と、既往の人工材料の結果を合わせることで IP 特性と媒質の電導度の関係を定式化

できた。

以下に、その結果を示す図と式を再掲する。

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28

0.01 0.05 0.1 0.5 11

5

10

Cm/Cf

PFE

(10-

1000

Hz

) (%

)

図 3.2-19 PFEとCm/Cfの関係 (再掲)

得られた式(3.2.7):

5.0

24.5 ⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛⋅=

f

m

CC

PFE (再掲)

ここでそれぞれの定数は以下のとおり。

PFE:分極特性、Cm:媒質の電導度、Cf:全地盤の電導度

• 得られた岩石による測定結果は文献調査結果、人工材料による実験結果で得られた知見とよ

い整合性がある。

• 以前に取得した原位置の検層データを用いて IP 特性から媒質の電導度の評価を行い、地下

水淡塩分布(電導度分布)の推定を行い、別途実施した地下水サンプリングにより求めた淡

塩分布と調和的なことを示した。

• 既往の原位置測定である検層結果から、得られた式を用いて媒質の電導度の評価を行った。

その結果は粘土鉱物の含有量と密接な関係のある自然放射能検層結果とよい対応を示した。

さらに得られた媒質の電導度を用いて地下水の電導度を計算し、別途実施した地下水サンプ

リングにより求めた地下水の電導度を比較した結果、良い整合性が得られた。このことは

終目標である実フィールドでの地下水淡塩分把握に本手法の適用性が高いことを示すもの

といえる。

以上から、本フィージビリティ・スタディの目的である「粘土鉱物を含む地盤の媒質(間隙以外)の

電導度を、IP(強制分極)特性を測定することで把握可能か、文献調査と実際の岩石及び人工材料によ

る室内実験により明らかにする。」に対して、媒質の電導度は IP 特性を測定することで把握可能である

ことが示された。

:岩石材料

その他:人工材料

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29

3.3.3 参考文献

(1) 産業創造研究所(1999)、(2000)、(2001)、(2002)平成 10 年度地下水流動調査成果報告書、平成 11

年度地下水流動調査成果報告書、平成 12 年度地下水流動調査成果報告書、平成 13 年度地下水流動調査成

果報告書

(2)今村杉夫、亀谷裕志、桜井健(2002)、人工材料を用いた室内試験による粘土分含有率と電気特性と

の関係、物理探査学会第 107 回学術講演会論文集、pp187-190.

3.4 実施計画と進捗状況の比較

本フィージビリティ・スタディは単年度の研究として,当初意図した目的を達成するために必要な研

究は実施できたと考えている。

上述したように、当初目的達成のために必要な研究はほぼ計画通りに進捗したといえるが、当初の計画

内容に照らしてやや不十分な点として以下に示す。

• 得られた結果の全体開発調査システムへの組み込みの部分がやや不十分である。本報告では原

位置調査に展開したときの適用性については言及したものの、ハードウェア、ソフトウェアの

設計にあたって、具体的な仕様まで踏み込んだ内容とはなっていない。

• 本報告書に記載の室内実験に用いた岩石試料数は全部で 3 シリーズである。これは岩石の透水

係数が予想よりも小さく、試料準備のために行った間隙水の置換(通水)に多くの時間がかかっ

たためである。今後は、結果の評価に関して信頼度を上げるため、また、より広い適用性を検

討するために、他の採取地点の岩石も含めより多くの実験結果を積み重ねていく予定である。

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30

4.まとめ

4.1 成果の評価-IP 特性を用いた媒質の電導度把握手法について

文献調査と室内実験により、粘土鉱物を含む岩石の媒質(間隙以外)の電導度を、IP 特性を測定するこ

とによって把握できるかどうか検討した。

方法は、文献調査、人工試料による試験、実際の岩石による試験、を用いた。

① 粘土鉱物を用いて作製した人工材料による室内実験では「間隙水の電導度が小さいほど IP 特性が大

きくなる」、「陽イオン交換容量の大きい粘土鉱物のものが分極特性は大きくなる」ことが示された。

② 実際の粘土鉱物を含んだ岩石を用いた試験では「間隙水の電導度を変化させた試料において間隙水

の電導度が小さいほうが IP 特性は大きくなる」、「PFE(IP 特性)と媒質の電導度を全電導度で除

したものは良い相関関係をもつ」ことが示された。

③ 文献調査では「粘土鉱物を含む岩石の IP 特性(分極特性)は粘土鉱物粒子周辺の電気二重層のイオ

ン濃度と間隙水のイオン濃度の差によって生じる拡散電位に関係する」、「電気二重層のイオン濃度

は陽イオン交換容量の大きさと関係している」ことが示された。

以上の3つの調査結果は整合的である。すなわち、媒質の電導度は粘土鉱物周辺に形成される電気二重

層のイオン濃度に関係しており、IP 特性は電気二重層のイオン濃度と間隙水のイオン濃度の差によって起

こる拡散電位によって生じている。このことは文献で示されており、実験的にも示された。

さらに実際のフィールドへの展開として、この結果を既往の原位置における検層結果に適用したところ、

地下水の淡塩分布(電導度分布)を的確に捉えることができた。

3つの異なる調査結果が整合よくまとまっており、検層結果との比較でよい結果が得られたことから、

今回の成果は十分、信頼性に足る結果であると評価できる。

以上のことから、今回の IP 特性による媒質の電導度評価手法は,原理的に明らかであり,また原位置地

盤への適用性も確認されたことから、本フィージビリティ・スタディの目的が達せられたと判断できる。

4.2 今後の計画-地下水淡塩分布調査システムへの組み込み

本フィージビリティ・スタディは 1 章、2 章で示した全体技術開発内容のブレイクスルー部分として実

施した。すなわち、地表からの物理探査手法を中心にした3次元的地下水の淡塩分布調査システムを確立

するには媒質(間隙以外)の電導度を地表からの探査で求める必要がある。しかし、これまで確立された

手法はなく、今回、地表からの測定が可能な IP 特性に着目して、文献調査、室内実験によりその有効性

について研究した。その結果、4.1 章でも示したように、IP 特性は媒質の電導度評価に有効であることが

確認できた。さらに原位置(フィールド)での IP 特性の測定についても、実験結果の既往の検層結果へ

の適用や文献調査にあるトモグラフィの例から、適用性が高いことが示された。

今後は、他地域の岩石に対する実験などを積み重ねて、今回の研究結果の信頼度を上げるとともにその

適用範囲の確認をはかっていくことが必要である。

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本フィージビリティ・スタディの結果をうけて、次年度は第1区分への申し込みを前提に、物理探査を

主体にした 3 次元的地下水の淡塩分布調査システムの開発計画を進めていく予定である。

以下に 終開発目標である調査システムへの本研究の組み込みを含めた開発内容について示す。

(1) 本研究成果の調査システムへの組み込み

堆積軟岩中の地下水電導度を求めるには、岩石全体の電導度、間隙率、媒質の電導度の3要素をそれぞ

れ求める必要がある。それらは、以下の方法で探査可能である。

① 岩石全体の電導度⇒ 電気探査、

② 間隙率⇒ 弾性波探査

③ 媒質の電導度⇒IP 法電気探査 :今回のフィージビリティ・スタディの成果

次に実際の調査システムとして IP 法電気探査の測定システムはどのような性能を有している必要があ

るかを検討する。

・ IP 検出能力:

今回の実験で用いた岩石ではPFE として 10%以下であり、高い SN 比が必要である。

・ 探査対象深度:

法令で示されている想定処分深度 300m以深に対応して 500m程度は必要である。

・ 測定効率:

概要調査段階の適用を想定すると少なくとも2km四方を調査する必要があり、地下水状態

の時間変動を考慮すれば迅速な測定が望まれる。測定効率に関する仕様は他の研究を参考に

しながら今後、検討していく。

(2)今後の開発課題と開発内容

調査システム開発に向けた課題は以下のとおりである。

堆積軟岩は媒質の部分が高電導度(低比抵抗)であり、さらに間隙水(地下水)が塩分を含んで高電導

度になると、地盤の電導度は極めて高い値を示す。高電導度を示す地盤における電気探査では測定される

電位が小さくSN比が悪くなる。今回の研究で、媒質の電導度把握のためには PFE を 10%以下で測定でき

るが必要があることがわかった。この方面からも高い SN 比が必要である。また、極めて高い電導度を示

す海がその近傍に位置するために、測定、解析において偽像などの影響が出ることが予測される。

また、地下水状況の時間変動に対応するため、迅速な測定が可能なシステムが要求される。3要素を組

み合わせた解析を行うことから、全電導度、媒質の電導度は同時測定が必要である。しかし間隙率は時間

変動が起こらないと考えることができるため、測定は別に異なる時間帯で測定できる。

終目標である物理探査を主体とした地下水淡塩分布調査システム開発にあたり、課題に対応した開発

内容を以下に示す。

① 迅速な測定が可能で高い SN 比をもち、IP、全電導度の同時測定が可能なハードウェアの開発。効率

的、実用的な3次元測定システムの仕様検討。測定時間に関する仕様検討を含む。実用的で迅速な

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3次元測定システムの仕様を検討するために、下図のような配置でシミュレーションなど行う。

② 沿岸地域(海近傍)でも有効な IP 解析を含む3次元電気探査解析ソフトウェアの開発、

③ 媒質の電導度評価にあたって室内実験の補足。検証のための原位置実験を含む。

開発にあたってはコアサイズの室内試験のほか、より大きなサイズの室内モデル実験やボーリング掘削

なども実施予定である。

(3)今後の概略研究開発工程

区分1への応募を考慮して、 終目標である調査システム全体の開発工程を以下に示す。

初年度は詳細な開発仕様を検討し、ハードウェア、ソフトウェアとも概念設計をスタートする。2年目

は基礎部の試作、コード化を3年目途中まで行い、3年目後半は取りまとめを行う。堆積軟岩の電気的性

質の研究はコアサイズの室内実験の補足と室内であるがより大きなサイズでの実験、原位置実験(ボーリ

ング孔内を含む)を行う。また、ハードウェアの開発品に対しても原位置実験を行う。 終年度後半で全

体の取りまとめを行う。

2次元測定の組み合わせ 任意の3次元測定

図 4.2.-1 効率的な3次元測定システムの仕様検討例

平成18年度平成17年度平成16年度開発項目/年度

取りまとめ設計.コード化検討・設計3次元電気探査解析ソフトウェアに関する開発

取りまとめ基礎部試作、実験、再設計

検討・概念設計

高精度電気探査ハードウェアに関する開発

取りまとめ室内実験

原位置実験

室内実験、原位置実験準備

堆積軟岩の電気的性質の研究(室内実験、原位置実験)

調査システムとしての統合

開発仕様の検討 検討

統合・取りまとめ

各課題評価

平成18年度平成17年度平成16年度開発項目/年度

取りまとめ設計.コード化検討・設計3次元電気探査解析ソフトウェアに関する開発

取りまとめ基礎部試作、実験、再設計

検討・概念設計

高精度電気探査ハードウェアに関する開発

取りまとめ室内実験

原位置実験

室内実験、原位置実験準備

堆積軟岩の電気的性質の研究(室内実験、原位置実験)

調査システムとしての統合

開発仕様の検討 検討

統合・取りまとめ

各課題評価

表 4.2-1 全体システム開発工程

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4.3 得られた事業成果に対する自己評価

全体技術開発計画のうち も困難を予測され、原理的にも明らかでなかった IP 特性による媒質の電導

度評価を単年度のフィージビリティ・スタディとして研究した。結果は文献調査、室内実験を通して全体

に整合が取れており、原理的にも実験的にもその有効性が確認できた。したがって、研究目的を達成でき

たという意味で今回の成果は評価できると考えられる。

ただし、得られた成果の信頼度をあげるためさらに多くの実験結果を積み重ねること、得られた成果の

適用範囲を検討する意味で他地域の岩石試料による実験行っていくことが必要である。また、 終目標で

ある地下水淡塩調査システムの研究では今回の結果を、製作するハードウェア、ソフトウェアの仕様検討

に反映させていくことが必要であると考える。