沸騰を伴う熱交換器伝熱管群の気液二相流の数値解析による...
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三菱重工技報 Vol.55 No.2 (2018) 新技術特集
技 術 論 文 1
*1 総合研究所 伝熱研究部 主席研究員 *2 総合研究所 伝熱研究部
沸騰を伴う熱交換器伝熱管群の気液二相流の
数値解析による性能予測技術の開発 Development of Two-phase Flow Numerical Simulation Platform for
Evaluating Boiling Heat Exchanger Design
近 藤 喜 之 * 1 程 凌 * 1 Yoshiyuki Kondo Ling Cheng
小 室 吉 輝 * 2 児 玉 敦 司 * 2 Yoshiteru Komuro Atsushi Kodama
三菱重工が取り扱う熱交換器においては,気体と液体が混在して流れる,いわゆる気液二相
流という現象を考慮する必要がある。気液二相流は相変化や相間作用力といった単相流にはな
い物理作用を伴い,その予測・評価は単相流に比べて非常に難しい。そこで,二流体モデルに
基づく二相流解析技術を開発し,これらの製品の性能評価・設計指標評価を行っており,その主
要概要を紹介する。
|1. はじめに
三菱重工が取り扱う製品においては,気体と液体が混在して流れる,いわゆる気液二相流を取
り扱うものが複数ある。例えば,原子力プラントのキーコンポーネントである蒸気発生器や,ターボ
冷凍機における蒸発器,化学プラントのリボイラなどが挙げられる。これら製品の信頼性を確保す
るためには,気液二相流の流動の特性を十分に把握しておく必要があり,当社は長年にわたって
その研究に取り組んでいる。ここでは,その主要概要を紹介する。
|2. 二相流解析手法
熱交換器の伝熱管群を模擬したポーラス体(抵抗模擬体)における沸騰モデル及び伝熱管抵
抗モデルを開発した。ポーラス体内の気相と液相の質量保存式,運動量保存式,エネルギー保
存式は次式となる。
∂∂t
∙ Γ (1)
∂∂t
∙ ∙
α ∙ (2)
∂∂t
∙ ∙
∙ Γ ∙ "
(3)
ここで,γ は流体の体積率, は k 相の体積率,Γ は k 相の質量生成項, は k 相の運動量
生成項, は k 相の入熱量, "は気液界面の熱流束, は気液界面積濃度である。
k=gは気相,k=fは液相を表す。
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気液二相流の相間作用を図1に示す。単相流と異なり,気相と液相の速度差により運動量輸
送が発生する。気液界面抗力 は式(4)の構成方程式により計算する。ここで,気液界面積濃
度 は相関式によりボイド率 と物性値から計算される。
∙2∙ ∙ ∙ | | (4)
ここで,CD は抗力係数であり,構成方程式により計算する。物性値や気泡の速度によって用い
る式が異なるが,一例を式(5)に示す。ここで, は気液の相対速度, は気泡径, は液相の
密度, は二相平均粘性係数である。
241 0.1 . , (5)
熱交換器においては,伝熱管内外の流体の温度差により熱輸送が発生する。図2に示すよう
に,解析コードにおいて,管内対流熱伝達,管壁の熱伝導,管外の沸騰又は単相対流熱伝達を
モデル化する。管内外流体の熱量の授受を考慮し,管外流体の温度と管内流体の温度を連成し
た計算を行い,伝熱管を通過する熱流束を計算する。
図1 二相流解析における気液相間作用 図2 管内と管外の熱伝達の考え方
|3. 解析事例
3.1 蒸気発生器
原子力プラントの蒸気発生器(Steam Generator, SG)は図3のように,伝熱管群で構成されてお
り,原子炉で発生した熱を,伝熱管内側を流れる一次冷却材を介して,伝熱管外側を流れる二次
冷却材に伝達する熱交換器である。
図3 蒸気発生器の構造
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蒸気発生器のU字型伝熱管群において,伝熱管群の頂部は直交する流れにさらされる。その
ような管群においては,一定以上の流速になると大きな振幅の振動が発生する流力弾性振動と
いう現象が発生する(1)。流力弾性振動の発生限界評価に用いる評価因子として,気液二相流の
平均密度および流速分布が必要となる。
伝熱管群部の気液二相流挙動は伝熱管の形状および流動様式の影響を受ける。また,伝熱
管群の上方には管群外筒との間には,管群が存在せず水力等価直径が大きい空間が存在して
おり,そこで発生しうる気液分離現象を評価するためには二流体モデルが必要となる。
実機解析においては,管内と管外の熱の授受を考慮した解析を行うが,本報では,実機模擬
流体を用いた断熱試験体系の再現解析例を説明する。断熱系のため,伝熱管群の管外におけ
る気液二相流挙動を解析対象とする。
試験には実機の 1/2 縮尺のU字型管群装置を用いており,作動流体として,六フッ化硫黄‐エ
タノール系流体と称される,常温低圧条件で実機と同様の蒸気-水の物性値(気液密度,表面張
力等)を模擬できる流体(2,3)を使用している。
解析結果のボイド率分布,及び,気液界面速度分布を図4に示す。図4はU字型伝熱管群最
外周における角度位置(図3に示す U-bend 角度)に対するボイド率分布および流速分布である。
U-bend 角度 160°付近において,ボイド率が低い(液が多い)領域が存在しており,これは伝熱
管群より上部の空間で発生した気液分離現象に起因する。二流体モデルを用いた解析により,
気液分離現象の再現が概ね可能となった。
図4 蒸気発生器解析結果
3.2 化学プラントのリボイラ(4)
当社の化学プラントの系統の一例を図5に示す。本報における対象は,リボイラとよばれる装置
であり,熱交換によってプロセス液を加熱・沸騰させる装置である。図6に示すように,熱交換器内
の伝熱細管においては,過熱蒸気が流入し,凝縮水が流出する。管外は,飽和液状態のプロセ
ス液が流入し,加熱され,一部が沸騰して二相状態で流出する。
図5 化学プラントにおけるリボイラ 図6 リボイラ周りの系統図(例)
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二相流解析ツールにより,リボイラの性能評価が可能となる。図7に示す通り,実証プラントの熱
交換量の予測精度は,10%である(当該検証例では-10%であり,性能を低い側に評価)。図8に
クオリティ(気相の質量流量割合)の分布を示す。高クオリティ領域の発生箇所を評価でき,熱交
換性能の低下等の予測に繋げることが可能である。図8において,管外が高クオリティの箇所は,
図9において,熱交換量が小さいことが確認できる。
図7 熱交換量の検証結果
図8 クオリティ(ガス質量流量割合)分布の評価 図9 熱交換量分布の評価
3.3 ターボ冷凍機(5)
図10~図12に示すようなターボ冷凍機の蒸発器においては,管外を流れる冷媒と管内を流れ
る水が熱交換を行う。熱交換量の分布は長尺の伝熱管の構造健全性評価に必要であり,冷媒の
液位は気液分離機構の設計上重要な指標となる。蒸発器の二相流解析により,これらの設計指
標が評価可能となる。
図 10 冷凍機外観(ETI-Z シリーズカタログより) 図 11 蒸発器断面図
図 12 蒸発器側面図
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蒸発器の内部を解析対象とし,管群をポーラス体(抵抗模擬体)により表現する。管内の冷水
と,管外の冷媒の熱交換を考慮し,蒸発器全体の熱流動解析を実施した。図 13 に示すボイド率
コンター(ガス体積割合分布)から低ボイド領域(液が多い領域)の存在箇所が評価でき,気液分
離機構の設計に繋げることができる。また,図 14 に示す熱流束分布から,管軸方向の温度分布
等も評価でき,温度分布による構造物の健全性評価等に繋げることが可能である。
図 13 解析結果 ボイド率分布 図 14 解析結果 熱流束分布
|4. まとめ
二流体モデルに基づく二相流解析技術を開発し,原子力プラントの蒸気発生器,化学プラント
のリボイラ,ターボ冷凍機の蒸発器の性能評価・設計指標評価を行った。蒸気発生器において
は,Uベンドに沿った流速やボイド率分布を評価でき,流動励起振動を低減する評価ができる。リ
ボイラにおいては,熱交換量の性能評価が可能となった。ターボ冷凍機蒸発器においては,熱
交換量やボイド率分布の評価から,液位・気液分離性能の設計評価や,伝熱管の温度分布を用
いた構造健全性評価に繋げることが可能となる。
参考文献 (1) 日本機械学会,蒸気発生器伝熱管U字管部流力弾性振動防止指針,JSME S 016 (2002)
(2) 特許第 3500120 号,気液二相流模擬試験方法および装置 (2002)
(3) 特許第 5101012 号,気液二相流模擬試験装置および気液二相流模擬試験方法(2012)
(4) 特許第 05777370 号,リボイラ (2015)
(5) 特願 2017-201077 号,冷凍機用蒸発器 (2017)