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流通・物流分野における 情報の利活用等に関する研究会 調査報告書 平成 28 5 経済産業省 商務流通保安グループ

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流通・物流分野における

情報の利活用等に関する研究会

調査報告書

平成 28年 5月

経済産業省

商務流通保安グループ

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目次

1. はじめに ........................................................................................................................ 1

1) 本研究会の背景・目的 ............................................................................................... 1

2) 検討体制・検討概要 .................................................................................................. 2

3) 本報告書の構成 ........................................................................................................ 5

2. 流通・物流業のこれまでの変遷と現状 ............................................................................ 6

1) これまでの流通業の変遷 ........................................................................................... 6

① 1950年代~1960年代 ...................................................................................... 6

② 1970年代~1980年代前半............................................................................... 7

③ 1980年代後半~1990年代............................................................................... 8

④ 2000年~現在 .................................................................................................. 9

2) 流通・物流業の現在 .................................................................................................. 11

① 流通・物流業の主な動向 ................................................................................... 11

② 我が国における流通・物流業の特徴 ................................................................. 16

③ 我が国の流通・物流業におけるデータ利活用 ................................................... 19

3. 2030年における流通・物流業の姿 .............................................................................. 22

1) 少子高齢化に伴う人口減少による変化 ..................................................................... 23

① 国内消費需要の低迷 ....................................................................................... 23

② 消費者の高齢化・多様化 .................................................................................. 24

③ 労働力不足 ...................................................................................................... 26

④ 流通・物流業と他業種との融合・関係変化 ......................................................... 29

⑤ ネット販売の拡大 .............................................................................................. 31

2) 消費者理解の深化とサービスへの反映 .................................................................... 34

① 背景:なぜいま消費データが重要か .................................................................. 34

② 消費インテリジェンスの活用 .............................................................................. 50

③ 消費者のニーズに合わせた実店舗を持つ小売業の役割変化 ............................ 50

3) 企業と消費者の適切な関係構築・消費者起点の情報流通 ........................................ 55

① 背景:企業と消費者のミスコミュニケーションが消費インテリジェンスを妨げる ....... 55

② 消費者が自らの情報を管理・活用する時代の到来 ............................................ 56

③ 消費者が起点となったデータ活用の進展 .......................................................... 58

④ デジタルレシートを通じた共通プラットフォームによる生産性向上 ....................... 60

⑤ 企業と消費者がお互い理解しあい情報を交換する環境の構築 .......................... 62

⑥ 情報利活用に向けた環境整備・セキュリティ対策 ............................................... 62

4) インバウンドの拡大・海外需要の獲得 ....................................................................... 63

① 背景:インバウンド等海外需要の増加 ................................................................ 63

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② 拡大するインバウンド需要の取込 ...................................................................... 65

③ 海外への展開 .................................................................................................. 68

④ 越境 ECによる外需獲得 .................................................................................. 68

5) 製・配・販連携によるサプライチェーンの高度化 ........................................................ 71

① 背景:非効率なサプライチェーンと供給制約 ...................................................... 71

② RFIDによるシームレスな生産管理・流通・消費の実現 ...................................... 72

6) 物流分野における変革 ............................................................................................ 74

① 背景:過剰ともいえるサービスと労働力不足 ....................................................... 74

② 隊列走行の活用 ............................................................................................... 74

③ ドローン等の活用 ............................................................................................. 75

④ 物流センターの自動化 ..................................................................................... 76

⑤ 自動車車両情報(テレマティクス情報)の活用 .................................................... 76

⑥ シェアリングサービスの浸透 .............................................................................. 77

4. 政府等が取り組むべきアクションプラン ......................................................................... 79

1) 課題:企業におけるデータ利活用の障壁 .................................................................. 79

① 企業の連携による合理化が進まない ................................................................. 79

② 各企業の保有するデータのフォーマットが統一されていない .............................. 84

2) 課題:消費者との関係で生じるデータ利活用の障壁 ................................................. 87

① データ利活用に関する企業・消費者間のミスコミュニケーション .......................... 87

② IT リテラシーやリスク許容度に関する消費者の個人差....................................... 88

3) 課題:新しいデータ利活用サービスに対応できない法律・制度 .................................. 89

① 新サービスに対応できない法律・制度 ............................................................... 89

② 個人情報の利活用に関する課題 ...................................................................... 90

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1. はじめに

1) 本研究会の背景・目的

流通・物流業は消費者と直接接点を持ち、メーカーと消費者の間を仲介する役割を担っ

ている。近年では、単に商品を流通させるだけでなく、販売・仕入れに付随して発生するデ

ータを活用し、例えばメーカーと連携して、自ら商品を開発し、新たな需要を喚起したり、業

務の効率化を進めたりする等、その役割を拡大しつつある。

一方、市場の動きに目を向ければ、少子高齢化の進展、スマートフォンの普及、EC(イン

ターネット等を通じて行う商取引)利用の拡大など、流通・物流業を取り巻く環境は大きく変

わりつつある。

また、世界では IoT、ビッグデータ、人工知能等の技術を活用する「第 4次産業革命」とも

呼ぶべき大変革が見込まれている。このような変革は我が国経済・社会全般に大きな影響を

もたらすものであることから、現在政府内において新産業構造ビジョンの検討が進められて

いる。

流通業・物流業においては、国内の人口減少が進む中、多様な潜在需要の喚起等によ

る消費の活性化、インバウンド等海外需要の取り込み、これらを支えるサプライチェーンの効

率化を通じた供給制約の打破等が課題となっている。

これらの状況を踏まえ、本研究会では、新産業構造ビジョンの検討に歩調をあわせ、流通

業・物流業におけるビッグデータの活用を通じた活性化や新たな産業モデルの在り方につ

いて課題を明らかにし、対応の方向性を議論した。

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2) 検討体制・検討概要

2015年 10月から 2016年 2月まで計 5回にわたり、経済産業省商務流通保安グルー

プの呼びかけにより、企業・有識者等により構成される「流通・物流分野における情報の利

活用に関する研究会」を設置し、検討を行った。検討に際しては、流通・物流分野の現場に

て、積極的なデータ活用の取組を行っている企業・有識者によるプレゼンテーションを行い、

議論を行う上での参考とした。

また、大きな変革のうねりの中で新たな方向性を創出すべく、実質的な議論を集中的か

つ効果的に行うよう、流通業・物流業を取り巻く様々な課題に関し、「少人数のグループディ

スカッション形式」を採用して討議を行った。また、研究会における議論の中で特に深堀す

べき、消費者と企業の適切なコミュニケーションのあり方については、具体的な議論を行うた

め「消費者向けサービスにおける通知と同意・選択のあり方検討ワーキンググループ」(以下、

検討WG)を設置して、討議した。

図表 研究会及び検討ワーキンググループの開催日程

10月 11月 12月 1月 2月

研究会

検討ワーキング

第1回(10/2) 第2回(11/5) 第4回(12/24)第3回(12/3)

第5回(2/5)

第1回(12/21) 第2回(1/20)

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図表 研究会委員一覧(敬称略)

座長

専修大学 商学部 大学院商学研究科 教授 渡辺達朗

委員(五十音順)

消費生活アドバイザー 石橋直子

国立情報学研究所 客員教授 弁護士 岡村久道

ヤマト運輸株式会社 執行役員 中国支社長 小佐野豪績

株式会社 Zaim 代表取締役 閑歳孝子

サンスター株式会社 営業戦略部 担当部長 小林洋

アスクル株式会社 ECマーケティング本部 執行役員 本部長

LOHACOテクニカルディレクター 佐藤満

東芝テック株式会社 技師長附 上席主幹 三部雅法

東京大学 空間情報科学研究センター 教授 柴崎亮介

株式会社日本経済新聞社 編集局 調査部 次長 白鳥和生

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻庸介

国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター 准教授 中西崇文

株式会社セブン&アイHLDGS.CI室 シニアオフィサー 原田良治

イオンアイビス株式会社 システム開発本部 インフラ・ユーザーサポート部

部長 兼 セキュリティオフィース 室長 港和行

Square株式会社 カントリーマネージャー 水野博商

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図表 プレゼンター一覧(敬称略)

第 2回

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター

副センター長 本村陽一

生活協同組合連合会 コープ東北サンネット事業連合 店舗商品本部

店舗営業企画室長 三戸部和彦

東芝テック株式会社 技師長附 上席主幹 三部雅法

東京大学 空間情報科学研究センター 教授 柴崎亮介

第 3回

全日食チェーン 全日本食品株式会社 マーケティング本部

副本部長 宇田川貴志

CCC マーケティング株式会社 企画本部 企画部

データベースマーケティング研究所 所長 毛谷村剛太郎

ヤマト運輸株式会社 執行役員 中国支社長 小佐野豪績

第 4回

株式会社 ローソン 業務統括本部 システム活用推進部

部長 秦野芳宏

図表 グループディスカッション討議テーマ一覧(敬称略)

第 2回

データを活用した消費活性化の方策

個人の消費動向を踏まえたサービスの展開

インバウンド促進に向けたデータ利活用

データ活用における消費者の参加

第 3回

POS/ID-POS情報等のサプライチェーンにおける更なる利活用

RFID、不在情報等の利活用を通じた物流業の効率化

ポイントカードの更なる利活用等にむけた対応

デジタルレシートの利活用によるサービスの拡大

第 4回

サプライチェーンにおける RFIDの活用によるメリット

RFIDの利活用にあたっての企業同士の連携のあり方

クラウドソーシング等の手法を活用した物流効率化に向けた検討

サービスの適正化に向けた方策の検討

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図表 検討WG委員一覧(敬称略)

座長

東京工科大学 教養学環 准教授 村上康二郎

委員(五十音順)

ひかり総合法律事務所 弁護士 板倉陽一郎

株式会社 情報通信総合研究所 取締役 法制度研究部長

主席研究員 小向太郎

株式会社 野村総合研究所 IT基盤イノベーション本部

デジタルビジネス推進部 上席研究員 崎村夏彦

株式会社 日本 HP チーフ・プライバシー・オフィサー 佐藤慶浩

3) 本報告書の構成

本報告書は、4つの章からなる。

「1.はじめに」(本章)では、研究会の背景・目的、検討の概要について述べている。

「2.流通・物流業のこれまでの変遷と現状」では、流通・物流業の我が国におけるこれま

での変遷や現状及び情報活用の状況について述べている。

「3.2030年に向けて流通・物流業が進む方向性」では、2030年における我が国の人口

動態等、社会の動向や経済の動向、更にこれらが流通・物流業に与える影響やその将来像

等について研究会で議論した結果について述べている。

「4.政府等が取り組むべきアクションプラン」では、今後 2030年にむけて、流通・物流業

が進化・変革していく中で、特に情報(ビッグデータ)活用を推進する際の課題を整理した。

加えて、検討WG(本研究会の下部組織)の報告書及び今後普及が期待されるデジタル

レシートの標準的なフォーマットを別紙として添付した。

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2. 流通・物流業のこれまでの変遷と現状

我が国流通・物流業は、GDPに占める割合及び雇用者数という観点から我が国を支える

重要産業である。流通業は日々の暮らしの中では生活に必要な商品を購入するための生

活の基盤となっている。また、物流業は消費者向けサービスのみならず、企業間の物の流れ

を管理し、我が国産業を支えている。

1) これまでの流通業の変遷1

① 1950年代~1960年代

百貨店と零細・過多の小規模小売店の時代

戦後しばらく続いた配給制や闇市の時代が終わった 1950年代、我が国の小売構造は、

零細・過多の小規模小売店によって、その大部分が構成されていた。戦前より生業的な

経営を行う小規模小売店が多くを占めていたが、当時、経済状況は安定しつつあったも

のの、雇用需要は十分とは言えなかったことから、比較的少ない資金で自分の店を持ち、

商売を始めることのできる小売業に、多くの人が職を求めたものと思われる。

一方で、その数は少ないものの、小売業は戦前から引き続き、百貨店がリード役を担っ

ていた。中小小売業者による反百貨店運動により、1956年には新百貨店法が施行され、

百貨店の営業は再び許可制になったが、電鉄経営のターミナル百貨店の設立は相次い

だ。

スーパーの出現とチェーン展開による急激な成長

1960年代の高度成長期に入り、スーパーという新しい業態が参入したことは、我が国

の流通業における様相を一変させた。伝統的な小売商店より従業者数や売場面積がは

るかに大きい食品スーパーや総合スーパーが各地に誕生した。

1953年 12月、東京・青山に日本初のセルフサービス店である青果店「紀ノ国屋」が開

店したことが、スーパーの始まりとされるが、スーパーの本格的な勃興は、「主婦の店ダイ

エー」や「ヨーカ堂」などがセルフサービスを導入して、チェーン展開と品揃えの拡大を開

始した 1960年前後であり、百貨店が発足させたスーパー部門である「東光ストア」や「西

武ストア」も、同時期に設立されている。

1967 年には「チェーンストア協会」が設立され、長期的な計画に基づいた出店政策や、

商品仕入でのマーチャンダイザー制の導入、販売計画の立案などがされるようになった。

大手スーパーチェーンは、店舗の大型化とチェーン化の促進を基本戦略とし、企業規模

とシェアの拡大に取り組んでいった。同時に商品の多角化を進め、衣料・食品のラインに

高価な耐久消費財を追加し、総合店へと発展していった。

1 岡本純「日本型流通の進展」等

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前述のとおり、小規模小売店は生業的な経営を行っていることが多く、生産性は低い

傾向にあったが、スーパーという大型店の出現は、我が国の流通業において、その生産

性を大きく向上させる変化をもたらした。多数店舗運営により店舗オペレーションは標準

化され、電子データ処理(Electronic Data Processing)の積極的な導入が行われてい

った。

② 1970年代~1980年代前半

ショッピングセンターの誕生・大規模チェーンの成熟と規制

高度経済成長によって、日本は大量消費社会へと移行し、スーパーの成長を促した。

また、都市化の進展によって、地方都市や大都市郊外への人口増加が進み、ニュータウ

ンの形成などが見られるようになった。これらを背景として、日本の小売業界にはショッピ

ングセンター、専門店チェーンなどの新しい業態が生み出された。1969年に日本初の本

格的郊外型ショッピングセンターとして、玉川高島屋 SCがオープンしたが、その後のショ

ッピングセンターの普及は、テナントとして出店する専門店のチェーン化を後押しした。そ

の結果、衣料品や靴・鞄、食品、外食、書籍などの有力専門店のチェーン化が進展した。

1972年、スーパーのダイエーが百貨店の三越を抜き、小売業の年間売上高トップとな

った。1970年代前半には、小売業の売上高において、スーパーが百貨店のシェアを上

回った。

このようなスーパーの急成長は、中小小売業者との摩擦を引き起こし、1973年に「大規

模小売店舗法」が制定された。しかし、この時代に起きた二回のオイルショックは、中小小

売業者に大きな経営的打撃を与えた。対立構造にあったスーパーなどの大型店との競争

に敗れ、廃業する店舗も現れ始めた。一方のスーパーも、低価格大量販売に対する消費

者の意識変化により、画一的・標準的な商品の大量販売という、従来の商法が通用しなく

なった。加えて、大店法による出店規制や地価の高騰、組織の肥大化に伴う市場適応力

の低下などにより、1975年以後、急速に成長は鈍化していくこととなった。

コンビニエンスストアの出現と情報化による成長

イトーヨーカ堂が米サウスランド社とヨークセブンを設立し、1974年に東京・江東区に第

一号店をフランチャイズ店としてオープンしたことが、我が国における本格的なコンビニエ

ンスストアの始まりとなった。ダイエー系のローソンや、西友系のファミリーマートなど、前後

して設立が相次いだ。

コンビニエンスストアの定義は「飲食料品小売業のうち、売場面積が 30㎡以上 250㎡

未満で、営業時間が 1日 14時間以上のセルフサービス販売店」2とあるが、社会の進展

や人々の生活パターンの変化、商品配送の点から、年中無休24時間営業の店舗が現れ、

順次広がっていった。

2 経済産業省「平成 26年商業統計調査」

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1980年代、コンビニエンスストアは他の業態に先駆けて POSシステムを導入した。こ

れにより、サイズや品質等が異なる商品を単品毎に管理するため、売れ筋商品と死に筋

商品の選別をできるようになったことで、適切な在庫管理、発注業務、経理処理を可能と

した。

コンビニエンスストアでは、多品種・高頻度・少量対応の調達物流と、時間帯指定の計

画配送を特徴とするジャストインタイム物流を導入。また、商品のサプライヤーが各地域で

納入商品毎の共同配送センターを設置し、高効率の配送ルートを確立することで、配送

コストを大幅に削減した。

物流の効率化という意味では、小売業と仕入れ先との企業間オンライン受発注システ

ム(Electronic Ordering System)や、企業間がオンラインで情報をやり取りするための

通信基盤である電子データ交換(Electronic Data Interchange)の導入も、一定の役

割を果たした。

POSシステムの導入による多様化した消費需要の把握と、効率化された物流システム

によって、コンビニエンスストアは店頭の品揃えを最適化し、1970年代後半から 1980年

代にかけて急激な成長を遂げ、1985年には全体の店舗数が 3万店に達した。

③ 1980年代後半~1990年代

規制緩和がもたらす流通システムの再編

1980年代前半における日米間の経済摩擦が契機となり、我が国の流通業における規

制緩和や、取引慣行の改善が進むこととなった。1990年の日米構造協議から大店法は

規制緩和の流れへと向かい、大手流通資本の優位性が高まっていった。同時に、日本の

商慣行もまた「排他的取引慣行」として取り上げられ、1991年 7月に「流通・取引慣行に

関する独占禁止法上の指針」が作成された。

また、この時期大規模小売業主導によるサプライチェーンの川上・川中に位置するメー

カーや卸売業との連携・再編が行われるようになった。

バブル崩壊による消費の低迷と新業態の誕生

1991年のバブル崩壊以降、日本経済は低迷し、それまで流通業を支えてきた百貨店

や総合スーパーなどの倒産が起きるようになり、コンビニエンスストアの成長も鈍化した。

消費の低迷を受けて、新たな業態も誕生した。幅広い品揃えと低価格を実現するドラッ

グストアが増加し、一部はフランチャイズチェーン展開によって、その数を急速に増加させ

た。また、高速道路や幹線道路沿いの郊外や観光地において、アウトレットモールの建設

が相次いだ。アウトレット(=展示品、規格外商品)価格で、メーカー品やブランド品が購

入できることや、旅行に近いレジャー感覚を得られることが消費者のニーズをつかんだ。

また、会員を募ることで卸値の商品を購入できるホールセールクラブや、100円ショップな

どの低価格を価値とする業態などが誕生した。

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1980年代より、コンビニエンスストアでは新たなサービスの導入が進んだ。コピー機導

入(1982)、電力料金の代行サービス(1987)、宅急便の取次(1988)、チケット発券サー

ビス(1996)など、機能の充実を図ってきた。これは 2000年以降の ATM設置や住民票

発行など、拡充する道を進んでいく。

④ 2000年~現在

外需の獲得・海外展開

少子高齢化に伴い、国内マーケットが縮小する中、アジア諸国など新興国をターゲット

とした、海外展開が進められている。我が国流通業は、コンビニエンスストアを中心に海外

での出店を加速化させており、その他、百貨店、総合スーパー等も展開を進めている。

また、ファーストリテイリングや無印良品などの SPAの一部は、新興国に加えて、欧米に

おいても大規模な旗艦店をオープンさせるなど、グローバル展開が加速しており、海外を

軸に高成長を続けている。

業界再編・グループ化

2000年以降、消費者の価値観は、多くの選択肢からより優れた機能を持ち、自身に合

うものを選ぶ志向に変化してきている。そのような多様な価値観に応えるには、総合業態

では対応しきれないため、特定カテゴリーだけを品揃えする専門店が多く生まれるように

なった。また、そのような専門店を集めたショッピングモールの出現は、小売業の専門店

化を促進させた。

一方で、専門店は対象マーケットが総合業態に比べて限定的であり、縮小する国内マ

ーケットで成長する際に、他の業態との連携を図るケースが増えている。大手流通グルー

プによる専門店の吸収もその一つである。専門店は大手流通グループのネットワークを利

用した出店等が可能となり、大手流通グループは苦戦する百貨店や総合スーパーのテナ

ントとして競争力のある専門店を確保できるため、利害が一致する。また、過剰な店舗の

統廃合による資金効率の向上を目的とした、同一業態同士の事業統合も増加しており、

小売業界の再編・グループ化が進展している。

事業承継問題への対応

2015年現在、中小・零細企業を中心に、後継者難や代表の高齢化が深刻化している。

2015 年には、倒産に至らないまでも事業継続を断念し、「休廃業・解散」を選択する件数が、

倒産件数の約 3倍の 2万 3914件にのぼった。

「休廃業・解散」を選択した代表者を年齢別でみると「70 代」以上が全体の 40.0%を占

めており、高齢代表者による休廃業・解散が増加している。2015 年に「休廃業・解散」した

企業のうち 76.8%は後継者が定まらない状態にある。

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図表 「休廃業・解散」企業の代表者年齢/後継者有無・決定状況3

卸売・小売業における「休廃業・解散」した企業は 2005年から 2015年に渡って、平均

7643件発生している。これは全体の約 30%にあたり、卸売・小売業が事業承継問題を抱え

ていることが見て取れる。

図表 業種別「休廃業・解散」企業件数4

3 株式会社帝国データバンク「第 8回全国「休廃業・解散」動向調査(2015年)」(2016年 1月 29日)

4 株式会社帝国データバンク「第 8回全国「休廃業・解散」動向調査(2015年)」(2016年 1月 29日)

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2) 流通・物流業の現在

① 流通・物流業の主な動向

流通・物流業は、年齢・国籍等が多様な消費者と直接接点を持ち、メーカーと消費者の

間を仲介する役割を果たしている。

我が国において流通業(卸・小売業)は、業種別 GDPの約 16%、物流業を含む運輸業

は 8%を占めている。また、雇用の観点からみると、流通業の就業者数は 1,057万人と、全

産業就業者数の約 17%を占めている。これは全産業の中で最大である。

図表 業種別 GDP(名目、2014年確報)5

5 内閣府 「国民経済計算」

※ネット、テレビ、カタログ等による通信販売は小売業に含まれる。

※インターネットショッピング・オークションサイト運営は情報通信業に含まれる。

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図表 業種別就業者数6

卸売業の全体売上高は、約 319~323兆円であり、2009年度の落ち込みが大きく、以前

の売上水準まで回復していない。2014年度の業種別売上構成をみると、最も大きいのは機

械器具(20.9%)、次いで鉱物・金属材料(15.3%)となっている。2002年度からの年平均成

長率は、多くの業種でマイナスであるが、2010年度以降でみると、各種商品、繊維品、食

品・飲料、建築材料では、1%を超えている。

6 厚生労働省「労働力調査」

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図表 卸売業の売上高/対前年増減率 推移7

図表 卸売業の業界分類別売上高 推移8

※CAGR=年平均成長率

小売業の全体売上高は、約 139~141兆円であり、2014年度の業種別売上構成をみる

と、その他を除いて最も大きいのは自動車(11.8%)、次いでチェーンストア(9.3%) 、コンビ

ニ(7.6%)となっている。2002 年からの年平均成長率が一番大きいのは通信販売(7.3%) 、

次いでドラッグストア(5.5%) 、コンビニとなっている(3.4%)

7 経済産業省 「商業動態統計」

8 経済産業省 「商業動態統計」

-25%

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

400,000

450,000

卸売販売額(10億円):左軸 対前年度増減率:右軸

業種 売上高

構成比

CAGR

(%)

CAGR

(%)

2002年度 2014年度 2014年度 (2002-2014) (2010-2014)

全体 400,873 323,299 100.0% ▲ 1.8 ▲ 0.4

各種商品 45,988 39,099 12.1% ▲ 1.3 2.2

繊維品 5,148 3,387 1.0% ▲ 3.4 1.7

衣服・身の回り品 14,983 5,777 1.8% ▲ 7.6 ▲ 2.9

農畜産物・水産物 41,607 22,625 7.0% ▲ 5.0 ▲ 3.8

食料・飲料 43,894 42,867 13.3% ▲ 0.2 2.7

建築材料 23,552 16,289 5.0% ▲ 3.0 1.9

化学製品 20,577 16,999 5.3% ▲ 1.6 ▲ 1.9

鉱物・金属材料 42,464 49,390 15.3% 1.3 ▲ 1.1

機械器具 97,299 67,615 20.9% ▲ 3.0 ▲ 2.8

家具・建具・じゅう器 7,256 2,660 0.8% ▲ 8.0 ▲ 4.0

医薬品・化粧品 21,565 24,278 7.5% 1.0 0.1

その他 36,540 32,313 10.0% ▲ 1.0 1.5

売上高

(10億円)

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14

図表 小売業の売上高/対前年増減率 推移9

図表 小売業の業界分類別売上高 推移10

※CAGR=年平均成長率

近年、多くの店舗数を誇るコンビニエンスストア、ドラッグストア等は、多様な機能を提供し

ており、いわゆる「生活のインフラ」としての側面も持つようになってきている。特に東日本大

震災の際、コンビニエンスストア等が、迅速に店舗を再開し、被災地に様々な物資等を供給

したことは記憶に新しい。

あわせて、限界集落等における買物の支援においても、コンビニエンスストアに期待が集

まっている。2012年 3月、ローソンは、広島県神石高原町と共同で移動販売、注文配達サ

9 経済産業省 「商業動態統計」

10 経済産業省 「商業動態統計」、日本チェーンストア協会 「チェーンストア販売統計」、チェーンドラッグストア協会

「ドラッグストア業界の現状及び業界を巡る環境の変化について」

-5%

-4%

-3%

-2%

-1%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

小売販売額(10億円):左軸 対前年度増減率:右軸

業種 売上高

構成比

CAGR

(%)

CAGR

(%)

2002 2014 2014 (2002-2014) (2010-2014)

全体 132,289 139,466 100.0% 0.4 0.7

百貨店 9,315 6,702 4.8% ▲ 2.7 ▲ 0.1

チェーンストア 14,389 12,938 9.3% ▲ 0.9 1.1

コンビニ 7,028 10,544 7.6% 3.4 6.3

ドラッグストア 3,494 6,679 4.8% 5.5 4.4

自動車 15,179 16,392 11.8% 0.6 2.6

機械器具(家電) 7,750 6,640 4.8% ▲ 1.3 ▲ 8.1

通信販売 2,630 6,150 4.4% 7.3 7.1

その他 72,504 73,421 52.6% 0.1 ▲ 0.4

売上高

(10億円)

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15

ービスの提供を行った11。神石高原町は専用車輌「ローソン号」を導入し、移動販売・注文配

達のサービスを行うと共に、町が指定した高齢者世帯に対する安否確認等を実施している。

近年、ユニクロ等を初めとする SPA(製造小売業)12といった業態が発展しつつある。これ

は、特にファッション等において、従来の百貨店等を通じた委託販売から、衣料品等のメー

カーが自ら製造した商品を直接消費者に販売する動きであり、単一の事業者が企画・製造・

販売を行うことで、消費者のニーズを的確に把握して製造現場とシームレスにつなぎ消費者

の望む商品を提供できるメリットがある。

また、通信販売が大きな伸びを見せている点にも特徴がある。これは商品を直接店舗で

購入するのではなく、インターネット等を通じて販売することで、商品の品揃えの多様化が実

現できるとともに、忙しい消費者が自宅で簡単に注文できる等のメリットがある。EC(インター

ネット通販)は今後もその売上の向上が見込まれる業態であり、詳細について次章以降でも

取り上げる。

このような取組を通じて、流通・物流業は、単なる商品供給に留まらず、社会を支え、消費

者のニーズを製品開発や新たな業態発展等に反映させているということができる。

11 株式会社ローソン ニュースリリース(2012年 3月 7日)

12 製造小売業を表す「Specialty store retailer of Private label Apparel」の略称。

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16

② 我が国における流通・物流業の特徴

本研究会では、我が国における流通・物流業の特徴について、多様な意見があがった。

強みに関する代表的な意見は、「質の高い消費者の期待に応える高品質な接客レベル」、

「PBなどを始めとする積極的な商品開発への参加」、「SPAや EC等の新しい業態が生ま

れ続ける市場環境」、「安全、安心に配慮した商品提供へのこだわり」、「高度なレベルの物

流網の活用」等であった。総じて我が国の流通・物流業は、品質に厳しい消費者から、質の

高いフィードバックを受け、レベルの高い商品の提供や、サービス提供に対する努力を継続

しており、これらが高品質な接客レベルや、安全、安心に配慮した商品提供へのこだわり等

につながっていると考えられる。

一方、課題といえる特徴としては「飽和状態にある国内市場」、「新たなプレイヤーの参画

に伴う過剰品質・過当競争」、「万人向けのサービスの成長鈍化」、「向上しない生産性」、等

の意見があがった。

また、需要面で見れば、人口減少や高齢化の進展により国内のマーケットは縮小すること

が見込まれる。そのため、消費者ニーズをメーカーと共有し協働で商品開発を行うことや訴

求力の高いマーケティングを行うことにより、消費者の満足度・利便性を高めつつ潜在需要

を喚起することや、増加する訪日外国人旅行者の需要を確実に獲得することが課題となっ

ている。加えて、供給面の課題は、国内需要が頭打ちにもかかわらず売場面積が増加・高

止まりしている傾向にあることや、人手不足が深刻化し、足下でコスト増の要因になっている

ことがあげられる。

上述の強みにあるような高い品質のサービスを低廉な価格で全ての消費者に一律に提

供することは、消費者視点からみれば歓迎すべきことではあるが、生産性という指標でみると

その数値の低さとなって現れてきてしまう。また、店舗数増加の傾向は、ある意味、オーバー

ストアと呼ばれる状態をもたらし、過当な競争を招く可能性もはらんでいる。

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17

図表 過去 20年の総人口/売場面積 推移13

また、我が国全体に言えることではあるが、流通・物流業はサービス業として労働集約的

な面が大きく、今後予想される人口減少に伴う労働力不足に大きく影響を受けることが予想

される。現時点でも、店舗もしくはトラックのドライバー等の不足が課題となって表れてきてい

る。

図表 卸売業・小売業のパートタイム労働者過不足判断 DIの推移14

13 経済産業省 「商業統計確報」(平成 26年)、総務省統計局 「人口推計」(平成 28年 1月報)

14 厚生労働省 「労働経済動向調査」より 公益財団法人流通経済研究所が作成。

※グラフ中の割合は、労働者が「不足」する事業所の割合-「過剰」な事業所の割合

12,300

12,400

12,500

12,600

12,700

12,800

12,900

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

1994年

1995年

1996年

1997年

1998年

1999年

2000年

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

売場面積(万㎡):左軸 総人口(万人):右軸

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18

図表 トラックドライバーの有効求人倍率の推移15

15 国土交通省、厚生労働省 「トラックドライバーの人材育成・確保に向けて」(平成 27年 5月 28日)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

0

10

20

30

40

50

60

70

80

貨物自動車運転手 有効求人数(万人):左軸

貨物自動車運転手 有効求職者数(万人):左軸

貨物自動車運転手 有効求人倍率【常用(パート含む)】(倍):右軸

職業計 有効求人倍率【常用(パート含む)】(倍):右軸

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19

③ 我が国の流通・物流業におけるデータ利活用

直接的な消費者との接点を有する流通業は、他産業に比べ多様かつ大量のリアルデー

タを保有し、顧客へのサービスレベルの向上や効率化のため、販売・仕入れ等に付随して

発生するデータの活用に取り組んできた。特に小売業が持つ POSデータ・ID-POSデータ

の活用が進んでいる。

図表 産業別ビッグデータ蓄積量16

データ活用の目的は多岐に渡るが、主な目的としてはメーカーと連携した商品開発への

活用や、消費者へのプロモーションによる需要喚起への活用、業務効率化に向けた活用が

あげられる。2012年には卸・小売業においてデータ利活用が寄与する売上高は 28.1兆円

と推計されている。

16 総務省「情報流通・蓄積量の計測手法に係る調査研究(平成 25年)」

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20

図表 データ利活用が寄与する売上高17

また、近年発達しているプライベートブランドは、小売業が中心となりメーカーと商品を共

同開発する取組である。これには、情報を大量に持つ小売業がメーカーと連携することによ

り商品開発が高度化されるというメリットがあるとともに、メーカーとしても、共同開発した小売

店が商品を仕入れて消費者に販売するケースが多いため、双方にとりメリットがあると考えら

れている。これは、流通業が保有するデータを活用して商品開発に参画している事例という

ことができる。

図表 プライベート・ブランド(PB)の一般的な取引形態18

また、消費者へのプロモーションによる需要喚起では、POSデータ、ID-POSデータはも

ちろん、ECサイトにおけるアクセスログや、インターネット広告に対する反応結果等のデータ

も活用されている。また、クレジットカード会社を中心に、消費者の購買履歴を元に、その消

費者にとって潜在的に需要がある商品のクーポン等を発行する、CLO(Card Linked

Offer)といった取組も盛んになりつつある。

また、業務効率化のためには、小売店舗の発注計画や、メーカーの生産計画等の立案

17総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済及び社会に与える波及効果に係る調査

研究(平成 26年)」

18 公正取引委員会 「食品分野におけるプライベートブランド商品の取引に関する実態調査報告書」(平成 26年 6

月 20日)

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21

に必要となる需要予測に POSデータ、ID-POSデータ等の購買データが活用されている。

近年では単なるデータの集計による傾向の把握というレベルを超えて、高度な統計を用

いた活用も試行されている。POSデータとアンケートデータを統計手法により統合して、顧

客に関するより深い洞察を得る、データフュージョン等の手法が開発されつつあり、その活

用は今度更なる拡大を見せるものと期待される。

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22

3. 2030年における流通・物流業の姿

我が国流通・物流業は上述のとおり、多様な強みを持つが、同時に需要・供給両面にお

いて課題を抱えている。今後、流通・物流業が更に付加価値を向上していくため、2030年

を 1つのターゲットイヤーに据え、我が国の社会的・経済的状況についての検討を行うととも

に、特に流通・物流業がどのような姿になっているかについて検討する。

今後、IoT、ビッグデータ、AI 等の技術革新が急速に進むと、大量のデータの取得、分析、

施策実行といった循環が可能になる。そのため、これまで以上に消費者を理解し、それぞれ

の消費者に最適な商品を最適な手法で最適な価格で提供することが他社との差別化要因

となる。これら技術を積極的に活用していくことで、生産性を向上し、人口減少に伴う労働力

不足を補うと共に、落ちこむ消費需要の喚起や、新規サービスを創出することが可能となる

と考えられる。

その際、流通・物流業は他の産業以上に密接に消費者との接点を持ち、利益の源泉とな

りうる消費者データを収集し、そのデータをサプライチェーン上流にフィードバックすることを

通じて製造業に向けて情報を発信する、いわばデマンドチェーンの上流部分に位置するこ

とになる。

今後、サービス業の中でも、産業規模が大きく、データフォーマットも揃えやすい流通・物

流業は、積極的にデータを利活用し、消費者との信頼関係を基盤に消費者のニーズをくみ

取り、製造等を始めとしたサプライチェーン上流とも密に連携しながら新たな付加価値の源

泉となる可能性がある。一方、既存のビジネスモデルから脱却できずに、減少する国内消費

市場における過当競争により生産性が低下し、拡大する EC等を始めとした新規参入事業

者等、他社との厳しい競争にさらされる企業が増加する可能性も考えられる。

本章では、まず流通・物流業を取り巻く環境変化について概観した後、2030年における

流通・物流業の姿を、「消費者理解の深化とサービスへの反映」「企業と消費者の適切な関

係構築・消費者起点の情報流通」「インバウンドの拡大・海外需要の獲得」「製・配・販連携に

よるサプライチェーンの高度化」「物流分野における変革」の観点から説明する。

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23

1) 少子高齢化に伴う人口減少による変化

① 国内消費需要の低迷

日本の総人口は総務省の人口推計によると、1億 2,694万人であった(2015年 8月)。

また、国立社会保障・人口問題研究所が 2012年 3月に公表した『日本の将来推計人口』

の死亡・出生中位推計によると、2030年に総人口は約 1億 1,662万人となると予想されて

おり、2030年以後も引き続き人口減少が進み、長期的には国内消費需要は低迷することが

予想される。そのため、流通・物流業は今後国内の需要のみならず旺盛な海外の需要も確

保していく必要がある。同時に少子高齢化を背景に、今後ますます社会保障負担等が増加

する等の様々な変化が起こることが予想される。

図表 シナリオ別 2030年時点の人口推計19

19 総務省統計局 「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口」

116,618

119,243

114,166

115,633

118,257

113,183

117,588

120,214

115,135

出生中位 出生高位 出生低位 出生中位 出生高位 出生低位 出生中位 出生高位 出生低位

死亡中位仮定 死亡高位仮定 死亡低位仮定

(千人)

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24

② 消費者の高齢化・多様化

一方で、65歳以上の割合(高齢化率)は、2014年の25.9%に対して、2030年には5.7%

増の 31.6%になると推計されている。また、後述の通り訪日外国人観光客の増加が見込ま

れるため、インバウンド旅行者の更なる消費喚起を促すことに加え、外国人旅行者の消費デ

ータ等を活かして、海外市場への進出の足がかりにしていくことが期待される。

消費者の多様化等が進展し、その変化に対応したサービスが開発されることを通じて、消

費者は、ニーズに合った商品・サービスを様々な選択肢の中から適切なタイミング、適切な

価格で購入し、受け取ることが可能となることが予想される。

また、後述するキャッシュレスやデジタルレシートの普及が進み、日常生活における満足

度や利便性は更に向上すると考えられる。

これらを踏まえると、供給側からの視点としては、今後はより一層多様化する消費者のニ

ーズを適切に捉えていくことが重要となる。

図表 高齢化率の推移20

20 総務省統計局 「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口(2013年度版)」

高齢化率は、65歳以上の高齢者人口(老年人口)が総人口に占める割合、国立社会保障・人口問題研究所による

予測値の推移

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25

また、世帯単位で見ると、2020年の 53,053世帯をピークに、世帯数が減少に転じるとみ

られている。一方で、高齢世帯の割合は年々増加していき、特に高齢単独世帯が拡大する

と推計されている。そのため 2030年においては、高齢消費者のニーズを捉えることの重要

性がさらに増してくる。

図表 将来の世帯数/高齢世帯比率/高齢単独世帯比率21

21 国立社会保障・人口問題研究所 「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)」(2014年 4月推計)

51,842

52,90453,053

52,439

51,231

2010 2015 2020 2025 2030

(千世帯)16,200(31.3%)

18,887(35.7%)

20,060(37.8%)

20,154(38.4%)

20,111(39.3%)

将来の世帯数

高齢世帯比率

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③ 労働力不足

近年、流通・物流業においては人手不足が深刻化しているとの指摘がある。また、将来の

就業者数の見通しを見ても、日本全体の就業者数は、2015年の 6,376万人から 5,449~

6,103万人まで減少すると推計されている。卸・小売業においては 2030年の就業者数は

806万人~941万人に減少することが予想されており、将来的な労働力不足が課題となっ

ている。

図表 労働者の過不足状況22

22 日本銀行「全国企業短期経済観測調査」雇用人員判断DIは、雇用人員が「過剰」と回答した企業の割合から-

「不足」と回答した企業の割合を引いたもの

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図表 就業者数の将来見通し23

2012年から 2030年にかけて、卸売・小売業における就業者数は約 110~250万人もの

減少が見込まれ、生産性の向上を図る必要がある。そのためには、高度な意思決定やデー

タ活用ができる人材が不可欠になってくることが予想される。また、現在の流通業について

は、議論の過程で、特に中高年を中心に、採用ニーズと人材のアンマッチが起きているので

はないかとの指摘もあった。

一方、物流業に視点を移すと、我が国の貨物輸送量(重量ベース)においては、トラック

輸送が大部分を占める。1993年から 2010年にかけて、トラックドライバーは、29歳以下の

比率が急激に低下している。今後、長期的な総人口の減少と高齢化が進んでいくため、トラ

ックドライバーの減少が危惧されている。

23 2015年の労働力人口は総務省「労働力調査」より、2030年の労働力人口は労働政策研究・研修機構「労働力

需給の推計」より。

・ゼロ成長・労働参加現状シナリオ:ゼロ成長に近い経済成長で、性・年齢階層別の労働力率が 2012年と同じ水準

で推移すると仮定したシナリオ

・経済再生・労働参加進展シナリオ:経済成長と労働参加が適切に進む(実質 2%成長程度で若者・女性・高齢者

等の労働参加が進む)と仮定したシナリオ

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図表 トラックドライバーの年齢構成の変化24

加えて、ネット通販の進展に伴う宅配便取扱個数の急増に加え、BtoB貨物輸送におけ

るジャストインタイムへの対応等により、積載効率が悪化しており、少量・多頻度化がトラック

ドライバーの負担となっている。ドライバー数の減少と、多頻度・小口の宅配便需要の高まり

が進めば、将来の物流業において、労働者不足が深刻化すると考えられる。

このように、流通業・物流業においては、業務は増大する一方で、就業者数は減少し、高

齢化も進むと見込まれる。研究会では、外国人労働者の活用による解決も視野にいれるべ

きではないか、との意見もあげられた。そのような解決策と並行して、①ロボット・IT等の活用

による効率化を一層進めるとともに、②現在の過剰とも指摘されるサービスから、持続可能な

形に進化させていくことが重要な課題となっている。

24 総務省統計局 「年齢階級別労働力人口」、公益社団法人全日本トラック協会 「トラック運送事業の賃金実態」

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④ 流通・物流業と他業種との融合・関係変化

流通・物流業は消費者との接点を直接持ち、利益の源泉である消費者データを収集し、

そのデータをサプライチェーン上流にフィードバックすることを通じて製造業に向けて情報を

発信する、いわばデマンドチェーンの上流部分となることは上述のとおりである。

これまでは技術力等で差別化を図り、高い生産性を維持してきた製造業は、より細分化さ

れた消費者に必要な商品を開発するため、流通業の持つデータに価値を見いだすようにな

ると考えられる。同時に消費者のニーズを多種多様な方法でより詳しく収集し、それらを活

用することが可能となる流通・物流業にとってはそれらの情報をいかに自社店舗の商品配列

や物流等に迅速に反映させるか、といった点が競争領域になることが想定される。

また、今後は IT化が進展することにより、流通・物流業と製造業の境目が希薄化すること

が想定される。例えば流通業が持つデータや販売力を背景にした、プライベートブランド等

の商品開発力の強化や、SPA といった形式で製造業が小売業に参画することでシームレス

な企画・製造・物流・販売を強化していくことが考えられる。

同時に、小売業が消費者と構築している信頼関係やデータの囲い込み等を背景として、

企業間連携や融合が進展することが予想され、サプライチェーン上流との連携のみならず、

他のサービス業に拡大していくことも考えられる。現在でもセブン&アイHLDGS.やイオン等

が銀行を始めとした金融業に参画し、消費者の利便性が近年格段に向上している事例があ

る。また、イオンは地方のショッピングセンターを中心に介護事業に参画する等、地域との連

携を強めている。これらの動きは少子高齢化による小売市場の縮小への対応として新たな

需要の獲得のための動きということができる。

図表 第四次産業革命のインパクト25

25 経済産業省 「第 1回新産業構造部会事務局資料」(平成 27年 9月 17日)より作成

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30

図表 小売業の多様なサービス展開事例26

26 株式会社セブン&アイ・ホールディングス HP、イオン株式会社 HP、株式会社ヤマダ電機 HP、株式会社ロー

ソン HP より。サッポロドラッグストアーは、株式会社日本経済新聞社 「日本経済新聞」(2016年 1月 19日)

• セブン&アイ・ホールディングス

• セブン銀行や電子マネー「nanaco」など、小売業の特性をいかした「ふだんの暮らし」に密着した安心で便利な金融サービスを提供。

金融業

企業名 サービス概要

• サッポロドラッグストアー• サッポロドラッグストアーとコンサドーレ(札幌市)は

4月からの電力小売りの全面自由化に合わせ、共同で電力事業に参入を発表。

• イオン• 「イオンモバイル」として、“契約期間なし”“契約解除

料金なし”で消費者のライフスタイルやこだわりにぴったりのデジタル端末や通信サービスを提供。

• ヤマダ電機• グループ内の住宅メーカー、住設機器メーカーとヤマ

ダ電機の店舗網を活かした独自のスマートハウス、リフォーム事業を展開。

• ローソン• 地域密着型で介護事業を中心に展開するウイズ

ネットと提携し、ローソンの店舗内に介護の相談窓口とサロンを併設したケア(介護)拠点併設型店舗を展開

展開するサービス

電力事業

通信事業

リフォーム事業

介護事業

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31

⑤ ネット販売の拡大

インターネットを通じた販売の進展により、消費者はより価格の安い商品を、膨大な売り手

から購入することが可能となった。経済産業省の『平成 26 年度電子商取引に関する市場

調査』によると、2014年の EC化率は 4.37%と、引き続き増加傾向を維持している。将来的

にはネット販売においては、消費者に向けて豊富な品揃えによる多様な選択肢を提供する

機能を担うことが考えられる。

研究会では、消費者は「いつでも、どこでも、なんでも」ということを求めており、そのような

購買体験を実現するのがオムニチャネルであるとの見解が出されたが、2030 年においては、

リアルな購買体験と溶け合う形で、ネット通販はより普遍化していくことが考えられる。

現在においても、日用品の購入については、「Amazon Dash Button」のように、IoTの

活用によって、ボタンを押すだけで購入できるサービスまで登場しており、プロセスの効率化

が進められている。このような状況を踏まえ、一部商品のチャネルはネット通販、またはメー

カーによる直販にシフトしていくという見解が示された。

また、2030年に向けて、ECは決済や配送事業者との連携により、多様な世帯(単身の高

齢者、共働き等)を対象とした高度な利便性を実現する有力な手段となることが考えられる。

例えば今後、増加することが見込まれる外出での買物を困難とする高齢者等へのサービス

提供という面では有力なツールとなり得る。同時に、近年では、翌日配送はもとより、商品を

注文から 1時間で届けるサービスまで登場している。研究会において、そのようなニーズは

部分的であるとの見方も出たが、オンデマンド化は今後進行していく可能性がある。それら

を受けて、食品・飲料や日用品等を中心とした多頻度・小口の宅配便需要はますます高まる

との見方がある。

加えて、研究会では、ロボティクスや AI技術等を活用することで、普段買い慣れている商

品の購入は自動発注に近づき、在庫の不足を検知して、最安値の商品を自動的に発注・補

充することで、バリューチェーンの効率化や家計の最適化が図られ、購買活動の主体は人

からロボットにシフトしていくとの意見も出された。

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32

図表 BtoC-EC の市場規模及び EC 化率の経年推移27

図表 2030年の EC化率 推計28

27 経済産業省 「平成 26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場

調査)報告書」(平成 27年 5月)

28経済産業省「電子商取引に関する市場調査」より推計

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33

図表 Amazon Dash Button29

図表 Amazon Prime Now30

29 Amazon.com HP より

30 Amazon.com HP より

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34

2) 消費者理解の深化とサービスへの反映

① 背景:なぜいま消費データが重要か

流通・物流業は、これまで、販売・仕入等に付随して発生するデータ(POSデータ 、在庫

情報等)を活用し、商品開発、需要喚起、業務の効率化などに取り組んできた。

メーカーと連携した商品開発では、POSデータや ID-POSデータを活用して、購買傾向

から商品ニーズを推定したり、商品のポジショニング(位置づけ)を把握している。例えば、

JR東日本ウォーターズビジネスが、Suicaの属性情報に基づく POSデータを分析している

事例がある。同社は女性が飲みきれるサイズの水を購入する傾向があることに着目し、女性

にも大きなサイズのミネラルウォーターの購入を促すため、「FROM AQUA」に「落ちないキ

ャップ」を採用、売上が大幅に伸長した。Suicaのデータを分析することにより消費者自身も

それまで認識していなかったニーズを発掘し商品開発に活用した事例ということができる。

図表 消費者データに基づく販売促進・商品開発例 「FROM AQUA」31

また、消費者の情報を活用して直接商品開発に活かす取組として、より積極的に小売業

が製造業と契約を結び、消費者ニーズに沿った商品を開発するプライベートブランドの取組

があげられる。例えば、セブン&アイHLDGS.では 2007年からプライベートブランドに参入

し、高級感のあるプライベートブランド商品「セブンプレミアム」を開発した。従来のプライベ

ートブランド商品は小売業と中堅メーカー等が連携して低価格帯の商品を提供することによ

り売上を拡大してきたが、セブン&アイHLDGS.はその豊富なデータとセブンイレブンを始

めとする大量の店舗での販売力を強みに、高級路線のプライベートブランドという新しいジャ

ンルを開発した。この「セブンプレミアム」では、ナショナルブランドの商品と同等またはそれ

以上の品質を持つオリジナル商品を、値頃感のある価格で販売することで、価格競争に陥

ることなく順調に売上を伸ばしている。

これらの事例はデータの利活用を通じて消費者の潜在ニーズを発掘することで、成熟市

場といわれる我が国でも新たな付加価値を生み出したものということができる。以下では、消

31 株式会社 JR東日本ウォータービジネス HP より

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35

費データやその処理・活用を取り巻く環境変化を、「データ量の増加/データの質的変化」、

「データ分析手法の高度化」、「サービス提供手段の増加」の観点から説明する。

図表 セブンプレミアム商品売上/単品で年間販売金額 10億円以上の商品数 推移32

企業が活用できるデータ量の増加

近年では、個人識別情報と紐づけた ID-POSデータの活用促進、決済手段の多様化、

IoTの普及等を背景として、入手できるデータの量、種類が増加している。2030年に向けて

これまでの価格競争から脱却し、新たな付加価値をつけるためには、これら新しく生まれつ

つある情報を利活用することが重要である。まず、蓄積されるデータの量的な増加について

分析した後に、蓄積されるデータの質的な変化について検証する。

≪蓄積されるデータの量的な増加≫

自社で扱うデータ量の増加

ポイントカードの普及によって増加する ID-POSデータ

一部の流通業においては、会員カード、特にポイントカードを活用することで、消費者個

人を識別し、既存の POSデータ情報(いつ、どこで、何が、いくらで売れたか)に、「誰が買

ったか」という属性情報を付加した ID-POSデータ情報といった購買情報の蓄積が増加して

いる。こういった ID-POSデータ情報の活用により、①商品仕入れの省力化や、②消費者の

行動分析を通じた販売促進、商品開発等が可能となっている。

共通ポイントカードサービスの先進的な事例としては、2003年 10月から開始しているカ

ルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の共通ポイントサービス「Tポイント」がある。Tポイン

トカードの購買情報を利用して、特定商品に関する購買を予測する顧客プロファイルモデル

を作成し、これを利用することで、グループ会社及び提携先企業では、特定の商品を購入し

そうな顧客に対して、的確にアプローチすることが可能となり、マーケティングが高度化され

32 株式会社セブン&アイ・ホールディングス 「事業概要 - 投資家向けデータブック -」

4,900

6,700

8,150

10,000

92

120

144

0

50

100

150

200

0

5,000

10,000

15,000

2012年度 2013年度 2014年度 2015年度

(計画)

売上高(億円):左軸 単品で年間販売金額10億円以上の商品数(件):右軸

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36

ている。

図表 主要ポイントカードサービスの概要33

また、ID-POSデータを元に高度な分析を行いコストの削減につなげている事例として、

約 1,800の加盟店を持つボランタリーチェーン、全日本食品株式会社があげられる。中小

小売業が大手と対抗していくために、ボランタリーチェーン加盟店全体の ID-POSデータ情

報を活用することで、大手に負けない「精度」と「効率」を追求し、経営に利活用している。

具体的には、加盟店から上がってくる ID-POSデータをもとに、エリア別に売れ筋商品を

分析し、各加盟店で共通的に取り扱う売れ筋商品を選定している。また、ID-POSデータの

販売価格と販売数量をもとに最適な売価を算出し、各加盟店に提供することで、利益向上

に向けた売価の設定支援を行っている。あわせて、加盟店にて自動発注システムを導入し、

販売実績と店頭の在庫情報を本部のシステムが連携して把握することで、商品ごとに発注

する量を自動算出して、各加盟店に情報提供を行い、これまで人の勘に頼っていた発注作

業の精度を高めている。

33各種公表資料をもとに作成各種公表資料をもとに作成

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37

図表 最適売価の分析34

ネット通販の進展によって増加する EC購買情報

小売業における販売チャネルとしては、実店舗だけでなく、ネットを利用した ECが普及し

つつあり、今後、さらに ECの市場規模が増加することが見込まれている。

ECにおいては、実店舗と比較して、商品の検索履歴、買物カゴに一度入れたが最終的

に購買まで至らなかった情報等もデータとして容易に蓄積可能である。こういった ECにて

蓄積される、購買に至るまでの消費者の情報を活用することで、消費者の嗜好を詳細に把

握することが可能となっている。

関連企業が扱うデータ量が増加

新たな決済サービス(Fintech)の出現によって増加する決済情報

新たな決済手段としては、流通業をフィールドとして、Fintech等の画期的な決済サービ

スが発展している。国内では、FeliCa を用いたおサイフケータイに始まり、メッセージアプリ

のプラットフォームを活用した資金移動サービスの「LINE Pay」などが提供されている。また、

国内未導入ではあるが「Apple Pay」や「Android Pay」といったモバイル OSを基盤とした

決済が登場し、米国において普及が進んでいる。

また Square株式会社による「Square Card Reader」に代表されるドングルタイプ端末も

出現している。これは、スマートフォンやタブレット端末に Square リーダーを取り付けるだけ

で、簡易にカード決済を可能とするサービスである。日本の電子決済はクレジットカードが中

心であることから、さらなる利用促進が期待される。このようなスマートフォンを利用した決済

の利用が浸透し、消費者との新たな接点から情報蓄積が進んでいる。

34全日食チェーン 全日本食品株式会社 マーケティング本部 宇田川副本部長資料より

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38

図表 Square Card Reader35

クレジットカードや電子マネーの普及によって増加する決済情報

また、近年では、クレジットカードや電子マネーの普及に伴い、決済手段の多様化やキャ

ッシュレス化が進んでいる。クレジットカード等を活用した決済に関する情報の利活用につ

いては、経済産業省内でも検討が進んでいるところであり、今後は流通事業者が持つ情報

に加えてクレジットカード事業者が持つ情報も活用されていくと考えられる36。

現在主流となっている現金決済では、POSデータを持つ小売業を中心に購買情報が蓄

積されているが、今後、決済手段の多様化が進む中、Fintech等の決済サービス提供者や

クレジットカード事業者・電子マネー事業者等のキャッシュレス決済を介在する事業者にお

いても、決済情報としての購買情報の蓄積が可能となり、決済手段を軸にしたデータ取得が

進むことも考えられる。この傾向は、既存の流通業が持つ購買情報の優位性に影響を与え

る可能性もある。

35 Square, Inc. HP より

36 経済産業省 「クレジットカード産業とビッグデータに関するスタディグループ」報告書(2016年 2月 29日)

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図表 電子マネー 決済金額/発行枚数37

図表 代表的な電子マネーの利用可能店舗数38

≪蓄積されるデータの質的な変化≫

購買情報以外のデータの増加(種類の増加)

店舗における消費者の移動データ

小売店等において、店内動線情報を活用することで、これまで流通業が捕捉できていな

かった「商品を買わなかったデータ」を取得する取組が始まっている。先進的な事例として、

37 日本銀行 決済機構局 「電子マネー計数の長期時系列データ(2007年 9月~2014年 12月)」及び「決済動

向(2016年 3月)」

38

・Edy:楽天株式会社 ニュースリリース(2015年 3月 13日)

・Suica:東日本旅客鉄道株式会社 「平成 28年 3月期 決算短信(連結)」

・WAON:イオン株式会社 「月次連結営業概況(2016年 4月期)(2016年 3月度)」(2016年 4月 25日)

・nanaco:株式会社セブン・カードサービス HP より(2015年 7月末時点)

7,581 11,223

16,363 19,643

24,671

31,355

40,140

46,443

9,885

12,426

14,647

16,975

19,469

22,181

25,534

29,453

0

10,000

20,000

30,000

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

決済金額(億円):左軸 発行枚数(万枚):右軸

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40

コンビニエンスストア大手のファミリーマートでは、2014年 3月から一部の店舗で、日立ソリ

ューションが提供する顧客分析ソリューションを実験的に先行導入し、店舗設計に活用して

いる。具体的には、カメラ画像から店舗の来店者の属性(性別・年齢)や人数を、店舗内に

設置した測域レーザーで来店者の行動を測定し、来店者の興味や店内での行動を分析し

ている。

図表 店頭顧客分析ソリューションの概要39

訪日外国人旅行者の移動・宿泊を含む行動データ

流通・物流業においては、爆買いに代表されるような訪日外国人による旅行消費が増加

しており、2015年の訪日外国人全体の旅行消費額(確報)は 3兆 4,771億円と推計され、

前年(2兆 278億円)比 71.5%増加している。また、訪日外国人旅行者数(1,974万人)が前

年(1,341万人)に比べ 47.1%増と大きく伸び、1人当たり旅行支出も 17万 6,167円と前年

(15万 1,174円)に比べ 16.5%増加した。

訪日外国人の行動分析を行うため、まち・ひと・しごと創生本部が提供する RESAS(地域

経済分析システム)では、外国人訪問分析、外国人滞在分析等を地域経済に係わる様々な

ビッグデータ(企業間取引、人の流れ、人口動態、等)を収集することで、「見える化(可視

化)」する仕組みを提供している。

また、スマートフォン向け乗換・観光案内アプリを用いて、訪日外国人の移動実態を調査

して、外国人に人気の意外なスポットを地方部で発見する等、インバウンド消費活性化を行

っている民間事例も存在し、今後も、官民が連携した訪日外国人旅行者のデータ活用が見

込まれる。

39 株式会社日立ソリューションズ ニュースリリース(2015年 7月 21日)

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41

図表 旅行消費額と訪日外国人旅行者数の推移40

不在票の削減のため蓄積・活用される配達情報

物流業においては、配送時の不在による再配達が大きな課題となっている。再配達により、

事業者としては、人件費、燃料費、車の整備代等のコストが増加し、消費者にとっても、再配

達の手続を行う手間が発生し、双方にとって非効率な状況を生んでいる。

こういった課題に対して、ヤマト運輸株式会社においては、不在率の削減に向けた先進

的な取組を実施している。これは、配達情報をデジタル化した情報と、荷物の受発送時に消

費者にお知らせを可能とするクロネコメンバーズという会員サービスを活用して、双方向コミ

ュニケーションを図ることで不在率を削減するという取組である。過去に消費者が何時何分

に荷物を受け取ったという情報とマッチングすることで、在宅の可能性が高い時間帯を特定

することや、クロネコメンンバーズの消費者に事前に配送時間をお知らせすることで在宅の

動機付を行う等のサービスを提供し、不在率の削減を図っている。また、2016年 1月 19日

より、モバイルメッセージサービスの LINEと連携し、荷物の配達予定・不在連絡の通知や、

受取日時・場所の変更を LINEで行えるサービスを開始するなど、ITを積極的に活用した

取組がされている。

40 観光庁 「訪日外国人消費動向調査 平成 27年年間値(確報)」(2016年 4月 5日)

8,135

10,846

14,167

20,278

34,771

622 836

1,036

1,341

1,974

0

1,000

2,000

3,000

4,000

0

10,000

20,000

30,000

40,000

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

旅行消費額(億円):左軸 訪日外国人旅行者数(万人):右軸

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42

図表 クロネコメンンバーズの不在率削減に向けたサービス例41

業態を越えて共有される RFIDの物流情報

小売業におけるRFIDの利活用は、特にアパレルやCD等の比較的単価が高いカテゴリ

ーにおいて進展している。RFIDを利活用した先進的な取組事例としては、東芝ロジスティ

クス株式会社において、家電・アパレルなどの異業種企業が物流情報を共有することにより、

異業種混載輸送を実現している42。具体的には、個社単位でコンテナに商品を積載して輸

送する際に生じる空きスペースをなくすために、異業種間の荷主が情報連携し、コンテナに

商品を混載して輸送する取組であり、RFIDを活用し、貨物の可視化を行い輸送管理の簡

易化を行っている。

41 ヤマト運輸株式会社 HP より

42 東芝ロジスティクス株式会社 HP より

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43

図表 東芝ロジスティクス株式会社におけるコンテナへの混載イメージ43

43 東芝ロジスティクス株式会社 HP をもとに経済産業省にて作成

空きスペース

一社単独ではコンテナの積載率が下がり、輸送効率が低下しがち。

RFIDを活用して貨物管理を簡易化。家電・アパレル等で異業種混載することで積載率を上昇。

A社 A社

A社 A社

C社B社

タグ

タグタグ

タグ

A社

A社 B社

C社

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44

データ分析方法の高度化

データの分析方法が高度化した理由として、第一にコンピュータの処理性能(CPU、スト

レージ、ネットワーク)、処理方式(分散処理、並列処理、インメモリ処理)が飛躍的に向上し、

大量データのリアルタイム分析が実現可能になってきていることが挙げられる。

図表 CPU演算速度の向上とストレージの大容量化44

図表 データ伝送速度の飛躍的上昇45

44 総務省 「平成 27年版 情報通信白書」

45 総務省 「平成 27年版 情報通信白書」

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45

図表 全世界で生成あるいは複製されたデジタル情報の総量46

コンピューティングパワーの増大により、大量データを分析するための高度な分析手法の

実用化が進んだ。特に顕著なのが機械学習、中でもディープラーニングと呼ばれる技術の

進展である。

2015年 5月に設立された国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センタ

ーは、大学・企業とも連携した国内最大の人工知能研究拠点であるが、同研究所では、ビッ

グデータを活用する人工知能モジュールを社会に提供し、生活、サービスや製品をよりよく

デザインする仕組みの実現を目指している。

図表 POSデータを利用した新たな分析(例示)47

46 総務省 「ICT コトづくり検討会議」報告書」(2013年 6月)

47 国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター 本村副研究センター長資料より

ライフスタイルカテゴリー(アンケートから抽出)

新しい商品カテゴリー(ID-POSから抽出)

堅実生活派

節約消費派

こだわり消費派

家庭生活充実派

アクティブ派

パパっと消費派

野菜

既存の商品分類

肉・魚・卵

冷凍・レトルト総菜

飲料水・酒類

日用雑貨

デモグラ

日常行動・生活時間

食に対する意識

健康意識

消費傾向

パーソナリティ

アンケート項目 果物自炊的

お手軽夕食的

酒飲み健康的

パン食的

野菜自炊的

おやつ的

洋風朝食的

牛乳・清涼飲料的

しっかり自炊的

PB的

健康飲料的

菓子のお伴的

お手軽栄養的

肉不使用自炊的

しっかり野菜的

和風朝食的

おかずもう一品的

見切り品的

日用品的

肉自炊的

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46

サービスを提供する手段が増加

高度化された分析手法によって大量データを分析した結果を元に、消費者に商品、サー

ビスを提供する手段も多様化している。研究会の場では、消費者の商品購入手法やサービ

ス活用のための接点として、最も大きな変化はスマートフォンの普及であるとの意見が多くあ

げられた。

図表 主な情報通信機器の世帯保有状況48

オムニチャネルの広がりによる消費者サービスの向上

実店舗と EC等の融合を目指す「オムニチャネル」という取組も、各事業者にて環境整備

が進められている。これまで、消費者が商品を購入するチャネルは、大半が店舗という一つ

のチャネルであった。しかし近年、モバイルやソーシャルメディアが普及したことにより、消費

者が様々な販売チャネルを活用して、新たな購買体験を経験することが可能になってきた。

例えば、ソーシャルメディアで興味を持った商品を、実際に店舗に行って確認し、実際の購

入はモバイル上の ECサイトで行う、といったことが実現されている。

このように、消費者により新たな購買体験を提供するために、消費者との様々な接点をシ

ームレスに連携させる取組は「オムニチャネル」と呼ばれている。リアル店舗での消費者接点

には、実店舗ならではの良さ(例:きめ細やかな接客体験)がある一方で、バーチャル(ネット)

の消費者接点としても、バーチャルの良さ(例:時間と場所を気にせず手軽に情報を取得可

48 総務省 「平成 26年通信利用動向調査」(2015年 7月 17日)

※当該比率は、各年の世帯全体における各情報通信機器の保有割合を示す。

※「携帯電話・PHS(スマートフォンを含む)」は、平成 22年末以降において、スマートフォンを内数に含む。なお、

スマートフォンを除いた場合の保有率は、平成 25年末は 76.5%、平成 26年末は 68.6%である。

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47

能)がある。オムニチャネルは、リアルの消費者接点(店舗)とバーチャルの消費者接点(ネッ

ト)を融合し、これらをうまく組み合わせて、「いいとこどり」をした新たな購買体験を提供する

ことが可能になる。

図表 オムニチャネルによる消費者接点の多様化49

あらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合することで、1つの業種だけでなく、複数の

業種をまたがってオムニチャネルを推進し、グループ全体でのシナジー効果を目指す、「グ

ループオムニチャネル」といった取組も進められている。その代表例として、株式会社セブン

&アイ・ホールディングスが進めている「オムニ7」の取組があげられる。

同社においては、2015年 11月より顧客情報の統合や共同配送等を核としたオムニチャ

ネルの導入により事業間の連携強化、顧客の利便性向上を目指し、消費者に対して「いつ

でも、どこでも、何でも」ということをコンセプトに新しい買物体験を提供している。グループ各

社と通販事業を統合し、例えば、セブンイレブン店頭のタブレット端末よりアカチャンホンポ

の商品を注文することや、LOFTの ECサイトで購入した商品を、セブンイレブンの店舗で

365日好きな時に受け取ることが可能になっている。さらには、タブレット端末を持った店員

が、ネットでの買い物に不慣れな高齢者宅などを訪れて注文を受け付ける「御用聞き」サー

ビスも展開している。

また、これまで、消費者にとって、EC で購入した商品の返品は大きな手間となっていたが、

身近な実店舗において無料で返品対応を可能とするサービスを提供している。消費者にと

って利便性が高い「返品」というサービスを通して、消費者との新たな接点を持つことが可能

となり、単なる購買情報だけはなく、その後の消費者との消費ライフサイクルの情報も把握す

ることが可能となっている。

49 野村総合研究所 「オムニチャネル・コマースの実展開に向けて ~チャネルの融合を実現する技術とサービス

~」を元に事務局にて作成

マルチチャネル

店舗

通販

ネット

リアル

チャネル

バーチャル

チャネル

モバイル

SNS

認知/興味 検討/比較 購買

オムニチャネル

店舗

通販

ネット

リアル

チャネル

バーチャル

チャネル

モバイル

SNS

認知/興味 検討/比較 購買

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図表 オムニセブンサービス概要50

SNSを通じた購買体験

ソーシャルメディアを活用して、消費者へ新たな購買体験を提供している事例として、決

済機能として「購入ボタン」を追加したソーシャルネットワークサービス(SNS)があげられる。

これまで SNSは、「認知や興味喚起」または「購入に至る前の検討、比較」への活用を中心

に考えられていたが、これは SNS上でのシームレスな購買体験を消費者に提供している。

図表 購入ボタンによる決済機能が追加されたソーシャルネットワークサービス51

このようなソーシャルメディアを活用したシームレスな購入チャネルが普及する背景として

50 株式会社セブン&アイ・ホールディングス HP より作成

51 Twitter, Inc. HP、Pinterest HP より

顧客情報商品情報(一元管理)

通販サイト

共同配送

注文店頭受取

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は、インターネット上の決済を簡易に行うことを可能にする新たなサービス(技術)の存在が

ある。例えば「Stripe」は、これまでネット上でのオンライン決済は複雑なシステムの導入が

必要であったが、数行のコードを実装するだけで、誰でも簡易に、クレジット決済機能のつい

たリンクを作成することで可能となり、Web上のあらゆるところで手軽にオンライン決済を実現

するサービスを提供している。

図表 Stripeによる実装イメージ52

52 Stripe HP より

わずか数行のコードを

組み込むだけで、

決済機能を自身の

Webサイトに搭載することができる。

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50

② 消費インテリジェンスの活用

2013年 6月に、経済産業省より発表された『消費インテリジェンスに関する懇談会報告書

~ミクロのデフレからの脱却のために~』では、以下のような「消費を科学する」ことに関連す

る取組を総称して、「消費インテリジェンス」と名付けている。

消費者が何を求めているかを的確に理解することを軸足とした企業戦略への転換

消費データの収集・分析等のための組織的能力の向上と人材育成

「消費を科学する」ことを国全体として促進するエコシステムの整備

上記の障害となる規制の緩和や必要なルールの整備

消費者と直接的に接点を持ち、消費者のニーズをリアルタイムで把握することができる流

通・物流分野では消費インテリジェンスを活用することで新しい付加価値を出すことが期待さ

れている。特に消費者のニーズを的確に捉えた商品開発への貢献といった取組は今後も進

んでいくことが想定される。消費を科学することを通じて、高齢者や外国人等を初めとした多

様な消費者の変化を常に製造サイドにフィードバックすることを通じて、新たな需要を喚起し

ていくことが期待される。また、物流業においては、配送先情報を元に、世帯の情報を把握

することが可能となる。世帯情報があれば、消費者が必要としているものをより正確に捉える

ことができ、精度の高い提案が可能となる。

なお、研究会でも消費インテリジェンスを進めていく上で、以下のような意見が出された。

消費者の行動は買うことだけではない。買った後に転売や返品、リコールを簡単にし

たいというニーズがある。

③ 消費者のニーズに合わせた実店舗を持つ小売業の役割変化

ネット通販の普遍化や、買い慣れた商品にかかる流通の合理化に伴い、実店舗を持つ小

売業の役割が変化していくと考えられる。

例えば、生鮮食品・日用品の販売拠点、配送品の受取拠点等として、インフラサービスを

提供する機能を持つことが考えられる。また、商品を直接手に取ることができることや、フィジ

カルなサービスを受けることができる実店舗のメリットを活かして、提供する商品やサービス

に対するロイヤルティ・信頼感の訴求を図っていくことが重要であるとの意見が出された。ま

た、日本の小売業は、中小・零細規模の店舗の割合が高く、地域に密着した店舗運営が可

能であることを活かして、それぞれの地域社会の拠り所として機能していくことも重要である

との示唆もあった。

実店舗を持つ小売業の強みを活かした他の取組としては、実店舗におけるリアルの強み

を追求した非日常的なコト消費の場としての、「体験型店舗」の取組が考えられる。

現在でも先進的取組として、イオンでは、体験型 SCの旗艦店として位置付ける「イオンモ

ール幕張新都心」において、「夢中」をテーマに、劇場や、お仕事体験テーマパーク、体験

型エンターテインメントミュージアム、シネマコンプレックスなどの体験型テナントを数多く揃

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え、リアル店舗ならではの魅力で消費者へ新たな買物体験を提案している。53

図表 イオンモール幕張新都心概要54

また、地域に密着した実店舗の新たな役割として、「買物弱者」という社会課題に対する

解決策としても期待されている。高齢化や過疎化等により、日常の食生活等の買物可能な

店舗が無く、移動販売・宅配等に頼らざるを得ないような「買物弱者」と呼ばれる人々が今後

も増加していくことが見込まれており、そういった状況下においては、地域に根差した実店舗

が果たす役割はさらに重要度を増していくと考えられる。

具体的な取組として、全日本食品株式会社では、買物弱者への解決策として、「マイクロ

スーパー」の取組を始めている55。「マイクロスーパー」とは、①食品スーパーもコンビニもそ

の経済規模から出店出来ない地域、②食料品の調達を移動販売や宅配等の制約された手

段に頼らざる得ない地域、または、③ナショナルブランド中心の商品が調達不可能で消費

者の支持を得られない、零細商店しかない地域等において、規模は小さくても生活時間帯

53 イオン株式会社、イオンモール株式会社 「ニュースリリース」(2013年 9月 19日)

54 イオン株式会社、イオンモール株式会社 「ニュースリリース」(2013年 9月 19日)

55 全日本食品株式会社 「買物弱者対策「マイクロスーパー」展開事例」(平成 27年 3月 24日)

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ならいつでも利用できる「店舗」を地域に展開し、店舗運営ノウハウ、商品調達・物流ネットワ

ーク等を活かした新たな「店舗」作りによって、買物弱者を支援していくという取組である。実

際の展開例としては、島根県雲南市において、廃校となった小学校跡の一角にマイクロスー

パーを展開し、地域と連携した店舗作りを進めている。

図表 マイクロスーパーの展開例(島根県雲南市)56

同時に、ネット通販が普及したとしても、生鮮食品等を中心に消費者が自ら商品を手に取

り、選別するニーズは残ることが想定される。また、上述のとおり宅配への負荷の増加から、

小売店等の店舗を商品の受け取り場所として活用する取組が拡がっていくことが想定される。

この場合は、小売業が地域のインフラとして機能している。

上述のような消費者からの情報を集約できる環境が整備されつつあることは、生活環境の

変化等を踏まえた新規サービスを生み出す土壌になり得る。上述のとおり、小売業は現在、

消費者と構築している信頼関係をもとに他のサービス業に拡大しつつあり、この動きは将来

の需要の減少や少子高齢化への対応としての新たなサービスへの展開が促進される可能

性を示唆する。また、研究会では、様々なインフラサービス(公共、医療、介護等)を含む各

種サービス事業を取り込み、提供するようになるとの見解が示され、例えば、介護サービス

(健康チェック、食事介助、服薬介助、見守りなど)など、強みとする多くの顧客接点を活用し

たサービス提供があげられた。

研究会では、消費者のニーズに合わせて最適なサービスを提供したいものの、規制等が

存在するために新事業に踏み切れないとの意見もあった。今後多様化が見込まれる消費者

に適切に対応するためにも、新サービスの提供にあたっては可能な限り規制等の存在が明

56 全日本食品株式会社 「買物弱者対策「マイクロスーパー」展開事例」(平成 27年 3月 24日)

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確に判断できる状況が整備されていることが望ましい。

物流業においては、多頻度小口配送の増加や不在による再配達等の問題から、トラックド

ライバーの負担が大きくなっている。物流センターから家庭に届ける部分は、供給側から見

た「ラストワンマイル」であると同時に、需要(消費者)側から見た「ファーストワンマイル」であ

り、消費者側が街中など家の外で荷物を受け取る取組が、課題の解決策として期待されて

いる。現在行われているファーストワンマイルの取組としては、コンビニエンスストアでの荷物

受取サービスや、宅配便受取ロッカーを利用した荷物受取サービスなどがあげられる。上述

したオムニチャネルサービスの進展によって、この流れはさらに加速されるものと考えられ

る。

図表 コンビニエンスストアでの荷物受取サービス57

図表 宅急便受取ロッカーでの荷物受取サービス58

また、それでも距離的にリーチできない消費者への対策として、以下のようなサービスの

可能性が提示された。

・ 荷物が受け取れない人と、代わりに預かってくれる人をマッチングすることで、不在

57 ヤマト運輸株式会社 HP より

58 ヤマト運輸株式会社 HP より

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時に隣家の住人が預かってくれることを実現するようなシェアリングサービス

・ 購買情報や顧客情報を共有・活用することで、ボランタリーチェーンに加盟する地域

密着型の小規模小売店舗等による配送または預かりサービス

以上のように、店舗は様々な側面を持つようになり、その概念はますます多様化していくも

のと思われる。従来、特定の店舗が持っていた機能を他の業態が持つことで、業態の融合

が起こり始めている。したがって、今後は店舗数の減少といった環境の変化に合わせて、小

売店が最新技術を活用することを通じて、消費者のニーズをきめ細かく把握し、それらに対

応することを通じて、付加価値を向上していくことが重要である。

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3) 企業と消費者の適切な関係構築・消費者起点の情報流通

① 背景:企業と消費者のミスコミュニケーションが消費インテリジェンスを妨げる

企業が保有する情報が何の目的で活用され、それによって消費者にどのようなメリットが

生まれるのかといった点についてのミスコミュニケーションから、消費者が企業に不信感を抱

く、といった事態が起こっている。日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が一般消費者

1,000人に対して実施した個人情報に対する意識調査では、約 7割が「個人情報を企業が

どう取り扱っているか気になる」「これまでに個人情報の取扱いに関して不安や不信に感じ

たことがある」と回答している。

図表 一般消費者 1000人に対して実施した個人情報に対する意識調査59

実際、2013年に日立製作所が JR東日本から Suicaの乗降履歴データを購入し、分析

サービスを実施することを発表した際には、消費者から「勝手に売らないで欲しい」「気持ち

悪い」などと大きな反発を受ける、という事態が発生した。JR東日本側が利用者への告知や

オプトアウト手段の周知を軸とした対策を発表したところ、オプトアウトの申請があった。

59 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC) 「個人情報に関する意識調査 2015」

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また、同じく 2013年に、(独)情報通信研究機構(NICT)が大阪駅ビル内にビデオカメラ

を設置して通行者を撮影し、人流情報を把握する実証実験を検討したところ、実験予告直

後からマスメディアを中心にその是非について議論がなされた事案もあった。その結果、翌

年 3月には実証実験の延期が公表された。

これらの事例を見ても、消費者はデータ利活用に関する企業からの説明に強いニーズを

持っていることがうかがえる。企業側は消費者にデータ利活用に関する方針、使い道、メリッ

トについて明確に伝え、双方のミスコミュニケーションを解消していく必要があると考えられ

る。

② 消費者が自らの情報を管理・活用する時代の到来

上述のとおり、特に流通分野においては企業が取り扱う情報は、量・質的に増加してい

る。

他方、特にスマートフォンの普及等を背景にした急速な ITの発展により、消費者自らが

購買情報をインターネット空間等に蓄積することで、新たな価値を提供するクラウドサービス

が普及しており、消費者起点の情報流通の形式としてにわかに注目を集めている。この際

は消費者個人に紐付いた購買情報(ID-POS)のみならず、消費者本人の移動情報やオー

プンデータの集積、また消費者個人のみが持ち得る属性情報等、様々な情報が結びつき

新たなサービスを生み出す可能性があり、現在消費者が進んで事業者に対して購買情報を

提供できるような環境が整備されつつある。

クラウドサービスのオンライン家計簿アプリ「Zaim」においては、登録された家計簿の情報

から「医療費控除の対象になる支出を自動抽出して、申告書類を自動作成するサービス」や

「住んでいる地域から、もらえる可能性がある給付金や手当・控除等の自治体情報を自動抽

出するサービス」を提供している。また、当アプリの関連サービスとして、消費者の移動情報

を GPSにより蓄積するアプリ「Moves」とも連携するサービスが公開されている。これは、消

費者の移動情報を元に、立ち寄った店を過去の家計簿から推測することで、レシートを読み

込ませることなく、店の情報を家計簿に自動入力してくれるサービスである。

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図表 「Zaim」の提供する「わたしの医療費控除」「わたしの給付金」サービス60

また、「Money Forward」という資産管理アプリでは、消費者が自ら理想とする子どもの人

数や進学予定等、人生における金銭管理に関する項目を設定することにより、資産管理シミ

ュレーションが可能になる。これは、アプリから、自らの収入等に応じて目標達成のために必

要なアドバイスを受けることが可能となる。

上述したメリット等を背景に、「Zaim」「Money Forward」のような、直接契約している銀行

等ではない第三者にあたる企業に、自らの情報を開示することに抵抗を感じない消費者も

増えている。両者とも消費者が利用している銀行の口座番号と暗証番号を登録することで常

に最新の銀行口座情報を消費者が自ら管理するためのサポートを実施している。

なお、米国のウォルマートは saving catcher という取組を実施している。これは消費者が

自分の購入したレシートの番号をスマートフォンのアプリに登録すると、購買情報を読み込

み、周辺店舗で同じ商品が購入価格より安く販売されていなかったかを自動的に検索する

サービスである。仮に、実際に購入した価格より安い商品が存在した場合は、その差額をク

ーポンという形で消費者に還元するサービスである。このサービスがあることにより消費者は

他社のチラシを見ることなく、常にウォルマートでは安心して最低価格で商品を購入すること

が可能になる。

これら、消費者が自ら自己に関する情報を管理する取組の背景にはインターネットを通じ

て情報を管理・処理可能なクラウドサービスの発展と個人の情報処理端末としてのスマート

フォンの普及が重要な要素となっている。

また、これまでは自分の情報(銀行口座番号や暗証番号等)を第三者にあたる企業に提

供することに抵抗があると考えられていた消費者が、自己の情報を開示することでメリットを

60 株式会社 Zaim HP より事務局にて作成

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受けることが可能なサービスが普及している現状は、これまでの固定概念を塗り替えつつあ

るといえ、情報の開示に対する消費者意識の変化を考える上で示唆に富む。

自らの情報を開示することをいとわない個人の広がりは、次章以降で 2030年の流通業の

将来像を検討するにあたって非常に重要な要素になる。

なお、研究会でも、より消費者に寄り添った形での消費インテリジェンスを進めていく上で、

以下のような意見が出された。

パーソナライズされた、個人がより価値を感じられる商品を作っていくことが求められ

ている。情報があればメーカーは最適な商品を開発し、消費者に届けることができ

る。

ID-POSデータ情報のような購買情報に限らず、消費者を取り巻く様々な情報が必

要。どんな人が、どんな環境下で、どんなものを使って、どうだったかという一連のつ

ながった情報であることが重要である。

付加価値の高い提案をするということを考えると、個人での消費情報より、世帯にお

ける消費情報が重要になる。

消費インテリジェンスの活用のためには、情報流出等のリスクを極力低減することが

前提となる。

③ 消費者が起点となったデータ活用の進展

今後消費インテリジェンスを推進するためには、自社商品を購入してくれた消費行動につ

いての分析にとどまらず、自社商品に限らない消費行動全般の分析や、更に進んだ消費行

動に限らず生活者としての行動全般にわたる分析が重要となる。そのような、深い分析のた

めに活用される情報の中には、消費者がそのデータの利活用手法を自ら決定したいと感じ

る、センシティブな情報が含まれている場合も想定され、消費者を主体としたデータの活用

が目指すべき重要な方向性として議論された。プライバシーを保護しつつ、消費者の同意

を得た上でデータの利活用を図るためには、消費者の積極的なデータ活用への参画が必

要との考えが、その要因にあげられる。

パーソナルデータを扱う考え方の一つに、VRM(Vendor Relationship Management)

というものがある。企業が消費者のパーソナルデータを管理する CRM(Customer

Relationship Management:顧客関係管理)に対し、消費者自身がパーソナルデータを

管理し、そのデータを提供する企業を選択できるというものである。この考え方をシステム的

に形にしたものは PDS(パーソナルデータストア)と呼ばれ、自身のパーソナルデータを登

録して IDを取得し、受けたいサービスの事業者に自身の意思でパーソナルデータを提供

することが可能となっている。この仕組みは、プライバシー確保の視点だけでなく、企業の枠

を超えた個人データの収集(名寄せ)が困難であるという課題の解決にもつながるものであ

る。

そのような考え方から、全ての情報を一元的に消費者に集約し、データベースに保管され

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ている情報を企業等に流通させることを通じて新たな付加価値を作り出していく取組例とし

ては、英国のmidata、米国のmint.comなどが有名である。我が国においても、「情報銀行」

という情報の信託機関の実現に向けた取組がなされており、購買情報のみならず、消費者

を起点とした情報流通のあり方全体についての議論が進展していくことが期待されている。

研究会では、消費者に全ての情報を渡しても、その膨大な量ゆえに、管理や活用が進ま

ないのではないかとの懸念もあった。その対応策として、消費者が自己に関連する情報をあ

たかも銀行にお金を預けるように信託機関に預け、当該信託期間が適切に管理・活用する

ことで消費者にメリットを還元する仕組みが考えられる。

同様に、研究会では、消費者を起点とした情報流通の仕組みが整い、流通業のみなら

ず、飲食業を始めとする、その他サービス業との連携が進むこと等を通じて、以下のようなメ

リットが生まれる可能性が示唆された。

個人の購買情報がデータベース化されれば、ユーザーの依頼によって、物流業者

がリコール商品を取りに行くことも考えられる。将来的に非常に有益なサービスにな

ることが期待されると同時に、消費者の信頼感の醸成のためには、情報提供に積極

的な消費者が自らの情報を集約し流通させ、商品開発等につなげるためのモデル

構築に向け官民が一丸となった取組が進むことが期待される。

また、購買情報や宅配情報を活用することで、親と子が離れて暮らしているような場

合の見守り介護や資産管理のサービスを提供することが可能となる。

デジタルレシートに社員食堂やレストランのメニューとその栄養素、カロリーなどを登

録することで、食生活のアドバイスやダイエットへ活用することができる。

歩数や運動量などの個人の活動情報や、病院への通院情報等を組み合わせること

で、より効果的なアドバイスの提供が見込まれる。

賞味期限を登録することで家庭や店舗の在庫管理を容易にすることや、アレルギー

やハラール等の消費者が必要とする情報を正確に提示することができると思われる。

デジタルレシートを活用した、経費精算や確定申告、医療費還付などが実現できれ

ば、生活における利便性を大いに高めることが可能となる。

経費精算等への活用の際には、会計業務を行うアプリケーションソフトウェアへのデ

ータ取込を容易にするための検討や、ユーザー側で改ざんできない仕組みを構築

する必要が出てくる。さらには、それを補完するように、レシートを預かり管理するサ

ービスが生まれることも予想される。

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図表 情報銀行の概要イメージ61

④ デジタルレシートを通じた共通プラットフォームによる生産性向上

上述のメリットを踏まえると、消費者が情報管理の主体となるプラットフォームの構築が進

展することが望ましい。その一つが、デジタルレシートの取組であり、これまで紙で管理して

いたレシート情報を、電子化された情報として消費者が管理するという取組である。これは、

これまでチェーンごとに分断され、消費者個人の精緻な購買行動が把握できていなかった

課題を、消費者に情報を蓄積することでその情報を新たな付加価値の源泉として活用しよう

という取組である。そのためには、消費者が電子的な形式で自らに関連する情報を取得でき

る環境の整備が重要になるため、デジタルレシートの標準様式も統一され、どの小売店で購

買した商品に関する情報も統一されたフォーマットで管理される環境が整えられていること

が重要となる。

現在、ECや一部のリアル店舗において購買情報(レシート)を電子的に提供する手法が

拡大しつつある。国内でもデジタルレシートの導入に向けた先進的な取組が行われており、

実際に導入しているみやぎ生協では、キャンペーンによる売上が、既存手法と比較し 2倍以

上増加したほか、利用者の 90%以上が継続利用を希望している。

これは、流通業の売上向上・消費者との接点増加によるロイヤリティの向上と同時に、消

費者が日常的に行う家計管理における接点を持つことにより、企業から消費者への情報発

61 東京大学 柴崎教授資料より

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61

信のプラットフォームになる。将来的にはこのような企業と消費者を電子的につなぐプラット

フォームに、消費者が自らの情報を登録することでサービスが精緻化され、消費者個人のニ

ーズを的確に捉えた価格以外の新しい価値を提供できるサービスが生まれることが期待さ

れる。

図表 デジタルレシートを活用した購買情報の蓄積62

図表 デジタルレシートサービス概要63

62 経済産業省にて作成

63 東芝テック株式会社 HP より

• スタンプの文字は自由に設定できる

• 応募可能なキャンペーン対象商品がわかる

• 画面のバーコードをレジで読み取るだけで利用できる

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⑤ 企業と消費者がお互い理解しあい情報を交換する環境の構築

2030年に向け、IT化が進展する中で、情報のやりとりや所有権が今以上に複雑にから

みあい、消費者の IT リテラシーの格差が広がっていくことが想定される。そのため、企業と

消費者がお互いに情報活用のメリット・デメリットを理解し合い、両者が納得する形で情報を

交換できる環境が整備されていることが期待されている。その際には上述した、IT リテラシ

ーの高い消費者が積極的に自らの情報を利活用する仕組みと同時に、自らの情報が流通

することを望まない消費者が、企業の情報利活用に向けた取組を理解できる環境が構築さ

れていることが望ましい。

研究会の場では、そのような仕組み・環境を利用する場合、消費者は企業から、自らにメ

リットのある情報やサービスを一方的に受け取るだけではなく、消費者自ら自己のデータが

どのように活用されるのかといったルール等を確認する必要性も考慮する必要がある、とい

った意見や、消費者は高付加価値なサービスを安全に享受するためには、発生するコスト

に対して適正な対価を支払う必要がある、といった意見があげられた。あわせて、データの

共有・活用の議論では、企業と消費者の関係が扱われることが多くなるが、今後は、消費者

の中の家族同士というテーマが進展する可能性がある。家族というパーミッションによって、

データの共有・活用の心理的なハードルを下げることができること、離れて暮らす親の健康

情報や、子どもの位置情報の共有など、消費者のメリットがイメージしやすいテーマであるこ

とが、その理由である。今後、家族におけるデータの共有・活用が進んでいくことで、消費者

がデータの共有・活用に慣れていき、心理的なハードルが下がることも期待される。

⑥ 情報利活用に向けた環境整備・セキュリティ対策

2030年に向けて、上述のとおり消費者をより深く理解することを通じて需要を喚起する等

を行う、消費インテリジェンスが進展する中で、様々なデータが活用されると考えられる。そ

のためには、利活用する情報を捕捉するための基盤が整いセキュリティが完備されているこ

とが大前提となる。

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4) インバウンドの拡大・海外需要の獲得

① 背景:インバウンド等海外需要の増加

政府は『日本再興戦略 2014改訂』において、2020年に訪日外国人旅行者数 2,000万

人、2030年には 3,000万人を超えることを目標に掲げた。

しかし、2016年 4月 5日に観光庁より発表された『訪日外国人消費動向調査の 2015年

年間値(確報)』によると、訪日外国人旅行者数は 10年間で約 3倍増加、2015年は前年比

47.1%増の年間 1,974万人を達成した。訪日外国人旅行者の旅行消費額についても、

2015年は前年比 71.5%増の総額 3兆 4,771億円が消費された。政府としても、「日本再興

戦略」改訂 2015において、2030年に訪日外国人旅行者 3,000万人を超えることを目指す

こと、2,000 万人が訪れる年に、外国人観光客による旅行消費額 4兆円を目指すことを決

定している。

図表 訪日外国人全体の旅行消費額

旅行消費額のうち、最大の割合である 41.8%を占める買物代は、全体の増加率を上回る

前年比 103.5%増の 1兆 4,539億円となり、旅行消費額の増加に大きく貢献していることが

見て取れる。

8,135

10,846

14,167

20,278

34,771

622 836

1,036

1,341

1,974

0

1,000

2,000

3,000

4,000

0

10,000

20,000

30,000

40,000

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

旅行消費額(億円):左軸 訪日外国人旅行者数(万人):右軸

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図表費目別旅行消費額64

目標達成が視野に入ってきたことを踏まえ、政府は2015年11月に、『明日の日本を支え

る観光ビジョン構想会議』を設置し、新たな目標の設定とそのために必要な対応の検討を行

った。これらを踏まえ、2030年の我が国において、インバウンド需要はより拡大していくこと

が期待される。

また、現在政府においては消費税免税店制度を有効な需要拡大の手段として普及を支

援しており、日本再興戦略において「地方の免税店数を約 6,600 店(2015 年4月)から、

2017 年に 12,000 店規模、2020年に 20,000 店規模へと増加させる」ことを目的として

表明している。今後も同様の動きが拡大することが望ましい。

現在でも、インバウンド需要に対する取組として、国土交通省では、「外国人旅行者の受

入環境整備」を目的にした「手ぶら観光」という取組を進めている。「手ぶら観光」とは、日本

の優れた宅配運送サービスを利用して、外国人旅行者が手ぶらで観光できるように、多言

語での宅配運送サービスに関する分かりやすい情報提供に努めるとともに、外国人旅行者

向けにサービス内容を充実させる取組であり、平成 25年度より物流及び旅行関係の団体・

機関とともに検討を進めている65。

64 観光庁 「訪日外国人消費動向調査 平成 27年年間値(確報)」(2016年 4月 5日)

65 国土交通省 「手ぶら観光促進協議会(第 1回)」 (平成 26年 12月 24日)

25.8%

(8,974)

30.1%

(6,099)

18.5%

(6,420)

21.3%

(4,311)

10.6%

(3,678)

10.8%

(2,181)

3.0%

(1,058)

2.3%

(465)

41.8%

(14,539)

35.2%

(7,146)

0.3%

(102)

0.4%

(76)

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

2015年

2014年

宿泊費 飲食費 交通費 娯楽サービス費 買物代 その他

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65

図表 「手ぶら観光」イメージ66

また、訪日観光客に対する手ぶらでの買物の利便性をさらに向上させる取組としては、空

港以外での空港型免税店の開業をする動きも相次いでいる。三越伊勢丹ホールディングス

や日本空港ビルデングなどは、平成 28年 1月 27日、三越銀座店(東京・中央)に空港型

免税店を開業した。空港型免税店では、購入した商品は羽田、成田両空港で出国手続が

済んだ後に受け取るため、手ぶらでの買物が可能になり、さらに消費税だけでなく酒・たば

こ税や関税も免除されるため、利用者にとって、海外のブランド品などが割安で購入できると

いうメリットがある。また、売り場においても、中国語、韓国語、英語等の多言語に対応できる

販売員を配置し、訪日観光客はストレスなく買物をすることが可能になり、インバウンド需要

を取り組むための環境整備が進んでいる67。

② 拡大するインバウンド需要の取込

研究会の過程では 2030年を 1つの目標として考えた際に、外国人旅行者が現在のよう

に「日本を買物する場所」として捉え続けるかどうか、疑問があるとの見解も示された。経済

成長著しい新興国等の生産能力は今後も上昇し、日本製品と同様のクオリティの商品はわ

ざわざ日本に来なくても購入することができる日がそう遠くない将来訪れることになる。今後

も日本が外国人にとって魅力的な国であり続けるため、消費者の購買にいたるサイクル(入

店・商品選択・支払・配送)それぞれの状況において、店内表示や商品情報の多言語対応

や免税手続・キャッシュレス環境の整備等、様々な対策の検討が重要である。

同時に、インバウンド消費の動向は常に変化しつつあることにも留意が必要である。現在、

インバウンド消費は、モノ消費に加えて、コト消費にも拡大しつつある。美容室などを運営す

るフォーサイス(大阪市)は、訪日外国人の取込みを積極的に拡大している。外国人へのサ

ービス周知を図り、受入体制を確立するため、大阪観光局への登録や、従業員への英語教

育等を推進し、2014年の外国人顧客は 300人を超えたという68。

また、地方における様々な体験サービスも、訪日外国人をひきつけている。

群馬県みなかみ町では、地元の農家の協力を得て、農家民泊と農業体験のサービスを

展開、2014年度には、外国人観光客の延べ宿泊数が 2年前の 2倍に増加したという69。

66 国土交通省 「手ぶら観光促進協議会(第 1回)」 (平成 26年 12月 24日)

67 株式会社日本経済新聞社 「日本経済新聞」(2016年 1月 28日朝刊)

68 日経ビジネスオンライン 「訪日外国人を「美容院」に呼び込む」(2015年 12月 25日)

69 日経ビジネス(2015年 11月 30日)

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66

図表 訪日外国人旅行者数の推移70

図表 訪日外国人旅行者消費額の推移71

また、観光庁が設置した「ICTを活用した訪日外国人観光動態調査検討委員会 GPSを

利用した観光行動の調査分析に関するワーキンググループ」の中間とりまとめ(2014年 6月

公表)によると、観光客の観光行動を反映する大規模・多種・複数情報源由来のデータ群を

観光ビッグデータと呼称し、大きく以下の 3種類のデータによって構成されており、今後の活

用が期待されている。

観光産業に係る各種サービス等(民間のデータ)

政府・自治体・公共サービス等(公のデータ)

観光行動を伴う個人によるサービスの利用

本研究会においては、外国語に対応できていないことによるコミュニケーションロス、訪日

70 日本政府観光局(JNTO)調べ

71 観光庁 「訪日外国人消費動向調査 平成 27年年間値(確報)」(2016年 4月 5日)

521 614673 733

835 835679

861

622836

1036

1,341

1,974

0

500

1,000

1,500

2,000(万人)

8,13510,846

14,167

20,278

34,771

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

(億円)

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67

外国人観光客に対する情報発信不足、サービス提供側の情報蓄積・共有不足が課題とし

てあげられ、具体的には以下のような意見が出た。

≪外国語に対応できていないことによるコミュニケーションロス≫

商品説明が多言語対応できていない

外国人への接客において、及び腰になっている事例も多い

企業側の事情として、多言語対応をするには人材育成等コストがかかり、ハードルが

高い

≪訪日外国人観光客に対する情報発信不足≫

買いたいものが決まっていても、それがどこで買えるかという情報が上手く提供でき

ていない。

日本人になじみがない文化やニーズ(例:ハラールなど)に関する情報を提供できて

いない。

品切れ時の代替品の提案が上手くできていない。

≪サービス提供側の情報蓄積・共有不足≫

訪日観光客が何を買っていったのか、という情報が共有されていないため、次のリコ

メンドが困難となっている。

EC専業の場合、免税店になることができない。

また、経済産業省においては「おもてなしプラットフォーム」というサービスの構築のための

検討が進められている。これは、訪日外国人旅行者が快適・円滑に滞在・周遊を楽しむため

のストレスフリーな環境整備を目的としている。選定されたエリアにおいて、訪日外国人に専

用のカードを発行し、その際に登録される情報(宗教・言語・滞在先など)をサービス事業者

と共有することで円滑なサービスの提供を促すものであり、以下のようなサービスが検討され

ている。

共通クーポンの発行

ホテルの所在地の情報から買ったものを配送、手ぶら観光を実現

宗教・アレルギー情報などから最適な食事場所など情報提供

趣味・嗜好情報から好みの観光地を推測し情報配信

多言語観光地ガイド

母国語での災害情報提供、大使館への安否情報

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68

図表 おもてなしプラットフォーム概要72

③ 海外への展開

さらに、海外需要の取り込みという観点からは、インバウンド需要に加え、流通業の積極的

な海外展開のための環境整備を進めていくことも重要である。政府としても、TPP、RCEP と

いった多国間での枠組みや、二国間での流通対話等を通じ、引き続き進出先国の規制緩

和等を働きかけていくとともに、我が国中小企業と流通業の連携による海外市場開拓の取

組支援等を進めていくことが望ましい。

今後は、上述のような購買データをもとにした、外国人の購買動向等の消費インテリジェ

ンスを、海外展開に活用していくことが期待される。将来的には、インバウンドとアウトバウン

ド双方の、データ及び活用ノウハウのシナジー効果が期待できる。

④ 越境 ECによる外需獲得

外需の獲得のためには、実店舗を通じた海外への進出のみならず、EC を活用する方法

もある。いわゆる「越境EC」と呼ばれる国をまたいだECは、次第にその規模を拡大しており、

2014年の日本・米国・中国相互間の消費者向け越境 EC市場規模は合計 2兆 2573億円

におよぶ。

72 経済産業省にて作成

QRコード

顔認証

ウェアラブル

ショッピング

ホテル

観光サービス

サービス事業者A

サービス事業者B

サービス事業者C

公的機関

ID情報決済情報移動情報

認証

決済

ID連携

情報連携

属性情報

決済情報

パスポート

ビッグデータ

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69

図表 2014年 日本・米国・中国相互間の消費者向け越境 EC市場規模(単位:億円)73

図表 日本・米国・中国相互間の消費者向け越境 EC市場規模ポテンシャル74

越境 EC市場規模ポテンシャルを参照すると、今後は中国での消費が中心となって拡大

していくことが見て取れる。中国への販売を考えるなら、アリババのサイトを利用することも可

能である。

中国の大手 EC事業者アリババグループ(阿里巴巴集団)は、消費者向け ECサイト天猫

(ティーモール)、越境 ECサイト天猫国際(ティーモールグローバル)を展開している。

天猫には、ロレアル、アディダス、P&G、ユニリーバ、ギャップ等、世界の一流ブランドが

出店しており、消費者間マーケットプレイスのタオバオマーケットプレイスと合わせた 2012年

73 経済産業省 「平成 26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場

調査)報告書」(平成 27年 5月)

74 経済産業省 「平成 26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場

調査)報告書」(平成 27年 5月)

(消費国)

日本からの

購入額

米国からの

購入額

中国からの

購入額合計

日本 1,889 197 2,086

(対前年比) 108.8% 110.3% 108.9%

米国 4,868 3,266 8,134

(対前年比) 112.6% 113.6% 113.0%

中国 6,064 6,290 12,354

(対前年比) 155.4% 150.8% 153.0%

合計 10,931 8,179 3,463 22,573

(対前年比) 132.9% 138.5% 113.4% 131.4%

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70

の年間流通総額は 1兆元を超えている75。

アリババグループの特徴は、上記の消費者向け EC事業以外にも、多様なEC関連事業

を展開している点にある。設立当初から運営している事業者向け EC事業では、グローバル

な取引サイトであるアリババドットコムをはじめ、中国国内の取引のサイト www.1688.com、

小口取引が可能な卸売サイトであるアリエクスプレスを展開している。

更にオンラインサーチエンジンのイータオ、共同購入サイトのジュファサン、オンライン決

済サービスのアリペイ等のサービスも提供しており、ある意味、ECに関する様々機能を一括

して提供するプラットフォームとしての地位を確立しつつある。

アリババは、ECプラットフォームとして、越境 EC も含む、多様な情報を蓄積しつつあり、

これらを活用して更なるサービスの高度化を図ることが想定される。

インバウンドの間で人気の高い商品の人気は、中国国内においても高まっており、これを

受けて越境ECサイト国際天猫は、取り扱う商品を拡大している。2015年 12月、同サイトは

2類と第 3類の医薬品販売を解禁した76。

今後も多様な商品が、越境 ECでの売上を拡大してゆく可能性はある。日本国内では、

2015年 5月、Yahoo! JAPAN とアリババグループの天猫、天猫国際が連携77している。具

体的には中国で EC事業の展開を検討している日本企業に対して、Yahoo!が料金及びト

ラフィック(誘導)面での特別な優遇プログラムを提供し、日本企業の中国市場進出を支援

するという。低コストで出店可能な越境 ECは、今後の成長市場の一つとなることが想定され

る。

75 アリババジャパン HP より

76 日経ビジネスオンライン 「アリババ、「神薬」の販売を解禁」(2016年 1月 21日)

77 ヤフー株式会社 プレスリリース(2015年 5月 29日)

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71

5) 製・配・販連携によるサプライチェーンの高度化

① 背景:非効率なサプライチェーンと供給制約

これまでサプライチェーン上で情報が分断されていたことが原因で、サプライチェーンに

ムリ・ムラ・ムダが発生していた。また、2030年には日本の労働力人口が減少している可能

性が高いことは上述のとおりであり、企業にはより一層の合理化が求められる。これは、上述

の消費インテリジェンスとも関連するが、企業が消費者のニーズを適切に理解することがで

きず、そのために全ての消費者に対して安く・早く・多く、単一のサービスを提供することが

当たり前、となっている点に原因があるとの指摘もある。その結果として、不必要なまでの過

剰なサービスの提供が産業の発展を妨げているとも考えられる。現在の流通・物流業は労

働集約的産業であり、これまでのきめ細かいサービスを引き続き人の手により提供すること

は、労働力の観点及びECの拡大等の観点から現実的ではない。そのため、販売・在庫・需

要予測等のデータを共有し、生産から配送・在庫・販売にいたるまで、社会負担が最小化さ

れるような取組の進展が期待される。その点、民間企業大手 55社が中心となって取り組ん

でいる製・配・販連携協議会は、情報の利活用等を通じて古くから続く非効率的な商慣行を

変更しようというもので大きな期待がかかるものであり、政府としても、今後の在り方の検討を

含め後押しをしていくことが重要である。

図表 製・配・販の連携イメージ78

78 経済産業省にて作成

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72

② RFIDによるシームレスな生産管理・流通・消費の実現

RFID(Radio Frequency Identification)とは、無線を利用して非接触で ICチップの中

のデータを読み書きする自動認識技術であり、離れたところからデータの読み出し(Read)、

書き換え(Write)が可能、遮蔽物等でタグが見えなくても読み取りが可能、複数のタグを一

括で読み取りが可能、用途に合わせてさまざまな形状に加工が可能、等の特徴を持ち、現

在はアパレル産業や物流機材の管理等に活用が広がりつつある。2030年という未来を考

えた際には、革新的な技術開発等を通じて、あらゆる商品に RFID タグがついていることも

考えられ、研究会においても RFIDを活用した流通・物流業の生産性向上について多くの

議論がなされた。委員からは以下のような意見が提示され、RFIDを用いた効率化による労

働力不足解消への期待の高さが示された。なお、今後、RFIDを活用した生産性の向上を

実現するためには、それぞれのプレイヤーが統一されたフォーマットに沿って情報を管理す

る基盤が構築されることが望まれる。

賞味期限や消費期限の情報を登録することで、期限が切れた商品や切れる直前の

商品を瞬時に判断でき、レジにおける決済時点でのチェックも可能となる。また、期

限切れまでの期間に応じて価格を下げる処理も容易となり、食品ロスを削減すること

にもつながる。

消費者が RFID リーダーを持っていれば、例えば冷蔵庫内の商品の賞味期限管理

や健康管理等にも活用できる。また、EC販売商品の受取時に検品し、受け取った

商品、数量等をシステム上で確認することが可能になる。

産地・消費期限・栄養素情報・外国人向け情報・アレルギー情報等、バーコードには

ない情報を付加できる。

消費者側のメリットとしては、店頭での在庫管理やサイズ・色違い在庫を確認したい

際に、すぐに確認が可能となるといったことがあげられる。企業側としても、一括読取

により棚卸しの工数が著しく削減される。

配送物の揺れ状況を把握することにより、当該物流ルート上における最適な梱包方

法を検討できるため、過度なパッケージ、または不適切な簡易包装を防止することで

きると考えられる。また、過度なパッケージ防止により、荷物の容積率を抑えることが

可能となれば、物流側としても効率化が図ることが可能となる。

自社物流でなくても、物流過程において荷物のトラッキングが可能となる。また、ロッ

ト識別番号が RFIDに登録されていれば、ロット回収の際に対象商品を即座に識別

することができる。加えて個品管理することで商品の所在を確実に把握でき、盗難対

策も容易となる。

RFIDを活用する際には、タグに全ての情報を持たせるのではなく、別の場所にプ

ールしたデータにアクセスできるようにすることが現実的であると思われる。

RFIDの活用目的として、生産性向上と並んで重要であると議論されたのは、サプライチ

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73

ェーン上のトレーサビリティ向上による品質の確保である。従来の流通は顔が見えていたが、

新規サプライヤーの参入が容易なネット販売(EC)の拡大に伴い、流通・物流業における品

質管理の徹底が困難になる可能性が高まっている。また、値段等の記載の統一の難しさも

ある。新規参入を含むあらゆるプレイヤーが、品質管理を徹底でき、消費者の安心を確保で

きるような仕組の構築において、RFIDへの期待は大きい。

物流分野における活用方法の一例として、国際物流における物流品質の確保の取組が

ある。2015年には、物流の品質管理確保に関する実証的な取組として、(一財)流通システ

ム開発センターが日本 IBM株式会社等と連携して日本酒輸出における物流可視化実験を

実施した。本取組では日本酒の各ボトルにRFIDが貼付されて真贋判定に活用されるととも

に、輸送時の温度をトレースすることにより、品質の劣化した商品が市場に出回ることを防ぎ

商品ブランドを保護している。このように、物流の高付加価値化という面からも RFIDへの期

待は大きい。

さらなる活用方法としては、家庭に RFID リーダーを置くことで、消費者による消費期限・

使用期限を超えた摂食・使用を防ぐといったものがあげられた。

また、議論の過程では、流通業における JAN コードの普及を例として、流通業が主体と

なって RFIDを活用したサプライチェーン合理化に向けた議論をリードすることに対する期

待の意見が出された。

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74

6) 物流分野における変革

① 背景:過剰ともいえるサービスと労働力不足

上述のとおり、物流分野においては、労働力不足がますます深刻化することが見込まれる

ため、既存のサプライチェーンを高度化するための取組が進められることが必要となる。また、

現状のともすれば過剰とも言えるサービスから、より消費者のニーズにあわせて、適正な対

価と引き替えにサービスを提供するといった動きが進展することも考えられる。同時に、限ら

れた人的資本が持つポテンシャルを遺憾なく発揮するためにも、特に物の運搬等に係る作

業を中心に効率化・自動化が進むことが想定される。また、現在使用されている流通 BMS

の商品マスターに荷姿マスターを加えることや、住所コードの統一等によりデジタル化された

物流の統合管理による効率化が可能となることが見込まれる。研究会の検討の過程では以

下のような見解が示された。

物流業において、配送に関する顧客個別の要望に関する情報があれば、小売側で

は配送に関するクレーム対策に活用できる。

現在の宅配においては、翌日配送が前提となった仕組みとなっているため、翌日配

送の要否が事前に分かるだけで、大幅な効率化が見込める。

小売は定期的に購入する大口顧客の情報を保持しており、ある程度の確度のある注

文の予測情報を提供することで、物流の効率化を図ることが可能となる。

② 隊列走行の活用

隊列走行の実現に向けては、産学官連携の取組みが進められている。2015年 6月 30

日に閣議決定された『「日本再興戦略」改訂 2015』において、物流業界におけるドライバー

不足が大きな課題となっており、自動走行技術を活用した隊列走行の実現を図るとされてい

る。

図表 物流業における隊列走行79

79 経済産業省、国土交通省 「自動走行ビジネス検討会中間とりまとめ報告書」(2015年 6月 24日)

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75

③ ドローン等の活用

ドローンの活用については、物の落下といった問題をどう防ぐかといった課題があり、宅配

への活用は慎重にならざるを得ない面がある。しかし、一定のエリア内から出ないように制御

をしたうえで、造船所のような一定区間内での輸送に利用するのは効果的であると考えられ

る。

経済産業省においては、平成 27年度にドローンを使った過疎地への物資輸送や建設資

材のモニタリングによる資材管理・物流の効率化に向けた実証実験を実施した。これらの実

証の成果を的確に検証し、関係府省の規制等の明確化も図りつつ、ドローンの利活用を進

めていくことが期待される。

その他にも 3Dプリンターの活用についても議論がされている。2015年 2月に Amazon

が出願した特許技術は、顧客からオンラインで注文が入ると、注文した顧客から 1番近い場

所にある 3Dプリンターを搭載したトラックに STLファイル80を送信し、注文された商品を配

達中のトラック内で造形して、完成品を注文者へ届けるというものである。同特許によると、こ

れにより、倉庫内の在庫を減らすことが可能になり、商品を探す手間もなくなるので配達時

間も短縮できるとのことである。

今後、これらドローンや 3Dプリンター等、最新の技術を活用したサービスが普及し、サプ

ライチェーンが合理化されていくことが望ましい。

図表 経済産業省によるドローンを用いた実証実験概要

(1)垂直離着陸型ドローンの自律飛行機能と運搬性能の検証により、輸配送におけるドロ

ーン利用の課題を明確化する。(実験協力企業:製薬・卸会社)

80 3次元形状を表現するデータを保存するファイルフォーマットの一つ。

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76

(2)マルチコプター型ドローンによる建設資材の在庫計測、モニタリングを実施する。ドロ

ーンから得られた情報を資材サプライヤー、建設現場とリアルタイムに連携することにより、

資材管理の効率化・コスト削減効果の他、資材運搬における物流の効率化を検証する。(実

験協力企業:建設会社)

④ 物流センターの自動化

将来的には、物流業における人手不足解消やサービス向上のため、ロボット技術を導入

し、自動走行や隊列走行を行う台車の活用等による業務の効率化の推進を図っていくこと

が期待される。すでに、倉庫ロボット(Amazonの Kivaシステム、日立のRacrew等)やピッ

キングロボットの技術開発が進んでおり、人手を減らした物流センターの実現に向けた取組

が進んでいる。経済産業省では、ロボット開発企業と流通事業者・物流事業者が連携して、

店舗内における自動運搬等に関する実証事業を実施しており、引き続きロボット等の最先

端技術を活用し、物流の合理化を図る取組を推進していくことが期待される。

図表 物流業におけるロボット台車の活用イメージ

⑤ 自動車車両情報(テレマティクス情報)の活用

デジタルタコグラフ等の車載器やタブレット端末から自動車の運行に関する情報を取得し、

その情報を活用することが検討されている。

経済産業省では、自動車車両情報の利活用に関する研究会の中で、トラック運送分野に

おけるテレマティクス情報の活用について検討が進められている。今後、物流事業者が取

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77

得したテレマティクスデータを荷主と共有することで物流の効率化に向けて連携して取り組

んでいくことが期待される。

また、国土交通省では、ETC2.0を活用することで、走行履歴等に関するビッグデータの

解析による安全運転支援サービスや双方向通信による渋滞回避支援サービスの導入を予

定しており、物流の効率化にも効果が期待されている。

⑥ シェアリングサービスの浸透

研究会においては、今後、広く一般的にシェアリングサービスが、流通・物流の分野にお

いても進んでいくという意見が多くあがった。

例えば、米国の新興企業 Instacartでは、ショッパーと呼ばれるスタッフが消費者の家に

生鮮食品を運ぶ買物代行をシェアリングサービスとして提供している。ショッパーがいつでも

商品を運んでくれるという利便性を提供することから、すべての消費者の要望を満たすため

に、時間帯で給料が変わるアルゴリズムを用いて、ショッパーを配置している。このような、デ

ータを活用することで、新たな人と人とのマッチングを実現するサービスは今後も成長してい

く可能性がある。

図表 買物代行シェアリングサービス「Instacart」81

また、配車サービスのUberや、宿泊施設の貸し借りサービスであるAirbnbに代表される

P2P(peer to peer)のシェアリングサービスでは、サービス提供者と消費者の互いの安心や

信頼を担保するために、レビューによる評価システムが組み込まれている。今後、シェアリン

グサービスが社会に浸透していくと、このレビューによる評価が経済取引における指標となり、

レビューによって可視化される個人の信頼性が、経済活動の重要なファクターとなるとの見

解が示された。それに伴って、将来的にはサービス提供者も消費者を選べるようになり、提

供者と消費者がお互い対等な関係を築くようになると見込まれる。

81 Instacart HP より

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78

図表 UBERのドライバー評価画面82

82 UBER HP より

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79

物流業におけるシェアリングサービスのメリットは、いつでもどこでも配送してくれるという点

だけでなく、最も需要の高い日にだけ配送することや、旅行等のついでに配送するといった

ような多様な働き方が登場し、新しい物流社会が生まれることが考えられる。2015年10月よ

り、ニューヨークの一部の地域・シカゴ・サンフランシスコ限定で、店舗向けの宅配サービス

『UBER RUSH』がサービスを開始されているなど、海外においては、先進的な取組が進め

られている。

上述のようなシェアリングサービスを活用し、物流業における多様な働き方を活性化する

ことで、物流業における労働者不足を解消していくことが期待される。

図表 宅配シェアリングサービス「UBER RUSH」83

4. 政府等が取り組むべきアクションプラン

2030年の流通・物流業の姿を踏まえ、本章では「企業の連携による合理化が進まない」

「データ利活用に関する企業・消費者間のミスコミュニケーション」「新たなサービスに対応で

きない法律・制度」といった課題に対して、政府・企業等が取り組むべきアクションを記す。

1) 課題:企業におけるデータ利活用の障壁

① 企業の連携による合理化が進まない

データを保有する企業は競争優位性を持つ。現在、各企業はおのおのデータ蓄積・活用

するための取組を実施しており、どれだけデータを保有し、それをどれだけ効率向上あるい

83 UBER HP より

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は付加価値向上のために活用ができるかが競争の源泉になっている。より多くのデータを保

有し活用することができる企業が競争優位性を持つことができる事業環境においては、デー

タを企業間で共有し、全企業が同じ情報を保有することができる環境構築に協力するインセ

ンティブは働きづらい。

データ共有促進のためには、現状の個々の企業利益を上回るメリットを訴求する、需要予

測の共通化による個社最適から全体最適への移行を通じたサプライチェーンのコストの低

減や共同マーチャンダイジングによる付加価値の向上、共通ポイントなどによるマーケティン

グや顧客把握といった異業種連携による情報の利用価値の増大の取組を進めるための後

押しが必要となっている。そのためには企業側の情報共有に向けた意識の醸成と同時に、

パッケージソフトやクラウドといった簡易に情報を共有・加工可能な技術の活用が重要とな

る。

また、データ共有のための環境が整っていないことも課題として挙げられる。まず、中小小

売店まで含めたすべての小売店にPOSレジの導入が進んでいるわけではないため、そもそ

も販売に関するデータを収集できない企業が存在する。このような企業に対しては、データ

を収集・管理して生産性を向上させるため、企業が自主的に IT投資を促進する先進的な取

組が推進されることが重要である。現在、中小企業庁では 996億円の予算を措置し、2017

年4月から導入される消費税軽減税率制度への対応に係る支援策として、中小小売事業者

等が複数税率に対応した POSレジやタブレット・スマートフォン等を活用した ITに対応した

レジシステムの導入等に係る経費の一部を補助する支援制度を実施している。複数税率に

対応したレジの入替えということのみならず、中小企業の生産性向上・経営力強化のために

も、POS機能のある IT化の推進が望まれるところである。

あわせて、今回の研究会においても RFIDを利活用したサプライチェーンの効率化等に

は多くの期待が寄せられた。一方、現在は RFIDには①単価が高く多様な商品を扱う小売

店の取り扱う商品全てに付与することは難しい、②電波を活用するため、水・金属等の遮蔽

物があると機能しない可能性がある、といった課題も指摘があった。これらを踏まえ、政府と

してもRFIDの更なる利活用を進めるために、課題のあぶり出しを進めていくことが期待され

る。

また、異業種をまたがるデータ活用事例として、日本気象協会が製(メーカー)・配(卸)・

販(小売)が持つ生産データ・在庫データ・販売データをと気象情報を組み合わせることによ

り、需要予測を高度化し、その需要予測結果を製・配・販に共有することを通じて、返品ロス

の削減・物流効率化を実現する取組を行っている。平成 27年度実証実験の結果として、不

要に生産していた食品を 20-30%削減することに成功した84。

84 経済産業省 ニュースリリース(2016年 4月 25日)

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81

図表 日本気象協会が取り組む先進的な需要予測の概要85

加えて、平成23年5月に、製(メーカー)・配(卸)・販(小売)の各企業がサプライチェーン

上の様々な課題を解決するために、製・配・販連携協議会が設立された。協議会の場では、

配送の最適化や返品の削減といった社会的負担を軽減するための多様な取組に関する最

新事例が共有されている。今後、協議会メンバ-外への普及や新たな取組を進めるため、

同協議会の在り方について見直しが行われる予定であるが、経済産業省としても、引き続き

協議会の議論に積極的に参加し、協力を強化していくことが望ましい。

図表 製・配・販連携協議会の加盟企業86

85 日本気象協会 ニュースリリース(2015年 1月 28日)をもとに経済産業省にて作成

86 経済産業省にて作成

小売メーカー 卸

需要予測

売上データ

最適生産 最適在庫 最適発注

気象データ

× × ×× ×

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同時に、世界の流通・物流業界では、Amazonやアリババを始めとした新興企業が生ま

れていることを踏まえ、日本においても更に多様な施策等を活用してベンチャー企業を始め

とした企業のスタートアップを支援していくことが重要である。例えば、ロボット関連のベンチ

ャー企業である、株式会社 ZMPはロボット台車を作成し、物流分野における負担を軽減す

るためのサービスを構築している。今後も流通・物流業に関連する領域で新しい企業が産ま

れてくることが期待される。

あわせて、上述のとおり、中小・零細企業を中心に、後継者難や代表の高齢化が深刻化

している。倒産に至らないまでも事業継続を断念し、「休廃業・解散」を選択する件数が、倒

産件数の約 3倍の 2万 3914件にのぼった87。特に卸売・小売業における「休廃業・解散」

した企業は 2005年から 2015年で平均 7643件発生しており、全体の約 30%にあたる。こ

のことからも、卸売・小売業が事業承継問題を抱えていることが見て取れる。このような休廃

業・解散による事業の停止は、これまで蓄えたノウハウやデータが失われる原因となる可能

性も考えられる。加えて、2030 年には 1947 年~1949の団塊世代は 80 代に突入して

おり、流通業においても事業承継の決断を迫られる場面が今後一層増えることが予想され

る。

また、今後更なる情報化の進展が見込まれるため、企業による情報の適切な管理が重要

性を増してくることが考えられる。例えば、近年、発生するコンピュータセキュリティインシデン

トの件数は増加傾向にある。

図表 インシデント対応件数の推移88

特に企業の持つデータベースに外部からアタックがあり、情報が漏洩する事案等が発生

している現状を鑑みると、各企業も経営レベルのリーダーシップの下、サイバーセキュリティ

対策を推進することが期待される。一方で、企業におけるセキュリティ人材は確実に不足し

87 株式会社帝国データバンク「第 8回全国「休廃業・解散」動向調査(2015年)」(2016年 1月 29日)

88 JPCERT/CC インシデント報告対応レポート

※ インシデントの拡大防止のため、サイトの管理者等に対し、現状の調査と問題解決のための対応を依頼した件数

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ており、全体で 35万人程度のセキュリティ人材が必要とされるなか、必要なスキルを持ち合

わせたセキュリティ人材は 10万人強しか確保できていないのが現状である。

図表 企業の情報セキュリティ対策人材の推計89

このような状況下、2016年 4月 15日、「サイバーセキュリティ基本法及び情報処理の促

進に関する法律の一部を改正する法律案」が成立した。国が行う不正な通信の監視、監査、

原因究明調査等の対象範囲を拡大することや、サイバーセキュリティ戦略本部の一部事務

を独立行政法人情報処理推進機構(IPA)等に委託することが盛り込まれている。合わせて、

最新のセキュリティに関する知識・技能を備えた高度かつ実践的な人材に関する国家資格

である「情報処理安全確保支援士」制度の創設を目指し、検討を進めている。

引き続き、企業等においては、経済産業省と(独)情報処理推進機構が策定した「サイバ

ーセキュリティ経営ガイドライン」等を活用し、企業等が実施すべきセキュリティ対策を推進し

ていくことが求められている。

製・配・販の連携によるサプライチェーンの高度化に向けた取組

平成 28年度に、製・配・販を通じた RFIDの活用に向けた課題の整理を実施。あわ

せて、コンビニ等で実証実験を実施する。平成 29年度以降は、必要に応じてRFID

の普及・促進に向けたガイドラインを策定する。

平成26年度から27年度にかけて、製・配・販のビッグデータを活用したサプライチェ

ーン高度化のための実証実験を実施する。平成 28年度はビッグデータ・AIを利活

用した需要予測の精緻化の実証を実施し、爾後事業化する。

平成 23年に製・配・販の各企業がサプライチェーン上の課題を解決するために設立

された製・配・販連携協議会について、平成 28年夏以降、今後の在り方を見直す。

物流分野の変革に向けた取組

平成 28 年度に、IoT/ロボット等の活用による物流の更なる高度化・効率化に向けて、

89 経済産業新報(2016年 2月1日)

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最先端技術等を活用した新たなビジネスモデルの構築に向けた複数の実証事業等

を実施する。

平成26年度から27年度にかけて、製・配・販のビッグデータを活用したサプライチェ

ーン高度化のための実証実験を実施する。平成 28年度はビッグデータ・AIを利活

用した需要予測の精緻化の実証を実施し、爾後事業化する。(再掲)

新陳代謝の円滑化

平成 28年度においても、産業活動の新陳代謝を円滑化するべく、産業競争力強化

法を通じた事業再編の円滑化のための税制優遇・金融支援等を実施する。

平成 28年度においても、中小企業・小規模事業者の事業承継時の納税負担を軽

減するため、会社の株式を承継する際の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度を措

置する等により、円滑な事業承継をサポートする。

データ利活用にかかるインフラ整備・企業によるセキュリティ対策の支援

平成 27年度補正予算や 28年度当初予算等を活用し、流通・サービス業の生産性

向上のための取組を支援する。あわせて、消費税軽減税率制度への対応を念頭に

置きつつ、POSレジやタブレット・スマートフォン等を活用した ITに対応したレジシス

テムの導入、パッケージソフト、クラウドシステム等の導入を促進する。

平成 27年 12月に策定された「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を平成 28年

度に適切に業界団体等を通じて企業に周知する。

② 各企業の保有するデータのフォーマットが統一されていない

企業間でのデータ共有に向けた協力に向けた取組は一定程度進みつつあるものの、現

在はデータフォーマットが企業ごとにバラバラで統一されていないという問題もある。前述の

通り、これまで各企業はおのおの情報を蓄積・活用しており、当然ながらデータフォーマット

やデータ項目もその企業が活用しやすいように個別に最適化されているため、既存のデー

タを共有していくためにはデータ変換コストがかかる。共有を進めて行く場合、このコストをだ

れが負担するのかというのも整理する必要がある。

現在、国内では一部でデータの標準化が進んでいる状況であるが、基本的には取引企

業同士のデータ共有にとどまり、フォーマットはばらばらの状態である。

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図表データ共有・標準化の現状90

「受発注情報」「入出荷情報」「決済情報」「在庫情報」は、2007年 4月に経済産業省の

「流通システム標準化事業」により、流通事業者が(小売とメーカー・卸の間で)統一的に利

用できる EDIの標準仕様である「流通 BMS(Business Message Standards)」が制定さ

れている。

「購買情報(POSデータ)」、「顧客購買情報(ID-POSデータ)」に関しては、現状複数の

フォーマットが存在しており、標準化が望まれている。

「商品情報」に関しては、業界での商品データベース構築などでの共有事例は存在する

が、標準化は進んでいない。「顧客属性」「販促情報」「顧客レビュー/アンケート調査結果」

「需要予測結果、研究データ、財務情報」などは企業間での共有化も標準化も進んでいな

いのが現状である。既に各企業が活用しているデータを統一していくためには、どういった

フォーマットに統一していくのか、変換コストなど様々な検討課題がある。また国内だけでな

く海外市場を見据え、国際標準との整合性も意識しなければならず、検討や調整に時間が

かかることが想定される。

そのため、デジタルレシートなどまだ普及が進んでいないデータについても、検討の初期

段階から標準化を意識し、それを広めていくことが必要となる。

上述のとおり、デジタルレシートは流通業の効率化や販促に資するのみならず、消費者を

主体とした情報の利活用の推進に資するものである。今後デジタルレシートの普及を促すた

めにも、今回公表する標準フォーマットの普及や JIS化を促進するとともに、将来的な海外

展開を見据え、ISOへの提案等の対応を検討することが重要となる。

また、研究会では、外国人旅行者等に向けた商品情報の発信が進んでおらず、一部で

90日経ビッグデータ「ビッグデータ・IoT総覧 2015-2016」をもとに作成

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は商品情報が無いために販売機会の損失が発生しているとの指摘があった。現在、上述の

製・配・販連携協議会においては、訪日外国人に対してメーカー・卸・小売が連携し ITを活

用して多言語で商品情報を提供するための検討を行っている。この多言語による商品情報

提供のために、平成 28年夏頃に企業等が取り組むべきガイドラインが策定される予定であ

る。今後、政府としてもこのような動きをサポートし、インバウンド需要の更なる拡大のために

取り組んでいく必要がある。

図表 商品情報多言語対応に向けた共通インフラ(イメージ)91

デジタルレシート等のフォーマットの公表・普及

平成 28年、本報告書の発表にあわせて、デジタルレシートの業界標準を公表する。

今後は当該標準フォーマットを基本としつつ、必要に応じて内容の改正や JIS化、

ISO化を実施し、普及を図る。

商品情報多言語対応に向けた標準の策定

平成 28年夏、製・配・販 55社からなる製・配・販連携協議会において、商品情報を

多言語で提供するための標準ガイドラインを策定・公表予定であり、各企業における

標準化された情報発信を後押しする。今後は当該多言語対応ガイドラインの普及を

進める。

91 経済産業省にて作成

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2) 課題:消費者との関係で生じるデータ利活用の障壁

① データ利活用に関する企業・消費者間のミスコミュニケーション

上述のとおり、企業と消費者のミスコミュニケーションが消費インテリジェンスの活用を妨げ

ている。データ利活用に関する消費者の考え方は、大きく以下の3種類に分かれると想定さ

れる。

データ利活用の意味をそもそもわかっていない人

本人が知らないうちにデータを利活用することはやめて欲しいと考える人

データ利活用はやめてほしいと考えている人

データ利活用の意味をそもそもわかっていない層に対しては、その意味とそれによって得

られるメリットを説明し、まずはデータ利活用に対して理解を深めてもらうことが重要である。

そのうえで、データ利活用に関しての許容度は人によって異なることを意識し、タイプに応じ

た対応策を検討していく必要がある。

また、本人が知らないうちにデータを利活用されることを望まない消費者は、自らがサービ

スを享受するために主体的に情報提供したものに関しては、そのサービスの範囲内でのデ

ータ利活用には抵抗感は抱かないが、自分が知らないうちにその情報が別のサービスに利

用され、まったく知らないところからレコメンドがくる、といったことに気持ち悪さを覚える、とい

う意見があった。

最後に、データ利活用はやめて欲しいと考えている人に対しては、例えば自らの情報を

利活用したサービスの提供を停止するオプトアウトの方法等を的確に伝えていくことが重要

である。

企業のデータ利活用に対しては、消費者の十分な理解が得られていないケースが散見さ

れる。その原因については、企業・消費者間のミスコミュニケーションによって、消費者にデ

ータ活用のメリット・デメリットが理解されていないことが原因であるとの意見があがった。一方

で、ユーザーを一様に捉えるのではなく、IT リテラシーやリスク許容度など、個人の特性に

応じてサービスを提供することが望ましいとの見解も示された。

これらの状況を踏まえ、本研究会の下部組織として検討WGを開催し、企業と消費者のミ

スコミュニケーションを防止するための検討を行った。今回は特に購買情報の収集や二次活

用に関する消費者への通知のための手法や、顔画像・移動情報の把握・利活用のための

消費者への通知のあり方について検討した。

企業のデータ活用に対して消費者の安心・信頼を得るための環境整備

平成 28年 1月~2月、本研究会の下部組織である検討WGにおいて、対面店舗

販売における企業から消費者へのデータ利活用に関する通知のあり方について検

討を実施した。検討WGにおける議論の結果は、本報告書の別紙「消費者向けサー

ビスにおける通知と同意・選択のあり方検討WG報告書」に取りまとめを行った。平

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成 28年度以降、これまでの議論をもとに流通業が対応すべきガイドラインを策定し

て公表する。

② IT リテラシーやリスク許容度に関する消費者の個人差

データの利活用に関しては、消費者個々人の IT リテラシーや、リスク許容に対する考え

方、ライフスタイル、価値観によって、許容度が大きく異なる。

上述のとおり企業に情報を開示することに抵抗を感じる消費者がいる一方、消費者自ら

が購買情報をインターネット空間に蓄積することで企業からのサービスを受け取る動きがうま

れつつある。

消費インテリジェンスの活用を進展させるためには、購買データに加えて、様々なデータ

を活用する必要がある。それらのデータの中には、個人にとって非常にセンシティブな情報

が含まれる可能性があり、そのために情報の利活用が進まない可能性も高い。その解決策

として、研究会では消費者が主体となってデータを利活用することに対する期待が寄せられ

た。企業におけるデータ活用と比べて、消費者によるデータ活用はまだ黎明期にあるため、

研究会では、今後の発展のためには、政府等に期待される役割は大きいとの意見があげら

れた。

消費者を主体としたデータ利活用においては、デジタルレシート等を通じて消費者に集

約されうる購買情報と、その他の消費者に関係する情報を連携することによる新規サービス

の創出と、サービス創出に必要なデータ共有プラットフォームの構築についての取組を検討

することが望ましい。

消費者を起点とするデータ活用の環境整備

平成 28年度以降、本研究会で議論されたデジタルレシート等の標準フォーマットを

活用し、消費者が持つ購買情報を集約・管理したうえで、自らの意思に基づいて多

様な形で利活用する先進的なビジネスモデルについて検討を進める。

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3) 課題:新しいデータ利活用サービスに対応できない法律・制度

① 新サービスに対応できない法律・制度

流通業を始めとした企業がデータを利活用して新しくサービスを拡大しようとする動きが広

がっているが、同時にサービスの実現には規制等が課題となるケースもある。例えば流通業

において、現在広がりつつある行政業務の代行・切り出し等に関連する規制のあり方や、シ

ェアリングサービス等の実現については、行政としても適切に対応することが求められる。

新サービスの事例として、2015年 2月に Uberが福岡で実験的に実施した「みんなの

Uber」92というサービスがあげられる。これは、営業許可を受けずに自家用車で営業するい

わゆる「白タク」に該当するとされ、道路運送法に違反する可能性があるとして、国土交通省

が実験の中止を呼びかける行政指導を行った。

また、本研究会では、宅配業者が宅配と合わせて見守りサービスを実施する場合にも、倒

れていたら抱え上げて救護する、という行為は医療行為にあたるため、それを実施すること

をサービスとして契約に盛り込むことはできない、というような課題も挙げられた。

これら新サービスについては、現行の法律や規制を見直して新たに法的整備をする必要

があるのか等の議論が必要である。

また、研究会では新サービスのアイデアが多くあげられた。情報の利活用を通じて不在率

を削減するアイデアとして、「ライフラインのスマートメーターとの連携」、「地域資源/人材を

活用してシェアリング等を通じて荷物を届けるサービス」等の提案があった。また、そういった

不在情報の取組の中で蓄積される「世帯情報」については、小売が持つ ID-POSデータ情

報と連携することで、購入者の生活パターンが把握することが可能となり、より詳細な顧客分

析が可能になるかもしれない、といった異業種間連携による更なるデータ活用の広がりに対

する意見も挙げられた。また、研究会では異業種間のデータ連携を進め、既存事業によっ

て蓄積したデータを活用した新規事業開発を促すためには、データを外部企業への販売・

提供する際のルールを明確化する必要があるとの意見が出された。

これら新サービスの創出に加えて、新サービスによって生まれるリスクに対する必要な処

置を打つことも必要である。例えば、ネットの普及によって「なりすまし」という問題が顕在化し

ている。「なりすまし」については、インターネット空間上で、個人、法人、モノ等の実在性確

認及びそれらの属性等を証明する仕組みの活用等が期待される。

企業が新規サービスを実施する際の支援

平成 28年度以降、新しくスタートする事業が規制の適用の対象となるかどうかを規

制所管大臣に照会することができるグレーゾーン解消制度の活用等により、企業が

持つニーズに対応した流通・物流業の高度化・簡素化を進めるための先進的な取組

92 スマートフォンアプリの操作によって、移動手段が必要な人と近くで車を運転している人を即時にマッチングする

サービス。UBERが産学連携機構九州と組んで福岡市で実証実験として実施

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90

を支援する。

② 個人情報の利活用に関する課題

また、データの利活用に関する個人情報保護法との兼ね合いについても整理が必要で

ある。個人から同意を得ない限り、個人情報保護法では個人レベルでのデータの紐づけは

認められておらず、集計値でのデータ分析が求められる。また、集計値に関しても複数であ

れば 2人の集計値でも良いのか、10人、100人程度の集計値が望ましいのか、といった点

に関しては明確な方針は存していない。

平成 27年 9月に個人情報保護法の改正案が成立し、今後個人情報の取扱いや利活用

に関する対応が変化することが予定されている。特に、企業が持つ個人情報を加工して第

三者企業に提供することを可能とする匿名加工情報の規定等については、今後産業ごとの

特色を踏まえマルチステークスホルダーによる検討が進む可能性がある。日進月歩で進歩

するビジネスの現場において、個人情報保護規定がビジネスを進める上での過剰な障壁と

なってしまうことがないよう、政府としても匿名加工情報等の活用に向けた検討へ最大限の

支援を行っていくことが期待される。

改正個人情報保護法に基づく「匿名加工情報」の検討

平成 28年度以降、個人情報保護法の改正やそれに伴う関係政省令の整備にあわ

せて、流通業界における匿名加工情報の規定を決定するための取組を支援する。