小学校英語指導者養成における課題と展望 · 現在日本には20,143 校の小学...

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教職キャリア高度化センター教育実践研究紀要 第 1 2019 11 小学校英語指導者養成における課題と展望 ―コア・カリキュラムを踏まえて― 泉 惠美子 (京都教育大学) Issues and Prospects for Elementary School English Teachers in Pre-Service Training From a Core Curriculum PerspectiveEmiko Izumi 2018 11 30 日受理 抄録:学習指導要領が改訂され,2020 年度より小学校中学年で「外国語活動」が,高学年で教科「外国語」 が導入される。2018 年度より移行措置期間が始まり,多くの小学校ではカリキュラムや指導体制の見直し, 文部科学省より配布された新教材を用いた授業実践を行っているが,最も重要な課題は指導者の養成と研修 である。現在小学校に勤務する教員のほとんどはこれまで英語教育について専門的に学んだ経験や実践も少 なく,小学校英語早期化・教科化に際し,文部科学省や各自治体の教育委員会が大学とも連携をとり,教員 研修を急いでいる。また,小学校英語指導者に求められる資質・能力について,東京学芸大学が文部科学省 『英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業』の委託を受けて,コア・カリキュラムを作成した 20162017)。そこで,本稿では小学校教員免許取得希望者に必修としている「小学校英語」を受講して いる学生 204 名を対象にコア・カリキュラムで求められている内容についての認識と現状を調査するために, 質問紙調査を実施した。その結果を分析し報告すると共に,今後の小学校英語教員養成の在り方について考 察する。 キーワード:小学校英語,教員養成,コア・カリキュラム,質問紙調査 Ⅰ.はじめに 2020 年度より新学習指導要領により小学校中学年で「外国語活動」,高学年で「外国語」科が導入されるのに 従い,本年度より移行措置期間が始まった。多くの小学校ではカリキュラム・マネジメントや指導体制の見直し (専科教員の導入など),文部科学省より配布された新教材 Let’s Try! We Can! を用いた授業実践を行ってい るが,課題は多い。その中でも,最も重要な課題は指導者の養成と研修である。現在日本には 20,143 校の小学 校(文部科学省統計要覧,平成 30 年度版)があり,約 46 万人の小学校教員が勤務しているが,そのほとんどは これまで児童英語教育について高等教育機関で専門的に学んだ経験や実践も少なく不安を抱えておられる。英語 教育の大きな変革である,小学校英語早期化・教科化に際し,文部科学省は British Council(英国公的国際文 化交流機関)による中央研修をはじめ,大学と連携を取り中学校の外国語(英語)2 種免許を小学校教員に取得 してもらう「中学校(英語)免許法認定講習」や「小学校英語スキルアップ講座」等,教員研修を急いでいる。 一方,小学校英語を成功させるためには,教員養成も喫緊の課題であり,現在,小学校教員養成課程を持つ大 学や教育大学は,小学校教員免許状を出すための教職課程認定の審査を受けている最中である。そこで,本稿で は文部科学省委託『英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業』で東京学芸大学が中心となり作成・ 策定された英語教員養成コア・カリキュラムを踏まえながら,京都教育大学における教員養成の現状報告と課題, 展望について考察したい。

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教職キャリア高度化センター教育実践研究紀要 第 1 号 2019 11

小学校英語指導者養成における課題と展望 ―コア・カリキュラムを踏まえて―

泉 惠美子 (京都教育大学)

Issues and Prospects for Elementary School English Teachers in Pre-Service Training -From a Core Curriculum Perspective-

Emiko Izumi

2018 年 11 月 30 日受理

抄録:学習指導要領が改訂され,2020 年度より小学校中学年で「外国語活動」が,高学年で教科「外国語」

が導入される。2018 年度より移行措置期間が始まり,多くの小学校ではカリキュラムや指導体制の見直し,

文部科学省より配布された新教材を用いた授業実践を行っているが,最も重要な課題は指導者の養成と研修

である。現在小学校に勤務する教員のほとんどはこれまで英語教育について専門的に学んだ経験や実践も少

なく,小学校英語早期化・教科化に際し,文部科学省や各自治体の教育委員会が大学とも連携をとり,教員

研修を急いでいる。また,小学校英語指導者に求められる資質・能力について,東京学芸大学が文部科学省

『英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業』の委託を受けて,コア・カリキュラムを作成した

(2016,2017)。そこで,本稿では小学校教員免許取得希望者に必修としている「小学校英語」を受講して

いる学生 204 名を対象にコア・カリキュラムで求められている内容についての認識と現状を調査するために,

質問紙調査を実施した。その結果を分析し報告すると共に,今後の小学校英語教員養成の在り方について考

察する。

キーワード:小学校英語,教員養成,コア・カリキュラム,質問紙調査

Ⅰ.はじめに

2020 年度より新学習指導要領により小学校中学年で「外国語活動」,高学年で「外国語」科が導入されるのに

従い,本年度より移行措置期間が始まった。多くの小学校ではカリキュラム・マネジメントや指導体制の見直し

(専科教員の導入など),文部科学省より配布された新教材 Let’s Try! We Can! を用いた授業実践を行ってい

るが,課題は多い。その中でも,最も重要な課題は指導者の養成と研修である。現在日本には 20,143 校の小学

校(文部科学省統計要覧,平成 30 年度版)があり,約 46 万人の小学校教員が勤務しているが,そのほとんどは

これまで児童英語教育について高等教育機関で専門的に学んだ経験や実践も少なく不安を抱えておられる。英語

教育の大きな変革である,小学校英語早期化・教科化に際し,文部科学省は British Council(英国公的国際文

化交流機関)による中央研修をはじめ,大学と連携を取り中学校の外国語(英語)2 種免許を小学校教員に取得

してもらう「中学校(英語)免許法認定講習」や「小学校英語スキルアップ講座」等,教員研修を急いでいる。

一方,小学校英語を成功させるためには,教員養成も喫緊の課題であり,現在,小学校教員養成課程を持つ大

学や教育大学は,小学校教員免許状を出すための教職課程認定の審査を受けている最中である。そこで,本稿で

は文部科学省委託『英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業』で東京学芸大学が中心となり作成・

策定された英語教員養成コア・カリキュラムを踏まえながら,京都教育大学における教員養成の現状報告と課題,

展望について考察したい。

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12 教職キャリア高度化センター教育実践研究紀要 第 1 号

Ⅱ.教員養成コア・カリキュラムで求められている力と学生の意識

1.次期学習指導要領で求められる資質・能力と教員に求められる資質・能力

中央教育審議会の「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な

方策等について」(答申)(平成 28 年 12 月)では,各教科等において育成を目指す資質・能力が三つの柱(「知

識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」)に整理された。また,外国語教育では,

小・中・高等学校を通じて,外国語で他者とコミュニケーションを図る基盤を形成し,三つの資質・能力を一体

的に育成するため,「聞くこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「読むこと」「書くこと」の5領域

にわたりバランスの取れた育成を図りつつ,外国語やその背景にある文化に対する理解を深め,他者を尊重し,

聞き手・読み手・話し手・書き手に配慮しながら,外国語でコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図

ることが挙げられた。また,これらの技能・領域を組み合わせて効果的に活用する統合的な言語活動をより重視

した目標とすることや,児童生徒の発達段階に応じて,身近な事柄から日常的な話題,社会や世界,他者との関

わりの中で幅広い話題までを取り上げ,外国語で情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝え合ったりするこ

とができる外国語によるコミュニケーション能力を養うための,目標,指導内容,学習・指導方法,学習過程,

学習評価等の在り方について検討がなされ,学習指導要領並びに同解説が出された。

次期学習指導要領では小学校英語が求められている内容や到達目標など大きく変わることになるが,同時に指

導ができる教員が必要になる。今後教員に求められる資質・能力として,文部科学省の「英語教育の在り方に関

する有識者会議」(平成 26 年 9 月報告)においては,「小学校の教職課程では,小学校中学年から外国語活動を

導入するに当たり,その目的,目標,指導法,授業実践,教材開発・活用法,教室英語の活用などに加え,児童

の発達,他教科等での学習内容,学級経営等についての知識・理解等を取り扱う必要がある。さらに,小学校高

学年の英語を教科化するに当たり,小学校段階で系統的な指導を行うため,児童の発達段階に応じた,英語を『聞

くこと』『話すこと』『読むこと』及び『書くこと』にわたる総合的なコミュニケーション能力を身に付けるため

の英語の指導力を高める内容が求められるため,教職課程において英語の指導法等に関する科目として,学習指

導要領の内容を踏まえた指導計画の作成,模擬授業,教材研究,効果的な評価方法などの内容を含むことが必要

である」としている。また,その具体例として,小学校における英語指導に必要な,基本的な英語音声学,第二

言語習得,実際の場面で使うことができる語彙,表現,文構造等の英語の特徴に関する理解と運用,異文化理解,

発達段階に応じた適切な指導法が挙げられ,教室英語など教職課程において実践的な内容を扱う必要が指摘され

た。さらに,実践的な指導力を身に付けるため,ALT 等とのティーム・ティーチングを含む模擬授業,小・中学

校連携に対応した演習や事例研究なども必要だとされている。

2.コア・カリキュラム作成の背景と大学の教職課程で求められているもの

大学の教職課程の現行の「教科に関する科目」である英語学,英米文学,英語コミュニケーション,異文化理

解についても,「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」の力を総合的に育成するために必要な内容を明

確にし,教職課程における改善・見直しを行う必要があることや,英語音声学,第二言語習得理論を含めた英語

学を総合的に指導する英語コミュニケーションの科目が充実されることが期待されている。また,教員養成にお

いては,小学校における外国語教育の教科化への対応や,中・高等学校における「話すこと」「書くこと」の指

導力の向上を図るため,小・中・高等学校のコア・カリキュラムの開発・普及を行い,課程認定や各大学による

教職課程の改善・充実の取組に活用する必要があることについて提言がなされた。その後,中央教育審議会教員

養成部会において「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」(答申)(平成 27 年 12 月)が取

りまとめられ,小・中・高等学校における英語教員の養成・研修等に関する方向性が示された。特に,「4.改

革の具体的な方向性 (1)教員の養成・採用・研修を通じた改革の具体的な方向性 ①新たな教育課題への対応」

として英語教育の充実と指導者の指導力向上を図るため,大学,教育委員会等が参画して養成・研修に必要なコ

ア・カリキュラム開発を行い,課程認定の際の審査や各大学による教職課程の改善・充実の取組に活用できるよ

うにするとともに,小学校中学年の外国語活動導入と高学年の英語の教科化に向け,「小学校英語」に関する科

目を教職課程に位置づけるための検討を進めるべきであるとの提言がなされた。

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3.コア・カリキュラムで求められている資質・能力

英語教育に携わる教員に求められる資質・能力の育成について,東京学芸大学が文部科学省から委託を受けて

平成 27 年度から開始した「英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究」は,小学校教員及び中・高等学

校の英語担当教員の英語力・指導力向上に向けた大学の教職課程におけるコア・カリキュラムを含めたモデル・

プログラムの開発・検証と,小・中・高等学校の現職教員を対象とした教員研修プログラムの開発・検証を行い,

成果の活用・普及を図ることを目的としているが,本稿では小学校教員教職課程におけるコア・カリキュラム等

に関してのみ取り挙げる。

その中で,求められている資質・能力を「外国語の指導法」と「外国語に関する専門的事項」から考えてみた

い。図1は,小学校教員養成コア・カリキュラム構成図であるが,その両方を俯瞰的に見ることができる。

図1 小学校教員養成コア・カリキュラム構成図(東京学芸大学,2017:70-71)

(1)外国語の指導法【2単位程度を想定】

学生がほぼ全員必修で受けることになるが,詳細は以下の通りである。

【全体目標】 小学校における外国語活動(中学年)・外国語(高学年)の学習・指導・評価に関する基本的な知

識・ 指導技術を身に付ける。

【学習内容】

1.授業実践に必要な知識・理解

① 小学校外国語教育についての基本的な知識・理解

◇学習項目:①学習指導要領 ②主教材 ③小・中・高等学校の連携と小学校の役割 ④児童や学校の多様性への

対応

② 子どもの第二言語習得についての知識とその活用

◇学習項目:①言語使用を通した言語習得 ②音声によるインプットの内容を類推し,理解するプロセス ③児童

の発達段階を踏まえた音声によるインプットの在り方 ④コミュニケーションの目的や場面,状況に応じて他

者に配慮しながら,伝え合うこと ⑤受信から発信,音声から文字へと進むプロセス ⑥国語教育との連携等に

よることばの面白さや豊かさへの気づき

2.授業実践

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①指導技術

◇学習項目:①英語での語りかけ方 ②児童の発話の引き出し方,児童とのやり取りの進め方 ③文字言語との出

合わせ方,読む活動・書く活動への導き方

②授業づくり

◇学習項目:①題材の選定,教材研究 ②学習到達目標,指導計画(1時間の授業づくり,年間指導計画・単元

計画・学習指導案等)③ALT 等とのティーム・ティーチングによる指導の在り方 ④ICT 等の活用の仕方

⑤学習状況の評価(パフォーマンス評価や学習到達目標の活用を含む)

【学習形態】上記の内容を学習する過程においては,教員の講義に留まることなく,以下の学習形態を必ず盛り

込むこととする。

① 授業観察:小・中・高等学校の授業映像の視聴や授業の参観

② 授業体験:授業担当教員による指導法等の実演(学生は児童役として参加する等)

③ 模擬授業:1単位時間(45 分)の授業あるいは特定の活動を取り出した模擬授業

(2)外国語に関する専門的事項 【1単位程度を想定】

こちらは選択で受講するが,できるだけ多くの学生に受講してもらいたい科目である。

【全体目標】 小学校における外国語活動・外国語の授業実践に必要な実践的な英語運用力と,英語に関する背

景的な知識を身に付ける。

【学習内容】

① 授業実践に必要な英語力

◇学習項目:①聞くこと ②話すこと(やり取り・発表) ③読むこと ④書くこと

②英語に関する背景的な知識

◇学習項目:①英語に関する基本的な知識(音声・語彙・文構造・文法・正書法等) ②第二言語習得に関する

基本的な知識 ③児童文学(絵本,子ども向けの歌や詩等) ④異文化理解

Ⅲ.京都教育大学の取り組みとコア・カリキュラムに関する調査

1.京都教育大学の小学校英語の取り組みの概要

本学では,全国の小学校教員養成課程をもつ大学の先陣を切り 13 年前(2005 年)より小学校教員免許状取得

希望者に「小学校英語」の授業を全員必修(2 回生約 300 名)にして指導を行ってきた。また,現在は,「小学

校英語(2019 年度より「初等英語科教育」に名称変更)」(2 回生 2 単位必修)と「小学校英語指導法」(2 回生

2 単位選択)「小学校英語教材論(同「小学校教科内容論英語」に名称変更)」(3 回生 2 単位選択から1年次に移

動)を設定している。「小学校英語」では,主に小学校英語を指導するにあたり必要とされる学習指導要領や第

二言語習得,教授法,評価などの理論と,歌やチャンツ,絵本の読み聞かせ,4 技能の指導法などの実践,フォ

ニックスや教室英語などの演習を組み合わせて,最終的に指導案を作成し,英語で模擬授業を行うことを到達目

標としている(資料1参照)。「小学校英語指導法」ではその発展としてより具体的にそれぞれの活動を取り上げ,

理論と演習を通して学び,指導力を育成することをめざし,附属京都小中学校での英語実習も参加希望者に実施

している。また,「小学校英語教材論」は,主に言語学,英文学,異文化理解,コミュニケ-ションの各専門分

野から,小学校英語指導に役立つ理論と実践を学ぶ。いずれも講義・演習を通して,小学校英語指導者としての

資質・能力を育成している。

しかしながら,半期 15 回の授業では学生の英語力を十分に育成することは難しいため,小学校英語受講生に

は,課外の自学自習用課題として CALL 教室での e-learning(ATR CALL BRIX)を義務づけ,英語力向上を目

ざしている。また,大学全体としても昨年度入学生に対し英語 6 単位必修化を進め,1 回生後期には全員に TOEIC

を学内で受験させるなど,英語力育成は大きな課題となっている。また,本学での「グローカル教員育成プログ

ラム」と「小学校英語パッケージ」には英語領域専攻の学生を中心として登録受講しており,短期や長期留学へ

の参加,学校でのボランティア活動などにも関心を持ち積極的に学ぼうとする姿勢が見られる。今後,彼ら,彼

女らが現場で小学校英語を牽引していってもらえればと願いつつ,教員が協力し合い指導に当たっている。

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2.コア・カリキュラムに関する学生の実態調査

今後,コア・カリキュラムに沿ったカリキュラムや指導が望まれるが,まずは学生の実態把握をするため,コ

ア・カリキュラムの内容に関してどの程度必要性を感じ,現状はどうなっているかを調査し,その分析結果を教

員養成に生かすことを目的に,質問紙調査を実施した。

(1)調査目的:『小学校教員養成コア・カリキュラム』に関する学生の意識を調査し小学校英語の授業に活かす。

(2)調査協力者

調査の対象としたのは,「小学校英語」(a)(b)(c)(d)を 2018 年度前期に受講した主に 2 回生 204 名(専攻領

域:理科,家庭,音楽,体育,教育学,国語,幼児教育,発達障害教育,英語)である。

(3)調査方法及び実施時期

コア・カリキュラムに挙げられている到達目標に関する質問紙を作成し,2018 年 4 月の授業初日に 1 回目

の調査(事前)を,2018 年 8 月の授業最終日に 2 回目の調査(事後)を行った。その結果をまとめて記述統

計,事前・事後の有意差検定を実施した。

(4)調査内容

小学校教員養成コア・カリキュラムに挙げられている内容について,その必要性と現状を 5 件法(5:とて

もそう思う,4:どちらかといえばそう思う,3:どちらとも言えない,2:あまりそう思わない,1:全く

そう思わない)で実施した。また,これまでの小学校英語の学習経験や授業への期待や感想も尋ねた(資料2)。

(5)結果と考察

1)学生が受けた小学校英語の実態

調査協力者が小学校 5 年生時(2009 年度)には,2011 年度より小学校 5・6 年生を対象に年間 35 単位時間

の「外国語活動」が必修化されるにあたり,移行期間として,文部科学省から『英語ノート』が配布され,ア

ルファベットや 285 の単語を中心に体験的な活動が行われていた時期でもあり,学校間差が大きかったと考え

られる。しかしながら,98%の学生が小学校英語を経験し(図2),その中の 52%の学生は低・中学年から始

まっており(図3),31%の学生は週1回以上授業があり,隔週をあわせると,約 60%の学生が外国語活動を

体験してきていることになる(図4)。

図2 小学校英語授業経験 図3 小学校英語開始時期 図4 小学校英語授業回数

活動内容は,ゲーム・歌・コミュニケーション活動・チャンツ等が中心で 83%を占め(図5),主に ALT が指

導をしていた実態(59%)がうかがえる(図6)。77%の学生は「楽しかった,興味を持った」といった肯定的

な感想を持っている一方,よく分からなかった,楽しくなかったという学生も 21%いることが分かった(図7)。

図5 授業の主な内容 図6 主な指導者 図7 小学校英語の感想

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2)指導者として必要な知識・技能

次に,コア・カリキュラムで挙げられている資質・能力について,必要性と現状の結果を述べる。

表1,2に見られるように,必要性に関しては,調査協力者は全項目について事前調査段階から非常に高い評価

をしている。全体で平均点が 5 点満点の 4.52 点であり,英語領域の学生は 4.67 点と回答している。つまり,い

ずれも調査協力者にとっては小学校英語は未知の分野でもあり,しっかり学ばなければならないという思いと,

どれも重要だと感じているようであった。一方,現状については,事前は全体の平均点が 5 点満点中 2.14 点と

大変低い。しかしながら,初めて小学校英語の講義を受ける学生にとっては当然の結果とも言える。一方,事後

調査結果との差を検証してみれば,必要性に関しては,③「主教材の趣旨・構成・特徴についての理解」と,⑮

「文字言語との出合わせ方,読む活動・書く活動への導き方について理解し,指導に生かす」に関して5%水準

で有意差が見られ,授業を受けた後,より必要性を感じたようである(表1参照)。

表1 必要性についての事前事後の調査結果 M SD pre post pre post t df p d 必要性① 4.762 4.708 0.559 0.652 0.877 184 .382 .089 必要性② 4.486 4.562 0.677 0.674 -1.168 184 .244 -.112 必要性③ 4.530 4.665 0.660 0.648 -2.095 184 .038* -.207 必要性④ 4.503 4.568 0.716 0.697 -0.937 184 0.350 -.092 必要性⑤ 4.554 4.674 0.651 0.638 -1.795 183 .074 -.186 必要性⑥ 4.384 4.449 0.807 0.736 -0.812 184 .418 -.084 必要性⑦ 4.481 4.562 0.801 0.764 -0.970 184 .333 -.104 必要性⑧ 4.443 4.568 0.786 0.705 -1.630 184 .105 -.167 必要性⑨ 4.492 4.605 0.692 0.753 -1.567 184 .119 -.157 必要性⑩ 4.638 4.703 0.555 0.645 -1.045 184 .298 -.108 必要性⑪ 4.462 4.560 0.676 0.699 -1.392 183 .166 -.142 必要性⑫ 4.384 4.530 0.744 0.759 -1.918 184 .057 -.194 必要性⑬ 4.573 4.697 0.631 0.644 -1.924 184 .056 -.192 必要性⑭ 4.632 4.665 0.655 0.719 -0.479 184 .632 -.047 必要性⑮ 4.454 4.611 0.737 0.676 -2.085 184 .038* -.222 必要性⑯ 4.562 4.654 0.674 0.659 -1.318 184 .189 -.138 必要性⑰ 4.611 4.670 0.643 0.687 -0.866 184 .387 -.089 必要性⑱ 4.654 4.654 0.561 0.659 0.000 184 1.000 .000 必要性⑲ 4.308 4.454 1.126 1.083 -1.338 184 .183 -.132 必要性⑳ 4.578 4.530 0.696 0.915 0.550 184 .583 .060 必要性 21 4.630 4.625 0.557 0.758 0.080 183 .936 .008 必要性 21① 4.719 4.703 0.518 0.710 0.240 184 .810 .026 必要性 21② 4.778 4.800 0.500 0.641 -0.353 184 .725 -.038 必要性 21③ 4.714 4.719 0.551 0.712 -0.081 184 .935 -.008 必要性 21④ 4.663 4.679 0.615 0.761 -0.224 183 .823 -.024 必要性 22 4.573 4.551 0.785 0.827 0.258 184 .797 .027 必要性 22① 4.649 4.692 0.660 0.713 -0.616 184 .539 -.063 必要性 22② 4.492 4.492 0.677 0.835 0.000 184 1.000 .000 必要性 22③ 4.465 4.514 0.707 0.802 -0.591 184 .555 -.064 必要性 22④ 4.584 4.578 0.603 0.763 0.076 184 0.940 .008 *p<.05 表 2 現状についての事前事後の調査結果

M SD pre post pre post t df p d 現状① 2.281 3.357 0.832 0.855 -12.893 184 .000*** -1.276 現状② 2.157 3.346 0.802 0.872 -13.393 184 .000*** -1.420 現状③ 2.141 3.378 0.753 0.877 -14.818 184 .000*** -1.515 現状④ 2.146 3.286 0.863 0.908 -12.568 184 .000*** -1.288 現状⑤ 2.227 3.314 0.836 0.896 -12.009 184 .000*** -1.255 現状⑥ 2.205 3.108 0.956 0.890 -9.056 184 .000*** -.978

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小学校英語指導者養成における課題と展望 17

現状⑦ 2.114 2.919 0.874 1.037 -7.439 184 .000*** -.840 現状⑧ 2.032 3.119 0.827 0.907 -11.882 184 .000*** -1.253 現状⑨ 2.022 3.065 0.874 0.984 -10.611 183 .000*** -1.122 現状⑩ 2.265 3.341 0.909 0.895 -11.328 184 .000*** -1.193 現状⑪ 2.076 3.173 0.900 0.928 -11.208 184 .000*** -1.201 現状⑫ 2.168 3.070 0.914 0.927 -9.742 184 .000*** -.981 現状⑬ 2.130 2.973 0.912 0.905 -8.746 184 .000*** -.929 現状⑭ 2.065 2.930 0.888 0.950 -8.898 184 .000*** -.941 現状⑮ 2.065 3.081 0.825 0.853 -11.390 184 .000*** -1.212 現状⑯ 1.951 3.227 0.880 0.886 -13.846 184 .000*** -1.445 現状⑰ 2.054 3.295 2.386 0.848 -6.730 184 .000*** -.693 現状⑱ 1.924 3.286 0.912 0.944 -14.033 184 .000*** -1.469 現状⑲ 1.951 3.081 0.968 1.137 -10.463 184 .000*** -1.071 現状⑳ 1.995 3.059 0.906 0.945 -11.173 184 .000*** -1.151 現状 21 2.060 3.098 0.876 0.837 -11.171 183 .000*** -1.213 現状 21① 2.332 3.239 0.949 0.860 -10.380 183 .000*** -1.003 現状 21② 2.238 3.049 0.937 0.928 -8.749 184 .000*** -.870 現状 21③ 2.541 3.270 2.384 0.842 -4.055 184 .000*** -.408 現状 21④ 2.281 3.162 0.889 0.863 -10.463 184 .000*** -1.006 現状 22 2.070 2.968 0.939 0.938 -9.771 184 .000*** -.957 現状 22① 2.395 3.205 0.879 0.879 -8.998 184 .000*** -.923 現状 22② 2.178 3.027 0.825 0.856 -9.498 184 .000*** -1.010 現状 22③ 2.086 3.119 0.874 0.925 -10.753 184 .000*** -1.148 現状 22④ 2.297 3.200 0.929 0.896 -9.278 184 .000*** -.990 ***p<.001

一方,現状に関しては,全ての項目で事前事後の間に 0.1%水準で有意差が見られるなど,非常に大きな効果

が認められる。これは、事前の得点が低かったため,事後の平均点が 3.16 点であるものの,有意な差が出たと

考えられる。しかしながら,3 点に到達しない項目(⑦「言語使用を通して言語を習得することを理解し,指導

に生かす」⑬「児童の発話につながるよう,効果的に英語で語りかける」⑭「児童の英語での発話を引き出し,

児童とのやり取りを進める」㉒「小・中学校の接続も踏まえながら,小学校における外国語活動・外国語の授業

を担当するために必要な背景的な知識を身に付ける」)については,英語で授業を行うことに関する教員の英語

力育成と,背景的な知識といったより専門性に関するものである。これらは,「小学校英語」15 回の授業では

時間的に無理があり,今後大学全体の英語カリキュラムの充実並びに学生の英語力向上に対する意欲喚起,「小

学校教科内容論英語」での指導などを共に進めることで,改善が期待されよう。また,より自信を持ちつつある

項目(①「小学校における外国語活動・外国語の学習・指導・評価に関する基本的な知識・指導技術」②「小学

校外国語教育の変遷,外国語活動・外国語科の目標・内容についての理解」③「主教材の趣旨・構成・特徴につ

いての理解」⑤「児童や学校の多様性への対応について,基礎的な事柄を理解」⑰「学習到達目標に基づいた指

導計画(年間指導計画・単元計画・学習指導案,短時間学習等の授業時間の設定を含めたカリキュラム・マネジ

メントなど)について理解し,学習指導案を立案」⑱「ALT 等とのティーム・ティーチング(TT)による指導

の在り方について理解」㉑1,2「授業実践に必要な聞く力/読む力を身に付けている」㉒1「英語に関する基本

的な事柄(音声・語彙・文構造・文法・正書法等)について理解」)に関しては,「小学校英語」での主要な指

導項目でもあり,指導案を作成し TT で模擬授業をしたことで肯定的な評価になっていると考えられる。英語力

に関しては,今後は高学年の small talk の実演をはじめ,話す力が求められることから,継続した指導が望まれる。 3)学生の英語力

調査協力者にどの程度の英語力が身についているかを尋ねたところ,英語検定試験 2 級が 38 名,準 2 級が 25

名,3 級が 33 名と回答した。また,彼らが 1 回生の 2018 年 1 月に全員(318 名)が受験した TOEIC のテスト

結果を見てみると,990 点満点で中央値は 400 点であり,590 点以上は 12 名,730 点以上は 2 名という結果で

あり,新学習指導要領で文部科学省が推奨している高校卒業で CEFR の B2 レベル(英検準 1 級から 1 級)には

程遠い結果となっている。小学校で児童が初めて外国語に出合うのは,教員が話す英語であろう。正しく流暢な

英語を用いて,十分な英語のインプットをする必要があり,英語で授業を進め,間違いをリキャストなどで適切

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に訂正したり,褒め言葉を用いて児童を励ましたりといった英語によるインタラクションは不可欠である。今後

どのように学生の 4 技能 5 領域を含めた実践的な英語力を向上させるかは大きな課題である。

4)事後調査の自由記述(「あなたが小学校英語の授業で学んだことを書いてください。」原文のまま引用)

代表的な声として以下のような内容が挙がっていた。「小学校英語の授業で,本当にたくさんのことを学びい

い機会になりました。前半では,小学校英語の目的や指導法・指導案の書き方など基本的な知識をたくさん学び,

後半では模擬授業を通して多くのことを学びました。実際に自分達で 1 から考えてそれを授業してみて,想像以

上にむずかしく大変でした。他のグループを見て学ぶことも多くあって,本当に楽しい授業でした。自分にはま

だまだ英語力が足りないので,もっと勉強してたくさんのことを学んでいきたいです。」「単に発音して英語でゲ

ームをしてというだけでなく,子どもたちに何を学んでもらい,何をねらいとした授業を提供するかという小学

校英語の深さを知った。また実際に模擬授業をすることで,何が足りないのかどのように捉えてもらえるかと経

験することで学んだ。今後はもっと英語能力を養って表現能力を増やす。」「授業作りは「しなければならないも

の」であると同時に、「自分でつくれるもの」であると学べました。これからは,自分でつくる授業をどれだけ

意味のあるものにできるか,子どものためになるかを考えながら授業をつくっていきたいです。」「教科として英

語が学ばれていく中で,自分の英語力が足りないこと。指導案を書き,教具を作り,歌を探し,となるとチーム

でやっていくのが大切だと学んだ」といったように,英語力の大切さや児童の学びを深く考えて授業計画を立て

ることや教材研究の大切さ,協働で授業や教材を作っていくことの重要性などを感じてくれたようである。

Ⅳ.教員養成の課題と展望

来年度より新課程が始まり,新カリキュラムが導入される。小学校英語教員養成に関しては,日本は諸外国に

比べかなり遅れており,教員養成を急ぐべきである。本研究で見えてきた課題と展望についてまとめておきたい。

(1)学生の小学校英語への意識:小学校での英語学習体験を増やす。まずは小学校教員を目指す学生が,今

後自分たちが小学校現場で中心になって小学校英語を進めるのだという意識と自覚をより高め,英語学習へのや

る気を促進する必要がある。それにより,英語力と指導力を育てることが期待できる。

(2)学生の英語力育成:半期 15 時間では限界がある。先述したとおり,e-learning にどこからでもアクセ

スでき学べるシステムを導入し,英語資格試験のための学習と挑戦,アクティブラーニングへの取り組みを推奨

する仕組みを整えることが重要である。今後大学入試の英語が 4 技能型になれば,学生の英語運用能力も上がる

ことも考えられるが,本学では一般入試前期の二次試験で英語の試験を英語領域以外の学生には課さないといっ

た改革が行われ,入学する学生の英語力並びに英語学習に対する意欲や意識の低下が懸念される。

(3)小学校教員を目指す学生の授業コマ数の多さと小学校英語用の授業確保:小学校教員になるためには全

教科を指導する必要があり,当然授業科目数も多くなる。また,小学校以外に中学校や高等学校,幼稚園や特別

支援学校の教員免許を取得したいと意欲を燃やす学生も多く,そのような中,小学校英語関連の授業を設定して

も受講するのが困難であるといった事態も生まれている。しかしながら,母語ではない英語,さらに自分たちが

経験していない内容をプロの教師として教えるためには,十分な学習内容と時間数を確保する必要がある。英文

学科の教員はもとより,大学のカリキュラム全体としても考えていくべき事項であろう。

(4)専門性と指導力:英語領域専攻の学生は,中高英語免許も取得するため,英語関連授業科目数はかなり

多い。そのため,他領域専攻の学生との差は大きいと言わざるを得ない。しかし,他領域の学生も英語に興味を

持ち中等英語科教育法を受講したり,学科の特徴を生かした模擬授業を行うなど個性が光る。新学習指導要領で

も,他教科の内容を英語授業で用いるといった内容が記載されている。教科横断型カリキュラムや内容言語統合

学習(CLIL)といった教授法も注目されており,学級担任が小学校英語を指導する際には,様々な特質や技能をもっ

た教員が活躍できると考えられる。また,全人教育やコミュニケーションを中心とする小学校教育,外国語教育

では学級経営力も必要である。全教科共通の教員としての資質・能力の育成は重要である。

(5)指導者の問題:今後多くの大学で教員養成における小学校英語指導者養成を目指すことになるが,児童

英語教育の専門家が少ないことは課題である。

(6)クラスサイズ:現在,小学校英語は 6 クラス開講しているが,クラスによっては 1 クラスの人数が 65

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名と多く,全員での模擬授業等が難しい。外国語の指導を伴う授業は,できるだけ少人数で丁寧に指導すること

が望ましいが,なかなか厳しいのが現状である。

(7)文部科学省事業:教員養成大学として,教員養成のみならず教員研修に関わることも大きな使命である。

本学でも 3 年目を迎える小学校教員への中学校教諭二種免許状(外国語(英語))取得のための認定講習やスキル

アップ講座,免許状更新講習など求められるものは多い。また,「外部専門機関と連携した英語指導力向上事業」

や京都府市をはじめ地方自治体や教育委員会との連携も進めているが,今後も需要が増えるであろう。そのよう

な場合,本学でも進められている反転授業や web 講義などもよい手段であるかもしれない。しかし,最終的に

は顔を合わせてそれぞれの教員の声やニーズを聴きながら,対話を通して行う研修を大切にしたい。

(8)教員養成と教員採用:最近は教員採用試験で,各自治体が小学校英語指導者用特別枠を設定するところ

や,英語資格試験で一定のレベルに達すると加点をもらえるような制度が増加している(2018 年度は 48 の都道

府県と政令都市で TOEIC を活用)。英語力育成に関して,大学入学と就職・卒業の両面で考える必要があろう。

(9)学び続ける教員を目指して:教員養成大学は,教員養成と教員研修の両方を見すえ,その接続を意識し,

卒業後も教員をサポートする必要がある。J-POSTLE では,初任者研修も教員養成の延長とみなしており,児

童を対象に職場での授業研究を中心とした研修(OJT)を通して,内省的実践家としての成長が期待できる。教

育委員会や教育センターとの連携,教職キャリア高度化センターによる教員サポートシステム,大学院での研修

なども含め,現在最も深刻で緊急の課題である小学校英語指導者養成と研修を進めていくことが重要である。

(10)専科教員の養成・育成の可能性:政府の働き方改革で今年度より小学校に専科教員を派遣し,今後も大

幅に増やす計画となっているが,これまで指導されてきた担任が小学校英語を担当できないといった事態も起こ

っている。しかしながら,将来的には,外国語科の指導は専科教員(小学校文化に精通し,担任もできることが

望ましい)が担うといった方向が考えられ,専科としても指導できる教員の養成が急がれる。

以上のような課題と展望について今後も考慮しつつ,より良い取り組みを続ける必要がある。学生は将来教員

として教育に携わり,多くの児童に英語を教え,これからのグローバル社会において世界平和や人類の福祉に貢

献したり,地球市民として幸せな人生を送れる人を育てることを想うと,教員養成の重要さと喜びを感じる。今

後もコア・カリキュラムを踏まえた英語教育の崇高な目標を達成できるような体制づくり,授業づくりに精進す

ることが求められている。

謝辞:本調査に際し,ご協力いただいた西本有逸先生,田縁眞弓先生,学生の皆様に心よりお礼を申し上げます。

引用文献

文部科学省統計要覧(平成 30 年版)http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/002b/1403130.htm

東京学芸大学(2017) .「英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業」平成 28 年度報告書 . http://www.u-gakugei.ac.jp/~estudy/report/index.html

東京学芸大学(2016).「英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業」平成 27 年度報告書.

資料

1「初等英語科教育(現在の「小学校英語」)2 単位」教員免許状取得のための必修科目,各教科の指導法(情

報機器及び教材の活用を含む。) 授業の

概要 小学校英語教育の進め方について,外国語活動・外国語(英語)科の理論と実際の指導法について学ぶ。

また小学校での授業ビデオ視聴や,実際に児童の立場になって様々な活動や授業を受けたり,指導者

の立場にたって模擬授業を行ったりすることを通して,小学校における英語教育のねらいを理解する

とともに,その指導法を身につける。 授業の

到達目

小学校における英語教育のねらいにそって,どのような内容を,どのような指導法や教材を用いて進

めるかを理解することができる。また英語で授業をすることに自信を持ち,学習指導案を作成し,模

擬授業を行うことを通して,様々な英語活動の指導や指導を行うことができる。

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回 内容 1 ガイダンス,授業映像視聴,1章 外国語活動の目的と目標 2 2章 関連分野から見る外国語活動の意義と方向性,3章 指導者の役割,資質と研修 3 4章 教材・テキストの構成と内容,5章 指導目標,年間指導計画の立て方と具体例 4 6章 言語材料と4技能の指導,7章 教材研究① 5 8章 教材研究② 6 9章 指導法と指導技術 7 10 章 教材・教具(ICT 機器)の活用法 8 11 章 評価のあり方,進め方 9 12 章 授業過程と学習指導案の作り方,13 章 授業づくり 10 14 章 外国語活動の成果,課題と今後の展望 11 模擬授業,グループ発表,ディスカッション1 12 模擬授業,グループ発表,ディスカッション2 13 模擬授業,グループ発表,ディスカッション3 14 模擬授業,グループ発表,ディスカッション4 15 まとめ,振り返り,小学校英語の今後の展望 *毎時間クラスルーム・イングリッシュ,活動・指導法演習,課外課題 ATR-CALL BRIX

テキス

ト・参

考書

樋口忠彦・加賀田哲也・泉惠美子・衣笠知子(編著)(2017)『新編 小学校英語教育法入門』研究

社。文部科学省(2017)『小学校学習指導要領解説 外国語活動編,外国語編』 吉田晴世,田縁眞弓,泉惠美子,加賀田哲也(2014)『小学英語 Enjoy! Phonics (1)上巻』受験研究

社。新教材『Let's Try!』『We Can!』 2 調査内容(一部抜粋) あなたは,小学校英語の指導者として次のような知識や能力が必要だと思いますか(必要性)。5段階で答え

てください。次に,現在そのような知識や能力があると思いますか(現状)。5段階で答えてください。 ①小学校における外国語活動・外国語の学習・指導・評価に関する基本的な知識・指導技術を身に付ける。

②小学校外国語教育の変遷,小学校の外国語活動・外国語の目標・内容について理解する。 ③主教材の趣旨・構成・特徴について理解する。 ④小・中・高等学校の連携と小学校の役割について理解する。 ⑤様々な指導環境に柔軟に対応するため,児童や学校の多様性への対応について,基礎的な事柄を理解する。

⑥子どもの第二言語習得についての知識とその活用について理解する。 ⑦言語使用を通して言語を習得することを理解し,指導に生かすことができる。 ⑧音声によるインプットの内容の類推から理解へと進むプロセスを経ることを理解し,指導に生かせる。

⑨児童の発達段階を踏まえた音声によるインプットの在り方を理解し,指導に生かすことができる。

⑩コミュニケーションの目的や場面,状況に応じて意味のあるやり取りを行う重要性を理解し,指導に生かせる。

⑪受信から発信,音声から文字へと進むプロセスを理解し,指導に生かすことができる。 ⑫国語教育との連携等によることばの面白さや豊かさへの気づきについて理解し,指導に生かすことができる。

⑬児童の発話につながるよう,効果的に英語で語りかけることができる。 ⑭児童の英語での発話を引き出し,児童とのやり取りを進めることができる。 ⑮文字言語との出合わせ方,読む活動・書く活動への導き方について理解し,指導に生かすことができる。

⑯題材の選定,教材研究の仕方について理解し,適切に題材選定・教材研究ができる。 ⑰学習到達目標に基づいた指導計画(年間指導計画・単元計画・学習指導案,短時間学習等の授業時間の設定を

含めたカリキュラム・マネジメントなど)について理解し,学習指導案を立案することができる。

⑱ALT 等とのティーム・ティーチングによる指導の在り方について理解している。 ⑲ICT 等の効果的な活用の仕方について理解し,指導に生かすことができる。 ⑳学習状況の評価(パフォーマンス評価や学習到達目標の活用を含む)について理解している。 ㉑小学校における外国語活動・外国語の授業実践に必要な実践的な英語運用力と,英語に関する背景的な知識を

身に付ける。 1) 授業実践に必要な聞く力を身に付けている。 2) 授業実践に必要な話す力(やり取り・発表)を身に付

けている。3) 授業実践に必要な読む力を身に付けている。4) 授業実践に必要な書く力を身に付けている。 ㉒小・中学校の接続も踏まえながら,小学校における外国語活動・外国語の授業を担当するために必要な背景的

な知識を身に付ける。 1)英語に関する基本的な事柄(音声・語彙・文構造・文法・正書法等)について理解している。

2) 第二言語習得に関する基本的な事柄について理解している。 3) 児童文学(絵本,子ども向けの歌や詩等)について理解している。 4) 異文化理解に関する事柄について理解している。