パターン認識を用いた特定のベーシストの 特徴の分析 ·...

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平成 28 年度 卒業論文 パターン認識を用いた特定のベーシストの 特徴の分析 指導教員 北原鉄朗 准教授 日本大学文理学部情報科学科 松浦 佳輝 2017 2 月 提出

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Page 1: パターン認識を用いた特定のベーシストの 特徴の分析 · 平成28年度卒業論文 パターン認識を用いた特定のベーシストの 特徴の分析 指導教員北原鉄朗准教授

平成28年度 卒業論文

パターン認識を用いた特定のベーシストの

特徴の分析

指導教員 北原鉄朗 准教授

日本大学文理学部情報科学科

松浦 佳輝

2017年2月 提出

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i

概  要

ロックバンドとは, 主にギター, ベース, ドラムなどのパートで構成された音楽

を演奏するグループであり, ロックバンドの曲のベースパートで奏でられるフレー

ズ (ベースライン)は大抵そのバンドのベーシスト本人が作成する. そして, ベー

シストが弾くフレーズには, ベーシストごとに特有の特徴があると考えられる. し

かし, その特徴は, 時間を追うごとに変化する可能性が高い. 本研究では, Red Hot

Chili Peppersの Fleaというベーシストに着目し, Fleaのベースラインが前期の曲

と後期の曲で特徴にどのような違いがあるかを, データマイニングツールwekaを

用いて前期の楽曲と後期の楽曲を分類し, その際に効果的だった特徴量について分

析する.

本稿では, Fleaのベースラインの特徴の変化を分析するために,まず対象楽曲

の前期と後期の分け方について分析した. ギタリストの John Fruscianteがバン

ドに復帰し, ボーカリストの Anthonyの歌がよりメロディ重視になったとされる

『Californication』以後のアルバム 4枚とそれより前のアルバム 2枚で前期・後期

を分けwekaによる分類を実行した. その分類結果が, 前期 3枚・後期 3枚, また前

期 4枚・後期 2枚に分けたときの結果より高い識別率が得られた.このことからア

ルバムを前期 2枚・後期 4枚に分けて Fleaのベースラインの特徴の分析を行った.

wekaによる属性選択を行い, 3種類行った属性選択で「曲全体の音符の数」,「楽曲

中の全入力における音高の平均値」の 2つの特徴量が共通して選ばれた.また, 決

定木を用いて属性選択を行ったところ「楽曲中の全入力における音高の平均値」,

「隣接音との音高差の絶対値が 0だったときの割合」, 「隣接音との音高差の絶対

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値が 3だったときの回数」, 「全使用音高における頻出音高上位 5位までが占める

割合」の 4つの特徴量が選ばれた. この 4つの特徴量のみ用いてwekaによる分類

を行ったところ識別率が 82%を超えた. また, 属性選択で選ばれた 19個の特徴量

を用いてwekaによる分類を行ったところ本研究で最も識別率が高くなった. この

19個の特徴量の内 12個が隣接音との音高差に関する特徴量だった.これらの特徴

量が前期と後期の楽曲を分類する際に重要な特徴量であることが確認された.

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iii

目  次

目  次 iii

図 目 次 v

表 目 次 vii

第 1章 序  論 1

1.1 本研究の背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 本研究の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

第 2章 音高, 音長, 頻度に関する特徴量の設定 3

第 3章 分類 7

3.1 前期, 後期の設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

3.2 wekaによる分類 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

3.3 属性選択 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

3.3.1 属性選択 1種類目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

3.3.2 属性選択 2種類目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

3.3.3 属性選択 3種類目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

3.3.4 J48による属性選択 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

第 4章 考察 15

4.1 楽曲の前期・後期の分け方に関する考察 . . . . . . . . . . . . . . . 15

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4.2 Fleaのベースラインに関する考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

第 5章 結  論 23

参考文献 25

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図 目 次

3.1 アルバムを前期 2枚・後期 4枚に分けたときの分類結果 . . . . . . . 9

3.2 属性選択で選ばれた特徴量による分類結果 . . . . . . . . . . . . . . 12

4.1 ルート音の割合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

4.2 隣接音の音高差の絶対値が 0だったときの割合 . . . . . . . . . . . . 17

4.3 曲全体の音符の数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

4.4 楽曲中の全入力における音高の平均値 . . . . . . . . . . . . . . . . 19

4.5 隣接音の音高差の絶対値が 3だったときの回数 . . . . . . . . . . . . 20

4.6 全使用音高における頻出音高上位 5位までが占める割合 . . . . . . . 21

4.7 決定木 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

4.8 『Higher Ground』のベースラインの楽譜 . . . . . . . . . . . . . . 22

4.9 『Don’t Forget Me』のベースラインの楽譜 . . . . . . . . . . . . . 22

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表 目 次

2.1 用意した音高に関する特徴量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

2.2 用意した音長に関する特徴量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.3 用意した頻度に関する特徴量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

3.1 対象楽曲 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

3.2 分類結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

3.3 属性選択 1種類目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

3.4 属性選択 2種類目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3.5 属性選択 3種類目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.6 属性選択 J48 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

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第1章 序  論

1.1 本研究の背景

ロックバンドとは, 主にギター, ベース, ドラムなどのパートで構成された音楽を

演奏するグループであり, ベースは, 低音部においてリズムとハーモニーの両方を

支える, ロックバンドにおいて重要なパートである. ベースパートで奏でられるフ

レーズ (ベースライン)は, 楽曲の特徴に大きく影響を与えることも少なくない. ま

た, アーティストごとにベースラインには, そのアーティストらしさが現れる. し

かし, アーティストごとのベースラインの特徴は, 不変というわけではない. むし

ろ, 時代の移り変わり, バンドメンバーの変更, 本人の音楽的好みの変化などで変

化していくのが自然である. こういった時系列的な変化は, 音楽専門雑誌などで定

性的に語られることはあっても, 定量的な分析はあまり見られない. 定量的な旋律

の分析としては, アーティストのボーカルパートの旋律の特徴を分析する研究 [1]

や, Mozartの楽曲の特徴を分析する研究 [2]などがあるものの, 特定のベーシスト

に着目した研究は少ない.

1.2 本研究の目的

本研究では, 分析する対象にRed Hot Chili Peppersのベーシスト, Fleaを用い

る. Red Hot Chili Peppers の楽曲のベースラインのデータを用いて, 特徴量を求

め, パターン認識の手法を用いてRed Hot Chili Peppers の楽曲を前期の楽曲か後

期の楽曲かどうか判別する. 前期の曲か後期の曲か判別するときに効果的な特徴

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量があるとすれば, その特徴量は Fleaのベースラインの前期の曲と後期の曲の特

徴を表していると考え, そのような特徴量を求める.

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第2章 音高, 音長, 頻度に関する特徴

量の設定

ベースラインの特徴量として, どの様な音を多く使うのか等考えれるが, ベース

パートの特性として, 土橋ら [3]は,

• 低域から和声構造を支え, 楽曲全体の印象を形成する, いわば骨組みとして

の役割を担う

• 楽曲中の大部分で演奏が継続し, 無音区間の割合が極めて低い

• 装飾的な役割を果たすギターやキーボードとは異なり, 基本的に 1曲中に 1

パートしか存在せず, かつほぼ単音での演奏である

等があげられる, と述べている. また, Fleaのベースラインの特徴としては,「ベー

ス博士」[4]では,「高速フレーズを織り交ぜており」と述べている. また「スラッ

プ・スタイル」[5]では「指弾きのとき, 休符を取り入れたファンク色の強いライン

が多々ある」と述べている. これらのことから, Fleaのベースラインの特徴を分析

する際には, 音の高さや音の長さ, 音の数や休符に着目すべきであると考えられる.

本研究では, 過去の文献 [3, 6, 7]からの引用や, これらの考えに基づき, 「音高」

「音長」「頻度」に関して 57個用意した. 表 2.1に用意した音高に関する特徴量, 表

2.2に用意した音長に関する特徴量, 表 2.3に用意した頻度に関する特徴量を示す.

ベースの典型的な演奏方法として, ルート弾きと呼ばれる, ルート音を 8分音符で

繰り返すというものがある. このような演奏では, 特徴量 P-2, P-3, P-16, P-36は

高い値を取るが, 特徴量 P-4, · · · ,P-15, P-17, · · · ,P-34, D-3, D-6は低い値を取ると

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表 2.1: 用意した音高に関する特徴量

特徴量の名前

P-1 楽曲中の全入力における音高の平均値

P-2 同じ音高が続いた回数

P-3, · · · ,P-15 隣接音との音高の差の絶対値が

iだったときの回数 (i = 0, · · · , 12の 13種類)

P-16, · · · ,P-28 隣接音との音高の差の絶対値が

iだったときの割合 (i = 0, · · · , 12の 13種類)

P-29 隣接音との半音進行の割合

音高 P-30 隣接音との順次進行 (3度未満)の割合

P-31 隣接音との跳躍進行 (3度以上)の割合

P-32 隣接音との 6度以上の跳躍進行の割合

P-33 隣接音とのオクターブ進行の割合

P-34 隣接音との音高の差の絶対値が

13以上の進行の割合

P-35 出現回数の多い音高 1位と 2位の音高差

P-36 ルート音の割合

P-37 音長を考慮した音高の平均値

予想される. 一方, スラップ奏法では主にルート音と 1オクターブ上の音を使うこ

とが多いので, ルート弾きと比べると, 特徴量 P-15, P-28, P-33などは高い値を取

るが, 特徴量P-2, P-16, P-36は低い値を取ると予想される. また, 先述したFleaの

ベースラインの特徴の, 高速フレーズを織り交ぜる, という点から特徴量D-6, F-1,

F-2, F-4は高い値を取るが, 特徴量D-1, D-4は低い値を取ると予想される. 休符を

取り入れることが多いという点からは, 特徴量 F-3, F-5は高い値を取るが, 特徴量

F-1, F-2, F-4は低い値を取ると予想される.

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表 2.2: 用意した音長に関する特徴量

特徴量の名前

D-1 楽曲全体での音符の長さの平均値

D-2 楽曲全体での休符の長さの平均値

D-3 隣接音と音長が異なる割合

D-4 楽曲全体での音符の長さの最頻値

音長 D-5 楽曲全体での休符の長さの最頻値

D-6 16分音符が出てくる割合

D-7 8分休符が出てくる割合

D-8 16分休符が出てくる割合

D-9 曲の長さ(秒数)

表 2.3: 用意した頻度に関する特徴量

特徴量の名前

F-1 楽曲全体の音符の数

F-2 1小節あたりの音符の数の平均値

F-3 1小節あたりの休符の数の平均値

F-4 1秒あたりの音符の数の平均値

頻度 F-5 1秒あたりの休符の数の平均値

F-6, · · · ,F-10 全使用音高における頻出音高上位 i位までが

占める割合 (i = 1, · · · , 5の 5種類)

F-11 全使用音高における頻出音高 1位の平均周期

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第3章 分類

本稿では, 2章で抽出した特徴量を用いて, weka [8]による前期の楽曲と後期の

楽曲の分類を行う.

3.1 前期, 後期の設定

本研究の対象楽曲を表 3.1に示す. Red Hot Chili Peppersは, 以前 Fleaがバン

ドをリードする役割を担っていたが, 元々メンバーだった John Frusciante という

ギタリストが『Californication』というアルバムからバンドに復帰した. 「ベース

博士」[4]では, 「アンソニーの歌がよりメロディ重視になったこのアルバムから,

フリーのベース・プレイもよりメロディに寄り添うような歌心のあるライン作り

になっている」と分析している. そこで, John Fruscianteが復帰する前に作曲され

た楽曲が収録されたアルバムを前期, それ以後を後期として, 前期 2枚・後期 4枚

で分類を行う. また, 分類精度を比較するために, 前期 3枚・後期 3枚, 前期 4枚・

後期 2枚でも分け, 計 3通りの方法で分類を行う.

3.2 wekaによる分類

分類器には, J48, IBk(k=3), BayesNet, MultilayerPerceptronの4種類を設定し,

データマイニングツール wekaによる分類を行った.

まず, アルバムを前期 2枚・後期 4枚に分けたときの結果を図 3.1に示す.Multi-

layerPerceptronを用いたときが最も高い識別率で分類を行うことが出来た. 同様

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表 3.1: 対象楽曲

発売年 アルバム名 曲数

1989 Mother’s Milk 13

1991 Blood Sugar Sex Magik 17

1999 Californication 15

2002 By the Way 16

2006 Stadium Arcadium 28

2011 I’m with You 14

表 3.2: 分類結果PPPPPPPPPPPPPP分類器

振り分け方2:4 3:3 4:2

J48 75.7282 % 61.165 % 65.0485 %

IBk 77.6699 % 54.3689 % 55.3398 %

BayesNet 72.8155 % 61.165 % 62.1359 %

MultilayerPerceptron 83.4951 % 63.1068 % 49.5146 %

に, アルバムを前期 3枚・後期 3枚, また前期 4枚・後期 2枚に分けて実行した. 分

類結果を表 3.2に示す. いずれの分類器を用いたときにも, アルバムを前期 2枚・

後期 4枚に分けたときの識別率が最も高かった. この結果から, アルバムの 2枚目

と 3枚目の間で特徴が変化していると考えられる.

3.3 属性選択

分類する際にどの特徴量が効果的なのかを調べるために, 3種類の属性選択を

行った.

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図 3.1: アルバムを前期 2枚・後期 4枚に分けたときの分類結果

3.3.1 属性選択 1種類目

1種類目は, 評価する方法である属性検証を ReliefAttributeEval, 検索方法を

Rankerに設定し, 属性選択を行った. ランキング上位の結果を表 3.3に示す. この

表から, 8分休符や 16分休符が出てくる割合や音高の平均などが分類に有効な特

徴量であることが分かる.

3.3.2 属性選択 2種類目

2種類目は, 属性検証をWrapperSubsetEval, ClassifierをMultilayerPerceptron,

検索方法は BestFirstに設定し, 属性選択を行った. 分類結果が最高となる部分集

合を表 3.4に示す. この表から, 隣接音との音高差についての特徴量などが分類に

有効な特徴量であることが分かる.

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表 3.3: 属性選択 1種類目

属性検証 ReliefAttributeEval

検索方法 Ranker

順位 評価値 特徴量の名前

1 0.049624 8分休符が出てくる割合

2 0.048921 楽曲中の全入力における音高の平均値

3 0.048505 16分休符が出てくる割合

4 0.043722 楽曲全体の音符の数

5 0.041692 1秒あたりの音符の数

6 0.041645 単位小節あたりの休符の数の平均値

7 0.038036 隣接音との音高差の絶対値が 1だったときの割合

8 0.034884 隣接音との音高差の絶対値が 2だったときの割合

9 0.030739 16分音符が出てくる割合

10 0.030096 隣接音との半音進行の割合

3.3.3 属性選択 3種類目

3種類目は, 属性検証をWrapperSubsetEval, ClassifierをMultilayerPerceptron,

検索方法をGeneticSearchに設定し属性選択を行った. 分類精度が最高となる部分

集合を表 3.5に示す. この表からも, 隣接音との音高差についての特徴量などが分

類に有効な特徴量であることが分かる.

3.3.4 J48による属性選択

また, 決定木での分類精度向上のために, 属性選択を行った. 属性検証をWrap-

perSubsetEval, Classifierを J48, 検索方法を BestFirstに設定し実行すると表 3.6

の 4個の特徴量が, 分類精度が最高となる部分集合として選択された.

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表 3.4: 属性選択 2種類目

属性検証 WrapperSubsetEval

Classifier MultilayerPerceptron

検索方法 BestFirst

特徴量の名前

楽曲全体の音符の数

楽曲中の全入力における音高の平均値

隣接音との音高差の絶対値が 0だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 4だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 6だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 6だったときの割合

隣接音との音高の差の絶対値が 13以上の進行の割合

楽曲全体での音符の長さの平均値

全使用音高における頻出音高上位 1位が占める割合

楽曲全体での休符の長さの最頻値

属性選択で選ばれた, 表 3.3の 10個の特徴量, 表 3.4の 10個の特徴量, 表 3.5の

19個の特徴量, 表 3.6の 4つの特徴量でそれぞれ wekaによる分類を実行した. 分

類結果を表 3.2に示す.

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図 3.2: 属性選択で選ばれた特徴量による分類結果

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表 3.5: 属性選択 3種類目

属性検証 WrapperSubsetEval

Classifier MultilayerPerceptron

検索方法 Geneticsearch

特徴量の名前

楽曲全体の音符の数

楽曲中の全入力における音高の平均値

隣接音との音高差の絶対値が 0だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 0だったときの割合

隣接音との音高差の絶対値が 2だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 3だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 5だったときの割合

隣接音との音高差の絶対値が 6だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 8だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 8だったときの割合

隣接音との音高差の絶対値が 9だったときの回数

隣接音との音高差の絶対値が 12だったときの割合

隣接音との半音進行の割合

隣接音との音高の差の絶対値が 13以上の進行の割合

全使用音高における頻出音高上位 2位までが占める割合

全使用音高における頻出音高上位 5位までが占める割合

隣接音と音長が違う割合

音長を考慮した音高の平均

16分休符が出てくる割合

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表 3.6: 属性選択 J48

属性検証 WrapperSubsetEval

Classifier J48

検索方法 BestFirst

特徴量の名前

楽曲中の全入力における音高の平均値・・・(1)

隣接音との音高差の絶対値が 0だったときの割合・・・(2)

隣接音との音高差の絶対値が 3だったときの回数

全使用音高における

頻出音高上位 5位までが占める割合・・・(3)

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15

第4章 考察

本章では, 第 3章で得られた実験結果に対して考察を加える.

4.1 楽曲の前期・後期の分け方に関する考察

3章で, アルバムを前期 2枚・後期 4枚, 前期 3枚・後期 3枚, 前期 4枚・後期 2

枚の 3通りで分けて wekaによる分類を行った. その結果, いずれの分類器の設定

においても, アルバムを前期 2枚・後期 4枚に分けたときの結果が最も正しく分類

された割合が高かった. このことから John Fruscianteが復帰し, Anthonyの歌が

よりメロディ重視になった『Californication』というアルバムから Fleaのベース

ラインの特徴は変化していると考えられる. このことは, 「アンソニーの歌がより

メロディ重視になったこのアルバムから, フリーのベース・プレイもよりメロディ

に寄り添うような歌心のあるライン作りになっている」と述べている「ベース博

士」[4]の主張と一致する. この主張が正しいかどうか確認するために,図 4.1にルー

ト音の割合のヒストグラム, 図 4.2に隣接音の音高差の絶対値が 0だったときの割

合のヒストグラムを示す. 図 4.1を見ると, ルート音の割合が前期は 21· · ·30%の

曲数の割合が最も高くなっているが, 後期は 41· · ·50%の曲数の割合が高くなって

いる. この結果から後期は前期よりも, ルート音の割合が上がっていることが分か

る. また, 図 4.2を見ると, 隣接音の音高差の絶対値が 0だったときの割合が, 前期

は 11· · ·20%の曲数の割合が最も高くなっているが, 後期は 31· · ·40%の曲数の割合

が高くなっている. この結果から後期は前期よりも, 隣接音と違う音に移動する割

合が下がっていることが分かる. ルート音の割合が上がり, 隣接音と違う音に移動

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図 4.1: ルート音の割合

する割合が下がっていることから, 後期は前期と比べて落ち着いたベースラインに

なり, ギターやメロディを生かすベースラインになっていると考えられる. このこ

とから, 「ベース博士」[4]の主張は正しいと言える.

また, 今回分類器を 4種類用いて分類を行った. Fleaのベースラインの特徴が変

化していると考えられる,アルバムを前期 2枚・後期 4枚に分けたときは, Multilay-

erPerceptronの識別率が 83.4951%と,4種類の分類器の中で最も高かった. しかし,

前期 3枚・後期 3枚で分けたときのMultilayerPerceptronの識別率は 63. 1068%に

下がり, 前期 4枚・後期 2枚で分けたときの識別率は 49.5146%まで下がり, 4種類

の分類器の中で最も低かった. 特徴が変化していると考えられる前期 2枚・後期 4

枚から, 前期 3枚・後期 3枚, 前期 4枚・後期 2枚と離れていくと, 識別率も同じよ

うに下がっていったこの結果から, MultilayerPerceptronは特徴の変化があるとこ

ろで調べる対象を正しく分けることができれば, 高い識別率を期待できるが, 特徴

の変化があるところが不明である場合の識別率は下がってしまう可能性があると

考えられる. また, J48は今回どのアルバムの分け方でも, 比較的安定して高い識

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図 4.2: 隣接音の音高差の絶対値が 0だったときの割合

別率で分類できた. このことから特徴の分かれ目が分からない場合は,J48を用い

て分類することで安定した識別率を期待できると考えられる.

4.2 Fleaのベースラインに関する考察

4章で述べた3種類のMultilayerPerceptronによるニューラルネットワークにお

ける属性選択を行うと, 表 2.1, 表 2.2, 表 2.3で示した特徴量のうち, 「曲全体の音

符の数 (図 4.3)」,「楽曲中の全入力における音高の平均値 (図 4.4)」の特徴量が3

種類とも選択された. この 2つの特徴量を詳しく考察するために, ヒストグラムを

作成した. 図 4.3に曲全体の音符の数のヒストグラム, 図 4.4に楽曲中の全入力に

おける音高の平均値のヒストグラムを示す.

図 4.3より, 前期の曲は比較的音符の数が少ない曲が多く, 後期の曲は音符の曲

が多い曲が多いことが分かる. また, 図 4.4より, 前期の曲は比較的音高の平均が

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図 4.3: 曲全体の音符の数

低い曲が多く, 後期の曲は音高の平均が高い曲が多い曲が多いことが分かる. この

ように前期と後期が分かれる特徴量を実装したことで分類精度が上昇したことか

ら,「曲全体の音符の数」,「楽曲中の全入力における音高の平均値」がFleaの前

期・後期の特徴を表していると考えられる.

また, J48による決定木における属性選択で選ばれた表 3.6の 4つの特徴量のみ

で分類した際の識別率が 82%を超えることが示された. このことから, 4つの特徴

量が前期と後期の特徴の違いを良く表していると考えられる. これらの特徴量が

それぞれ前期と後期でどのような違いがあるのか調べるために, 図 4.5に隣接音の

音高差の絶対値が 3だったときの回数のヒストグラム, 図 4.6に全使用音高におけ

る頻出音高上位 5位までが占める割合のヒストグラム, 図 4.7に 4つの特徴量で実

行したときの決定木を示す. ノードに書かれている (1), (2), (3)は表 3.6で示した

特徴量である. また, first, secondは, それぞれ前期, 後期を表す. この決定木から,

前期の曲は音高の平均が低い曲が多く, 後期の曲は音高の平均が高く, 頻出音高上

位 5位までの音を多く使い同じ音はあまり続けて弾かずに動いているベースライ

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図 4.4: 楽曲中の全入力における音高の平均値

ンが多いことが読み取ることができる.

また, 表 3.5の 19個の特徴量を用いて分類したときの識別率は 88.3495%と高い

結果が得られた. この 19個の特徴量の内, 14個が音高に関する特徴量であり, さら

にその内 12個が隣接音との音高差についての特徴量である. このことから, 隣接

音との音高差について着目すると前期・後期を分類する際に効果的であると考え

られる. また, この 19個の特徴量の中には先述した表 3.6の 4つの特徴量が全て含

まれており, 重要な特徴量であると考えられる.

これらの前期・後期それぞれの特徴全てに当てはまるベースラインの楽譜を実

際に確認する. 前期の曲の例として図 4.8に『Mother’s Milk』に収録されている

『Higher Ground』のベースラインの楽譜を,後期の曲の例として図 4.9に『By the

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図 4.5: 隣接音の音高差の絶対値が 3だったときの回数

Way』に収録されている『Higher Ground』のベースラインの楽譜を示す. 図 4.8

を見ると, バンドをリードする役割を担っていたとされる前期のこの曲は, 低音と

高音を織り交ぜた派手なベースラインになっている. 図 4.9を見ると, 後期のこの

曲のベースラインは『Higher Ground』とは違い, コード進行に徹していることが

分かる. この 2つのベースラインを見ると前期と比べて後期の方が落ち着いたベー

スラインになっていることが分かる. また,『クロスビートファイル Vol. 1 レッド

ホットチリペッパーズ』[9]では「バイ・ザ・ウェイは驚くほどジョンのアルバムと

なった. 前作のメロディ路線をさらに押し進め, (中略)たとえば”ドント・フォゲッ

ト・ミー”は狂おしくトレモロを響かせるギターが主役であり, その後ろで淡々と

コード進行を担うのはフリーである. 」と書かれている. 4.1章で先述した通り, 後

期は前期よりも, ルート音の割合が上がっていて, 隣接音と違う音に移動する割合

が下がっていることが分かる. これは『クロスビートファイル Vol. 1 レッドホッ

トチリペッパーズ』[9]の主張と一致している.

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図 4.6: 全使用音高における頻出音高上位 5位までが占める割合

図 4.7: 決定木

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図 4.8: 『Higher Ground』のベースラインの楽譜

図 4.9: 『Don’t Forget Me』のベースラインの楽譜

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第5章 結  論

本稿では, Red Hot Chili Peppersのベーシストの Fleaのベースラインの特徴の

変化についての分析を行った. ギタリストの John Fruscianteがバンドに復帰し,

Anthonyの歌がよりメロディ重視になった『Californication』以後のアルバム 4枚

とそれより前のアルバム 2枚で前期・後期を分けwekaによる分類を実行した結果

が, 前期 3枚・後期 3枚, また前期 4枚・後期 2枚に分けたときの結果より高い識別

率が得られた. この結果から, 『Californication』から Fleaのベースラインの特徴

が変化していることを確かめられた.そしてベースラインの特徴は, Red Hot Chili

Peppersの前期の曲には, 音符の数が少なく, 音高の平均が低い曲が多い曲が多い

と考えられることがわかった. また後期の曲には, 音符の数が多く, 音高の平均が

高く, 頻出音高上位 5位までの音を多く使い同じ音はあまり続けて弾かずに動いて

いるベースラインの曲が多いと考えられることがわかった. また隣接音との音高差

にも特徴が見られることがわかった.

しかし残された課題として, 音色, また奏法についての特徴は分析できていない.

Fleaはスラップ奏法を多用することも特徴の 1つであると言えるが, このことにつ

いて分析することが出来ていない. また本研究ではバンドスコアからMIDIデータ

を作成し, このMIDIデータを用いて分析を行ったが, バンドスコアが販売されて

いない楽曲を対象楽曲に用いることができていない.

今後は, 音色, 奏法について分析を行っていきたい. 先述した通り本研究では今

回, バンドスコアから作成したMIDIデータを用いて分析を行った. 今後は, CDの

音源を用いて, 指弾き, ピック弾き, スラップ奏法など奏法による違い, または奏法

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ごとにベースラインの特徴についての分析など行いたい. そして Fleaらしさのあ

るベースラインについて検討していきたい.

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参考文献

[1] 鈴木崇也, 長谷川智史, 穴田一: 旋律に潜むアーティストの特徴を捉えた楽曲

間類似度, 第 73回全国大会講演論文集, Vol. 2011, No. 1, p. 275-276(2011).

[2] 平野充, 山元啓史: 音楽作品の計量的特徴抽出, 人工知能学会全国大会論文集,

Vol. 2016, No. 30, pp. 1-4. (2016).

[3] 土橋佑亮, 片寄晴弘: SOMを用いたベースラインからの音楽ジャンル解析, 情

報処理学会研究報告, Vol. 2006, No. 90, pp. 31-36(2006).

[4] ベース博士, http://bass-hakase.com/bassist/flea/

[5] 江川ほーじん, (2004) スラップ・スタイル 38.

[6] 土橋佑亮, 北原鉄朗, 片寄晴弘: 音響信号を対象としたベースラインからの音

楽ジャンル解析,情報処理学会研究報告, Vol. 2008, No. 12, pp. 217-224(2008).

[7] 藤原和弘, 高橋智一, 鈴木昌人, 青柳誠司: 遷移確率を用いた自動作曲, 情報処

理学会研究報告, Vol. 2014, No. 16, pp. 1-6(2014).

[8] Weka-jp.info, http://www.weka-jp.info/

[9] シンコー・ミュージック・ムック, (2003) クロスビートファイル Vol. 1 レッ

ドホットチリペッパーズ.