医療機器の開発と審査pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/event/smp120725_katakura.pdf医療機器の技術的な特徴...

24
医療機器の開発と審査 ー特区対応部門の経験よりー 国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部 スーパー特区対応部門 特任研究員 片倉健男 医療機器に関するワークショップ2012.07.25

Upload: others

Post on 29-Feb-2020

7 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

医療機器の開発と審査 ー特区対応部門の経験よりー

国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部 スーパー特区対応部門

特任研究員 片倉健男

医療機器に関するワークショップ2012.07.25

スーパー特区薬事調査研究の概要

② 24特区への訪問調査 ・ 研究員が研究開発の現場に赴き、実際のデータや 研究プロトコールなどの状況を把握した上で、薬 事上の問題点を把握 ・ 研究員が研究者と意見交換し助言することで、 迅速に治験段階へと進めるよう支援

【調査研究の概要】

③ 勉強会の開催 ・ 多くの研究課題で薬事上のボトルネックになっ ている問題について研究会を開催し、意見交換 等を行う中で、迅速に治験段階に進めるよう支援

① 適時の相談対応 ・ スーパー特区に取り組んでいる研究者に対し て電子メールや電話等により相談に対応

•ケースレポートの作成 •アカデミア等からの 研究開発の薬事上の 問題把握

・円滑な治験段階 への進展

・研究者等が薬事に 関するノウハウを蓄積

広く研究者に公表し活用

【目的】 スーパー特区チームのベンチャー企業やアカデミアが必要とし

ている初歩的な薬事相談の内容がどのようなものであるかについて、実際に相談窓口を設け、個別具体的に相談を行うとともに、相談の中で課題や対応方策を抽出する研究を行う。

医療機器は医薬品と大きく違う

医療機器 医薬品

学問・技術分野 工学、医学、生物科学 薬学

教育 特定学部なし 薬学部

医療機関内専門部署 医療機器管理室(少ない) 薬剤部

( 30

万品目、多種多様) ( 1 万 7 千品目)

使用方法 操作方法の習得が必要 用法用量

モノの違い 幅広い要素材料で構成 化学物質

作用・機能 多種多様な機能・作用 科学的、化学的 (物理的)

〃 専門職 臨床工学技士 (少ない) 薬剤師

医療機器の技術的な特徴

• 薬理的な作用は持たない • 医師の技術とあわせてその有効性を発揮する。 • 技術集約的な製品(使用する材料は、多くは高分子材料、その他、金属、セラミックス、さらには細胞或いは薬剤を組み入れることもある。)

• 例えば、PTCAカテーテル、除細動機のように、そのままの状態で放置すると死に至る患者を長らえさせることも可能。

医薬品と医療機器の相違(私見)

有効性 毒性

医薬品 医療機器

有用性 安全性

医薬品は有効性と毒性のバランスで評価される。毒性については、物質が特定化できればデータベースもある。

医療機器は有用性と安全性のバランスで評価される。安全性には使用材料そのものの安全性に加えて、操作する医師の技量も含めたリスクの低減化を含めての安全性となる。

試作品の改良

医療機器の開発

フィージビリティ 試験

改良品の試作

試作品作製

各種非臨床試験

各種非臨床

試験等

臨床使用

医師による研究・開発

試作品の改良

本臨床試験

開発メーカーにおける開発

医療現場から生まれてくる。 使う人の不便さの改善「もっと…」

改良を重ねて製品が開発されていく。 一方、アスリピンは今でも現役

技術革新の導入が早い。 近年の医工連携で加速

確立された評価法はない。

申請 承認

■さらにそれを使用する術者の技量 が結果に大きく影響する。

開発~上市のプロセス

探索 F/S 開発 設 計 審 査

前臨床

設 計 審 査

治験 I R B

治験

設 計 審 査

申請 初 期 流 監 査

出荷 承認 取得

コンセプト検証、材料探索、プロト設計

プロト試作 使用模擬 予備安全性試験 有用性確認

この期間は仕様確定まで 繰り返されることがある。

※データパッケージ確定(GLP試験の開始)

製造方法の検討:コスト、工程検査事項、製品規格見直し、機器の多少の改良変更、原材料購入先、etc.

機器の特性にあわせた治験デザイン(FS,pivotal)の必要性

使用方法、注意事項等の確定

照会対応

製造場所、製造工程の確定。購買契約等

薬事法の規制(開発~市販後まで)

研究 市販後 流通 製造 プロセス

薬事 規制

業態

製造販売業者(許可)

製造業者 (許可)

販売業者・賃貸業者 (許可 又は 届出)

修理業者(許可)

申請 広告・ 表示規制

治験の 届出 承認 製造管理・

品質管理 再審査・ 再評価

不具合等 の報告

医療機器の審査 • 認証品:管理医療機器の認証基準への適合 性を確認する(認証機関) • 後発品:既存品との同等性評価、及び承認基 準への適合性評価(総合機構) • 改良品:既存品の改良(変更)内容の審査 • 新医療機器:新規医療機器のリスクの許容性 (リスク/便益性バランス)を中心とし た評価

現在の審査では、「医療機器としての機能、安全性」(Device Claim)と、医療上の有用性(Therapeutic Claim)が評価のポイント。

審査の専門家とは?

□ 医療機器の性能と安全性が確保されるべく、設計・製造における基本的 な要求事項 □ GHTF SG1にて各国の合意のもと作成 □ 基本要件に適合した品目であることを、承認・認証過程にて審査 □ 項目毎に適応する技術文書としての特定文書を記載 □ 特定文書は、JISや国際規格、ガイダンス等を引用 □ 特定文書の選択理由、不適用理由をチェックリストの備考欄に記載 □ 一般的要求事項(1~6項):全ての機器において全て適応 第6項にはその機器を特定する性能項目を記載 □ 設計及び製造要求事項(7~16項):機器により適用・非適用あり

基本要件基準(法第41条)

製造工程 バリデーション

製品ライフサイクルにおけるリスクマネジメント

意図した用途 顧客ニーズ

設計へのインプット 基本要件、認証・承認基準 類似機器の情報、リスク分析

設計プロセス

設計からの アウトプット

設計開発

リスクマネジメント報告書

医療機器 の規定・固定

検証 Verification

妥当性確認 Validation

市販後情報のフィードバック

リスクマネジメント計画

製品ライフサイクルの各フェーズにて、リスクコントロールが必要

リスク分析

リスクの検証

製造工程管理

製造販売

CAPA 不具合情報監視 ヘルスハザード分析

使用状況・形態 ハザード及び関連する要因 No.

原材料 製造 出荷、運搬 使用 A B C D

1 エネルギーのハザード及び関連要因

2 生物学的なハザード及び関連する要因

3 医療機器の使用に関連するハザード及び関連する要因

4 不適切、不十分又は複雑すぎるユーザーインターフェース

機能的故障、保守等によってもたらされるハザード及び関連する要因

6 その他

○○製品 ハザード・マトリックス

②ハザード・マトリックス原材料、構成部品等/製造

用物質等 製造 出荷 運搬 保管/展示 使用1 使用2 使用3 廃棄 合計使用状況・形態 A B C D E F G H I

購入/輸送 製品製造

出荷試験 工場→倉庫 弊社 病院(移植施設)

病院、クリニック(穿刺、

病院、クリニック(穿刺)

病院

法規制 原材料製造

梱包 倉庫→代理店 倉庫 患者の容態・体質

不具合 代理店

化学物質 工程検査

積み込み 代理店→病院 代理店 対応者 弊社

受入検査 委託 運搬手段(台車/フォークリフト/トラック/船舶/航空機等)

病院

No. ハザード及び関連する要因

1 熱 02 機械的な力 1 9 2 123 圧力、音圧、振動、磁場 1 14 生物的汚染、滅菌不充分 2 1 35 生体内埋植による物理化学的変化 1 16 間違った成分組成(化学組成) 1 17 生物学的不適合

・細胞毒性・皮膚感作性・変異原性・遺伝毒性・埋植/移植試験・発がん性・再感染及び/又は交差感染・発熱性

2 1 3

8 不具合・有害事象(副作用など) 2+② ② ② 2+⑥9 衛生上の安全を維持できない 0

10 指定された環境条件外での保管又は操作 1 111 異物混入 1 3 1 512 併用を意図した他の機器との不適合性 1 113 偶発的な機械的損害 014 廃棄物及び/又は医療機器の廃棄による汚染 015 不適切なデザインによるキンクの発生 1 116 不適切な表示、不適切なラベリング、操作説

明、警告1 2+① 3+①

17 未熟練者、未訓練者、合理的に予見できる誤使用

0

18 再使用及び/又は不適切な再使用 019 不正確な計測、計量、表示 020 消耗品、付属品、その他の医療機器との不適合 021 シャープエッジ又は先端 022 勘違い及び判断の間違い 7 723 うっかりミス及び不注意による失敗(精神的又

は肉体的)、窒息事故7 7

24 指示,手順などの違反又は省略 3 1 4

25 患者の状態(血液性状)に起因した閉塞、静脈の内膜肥厚、血栓に起因した狭窄又は閉塞

3 3

26 不適切な梱包(医療機器の汚染及び/又は劣化)

2 ⑪ ⑥ ② 2+⑲

27 製造条件逸脱 1 11 1 13

28 その他 逸脱(外観・寸法不良等、規格外等) 1 1 1 3使用状況別 合 計 3 18 0 2 5 41+⑭ 0+⑧ 4+④ 0 73+26

機能的故障、保守及び老朽化によるハザード及び関連要因

医療機器の使用に関連するハザード及び関連要因

エネルギーのハザード及び関連要因

生物学的なハザード及び関連要因

環境的なハザード及び関連要因

不適切、不十分又は複雑すぎるユーザインターフェース

医療機器の承認審査における私見 • すべての医療機器は、QMSの導入により設計監理されている。

• 従って、品目ごとProject fileが存在し、その中には「ハ

ザード抽出」「リスク対応策」が記載され、設計審査によりレビューされているはず。

• 現在承認審査の内容には、個別の品目のハザード抽出と対応策は記載されていない。

• 企業の考え方を明確に示し、一方では審査側をプロとして育成するのであれば、このリスク対応に対する企業側情報を開示することも一つの方法ではないか?

• 「事例で学ぶ」ためにも、企業はチャレンジャブルな新規テーマへの挑戦をお願いしたい。

医療機器の開発に向けた制度(1) ※医療ニーズの高い医療機器等の早期導入検討会 国内で未承認または適応外の医療機器・体外診断用医薬品などいわゆる未承認医療機器等について、医療ニーズの高いものを選定し、これらを迅速に医療現場に導入していくことを検討するために設置されたもの。 医療ニーズの学会等の要望を把握し、その内容をまとめた上で、優先的に検討すべき医療機器等を整理する。 対象となる医療機器等は、 ▽学会等の要望があるもの ▽わが国と同等の審査制度のある国で承認されているもの ▽適応疾病の重篤性、医療上の有用性の観点から、医療上特に必要性の高 いと認められるもの の3条件を満たすもの。 採択テーマについては、早期の実用化を前提として、迅速な審査(優先審査等)が行われている。

医療機器の開発に向けた制度(2)

※次世代医療機器評価指標作成事業 本事業は、平成17年度から厚生労働省に「次世代医療機器評価指標検討会」、

経済産業省に「医療機器開発ガイドライン評価検討委員会」を設置し、新規技術を活用した次世代の医療機器について、開発の迅速化及び薬事法審査の円滑化に資する評価指標等について、両検討会を合同開催し、検討を進めているもの。 「次世代医療機器評価指標検討会」(審査WG):国立衛研 「医療機器開発ガイドライン評価検討委員会」(開発WG):産総研 がそれぞれ分担し、評価指標・開発ガイドラインを作成・公表しており、品目審査の指標として使用される場合もある。 テーマは公募され、検討会で審議の上選択される。

新規性の高い医療機器開発にあたって、非臨床試験としてどのような内容を考えればいいのか?

企業開発と制度の活用タイミング

F/S 開発 前臨床 治験

治験 申請 出荷 承認 取得

学会と連携(ニーズの高い医療機器学会提案)

「開発ガイドライン」の対象に。これにより、前臨床の主要評価項目の妥当性がいえる。

「評価指標」につなげる。(治験プロトコールの妥当

性。)

承認申請時のデータパッケージの根拠に

この段階までに「評価指標」ができている必要あり

国プロによりPOC確認

医療機器開発の環境は整備されて来つつあるが、

国内臨床環境は? どのような機器に臨床試験データの添付が求め

られるのか、、、 必要症例数と経済性は、、

世界的でも初めての製品の臨床評価手法は、、 モデル動物では実証できない場合の試験内容

はどのようにすればいい? 医療機器のRCSは可能?

臨床研究は治験とどういった関係がもてるのか

臨床研究か探索治験か • アカデミアの責任で行う研究であれば、臨床研究

:臨床研究にたいして、企業がサンプル提供 することについては、平成23年3月通知に 基づき、「妥当な臨床研究」であれば企業 協力は可能 (参考:H.22.3.31薬食発0331第7号) • 企業における製品化を前提とするのであれば「探索治験」が適切か、、

医療機器治験前の臨床確認として

• 新規医療機器のユーザビリティ評価 ⇒フィージビリティ試験の設定 • 臨床必要なゾロ品の臨床試験 ⇒比較臨床等は不要では?(使用経験試験 といった位置づけの臨床試験の設置) • 低リスク品の効能確認試験(投資判断のためにも)

⇒GCP、GMPをフル適用しない臨床確認試験制度の導入など

動物実験で確認できないこと

• ヒトと動物では解剖学的な相違が大きすぎ、動物モデルでの非臨床評価が困難な事例について、FIM試験開始前に行うべき内容は?

• 創傷治癒について、重度の皮膚欠損モデルを作製しても、治癒の速度がヒトと動物ではまったく異なるため、動物実験から作成したプロトコールについて見直しが必要な事例。

適切な非臨床モデルの作製

今後の臨床研究への要望として 医療データベースへの貢献 → 治験にかわる「臨床評価」にあたってレビューされるレベル の臨床論文の作成 新たな医療機器評価指標につながる評価手法の作成、提案 機構審査において、有用性評価につながる品目の客観的評価指標の作成(必ずしも定量的である必要は無いと思うが、、) 医療機器の使用中評価を回避できる方法の検討

このようなことを通じて、医療機器開発に影響を及ぼす役割を果たしていただきたい。

アカデミアと総合機構と企業の連携について

PMDA アカデミア

企業

企業からみた審査に必要なアカデミア情報 :医学専門家の意見(機器の必要性およびリスクベネフィット判断) アカデミアと機構の連携 :医療現場における考え方の共有、学会専門家の意見 いずれにしても企業の開発実態を把握した上での製品となる。

それぞれの主張を行うのはいっこうに構わないが、それぞれの立場を尊重し、コミュニケーションをよりはかることで、新たな医療技術を患者へ届けることをお願いしたい。

最後に

ご静聴有り難うございました