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循環器系医療機器を指向した シルクフィブロイン基盤材料の開発 大学院工学研究院 生命機能科学部門 准教授 中澤 靖元

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Page 1: 循環器系医療機器を指向した シルクフィブロイン基盤材料の開発 · エラスチカワンギーソン(EVG)染色 (エラスチンの確認) CD31染色

循環器系医療機器を指向したシルクフィブロイン基盤材料の開発

大学院工学研究院

生命機能科学部門

准教授 中澤 靖元

Page 2: 循環器系医療機器を指向した シルクフィブロイン基盤材料の開発 · エラスチカワンギーソン(EVG)染色 (エラスチンの確認) CD31染色

2Tokyo University of Agriculture and Technology

●体内での長期安定性

●非吸収性・低炎症性

●永久に体内に残る(小児心臓外科領域では深刻な問題)

●ePTFE製パッチは、吻合部(針穴)からの出血量が多い

●血栓生成を生じる可能性がある。

●耐久年数が確定していない。

●術後の石灰化。

ePTFE製パッチによる閉鎖術

従来技術とその問題点

心室中隔欠損(VSD)

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3Tokyo University of Agriculture and Technology

腹部組織由来心臓シート1

高機能化コラーゲン足場材料3

導電性コラーゲン4

間葉系幹細胞を播種したポリ乳酸基盤シート2

ポリウレタン5 フィブリン5

ポリカプロラクトン5

強度・耐久性に課題

医療機器として多用されているePTFEは、数々の課題点を有する。

課題解決の一つとして、組織工学材料の開発

3. Suuronen E. J. FASEB J. (2009)

4. Sherrell, P. C. et al., Macromol. Biosci. (2017)

2. Wang, Q. et al., J. Cell. Mol. Med. (2017)

5. Domenech, M. et al., Tissue Eng. Part B Rev. (2016)

1. Dvir, T. et al., PNAS(2009)

従来技術とその問題点

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4Tokyo University of Agriculture and Technology

これまでの研究

家蚕繭 フィブロイン繊維

精練

フィブロイン水溶液

凍結乾燥

シャーレ上にキャストし乾燥

フィブロインスポンジフィブロインフィルム

コーティング

血管再生 皮膚再生・角膜再生 骨再生

エレクトロスピニング

フィブロインナノファイバー

心臓修復パッチ・心臓弁

管腔構造形成

フィブロインチューブ

Sericin

Fibroin

Fibroin

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5Tokyo University of Agriculture and Technology

独自の材料特性

熱可塑性ポリウレタンとの複合化

低炎症性 長期的な分解性

既存品の課題点(針穴からの出血、石灰化、変性)を克服した心臓修復パッチを、下記の設計コンセプトにより作製し、独自の材料特性を達成した。

シルクフィブロインの利用

組織とのフィッティングに適した物性制御

強度

【その他】石灰化抑制への期待

相溶性耐久性

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6Tokyo University of Agriculture and Technology

③シリンジ-ターゲット間距離

②射出速度

①電圧

④温度⑤湿度

シルクフィブロイン(SF)

+

SF/PUの混合比(w/w)10/0・7/3・5/5・3/7・0/10

HFIP(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ

-2-プロパノール)

熱可塑性ポリウレタン(PU)

SF-PU複合化シート

シートの作製(エレクトロスピニング法)

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7Tokyo University of Agriculture and Technology

SF-PU複合化シート

移植用パッチ不溶化 洗 浄

シートの不溶化・洗浄

Polym. J. 49, 583-586 (2017)

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8Tokyo University of Agriculture and Technology

SF/PU複合化パッチ ePTFEパッチ(市販品)

▶ SF/PU複合化パッチは、ナノオーダーの繊維層が不織布状に積層

▶SF/PU複合化パッチの繊維構造はePTFEと大きく異なる

▶現在の空隙率(多孔率)は出血の最小化に有効

SEM観察結果

Polym. J. 49, 583-586 (2017)

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9Tokyo University of Agriculture and Technology

応力−歪み曲線 弾性率

▶SF/PU複合化パッチは、SFと比較して有意に弾性率が低下

▶ ePTFEパッチは約13MPa。市販品に匹敵する物性を得た

SF/PU複合化パッチの力学特性・弾性率

Polym. J. 49, 583-586 (2017)

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10Tokyo University of Agriculture and Technology

①パッチ(SF/PU=0/10, 4/6, 5/5, 7/3, 10/0)を楕円形(8mm×3mm)にトリミング

②ラット麻酔下にて開腹

③顕微鏡下にて腹部大動脈を1cm剥離

④クリップにて二箇所クランプ

⑤血管を切開

⑥パッチを連続縫合にて埋植

⑦クランプを解除して止血後、閉腹

SF-PU混合パッチ埋植実験

J. Mater. Sci. Mater. Med 28, 191 (2017)

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11Tokyo University of Agriculture and Technology

組織の炎症は全てのパッチにおいて軽度。弾性線維の形成はSF7PU3パッチが有意に高いパッチへの組織浸潤は、SF、SF7PU3が高く、SF4PU6の浸潤率は比較的低い内皮化は、SFおよびSF7PU3が有意に高い石灰化は全例において認められない。

TA :tunica adventitia(血管外膜)TM:tunica media(血管中膜)Asterisk:tunica intima(血管内膜)P:patch; パッチArrow: tissue infiltration(組織浸潤)

各重量比のSF-PU混合パッチ(SF/PU=7/3)埋植実験(6ヶ月)

J. Mater. Sci. Mater. Med 28, 191 (2017)

組織染色(n=6)■ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色

(炎症性の確認)

■マッソントリクローム(MTC)染色(コラーゲン線維の確認)

■エラスチカワンギーソン( EVG)染色

(エラスチンの確認)

■ CD31染色(血管内皮細胞の確認)

■コッサ染色(Kossa)(石灰化の確認)

CD31 KOSSA

HE MTC EVG

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12Tokyo University of Agriculture and Technology

全て1ヶ月程度で生成。6ヶ月例では、SF7PU3が弾性線維形成率が高い

各種染色結果の統計解析(弾性線維形成率)

J. Mater. Sci. Mater. Med 28, 191 (2017)

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13Tokyo University of Agriculture and Technology

SFとSF7PU3が有意に高い

各種染色結果の統計解析(組織浸潤率)

J. Mater. Sci. Mater. Med 28, 191 (2017)

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14Tokyo University of Agriculture and Technology

SFとSF7PU3が有意に高く、内皮化率と組織浸潤には正の相関を示した。

各種染色結果の統計解析(内皮化率)

J. Mater. Sci. Mater. Med 28, 191 (2017)

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15Tokyo University of Agriculture and Technology

ビーグル犬下行大動脈埋植評価(大阪医科大学との共同研究)

摘出時外観(1ヶ月)

埋植直後

【埋植時】▶血液漏出は低く、市販品の性能を越える▶ハンドリングは非常に良い▶組織とのフィッティングについても良好

摘出時内腔側(1ヶ月)

【埋植後1ヶ月における摘出所見】▶内腔側では、新生内膜がパッチ全域を覆っている。

▶肉眼的観察に於いて、極度の炎症反応は見られない。

➡市販品を越える性能を有している。Surgery Today 48, 486-494 (2017)

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16Tokyo University of Agriculture and Technology

組織学的評価

▶パッチに対する炎症反応は全体的に軽度(PTFEに匹敵)

▶自己動脈壁境界部では、マクロファージ・繊維芽細胞・リンパ球がわずかに存在

▶エレクトロスピニング層間への軽度の浸潤あり

▶AR染色陰性(石灰沈着なし)

HE染色 Allizarin red染色

Surgery Today 48, 486-494 (2017)

(大阪医科大学との共同研究)

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17Tokyo University of Agriculture and Technology

課題点

人工血管埋植に伴う組織再生は、人工血管内部ではなく、「血管内腔表面」から進行する。* Sugiura T., et al., Ann. Thorac. Surg., 102, 720–7, (2016)

生体吸収性グラフト リモデリング過程を経て自己組織へ置換

静脈血管グラフトが臨床応用

⇒血管再生速度に対して、グラフトの分解が早い

動脈血管グラフトは耐久性不足のため臨床応用はされていない

グラフトの分解速度と生体組織再生のバランスが重要

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18Tokyo University of Agriculture and Technology

血管内腔面から優先的に吸収 ⇒ 組織構築を妨げず、リモデリングが進行

血管外腔面は緩やかな吸収 ⇒ グラフト強度の維持

課題点を克服した血管材料の創製

PVA

血管内腔面

SF

血管外腔面

PVAを血管内腔面に、SFを血管外腔面に

多く勾配させた階層シートを作製する

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19Tokyo University of Agriculture and Technology

新技術の特徴・従来技術との比較

• 循環器系組織工学材料としてSFを用いることで、従来技術の問題点であった、針穴からの出血、炎症性、石灰化、組織再生能を改良することに成功した。

• 従来品は、耐久性の点で静脈への使用に限定されていたが、本技術で動脈グラフトへの使用が期待される。

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20Tokyo University of Agriculture and Technology

新技術の特徴・従来技術との比較

• 人工血管の分解と血管再生(細胞浸潤・細胞増殖・血管リモデリング)の最適なトレードオフが、従来の吸収性人工血管では達成されていない。

• 吸収性人工血管の分解過程における動脈リモデリングの機序解析から生まれた階層構造動脈グラフトは、既存の人工血管や吸収性人工血管の課題を克服しうるイノベーションとなり得る。

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21Tokyo University of Agriculture and Technology

想定される用途

• 本技術で得られた人工血管素材は早期の内皮化と動脈の仕様に耐えうる耐久性を持ち合わせている。

• 本素材の開発が成功すれば、動脈血管グラフトの他、シート状製品が主たる部材である心臓修復シート、下大静脈修復材料、ステントグラフト、経カテーテル的大動脈弁植え込み術における弁膜等への応用も期待される。

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22Tokyo University of Agriculture and Technology

実用化に向けた課題

• 目的のデバイスは、高度管理医療機器(クラスⅣ)に分類され、その実用化は困難を極める。

• 本研究課題では、合成高分子-SF階層構造における原材料選定、作製方法を適正化し、ヒト臨床における「特定保健医療材料、099組織代用人工繊維布」として上市化を目指す。

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23Tokyo University of Agriculture and Technology

実用化に向けた課題

• 現在、SFが循環器系組織工学材料として応用可能であることは実証済み。

• しかし、階層構造シートの機能性については未解決である。

• 今後、階層構造シートのin vivo評価、in vitro評価に関する組織学的データを取得し、動脈グラフトとしての条件設定を実施する。

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24Tokyo University of Agriculture and Technology

企業への期待

• 今後、「開発候補品の規格の決定」を経て、非GLP試験に移行したいと考えている。

• シート加工技術を持つ、企業との共同研究を希望。

• シート状デバイスのみならず、シルクフィブロインを基盤とした様々な素材応用にご興味があれば、ご相談ください。

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25Tokyo University of Agriculture and Technology

• 発明の名称 :多孔質体、及び、医療用材料

• 出願番号 :特許出願済 未公開

• 出願人 :国立大学法人東京農工大学

学校法人日本医科大学

• 発明者 :中澤 靖元、太良 修平

本技術に関する知的財産権

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TEL 042-388-7550

FAX 042-388-7553

e-mail [email protected]

お問い合わせ先

東京農工大学

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