高温加熱した高強度コンクリートの力学的性質に関する 実験...

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ハザマ研究年報(2011.12) 1 高温加熱した高強度コンクリートの力学的性質に関する 実験的研究 鈴木好幸 * ・山田人司 * 高温加熱した設計基準強度 60N/mm 2 クラスの高強度コンクリートの力学的性質に関する基礎データを把 握することを目的として,5 つのレディーミクストコンクリート工場のコンクリートを用い,加熱冷却後 および予熱炉を用いた高温時における力学的性質を実験的に検討した。本実験結果から,石灰岩砕石を使 用する高強度コンクリートの加熱冷却後の圧縮強度およびヤング係数は,加熱温度が高くなるにつれて低 下し,700℃加熱後の圧縮強度は加熱前の 17~25%程度,ヤング係数は加熱前の 4~12%まで低下するこ とを確認した。また,加熱冷却後および高温加熱時の圧縮強度は,使用材料が同じであれば W/C が若干異 なっても,強度差がないことが判った。 キーワード:高強度コンクリート,高温加熱,圧縮強度,ヤング係数,加熱冷却後試験,高温時試験 1.はじめに 鋼とコンクリートの複合構造であるコンクリート充填 鋼管構造柱(以下,CFT 柱と称する)は,コンファイン ド効果(鋼管とコンクリートの相互拘束効果)によって 比較的大きな圧縮耐力,曲げ耐力,変形性能が得られる ため,中層建築物から高層建築物まで幅広く採用されて いる。また,CFT 柱は充填コンクリートの熱容量が大き く,鉄骨柱より耐火性能にも優れるため,無耐火被覆化 や耐火被覆の低減が期待される。しかし,高温加熱され た充填コンクリートの力学的性質に関する基礎データの 蓄積は十分ではないのが現状である。 そこで本研究は,CFT 柱を対象とした充填コンクリート の耐火性能を確認するための基礎データの把握を目的と して,設計基準強度 60N/mm 2 クラスのコンクリートを 対象に,5 つのレディーミクストコンクリート工場(以 下,生コン工場と略記)のコンクリートを用い,加熱冷 却後の力学的性質について実験的に検討した。対象とし たコンクリートは,耐火性能の基礎データが少ない建築 基準法第 37 条大臣認定コンクリート(以下,37 条コン と称する)および JIS 高強度コンクリート(以下,JIS 高強度コンと称する)とし,37 条コンと JIS 高強度コ ンの比較を行い, 37 条コンの耐火性能について検討し た。加えて,一部の調合のコンクリートに対し,予熱炉 を用いた高温時における力学的性質についても実験的に 検討した。 2.加熱冷却後における高強度コンクリート の素材実験 2.1 実験概要 (1)実験条件 実験の要因と水準を表-1に,生コン工場とコンクリ ートの種類および強度の組み合わせを表-2に示す。生 コン工場は 5 水準とし,コンクリートは JIS 高強度コン と 37 条コンの 2 水準,加熱温度は A,B,C 工場で常温 および 100~800℃までの 100℃刻みの 9 水準,D,E 工 場で常温および 300,400,500℃の 4 水準とした。コン 表-1 実験の要因と水準 要因 水準 生コン工場 A 工場,B 工場,C 工場,D 工場,E 工場 コンクリート 各工場 2 種類 加熱温度 A,B,C 工場:常温,100℃,200℃,300℃, 400℃,500℃,600℃,700℃,800℃ D,E 工場:常温,300℃,400℃,500℃ 表-2 使用材料 生コン 工場 コンクリートの種類および強度 調合名 A JIS 高強度コンクリート(60-60-20M) A-J 37 条大臣認定コンクリート(60-60-20M) A-37 B JIS 高強度コンクリート(60-60-20L) B-J 37 条大臣認定コンクリート(60-60-20L) B-37 C JIS 高強度コンクリート(60-60-20N) C-J 37 条大臣認定コンクリート(61-60-20N) C-37 D JIS 高強度コンクリート(60-60-20N) D-J 37 条大臣認定コンクリート(61-60-20N) D-37 E JIS 高強度コンクリート(60-60-20N) E-J 37 条大臣認定コンクリート(62-60-20N) E-37 * 技術研究所 論文

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ハザマ研究年報(2011.12) 1

高温加熱した高強度コンクリートの力学的性質に関する

実験的研究

鈴木好幸 *・山田人司 *

高温加熱した設計基準強度 60N/mm2 クラスの高強度コンクリートの力学的性質に関する基礎データを把

握することを目的として,5 つのレディーミクストコンクリート工場のコンクリートを用い,加熱冷却後

および予熱炉を用いた高温時における力学的性質を実験的に検討した。本実験結果から,石灰岩砕石を使

用する高強度コンクリートの加熱冷却後の圧縮強度およびヤング係数は,加熱温度が高くなるにつれて低

下し,700℃加熱後の圧縮強度は加熱前の 17~25%程度,ヤング係数は加熱前の 4~12%まで低下するこ

とを確認した。また,加熱冷却後および高温加熱時の圧縮強度は,使用材料が同じであれば W/C が若干異

なっても,強度差がないことが判った。

キーワード:高強度コンクリート,高温加熱,圧縮強度,ヤング係数,加熱冷却後試験,高温時試験

1.はじめに

鋼とコンクリートの複合構造であるコンクリート充填

鋼管構造柱(以下,CFT 柱と称する)は,コンファイン

ド効果(鋼管とコンクリートの相互拘束効果)によって

比較的大きな圧縮耐力,曲げ耐力,変形性能が得られる

ため,中層建築物から高層建築物まで幅広く採用されて

いる。また,CFT 柱は充填コンクリートの熱容量が大き

く,鉄骨柱より耐火性能にも優れるため,無耐火被覆化

や耐火被覆の低減が期待される。しかし,高温加熱され

た充填コンクリートの力学的性質に関する基礎データの

蓄積は十分ではないのが現状である。

そこで本研究は,CFT 柱を対象とした充填コンクリート

の耐火性能を確認するための基礎データの把握を目的と

して,設計基準強度 60N/mm2 クラスのコンクリートを

対象に,5 つのレディーミクストコンクリート工場(以

下,生コン工場と略記)のコンクリートを用い,加熱冷

却後の力学的性質について実験的に検討した。対象とし

たコンクリートは,耐火性能の基礎データが少ない建築

基準法第 37 条大臣認定コンクリート(以下,37 条コン

と称する)および JIS 高強度コンクリート(以下,JIS

高強度コンと称する)とし,37 条コンと JIS 高強度コ

ンの比較を行い, 37 条コンの耐火性能について検討し

た。加えて,一部の調合のコンクリートに対し,予熱炉

を用いた高温時における力学的性質についても実験的に

検討した。

2.加熱冷却後における高強度コンクリート

の素材実験

2.1 実験概要

(1)実験条件

実験の要因と水準を表-1に,生コン工場とコンクリ

ートの種類および強度の組み合わせを表-2に示す。生

コン工場は 5水準とし,コンクリートは JIS 高強度コン

と 37 条コンの 2 水準,加熱温度は A,B,C 工場で常温

および 100~800℃までの 100℃刻みの 9 水準,D,E 工

場で常温および 300,400,500℃の 4水準とした。コン

表-1 実験の要因と水準

要因 水準

生コン工場 A 工場,B工場,C工場,D工場,E工場

コンクリート 各工場 2種類

加熱温度

A,B,C工場:常温,100℃,200℃,300℃,

400℃,500℃,600℃,700℃,800℃

D,E工場:常温,300℃,400℃,500℃

表-2 使用材料

生コン

工場 コンクリートの種類および強度 調合名

A JIS 高強度コンクリート(60-60-20M) A-J

37 条大臣認定コンクリート(60-60-20M) A-37

B JIS 高強度コンクリート(60-60-20L) B-J

37 条大臣認定コンクリート(60-60-20L) B-37

C JIS 高強度コンクリート(60-60-20N) C-J

37 条大臣認定コンクリート(61-60-20N) C-37

D JIS 高強度コンクリート(60-60-20N) D-J

37 条大臣認定コンクリート(61-60-20N) D-37

E JIS 高強度コンクリート(60-60-20N) E-J

37 条大臣認定コンクリート(62-60-20N) E-37

* 技術研究所

論 文

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ハザマ研究年報(2011.12) 2

クリートの種類は,JIS 高強度コンは呼び強度 60の JIS

認証品の調合とし,37 条コンは JIS 認証品の W/C と近

い大臣認定品を選定した。コンクリートの使用材料を表

-3に,コンクリートの調合を表-4に示す。コンクリ

ートは目標スランプフローを 60±10cm,目標空気量を

3.0±1.5%とした。

(2)供試体

供試体条件を表-5に示す。供試体はφ100×200mm

とし,生コン工場内の試験室において,JIS A 1132(コ

ンクリートの強度試験用供試体の作り方)に準拠して作

製した。供試体数は圧縮強度のばらつきを評価するため

A 工場で各 8 体,それ以外の調合は 4 体とした。各供試

体は,コンクリート打設翌日に脱型し,材齢 28 日程度

まで標準養生,その後 20℃60%RH で気中養生した。加

熱試験が長期に渡るため,加熱開始時の供試体間の含水

率や水和反応の程度の違いが,力学性状に影響を与える

ことが懸念される。文献 1)によれば,材齢 3ヶ月~材

表-3 コンクリートの使用材料

工場 セメント 細骨材 粗骨材 混和剤

A 中庸熱ポルト

ランドセメント

万田野産山砂

70%,戸高産石

灰岩砕砂30%

峩朗(がろう)

産石灰岩砕石

100%

ポリカルボン酸

系高性能 AE

減水剤

B 低熱ポルトラン

ドセメント

佐野市産石灰

岩砕砂 60%,行

方市砕石40%

佐野市産石灰岩

砕石100%

ポリカルボン酸

系高性能 AE

減水剤

C 普通ポルトラン

ドセメント

千葉県君津市

産山砂100%

西多摩郡産砂岩

砕石 50%,美祢

市産石灰岩砕石

50%

ポリカルボン酸

系高性能 AE

減水剤

D 普通ポルトラン

ドセメント

富津市産山砂

70%,八戸市

産石灰岩砕砂

30%

八戸市産石灰岩

砕石100%

ポリカルボン酸

系高性能 AE

減水剤

E 普通ポルトラン

ドセメント

栃木市石灰岩

砕砂砕砂 80%,

成田市産山砂

20%

秩父郡産石灰岩

砕石 50%,栃木

市産石灰岩砕石

50%

ポリカルボン酸

系高性能 AE

減水剤

表-4 コンクリートの調合

調合

W/C

(%)

単位量(kg/m3) 混和剤

(C×%)水 セメ

ント

細骨

粗骨

A A-J 31.3 170 543 809 867 1.4

A-37 33.0 170 515 833 867 1.4

B B-J 30.0 165 550 810 891 1.85

B-37 32.0 165 516 848 883 1.85

C C-J 33.1 170 514 829 850 1.65

C-37 32.6 170 521 824 850 1.65

D D-J 33.7 170 505 834 869 1.45

D-37 33.2 170 512 828 869 1.45

E E-J 34.0 170 500 802 915 1.4

E-37 33.0 170 516 788 915 1.4

齢 12 ヶ月の範囲内では,高強度コンクリートの高温時

力学的性状について材齢がほとんど影響しないことが報

告されている。これより,加熱開始までの気中養生期間

を 5ヶ月以上とした。

(3)実験方法

a)加熱試験方法

供試体の加熱は,100℃では乾燥炉を,200~800℃で

はプログラムによる温度調整機能を有した箱型電気炉

(株式会社エジマ製)を用いた。乾燥炉外観を写真-1

に,電気炉外観を写真-2に示す。電気炉は,内法長さ

900mm,内法幅 450mm,内法高さ 570mm の箱型(6 面加

熱)で,長さ方向に 4系統のヒーターが配されている。

供試体および温度測定用熱電対の配置を図-1に示す。

炉内温度は,供試体の下面とほぼ等しいレベルで 6点,

表-5 供試体条件

項目 条件

供試体作製方法JIS A 1132(コンクリートの強度

試験用供試体の作り方)

供試体寸法 φ100×200mm

供試体数 8体(A工場)

4体(B~E工場)

供試体打設から

加熱までの養生

条件

翌日脱型し材齢 28 日まで標準養

生,その後 20℃60%RH で気中養生

気中養生期間:5ヶ月以上

写真-1 乾燥炉外観

写真-2 電気炉外観

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ハザマ研究年報(2011.12) 3

:中心温度測定用

:炉内温度制御用

:炉内温度測定用

900 450

450

570

:中心温度測定用

:炉内温度制御用

:炉内温度測定用

900 450

450

570

図-1 供試体および炉内温度測定用熱電対の配置

炉内

温度

200℃

600℃

自然冷却

自然冷却

1℃/分

加熱時間

5時間(100℃)

5時間(200℃)

3時間(300℃)

3時間(400℃)

1時間(500℃)

1時間+2時間(600℃)

+2時間(200℃)

炉内

温度

200℃

600℃

自然冷却

自然冷却

1℃/分

加熱時間

5時間(100℃)

5時間(200℃)

3時間(300℃)

3時間(400℃)

1時間(500℃)

1時間+2時間(600℃)

+2時間(200℃)

図-2 加熱スケジュールの一例(200,600℃の例)

供試体の上面から約 150mm 上方のレベルで 6 点の計 12

点で測定した。また,炉内温度制御用熱電対は,中央 2

点を供試体上面とほぼ同じレベル,左右 2点を供試体上

面から 100mm 上方の位置に配した。なお,ヒーターの出

力制御は,それぞれ独立の上記 4点の炉内温度制御用熱

電対による値で制御させている。一度に加熱する供試体

は 18 体とし,内 2 体はコンクリート中心温度測定用の

ため熱電対を埋め込んだ供試体とした。

加熱スケジュールの一例(200℃および 600℃の場

合)を図-2に示す。加熱スケジュールは,文献 2)を

参考に,昇温速度を 1℃/分,100℃ごとの停滞時間を

100,200℃で 5 時間,300,400℃で 3 時間,500℃以上

で 1時間とし,炉内温度が目標温度に到達してからは,

上記プラス 2 時間以上停滞させた。また,降温は自然

冷却とした。なお,目標温度に対する制御温度は,目標

温度+5℃とした。

b)圧縮強度試験方法

コンクリートの圧縮強度試験は JIS A 1108 に準じて

実施した。圧縮強度試験により, 大荷重およびひずみ

を測定し,測定結果から応力-ひずみ曲線を求め,ヤン

グ係数(圧縮強度の 1/3 応力時割線係数)を算出した。

供試体のひずみはコンプレッソメーターにより測定した。

加熱後から圧縮強度試験までの養生期間は,高強度コン

クリートの加熱後の圧縮強度特性について実験を行って

いる森田らの報告 3)によれば,20℃60%RH で気中養生

した場合,加熱後 14日から 91日までの圧縮強度に変化

はほとんどないとされている。これより加熱後の圧縮強

度試験は,加熱終了後 28~43 日間 20℃60%RH で気中

養生した後実施した。加熱を実施しない(以下,常温時

と称する)場合の強度は,標準養生終了後から上記の圧

縮強度試験実施期間まで気中養生を行った供試体を用い,

加熱後の圧縮強度試験と同じ時期に測定した。

2.2 実験結果

(1)フレッシュコンクリート試験

フレッシュコンクリート試験結果を表-6に示す。ス

ランプフロー,空気量ともにすべての調合において品質

基準(スランプフロー60±10cm,空気量 3.0±1.5%)

を満足した。

(2)加熱温度

温度測定結果の一例として,加熱温度 200℃の温度測

表-6 フレッシュコンクリート試験

調合名

スランプフロー

(cm) 50cm フロー

到達時間

(s)

空気量

(%) Ave.

A-J 59.5×58.5 59.0 5.4 2.7

A-37 63.0×62.5 62.8 4.8 2.6

B-J 64.0×63.0 63.5 4.4 2.7

B-37 56.0×56.0 56.0 5.5 2.8

C-J 60.5×58.0 59.3 5.2 2.6

C-37 58.5×58.0 58.3 5.3 2.7

D-J 58.0×57.0 57.5 5.7 3.2

D-37 57.0×56.5 56.8 6.5 3.0

E-J 62.0×61.0 61.5 5.8 2.0

E-37 60.0×58.0 59.0 6.1 2.0

0

50

100

150

200

250

0 120 240 360 480 600 720 840 960 1080 1200加熱時間(分)

温度

(℃)

設定温度

炉内下段平均

炉内上段平均

制御温度平均

供試体中心温度平均

加熱温度200℃

図-3 加熱温度測定結果の一例(200℃)

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ハザマ研究年報(2011.12) 4

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

0 480 960 1440 1920 2400

加熱時間(分)

温度

(℃)

設定温度

炉内下段平均炉内上段平均

制御温度平均

供試体中心温度平均

加熱温度800℃

図-4 加熱温度測定結果の一例(800℃)

定結果を図-3に,加熱温度 800℃の温度測定結果を図

-4に示す。供試体中心温度は,設定温度より遅れて上

昇しているが,炉内温度が目標温度に到達してから所定

時間停滞させることにより,すべての温度においてほぼ

目標温度に達した。

(3)目視観察

写真-3に一例として A工場における加熱冷却後の圧

縮強度試験後の供試体外観を示す。各温度に加熱した後

の供試体は,加熱温度が高くなるに従って,コンクリー

ト表面が白くなり,一般的に知られている加熱における

コンクリート表面の変色と同じ傾向であった。JIS 高強

度コンと 37条コンの外観に違いは確認されなかった。

写真-4に 800℃加熱を実施した B 工場および C 工場

の 800℃加熱冷却後の圧縮強度試験後の供試体外観を示

す。800℃の加熱後,全ての供試体において,気中養生

開始直後から表層部の剥落が生じた。A,B,C 工場で損

傷の程度を比較すると,粗骨材に石灰岩砕石を 100%使

用している A,B 工場では,粗骨材が露出するような大

きな損傷が確認されたのに対し,石灰岩砕石 50%,硬

質砂岩砕石 50%を使用している C 工場では,表層部の

ふくれはみられるものの粗骨材が露出するような大きな

損傷はみられなかった。800℃加熱後の大きな損傷は,

石灰岩砕石の熱分解によるものと推測される 4)。

(4)圧縮強度

800℃加熱後の供試体は,写真-3,写真-4に示す

ように表層部の剥落やふくれといった大きな損傷が加熱

直後から確認されたため,圧縮強度試験結果から除いた。

常温時および加熱冷却後における圧縮強度試験結果を表

-7に,圧縮強度残存比(常温時の圧縮強度に対する各

加熱温度における圧縮強度の比)を表-8に示す。また,

加熱温度と加熱冷却後の圧縮強度残存比との関係を図-

5に示す。図-5には,日本建築学会「構造材料の耐

火性ガイドブック2009」5)で提案されている加熱冷却後

A-J 20℃ A-37 20℃

A-J 100℃ A-37 100℃

A-J 300℃ A-37 300℃

A-J 500℃ A-37 500℃

A-J 700℃ A-37 700℃

A-J 800℃ A-37 800℃

写真-3 加熱冷却後の圧縮強度試験後の供試体外観の

一例(A工場:常温,100,300,500,700,800℃)

A-J 800℃ A-37 800℃

A-J 800℃ A-37 800℃

写真-4 加熱冷却後の圧縮強度試験後の供試体外観の

一例(B工場,C工場:800℃)

の圧縮強度残存比の提案値(以下,AIJ 提案値と称す

る)および文献 6)で示されている石灰岩砕石を使用し

た高強度コンクリートの加熱冷却後の圧縮強度残存比の

実験値を併せて示す。

いずれの調合においても,加熱冷却後の圧縮強度は,

加熱温度が高くなるにつれて低下し,700℃加熱後の圧

縮強度は,加熱前の 17~25%程度まで低下した。AIJ 提

案値と比較すると,本実験結果は,300~500℃で低い値

を示し,文献 6)の実験値と近い値であった。粗骨材に

石灰岩砕石を使用したコンクリートは,加熱冷却後の強

度低下が大きいとの報告 3),6),7)があり,本実験において

も同様の傾向が確認された。

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ハザマ研究年報(2011.12) 5

表-7 常温時および加熱冷却後における圧縮強度試験

結果

調合名 各加熱温度における圧縮強度(N/mm2)

常温時 100℃ 200℃ 300℃ 400℃ 500℃ 600℃ 700℃

A-J 91.7 86.3 77.0 57.0 39.8 27.5 18.9 17.7

A-37 89.6 85.4 76.4 54.4 39.0 26.8 18.3 17.2

B-J 107.4 104.6 97.2 72.6 49.5 38.1 32.0 25.2

B-37 100.7 96.7 92.1 67.2 48.1 39.0 32.4 25.2

C-J 88.9 82.0 71.9 53.4 38.3 25.8 15.9 15.2

C-37 89.3 80.9 72.0 53.5 37.9 26.6 15.2 15.2

D-J 79.1 - - 45.8 34.3 24.8 - -

D-37 78.0 - - 45.6 35.2 25.6 - -

E-J 92.9 - - 56.0 41.3 33.6 - -

E-37 94.4 - - 55.6 40.9 32.7 - -

表-8 圧縮強度残存比

調合名 各加熱温度における圧縮強度残存比

常温時 100℃ 200℃ 300℃ 400℃ 500℃ 600℃ 700℃

A-J 1.00 0.94 0.84 0.62 0.43 0.30 0.21 0.19

A-37 1.00 0.95 0.85 0.61 0.44 0.30 0.20 0.19

B-J 1.00 0.97 0.91 0.68 0.46 0.36 0.30 0.24

B-37 1.00 0.96 0.92 0.67 0.48 0.39 0.32 0.25

C-J 1.00 0.92 0.81 0.60 0.43 0.29 0.18 0.17

C-37 1.00 0.91 0.81 0.60 0.43 0.30 0.17 0.17

D-J 1.00 - - 0.58 0.43 0.31 - -

D-37 1.00 - - 0.59 0.45 0.33 - -

E-J 1.00 - - 0.60 0.44 0.36 - -

E-37 1.00 - - 0.59 0.43 0.35 - -

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0 100 200 300 400 500 600 700加熱温度(℃)

圧縮

強度

残存

比(平

均値

A-J A-37

B-J B-37

C-J C-37

D-J D-37

E-J E-37

図-5 加熱温度と加熱冷却後の圧縮強度残存比との関係

a) JIS 高強度コンと 37条コンの比較

図-6に A,B,C工場の加熱温度と圧縮強度残存比の

関係を示す。工場ごとで JIS 高強度コンと 37 条コンの

圧縮強度残存比を比較すると,いずれの工場においても,

全ての加熱温度で同程度の値であった。これより,W/C

が若干異なっても,使用材料が同じであれば圧縮強度残

存比に大きな影響がないと判断できる。

図-6には JIS 高強度コンと 37 条コンの圧縮強度試

験における標準偏差の 大値を併せて示す。ばらつきを

評価するために供試体数 8体で圧縮強度試験を実施した

A 工場で JIS 高強度コンと 37 条コンの標準偏差を比較

すると,それぞれσmax=4.07,3.78 となっており,大

きな差異は認められなかった。

以上より,本実験で用いた JIS 高強度コンと 37 条コ

ンは同程度の耐火性能を有すると考えられる。

b) 使用材料による影響

図-7に全工場で加熱試験を実施した 300~500℃加

熱後の圧縮強度残存比と使用材料の関係を示す。図は

JIS 高強度コンと 37 条コンで同様の傾向であったため,

JIS 高強度コンの結果のみを示した。また,工場ごとで

使用している骨材が異なるため,図には加熱冷却後の強

度性状へ及ぼす影響が大きいとされている石灰岩の使用

割合を粗骨材,細骨材でそれぞれ示した 3),6),7)。

各工場の圧縮強度残存比を比較すると,いずれの温度

でも B 工場が大きい値を示している。文献 8)ではセメ

ント種類によって加熱冷却後の圧縮強度残存比には差異

がみられ,普通(N),中庸熱(M),低熱(L)ポルトラ

ンドセメントの順に大きくなると報告されており,B 工

場ではセメントに低熱(L)ポルトランドセメントを使

用したことによる影響が加味されていると考えられる。

セメントに普通(N)ポルトランドセメントを使用し

ている C,D,E 工場で比較すると,加熱温度 300,

400℃においては,石灰岩砕砂,砕石の混合割合が異な

っていても同程度の圧縮強度残存比であった。加熱温度

500℃では,圧縮強度残存比の差がみられ,D,E工場と

図-6 加熱温度と圧縮強度残存比の関係(A,B,C工場)

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0 100 200 300 400 500 600 700

加熱温度(℃)

圧縮

強度

残存

A-J A-37

A-J平均値 A-37平均値

B-J B-37

B-J平均値 B-37平均値

C-J C-37

C-J平均値 C-37平均値

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

圧縮

強度

残存

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0 100 200 300 400 500 600 700

加熱温度(℃)

圧縮

強度

残存

A-J A-37

A-J平均値 A-37平均値

B-J B-37

B-J平均値 B-37平均値

C-J C-37

C-J平均値 C-37平均値

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

圧縮

強度

残存

AIJ 提案値

文献 6)実験

A-J (n=8) σmax=4.07

A-37(n=8) σmax=3.78

B-J (n=4) σmax=2.93

B-37(n=4) σmax=3.83

C-J (n=4) σmax=1.61

C-37(n=4) σmax=1.50

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ハザマ研究年報(2011.12) 6

比較して,C 工場が も低い値であった。これより,粗

骨材に石灰岩砕石を 50%混合することにより,石灰岩

砕石を 100%使用したコンクリートと同程度の強度低下

が生じることが確認された。また,石灰岩砕砂の混合割

合が も高い E工場の強度低下が小さいことから,粗骨

材に比べて細骨材の種類が圧縮強度に及ぼす影響は少な

いと考えられる。

(5)ヤング係数

常温時および加熱冷却後におけるヤング係数を表-9

に,ヤング係数残存比(常温時のヤング係数に対する各

加熱温度におけるヤング係数の比)を表-10 に示す。

また,加熱温度と加熱冷却後のヤング係数残存比との関

係を図-8に示す。図-8には,AIJ 提案値および文献

6)の実験値を併せて示す。加熱温度が高くなると全て

の調合においてヤング係数は低下する。100~400℃にか

けて急激な低下を示し 400℃加熱後では加熱前の 20%程

度まで低下している。700℃加熱後では,加熱前の 4~

12%程度まで低下している。100℃を除いて,圧縮強度

よりもヤング係数の低下のほうが大きくなった。

AIJ 提案値と比較すると,100℃でやや高い値を,300

~500℃でやや低い値を示している。300℃では AIJ 提案

値と文献 6)の実験値との中間程度,400,500℃では文

献 6)の実験値と同程度の値であった。粗骨材に石灰岩

砕石を使用したコンクリートは,加熱冷却後のヤング係

数の低下が大きいとの報告があり 3),6),9),10),本実験にお

いても同様の傾向が確認された。

a) JIS 高強度コンと 37条コンの比較

図-9に A,B,C工場の加熱温度とヤング係数残存比

の関係を示す。工場ごとで JIS 高強度コンと 37 条コン

のヤング係数残存比を比較すると,いずれの工場におい

ても,全ての加熱温度で同程度の値であった。これより,

W/C が若干異なっても,使用材料が同じであればヤング

係数残存比に大きな影響がないと判断できる。

表-9 常温時および加熱冷却後におけるヤング係数測

定結果

調合名各加熱温度におけるヤング係数(kN/mm2)

常温時 100℃ 200℃ 300℃ 400℃ 500℃ 600℃ 700℃

A-J 38.6 38.6 27.1 15.5 7.3 5.0 3.6 3.7

A-37 38.7 38.0 26.6 15.3 7.2 4.9 3.5 3.9

B-J 43.2 41.0 31.9 18.4 9.2 5.8 4.0 4.6

B-37 41.5 40.1 31.2 18.2 9.3 6.0 4.5 5.0

C-J 37.6 36.6 24.1 14.2 6.7 3.6 1.7 1.6

C-37 38.3 36.9 24.6 13.8 6.3 3.6 1.5 1.5

D-J 36.4 - - 13.2 7.6 5.1 - -

D-37 36.5 - - 13.3 7.6 5.2 - -

E-J 39.9 - - 18.1 8.6 5.9 - -

E-37 40.3 - - 17.4 8.1 5.9 - -

表-10 ヤング係数残存比

調合名各加熱温度におけるヤング係数残存比

常温時 100℃ 200℃ 300℃ 400℃ 500℃ 600℃ 700℃

A-J 1.00 1.00 0.70 0.40 0.19 0.13 0.09 0.10

A-37 1.00 0.98 0.69 0.40 0.19 0.13 0.09 0.10

B-J 1.00 0.95 0.74 0.43 0.21 0.13 0.09 0.11

B-37 1.00 0.97 0.75 0.44 0.22 0.14 0.11 0.12

C-J 1.00 0.97 0.64 0.38 0.18 0.10 0.04 0.04

C-37 1.00 0.96 0.64 0.36 0.16 0.09 0.04 0.04

D-J 1.00 - - 0.36 0.21 0.14 - -

D-37 1.00 - - 0.37 0.21 0.14 - -

E-J 1.00 - - 0.45 0.22 0.15 - -

E-37 1.00 - - 0.43 0.20 0.15 - -

図-7 300~500℃加熱後の圧縮強度残存比と使用材料の関係(JIS 高強度コン)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

A-J B-J C-J D-J E-J

圧縮

強度

残存

300 400 500

M L N

100%

70%

50% 100%

60% 0% 30% 80%

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

A-J B-J C-J D-J E-J

圧縮

強度

残存

300 400 500

M L N

100%

70%

50% 100%

60% 0% 30% 80%

セメント

種類

石灰岩砕砂

混合割合

石灰岩砕石

混合割合

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ハザマ研究年報(2011.12) 7

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0 100 200 300 400 500 600 700加熱温度(℃)

ヤン

グ係

数残

存比

(平

均値

A-J A-37

B-J B-37

C-J C-37

D-J D-37

E-J E-37

図-8 加熱温度と加熱冷却後のヤング係数残存比との

関係

図-9には JIS 高強度コンと 37 条コンの標準偏差の

大値を併せて示す。ばらつきを評価するために供試体

数 8体で圧縮強度試験を実施した A工場で JIS 高強度コ

ンと 37条コンの標準偏差を比較すると,それぞれσmax

=0.08,0.13 となっており,大きな差異は認められな

かった。

b) 使用材料による影響

図-10 に全工場で加熱試験を実施した 300~500℃加

熱後のヤング係数残存比と使用材料の関係を示す。図は

JIS 高強度コンと 37 条コンで同様の傾向であったため,

JIS 高強度コンの結果のみを示した。各工場のヤング係

数残存比を比較すると,300℃において B,E工場がやや

大きい値を示している。文献 3)では,高強度コンクリ

ート(W/C30%)において,加熱冷却後のヤング係数残

存比はセメントの種類による差異が見られないことが示

されて

図-9 加熱温度とヤング係数残存比の関係

(A,B,C工場)

されており,本実験においてもセメント種類による明確

な差は確認されなかった。

セメントに普通(N)ポルトランドセメントを使用し

ている C,D,E 工場で比較すると,加熱温度 300℃では,

E工場が も大きいヤング係数残存比を示し,C,D工場

で同程度であった。400,500℃では,C 工場が他の 2 工

場に比べてやや小さいが,大きな差はみられない。これ

より,粗骨材に石灰岩砕石を 50%混合することにより,

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0 100 200 300 400 500 600 700

加熱温度(℃)ヤ

ング

係数

残存

A-J A-37

A-J平均値 A-37平均値

B-J B-37

B-J平均値 B-37平均値

C-J C-37

C-J平均値 C-37平均値

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0ヤ

ング

係数

残存

比-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0 100 200 300 400 500 600 700

加熱温度(℃)ヤ

ング

係数

残存

A-J A-37

A-J平均値 A-37平均値

B-J B-37

B-J平均値 B-37平均値

C-J C-37

C-J平均値 C-37平均値

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0ヤ

ング

係数

残存

AIJ 提案

文献 6)実験A-J (n=8) σmax=0.08

A-37(n=8) σmax=0.13

B-J (n=4) σmax=0.11

B-37(n=4) σmax=0.13

C-J (n=4) σmax=0.07

C-37(n=4) σmax=0.13

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

A-J B-J C-J D-J E-J

ヤン

グ係

数残

存比

300 400 500

M L N

100%

70%

50% 100%

60% 0% 30% 80%

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

A-J B-J C-J D-J E-J

ヤン

グ係

数残

存比

300 400 500

M L N

100%

70%

50% 100%

60% 0% 30% 80%

セメント

種類

石灰岩砕砂

混合割合

石灰岩砕石

混合割合

図-10 300~500℃加熱後のヤング係数残存比と使用材料の関係(JIS 高強度コン)

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ハザマ研究年報(2011.12) 8

石灰岩砕石を 100%使用したコンクリートと同程度のヤ

ング係数の低下が生じることが確認された。また,石灰

岩砕砂の混合割合が も高い E工場のヤング係数の低下

が小さいことから,粗骨材に比べて細骨材の種類がヤン

グ係数に及ぼす影響は少ないと考えられる。

(6)応力-ひずみ関係

図-11~図-13 に圧縮強度試験から得られた応力-

ひずみ曲線を示す。なお,図は加熱水準ごとでの比較が

できるように横軸を 1000(×10-6)シフトさせている。

いずれの工場においても,加熱温度が高くなるにつれて,

大応力度に対するひずみは大きくなっている。これは

コンクリート内部に微細ひび割れ等の隙間が発生してい

ることを示唆している。

各加熱温度における応力-ひずみ曲線は,いずれの工

場も加熱水準 100℃では常温時と比較して応力-ひずみ

曲線の差はなく,直線的な勾配で圧縮強度に達する形状

を示している。200℃では,常温時と比較してやや勾配

が緩やかとなり,300~600℃では,それが顕著に現れて

いる。700℃では,600℃と比較してほぼ同じ勾配を示し

ている。これらは,文献 3),6)で示されている加熱冷

却後の圧縮強度試験における応力-ひずみ関係の傾向と

同じであった。

文献 3),6)によると,高温域における応力-ひずみ

曲線は低ひずみ域において下に凸となるS字形の曲線を

示し,特に石灰岩砕石を用いるとその傾向が顕著に現れ

るとされており,この傾向は本実験の測定結果にもみら

れる。安部ら 10)は,高強度域(W/C=32%)のコンクリ

ートについて高温時および加熱冷却後の応力-ひずみ曲

線を測定しており,加熱冷却後ではS字形の曲線を示し

ているが,高温時ではS字形の曲線を示していない。こ

れより,S字形の応力-ひずみ曲線は,冷却時の粗骨材

の収縮がコンクリート内部の微細ひび割れ等の隙間を多

く発生させていることに起因するものと推測される。石

灰岩砕石を使用したコンクリートで,この傾向が顕著に

現れる原因は,石灰岩の冷却時の収縮率が硬質砂岩に比

べて大きいためであると考えられる 11)12)。

3.予熱炉を用いた高温時における高強度コ

ンクリートの素材実験

3.1 実験概要

(1)実験条件・供試体

実験に供したコンクリートは,2.1 節に示した調合 B-

J(W/C=30%)と B-37(W/C=32%)とした。供試体はφ

100×200mm とし,各調合 3 体とした。なお,供試体は

コンクリート打設翌日に脱型し,材齢 28 日まで標準養

0

20

40

60

80

100

120

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000軸ひずみ度(×10

-6)

圧縮

応力

度(N

/m

m2)

A-37

A-J20℃

100℃

200℃

300℃

400℃

500℃

600℃

700℃

図-11 応力-ひずみ曲線(A工場)

0

20

40

60

80

100

120

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000

軸ひずみ度(×10-6

)

圧縮

応力

度(N

/m

m2 )

B-37

B-J

20℃

100℃

200℃

300℃

400℃

500℃

600℃

700℃

図-12 応力-ひずみ曲線(B工場)

0

20

40

60

80

100

120

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000

軸ひずみ度(×10-6

)

圧縮

応力

度(N

/m

m2)

C-37

C-J20℃

100℃

200℃

300℃

400℃

500℃

600℃

700℃

図-13 応力-ひずみ曲線(C工場)

生,その後 20℃,60%雰囲気内で気中養生し,高温圧縮

強度試験は材齢 6ヶ月以上経過後に実施した。

2)実験方法

高温時におけるコンクリートの圧縮強度試験は,載荷

装置に付設した予熱炉で供試体を目標温度まで加熱した

後に圧縮強度試験を実施する方法が用いられている例えば

10),13),14)。本実験では,金らの方法 15)および出口らの方

法 16)を参考に,載荷装置の近くに設置した予熱炉で供

試体を目標温度である 500℃までに加熱した後に,載荷

2000

2000

2000

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ハザマ研究年報(2011.12) 9

装置に移して圧縮強度試験を実施した。これらの研究

15),16)によれば予熱炉を用いたこの圧縮強度試験の方法

は,既往の加熱試験方法の代替方法として利用できるこ

と,また強度やヤング係数に及ぼす影響が小さいことが

確認されている。

a)予熱炉による加熱方法

予熱炉はプログラム調整を有した電気炉(ヤマト製,

内法:W300×D400×H250mm)を用いた。加熱スケジュ

ールを図-14 に示す。炉内の昇温速度は文献 15)を参

考に 100℃/h とし,500℃に達した後は供試体の温度が

目標温度に到達するまでこの温度を維持した。

電気炉内の温度測定位置と供試体配置を図-15 に示

す。予熱炉には 6個の供試体と供試体の内部温度を測定

するための供試体を同時に加熱した。

b)圧縮強度試験およびヤング係数の測定方法

圧縮強度試験は,万能試験機(島津製作所製: 大ひ

ょう量 2000kN)を用い,JIS A 1108 に準拠して実施し

た。試験中の供試体は断熱保温と試験片の飛散を防止す

るために加熱炉を利用したが,本装置による加熱は実施

していない。またヤング係数は,変位計により試験機の

加圧盤上下の盤間変位を計測し,この変位を供試体のひ

ずみに換算して応力ひずみ曲線を算定して求めた。高温

時圧縮強度試験方法の状況を写真-5に示す。

0

100

200

300

400

500

600

0 60 120 180 240 300 360 420 480 540

加熱時間 (min)

温度

 (℃

)

設定温度

供試体中心温度

室内温度

図-14 加熱スケジュールおよび温度測定結果

電気炉制御用

供試体中心温度

室内温度

B-371

B-J2

B-372

B-J1

B-373

B-J3

温度測定

図-15 電気炉内の温度測定位置と供試体配置

3.2 実験結果

(1)加熱温度

供試体温度測定結果を図-14 に示す。供試体中心温

度は,設定温度に比べて温度上昇に遅れが生じており,

冷却板

保温用炉

写真-5 高温時圧縮強度試験の状況

0

100

200

300

400

500

600

420 430 440 450 460 470 480 490 500 510 520

加熱時間 (min)

温度

 (℃

)

設定温度

供試体温度

室内温度

図-16 試験中の温度測定結果

写真-6 高温時の圧縮強度試験後の供試体外観

試験開始 温度測定用

供試体取出し

100℃/h

500℃

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ハザマ研究年報(2011.12) 10

500℃に達するのに約 8時間程度を要した。

図-16 に試験中の温度記録を示す。温度測定用供試

体を取出し後の温度変化は,取出し後 5分程度は温度変

化がほとんどなく,その後緩やかに低下した。供試体の

取出しから圧縮強度試験の開始まではほぼ 3分以下であ

ったことから,圧縮強度試験中の供試体中心温度はほぼ

500℃程度を保持していたと推測される。

(2)目視観察

写真-6に高温時の圧縮強度試験後の供試体外観を示

す。500℃加熱時の圧縮強度試験後の供試体は,いずれ

も表層部にひび割れが確認された。また,B-J,B-37 と

もに一部の供試体において爆裂が生じた。

(3)高温時における圧縮強度およびヤング係数

表-11に 500℃加熱時と加熱冷却後の圧縮強度および

ヤング係数試験結果,表-12に 500℃加熱時の圧縮強度

残存比,ヤング係数残存比を示す。500℃加熱時の圧縮

強度およびヤング係数とも B-J と B-37 に大きな差が無

いが,B-J の圧縮強度のばらつきがやや大きい結果であ

った。

表-11 500℃加熱時と加熱冷却後の圧縮強度,ヤング

係数

圧縮強度 (N/mm2) ヤング係数 (kN/mm2)

調合名 測定値 平均

標準測定値 平均

標準

偏差 偏差

B-J 56.2

53.9 2.05

5.93

5.49 0.33高温時 54.2 5.44

51.2 5.12

B-37 54

53.7 0.29

5.43

5.78 0.25高温時 53.7 5.94

53.3 5.96

B-J 36.9

37.6 0.61

5.46

5.62 0.13冷却後 38.4 5.77

37.6 5.64

B-37 39.7

39.4 0.29

5.96

5.99 0.02冷却後 39 6.02

39.5 5.98

表-12 500℃加熱時の圧縮強度残存比,ヤング係数残

存比

圧縮強度残存比 ヤング係数残存比

調合名 測定値 平均 測定値 平均

B-J 0.52

0.50

0.14

0.13 高温時 0.50 0.13

0.47 0.12

B-37 0.53

0.53

0.13

0.14 高温時 0.53 0.15

0.52 0.15

B-J 0.34

0.35

0.13

0.13 冷却後 0.36 0.13

0.35 0.13

B-37 0.39

0.39

0.14

0.14 冷却後 0.39 0.15

0.39 0.14

図-16 に圧縮強度残存比を,図-17 にヤング係数残

存比を示す。図には,冷却加熱後の AIJ 提案値および高

温時の AIJ 提案値を併せて示す。500℃加熱時の圧縮強

度残存比は,B-J が 0.50,B-37 が 0.53 となり,それぞ

れ加熱冷却後の圧縮強度残存比 0.35 と 0.39 より大き

い結果であった。なお,この結果は高温時(500℃)の

AIJ 提案値の 0.53 とほぼ同じ値であった。一方,500℃

加熱時のヤング係数残存比は,B-J が 0.13,B-37 が

0.14 とほぼ等しい値であったが,AIJ 提案値の 0.35 に

比べて小さく,加熱冷却後の試験結果の値である 0.15

0.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

0 100 200 300 400 500 600

コンクリートの温度(℃)

圧縮

強度

残存

比B-J 高温時

B-37 高温時

B-J 冷却後

B-37 冷却後

図-16 500℃加熱時の圧縮強度残存比

0.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

0 100 200 300 400 500 600

コンクリートの温度(℃)

ヤン

グ係

数残

存比

B-J 高温時

B-37 高温時

B-J 冷却後

B-37 冷却後

図-17 500℃加熱時のヤング係数残存比

0

20

40

60

80

100

120

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000

軸ひずみ度(×10-6)

圧縮

応力

(N

/m

m2)

加熱冷却後

B-37 高温時

B-J 高温時

20℃100℃

200℃

300℃

400℃ 500℃

600℃

700℃

図-18 高温時における応力-ひずみ曲線

AIJ 提案値(高温時)

AIJ 提案値(冷却加熱後)

AIJ 提案値(高温時)

AIJ 提案値(冷却加熱後)

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ハザマ研究年報(2011.12) 11

に近い結果であった。また,高強度コンクリートの試験

結果で,文献 3)の中では下限値に近い結果となってい

る宮本らの回帰曲線 14)(W/B=22~36%の範囲)に近い

値であった。

(3)高温時における応力-ひずみ関係

図-18 に高温時における応力-ひずみ曲線を示す。

図には加熱冷却後の応力-ひずみ曲線を併せて示す。

500℃の高温時における応力-ひずみ曲線と加熱冷却後

の曲線を比較すると,勾配は概ね同じであるが,高温時

の曲線のほうが低ひずみ域における下に凸のS字形の傾

向が顕著に現れている。この傾向は,文献 10),13),

14)に示されている高温時の応力-ひずみ曲線には確認

されていない。本実験においてこのような傾向がみられ

た原因は定かではないが,加熱冷却後ではコンプレッソ

メーターを用いてコンクリートのひずみを測定したのに

対し,高温時では変位計により試験機の加圧盤上下の盤

間変位を測定したことによる,測定方法の違いが影響を

及ぼした可能性が考えられる。

4.まとめ

高温加熱した高強度コンクリートの力学的性質に関す

る実験により以下のことが明らかとなった。

① 高温加熱を受けた石灰岩砕石使用の高強度コンクリ

ートの加熱冷却後の圧縮強度は,加熱温度が高くな

るにつれて低下し,700℃加熱後の圧縮強度は,加

熱前の 17~25%程度まで低下する。

② 加熱冷却後の圧縮強度試験によるヤング係数残存比

は,加熱温度が高くなるにつれて低下するが,特に

100~400℃にかけての低下が大きく,700℃加熱後

では,加熱前の 4~12%程度まで低下する。

③ 加熱冷却後の圧縮強度試験による圧縮強度残存比お

よびヤング係数残存比は,同一生コン工場の場合,

W/C が若干異なってもほぼ同程度の値であり,供試

体間の圧縮強度のばらつきも同程度であった。

④ セメント種類による加熱冷却後の圧縮強度残存比お

よびヤング係数残存比に及ぼす影響は,低熱ポルト

ランドセメントを使用した生コン工場が も大きな

圧縮強度残存比を示したが,ヤング係数残存比には

明確な差異が確認されなかった。

⑤ 骨材種類による圧縮強度残存比およびヤング係数残

存比に及ぼす影響は,石灰岩砕石の混合割合が低い

生コン工場でも石灰岩砕石 100%使用の工場と同程

度の圧縮強度残存比およびヤング係数残存比の低下

が確認された。

⑥ 加熱冷却後の圧縮強度試験による応力-ひずみ関係

は,加熱温度が高くなるにつれて, 大応力度に対

するひずみ量は大きくなる傾向が確認された。

⑦ 高温時の圧縮強度試験による圧縮強度残存比は,日

本建築学会「構造材料の耐火性ガイドブック

2009」で示されている高温時 500℃の平均値 0.53

とほぼ同程度であった。

⑧ 高温時の圧縮強度試験によるヤング係数残存比は,

日本建築学会「構造材料の耐火性ガイドブック

2009」に示されている平均値 0.35 に比べて小さく,

加熱冷却後の値の 0.15 に近い値となっている。

⑨ 高温時の圧縮強度試験による圧縮強度残存比および

ヤング係数残存比は,同一生コン工場の場合,W/C

が若干異なってもほぼ同程度の値であった。

なお本報告は,戸田建設,西松建設,ハザマ,フジタ,

前田建設工業の共同研究成果の一部である。

謝辞:共同研究担当各位に深謝の意を表します。また,

本実験にご協力頂いた関連各社に誠意を表します。

参 考 文 献

1) 松戸正士,西田浩和,大塚貴弘,平島岳夫,安部武

雄:高温時における高強度コンクリートの力学的特性

について-高強度コンクリートの耐火性に関する研究

-,日本建築学会構造系論文集,Vol.73,No.624,

pp.341-347,2008.2

2) 松戸正士,西田浩和,片寄哲務,安部武雄:高温加熱

後の超高強度コンクリートの力学的性質に関する実験

的研究,日本建築学会構造系論文集,No.603,pp.171-

177,2006.5

3) 森田武,西田朗,山崎庸行:高強度コンクリート(圧

縮強度120N/mm2)の加熱後の残存強度特性,日本火

災学会研究発表会概要集」,pp.338-341,2000.5

4) 無機マテリアル学会:セメント・セッコウ・石灰ハン

ドブック,pp304-309,1995.11

5) 日本建築学会:構造材料の耐火性ガイドブック 2009,

pp.34-97,2009.3

6) 一瀬賢一,川口徹,長尾覚博:高温加熱を受けた高強

度コンクリートにおける粗骨材の影響,コンクリート

工学年次論文報告集,Vol.24,No.1,pp.285-290,

2002

7) 一瀬賢一,堀長生:高温加熱を受けた超高強度コンク

リートの力学的性質,日本建築学会大会学術講演梗概

集(近畿),pp.403-404,2005.9

8) 一瀬賢一,川口徹,長尾覚博,河辺伸二:高温加熱後

の高強度コンクリートの力学的性質に及ぼすセメント

の影響,日本建築学会大会学術講演梗概集(東海),

pp.727-728,2003.9

9) 奥山治也,奥野亨,佐藤忠博,嵩英雄:コンクリート

の耐熱性におよぼす骨材の影響に関する研究(その1

高温加熱を受けた骨材およびコンクリートの性状の変

化,その2 20~300℃の高温にさらされたコンクリー

トの諸性質),日本建築学会大会学術講演梗概集(東

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ハザマ研究年報(2011.12) 12

北),pp.217-220,1973.10

10) 安部武雄,古村福次郎,戸祭邦之,黒羽健嗣,小久保

勲:高温度における高強度コンクリートの力学的特性

に関する基礎的研究,日本建築学会構造権論文集,

No.515,pp.163-168,1999.1

11) U.Schneider:コンクリートの熱的性質,技報堂,

pp.42-48,1983

12) 森実:骨材の性質・性能-熱的性質・耐火性,コンク

リート工学,Vol.16,No.9,pp.36-40,1978.9

13) 一瀬賢一,長尾覚博,川口徹:高温加熱状態における

高強度コンクリートの力学的性質に関する実験的研究,

日本建築学会構造系論文集,Vol.557,pp.23-28,

2002.7

14) 宮本圭一,安部武郎:高温時における高強度コンクリ

ートの力学的特性に関する研究,日本建築学会構造系

論文集,第 574号,2003.9

15) 金亨俊,濱崎仁,野口貴文,長井宏憲:予熱炉を用い

た高温加熱時におけるポリマーセメントモルタルの力

学性状,コンクリート工学年次論文集,Vol.32,No.1,

pp.1631-1636,2010

16) 出口嘉一,三井健郎:予熱したコンクリートを用いた

高温圧縮強度試験方法の提案と結果,日本火災学会論

文集,Vol.59,No.1,pp.17-23,2009

Experimental Study on Mechanical Properties of High-Strength Concrete

Subjected to High Temperature Heating

Yoshiyuki SUZUKI, Hitoshi YAMADA

The purpose of this study is to collect the basic data about the mechanical property of the high-strength concrete under high temperature heating. This report shows the experimental results about the mechanical properties of the concrete after fire damage and under high temperature, using concrete of five different ready-mixed concrete plants, and the target concrete strength class is design strength of 60N/mm2. According to the result of the tests, it was confirmed that the compressive strength and Young's modulus of the high-strength concrete using limestone after the fire damage gradually decrease as temperature becomes high, compressive strength decreases to 17-25% of normal temperature after heating up to 700℃, Young's modulus decreases to 4-12% of normal temperature after heating up to 700℃, and the differences of compressive strength of the high-strength concrete after fire damage and under high temperature could not be confirmed when the same materials and slightly different W/C were employed.