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Vol.50
1 はじめに
弊社では高性能熱交換器を開発しています.今回は熱交換器について,ご紹介させていた
だきます.熱交換器は高温流体から低温流体へ効率よく熱を伝える装置です.熱交換器はと
ても身近なものです.例えばエアコン,冷蔵庫,瞬間給湯器,車のラジエータ,PC のヒー
トシンクなども広義の熱交換器と呼ばれるものです.
様々な種類の熱交換器が存在しますが,3つの形式に大別することができます(図1).
① 隔板式熱交換器 流れ方向によって並流形,向流形,直行形があります(図1(a)).
② 蓄熱式熱交換器(regenerator) 弁切換式と回転式があります(図1(b)).
③ 直接接触式熱交換器(図1(c)).
図1 様々な種類の熱交換器
(a)隔板式熱交換器|シェルアンドチューブ熱交換器,(b)蓄熱式熱交換器|回転式
(c)直接接触式熱交換器|冷却塔 1)
弊社ではバーナによる加熱炉の開発を行っています.加熱炉から排出される排気には相
当な熱エネルギーが含まれており,この有効利用が望まれます.このため排熱回収技術は重
要です.加熱源がバーナである場合は炉圧が上がるため必ず排気が必要です.一方,ヒータ
の場合でも排気ガス中に臭気ガスやNOxが含まれる場合,熱処理物の品質を低下させるため
排気が必要です.
2 熱交換器の評価
熱交換器の性能を表す指標に温度効率があり,次のように定義します.
高温側流体の温度効率の場合
𝜂ℎ = (𝑇𝑖 − 𝑇𝑒) (𝑇𝑖 − 𝑡𝑖)⁄ (2-1)
低温側流体の温度効率の場合
𝜂𝑐 = (𝑇𝑒 − 𝑇𝑖) (𝑇𝑖 − 𝑡𝑖)⁄ (2-2)
ここで,𝑇,𝑡:高温,低温流体温度,𝑖:入口側,𝑒:出口側.
温度効率の使い方は運転中の温度効率𝜂ℎ,𝜂𝑐が既知とすれば,高温流体入口又は低温流体
入口のいずれかの温度がわずかに変動したときの出口温度を容易に求めることができます
2).理論上,温度効率𝜂ℎ,𝜂𝑐は一致しますが,実際には放散熱等により一致しません.どち
らの値も高いことが好ましいです.
また熱交換器において交換可能な最大熱量に対する実際の交換熱量の割合をエネルギー
効率といいます.高温流体と低温流体の流れ方向によってエネルギー効率が異なります 3).
(a) (b) (c)
3 熱交換器の高性能化
熱交換器の能力すなわち熱交換量𝑄[𝑊]は,熱通過率𝐾,伝熱面積𝐴,対数平均温度差∆𝑇,
修正係数𝐹を用いて以下のように簡易的に表されます 4).
𝑄 = 𝐹 ∙ 𝐾 ∙ 𝐴 ∙ ∆𝑇 (3-1)
対数平均温度差∆𝑇とは熱交換器の高温流体と低温流体の出入り口の温度差を用いて定義
され, 大きいほど伝熱量が大きいことを意味します.𝐾を大きくする取り組みは伝熱促進
にあり,大きく分けて2つの方法があります.
1 つ目は熱伝導率の良い材質を選ぶことです.熱が良く伝わる材質といえば銅があります.
しかし工業装置では材料費,加工性,経済性,耐熱性などを総合的に考えて選定します 5).
2 つ目は微視的な話になりますが,流れが層流の場合は温度境界層,乱流の場合は粘性底層
の厚さを薄くすることです.熱交換器は温度の異なる2種類の流体が伝熱壁(主として金属)
を隔てて熱移動を行いますが伝熱壁に接するごく近傍には上記のきわめて薄い層が存在し
ています(図 3-1).
図 3-1 温度境界層と粘性底層 3)
伝熱壁を境として流体は流動しているにもかかわらず,この層ではほとんど流体の移動
は起こりません.熱が移動するためには伝熱壁と温度境界層(あるいは粘性底層)を通る必
要があります.しかし空気などの流体の熱伝導率は一般に低いため,この層は薄いにもかか
わらず熱を通しにくくなります.層の厚さの大小が熱移動にきわめて密接な関係がありま
す 6).したがって熱交換器を高性能化するには温度境界層に対しては流体の流速を大きくし
て層の厚さを薄くすること,また粘性底層に対しては流路壁を粗い形状にすることです.以
下にシェルアンドチューブ熱交換器の例を示します.
① 伝熱管の径を細くし,円管内を通過する流体の流速を大きくすると,円管内壁の温度境
界層が薄くなるため,伝熱速度が大きくなり性能が向上する.
② 伝熱管同士のピッチを狭めて隙間を通過する流体の流速を上げる.①と同様に流速を上
げることで伝熱速度が大きくなる.またチューブレイアウトにより流体と伝熱壁との衝
突の仕方が変化する.伝熱速度を上げる場合は流れがより乱れるレイアウトを選ぶ(図
3-2).
図 3-2 チューブレイアウト 7)
(a)三角配列,(b) 碁盤配列,(c)千鳥配列,(d)実機写真
③ 熱交換器内を流れる流体の流路を長くし,伝熱壁と流体の接触する滞留時間を増加させ
る.例えば図 3-3(a)ディスク&ドーナツタイプよりも,図 3-3(b)シングルセグメンタル
タイプのほうが流路を長くすることができる.
図 3-3 バッフルタイプと配置 7)
(a)ディスク&ドーナツ,(b)シングルセグメンタル,(c)実機写真
④ 粘性底層の厚さよりも伝熱壁面の表面を粗い形状にすることで,伝熱壁面が粘性底層
に覆われないようにする.粘性底層が無くなれば,伝熱速度が向上する(図 3-4).コ
ルゲート管(a),プレート熱交換器のプレート表面の波状突起(b)はこれらの効果が期待
できる.
(a) (b)
(d)
(c)
(a)
(b) (c)
図 3-4 波状突起
(a)コルゲート管 8),(b)プレート熱交換器のプレート表面の波状突起 9)
4 高性能化 vs 圧力損失
伝熱促進により熱交換器を高性能化する方法をご説明しました.しかし,伝熱促進のため
に,流速を大きくすること,また粗い伝熱壁面を利用することは圧力損失を増大させます.
圧力損失の増大は送風機の負荷を増加させます.圧力損失に対して高い静圧を持つ送風機
を選定すれば良いのですが経済性とのバランスとなります.基本的に熱交換器を小型高性
能化するほど圧力損失は増大しますので,高静圧の送風機が必要となります.さらに高流量
を必要とする場合には送風機が大型化します(図4).
図4 小型高性能熱交換器と送風機の関係
(a) (b)
5 おわりに
上述の熱交換器と送風機の例では,小型化,高効率を求めると,圧力損失が増大し,送風機
が大きくなりました.一般に,機械装置は高性能化を求めると高価になるという二律背反の
問題が発生します.したがって,熱交換器の場合,要求仕様によってどれを優先するかは変
わりますが,基本的には設置面積,効率,耐久性,経済性,低圧力損失などのバランスが良
いモノが優れていると考えます.弊社ではこれまで効率を重視した熱交換器の開発を行っ
てきましたが,今後はバーナの燃焼ガスの排熱回収を行うために 900℃前後の高い温度帯で
の運用に対応すべく,費用対効果の高い,しかも耐久性に優れた熱交換器の開発に取り組ん
でいく予定です.
[参考文献]
1) 日本冷却塔工業会,http://www.coolingtower.jp/ct.html.
2) 一般財団法人省エネルギーセンター,https://www.eccj.or.jp/qanda/term/kana_o.html.
3 ) 相原利雄,機械工学選書伝熱工学,(2004),225.
4 ) 柴田豊,日本機械学会熱工学コンファレンス 2007 講演論文集,07-5(2007).
5 ) 橋本壽夫,Encyclopedia[塩百科],41 ,(2004).
6 ) 安田豊,日本舶用機関学会誌,4-10,(1969),571.
7) バタンガス州立大学,シェルアンドチューブ熱交換器設計講義資料.
8 ) 三和鉄工,http://www.sanwa-iron.co.jp/index.html.
9 ) Alfa-Laval, ht tp : / /www.dai ryreporter.com/Library/Process ing -Equipment -Syst ems-Automat ion -
Cont rol/Energy-eff ic ien t -p la te-heat -exchanger-has-huge-poten t ia l -Alfa -Laval.
2017 年 4 月 14 日 発行
<著者> 田邉淳一
<監修> 野田進 豊橋技術科学大学名誉教授
<発行所> 株式会社エコム
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