發疹熱の末梢血 骨髄血像と治療による影響 第2編...

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314 日本傳 染病學會雑誌 第30巻 第4號 發疹熱の末梢血 骨 髄 血像 と治療 に よる影 響 第2編 治療群末梢血液像について 東京 醫科大學血液 學教 室(主任 加藤勝治) 國立相模原病院内科(醫長 後藤敏 夫) I 緒 II 検査症例及び方法 III 検 査 成 績 第1章 熱型 よ りみた經過 第2章 赤 血球 及 び栓 球 に つ い て 第1節 赤血球數及び血色素量について 第2節 栓球について 第3章 白血球系について 第1節 白血球 總 數 の推 移 第2節 好 中球 と平 均核 數 第3節 好 酸 球に つ い て 第4節 好鹽基球について 第5節 淋 巴球 に つ い て 第6節 單球について 第7節 形 質 細 胞 及 び網 内 皮球 に つ い て 第8節 再發例の血液像について IV 總括及び結論 I リケ ッチ ャ疾 患 に對 しパ ラア ミノ安 息 香 酸(P ABA)及 び諸 種 抗 生 物 質 が著 効 を示 す事 は今 日 よ く知 られ た 事 實 で あ る が,リ ケ ッチ ャ症 の一種 で ある發疹熱 に對 し,上 記諸藥物 を投 與せ る本 邦 報 告 は後 藤 等1)6)の 夫 れ を除 い て殆 ん どみ られ な い. 本 編 は上 記 後 藤 等 の實 験 に 當 り余 の 分 擔 せ る, 各 種 治 療 藥 物 に よ る末 梢 血 液 像 の 變 化 につ い て の 報 告 で あ る. II 症例及び検査方法 國立相模原病院内科に收容せる診斷確實な發疹 熱 慰者123名 中,特 殊 治 療 を實 施 しな かつ た55名 を除 き,25名 にPABA,残 りの43名 に各 種 抗 生 物質 を投 與 した(表1). 治 療 に當 りPABA投 與 量 は初 囘4瓦,次 で2 瓦づ ゝ毎囘同量の重曹 を混 じ概ね下熱時 まで毎2 時 間 經 口投 與 を行 い,抗 生物質群は少數例の例外 を除 き原 則 的 に は1囘 量0.25瓦 を毎4時 間6囘, 次 で毎6時 間8囘 計3.5瓦 を經 口投 與 した. 検 血 は 入院 直 後,極 期,下 熱直前及び直後退院 表1 治療群性別・年齡別・治療別分類

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314 日本傳染病學會雑誌 第30巻 第4號

發疹熱の末梢血 骨髄血像と治療による影響

第2編

治療群末梢血液像について

東京醫科大學血液學教室(主任 加藤勝治)

國立相模原病院内科(醫長 後藤敏夫)

守 屋 邦 男

目 次

I 緒 言

II 検査症例 及び方法

III 検査成績

第1章 熱型 よ りみた經過

第2章 赤 血球 及び栓球 につい て

第1節 赤血球數及び血色 素量につい て

第2節 栓球 について

第3章 白血球 系につい て

第1節 白血球總 數の推移

第2節 好 中球 と平均核 數

第3節 好 酸 球につい て

第4節 好 鹽基球につい て

第5節 淋巴球 につい て

第6節 單球につい て

第7節 形質 細胞及び網 内皮球 につい て

第8節 再發例 の血液像につい て

IV 總 括及び結論

I 緒 言

リケ ッチ ャ疾 患 に對 しパ ラア ミノ安 息 香 酸(P

ABA)及 び諸種抗生物質が著効 を示す事は今 日

よく知 られた事實であるが,リ ケッチャ症の一種

である發疹熱に對 し,上 記諸藥物 を投與せる本邦

報告は後藤等1)6)の 夫れを除いて殆んどみられな

い.

本編は上記後藤等の實験に當 り余の分擔せる,

各種治療藥物による末梢血液像の變化についての

報告である.

II 症例及び検査方法

國立相模原病院内科に收容せる診斷確實な發疹

熱 慰者123名 中,特 殊治療 を實施 しなかつた55名

を除 き,25名 にPABA,残 りの43名 に各種抗生

物質 を投與 した(表1).

治療に當 りPABA投 與量は初囘4瓦,次 で2

瓦づ 毎ゝ囘同量の重曹 を混 じ概ね下熱時 まで毎2

時間經口投與 を行い,抗 生物質群は少數例の例外

を除 き原則的には1囘 量0.25瓦 を毎4時 間6囘,

次で毎6時 間8囘 計3.5瓦 を經 口投與した.

検血は入院直後,極 期,下 熱直前及び直後退院

表1 治療群性別 ・年齡別 ・治療別分類

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昭和31年7月20目 315

直前等努 めて頻囘實施 した.

III 検査成績

第1章 熱形を中心と した各群經過の比較

非特殊治療群,PABA群,抗 生物質群の入院

後の最高體温の經過 をみれば,非 特殊治療群は徐

々に下降 し平均17病 日で平熱 となつたが,治 療群

では更に早 く(圖1),此 の際 一見PABA群 が早

い様にみえるが,後 述する様にその投藥開始 日及

び投藥期間 を考 えれば抗生物質群の下熱が早い と

考えられる(表2).

更に使用抗生物質別にその體温經過 を示せば,

AM群 の下熱が最もすみやかであり,次でTM群,

IT群,CM群 の順であつた(圖2).

圖1 各群最高體温の變化

表2 發疹熱患者治療成績比較1覧

註(有 熱期)最 高體温37.1℃ 以上 がつ ゞく期 間

(有熱 目數)全 經過中最高體温37.1℃ を越 える 日の總計

(再發熱)37℃ 以下 になつた後2日 以上つづいて37.1℃ を越え る場合

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316 日本傳染病學會雑誌 第30巻 第4號

圖2 A. M, T. M, C. M, 1. T投 與 群 最 高體 温 の變 化

圖3 治療開始 目を基準 とせ る最 高體 温の變 化

治療別による下熱効果を知るために投藥開始 日

より起算 しその後の熱形の變化を比較すれば,抗

生物質群(全)はPABA群 に比 し速かに下熱す

る事がわか り(圖3),治 療別 にみればAM群 が最

も早 く下熱 し,次 でTM群,CM群,IT群 の順

であつた(圖4).但 し治療開始 日の體温はAM群

が最 も低 く,TM群 が最 も高い.し かしAM群 で

は再發例は1例 もな くTM群 では27.2%,1田 群

圖4 治療開始 目を基準 とせ る最 高體 温の變 化

では28.6%,CM群 では63.7%に 達 し,此 の點か

らもAM群 の治療効果が最もまさつていたと考 え

られる(表2).

第2章 赤血球及び栓球について

第1節 赤血球について

發疹熱患者赤血球數は發熱 と共に減少する事を

報 じたが,PABA群,抗 生物質群 も同様な傾尚

を認め且つ非特殊治療群より輕度であつた.抗 生

物質群赤血球數は第4週 頃より比較的急速に増加

す るを認めたが,PABA群 は觀察期間が短かか

つた爲此の傾向を認 めるに至 らず,又 抗生物質群

別にみても顯著な差は認め難い(表3).血 色素量

の減少は治療群に於いて輕 く,特 に抗生物質群の

減少は少な く,恢 復も迅速であつた(表3).尚C

M投 與による血液障碍特に再生不良性貧血への警

告7)8)が 報ぜられているが,本 症CM投 與例に於

いてはか ゝる障碍所見 を示 したもの は1例 も な

い.

第2節 栓球について

栓球は體温に敏感に左右 される事 は前編でのべ

たが,治 療群も同様の傾向を認 め抗生物質群の栓

球恢復率が特に著明であつた(表3).各 抗生物質

群間に於いては,AM群,TM群 が著明でその増

加率は200%に 達 したが,CM群,IT群 では100

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昭和31年7月20日 317

表3 治療 別にみた各期に於 け る血液組成 の變化

* 退 院時省下熱 せ ざる1例

圖5 病 日經過 よ りみた抗 生物質群 の變 化

%に みたず(表4)推 計學的にみても栓球 と體温

との相關度はAM群,TM群 が高い(表5).

圖6 病 日經過 よ りみたPABA群 の變化

第3章 白血球系について

第1節 白血球總數の推移 について

白血球數の變化は概ね非特殊治療群 と同様であ

つた.抗 生物質群についてみれば,第2週 中期に

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318 日本傳染病學會雑誌 第30巻 第4號

表4 抗 生物質投 與群 各期 に於 け る血液組 成の變 化

* 退院時街下熱せ ざる1例

最大値8,000に 達 した,後速かに減少 している(圖

5).

推計學的にみても白血球數 と體温の相關は抗生

物質群は+0.34±0.53の 順相關を示 し,PABA

群では抗生物質群程敏感でない(表5),(圖6).

尚抗生物質別 にみれば體温 との相關はAM群>T

M群>CM群>IT群 の順であつた(表5).

以上の如 く經週間の若干の動揺は暫 くおき,全

經過にっいてみれば各群共白血球數は發熱時増加

し下熱 と共に減少 している(表3).

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昭和31年7月20日 319

表5 治療群別 にみた體温 と末梢血組 成の變 化の相 關(γ ±PEγ)

* マグナマ イシン投與 の1例(検 血囘數3囘)を 含む

γ… 相關係數 PEy… γ の確 率誤差

第2節 好中球の變動

イ)好 中球について

治療群に於いても第1週 末までの白血球の大部

分 を占めるものは好中球であり,同 時に好酸球減

少,淋 巴球減少,核 形左方移動を示 した點非特殊

治療群 と變 りはない。抗生物質群好中球 と體温 と

は極めて高い順相關を示 し,此 の事から病初一旦

増加せる好中球の減少の最も速かに起 るのは抗生

物質群である事が理解 される.換 言すれば抗生物

質投與によつて感染微生物が速かに制壓 される時

は,好 中球反應が短期間に終 り得 る事 を示 し,抗

生物質の効果を實證するもの と考え得 られる.抗

生物質別にみればTM群>AM群>CM群>IT

群の順であつた(表5).

尚治療群に於ても好中球 と淋巴球 とは高い逆相

關を示 し,PABA群-0.82±0.027,抗 生物質

群-0.87±0.015で あつた.

ロ)平 均核數について

平均核數が下熱 と共に増加する事は治療群に於

ても同様である。而 しその増加率は治療群に比 し

非特殊治療群が大であり(表3),體 温 との相關度

も非治療群>PA8A群>抗 生物質群の順であつ

た.此 の様に外觀上核形左方推移の恢復が非特殊

治療群に於て最 も早いとの印象は一見奇異に感ぜ

られるが,本 症幼若核球(後 骨髄球 と桿核球の和)

の變動についてみれば,抗 生物質群が最も速かに

減少 し,抗 生物質群内ではTM群,AM群 の減少

が速かであり,次 で1田 群の順であつた(表5).

而 して下熱 と共に各群共分節核球は増加するが,

その際非特殊治療群では治療群に比 し3分 葉以上

の細胞がや 増ゝ加 した處に,平 均核數が最 も速か

に増加恢復 した如 くみえる,理 由があるにすぎな

い.從 つて正常歌態への復歸が最 も早いのは抗生

物質であつて此處に於ても亦抗生物質の治療劑 と

しての優秀性 を立證 しているものと考 える事が出

来 る。

尚中毒顆粒の消失は治療群に於ては非特殊治療

群に比 しや 早ゝ く,治 療群中再發群 と非再發群間

には著明な差はみとめられなかつた。

第3節 好酸球について

非特殊治療群に於 けると同様治療群に於てもそ

の逐日經過 をみれば病初減少し,第10病 日前後よ

り漸増し第3週 初 めより最大値に達 し,2~3日

の間此の値を示 した後再び減少 した.今 前編の如

く好酸球百分率3%を 越える症例を各群毎に示せ

ば,各 群 とも有熱期に最小で下熱 とともに増加 し

ている(表6).尚 體温 との相關は各群 とも逆相關

を示 し,體 温の下降 と共に好酸球の増加する事が

推計學的に明示されており,そ の相關度はPAB

A群 に比 し抗生物質群が大であり,抗 生物質群内

ではIT群>CM群>TM群>AM群 の順であつ

た(表5).此 の事は有熱期に於ける好酸球の減少

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320 日本傳 染病學會雑 誌 第30巻 第4號

の最 も少ないのはPABA群 であり,抗 生物質群

ではAM群,TM群,CM群,IT群 の順であつ

た事 を示 している.

第4節 好鹽基球 について

好鹽基球は有熱期殆んど認め難 く下熱 と共に血

中 に出現 した.そ の際抗生物質投與群は非特殊治

療群,PABA群 に比 し出現率がや 高ゝ く,抗 生

物質別にみればAM群,TM群 が高かつたが,而

しその出現率は高々0.3%に す ぎない.

第5節 淋巴球について

淋巴球の百分率 と好中球の百分率が逆相關 を示

す事は治療群に於ても同様である.

余の症例に於ける有熱期の淋巴球百分率は,下

熱後には夫々52.0%,44.2%で,各 抗生物質別に

みれば有熱期AM群27.4%,TM群29.2%,CM

群26.0%,IT群32.6%で,下 熱後の増加率は夫

々89.3%, 90.0%, 102.6%,及 び49.2%で,A

M群,TM群,CM群 間に著 しい差はないが,I

T群 の増加率は少なかつた.更 に體温 と淋巴球百

分率の變化 を推計學的にみればいずれも逆相關を

示 し,PABA群 に比 し抗生物質群の相關度が高

く,抗 生物質別にみればAM群,TM群,CM群

間 に大差なくIT群 がや 小ゝであつた(表5).

治療群に於ても大型淋巴球の増加 を認め經過間

全淋巴球の1/2~1/4を 占めていた.

第6節 單球について

發疹熱單球の態度については前編でのべたが,

PABA群 でも第2週 中期 までは減少 しその後増

加 して第15病 日に最高に達 し次で減少 した.抗 生

物質群 も病初減少 したがその後の經過は動揺 しつ

第ゝ3週 末 まで僅かに増加 したにすぎず,抗 生物

質群投與により單球反應は抑制せられるとの印象

を與えられた(圖7).

第7節 形質細胞及び網内皮球について

本症非特殊治療群形質細胞の變化はすでにのべ

たが,PABA群,抗 生物質群も此れと近似 した

傾向を示 し,共 に第12病 日に最大値に達 した後速

かに流血中から消失 し,そ の反應期は比較的短期

間であつた(圖8).

尚網内皮球の出現率は各群各期を通 じ殆んど零

に近 く,本 細胞については多 くを論 じ得ない.

圖7 病 日經過 と單球百分率 の變化

圖8 病 日經過 と形質細胞百分率 の變化

表6 好酸球百分率3%を 越 える症例 の比率

第8節 發例の血液像について

抗生物質投與例中,CM群,TM群,IT群 に

は再發例をみ とめその合計は12名 に達 したが,今

此の再發例 と上記3群 中の非再發例を對照 として

投藥終了直後に於ける血液像の變化 を比較すると

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昭 和31年7.月20目 321

表7 再發群及び非再發群の血液所見の變化

註 り投藥終 了直後 に於 ける血液所見2)再 發例はCM群7名,TM群3名,IT群2名,計12名,

非再 發群 は16名

次の様 である(表7).

即 ち赤血球數,ザ ー リー値には両群間に著變を

みないが,栓 球數は明かに再發群が少ない.白 血

球 では好中球百分率は再發群が高 く殊に幼若好中

球に於て此の傾向が著明であつた.淋 巴球は非再

發群が増加 している.

IV 総括及び結論

治療群68名(PABA群25名,抗 生物質群43名)

の血液檢査の結果,末 梢血各 成分の變化及び各種

治療藥物による影響 を次の如 く総括 し結論する.

1) 治療開始 日を基準 として,そ の後の熱経過

を比較すれば下熱の最 も早いのは抗生物質群であ

り,次でPABA群,非 特殊治療群の順であつた.

再發例はAM群 には1例 もな く,TM群27.2%,

IT群28.6%,CM群63.7%で あつた.之 等の點

からみれば,本 症に對 しては抗生物質が最も効果

的であり,そ の うち特にAMが 優秀であつた.

2) 赤血球數は發熱 と共に,僅 か乍 ら減少する

が,抗 生物質群の赤血球減少率が最も低 く,栓 球

の恢復率が最 も速かであつた。抗生物質内ではA

M及 びTMが 最 もす ぐれていた。此の事 も亦本症

に對 し抗生物質が臨床上有効であつた事實 とよく

一致 した.抗 生物質中CMの 効果は劣 り,臨 床的

にその再發例 も多かつたが,再 生不良性貧血或は

顆粒白血球減少症等はみられなかつた.

3) 白血球數の變化は概ね非特殊治療群 と同様

であつたが,第2週 中期最大値に達 した後正常値

への復歸は抗生物質群が最も早い.體 温 と白血球

數 とは各群 とも順相關を示 しその相關度は抗生物

質 群が最も高 く,抗 生物質群中ではAM群>TM

群>CM群>IT群 の順であつた.

4) 好中球 と淋巴球 とは治療群に於ても明瞭な

逆相關を示 した。治療群好中球 と體温は高い順相

關を示 し,一 旦増加せる好中球が最 も速かに減少

するのは抗生物質群であり,此 の事は抗生物質に

より感染微生物が早期に制壓 されれば好中球反應

が短期間に終る事 を示 している.抗 生物質群聞で

は體温 との相關度はTM群>AM群>CM群>I

田群の順であつた.

5) 平均核數に於てはや 趣ゝ を異にし,外 見上

核形左方移動の恢復が最 も速かに起つたのは非特

殊治療群であ り,次 でPABA群 であつたが,そ

の内容 を分析する時,平 均核數が最も早 く正常値

に復歸するのは抗生物質群であり,抗 生物質群内

ではAM群,TM群 がす ぐれていた.

6) 好酸球は病初は減少するが,非 特殊治療群

に比 し治療群は早期から増加の傾向を示 し,又 経

過間の最大百分率平均値 も高い.

7) 好鹽基球 も抗生物質群特 にAM及 びTM群

がや 高ゝい.

8) 淋巴球は治療群に於てもPost Infektiose

Lymphozytoseを 示 したが,そ の淋巴球増加度

は抗生物質群が最大であり,抗 生物質群内では田

M群>AM群=CM群>1田 群の順であつた.し

か し淋巴球百分率は好中球百分率によつて左右 さ

れる事を忘れるわけにはゆかない。

9) 單球は第1週 末まで減少 した,後 増加にう

つ り,第2週 末乃至第3週 初めに最大値に達 し下

熱 と共に正常値に復歸 した.し かし各群單球の動

きをみると,抗 生物質群が最 も低 く,抗 生物質は

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322 目本傳染病學會雑誌 第30巻 第4號

單球反應 を抑制するかの感 を與えている.

10) 形質細胞は抗生物質群,PABA群 共に第

12病 日に最大値に達 したが,そ の形質細胞反應は

短期間であつた.

11) 再發群非再發群共投藥期間,投 藥量は全 く

同一であつたが,投 藥終了時に於ける血液像は再

發群に比 し明かに非再發群が正常像に近かつた.

以上の如 く血液像の上からみて,抗 生物質群は

赤血球の減少最 も輕 く栓球恢復最も速かであり,一旦増加せる白血球の正常値復歸早 く,好 中球反

應 も輕度であり形態學的變化も亦最も輕微であつ

た.尚 抗生物質群間ではAM,TMが 最も有効で

あ つ た.

文 獻

1) 後 藤 敏 夫, 清水 利 貞, 岡 野 實, 臨床 内 科小 見 科,

4: 733, 1949 (昭24年). -2) 後 藤 敏 夫, 岩 岡 順,

最 新 醫 學, 6: 323, 1951 (昭26年). -3) 後 藤 敏 夫,

渡 口精 吉, 最 新 醫 學, 7: 368, 1952 (昭27年). -4)

後 藤敏 夫, 渡 口精 吉, 池 田善 吉, 忍 田源 一, 小 島 紀,

日本傳 染 病 學 會 雑 誌, 27: 176, 1953 (昭28年) ―

後 藤 敏 夫, 内 藤巖, 岩 岡 順, 倉持 秀 雄, 綜 合 醫 學,

10: 243, 1953 (昭28年).-6) 後 藤 敏 夫, 渡 口精 吉,

渡 邊 武 治, 最 新 醫 學, 9: 11, 1954 (昭29年). -7)

守 屋 邦 男, 日本 醫 事 新 報. 1500: 60, 1953 (昭28年)。

-8) 守 屋 邦 男, 日本 醫 事 新 報, 1501: 25, 1953 (昭

28年).