乳酸菌菌体成分の抗腫瘍作用について ―in vitroに...

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781 乳酸菌菌体成分の抗腫瘍作用について ―in vitroに おける細胞増殖抑制作用について 大阪医科大学微生物学教室(指 導:中 井 益 代 教授) (平成1年11月1日 受 付) (平成1年12月8日 受 理) Key words : Lactobacillus casei, tumor cell , growth inhibition cell cycle 乳 酸 菌 菌 体 成 分 の 抗 腫 瘍 性 をin vitroに お け る細 胞増 殖抑 制作 用 よ り検 討 した . 乳 酸 菌 菌 体 成 分 は 白血 病 細 胞 株(MT-2細 胞,MT-4細 胞,Molt-4細 胞)組 織 球 性 リン パ 腫 細 胞 株(U- 937細 胞)の 増 殖 を 直 接 抑 制 し,こ の作用は同時に行 った抗癌剤 ビンプラスチンの殺細胞作用 とは明かに 異 な る も の で あ っ た.BrdU-抗BrdU抗 体法を用いた細胞周期動態解析では乳酸菌菌体成分の投与によ りG1+G0期(DNA合 成 準 備 期)の 細 胞 の 蓄 積 が み られ,乳 酸菌菌体成分は低濃度の蛋白合成阻害剤と して 働 い て い る と考 え ら れ た.ま た,乳 酸 菌 菌 体 成 分 に ペ ニ シ リン 処 理 を 加 え て も細 胞 増 殖 抑 制 作 用 の 増 強 は み ら れ な か っ た. 乳 酸 菌 類 よ り産 生 され る多 糖 類 や そ の菌 体 成 分 中に抗腫瘍性があるものが既に知られてい る1)~3).その作 用機序 に関 して は腫瘍細 胞 に対 す る リン パ 球 の細 胞 障 害 活 性4)の他 に マ ク ロ フ ァー ジ活 性化5)~8)などと されて い るが,そ の本態につ い て は い まだ 統 一 的 な見 解 が得 られ て い な い .乳 酸 菌 菌 体 成 分 の抗 腫 瘍 作 用 は生 体 内 で の免 疫 力 増 強 作 用 が主 体 で あ る が,一 部には乳酸菌菌体成分 の 直 接 作 用 が あ る可 能 性 も示 唆 され て い る9)10) .そ こで,著 者 はin vitroに おいて ヒ ト腫 瘍細胞 の増 殖 に 対 す る乳 酸 菌 菌 体 成 分 の 影 響 を検 討 し,一 の見解を得たので報告する. 材料 と方法 1. 乳酸菌菌体成分の作製 Lactobacillus casei IFO3245を 用 い,1%グ コ ー ス加VFブ イ ヨ ン(ハ ー トイ ンフジ ョン培 地 (DIFCO製)に1%牛 肝 臓 末(極 東 製 薬 製),1% ポ リペ プ トン(日 本 製 薬 製),1%グ ル コース , 0.04%L-シ スチンを添加 し,pH7.2に 調 整)で 27℃,48時 間 培 養 し,得 られた菌体を生理食塩水 で 洗 浄 し た.こ の洗 浄 菌 体 を二 分 し,一 方は無処 理(無 処 理 標 品)で 使 用 し,他 方は抗腫瘍性免疫 賦 活 剤OK432(Streptococcus pyogenes ニ シ リ ン処 理 菌 体 製 剤)の 処 理方 法11)に 準 じて 10,000U/mlの ペ ニ シ リン を 含 むPBSに て37℃, 24時 間incubateし,ペ ニ シ リ ン 処 理(PC処 理標 品)を 行 った.さ ら に これ らの 処 理 菌 体 を 乳 鉢 内 で 海 砂 に よ っ て 破 壊 し た 後,生 理食塩水に浮遊し た.こ の 浮 遊 液 を 遠 心 し(3,000rpm,20分 間)未 破 壊 菌 や 海 砂 を 除 き,さ ら に0.45μmの メンブラ ン フ ィ ル タ ー(Millipore製)で 濾過 し ,そ の濾液 を蒸 留 水 に て透 析 脱 塩 後,凍 結乾燥したものを使 用 した. 2. 実 験 方 法 1) 試験 管内 で各 ヒ ト培養 細胞 にお け る細 胞増 別 刷請 求 先:(〒569)高 槻 市 大 学 町2-7 大阪医科大学微生物学教室 片山 友子 平 成2年7月20日

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781

乳酸菌菌体成分の抗腫 瘍作用 について

―in vitroに おける細胞増殖抑制作用 について―

大阪医科大学微生物学教室(指 導:中 井益代教授)

片 山 友 子

(平成1年11月1日 受付)

(平成1年12月8日 受理)

Key words : Lactobacillus casei, tumor cell , growth inhibition cell cycle

要 旨

乳 酸菌 菌体 成分 の抗腫 瘍 性 をin vitroに お け る細 胞増 殖抑 制作 用 よ り検 討 した.

乳 酸菌 菌体 成分 は 白血 病細 胞株(MT-2細 胞,MT-4細 胞,Molt-4細 胞)組 織 球性 リンパ腫 細胞 株(U-

937細 胞)の 増殖 を直 接抑 制 し,こ の作 用 は同 時に行 った 抗癌 剤 ビンプ ラスチ ンの殺 細胞 作用 とは明 かに

異 なる もので あ った.BrdU-抗BrdU抗 体法 を用 いた細 胞周 期動 態解 析 では乳 酸菌 菌体 成 分の投 与 に よ

りG1+G0期(DNA合 成 準備期)の 細胞 の蓄 積 がみ られ,乳 酸 菌菌 体成 分 は低濃 度 の蛋 白合成 阻害 剤 と

して働 いて い る と考 え られた.ま た,乳 酸菌 菌体 成分 に ペ ニシ リン処理 を加 え て も細胞 増殖 抑制 作 用 の

増 強 はみ られ なか った.

序 文

乳酸菌類より産生 される多糖類やその菌体成分

中 に抗腫 瘍 性が あ る もの が既 に知 られ て い

る1)~3).その作用機序 に関 しては腫瘍細胞に対す

るリンパ球の細胞障害活性4)の他にマクロファー

ジ活性化5)~8)などとされているが,そ の本態につ

いてはいまだ統一的な見解が得 られていない.乳

酸菌菌体成分の抗腫瘍作用は生体内での免疫力増

強作用が主体であるが,一 部には乳酸菌菌体成分

の直接作用がある可能性も示唆 されている9)10).そ

こで,著 者はin vitroに おいて ヒト腫瘍細胞の増

殖に対する乳酸菌菌体成分の影響を検討し,一 定

の見解を得たので報告する.

材料 と方法

1. 乳酸菌菌体成分の作製

Lactobacillus casei IFO3245を 用 い,1%グ ル

コース加VFブ イヨン(ハ ー トインフジョン培地

(DIFCO製)に1%牛 肝 臓 末(極 東 製 薬 製),1%

ポ リペ プ トン(日 本 製 薬 製),1%グ ル コー ス ,

0.04%L-シ ス チ ン を 添 加 し,pH7.2に 調 整)で

27℃,48時 間 培 養 し,得 られ た 菌 体 を生 理 食 塩 水

で 洗 浄 した.こ の洗 浄 菌 体 を二 分 し,一 方 は 無 処

理(無 処 理 標 品)で 使 用 し,他 方 は 抗 腫 瘍 性 免 疫

賦 活 剤OK432(Streptococcus pyogenes SU株 ペ

ニ シ リ ン処 理 菌 体 製 剤)の 処 理 方 法11)に 準 じ て

10,000U/mlの ペ ニ シ リン を 含 むPBSに て37℃,

24時 間incubateし,ペ ニ シ リン処 理(PC処 理 標

品)を 行 った.さ ら に これ らの 処 理 菌 体 を 乳 鉢 内

で 海 砂 に よ っ て破 壊 した 後,生 理 食 塩 水 に 浮 遊 し

た.こ の浮 遊 液 を遠 心 し(3,000rpm,20分 間)未

破 壊 菌 や 海 砂 を 除 き,さ ら に0.45μmの メ ン ブ ラ

ン フ ィル タ ー(Millipore製)で 濾 過 し,そ の 濾 液

を蒸 留 水 に て透 析 脱 塩 後,凍 結 乾 燥 した も の を 使

用 した.

2. 実 験 方 法

1) 試 験 管 内 で 各 ヒ ト培 養 細 胞 に お け る細 胞 増

別刷請求先:(〒569)高 槻市大学町2-7

大阪医科大学微生物学教室 片山 友子

平成2年7月20日

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782 片山 友子

殖 抑 制 作 用

成 人T細 胞 白 血 病 の 樹 立 細 胞 系 で あ るMT-2

細 胞12)13),MT-4細 胞13),急 性 リンパ 芽 球 性 白血 病

の樹 立 細 胞 で あ るMolt-4細 胞14),お よび 組 織 球 性

リンパ 腫 樹 立 細 胞 系,U-937細 胞15)の4種 の 細 胞

を 使 用 し た.各 々 の 細 胞 を10%FCS加RPMI-

1640培 地 で2.5×105cells/mlに 調 整 し,マ イ ク ロ

プ レー トに100μlず つ 分 注 した.こ れ に 無 処 理 標

品(0.2mg/ml,2mg/ml),PC処 理 標 品(0.2mg/

ml,2mg/ml)100μlを 培 養 当初 に1回 添 加 し(両

標 品 と も 最 終 濃 度 は0.1mg/ml,1mg/ml),5%

CO2下37℃ で 培 養 液 を 交 換 せ ず に1週 間 培 養 し,

経=時的 に生 細 胞 数 を 測 定 した.ま た,乳 酸 菌 菌 体

成 分 の 細 胞 増 殖 抑 制作 用 を 抗 癌 剤 の 殺 細 胞 作 用 と

比 較 す る た め に ビン ブ ラ ス チ ンVLB(塩 野 義 製 薬

製,最 終 濃 度0.01μg/ml)を 用 い て 同様 の 実 験 を

行 った.

2) 細 胞 周 期 動 態 の解 析

乳 酸 菌 菌 体 成 分 の 細 胞 増 殖 抑 制 作 用 が 細 胞 分 裂

周 期 の い ず れ の 時 期 に作 用 す る か に つ い て 検 討 し

た.U-937細 胞 に 無 処 理 標 品,PC処 理 標 品 そ れ ぞ

れ1mg/mlを 添 加 し,5-Bromo-2'-deoxyuridine

(BrdU, Sigma社 製,最 終 濃 度10μM)をRPMI-

1640培 地 中 に加 え,5%CO2下37℃ で4,8,24時

間 培 養 した.細 胞 をPBSに て洗 浄 し,冷 エ タ ノー

ル に て 固 定 した.こ の 固定 細 胞 を4NHC1で 室 温

30分 間 処 理 し,四 飽 酸 ナ トリ ウム(和 光 純 薬 製)

で 中 和 した の ち,FITC標 識 抗BrdU抗 体(ベ ク ト

ンデ ッキ ン ソ ン社 製)を 室 温 に て1時 間 反 応 させ,

さ ら にPI(propidium iodide)に てDNA染 色 を

行 い,FACS(nuorescence avtivate cell sorter)

2波 長 解 析 を行 った.

成 績

1. 試 験 管 内 で の 各 培 養 細 胞 に お け る 細 胞 増 殖

抑 制 作 用

a) MT-2細 胞

MT-2細 胞 に 両 標 品 を そ れ ぞ れ 添 加 し,経 時 的

に 生 細 胞 数 を 測 定 した(Fig.1).無 処 理 標 品 添 加

で は培 養1日 目か らcontrol群 よ り生 細 胞 数 の 減

少 が み られ,control群 が培 養4日 目 に 生 細 胞 数

が2.5倍 と な っ て い た の に 対 し 無 処 理 標 品 添 加 で

Fig. 1 Growth inhibition on MT-2. 0.1mg/ml and

lmg/ml of somatic components of L. casei were

inoculated to 2.5 •~105cells of MT-2 at the begin-

ning of culture.

は細 胞 増 殖 が ほ とん どみ られ な か っ た.ま た,低

濃 度(0.1mg/ml)と 高 濃 度(1mg/ml)の 明 か な

差 は み られ な か った.PC処 理 標 品 を低 濃 度(0.1

mg/ml)で 添 加 す る と,生 細 胞 数 は 培 養1日 目で

はcontrol群 と比 べ て 差 が み られ な い が,培 養 日

数 が 経 過 す る と生 細 胞 数 の 減 少 が 明 か に み ら れ

た.ま た,PC処 理 標 品 高 濃 度(1mg/ml)添 加 で

は0.1mg/ml添 加 よ りさ らに細 胞 増 殖 抑 制 作 用 が

み られ た.こ れ に 対 し抗 癌 剤 で あ る ビ ソ ブ ラス チ

ン添 加 群 で は 強 い 殺 細 胞 作 用 が み られ た.

b) MT-4細 胞

MT4細 胞 に 関 して も両 標 品 と も細 胞 増 殖 抑 制

作 用 が み ら れ,培 養 当 初2.5×105cells/mlの 生 細

胞 数 が 培 養4日 目 に はcontrol群 で は6.4×105

cells/mlに 増 殖 し て い た の に 対 し,PC処 理 標 品

低 濃 度(0.1mg/ml)添 加 で も4.8×105cells/ml,

さ ら に 高=濃 度(1mg/ml)添 加 群 で は2.2×105

cells/mlと,添 加 濃 度 に 準 じて 増 殖 抑 制 作 用 が み

られ た.一 方,無 処 理 標 品 につ い て もPC処 理 標 品

と同 じ く,control群,低 濃 度(0.1mg/ml)投 与

群,高 濃 度(1mg/ml)投 与 群 の 順 に生 細 胞 数 の減

少 が み られ た が,し か し,無 処 理 標 品,PC処 理 標

品 との 差 は 見 られ な か った.ま た,VLB添 加 群 で

は培 養1日 目 よ り強 い殺 細 胞 作 用 が み られ,培 養

感染症学雑誌 第64巻 第7号

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乳酸菌菌体成分の抗腫i瘍作用 783

Fig. 2 Growth inhibition on MT-4. 0.1mg/ml and

lmg/ml of somatic components of L. casei were

inoculated to 2.5 •~ 105cells of MT-4 at the begin-

ning of culture.

6日 目にはほとんどの細胞が死滅 していた(Fig.

2).

c) Molt-4細 胞

Molt-4細 胞に関してはcontrol群 では培養3,

4日 目の細胞増殖が著しく培養4日 目では培養当

初 に比べ生細胞数が約10倍 にもなっているのに比

べ,PC処 理標品を低濃度(0.1mg/ml)添 加す る

と培養1,2日 目の生細胞数はcontrol群 と差は

ないが,3日 目以降では細胞増殖がみ られず,培

養4日 目においては培養当初に比べ3倍 程度にし

か増殖 しなかった.PC処 理標品高濃度(1mg/m1)

添加では低濃度 とほぼ同じ結果であ り,control

群に比べ著 しく細胞増殖を抑制 していた.ま た,

無処理標品でも低濃度 と高濃度 ともほぼ同じで

PC処 理標品 と同様 にcontrol群 に比べMolt-4細

胞の増殖を著明に抑制 していた.ま た,MT-2細

胞,MT-4細 胞 と同様 にVLBはMolt-4細 胞に関

して強い殺細胞作用を示 し,乳 酸菌菌体成分の細

胞増殖抑制作用 とは明か に異なっていた(Fig.

3).

d) U-937細 胞

PC処 理標品低濃度(0.1mg/ml)の 添加では,

control群 と細胞増殖曲線は全 く変わ らず,増 殖

抑制作用はみ られなかったが,PC処 理標品高濃

度(1mg/ml)添 加では培養3日 目以降の細胞増殖

Fig. 3 Growth inhibition on Molt-4. 0.1mg/ml and

lmg/ml of somatic components of L. casei were

inoculated to 2.5 •~ 105cells of Molt-4 at the begin-

ning of culture.

を抑制 し,培 養5日 目にcontrol群 では培養当初

より生細胞数が10倍 以上 となっていたのに対 し,

これを4倍 程度の増殖に抑えていた.ま た,無 処

理標品において もPC処 理標 品 と同じ く低濃度

(0.1mg/m1)添 加では細胞増殖抑制作用はみ られ

ないが,高 濃度(1mg/ml)に より細胞増殖抑制作

用がみられた.PC処 理標品と無処理標品の差 は

みられなかった.U-937細 胞にVLBを 作用 させる

と,培 養5日 目にはほとんどの細胞を死滅 させる

とい う強い細胞毒性がみられた(Fig.4).

以上のよ うに乳酸菌菌体成分は株化 白血病細胞

(MT-2,MT-4,Molt-4),組 織球性 リンパ腫細胞

(U-937)の 増殖抑制作用を有 し,こ の作用は同時

におこなった ビンブラスチンにみられる殺細胞作

用 とは明かに異な り,殺 細胞作用は見 られなかっ

た.

2. 細胞周期動態の解析

control群 のU-937細 胞では培養開始4時 間後,

8時 間後,24時 間後 ともG1+G0期,S期,G2+M

期の細胞の割合がほぼ同じで,培 養時間による差

はみられなかった.一 方,PC処 理標品を添加す る

と4時 間後ではcontrol群 と同じであるが,8時

平成2年7月20日

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784 片山 友子

Fig. 4 Growth inhibition on U-937. 0.1mg/ml and

1mg/ml somatic components of L. casei were

inoculated to 2.5 •~105cells of U-937 at the begin-

ning of culture.

Fig. 5 Cell cycle of U-937 using with anti-BrdU antibody. 1mg/ml of somatic components of L.

casei was inoculated to U-937 cells at the begin-ning of culture with 10,uM of BrdU. After the culture, cells were fixed with cold ethanol and reacted with anti-BrdU antibody, and then anal-ized in a cell sorter.

間 後,24時 間 後 に はS期(DNA合 成 期)の 細 胞 の

減 少 が み られ,G1+G0期(DNA合 成 準 備 期)の

細 胞 の 蓄 積 が み られ た.ま た,無 処 理 標 品 の添 加

に よ って もPC処 理 標 品 と同様 に,G1+G0期 の 細

胞 の 蓄 積 が み られ た(Fig.5).

考 察

乳 酸 菌 は広 く自然 界 に 分 布 し,動 物,食 品 と く

に 乳 製 品 に 常 在 し,ヒ トで は 口腔 内,腸 管 内,腔

内 に常 在 して 正 常 細 菌 叢 を形 成 して い る.最 近 乳

酸 菌 に は 種 々の 抗 腫 瘍 性7)8)が あ る と報 告 さ れ て

い る.松 崎 ら16)はマ ウ ス実 験 腫 瘍 に 種 々 の 抗 癌 剤

と乳 酸 菌 製 剤 を併 用 す る こ と に よ り抗 腫 瘍 効 果 の

増 強 を報 告 して お り,ま た 後 藤 ら17)は乳 酸 菌 製 剤

あ るい は乳 酸 菌 菌 体 成 分 を マ ウス に投 与 す る こ と

に よ りIFNの 誘 発,マ ク ロ フ ァー ジ の 貪 食 能 増 強

作 用 を報 告 して い る.今 回 著 者 は,横 倉 ら10)が マ ウ

スの 実 験 腫 瘍 内 に乳 酸 菌 を 投 与 す る と腫 瘍 の 増 殖

が 著 し く抑 制 され た と報 告 して い る こ とや,柳 川

ら9)がOK-432な ど の 免 疫 賦 活 剤 のin vitroに お

け る 抗 腫 瘍 作 用 を 報 告 して い る こ と よ り,乳 酸 菌

菌 体 成 分 に は宿 主 の 免 疫 力 を 高 め る 以 外 に直 接 腫

瘍 細 胞 に 作 用 し,そ の増 殖 を 抑 制 す る ので は な い

か と考 え,in vitroで の ヒ ト腫 瘍 細 胞 の増 殖 に 関

して 検 討 を行 った.

実 験 の結 果,乳 酸 菌 菌 体 成 分 はin vitroで 株 化

白血 病 細 胞 で あ るMT-2,MT-4,Molt-4細 胞 に関

し て は0.1mg/mlと い う低 濃 度 で も細 胞 増 殖 抑 制

効 果 が み られ た.ま た,組 織 球 性 リン パ腫 の 樹 立

細 胞 で あ るU-937細 胞 株 に 対 し て は 低 濃 度(0.1

mg/ml)で は細 胞 増 殖 抑 制 効 果 は み られ ず,高 濃

度(1mg/ml)に お い て は じめ て 細 胞 増 殖 抑 制 効 果

が み られ た.こ の 作 用 は 同 時 に お こな った ビ ン ブ

ラ ス チ ソ投 与 に よ る殺 細 胞 作 用 とは 明 か に異 な る

もの で あ り,柳 川 ら9)が マ ウ ス 白血 病L-1210細 胞,

P-388細 胞 に対 してOK-432な どのBRM(biologi-

cal response modifiers)を 用 い て 行 った 抗 腫 瘍 作

用 と類 似 す る も の で あ った.ま た,本 実 験 で は

Molt-4細 胞 とU-937細 胞 とで は乳 酸 菌 菌 体 成 分 の

増 殖 抑 制 効 果 の パ タ ー ン が異 な って い た.そ の原

因 と して 以 下 の ふ た つ の 可 能 性 が 考 え られ る.1)

U-937細 胞 は 食 細 胞 系 のpotentialを 有 し た 細 胞

感染症学雑誌 第64巻 第7号

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乳酸菌菌体成分の抗腫瘍作用 785

であるとされている.培 養初期にこれらの細胞が

乳酸菌菌体成分を異物 として取 り込み,そ の有効

成分を破壊 した.2)乳 酸菌菌体成分中には複数の

増殖抑制成分が存在する可能性がある.つ まり,

細胞の種類によって増殖活性のメカニズムが異な

り,そ れぞれの増殖抑制成分に対応する有効な作

用点の数がMolt-4細 胞に比 べU-937細 胞 には少

ないのではないか と考えられ る.MT-2細 胞 には

食 細胞系 のpotentialが あ るとの報 告18)がある

が,MT-2細 胞 と同 じ増殖活性化のメカニズムを

有す ると考えられるMT-4細 胞に対す る増殖抑制

効果 とMT-2細 胞に対す るものに差 がみ られ な

い.こ のことから,乳 酸菌菌体成分が異物 として

取 り込まれ破壊されたと考えるよりも,後 者の可

能性が高いもの と考えられる.ま た,こ の乳酸菌

菌体成分の細胞増殖抑制作用が細胞分裂周期のい

ずれ の過程 に作用す るかをBrdU-抗BrdU抗 体

法を用いて調べた.細 胞周期動態解析により,U-

937細 胞 に中等度の細胞増殖抑制 を示す量の乳酸

菌菌体成分を作用 させるとG1+G0期(DNA合 成

準備期)の 細胞の蓄積がみられた.G1+G0期 の細

胞を蓄積させる要因としては成長因子の不足,栄

養不足,低 濃度の蛋 白合成阻害因子の存在などが

知 られているが,今 回の乳酸菌菌 体成分は低濃度

の蛋白合成阻害因子 として働いているか も知れな

い.

StreptococcusにPC処 理 を施す とin vivoで

抗腫瘍性が亢進すると報告 されているそこで今回

乳酸菌菌体成分の抗腫瘍性についてPC処 理 によ

る影響を検討した.後 藤 ら17)はPC処 理乳酸菌菌

体成分のインターフェロン誘発能は無処理に比べ

ると高いことを報告 している.し かし,今 回の ヒ

ト腫瘍樹立細胞での実験ではPC処 理菌 体成分 と

無処理菌体成分の増殖抑制作用には差が認められ

なかった.こ の ことはPC処 球菌体成分の生体内

での抗腫瘍作用のひとつにはインターフェロンを

介 して作用が存在す ることを示唆す るものであ

り,乳 酸菌菌体成分の機能上重要な事実であると

考 えられる.つ まり,乳酸菌菌体成分のPC処 理が

有効となるのは,乳 酸菌菌体成分を生体内投与 し

た時のみかもしれない.

乳酸菌菌体成分の抗腫瘍作用は宿主の免疫力増

強によるところが多いが,今 回の実験により,こ

の抗腫瘍作用のひとつには腫瘍細胞の増殖抑制が

あることが明らかになった.

結 論

1. 乳酸菌菌体成分はin vitroに おいて0.1mg/

mlの 低濃度で成人T細 胞白血病の樹立細胞系で

あるMT-2細 胞,MT-4細 胞,急 性 リンパ芽球性白

血病 の樹立細胞であるMolt-4細 胞の増殖を抑制

した.

2. 乳酸菌菌体成分は組織球性 リンパ腫樹立細

胞系であるU-937細 胞に関 しては0.1mg/mlで は

無効で1mg/mlで 増殖抑制がみられた.

3. 1お よび2に おける乳酸菌菌体成分の細胞

増殖抑制作用は同時に行った ビンブラスチンの殺

細胞作用 とは明かに異なるものであった.

4. BrdU-抗BrdU抗 体法を用 いた細胞周期動

態解析で乳酸菌菌体成分はG1+G0期(DNA合 成

準備期)の 細胞を蓄積させ る作用がみられた.

5. in vitroに おける細胞増殖抑制作用に関 し

てはPC処 理標品 と無処理標品の差は認め られな

かった.

文 献

1) Bogdanov, I.G., Daley, P.G., Gurevich, A.I.,

Kolosov, M.N., Malkova, V.P., Plemyanni-kova, L.A. & Sorokina, I.B. : Antitumor

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2) Kato, I., Kobayashi, S., Yokokura, T. & Mutai, M.: Antitumor activity of Lactobacillus casei in mice. Gann, 72 : 517-523, 1981.

3) Nanno, M., Ohwaki, M. & Mutai, M.: Induc-tion by Lactobacillus casei of increase in ma-

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5) Hashimoto, S., Nomoto, K., Matsuzaki, T.,

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Infect. Immun., 44(1) : 61-67, 1984. 6) Kato, I., Yokokura, T. & Mitai, M.: Macro-

平成2年7月20日

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786 片山 友子

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The Antitumor Activity of Lactobacillus casei

The Direct Effects of L. casei to Human Tumor Cell Lines

Yuko KATAYAMA

Department of Microbiology, Osaka Medical Collge

(Director: Prof. Masuyo NAKAI)

The effects of somatic components of Lactobacillus casei (L. casei) were studied on cell growth in vitro. L. casei was able to suppress the growht of MT-2, MT-4 cells from adult T-cell leukemia, Molt-4 cells from acute lymphoblastic leukemia and U-937 cells from promonocytic leukemia. This effect was obviously different from the cytotoxicity of Vinbrastin, an anti-cancer drug. Flow cytometric experiments employing BrdU-anti BrdU antibody demonstrated an increase of cells in G1 + GO phases

(pre-DNA synthesis phases) by the treatment of L. casei, therefore L. casei maybe acts as a lowgrade inhibitor of the protein synthesis. PC-treated L. casei had no more inhibition on cell growth than the non-treated one.

感染症学雑誌 第64巻 第7号