カウンセリングにおける「沈黙」研究(2002)らによって,また,本邦でも大島(1996),高森(1999),成田...

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岩手大学大学院人文社会科学研究科紀要 16 2007 5 39 ~54 カ ウンセ リングにお け る 「沈 黙」研 究 - カ ウ ンセ ラー と ク ライ エ ン トの 評 定 を も とに一 Ⅰ.問 カウンセ リングと いう言葉 は,「相談す る 「ア ドバ イス を求め る」な どの 意味 をもってお り, さまざまな分野で使用されている。カウンセリングは今や400 種とも500 種 と もある といわれ ているが,一 口で いうと,カウンセラー (相談員:聴き手)とクライエント(来談者:話し手) とい う 1 1の関係にお いて,クライエントの問題解決や精神的健康を援助する,専門的な援 助の人間関係 といえるだろう。その 目的は,直接 的 ・短期的 には折 々の問題を解 決する こと, これ を通 して人 間性 の 回復 ・開発 を, また 長期的 には 個 人の 精神的健康 を守 り (予防 ), その 増進と成長 (開発) を援助することであるoグルー プにおいてこれを行うこともある (福原 ・ Ⅰvey,A.E.・Ivey,M .B. ,2004) カウンセ リング場面における沈黙は,古典的な精神分析では自由連想法 を妨げる 「抵抗」と して捉 えられて いたが, 最近で は,沈黙 という現象 は一義的 に解釈で きないといった理解がな されるようになり,Wilmer(1995),Sco tt& Lester(1998),Lane,Koetting ,& Bishop (2002) らによって,また,本邦でも大島 (1996 ),高森 (1999) ,成田 (2001 ) らを はじ めとして様々な解釈が試 みられて いる。 これ らの研究によ り,カウンセ リングにおける沈黙の 理解の重要性は示されて きたものの,沈黙に関するこれまでの研究は,異文化 間コミュニケー シ ョ ンや対 人 コ ミュニ ケーシ ョン を対象 とした ものが そ の 中心で あ り (山本 ・富本,1995) , カウンセ リング場面における沈黙の実証的な研究 はほとん ど行われて いない。 カ ウ ンセ リ ン グ場 面で 見 られ る沈 黙 の種 々の意 味を 具体 的 に挙 げる と, 大 島 (1996)「治療者 に対 する抵抗「治療に対す る抵 抗「自己防 衛 ・拒否 的 態度「治療経 過の まとめ」 「ひ とつ の問題 の解決「感情の共有」という6 つの意味を挙げているし,Hi ll& Thompson (2003)は質問紙調査の結果から,「熟考の促進「反応 の促進「感情表 現の促進「感情伝達「クライエ ン トの観 察「セ ラ ピーについて の思 考「関心 の伝達」などが挙 げ られる ことを示 して いる。成 田 (2002)は具体的な沈 黙の意味 を示 して はいないが,"沈黙 は ときに肯定であ り受容 であ り, ときには疑問で もあり留 保である" と述べている。 このよ うに,カウンセ リン グ場面 における沈黙の働 きは多義 的であるが,大きくは 「カウンセ ラー との対話 ・自己 との対 話 を志 向す る沈 黙」 , 「これを回避する あるいは妨げる沈 黙」 の 2 極 性を想定 してお くのがよい ように思う(高森 ,1999) このよ うに沈黙 には種々の意味があるが,沈黙時 の感情や沈黙の意 味に対す る評価は,個人 の不安傾向によっても異なることが予想される。また,発話量 と感情との関連についての研究 では,沈黙時に不安,緊張,不快感情などといった否定的感情が生じることが示されており (柿,1970; 大坊,1988) ,沈黙 の量が多いほど沈黙に対 して否定的な評価 がなされることが 考えられる。 さらに,カウンセラーとクライエ ン トでは沈黙に対する評価 が異なる ことも予悲

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岩手大学大学院人文社会科学研究科紀要

第16号 2007年 5月 39頁~54頁

カウンセリングにおける 「沈黙」研究

- カウンセ ラーとクライエン トの評定をもとに一

贋 間 美 里

Ⅰ.問 題

カウンセリングという言葉は,「相談する」「アドバイスを求める」などの意味をもっており,

さまざまな分野で使用されている。カウンセリングは今や400種とも500種ともあるといわれ

ているが,一口でいうと,カウンセラー (相談員 :聴き手)とクライエント (来談者 :話し手)

という 1対 1の関係において,クライエントの問題解決や精神的健康を援助する,専門的な援

助の人間関係といえるだろう。その目的は,直接的 ・短期的には折々の問題を解決すること,

これを通して人間性の回復 ・開発を,また長期的には個人の精神的健康を守り (予防),その

増進と成長 (開発)を援助することであるoグループにおいてこれを行うこともある (福原 ・

Ⅰvey,A.E.・Ivey,M.B.,2004)。

カウンセリング場面における沈黙は,古典的な精神分析では自由連想法を妨げる 「抵抗」と

して捉 えられていたが,最近では,沈黙という現象は一義的に解釈できないといった理解がな

されるようになり,Wilmer(1995),Scott& Lester(1998),Lane,Koetting,& Bishop

(2002)らによって,また,本邦でも大島 (1996),高森 (1999),成田 (2001) らをはじ

めとして様々な解釈が試みられている。これらの研究により,カウンセリングにおける沈黙の

理解の重要性は示されてきたものの,沈黙に関するこれまでの研究は,異文化間コミュニケー

ションや対人コミュニケーションを対象 としたものがその中心であり (山本 ・富本,1995),

カウンセリング場面における沈黙の実証的な研究はほとんど行われていない。

カウンセリング場面で見 られる沈黙の種々の意味を具体的に挙げると,大島 (1996)は

「治療者 に対する抵抗」「治療に対する抵抗」「自己防衛 ・拒否的態度」「治療経過のまとめ」

「ひとつの問題 の解決」「感情の共有」という6つの意味を挙げているし,Hill& Thompson

(2003)は質問紙調査の結果から,「熟考の促進」「反応の促進」「感情表現の促進」「感情伝達」

「クライエン トの観察」 「セラピーについての思考」 「関心の伝達」などが挙げられることを示

している。成田 (2002)は具体的な沈黙の意味を示してはいないが,"沈黙はときに肯定であ

り受容であり, ときには疑問で もあり留保である" と述べている。このように,カウンセリン

グ場面 における沈黙の働きは多義的であるが,大きくは 「カウンセラーとの対話 ・自己との対

話を志向する沈黙」,「これを回避するあるいは妨げる沈黙」の2極性を想定 しておくのがよい

ように思う (高森,1999)。

このように沈黙には種々の意味があるが,沈黙時の感情や沈黙の意味に対する評価は,個人

の不安傾向によっても異なることが予想される。また,発話量と感情との関連についての研究

では,沈黙時に不安,緊張,不快感情などといった否定的感情が生じることが示されており

(柿,1970;大坊,1988),沈黙の量が多いほど沈黙に対 して否定的な評価がなされることが

考えられる。さらに,カウンセラーとクライエントでは沈黙に対する評価が異なることも予悲

Page 2: カウンセリングにおける「沈黙」研究(2002)らによって,また,本邦でも大島(1996),高森(1999),成田 (2001)らをはじ めとして様々な解釈が試みられている。これらの研究により,カウンセリングにおける沈黙の

40 岩手大学大学院人文社会科学研究科研究紀要 Tb.16 2007

されるだろう。カウンセリング場面の中でカウンセラーあるいはクライエントにとって 「良い」

と体験される瞬間については,これまでMahrer(1986,1988,1989,1990,1992)や

Elliott(1983)らによって,よりよいカウンセリングの進展につながるものとしてその研究

が進 められているが,そのような研究の中で,Walsh (1995,1999)は 「良い瞬間」がカウ

ンセ ラーとクライエントとの間で異なることを明らかにしている。沈黙時の体験についても,

カウンセラーとクライエントとの間で異なることを成田 (2002)は指摘しており,一致の問

題がカ ウンセリングの進展へ与える影響を考 える必要があるだろう。馬淵 ・クスマノ (2005)

はこの一致の問題がカウンセリング経験の少ない初学者にとって特 に問題となることを指摘し

ている。

本研究では,沈黙を 「カウンセリング場面においてカウンセラーとクライエントの対話の中

で,どちらも言葉を発していない状態が比較的長く続く状態」と定義 し,カウンセリングにお

ける沈黙について以下の3点について検証を行った。①カウンセリングにおける沈黙時の感犠

認知,行動及び沈黙の意味について,クライエントの特性不安高群と低群 との比較を行う。ま

た,カウンセリングの印象についてもクライエントの特性不安高群と低群との比較 を行い,カ

ウンセ リングにおける沈黙とカウンセリングの印象との関連を探る。②特性不安群と同様の比

較を,沈黙数の多い群 と少ない群において行う。③沈黙の意味に対するクライエントとカウン

セラーの評定のずれとカウンセリングの印象との関連を探る。

なお,本研究 においては臨床心理学を専攻する大学院生をカウンセラー役 とした模擬カウン

セリングを研究の対象とした。

Ⅱ.方 法

被験者 :カウンセ ラーは臨床心理学を専攻す る大学院生2名 (女性)oクライエン トは大学生

22名 (全て女性)である。クライエントについては,実験 に先立って,被験者が受講する講

義に参加している大学生189名 (男性59名,女性130名)に対し,特性不安を測る尺度である

State-TraitAnxietyInventory (STAI)(清水 ・今栄,1981)のA-Trait(特性不安)の質

問紙を施行した。逆転項 目については逆の得点を与え,全項目の合計得点を特性不安尺度得点

とし,上位25%を不安高群,下位25%を不安低群とし,その中から本実験への協力を募った。

実験に参加した被験者の内訳は,不安高群,低群各11名である。

質問紙 の構成 :クライエン ト用とカウンセラー用 の2種類を用意した。

(1)クライエント用には,次の4つの質問紙 を施行した。

1)状態不安尺度

清水 ・今栄 (1981)によるState-TraitAnxietyInventory (STAI)のAIState (状態不

安)尺度20項目。=全くそうでない (1)"から =全くそうである (4)" までの4件法による

評定。

2)沈黙場面の質問紙

(a)感情 :寺崎 ・岸本 ・古賀 (1992)による多面的感情状態尺度 の8因子の中の 「抑

留 ・不安」因子から短縮版で使用される5項目 「気がかりな」「不安な」「悩んでいる」「自信

がない」「くよくよした」を使用。=全く感じていない (1)…から …かな り感じている (5)"

までの 5段階評定。(b)認知 :相手との関係性の認知について (「相手との関係は どの程度悪

くなると感 じたか」),会話の再開について (「どの程度会話を再開させたいと感じたか」),班

黙時の迷いについて (「自分が話すべきか どうか どの程度迷いを感じたか」)の3項目。"全く

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カウンセリングにおける 「沈黙」研究 41

感 じていない (1)"から "かな り感じている (5)"までの5段階評定。 (C)行動 :沈黙後

の会話再開時の発話者について。 「自分」「相手」「どちらでもない」から選択。 (d)クライエ

ントの沈黙の意味 :Hill&Thompson (2003),河野 (1995),大島 (1996),成田 (2002)

による沈黙の機能を参考に作成。「カウンセラーに対する抵抗」「カウンセリングに対する抵抗」

「自己防衛」「拒否的な態度」「カウンセラーの観察」「自分 自身についての熟考」「カウンセリ

ングについての思考」「カウンセリング経過のまとめ」「ひとつの問題の解決」「カウンセラー

との感情の共有」の10項 目について,=全 く感 じていない (1)Mか ら =かなり感じている

(5)"までの 5段階評定。

31カウンセラーのE口金評定

Ⅰvey&Authier(1978)によるCounselorEffectivenessScale(forml) を日本語訳して

使用。 「上手な一下手な」「有能な一無能な」「不明確な一明確な」等の形容詞対25項目につい

て,"よく"=わりと""少し…といった副詞を用いた7件法 (1-7)による評定。

4) カウンi7りンゲのE口魚評缶

日下 (2002),織田 ・佐藤 (2003)を参考に15項目作成.カウンセ ラーの 「受容度」「好

感を持った受け入れ」「理解度」「正直 さと誠実さ」カウンセリングの 「目標の一致」「課題の

一致」「面接 の流れ」「面接の深さ」「有用度と有益度」面接後の 「希望」,「来談意図」,「紹介

意図」,カウンセラーの 「非言語的行動」「発言内容」,カウンセリングの 「成功度」 について,

5段階 (0-4)で評定。

(2)カウンセラー用には,次の4つの質問紙 を施行した。

l) 状 青巨不 審 RI寺

清水 ・今栄 (1981)によるState-TraitAnxietyInventory (STAI)のA-State (状態不

安)尺度20項目。"全くそうでない (1)Mから "全くそうである (4)… までの4件法による

評定。

21汁三昧場面の督闇統

(a)クライエン トの沈黙の意味 :Hill&Thompson (2003),河野 (1995),大島

(1996),成田 (2002)による沈黙の機能を参考 に作成。 「カウンセラーに対する抵抗」「カウ

ンセリングに対する抵抗」「自己防衛」「拒否的な態度」「カウンセラーの観察」「自分自身につ

いての熟考」「カウンセリングについての思考」「カウンセリング経過のまとめ」「ひとつの問

題の解決」「カウンセラーとの感情の共有」の10項目について,山全く感じていない (1)"か

ら =かな り感 じている (5)" までの5段階評定。(b)カウンセ ラーの沈黙の意味 :Hiu&

Thompson (2003),河野 (1995),大島 (1996),成田 (2002)による沈黙の機能を参考

に作成。「クライエン トの熟考の促進」「クライエン トの反応の促進」「クライエン トの感情表

現の促進」「クライエン トの観察」「クライエン トに対する関心の伝達」「カウンセリングにつ

いての思考」「カウンセリング経過のまとめ」「ひとつの問題の解決」「クライエン トとの感情

の共有」の 9項目について,H全く感じていない (1)…から "かな り感じている (5)" まで

の5段階評定。

3)沈黙の介入に関する質問紙

ワイナー (1974)を引用し5項目作成。沈黙の介入 となる行動 「黙ってクライエン トが請

し出すのを待つ」「これまでクライエントが話 したことに対して見解を述べる」「クライエント

が取 り上げそうな話題を示唆する」「クライエントにこれまでの話題と関連する話題 を求める」

「沈黙の観察所見と沈黙の意味を伝える」について,山全く意識しない (1)…から 山非常に意

識した (7)"までの 7段階評定。

4) カウンセりンゲの感樵

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42 岩手大学大学院人文社会科学研究科研究紀要 rb.16 2007

クライエントの印象,クライエントの問題 ・主訴,今後の方針,カウンセリング中に困った

こと,面接の流れや話の聴き方について感じたことについて自由記述。

手続き :カウンセラーの1名には特性不安高群 5名,低群 5名,もう1名のカウンセラーには

不安高群6名,低群6名のカウンセリングを無作為に割り当てた。1人のクライエントにつき

1回30分の模擬カウンセリングを行い,その後,その様子を撮影 したビデオを振 り返って質

問紙に答えてもらった。なお,ビデオによる記録は実験前にあらかじめクライエントに説明し,

クライエント全てから了承を得ている。カウンセリングの進め方について,カウンセラーには

マイクロカウンセリングにおける基本的関わ り技法 (福原 ・Ⅰvey,AE.・Ⅰvey,MR,2004)を

主に用 いてクライエントの話を傾聴す ることを求めた。カウンセリングにおける話題の選定は,

共通の 「悩み」や 「問題」として,就職 (進学)活動に関するものに限定した。

なお,結果の分析はパソコン統計用ソフトSPSS13.0.JforWindowsを用いて行った。

分析手続き :沈黙はカウンセラーとクライエン トの両者が黙っている時間が5秒以上の場面を

カウン トした。また,今回は言葉を発していない状態を沈黙 と定義したため,「うん」「うーん」

「はい」 「へえ」等の声に出したうなずきのみによって間をもたせている場合にはそれを沈黙と

みなさなかったが,うなずきを挟んでもその前後が5秒以上の沈黙だった場合には,うなずき

を含み 1つの沈黙とみなした。沈黙に関する質問項目は,各々のセッションで沈黙回数が異な

るため,各質問項目について合計得点を沈黙数で割った平均得点を算出している。さらに,今

回の実験ではカウンセラーは2名参加しているが,クライエントによるカウンセラーの印象評

定において2名のカウンセラーの間に有意な差が認められなかったため,同一のカウンセ ラー

として救い,その後の分析を行 うこととした。

Ⅲ.結 果

1)状態不安

カウンセラーとクライエン トそれぞれについて,カウンセリング前後の状態不安の平均値の

差の検定を行ったところ,クライエントの状態不安については,面接前 (M=46.36)に比べ面

接後 (M=38.50)の評定値が有意に低いことが示された (i(21)=5.762,A.01)。

2)不安群 による比較

沈 黙 陣 の威 倍 ・認 射1・行 動

クライエン トの沈黙時の感情について項目ごとに t検定を行った結果 を表 1に示す.「くよ

くよした」においてクライエントの特性不安高群と低群との間の平均値の差に有意傾向が認め

られた (t(12.628)=1.834,D(.10)。沈黙時の認知 (「相手 との関係はどの程度悪くなると思う

か」 「どの程度会話 を再開させたいと思 うか」 「自分が話すべきか どうか どの程度迷ったか」)

について t検定を行った結果,どの項 目についても有意な差は認められなかった。

沈黙時の行動については,不安群 と沈黙の後 の発話者 (「自分と相手のどち らが先に話すか」)

についてx2検定を行った結果,表 2で示す ように、不安群と沈黙後の発話者について関連が

あることが示 された (x2(2)=8.713,p(.05).そこで,残差分析を行った結果を表 3に示す。

沈黙後の究話者が自分であると回答 したのは不安低群に多 く,相手 (カウンセラー)であると

回答したのは不安高群に多いことが示 された。

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カウンセ リングにおける 「沈黙」研究

表 1.不安群による沈黙時の感情の比較

43

一竺

S

l…

.IJ:j.霊

JL=・I:.f'.IjL:gT:T・.・;

且2・-。獅一崇

一2・-43・-。一2・-62・4。一S

Eq

Ⅳ一101〇一10

川一101〇一101〇一10

10

1気がかりな

2不安な

3悩んでいる

4自信がない

5くよくよした

千p<.10

表 2.不安群と沈黙時の行動のクロス表

沈黙後 の発話者

自分 相手 わか らない 合計

不安群 高群 0 (2.9) 14(10.2) 4(4.9) 18

低群 6 (3.1) 7 (10.8) 6(5.1) 19

合計 6 21 10 37

表 3.表 2についての調整されれた残差

沈黙後 の発話者

自分 相手 わか らない

不安群 高群 -2.6** 2.5** -0.6

低群 2.6** -25** 0,6**D<.Ol

クライエントの沈黙の意味

特性不安群とクライエントの沈黙の意味との関連性を表4,表 5に示す。

表 4.不安群によるクライエン トの沈黙の意味の比較 (クライエン ト評定)

SD E値i.184 132503581291 1336

03650,977 2352 *

0521

M

1.80

1242.091.27

不安群

1カウンセラーに 高群

対する抵抗 低群

2カウンセリング 高群

に対する抵抗 低群

3自己防衛 高群

低群

Ⅳ一10

1〇一10

1〇一10

10

4拒否的な態度 高群

低群

5カウンセラーの 高群

観察 低群

6自分 自身につい 高群

ての熟考 低群

10

川一10

1〇一10

10

0.571 1.18003140B34 0.626

0B591.047 -0.6120B66

1.36

主二主上2.22

主二旦旦3.573.84

7カウンセリング 高群

についての思考 低群

8カウンセリング 高群

経 過の ま とめ 低群

9ひとつの問題の 高群

解決 低群

10

1〇一10

1〇一10

10

0.901 -028812380.992 0.510

0B640.992 05100B64

2.96

…旦呈2.65

崇2.44

10カウンセラーと 高群

の感情の共有 低群

2.79 1.134 1.4222.16 0.837

*p<.05

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44 岩手大学大学院人文 社会科学研究科研究紀要 7払16 2007

表 5.不安書削こよるクライエントの沈黙の意味の比較 (カウンセラー評定)

棚霊

綿

Ⅳ一101〇一1010EI01O一1010FSIO一10川一101〇一10101101011010

且2・19辿2・。5禦

SISSIS・2・lSSESSIS:lSg・lm24

1.I;TIf浩

.州/:II・J:I':;;:iI.:EI告

i・.I・EI

E値-1.659

-0.122

-0.606

-0.809

2.131*

-0,396

0.058

0.196

-0.052

0.734

1カウンセラーに対する抵抗

2カウンセリングに対する抵抗

3自己防衛

4拒否的な態度

5カウンセラーの観察

6自分 自身についての熟考

7カウンセリングについての思考

8カウンセリング経過のまとめ

9ひとつの問題の解決

10カウンセラーとの感情の共有

*p<.05

クライエント評定によるクライエン トの沈黙の意味について,項目ごとに t検定を行った結

果,「自己防衛」について,不安高群と低群の間に有意な差が認められ (t(13.736)=2.352,

上火.05),不安が高いほど沈黙に自己防衛の意味を多く含んでいることが示された。その他の項

目では有意な差は認められなかった。

カウンセラー評定によるクライエントの沈黙の意味について t検定を行った結果,「カウン

セラーの観察」において不安高群 と低群の間に有意な差が認められた (i(18)=2.131,メ.05)。

カウンヤラーの沈黙の意味

カウンセラー評定によるカウンセラー自身の沈黙の意味について t検定を行った結果, どの

項目においても有意な差は認められなかった。

カウンセラーの沈黙時の対応

カウンセラー評定によるカウンセラーの沈黙時の対応について項目ごとに t検定を行った結

果を表 6に示す。 「クライエン トが取 り上げそうな話題を示唆する」 において有意な差が認め

られ (i(17)=2.174,Lk.05),不安高群に対してカウンセラーが新しい話題を示唆する意識が強

いことが示された。表 6.不安群によ るカウンセラーの沈黙時の対応の比較

ト安手1クライエン トが 高群

Ⅳ一109一10

9一10

9一109一109

SD t値12 87 -0.5731.3331.687 03011.1180.675 2.714*1,1301.101 0.643123605 16 10.1860527

SI4・-。…I5・-。4・-6一4・-。讐

1・

話し出すのを待つ2クライエントの話に対する見解を述 べる

3クライエントが取り上げそうな話題を示 唆する

4これ までと 関連する話題を求める

5沈黙の観察所見と意味を伝 える

*p< .05

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カウンセリングにおける 「沈黙」研究 45

カウン17りンゲのEn_象謹告

クライエントのカウンセリングに対す る印象評定について,項目ごとに t検定を行った結果,

どの項 目においても有意な差は認め られなかった。各項目は5段階評定 (0-4点,4がもっ

とも肯定的であることを示す)であり,4が各項目において最大値であることを考える と,表

7で示すように, どの項 目についても平均値は高く,不安高群 ・低群 に関わらず,クライエン

トがカ ウンセリングに対して良い印象 をもったことが示された。

表 7.不安群によるカウンセリングの印象の比較

:・・

!L;

I:.i

.・=・:

If

.I.:I

I∴

!.;i

::二

.;I

.:_;・l

I:;:.

I州

l川

:dlg豊

gLgm霊

肌豊

04-7一器

SIS3・。。一SSISSESS13・。93・。。一2・-13・18一SS13・。9諾

3・18一2・-3313・。。豊

SLS3・-4一2・-13

Ⅳ一日11一11日一1111=EFE11一日11一1ll1一ElIllll1一=E一11日一1ll1一1ll1一日11一1ll

重宝壁高群

■闘高群

1受容度

2好感 を持った受け入れ

3理解 度

4正直 さと誠実さ

5目標 の一致

6課題 の一致

7面接 の流れ

8面接 の深さ

9有用度 と有益度

10希望

11来談意図

12紹介意 図

13非言語的行動

14発言内容

15成功度

3)沈黙数 による比較

不安群 での比較 に加えて,沈黙数 による比較も行った。 1回のカウンセ リングにおける全体

の沈黙数 が3以上のものを沈黙数の多い群 (N-1,1,M=7.00),沈黙数が 3未満 のものを沈

黙数の少ない群 (N-ll,M=1.18)として,各項目について t検定を行 った.

沈 黙 陣 の感 情 ・認 射11行 動1

クライエントの沈黙時の不安感情について,項目ごとに t検定を行った結果,いずれの項目

においても有意な差は認め られなかった.また,認知についても t検定を行ったが,有意な差

は認 められなかった。沈黙時の行動について, x2検定 を行った結果,表 8に示すように,汰

黙数 と沈黙後の発話者について関連があることが示 された (x2(2)=5.828,p(.10)。そこで,

残差分析を行った結果を表 9に示す。沈黙後 の発話者は どちらともいえない と回答した割合は,

沈黙数 の多い群よ り少ない群のほうで大きいことが示された。

Page 8: カウンセリングにおける「沈黙」研究(2002)らによって,また,本邦でも大島(1996),高森(1999),成田 (2001)らをはじ めとして様々な解釈が試みられている。これらの研究により,カウンセリングにおける沈黙の

46 岩手大学大学院人文社会科学研究科研究紀要 7b.16 2007

表8.沈黙数と沈黙時の行動のクロス表

沈黙後 の発話者

自分 相手 わからない 合計

不安群 高群 6(4,5) 17(15.9) 5 (7.6) 28

低群 0(1.5) 4 (5.1) 5 (2.4) 9

合計 6 21 10 37

表9.表8についての調整されれた残差

沈黙後 の発話者

自分 相手 わか らない

**# ## 1.5 0.9 -22*低群 -15 -0.9 22*

*D<.05

クライ エントの沈 黙の意味

沈黙数 とクライエ ン トの沈黙の意味との関連性を表10,表11に示す。

クライエント評定によるク ライエン トの沈黙の意味について,項 目ごとに t検定を行った結

果,「自分 自身について の熟考」において沈 黙数の多い群 と少な い群 との間の差に有意傾向が

詑められ (i(18)=-1.956,A.10),沈黙数 の少ない群が多い群に比べて,沈黙に 「自分自身に

ついて の熟考」の意味 を多く含んでいることが示された。

カウ ンセラー評定では,「ひとつの問題 の解決」において 1%水準 (i(18)=-3.108),「自分

自身についての熟考」「カウンセ リングについての思考」「カウンセラーとの感情の共有」 にお

いては 5%水準で有意な差が認められた (t(18)=-2.341,i(18)=-2.329,i(9.421)ニー3.005)。

いずれ の項 目においても,沈黙数の多い群 に比べて少ない群のほうが沈黙 にそれぞれの意味を

多 く含 んでいることが示された。

表10.沈黙数によるクライエントの沈黙の意味の比較 (クライエント評定)

Ⅳ一11且119Ll19一1191E91E9LH91119一119一119

S・lSS13・-54・13一3・。22・-2莞

ISSLSN=

、2.

'・

I

.i.

I.

'.

.I

-.

''.

t値0.180

-0.124

-0.053

0.108

0.685

-1.956千

O,621

0.419

0.419

-0.965

1カウンセラーに対する抵抗

2カウンセリングに対する抵抗

3自己防衛

4拒否的な態度

5カウンセラ-の

観察6自分 自身についての熟考

7カウンセリング

についての思考8カウンセリング経過のまとめ

9ひとつの問題の解決

11Dカウンセラーとの感情の共有

†p<.10

Page 9: カウンセリングにおける「沈黙」研究(2002)らによって,また,本邦でも大島(1996),高森(1999),成田 (2001)らをはじ めとして様々な解釈が試みられている。これらの研究により,カウンセリングにおける沈黙の

カウンセリングにおける 「沈黙」研究

表11.沈黙数によるクライエントの沈黙の意味の比較 (カウンセラー評定)

47

不安群1カウンセラーに 3以上対する抵抗 3未満

2カウンセ リング 3以上に対す る抵抗 3未満

3自己防衛 3以上3未満

4拒否的な態度 3以上3未満

5カウンセラーの 3以上観察 3未満

6自分 自身につい 3以上ての熟考 3未満

7カウンセ リング 3以上についての思考 3未満

8カウンセ リング 3以上経過のまとめ 3未満

9ひとつの問題の 3以上解決 3未満

10カウンセラーと 3以上の感情 の共有 3未満

**p<.Ol,*p<.05

NrH9一119一119一119一日9一119一119一日9一E9EE9

且2I-9迎2・。9禦

SISSISSIS:12・11崇

S133・。4一2・163

坦mm一04-2m一04-9豊

馴一肌豊

馴一遊

:dSlW脳

[値-0.175

0.274

-0.541

-0.490

-1.191

-2.341*

-2.329*

-1.630

-3.108**

13.005*

カウンセラーの沈黙の意味

カウンセラー評定による,カウンセラー自身の沈黙の意味につ いて t検定を行った結果を表

12に示す.「ひとつ の問題の解決」において 1%水準で有意な差が認められた (i(18)=-2.992).

また,「クライエン トの熟考の促進」「クライエン トの感情表現 の促進」 「クライエン トに対す

る関心 の伝達」 「クライエ ントとの感情 の共有」 において5%水準で有意 な差が認 められた

(i(18)ニー2.191,t(18)=-2580,i(8.569)--3.168,t(10.223)=12.992)oいずれの項 目にお

いても,沈黙数 の多い群 より少ない群で平均 値が高くなっており,それらの意味を沈黙に多く

含んで いることが示された。

表12.沈黙数によるカウンセラーの沈黙の意味の比較

不安群1クライエントの 3以上熟考の促進 3未満

2クライエントの 3以上反応の促進 3未満

3クライエントの 3以上感情表現の促進 3未満

4クライエントの 3以上観察 3未満

5クライエントに 3以上対する関心の伝達 3未満

6カウンセ リング 3以上についての思考 3未満

7カウンセリング 3以上経過のまとめ 3未満

8ひとつの問題の 3以上解決 3未満

9クライエントと 3以上の共有 3未満

**p<.01,*p<.05

Ⅳ一119一119一日91119一日9一119一119一119一119

4・-6一3・-。4・。4一SS13454・-2一SSI5・-63・-6一SSI2・。13・-。詔

・;・IIi.=J.=I.-.i.i:器

.\荘

;.iL.jifIi.I:I:鵠

I.㍗

E値-2.191*-1.643

-2.580*-1.733

-3.168*0.717

-1.415

-2.992**

-3.126*

カウンセラーの沈 黙陣の吏「応

カウンセラー評定による,カウンセラーの沈黙時の対応について項 目ごとに t検定を行った

Page 10: カウンセリングにおける「沈黙」研究(2002)らによって,また,本邦でも大島(1996),高森(1999),成田 (2001)らをはじ めとして様々な解釈が試みられている。これらの研究により,カウンセリングにおける沈黙の

48 岩手大学大学院人文社会科学研究科研究紀要 No.16 2007

結果,いずれの項目についても有意な差は認 められなかった。

カ ウ ン ヤ り ン ゲ の E口二象評 曽

クライエントのカウンセリングに対する印象評定について,項目ごとに t検定を行った結果

を表 13に示す。 「来談意図 (来談 したいかどうか)」「紹介意図 (紹介 したいかどうか)」の2

項目において 5%水準で有意な差が認められた (〆20)=-2.222,が15.376)=-2.556)。「成功

度」については有意傾向が認められた (i(20)=-1.793,p(.10)。これら3項目については,汰

黙数が 3以上の群が 3未満の群に比べ評定値が低く,沈黙数が多いほど来談意図や紹介意図が

低いことが示された。その他の項目については有意な差は認められなかった。

表13.沈黙数によるカウンセリングの印象の比較

不安群1受容度 3以上

3未満2好感を持った 3以上受け入れ 3未満

3理解度 3以上3未満

4正直さと誠実さ 3以上3未満

5目標の一致 3以上3未満

6課題の一致 3以上3未満

7面接の流れ 3以上3未満

8面接の深さ 3以上3未満

9有用度と有益度 3以上3未満

10希望 3以上3未満

11来談意図 3以上3未満

12紹介意図 3以上3未満

13非言語的行動 3以上3未満

14発言内容 3以上3未満

15成功度 3以上3未満

Ⅳ一日11一1ll1一1ll1一日11一11日一1ll1一日HlE11n

H一1ll1一1ll1一日‖一1ll1一日11一11日

且3I-〝3・-3一SS13.093・18一SSJ3・。。崇

3・18一器:12・-3欝

SLS3・18一245辺2・-53・-6一SSISSISS

;..::..:lf.i'-Ii黒

.脚

..fI:=:fI..:'!川?..I・.-.i'-.・・:・喜

一器

■蕊

‥仙

■田l闇Illl璽-0.368

-0.234

-0.210

0.000

-0.820

-0.978

-1.521

-0.240

-1.213

-0.750

-2.222*-2.556*-0.639

-0.725

-1.793千

*D<.05,†p<.10

4)カウンセラーとクライエン トの評定のずれとの関連

カウンセラーとクライエン トの評定のずれに関しては,クライエントの沈黙の意味について、

カウンセラ-とクライエ ントの評定値の差をとり,その絶対値が中央値 (Me-0.50)より大き

いものをずれの大群 (M-0.91),中央値より小さいものを小群 (M-034)として扱ったO

沈黙時の感情 ・認知 ・行動

クライエントの沈黙時の感情について,項 目ごとに t検定を行った結果,いずれの項目にお

いても有意な差は認められなかった。 また,認知についても t検定を行ったが,どの項 目にお

Page 11: カウンセリングにおける「沈黙」研究(2002)らによって,また,本邦でも大島(1996),高森(1999),成田 (2001)らをはじ めとして様々な解釈が試みられている。これらの研究により,カウンセリングにおける沈黙の

カウンセリングにおける 「沈黙」研究 49

いても有意な差は認められなかった。沈黙時の行動について,評定値 のずれの大群 ・小群 と沈

黙後 の発話者につ いて, x2検定 を行った結果、表14で示すように,評定値のずれと沈黙後の

発話者 について関連があることが示された (x2(2)=7.262,p(.05)。そこで,残差分析を行った

結果 を表15に示す。沈黙後の発話者はどちらともいえないと回答した割合は,ずれの小群よ

り大群 に多いことが示された。

表14.評定のずれの大きさと沈黙時の行動のクロス表

沈黙後 の発話者

自分 相手 わからない 合計

ずれの大きさ 大群 1(2J8) 8 (9.6) 8 (4.6) 17小群 5(3.2) 13(ll.4) 2 (5.4) 20

合計 6 21 10 37

表15.表14についての調整された残差

沈黙後 の発話者

自分 相手 わからない

ずれの大きさ 大群 -1.6 -1.1 25*小群 1.6 1.1 -25*

*D<.05

カウンセラーの沈黙の意味

カウンセラー評定による,カウンセラー自身の沈黙の意味について t検定を行った結果を表

16に示す。 1%水準で有意な差が認められた項 目は 「クライエントの観察」(i(18)=2.976),

5%水準で有意な差が認められた項 目は 「クライエン トの反応の促進」 (t(18)=2.624)「クラ

イ エ ン トの感 情表 現 の促進」 (H18)=2.539) 「ク ライ エン トに対 す る関心 の伝達」

(i(10.183)=2.750)「カウンセリング経過のまとめ」 (t(18)=2.399)「ひ とつの問題の解決」

(t(18)=2296)の4項 目であった。また,10%水準で有意傾向が認められた項目は 「クライエ

ントとの感情の共有」であった (攻14.849)=1.994)o

表16.設定のずれの大きさによるカウンセラーの沈黙の意味の比較

ずれの大きさ1クライエントの 大群熟考の促進 小群

2クライエントの 大群

Ⅳ一101〇一101〇一101〇一101〇一10101101〇一10101101〇一1010

4・。5諾

SI:2・-6一SSISSL4・。3豊

SLSSISM

.:II'-fj';・:'・.~;!I'=:-:・mI'I・.I:I./:.-I.:;・Z.㍑

一Z.・:.;i・:i;:

t値1.299

2.624 *

2.539*

2.976**

2.750*

-0.737

2.399 *

2.296*

1.994 千

反応の促進3クライエントの感情表現の促進

4クライエントの観察

5クライエントに対する関心の伝達

順頑

梢頭

順6カウンセ リング 大群についての思考 小群

7カウンセ リング経過のまとめ

8ひとつの問題の解決

9クライエントとの共有

畑贈

畑頑

順**p<.01,*D<,05,†p<.10

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50 岩手大学大学院人文社会科学研究科研究紀要 7b.16 2007

カウンセラ-の沈黙睦のミ相応

カウンセラーの沈黙時の対応について項目ごとに t検定を行った結果,いずれの項目におい

ても有意な差は認められなかった。

カウンセリングの印象評定

カウンセリングに対する印象評定について,項目ごとに t検定を行った結果,いずれの項目

においても有意な差は認め られなかった。

Ⅳ.考 察

(1)不安群 による比較

沈黙時の感情 ・認知 ・行動および沈黙の意味について不安群での比較を行った結果, 特性

不安の高いクライエントと低いクライエントでは,カウンセリングにおける沈黙時に差が認め

られたのは 「くよくよした」 という感情と 「自己防衛」の意味についてであるが,カウンセラ

ーやカウンセリングに対しての抵抗,拒否的態度はあまり見られていないことから,カウンセ

ラーの様子を窺いながら自己開示を控えている姿勢があることが示唆される. 「くよくよした」

という感情は,沈黙が生じてしまった状況に対する感情であるとともに,沈黙が生じた状況で

自己開示ができないことに対する否定的な感情の表れであると捉え られるのか もしれない。カ

ウンセ ラー評定によるクライエントの沈黙の意味では,特性不安の高いクライエン トの沈黙に

「カウンセラーの観察」を多 く見出してお り,また沈黙時の対応でも 「クライエン トが取 り上

げそうな話題を示唆する」よう意識していることが明 らかになったが,実験条件としてカウン

セラーはクライエントの特性不安について知 らされていないため.今回の実験の結果は,カウ

ンセラーが特性不安の高いクライエ ントと低いクライエン トの違いを暗に感じ取っていたこと

を示唆 しているものと考えられる。

カウンセリングに対する印象に関しては,特性不安の高いクライエン トでは沈黙時に否定的

な感情や否定的な沈黙の意味を感じていたにも関わらず,特性不安の高群 と低群との間で有意

な差は認められなかった。クライエントの沈黙時の行動について,沈黙後の発話者が相手であ

ると回答したのは特性不安高群 に多いことが示され,またカウンセラーの沈黙時の対応でも,

特性不安の高いクライエン トに対して 「クライエントが取り上げそ うな話題 を示唆する」よう

意識していることが明らかになったが,クライエントはカウンセラーに発話するよう求め,カ

ウンセ ラーもそれに応えるように意識していたために,カウンセリングに対する印象が特性不

安の高い群でも良くなっているものと考えられる。その意味では,沈黙時に特性不安の高いク

ライエ ントに対 して,新しい話題を示唆するように意識したカウンセ ラーの対応は適当であっ

たと言 えよう。

(2)沈黙数による比較

沈黙時の感情 ・認知 ・行動および沈黙の意味について沈黙数による群分けでの比較を行った

結果,沈黙時の感情 ・認知では有意な差は認められなかった。沈黙時の行動については,沈黙

後の発話者はどちらともいえないと回答した割合が,沈黙数の多い群より少ない群のほうで大

きいことが示された。クライエントの沈黙の意味について,クライエント評定では,沈黙数の

多い群 より少ない群で 「自分自身についての熟考」の意味が大きいことが示された。一方,カ

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カウンセリングにおける 「沈黙」研究 51

ウンセ ラー評定においては.「自分自身についての熟考」 「カウンセリングについての思考」

「ひとつの問題の解決」「カウンセラーとの感情の共有」の4つの項目において,沈黙数の多い

群と少ない群との間に差が認められており,沈黙場面があまり見られなかった際のクライエン

トは,沈黙場面が多く見られた際よりも以上の4項目の意味を沈黙に多く含んでいるとカウン

セラーが感 じていることが明らかになった。 これ らの項 目は, 「抵抗」や 「拒否的態度」 とい

った意味よりも肯定的な意味を多く含んでいるものであると考えられ,カウンセリングにおけ

る沈黙数が少ない場合には,カウンセラーは クライエン トの沈黙をより肯定的に受け取 ること

が示唆される結果であろう。

カウンセラーの沈黙の意味については,「クライエントの熟考の促進」 「クライエントの感情

表現の促進」 「クライエン トに対する関心の伝達」 「ひとつの問題の解決」 「クライエン トとの

感情の共有」で有意な差が認められてお り, どの項 目についても沈黙数の少ない群のほうが多

い群に比べて評定平均値が高く,これらの意味を沈黙に多く含んでいることが示された。カウ

ンセラーにとって,カウンセリングにおける沈黙が少ないほど,沈黙が生じた際に多くの働き

かけを行っているようである。

カウンセリングに対する印象に関する項目について,沈黙数 による比較を行った結果,カウ

ンセ リングの印象のうち,「来談意図 (また来談したいか どうか)」「紹介意図 (紹介 したいか

どうか)」 「成功度」について沈黙数の多い群 と少ない群の間に有意な差が認められ,沈黙数が

少ないセッションにおけるクライエントは来談意図や紹介意図が高 く,面接も成功した と感じ

ている ことが示された。これは,沈黙数が少ないとよりカウンセリングが成功したとクライエ

ントによって感 じられていることを示唆するだろう。クライエントの沈黙の意味についてのク

ライエ ント評定では,沈黙数の少ない群で 「自分自身についての熟考」の意味が大きいことが

示されていることを考えると,クライエントの発話量が多いケ-スにおいてクライエントが沈

黙した際には,それは自分自身への熟考につながり,その後のカウンセリングにも影響を与え

る可能性が高いことを示しているのではないかと考えられる。

(3)カウンセラーとクライエン トの評定のずれによる群比較

沈黙時の感情 ・認知 ・行動および沈黙の意味について,クライエントの沈黙の意味について

のカウンセラー とクライエントの評定のずれの大きさによる群分けでの比較を行った結果,汰

黙時の感情 ・認知では有意な差は認められなかった。沈黙時の行動については,沈黙後の発話

者が自分であると回答した割合がずれの小さい群で大きく,相手もしくはわからないと回答し

た割合がずれの大きい群で大きいことが示された。

カウンセラーの沈黙の意味については,「クライエントの反応の促進」 「クライエントの感情

表現の促進」 「クライエン トの観察」「クライエン トに対する関心の伝達」 「ひとつの問題の解

決」「クライエン トとの感情の共有」の6項目において,評定のずれの大きい群におけるカウ

ンセラーの評定値が高く,カウンセラーが沈黙にこれ らの意味を多く含んでいたことが明らか

になった。カウンセラーとクライエン トの間で沈黙の意味についての評定がずれるということ

は,カウンセラーがクライエン トの沈黙にはっきりとした意味を見出せていないことを意味す

ることでもあり,カウンセラーはクライエン トの沈黙に対してはっきりとした意味を兄いだせ

ない場合,沈黙時にさまざまな思考を巡らせていることが示唆されるであろう。

カウンセリングの印象に関 しては,評定のずれの大きい群と小さい群との間に有意な差は認

められなかった。沈黙時のカウンセラーの対応には,ずれの大きい群 と小さい群で違いは見ら

れなかったが,評定のずれが大きい際にカウンセラーは沈黙時に多くの思考を働かせているこ

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52 岩手大学大学院人文社会科学研究科研究紀要 No.16 2007

とが示 されてお り,それが非言語行動に表出された可能性があると考えられる。そのため,ず

れが大 きい場合においても,クライエントに とってカウンセリングの印象が良かったと感じら

れたのではないか と考えられる。

(4)総合的考察

本研究では,カウンセリングにおけるクライエン トの沈黙時の感情 ・認知 ・行動及び沈黙の

意味について,また,沈黙とカウンセ リング印象 との関連について, クライエントの特性不安

及び沈黙数による群比較を行い検討 した。不安群による比較については,今回の実験の結果か

ら,カウンセラーの対応 「クライエントが取 り上げそ うな話題を示唆する」において有意な差

が認め られてお り,カウンセラーは特性不安の高いクライエントと低いクライエントの違いを

暗に感 じ取っていたことが示唆された。このことは,特性不安の高いクライエン トに対してカ

ウンセ ラーは新 しい話題を示唆するように意識 していることを示しており,初心者のカウンセ

ラーが自然にとったその対応は,ワイナ- (1974)が沈黙への反応の中で最 も不安を減じる

ものとして挙げていた対応 と見なす ことができる。また,カウンセリング印象との関連に関し

ては,上述したように特性不安高群 ・低群へのカウンセラーの対応は異なっているが,それが

かえって全体的印象に良い影響を与えていることが本実験から示された。沈黙数の比較におい

ては,カウンセリングにおける沈黙数が少ない場合,すなわちクライエントの発話が多いケー

スでのクライエントの沈黙は熟考につながり,その後のカウンセリングの進展に影響を及ぼす

可能性が高いことが考えられる結果 となった。カウンセラーにとってち,発話が多いクライエ

ントとの対話の際に生じた沈黙はより肯定的なものと感じられている。

また,本研究では沈黙の意味に対するカウンセラー とクライエン トの評定のずれについて,

ずれの大きい群 と小さい群での比較 を行った。カウンセラーとクライエン トとの間で沈黙の意

味にずれが生じることは,カウンセリングに否定的な印象を与える要因となるのではないかと

考えられたが,本研究の結果では,カウンセ ラーとクライエン トの間の認識のずれが大きい場

合には,カウンセラーはカウンセリングの進展のためにさまざまな働きかけを行っていること

が示されている。そのため,カウンセラーとクライエン トの間に認識のずれが生じた場合にも,

それがカウンセ リングにとって直ちに悪い影響を及ぼすものであるとは限らないことが示唆さ

れている。

今回の研究ではさまざまな制約があり,状況や期間も実際のカウンセリングとは異なるため,

今後は実際のカウンセリングと本研究における結果を照らし合わせ,カウンセリング場面にお

ける沈黙についてより詳細な検討をしていく必要性があるだろう。

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