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2018年 10月 31日
共同研究実績報告書
(平成 29 年 10 月 1 日~平成 30 年 3 月 31 日)
異径双ロールキャスターによるアルミニウム合金板の
鋳造と評価に関する研究
大阪工業大学 工学部 機械工学科
羽賀俊夫
日産自動車株式会社 材料技術部
林 孝雄,伊久美 敏也,惣田 裕司
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共同研究の概要
研究題目 異径双ロールキャスターによるアルミニウム合金板の鋳造と評価に関
する研究
研究期間 平成29年10月1日~平成30年3月31日
研究代表者 大阪工業大学 工学部 機械工学科
羽賀俊夫
共同研究申込機関 日産自動車株式会社
研究実施者 大阪工業大学 工学部 機械工学科
羽賀俊夫
日産自動車株式会社 材料技術部
林 孝雄,伊久美 敏也,惣田 裕司
研究目的
自動車への双ロールキャストアルミニウム合金鋳造板の適用検討
研究内容
使用済み自動車から回収されるエンジン/ロードホイール等のアルミ鋳造部品のアルミ展伸材へのリサ
イクルを目的として、高速双ロールキャストによるAl板適用技術研究を行っている。今回、異
形双ロールキャスターによりAl板を試作し,厚さが異なる板に対して圧下率を振って、金属組
織の解析,機械的特性評価を行う事により,最適な双ロールアルミ板製造条件を検討した。
研究成果詳細
次ページ以降に記載.
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1.はじめに
近年,循環型社会の成立を目指し,様々な取り組みが行われている.アルミニウム合金で
は,使用済み自動車のリサイクルに関する研究が継続的に行われている.そのうちの一つと
して使用済み自動車から回収されるエンジン/ロードホイール等のアルミ鋳造部品や車体骨
格パネル等に使用されている展伸材(5000 系、6000 系)等の合金種の削減が試みられてい
る.使用する合金種がへることで,リサイクルが容易になる.従来の合金種の削減は,例え
ば 5000 系や 6000 系などの同一系の中での削減である.本研究では,鋳造用合金を展伸材,
つまり板材として使用するという前例が無い大胆な方法による合金種の削減を提案する.展
伸材を鋳造に使用することは,展伸材の湯流れ性が悪いので不可能である.また,展伸用の
材料は高級材料,鋳造用の材料は低級材料とされており,高級材料を低級材料の代替とする
ことには意義が無い.一方,鋳造用合金で展伸用の合金を代替できれば,合金種の削減の他
に低級材料のアップグレード化も達成できることになる.それでは,鋳造用のアルミニウム
合金を板材と使用するためには延性を改善することが必要である.一般的に鋳造用アルミニ
ウム合金には,板材に使用される 6000 系のアルミニウム合金と比較して Si 量が 5~10 倍
多い.延性を改善するためには,共晶 Siを微細で粒状化する必要がある.共晶 Siを微細で
粒状化するには,急冷凝固が有効である.双ロールキャスターは,溶湯から直接薄板の鋳造
が可能であるため急冷凝固と省工程・省エネルギーの利点がある.双ロールキャスターを使
用することでアップグレード化と省工程・省エネルギーを達成することが可能になる.より
冷却速度が速いと共晶 Siの微細粒状化と生産速度の向上(高ロール周速化)が期待できる.
従来のアルミニウム合金用双ロールキャスターは鋼製ロールを使用し,板のロールへの固着
を防ぐために離型剤をロール面に噴霧している.離型剤は,ロールとアルミニウム合金間の
熱抵抗になり,冷却速度を低下させる.本研究では,鋼より熱伝導率が高い銅ロールを使用
した.銅ロールでは,板はロールに固着しないため,離型剤を使用する必要はなく,冷却速
度の向上が期待できる.通常,鋳造板は冷間圧延により目的の厚さにする.本研究では,圧
下率と機械的性質,特に伸びの関係に着目した.
2.異径双ロールキャスター
本研究では,異径双ロールキャスターを使用した.異径双ロールキャスターの特長は,下
方のロール(“下ロール”と呼ぶ)の径が上方のロール(“上ロール”とよぶ)の径より大き
いことである.樋から下ロールの上に直接注湯するので,チップを使用する必要はない.下
ロールと溶湯の接触距離を長く設定できるので,厚い板を鋳造する場合に適している.下
ロールにより凝固した層は上ロールにより凝固した層より厚い.したがって,鋳造組織は板
厚方向で対称ではない.図1に異形双ロールキャスターの模式図と本研究で使用した異径双
ロールキャスターを示す.下ロール上に上ロール,バックダムプレート,サイドダムプレー
トで囲まれた溶湯プールをつくる.バックダムプレートの位置により上ロールとバックダム
プレートの間隔を変えること,およびロール周速で板厚を調節する. 上ロールと下ロール
の幅は等しく,板簿幅はロール幅と等しい.本研究で使用した異形双ロールキャスターの上
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ロールの直径は 300mm,下ロールの直径は 1000mm,幅は 100mmであった.
図1の異形双ロールキャスターを使用して板を鋳造中のロール近傍の様子を図2に示す.
上下のロールの周速は同一に設定した.ロールが所定のロール周速に達した後に注湯を行っ
た.離型剤を使用していないが,板はロールへ固着せず,ロール幅と等しい板が鋳造できて
いる.上下のロール径は異なるが,鋳造初期を除けば,板が反り返るようなことは無かった.
バックダム
プレート
サイドダムプレート 溶湯 上ロール
下ロール
鋳造板
サイドダムプレート
下ロール
上ロール
鋳造板
図1 異径双ロールキャスターの模式図と本研究で使用した異径双ロールキャスター
図2 板を鋳造中のロール近傍の様子
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図3に異形双ロールキャスター(図1,図 2とは別の異形双ロールキャスター)による板
の鋳造の全景を示す.ルツボから注湯した溶湯が 200mm程度のうちに板に鋳造されているこ
とがわかる.図 4は幅 400mmの板を鋳造する様子である.異形双ロールキャスターを使用し
て広幅の板を鋳造することができる.図 1と図4の異形双ロールキャスターのフレームは同
一で,図 4 では幅 400mm のロールを装着した.図 3 と図 4 よい異形双ロールキャスターは,
設備として大変コンパクトであることが分かる.
鋳造板
ルツボ
図 3 板を鋳造中のロール近傍の様子
図 4 幅 400mmの板を鋳造する様子
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3.アルミニウム合金
鋳造用アルミニウム合金として AC4CHを用いた.これは,AC4CHまたはこれに近い成分の
アルミニウム合金が自動車に使用されているためである.黒鉛ルツボを使用して電気炉で溶
解した.ルツボを電気炉から異形双ロールキャスターに移動して注湯を行った.
表1 AC4CHの成分(mass%)
Cu Si Fe Zn Mg Mn Ni Ti Al
0.01 7.0 0.12 0.01 0.37 0.01 0.01 0.13 Bal.
4.引張試験による機械的性質の調査
鋳造板を冷間圧延して厚さ 1mm の板を作製した.その後 T4 処理を行い,引張試験を行っ
た.伸び,体力,引張強さに対する圧下率の影響を調査した.試験片は,鋳造方向と幅方向
から切り出し,伸び,耐力,引張強さの比較も行った.圧延後の板厚は 1mmで一定にする必
要があるので,厚さが異なる板を鋳造した.
伸びに対する圧下率の影響を図 5に示した.縦型高速双ロールキャスターで厚さが 4mm以
下の板を鋳造して冷間圧延と均質化処理を行った場合,幅方向の伸びは鋳造方向と比較して
大きく劣っており,幅方向と鋳造方向で伸びに差が発生した.異形双ロールキャスターの場
合も板厚が 4mm 未満で圧下率が 75%未満の場合は,幅方向の伸びは鋳造方向と比較して低
く,幅方向と鋳造方向で伸びに差異があると判断できる.これに対し,板厚が 6.1mm以上で
圧下率が 83%より大きくなると,幅方向の伸びは大きくなり鋳造方向の伸びに近づき差異
は小さくなり,幅方向と鋳造方向で伸びに差は無いと言えるほどに改善され,幅方向でも
25%以上の伸びが得られた.
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20
25
30
35
70 75 80 85 90
圧下率 Re (%)
伸び El (%
)
図 5 伸びに対する圧下率の影響(数値は板厚 mm)
●鋳造方向
○幅方向
8.8
8.1 7.5 6.1
3.7 3.5
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図6には耐力,図7には引張強さを示しているが,特に圧下量の影響を受けていると結果
からは判断できない.また,幅方向と鋳造方向の差は,耐力より引張強さの方が小さかった.
耐力や引張強さは,伸びと比較すると幅方向と鋳造方向で差が発生し難かった.幅方向と
鋳造方向の伸びの差は,圧下率を 83%以上にすると改善できることが判明した.双ロール
キャスターで板を鋳造する場合は,例えば仕上がり厚さが 1mm であるなら,6mm 以上の厚
さの板を鋳造する必要があることになる.幅方向と鋳造方向の伸びの違いを改善するための
最低圧下率を明らかにするためには, 75%から 80%の圧下率の範囲を調査する必要がある.
図 6 耐力に対する圧下率の影響(数値は板厚,mm)
60
70
80
90
100
110
120
70 75 80 85 90
●鋳造方向
○幅方向
圧下率 Re (%)
耐力 σ
0.2 (MPa)
8.8
8.1
7.5
6.1 3.7
3.5
100
120
140
160
180
200
220
240
260
70 75 80 85 90
●鋳造方向
○幅方向
圧下率 Re (%)
引張強さ σ (MPa)
図 7 伸びに対する圧下率の影響(数値は板厚,mm)
8.8
8.1
7.5 6.1 3.7
3.5
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5.組織
図 8に,定冷間圧延後に T4処理を行った板の断面組織を示す.圧下率が 71.4%と 88%の
両板とも共晶 Siの分布状態が厚さ方向で異なっているが,これは鋳造板の共晶 Siの分布状
態が異なっていることが原因である.上ロール接触面の方が共晶 Si の量が多いように見え
るが,これは上ロールにノズル板を使用しない場合に異形双ロールキャスターで鋳造した板
の特長である.これは,上ロールにノズル板を使用し,ロールと溶湯の接触状態と接触距離
を調節すると改善可能である.
圧下率が 71.4%の場合は,デンドライトや粒状組織などの鋳造組織が残存しているが,
圧下率が 88.0%の場合は,これらの鋳造組織が確認できない.鋳造組織の残存が幅方向の
伸びが鋳造方向より低い原因の一つになっていること考えられる.鋳造組織を残存させない
ためには十分な圧下量が有効であると考えらえる.本研究では,80%~83%以上であると考
えられる.
図 9 に示すように上ロールの圧下による Si の浸み出しにより,上ロール近傍により多く
の共晶 Siが存在している場合でも,圧下量が 88.5%と鋳造組織を加工組織に変えるために
十分であったため,幅方向および鋳造方向の伸びは,図5に示すように両方とも 25%以上
になった.
200µm
図 8 冷間圧延,T4熱処理後の断面組織(板厚 1mm)
上ロール接触面
下ロール接触面 圧下率 71.4%,鋳造板厚さ 3.5mm
上下層の
間の層
残存する粒状組織
残存する
デンドライト
圧下率 88.0%,鋳造板厚さ 8.1mm
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図 10 に図 9 に示した板の共晶 Si の状態を示す.共晶 Si は 5µm 以下で微細であり,大部分
の物が粒状化していた.このことが,Siを 7%含む鋳造用合金の AC4CHでありながら,25%
以上の伸びが得られた原因であると考えられる.また,上ロール近傍の Siの浸み出し部分,
上下の凝固層の間の部分,下ロール近傍において共晶 Si の形状と寸法には顕著な差異は発
生しなかった.
図 9 冷間圧延,T4熱処理後の断面組織(板厚1mm,Siの浸み出しがある場合)
図 10 図 9に示す板の共晶 Siの状態
圧下率 88.5%鋳造板厚さ 8.8mm
浸み出した Si
上ロール接触面
下ロール接触面
上下凝固層の間
5µm
上ロール接触面近傍 下ロール接触面近傍 上下凝固層の間
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6.まとめ
鋳造用の AC4CHアルミニウム合金を,異形双ロールキャスターを使用して厚さが異なる板
を鋳造した.その板を1mmまで冷間圧延してその後 T4処理を行い,伸び,耐力,引張強さ
に対する圧下量の影響について調査した.圧下量が 70%台では,幅方向の伸びは 25%に達
せず,鋳造方向の伸びが優れていた.圧下量が 83%以上になると,幅方向の伸びが向上して
25%以上になり,幅方向と鋳造方向の差異は小さくなった.この原因としては,圧下量が適
切ではないと鋳造組織が残存していることが考えられる.鋳造組織の影響を受けないように
するためには,圧延上がりの厚さが1mmの板であれば,80%以上の圧下,つまり厚さが 6mm
以上の鋳造版が必要であると考えられる.耐力と引張強さは伸びほど圧下量の影響を受けな
かった.
AC4CHアルミニウム合金は7%以上の Siを含む鋳造用合金でありながら,25%以上の伸
びが得られた.この原因としてはで,共晶 Si が 5µm 以下と微細で粒状であるためと考えら
れる.本研究で使用した異形双ロールキャスターの冷却能が優れているため,共晶 Si が微
細粒状化したと考えられる.今回,異形双ロールキャスターを使用したが,縦型高速双ロー
ルキャスターを使用しても同様な結果が得られると考えられる.
今回の成果を踏まえて次のステップとしては、量産を想定した設備投資を行ったうえで製
品のロバスト性を評価するステータスになったと考える。現状を一区切りと捉え、事業化を
視野に入れた設備/素材メーカー等のパートナーとの共同研究を検討したい。