平成27年度 地球温暖化問題等対策調査 (二酸化炭...

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平成27年度 地球温暖化問題等対策調査 (二酸化炭素回収・貯留に係る技術動向等調査) 報 告 書 平成 28 年 3 月 日本エヌ・ユー・エス株式会社

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Page 1: 平成27年度 地球温暖化問題等対策調査 (二酸化炭 …TCMは、アミン吸収法と冷却アンモニア回収プロセスを使用した2つの回収装置で構成され

平成27年度 地球温暖化問題等対策調査

(二酸化炭素回収・貯留に係る技術動向等調査)

報 告 書

平成 28 年 3 月

日本エヌ・ユー・エス株式会社

Page 2: 平成27年度 地球温暖化問題等対策調査 (二酸化炭 …TCMは、アミン吸収法と冷却アンモニア回収プロセスを使用した2つの回収装置で構成され

1. 技術開発動向 .................................................................... 1

1.1. 分離・回収 .................................................................. 1

1.1.1. 電力分野と産業分野における技術開発の進捗 ................................ 1

1.1.2. 産業分野における回収技術 ................................................ 1

1.1.3. 電力分野における回収技術 ................................................ 3

1.1.4. 回収コスト削減のための方策 .............................................. 3

1.1.5. CO2回収技術開発の傾向 ................................................... 4

1.2. 輸送 ........................................................................ 8

1.2.1. CO2輸送の現況 ........................................................... 8

1.2.2. 国際的な規格及び基準 .................................................... 9

1.2.3. R&D プロジェクト ........................................................ 11

1.3. 地中貯留 ................................................................... 11

1.3.1. CO2貯留のための規格や 善慣行ガイドライン .............................. 13

1.3.2. CO2貯留サイトのモニタリング ............................................ 13

1.3.3. 貯留層評価 ............................................................. 14

1.4. プロジェクト ............................................................... 17

2. CO2利用 ........................................................................ 21

2.1. CO2利用の分類 .............................................................. 21

2.2. CCU の国内外動向 ............................................................ 22

2.2.1. 国内 ................................................................... 22

2.2.2. 国外 ................................................................... 23

3. 国際情勢 ....................................................................... 26

3.1. CCS に関する国際条約 ........................................................ 26

3.1.1. 気候変動枠組条約 ....................................................... 26

3.1.2. ロンドン議定書 ......................................................... 28

3.2. 国別法整備 ................................................................. 32

3.2.1. 日本「海洋汚染防止法」 ................................................. 32

3.2.2. EU CCS 指令 ............................................................. 34

3.2.3. 英国 エネルギー法・電気法 .............................................. 34

3.2.4. 米国 UIC プログラム ..................................................... 35

4. CCS 導入 ........................................................................ 38

4.1. 炭素税 ..................................................................... 38

4.2. 排出原単位規制 ............................................................. 38

5. 経済支援策(インセンティブ) ................................................... 40

5.1. 経済支援策 2つの視点 ....................................................... 40

5.1.1. 設備投資の視点 ......................................................... 40

5.1.2. 運転保守(O&M)の視点 .................................................. 41

6. 社会受容性(Public Acceptance:PA) ............................................ 43

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6.1. CCS の住民理解の促進 ........................................................ 43

6.2. 海外における CCS プロジェクトの PA 事例 ...................................... 43

6.2.1. 米国カーソン ........................................................... 43

6.2.2. 米国 TAME プロジェクト .................................................. 44

6.2.3. オランダ・バレンドレヒトプロジェクト ................................... 45

6.2.4. フランス・ラックプロジェクト ........................................... 46

7. 標準化 ......................................................................... 47

7.1. DNV によるガイドライン策定事業 .............................................. 47

7.2. NETL によるベストプラクティス・マニュアル策定事業 ........................... 49

7.3. CSA によるガイドライン策定事業 .............................................. 49

7.4. CCS の ISO 化 ................................................................ 51

添付資料 ........................................................................... 53

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1

1.技術開発動向1

1.1.分離・回収

1.1.1.電力分野と産業分野における技術開発の進捗

発電所の排ガスからの CO2回収は比較的新しく、大規模な CCS の適用にはさらなる経験が必

要である。一方で、天然ガス処理及び化学産業における回収技術は、処理工程で CO2 を除去す

る必要があり、既に商業規模で実施されている。IEA(2013)が作成した「Technology Roadmap:

Carbon Capture and Storage」によると、2015 年~2050 年の間に回収される CO2の 45%は産業

分野からとなり、CO2排出量の多い産業のいくつかは、大幅に排出を削減できる手段が CCS 以外

にないとしている。この水準での CCS 適用を達成するためには、特に、鉄鋼業及びセメント製

造業における回収技術が 2020 年までに実証されてなければならない。

1.1.2.産業分野における回収技術

純度の高い CO2が排出される産業(天然ガス処理、肥料製造、合成ガス製造、水素製造など)

では商業規模で CCS が実施されているが2、その他の分野では技術的にも商業的にも電力分野に

はない課題がある。主な商業的な課題は、国際的な競争の存在である。また、回収技術をカス

タマイズするためのパイロット試験や実証が必要であり、そのためには資金も必要であるが、

電力分野ほど資金提供プログラムがない。そんな中でも進展があるのは、以下の 4分野である。

・セメント製造業

・鉄鋼業

・バイオマス変換

・石油精製業

(1) セメント製造業

セメント製造業では、燃焼後回収又は酸素燃焼による CO2回収が可能である。燃焼後回収

技術の利点は、窯からの排出ガスの回収にすぐに設備改造が可能な点である。ただし、溶剤

の回収に追加的エネルギーが必要となる。European Cement Research Academy の研究によっ

て、酸素燃焼による回収の方がより効率的な可能性が示されているが、窯への空気漏れのよ

うな操業上の問題を解決する必要がある。セメント製造業における大規模統合プロジェクト

は現時点ではないが、パイロット試験はいくつか実施されている(米国の Skyonic プロジェ

クト、ノルウェーの Brevik のセメントプラント、台湾の台湾セメント社、欧州の European

Cement Research Academy)。このうちノルウェーの Brevik にあるセメントプラントにおけ

るパイロット事業では、以下の 4つの技術を 2017 年までの予定で試験している。

・アミン吸収法-Aker Solutions

・膜分離技術-DNV. GL.率いるコンソーシアム

1 近の技術開発動向を、GCCSI の年次報告書“The Global Status of CCS 2013, 2014, 2015”をもとに纏めた。 2 2013 年時点で、大規模統合プロジェクトが 12 件。

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・固体吸収材技術-RTI International

・炭酸塩ルーピング – Alstom

(2) 鉄鋼業

鉄鋼業では、CO2 の回収のほとんどは溶鉱炉からの炉頂ガスを利用するものである。敷地

内の発電プラントからの CO2を回収する方法もあるが、これは石炭やガス焚き発電所からの

CO2 回収と同じ技術である。欧州では ULCOS コンソーシアムによる LIS プロジェクト、UAE

では Emirates 鋼業プラントにおける Abu Dhabi CCS プロジェクトが計画されている。また

研究事業として韓国の POSCO 回収実験及び日本の COURSE 50 プロジェクトがある。

Abu Dhabi CCS プロジェクトは、水蒸気メタン改質工程から生じる CO2をアミン吸収液に

より回収するが、直接還元鉄プラントに組み込まれた CO2回収工程により、非常に純度の高

い CO2(>98%)を得ることが可能となる予定である。COURSE 50 プロジェクトは、CCS の適用

により 20%の排出削減を可能にする技術の開発を目指しており、化学吸収法と物理吸着法の

両方を評価している。

(3) バイオマス変換

バイオ燃料からの CO2回収を実施する CCS プロジェクトは、Illinois 工業 CCS プロジェク

ト 1 件のみである。このプロジェクトでは、エタノールの製造工程の処理流から CO2を除去

している。

(4) 石油精製業

石油精製業では、Air Products 社の水蒸気メタン改質 EOR プロジェクトと Quest プロジ

ェクトが操業中であり、North West Sturgeon 製油所からの CO2流を用いる ACTL プロジェク

が建設中である。これらのプロジェクトは、ビチューメン及び/又はオイルサンドの精製の

一部である水素製造工程から CO2を回収するものである。

Air Products 社のプロジェクトでは、比較的 CO2濃度の高いガスが供給されるため、真空

スイング吸着(VSA)法による回収技術を使用している。ただし、供給ガス中の CO2濃度の低

い燃焼後回収の場合、規模の拡大も難しく、VSA の適性は低いと考えられている。

また、2000 年に開始された Carbon Capture Project(CCP)は、2つの実証プロジェクト

を計画している。ブラジルの Petrobras の研究施設における流動接触分解における酸素燃焼

を使用したパイロットプロジェクトと、カナダにおける貫流蒸気発生装置に対する酸素燃焼

の使用を検討するプロジェクトである。さらに大きな実証プロジェクトは、ノルウェーにお

ける石油精製からの排気ガスを使用した CO2 Technology Centre Mongstad(TCM)である。

TCM は、アミン吸収法と冷却アンモニア回収プロセスを使用した 2 つの回収装置で構成され

ている。

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1.1.3.電力分野における回収技術

電力分野におけるプロジェクトは、すべての段階を合わせると 2013 年時点で 30 件あり、そ

の内 2 件が建設中で、9 件が設計の進んだ段階にあった。電力分野では、より効率の良い IGCC

における燃焼前回収と、既存の発電所での改造が容易な燃焼後回収が多い。酸素燃焼技術は、

オーストラリアの Callide プロジェクトなどで実証中であり、既存の発電所での改造も可能で

あるが、既存のボイラの大幅な改修が必要となる可能性がある。

2014 年には、電力分野で初となるカナダの SaskPower による Boundary Dam CCS プロジェク

トが操業を開始し、以下の特徴を有する。

・ エネルギーは 21%増のみに抑えられる予定

・ SO2除去と CO2分離に単一システムを使用するため、コスト低減につながる

・ アミンカラムはコンクリート製にすることで原材料費を大幅に削減

・ プレハブ式及びモジュール式の設計にすることで、時間とオンサイトコストを削減

・ Shell 及び Cansolv による協力のもと、SaskPower が開発した試運転及び標準操業の手順

は、今後新たなプロジェクトに適用可能

1.1.4.回収コスト削減のための方策

CCS 全体にかかる費用のうち、大半が回収に関連する費用3であるため、回収コスト削減に向

けた様々な努力がおこなわれている。なかでも、ベンチスケールからパイロットスケールへの

移行が特に重要であり、新たな回収技術にとっても主要な技術的課題となっている。そのため、

パイロット試験の変数や手法、手順を一連の施設で連携できる CCS の「テストネットワーク」

が形成されている。ノルウェーの TCM や米国の National Carbon Capture Center(NCCC)が代

表的である。また、フルスケールでの実施による経験から得られる情報は、より効率的に新技

術を統合する方法を示すことができるため、コスト削減につながる。

詳細度の高いモデルを用いたモデル計算も、より早く正確にコストを評価する方法のひとつ

となるが、現在単一のソフト環境において、望ましい精度を持つ、CCS チェーン全体を網羅し

たシミュレーションツールやモデルツールが存在しない。英国の UK Energy Technologies

Institute による支援を受けて開発された Process System Enterprise のモデルツール「gCCS」

は、発電所における CO2 回収から圧縮、輸送、圧入のすべてのモデルを含んでいる。また、米

国エネルギー省(DOE)の National Energy Technology Laboratory(NETL)は、回収技術のシ

ミュレーションツールの開発を促進するため、Carbon Capture Simulation Initiative(CCSI)

を設立した。

また、回収コストの削減を 短で実現するには、資本コストとエネルギー損失の両方を低減

3 2014 年の報告書には、電力分野の大規模 CCS プロジェクトにおける例として、回収・圧縮段階における費用は

全体の 70~90%との記載がある。

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することが必要となる。

1.1.5.CO2回収技術開発の傾向

米国 DOE は、回収技術の進展の程度を表すための 3つのカテゴリーを設定している。

・第一世代

・第二世代

・転換又は第三世代

第一世代は現在使用中で、操業されている技術である。代表的なものは、燃焼後のアミン吸

収液による分離、燃焼前の物理吸収液による分離、及び大気圧酸素燃焼である。第二世代は、

実験室/ベンチスケールでの開発段階から進展し、パイロットスケールでの試験が実施されてい

る又は実施が近い技術である。転換又は第三世代は、第二世代の技術により達成されるコスト

削減を超えると期待されている技術である。

第二世代の技術は、2025 年頃までに現在利用可能な技術よりも 20%のコスト削減を目標とし

ている。転換又は第三世代の技術は、2030 年頃までに現在利用可能な技術よりも 30%のコスト

削減を目標としている。例えば、DOE は現在の石炭ベースの燃焼・ガス化システムの回収コス

トを$60/t CO2 と見積っているが、第二世代の技術によって$40/t CO2 まで低減することを目標

としている。

現在、開発初期の段階(第二世代及び第三世代)にある革新的な技術の多くは特定の物理的

又は化学的機構に基づくものであり、その代表的なものを表 1-1 に示した。また、技術が商業

化されるまでにかかる時間は、その技術成熟度レベル(TRL)に反映されることが多い。表 1-1

に示した TRL カテゴリーは、以下の考え方に基づきに区分している。これは、米国の DOE が定

義するものと一致している。

・TRL 1~2:技術的な概念があるもの

・TRL 2~5:実験室/ベンチスケールで試験されている技術

・TRL 5~7:パイロットスケールで試験されている技術

・TRL 7~9:実証段階及び商業規模で操業されている技術

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表 1-1 各回収技術の技術成熟度レベル(TRL)

技術 試験段階 TRL

燃焼後回収

アミン系溶剤 実証 7-9

改良型アミン系溶剤 パイロット 5-7

アミノ酸塩溶剤 パイロット 5-7

アンモニア水溶剤 実証 7-9

沈殿溶剤 実験室/ベンチ 2-5

2 相液体溶剤 実験室/ベンチ 2-5

触媒改良溶剤 実験室/ベンチ 2-5

イオン液体 実験室/ベンチ 2-5

固体吸収材による温度又は圧力スイング吸収(TSA/PSA) パイロット 5-7

カルシウムルーピング(CaL) パイロット 5-7

膜分離 パイロット 5-7

CO2深冷分離 実験室/ベンチ 2-5

燃焼前回収

物理吸収液 実証 7-9

イオン液体 実験室/ベンチ 2-5

固体吸収材による温度又は圧力スイング吸収(TSA/PSA) 実験室/ベンチ 2-5

吸着増強水ガスシフト(SEWGS) パイロット 5-7

吸着増強改質(SER) パイロット 5-7

水性ガスシフト反応炉(WGSR)膜 実験室/ベンチ 2-5

膜分離 パイロット 5-7

CO2深冷分離 概念 1-2

酸素燃焼

大気圧酸素燃焼 実証 7-9

イオン輸送膜(ITM) パイロット 5-7

酸素輸送膜(OTM) 実験室/ベンチ 2-5

加圧酸素燃焼 パイロット 5-7

化学ループ燃焼(CLC) パイロット 5-7

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2014”)

また、現在積極的に開発が進んでいる第二世代技術のうち、0.5MW(10t CO2/日)以上の規模

で試験が実施されているものを表 1-2 に示す。ただし、燃焼前回収については、これより規模

が小さいものが含まれている。

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表 1-2 0.5 MWe(10t CO2/日)規模以上で試験されている第二世代の回収技術

実施者 焦点 利点 規模

燃焼後回収-溶剤

Neuman System Group ノズルベース溶剤輸送 モジュール式、大きさ

の変更可能、溶剤非依

存型

0.5 MWe

Linde 改良型アミン/熱統合 単一プロセストレイン 1 MWe

Kentucky 大学 二段階再生 高圧再生 0.7 MWe

Southern Company 熱統合/熱交換 エネルギー 適化 25 MWe

China Huaneng Group 改良型アミン/プロセス開

プロセスフローシート

の 適化

~17 MWe

Korea Electric Power

(KEPCO)

アミン 新しい溶剤及びプロセ

ス設計

10 MWe

General Electric

Global Research

アミノシリコン溶剤 強化エネルギー論 1 MWe

ION Engineering 非水溶媒/アミン混合 強化エネルギー論 0.7 MWe

CO2 Solutions 酵素触媒溶剤 再生エネルギーの低減 0.5 MWe

燃焼後回収-吸着剤

ADA-ES アミン系吸着剤 大規模での概念実証 1 MWe

TDA アルカリ化アルミナ吸着剤

(固定床)

プロセスフローシート

の 適化

1 MWe

SRI International 炭素系吸着剤 吸着剤の耐損耗性 1 MWe

Korea Electric Power

(KEPCO)

炭酸塩吸着剤(移動床) 低コスト;プロセス概

10 MWe

燃焼後回収-膜

MTR 渦巻型膜 大規模でのプロセス設

1 MWe

GTI 溶剤コンタクター プロセス強化 1 MWe

燃焼前回収

SRI International 炭酸アンモニウム系溶剤 安価な溶剤 0.1 MWe

TDA 炭素系吸着剤 プロセス統合 0.1 MWe

酸素燃焼

Aerojet Rocketdyne 加圧流動床燃焼 潜熱回収 1 MWe

Net Power 酸素/超臨界 CO2パワーサイ

クル

高効率パワーサイクル 50 MWth

Alstom Power Inc. 石灰岩化学ループ燃焼 安価な酸素キャリア 1 MWe

産業

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Industrial Technology

Research Institute

(ITRI)

カルシウムルーピング 熱統合;プロセスフロ

ーシート

1.9 MWth

Stuttgart 大学 IFK カルシウムルーピング プロセスフローシート 200 KWth

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2015”)

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1.2.輸送

1.2.1.CO2輸送の現況

パイプライン、トラック、列車、船舶による CO2 の輸送は、世界の多くで既に日常的に実施

されている。ただし、大規模 CCS を可能にするためには多大な輸送基盤と投資が必要となる。

CCS が IEA の 2℃シナリオを満たすように実施されるには、今後 30 年~40 年の間に現在の CO2

輸送基盤の 100 倍の距離が必要となるであろう。

(1) 米国

既存の CO2パイプラインのほとんどは 1980 年代及び 1990 年代に、天然 CO2を EOR に使用

するために建設されたものである。そして、米国の大規模 CCS プロジェクトのほとんどは既

存の CO2パイプラインネットワークを利用している、又は利用する計画であるが、テキサス

州、ミシシッピ州、カンザス州、オクラホマ州、カリフォルニア州の多くの CO2-EOR プロジ

ェクトは専用の CO2パイプラインを使用している、又は利用する計画である。

(2) カナダ

カナダには、パイプラインの長さが 240km の Alberta Carbon Trunk Line(ACTL)プロジ

ェクト、64km の Quest プロジェクト、66km の Boundary Dam プロジェクトなどがある。また、

Boundary Dam プロジェクトは、米国とカナダを越境する 329km の CO2パイプラインを使用し

て輸送する Great Plains 石炭ガス化(合成燃料)プラントからの CO2に追加供給している。

(3) ヨーロッパ

も新しい CO2パイプラインはノルウェーの Snøhvit CO2貯留プロジェクトの一部として

2008 年に建設されたもので、約 153km の沖合パイプラインである。ヨーロッパでは現在、以

下の 4 件の新たな沖合 CO2パイプラインが提案されており、そのうち 3 件は英国のものであ

る。

・Yorkshire and Humber CCS Cross Country パイプライン (英国)– 陸上パイプライン

75km と沖合パイプライン 90km、White Rose CCS プロジェクトと Don Valley Power プ

ロジェクトが接続する計画

・Captain Clean Energy プロジェクト(英国)-既存の地中天然ガス輸送パイプライン

を再利用する計画

・Peterhead CCS プロジェクト(英国)-既存の Goldeneye パイプラインに直接接続する

約 20km の新設

・ROAD プロジェクト(オランダ)-陸上 5km、沖合 20km のパイプラインの許可を取得済

このうち、ROAD プロジェクトに関する詳細が 2013 年のレポートにあり、その概要は以下

の通り。

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ROAD プロジェクトでは、純粋な CO2と比較して、ガス組成による CO2流の熱力学的挙動に

対する影響を見つけるため、分析を実施している。このプロジェクトで想定される CO2流中

の不純物質は、窒素≤350ppmv、水≤50ppmv、酸素≤50ppmv、アセトアルデヒド≤10ppmv、アル

ゴン≤7ppmv であったが、影響は小さいことが分かったため、流路保全研究のためのシミュレ

ーションは純粋な CO2に基づき実施された。

ROAD プロジェクトで実施した全体の流路保全研究では、操業中のほとんどの条件でパイ

プライン中の流れは均質的で安定していることが示された。貯留層内圧力が上昇するにつれ

て、パイプライン中の CO2は濃密相(dense phase)へと移行し、気液二相流となる可能性が高

まる。スラグを避けるためには、貯留層内圧力が 大 200bar でパイプライン入口での CO2

の温度は 60℃未満とし、貯留層内の絶対圧力が 300bar では 40℃まで低下させるべきとして

いる。

(4) 中近東

アブダビにおいて、Emirates 工業プラントから Rumaitha 油田へ CO2を輸送し EOR に利用

するための 45km のパイプラインが計画中である。また、2015 年には 85km のパイプラインで

CO2を輸送するサウジアラビアの Uthmaniyah CCS 実証プロジェクトが操業を開始している。

(5) アジア

アジアでは、これまでに大規模な CO2パイプラインは建設されていない。中国で も進ん

でいる CCS プロジェクトは EOR 関連プロジェクトであり、Shengli 油田に CO2を輸送する計

画のプロジェクトが 2 件ある。また、少数ではあるが、沖合の貯留サイトへ船舶により CO2

を輸送するための評価を実施しているプロジェクトがあり、韓国の KEPCO が研究する 2件の

CCS プロジェクトが含まれる。また日本では、千代田化工建設株式会社は、東京大学と連携

し船舶による CO2輸送の R&D を実施している。

(6) オーストラリア

オーストラリアには、世界で も多くの CO2を回収し貯留する CCS プロジェクトのひとつ

である Gorgon CO2圧入プロジェクトが計画されているが、回収設備から貯留サイトまでの輸

送距離は非常に短い(7km)。CarbonNet プロジェクトは、Victoria 州の複数の CO2回収プロ

ジェクトから共用パイプラインを通じて CO2を海底下貯留層に輸送する可能性を調査してい

る。また、Western Australia 州の South West Hub は、80km のパイプラインで Perdaman 化

学肥料プラントから 大年間 2.5Mtpa の CO2を輸送する工学研究を実施した。

1.2.2.国際的な規格及び基準

CO2のパイプライン輸送は何十年もの実績があり、天然ガスやその他の液体の輸送に適用され

国際的に受け入れられた規格及び基準とともに操業されている。CO2パイプラインに適用可能な

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国際的な規格及び基準には、ISO 13623、ASME 114 B31.4、BS EN 1594、AS 2885 などがある。

ただし、大規模 CCS の実施には、CO2特有の物理化学的特性により、従来の油ガス輸送システ

ムとは異なるパイプライン設計及び運用上の課題が存在する。このような課題は、高い分圧の

CO2 流に耐性のある適切な非金属部品(O リング、バルブシートなど)の選定から、濃密相 CO2

を運搬するパイプラインスチールの正しい靭性要件の特定まで幅広い。

現在 ISO により策定が進められている CO2輸送システムの国際規格は、これらの課題に取り

組み、既存のパイプライン基準で対象となっていない側面について、安全で信頼性のある CO2

パイプラインの設計、建設、運用に関する要件及び推奨事項を規定を目指している。そのため、

国際規格は、既存の基準を補完するものであることに注意が必要である。また、この規格は CO2

流輸送用に転換された既存のパイプラインを含む、陸上と沖合(金属製)のパイプラインを対

象としており、ガス相及び濃密相の CO2輸送や、CO2やパイプライン輸送に影響を及ぼす不純物

質を含む CO2流の特性も示すものとなる。

以下に、現在の草案における重要な検討事項を示す。

(1) CO2流の組成

安全で費用対効果の高い CO2純度の仕様を設定するには、CO2流中の不純物質による影響の

正しい理解が重要である。現在の 善慣行の不純物質濃度などに関する文献は存在しており、

パイプラインの設計者や操業者が許容可能な不純物質濃度を決定する助けとなるよう、規格

の草案にも組み込まれている。

(2) パイプラインの運用条件

CO2輸送システムの設計には、濃密相の CO2の流れの特性は天然ガスとは異なる点を検討す

ることが重要である。この規格の草案は、効果的で安全なパイプライン運用において、(単

相での)流路保全を参照したり、適切な熱水力学モデルを使用したりしながら検討する必要

がある際のガイダンスとなる。

(3) CO2流の脱水

炭酸の存在により、ほとんどのパイプラインは内部腐食の影響を受けやすくなるため、CO2

流中の水分の管理は も重要な要素のひとつとなっている。そのため、許容可能な基準まで

CO2 流中の水分を適切に脱水することが腐食管理にとって必須となる。さらに、規格の草案

では、(一部分の)パイプラインの厚みに腐食代を考慮する可能性があることも記述してい

る。

(4) 破壊抑制

破壊抑制はパイプラインの設計と運用に重要な要件のひとつである。規格の草案では、延

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性破壊抵抗に必要な材料の選定のガイダンスを示し、パイプラインの素材と CO2流の組合せ

で立証されたデータがない場合には確実性を得るために試験を実施するべきと提案してい

る。

(5) CO2漏洩

CO2漏洩による影響や危険性は天然ガスパイプラインとは異なる。近年、CO2パイプライン

の安全域を決定するため、拡散モデルの開発と立証のためのデータを提供するいくつかの実

験研究が開始されている。

1.2.3.R&Dプロジェクト

CO2輸送に関連する R&D プロジェクトのほとんどは欧州とオーストラリアに集中しており、そ

の多くはつい 近完了したものである。これらの R&D は、特に腐食管理、破壊伝播抑制、安全

分析及びリスク評価のための CO2拡散モデルなどにおける、様々な CO2流組成による設計及び操

業に対する影響に注目している。代表的な R&D プロジェクトは以下の通り。

・COOLTRANS – CO2 Liquid Pipeline TRANSportation

・COSHER: Carbon Dioxide, Safety, Health, Environment and Risks

・CO2 PIPETRANS Phase 2 – DNV Joint Industry Project

・CO2 PipeHaz: 次世代 CO2パイプラインのための失敗の結果の定量的な危険性評価

・CO2 QUEST –輸送と貯留に対する CO2の品質の影響

・SAR CO2 – 安全で信頼できる CO2輸送パイプラインの要件

・Energy Pipelines CRC – CO2 Pipelines Research

1.3.地中貯留

過去 20 年間にわたり、世界中の多くのサイトで商業規模の CO2貯留は、深部塩水層と CO2-EOR

において安全かつ成功裏に実証されている。現在は、商業的利点がより大きな CO2-EOR が主流

となっている(図 1-1)。しかし、深部塩水層へ貯留するプロジェクトも今後は増えていく見込

みである(図 1-2)。

これまでに貯留プロジェクト及び類似産業から得られた経験は、貯留サイトの選定、特性把

握、操業、閉鎖の安心かつ安全な実施に効果的なリスク管理プロセスに貢献している。CO2貯留

における主要なリスクは、以下の 2つの問いに集約される。

・地下に圧入された CO2はどこへ行くのか?

・圧入された CO2が安全に貯留されていることを確実にするのは何か?

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図 1-1 各国の大規模統合 CCS プロジェクトの貯留タイプ別の CO2貯留(予定)量

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2013”)

図 1-2 深部塩水層(陸域/沖合)に貯留するプロジェクトの段階別の内訳

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2013”)

CO2-EOR

深部塩水層

枯渇ガス田

未定

CO2の量

米国

中近東 その他 アジア

欧州 中国

南米

カナダ

アフリカ

オーストラリア

操業 実施 精査 評価 特定

陸域の深部塩水層 沖合の深部塩水層

CO2の量

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13

1.3.1.CO2貯留のための規格や 善慣行ガイドライン

Canadian Standards Authority(CSA)は、リスク管理に関する国際規格である ISO-31000 を

CO2貯留に適用した規格「CSA Z741-12 Geological Storage of Carbon Dioxide」を作成してい

る。CSA がこの規格で示す CO2地中貯留プロジェクトのリスク管理の流れを、図 1-3 に示す。ま

た、ISO はこの規格をベースに CO2貯留のための新たな国際規格を策定中である。この他にも現

在は、以下のような規格やガイドラインなどが作成されている。

・NETL Best Practices Manuals: Monitoring, Verification and AcCounting of CO2 Stored

in Deep Geologic Formations(2012 更新版)

・DNV GL Recommended Practice on CO2 Storage(DNV-RP-J-203)

・欧州連合指令 2009/31/EC ガイダンス文書

・カナダアルバータ州:Regulatory Framework Assessment

図 1-3 CSA 規格(Z741-12)CO2地中貯留プロジェクトにおけるリスク管理プロセス

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2014”)

1.3.2.CO2貯留サイトのモニタリング

CO2貯留サイトのリスク管理プロセスにおいて、モニタリングは重要な要素である。モニタリ

ングにより、プロジェクト事業者は CO2 圧入の進捗を知ることができ、利害関係者に対しプロ

ジェクトが想定通りに開発できていることを保証することも可能となる。現在多くの CO2 貯留

サイトで採用されている監視、検証、算定及び報告(MVAR)計画の作成の流れを、図 1-4 に示

す。

また、モニタリング技術として実施されているものには、繰り返し(4D)地震探査、InSAR、

微小地震観測、圧入井内の圧力、土壌の地球化学的分析、化学トレーサー、坑井間電気探査比

抵抗トモグラフィー、ダウンホールの圧力と温度、地表における重力探査、ダウンホール流体

化学、垂直地震プロファイルなどがある。

リスク管理プロセス

繰り返し 較正

監視、評価及び文書化

適宜、利害関係者と連絡・協議する

条件の確立 リスク管理計画

の準備

リスク評価 ・特定 ・分析 ・評価

リスク対応の 計画及び実施

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図 1-4 MVAR 計画の作成の流れ(CO2 QUALSTORE ガイドラインより)

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2014”)

1.3.3.貯留層評価

貯留サイトにとって必要なのは、貯留可能量、圧入性、封じ込めが重要な特性である。また、

地域的な規模での貯留層評価において絞り込みの基準となる項目には、深さ、層序、圧力の状

態、地震活動、地熱の状態、断層運動と破砕などが含まれる。IEAGHG が示した深部塩水層の絞

り込み基準の一例を表 1-3 に、CO2-EOR に適した油田の絞り込み基準の一例を表 1-4 に示す。

モニタリング目標の説明

モニタリング技術の説明

通常時

モニタリング

非常時

モニタリング

通常時モニタリングの計画

の説明

関連する手法と比較した

費用と利点の説明

通常時モニタリングの

検査及び検証プログラム

の説明

非常時モニタリング計画

の説明

関連する手法と比較した

費用と利点の説明

追加的な検査及び検証の

必要性の説明

計算及び報告に関する計画の説明

適用される規制の MVAR 要件の順守

MVAR 計画

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表 1-3 深部塩水層の絞り基準の一例

項目 好ましい特性

深度 > 800m

温度 > 35℃

圧力 > 7.5 MPa

圧力勾配 < 12 kPa/m

厚み > 20m

孔隙率 > 10%

浸透率 > 20mD

シール層の厚み > 10m

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2015”)

表 1-4 CO2-EOR に適した油田の特性

項目 好ましい特性

深度 > 450m

温度 > 28-121℃

圧力 > 小ミシブル圧力

かつ > 破壊圧

孔隙率 > 3%

浸透率 > 5mD

油の API 比重 27-45API

油粘度 < 6cP/mPars

油田内に残る油留分 > 0.3

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2015”)

(1) 米国

・ 新の United States 2012 Carbon Utilization and Storage Atlas において、深部塩

水層に 1,600 ~20,000 Gt(実効値)の貯留可能量があるとしている。

・枯渇ガス田には、210 Gt の潜在的な貯留可能量があるとしている。

(2) カナダ

・米国、カナダ、メキシコを対象とした 2012 年の North American Carbon Storage Atlas

(NACSA)において、深部塩水層に 28 ~296 Gt(実効値)の貯留可能量があるとしてい

る。

・枯渇ガス田には、16 Gt の貯留可能量があるとしている。

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(3) メキシコ

・NACSA において、深部塩水層に 100 Gt(理論値)の貯留可能量があるとしている。

・枯渇ガス田に関連する貯留層は報告書に含まれてい。

(4) ブラジル

・2015 年の Brazilian Atlas of CO2 Capture and Geological Storage において、沖合の

Campos Basin の枯渇ガス田に 950 Mt(理論値)の貯留可能性があり、付近の Santos Basin

も貯留の可能性が高いとしている。

・深部塩水層に関するデータは全般的に少ないため、有望性のランクの記載にとどめてい

る。

(5) 英国

・オンラインデータベースである UK Offshore Storage Atlas/ CO2 Storage Evaluation

Database において、主に深部塩水層に 78 Gt の貯留可能性があるとしている(信頼度は

50%)。

・その後、精査され実際の貯留容量と同等と考えられているのは、8.5 Gt である。

(6) ノルウェー

・2011 年の CO2 Storage Atlas of the Norwegian Sea において、ノルウェー海の合計貯留

量は 5.5 Gt としている。

・2014 年の CO2 Storage Atlas of the Norwegian Continental Shelf Project において、

ノルウェー海、北海、バレンツ海の深部塩水層に合計で 56.8 Gt(実効値)の貯留可能

性あるとしている。

(7) 南アフリカ

・2010 Atlas on Geological Storage of Carbon Dioxide において、150 Gt の貯留層があ

ると見積もっている。この大半は深部塩水層で、炭化水素の廃田には 1Gt 未満としてい

る。

(8) 東南アジア

・アジア開発銀行(ADB)はインドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムを対象に評価した

結果、合計で約 50 Gt(理論値)の貯留可能量があるとしている。

(9) インド

・深部塩水層に 47~140 Gt(理論値)の貯留可能性があるが、ほとんどの排出源から 750

~1000km 離れている。

(10) パキスタン

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・廃ガス田及び廃坑予定のガス田に 1.7 Gt(理論値)以上の貯留可能性がある。

(11) 日本

・深部塩水層と枯渇ガス田に 150 Gt(実効値)の貯留可能性がある。

(12) オーストラリア

・Carbon Storage Taskforce による評価の結果、33~226 Gt(実効値)の貯留可能量があ

るとしている。

(13) 中国

・3,088 Gt(理論値)の貯留可能量があり、そのうち 99%が深部塩水層である。その後の

評価で、実効値は 746 Gt としている。

1.4.プロジェクト

GCCSI では大規模 CCS プロジェクトの動向を毎年調査しており、操業段階にあるプロジェク

ト数は、2013 年には 12 件、2014 年には 13 件、2015 年には 15 件となっている(図 1-5)。2013

年より前に操業を開始していた大規模 CCS プロジェクトは以下の 8件である。

・Val Verde 天然ガスプラント(米国)1972 年~

・Enid 肥料 CO2-EOR プロジェクト(米国)1982 年~

・Shute Creek ガス処理施設(米国)1986 年~

・Sleipner CO2貯留プロジェクト(ノルウェー)1996 年~

・Great Plains 合成燃料プラント及び Weyburn-Midale プロジェクト(カナダ)2000 年~

・In Salah CO2貯留(アルジェリア)2004 年~

・Snøhvit CO2貯留プロジェクト(ノルウェー)2008 年~

・Century プラント(米国)2010 年~

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図 1-5 操業中の大規模 CCS プロジェクト件数

(出典:GCCSI, The Global Status of CCS 2015)

2013 年に操業を開始したプロジェクトは、Air Products 水蒸気メタン改質 EOR プロジェク

ト(米国)、Coffeyville ガス化プラント(米国)、Lost Cabin ガスプラント(米国)、Petrobras

Lula 油田 CCS プロジェクト(ブラジル)の 4件であり、さらに建設中のプロジェクトが 8件あ

った。2013 年の報告書で認識されたプロジェクトの合計数は 65 件(特定段階 8 件、評価段階

21 件、精査段階 16 件、実施段階 8件、操業段階 12 件)であった4。

2014 年に操業を開始したプロジェクトは、SaskPower の Boundary Dam CCS プロジェクト(カ

ナダ)の 1件であり、火力発電所において世界初の大規模 CCS プロジェクトとなった。さらに、

建設中のプロジェクトは以下の 9件で、2014 年の報告書で認識されたプロジェクトの合計数は

55 件(特定段階 6 件、評価段階 13 件、精査段階 14 件、実施段階 9 件、操業段階 13 件)であ

った。

・2015 年完成予定(5件):Kemper County エネルギー施設(米国)

Illinois 工業 CCS プロジェクト(米国)

Quest プロジェクト(カナダ)

Uthmaniyah- CO2 EOR 実証プロジェクト(サウジアラビア)

4 GCCSI はプロジェクトの段階を7つ(特定、評価、精査、実施、操業、閉鎖、閉鎖後)に定義しており、建設は

実施段階に含まれる。(http://www.globalccsinstitute.com/projects/large-scale-ccs-projects-definitions)

建設中-操業開始が近いプロジェクト

操業中のプロジェクト

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Agrium CO2流を用いる Alberta Carbon Trunk Line(ACTL)プロ

ジェクト(カナダ)

・2016 年完成予定(3件):Gorgon CO2圧入プロジェクト(オーストラリア)

Abu Dhabi CCS プロジェクト(UAE)

Petra Nova CO2回収プロジェクト(米国)

・2017 年完成予定(1 件):North West Sturgeon 製油所からの CO2流を用いる ACTL プロジ

ェクト(カナダ)

2015 年には、2014 年報告書で建設段階にあったプロジェクトのうちの 2件、Quest プロジェ

クト(カナダ)と Uthmaniyah CO2 EOR 実証プロジェクト(サウジアラビア)が操業を開始した。

残りの 7件は、引き続き建設段階にあり、2017 年までには操業を開始する予定としている。2015

年の報告書で認識されたプロジェクトの合計数は 45 件であった。

図 1-6 に、現在認識されているプロジェクトの地域/国別、段階別の件数を示す。また、図 1-7

に排出源の産業別及び貯留タイプ(EOR の有無)別に、精査段階、実施段階、操業段階にある

大規模 CCS プロジェクトを操業(予定)時期順で示した。

図 1-6 地域/国別及び段階別の大規模 CCS プロジェクト件数

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2014”)

特定 評価 精査 実施 操業

米国

中国

欧州

カナダ

オーストラリア

中近東

その他アジア

南アフリカ

アフリカ

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図 1-7 排出源の産業別・貯留タイプ別の大規模 CCS プロジェクト

(出典:GCCSI,“The Global Status of CCS 2014”)

発電所

石炭液化

化学品製造

鉄鋼業

合成天然ガス

肥料製造

石油精製

天然ガス処理

水素製造

=1Mtpaの CO2(円の大きさがCO2の量に比例) * 現在圧入停止中

** 貯留タイプは現在検討中

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2.CO2利用

2.1.CO2利用の分類

CO2 利用(Carbon dioxide Capture and Utilization: CCU)は、回収した CO2 を利用し、石油

代替燃料や化学原料などの有価物を生産する技術をいう。国内では、平成 16 年度に(財)地球

環境産業技術研究機構(RITE)が、現在研究開発を実施しているものや検討が行われているも

のを体系的にした「CO2固定化・有効利用分野の技術マップ(技術体系)」を作成し、平成 22 年

度まで継続的に見直しがを行われている。この CO2固定化・有効利用分野のうち、CO2変換利用

技術は表 2-1 のように整理されている。

表 2-1:CO2変換利用技術

大項目 中項目 小項目

変換・有効

利用

カーボンへの分解

プラズマ分解法

マグネタイト・Mg 法

メタン利用

炭素分離埋め戻し

化学品への変換

炭酸塩固定

超臨界 CO2利用

直接水素化

高分子合成

メタンによる CO2改質

電気化学還元

光化学還元

光合成藻類、細菌類による変換

非光合成細菌による変換

(出典:経済産業省, 技術戦略マップ 2010「CO2 固定化・有効利用分野」をもとに作成)

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2.2.CCUの国内外動向

CCU に関する国内外の政策機関の動向について、以下の各機関のウェブサイト、報告書から

情報収集した。

場所 政策機関

国内 経済産業省、財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)

国外

国際機関:IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change)、

GCCSI (Global CCS Institute)

欧州: 欧州委員会(EC: European Commission)

米国: 米国エネルギー省(U.S. Department of Energy)

2.2.1.国内

(1) 経済産業省

2015 年 6 月、経済産業省は「次世代火力発電の早期実現に向けた協議会」を設置し、将

来の有望技術確立を目的に、CCU の技術開発を継続する方針をまとめた。微細藻類((株)IHI)

および人工光合成(三菱化学(株))の技術を紹介し、技術が確立される時期を、2020 年代

後半以降と設定している。CCU に関する記載は以下のとおりである。

CCU は、現時点では CO2の大規模処理が困難であるものの、有価物の製造により利益が

創出する可能性がある。ただし、CO2の処理能力、有価物の製造効率の向上で課題があ

り、実用化のためには大きなイノベーションが必要。

CCU については、当面将来の有望技術確立を目指して技術開発を継続。現時点では、

不確定要素が多いが、今後、処理能力や利益創出の目標、技術革新による効率向上の

可能性などを検証し、必要に応じて開発方針、目標の精緻化、見直しを検討する。

(2) RITE

平成 16~23 年、RITE は「CO2固定化・有効利用分野の技術戦略マップ」において、CO2固

定化・有効利用を目的とした有効な技術に焦点を絞り、政策的な動きと合わせ評価・見直し

を行っている。評価の結果の一部は以下のとおりである。

CCS、海洋隔離、大規模植林以外で、削減ポテンシャル・コスト両面から有効な技術群

で導入に向けた取り組みが進められる技術として、炭酸塩の形で CO2 を固定化する方

法が挙げられる。

「生物による吸収固定技術」においては、海洋の生態系を利用した大気中からの CO2

の吸収技術は、大きな削減ポテンシャルが期待され、特に周囲を海洋で囲まれた我が

国にとっての価値が大きいと考えられる。

大型海藻を用いた吸収・固定について、現状では流れ藻の海底への沈降量が不明であ

り、さらに科学的理解を深める必要がある。

変換・有効利用技術については、CO2 を分解・化学品等へ変換するなど、CO2 を有効利

用することによって、CO2排出抑制に寄与するものであるが、温暖化対策技術として検

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討する場合には、有効利用等によりエネルギー使用に伴う CO2 排出が増加する場合も

あるため、CO2削減量などの効果を総合的に見極めることが必要である。

2.2.2.国外

(1) IPCC

2005 年、IPCC は、CO2回収・貯留に関する IPCC 特別報告書において、CO2の産業利用につ

いてまとめている。そこでは、炭酸塩固定化技術、化学製品の原料としての CO2利用可能性

について以下のような評価がされている。

炭酸塩固定化技術は、反応速度を速めるためエネルギーを必要とする。また、鉱石の

大規模な採掘、鉱石前処理、廃棄物処分などの環境への影響を 小限にする必要があ

ることが課題として挙げられる。

CO2の産業利用は、規模が小さく、貯留期間が短く、またエネルギーが必要となるため、

気候変動の緩和手段として有意義とはいえない。データ不足から十分な評価を行うこ

とは困難であり、有機化学ポリマーやプラスティックの製造における CO2 の使用につ

いて研究は続いているが、CO2の貯留ではなく、コストや有害物質対策がその推進力と

なっている。

(2) GCCSI

2011 年、GCCSI は Parsons Brinckerhoff と共同し、「CCS の採用を促進する:回収 CO2の

工業利用(Accelerating the uptake of CCS: Industrial use of captured carbon dioxide)」

を報告書としてまとめている。

報告書の目的は、CO2の既存および新規利用法を調査することで、CCS の開発および商用規

模での実施を促進し、さらに工業分野における CO2の回収と再利用の可能性を検討すること

である。

具体的な内容として、CO2 の産業利用を概観し、産業利用例を幅広く取り上げ、石油増進

回収(EOR)、尿素製造、地熱システム強化、ポリマー製造、藻類栽培、鉱物化(炭酸塩、コ

ンクリート養生、ボーキサイト残渣の炭酸塩化)、液体燃料(再生可能メタノール、ギ酸)、

炭層メタン回収(ECBM)について評価を行っている。結論の概要は以下のとおりである。

現在および将来、見込まれる CO2利用の需要は、人為起源 CO2排出量のわずか数パーセ

ントである。CO2利用によって世界規模で大幅に CO2が削減される可能性はないが、利

用施設および市場が排出源に近い好条件であれば、CO2利用は短期的な CCS プロジェク

トにとってある程度の収益源となる可能性がある。

新規 CO2 利用技術の大多数は、実用化となる技術の成熟度に達するまでに数年を要す

る。鉱物化技術は、 終的に地層貯留において CCS の補完的な役割を持つ可能性があ

り、小さい割合ながら人為起源 CO2 の排出量削減を促進することができる。燃料生産

における CO2利用技術も、化石燃料の代替として CO2の間接的な緩和となる可能性があ

る。これらの技術は有益だが、開発期間も長いため、短期的には CCS の商用規模での

実施を加速する推進力にはならない。

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バルク CO2(CO2を大量に販売する場合)の現在の市場価格(15~19 米ドル/トン)は、

将来の CO2の上限価格を示唆している。CO2利用により、バルク CO2の市場価格は、長

期的に上昇傾向になく、CO2排出量の規制が導入された場合には、下落傾向となる可能

性が高い。発電所、製鉄所およびセメント工場向けの CCS 開発については、高い炭素

価格が望ましく、また、プロジェクト資金が必要となるが、CO2利用による収益では十

分ではない。中期的には、天然ガスの処理および肥料生産など低価格の供給源からの

CO2の調達が、CO2利用の大部分を占める可能性が高い。

新規技術で実用化が近いものは「赤泥処理」、「再生可能メタノール」等である(表 2-2)。

表 2-2:各新規技術の開発の見込み

A 既に商用段階に

ある成熟した技術

B 商用段階に進む

見込みが高い技術

C 今後パイロット試験や

実証試験を経て商用段階に

進む見込みが高い技術

石油増進回収

尿素増産

赤泥処理

再生可能メタノール

炭酸カルシウム製造

コンクリート養生

石炭層メタン増進回収

地熱増進システム

ポリマー加工

藻類バイオマス

ギ酸製造

(出典:GCCSI, Accelerating the uptake of CCS: Industrial use of captured carbon dioxide

(2011))

また、各新規技術の開発段階について、図 2-1 に示す。

●及び●:既に実用されているもの;●:実証段階;●:商用段階

図 2-1 各新規技術の開発段階

尿素増産 ポリマー加工

藻類バイオマス

炭酸カルシウム製造

コンクリート養生

赤泥処理

再生可能メタノール

ギ酸製造

石炭層メタン増進回収

石油増進回収 地熱増進システム

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(出典:GCCSI, Accelerating the uptake of CCS: Industrial use of captured carbon dioxide

(2011))

(3) 米国エネルギー省

2014 年、米国エネルギー省(DOE)の下部機関である NETL が、「炭素貯留技術プログラムプ

ラン(Carbon Storage Technology Program Plan)」を報告書として作成し、その一部に CCU

に関する以下のような記載がある。

CO2 は熱力学的に安定であるが、特定の条件下では、エネルギーを必要とせず反応する。

特に、オフピーク時間帯で、再生可能エネルギーを使用し、原料として CO2を利用するのが

望ましい。従来のエネルギーバランスとライフサイクルに加えて、製品市場の理解が必要と

なる。CO2利用用途の多くは小規模であり、使用後に大気中に CO2を排出する場合もあり、結

果的に CO2削減量は少ない。近年の研究では、人為起源 CO2排出量と比較して CO2利用の需要

は圧倒的に少ないため、CO2 の利用は温室効果ガスの排出量を軽減するためのツールとして

有効ではない。しかし、CO2 利用技術を累積して見た場合、工業プロセスなどに経済的利益

をもたらす可能性を持っており、CO2利用技術を支援する。

(4) EC

2013 年、EC の DG CLIMA (Directorate-General for Climate Action)委託事業として、

コンサルティング会社 ECOfys 並びに Carbon Counts が共同で「欧州気候活動政策に係る回

収 CO2 の利用に関連する事項(Implications of the Reuse of Captured CO2 for European

Climate Action Policies)」を報告書として作成している。

報告書作成の目的は、CCU 技術の開発促進するため政策上の選択を考慮することであり、

排出量削減、エネルギー安全保障、産業革新など、CCU 技術から得られる潜在的なメリット

や、CCU を研究対象とすることに対する関心の高まりが背景に存在する。

全世界における CO2利用量は約 80Mt/年と推計され、そのうち、尿素の製造が大部分を占

める(50Mt/年)。大部分の CCU 技術は開発の初期段階にあることから、費用対効果および

CO2排出量削減の可能性は未知数である。また、CCU 技術の開発が、地理地形的条件や国にお

ける産業の発展状況のような要因に依存する側面がある。CCU 技術に関し、今後の EU の政策

について、以下の事項が指摘されている。

CCU 製品の適用について、製品の規格が支障となる可能性がある。例えば、EU 内では、

欧州規格 EN197-1 にて、セメントについて、様々な製品の配合比率の制限している。

将来、CO2利用のセメント製品の市場に影響を与える可能性がある。

バイオマス由来でない再生可能メタノールは 100%再生可能エネルギー源から得られ

た場合にのみ、再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive)の対象に該当

する。本指令の解釈は、技術進展の障害となる可能性がある。

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3. 国際情勢

3.1.CCSに関する国際条約

3.1.1.気候変動枠組条約

(1) CCS の CDM 化に関する動向

2011 年 12 月に南アフリカのダーバンで開催された、気候変動に関する国際連合枠組条約

(UNFCCC)における京都議定書第 7回締約国会合(CMP7)において、クリーン開発メカニズ

ム(CDM)としての CCS のための様式及び手順(M&P)5が採択され、CCS プロジェクトは CDM

として実行できることになった。また、2012 年 5 月に開催された第 67 回 CDM 理事会(EB67)

では、CCS CDM に関する以下のガイドラインや手順の文書が採択された。

・Guidelines for Completing the Project Design Document Form for Carbon Capture and

Storage CDM Project Activities(EB67 Report, Annex 25)

・Procedure for the Submission and Consideration of a Proposed New Baseline and

Monitoring Methodology for Carbon Capture and Storage CDM Project Activities

(EB67 Report, Annex 27)

・Guidelines for Completing the proposed new carbon capture and storage baseline

and monitoring methodology form(CDM-EB67-A25-GUID)

また、EB67 において CCS ワーキンググループ(CCS WG)が設立され、2013 年 3 月の第 72

回 CDM 理事会(EB72)では CCS WG に対する作業計画を採択している。

2012 年 11 月にカタールのドーハで開催された京都議定書第 8回締約国会合(CMP8)にお

いて、CCS の CDM に関する適格性のうち、CO2の越境移動を伴うプロジェクトや貯留サイトが

複数国に存在するプロジェクト及び CCS の認証排出削減(CER)単位のグローバルリザーブ

の設立に関する検討は、2016 年に開催予定の科学及び技術の助言に関する補助機関第 45 回

会合(SBSTA45)において実施することが決定された6。

2014 年 3 月の第 78 回 CDM 理事会(EB78)では、CCS の CDM 化に伴い必要となった以下の

CDM 関連文書の改訂及び新たな文書が採択された。

・Amendment to version 05.0 of the CDM project standard (CDM-EB78-A03)

・ Amendment to version 05.0 of the CDM validation and verification standard

(CDM-EB78-A04)

・Amendment to version 05.0 of the CDM project cycle procedure (CDM-EB78-A05)

・Guideline: Letter of approval for carbon dioxide capture and storage project

5 Modalities and procedures for carbon dioxide capture and storage in geological formations as clean development mechanism project activities(FCCC/KP/CMP/2011/10/Add.2, Decision 10/CMP.7) 6 FCCC/KP/CMP/2012/13/Add.2

Page 30: 平成27年度 地球温暖化問題等対策調査 (二酸化炭 …TCMは、アミン吸収法と冷却アンモニア回収プロセスを使用した2つの回収装置で構成され

27

activities (CDM-EB78-A06)

・Form for Expression of Agreement for carbon dioxide capture and storage project

activities by DNAs(CDM-EB78-A07)

(2) グリーン気候基金

グリーン気候基金(Green Climate Fund: GCF)は、2010 年の気候変動枠組条約第 16 回

締約国会合(COP16)においてその設立が合意され、2011 年の気候変動枠組条約第 17 回締約

国会合(COP17)において、その運用の取決めについても合意されている7。GCF はすべての

発展途上国における活動が対象となっているが、CCS も対象となる活動のひとつであること

が明記されている。2015 年 11 月に 8 つのプロジェクトを対象に初めての資金提供が決定さ

れたが、現時点では CCS 関連のプロジェクトは含まれていない8。

(3) その他

2014 年 10 月に開催された、「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別

作業部会(ADP)」では、土地利用、都市環境、CO2回収・利用・貯留(CCUS)、非 CO2温室効

果ガスの排出のそれぞれの分野における技術専門家会議(Technical Expert Meeting;TEM)

が実施された。CCUS の TEM は 10 月 21 日に実施され、CCUS の気候変動緩和策としての技術

評価をとりまとめている9。

また、2015 年 11 月に開催された気候変動枠組条約第 21 回締約国会合(COP21)及び京都

議定書第 11 回締約国会合(CMP11)では、CCS に関する具体的な議論はなかったようである

が、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて 2℃より十分低く保つとともに、1.5℃

に抑える努力を追求すること」を規定する新たな法的枠組みとなる「パリ協定」が採択され

た。この規定について GCCSI は、CCS を促進する内容であると評価している10。なお、IEAGHG11

は、CDM 等の既存の仕組みに加え、CCS にとって今後関連する可能性がある仕組みを図 3-1

のように示している。

7 Launching the Green Climate Fund (FCCC/CP/2011/9/Add.1, Decision 3/CP.17) 8 http://www.greenclimate.fund/-/project-briefs?inheritRedirect=true&redirect=%2Fhome 9 Technical examination process to unlock mitigation potential for raising pre-2020 ambition through carbon dioxide capture, use and storage (FCCC/TP/2014/13/Add.3) 10 https://www.globalccsinstitute.com/news/institute-updates/latest-news-institute-cop21 11 https://www.iea.org/media/workshops/2015/sally/DixonIEAGHG.pdf

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図 3-1 UNFCCC で CCS に関連する仕組み

(出典:IEAGHG, Update on CCS in the UNFCCC (2015 年))

3.1.2.ロンドン議定書

船舶からの廃棄物その他の物(wastes or other matter)の海洋投棄等を規制する「ロンド

ン議定書」12は、2007 年の締約国会合においてその附属書が改正され、極めて高い濃度の

(overwhelmingly)CO2を含むガスの海底下地層貯留が国際条約の下で初めて可能となった(表

3-1)。さらにこの会合において、ロンドン議定書改正に係る議論と並行して作成が進められて

いた「CO2の海底下地層貯留に係るガイドライン」が承認されている。

2009 年には、海底下地層貯留目的の CO2の越境移動を可能とするようロンドン議定書本文が

改正された。

12 1996 Protocol to the Convention on the Prevention of Marine Pollution by Dumping of Wastes and Other

Matter, 1972

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表 3-1 ロンドン議定書の抄訳

1996 Protocol to the London Convention

1972

ロンドン条約の 1996 年議定書

ARTICLE 4 DUMPING OF WASTES OR OTHER MATTER 1 .1 Contracting Parties shall prohibit

the dumping of any wastes or other matter with the exception of those listed in Annex 1.

.2 The dumping of wastes or other matter

listed in Annex 1 shall require a permit. Contracting Parties shall adopt administrative or legislative measures to ensure that issuance of permits and permit conditions comply with provisions of Annex 2. Particular attention shall be paid to opportunities to avoid dumping in favour of environmentally preferable alternatives.

2 略

第 4 条 廃棄物その他の物の投棄 1.1 締約国は、廃棄物その他の物(附属書 1に規定するものを除く。)の投棄を禁止する。

.2 附属書1に規定する廃棄物その他の物の投棄は、許可を必要とする。締約国は、許可の付与及び許可の条件が附属書 2 の規定に適合することを確保するための行政上及び立法上の措置をとり、環境上望ましい代替手段によって投棄を回避するための機会に特別の注意を払う。

2 略

ARTICLE 6 EXPORT OF WASTES OR OTHER MATTER 1 Contracting Parties shall not allow the export of wastes or other matter to other countries for dumping or incineration at sea. 2 Notwithstanding paragraph 1, the export of carbon dioxide streams for disposal in accordance with Annex 1 may occur, provided that an agreement or arrangement has been entered into by the countries concerned. Such an agreement or arrangement shall include: 2.1 Confirmation and allocation of

permitting responsibilities between the exporting and receiving countries, consistent with the provisions of this Protocol and other applicable international law; and

2.2 in the case of export to

non-contracting Parties, provisions at a minimum equivalent to those contained in this Protocol, including those relating to the issuance of permits and permit conditions for complying with the provisions of Annex 2, to ensure that the agreement or arrangement does

第 6 条 廃棄物その他の物の輸出 1 締約国は、投棄又は海洋における焼却のために廃棄物その他の物を他の国に輸出することを許可してはならない。

2. 1 項に関わらず、関係国間に協定または取り

決めが締結された場合には、附属書 1 に従った処分のための二酸化炭素を含むガスの輸出を行うことは可能である。そのような協定または取り決めは、以下を含む:

2.1 輸出国と受領国との間での許可責任の確認

とその配分に関する規定であって、本議定書およびその他の適用可能な国際法に合致するもの

2.2 非締約国への輸出の場合には、当該協定ま

たは取り決めが海洋環境を保護し保存するという本議定書の下の締約国の義務を害しないことを確保するための規定であって、付属書国 2 の規定に合致するための許可発給および許可条件に関わる規定を含み、本議定書に定められている規定と少なくとも同等のもの

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not derogate from the obligations of contracting Parties under this Protocol to protect and preserve the marine environment.

A contracting Party entering into such an agreement or arrangement shall notify it to the Organization.

そのような協定または取り決めを締結した締約国は、国際海事機関に対してその締結について通告する。

ANNEX 1 WASTES OR OTHER MATTER THAT MAY BE CONSIDERED FOR DUMPING 1 The following wastes or other matter are those that may be Considered for dumping being mindful of the Objectives and General Obligations of this Protocol set out in articles 2 and 3: .1 dredged material; .2 sewage sludge; .3 fish waste, or material resulting from

industrial fish processing operations; .4 vessels and platforms or other

man-made structures at sea; .5 inert, inorganic geological material; .6 organic material of natural origin;

and .7 bulky items primarily comprising

iron, steel, concrete and similarly unharmful materials for which the concern is physical impact, and limited to those circumstances where such wastes are generated at locations, such as small islands with isolated communities, having no practicable access to disposal options other than dumping.

.8 Carbon dioxide streams from carbon

dioxide capture processes for sequestration

2 略 3 略 4 Carbon dioxide streams referred to in paragraph 1.8 may only be considered for dumping, if:

附属書 1 投棄を検討することができる廃棄物その他の物 1 次の廃棄物その他の物については、この議定書の第 2 条及び第 3 条に規定する目的及び一般的義務に留意し、投棄を検討することができる。

.1 しゅんせつ物 .2 下水汚泥 .3 魚類残さ又は魚類の工業的加工作業から生ずる物質

.4 船舶及びプラットフォームその他の人工海洋構築物

.5 不活性な地質学的無機物質 .6 天然起源の有機物質 .7 主として鉄、鋼及びコンクリート並びにこれらと同様に無害な物質であって物理的な影響が懸念されるものから構成される巨大な物(ただし、投棄以外に実行可能な処分の方法がない孤立した共同体を構成する島嶼等の場所においてそのような廃棄物が発生する場合に限る。)

.8 二酸化炭素を隔離するための二酸化炭素の

回収工程から生ずる二酸化炭素を含んだガス 2 略 3 略 4 1.8 に規定する二酸化炭素を含んだガスにつ

いては、次の場合に限り、投棄を検討することができる。

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.1 disposal is into a sub-seabed geological formation; and .2 they consist overwhelmingly of carbon dioxide. They may contain incidental associated substances derived from the source material and the capture and sequestration processes used; and .3 no wastes or other matter are added for the purpose of disposing of those wastes or other matter.

.1 海底下の地層への処分である場合 .2 当該二酸化炭素を含んだガスが極めて高い

割合で二酸化炭素から構成されている場合。ただし、当該二酸化炭素を含んだガスには、その起源となる物質並びに利用される回収工程及び隔離工程から生ずる付随的な関連物質が含まれ得る。

.3 いかなる廃棄物その他の物もこれらを処分

する目的で加えられていない場合

(出典:外務省ホームページ、淡路剛久「ベーシック環境六法(六訂)」をもとに作成)

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3.2.国別法整備

3.2.1.日本「海洋汚染防止法」

国内では、2007 年、海洋汚染防止法が改正され、環境大臣の許可のもと CO2海底下地層貯

留が可能となった。これは前年にロンドン条約 96 年議定書13が改定され、海洋環境保全を前

提に CO2海底下地層貯留が国際的に可能となったことを受けたものである。

改正海洋汚染防止法の CO2 海底下地層貯留に係る規制枠組みの主要な点は次のとおりであ

り、その枠組みは、ロンドン条約 96 年議定書の考え方に沿ったものとなっている。

・廃棄物等の海底下廃棄を原則禁止とし、CO2海底下地層貯留は例外としたこと

・CO2 海底下地層貯留に当たって、環境大臣の許可を必須としたこと

・許可の申請時における環境アセスメントの実施と環境監視の計画策定を義務付けたこと

CO2海底下地層貯留に係る海洋汚染防止法の体系を表 3-2 に示した。

表 3-2 海洋汚染防止法および関連する政令・省令・告示

法 「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(一部改正)

政令 「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令」(一部改正)

許可に係る省令 「特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄の許可等に関する省令」

測定法に係る

省令

「特定二酸化炭素ガスに含まれる二酸化炭素の濃度の測定の方法を

定める省令」

許可申請に係る

告示

「特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄の許可の申請に関し必要な事項を

定める件」

本枠組みでは CO2 海底下地層貯留を環境大臣の許可制としており、これに伴う許可申請の

手続きを一連の書類で定めている。海洋汚染防止法で許可申請時に要求される文書および記

載される事項を、「特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄の許可の申請に係る指針」14に従ってま

とめたものが表 3-3 である。許可申請に必要な書類は、実施計画書と監視計画からなる許可

申請書(表中の1.)と、6つの添付書類(表中2.~7.)から構成される。

本枠組みの特徴として、許可の申請時における環境監視の計画策定と環境アセスメントの

実施が挙げられるが、それぞれ許可申請書を構成する「監視計画」及び許可申請書の添付書

類である「海底下廃棄事前評価書」にて説明される。

13 Convention on the Prevention of Marine Pollution by Dumping of Wastes and Other Matter 1972 and 1996

Protocol Thereto(1972 年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の 1996 年の議定書) 14 http://www.env.go.jp/earth/kaiyo/ocean_disp/1hourei/pdf/t7_ccs_sisin.pdf

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表 3-3 海洋汚染防止法における許可申請書類の要件

海洋汚染防止法における許可申請書類

1.許可申請書

1.1 申請者

1.2 実施計画

・ 海底下廃棄実施期間

・ 特定二酸化炭素ガスの特性

・ 特定二酸化炭素ガスの数量

・ 海底下廃棄をする海域の位置及び範囲

・ 海底下廃棄の方法

・ 海洋環境保全上の障害が生じた場合等に障害の拡大又は発生を防止するために講ずる措置

1.3 監視計画

・ 通常時監視(監視の方法、監視の実施時期及び頻度)

・ 懸念時監視(監視の方法、監視の実施時期及び頻度)

・ 異常時監視(監視の方法、監視の実施時期及び頻度)

2.海底下廃棄事前評価書

2.1 特定二酸化炭素ガスの特性

2.2 特定二酸化炭素ガスの海洋漏出を仮定した場合に予測される漏出の位置、範囲及び漏出量

・ 漏出した特定二酸化炭素ガスによる海洋環境影響の程度を予測するために把握した海域の流況

その他の自然的条件の現況及び把握方法

・ 漏出事例仮説の設定

・ CO2 の海洋への漏出の位置、範囲及び漏出量の予測

2.3 潜在的海洋環境影響調査項目

2.4 潜在的海洋環境影響調査項目の現況

2.5 圧入した特定二酸化炭素ガスの海洋漏出を仮定した場合に予測される潜在的海洋環境影響調査項

目に係る変化の程度及び変化の及ぶ範囲並びに予測方法

2.6 圧入した CO2 の海洋漏出を仮定した場合に予測される海洋環境に及ぼす影響の程度の分析及び事

前評価結果

3.海域選定書

3.1 地層の特徴

3.2 特定二酸化炭素ガスの潜在的な移動及び漏出の経路の推定結果

3.3 特定二酸化炭素ガスの、地層内での空間的な広がり及び推定廃棄可能量

3.4 海底下廃棄をする海域の海洋環境の特徴

4.海底下廃棄以外に適切な処分の方法がないことの説明

5.申請者が経理的基礎を有することの説明

6.申請者が技術的能力を有することの説明

7.全体計画の概要

(出典:海洋汚染防止法をもとに作成)

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3.2.2.EU CCS指令

EU では 2009 年 6 月、EU 圏内での CCS 実施に関する法的枠組みを定めた「CCS 指令(Directive

2009/31/EC of the European Parliament and of the Council)」が施行され、CO2 の地層貯留

が可能となった。この指令は、CCS 事業に必要となる地層探査や CO2の貯留の許認可と、それに

伴う貯留後の坑井の監視等についての許認可制度について定めており、さらにこの附属書 1 及

び 2 では、リスク評価や坑井の監視計画策定の際に考慮すべき技術的事項等について規定して

いる。また、CCS Ready に関しては、火力発電所の出力が 300MW 以上の場合、1) CO2貯留のた

めの適切な用地が確保できる、2) 輸送設備の技術的、経済的に実現可能である、3) CO2の回収

装置の備え付けが技術的・経済的に可能である、などの要件が規定されている。

各加盟国は、CCS 指令のこうした内容を国内で実施するために必要な法整備を、指令施行か

ら 2 年以内に完了するよう義務付けられている。いち早く整備を完了した英国の例を次項に記

載する。

3.2.3.英国 エネルギー法・電気法

英国は EU の「CCS 指令」 の国内担保法の整備にいち早く着手し、CCS の許認可制度と火力発

電所に CCS 設備の追設を求める CCS Ready 制度を整備している。

(1) エネルギー法(Energy Act)

許認可制度は、石油生産事業の許認可について規定した「Energy Act」等の改正により設

けられ、沖合の貯留サイト候補の調査や CO2の圧入等を行う事業者は、許認可当局の許可を

必要とすることとなった(図 3-2)。

図 3-2 Energy Act における CCS の規制フロー

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(英国エネルギー法をもとに作成)

CO2圧入終了後の事業者の責任について同法は、EU CCS 指令と同様に、 低 20 年間の監視

後に CO2の完全な封じ込めが確認できること等の条件が満たされた場合、政府に移転するこ

とができるとしている。

(2) 電気法(Electricity Act)

英国では EU の「CCS 指令」及び CO2排出削減目標を達成すべく掲げた「クリーンコール」

への対応として、EU 諸国でいち早く CCS Ready を制度化している。この制度は発電所設置許

可等について規定した「Electricity Act 1989」の改正により行われ、今後火力発電所の新

設又は改修許可を申請する事業者は、当該発電所が以下の CCS Ready 要件を満たすことを証

明するよう義務付けられた。

・将来の CO2回収施設設置用地確保

・CO2回収施設追設に技術的実行可能性の評価

・CO2回収施設追設に経済的実行可能性の評価

・沖合貯留層の提示

・CO2輸送に係る技術的実行可能性の評価

・有害物質取り扱い許可の取得

・上記要件の維持確認のための定期的な報告

なお、政府は 2020 年ごろには CCS の技術的・経済的実効性が証明されると予想しており、

その場合、その後に新設されるすべての火力発電所に、稼働開始時から CO2回収・輸送・貯

留施設を備えていることを求めるとしている。

3.2.4.米国UICプログラム

米国では CCS の全工程を網羅する法制度は存在しないものの、CO2の地中貯留については、廃

棄物の地層処分等に使用される各種坑井を規制する「UIC プログラム」において定められてい

る。同国では地下水を飲用水源とすることが多く、地下飲用水源の汚染を防止する「安全飲用

水法」が、1972 年より施行されている。UIC プログラムは、安全飲用水法のもとに定められて

おり、廃棄物等を地下注入する事業者に、許可の取得を求めてきた。

UIC プログラムはこれまでに、こうした坑井を 5種類(クラス)に分類し運用されてきたが、

将来的な CO2の地中貯留の普及が予想されたため、米国環境庁は 2010 年、新たに 6番目のクラ

ス(「クラス VI」)を設けている。

事業者によるクラス VI の規制遵守等を支援する目的で、各種ガイダンスが策定されている

(表 3-4)。同ガイダンスには、CCS の試験的プロジェクト、金融メカニズム、坑井の建設・稼

動、事業計画、監視、貯留地の選定、CO2 漏洩対策等が記載されている。クラス VI における許

認可等の流れを図 3-3 に示す。

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表 3-4 UIC プログラム クラス VI ガイダンス・マニュアル

ガイダンス名 概要 公表時期

Using the Class V Experimental

Technology Well Classification

for Pilot Geologic

Sequestration Projects

クラス V 坑井で行うことが可能な、試

験的 CCS プロジェクトに関するガイダ

ンス

2007 年 3 月

Research and Analysis in

Support of UIC Class VI Program:

Financial Responsibility

Requirements and Guidance

クラス VI 坑井の財務責任の要件を満

たす、推奨される金融メカニズムにつ

いて詳述したガイダンス

2010 年 12 月

Class VI Well Construction

Guidance

適切な坑井の建設及び稼動についての

ガイダンス

2012 年 5 月

Class VI Well Project Plan

Development Guidance

事業実施者が許可申請時に提出しなけ

ればならない 5 つの計画(レビュー区

域及び異常時の措置、試験及びモニタ

リング、坑井閉鎖、閉鎖後のサイト管

理、サイト閉鎖)についてのガイダン

2012 年 8 月

Class VI Well Testing and

Monitoring Guidance

坑井の完全性(integrity)が確保され

ていること、CO2 の地層中での移動や

圧力上昇が当初の予測範囲内にあるこ

と等を監視する際のガイダンス

2013 年 3 月

Class VI Well Site

Characterization Guidance

CO2 貯留地を選定する適切な手法につ

いて詳述したガイダンス

2013 年 5 月

Class VI Well Area of Review

Evaluation & Corrective Action

Guidance

サイト特性やモデリングに関する情報

の利用方法や、CO2 漏洩時の対処等に

ついて詳述したガイダンス

2013 年 5 月

(出典:米国環境保護法(Environmental Protection Agency:EPA)ホームページ)

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図 3-3 UIC プログラム クラス VI における許認可等の流れ

(出典:UIC プログラムをもとに作成)

許可申請・許可

レビュー区域の評価

区域内の坑井に対する是正措置

圧入井建設

運 転

検査および監視

圧入後サイト管理

事故・復旧対応地下飲用水源への危険

YES

圧入終了(坑井プラグ)

サイト閉鎖

将来的な地下飲用水源への危険

YES

NO

(原則 50年以上)

井戸の所有者またはオペレータ

レビュー区域の再評価

(最低10年おき)

NO

是正措置の必要性

区域内の坑井に対する

是正措置YES

NO

申請時に必要な情報(25項目)

・ サイト情報・ 各種計画書 等

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4.CCS導入

4.1.炭素税

炭素税は、フィンランド、オランダ、ノルウェーをはじめとする欧州諸国やカナダの一部の

州などで導入されている。

カナダのアルバータ州では、2007 年に導入された「Specified Gas Emitters Regulation」

に基づき、各施設の排出目標を超える排出の 1 トンあたり 15 カナダドルの炭素税(Carbon

Pricing)が導入されていた。この規制の適用対象は CO2換算排出量が年間 10 万トンを超える

産業施設である。ところが、アルバータ州政府は 2015 年 11 月に「Climate Leadership Plan」

を公表し、1 トンあたり 15 カナダドルであった炭素税を 2016 年 1 月 1 日には 20 カナダドル、

2017 年 1 月 1 日には 30 カナダドルに引き上げることを明らかにした。同時に、すべての部門

を対象に 2017 年 1 月 1日以降に 1トンあたり 20 カナダドル、2018 年 1 月 1日以降は 1トンあ

たり 30 カナダドルの炭素税が導入されることも決まっている。

オーストラリアでは、2012 年にギラード首相の「Clean Energy Legislative Package」(以

下、「CELP」という。)において炭素税導入が決定され、CO2換算で年間 25,000 トン以上の GHG

を排出する上位 500 の事業者に対して、1 トンあたり一定金額を課す仕組みとなっていた。開

始時の炭素税は、1 トンあたり 23 豪ドルであり、2013 年 7 月には 24.15 豪ドル、2015 年 7 月

には 25.40 豪ドルに引き上げられ、それ以降は、市場原理にもとづいた価格に徐々に移行し、

EU 域内排出量取引制度(EU-ETS)と互換性を持たせる計画となっていた。しかしながら、2013

年 9 月、炭素税廃止を公約に掲げたアボット首相が就任し、2014 年 7 月 14 日に「Clean Energy

Legislation Bill 2014」を含む 8つの関連法案が連邦議会へ提出された。これらの法案は同年

7 月 17 日に議会を通過し、法律として成立した。これにより、2012 年に導入された炭素税は、

2014 年 7 月をもって廃止されている。また、2015 年以降の EU 域内排出量取引制度(EU-ETS)と

の計画についても廃止となっている。

4.2.排出原単位規制

現在、米国、カナダ、英国で排出原単位規制が導入されている。

例えばカナダでは、2015 年 7 月 1 日に「Reduction of Carbon Dioxide Emissions from

Coal-fired Generation of Electricity Regulations」が施行され、420 トン CO2/GWh の性能

基準が制定された。この性能基準は、新設及び使用期間が 50 年を経過した石炭火力発電装置が

対象となっている。この規制の目的は、高効率天然ガス、再生可能エネルギー、又は CCS を伴

う化石燃料焚きの発電などの低排出又は排出のない発電に移行することである。対象となる装

置が CCS を導入している場合には、規制の適用が 2024 年末まで免除される規定も存在する。

また米国では、2015 年 8 月にオバマ大統領及び米国 EPA が、既存の発電所に対する規制であ

る「Clean Power Plan」と新設・改修・再建された発電所に対する CO2の排出規制である「Carbon

Pollution Standards」の 終版を公表した。既存の発電所に対する規制は、EPA が各州それぞ

れのエネルギー消費に応じた CO2排出削減の目標となる排出性能基準を設定しており(2022 年

~2029 年の暫定目標と 2030 年の 終目標)、レートベース(単位:lb/MWh)又は質量ベース(単

位:short tons=2000 ポンド)のどちらかの基準を選択し、その基準を満たすための手段を決

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定する計画を各州が策定することとなっている。各州は、計画を 2018 年までに EPA に提出する

こととなっているが、2018 年までに計画を提出しなかった場合には EPA が決定した計画に従う

こととなる。

新設・改修・再建された発電所に対する規制は、通常天然ガスを燃料とする燃焼タービンと、

通常石炭を燃料とする発電設備の蒸気発生装置のそれぞれについて排出性能基準が設定されて

いる(表 4-1)。また、新設の石炭火力発電所に対する基準については、排出される CO2のうち

約 20%を回収すれば達成できるとしている。さらに、新設の石炭火力発電所における排出削減

の 良システム(BSER)は、排出 CO2の一部を CCS で回収する、高効率な超臨界微粉炭(SCPC)

焚きの蒸気発生装置としている。改修・再建の石炭火力発電所に対する基準については、CCS

の使用を条件又は前提とするものではない。

表 4-1 米国の新設・改修・再建された発電所に対する排出性能基準

プロセス 排出基準

新設及び再建の

天然ガス燃焼タービン

ベースロード

天然ガス焚き

1,000 lb CO2/MWh(グロス)

1,030 lb CO2/MWh(ネット)

ベースロードではない

天然ガス焚き 120 lb CO2/MMBtu

複数の燃料焚き 120~160 lb CO2/MMBtu

改修された天然ガス燃焼タービン 基準の設定なし

新設の石炭火力発電所 1,400 lb CO2/MWh(グロス)

改修された石炭火力発電所

※ も厳しい場合の基準;一時間あたりの排出が

10%以上増加する改修のみが対象

1,800 lb CO2/MWh(グロス)

(入熱>2,000 MMBtu/h)

2,000 lb CO2/MWh(グロス)

(入熱≤2,000 MMBtu/h)

再建された石炭火力発電所

1,800 lb CO2/MWh(グロス)

(入熱>2,000 MMBtu/h)

2,000 lb CO2/MWh(グロス)

(入熱≤2,000 MMBtu/h)

(出典:米国 EPA、”Carbon Pollution Standards Final Rule”の Table-1 をもとに作成)

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40

5.経済支援策(インセンティブ)

5.1.経済支援策2つの視点

経済的支援策については、過去の検討において、設備投資と運転保守(O&M)の両方の視点か

ら整理がなされており、以下にその一部を引用する15。

(1) 設備投資の視点

・政府又は公的機関からの出資

・補助金

・融資保証

・無利子または低利融資

・税額控除

・加速度償却

・固定資産税免除・減免

・研究開発(R&D)投資支援

・CCS 信託基金(CCS Trust Fund)

・債券市場(Bond Market)

(2) 運転保守(O&M)の視点

・補助金

・固定価格による買取り(Feed in Tariffs)

・CCS ポートフォリオ・スタンダード

・炭素隔離ボンド(CCS ボンド)

5.1.1.設備投資の視点

CCS 事業会社(特定目的会社(SPC)等)に対して、事業化の状況に応じた柔軟な政府又は公

的機関からの出資により、投資リスクの軽減を図る。

(1) 補助金

CCS 設備投資に対して、事業化の状況に応じた柔軟な補助金支給制度により、民間の投資

リスク軽減を図る。

(2) 融資保証

融資に対して政府保証制度により、政府出資と同様に金融リスクの軽減を図る。

(3) 無利子または低利融資

長期融資期間(圧入開始から圧入終了まで)の無利子または低利融資制度により、資金調

達コスト(支払利息)を下げ、プロジェクト採算性の向上を図る。

(4) 税額控除

設備投資額の一定額相当の税金が控除される税額控除制度により、資金収支の改善を図る。

(5) 加速度償却

加速度償却制度により、減価償却のスピードを速めて税金支払の先送りをさせることで、

プロジェクト初期のキャッシュフローの改善を図る。

15 経済産業省、「平成 20 年度地球温暖化問題対策調査、二酸化炭素回収・貯留技術実用化方策調査報告書」

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41

(6) 固定資産税免除・減免

CCS 事業では、設備と土地の固定資産投資が大きいので、固定資産税免除・減免制度によ

り、プロジェクトのキャッシュフローの改善を図る。

(7) 研究開発(R&D)投資支援

エネルギー消費量の大幅削減技術開発や設備投資削減技術等に係る効果的な研究開発

投資に資金を供与することにより、研究開発投資の負担軽減に役立つとともに CCS コスト削

減につながる革新的技術開発に寄与する。

(8) CCS 信託基金(CCS Trust Fund)

CCS 信託基金の設立を図る。

例えば、火力発電所の石炭利用量に応じた料金(fees)を徴収する基金を創設し、当該基

金により、新設石炭火力発電所に配備させる CCS のコスト全額を負担する。

(9) 債券市場(Bond Market)

債券市場を活用し、電力債等を発行し CCS 資金を調達する。

(8)の CCS 信託基金は政府が税金の一種である料金を徴収して基金を運営し、集まった金

を CCS 事業に全て充てていく仕組みであり経済的支援策としてあげている。(9)の債券市場

は電力会社の社債市場をイメージした例示である。CCS コストが電力料金に反映されて始め

て機能するスキームであり経済的支援策の例としてあげている。後述する CCS ボンドとはま

ったく性格を異にする債券商品である。

5.1.2.運転保守(O&M)の視点

(1) 補助金

規制強化が進み、CCS 以外の手段での限界削減費用が上昇しても、なお、CCS の限界削減

費用が高い場合に、平均的限界削減費用と CO2貯留価格の差分を補助金で支給する。

ここでの前提は、CO2排出事業者から CO2を受け取る CCS-SPC が、CO2排出事業者から処理

委託を受けて CCS 事業(分離回収-輸送-貯留)を実施するものである。事業収益は排出事業

者から CCS 事業コスト(利益を含む)に見合う「処理委託料」を受け取る方法である)。

なお、CO2排出事業者が CCS 貯留量の排出権を排出権市場で売却した益を CCS 委託料とす

る場合、排出権売却益で不足する差額を補助金で支給する仕組みを上記の代案として提案す

る。この場合、SPC は貯留した CO2量を示す「貯留証明」発行、CO2排出事業者は貯留証明に

相当する排出権を入手、当該排出権を市場で売却するスキームである。

(2) 固定価格による買取り(Feed in Tariffs / FIT)

例えば、CCS 配備の火力発電所を建設・運営する IPP 事業者の発電電力を、一般電気事業

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者が CO2貯留価格に相当する固定価格買取り制度(Feed in Tariffs / FIT)により購入する。

これにより利益を含む CCS コストの回収が補償される。

(3) CCS ポートフォリオ・スタンダード(CCSPS:仮称)

例えば、一般電気事業者に対し、年間販売電力量に応じた一定割合以上の電気を CCS 配備

火力から購入するよう義務付ける。購入価格は利益を含む CCS コスト回収額の価格とする。

CCSPS は、FIT とともに CCS コストを小売電力価格に上乗せすることで、広く需要家に CCS

コストを負担してもらうスキームである。固定電話の全国規模の設置コストをユニバーサル

チャージとして消費者に負担してもらう仕組みと基本的に同じである。

仮に CCS 設備 2 基で 1,000 億円の投資が必要であれば、日本の電力消費量が年間約 1 兆

kWh であるので 0.1 円/kWh の負担となる。

また、一般電気事業者に替わって、日本卸電力取引所(JERX)の「グリーン電力等の卸電

力」市場を活用する仕組みも検討できる。

(4) 炭素隔離ボンド(CCS ボンド)

ドイツ PIK(Potsdam Institute for Climate Impact Research)の Ottmar Edenhofer が、

市場を活用した二つのスキームを提案している。

【第 1のスキーム】

CCS 事業者が CO2貯留量に見合う排出権証書を買う代わりに CCS ボンドを購入し、政府関

係当局に預け入れておく。もしも漏洩量が一定の限度以下に抑えられていることが実証でき

れば、30 年後に高金利で償還される。また、もし事業者が資本市場に対して漏洩が無いこと

を証明できれば、ボンドの資本市場での売却が可能となり、早期の現金化ができる。

【第 2のスキーム】

貯留地から何らかの理由で不測の漏洩が予測される場合、事業者はまず、大気排出見込み

量相当の排出権証書を購入するよう要請される。継続監視により 悪の漏洩率が回避できる

状況が証明されれば、差分相当の排出権量を CO2市場で売却することができる。

二つのスキームの特徴は異なるが、両者は、①漏洩のないことの証明が早期現金化に繋が

る点、あるいは、②安全性の確保が金銭授受に直結する点で安全な貯留の動機付けとなる点

で類似している。

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6.社会受容性(Public Acceptance:PA)

6.1.CCSの住民理解の促進

CCS を構成する CO2の回収・輸送・圧入といった各要素技術は、以前から石油採掘における増

進回収(EOR)として用いられている既存技術であるが、それらを一貫して用いる CCS について

は実績に乏しい。そのため、世界各地で数多く実証試験を計画する中で、CCS の実行にあたり

実施区域の住民が、漠然とした不安を持ち反対の意思を示し、地元自治体が必要な許可発給を

拒むなどの事例が、わずかながら確認されている。

このため CCS を推進する上で、CCS の社会的受容性を形成することが重要視されている。

6.2.海外におけるCCSプロジェクトのPA事例

6.2.1.米国カーソン16

2006 年 2 月、石油メジャーである BP 社は、Edison Mission Energy 社とパートナーシッ

プを組み、石油コークスの燃焼による水素製造を行う商業プラント(出力 500MW)の建設と

運転を米国カリフォルニア州カーソン(Carson)(ロサンゼルス中心部より南へ約 20 ㎞の地

点、図 6-1 に示す)で行うと発表した。

図 6-1 カーソンの位置

(出典:GCCSI ホームページ) 17

16 Global CCS Institute (http://www.globalccsinstitute.com/publications/carson-ccs-project-case-study)

(2016/3/24) 17 Global CCS Institute (http://hub.globalccsinstitute.com/publications/carson-ccs-project-case-study/13-location)

(2016/3/24)より抜粋。

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このプラントでは、水素製造により発生する CO2を回収したのち、近傍の油田にパイプラ

インで輸送し、EOR に利用する。したがって CO2貯留も行う。この水素製造・CO2回収貯留・

EOR を組み合わせたプロジェクトは「カーソンプロジェクト」と呼ばれた。カーソンプロジ

ェクトの発表時は、EOR と CO2貯留を行う場所はまだ明確に決定されていなかった。

当初は、2011 年の終わりもしくは 2012 年の初めにはプラントの建設を開始する予定であ

ったが、このプロジェクトは EOR と CO2貯留の場所を決定することができず、2007 年半ば頃

には事業進捗が停滞した。この停滞している間に、プロジェクトへの反対派が増加した。2008

年半ばごろ、業界紙が、BP 社が新しいパートナーシップを組み、カーソンプロジェクトと同

様の、水素製造・CO2回収貯留・EOR を組み合わせたプロジェクトの許可申請を Kern County

で提出していると報道した。この報道以降、カーソンプロジェクトは事実上消滅したと世間

からみなされた。BP 社がプロジェクトの実施場所をカーソンから Kern County に移した理由

は、経営上の理由とされている。ひとつは、カーソンプロジェクトで EOR を実施する予定で

あった油田の所有権が複雑であったこと、もうひとつは、EOR を実施する予定であった油田

までのパイプラインの費用の問題とされている。

6.2.2.米国TAMEプロジェクト

米国のオハイオ州グリーンビル (図 6-2)において計画されていた「TAME プロジェクト」

は、米国中西部の複数の州が参加する地域パートナーシップである、「Midwest Regional

Carbon Sequestration Partnership(MRCSP)」等が主導する CCS 実証事業のひとつとして、

2008 年より開始された。

図 6-2 グリーンビルの地図(★が圧入予定地のエタノール工場を示す )

(出典:Google マップをもとに作成)

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事業に係る環境影響評価の過程で行われたパブリックコメントが開始された直後、グリー

ンビルの住民を中心に、事業に対する反対運動が開始された。MRCSP は住民への説明会等を

数回開催したものの、住民は「CO2の漏出」、「圧入による地震の誘発」、「不動産価格の下落」

等を懸念し、反対運動を継続した。

こうした運動は1年以上にわたり行われ、2009 年 8 月下旬、事業者により実証事業の中

止が発表された。詳細は述べられてはいないが、地元自治体等の強硬な反対や、住民による

大規模な反対運動などが中止の主な理由と考えられる。

ただし、事業主のひとつである MRCSP は、グリーンビルの他の地域においても実証試験を

計画しており、グリーンビルでの事業中止が発表された直後に、他地域での貯留成功を発表

している。このことから、反対運動の盛んなグリーンビルでの CCS 実証試験に、事業者側が

見切りをつけたことも考えられる。

6.2.3.オランダ・バレンドレヒトプロジェクト

オランダのバレンドレヒトには、大小ふたつの枯渇天然ガス田(図 6-3)が存在し、石油メ

ジャーである Shell 社等は、この地で陸域での CCS 実証試験を計画していた。オランダ政府は、

温暖化対策の一環として、2つの大規模 CCS 実証事業を行うことを計画しており、バレンドレ

ヒトの CCS は、その計画のひとつに据えられていた。

図 6-3 バレンドレヒトの地図(緑影が貯留層を示している)

(出典:GCCSI ホームページ)

計画では、5,000 人以上が居住する住宅地の直下に貯留層が位置しており、「CO2 漏出」の影

響を不安視する多くの住民が、また、地元自治体が反対していた。このため、事業者側は事業

に必要な地元自治体の許可を得ることができず、事業は計画よりも大幅に遅延した。

事業の遅れを懸念した政府は、「小規模貯留で問題がないことが確認できた場合に限り大規模

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貯留へ移行する」という条件を提示して、事業の実施を承認した。しかしながら、地元自治体

は許可の発給を拒み続けたため、事態は膠着し、結果的に経済大臣により中止が発表された。

6.2.4.フランス・ラックプロジェクト

フランスのラックでは、CCS 実証事業が発表された後に事業地周辺の住民側から CO2漏出等の

懸念が示されたが、パブリックミーティング等を通じた情報公開を続けたことにより、円滑に

事業が進められ試験に成功している。

事業公表時には、CO2の「人体への影響」や「安全」に関する懸念等の声が、地元住民により

挙げられていた。

こうした不安を解消することを目的として、事業者は、パブリックミーティングを地元自治

体及び地元住民を対象に 40 数回開催し、また、住民に坑井の公開なども行い、情報公開に努め

た。さらに、事業者は、必要に応じて圧入を停止すること、実証事業は町の産業活性化に大き

く貢献すること、町の税収向上に向けた協議を行う用意があることなどを住民及び地元自治体

に提示した。

図 6-4 ラックの地図

(赤がガス田、緑が油田、黄が商用ガス貯蔵地、それぞれを結ぶ線はパイプラインを示している)

(出典:Nicolas Aimard, Lacq CO2Pilot: AnOxy-Combustion and CO2 Storage Pilot Plant Project at Lacq (2007))

こうした活動の結果、その後の目立った反対運動はなく、事業着手後 3年が経過した 2010 年

1 月、CO2貯留施設が竣工し、同年 6月には貯留が開始された。

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7.標準化

7.1.DNVによるガイドライン策定事業

産業向けの認証及び海運向け船級サービスを主な事業とするノルウェーの DNV は、2006 年末

から CCS のガイドライン作成作業に取り組んでいる。これらガイドラインは、Joint Industry

Partnership(JIP)プロジェクトとして産業界のパートナーと共同で作成され、その後 DNV の

推奨慣行(Recommended Practice:RP)として維持管理されることになる。具体的には、JIP

CO2CAPTURE(CO2 回収技術の認定)、JIP CO2PIPETRANS(CO2 パイプラインの設計と運用)、JIP

CO2WELLS(CO2 圧入井の再認定)、JIP CO2QUALSTORE(CO2 地中貯留のサイト及びプロジェクトの

選定と認定)、JIP CO2RISKMAN(CCS のリスク管理)の 5 分野に分かれており、ガイドラインが

完成している。各 JIP で策定されたガイドラインを表 7-1 にまとめた。

表 7-1 各分野の JIP で開発されたガイドライン

JIP ガイドラインの内容

CO2CAPTURE CO2回収技術の認定のためのガイドライン

CO2PIPETRANS 安全性及び信頼性が高く費用対効果に優れたパイプラインでの CO2

輸送のためのガイドライン

※CO2PIPETRANS の対象範囲は CO2 輸送におけるパイプライン部分の

みで、昇圧ステーション及びブースターステーション、並びに CO2

圧入に用いる坑井は含まれない。

CO2WELLS CO2圧入井の再認定のためのガイドライン

※操業中の坑井及び一時的又は永久に廃坑となった坑井を取り扱

い、新たに設計する坑井については取り扱わない。また、

CO2QUALSTORE では取り扱っていない、CO2貯留サイトの坑井のリスク

評価を行う業界共通の枠組の策定も行う。

CO2QUALSTORE CO2 地中貯留を行うサイト及びプロジェクトの選定と認定のための

ガイドライン

※プロジェクトのライフサイクルのうち、「サイトの絞り込み」「評

価と選定」「操業」「閉鎖」の 4段階について取り扱う。

CO2RISKMAN CO2 の取扱いについて安全及び環境に関する重大事故の危機管理を

効果的に実施するためのガイドライン

(出典:各ガイドラインをもとに作成)

また、これらのガイドラインに基づき回収、輸送、貯留の各分野の RP 及び技術認定の仕様を

示す DNV Service Specification(DSS;DNV サービス仕様書)が策定されている。

・RP-J201:Qualification Procedures for CO2 Capture Technologies

2010 年 4 月完成、JIP CO2CAPTURE のガイドラインが基礎となっている。

・RP-J202:Design and Operation of CO2 Pipelines

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2010 年 4 月完成、JIP CO2PIPETRANS のガイドラインが基礎となっている。

・RP-J203:Geological Storage of CO2

2012 年 4 月完成、2013 年 6 月改訂、JIP CO2WELLS と JIP CO2QUALSTORE のガイドラインが基

礎となっている。

・DSS-402:Qualification Management for Geological Storage of CO2

2012 年 6 月完成、2013 年 6 月改訂、RP-J203 の関連文書で、CO2地中貯留の技術認定の際の

仕様を示している。

2011 年 10 月、DNV は Shell の Quest CCS プロジェクトに対し、安全な CO2貯留を認める認定

証を発行した。Quest CCS プロジェクトでは、アルバータ州の Fort Saskatchewan 近郊にある

Scotford Upgrader から年間 100 万トン以上の CO2を回収し、恒久的に地下に貯留することが計

画されている。DNV は、Quest CCS プロジェクトの貯留層が、圧入した CO2を安全で恒久的に貯

留するのに適しているかどうかの評価するための総合的なレビューの調整を Shell から任命さ

れた。Shell の貯留開発計画は専門家パネルによる 2 週間に及ぶレビューの結論を受けて、例

えば十分な貯留容量、長期的な封じ込め、適切なリスク管理計画、継続的な封じ込めを証明で

きる MMV(計測・監視・検証)プログラムなど数々の異なる評価指標に基づき目的に適ってい

ることを認証した。これは同社の CO2QUALSTORE ガイドラインに沿ったものと考えられ、CO2貯

留の安全性を認める世界初の認証となる。

2012 年末には、DNV はオーストラリア政府と Victoria 州政府が実施する CarbonNet プロジェ

クトのサイト選定プロセスを RP-J203 に基づき審査し、サイト選定ポートフォリオに対し

「Statement of Feasibility」を発行した。さらに、CarbonNet プロジェクトが作成した候補

サイトごとの評価計画(Appraisal Plan)も検証済みであり、現在は図 7-1 に示す DNV の CO2

貯留の技術認定プロセスのうち赤い矢印で示す段階にある。

図 7-1 CarbonNet プロジェクトに対する DNV の DSS-402/RP-J203 に基づく認定プロセス

(出典:Victoria 州政府, 2015 をもとに作成)

リスク管理

絞り込み&評価 許可

坑井の認定

許可

絞り込み 評価 許可 設計 建設 操業 閉鎖

EP- 探査許可

SP-CO2 貯留許可

TOR – 責任の移転

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7.2.NETLによるベストプラクティス・マニュアル策定事業

米国 DOE による炭素隔離プログラムのアウトプットとして、NETL は CCS のベストプラクティ

ス( 適慣行)・マニュアルの整備を進めている。監視・検証・算定、サイト選定、貯留層分類、

リスク評価/シミュレーション、坑井、PA、地上隔離の 7 分野それぞれのマニュアルを作成・

公表している。また、貯留層分類及び地上隔離以外のマニュアルについては、2012 年又は 2013

年に改訂版を公表している。NETL は 2016 年~2017 年にかけてすべてのマニュアルを更新する

予定であり、2020 年には 終的なガイドラインを策定するスケジュールを公表している(表

7-2)。

表 7-2 NETL によるベストプラクティス・マニュアル策定スケジュール

ベストプラクティス・マニュアル Version 1 Version 2 Final

Guidelines

監視・検証・算定

Monitoring, Verification, and Accounting

2009 年初版

2012 年改訂2016 年 2020 年

サイト選定

Site Screening, Site Selection, and Initial

Characterization

2010 年初版

2013 年改訂2016 年 2020 年

貯留層分類

Geologic Storage Formation Classifications2010 年初版 2016 年 2020 年

リスク評価/シミュレーション

Risk Analysis and Simulation 2010* 2016 年 2020 年

坑井

Carbon Storage Systems and Well Management

Activities

2012 年初版

2013 年改訂2016 年 2020 年

PA

Public Outreach and Education

2009 年初版

2013 年改訂2016 年 2020 年

地上隔離

Terrestrial Sequestration 2010 年初版 2016 年-

* 実際は 2011 年完成 (出典:Dressel, 2011 をもとに作成)

7.3.CSAによるガイドライン策定事業

カナダ規格協会(CSA)は、2012年 10月に CO2地中貯留のための規格「CSA Z741-12 Geological

storage of carbon dioxide」を完成した。この規格はカナダ規格委員会(SCC)及び米国規格

協会(ANSI)から認定を受けており、CCS 分野で 初のカナダと米国における共通の規格とな

っている。さらに、本規格は国際標準化機構(ISO)の CCS の ISO 化における CO2地層貯留に関

するワーキンググループ(WG3)による作業の基礎文書となっている(詳細は 7.4 を参照)。

本規格の目次を表 7-3 に示す。

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50

表 7-3 CSA Z741-12 Geological Storage of Carbon Dioxide の目次

1 範囲

2 参考出版物

3 定義

4 管理体制

4.1 活動範囲

4.2 プロジェクト境界

4.3 行動指針に対する経営者の取り組み

姿勢

4.4 計画及び意思決定

4.5 資源

4.6 コミュニケーション

4.7 文書化

5 サイト・スクリーニング、選定及び特性調

5.1 一般事項

5.2 サイト・スクリーニング

5.3 サイト選定

5.4 サイトの特性調査及び評価

5.5 特性調査のモデリング

6 リスク管理

6.1 一般事項

6.2 目的

6.3 プロセス

6.4 コンテキスト

6.5 リスク管理計画

6.6 リスクアセスメント

6.7 リスク処理の計画とレビュー

6.8 レビューと文書化

6.9 リスクコミュニケーションとリスク

コンサルテーション

7 坑井のインフラ整備

7.1 材料

7.2 設計

7.3 建設

7.4 腐食対策

7.5 操業保守

8 モニタリングと検証

8.1 目的

8.2 M&V プログラムの期間

8.3 M&V プログラムの目的

8.4 M&V プログラムの計画

9 閉鎖

9.1 一般事項

9.2 作業

9.3 閉鎖期間の計画

9.4 圧入後及び閉鎖期間の認定プロセス

9.5 撤去

9.6 閉鎖後の長期運営管理

(出典:CSA Z741-12 Geological Storage of Carbon Dioxide をもとに作成)

本規格は CCS の「貯留」部分に関するものであり、「回収」及び「輸送」は含まれていない。

貯留層としては主に陸域の塩水帯水層及び枯渇油ガス田を対象としているが、EOR に関連する

貯留にも適用できるとしている。また、環境及び人間の健康へのリスクを 小限にする方法で、

環境にとって安全な CO2 の長期的封じ込めを促進することを目的に要件を規定している。適用

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範囲は、設計、建設、操業、メンテナンス、閉鎖等を含み、それらの行為に伴うリスクの管理

に関する勧告が含まれる。サイト選定及び管理に関しては、プロジェクトごとに独自のもので

あり、固有のリスク及び不確実性についてはサイトごとに対処するとしている。なお、責任が

公的機関に移転した後の活動については規定していない。

7.4.CCSのISO化

2011 年 10 月、CCS のための新たな ISO 規格を作成するための専門委員会である ISO/TC265 が

設立された。ISO/TC265 において中心となっている参加国は、オーストラリア、カナダ、中国、

フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、韓国、マレーシア、オランダ、ノルウェー、カ

タール、サウジアラビア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国の 20 カ

国である(2016 年 3 月現在)。ISO/TC265 の下に、CO2回収(WG1)、CO2パイプライン輸送(WG2)、

CO2 貯留(WG3)、定量化及び検証(WG4)、クロスカッティングイシュー(WG5)、CO2-EOR(WG6)

に関する 6 つのワーキンググループが設立されている。それぞれのワーキンググループで取り

組んでいる内容を表 7-4 に示す。表中の段階は(1)提案、(2)作成、(3)委員会、(4)照会、

(5)承認、(6)出版の順で進展する。

WG1 の「CO2回収システム、技術、プロセス」、WG4 の「定量化及び検証」、WG5 の「ライフサ

イクルリスク管理」については、現時点では技術報告書(TR)が作成されており、その後国際

規格(IS)の作成に移行する予定である。また、WG2 の「パイプライン輸送システム」の IS 作

成では、DNV が策定した輸送分野の推奨慣行(Recommended Practice)である「RP-J202 Design

and Operation of CO2 Pipelines」が基礎文書となっている。さらに、WG3 の「CO2地層貯留」

の IS 作成では、カナダ及び米国で共通の規格となっている「CSA Z741-12 Geological storage

of carbon dioxide」が基礎文書となっているが、CO2-EOR などの炭化水素回収に関連する貯留

を明確に除外したり、沖合での貯留に適用できるようにするなどの見直しがおこなわれている。

表 7-4 ISO/TC265 の各ワーキンググループによる取り組み

WG 内容 段階

(1)~(6)

IS/TR の

出版目標

1

CO2回収システム、技術、プロセス:技術報告書(TR) (5)承認 TR:2016-2017 年

IS:2017 年

発電所からの燃焼後回収法の性能評価方法:国際規

格(IS)

(2)作成 -

2 パイプライン輸送システム:国際規格(IS) (4)照会 IS:2016 年

3 CO2地層貯留:国際規格(IS) (3)委員会 IS:2017 年

4 定量化及び検証:技術報告書(TR) (3)委員会 TR:2016 年

5

ボキャブラリー

Part 1 クロスカッティング用語:国際規格(IS)

(3)委員会 -*

ボキャブラリー (1)提案 -*

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52

Part 2 回収に関する用語:国際規格(IS)

ボキャブラリー

Part 3 輸送に関する用語:国際規格(IS)

(1)提案 -*

ボキャブラリー

Part 4 地層貯留に関する用語:国際規格(IS)

(1)提案 -*

ボキャブラリー

Part 5 定量化及び検証に関する用語:国際規格(IS)

(1)提案 -*

ボキャブラリー

Part 6 CO2-EOR に関する用語:国際規格(IS)

(1)提案 -*

ライフサイクルリスク管理:技術報告書(TR) (2)作成 TR ドラフト:

2016 年

6 CO2-EOR:国際規格(IS) (2)作成 -

* 他の WG とのタイミングの問題があり、期間を延長している。

(出典:CSLF Technical Group の Tim Dixon 氏(2015 年 6 月 17 日)のプレゼン資料、及び ISO/TC265

の Standard Catalogue をもとに作成18)

18 http://www.cslforum.org/publications/documents/regina2015/Dixon-ISOTC265Update-TG-Regina0615.pdf, http://www.iso.org/iso/iso_catalogue/catalogue_tc/catalogue_tc_browse.htm?commid=648607

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添付資料

平成 27 年度二酸化炭素回収・貯留に係る技術動向等調査に係る

委員会(第1回~第8回)

概要

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平成 27 年度二酸化炭素回収・貯留に係る技術動向等調査に係る

委員会(第1回~第8回)

概要

1.開催の目的:

二酸化炭素回収・貯留に係る技術動向等調査の一環として、情報収集及び意

見交換を目的に、CCS 技術の実用化に向けて検討すべきテーマについて、有識

者による委員会を開催する。

2.委員会の主な役割:

各回の検討テーマについて、今後の課題等について専門的な観点から議論・

ご意見を頂く。

3.委員:

委員(五十音順、敬称略)

愛知 正温 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境システム学専攻

エネルギー環境学研究室 講師

金 亜伊 横浜市立大学 国際総合科学群 自然科学系列

国際総合科学部 理学系 物質科学コース 准教授

末永 弘 一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域

主任研究員

徂徠 正夫 国立研究開発法人 産業技術総合研究所

地圏資源環境研究部門 CO₂地中貯留研究グループ 主任研究員

中野 和彦 公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 CO₂貯留研究グループ

研究員

藤木 淳平 公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 化学研究グループ

研究員

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4.委員会の概要:

第1回:地球温暖化問題と CCS

日時 平成 27 年 12 月 25 日(金) 13:30~15:30

場所 経済産業省別館 第1会議室628号室

発表者 秋元 圭吾(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 システム研究グ

ループ グループリーダー・主席研究員)

概要 発表者から、COP21の結果報告及び地球温暖化問題における CCS の課

題等について説明後、質疑応答をおこなった。その後、地球温暖化問題も

含め、第2回以降の委員会で期待される情報の内容、議論すべきテーマ、

トピック等についてディスカッションを行った。

第2回:CO2分離・回収技術

日時 平成 28 年 1 月 19 日(火) 13:30~15:00

場所 経済産業省別館 第1会議室628号室

発表者 飯嶋 正樹(三菱重工業(株)エネルギー・環境ドメイン 化学プラント・

社会インフラ事業部 技師長)

概要 発表者から、分離回収技術について説明後、質疑応答をおこなった。その

後、化学吸収法のコスト削減の課題、他の回収方法可能性、分離回収設備

の条件等についてディスカッションをおこなった。

第3回:CO2貯留技術

日時 平成 28 年 1 月 19 日(火) 15:15~16:45

場所 経済産業省別館 第1会議室628号室

発表者 中野 和彦 (公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 CO₂貯留研究グ

ループ 研究員)

概要 発表者から、CO2貯留技術について説明後、質疑応答をおこなった。その後、

日本における貯留可能量の評価、考え方、地層貯留、CO2監視と漏洩等につ

いてディスカッションをおこなった。

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第4回:CCS 国際動向

日時 平成 28 年 1 月 28 日(木) 10:00~11:30

場所 経済産業省別館 第1会議室628号室

発表者 Clare Penrose(Global CCS Institute アジア・パシフィック太平洋

担当ジェネラルマネージャー)

概要 発表者から CCS の国際動向について説明後、質疑応答をおこなった。その

後、EOR の CCS としての取り扱い、UK における CCS プロジェクト補助金の

中止、非 OECD 諸国へのアプローチ、CCS への投資、CCS にとってのパリ協

定の成果、日本の CCS の方向性等についてディスカッションをおこなった。

第5回:CCS 貯留安全性

日時 平成 28 年 2 月 15 日(月) 13:30~15:00

場所 経済産業省別館 第3会議室626号室

発表者 金 亜伊(横浜市立大学 国際総合科学群 自然科学系列 国際総合科学

部 理学系 物質科学コース 准教授)

概要 発表者から地震に関連する貯留安全性について説明後、質疑応答をおこな

った。その後、誘発地震の事例・観測・定義(判断)・管理・予測、CCS の

地理的な適性等についてディスカッションをおこなった。

第6回:パブリック・アクセプタンス(PA)

日時 平成 28 年 2 月 15 日(月) 15:10~16:40

場所 経済産業省別館 第3会議室626号室

発表者 木村 浩(非営利活動法人 パブリック・アウトリーチ 研究企画部 研

究統括/理事)

概要 発表者から CCS に関するパブリック・アクセプタンスについて説明後、質

疑応答をおこなった。その後、CCS のコミュニケーション構造、事業と社

会の立ち位置、「安全」と「安心」等についてディスカッションをおこなっ

た。

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第7回:CCS の経済性

日時 平成 28 年 3 月 11 日(金) 14:00~15:30

場所 経済産業省別館 948共用会議室

発表者 本郷 尚((株)三井物産戦略研究所 メガトレンド調査センター 国際情

報部 シニア研究フェロー)

概要 発表者から CCS の経済性について説明後、質疑応答をおこなった。その後、

分離回収技術の改善ポテンシャルと不確実性、CO2クレジット価格、貯留の

リスクとモニタリング等についてディスカッションをおこなった。

第8回:委員会まとめ(第1回~第7回)

日時 平成 28 年 3 月 11 日(金) 15:40~17:10

場所 経済産業省別館 948共用会議室

発表者 篠原 千晶(日本エヌ・ユー・エス(株)環境評価ユニット サブリーダ

ー)

概要 発表者から第1回~第7回委員会の概要を発表後、質疑応答をおこなった。

その後、CCS 技術実用化に向け、今後検討すべき課題等についてディスカ

ッションをおこなった。