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病 理
平成 30 年度 病理組織検査サーベイ報告
病理(エラスチカワンギーソン染色)
【はじめに】
エラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色は、弾性線維を紫黒色、筋線維を黄色、膠原線維を赤色に染め分ける
ことができるため、まず全身の臓器に存在する血管系に威力を発揮する。血管系の種類の同定だけではなく、そ
れらの病変の認識に有用である。染色の原理は、レゾルシン・フクシン液により、弾性線維に含まれるポリペプチ
ド鎖、粘液多糖結合したタンパクがレゾルシン・フクシンと化学結合して紫黒色を呈し、ワンギーソン液により、組
織の粗密と染色分子の大小の違いを利用し、酸性フクシンで密度の低い膠原線維を赤く染め、ピクリン酸で膠原
線維より密度の高い筋線維や赤血球を黄色に染め分ける。
例年のごとく、施行者の技量、染料以外の個体差、検体間の取り扱い差が出にくく、病理組織検査法の標準化
を推進するため実施したので、その方法と成績結果について報告する。
【材料および実施方法】
材料は10%中性緩衝ホルマリン液にて固定した肺(解剖材料)のパラフィン包埋ブロックを使用。各施設でエラ
スチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色に適切な厚さに薄切し、染色を実施して頂いた。
なお、染色工程により染色結果に差異が生じると思われたので、所定の報告書をウェブ上で公開し、各施設で
現在行っている方法の記入もお願いした。
【判定方法】
下記の事項を基準に減点法で判定した。
① 弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄色、核を黒褐色に染め分けできているか
② 染色ムラやコントラスト、色バランスなど
③ 薄切、封入などの技術的な部分
以上の3項目について判定者は、兵臨技・病理細胞検査研究班 解析委員(8人)で行い、病理医の立場から、
伊藤 智雄先生(神戸大学附属病院 病理部)にご確認頂いた。
判定基準は、『A.満足すべき標本』、『B-a.診断上支障のない標本』、『B-b.診断上支障はないが不満の残
る標本』、『C.診断上支障をきたす標本』として、慎重なる評価判定を行った。
【結 果】
<集計にあたって>
1)申し込み施設40に対し、回収施設数40施設(100%)であった。
<集計結果>
エラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色についてのアンケート(1)~(4)の集計結果は別表に示すとおりである。
また、アンケート(5)(6)についても記載した。
今回、システムの不具合により、ワンギーソン液のアンケートをとることができなかったため、ワンギーソン液
の集計結果を載せることができなかった。今後、このようなことが無いように病理細胞研究班と精度管理事業部
が協力し取り組んできたい。
染色の判定結果および講評評価
兵臨技精度管理調査の病理組織検査部門への参加施設総数は40施設であった。
今回はパラフィン包埋ブロックを用い、参加施設で薄切し染色を実施して頂く精度管理となった。
参加施設の判定結果(ランク総数)は表1に示し、染色の評価は表2のごとくである。
<エラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色について>
1)『満足すべき標本』と判定された施設は8施設で、弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄色、核を
黒褐色に染め分けられている。染色ムラや共染が見られない、もしくは共染が見られてもごく軽度であり、
また全体のバランスが適切で観察しやすい仕上がりであった。病理診断をするにおいて満足すべき標本
であった。
2)『診断上支障のない標本』と判定された施設は30施設で、弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄
色、核を黒褐色に染め分けられているが、染色性がやや弱い・やや強い、共染が見られるが病理診断に
おいて差し支えのない標本であった。
3) 『診断上支障をきたす標本』と判定された施設は2施設で、弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄
色、核を黒褐色に染めてはいるが、共染が強く先述のいずれかの染色にかぶり判定できない標本であった。
参加施設の判定結果(ランク総数)(表1)
【結 語】
エラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色の精度管理における結果は『満足すべき標本』および『診断上支障のな
い標本』と判定された施設は 40 施設中、38 施設(95.0%)という結果が得られた。
A『満足すべき標本』と評価された施設は 20.0%であった。この結果に満足せず、アンケート結果などを参考に
より一層の精度向上に努めて頂きたい。
B-aの施設は弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄色、核を黒褐色に染め分けられているが、
染色性がやや弱い・やや強い、他、少し共染が見られるが、コントラストは良い。
B-b の施設はB-aの施設に比べて全体のバランスが悪く、コントラストが悪い。『診断上支障のない標本』で
はあるが、高評価施設の染色法を参考に自施設の染色法を再検討し、品質向上に努めて頂きたい。
C『診断上支障をきたす標本』の施設が残念ながら 2 施設あった。レゾルシンフクシン液の色が強く、ほとんど
が黒褐色に染まっており判別ができなかった施設と、酸フクシンが強く共染し判別が困難な施設があった。
今回、C判定(診断上支障をきたす標本)の施設については、本年から実施された状況確認書により是正処置
判 定 A.満足すべき標本 B.診 断 上 支 障 の な い 標 本 C.診断上支障をきたす標
本 a b
標本数 8 15 15 2
(%) 20.0% 37.5% 37.5% 5.0%
A 弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄色、核を黒褐色に染め分けられ
ている。染色ムラや共染が見られない、もしくは共染が見られてもごく軽度。病理診
断をするにおいて満足すべき標本である。 満足すべき標本:
B-a 弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄色、核を黒褐色に染め分けられ
ているが、染色性がやや弱い・やや強い、他、少し共染が見られるが、コントラストは
良い。 診断上支障のない標本:
B-b 弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄色、核を黒褐色に染め分けられ
ているが、やや強い共染が見られ、コントラストが悪い。 診断上支障のない標本:
C 弾性線維を紫黒色、膠原線維を赤色、筋線維を黄色、核を黒褐色に染めてはいる
が、共染が強く先述のいずれかの染色にかぶり判定できない。 診断上支障をきたす標本:
を行い、改善を求めた。
エラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色は16施設がひと月に0~5枚と実施件数は少ない施設が多いが、反面、
100枚以上も4施設あり多くの施設で汎用的に行われている染色と思われる。
薄切厚は 16 施設が 3~4μm と多かった。厚さは HE 染色と同じ厚さが多いが、臓器により厚めに薄切する方
が見やすい、薄めに薄切する方が見やすい等色々な意見があり、薄切厚もバラバラであった。今回の肺では、
標準的な厚さの 3~4μm が観察しやすいと感じた。
染色方法は多くはほぼ同じような試薬を用いての染色であったが、1 施設ワンギーソン液の代わりにピクロシリ
ウスレッドを用いている施設があった。(ワンギーソン液のアンケートを詳しくとることができなかったが、アンケー
トの回答内容からもう 1 施設ピクロシリウスレッドを用いている施設があると思われる。)ピクロシリウスレッド液
の染色性はワンギーソン液とほぼ変わりなく、代用可能であると考える。
レゾルシンフクシン液の染色時間は 30 分~60 分以内、特に 60 分の施設が最も多かった。39 施設とほとんど
の施設が安価で安定している理由から調整済み試薬を用いていた。
レゾルシンフクシン液後の分別用試薬では 100%アルコールが 27 施設と多く、塩酸アルコールで行っている
施設も 9 施設あるが、塩酸濃度やアルコール濃度にはばらつきがあった。分別を行っていない施設も 3 施設あ
った。
鉄ヘマトキシリンは調整済み使用施設が 27 施設、自家調整が 10 施設、記載なしが 3 施設であった。鉄ヘマ
トキシリンを調整している施設は、レゾルシンフクシン液と比べて多かった。鉄ヘマトキシリンは、調整を使用直前
に行う事が多く、長期保存すると精度的に落ちるため自家調整が多いのではないかと推測する。
今回の EVG 染色は、比較的染める機会の多い染色と思われる。試薬も調整済みがあり簡便になっていること
から、染色性は安定していると思われた。しかし、自家調整している施設も多く、染色時間も施設間に大きな差が
あった。また、本染色は分別が必要と思われるが、染色液ごとに行っている施設もあれば、全く分別を行ってい
ない施設もあった。それにより、コントラストに違いが見られたり、別の線維に色が残ってしまっていたりと様々な
結果が見られた。
今回、ワンギーソン液のアンケートをとることができなかったが、ワンギーソン液の酸フクシンの赤色とピクリン
酸の黄色の染色の差がはっきりと見られた。酸フクシンの染色性では淡いピンク色から、マゼンタ色まで幅広い
赤系の色が見られた。また、酸フクシンの赤系の色が強く、赤血球は本来黄色に染まるはずが、赤に染まってし
まっている施設もみられた。また、今回は薄切から染色までを各施設で実施していただいたが、送付したブロック
に軟骨等が含まれており薄切が難しかったと思われた施設も数施設見受けられた。それにより、今回は薄切に
対する技術的な減点は行わなかった。
今回、残念なことに 2 施設が C 評価となってしまった。2 施設の原因は異なり、レゾルシンフクシン液の黒褐
色が強く、赤や黄色が薄く、赤血球まで黒く染まっている施設と、酸フクシンの入りが強く、黄色がほとんどみられ
ず、弾性線維の紫黒色部分にも酸フクシンの赤が入り込んで共染していた施設があった。
また今回、すべてのアンケートをとることはできなかったが、最高評価施設の染色手順を教えて頂いたので下
記に記載している。参考にして頂けたら幸いである。
解析集に判定(ランク別)結果の病理組織標本写真を掲載しているので参考にしていただきたい。
我々病理・細胞検査研究班は、病理技術の向上および普及を図り、病理組織検査法の標準化を推進するよう
努力するために精度管理を引き続き行わなければなければならないと痛感した。
最後に職務ご多忙中にもかかわらず、精度管理にご参加下さいました各施設の技師の皆様に御礼申し上げ
ます。
(文責:病理・細胞検査研究班)
平成30年度(第38回)兵臨技臨床検査精度管理
病理組織検査報告書(表2)
施設番号 エラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色 染色評価
A B-a B-b C
1 9280169 ○
2 9280162 ○
3 9280002 ○
4 9280003 ○
5 9780066 ○
6 9280010 ○
7 9280098 ○
8 9280146 ○
9 9280059 ○
10 9280012 ○
11 9780014 ○
12 9280148 ○
13 9280280 ○
14 9280160 ○
15 9280117 ○
16 9280007 ○
17 9780032 ○
18 9280143 ○
19 9280390 ○
20 9280099 ○
21 9280001 ○
22 9280164 ○
23 9280091 ○
24 9280083 ○
25 9280153 ○
26 9280100 ○
27 9280033 ○
28 9280095 ○
29 9280035 ○
30 9280125 ○
31 9280322 ○
32 9280051 ○
33 9280187 ○
34 9280047 ○
35 9780060 ○
36 9280092 ○
37 9280140 ○
38 9280135 ○
39 9280149 ○
40 9280115 ○
EVG染色のアンケート結果
(1) 貴施設では 1 ヶ月何枚位、エラスチカ・ワンギーソン染色をしていますか。
薄切枚数(月) 施設数(40) %
0~5枚 16 40.0
5~10枚 9 22.5
11~50枚 8 20.0
51~100枚 3 7.5
100枚以上 4 10.0
(2) 何μmで薄切していますか。
薄切厚 施設数(40) %
1.5~2㎛ 3 7.5
2~3㎛ 14 35.0
3~4㎛ 16 40.0
4~5㎛ 7 17.5
(3) 今回貴施設で行った方法を具体的に記入して下さい。
脱パラ 施設数(40) %
Xy→AL 36 90
Xy→クリアプラス→AL 1 2.5
クリアプラス→AL 1 2.5
リモクリーナーD→AL 1 2.5
ティシュ―クリア 1 2.5
染色前前処理 施設数(40) %
塩酸アルコール 11 27.5
アルコール 3 7.5
流水or精製水 26 65.0
レゾルシンフクシン液 施設数(40) %
0~30分以内 8 20.0
31~60分以内 25 62.5
60~90分以内 1 2.5
91分以上 6 15.0
分別 施設数(40) %
100%アルコール 27 67.5
1%塩酸アルコール 3 7.5
0.5%塩酸AL 1 2.5
0.2%塩酸70%AL 1 2.5
80%AL 1 2.5
塩酸AL 2 5.0
1%塩酸70%AL 2 5.0
なし 3 7.5
水洗 施設数(40) %
流水水洗 33 82.5
流水水洗 1分 0.5%塩酸アルコール 20回上下 流水水洗 1分 1 2.5
余分な色素が落ちるまで流水水洗 1 2.5
流水→蒸留水(精製水) 4 10.0
精製水 1 2.5
鉄ヘマトキシリン 施設数(40) %
5分未満 3 7.5
5分以上10分未満 20 50.0
10分以上 17 42.5
鉄ヘマ後分別 施設数(40) %
1%塩酸70%AL 4 10.0
1%塩酸AL 9 22.5
0.5%塩酸70%AL 1 2.5
0.5%塩酸AL 3 7.5
0.5%塩酸水 1 2.5
0.2%塩酸AL 1 2.5
0.2%塩酸70%AL 1 2.5
塩酸AL 1 2.5
70%AL 1 2.5
なし 18 45.0
鉄ヘマトキシリン後水洗 施設数(40) %
流水水洗 35 87.5
流水水洗 →精製水 2 5.0
微温湯水洗 10分 → 蒸留水 1 2.5
流水水洗、微温湯で色出し→蒸留水 1 2.5
温水水洗 1 2.5
ワンギーソン染色 施設数(40) %
ワンギーソン液5分未満 3 7.5
ワンギーソン液5~10分未満 9 22.5
ワンギーソン液10分以上15分未満 13 32.5
ワンギーソン液15分以上~30分 11 27.5
ワンギーソン液時間不明 3 7.5
ピクロシリウスレッド(1時間) 1 2.5
ワンギーソン液後 施設数(40) %
流水水洗(軽く) 22 55.0
100%AL 13 32.5
70%AL 3 7.5
ろ紙で余分な染色液を吸い取る 2 5.0
脱水 施設数(40) %
アルコール 39 97.5
イソプロピルアルコール 1 2.5
透徹 施設数(40) %
キシレン 32 80.0
キシレン→クリアプラス 1 2.5
クリアプラス 1 2.5
リモクリーナーD 1 2.5
ヘモD 2 5.0
UIキシレン 1 2.5
ユーアルカゾール 1 2.5
冷風乾燥 1 2.5
封入 施設数(40) %
マリノール 16 40.0
エンテランニュー 17 42.5
エクセルマウント 1 2.5
マルチマウント480 1 2.5
標本封入剤エクセルマウント 1 2.5
MGK-S 2 5.0
ユークリア 1 2.5
HSR液 1 2.5
(4)今回使用した試薬とメーカー名を記入して下さい。
1).レゾルシンフクシン液
試薬メーカー 施設数 %
武藤化学 39 97.5
記入なし 1 2.5
合計 40 100
「理由」
・安定しているため
・簡便
・染色者による試薬の調整ムラを防ぐため
・染色性が良好
・以前から使用しており、特に変更する理由がないから。
・比較的安価なため
2).鉄ヘマトキシリン液
施設数(40) %
調整試薬(武藤化学) 27 67.5
自家調整 10 25
記載なし 3 7.5
「調整試薬を使う理由」
・染色液の安定性が良い
・染色者による試薬の調整ムラを防ぐため
・自家調整が煩雑なため
・精度管理の一環
・手頃な容量なので
【鉄ヘマトキシリン調整方法】
(5)染色操作や試薬調整方法のコツや工夫していること、注意点などがあれば具体的に教えて下さい。
・レゾルシンフクシン液の前に1%塩酸アルコールを通す
・脱パラ後に1%塩酸アルコールに馴染ませている。ワンギーソン液の分別は素早くする。
・ワンギーソン液10分染色(少し長めにすると赤血球等黄色に染色される部分が明瞭になる)
・ワンギーソン液に酸フクシンの代わりにシリウスレッドを使用している。
・冷蔵試薬は室温に戻して使用。鉄ヘマトキシリン液のⅠ、Ⅱ液は等量混合・30分以上経てから使用。ワンギー
ソン氏液A・Bは100:15の割合で混合して使用。
・ワンギーソン液後の脱水前に、ろ紙で余分な染色液を取り除き、なるべく脱水を迅速にすませる。
・ワンギーソン液の調整時、赤みが強く出るため、飽和ピクリン酸液50mlに対して酸フクシン染色液4~4.5mlで調
整しています。
・ワンギーソン液がアルコールで落ちやすいので手早くする。
・ワンギーソン液の後はピクリン酸が抜けないように水洗を素早く行う。
・試薬の調整は染色直前に行う。
・ワンギーソン液の代わりにピクロシリウスレッドをつかっている。こちらの方が赤のはいりがよい。鏡検時に赤と
黄のバランスをみてピクリン酸とシリウスレッドを調整する。
脱水時にピクリン酸が抜けやすいので素早く行う。
・レゾルシンフクシン染色後、弾性線維の染まり具合を確認するため鏡検する。
ワンギーソン染色後のアルコールは赤や黄色に染まる膠原線維や筋線維の色が落ちないよう手早く行う。
・ワンギーソン液の後は水洗を行わない
・ワンギーソン液は、ワンギーソンA液(武藤化学)とワンギーソンB液(武藤化学)を使用時10:1で混合。
・レゾルシンフクシン液後は背景がクリアになるまでしっかり分別する
(6)また染色についての質問等あればお書きください。
・ワンギーソン液の代わりにシリウスレッドを使っている施設はどのくらいありますか?
メーカー 施設数
回答
(10施設)
ヘマトキシリン メルク・武藤化学・記載なし 5・1・4
塩化第二鉄
和光純薬・シグマアンドリッツジャ
パン・関東化学・ナカライタスク・
不明
5・2・1・1・1
塩酸 和光純薬・シグマアルドリッチ・関
東化学・不明 3・3・1・3
調整法
第一液としてヘマトキシリン一水和物1gを100%アルコール100mlに溶解し1%ヘマトキシ
リン溶液を作る。
第二液として塩化鉄(Ⅲ)六水和物29gを蒸留水100mlに溶解した29%塩化第2鉄を作製
し、そのうち4mlと特級塩酸1ml、蒸留水95mlを混合する。
塩化第二鉄塩酸溶液(29%塩化第二鉄20ml,塩酸5ml,蒸留水475ml)と1%ヘマトキシ
リン95%エタノール溶液(ヘマトキシリン粉末5g,95%エタノール500ml)を等量混合す
る。*すべて4分の1量で作製施設もあり。
メルクのヘマトキシリンで1%ヘマトキシリン95%エタノール溶液を作製。これを1液とし
て、武藤化学の2液と等量混合して使用している。
A評価プロトコル
脱パラ (キシレン 5 分×3 槽、100%Al 3 分×
4 槽)
流水水洗
ワイゲルトのレゾルシンフクシン液 (武藤化
学) 90 分
流水水洗 余剰のレゾルシンフクシンを落とす
1%塩酸 70%アルコール 背景が白くなるまで (塩酸アルコール中にレゾルシンフクシ
ンが溶け出さなくなるまで)
流水水洗 塩酸アルコールを落とす程度
ワイゲルトの鉄ヘマトキシリン (武藤化学) 10 分
流水水洗 余剰の鉄ヘマトキシリンを落とす
1%塩酸 70%アルコール 背景が白くなるまで (塩酸アルコール中に鉄ヘマトキシリン
が溶け出さなくなるまで)
流水水洗 塩酸アルコールを落とす程度
ワンギーソン液 (武藤化学) 15 分
流水水洗 ワンギーソン液をさっと落とす程度に軽く
脱水(100%Al 4 槽) 手早く
透徹(キシレン 3 層) 可能な限り手早く
細 胞
平成 30 年度 細胞検査サーベイ報告
細胞(フォトサーベイ)
【はじめに】
今回の細胞検査は例年どおりフォトサーベイを行った。昨年度同様、各設問につき判定区分と推定病変を設け、
回答していただくようにした。また回答状況をよりよく把握するために、わからないとした理由や細胞所見などを書
いていただける欄を設けた。
【サーベイ参加施設】
申し込み 47 施設に対し回答総数 47 施設(100%)であった。
【設問について】
今回のフォトサーベイはパパニコロウ染色を用い、設問にある検体、年齢、性別、および臨床所見を参照して回
答していただいた。回答は判定区分と推定病変に分け、判定区分では陰性、陽性の 2 つから 1 つを選択、また子
宮頸部にはベセスダシステムの判定基準を、乳腺については乳癌取り扱い規約に準じた判定を採用した。
推定病変では写真の細胞に最も適当と思われる疾患、あるいは細胞を記述していただくことにした。
さらに、わからないとした理由や細胞所見なども書いていただけるようにした。
また配点は、各設問において判定区分 7点、推定病変 3点の合計 10点として、最終的に分かり易いように全問
正答を 100 点として換算しなおした。
【第 38 回サーベイ成績の概要】
回答総数 47 施設における正答率は判定区分では 98.5%、推定病変では 93.6%、合計では 97.3%であった。今
回、日臨技フォトサーベイに準ずる許容正答(正しい思考過程に基づき鑑別すべき病変まで考えが及んでいる回
答)を設けた。表1に設問別正答数および正答率を示した。
判定区分では設問で 8 問中 5 問が 100%と高い正答率を示した。正答率の低かったのは設問 2 の 94%であっ
た。
推定病変では、今回1施設がすべての設問で未記入であったため、正答率 100%はなかった。設問 2 では頸部
腺細胞と回答した施設が 2 施設、子宮頚内膜細胞と回答した施設が 1 施設あった。設問 6 では、デコイ細胞と回
答した施設が 1 施設あった。設問 8 では中皮細胞と回答した施設が 2 施設あった。設問 4 と設問 7 では判定区分
は正解しているが、推定病変での間違いがあった。いずれの設問も鑑別については正解と解説を参照して頂きた
い。
今回、すべての問題において、正答率 80%以上となり、問題として適正と考える。
なお表 2 に設問別回答数を、表 3 に施設別正答率を示したので参考として頂きたい。
今回のサーベイより 10 点を A 評価、7 から 9 点を B 評価、6 点以下を C 評価として判断した。
【設問の正解と解説】
設問1 正解: 判定区分 LSIL
推定病変あるいは細胞 コイロサイトーシス 軽度異形成 HPV感染細胞 CIN1 など
軽度炎症性の背景で、正常な扁平上皮細胞と共に、エオジン・オレンジ G 好性細胞質を有する異型細胞
集塊が見られる。それらは核腫大、濃染し、核形不整を認める。
またそれらの中には細胞質の核周囲に明庭(核周囲明庭)をもつコイロサイトーシスや、二核を有するものも
認められる。
以上より、LSIL(mild dysplasia)と考えられる細胞像である。
なお、「軽度異形性」と回答した施設については減点とした。
設問2 正解: 判定区分 Adenocarcinoma
推定病変あるいは細胞 頸部腺癌
弱拡大では少数の炎症細胞を背景に配列の乱れや核の大小不同、柵状配列を示す小集塊を認める。強
拡大ではファインなクロマチンの増加を示し、核小体の腫大も認められる。一部では核形不整も示しており
adenocarcinoma の所見として矛盾しない。
頚部腺癌は異型の弱いものも多く頸管腺細胞との鑑別が難しい場合もある。今回の細胞所見は上記理由
より鑑別は可能と思われる。また、AIS と adenocarcinoma の鑑別は難しく、今回は AIS、adenocarcinoma の
いずれも正解とした。
設問3 正解: 判定区分 陽性
推定病変あるいは細胞 腺癌
弱拡大では、赤血球を背景に平面的または軽度重積を伴った細胞集塊が見られる。強拡大では、N/C比
が高く、細胞質は淡染性。核は、大小不同。円形から類円形核が偏在している。クロマチンは細顆粒状で核
小体が目立つ。以上の所見により、腺癌と考える。
検体採取が気管支擦過による直接採取法である為、立体的な集塊より軽度の核の重なり合う平面的集塊
として出現することが多い。壊死物質や角化細胞が見られれば扁平上皮癌との鑑別が容易であるが、認め
られない場合は、集塊辺縁からの核の突出の有無、細胞質の厚さ、クロマチン分布の違いから判断する。
核小体が目立つと修復細胞との鑑別が難しくなるが、N/C比および核内所見などで鑑別する。
設問4 正解: 判定区分 陽性
推定病変あるいは細胞 腺癌 浸潤性膵管癌 膵管癌 IPMC
N/C 比高く、核の大小不同を示す異型細胞集塊を認める。核間距離不整、核の重積、明瞭な核小体、また
粘液産生を認める。以上の所見から、腺癌を推定する。
腺癌(膵管癌)と IPMC を細胞像だけで鑑別することは困難であるが、IPMC は画像上嚢胞/膵管拡張性病
変を特徴とするため、臨床情報が重要となる。
IPMN との鑑別
IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)には良性の IPMA(膵管内乳頭粘液性腺腫)が含まれるが、今回の症例で
は悪性と判断できるため減点とする。
腺房細胞癌との鑑別
腺房細胞癌は、腺房様構造、一部にはロゼット様配列がみられ、細胞質はやや好酸性の細~粗顆粒状を
示すため、腺癌との鑑別は可能と考える。
設問5 正解: 判定区分 陽性
推定病変あるいは細胞 骨肉腫
黄色調物質の類骨が認められる。また、多形の著しい大型細胞で、核形不整が著明な異型の強い腫瘍細
胞が見られる。骨肉腫は 10~20 歳代に生じ、長管骨骨幹端部と大腿骨遠位端、脛骨近位端、上腕骨近位
端に好発するため、アナムネに提示されている、年齢、発生部位等も矛盾しない。以上より、骨肉腫を考え
る。
設問6 正解: 判定区分 陽性
推定病変あるいは細胞 尿路上皮癌(HGUC)
弱拡大で赤血球と比べて3倍から大きいもので 10倍近い細胞を 5個以上認める。強拡大では、N/C比が大
きく、核縁不整の巨大な細胞を認める。クロマチンは濃縮傾向である。よって、尿路上皮癌(HGUC)と考える。
鑑別の一つにデコイ細胞があるが、中層から深層の移行上皮の大きさで、核は無構造化しN/C比が大きい
細胞であり、目的とする細胞は、デコイ細胞とするには近くの赤血球と比べて巨大な細胞なので否定的であ
る。尿細胞診では、浸潤性と非浸潤性の鑑別は難しいため、CIS も許容の正解範囲としたが、HGUN は
dysplasia から carcinoma まで範囲が広すぎる回答のため減点とした。
また、「高異形度尿路上皮癌」と回答した施設については減点とした。
設問7 正解: 判定区分 悪性
推定病変あるいは細胞 悪性リンパ腫
背景に小型リンパ球を伴い、異型細胞は上皮性結合を示さず、単調な出現をしている。
核は類円形であるが、軽度核形不整を呈する裸核様の異型細胞も認める。クロマチンは細顆粒状、核小
体および大小不同がやや目立ち、細胞質はきわめて狭い。
以上の所見より悪性リンパ腫と考える。
髄様癌との鑑別
髄様癌は時に裸核状に出現することがあるが、基本的には①上皮様結合を認める②
極めて核異型の強い腫瘍細胞③多辺形、細顆粒状~泡沫状の細胞質を有する等の所
見から悪性リンパ腫との鑑別は可能と考える。
浸潤性小葉癌との鑑別
浸潤性小葉癌は、①数珠状の上皮様結合を認める②多くの症例で ICL を認める③細
胞採取量が少量等の所見から悪性リンパ腫との鑑別は可能と考える。
神経内分泌腫瘍との鑑別
神経内分泌腫瘍は①類円形、形質細胞様、円柱状、紡錘形、多辺形と多彩な腫瘍細胞
の形態を認める②ライトグリーン好染性、細顆粒状あるいはレース状の細胞質を有
する③核クロマチンは粗顆粒状または細顆粒状で核小体が 1~2 個認める等の所見か
ら悪性リンパ腫との鑑別は可能と考える。
設問8 正解: 判定区分 陽性
推定病変あるいは細胞 悪性中皮腫
弱拡大では、重積性を伴った集塊および球状の集塊を認め、多核細胞が目立ち、相互封入像を散見する。
強拡大では、細胞質に厚みがあり、核は中心性で腫大し、核形は類円形で不整は目立たず明瞭な核小体
を認める。また、hump 様細胞質突起を有する細胞を認める。以上の所見より、悪性中皮腫と考える。
悪性中皮腫では、ヒアルロン酸の増量により背景がライトグリーンに染まる印象があるが、ヒアルロン酸の
増量の程度によっては、背景が比較的清明な場合もある。
反応性中皮細胞でも集塊形成、多核、相互封入像を認めるが、反応性中皮細胞では、集塊は比較的小
型で重積性は少なく、細胞密度も低く、多核細胞、相互封入像の割合も低い。本症例の様に集塊が大型で
かつ多核中皮細胞を多数認める(中皮細胞の 20%以上)場合は悪性中皮腫を考えるべきである。
なお、「悪性中脾腫」と回答した施設については減点とした。
【症例提供者】
今川 奈央子 ・神戸大学医学部附属病院
太田 寛子 ・宝塚市立病院
小林 真 ・兵庫県臨床検査研究所
佐藤 元 ・兵庫医科大学病院
長岡 克也 ・公立豊岡病院
松木 慎一郎 ・兵庫県立尼崎総合医療センター
松林 謙治 ・明和病院
山下 展弘 ・神戸市立医療センター西市民病院
【フォトサーベイに関する講評】
今年度のサーベイも昨年度同様、各設問につき判定区分と推定病変を設け、判定区分では陰性、陽性の 2つか
ら 1 つを選択、また子宮頸部にはベセスダ分類を、乳腺については乳癌ガイドラインに準じた判定を採用した。推
定病変では症例に最も適当と思われる病変あるいは細胞を記述していただくようにした。これにより、選択の幅が
広がり回答が絞りにくくなるものの、消去法による安易な選択回答や記載された回答項目に当てはまらないことが
あった選択式より、臨床所見を加味しながら細胞をしっかり観察し、細胞を読むという細胞診の基本概念に戻れる
と思われた。
今回の設問では判定区分に関して高い正答率であった。前回と同様に選択肢を 2択にしたのもその一因と思わ
れた。しかし設問 2、6、8 で良悪の判定を誤った施設があった。
推定病変に関しても高い正答率であった。選択式ではなく記述式のため同じ回答でも若干の違いが見られたが、
多くは正解の範囲内であった。設問 4、設問7において組織型間違いがあった。
施設により症例に偏りがあると思われるが一般的病院などで日常遭遇するであろう症例を 7 題、稀な症例を 1
題出題している。【設問の正解と解説】を参考に、細胞所見を詳細に観察し推定病変まで解答していただきたいと
考える。
今後も判定区分は選択式でよいが、推定病変に関しては兵臨技のサーベイとして記述式を採用していきたいと
考える。推定病変の回答は、規約が変更になると回答が変わる可能性があるが、しっかり最新の規約に対応する
ため必要な事と考える。
今回の設問では、子宮頸部 2例・呼吸器・消化器・軟部組織・自然尿・乳腺・体腔液を各 1例ずつと幅広く出題し
た。今後も幅広く出題し、多くの症例を提示していきたいと考える。
判定区分における平均正答率は 98.5%と高い正答率であった。今回も判定区分での入力ミスはなかった。
推定病変における平均正答率は 93.4%であった。誤字脱字は 4 件見られた。設問 1 で軽度異形成を軽度異形
性とした施設が 2 件あり、設問 6 で高異型度尿路上皮癌を高異形度尿路上皮癌、設問 8 で悪性中皮腫を悪性中
脾腫と誤っていた。また、設問 2 では頸部腺癌と上皮内腺癌との鑑別、また設問 6 では高異型度尿路上皮癌と上
皮内癌の鑑別が困難であるため、共に正解とした。今回、設問 4 では IPMN、設問 6 では HGUN と回答があった。
今回の設問では良悪の鑑別は可能と考えるので Neoplasm との回答は減点とした。設問 4 では膵管腺癌との回答
があった。現規約にはそのような疾患名はないので減点とした。
【おわりに】
近年、精度管理やがんゲノム医療の為、ISO15189 などの第三者機関からの評価が重要になっている。
兵庫県臨床検査技師会のサーベイにおいても外部精度管理として評価して頂くための重要な位置づけになってき
た。しかし、記入式により選択の幅が広がり、正答率が下がってしまう可能性もあるが、正答率 100%の問題を出
しても意味がないと考えるので、教育症例の導入も検討していかなければならないと考えている。
細胞検査フォトサーベイ報告会は、阪神・神戸・東播地区、西播地区、丹但地区の 3 地区で開催を予定しているの
で、できる限り多くの会員の方々に参加していただき、各設問における解説と質疑応答の中から、今後に活きる細
胞像の見方を習得していただければ幸いである。
最後に、ご多忙中にもかかわらず、精度管理にご参加下さいました各施設の技師の皆様に御礼申し上げます。
(文責:病理・細胞検査研究班)
表 1 回答 47 施設
表 2 回答 47 施設
設問
判定区分 推定病変
NILM
陰性
良性
LSIL
疑陽性
SCC
陽性
悪性
1 位 2 位 3 位
1 回答数(回
答率) 0(0%) 47(100%) 0(0%)
コイロサイト
ーシス
14(29.8%)
軽度異形成+コ
イロサイトーシス
12(25.5%)
軽度異形成
6(14.9%)
2 回答数(回
答率) 3(6%)
44(94%) 頸部腺癌
31(66.0%)
腺癌
9(19.1%)
上皮内腺癌
2(4.3%)
3 回答数(回
答率) 0(0%)
47(100%) 腺癌
46(98%)
解なし
1(2%)
―
4 回答数(回
答率) 0(0%)
47(100 %) 腺癌
35 (74.5%)
浸潤性膵管癌
5(10.6%)
膵管癌
2(4.3%)
5 回答数(回
答率) 0(0%)
47(100%) 骨肉腫
46(98%)
解なし
1(2%) ―
6 回答数(回
答率) 1(2%)
46(98%)
高異型度尿
路上皮癌
(HGUC)
24(51.1%)
尿路上皮癌
17(36.2%)
Decoy cell
1(2%)
7 回答数(回
答率) 0(0%) 0(0%) 47(100%)
悪性リンパ腫
42(89.4%)
非ホジキンリン
パ腫 1(2%)
髄様癌
1(2%)
8 回答数(回
答率) 2(4%)
45(96%) 悪性中皮腫
43(91.5%)
(反応性)中皮
細胞
2(4.3%)
Mesothelioma
1(2%)
設問 判定区分 推定病変
正答数 正答率 正答数 正答率
1 47 100% 44 94%
2 44 94% 43 91%
3 47 100% 46 98%
4 47 100% 43 91%
5 47 100% 46 98%
6 46 98% 44 94%
7 47 100% 43 91%
8 45 96% 43 91%
平均 46.3 98.5% 44.0 93.6%
表3 回答 47 施設
NO 施設番号 正解率 NO 施設番号 正解率
1 9280130 100% 25 9280099 100%
2 9280169 100% 26 9280001 100%
3 9280020 100% 27 9280417 70%
4 9280162 100% 28 9280164 100%
5 9280002 100% 29 9280091 100%
6 9280003 100% 30 9280083 100%
7 9280237 100% 31 9280153 100%
8 9780066 100% 32 9280100 100%
9 9280010 99% 33 9280033 100%
10 9280209 100% 34 9280095 100%
11 9280191 98% 35 9280035 100%
12 9280146 100% 36 9280125 100%
13 9280059 100% 37 9280322 100%
14 9280012 100% 38 9280051 96%
15 9780014 100% 39 9280187 100%
16 9280148 100% 40 9280047 73%
17 9280280 100% 41 9780060 100%
18 9280160 100% 42 9280042 80%
19 9280117 100% 43 9280092 75%
20 9280007 100% 44 9280140 100%
21 9780032 100% 45 9280135 100%
22 9280143 100% 46 9280149 100%
23 9280206 99% 47 9280115 95%
24 9280390 88%
免疫組織化学染色
平成 30 年度 免疫組織化学サーベイ報告
免疫組織化学染色(CK7)
【はじめに】
Cytokeratin(以下CK)は上皮細胞の主な構造蛋白で、システインを多く含み表層に陰性チャージされるアミ
ノ酸が豊富に分布している中間系フィラメントで、CKは現在約20種類のサブタイプに分類されている。さらに
酸性で分子量の小さいtypeⅠ、塩基性で分子量の大きいtypeⅡに分類され、それぞれペアを作っている。更
に分子量の違いにより、高分子および低分子ケラチンに分類され、高分子ケラチンは扁平上皮に、低分子ケ
ラチンは腺細胞に主に認められる。
今回行ったCK7は、分子量54kDの塩基性CKであり、特に呼吸器や婦人科領域で安定した発現がみられる。
しかし、消化器では発現が限られており、特に大腸癌では陰性になる例が多い。
【材料および実施方法】
今回使用した検体は肺(手術材料;10%中性緩衝ホルマリン液固定)のパラフィン包埋ブロックで、各施設
で適切な厚さに薄切し、染色を実施していただいた。
なお、染色工程により染色結果に差異が生じると思われたので、所定の報告書をウェブ上で公開し、各施
設で現在行っている方法の記入もお願いした。
また、一次抗体販売メーカー4社、アジレント・テクノロジ-株式会社(以下アジレント社)、ロシュ・ダイアグノ
スティックス株式会社(以下ロシュ社)、ニチレイバイオサイエンス株式会社(以下ニチレイ社)、ライカマイクロ
システムズ株式会社(以下ライカ社)に同一標本を染色していただき、その染色性を判定の基準として使用し
た。
【判定方法】
下記の事項を基準に判定した。
① 目的とする細胞、部位が染色されていること。
② 染色ムラや非特異反応がないこと。
以上の項目について判定者は、兵臨技・病理細胞検査研究班 解析委員で行い、病理医の立場から、伊
藤 智雄先生(神戸大学附属病院 病理部)にご確認頂いた。
判定基準は、『AあるいはB.診断上支障のない標本』、『C.診断上支障をきたす標本』として、慎重なる評
価判定を行った。
【結 果】
<集計にあたって>
1)申し込み施設31に対し、回収施設数31施設(100%)であった。
昨年のTTFー1の参加32施設に比べ1施設減少した。
<集計結果>
CK7染色についての集計結果は別表に示すごとくである。また、日常業務でのCK7染色についても記載し
ている。
染色の判定結果および講評評価
平成30年度の免疫染色サーベイではCK7をテーマに染色・評価をおこなった。
参加施設は31施設で、協力メーカーはアジレント、ロシュ、ニチレイ、ライカの4社。
一次抗体メーカーの染色性と見比べ、染色強度や陽性率、染色ムラ、非特異的反応、切片の剥離につい
て、メーカーの染色性と遜色ない染色性であった施設を「A」、メーカーの染色性よりも弱いまたは強い、切片
の剥離、細胞形態の異常がみられた施設は「B」、陽性所見がないまたは非特異反応が強すぎるなど判定に
影響がある施設は「C」として評価をおこなった。
今回の評価結果は「A」が24施設、「B」が6施設となり、「C」が1施設という結果になった。
染色対象は肺組織を使用し、肺胞上皮細胞や気管支の腺上皮細胞を確認できるものを使用した。
染色方法については自動染色装置を使用した施設が28施設(90%)、用手法は3施設(10%)であった。自
動染色装置はロシュ社が74%と多く、ライカ社21%、ニチレイ社4%のシェアであった。用手法についてはニチ
レイ社3施設であった。自動染色装置で染色した施設と、用手法で染色した施設間での違いは、用手法の施
設には今回A判定の施設がなかったため、やはり自動染色装置を用いた方が、染色性が安定していると考え
る。
一次抗体についてはアジレント社(OV-TL12/30)を使用している施設が最も多く12施設、ロシュ(SP52)を
使用している施設は8施設、次いでニチレイ社(OV-TL12/30)は5施設、ライカ社(RN7/OV-TL12/30)も5施設、
Cell Marque社(OV-TL12/30)1施設であった。
染色結果について、CK7というメジャーな抗体ではあるが、染色キット(染色装置)と一次抗体の組み合わせ
により、染色性に差異が認められた。もちろん、同一メーカーの染色キット(染色装置)と一次抗体を組み合わ
せて用いている施設はすべてA判定となっており、また、1番多かったクローン(OV-TL12/30)とロシュの染色
装置を用いた施設もA判定となっており、良い結果となっていた。しかし、ロシュの染色装置とクローン(RN7)
を用いている施設に関してはやや弱い染色性となっていた。ロシュ社との検討では、抗体濃度に関係してい
る結果となり、希釈倍率をあげることにより改善が認められた。今回のサーベイより、染色キットとクローンの
組み合わせにより差異が認められる結果となるかと考えられたが、推奨希釈倍率を上げることにより改善さ
れた事から、CK7では抗体濃度差でも染色性に影響がある事が分かった。また、判定はCK7の染色性の評価
であり今回の評価には関係していないが、後染色のヘマトキシリン染色が強くコントラストが悪い標本や、脱
水系列でHE染色の系列を用いてエオジンが入っていた標本もみられた。できれば、きれいな標本作製のため
には免疫染色以外の点にも気を付けて取り組んで頂きたいと考える。今回は肺の組織を使用したが、使用す
るクローンの特性や染色性をよく理解したうえで、その評価および判定・解釈について十分注意して染色をす
る必要がある。
参加施設の判定結果(ランク総数)は表1に示し、染色の評価は表2のごとくである。
参加施設の判定結果(ランク総数)(表1)
判 定 AおよびB.診断上支障のない標本 C.診断上支障をきたす標本
標本数 30 1
(%) 96.8% 3.2%
AおよびB 目的とする細胞、部位が染色され、判定に影響のある染色ムラや非特異
反応が見られない。診断上支障のない標本である。 診断上支障のない標本
C 目的とする細胞、部位が染色されていない。または判定に影響のある染色
ムラや非特異反応が見られる。診断上支障をきたす標本である。 診断上支障をきたす標本
【結 語】
CK7 染色の精度管理における結果は『診断上支障のない標本』と判定されたのが 31 施設中
30 施設(96.8%)という結果が得られた。1 施設C評価という結果となり残念ではあったが、状況確認書により
是正され改善された。今後もC評価に関しては是正処置を行い、精度の向上に兵臨技が努めていければと考
える。
(文責:病理細胞検査研究班、精度管理解析・編集委員)
平成30年度(第38回)兵臨技臨床検査精度管理
CK7免疫染色検査報告書(表2)
施設番号 評価 備考
9280130 A
9280169 B 切片厚く、非特異反応あり
9280162 A
9280002 A
9280003 A
9780066 B DAB の色の入りが薄い
9280146 A
9280059 B 非特異反応が強い
9780014 A
9280148 A
9280280 A
9780032 A
9280143 C 非特異反応が多く、目的とする細胞も色の入りが薄く判定できない
9280390 A
9280099 A
9280001 A
9280164 B 前処理が強く細胞が溶けている
9280091 A
9280083 A
9280100 A
9280033 A 切片が厚い
9280095 A
9280035 A
9280125 A
9280322 A 若干色が薄い
9280051 B 後染色強くコントラストが悪い
9280187 B DAB の色の入りが薄い
9280092 A
9280140 A
9280135 A エオジンが入っている
9280149 A
CK7 染色についての集計
1. 貴施設では1ヶ月何枚位、CK7 染色をしていますか。
染色枚数 施設数 %
10 枚以下 20 65 %
11~30 枚 10 32 %
31~50 枚 0 0 %
51 枚以上 1 3 %
2.何μmで薄切していますか。
厚さ (μm) 施設数 %
~3 12 39 %
~4 18 58 %
~5 1 3 %
3.今回貴施設で行った方法を下記の欄に具体的に記入して下さい。
(1) 染色方法
染色方法 施設数 %
自動染色装置 28 90 %
用手法 3 10 %
染色装置
メーカー 染色装置名 施設数 %
ロシュ
(ベンタナ)
ベンチマーク XT 6 21 %
ベンチマーク GX 6 21 %
ベンチマーク ULTRA 9 32 %
ライカ BOND MAX 4 14 %
BOND Ⅲ 2 7 %
ニチレイ HISTOSTAINER 36A 1 4 %
(2)使用試薬
【一次抗体】
メーカー名 クローン名 自動染色
施設数
用手法
施設数
合計
施設数 %
アジレント(Dako) OV-TL 12/30 11 1 12 39 %
ロシュ SP52 8 0 8 26 %
ニチレイ OV-TL 12/30 3 2 5 16 %
ライカ RN7 4 0 4 13 %
OV-TL 12/30 1 0 1 3 %
CELL MARQUE OV-TL 12/30 1 0 1 3 %
【二次抗体・発色基質】
メーカー名 キット名 自動染色
施設数
用手法
施設数
合計
施設数 %
ロシュ I-VIEW DAB ユニバーサルキット 14 0 14 45 %
ultraView DAB ユニバーサルキット 7 0 7 23 %
ライカ Bond Polymer Refine Detection 6 0 6 19 %
ニチレイ ヒストファイン シンプルステイン
MAX-PO(MULTI)、DAB 基質キット 1 3 4 13 %
【まとめ】
染色方法・装置名 一次抗体メーカー/
クローン名 検出キット
施設
数
ベンチマークXT
アジレント / OV-TL 12/30 I-VIEW DABユニバーサルキット 2
ultraView DABユニバーサルキット 2
ロシュ / SP52 ultraView DABユニバーサルキット 1
ライカ / RN7 I-VIEW DABユニバーサルキット 1
ベンチマークGX
アジレント / OV-TL 12/30 I-VIEW DABユニバーサルキット 1
ロシュ / SP52 I-VIEW DABユニバーサルキット 2
ニチレイ / OV-TL 12/30 I-VIEW DABユニバーサルキット 1
ライカ / RN7 I-VIEW DABユニバーサルキット 1
CELL MARQUE /
OV-TL 12/30 I-VIEW DABユニバーサルキット 1
ベンチマークULTRA
アジレント / OV-TL 12/30 I-View DABユニバーサルキット 2
ロシュ / SP52 I-VIEW DABユニバーサルキット 4
ultraView DABユニバーサルキット 2
ニチレイ / OV-TL 12/30 ultraView DABユニバーサルキット 1
BOND MAX アジレント / OV-TL 12/30
Bond Polymer Refine Detection 2
ライカ / RN7 2
BOND Ⅲ アジレント / OV-TL 12/30
Bond Polymer Refine Detection 1
ライカ / OV-TL 12/30 1
HISTOSTAINER
36A ニチレイ / OV-TL 12/30
ヒストファイン シンプルステイン 1
用手法 アジレント / OV-TL 12/30
ヒストファイン シンプルステイン 1
ニチレイ / OV-TL 12/30 2
(3)染色プロトコール
【抗原賦活化】
抗原賦活化 自動染色
施設数
用手法
施設数 施設数 %
加熱処理 23 2 25 81 %
酵素処理 5 1 6 19 %
しない 0 0 0 0 %
【抗原賦活化方法】
【一次抗体】
染色法 一次抗体
メーカー
一次抗体
希釈倍率 反応温度 反応時間 施設数
ロシュ
染色装置
アジレント
希釈済み 30℃ 32 分 1
37℃ 32 分 2
100 倍
室温 32 分 1
37℃ 24 分 1
37℃ 32 分 2
42℃ 32 分 1
ライカ 100 倍 37℃ 32 分 1
記載なし 記載なし 32 分 1
ロシュ 希釈済み
室温 32 分 1
37℃ 32 分 4
60 分 1
42℃ 32 分 2
ニチレイ 希釈済み 37℃ 32 分 1
42℃ 32 分 1
CELL
MARQUE 100 倍 42℃ 32 分 1
ライカ
染色装置
アジレント
希釈済み 室温 15 分 1
300 倍 室温 15 分 1
400 倍 室温 15 分 1
ライカ 200 倍 室温 15 分 2
300 倍 室温 15 分 1
ニチレイ ニチレイ 希釈済み 室温 30 分 1
用手法
アジレント 希釈済み 室温 20 分 1
ニチレイ 希釈済み 室温 60 分 1
記載なし 1
賦活装置
賦活
方法
試薬名
(緩衝液 pH) 処理温度 処理時間 施設数
自動
染色
ロシュ
染色装置
加熱 CC1 buffer
(pH 8.5) 90~100℃
30 分 2
60 分 4
64 分 4
記載なし 7
酵素 Protease 1 36℃ 4 分 3
8 分 1
ライカ
染色装置 加熱
Epitope Retrieval
Solution 2(pH 9) 100℃
10 分 1
20 分 4
記載なし 1
ニチレイ
HISTOSTAINER
36A
酵素
ヒストファイン
抗原賦活化
プロテアーゼ溶液
室温 5 分 1
用手
法
使用せず 酵素
ヒストファイン
抗原賦活化
プロテアーゼ溶液
室温 5 分 1
圧力釜 加熱 記載なし 1
ウォーターバス 加熱 ヒストファイン
抗原賦活液(pH 9) 90~95℃ 30分 1
【二次抗体】
染色法 二次抗体
メーカー 反応温度 反応時間 施設数
ロシュ染色装置 ロシュ
室温 16 分 1
37℃ 8 分 12
37℃ 32 分 2
42℃ 8 分 4
記載なし 2
ライカ染色装置 ライカ 室温 8 分 6
ニチレイ染色装置 ニチレイ 室温 30 分 1
用手法 ニチレイ 室温 30 分 3
【発色基質】
染色法 発色基質
メーカー 反応時間 施設数
ロシュ染色装置 ロシュ
4 分 1
8 分 17
20 分 1
記載なし 2
ライカ染色装置 ライカ 10 分 6
ニチレイ染色装置 ニチレイ 10 分 1
用手法 ニチレイ
1 分未満 1
5 分 1
記載なし 1
日常業務での CK7染色についての集計(以下、回答は30施設)
1.固定液
固定液の種類 施設数
20% ホルマリン 1
10% 中性緩衝ホルマリン 27
15% 中性緩衝ホルマリン 1
20% 中性緩衝ホルマリン 1
2.採取から固定までの時間 3.固定時間
時間 施設数
直ちに 14
10 分以内 3
30 分以内 2
1 時間以内 5
不明 6
4.コントロールの有無
施設数 自動染色 用手法
あり 22 19 3
なし 8 8 0
固定時間 施設数
12 時間以内 4
24 時間以内 14
48 時間以内 10
72 時間以内 2
コントロールの材料
材料 施設数
マルチコントロール 2
肺 8
乳腺 4
肺・乳腺 2
大腸 1
肺・大腸 1
虫垂 1
胃 1
膵臓 1
臍帯 1
5.染色のコツがあれば記入してください。
・用手法:余分な水分をよく拭き取る。
PBS洗浄をしっかり行う。
6.日常業務の免疫組織化学での悩みなどあればご記入してください。
・コントロールの選択、確保(日常業務で入手しにくいものがある)、管理。
・コントロールが強陽性でも検体が弱陽性の場合がある。増感試薬を購入すべきか。
・一次抗体の種類が多く、管理が難しい。
7.今後、免疫染色サーベイを行ってほしい項目があれば記入してください。
・Cytokeratin AE1/AE3
・p16
・ALK
・p40
・HEG1