第4章 公有地活用の海外事例等調査 - mlit.go.jp4-1 第4章...
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第4章 公有地活用の海外事例等調査
目 次
1.海外事例等調査の概要................................................................................................................................................................................... 4-1
(1)調査の目的と内容....................................................................................................................................................................................... 4-1
(2)調査対象の選定 .......................................................................................................................................................................................... 4-1
(3)調査対象地区の立地................................................................................................................................................................................. 4-2
(4)調査対象地区リスト.................................................................................................................................................................................... 4-3
2.公有地活用の海外事例................................................................................................................................................................................... 4-4
リバーウォーク計画 (アメリカ ミルウォーキー市).............................................................................................................................. 4-4
チャールズタウン・ネイビーヤード (アメリカ ボストン市) ................................................................................................................ 4-6
メディカルシティ (アメリカ ウースター市)............................................................................................................................................... 4-8
ビスケイン・ランディング (アメリカ ノースマイアミ市) .....................................................................................................................4-10
グリニッジ・ペニンシュラ地区 (イギリス ロンドン市).......................................................................................................................4-12
ハンマルビー・ショースタッド (スウェーデン ストックホルム市)..................................................................................................4-14
エムシャー・ランドシャフトパーク (ドイツ ノルトライン・ヴェストファーレン州).......................................................................4-16
オリンピックパーク(シドニーオリンピック跡地) (オーストラリア シドニー市).......................................................................4-18
Klee Building (アメリカ シカゴ市)............................................................................................................................................................4-20
国立オスロ大学学生寮 (ノルウェー オスロ市).................................................................................................................................4-22
ライネフェルデ団地 (ドイツ ライネフェルデ市)..................................................................................................................................4-24
ベルマミーア団地 (オランダ アムステルダム市).............................................................................................................................4-26
サンアム ミレニアムシティ (韓国 ソウル市) ......................................................................................................................................4-28
ソウルの森造成計画 (韓国 ソウル市).................................................................................................................................................4-30
■参考資料................................................................................................................................................................................................................4-32
4-1
第4章 公有地活用の海外事例等調査
1.海外事例等調査の概要
(1)調査の目的と内容
・海外における土地利用転換の機会を捉えた都市再生への誘導の事例、誘導のための制度的枠組み
等の施策(都市計画、売却時の条件付け等)の事例の調査を行った。
・単なる土地活用に留まらず、官民のパートナーシップによるプロジェクト(PPP: Public Private
Partnership)、また海外ならではのユニークなハード(不動産)転用・活用型の事例も含む。
・アジア諸国、特に日本と比較的社会的背景が共通している韓国での公有地活用についても調査を
行う。
・原則、既往文献(または Web 上の情報)の調査に基づく。
(2)調査対象の選定
・活用の目的、内容等に応じて以下の 6つのケースを設定。世界から計 14 事例を抽出した。
衰退した中心市街地の再生
ブラウンフィールドの再生
イベント等を活用した都市再生
歴史的資産を活用する
衰退した中心市街地において、既存建物や街並みの修復等により地域の活
性化を実践
例:リバーウォーク計画(アメリカ、ミルウォーキー市)
都心部に立地するブラウンフィールド(工場跡地、産業廃棄物埋立地等)
の活用による都市再生を実現
例:メディカル・シティ(アメリカ、ウースター市)他
オリンピック、大規模なコンペティション等の国際イベントを契機として
都市再生を推進
例:オリンピック・パーク(オーストラリア、シドニー市)他
地域の歴史的建物等を活用して地域の活性化を促進
例:Klee Building(アメリカ、シカゴ市)他
集合住宅を減築・再生する
韓国における公有地活用による都市再生
人口減少・建物老朽化への対応として、既存の集合住宅を完全に建替える
のではなく、部分的建替え・減築等により居住環境を再生
例:ライネフェルデ団地(ドイツ、ライネフェルデ市)他
韓国・ソウル市中心部における大規模な低未利用公有地の活用による都市
再生の実現
例:サンアム・ミレニアム・シティ(韓国、ソウル市)他
4-2
(3)調査対象地区の立地
①リバーウォーク計画 (アメリカ ミルウォーキー)
②チャールズタウンネイビーヤード (アメリカ ボストン)
③グリニッジ・ペニンシュラ地区 (イギリス ロンドン)
④メディカルシティ (アメリカ ウースター)
⑤ビスケイン・ランディング (アメリカ ノースマイアミ)
⑥ハンマルビー・ショースタッド (スウェーデン ストックホルム)
⑦ランドシャフト・パーク (ドイツ ノルトライン・ヴェストファーレン州)
⑧シドニーオリンピック跡地計画 (オーストラリア シドニー)
⑨Klee Building(アメリカ シカゴ)
⑩サイロ(ノルウェー オスロ)
⑪ライネフェルデ団地(旧東ドイツ ライネフェルデ)
⑫ベルマミーア (オランダ アムステルダム)
⑬サンアム・ミレニアム・シティ
⑭ソウルの森造成計画
(韓国 ソウル)
4-3
(4)調査対象地区リスト
NO 所在 地区・施設名 規模 事業主体 利活用の内容 注目すべきポイント 都市再生の効果
衰退した中心市
街地の再生
1 アメリカ、ミルウォーキー市 リバーウォーク計画 総延長
約 2km
市 中心市街地の川沿いに歩道プロム
ナードを新設
TIFによる資金調達、BID組織による事業
開発・管理運営実施
川沿いの環境改善、各施設のネ
ットワーク化
2 アメリカ、ボストン市 チャールズタウン・ネイビーヤード 約 52ha BRA(ボスト
ン再開発公社)
海軍造船所→公園、商業、ホテル、
住宅
公社による計画・実施及びゾーニングコードに
よる開発コントロール
産業遺産の活用、水辺の環境再
生
3 アメリカ、ウースター市 メディカル・シティ 約 10ha 市、WRA(市
再開発公社)
工場跡地→総合医療施設 市・公社がブラウンフィールドを開発、民間の
総合医療施設を誘致
都心中心部の再生、雇用促進
4 アメリカ、ノースマイアミ市 ビスケイン・ランディング 約 7.8ha NMCRA(市地
域再開発公社)
廃棄物埋立地(市有地)→住宅・
商業・ホテル
市地域再開発公社によるブラウンフィールド
を開発、民間の複合開発を誘導
未利用市有地の再利用
低中所得者層向けの住宅供給
5 イギリス、ロンドン市 グリニッジ・ペニンシュラ地区 約 121ha EP(外郭公共
団体)
石炭ガス工場跡地→住宅、福祉、
レジャー等を含む複合都市
EP(English Partnership)による基盤整備及
び民間事業者の開発誘導
居住人口増加、雇用促進
ブラウンフィールド
の再生
6 スウェーデン、ストックホルム市 ハンマルビー・ショースタッド 約 200ha 市 自動車・電器工場跡地→ニュータ
ウン
市のイニシアティブによる環境配慮型開発の
実現
居住人口増加、公共交通機関整
備
7 ドイツ、ノルトライン・ヴェスト
ファーレン州
エムシャー・ランドシャフトパーク 約
800km2
州開発公社・市 製鉄所を買い上げ、そのまま自然
公園として活用
IBA(国際建設博覧会イベント)方式による
プロジェクト展開
産業遺産の活用、文化振興、自
然回復等
イベント等を活用
した都市再生
8 オーストラリア、シドニー市 オリンピック・パーク(シドニーオ
リンピック跡地)
約 150ha 州開発公社 オリンピック施設用地→住宅等他
用途
州開発公社による、まちづくり・用地分譲・企
業誘致・エリアマネジメント
オリンピック施設・用地の有効
活用
9 アメリカ、シカゴ市 Klee Building - 市 歴史的建造物を保存、隣接敷地と
の一体開発条件
RFP 方式による歴史的建築物を含む土地売
却・都市開発誘導
歴史的環境保全、中心部の都市
再生
歴史的資産を活
用する
10 ノルウェー、オスロ市 国立オスロ大学 学生寮 - 大学、
学生組織
サイロ→大学の学生寮 学生組織が、穀物貯蔵サイロを大学学生寮に再
生
歴史的資産の活用、学生人口の
増加
11 ドイツ、ライネフェルデ市 ライネフェルデ団地 約●●ha 市 既存の団地→戸数を減少した団地 人口減少に対応した団地の減築によるコミュ
ニティの再生
住環境向上、雇用創出、出生率
増加
集合住宅を減築・
再生する
12 オランダ、アムステルダム市 ベルマミーア団地 約 700ha 市・区・オラン
ダ社会住宅基
金
高層団地→低層団地 居住環境の悪化した高層団地の取り壊し、低層
のテラスハウスへの建て替え
住環境向上、社会経済的自立
13 韓国、ソウル市 サンアム・ミレニアム・シティ 約 57ha ソウル市 ゴミ埋立地→サッカー競技場、講演、
複合都市開発
公的主体が、団地活性化のための 先端インフ
ラ構築、目抜き通りである Digital Media
Street を造成
自然環境の再生、新産業育成 韓国における公有
地活用による都
市再生
14 韓国、ソウル市 ソウルの森造成計画 約 115ha ソウル市
閉鎖された浄水場→環境親和型公
園、複合開発
官民の連携により、自然親和型公園を整備。隣
接地では地区単位計画による規制を事前に提
示、民間事業者を公募
自然環境の再生、市民の憩いの
場創出
2.公有地活用の海外事例
4-4
リバーウォーク計画 (アメリカ ミルウォーキー市)
デザインガイドライン、TIF、BID を活用した中心市街地の再生
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地(右図)
2)背景・課題
・20 世紀初頭、ミルウォーキー市
は重工業を中心に栄え、市の中心
部を流れるミルウォーキー川沿
いは水上輸送拠点として賑わっ
ていたが、1980 年代に相次い
だ工場の閉鎖、水上輸送路の衰退
等により地域は衰退した。
・市にとって中心市街地の再生のためには、倉庫や空きビルが建ち
並ぶ川沿いの再生が緊急の課題であった。
3)開発の流れ
・市は、歩道プロムナードを川沿いに新規増設し、点在する歴史的建築物
と公共施設、川を利用している事業などを連結する「リバーウォーク」
事業の実施を決定。RFP(Request For Proposal: 開発事業提案コン
ペ)方式で事業者を募り、事業者を決定。
・リバーウォークの実現に伴い、川沿いにはレストランが軒を連ね、倉庫
がギャラリー、事務所ビルがマンションへと転用されるなど、新築や改
修ラッシュが始まった。
<活用の特徴>
■デザインガイドラインによる開発のコントロール
川の護岸から15m以内の全ての開発を建築審査の対象とし、民間開発をリバーウォーク沿いに
誘導。開発者に物理的、心理的、視覚的、経済の4つのアクセスを義務付け、活性化を促進。
■TIF・BID 制度を活用した事業資金の調達
リバーウォーク建設費の78%を TIF(Tax Increment Financing:増加税収財源措置)による
起債で、22%を BID 地域の特別租税によって賄う予定であったが、建設費の22%については補
助金や寄付金が投入されたことにより、BID の特別租税分は余剰分として管理・運営費として還元。
■BID 組織による建設、竣工後の地域整備、管理・運営
市長が任命した委員(地域内の地権者や事業者)による評議会で、運営計画案を提出、「リバーウ
ォーク開発会社」を設立し、2.4m~3.6m前後の歩道プロムナードを川沿いに新規増設。竣工後の
管理・運営、イベント企画・宣伝等を実施。経費は、BID の特別租税で賄う。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
従後:
川沿いに歩道プロムナードを
新規増設、周辺の一体的整備
デザインガイドラインによる開発誘導
とTIFとBIDを利用した市街地再生
リバーウォーク配置図
4-5
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①デザインガイドラインによる開発のコントロール
川の護岸から 15m以内の全ての開発を建築審査の対象
とし、開発を許認可制度とすることで、市が定めた建築審
査会によって開発を審査する。ガイドラインでは、次の 4
つのアクセスを義務付けている;①物理的アクセス:リバ
ーウォークを 24 時間開放、②心理的アクセス:歩行の快
適性の向上、生活感の演出、③視覚的アクセス:リバーウ
ォーク沿いに店舗のショーウィンドウや出入口の設置な
どデザインの考慮、④経済アクセス:川を観光資源、経済
資源として活用、川沿いの環境整備による活性化を促進。
②TIF・BID 制度を活用した事業資金の調達
リバーウォーク建設費の 78%を TIF、22%を補助金
や寄付金で賄う。BID 徴収分は維持・管理費に還元。
・TIF 制度*により従前市が事業へ投資した資金を回収。
・BID 内で地権者や評議会を発足し、事業に必要な資金の
一部を行政に要望。行政が BID 地域から特別課税とし
て固定資産税の一部として徴収する。
③BID による建設、竣工後の地域整備、管理・運営
リバーウォークに面する全地権者と市で、リバーフロン
ト・パートナーシップを組織し、BID と土地の借地契約を
締結、99 年間の土地の租借権を付与。BID 内の評議会の
下に設立した「リバーウォーク開発会社」によるプロムナ
ードの新規増設、竣工後の管理・運営、ストリートファー
ニチャーやサインの整備、イベント企画・宣伝等を BID
の特別課税分で実施。
4.スケジュール
1992 年
1994 年
市がデザインガイドラインを定め、民間開発のデザインコントロールを開始
市がミルウォーキー川沿いに BID15 を指定
参考資料
※1 『都市のデザインマネジメント』、北沢猛、アメリカン・アーバンデザイン研究会 編著、学芸出版社、2002 年
※2 City of Milwaukee Department of City Development HP より
ミルウォーキー市
建設・管理・運営契約
BID15(事業主体)
リバーウォーク開発会社
地権者
リバーフロント・
パートナーシップ
建設・管理・運営
組織化して
借地に合意
リバーウォークは私有の公共施設として機能
市が定めるデザインガイドライン
公共施設としての機能の義務づけ
建設・管理・運営委託
土地借地契約
事業スキーム図
*従前の固定資産税の評価額をベースに、従後の不動産価格の上昇分を TIF 事業償還の資金とする制度
水辺のデザインガイドラインの例
川に背を向けて建っていた建物群 川沿いのオープンカフェ等
リバーウォークは BID 所有であるが、公共スペースとして機能
全長:約 2km
幅員:2.4~3.6m
4-6
チャールズタウン・ネイビーヤード (アメリカ ボストン市)
歴史的資産の活用およびゾーニングコードによる水辺の再開発
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・
課題
・米国国防省は、1974 年にチャールズタウン海軍造船所を閉鎖。閉鎖後の海軍造船所の余剰資
産の処分について、全体を 4 つの区画に分け、 南端の区画はボストン国立歴史公園に、その
他の3つの開発区画についての権限は、ボストン再開発公社(BRA※1)に委譲された。
3)活用
の方針
・BRA は、3 つの区画:①歴史保全地区(史跡委譲地域として地域内の歴史保存)、②レクリエ
ーション地区(造園や展示館を整備した造船所公園)、③新規開発地区(商業、ホテル、住宅(高
齢者用含む)の整備)について整備を推進。
<活用の特徴>
■歴史的資産の活用を前提とする開発スキーム
開発にあたって、BRA は3つの区画を取得し歴史的建物の保全を前提として、それぞれ史跡委譲
地域、造船所公園、新規開発地域と設定し開発を促進。
■ハーバーパーク計画に基づくゾーニングコード
市は、当該地区を含むボストンのウォーターフロント全域を対象として「ハーバーパーク計画」
を策定。そのなかでゾーニングコードを定めて、BRA による具体的な施設計画の誘導を行っている。
■経済復興課税法による税優遇措置等
当該地域は国の重要史跡登録を受けており、経済復興課税法によりデベロッパーに税優遇措置が
与えられた。また、全地区に対する開発事業財源は、関係各省からの約 1,090 万ドルを含んでいる。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
米国海軍造船所
従後:
史跡委譲地域、造船所公
園、新規開発地区(商業、
ホテル、住宅)
再開発公社による計画・実施
及びゾーニングコードによる
コントロール
ボストン
Google マップより
①国立歴史
公園地区
②歴史保全地区
③レクリエーション
地区 ④新規開発地区
4-7
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①歴史的資産の活用を前提とした開発スキーム
歴史保全地区は、政府との間で、25の建物の全てを歴史保全地区として修復・保全する同意書のもと無
償譲渡され、地域内の建物は BRA との長期契約に基づきそれぞれ個別に民間開発用に提供され、商業、住
宅、官公庁、軽工業等に利用された。レクリエーション地区についても、公共用リクリエーションに使用す
るという公約により無償で譲渡され、ドックや桟橋を活用した庭園や展示館などの整備を実施。
②ハーバーパーク計画に基づくゾーニングコード
当該地区においては、ハーバーパーク計画に基づくゾーニング
コードが指定され、全ての開発に対する規制として適用される。
また、計画のプロセスに地域社会の声を反映するため、計画の
立案・実施を進める BRA を監視し、助言する機関として諮問委
員会※2を設置している。
【主なゾーニングコードにおける当該地域的用規則】
・ウォーターフロントへのパブリックアクセスと水辺のオープンスペー
ス確保
・敷地の 50%以上をオープンスペースとして確保
・街区設計のガイドライン
→建物・空間は、視界と歩行者の方向を水面に向かわせる
→ピア終端へのパブリックアクセスとオープンスペースからの視界を
確保
・量的規制( 大容積、許容 大高さ(新規開発地区)、建物の特別のセ
ットバック(新規開発地区、歴史保全地区)
・土地利用(新規開発地区における特別土地利用制限、許容利用)
ゾーニングコードの概要
③経済復興課税法による税優遇措置等
経済復興課税法によるデベロッパーへの税優遇措置が施されているほか、開発事業財源としては、連邦政
府・市からの補助金総額約 1,000 万ドル以上が導入された。
4.スケジュール 1974 年
1976 年
1984 年
チャールズタウン海軍造船所閉鎖
内務省が海軍造船所跡地における開発権限をボストン開発公社に委譲
ハーバーパーク計画スタート 参考資料 ※1 「北米におけるウォーターフロント開発と管理運営の取り組み及び近年の開発事例に関する調査」石田崇、国総研
資料No.260 ※2 デザインされた都市・ボストン(PROCESS Architecture97)
※1:Boston Redevelopment Authority の略
※2:諮問委員会は市長が任命する、15 人のボランティア(州・市代表、企業・労働団体の代表、住民代表)で構成
※3:提案される計画のうち、計画基準の緩和を求めるもの、開発見直しを条件とするもの、公有地に計画されている
もの、都市再開発地区内に計画されているもの、公的補助を受けているものの計画審査
敷地面積:52ha
修復された建物群
水際と道路に沿った公共遊歩道の整備、ピア先端
部からのパノラマ的景観形成
街から海が見える視線の確保
4-8
メディカルシティ (アメリカ ウースター市)
州・市・開発公社一体となったブラウンフィールドの再生
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
ウースター市は、マサチューセッツ州のボストン近郊に位置する人口 17 万人の都市である。
1990 年代初め頃には、立地製造業の衰退に伴う遊休地増加、また雇用・税収面でも自治体経営
に深刻な打撃を与えていた。
地元の医療財団ファロンが病院を中心としてオフィス・小売店舗等を併設した複合施設建設を
計画、土地を探しているとの情報を市が入手。高速道路に近い約 10ha の工場跡地を適地として
選定、強制収用権を使って用地取得のうえ、開発可能な状態にして財団に引き渡すことを決定。
3)活用
の方針
・市の目標である「中心市街地の活性化」、「ブラウンフィールドの再生」の達成
・州・市・開発公社が一体となって土壌・地下水汚染を処理することにより開発用地を準備
<活用の特徴>
■市再開発公社による効率的な開発管理
市から WRA(ウースター再開発公社)に対して必要な法的権限を付与するなど、効率的な開発が
行われるよう配慮。
■土壌浄化の期間短縮と汚染責任の明確化
州のイニシアティブにより手続きの迅速化、浄化責任を明記した証明書を発行する等、購入側の
リスクを軽減。
■コミュニティとの対話
市民参加委員会による事前調査、市民諮問委員会による事後調査等、コミュニティニーズが反映
されているか詳細に検証。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
製油所、メッキ工
場跡地
従後:
総合医療施設(病院、医
療事務所、小売店舗等)
市が強制収用後、区画整理・
各種汚染処理
対象地
ウースター市におけるブラウン
フィールドの立地状況 →
ウースター市
ボストン市
4-9
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①再開発公社による効率的な開発管理
市は WRA(ワーチェスター再開発公社)に対して下記に示す対策を実施。
・土地の取得と浄化のために必要な法的権限の付与
・市の起債により財源を手当て(TIF 免税債を発行)
・浄化に必要な専門家 12 人(エンジニア、プランナー、弁護士、廃棄物処理、金融、地域開発等)を公社
の職員として提供
②土壌浄化の期間短縮と汚染責任の明確化
マサチューセッツ州が以下の施策を実施。
・計画地を特定地域に指定、浄化技術の提供と
許認可に要する審査手続きの迅速化等の支
援措置を準備。
・財団が公社から土地を取得する際、州は「不
訴訟誓約書」を発行、当該地が浄化基準を達
成しており、後日さらなる汚染が発見されて
も財団には浄化責任がない旨を明確化。
事業スキームと各主体の役割分担
③コミュニティとの対話
市職員や地元有識者をメンバーとする「市民
参加委員会」を設置、プロジェクトの経済効果
と地域社会にもたらす利益について調査。
環境アセス終了後には、「市民諮問委員会」
においてプロジェクトの技術面および企画面
での問題点を調査し、コミュニティニーズが反
映されているかを検証。
4.スケジュール
1992 年 市が WRA を開発推進機関として位置づけ
1996 年 建物解体と土壌汚染浄化完了
参考資料
※1 米国ブラウンフィールド開発に学ぶ我が国工業地帯再生の展望(2003 年3月 日本政策投資銀行トピックス)
※2 Commonwealth of Massachusetts DEP, DEP Brownfields Success Story (2001)
対象地
敷地面積:約 9.7ha
導入機能:総合医療施設
事業主体:民間、市、WRA
4-10
ビスケイン・ランディング (アメリカ ノースマイアミ市)
地域再開発公社主導による、廃棄物埋立地の再生
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
・ノースマイアミ市は、フロリダ州 大の都市であるマイアミ市の郊外に位置するベッドタ
ウン。
・市では、低中所得者向けの安全で快適な住宅を確保するため、市内の至るところに点在す
る質の悪い住宅改良および、財源の捻出が必要であった。
・当該敷地は、80 年代から廃棄物の埋立地として使用されており、再利用が課題であった。
3)活用
の方針
・廃棄物埋立地再利用プロジェクトとして、ビスケイン・ランディングに民間分譲住宅、商
業、ホテルを整備。
・ビスケイン・ランディングから生み出される資金を市内の他エリアにおける低中所得者向
け住宅の新築や改修、学校やトレーニングセンターの整備、市立図書館の改修に利用。
<活用の特徴>
■PPP によるビスケイン・ランディングの開発
市は、事業内容を定めた募集要項により民間提案を求める RFP(Request For Proposal)方式と
民間の会社内容、実績等の情報を提出してもらい事業者を指名する RFQ(Request For Question)
方式を併用し、民間デベロッパーを選定。住民投票のうえ、民間デベロッパーとの間で開発計画に
ついて合意。
■包括的なエリア再開発計画
市は、デベロッパーや開発内の住宅購入者等と99年間(一回延長可)の土地リース契約を結び、
地代等を徴収、デベロッパーはその資金や TIF 資金を活用し、市内の他エリアにおける低中所得者
向け住宅の新築や改修、学校やトレーニングセンターの整備、市立図書館の改修等を同時に実施。
■地域再開発公社 NMCRA による開発推進
地域再開発公社(NMCRA*)は市と共に、連邦や州の住宅助成プログラムの活用サポートや住宅
改良パイロットプログラムを促進。また、住民との対話と合意形成を図る役割を担っている。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
廃棄物埋立地
従後:
住宅、商業、ホテルの複合開発
未利用市有地を再利用
した複合開発
ノースマイアミ市
Google マップより
対象地
4-11
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①PPP によるビスケイン・ランディングの開発
RFP および RFQ 方式により選定されたデベロッパーは、ビスケイン・ランディング開発と同時に、市が
徴収した地代等と TIF 資金を活用し、デベロッパーが設立する住宅会社が低中所得者向け住宅の改修や整備
および地域立小学校、オリンピック・トレーニングセンター、市立図書館の改修等の責任を負っている。
②包括的なエリア再開発計画
下記の開発内での地代等の収入および TIF 資金で、他エリ
アにおける低中所得者向け住宅の新築や改修等を実施。
・開発計画承認段階にデベロッパーは、1.2 億円支払う。
・また、住宅 1 戸につき年間約 11 万円の地代(建設中)、
分譲された時点で販売価格の4%の一時金を支払う。
・分譲後、所有者は 1 戸につき年間約 22 万円を地代として。
・商業施設は、年間純利益の50%をデベロッパーおよび運
営者が支払う。
③地域再開発公社 NMCRA による開発推進
市 議 会 に よ り 氏 名 さ れ た 大 学 教 授 等 が 組 織 化 し た
NMCRA は、以下の権限を有している。
・条例や再開計画、それに伴う開発規制等の作成
・議会等の承認を得るための関係機関との折衝、調整
・地元住民への説明と合意形成
・決定された計画実施のモニタリング
事業スキームと各主体の役割分担
4.スケジュール
2001 年
2004 年
2005 年
市は RFQ 及び RFP により民間デベロッパーを選出
市とデベロッパーとの間で土地のリース契約締結
市は地域再開発公社(North Miami Community Redevelopment Agency)を設立
参考資料
※1 「ノースマイアミ市「ビスケイン・ランディング」に見る地域再生と経済開発の新たな可能性」『公民連携トピック
ス2007』、98 項-104 項
※2 「Biscayne Landing」Boca Developers, Inc. HP より http://www.biscaynelanding.com/
*:North Miami Community Redevelopment Agency
市
デベロッパー 住宅購入者
地代等 土地
リース契約 地代等
地 代 等 の
徴収資金
・低中所得者向けの住宅改修や整備
・地域小学校
・オリンピック・トレーニングセンター
・市立図書館の改修等
ビスケイン・ランディング開発地
市内の他エリア
同時進行
敷地面積:約 7.8ha
住戸(2,800~6,000 戸)
商業(約 5ha)
ホテル(150~400 室)
4-12
グリニッジ・ペニンシュラ地区 (イギリス ロンドン市)
EP(外郭公共団体)の適切なリスク負担に基づく PPP による都市開発
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
・ロンドン東部に位置するグリニッジ・ペニンシュラ地区は、19 世紀末に石炭ガス工場を中心
に栄えていたが、1989 年代に天然ガスが普及し工場を閉鎖。産業廃棄物等で汚染され、荒廃
地となっていた。
・1997 年、EPはンフラ整備や土地浄化が必要で民間事業者の開発リスクを増大させる地区と
して、当該地区(121ha)を先行取得し、敷地の浄化・造成、基盤整備を行い、マスタープラ
ンを作成、民間事業者の受け入れ態勢を整えた。
3)活用
の方針
・地区全体を GMV 開発 13ha(環境負荷低減・環境共生型)と MDL 開発 77ha(複合型都市)
に分け、約 10,000 戸の住宅供給および約 24,000 人の雇用を創出予定。
・住宅やオフィス・店舗をはじめ、学校、福祉施設、スポーツ、レジャー、娯楽施設等の整備に
よるコミュニティの形成。
・3 つの主要な公園を含む、敷地の 1/6 以上を公園や広場、公共空地として整備。
<活用の特徴>
■English Partnership の資金投資による敷地の浄化・造成、基盤整備
外郭公共団体 English Partnership(EP)が環境省から配分される補助金等を活用し、当該地区
(121ha)を取得、土地浄化・造成、インフラなどを整備。地元や地方政府との協議のうえ地区全
体の再開発マスタープランを作成し、民間事業者活用による都市再生を誘導。
■民間事業者誘導のためのインセンティブ付与
EP は、Greenwich Millennium Village(GMV)13ha および地区北側(MDL)77ha で、事
業コンペにより民間デベロッパーを選定、長期パートナーシップ契約を結び開発を促進。キャップ
ファンディング(補助金の支給)やプロフィットシェアリング(利益配分)により財務面のインセ
ンティブを付与、参入する民間側のリスク低減を図った。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
石炭ガス工場跡
地
従後:
住宅、福祉、コミュニテ
ィ・レジャー施設等を含
む複合型都市
EP による基盤整備及び開発
誘導、民間事業者による開発
グリニッジ・ペ
ニンシュラ地区
再開発
マスタープラン
MDL 約77ha
GMV 約 13ha Google マップより
4-13
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①English Partnership の資金投資による敷地の浄化・造成、基盤整備
民間デベロッパーが荒廃地を取得し土地浄化・造成した際、投資コストを回収できるだけの不動産価格が
形成されない可能性があるため、EP が環境省から配分される補助金等を活用し土地を取得、インフラ整備ま
での敷地の整備を行うことにより、開発初期段階のリスクを負担した。
②民間事業者誘導のためのインセンティブ付与
EP は、①事業採算性を考慮したマスタープラン
の作成、②地元や地方・中央政府との調整、③コ
ンペによる民間デベロッパーの選定、長期パート
ナーシップ契約を結び、開発を促進。
また、以下のインセンティブ付与による事業者
の参画への障壁低減を図る。
・【ギャップファンディング】:開発コストが市場
価格を上回る場合に、EP が補助金を支給して投
資回収リスクを負担。
・【プロフィットシェアリング】:EP が、当初の土
地価格などをディスカウントし投資回収リスク
を回避する代わりに、ディスカウントによる開
発コストと市場価格との差額および事業利益の
一定割合を受け取る。
4.スケジュール
1997 年
2012 年
English Partnership がグリニッジ・ペニンシュラ地区(121ha)を買取り
プロジェクト完了(予定)
参考資料
※1 「RICE Monthly」No212、建設経済研究所、2006 年 10 月
※2 経済経営ニュースレター Vol.13『英国の Public Private Partnership を主導する English Partnership の役
割』、1999 年 9 月
※3 English Partnership HP より
※4 Meridian Delta Limited HP、http://www.greenwichpeninsula.co.uk/index.php4 より
投資回収リスク
開発コスト 市場価格 ギャップファンディングの対象
開発コスト 市場価格
<事前の予測>
土地
建物等
開発コスト 市場価格
建物等
ディスカウント
土地
利益
プロフィットシェアリングの対象
事業収益
4-14
ハンマルビー・ショースタッド (スウェーデン ストックホルム市)
市のイニシアチブによる環境配慮型ニュータウンの実現
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
・ストックホルム郊外のハンマルビー湖周辺は、自動車・造船・電気当の工業地帯であった
たが、市は、1990 年代初頭に再開発の対象に位置づけ。
・1996 年に環境配慮をテーマとして、当該地区を含む地域を 2004 年のオリンピック候
補地として立候補したが誘致に失敗。当該地区の、環境に配慮した開発計画が立案された。
3)活用
の方針
・ストックホルム市が、開発のイニシアチブをとり交通公社・国道事務所等の関係機関との
連携による利便性の高い公共交通の整備、カーシェアリング制度の導入および民間事業者
との協力のもと、住宅・商業・業務を複合させた環境配慮型ニュータウン開発を実現。
・民間事業者が市から土地を借地し、マスタープランに基づき事業を実施。
・市と民間事業者は土地の所有割合に応じた処理費用を負担し、土壌汚染の浄化を行った。
<活用の特徴>
■戦略的マスタープランおよび詳細マスタープランによる開発の方針策定
市は、当該開発敷地を 12 地区に分割し、土地利用等を定めた戦略的マスタープランを作成。3
~4の民間デザイナーを選定し提案を求め、詳細マスタープランを策定。
■市と民間開発者によるデザインコードの作成
市が選定した民間事業者と建築家と共に、各地区の詳細なデザインコードを作成し、市と事業者
の開発合意の付属書類とした。デザインコードに基づいて、地区単位、場合によっては建物単位で
事業者や設計者を選定し、開発を実施。デザインの多様性を確保するために、地区ごとに様々な事
業者や設計者を選定。また、周辺環境の歴史的価値に配慮し、既存の工場をオフィスや学校として
活用し、全体の再開発を促進。
■環境配慮型開発の推進
エネルギーの再利用、廃棄物、下水処理システムの導入や公共交通整備による徹底した環境負荷
の低減を促進。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
自動車・造船・電
気等の工場跡地
従後:
環境配慮型のニュータ
ウン(住宅、商業、業務)
市が基盤整備、マスタープラ
ンに基づいた開発推進
ストックホルム中心地
Google マップより
ハンマルビー
ショースタッド
マスタープラン
4-15
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①戦略的マスタープランおよび詳細マスタープランによる開発の推進
戦略的マスタープランでは、敷地全体の土地利用方針、敷地を 12 地区に分割し段階的に開発を進めるこ
とを位置づけ、各地区でデザイナーを選定し提案を受けたうえで、詳細を取り決める。その後、事業者や建
築家とともにデザインコードを設定し、開発促進。
②行政と民間開発者によるデザインコードの作成
デザインコードでは、以下の項目を各地区設定している。
・地区の特徴:伝統的な都市体系やモダン建築の特徴を活用し、複合的な土地利用、容積、建物体系を促進。
・配置、形状、構造:各ブロックのコンセプトまたは、メインとする建物を定め、2D または3D 図を作成。
・建築スタイル:①ストックホルムの伝統的なインナーシティの特徴、②ショースタッド特有の形態、③オープンス
ペース、④スケールやバリエーション、⑤建築物のトレンドの5つの視点を考慮。
・建物のタイプ:異なる建物のタイプの区別。形や規模、1フロアーの部屋数などの定義。
・建物のデザイン:外観素材、窓、バルコニー等詳細なガイドラインやランドマークとなる建物の設定。
・建物の要素:玄関、バルコニー、窓等のガイドラインや寸法。
・建物の色:配色パターンの設定。
・中庭や公共スペースのデザイン:公共と私的空間の分離、緑地の割合、素材や街灯の標準化。
・詳細な建築やデザインの原則:3D イメージ作成。
・ランドスケープ、舗装素材、街灯やストリート・ファーニチャーを含む公共空間のイメージ作成。
③環境配慮型開発
環境プログラムとして、汚染土壌の浄化、ハンマルビーモ
デル※1の導入、自家用車利用を抑制する公共交通整備、カー
シェアリング制度の導入など様々なレベルで環境配慮への取
組みを行っている。
4.スケジュール 1991 年
1995 年
開発方針の策定
土地造成開始
1997 年
2015 年
オリンピック開催地落選に対応して計画変更
プロジェクト完了(予定)
参考資料
※1 Commission for Architecture and the Built Environment HP より
http://www.cabe.org.uk/default.aspx?contentitemid=1318&aspectid=7
※2 SSD、彰国社、2008 年 1 月
※1:エネルギー再利用、廃棄物、下水処理を統合したシステム。近隣の処理場で下水廃棄物をガスへとリサイクル、
地区内の家庭でガスは活用され、下水処理の過程で発生する熱は地区内の暖房システムへ供給される。
街なかの廃棄物収集システム
敷地面積:約 200ha
居住人口:約 20,000 人
就業人口:約 10,000 人
4-16
エムシャー・ランドシャフトパーク (ドイツ ノルトライン・ヴェストファーレン州)
IBA(国際建築博覧会イベント)方式によるプロジェクト展開
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
ルール地方はドイツ北西部に位置し、古くから石炭鉱業・鉄鋼業・化学工業などが も密集した
鉱工業地帯を形成していた。1970 年代の産業構造の転換によって主産業である重工業は衰退し、
「高い失業率」「街中の遊休地」という課題を引き越し、結果として汚染された自然環境や破壊さ
れた景観が負の遺産として残された。
この問題を解決するために、州はルール地方エムシャー川流域(17 市、人口約 200 万人、面積
約 800k ㎡)を対象として、集中的に地域再生を推進することを決定した。
3)活用
の方針
・広大な地域を緑と水を骨格とし、汚染された地域を、経済・環境ともに再構築
・工業的景観のある歴史的遺産の修景・保全・活用による地域再生
・土地ファンド制度により買い上げた産業遊休地の再利用
・IBA 方式を通じたコンセプト・デザイン・技術についての新しいアイデアの創出
<活用の特徴>
■大規模な自然景観の復旧、歴史的資産の活用
地域全体の自然・緑地の再生整備を通じて、産業用地の再活用、自然ランドスケープの回復、新産
業の創出を図った。
■IBA(国際建築博覧会イベント)方式による事業推進
アイデア公募・コンペ・公開等を含む国際的な議論のなかで事業を推進という IBA 方式を採用。
■IBA エムシャーパーク公社によるプロジェクトマネジメント
州の 100%出資による 10 年限定の組織として、プロジェクト全体のマネジメントを実施。
■EU はじめ多様な主体からの投資を誘発
事業期間の投資総額 50 億マルク(約 3500 億円)のうち公共主体として EU、NRW 州、その他
自治体、また民間事業者など多様な主体からの投資を誘発。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従後:
イベントステージ、ミュージ
アム、ユースホステル、子供
向けプレイパークなどの点
在する自然公園
州が土地を買上げ、州開発公社が
IBA 方式によりアイデアを募集
従前:
鉄鋼メーカーの製作所跡地
(重工業産業跡地)
ノルトライン・ヴェ
ストファーレン州 ルール地方
ルール地方 IBA エムシ
ャーパーク
4-17
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①IBA(国際建築博覧会イベント)方式の採用による事業推進
IBA(Internationale Bau-Ausstellung 国際建築博覧会イベント)とは、課題に対する新しい解決法を
見出すために「①アイデアの公募」「②コンペによる計画選定」「③プロセスの公開」を組み合わせた展覧会・
展示会のような国際的イベントを呼び、ドイツでは 100 年ほど前から行われている。IBA に指定することに
より、自治体内におけるプロジェクトのプライオリティが高まるのに加え、国内外への宣伝効果が見込まれる。
結果として、通産 120 ほどのプロジェクトが審査を経て実行され、国際ワークショップ・コンペを通じて
事業成果を確固たるものとすることに寄与した。
②雇用・経済政策と環境・文化政策を併せて実現
事業のコンセプトとして、公社はエコノミー・エコロジーコンセプトを設定し、実現させる戦略として以下
の3つを示した。
(1)土地のリサイクル利用(土地ファンド制度により買上げた産業遊休地の再利用)推進による都市的土地利用
拡大の抑制。(2)補修、改善、用途転換による建物や生産施設の耐用年数の向上・エコロジカルな建設理論
による新築。(3)エコロジカルな製品やエコロジカルな製造法に向けた、地域的な生産構造の転換
③IBA エムシャーパーク公社によるプロジェクトマネジメント
IBA エムシャーパーク公社は、州の 100%出資による 10 年限定の企業として設立された。事業自体は施
行せず、プロジェクト全体のマネージャーとして IBA の実施、コンサルティングサービス・広報活動、補助
金の調整などを行った。
④EU 含め多様な主体からの投資を誘発
当該事業は、地域の共通基盤に関する公共投資と、民間による宅地取得や建築設備のための民間投資から成
り立っている。1989~99 年の事業期間の投資総額 50 億マルク(約 3500 億円)のうち、公共部門の投資約
30 億マイル。そのうち約 4 割が欧州連合(EU)から出資され、5 割が NRW 州、1 割が自治体出資となって
いる。
4.スケジュール
1988 年 州がプロジェクト発表。IBA エムシャーパーク公社を設立
1989 年
1990 年~94 年
公社がプロジェクトへの参加募集。400 を超えるアイデアが集まる
応募されたプロジェクトアイデアを絞り込み、計画を推進
1994 年
1999 年
中間報告展示を開催
完了報告展示を開催。公社は解散(事業はプロジェクト・ルール公社に引継ぎ)
2006 年 州と関連自治体が「エムシャーランドスケープパーク 2010」を策定
参考資料 ※1地域拠点都市地域ニューズレター No.43 2006 年 10 月
※2「IBA エムシャーパーク・プロジェクトに学ぶ地域再生」RIIM REPORT VOL.4 2002 年 6 月
※3ドイツの開発プロジェクトに学ぶ成熟社会の都市・地域再生 UFJ Institute REPORT 2004 年 6 月
※4 http://www/horonai.com/
歴史的な産業遺産を活用
したポイントが多数展開
例)操業を中止した製鉄所をモニュメントとして保
存したまま、公園化
4-18
オリンピックパーク(シドニーオリンピック跡地) (オーストラリア シドニー市)
州開発公社による、オリンピック関連施設跡地におけるまちづくり
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
オリンピック計画敷地は、ほとんどを州政府および連邦政府が所有していたため州政府の機関
である OCA(Olympic Co-ordination Authority)がマスタープラン作成および競技施設の調達
を行った。しかし、従前は工業地(食肉処理場、軍需品倉庫、廃棄物処理場)であったため、オリン
ピック招致に向けては大規模な土地改良が必要であった。
また、個別の競技施設の整備に関しては、官民協働により事業が進められ、シドニーオリンピ
ックでは他大会と比較して、産業発展や観光産業への投資などが重視された。
3)活用
の方針
・環境ガイドラインに基づいた環境に配慮した施設整備
・民間資金による施設整備(事業費の 3 分の 1)→官民協働の資金調達モデルの実施
<活用の特徴>
■長期計画に基づいた複合用途によるまちづくり
オリンピックパークにおいては、「Vision2025」と呼ばれる 20 ヵ年計画に基づいたまちづくり
を推進。2010 年までに、住宅・商業・業務・医療福祉・教育・宿泊施設等の大規模な新規開発が
計画され、2025 年には 1.5 万人の居住人口を目指している。
■Vision2025 におけるまちづくりの原則
オリンピックパークは、まちづくりガイドラインに従って開発が進められている。
■エリアマネジメントの推進
日常的なワークショップやツアーや、比較的大きな規模のイベント等も定期的に開催されている。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従後:
ホテル、銀行、スポーツ、
病院、住宅を中心とした複
合施設、公園等
用途変更・新施設建設
従前:
オリンピック関連施設跡地
(州政府・連邦政府所有)
ニューサウスウェルズ州 対象地
シドニー
中心部
選手村:
約 84ha
全開発区域:
約 760ha
4-19
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①長期計画に基づいたオリンピックパークにおけるまちづくり 「Vision2025」と呼ばれる 20 ヵ年計画に基づいて、まちづくり
を推進。2005 年からの 5 年間は、“Growth Phase”として位置づけられている。2010 年までに、住宅・商業・業務・医療福祉・教育・宿泊施設等の大規模な新規開発が計画され、2025 年には 1.5 万人の居住人口を目指している。SOPA(Sydney Olympic Park Authority)はオリンピックパーク内の用地開発により 2005 年時点で約 1 億 A$を獲得しており、オーストラリアの主要ホテルグループである Accor との契約も締結。Accor による五つ星ホテルの建設のほかにも、NSW のスポーツ施設や Commonwealth Bank of Australia(約 23,000 ㎡)の建設等が予定されている。 ②Vision2025 におけるまちづくりの原則 1)オリンピック遺産の保全 6)オリンピック通り沿道における風
格ある公共空間形成
2)公共主体による複合的な都市機能
の整備
7)高水準の建築デザイン、都市デザ
イン、ランドスケープ、アートプ
ロジェクト推進
8)環境配慮への取組み 3)国際的なスポーツ、文化、エンタ
ーテインメントイベント開催地と
しての位置づけの確立 9)多様なソーシャルミックス形
成
4)ミクスドユーズの都市づくりによ
る年間を通した活気の形成
10)利便性の高い公共交通アクセス
確保
5)低未利用地の有効活用 11)周辺街区との連続性の確保 ③エリアマネジメントの推進
オリンピックパークでは、日常的なワークショップやツアーや、大規模のイベント等を定期的に開催するなど、地区の魅力向上のためのエリアマネジメントを実施している。
4.スケジュール
1993 年 SOBL(NSW 州政府により設立された公営企業)が環境ガイドラインを作成 1996 年 オリンピックに向けたホームブッシュベイ地区のマスタープランの承認 2000 年 9 月~10 日 オリンピック開催 2002 年 Vision 2025(マスタープラン)の策定
参考資料 ※1 http://www.sydneyolympicpark.com.au/home
Vision 2025 の対象範囲(北からの視点)
ホテル 銀行
教育・スポーツ施
設候補地
Formula 1 Hotel
銀行のコール
センターなど
Sofitel Hotel
レストラン/パブ/
バー候補地
スポーツ専門病院
住宅を中心と
した複合開発
Commonwealth
Bank of Australia
業務施設等の候補地
Game Trail
ツアー Aquatic Center
ツアー
Vision2025 における土地利用計画
4-20
Klee Building (アメリカ シカゴ市)
RFP方式による歴史的建築物を含む土地売却・開発誘導
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
・シカゴ市は、1960~70 年代の産業の空洞化や連邦政府の財源縮小による再開発補助金減少
等によりスプロール化が拡大、中心市街地の空洞化が進んでいた。
・1920 年代に市の中心部に建設された Klee Building は、老朽化し空室率は高くなっていたも
のの、建物自体は地域 (the Six Corners shopping district) のランドマーク的建物と認識さ
れていたため、市は建物の保存を決定。建物の保全活用を通じて地区の再生を図った。
3)活用
の方針
・RFP 方式による民間事業者の募集
・TIF 制度の活用による事業実施(対象地は TIF 地区に指定)
・歴史的建造物の再生による都市中心部の活性化に貢献
<活用の特徴>
■歴史的建物の活用を前提とした RFP の実施
地域の重要な歴史的建物である Klee Building の保全活用を募集条件として、RFP(Request For
Proposal)により民間事業者を公募。
■低価格住宅整備を条件とした 低価格での土地処分
市は、200 万ドルで購入した対象地を、 低価格 20 万ドルで事業者に売却。売却上は 180 万
ドルの赤字だが、事業者が 20%を低価格住宅にして建設することで相殺。
■売却対象の隣接地も含めた計画による面的な開発を実現
Chicago Klee, LLC は、事前に購入していた隣接地を含めた事業提案を行い、事業者として選定。
歴史的建物だけでなく周辺も含めた面的な開発を実現。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従後:
分譲集合住宅・商業施設 建物の修復・隣接地と
一体的に開発
従前:
老朽化した空きビル(歴史的
建物)
The Six Corners shopping district、シカゴ市
Klee Buildingシカゴ市
ミシガン湖
4-21
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①RFP 方式による Klee Building の開発
シカゴ市では、TIF 制度導入のためには RFP 方式による土地売却・開発誘導が必須とされていた。市が
Klee ビル売却の RFP 要綱書を提示した結果、3事業者が提案を提出。3 事業者とも1次を通過し、住民参
加による公聴会にて提案を説明。住民意見を反映し、選定委員会は、Chicago Klee, LLC (SEJ Development
と Poter Construction の共同体)の提案を推薦、 終的に地域コミュニティの開発委員会と市議会で正式
に決定された。
②対象地の売買価格と開発条件
市は、200 万ドルで購入した対象の土地と
建物を、 低価格 20 万ドルで開発事業者に売
却した。土地売却上は 180 万ドルの赤字だが、
開 発 事 業 者 が 住 宅 の 20 % を 低 価 格 住 宅
(Affordable Housing)にして建設することで
相殺。
③売却対象外の隣接地を含めた計画案
Chicago Klee, LLC (SEJ Development &
Poter Construction の共同体)の提案が選定
されたポイントは、開発事業者が予め購入済み
であった Klee Building の隣接地(RFP の対
象外)をも含めた事業提案を行ったことにあ
る。
※開発事業者は、本件を落札できなくても、Klee Building
の開発によって周辺の地価が上がると考え、土地を取得。
4.スケジュール
1990 年代後半 開発対象建物の選定・交渉・取得
2002 年 8 月 26 日 市計画開発局からの RFP の提示
2002 年 10 月 28 日 事業者提案の提出
2004 年 1 月 8 日 事業者決定(プレス発表)
参考資料 ※1 アメリカ都市再生調査報告 (2004 年 7 月/PPP によるまちづくり研究会)
※2 都市のデザインマネジメント (2002 年 10 月/北沢猛+アメリカン・アーバンデザイン研究会)
180
万ドル
赤字
20 万ドル
市→開発事業者
200
万ドル
土地の売買の流れ
州は、180 万ドルの
赤字。事業者が、低
価格住宅を建設する
ことで相殺。
Chicago Klee,
LLC の提案
売却対象地
Klee Building
開発事業者が
事前に取得し
ていた隣接地
事業地
商業、住宅(64 戸)
駐車場(23 台)
4-22
国立オスロ大学学生寮 (ノルウェー オスロ市)
穀物貯蔵サイロを大学の学生寮に再生
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
・ノルウェーの首都オスロ市内のグリューネリュッカ地区は、オスロの工業化の発祥地でもあり、
かつては工場群が立地しており、当該サイロもトウモロコシ保管のために建設された。
・時代の推移とともに工場群は郊外に移転し、サイロ施設は無用となり 1980 年代に放棄。近く
の住民からは壁への落書きや治安の悪化に対する苦情も増え、何らかの活用が望まれていた。
・一方、近年若者が都会へ集まる傾向が進み、大学は学生のための宿舎不足に悩んでいた。
3)活用
の方針
・政府補助を受けて、学生組織がサイロを買い取り、学生寮へ改造。
・エレベーター設置、壁を取り払い床をつくり、居住環境として整備。
<活用の特徴>
■学生組織が放棄されていたサイロを買い取り、学生寮へ改装
若者が都会へ集まり学生宿舎は不足。学生組織は政府補助を受けサイロを買い取り学生寮へ改装。
■サイロの外観を活かしてオシャレに改修
サイロの外観とコンクリートの内壁は活かしつつ、窓部分や内装をカラフルに着色、また 上階
には集会場・洗濯室を設けるなど、学生にとって魅力的な施設となるようなデザインを実現。
■周辺の工場・倉庫のリニューアル施設との調和
当該施設が立地するグリューネリュッカ地区は、昔の工場や倉庫がカフェやレストランにリニュ
ーアルされている施設が多く、歴史資産を活かした地域のまちづくりにも貢献。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従後:
国立オスロ大学の学生寮 学生組織が買い取り、
改造・用途変更
従前:
産業施設:穀物貯蔵サイロ
(コンクリート製の塔)
グリューネリュッカ地区
オスロ
国立オスロ
大学学生寮
アカーセルバ川
国立オスロ
大学学生寮
4-23
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
目立つサイロ外観を活かしておしゃれに改修
・総室数 227 室、1 ベッドルーム単身用(19―25 平方
メートル)、学生夫婦のための家族用 45 平方メートル
の部屋もある。
・エレベーター及び各階の床を整備。
・壁を取り払って横につなげ、16 階と 17 階には集会場
や洗濯室などを設けた。
・殺風景な外壁には、下から茶色、黄色、緑、青、ピンク
と窓部分を上塗りし印象を和らげた。
・内装も各階の色を基調に整えているが、円柱のコンクリ
ート内壁はそのままむき出しで活用。
・必要 低限の家具は学生組織が用意している。
・昔のトロッコ台車 1 台を記念として入口に設置。
4.スケジュール
1952 年
1980 年代
サイロ建設
工場の郊外への移転に伴いサイロの使用終了・放棄
2000 年 サイロを改修し、オスロ大学学生寮として用途変更
参考資料 ※1 http://www.wendy-net.com/nw/news&view/danchi22.html
改装前のサイロ建物 のっぽの鉛筆ビルが束ねられたよう
に見える改装後の学生寮 川へ向かう傾斜地の墓地と林の中に
そびえるサイロ改装建物の遠景
・改装で開けられた窓。造りつけの机は壁面に沿って曲線になっている
・内装も階によってオレンジや青などの色が効果的に使用
内装及びイメージプラン
4-24
ライネフェルデ団地 (ドイツ ライネフェルデ市)
人口減少に対応した、団地の減築再生デザイン
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
フランクフルトの北東約 230 キロに位置する旧東ドイツのライネフェルデ市は、セメント生産
と紡績が中心の工業基地として繁栄しており、当該団地も含め画一的なコンクリートパネル工法
による団地が多く建設された。1989 年の東西ドイツ統一後の急激な経済変化により、多くの労
働者が職を失い人口が流出したため、ライネフェルデ団地は 26%が空き家となった(市全体では
20%の空き家率)。市長は都市再生を自治体政策の 大課題として、1994 年からライネフェル
デ団地の再生を開始した。
3)活用
の方針
古い集合住宅を壊して建て直すのではなく、部分的に増築や改築を行い、さらに減築と呼ばれる
住棟の一部や全体を取り壊して、空いた空間を市民生活の質を高めるために活用する。
<活用の特徴>
■サステイナブルな団地再生
老朽化した画一的な集合住宅を壊して建て直すのではなく、既存住棟の用途転用・減築、新たな施
設付加等による「減築再生デザイン」を導入。人口減少に対応したサステイナブルな団地再生を実現。
■居住環境の向上と地域の活性化を促進
市は住民とワークショップを重ねて居住環境の向上に向けて団地再生のための計画を具体化。再生
事業推進等に伴い新たな雇用を創出するとともに、地域の出生率の回復につながるなど、地域の活性
化にも寄与。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
空き家が目立つ既存
団地
従後:
居住環境の質を高めた
団地として再生 住棟の取り去り・付け加え等
ベルリン
ライネフェルデ市
フランクフルト
ライネフェルデ団地の街づくりコンセプト図(市提供)
4-25
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の概要 <サスティナブルな団地再生>
① そのまま使う=転用
・使われなくなった建物(学校等)を取り壊
さずに新しい利用方法で使う。
② 切り取る=減築
・住棟の一部を撤去し、住戸数を減らす。(一
気に取り壊すよりコストも手間もかかる
が、新築よりは安価である)
・高層を低層に減築し、耐震性と安定性を高
める。
③ 付け加える
・上下、左右の住戸を連結させて、新たな住
戸要求に応える。
・居住者の高齢化を見越し、エレベーター増設や斜路を付設する。
・断熱材や木造断熱サッシを取り付け建物の断熱気密性を高める。
・図書館、病院、公園、駐車場、運動施設等の施設環境を充実させる。
・専用庭やバルコニー、日除け、プラントボックスを設け生活の楽しさを付加する。
4.スケジュール
1962 年
1994 年
ライネフェルデ団地建設
市の総合計画の 重要課題プロジェクトとして、団地再生に着手
2010 年 プロジェクト完了(予定)
参考資料
※1 NPO 団地再生研究会、合人社計画研究所編「立て替えずによみがえる団地コミュニティ 団地再生まちづくり」水曜社 2006 年
バルコニーを増築し緑化。 1 階に店舗を配置
住棟を取り壊して中庭を拡張
200mの住棟を小さく分断
5 階建てを 3 階建てに減築。テラスを増築
共用空間で別々の住棟を連結
メゾネット化 専用庭の付設 エレベーターの付設 断熱・気密を
改善する
専 用 玄 関 の 付 スロープの付設
増床 太陽電池などを
装備する 長大住棟を切断し減築する
上階の一部を減築する
4-26
ベルマミーア団地 (オランダ アムステルダム市)
大規模高層団地をヒューマンスケールな低層団地に再生
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・課
題
・ベルマミーア団地は、1966 年からおよそ 10 年かけて、アムステルダムの拡張市街地(干拓
地)に開発された、開発面積約 700ha、住戸数1万 4000 戸(うち9割が高層集合住宅)の
巨大な住宅団地である。
・しかし入居後まもなく、ヒューマンスケールを超えた画一的なオープンスペースはコミュニテ
ィから敬遠され、団地内の各所に死角が存在しため犯罪が横行する。当初入居を想定した中流
階級の人々は、同時期に建設された他の低層中心のニュータウンに入居したため、代わりに当
該団地は移民の受け皿となり、居住環境悪化の負の連鎖で持続的な運営の見通しがつかない状
況となった。
・1972 年に第 1 次大規模再生が始まったが、空家率は回復せずに管理組合は倒産。しかし 1990
年代以降、都心の空洞化が問題となり、市の中心部から 10km 圏内に位置する当該団地の再
生が都市再生の起爆剤として脚光を浴び、1992 年第2次大規模再生が着手された。
3)活用
の方針
・高層棟を壊し、低層棟による新たなまちなみを創出する。
・住宅の空間形式や所有形態に幅を持たせ、ソーシャルミックスを図る。
・雇用機会の創出と地域経済の活性化を図る。
<活用の特徴>
■画一的な空間構成からの脱却
高層棟の約半数を取り壊し、小スケールの街路網をなすテラスハウス群へ建て替える。
残る半分の高層棟は地上階へコミュニティ施設を誘致し、エレベーター増設等の大改造をする。
住宅形式や所有形態に幅を持たせ、入居者の偏った所得階層分布を是正する。
■地域経済の活性化を促進
西端の未利用地をビジネスパークとして開発し、雇用機会の創出と地域経済の活性化を目論む。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
大規模高層住宅団地
従後:
ヒューマンスケールで、
安心感のある低層団地
高層棟の取り壊しや
切断を含む再生
サッカーチームAJAXの本拠地アリーナ
ベルマミーア
ベルマミーア
4-27
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴
①画一的な空間構成からの脱却
・既存の高層ブロックのおよそ半数を取り壊し、小スケールの街路網を成すテラスハウス群へと建て替える。
・残る半数の高層ブロックでは、立体駐車場を取り壊し屋外駐車場を設置、地上階にコミュニティ施設を誘
致、エレベーター増設などの大改造を行う。
・住宅の空間形式や所有形態に幅を持たせ、ソーシャルミックスを図る。
②地域経済の活性化方策の導入
・西端の未利用地に広大なビジネスパークを開発し、
雇用機会の創出と地域経済の活性化を図る。
・新しいまちのシンボルとなるサッカー場(地元サッ
カーチームの本拠地)を建設
③多様な住民の合意形成
・新たに所有主体となった Patrimonium(ハウジンク ・゙)
アソシエーション)は、Project Office Bijlmermear を組
織し、各主体の合意に基づく再生行為のマネジメン
トを実施。さらに、コンサルティング組織(MP
Bureau)が多種多様な文化的背景を有する住民の
合意形成の取りまとめを実施。多様な住民意見の合
意形成を行った。
4.スケジュール
1968 年
1982 年
ベルマミーア団地建設
アムステルダム市は当該団地のスラム化防止対策を策定し、第一次大規模再生が開始
1983 年
1992 年
当初 14 あった地区管理組合を1つに統合するも、空室率が減少せずに管理組合は倒産
アムステルダム市・南東区・オランダ社会住宅基金が第2次大規模再生プロジェクトとして着手
2010 年 プロジェクト完了(予定)
参考資料
※1 東京大学 Csur-SSD 研究会編著「都市のSSD100 都市持続再生のツボ」彰国社 2008 年
※2 NPO 団地再生研究会 合人社計画研究所編著「団地再生まちづくり 建て替えずによみがえる団地・マンション・
コミュニティ」水曜社 2007 年
※3 村上心「連載 住環境の分水嶺―日本の住宅制度はどこへ行く第 7 回」住宅建築 2002 年 9 月号、103-107 頁
出資Patrimonium
(ハウジング・アソシエーション)
分譲所有
住民組織
意見
Bijlmer
meer
コンサル
ティング
補助金・
制度
公共主体
所有主体
専門家
国
賃料
居住
管理
意見
報告
設計計画
設計案
設計料
MP.Bureau
(コンサルティング・オフィス)
出資
出資
建築家
住み手
Project Office
Bijlmermeer
アムステルダム市
南東区
コンサルテ
ィング料
高層住宅を取り壊し、5 階建ての住宅に
開発面積:約 700ha
住戸数 :約 14,000 戸
多様な住民の合意形成の仕組み
住戸数は概ね半減
4-28
サンアム ミレニアムシティ (韓国 ソウル市)
「環境」「情報」をテーマにした公社主導による都市開発
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・
課題
・元々はソウル市中心を流れる漢江沿いの島であったが、15 年間ごみ埋立地として使用され、
約 1 億 2 千万トンのごみ山になった結果、1993 年に使用閉鎖された。
・4 年後、この一帯をソウル市が宅地開発事業地区に指定し、ワールドカップ競技場やミレニア
ム公園を含む「環境時代」「情報化時代」に対応する次世帯型都市として開発を推進。
3)
活用方針
・かつてのゴミ埋立地の再生による環境親和型都市の実現。
・世界的な情報化時代に対応できるように、国内外先端ソフトウェアやマルチメディア産業に特
化した情報都市の実現。
・デジタルメディア企業団地、産業支援施設、研究・教育施設が集積して、シナジー効果を創出
するデジタル産業の先導基地の実現。
<活用の特徴>
■ごみ埋立地の生態的回復を図る環境親和型都市の実現
かつてごみ埋立地として使用された漢江沿いの島の生態を復元し、「環境」と「情報」をテーマにし
た未来型副都心を造成。
■公共による 先端のインフラ構築
公社により開発されたデジタル・メディア・シティ(DMC)は、一般会計先投資後に造成敷地
を売却して投資費を回収する方式の事業で、土地利用計画及び 先端インフラの構築を公社が
実現した後に用地を供給。
■公共によるデジタル・メディア・ストリートの整備
DMC の中心活動街路に先端メディア技術とコンテンツの複合空間を実現。民間事業者の誘導の
目玉とした。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
ごみ埋立地及び
未開発地
従後:
デジタルメディア団地、産業支
援施設、研究・教育施設
市によるインフラ構築及び
土地利用設定後に用地処分
4-29
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴 ①ごみ埋立地の生態的回復を図る環境親和型都市
敷地は、15 年間ごみ埋立地として使用されたナンジ島を含むソウル市 後の大規模未開発地で、2002
年ワールドカップ競技場建設計画とともにその一帯が複合用途として開発された。
ナンジ島の生態復元を象徴する5つの公園、環境配慮型住居団地、ゴミ処理場の廃熱を利用した韓国初の
地域冷暖房施設を誘導した。
②公共による 先端のインフラ構築 サンアム・ミレニアムシティの中心施設デジタル・メ
ディア・シティ(DMC)は、SH 公社(ソウル市が設立
した宅地開発、住宅供給、都市整備などを主にする地方
公企業)により宅地開発事業として推進され、公社によ
る投資後、造成敷地を売却して投資費を回収する方式で
事業が行われた。
団地活性化のための新交通導入や 先端の情報インフ
ラ構築、土地利用計画を公社側が決定した後に用地を売
却。さらに、誘致機能を3つ(重点機能、勧奨機能、一
般機能)に特性化し、それによって、造成原価供給、一
般分譲、長期賃貸などに敷地供給方式を多元化し、民間
事業者へのインセンティブを提示した。
③DMS(Digital Media Street)の造成 公社は、DMC の象徴街路として、約 1,140mの中心
活動街路に先端メディア技術とコンテンツの実験的な
空間(世界 初の街路単位のユビキタス空間)を実現。
民間事業者誘導の目玉とした。
4.スケジュール 1993 年
1997 年
2000 年 4 月
2001 年 2 月
2002 年 5 月
ナンジ島のゴミ埋立地の閉鎖
サンアム宅地開発地区指定
サンアム・ミレニアムシティマスタープラン樹立
DMC マスタープラン樹立
情報通信インフラ構築マスタープラン樹立 / 第1段階用地供給公告
参考資料 ※1 サンアム・ミレニアムシティ基本計画、ソウル市政開発研究院、2000 年
※2 SH 公社 公式ホームページ http://www.i-sh.co.kr
※3 DMC 公式ホームページ http://dmc.seoul.go.kr
デジタル・メディア・ストリートの概要
敷地規模:約 57ha
イメージパース(2010 年予定)
4-30
ソウルの森造成計画 (韓国 ソウル市)
官民の連携による自然親和型公園の創出
1.背景と活用の方針
1)対象地区の立地
2)
背景・
課題
・漢江の南地域と北地域の不均衡を解消するために、北地域発展を政策的に推進する U-turn プ
ロジェクトの一つ。開発前には、約 26.4ha の体育公園などの以外は、建設資材の倉庫や仮建
物などが散在した場所で、江辺北路など道路により漢江への接近性も悪い場所だった。
3)
活用方針
・ソウル市の生活圏緑地の不足、公園緑地の地域的不均衡を解決するため、ソウル東北部地域に
自然親和的な大規模の森を造成、また、市民の生活の質を高めるために広域商業施設を誘致し、
複合文化タウンを造成。
・ソウルの森:大樹木を植えて大規模の森に成長させる。多様な階層の市民が楽しめる公園に造成。
・トゥク島(駅前の複合開発):地域均衡発展及びソウルの森公園との連携性を考慮した商業・業
務施設を誘致。地下鉄の開通に伴い、より多くの市民が文化・体育活動を楽しめる複合文化観
光タウンを造成。
<活用の特徴>
■市民参加による都市公園の造成及び管理・運営
韓国 初の上水源水源地があった場所で、長年競馬場や体育公園などで利用されてきた約 115ha
の敷地(国・公有地 86%、私有地 14%)に、自然親和型公園を造成。公園の構想、計画、造成、管
理・運営のすべての段階で市民ボランティア団体が積極的に関与している。
清渓川の復元とともに、光花門~清渓川~中浪川~漢江へと流れる水路が通る森になった。
■駅前における地区単位計画の決定、民間事業者の募集
新たに開通する地下鉄駅周辺に商業・業務機能、ソウルの森利用客のための文化・利便施設の導入
及び公園との一体性にも配慮した開発を誘導することを目標に地区単位計画を樹立。民間事業者の
公募条件とした。
<公有地等の種別/従前従後の変化>
従前:
閉鎖浄水場、
体育公園、倉庫など
従後:
自然親和型公園、
商業・業務施設
ソウル市全体の再開発マスタープラン
に基づいて民と官が協力して開発
ソウルの森
トゥク島
(駅前の複合開発)
4-31
2.活用の概要
従前 従後
3.活用の特徴 ①市民参加による都市公園の造成及び管理・運営
漢江沿いの約 115ha の当敷地を住居・業務地区に開発す
る場合、約 43 兆ウォン(5.6 兆円)の利益が予想されたが、
市民団体の提案や緑地環境改善などを考慮し、市が事業費約
2千億ウォン(260 億円)を投資して公園を造成。
計画から運営の過程まで市民らの参加や寄付により森が造
成された。ワークショップ及び公聴会により各分野の専門家
や各界各層の人々の意見を設計に反映し、また様々なメディ
アを通じて市民らの関心を引き出した。なお、ソウルグリー
ントラスト(SGT)を通じて市民らが樹木を寄贈し、植えつけ
るイベントなども進めた。造成後には、ボランティア会「ソ
ウルの森を愛する会」の活動を中心に運営・管理されている。
②駅勢圏の地区単位計画樹立によりソウル東北部地域の
地域競争力強化
ソウルの森を除外した敷地約 8.3ha は、新たに開通される
地下鉄の駅勢圏に商業・業務機能を集中配置すると同時に、
ソウルの森利用客のための文化・利便施設を提供し、この地
域をソウル東北部の中心として集中的に育成することを目標
に地区単位計画(日本の地区計画に相当)を樹立。
その後、民間に売却し、2008 年地下鉄開通の時点での竣工
を予定している。この地区の住商複合マンションは、韓国史
上 高の分譲価で話題になった(2008 年 2 月現在)。
トゥク島 第 1 種地区単位計画区域
4.スケジュール 2003 年 1 月
2004 年 9 月
2005 年 6 月
2008 年
ソウルの森造成方針樹立/国際コンペにより基本計画案樹立
トゥク島 第1種地区単位計画樹立
ソウルの森開園
地下鉄開通。トゥク島施設竣工(予定)
参考資料
※1 ソウルの森 公式ホームページ、http://parks.seoul.go.kr/seoulforest
※2 都市管理計画(トゥク島第 1 種地区単位計画)決定告示、ソウル特別市、2004 年 9 月
SGT(Seoul Green Trust)活動の概要
トゥク島(約 8.3ha)整備イメージ ソウルの森(約 115ha)
地下鉄駅
4-32
■参考資料
◇RFP
RFP: Request For Proposal (開発事業提案コンペ)
米国で公民連携(Public/Private Partnership)により公有地等を活用した民間事業を実現する
場合に広く用いられている事業手法
特徴
① 終的に事業リスクを負う投資家、金融機関、開発事業等の視点を計画の初期段階から反
映させ(何を行うべきか協働で検討)、
② 公共が地域の将来ビジョン、開発に伴うリスク、公民の役割分担を明確に示した募集要項
(Request for Proposals)を作成し、
③ 民間の提案自由度を 大限に尊重した上で、提案競技により優れた民間事業者を選定し、
④ その後の対話・交渉を通じて公民が協働で事業内容を練り上げ、事業の実現可能性を高め
ていく透明かつ公平で持続可能な地域開発手法
4-33
◇TIF
TIF: Tax Increment Financing(増加税収財源措置)
・米国の地方政府における再開発資金の公共投資財源確保策
→大半の州において法制化(地域指定や対象事業は州により異なる)
・民間投資の誘導の呼び水としてのインフラ整備等に利用
→民間資金によるTIF地区の再開発事業
・再開発による税収(主として財産税)増加分を公共投資資金に充当
→起債により公共投資資金を手当てし、以後の税収増分で償還
→TIF実施期間は増収分は他の目的には充当されない
(=税収増加分の特定目的税化)
・対象地域は、荒廃している市街地であり、TIF制度導入が無ければ税収増加が見込めな
い地域
→荒廃のレベルを検討(街・建物の老朽度、安全性(火災対策、犯罪状況、衛生面等))
→検討の際に官民関係者間の合意形成が必要
4-34
◇BID
BID: Business Improvement District(ビジネス改善地区)
・米国におけるエリアマネジメント制度で、ある地域内の地権者・行政その他の関係者間の合
意に基づき設定される一定のエリアを指す。主に商業地域やオフィス地域が対象となる。
・BID エリアを都市計画上に定めることにより、具体的なエリア内の固定資産税の一部を「特定
課税」として別枠徴収(強制)し、この資金を BID エリアの運営組織の財源として還元する。
・法的には準政府であるが、実際の事業運営は民間団体である。
・BID の活動内容としては、主に以下が挙げられる。
・清掃・治安維持等のメンテナンス
・イベント実施、コミュニティバスの運行等の地域振興事業
・土地利用調整、デザインコントロール等、地域内の調整
・データ整備、テナント誘致等のマーケティング
・政策提言活動