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高難度物質変換反応の開発を指向した 精密制御反応場の創出 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(平成 27−31 年度) 領域略称名「精密制御反応場」 領域番号 2702 http://precisely-designed-catalyst.jp/ News Letter Vol. 49 January, 2020 Precisely Designed Catalysts 目次: (1) 研究紹介 ボレート/シリカート結合弱化触媒を活用したアルコールαCH 変換反応の開発 東京大学大学院薬学系研究科・講師 A02 班 生長 幸之助 パラジウム触媒による炭素-水素結合活性化反応におけるかさ高いカルボキシラ ト配位子の立体効果 京都大学大学院工学研究科・准教授 A04 班 藤原 哲晶 (2) トピックス 第4回精密制御反応場国際シンポジウム報告 • 協賛シンポジウム報告 Lectureship Award 報告(イギリス講演旅行:A02 班 生長 幸之助) • 受賞、表彰

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Page 1: 高難度物質変換反応の開発を指向した > 精密制御反応場の創 …precisely-designed-catalyst.jp/jpn/newsletter/pdf/NL_49.pdf1.はじめに 炭素–水素(C–H)結合活性化反応は有機分子の構成要素の多くを占める

高難度物質変換反応の開発を指向した  

精密制御反応場の創出  

文部科学省科学研究費補助金

新学術領域研究(平成 27−31 年度)

領域略称名「精密制御反応場」

領域番号 2702 http://precisely-designed-catalyst.jp/

News Letter Vol. 49 January, 2020

Precisely Designed Catalysts

目次:

(1) 研究紹介

• ボレート/シリカート結合弱化触媒を活用したアルコールα位 C−H変換反応の開発 東京大学大学院薬学系研究科・講師

A02 班 生長 幸之助 • パラジウム触媒による炭素-水素結合活性化反応におけるかさ高いカルボキシラ

ト配位子の立体効果 京都大学大学院工学研究科・准教授

A04 班 藤原 哲晶

(2) トピックス • 第4回精密制御反応場国際シンポジウム報告 • 協賛シンポジウム報告 • Lectureship Award報告(イギリス講演旅行:A02 班 生長 幸之助) • 受賞、表彰

Page 2: 高難度物質変換反応の開発を指向した > 精密制御反応場の創 …precisely-designed-catalyst.jp/jpn/newsletter/pdf/NL_49.pdf1.はじめに 炭素–水素(C–H)結合活性化反応は有機分子の構成要素の多くを占める

「精密制御反応場」

News Letter Vol. 49

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ボレート/シリカート結合弱化触媒を活用した

アルコールα位 C−H変換反応の開発

東京大学大学院薬学系研究科・講師

A02 班 生長 幸之助

E-mail: [email protected]

1.緒言

sp3炭素―水素(C(sp3)−H)結合の精密変換は、石油原料の直截的変換・生命指向型化学への

応用に直結する反応形式である。特に光レドックス触媒(photoredox catalysis, PC)と水素原

子移動(hydrogen-atom transfer, HAT)触媒の協働系では、穏和な可視光エネルギーを活用し

ながら C(sp3)−H結合変換が可能となる 1。

我々2 を含むいくつかのグループは、結合解離エネルギーの大きな不活性 C(sp3)−H 結合

(BDE >85 kcal/mol)を変換可能な PC-HAT触媒系を開発してきた。しかしながらほとんどの

場合、BDE が最小もしくは最もヒドリド性の高い C(sp3)−H 結合のみが優先的に変換される。

PC−HAT触媒系においてその位置選択性を触媒制御することは今なお課題である。

これを実現しうる有望戦略の一つに結合弱化現象の活用が挙げられる。低原子価金属配位

が誘起する N−H・O−H 結合弱化現象は、無機錯体領域で古くから知られていた。2015 年に

Knowlesらはこれを有機合成に応用する先駆的な触媒系を報告した 3。しかしながら低原子価

金属を用いる結合弱化現象は、強酸化力を示す PC-HAT 触媒系と協働させることが原理的に

困難である。このため、概念的に異なる結合弱化系の設計を行うこととした。

2.シリカート・ボレート形成による結合弱化と PC-HAT系との協働

標的反応としてアルコール α位 C−H官能化を設定した。ヒドロキシ基との複合体形成によ

り BDE値を低下させる化合物を探索したところ、シリカート種・ボレート種の形成が α-C−H

結合の BDEを 3~7 kcal/mol低下させることが DFT計算によって見いだされた。一方で中性

シリルエーテル・ホウ素エステル形成はそのような効果を示さないことも明らかとなった。

Figure 1. Bond-weakening Effects by Silicate/Borate Formation Supported by DFT Calculation

(R1~R4 = Me, OMe)

Si

R1

R4

R2

R3O Me

H

86−90

interact with [Si]/[B]HO Me

H

93BDE(kcal/mol)

SiR1

R2

R3

O Me

H

92−94

B

R1

R2

R3O Me

H

87−88

BR1

R2O Me

H

92−94

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「精密制御反応場」

News Letter Vol. 49

2

この結果に基づき既報の PC-HAT 触媒系 4(Ir-quinuclidine 系)と協働できるケイ素化合物

のスクリーニングを行ったところ、触媒量の Martin スピロシラン 5がアルコールα-C−H アル

キル化の収率を大きく向上させることを見出した(Figure 2-A)6。電子豊富ケイ素はこのような

効果を示さなかったこと、立体的に小さなアルコールのほうが収率改善効果が大きかったこ

とから、Martinスピロシランとアルコールの複合体形成が関与していることが示唆された。

PC-HAT-Si 協働系には強力な酸化力が必要であり、基質一般性に制限を生じてもいた。こ

れは Martinシランの結合弱化効果(ΔBDE = 2.4 kcal/mol, EtOH)が十分に強くないためだと考え、

ホウ素化合物もスクリーニングした。その結果、電子不足ジアリールボリン酸-エタノールア

ミン錯体 7が、Martinシランよりも効果的な結合弱化触媒(ΔBDE = 5.4 kcal/mol, EtOH)である

ことを見いだした(Figure 2-B)。この PC-HAT-B 系はより温和な酸化条件になっており、

PC-HAT-Si系よりも広い基質一般性を示す傾向にあった。8

Figure 2. PC-HAT-Si/B Bond-weakening Cooperative Catalysis for Alcohol α-C−H Alkylations 3.参考文献 (1) Capaldo, L.; Ravelli, D. Eur. J. Org. Chem. 2017, 15, 2056. (2) (a) Tanaka, H.; Sakai, K.; Kawamura, A.; Oisaki, K.; Kanai, M. Chem. Commun. 2018, 54, 3215. (b) Wakaki, T.; Sakai, K.; Enomoto, T.; Kondo, M.; Masaoka, S.; Oisaki, K.; Kanai, M.; Chem. Eur. J. 2018, 24, 8051. (3) Tarantino, K. T.; Miller, D. C.; Callon, T. A.; Knowles, R. R. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 6440. (4) (a) Jeffrey, J. L.; Terrett, J. A.; MacMillan, D. W. C. Science 2015, 349, 1532. (b) Dimakos, V.; Su, H. Y.; Garrett, G. E.; Taylor, M. S. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 5149. (5) Perozzi, E. F.; Martin, J. C. J. Am. Chem. Soc. 1979, 101, 1591. (6) Sakai, K.; Oisaki, K.; Kanai, M. Adv. Synth. Catal. 2019, DOI: 10.1002/adsc.201901253 (7) Gouliaras, C.; Lee, D.; Chan, L.; Taylor, M. S. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 13926. (8) Sakai, K.; Oisaki, K.; Kanai, M. manuscript in preparation.

B complex

B

F3C CF3

NH2O

+ EWG HO

R

EWGMeCN (0.1 M) blue LEDs, fan, 14 h

HO H

R

Ir-tBu (1 mol%)H-HAT (10 mol%)

B complex (10 mol%)R' R'R'' R''

+ EWG HO

R

EWGMeCN (0.05 M) blue LEDs, fan, 14 h

HO H

RIr-CF3 (1 mol%)

Bs-HAT (15 mol%)Martin's Si (10 mol%)

R'R'

N

N

N

NIr

FF

F3CF

FCF3

PF6

R

R

Ir-CF3: R = CF3Ir-tBu: R = tBu

NR

Bs-HAT : R = OSO2PhH-HAT : R = H

Martin's Si

OCF3

F3C

F3CCF3

OSi

(A)

(B)

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3

パラジウム触媒による炭素-水素結合活性化反応における

かさ高いカルボキシラト配位子の立体効果

京都大学大学院工学研究科・准教授

A04 班 藤原 哲晶

E-mail: [email protected]

1.はじめに

炭素–水素(C–H)結合活性化反応は有機分子の構成要素の多くを占める C–H 結合を他の

高付加価値な官能基へと変換できることから,有機合成の工程簡略化を可能とする有用な反

応である.しかし,C–H 結合は安定なため反応活性は低く,C–H 結合の切断を経る官能基化

反応の達成には高温かつ長時間を要する点が課題として挙げられる.パラジウム触媒を用い

た C–H 結合活性化反応において,カルボキシラト配位子が作用する協奏的メタル化–脱プロ

トン化(Concerted Metalation–Deprotonation: CMD)機構 1) が提唱されている.我々は,カルボ

キシラト配位子の立体が C–H 結合活性化反応に与える影響を調べていく過程で,パラジウム

触媒を用いた C–H 結合活性化反応が,かさ高いカルボキシラト配位子を用いると穏和な条件

で進行することを見出した.

2.パラジウム触媒による炭素

-水素結合アリール化反応にお

けるカルボキシラト配位子の

立体効果 2

パラジウム触媒による分子内

C(sp2)–H 結合アリール化反応

をモデル反応として選択し,

1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノ

ン (DMI) 溶媒中,25 °Cの条件

において種々のカルボン酸を

適用した(スキーム 1).酢酸

(1a) をはじめとするカルボキ

シ基の α 位が小さいカルボン

酸 1b-1d では反応は効率よく

進行しなかった.また,これま

での反応において有効である

Scheme 1. Steric effect of carboxylic acids on the Pd-catalyzed intramolecular C(sp2)-H arylation reaction.

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と報告されていたピバル酸 (1e)3) は,この反応条件においては低収率に留まった.アダマンタ

ンカルボン酸 (1f) や長鎖アルキル基を有するカルボン酸 (1g, 1h) を用いた際も反応は効率よ

く進行しなかった.ここで,カルボキシ基の α 位にシクロヘキシルメチル基を導入したトリ

(シクロヘキシルメチル)酢酸 (1j) が高収率で生成物を与えることが分かった.一方,1j に

類似した構造を有するカルボン酸 1k や 1l を用いた場合には収率が大きく低下したことから,

1j の骨格が大切であることが分かる.また,1j は分子内 C(sp3)–H 結合アリール化反応におい

ても効果的であり,リン配位子を用いない条件において比較的温和な条件で反応が進行する

ことが分かった(式 1).

次に,パラジウム触媒を用いる分

子間 C(sp2)–H 結合アリール化反応

へ適用を試みた(スキーム 2).4-

ブロモトルエンとベンゼンを,

DMA 溶媒中,70 °Cで反応させる

条件において 1j を適用したところ,

生成物はほとんど得られなかった.

そこで,カルボン酸の立体効果を再

検討したところ,1j と比較してや

や立体の小さなカルボン酸 1m が

有効であることを見出した.

3.今後の展望

上記の結果は,適切な大きさをもつカルボン酸を用いれば C—H 結合活性化反応がより穏和

な条件で実現できる可能性があることを示している.今後,カルボキシ基の遠隔位をさらに

かさ高くしたカルボン酸を設計・合成し,C—H 結合活性化反応を含む種々の高難度物質変換

反応に適用する.

4.参考文献

(1) Lapointe, D.; Fagnou, K. Chem. Lett. 2010, 39, 1118. (2) Tanji, Y.; Mitsutake, N.; Fujihara, T.; Tsuji, Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 10314. (3) a) Lafrance, M.; Fagnou, K. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 16496. b) Rousseaux, S.; Gorelsky, S. I.; Chung, B. K. W.; Fagnou, K. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 10692.

Scheme 2. Steric effect of carboxylic acids on the Pd-catalyzed intermolecular C(sp2)-H arylation reaction.

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◆トピックス

【第4回精密制御反応場国際シンポジウム報告】 新学術領域研究「第4回精密制御反応場国際シンポジウム」が令和元年12月3日(火)

から5日(木)にかけて東大寺総合文化センター金鐘ホールにて開催された。初日である3

日の午前中は「第2回精密合成および触媒に関する日独新加坡3国シンポジウム」を開催し

ており、昼休憩後、岩澤氏(A02班、東工大・教授)による領域紹介を始めとして、Ding教授(Chinese Academy of Sciences)の基調講演など8件の口頭発表が行われた。4日は班員5名の発表を含む10件の口頭発表が行われ、引き続くポスターセッションでは102件(班

員43件、学生58件)の発表が行われた。5日には Copéret教授(ETH Zürich)の基調講演を含め10件の口頭発表が行われた。班員、学生および企業からの参加者を含め180名を

超える参加があり、3日間を通して活発な質疑討論が行われ、非常な盛会であった。

会期中の発表者は以下のとおりである(発表順、敬称略)。

l 2019年 12月 3日, Kuiling Ding (Chinese Academy of Sciences, China), Choon Hong Tan (Nanyang Technological University, Singapore), Didier Bourissou (Université de Toulouse, CNRS, France), Shigeki Matsunaga (Hokkaido University), Connie C. Lu (University of Minnesota, USA), Armido Studer (Westfälische Wilhelms University, Germany), Shin Takemoto (Osaka Prefecture University), Kazuaki Ishihara (Nagoya University)

l 2019年 12月 4日, Shunsuke Chiba (Nanyang Technological University, Singapore), Gerard Roelfes (University of Groningen, The Netherlands), Osami Shoji (Nagoya University), Nobutaka Fujieda (Osaka Prefecture University), Junichiro Yamaguchi (Waseda University), Yusuke Sunada (The University of Tokyo), Yoshiaki Nakao (Kyoto University), Joost N.H. Reek (University of Amsterdam, The Netherlands), Takuya Hashimoto (Chiba University), Naoya Kumagai (Institute of Microbial Chemistry)

l 2019年 12月 4日, Christophe Copéret (ETH Zürich, Switzerland), Brad P. Carrow (Princeton University, USA), Mitsuhiro Arisawa (Osaka University), Ian A. Tonks (University of Minnesota, USA), Takashi Koike (Tokyo Institute of Technology), Hideki Yorimitsu (Kyoto University), Yoshiharu Iwabuchi (Tohoku University), Mamoru Tobisu (Osaka University), Yoshiaki Nishibayashi (The University of Tokyo), Jun Okuda (RWTH Aachen University, Germany)

4日(水)夜には、懇親会が開かれ、多くの研究者が参加し、共同研究に関する打ち合わせ

や研究に関する意見交換などが夜遅くまで活発に行われた。

岩澤氏(A02 班、東工大・教授)による領域紹介 講演者の集合写真

(A04 班:真島和志)

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【第2回精密合成および触媒に関する日独新加坡3国シンポジウム報告】

(協賛シンポジウム) 第2回精密合成および触媒に関する日独新加坡3国シンポジウムが令和元年12月2日

(月)~3日(火)にわたり、東大寺総合文化センター金鐘ホールにて開催された。日本、

ドイツ、シンガポール、アメリカ、オランダ、スイス、フランス、中国から100名を超え

る参加者が集い、21件の口頭発表が行われた。また、質疑応答の時間以外にも、コーヒー

ブレイクやランチブレイク時に発表者と参加者間で意見交換が行われ、二日間にわたり活発

な議論が交わされた。

会期中の発表者は以下のとおりである(発表順、敬称略)。

l 2019年 12月 2日, Armido Studer (Westfälische Wilhelms University, Germany), Choon Hong Tan (Nanyang Technological University, Singapore), Ken Kamikawa (Osaka Prefecture University), Masahiro Miura (Osaka University), F. Ekkehardt Hahn (Westfälische Wilhelms University, Germany), Ken-ichi Fujita (Kyoto University), Sensuke Ogoshi (Osaka University), Albrecht Berkessel (Cologne University, Germany), Jie Wu (National University of Singapore, Singapore), Michinori Suginome (Kyoto University), Nobuharu Iwasawa (Tokyo Institute of Technology), Yu Zhao (National University of Singapore, Singapore), Jun Okuda (RWTH Aachen University, Germany), Takashi Hayashi (Osaka University), Naoto Chatani (Osaka University)

l 2019年 12月 3日、 Reiner Anwander (University of Tübingen, Germany), Shunsuke Chiba (Nanyang Technological University, Singapore), Kyoko Nozaki (The University of Tokyo), Han Sen Soo (Nanyang Technological University, Singapore), Masaya Sawamura (Hokkaido University), Kazushi Mashima (Osaka University)

講演者集合写真

(A04 班:真島和志)

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【2nd Japan–Sino Symposium on Catalysis for Precision

Synthesis 報告】 令和元年12月6〜7日に,メルパルク京都にて The 2md Japanese–Sino Symposium on

Catalysis for Precision Synthesis が開催された。日本からは新学術領域研究「精密制御反応場」の班員および連携研究者から12名が参加し,中国からの参加者12名と学術交流を行った。

C–H 官能基化,不活性結合活性化,フォトレドックス触媒反応,電解触媒反応,触媒的不斉合成など精密有機合成における最重要課題に対して,遷移金属触媒,典型金属触媒,有機触

媒,超分子触媒など均一系触媒科学における幅広いアプローチからの最新の成果について活

発に議論された。極めて精力的に研究している中国の同年代の研究者と活発に議論を行った。

国際共同研究などのさらなる学術交流とともに,触媒的有機合成分野における両国の先導的

地位の確立と次世代の育成につながることを目指して,本領域終了後も継続して開催される

ことが決まった。令和3年に第3回シンポジウムを廈門で開催する予定である。

会期中の発表者は以下のとおりである(発表順,敬称略)。

l 2019 年 12 月 6 日, Yoshiaki Nakao (Kyoto University), Liang Deng (Shanghai Institute of Organic Chemistry), Shin Takemoto (Osaka Prefecture University), Tian-Sheng Mei (Shanghai Institute of Organic Chemistry), Yusuke Sunada (The University of Tokyo), Zhiwei Zuo (ShanghaiTech University), Tetsuaki Fujihara (Kyoto University), Longwu Ye (Xiamen University), Hideki Yorimitsu (Kyoto University), Prof. Qing Gu (Shanghai Institute of Organic Chemistry), Prof. Shigeki Matsunaga (Hokkaido University), Prof. Shiliang Shi (Shanghai Institute of Organic Chemistry), Kazushi Mashima (Osaka University)

l 2019 年 12 月 7 日 , Takashi Nishikata (Yamaguchi University), Prof. Ning Jiao (Peking University), Kazuhiko Semba (Kyoto University), Chao Zheng (Shanghai Institute of Organic Chemistry), Mamoru Tobisu (Osaka University), Bin Tan (Southern University of Science and Technology), Keisuke Asano (Kyoto University), Yong-Gui Zhou (Dalian Institute of Chemical Physics), Haifeng Du (Chinese Academy of Sciences), Michinori Suginome (Kyoto University), Shu-Li You (Shanghai Institute of Organic Chemistry)

両日とに夜には,懇親会が開かれ,共同研究に関する打ち合わせや研究に関する意見交換

などが夜遅くまで活発に行われた。

講演者の集合写真

(A01 班:中尾佳亮)

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【業績、報道、活動等の紹介】 イギリス講演旅行報告 【はじめに】 2019年 10月 27 日~ 11月 7 日の間、本新学術領域のご支援により、イギリス(UK)国内

5機関(Imperial College London、Nottingham、Bristol、Glasgow、Manchester)を訪問し、講演する機会を頂いた。海外機関の訪問・講演は、実は全くの始めてではない。数えてみると過

去 8回ほど実施していた。海外学会への参加ついでに近郊機関 1~2箇所にアポをとり、延長滞在して立ち寄ることを毎回意識的に行ってきた結果である。同世代では明らかに経験豊富

な部類だろう。こんな人間が Lectureship賞を活用しても良いのだろうか?とは正直思ったものの、頂けたからには責任をもって、次世代へと貴重な経験を伝えていければと思う。 【海外講演旅行=自分に喝を入れ、成長する絶好の機会】 国内研究機関で 10年近く過ごし「中堅」と呼ばれうる年齢にさしかかってくると、研究業

務の多くを"手なり"でこなすことが増えてくる。不遜でいるつもりはないのだが、時間的圧迫を言い訳に「こんなもんでまぁ大丈夫だろう」と見切って取り組むケースもある。単調増

加を続ける雑務の山に押しつぶされ、創造的思考を生み出すための負荷は少なくなり、プラ

イベートも慌ただしくなってきて、研究にも何となく身が入らない・・・同世代研究者であ

れば、多少なりとも似た現実に誰しも巻き込まれているのではないだろうか。 そんな終わりなき日常をリセットし、研究者としてさらなる成長を望むには、コンフォー

トゾーンからの脱出機会を意識的に用意せねばならない。「年 1回は海外相手に新ネタを披露してやろう!」と自らに課すことは、よいカンフル剤となる。まとまった時間(45-60 分)の英語講演機会は、日本国内で過ごす限り相当に限られる。「日本人ですからお互いこれぐら

いで・・・」とする忖度まみれの英語に浸るのではなく、容赦ないネイティブ速度の質疑応

答に「一言一句聞き逃せない!」との緊張感をもって挑む。日本代表としてのプレッシャー

も背負っていけば、プレゼン構成も真剣に練ろうというもの。原稿を一から作って覚えるな

ど何のその。学生~助教時分に置き忘れがちなまっさらなチャレンジ精神も喚起される。そ

んな状況に強制的に身を置くことは、緩みがちな自らを引き締める契機になる。加えて旅行

好きの自分にとっては、海外発表を楽しみに研究することによって、日々のモチベーション

アップにつながっていることも疑いない。 この経験から同世代化学者に「海外講演は素晴らしいよ!」と薦めてみたことは幾度かあ

る。その都度、「ボスの方針のためやり辛い」「授業や雑用があるので抜けられない」「時

間的・金銭的余裕もない」「そもそもそんなこと考えもしなかった」という返答を多く

聞いてきた。それぞれが事情を抱えることは理解できる一方、どことなく残念な話にも感じ

る。本質的に重要なことは、吸収力・エネルギーに富む若い時期の使い方ではないだろうか。

経済的理由ならば如何ともしがたいが、国際学会旅費が出るのであれば、「海外学会+1機関訪問」からトライしてみるのはどうだろう。口頭講演に応募したが落とされてしまい、高額

な海外出張費を払ったあげく、ポスター発表だけして終わり・・・という経験は誰しも持っ

ていないだろうか。研究アピールのコスト対効果を考えると、これは本当に勿体ない研究費

の使い方と言わざるを得ない。2~3日程度のスケジュールを追加し、現地機関を訪問して現地化学者と face to faceで議論する機会を付帯しておくことには、保険的意味合い以上の価値が生まれるはずだ。 【若手 PIと出会う機会を重視する】 今回の講演旅行では、UK の同年代 PI と話す機会が多くあり、得がたい経験となった。日

本人的感覚だと大御所と知り合うほうが良さように思いがちだが、個人的には「これから伸

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びそうな同世代の若手 PI」と知り合うほうが、投資効果が遥かに高いと確信している。 「日本には 1度も来たことがない」と語る若手 PIは数多い。駆け上がりフェーズにある彼

らは、不慣れなラボマネジメント、グラント申請、学生教育などに忙殺されていることが多

い。海外学会へ参加したくとも、十分な成果も時間も旅費も手元にない。子供をもつタイミ

ングの方も多く、そうなると長期間家庭を離れることも難しい――こういう話は、日本の若

手であっても想像可能だろう。そんな彼らとは、現地訪問でもしない限り出会うことはまず

不可能である。意識的にコネクション作りを試みない限り、そもそもマッチング自体が成立

しないと捉えるべきだろう。中堅~大御所 PI はハードルを一つ超えていて余裕があったり、あちこちに招待されていたりするので、出会うことはまだ容易である。ただ有名人であるほ

ど知り合いも多く、一度や二度

の顔合わせ程度では特別扱い

もされづらい。若手 PI に積極的にアプローチすれば、彼らに

も貴重に感じて貰いやすい。彼

らがいずれ成功して日本を訪

れるときに、窓口に自分を選ん

で貰えるのならば、この上なく

素晴らしい話だろう。UK 機関にいるシニア PI もこの事情は良く分かっているようで、来訪

者の対話・ホスト機会は、若手

PI へと優先的にアサインする教育的配慮や文化があると感

じられた。 【おわりに】 小さくとも経験があれば、大

きなチャンスに向けて心の準

備ができる。今回のように講演のみを目的とした長期出張は自分も初めての経験だった。し

かし過去の蓄積があったため、予算内で訪問先を適切に選択したうえでアポをとり、体調も

加味した無理のないスケジュールでのアレンジも可能だった。講演とディスカッションに集

中でき、この上なく貴重な機会を楽しめた。日頃から海外経験を推奨頂いている金井教授、

仕事を分担頂いているラボスタッフ・秘書の方々、不在時にも実験の手を止めていない(と

信じている)学生達には、日々感謝が絶えない。 複数機関を短期で効率良く巡るために UK を選んだことは事実であり、おかげ様で素晴ら

しい化学研究にも沢山触れることができた。詳細に記すには余白が足りないため本稿では割

愛するが、字数制限を気にしなくて良いブログで(時間が許せば)その辺りの話を書いてみ

ようと思っている。今風に「続きは Webで!」とまとめて筆を置きたいと思う(笑)。 最後に、貴重な機会を与えて頂きました真島先生・野崎先生には改めて感謝申し上げます。

(東京大学大学院薬学系研究科・講師 A02班 生長 幸之助)

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受賞、表彰 • 野崎京子氏(A01 班、東大院工・教授)が「合理的触媒設計に基づく極性小分子の活性化

とその重合体の合成」にて第72回日本化学会賞を受賞しました。

http://www.chemistry.or.jp/news/2019-26.html

• 矢崎 亮氏(A01 班、九大院薬・助教)が「化学選択性の精密制御のための触媒反応開

発」にて 2020 年度日本薬学会奨励賞を受賞しました。

https://www.pharm.or.jp/prize/rekidai14_shoreisho.shtml

• 浅野圭佑氏(A04 班、京大院工・助教)が Thieme Chemistry Journals Award 2020 を受賞

しました。

https://www.thieme.de/en/thieme-chemistry/thieme-chemistry-journals-awardees-107362.htm

発行・企画編集 新学術領域研究「精密制御反応場」http://precisely-designed-catalyst.jp/

連 絡 先 領域代表 真島 和志 ([email protected]

広報担当 松永 茂樹([email protected]