透析患者に対する亜鉛補充療法の意義 · 2019-07-24 ·...

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本記録集に記載されている薬剤のご使用にあたりましては、各薬剤の添付文書をご参照ください。 第 63 回日本透析医学会 学術集会・総会 ランチョンセミナー 記録集 透析患者に対する亜鉛補充療法の意義 秋澤 忠男 先生 昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門 客員教授 筒井 貴朗 先生 医療法人社団日高会 日高病院 腎臓病治療センター長 ・ 腎臓内科部長 阿部 雅紀 先生 日本大学医学部内科学講座 腎臓高血圧内分泌内科 主任教授 2018 年 6 月 29 日 神戸ポートピアホテル 共催:第 63 回日本透析医学会 学術集会・総会/ノーベルファーマ株式会社/株式会社メディパルホールディングス 血液透析患者では、腎機能正常者に比べ、血管の異所性石灰化が高頻度に みられ、石灰化動脈数と生存率の間には有意な相関(p<0.001 log-rank test 6) があることは周知のとおりで、透析患者の死亡原因の約 36% を占める心血管 系疾患の発症にも血管の石灰化が影響することから 7) 、その管理には十分な 注意が喚起されていました。 今回、米国腎臓病学会誌に掲載された記事は、ヒト大動脈平滑筋に慢性腎 疾患(CKD)患者の血清を添加して、亜鉛添加[あり / なし]で培養したところ、 亜鉛添加により CKD 患者の血管石灰化が抑制される可能性があることを 示唆した点で、臨床医の視点からも、興味深い記事といえます。 病期が進行した慢性腎臓病(CKD)患者においては、アルブミン尿の 増加に伴い、血清中亜鉛の約 60 〜 80% と結合している血中アルブミン が減少し、体内亜鉛量が低下します 1) 。さらに CKD 患者では蛋白摂取制 限が求められていることもあり、病期の進行に伴って血清亜鉛濃度が低下 することが知られています 2) 一方、血液透析(HD)患者では、CKD の病態に加え、腎機能の廃絶 による尿毒症毒素の体内蓄積による食欲不振や吸収障害、透析液への亜 鉛とアルブミンの喪失、さらには、二次性甲状腺機能亢進症や、これに 伴う骨代謝障害・血管石灰化などの予防目的に投与されるリン吸着薬へ の亜鉛吸着、多様な合併症に対する治療薬による亜鉛キレート形成の可 能性などがあり、低亜鉛血症に陥るリスクに晒されているといえます 1) HD 継続中でエリスロポエチンアルファ(EPO)投与中の患者のうち、 血清亜鉛濃度が 65 μ g/dL 以下で亜鉛補充療法を行った 35 例に おいて血清亜鉛濃度と EPO 反応性の関連を検討したところ、EPO を含 む 赤 血 球 造 血 刺 激 因 子 製 剤(ESA) 低 反 応 性 指 数(ERI)* の変化量と血清亜鉛濃度の変化量には有意な相関性があることが わかりました(Spearman’ s correlation coefficients、ρ =-0.588、 P=0.001)(図2) 3) * ESA 低反応性(「一定量の ESA を投与しても1 ヵ月後に目標 Hb 値を達成できない場合」と定義されており 4) 、CKD の予後不良 因子のひとつとして特定されている 5) )を示す指数で、下記計算 式から算出 ERI=1 週間の ESA 投与量(U)/ ドライウエイト(kg)/Hb(g/dL) 1 亜鉛はジンクフィンガータンパクである A20 タンパク発現を増加させることによって NF-κB の活性を阻害し、ヒト大動脈の異所性石灰化を抑制します(ex vivo) [秋澤忠男先生発言より] 血液透析患者は、低亜鉛血症に陥るリスクが大きい患者群です。 [筒井貴朗先生講演より] 亜鉛補充療法による血清亜鉛濃度の上昇幅が大きいほど、赤血球造血刺激因子製剤低反応性 指数の改善幅も大きく、有意な相関性がみられました(HD 患者)。 [阿部雅紀先生講演より] Hot News from ASN Highlights of the Seminar ΔERI Δ血清亜鉛濃度(μg/dL) 0 20 10 30 40 0 -0.5 -1.0 -1.5 -2.0 -2.5 -3.0 -3.5 50 60 70 80 亜鉛補充療法12 ヵ月後の ERI ベースライン ERI (亜鉛補充療法12 ヵ月後の血清亜鉛濃度 ベースライン血清亜鉛濃度) ρ=-0.588、  =0.001 P 図 2. HD 患者の ERI 変化量と血清亜鉛濃度変化量の関連性 図 1. HD 患者において亜鉛不足が引き起こされる要因 Kobayashi H, Abe M, et al. Nutrients 2015; 7: 3783-3795 Voelkl J, et al. J Am Soc Nephrol 2018; 29(6): 1636-1648 児玉浩子、他. 日臨栄会誌 38: 104-148, 2016 から作成 秋澤 忠男 先生 アルブミン尿増加 → 低アルブミン血症 → 亜鉛低下 尿毒症毒素体内蓄積 → 食欲不振 → 亜鉛摂取不足 高リン血症発症 → リン吸着薬服用 → 亜鉛吸収低下 透析液への亜鉛・アルブミンの喪失 亜鉛キレート形成薬剤(利尿薬、降圧薬ほか)

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本記録集に記載されている薬剤のご使用にあたりましては、各薬剤の添付文書をご参照ください。

第 63 回日本透析医学会 学術集会・総会

ランチョンセミナー 記録集

透析患者に対する亜鉛補充療法の意義秋澤 忠男 先生昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門 客員教授

筒井 貴朗 先生医療法人社団日高会 日高病院腎臓病治療センター長 ・腎臓内科部長

阿部 雅紀 先生日本大学医学部内科学講座腎臓高血圧内分泌内科 主任教授

2018 年 6 月 29 日 神戸ポートピアホテル共催:第 63 回日本透析医学会 学術集会・総会/ノーベルファーマ株式会社/株式会社メディパルホールディングス

司会 演者

血液透析患者では、腎機能正常者に比べ、血管の異所性石灰化が高頻度にみられ、石灰化動脈数と生存率の間には有意な相関(p<0.001、log-rank test)6)

があることは周知のとおりで、透析患者の死亡原因の約 36%を占める心血管系疾患の発症にも血管の石灰化が影響することから 7)、その管理には十分な注意が喚起されていました。今回、米国腎臓病学会誌に掲載された記事は、ヒト大動脈平滑筋に慢性腎疾患(CKD)患者の血清を添加して、亜鉛添加[あり /なし]で培養したところ、亜鉛添加によりCKD患者の血管石灰化が抑制される可能性があることを示唆した点で、臨床医の視点からも、興味深い記事といえます。

病期が進行した慢性腎臓病(CKD)患者においては、アルブミン尿の増加に伴い、血清中亜鉛の約 60 〜 80% と結合している血中アルブミンが減少し、体内亜鉛量が低下します 1)。さらに CKD 患者では蛋白摂取制限が求められていることもあり、病期の進行に伴って血清亜鉛濃度が低下することが知られています 2)。

一方、血液透析(HD)患者では、CKD の病態に加え、腎機能の廃絶による尿毒症毒素の体内蓄積による食欲不振や吸収障害、透析液への亜鉛とアルブミンの喪失、さらには、二次性甲状腺機能亢進症や、これに伴う骨代謝障害・血管石灰化などの予防目的に投与されるリン吸着薬への亜鉛吸着、多様な合併症に対する治療薬による亜鉛キレート形成の可能性などがあり、低亜鉛血症に陥るリスクに晒されているといえます 1)。

HD継続中でエリスロポエチンアルファ(EPO)投与中の患者のうち、血清亜鉛濃度が 65 μ g/dL 以下で亜鉛補充療法を行った 35 例において血清亜鉛濃度と EPO 反応性の関連を検討したところ、 EPOを含む赤血球造血刺激因子製剤(ESA)低反応性指数(ERI)*の変化量と血清亜鉛濃度の変化量には有意な相関性があることがわかりました(Spearman’ s correlation coefficients、ρ =-0.588、P=0.001)(図 2)3)。* ESA 低反応性(「一定量の ESA を投与しても 1 ヵ月後に目標 Hb

値を達成できない場合」と定義されており 4)、CKD の予後不良因子のひとつとして特定されている 5))を示す指数で、下記計算式から算出

ERI=1 週間の ESA 投与量(U)/ドライウエイト(kg)/Hb(g/dL)

1

亜鉛はジンクフィンガータンパクである A20 タンパク発現を増加させることによって NF-κBの活性を阻害し、ヒト大動脈の異所性石灰化を抑制します(ex vivo)[秋澤忠男先生発言より]

血液透析患者は、低亜鉛血症に陥るリスクが大きい患者群です。[筒井貴朗先生講演より]

亜鉛補充療法による血清亜鉛濃度の上昇幅が大きいほど、赤血球造血刺激因子製剤低反応性指数の改善幅も大きく、有意な相関性がみられました(HD 患者)。[阿部雅紀先生講演より]

Hot Newsfrom ASN

Highlights of the Seminar

ΔERI

Δ血清亜鉛濃度(μg/dL)0 2010 30 40

0

-0.5

-1.0

-1.5

-2.0

-2.5

-3.0

-3.550 60 70 80

亜鉛補充療法12ヵ月後のERI - ベースライン ERI( )

(亜鉛補充療法12ヵ月後の血清亜鉛濃度 - ベースライン血清亜鉛濃度)

ρ=-0.588、  =0.001P

図 2. HD 患者の ERI 変化量と血清亜鉛濃度変化量の関連性

図 1. HD 患者において亜鉛不足が引き起こされる要因

Kobayashi H, Abe M, et al. Nutrients 2015; 7: 3783-3795

Voelkl J, et al. J Am Soc Nephrol 2018; 29(6): 1636-1648

児玉浩子、他. 日臨栄会誌 38: 104-148, 2016 から作成

秋澤 忠男 先生

アルブミン尿増加 → 低アルブミン血症 → 亜鉛低下

尿毒症毒素体内蓄積 → 食欲不振 → 亜鉛摂取不足

高リン血症発症 → リン吸着薬服用 → 亜鉛吸収低下

透析液への亜鉛・アルブミンの喪失

亜鉛キレート形成薬剤(利尿薬、降圧薬ほか)

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血清亜鉛濃度(μg/dL)中央値(Q1:第 1四分位数-Q3:第 3四分位数):59(52-67)μg/dL、最頻値:59μg/dL(n=25) 非正規分布(P<0.001; Shapiro-Wilk検定)歪度;0.712±0.107 尖度;1.466±0.214

亜鉛欠乏症

【HD患者における亜鉛欠乏症、潜在性亜鉛欠乏症の患者割合】

潜在性亜鉛欠乏症 血清亜鉛濃度基準値

30 5040 60 70

100

80

60

40

20

080 90 100 110 120

例数(人)

亜鉛欠乏症

潜在性亜鉛欠乏症

基準値4.6%(24例)

518例 亜鉛欠乏症および潜在性亜鉛欠乏症の判定は、日本臨床栄養学会の「亜鉛欠乏症の診療指針」に準拠して、それぞれ 60μg/dL 未満、60~ 80μg/dL 未満とし、基準値を80~130μg/dL とした。

51.0%(264例)

44.4%(230例)

対象 年齢中央値(Q1-Q3):69.8(62.9 -76.8)歳、透析歴中央値(Q1-Q3):5.4(2.3-10.8)年、男性割合:66.8%、糖尿病割合:55.2%

亜鉛の役割とHD患者の亜鉛不足のリスク亜鉛は、人体において核酸代謝、蛋白合成、細胞増殖、情

報伝達、蛋白構造保持に重要な役割を担っています。血液中の亜鉛は、約 80% は赤血球、約 20% は血清中に存在し、血清中に存在する亜鉛の 60 〜 80%はアルブミンと結合しています。また、赤血球中の亜鉛は、赤芽球の分化・増殖に重要な遺伝子や、多くの巨核球関連遺伝子の発現を統合的に制御する GATA-1 などのジンクフィンガー構造を有するタンパクの安定化にも寄与しています 1)。

透析患者の51%は低亜鉛血症HD 患者では低亜鉛血症のリスクが大きいことが分かっていま

すが、その実態を明らかにするために、医療法人社団日高会日高病院腎臓病治療センター(群馬県高崎市)の透析センターにてHD を継続中の 518 例における血清亜鉛濃度分布の実態と亜鉛欠乏症関連因子の探索を目的に、解析を行いました 8)。その結果、518 例の血清亜鉛濃度の最頻値は 59μg/dLで、亜鉛欠乏症(血清亜鉛濃度 60μg/dL 未満)、潜在性亜鉛欠乏症(同 60 〜 80μg/dL 未満)と判定された割合は、それぞれ 51.0%、44.4% で、基準値内(同 80 〜 130μg/dL)4.6% でした(図 3)。

低亜鉛血症関連因子は透析歴とHDF療法

多変量解析にて HD 患者の血清亜鉛濃度に有意に影響する因子を解析すると、透析歴、血中のクレアチニン(Cr)、ナトリウム(Na)、トリグリセリド、アルブミン、アルカリホスファターゼ(ALP)、ヘマトクリット(Ht)、オンライン血液濾過透析(HDF)が抽出されましたが(表 1)、血清亜鉛濃度 60μg/dL をカットオフ値として 2 群に分けて背景因子を比較すると、Cr、Na、Ht に有意差はみられませんでした。

この結果をもとに、亜鉛欠乏症を予測する 2 項ロジスティック解析を行った結果、HDF と ALP がオッズ比とその 95%CIが 1 を超えていたことが示されました(表 2)。

以上の結果から、透析歴が長く、HDF 療法を行っていてALP が高値の患者では 、低亜鉛血症のリスクが他の HD 患者より高いことが示されましたが、臨床症状との関連については、さらなる検討が必要であると考えられました。

筒井 貴朗 先生 / 医療法人社団日高会 日高病院腎臓病治療センター長・腎臓内科部長

永野伸郎、筒井貴朗、他.透析会誌 2018; 51(6): 369-377永野伸郎、筒井貴朗、他.透析会誌 2018; 51(6): 369-377

永野伸郎、筒井貴朗、他.透析会誌 2018; 51(6): 369-377

筒井 貴朗 先生

HD 患者における低亜鉛血症患者の実態

図 3. HD 患者における血清亜鉛濃度の分布(n=518)

表 1. 血清亜鉛濃度と背景因子の関係(一部抜粋)

項目単変量解析 多変量解析

相関係数 有意確率 相関係数 有意確率年齢 -0.035 0.422 透析歴 -0.124 0.005 -0.129 0.024クレアチニン 0.114 0.009 -0.164 0.006ナトリウム 0.095 0.030 0.134 0.013未補正カルシウム 0.216 <0.001 ̶ ̶補正カルシウム 0.052 0.241リン 0.113 0.010 ̶ ̶iPTH 0.083 0.103トリグリセリド 0.173 0.002 0.116 0.031アルブミン 0.327 <0.001 0.271 <0.001アルカリホスファターゼ -0.136 0.002 -0.119 0.026ヘマトクリット 0.120 0.006 0.143 0.008ヘモグロビン 0.113 0.011 ̶ ̶Htと Hbは高い相関を示すため(r=0.917, P<0.001)、多重共線性を考慮しHbを除いた場合も同結果。̶: 最終モデル到達過程で除去された説明変数  注:上記の検討因子は、年齢と透析歴以外はすべて血中濃度

表 2. 亜鉛欠乏症を予測する 2 項ロジスティック解析項目 オッズ比(95%CI) 有意確率

HDF 1.647 (1.112-2.439) p=0.013血中リン濃度 0.830 (0.713-0.967) p=0.017血中アルブミン 0.192 (0.106-0.347) p<0.001血中アルカリホスファターゼ 1.002 (1.000-1.003) p=0.023

(判別的中率:63.6%)

Kobayashi H, Abe M, et al. Nutrients 2015; 7: 3783-3795

参考文献1) 児玉浩子、他. 日臨栄会誌 2016; 38: 104-1482) 福島達夫,堀家英之.亜鉛栄養治療 2011;1(2): 65-733) Kobayashi H, Abe M, et al. Nutrients 2015; 7: 3783-3795

4) KDIGO Clinical Practice Guideline for Anemia in Chronic Kidney Disease 2012, Supplements

5) 日本透析医学会 2015 年慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドラ

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ESA (EPO)使用量の推移

ESA抵抗性 指数の推移

160

140

120

100

80

60

40

20

0

20

0 3 6試験開始後月数(月)

試験開始後月数(月)

9

*P <0.05(vs ベースライン、Student’ s t-test)

*P <0.05(vs ベースライン、Student’ s t-test)

† P <0.05(vs 亜鉛非補充群、Mann-Whitney test)

12

0 3 6 9 12

181614121086420

週あたりの使用量(U/kg)

ESA抵抗性指数

試験:多施設共同オープンラベル前向き無作為化平行群間比較試験、試験期間 12ヵ月対象:6ヵ月以上血液透析を継続中で、ESAとして EPOを投与中の 20~80歳の患者で、

血清亜鉛濃度が 65μg/dL未満の患者 70例方法:対象を、年齢・性別・HD期間・Hb 値・ESA使用量・糖尿病合併の有無などの背

景因子に偏りがないように、亜鉛補充群(35 例)と亜鉛非補充群(35 例)に無作為に分け、亜鉛補充群では亜鉛 34mg/ 日(ポラプレジンク)を投与。鉄欠乏は日本透析医学会の基準に沿って診断し、透析終了時に経静脈的に鉄剤を投与。EPOは、Hb値が12.5g/dL超の症例では 2週間休薬し、以後 25~50%ずつ減量し、12g/dL以下に低下した時点で再開。Hb値が11.5g/dL超の症例では 25%ずつ減量。ESA 抵抗性は、ESA 抵抗性指数[1 週間の ESA 投与量(U)/ ドライウエイト(kg)/Hb(g/dL)]で評価した。

ポラプレジンクの承認効能・効果に貧血は含まれていませんが、本試験は HD患者における ESA抵抗性への亜鉛の影響を評価することを目的に行われた試験です。

* *†*†*†

亜鉛補充群(n=35)亜鉛非補充群(n=35) mean±SD

* **

亜鉛補充群(n=35)亜鉛非補充群(n=35) mean±SD

ESA低反応性の解決が腎性貧血治療の課題腎性貧血は「腎臓においてエリスロポエチン産生の絶対的なら

びに相対的低下によってひき起こされる貧血であり、貧血の主因が CKD 以外に求められないもの」と定義されており 5)、その治療は、遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤の登場により一変しました。しかしながら、CKD 患者において一般に ESA 反応性不良の患者は約 10%程度存在するとされており 9)、ESA反応性を低下させる因子の排除が課題のひとつです。

低亜鉛血症とESA抵抗性の関連性の検討CKD 患者における貧血では、鉄・各種ビタミン欠乏、CKD の

合併症および二次性副甲状腺機能亢進症などの続発症、亜鉛・カルニチン欠乏、透析療法自体に関連した因子などにより貧血の程度が影響され、これらが ESA低反応性の要因とされています5)。

HD 患者で血清亜鉛濃度が低値の患者が多いことは、前出の報告 8) も含め、多数報告されていますが、我々は、亜鉛不足

が ESA 反応性低下の原因のひとつであるならば、亜鉛補充療法が、ESA 反応性低下を改善できる可能性を考え、HD継続中の低亜鉛血症の患者に亜鉛補充療法による ESA 反応性への影響を検討しました。

その結果、亜鉛補充療法により、①ESA 使用量が減少する、② ESA 低反応性が改善される、③ ESA 低反応性指数変化量と血清亜鉛濃度の変化量には有意な相関性があることが明らかになりました(図2, 図 4)3)。

血清亜鉛濃度の上昇は、ESA 反応性の変動に影響を及ぼす独立した因子

さらに、他の因子との関連性を検討したところ、血清亜鉛濃度の変化は検討項目中でただ1つの ESA 反応性に有意な影響を及ぼす独立した因子であることも明らかになりました(表 3)3)。

以上の検討結果は、HD 患者管理における亜鉛補充療法の意義を示唆するものです。低亜鉛血症の効能・効果を取得しているノベルジン® を用いた治療については、今後の検討の集積が必要ですが、唯一の低亜鉛血症治療薬であるノベルジン® は、患者の状態を観察しながら増量・減量を行うことにより、効率よい亜鉛補充療法を可能にする薬剤であると考えられます。

阿部 雅紀 先生 / 日本大学医学部内科学講座腎臓高血圧内分泌内科 主任教授

Kobayashi H, Abe M, et al. Nutrients 2015; 7: 3783-3795

阿部 雅紀 先生

HD患者における亜鉛補充療法の意義を再考する

図 4. 亜鉛補充療法の ESA 反応性への影響

表 3. ESA 反応性の変化に影響を及ぼす因子の検討

項目 β(偏回帰係数)

SE(標準誤差) 95%CI P値 *

年齢 0.0070 0.0224 -0.0398~ 0.0546 0.7466透析歴 0.0010 0.0118 -0.0238~ 0.0259 0.9327男性 -0.0450 0.1946 -0.4542~ 0.3637 0.8188糖尿病合併 0.3140 0.3530 -0.4268~1.0657 0.3842Kt/V 3.3530 2.7444 -2.4126~ 9.1190 0.2375ベースラインHb -0.1080 0.3230 -0.7873~ 0.5700 0.7045アルブミン -0.3800 0.6987 -1.8489~1.0872 0.5924鉄変化量 0.0001 0.0077 -1.0163~ 0.0163 0.9976TSAT変化量 0.0086 0.0155 -0.0240~ 0.0412 0.5860フェリチン変化量 0.0011 0.0027 -0.0046~ 0.0070 0.6801銅変化量 -0.0027 0.0131 -0.0303~ 0.0249 0.8375亜鉛変化量 -0.0479 0.0120 -0.0740~ -0.0219 0.0011カルシウム -0.3040 0.3562 -1.0542~ 0.4443 0.4046リン -0.4355 0.6372 -1.7743~ 0.9032 0.5030iPTH 0.0050 0.0026 -0.0005~ 0.0106 0.0720高感度 CRP 1.7622 1.1604 -0.6758~ 4.2002 0.1462注:上記の検討因子は、1~ 5行目以外はすべて血中濃度* 重回帰解析モデルを用いての解析

Kobayashi H, Abe M, et al. Nutrients 2015; 7: 3783-3795

イン.透析会誌 2016; 49(2): 89-1586) Blacher J. Hypertension 2001; 38: 938-9427) 日本透析医学会編:図説 わが国の慢性透析療法の現況.2016 年末の集計

8) 永野伸郎、筒井貴朗、他.透析会誌 2018; 51(6): 369-3779) Macdougall IC, Cooper AC. Nephrol Dial Transplant 2002; 17(Suppl.

11): 39‒43.16.

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6 NBZ-11-MC

2018年10月作成