ガラスの変遷と進化 - jabmeejabmee.or.jp/ichiran/pdf/2005/2005-05/2005-5-14.pdf ·...

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はじめに 最近,ファサード全体を透明度の高いガラスで 覆う「透明建築」が一般化し,空調・照明など設 備への影響が増大している。 ガラスの特徴は「透明で可視光も太陽光も,よ く透過する点にある」が,性能を置き去りにして, 単板ガラスで透明化を進めると,過剰な日射や眩 しさ,温度ムラと不快な居住環境を強いるか,エ ネルギー浪費型の時代に逆行した建築になりやす い。このため,特にLow-E複層ガラスなどで高性 能化をはかり,ファサードで環境制御することが 重要である。 ここでは,ガラスの変遷,機能別の進化,環境 先進国ドイツの考え方,ガラスの今後の可能性な どについて述べたい。 1.ガラスの変遷と進化 1.1 板ガラスとガラス建築の変遷 まず,日本の板ガラス発展史をみる(表-1)。 国産化は1909年だが,まだ手吹きで「高品質な 板ガラスを自由に使いたい」との夢が,実現した のは,1965年のフロート法導入からである。ガラ スは超高層ビルや大阪万博で注目を浴び,大板構 法も可能になる。<第1世代>ガラス建築は,順 調に拡大していくかに見えた。 しかし,ガラスの本質「薄く,弱く,もろい。 日射が侵入し,断熱性も劣る」は,何ら進化して いなかった。相次ぐ地震では,1960年前後に硬化 性パテで施工されたガラスの破損・脱落が顕在化 するし,特にオイルショックの影響をまともに受 ける。世界中で極端に窓の小さなビルが,省エネ 建築と持てはやされる。当時,ガラスは将来性の ない材料とまでいわれた。 ガラス受難の時代は,意外にも短期で終わる。 閉鎖的な建築は,省エネ効果を云々する以前に 「精神衛生上も執務効率上も問題が大きい」とす ぐに嫌われ,同時に高遮蔽熱線反射ガラスの開発 も進む。やがて,日本でも米国発のハーフミラー と接着構法が<第2世代>ガラス建築を開花し, 14 建築設備士・2005・5 ガラスの変遷と進化 池 内 清 治 SEIJI IKEUCHI (日本板硝子㈱建築硝子部担当部長) ガラス建築 特集 表-1 日本の板ガラス発展史 西暦(年号) 1910年 1920年 1930年 1940年 1950年 1960年 1970年 1980年 1990年 2000年 (明治43年) (大正9年) (昭和5年) (昭和15年) (昭和25年) (昭和35年) (昭和45年) (昭和55年) (平成2年) (平成12年) 社会動向 ガラス建築 <第1世代> <第2世代> <第3世代> 国内板ガラス関連 建築用板ガラス発売時期 ・産業と工業発展 ・第一次世界大戦 ・関東大震災 ・世界恐慌 ・第二次世界大戦 ・戦後の復興 ・高度成長期 ・オイルショック ・安定成長期 ・バブル崩壊 阪神・淡路大震災 ・京都議定書発効 ・国産板ガラス発売 ・機械化板引き法 ・震災復興で板ガラス普及 ・板ガラス生産縮小 ・板ガラス不足 ・ガラスカーテンウォール出現 ・フロート法の国内導入 ・ガラス建築・大板構法普及 ・板ガラス低迷期へ ・ハーフミラー建築の流行 ・DPG構法の国内導入 ・機能ガラスの普及 ・透明ガラス建築の本格化 ・普通板ガラス ・すりガラス ・磨き板ガラス ・型板ガラス  ・網入型板ガラス ・強化ガラス,合わせガラス(自動車・船中心) ・複層ガラス ・網入磨き板ガラス ・強化ドア ・熱線吸収板ガラス ・色焼付ガラス ・フロート板ガラス ・線入板ガラス ・熱線反射ガラス ・高性能熱線反射ガラス ・倍強度ガラス ・液晶調光ガラス ・高透過板ガラス ・Low-E複層ガラス ・真空ガラス ・防火用耐熱強化ガラス ・耐火用積層ガラス ・溝型ガラス ・防犯ガラス ・セルフクリーンガラス

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Page 1: ガラスの変遷と進化 - JABMEEjabmee.or.jp/ichiran/pdf/2005/2005-05/2005-5-14.pdf · にすぐれ,多様な色調や高性能のハーフミラーが 普及した。 透明ガラスは日射のほとんどを透過し,熱線吸

はじめに

最近,ファサード全体を透明度の高いガラスで

覆う「透明建築」が一般化し,空調・照明など設

備への影響が増大している。

ガラスの特徴は「透明で可視光も太陽光も,よ

く透過する点にある」が,性能を置き去りにして,

単板ガラスで透明化を進めると,過剰な日射や眩

しさ,温度ムラと不快な居住環境を強いるか,エ

ネルギー浪費型の時代に逆行した建築になりやす

い。このため,特にLow-E複層ガラスなどで高性

能化をはかり,ファサードで環境制御することが

重要である。

ここでは,ガラスの変遷,機能別の進化,環境

先進国ドイツの考え方,ガラスの今後の可能性な

どについて述べたい。

1.ガラスの変遷と進化

1.1 板ガラスとガラス建築の変遷

まず,日本の板ガラス発展史をみる(表-1)。

国産化は1909年だが,まだ手吹きで「高品質な

板ガラスを自由に使いたい」との夢が,実現した

のは,1965年のフロート法導入からである。ガラ

スは超高層ビルや大阪万博で注目を浴び,大板構

法も可能になる。<第1世代>ガラス建築は,順

調に拡大していくかに見えた。

しかし,ガラスの本質「薄く,弱く,もろい。

日射が侵入し,断熱性も劣る」は,何ら進化して

いなかった。相次ぐ地震では,1960年前後に硬化

性パテで施工されたガラスの破損・脱落が顕在化

するし,特にオイルショックの影響をまともに受

ける。世界中で極端に窓の小さなビルが,省エネ

建築と持てはやされる。当時,ガラスは将来性の

ない材料とまでいわれた。

ガラス受難の時代は,意外にも短期で終わる。

閉鎖的な建築は,省エネ効果を云々する以前に

「精神衛生上も執務効率上も問題が大きい」とす

ぐに嫌われ,同時に高遮蔽熱線反射ガラスの開発

も進む。やがて,日本でも米国発のハーフミラー

と接着構法が<第2世代>ガラス建築を開花し,

14 建築設備士・2005・5

ガラスの変遷と進化

池 内 清 治SEIJI IKEUCHI

(日本板硝子㈱建築硝子部担当部長)

ガラス建築特集

表-1 日本の板ガラス発展史

西暦(年号) 1910年

1920年

1930年

1940年

1950年

1960年

1970年

1980年

1990年

2000年

(明治43年)

(大正9年)

(昭和5年)

(昭和15年)

(昭和25年)

(昭和35年)

(昭和45年)

(昭和55年)

(平成2年)

(平成12年)

社会動向 ガラス建築

<第1世代>

<第2世代>

<第3世代>

国内板ガラス関連 建築用板ガラス発売時期 ・産業と工業発展 ・第一次世界大戦 ・関東大震災 ・世界恐慌 ・第二次世界大戦 ・戦後の復興 ・高度成長期 ・オイルショック ・安定成長期 ・バブル崩壊 ・阪神・淡路大震災 ・京都議定書発効

・国産板ガラス発売 ・機械化板引き法 ・震災復興で板ガラス普及 ・板ガラス生産縮小 ・板ガラス不足 ・ガラスカーテンウォール出現 ・フロート法の国内導入 ・ガラス建築・大板構法普及 ・板ガラス低迷期へ ・ハーフミラー建築の流行 ・DPG構法の国内導入 ・機能ガラスの普及 ・透明ガラス建築の本格化

・普通板ガラス ・すりガラス ・磨き板ガラス ・型板ガラス  ・網入型板ガラス ・強化ガラス,合わせガラス(自動車・船中心) ・複層ガラス ・網入磨き板ガラス ・強化ドア ・熱線吸収板ガラス ・色焼付ガラス ・フロート板ガラス ・線入板ガラス ・熱線反射ガラス ・高性能熱線反射ガラス ・倍強度ガラス ・液晶調光ガラス ・高透過板ガラス ・Low-E複層ガラス ・真空ガラス ・防火用耐熱強化ガラス ・耐火用積層ガラス ・溝型ガラス ・防犯ガラス ・セルフクリーンガラス

Page 2: ガラスの変遷と進化 - JABMEEjabmee.or.jp/ichiran/pdf/2005/2005-05/2005-5-14.pdf · にすぐれ,多様な色調や高性能のハーフミラーが 普及した。 透明ガラスは日射のほとんどを透過し,熱線吸

バブル期まで一世を風靡した。

一方,欧州では自然光や高断熱も切望され,新

技術はLow-E複層ガラスやフレームレス構法を実

現する。透明で多様な表現が可能で,理想に近い

<第3世代>ガラス建築は,欧州から日本,最近

は米国へと21世紀の建築スタイルとして本格化し

つつある(写真-1)。

現在の代表的板ガラスの製法と製品を示す

(図-1)。以下に機能別の進化を見ていく。

1.2 透光材料としての歴史

古代,王侯貴族を夢中にしたガラス工芸。中世,

神の光のステンドグラス。富の象徴ルイ王朝のシ

ャンデリアや鏡。産業革命後のガラス大温室。近

代の鉄とガラスの摩天楼。現代のカーテンウォー

ル,ハーフミラーから一転透明化へ。ガラスはい

つも時代を象徴してきた。

ガラスの歴史は4~5千年で,飾りや器の工芸

ガラスから始まり,窓材料としては約2千年にな

る。古代ローマ時代まで,窓は半透明な天然石膏

や雲母の板だったが,紀元79年の噴火で埋没した

ポンペイ浴場から窓ガラスが発掘されている。ま

た,紀元3世紀のローマの邸宅で,ガラスを使い

始めたとの記録がある。これらは平らな石に砂を

撒き,溶けたガラスを流した半透明で,分厚いも

のといわれる。

薄く透明な板ガラスの製法は,7世紀に「クラ

ウン法」,13世紀には「手吹き円筒法」が発明さ

れる。普及には長い年月を要し,産業革命で大量

のガラス溶解が可能になってからだ。

1851年,ロンドン万国博覧会のクリスタルパレ

スでは,手吹円筒法で124cm×25cmの板ガラス

が29万枚使用される。

20世紀には機械化が進み,連続生産方式が次々

と開発された。特に1959年,英国ピルキントン社

によって,研磨不要で高品質の板ガラスが連続生

産できる革新的な「フロート法」が開発される

(図-2)。

現在,世界の90%以上の板ガラスがこの製法で

生産され,これを超す製法は今後もありえないと

いわれる。建築には厚さ2~25mm,液晶表示に

は0.3mmの薄板まで製造される。設備上,幅は約

3mだが,長さは国内で13mの例がある。

1.3 日射コントロールガラスの変遷

透明性を獲得したガラスは,開口面積を飛躍的

に拡大させるが,過剰な日射が問題となる。可視

域と近赤外域は隣り合い,可視光も物に当たると

熱に変換する。十分な採光と日射熱の遮断を両立

させることは相当難しい。

1960年代,ガラス組成の酸化鉄を増し,コバル

2005・5・建築設備士  15

図-1 板ガラスの製法と製品

写真-1 左:米国のハーフミラー建築ああ右:ドイツの透明建築

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ト,セレンで色調整したブルー,グレー,ブロン

ズの「熱線吸収板ガラス」が普及した。近年,明

るいが遮熱性のよいグリーンが自動車用に開発さ

れ,住宅・ビルへも使われている。

1970年代,金属酸化膜を焼き付けた「熱線反射

ガラス」が普及する。最初に高温液に浸漬した両

面膜タイプが,次に成板直後に液スプレーした片

面膜タイプ商品化される。シルバー色で明るい点

が好まれ,後者は現在も主流である。最近,スパ

ッタリング法でもほぼ同等品ができる。

1980年代,新技術「スパッタリング法」が液晶

用から寸法拡大し「高性能熱線反射ガラス」が誕

生する。真空室で放電すると,正イオンが生成さ

れ,金属ターゲットに衝突する。金属原子がたた

き出されて,ガラス面に薄膜を形成する。ステン

レス,チタンなど金属多層膜が可能で,日射遮蔽

にすぐれ,多様な色調や高性能のハーフミラーが

普及した。

透明ガラスは日射のほとんどを透過し,熱線吸

収ガラスのグリーンや熱線反射ガラスも約2~3

割しか低下しない。高性能熱線反射ガラスは当初,

日射の8割をカットする高遮蔽タイプが普及した

が,可視光は透明ガラスの1/10しか透過せず,

昼間も薄暗く,眺望上も敬遠され,より明るい品

種に移行した(表-2)。

1990年代,スパッタリング法が高度化し,銀と

保護膜を多層コートした「Low-Eガラス」の普及

が欧州から始まる。波長選択性があり,可視域は

よく透過するが,近赤外と遠赤外域は相当反射す

る。銀膜は水分に弱く,複層使いに限定されるが,

高性能熱線反射ガラスとほぼ同等の日射4~6割

カットで,約2倍明るくなり,断熱性もアップす

る(写真-2)。

最近,ガラス面に釉薬を印刷し焼成した「セラ

ミック印刷ガラス」が増えている。ドットやライ

ン模様が,日射を遮蔽し,表情を生み,プライバ

シーを確保する。

1.4 高断熱化を目指して

ガラスは壁に比べ格段に薄く,開口部は断熱性

上,最も弱点の部位といわれてきた。

熱は伝導・対流・放射で伝わる。複層ガラスは

中空層を設け,熱伝導を低減し,断熱性を向上す

る。特許化は1865年というが,実用化は1940年代

の米国から始まる。鉛スペーサーをガラス面にハ

ンダ付けした「メタルシール法」で,日本へは

1950年代に導入された。また,米国とオランダで

は,バーナーと高周波加熱で,2枚のガラス周辺

を溶着した「ガラスシール法」も住宅や温室に20

~30年間普及した。

これらを駆逐したのは,1970年代に世に出た

「有機シール法」である。量産化が容易で,本格

16 建築設備士・2005・5

図-2 フロート法を発明したピルキントン社の製造プロセス

表-2 代表的板ガラスの可視光透過率と日射熱取得率

単板 複層

フロート板ガラス 熱線吸収板ガラス グリーン 熱線反射ガラス シルバー 高性能熱線反射ガラス SS8 高性能熱線反射ガラス TS30 フロート板複層ガラス Low-E複層ガラス クリアブルー Low-E複層ガラス グリーン

ガラス品種 (厚さ:6mm)

可視光 透過率% 89 76 63 8 30 79 75 67

日射熱 取得率 0.85 0.63 0.68 0.22 0.42 0.74 0.59 0.41

Low-E膜

中空層

板ガラス

乾燥剤入りスペーサー 高品質デュアルシール

Low-Eガラス

室外側 室内側

写真-2 ビル用遮熱Low-E複層ガラス

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的な複層時代が始まる。当初,封着シールは一重

だったが,耐久性上,透湿抵抗の高いブチル系と,

接着強度の高いポリサルファイド系か,シリコー

ン系で二重シールするデュアル方式が主流となる。

日本は中空層6mmと12mmが一般的だが,欧州

では16mmが多く,これ以上では対流が生じる。

最近,空気より熱伝導率が小さいアルゴンやクリ

プトンのガスも封入される。

通常の複層ガラスは,暖房熱など遠赤外域を吸

収し,屋外に再放射するが,銀や酸化スズの透明

膜を付けると,遠赤外域を反射し,低放射

(Low-Emissive)化する。この結果,断熱性が大

幅に向上する。1990年代後半から,世界で急速に

普及している。

1997年日本で,中空層を真空にし,伝導と対流

を激減させ,放射もLow-E膜で抑えた「真空ガラ

ス」が実用化する。真空層わずか0.2mm,マイク

ロスペーサーが10トン/㎡の大気圧を保持する。

総厚みが6mmと薄く,現サッシのまま断熱改修

ができる。

断熱性は熱貫流率で評価される。単板を空気層

12mmの複層にすると半減し,Low-E化で1/4

近くに下がる。欧州で標準のガス入Low-E複層は

1.0~1.2W/㎡Kで,オイルショック後の30年で,

断熱性は4~5倍も向上した。真空ガラスを複層

化すれば,さらに高性能が得られる(表-3)。

1.5 強度・安全機能ガラスの発展

ガラスは典型的な脆性材料なので,破損は塑性

変形しないで発生する。また,品種で破損状況は

大きく異なる(写真-3)。

ガラスを水や油に入れて急冷すると,高強度に

なり,壊すと粉々になることは300年以上前から

知られていた。「強化ガラス」が実用化したのは,

1930年代のフランスで,自動車に普及する。国内

も戦前は自動車や艦船に限定された。建築へは

1960年頃,フランスから導入した強化ドアに始ま

る。エッジ加工したガラスを金具で吊り,約

650℃の軟化温度に加熱し,空気を吹き付け急冷

する。表面に強い圧縮応力が形成され,外力によ

る引張り応力を打ち消すので,数倍の強度になる。

内部は引張り応力なので,切断しようとすると破

損してしまう。

1980年頃,加熱炉へのガラス搬送は,吊方式か

らロール方式となり,冷却レベルのコントロール

が可能となる。緩やかだと外装用「倍強度ガラス」,

限界まで急冷すると「耐熱強化ガラス」となり,

1990年代後半からワイヤレス防火ガラスとして普

及する。

強化ガラスのフレームレス構法は,英国を中心

に始まる。ガラス接合は1960年代,ピース金具だ

ったが,1980年代に皿ビス留めのDPG構法が誕

生し,極限の「透明建築」が実現する。

「合わせガラス」は,20世紀初め,ドイツなどで

開発され,米国で1930年代から自動車フロントに

使われる。中間膜は当初,セルロイドだったが,

1937年頃,現在のポリビニールブチラールとなり,

わが国でも軍需用に使用が始まる。加工は中間膜

を挟み,オートクレーブで120~130℃まで加熱し,

約15㎏/�で圧着される。

合わせガラスは,破損しても破片の飛散や貫通

を防ぐ安全ガラスで,ガラス構造体にも欠かせな

い。防犯ガラスや地震に備えた防災ガラスとして,

今,最も注目される。紫外線カットや防音性もあ

2005・5・建築設備士  17

写真-3 各種板ガラスの破損パターン

①フロート板ガラス ②倍強度ガラス ③強化ガラス ④耐熱強化ガラス(防火用) ⑤合わせガラス

ガラス品種 (厚さ:一般6mm,真空3mm)

厚さ mm 6 18 24 18 24 6 21

熱貫流率 W/㎡K 5.8 3.3 2.9 2.5 1.6 1.2 0.8

単板 複層 真空

フロート板ガラス 透明複層ガラス (6―A6―6) 透明複層ガラス (6―A12―6) Low-E複層ガラス(6―A6―6)    Low-E複層ガラス(6―A12―6)    真空ガラス ES(3―0.2V―3) 複層真空ガラス(3―G12―3―0.2V―3)

表-3 代表的板ガラスの断熱性

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り,着色や装飾,液晶やポリカなど他素材の複合

と新たな可能性も大きい。

2.ドイツのガラス建築の動向

2.1 ドイツの省エネルギー基準

欧州,中でも環境先進国ドイツの省エネ基準や

ガラス建築は21世紀の方向を示唆する。

1976年,「エネルギー保全法」を制定し,規制

と助成で複層ガラスの100%普及を図る。

1995年,開口部の断熱基準を1.8W/㎡Kに強化

すると共に,冷房負荷が増大しているビルは,

「ガラス+ブラインド」の日射熱取得率を0.25以

下とする厳しい基準を設けた。

さらに2002年,連邦政府は1.2W/㎡Kと驚異的

な高断熱化に踏み切る。現在は,ビルも住宅も

「ガス入Low-E複層ガラス」が基準である。

これらの政策で,2002年すでにCO2の削減16%

を達成し,さらに,太陽光発電の高額買上げや,

窓の断熱改修に2億ユーロの補助を行い,25%削

減を目指しているという。

2.2 ドイツのガラス建築

ドイツのガラス建築やファサードは,光・風・

眺望など自然を活用するための,こだわりや技術

が随所に見られる。夏は湿度が低く,さわやかだ

が,日照時間は長く,強い日射しが続く。また,

オフィスビルは,照明やOA機器の影響で,中間

期も冷房負荷が増大している。

時代は「透明度の高いファサードで,日射は可

能な限り排除したい」との矛盾する機能を求めて

おり,「ダブルスキン」と呼ぶ二重ファサードの

評価が高い。Low-E複層窓に外ブライドを取付け,

外側にさらにもう一層ガラス面を設けたものが一

般的である(写真-4)。

透明度が高く採光は十分だし,日射は自動ブラ

インドで遮蔽し,再放射はトンネル効果で排気す

る。日射熱の9割をカットし,高層ビルでも内窓

で自然換気できる。他にも日射遮蔽のために,ガ

ラスの庇やルーバー,付属物などが工夫され,フ

ァサードに多様な表情を与える。

オフィスの執務空間は,労働法上,窓に面する

必要がある。部屋の奥行きは約6mで規制され,

アトリウムが極めて多く設けられる。採光のみで

なく,空調上はバッファーゾーンとなり,数棟ス

ッポリ覆う例もある(写真-5)。

また,建物内部も急速に透明度を増し,吹抜け

を設け,天井から床までガラスとし,自然光を室

内の奥深くまで導入する。

ドイツ人の環境と快適性の重視,自然光や眺望

へのこだわり,そのためのファサードの高性能化

や技術の追求には驚かされる。

2.3 日本のガラス建築

戸建住宅は複層化が80%近く,Low-E複層ガラ

スや防犯ガラスの普及も加速している。

一方,ビルのファサードは,エアフローやダブ

ルスキンもまだ一部で,外ブラインドやルーバー,

庇など日射対策も十分とはいえない。

デザインとコスト優先で,結局,単板透明ガラ

スのケースも多い。欧州に比べ,夏季は高温多湿

で自然換気も難しい。水密性やメンテナンスも厳

しい。今後,日本に最適なファサードの開発や,

高性能なガラスの採用が重要である。

3.ガラスの開発動向と新たな可能性

3.1 ガラスの最新動向

欧州ではデュッセルドルフ国際展示会グラステ

18 建築設備士・2005・5

写真-4 最新のダブルスキン ポストタワー

写真-5 太陽光発電のガラス大屋根ああああパブリック・アカデミー

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ックと,フィンランドで建築・自動車ガラス国際

会議GPDが隔年交互に開催され,ガラスの開発

を推進する。最近の動向を特記する。

① 設備の高度化と大寸法化

最新設備は高度化が著しく,大寸法化が顕著。

強化ガラスは7m×3.2mが可能,合わせや薄

膜品は住宅用も6m×3.2mで製造され,使用

寸法に切断される。

② スパッタリング法の高度化

難度の高い多層膜が可能になり,Low-E膜の高

透過と高性能化,低反射ガラス,セルフクリー

ンとコーティングの開発競争が激しい。

③ 多層化・複合化

三層化で0.6W/㎡Kの高断熱品を商品化。中空

層に木製ルーバー,金属ネット,指光性プリズ

ムなどを封入した商品も多い。

④ 意匠・デザイン化

セラミックプリントの高度化,合わせ中間膜の

カラー化や印刷など,ファサードの多様なデザ

イン化が顕著である。

⑤ フレームとの融合

単板DPG構法から,複層ガラスに開発が移り,

スリムフレームと一体化した構法が増加。

⑥ 室内ガラス化

ガラスの耐火壁が普及。パーティション・床・

階段・天井・サニタリーまで透明化が著しい。

3.2 ガラスの新たな可能性

ガラスの進化は,今後も可能性が大きい。注目

される最新課題と開発状況を示す(表-4)。

真空ガラス,調光ガラス,太陽電池,セルフク

リーンなど日本が世界をリードしている分野も多

く,今後の展開が期待される。

おわりに

「今後建築は,多層にガラスが覆い,開放的に光

や風を取り入れ,制御は最小限にとどめ,自然共

生の方向へ向かう」といわれる。

ドイツではガラスの高性能化と共に「ファサー

ドは空調や照明など設備の一部」との考え方で,

最適化を追求し,領域を超えた技術開発が進む。

日本でも,急速に高性能化した機能ガラスやファ

サード新技術を駆使すれば,大幅な省エネと快適

な空間が実現できる。

ガラスは,さまざまな可能性に満ちている。近

い将来,季節や気候で,性能や構成を変化させる

ガラスも可能だし,細胞のように光透過や換気穴

を自己制御するガラスの提案まで出ている。また,

天井照明,LED,有機ELとガラスと照明との融

合も進みつつある。

引用・参考文献

1)建築技術,2004.6号 p94,p100

2)ガラス建材総合カタログ,日本板硝子

(平成17年3月17日 原稿受理)

2005・5・建築設備士  19

分類 ・省エネガラス ・ソーラー ・新機能ガラス ・ガラス構造 ・新表現ガラス

・超高断熱ガラス ・日射調光ガラス ・低コスト太陽電池パネル ・セルフクリーンガラス ・高安全構造用ガラス ・ガラス構造(柱,梁,板) ・発光ガラス ・多様なガラス表現

開発課題 開発状況

表-4 開発課題と最新状況

・真空ガラスやエアロゲルが実用化中。壁並みの0.2W/㎡Kが試作段階。 ・明るさや日射熱取得率をコントロールできる夢のガラス。開発競争中。 ・結晶化・アモルファス・新方式含めコストダウンと効率向上が課題。 ・光触媒技術により世界で市場導入中。雨水が適当に当たる必要あり。 ・アラミド繊維・金属線など複合した破壊時も安全なガラス。試作段階。 ・支持法・接続法など試行中。日本ではガラス耐震壁が実用段階。 ・LEDとレーザー技術の組合せで実用化。ガラス組成・薄膜・有機ELが開発中。 ・薄膜・有機フィルム・和紙・自然素材などによる新たな表現。実用化中。

◇     ◇     ◇ ◇     ◇     ◇