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ifeesign REPORSpring 2013.4 4 REPORT① キーワード:少子化、子育て支援、自治体 市区町村の少子化対策に関する調査 松田 茂樹 前 研究開発室主席研究員 現 中京大学現代社会学部教授 目次 1.研究の目的と課題································································ 5 2.調査概要········································································ 6 3.少子化状況の認識································································ 6 4.少子化対策の実施状況···························································· 8 5.少子化対策の目標・効果・課題···················································· 11 6.自由回答········································································ 13 7.市区町村の少子化対策充実のために················································ 14 要旨 2006年と2012年に実施した市区町村に対するアンケート調査を分析して、市区町村が実施す る少子化対策の現状、効果、課題等を分析した。約9割が自らの自治体において少子化が進 んでいると認識している。人口減少に対する危機感をもつ自治体も85%にのぼった。特に北 海道・東北と中国・四国の自治体は危機感が強い。 市区町村が独自で(もしくは国・都道府県事業に上乗せして)実施している事業は、過去6 年間に増加している。例えば、不妊治療に対する経済的支援を行う自治体が16%から44%に 増えた。子どもの医療費助成を行う自治体は59%から81%に増加した。約8割が保育料の軽 減措置を行っており、男性の子育て参加促進のための両親学級等を実施する自治体も7割弱 にのぼる。地域別にみると、関東、中部、近畿において、独自に実施している事業が多い。 一方、北海道・東北、中国・四国、九州・沖縄はそうした事業が相対的に少ない。 各自治体は現在実施している少子化対策が、出生数や他自治体からの転入者の増加をもたら すことを期待している。しかしながら、現時点において効果があらわれていると回答した割 合は、「出生数の増加」(9.0%)、「他自治体からの転入者増加」(13.5%)など非常に低い。 「出生数の増加」よりも「他自治体からの転入者増加」が多いことは、自治体間で子育て世 代の奪い合いになっている面があることを示唆する。 市区町村における少子化対策を拡充するには、第一に既存の施策の有効性を検証すること、 第二に国から自治体への少子化対策関係の交付金を増額すること及び自治体内において当 該予算を捻出すること、第三に交付金の対象事業のメニューを拡大するなどして自治体の施 策の自由度を高めること、が必要である。

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REPORT①

キーワード:少子化、子育て支援、自治体

市区町村の少子化対策に関する調査 松田 茂樹

前 研究開発室主席研究員

現 中京大学現代社会学部教授

目次

1.研究の目的と課題 ································································ 5

2.調査概要········································································ 6

3.少子化状況の認識 ································································ 6

4.少子化対策の実施状況 ···························································· 8

5.少子化対策の目標・効果・課題 ···················································· 11

6.自由回答········································································ 13

7.市区町村の少子化対策充実のために ················································ 14

要旨

① 2006年と2012年に実施した市区町村に対するアンケート調査を分析して、市区町村が実施す

る少子化対策の現状、効果、課題等を分析した。約9割が自らの自治体において少子化が進

んでいると認識している。人口減少に対する危機感をもつ自治体も85%にのぼった。特に北

海道・東北と中国・四国の自治体は危機感が強い。

② 市区町村が独自で(もしくは国・都道府県事業に上乗せして)実施している事業は、過去6

年間に増加している。例えば、不妊治療に対する経済的支援を行う自治体が16%から44%に

増えた。子どもの医療費助成を行う自治体は59%から81%に増加した。約8割が保育料の軽

減措置を行っており、男性の子育て参加促進のための両親学級等を実施する自治体も7割弱

にのぼる。地域別にみると、関東、中部、近畿において、独自に実施している事業が多い。

一方、北海道・東北、中国・四国、九州・沖縄はそうした事業が相対的に少ない。

③ 各自治体は現在実施している少子化対策が、出生数や他自治体からの転入者の増加をもたら

すことを期待している。しかしながら、現時点において効果があらわれていると回答した割

合は、「出生数の増加」(9.0%)、「他自治体からの転入者増加」(13.5%)など非常に低い。

「出生数の増加」よりも「他自治体からの転入者増加」が多いことは、自治体間で子育て世

代の奪い合いになっている面があることを示唆する。

④ 市区町村における少子化対策を拡充するには、第一に既存の施策の有効性を検証すること、

第二に国から自治体への少子化対策関係の交付金を増額すること及び自治体内において当

該予算を捻出すること、第三に交付金の対象事業のメニューを拡大するなどして自治体の施

策の自由度を高めること、が必要である。

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1.研究の目的と課題

(1)目的と課題

わが国は、2011年における合計特殊出生率(以下「出生率」)が1.39であり、依然と

して深刻な少子化状態にある。従来出生率は首都圏と近畿において低く、地方におい

て高かった。しかし、近年地方の出生率も低下している。地域別にみると、特に北海

道・東北において出生率は低迷している(松田 2012)。わが国が少子化を克服するた

めには、国や都道府県のみならず、市区町村も一層の少子化対策を行う必要がある。

2003年に施行された次世代育成支援対策推進法により、市区町村には、地域におけ

る子育て支援、親子の健康の確保、教育環境の整備等の少子化対策を実施し、それら

を盛り込んだ行動計画を策定することが義務づけられている。これを背景に、地方自

治体が独自の少子化対策を充実させる動きは一層広がった。

本稿では、2006年と2012年に実施した市区町村に対するアンケート調査を分析して、

市区町村が実施する少子化対策の現状、効果、課題等を明らかにする*1。具体的な研

究課題は次のとおりである。第一に、市区町村における各種少子化対策の実施率及び

その推移を把握する。第二に、市区町村が行う少子化対策において、どのような「地

域差」が存在するかを明らかにする。第三に、市区町村において把握されている少子

化対策の効果を明らかにする。以上をふまえて、市区町村における有効な少子化対策

のあり方を論じる。

(2)先行研究

調査結果を述べる前に、先行研究において明らかになっている市区町村における少

子化対策の実態に関する知見を整理する。

全国知事会男女共同参画研究会(2005)が市区町村に対して実施したアンケートに

よると、各自治体において総じて保育施設の建設等は実施されているが、若者支援、

男性向けの育児支援、産前産後の子育て家庭への支援等は少なくなっていた。内閣府

政策統括官(2005)が市区町村における各種子育て支援策の国基準への上乗せ事業お

よび自治体単独事業を調べた結果によると、大半の自治体において保育料の減免措置

と独自徴収基準がなされていた。妊産婦検診や乳幼児検診の実施率も高かったものの、

地域子育て支援センターなど在宅で子育てをする家庭への支援の実施率は低かった。

松田(2007)によると、市区町村では結婚・妊娠・出産にかかわる支援と家庭における

子育てを支援する施策が多く実施されているものの、就労支援と住環境整備に関する取り

組みは少なかった。

少子化対策への各種取り組みの実施率は、自治体による差が大きい。人口規模が大きい、

高齢化率が低い、地域経済の景況感がよく失業率が低い、財政力があるという市区町村ほ

ど、多くの少子化対策を実施している(松田 2007)。他方、本稿で分析する少子化対策の

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取り組みの地域差の実態については、十分明らかにされていない。

2.調査概要

分析に使用するデータは、第一生命経済研究所が2006年10~11月と2012年9~10月

に全市区町村*2の少子化対策を担当する部課長を対象に実施した「自治体の次世代育

成支援に関するアンケート」である。調査は、郵送配布・郵送回収で行った。2006年

の調査は、標本数が1,840自治体、有効回収数(率)が739自治体(40.2%)である。

2012年の調査は、標本数が1,742自治体、有効回収数(率)が659自治体(37.8%)で

ある。

2012年の調査の地域別の回収数は、北海道・東北(140自治体)、関東(120自治体)、

中部(151自治体)、近畿(71自治体)、中国・四国(68自治体)、九州・沖縄(93自治

体)、不詳(16自治体)である。

3.少子化状況の認識

(1)少子化の進行・要因に対する認識

はじめに、「貴自治体では少子化がすすんでいますか」という質問への回答が図表1

である。そう思う(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)と回答した割合は、

2006 年が 90.8%、2012 年が 85.8%である。全国の出生率は、2005 年の 1.26 を底に

少しずつ回復し、2012 年には 1.39 になっている。これを背景に、そう思うと回答し

た割合は微減している。ただし、いまだに大多数の自治体において少子化は進行して

いる。

少子化、結婚・出産数の変化の要因に対する認識が図表2である。2012 年の回答割

合をみると、最も多くあげられたのは「結婚・出産に対する若い世代の価値観変化」

(64.2%)である。この項目の回答割合は、過去6年間に大幅に減少している。以下、

「若年層の流出」(62.2%)、「雇用環境の悪化」(53.8%)、「地域経済の停滞」(46.0%)

と続く。

図表1 自治体では少子化がすすんでいますか

60.8

53.3

30.0

32.5

6.8

10.2

2.2

2.6

0.3

1.5

0% 20% 40% 60% 80% 100%

2006年

2012年

そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない そう思わない 無回答

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図表2 少子化、結婚・出産数の変化の要因に対する認識<複数回答>

74.0

46.4

53.5

39.0

7.6

2.4

7.7

0.5

64.2

62.2

53.8

46.0

37.1

36.0

18.0

4.5

2.3

4.4

0.3

0 20 40 60 80

結婚・出産に対する若い世代の価値観変化

若年層の流出

雇用環境の悪化

地域経済の停滞

子どもの養育費や教育費の増大

過疎化

仕事と育児の両立環境の不備

子育てをするための住環境の悪化

高い住宅費

その他

特にない

2006年

2012年

(%)

注:2006年の調査で尋ねていない項目は空白にしている。

(2)人口減少の危機感

人口減少に対する危機感を尋ねた結果が図表3である。全体をみると「非常にある」

が43.2%、「どちらかといえばある」が41.5%である。

この危機感の程度は、地域によって異なる。人口減少に対する危機感が「非常にあ

る」と回答した割合は、全体平均では43.2%であるが、北海道・東北では59.3%、中

国・四国では52.9%にのぼる。関東、中部、近畿は他の地域よりも人口減少に対する

危機感が低い。これらの地域では他の自治体からの人口流入があるため、出生率の低

迷が直ちに人口減少につながらないためとみられる。

図表3 人口減少に対する危機感(全体、地域ブロック別)〔2012年〕

(単位:%)

非常にある どちらかとい

えばある

どちらかとい

えばない

全くない 無回答

全体 43.2 41.5 12.9 1.4 0.9

北海道・東北 59.3 35.7 4.3 0.7 0.0

関東 31.7 49.2 18.3 0.0 0.8

中部 34.4 43.7 16.6 3.3 2.0

近畿 38.0 45.1 15.5 1.4 0.0

中国・四国 52.9 39.7 7.4 0.0 0.0

九州・沖縄 45.2 35.5 15.1 2.2 2.2

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4.少子化対策の実施状況

(1)各施策の実施率

続いて、市区町村における各種の少子化対策の実施率が図表4である(断り書きが

ない限り、言及する割合は2012年のもの)。本調査では、「A.結婚・妊娠・出産支援」

「B. 家庭での子育て支援」「C.保育・幼児教育」「D.就労支援」「E.住環境整備」

の5分野において、市区町村が独自で実施している事業(国・都道府県事業であれば

それに上乗せして行っている事業の実施状況を含む)を調べている。

図表4 市区町村が独自で行っている施策の実施率 (単位:%)

2006年 2012年 2006年 2012年

A.結婚・妊娠・出産支援 C. 保育・幼児教育

1. 出産費用の助成 7.6 13.0 1. 保育料の軽減措置 65.6 80.3

2. 出産祝い金 28.3 26.8 2.保育所利用家庭へのベビーシッター料軽減 0.0 0.5

3. 不妊治療の経済的支援 15.8 44.3 3. 保育所概要のホームページ等による情報提供 43.2 59.0

4. 結婚相談・仲介事業(婚活支援) 13.3 29.4 4. 保育所定員等のホームページ等による情報提供 18.3 23.0

5. 妊娠・出産に関する相談事業 39.2 49.9 5. 保育所の増設または定員増 30.0 26.0

6. 不妊治療の情報提供や相談 16.4 30.3 6. 認可保育所への職員加配 27.3 44.7

7. 乳児家庭全戸訪問 55.9 66.7 7.認可保育所の基準の弾力的な運用 22.2

8. 妊産婦検診や乳幼児健診 58.7 75.1 8.認可保育所以外への補助金 23.1 31.2

9.幼稚園への職員加配 14.3

B. 家庭での子育て支援 10.幼稚園の預かり保育を推進するための助成 9.4

1. 児童手当 17.3 16.7 11.保育ママ・家庭福祉員に対する助成 5.9

2. 医療費助成 58.6 80.9

3. 金券配布・生活必需費等購入の優遇措置 1.5 4.8 D.就労支援

4. 在宅で子育てする家庭に対する手当 1.5 0.8 1. 両立支援事業者に対する経済的支援 0.7 3.4

5. ベビーシッター料等の軽減策 1.2 1.7 2. 企業の両立支援促進の研修・広報・相談 7.2 24.0

6. 幼稚園の入園料・授業料の軽減措置 26.4 35.5 3. 企業の両立支援促進の表彰や認定マーク 1.4 11.8

7. 子育て支援のハンドブック等の作成 57.4 4. 育児休業制度の取得促進のための施策 4.3 7.6

8. 子育ての方法や育児不安解消の相談事業 46.4 59.6 5. 女性の再就職の研修・広報・相談 11.8 29.3

9. 育児サークル等の活動支援 40.2 45.5 6. 男性子育て参加促進の研修・広報・相談 12.4 40.3

10. 子育てサポーターの養成 17.2 18.1 7. 男性の子育て参加促進のための両親学級等 32.5 67.3

11. 育児支援家庭訪問事業 15.6 32.4 8.フリーターなど非正規雇用者の就職支援 26.2

12. ファミリー・サポートまたは類似事業 24.4 37.7

13. 地域子育て支援センターまたは類似事業 45.3 49.3 E .住環境整備

14. つどいの広場または類似事業 28.4 34.0 1. 子育て世帯の住宅費助成または融資制度 2.2 11.7

15. 一時保育または類似事業 45.6 50.6 2. 子育て世帯向け住宅提供者に対する助成 0.4 1.4

16. 子育て短期支援事業 20.7 3. 保育所・幼稚園等の防犯設備・用品の設置 20.8 26.0

17.親族・近隣の子育て助け合いの意識啓発 6.8 4. 子育て支援マンション等の認定制度 0.7 1.1

5. 家族向け公営住宅の増設 4.5 10.9

6. 公営住宅への子育て世帯の優先入居 6.9 20.1

7. 公共施設における多目的トイレ等の設置 24.9 60.3

8. 公共施設等におけるバリアフリー化の推進 31.7 51.7

9. 講演会や催事における託児室設置 22.3 42.2

10.子からみた祖父母と親の同居・近居の支援 2.8

11.未婚者向けの住宅支援 1.1

12.他自治体からの転入者受け入れの住宅支援 13.7 注:図表2と同じ。

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REPORT

1)結婚・妊娠・出産支援

結婚・妊娠・出産支援のうち「妊産婦検診や乳幼児健診」(75.1%)と「乳児家庭全

戸訪問」(66.7%)の実施率は高い。続いて、「妊娠・出産に関する相談事業」「不妊治

療の経済的支援」の実施率が4割台である。2006年と比べると、「不妊治療の経済的支

援」「結婚相談・仲介事業(婚活支援)」「妊産婦検診や乳幼児健診」を行う自治体が特

に増えている。

2)家庭での子育て支援

家庭での子育て支援として実施率が最も高いものは、子どもに対する「医療費助成」

(80.9%)である。この割合は、2006年よりも20ポイント以上増加している。助成の

上限年齢は、6歳までが19.0%、7~12歳が26.2%、13~15歳が46.9%であり、平均

12歳、最年長22歳である(図表省略)。医療費助成を行う自治体のうち、75%で所得制

限はなく、60%で自己負担額はない。対照的に、経済的支援のひとつである「児童手

当」の実施率は16.7%と低く、その割合は2006年からほとんど変わっていない。

3)保育・幼児教育

保育・幼児教育の分野をみると、「保育料の軽減措置」は80.3%と大半の自治体にお

いて実施されている。「保育所概要のホームページ等による情報提供」を行う自治体も

増加している。全国的にみると認可保育所の増設が進んでいるが、今回調査対象の自

治体のうち「保育所の増設または定員増」をしているところは26.0%にとどまる。認

可保育所の待機児童解消のために「認可保育所以外への補助金」を行う自治体は31.2%

である。

4)就労支援

就労支援のうち実施率が高いのは、「男性の子育て参加促進のための両親学級等」

(67.3%)、「男性子育て参加促進の研修・広報・相談」(40.3%)である。父親の子育

て参加に対する社会的関心の高まりを背景に、これらの施策を実施する自治体は大幅

に増えた。非正規雇用者の増加が未婚化の要因になっているが、「フリーターなど非正

規雇用者の就職支援」を行う自治体は全体の約4分の1である。

5)住環境整備

住環境整備に関する施策の実施率は、「公共施設における多目的トイレ等の設置」

(60.3%)、「公共施設等におけるバリアフリー化の推進」(51.7%)、「講演会や催事に

おける託児室設置」(42.2%)などとなっている。子育て世帯の住宅取得等を支援する

「子育て世帯の住宅費助成または融資制度」や「子育て世帯向け住宅提供者に対する

助成」「子からみた祖父母と親の同居・近居の支援」を実施している自治体は少ない。

(2)地域別にみた少子化対策の特徴

地域ブロック別に少子化対策の取り組み状況を分析した結果が図表5である。ここ

では、図表4のA~Eの分野別に実施している少子化対策の項目数を足し合わせた尺

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度を作成した。全分野の少子化対策の項目数を合計したものを総合尺度とした。

総合尺度をみると、関東、中部、近畿において項目数が多い。一方、北海道・東北、

中国・四国、九州・沖縄は、総合尺度の項目数が少ない。

A~Eの各分野別にみると、地域ブロックによる差が大きいのは、「B.家庭での子

育て支援」や「C.保育・幼児教育」である。これらの分野は、北海道・東北、中国・

四国、九州・沖縄における項目数が少ない。

地域ブロック別に特徴的な傾向がみられた少子化対策の実施率を集計した結果が図

表6である。地域ブロック間を比較すると、結婚相談・仲介事業(婚活支援)は、中

部と中国・四国において実施率が高い。地域子育て支援センターまたは類似事業は、

在宅で子育てをする家庭が比較的多い関東や中部において実施率が高い。「保育所の増

設または定員増」は、待機児童数が多い関東と近畿において実施率が高い。フリータ

ーなど非正規雇用者の就職支援は、近畿において実施率が高い。子育て世帯の住宅費

助成または融資制度は、関東の実施率が比較的高い。

図表5 施策の項目数(全体、地域ブロック別)〔2012年〕

(単位:項目)

        分野

地域ブロック

A.結婚・妊

娠・出産支援

(全8項目)

B. 家庭での

子育て支援

(全17項目)

C. 保育・幼

児教育

(全11項目)

D.就労支援

(全8項目)

E.住環境整

(全12項目)

総合

(全56項目)

全体 2.8 5.3 2.8 0.9 1.3 13.1

北海道・東北 2.7 4.9 2.4 0.6 1.1 11.6

関東 2.8 6.0 3.5 1.2 1.4 14.9

中部 3.6 5.8 2.7 0.9 1.6 14.5

近畿 2.1 5.9 3.3 1.3 1.6 14.2

中国・四国 2.5 4.6 2.7 0.6 1.2 11.7

九州・沖縄 2.5 4.1 2.2 0.6 1.1 10.6

図表6 地域ブロック別に特徴的な傾向がみられた施策の実施率〔2012年〕

(単位:%)

A B C D E

結婚相談・仲

介事業(婚活

支援)

地域子育て

支援センター

または類似

事業

保育所の増

設または定

員増

フリーターな

ど非正規雇

用者の就職

支援

子育て世帯

の住宅費助

成または融

資制度

北海道・東北 22.1 45.0 13.6 7.1 5.7

関東 22.5 53.3 33.3 12.5 9.2

中部 33.1 51.0 19.9 9.3 7.3

近畿 8.5 47.9 32.4 22.5 7.0

中国・四国 33.8 41.2 19.1 7.4 4.4

九州・沖縄 20.4 36.6 24.7 8.6 4.3

          施策

地域ブロック

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5.少子化対策の目標・効果・課題

(1)少子化対策の目標

市区町村の「次世代育成支援行動計画」において目標としていることがらを尋ねた

結果が図表7である。「子どもの健やかな育ちの支援」をあげた割合が91.7%で最も高

く、以下「地域の子育て支援力向上」(82.5%)、「安全・安心に子育てできる地域環境

整備」(82.2%)などが続く。これに対して、出生率・結婚・人口等、少子化に直接関

わる指標については、目標としてあげられた割合が低い。

少子化対策の目標として、「地域の子育て支援力向上」「家庭の子育て力の向上」を

あげる自治体は多い。これに関連して、親族・近隣による子育ての助け合いは次世代

育成支援につながるか否かを尋ねた結果が図表8である。そう思う(「そう思う」+「ど

ちらかといえばそう思う」)と答えた割合は9割以上にのぼる。親族・近隣による助け

合いに少子化対策の効果を期待する自治体は多い。

図表7 少子化対策の目標<複数回答>〔2012年〕 図表8 親族・近隣による子育ての助け合いは次世代育成支援につながるか〔2012年〕

91.7

82.5

82.2

72.4

66.6

17.6

10.9

7.4

5.4

4.4

8.6

0.5

0 20 40 60 80 100

子どもの健やかな育ちの支援

地域の子育て支援力向上

安全・安心に子育てできる地域環境整備

仕事と子育ての両立環境整備

家庭の子育て力の向上

出生率の上昇

人口流出の減少

結婚の増加

人口流入の増加

1夫婦あたりの子ども数の増加

その他

あてはまるものはない

(%)

そう思う

54.6%どちらかと

いえばそ

う思う39.2%

どちらかと

いえばそ

うは思わない

1.8%

そうは思

わない

0.9%無回答

3.5%

(2)少子化対策の効果

次に、現在実施している少子化対策の効果を尋ねた結果が図表9である。

2012年の結果をみると、想定される効果としては、「出生数の増加」(62.2%)、「他

自治体への転出者減少」(50.1%)、「他自治体からの転入者増加」(48.9%)の3項目

は約半数以上の自治体が回答している。2006年と2012年を比較すると、「結婚数の増加」

以外は、想定される効果としてあげられた割合が大幅に高まっている。

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一方、既にあらわれている効果をみると、2012年に最も割合が高いもので「他自治

体からの転入者増加」の13.5%にとどまる。2006年から2012年にかけて効果があらわ

れたと回答された割合の増加幅は、「他自治体からの転入者増加」が最も高い。

ここから、実施している少子化対策の効果に対する期待は大きいが、実際に効果が

あらわれたものはまだ少ないことがうかがえる。既にあらわれている効果として「出

生数の増加」よりも「他自治体からの転入者増加」が多いことは、市区町村における

少子化対策が自治体間で子育て世代の奪い合いにつながっている面があることを示唆

する。

地域ブロック別に少子化対策によって既にあらわれている効果を集計した結果が図

表10である。結婚数の増加をあげた割合は、いずれの地域においても低い。「出生数の

増加」は、近畿と九州・沖縄において回答割合が比較的高い。

図表9 少子化対策の効果<複数回答>

(単位:%)

2006年 2012年 2006年 2012年

結婚数の増加 13.4 18.0 0.4 1.2

出生数の増加 44.7 62.2 2.6 9.0

他自治体への転出者減少 25.2 50.1 2.4 3.5

他自治体からの転入者増加 25.4 48.9 4.5 13.5

想定される効果 既にあらわれている効果

図表10 少子化対策によって既にあらわれている効果(地域ブロック別)<複数回答>〔2012年〕

(単位:%)

結婚数の増加 出生数の増加 他自治体への

転出者減少

他自治体から

の転入者増加

北海道・東北 2.4 3.7 1.2 18.3

関東 1.2 9.9 4.9 13.6

中部 0.9 7.5 1.9 14.2

近畿 - 12.5 6.3 10.4

中国・四国 - 7.0 - 4.7

九州・沖縄 1.7 17.2 8.6 13.8

(3)少子化対策の問題・課題

少子化対策を行うにあたっての問題・課題を尋ねた結果が図表11である。2012年を

みると、「次世代育成支援策にあてる予算の不足」をあげた割合が43.5%で最も高い。

ただし、この項目をあげる割合は2006年よりも10ポイント近く低下している。各自治

体において少子化対策のための予算の確保がすすんだことがうかがえる。以下、「有効

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な少子化対策がわからない」「部局横断的な推進体制の整備」をあげた割合が3割台で

続く。

図表11 少子化対策を行うにあたっての問題・課題<複数回答>

53.0

35.7

34.4

14.3

8.1

6.9

4.5

8.4

2.7

43.5

34.5

32.8

13.7

8.9

8.1

3.8

7.6

4.8

0 20 40 60

次世代育成支援策にあてる予算の不足

有効な少子化対策がわからない

部局横断的な推進体制の整備

当自治体では有効な少子化対策ができない

都道府県との連携

他市との連携

少子化の要因がわからない

その他

特にない

2006年

2012年

(%)

6.自由回答

国や自治体が行う少子化対策のあり方等を自由回答で尋ねた。主な意見をみると、

まず、少子化への対応は1つの市区町村では難しく、国が主導して増子化対策をする

ことや、生活圏域の自治体が連携して対策にあたる必要性を訴える意見がみられた。

また、国による補助金は市区町村が独自に実施しようとする施策に利用できず、そ

のために市区町村における少子化対策の裁量度を狭めているという意見が多数あげら

れた。結婚・出産・家族の状況は地域によって異なるため、その地域の状況に合わせ

た少子化対策を実施することができれば効果的である。自治体がその地域の状況に応

じた少子化対策を柔軟に実施できるようにするためには、補助金の使途を柔軟にする

ことが欠かせない。ただし、子育て支援策の一部が一般財源化されたことが、自治体

レベルでは次世代育成支援関係にあてる予算確保を難しくする結果につながったとい

う指摘もある。

各地域にあった対策を行うということは、自治体ごとに少子化対策のメニューが異

なるということになる。これを望む声がある一方、各自治体が独自に拡充している子

どもの医療費助成については、子どもの医療の必要性は地域差のあるものではないた

め、全国一律の制度の導入を求める意見がみられた。

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<自由回答の主な意見(抜粋)>

〔少子化対策への取り組み体制について〕

・結婚、出産や経済的な不安の解消は、国の施策として行うべきものでこの根本的な要因が解

消しない限り、少子化は進んでいくと考えられる。少子化問題では市町村が直接歯止めをか

けることは困難である。(中略)国は少子化対策ではなく増子化対策を真剣に検討すべきでは

ないか。(関東A市)

・人口減少、少子化対策に特化したプロジェクトチームを立ち上げ、取り組む必要があると思

われる。また、生活圏域内の市町村が連携して地域の方向性を打ち出し、計画的に取り組む

必要があると思う(中部B村)

・子育て支援に関しては先進的な取り組みをしていたが、他自治体の取り組みがすすんだ結果、

特筆すべきものは少なくなった。全国的に少子化が進む中で、財政的に逼迫している地方自

治体が過当競争をしているように感じる(中国・四国C市)

〔自治体の裁量について〕

・子育て支援交付金の既存メニューで救われない自治体が知恵を絞って行っている+αのソフ

ト事業も交付対象として扱っていただければ、独自色あふれる事業展開が期待できる(中部

D市)

・都市部と地方では子育てを取り巻く環境が大きく異なる。待機児童についても本市では該当

しない。統一的な制度や補助事業も大切であるが、もう少し地方自治体の特色を活かせる「自

由枠」への助成を(中部E市)

・(取り組みが追いついていない施策が生じる)主要因としては、これらの対策が経済環境の

悪化に伴い急速に拡大した今日的課題であり、(中略)従前は都道府県行政で対応できていた

ものが困難となり、都道府県行政と市町村行政との谷間に陥っていることにある(中略)抜

本的改善を図っていくためには、基礎自治体である市町村にできる限り権限と財源の移譲・

集中を(九州・沖縄F市)

〔一般財源化について〕

・子育て支援策の一般財源化により、財政措置がされにくい状況があるため、積極的な財源措

置を講じて欲しい(北海道・東北G市)

・国の施策により、次世代交付金の一般財源化が進み、市町では財源確保が難しくなり、事業

の遂行が困難になってきている。これ以上一般財源化が進むことのないよう、国には財源確

保をお願いしたい(九州・沖縄H市)

〔子どもの医療費助成のあり方について〕

・小児医療費助成は現在対象児童について各自治体バラバラであり、地方間競争になっている

が、自治体の政策的な内容ではなく、財政的問題であり、本来このような助成は居住地によ

って異なるものではなく全国一律にすべきであり、国の制度化を要望(関東I市)

・医療費の助成などは、国で統一した形で実施してもらいたい。当市のように人口の少ない自

治体では予算の確保がむずかしく、医療費の助成を手厚くしたいと思ってもできず、人口の

多い他市と比べられてしまう(近畿J市)

7.市区町村の少子化対策充実のために

本調査でえられた主要な知見を整理すると、次のようになる。2006 年から 2012 年

にかけて市区町村における少子化対策は拡充されてきた。ただし、少子化対策の実施

度には地域差があり、首都圏、中部、近畿に比べて、北海道・東北、中国・四国およ

び九州・沖縄では相対的に手薄である。少子化対策を充実させてきてはいるものの、

多くの自治体において出生数が増加するなどの効果は目に見えるかたちであらわれて

はいない。人口減少に対する危機感は、北海道・東北と中国・四国を筆頭に全国に広

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がる。

少子化を克服するためには、市区町村における少子化対策のさらなる充実が必要で

ある。調査結果をふまえると、そのためには次の3点が求められる。

第一は、各市区町村において実施されている既存の施策の有効性を検証することで

ある。子育て環境は地域によって大きく異なるものである。実施している個別の施策

がその地域に合ったものであるかを今一度検討し、その自治体に適した施策を実施し

ていくことである。

第二に、本調査では約4割の市区町村が少子化対策にあてる予算が不足していると

回答している。自治体における少子化対策を拡充するためには、国から自治体への少

子化対策関係の交付金を増額すること及び自治体内において当該予算を捻出すること

が求められる。

第三に、各地域にあった施策を実施するためには、自治体が少子化対策を実施する

際の自由度を高めることである。そのためには、国から自治体に対する少子化対策関

係の交付金の対象事業のメニューを拡大し、その交付金を自治体のオリジナルな施策

にも使用することができるようにすることが効果的である。

各自治体が創意工夫して、地域に合った施策を実施する動きの拡大を期待したい。

(前 研究開発室 主席研究員)

【謝辞】

本調査にご回答いただいた自治体の担当者の方々に御礼申し上げます。

【注釈】

*1 アンケートでは「次世代育成支援策」という名称で調査をしたが、本稿では「少子

化対策」という用語に統一している。

*2 東京23区はそれぞれを別個の調査対象にした。それ以外の自治体の区については、

調査対象にはしていない。

【参考文献】

・ 全国知事会男女共同参画研究会,2005,『次世代育成支援対策推進のための調査

報告書』.

・ 内閣府政策統括官,2005,『地方自治体の独自子育て支援施策の実施状況調査報

告書』.

・ 松田茂樹,2007,「市区町村の次世代育成支援の現状」『Life Design Report』

(2007.7-8):4-15.

・ 松田茂樹,2012,「注目される地方の出生率低下」『Life Design Report』

(Summer2012.7):36-38.