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SEM SEM 走査電子顕微鏡 A~Z SEM を使うための基礎知識 Serving Advanced Technology

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Page 1: SEM - jeol.co.jp · 走査電子顕微鏡(sem)が商品化されてから40年を経た今日、性能は格段の進歩を遂げました。現在多くの種類 のsemが使われていますが、性能・機能には大きな差があります。これらのsemをうまく使うためには、それぞれ

SEMSEM走査電子顕微鏡 A~Z

SEMを使うための基礎知識

Serving Advanced Technology

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走査電子顕微鏡(SEM)が商品化されてから40年を経た今日、性能は格段の進歩を遂げました。現在多くの種類

のSEMが使われていますが、性能・機能には大きな差があります。これらのSEMをうまく使うためには、それぞれ

の特徴を認識しておくことが必要ですし、形像コントラストについても十分な理解が必要です。このような観点から

この資料では、実際にSEMを使っている人あるいはこれから使う人を対象とし、SEMの原理を中心にして、試料作

製の基本、元素分析の基本などをまとめました。観察手法の実際・画像障害などについては、“走査電子顕微鏡によ

る観察の手引き”を参考にして下さい。

2

SEMの構造..............................................................................................3装置の構成電子銃レンズの構造集束レンズと対物レンズ試料ステージ二次電子検出器画像の表示と記録真空系

SEMの倍率..............................................................................................7

SEMの焦点深度 ......................................................................................8

像がどうして見えるか ............................................................................9電子と物質の相互作用二次電子反射電子エッジ効果加速電圧の影響二次電子検出器の照明効果反射電子検出器の照明効果

分解能を上げるには .............................................................................15分解能と解像力分解能を上げるには

電子銃の種類.........................................................................................16電界放出電子銃ショットキー電子銃3種類の電子銃の特徴

対物レンズの種類と性能 .....................................................................18汎用形対物レンズ高分解能用強励磁対物レンズ対物レンズ絞りの役割

実際のSEMの分解能 ...........................................................................20帯電現象とその影響 .............................................................................21

帯電現象とは帯電のSEM像への影響帯電を防止するには

試料作製の基礎 .....................................................................................24観察面の露出とコントラスト付け試料の固定コーティング生物試料の扱い

低真空SEM...........................................................................................26

元素分析の基礎 .....................................................................................27X線の発生X線分光器定性分析X線マッピング分析領域定量分析非導電性試料の分析

歴史 ........................................................................................................31

目次

SEMを使うための基礎知識

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走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)は試料の表面を見る装置です。細い電子線(電子

プローブといいます)を試料に照射すると、試料表面から二次電子が放出されます。電子プローブを二次元的に走査

しながら、二次電子の多い少ないを検出して1枚の画像にすると、試料表面の凹凸を観察することができます。

電子銃

集束レンズ

走査コイル

試料

表示装置 対物レンズ

二次電子検出器

対物レンズ

二次電子検出器

SEMの構造

装置の構成

SEMには、電子プローブを作るための電子光

学系、試料を載せるための試料ステージ、二次

電子を検出するための二次電子検出器、画像を

表示するための表示装置、種々の操作を行うた

めの操作系などが必要です(図1)。電子光学系

は、電子プローブを作るための電子銃、集束レ

ンズ、対物レンズと、電子プローブを走査する

ための走査コイル、などで構成されています。

電子光学系(鏡筒内部)および試料周囲の空

間は真空になっています。

図1 SEMの基本構成

電子銃

電子線を発生する部分で、図2に構造を示し

ます。細い(0.1 mm程度)タングステン線で

出来たフィラメント(陰極)を高温(2800 K

程度)に加熱すると熱電子が放出されます。対

向して置いた金属板(陽極)にプラスの高電圧

(1~30 kV)を掛けると熱電子は電子線とな

って陽極に流れ込みますが、陽極中央に孔をあ

けておくと電子線は孔を通って流れ出します。

陰極と陽極の間に電極を置きマイナスの電圧を

掛けると、電子線の電流量を調整することがで

きますが、この電極(ウェーネルト電極と呼び

ます)の作用で、電子線は一度細く絞られます。

一番細くなったところをクロスオーバーと言い、

実質的な光源となりますが、この直径は15~

20μmです。

ここで説明したのは、熱電子銃と呼ばれるも

ので、最も一般的に使われていますが、他に電

界放出電子銃、ショットキー電子銃などが使わ

れます(p16)。熱電子銃の陰極としては、タ

ングステン線のほかに、LaB6の単結晶が使わ

れることもありますが、活性が高いのでやや高

い真空が必要です。

図2 電子銃の構造

フィラメント加熱電源

フィラメント

ウェーネルト電極

バイアス電源

クロスオーバー~15μm

加速電源

陽極

+-

-+

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ヨーク

コイル

ポールピース

光軸 レンズの構造

電子顕微鏡では、一般に磁石の作用を利用し

た磁界レンズが使われています。

コイル状に巻いた電線に直流の電流を流すと、

回転対称な磁力線が生まれ、電子線に対するレ

ンズ作用が生じます。強いレンズ(焦点距離が

短いレンズ)を作るには磁力線の密度を高くす

る必要があるため、図3に示すように、コイル

の周囲を鉄枠(ヨーク)で囲み、狭い隙間から

磁力線を漏洩させます。隙間の部分は磁極片

(ポールピース)と呼ばれ、高い工作精度で仕上

げられています。コイルに流す電流を変えると

レンズの強さを変えることが出来るのが、光学

レンズに無い特長です。

図3 磁界レンズの構造

集束レンズ

対物レンズ絞り

対物レンズ

試料

集束レンズの励磁 が強い時

クロスオーバー

集束レンズの励磁 が弱い時

a a

b b

集束レンズと対物レンズ

電子銃の後ろにレンズを置くと、電子線の太

さを調節することができます。

SEMでは細い電子線が必要ですから、その説

明をしましょう。図4では、電子銃の後ろに集

束レンズと対物レンズの2段のレンズが置かれ

ており、電子銃から出た電子線はこの2段のレ

ンズで細められ、電子プローブができます。

図4 レンズによる電子プローブの形成

●集束レンズの役割

集束レンズのレンズ作用を強くすると、電子プローブはb/aの割合で細くなり、弱くすると太い電子プローブとな

ります。一方、集束レンズと対物レンズの間には、薄い金属板に小さい孔があいた“絞り”が置いてあります。集束

レンズを通った電子線はこの絞りに当たって、一部の電子線だけが孔を通って対物レンズに到達します。集束レンズ

を強くすると、絞りの上で電子線は大きく広がり、一部の電子線しか通り抜けられないため、対物レンズに到達する

電子の数(プローブ電流)は減ります。逆に、集束レンズを弱めると、絞りの上で電子線はそれほど広がらないので、

大部分の電子線は絞りを通り抜け、多くの電子が対物レンズに到達します。すなわち、集束レンズを調節すると、電

子プローブの太さとプローブ電流を変えることができるわけです。

では、集束レンズをどんどん強くしていくと、電子プローブの太さは無限に細くなるのでしょうか?残念ながら限

界があります。この説明は別項目でしましょう。(p15)

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●対物レンズの役割

対物レンズは、焦点合わせに使われますが、最終的な電子プローブ径を決める大事なレンズです。その前でどんな

に頑張っても、対物レンズが悪ければ細い電子プローブを作ることはできません。ですから、どこの電子顕微鏡メー

カーも性能の良い対物レンズを作る努力をしています。

試料ステージ電子顕微鏡では高倍率で試料を観察することが多いので、試料を安定に支持しながら、スムーズな動きをする試料

ステージが必要です。SEMでは通常、平面内の移動(X, Y)、縦方向の移動(Z)のほか、試料の傾斜(T)、回転

(R)の5つの動きができるようになっています。単純な視野選び(X, Y)だけでなく、Zを変えることで、解像力

(p15)や焦点深度(p8)を変えることができます。図5にステージの構造を示します。

試料を傾斜した時に視野がずれない、あるいは傾斜した状態で視野移動を行った時に焦点がずれない、といった機

能を持った試料ステージをユーセントリック(eucentric)ステージといいます。

手動のステージの他、最近はモーター駆動のステージも多くなっており、パーソナルコンピュータで制御する試料

ステージも多く使われるようになってきました。このようなステージでは、観察画面上で選択した位置にマウスクリ

ック一つで移動したり、一度観察した位置を記憶しておいてその場所に戻ったり、より高度なユーセントリック機能

を備えるといったことが可能になっています。

電子プローブ

回転(R) 縦(Z)

平面内(X) 傾斜(T)

平面内(Y)

図5 試料ステージの構造

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二次電子検出器

試料から放出された二次電子を検出するのが二次電子検出器で、図6にその構造を示します。先端にはシンチレー

タ(蛍光物質)が塗ってあり、10 kV程度の高電圧が掛かっています。試料から放出された二次電子はこの高電圧に

引き寄せられてシンチレータに衝突し、発光します。その光はライトガイドを通して光電子増倍管に導かれ、再び電

子に変換・増幅されて、電気信号になります。シンチレータの前にはコレクタと呼ばれる補助電極が置かれており、

数百Vの電圧が掛けられるようになっていますが、この電圧を変えることで二次電子を沢山集めたり、カットしたり

することができます。この検出器の原型はEverhartとThornleyが開発したことから、E-T検出器と呼ばれることが

あります。多くのSEMはこのタイプの検出器を試料室に取り付けていますが、分解能を追求するタイプの対物レン

ズの場合(p19)は、対物レンズ上部に二次電子検出器を置き、レンズ磁場を利用して二次電子を検出する方法が取

られます。この検出器はしばしばTTL(Through The Lens)検出器と呼ばれます。

画像の表示と記録

二次電子検出器の出力は増幅されて、表示装置に送られます。表示装置の走査と電子プローブの走査は同期してい

るため、表示装置の画面には二次電子の量に応じた明るさの変化が現れ、SEM像が形成されます。表示装置として

は長い間ブラウン管が用いられてきましたが、最近では液晶ディスプレーが使われるようになってきています。一般

に電子プローブの走査速度は何段階かに切り替えることができ、観察用には極めて早い走査速度が使われます。また

画像の撮影や保存のためにはゆっくりとした走査速度が使われます。

SEM像を記録するには、従来はブラウン管に表示されたSEM像をカメラで撮影していましたが、最近は電子ファ

イルの形で記録されるようになってきています。これは、解像力の高いブラウン管の入手が困難になってきているこ

と、電子ファイルの方が種々の画像処理をやりやすいこと、情報のやりとりに便利なことなどから起きたことです。

ちなみに、通常100万画素程度の画像フォーマットを使用します。

真空系

電子光学系および試料室の内部は、10-3~10-4Paの真空に保つ必要がありますから、普通は油拡散ポンプで排

気されていますが、真空の質を問題にする場合にはターボモレキュラポンプが使われる場合もあります。一方、後で

ふれる電界放出電子銃は超高真空を必要とするので、スパッタイオンポンプが使われます。

試料を交換する方法には、試料室全体を大気にして行う方法と、試料室は高真空に保ったまま試料予備排気室(試

料交換室)を介して行う方法の2種類があります。

コレクタ

ライトガイド 光電子増倍管

+10kV

-50~300V

シンチレータ

二次電子

増幅器

図6 二次電子検出器の構造

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試料

電子プローブ

表示装置

倍率 M=D/d

SEMの倍率

電子プローブで試料の表面を二次元的に走査すると、表示装置の画面上にSEM像が現れますが、電子プローブの

走査幅を変えると表示されたSEM像の倍率が変わります。表示画面の大きさは一定ですから、走査幅を狭くすると

倍率は上がり、走査幅を広くすると倍率は下がります。図7にその様子を示します。

例えば、表示画面の大きさが10cmで、電子プローブの走査幅が1mmであれば100倍、走査幅が10μmであ

れば10000倍になります。表示画面の大きさが変われば、倍率は変わりますが、歴史的な背景から横12cm×縦

10cmの画面(メーカーによって若干違います)を基準として、倍率を表示しています。画面の大きな表示装置を使

った場合、そこに表示されたSEM像の倍率は上がっているわけです。このような場合、画面の中に表示されている

スケールを基準にして倍率を計算したり、物の大きさを測ります。

図7 SEMの倍率の概念

全般

走査電子顕微鏡:日本電子顕微鏡学会関東支部編(共立出版、2000年)

材料系

ナノテクノロジーのための走査電子顕微鏡:日本表面科学会編(丸善、2004年)

医学生物系

医学生物学の走査電子顕微鏡:医学・生物学電子顕微鏡技術研究会編(医学出版センター、1992年)

観察手法の実際

走査電子顕微鏡による観察の手引き:日本電子/日本電子データム

日本顕微鏡学会 走査電子顕微鏡分科会 ホームページ:

http://homepage1.nifty.com/scantech/

参考資料

SEM関連のホームページ

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対物レンズ

絞 り:小

開き角:大 開き角:小

焦点深度: 深い

焦点深度: 浅い

ボケ

ボケ

絞 り:大

光学顕微鏡

10

倍率 焦点深度(μm)

102 103 104 105

103

102

10

1

SEM

SEMの焦点深度

奥行きのある試料を見たとき、手前に焦点が合っていれば、奥の方は焦点がずれます。このようなとき、焦点がず

れていてもボケが小さい場合は焦点深度が深い、ボケが大きい場合は焦点深度が浅い、といいます。図8に示すよう

に、電子プローブの平行性が良い(開き角が小さい)と焦点が大きくずれてもボケは小さく、電子プローブが角度を

持っている(開き角が大きい)とわずかに焦点がずれてもボケが大きくなります。光学顕微鏡のようにプローブを使

わない場合は、試料から対物レンズを見込んだ角度(開き角)が小さいと焦点深度が深く、角度が大きいと焦点深度

が浅くなります。一方、ぼけていても、倍率が低いとぼけていることがわかりませんが、倍率を上げるとボケがわか

るようになります。すなわち、焦点深度は倍率によって変わります。

図9は、SEMと光学顕微鏡の焦点深度の違いをグラフにしたものです。光学顕微鏡の中でも実体顕微鏡では比較

的焦点深度の深い像が得られますが、SEMでははるかに深い焦点深度が得られます。これは、光学顕微鏡の対物レ

ンズの開き角と比較して電子プローブの開き角が小さいことが理由です。なお、SEMの焦点深度は観察条件によっ

て変わります。

図10は、ネジの破断面を光学顕微鏡とSEMで観察したものです。凹凸が激しいため光学顕微鏡では焦点が合って

いるのは一部ですが、SEMでは全体がシャープに観察されます。

図8 電子プローブの開き角と焦点深度

図9 SEMと光学顕微鏡の焦点深度

光学顕微鏡像 SEM像

図10 同一視野の光学顕微鏡像とSEM像

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像がどうして見えるか

SEM像は肉眼でものを見たような感じに見えるため、非常に取りつきやすい感じがします。しかし、よく見てい

くと説明の付きにくいコントラストが観察されることがあります。このような場合、SEM像がどうして見えるのか、

何故このような見え方をするのか、といったことを理解していなければなりません。

電子と物質の相互作用

試料に電子が入射すると、電子は試料の中で

散乱し、徐々にエネルギーを失って最終的に試

料中に吸収されます。その様子を図11に示し

ます。試料中で電子が広がる大きさは、電子の

エネルギーや試料の原子番号、密度によって違

い、エネルギーが高いほど広がりは大きく、原

子番号および密度が大きいほど広がりは小さく

なります。その様子は、モンテカルロ法と呼ば

れるシミュレーションで知ることができます。

図11 試料中での電子の散乱の様子を示すシミュレーション

図12 試料からの種々の電子・電磁波の放出

入射電子

X線

カソード ルミネッセンス

吸収電子

透過電子

二次電子

試料

オージェ電子

反射電子

図12は、電子が試料に入射したときに、電

子、光、X線などが放出される様子を示したも

のです。これらを利用して、試料表面(あるい

は表面直下)を観察したり、分析する装置が

SEMです。ですから、SEMは単純な形態観察

装置ではなく、小さな領域の元素分析をしたり、

状態を調べることができる、多くの機能を持っ

た装置であるといえます。

放出電子のエネルギー

放出電子量

入射電子エネルギー

二次電子 反射電子 図13に示すのは、試料から放出される電子

のエネルギー分布です。二次電子が50 eV以下

のエネルギーを持つのに対して、反射電子は入

射電子エネルギーから下の極めて広いエネルギ

ー範囲に分布してます。途中にある小さなピー

クはオージェ電子です。

図13 試料から放出される電子のエネルギー分布

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二次電子

試料に電子が入射したときに、試料を構成する原子の価電子が放出されたものが二次電子です。エネルギーが極め

て小さいため、試料の奥深い場所で生成されたものはすぐ試料中で吸収され、試料の極表面で生成されたものだけが

試料外に放出されます。これは、表面に敏感なことを意味します。また、図14に示すように、電子線が試料に対し

て垂直に入射した場合に比べて、斜めに入射した方が二次電子の放出量は多くなります。図15に実際例を示します

が、結晶表面の明るさの違いは電子線の入射角の違いによるものです。このことから、表面の凹凸を観察するのに二

次電子が使われるわけです。エネルギーが小さいことから試料近傍の電位の影響も受けやすく、帯電した試料では異

常なコントラストを生じるほか、半導体デバイスの電位測定に使われることもあります。

図15 酸化タングステン結晶の二次電子像

入射電子

二次電子 脱出深さ

二次電子 拡散領域

放出量少ない

放出量多い

試料表面の傾斜角

二次電子放出量

図14 電子プローブの入射角と二次電子放出量の関係

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20 40 60 800

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

原子番号 ( Z)

反射電子強度(I b/Io)

反射電子

反射電子は、入射電子が試料中で散乱してい

く過程で後方に散乱し、試料表面から再び放出

されたもので、後方散乱電子とも呼ばれます。

二次電子に比べて高いエネルギーを持っている

ので、比較的試料の奥からの情報を持っていま

す。試料の組成に敏感で、図16に示すように

試料を構成する物質の原子番号が大きいほど、

反射電子は多く放出されます。すなわち、重い

元素で出来たところほど明るくなるので、反射

電子像は組成の違いを見るのに適しています。

図17にその実際例を示します。一方、図18に

示すように、試料表面に凹凸があると反射電子

は鏡面反射方向に強い強度を持ちますから、表

面の凹凸を観察することにも使えます。

組成が均一な結晶性試料に電子が入射すると、図19に示すように、結晶の向きによって反射電子強度が変わりま

す。これを利用すると結晶の方位の違いを像として観察することができ、電子チャンネリングコントラスト

(Electron Channeling Contrast:ECC)と呼びます。図20にその例を示しますが、試料をわずかに傾斜すると

コントラストが変わるのが特徴です。

図16 反射電子強度の原子番号依存性

図17 反射電子組成像の例試料:ハードディスク用磁気ヘッド

電子プローブ

試料

図18 電子プローブ入射角と反射電子強度の関係

結晶 A 結晶 B

電子プローブ

反射電子

図19 結晶方位と反射電子強度の関係 図20 電子チャンネリングコントラストの例試料:フレキシブル基板断面

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エッジ効果

図21のように試料表面にステップ状の段差があったり、細い突起物があると、段差のエッジ部分がシャープな線

ではなくある幅を持って明るくなったり、突起物全体が光るような現象が起きます。これをエッジ効果と言います。

これは、図22のように、電子プローブが側壁から離れた位置に照射されていても、試料中で拡散した電子によって

側壁から二次電子が放出されるために起きる現象です。

図21 エッジ効果の例試料:鉄鋼のエッチピット 加速電圧 25kV

電子プローブ

試料表面 二次電子 脱出深さ

端面からの 二次電子

拡散領域

図22 入射電子の拡散とエッジ効果

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加速電圧の影響

加速電圧を変えると試料に入射した電子の侵

入深さが変わります。この結果、加速電圧を上

げると、試料内部からの情報がバックグラウン

ドとなって試料表面のコントラストが低下しま

す。試料内部では電子プローブは拡がってしま

いますから、図23のように試料内部に構造物

があるときは、構造物の像がぼけて重なること

もあります。また、加速電圧が高くなるとエッ

ジ効果も顕著になります。したがって、表面構

造を見るためには低い加速電圧を使った方が良

いことになります。

図24は加速電圧を変えて観察した窒化ホウ素の板状結晶です。原子番号が小さくしかも薄い結晶が重なったもの

ですが、加速電圧が高いと下に重なった結晶が透けてしまっています。宙に浮いていると思われる結晶が明るく見え

ているのは結晶の裏側から放出された二次電子が検出されているためであり、暗く見えているのは下に重なった結晶

のために二次電子が放出されないためと考えられます。加速電圧を1kVまで下げると結晶表面のステップ状の構造が

コントラスト良く観察されます。

図23 内部構造の表面像への重なり

図24 加速電圧の違いによる二次電子像コントラストの違い試料:窒化ホウ素の板状結晶

試料内部からの反射電子

反射電子による二次電子

電子プローブ

試料表面

内部の構造物

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電子プローブ

照明方向

検出器

試料

二次電子検出器の照明効果

二次電子像では、電子プローブに対して試料

表面が垂直になっている場合が暗く、傾斜が大

きくなるにつれて明るくなりますが、実際の

SEM像では二次電子検出器の位置の影響が加わ

ります。図25は、二次電子検出器に入射する

二次電子の軌道を示したものです。二次電子は、

二次電子検出器先端に印加された高電圧により

加速されて検出器に入射しますが、検出器の反

対方向に放出された二次電子もエネルギーが低

いため検出器に引き込まれます。検出された電

子の軌道は照明方向を意味するので、無影照明

のような照明効果を与えることになります。一

方、エネルギーの比較的高い反射電子の一部も

検出器に入射しますが、これは、方向性を持っ

た照明効果を与えます。両者を併せた結果とし

て、検出器方向から柔らかい照明を当てたよう

な像が得られます。二次電子の軌道は試料に対

する照明の方向となります。実際のSEM像で

は二次電子検出器のところに光源を置いて試料

を照らし、電子プローブの方向から観察してい

ると考えます。

上に述べたのは多く用いられているE-T検出

器の場合ですが、TTL検出器の場合は若干変わ

ります。TTL検出器の場合は、図26に示すよ

うに、試料から放出された二次電子は対物レン

ズの磁場に拘束された状態で光軸に沿って運動

し、二次電子検出器に入射します。この場合、

照明方向と観察方向が同じになるため、立体感

が少なくなり通常の二次電子検出器を使った

SEMとは大分違った見え方となります。

反射電子検出器の照明効果

反射電子の場合も二次電子の場合と同様に検

出器から照明を当てたような像が得られます。

ただし、反射電子は二次電子像と違って直進し

て検出器に入射するので、検出器の位置によっ

て見え方が大きく変わり、また陰影感の強い像

となります。図27は、反射電子検出器の1例

です。試料の真上に、電子線に対して対称な位

置に2つの検出器が置かれています。出力信号

の演算A-Bを行うと、検出器Aから照明を当て

たような像になるので、試料表面の凹凸が観察

されますが、出力信号の演算A+Bを行うと、電

子プローブの方向から照明を当てたようになる

ので、表面の凹凸は消えてしまい、組成の違い

が観察されます。

図25 二次電子検出器の照明効果

電子プローブ

照明方向

検出器

試料

図26 TTL検出器の照明効果

図27 2分割反射電子検出器

電子プローブ

検出器A

増幅器へ

検出器B

反射電子

試料

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電子プローブが細ければシャープな像を得る

ことができます。このシャープさを分解能と言

います。正確には、“その装置で識別できる2点

間の最小距離”と定義されています。SEMでは

慣用的に2つの物体の隙間を測定して分解能と

しています。図28は、カーボンの板の上に作

った金粒子のSEM像ですが、矢印で示したよ

うに2つの金粒子の隙間を測定します。ここで

は約1nmの分解能が得られています。分解能測

定用の試料としては、できるだけ安定で、見や

すい試料が用いられますが、各電子顕微鏡メー

カーによって試料が異なっています。また、測

定条件、測定法についても統一されたものが無

いのが現状です。

分解能はその装置を最高の条件で使ったとき

に得られるものですが、似たものに“解像力”

という言葉があります。これは得られたSEM像に対して、“像の上で識別できる2点間の最小距離”がどのくらい

か?という定義です。したがって、装置の状態,試料の構造、倍率など色々な要素が絡んできます。

ただし、分解能と解像力は厳密には使い分けされず、混同して使われています。

15

分解能と解像力

図28 カーボン板上の蒸着金粒子矢印で示した間隔は約1nmである

分解能を上げるにはSEMの分解能は電子プローブの太さで決まり

ます。実際には、電子銃から放出された電子線

を、集束レンズと対物レンズを使って細くしま

すが、普通、対物レンズは一定の強さで使いま

すから、集束レンズの強さを変えて電子プロー

ブの太さを変えます。

図29は、集束レンズの強さを変えた時の電

子プローブ径の変化を示すものです。集束レン

ズを強くしていくと、電子源の像の大きさ、す

なわち電子プローブ径も小さくなりますが、対

物レンズで決まる値以下にはなりません。また、

試料に照射される電流量が減ります。熱電子銃

では、対物レンズで決まる限界に到達する前に

画像のざらつきが大きくなり、像を観察するこ

とができなくなります。電子銃に電界放出電子

銃のような高性能のものを使うと、このカーブ

は左に移動し、画像が見える範囲でも対物レン

ズで決まる限界値に到達します。対物レンズの

性能が上がると、このカーブは下方に移動しま

す。すなわち、より高い分解能が得られること

になります。

すなわち、電界放出電子銃と高性能の対物レ

ンズを組み合わせれば、極めて高い分解能が得

られることになります。

対物レンズによる 限界

集束レンズの強さ

像のざらつき

による限界

収差が 無い 時 の 電子 プローブ径 電

子プローブ径

図29 集束レンズの強さを変えた時の電子プローブ径の変化

分解能を上げるには

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電界放出電子銃

高分解能SEMで使われている電子銃は電界

放出電子銃(Field Emission Electron Gun:

FE電子銃)です。金属表面に高い電界を掛けた

ときに起きる電界放出現象を利用したもので、

実際の構造は図30のようになっています。細

いタングステン線に同じくタングステン単結晶

が取り付けられており、その先端は100 nm程

度の太さに成形されています。これをエミッタ

と呼びます。このエミッタに対向する位置に置

かれた金属板に数kVの電圧を印加すると、エミ

ッタからトンネル効果によって電子が放出され

ます。金属板の中央に孔を開けておくと電子線

が流れ出すので、その後ろに置いた電極に電圧

を印加することで所定のエネルギーの電子線を

得ることができます。電界放出を起こすためにはエミッタの先端は清浄でなければならないので10-8Pa程度の超高

真空中に置く必要があります。

エミッタから放出された電子線はあたかも5~10 nmの大きさの電子源から放出されたように振る舞います。熱

電子銃の場合,電子源の大きさは10~20 μmですから、これと比べてはるかに小さく、高分解能SEMの電子源

として適しています。また、加熱を伴わないため放出される電子のエネルギーのばらつきが少ないのも特長です。低

加速電圧では電子のエネルギーのばらつきが分解能を決める(色収差といいます)ので、これは極めて重要なことで

す。

フラッシュ電源

エミッタ 引出電源

引出電極

加速電極

加速電源

+

+

図30 電界放出電子銃の構造

ショットキー電子銃

加熱された金属表面に高い電界を掛けた時に

起きるショットキー放出(Schottky emis-

sion)と呼ばれる現象を利用したものです。陰

極(エミッタ)としては、先端曲率半径が数百

nmのタングステン単結晶をZrOで被覆したも

のが用いられます。ZrOの被覆が仕事関数を大

きく低下させており、1800K程度の比較的低

い陰極温度で大きな放出電流が得られます。図

31に示すように、エミッタから放出される熱

電子を遮蔽するため、サプレッサと呼ばれる電

極にマイナスの電圧が印加されています。電子

銃部は10-7Pa程度の超高真空に置かれますが、

エミッタが高温に保たれているためガス吸着が

無く、電流安定度が優れているのが特長です。

FE電子銃に比べると、放出電子のエネルギー幅

はやや大きいものの、大きなプローブ電流が得

られるなどの特長があり、形態観察と同時に各

種分析を重視する場合に用いられます。この電

子銃は、便宜的に熱陰極FE電子銃あるいは加熱

形FE電子銃と呼ばれることがあります。

図31 ショットキー電子銃の構造

電子銃の種類

電子銃には熱電子銃のほか、電界放出電子銃、

ショットキー電子銃が用いられますが、ここで

は、後の2者についてのみ触れます。

-+

-+

加熱電源

エミッタ引出電源

サプレッサ

引出電極加速電源

加速電極

+-

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3種類の電子銃の特徴

図32は、熱電子銃、FE電子銃、ショットキー電子銃の特徴をレーダーチャートにまとめたものです。光源の大き

さ、輝度(電子線の電流密度・平行性を意味する量)、寿命、エネルギーのばらつき(エネルギー幅)、といった点で

はFE電子銃が優れていますが、プローブ電流量、電流安定度といった点では熱電子銃が優れています。これらの特

性から、高倍率での形態観察にはFE電子銃が向いており、それほど高倍率を必要としない分析などの多目的な使い

方には熱電子銃が向いていることがわかります。ショットキー電子銃は両者の中間的な特性を持っており、高倍率観

察から分析まで幅広い対応が可能です。

表1は3種の電子銃の特徴をまとめたものです。

エネルギー幅

輝度

光源の大きさ

寿命

安定度

プローブ電流

冷陰極FE電子銃

熱電子銃

ショットキー電子銃

図32 3種類の電子銃の比較

熱電子銃FE電子銃 ショットキー電子銃

タングステン LaB6光源サイズ 15~20μm 10μm 5~10nm 15~20nm

輝度(Acm-2 rad-2) 105 106 108 108

エネルギー幅(eV) 3~4 2~3 0.3 0.7~1

寿命 50 h 500 h 数年 1~2年

陰極温度(K) 2800 1900 300 1800

電流変動(1時間当たり) 〈1% 〈2% 〉10% 〈1%

輝度は20kVでの数値

表1 各種電子銃の特徴

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対物レンズの種類と性能

対物レンズは、電子プローブを作るための最

終段のレンズで、SEMの分解能を決める重要な

構成要素です。ここでは、対物レンズの性能と

分解能の関係について述べましょう。理想的な

レンズでは、1点から放射された電子線はレン

ズを通った後で1点に集まりますが、実際のレ

ンズではボケた像となってしまいます。このボ

ケを収差と呼びますが、球面収差、色収差、回

折収差といった収差が混じったものです。球面

収差を小さくするにはレンズの開き角を小さく

する(光軸付近のみを使う)必要がありますが、

回折収差は大きくなってしまいます。したがっ

て、これらのバランスから最適な使用条件(開

き角)が決まり、最小プローブ径が決まってし

まいます。図33にその様子を示します。一方、

加速電圧が低い場合は色収差の影響が大きくなるので、これを考慮に入れる必要が出てきます。

対物レンズには汎用形対物レンズと高分解能を目的とした強励磁対物レンズがあり、メーカーではそのSEMの使

用目的に合わせて、最適な性能が得られるようなレンズを作っています。電子プロ-ブ径

回折収差

合成したプロ-ブ径

開き角 最適開き角

最小 プロ-ブ径

球面収差

図33 対物レンズの収差と電子プローブ径

汎用形対物レンズ

汎用形対物レンズは、アウトレンズとも呼ばれますが、 EPMA(p28)等の分析装置を含めて最も多く使われて

いるものです。図34に示すように、大きな試料を傾斜してもレンズにぶつからないように、試料は対物レンズの下

方に置かれています。自由度が高い代わりに、試料とレンズの距離が長くなり(焦点距離を長くする必要があります)、

収差が大きくなります。この結果、高い分解能を得ることができません。

試料

レンズ磁場

コイル

ヨーク

図34 汎用形対物レンズの構造

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試料

レンズ磁場

高分解能用強励磁対物レンズ

試料をレンズ磁場の中に置くことで試料とレンズの距離を短くして、レンズの性能を上げ、高い分解能を得ようと

するものです。このようなレンズとしては、インレンズ形対物レンズ、シュノーケル形対物レンズ(セミインレンズ

形対物レンズとも呼ばれます)の2種類の対物レンズがあります。図35に示すインレンズ形対物レンズは、透過電

子顕微鏡の対物レンズのようにポールピースの磁場空間に試料を入れるもので、試料の大きさは数mmに制限されま

す。一方、シュノーケル形対物レンズは、図36に示すように、ポールピースの形状を工夫することで対物レンズ下

部の空間に強磁場を漏洩させてレンズを形成するもので、大きな試料が扱えます。いずれのレンズでも、二次電子検

出器はレンズの上方の空間に置かれるので、像のコントラストが汎用形対物レンズとは若干異なります(p14参照)。

対物レンズ絞りの役割

対物レンズの開口部全体を使うと、レンズの収差のために細い電子プローブを作ることができません。このため、

薄い金属板に小さい孔があいた“絞り”でレンズの中心部だけを電子線が通るようにします。この絞りを対物レンズ

絞りと呼んでいますが、この絞りが対物レンズの中心からずれると対物レンズの収差が大きくなり細い電子プローブ

を得ることができません。したがって、対物レンズ絞りはレンズの光軸上にきちんと置かれていなければなりません。

図35 インレンズ形対物レンズの構造

レンズ磁場

試料

図36 シュノーケル形対物レンズの構造

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実際のSEMの分解能

図37に、実際のSEMの加速電圧と分解能の

関係を示します。ここには汎用形SEM、汎用形

FESEM、超高分解能FESEMという3種類の

SEMの分解能が示してあります。いずれの

SEMでも、加速電圧が高くなると解像力は上が

り、加速電圧が数kV以下になると急激に解像力

が低下します。低加速電圧での解像力の低下は

主に色収差の影響によるものです。なお、ショ

ットキー電子銃を搭載したSEMは、汎用形

FESEMとほぼ同じカーブになります。

汎用形SEM:熱電子銃+汎用形対物レンズ

汎用形FESEM:FE電子銃+

汎用形対物レンズ

超高分解能FESEM:FE電子銃+高分解能用

対物レンズ

10

加速電圧(kV)

超高分解能FESEM1

101

解像力(nm) 汎用形SEM

汎用形FESEM

図37 加速電圧と分解能の関係

図38には加速電圧20kVにおけるプローブ

電流とプローブ径の関係を示します。プローブ

電流を大きくすると、熱電子銃の場合は比較的

一様なカーブでプローブ径が増加しますが、FE

電子銃の場合、ある範囲ではプローブ径は比較

的一定しており、1nA程度で急激にプローブ径

が大きくなります。また、それ以上のプローブ

電流は得られません。ショットキー電子銃の場

合、もっと大きなプローブ電流が得られ、プロ

ーブ径の増加もそれほど急激ではありません。

これが、ショットキー電子銃が分析に向いてい

る理由の一つです。 1pA 1nA1nm

10nm

100nm

プローブ電流

熱電子銃

FE電子銃

20kV

ショートキー 電子銃

プローブ径

1µm

1µA

図38 プローブ電流とプローブ径の関係

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帯電現象とは

前に述べたように、試料に入射した電子はエ

ネルギーを失って試料中に吸収されます。試料

が導体であれば、電子はそのまま試料ステージ

に流れますが、非導電性試料の場合は試料中に

止まり、いわゆる帯電が起きます。この様子を

図39に示します。この状態では、試料に流入

する電子の数と流出する電子の数は等しくあり

ません。一般には、流入する電子の数が上回っ

ており、試料はマイナスに帯電します。そのま

ま電子線の照射を続けると、照射されている場

所にはどんどん負の電荷が溜まっていき、その

場所の電位は大きくマイナスになっていきます。

そしてある値を超えると放電を起こし、また元

の電位に戻ります。一方、何らかに理由で試料

に流入する電子の数より流出する電子の数が多

くなると、試料はプラスに帯電します。

入射電子電流:Io

二次電子電流:Is

試料

反射電子電流:Ib

吸収電子電流:Ia

Io≠Ib+Is+Ia

図39 非導電性試料での電気の流れ

帯電のSEM像への影響

試料表面を走査する電子プローブは帯電した電荷の反発を受けて曲げられ、本来の照射位置からずれてしまいます。

この結果、像が歪んでしまいます。放電すると瞬間的に本来の場所に電子プローブの走査位置が戻るので、SEM像

が切れたように見えます。その様子を図40に示します。

電子プローブの走査が影響を受けない程度のわずかな帯電の場合はどうなるのでしょうか?局所的な帯電によって

エネルギーの小さな二次電子が影響を受けます。その影響は、帯電による検出効率の違い、あるいは二次電子軌道の

乱れとして現れ、その結果、画像が部分的に明るくなったり、暗くなったりする現象が観察されます。検出効率の違

いは、いわゆる電位コントラストを生じます。すなわち、試料がマイナスに帯電すると二次電子検出器と試料との間

の電位差が大きくなり、より多くの二次電子が検出器に入射するので、明るくなります(検出効率が高くなります)。

試料がプラスに帯電すると、逆に検出効率は低くなってその部分が暗くなります。一方、局所的な帯電が起きると周

辺には大きな電界が生じます。この電界は、二次電子検出器からの電界よりはるかに大きいのが普通で、放出された

二次電子はこれによって偏向され、軌道が乱されてしまいます。この結果、二次電子は検出器に入らず、像が暗くな

ってしまいます。その様子を図41に示します。

図40 帯電による像の歪み 図41 帯電による異常コントラスト

帯電現象とその影響

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帯電を防止するには

最も良く用いられるのは、非導電性試料を導電性の優れた金属の薄い膜で覆う方法です。イオンスパッタあるいは

真空蒸着といった方法で、Au、Pt、Au-Pd、Pt-Pdなどの貴金属を数nm~10nm程度の厚さの膜として試料表面

に付着させます。これらの貴金属を使う理由は、安定であるほか、二次電子放出率が高いことによるものです。試料

表面の形を忠実に再現するためにはなるべく薄い膜が良いのですが、複雑な表面形態の場合は膜を薄くすると連続膜

にならないところができてしまい、しばしば帯電を起こすことがあります。

E 1 E2=~1kV

0

1

加速電圧

二次電子放出率

図42 加速電圧と二次電子放出率の関係 図43 加速電圧を変えて観察したセラミックス(無コーティング)の二次電子像

●コーティング

帯電している状態では、試料に流入する電子の数と試料から流出する電子の数が異なっているわけですが、入射電

子線の加速電圧を低くしていくと二次電子放出率が増えていき、加速電圧1kV付近では、図42に示すように、入射

電子の数より二次電子の数の方が多くなります。この付近の加速電圧を使うと試料に入射する電子の数と、試料から

流出する電子の数が等しくなり、帯電しない条件が見つかります。すなわち、非導電性試料でも帯電することなく像

が観察できることになります。図43は無コーティングのセラミックを観察した例です。加速電圧10kVでは、凹凸

感も少なく、部分的に画像が尾を引いていますが、加速電圧1kVでは、凹凸感が得られているだけでなく画像が尾を

引くような様子も見られません。

●低加速電圧観察

前に述べたように(p10参照)試料表面に斜めに電子線が入射すると、二次電子放出量が増加します。この現象を

利用すると、非導電性試料を帯電することなく観察できることになります。この方法は凹凸の比較的少ない試料に有

効な方法です。

●傾斜観察

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+ + + +

+ + + +

- - - - - - - - -

電子銃

オリフィス

検出器

試料室

非導電性試料

電子プローブ

圧力

10 -3~10- 4Pa

圧力 数十 Pa

図44 低真空SEMによる非導電性試料の観察原理

図45 低真空SEMによる非導電性試料の観察例試料:星砂(無コーティング)

後で述べる低真空SEM(p26)を使うと非

導電性試料を帯電無しに観察できます。試料室

の真空を低下させると、残留ガス分子の数が増

加しますが、図44に示すように、このガス分

子が電子によってイオン化され、プラスイオン

となって試料に到達し、帯電を中和します。試

料によっても異なりますが、十分な数のイオン

を得るためには数十~100Pa程度の圧力にす

るのが普通です。図45は無コーティングの星

砂を低真空SEMで観察した例です。高真空モ

ードでは帯電によって異常なコントラストを生

じていますが、低真空モードでは帯電は起きて

いません。なお、ここでは反射電子像を使って

いるので陰影感が強い像となっています。

●低真空SEM観察

高真空モード 低真空モード

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試料作製の基礎

試料をSEMのステージに装着する前に、観察面が露出していること、試料台にしっかり固定されていること、原

則的には導電性を持っていること、などの条件が満たされていなければなりません。

観察面の露出とコントラスト付け

観察に適した大きさに試料を切り出した後、目的とした観察面を露出させます。試料表面そのものを観察する場合

は、特に前処理は必要ありませんが、必要に応じて観察の障害となる汚れなどの皮膜を取り除きます。

内部構造を観察する場合は適当な方法で断面を出さなければいけません。実際には次のような方法が使われます。

試料が固い場合は割って断面を作ります。半導体デバイスのようにSiやGaAsの単結晶の上に作られた構造物の場

合は、結晶の特定の方向に劈開性がありますからそれを利用するときれいな断面が得られます。常温では柔らくても

低温で固くなる材料の場合は液体窒素中で割るという方法も使われます。

●割る

ポリマーのように柔らかい材料は、超ミクロトームを使って切ることが可能です。超ミクロトームは透過電子顕微

鏡の試料を作るための装置で、かんなのように試料を削って薄膜状の試料を作るものですが、削って残った試料の切

削面は非常にきれいな断面です。倍率も低く、少々傷があっても構わないような試料ではカミソリの刃で断面を作る

こともあります。

●切る

多くの金属試料や鉱物試料などでは、樹脂の中に埋め込んで研磨する方法が用いられます。粗い砥粒→細かい砥粒

と段階を追って研磨を進め、最終的に断面を鏡面状態に仕上げます。

●磨く

平滑な断面がうまく出来ている場合、多くの試料は二次電子像では何も見えません。このような場合、特定の組織

を化学的あるいは物理的にエッチングすることで凹凸を付けた上で二次電子像を観察したり、一部の高分子材料など

では特定の部位にOs、Ruなどの重金属を選択的に付着させて(染色という)反射電子の組成像を観察します。こう

いった試料処理を行わなくても、元の試料に組成の違いや結晶性の違いがあれば、反射電子の組成像あるいはECC

像を観察できます。

●イオンビームで削る

最近多く使われているのが、イオンビームを使って試料を削る方法です。例えば、集束イオンビーム(FIB)装置

を使うと、数百nmの位置精度で断面を削り出すことが可能です。また、ブロードなArイオンビームを使って断面を

作る方法もあり、この方法はFIB法に比べて断面位置精度は劣りますが、はるかに広い断面が得られます。

●コントラスト付け

導電性のペーストや導電性の両面粘着テープを使って試料を固定します。比較的形が一定したものであれば機械的

に挟んで固定する場合もあります。非導電性試料の場合は、観察部位を残して出来る限り導電性ペーストで覆うこと

が望まれます。

●塊状(バルク)試料

試料台に塗った導電性ペーストや両面粘着テープの上に振り掛けますが、なるべくバラバラになるように振り掛け

る工夫が必要です。試料によっては、有機溶媒や水等の分散媒に懸濁してアルミフォイルやSiウェハの上に滴下して

乾燥する方法もあります。

●粉体・微粒子

試料の固定

試料は試料台の上に安定に固定されていなければなりません。同時に試料台との間で電気的に繋がっている必要が

あります。

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非導電性試料の場合、導電性を持たせるため

に試料表面を薄い金属膜で覆う必要があります。

これをコーティングと言い、イオンスパッタや

真空蒸着を使います。

イオンスパッタには、10Pa程度の真空中で

の放電を利用してターゲット金属をスパッタす

る2極スパッタとイオンビームでターゲット金

属をスパッタするイオンビームスパッタがあり

ます。通常使われるのは2極スパッタで、図

46にこれを利用したコーティング装置の概念

図を示します。低真空なのでスパッタされた金

属が残留ガス分子と衝突することで散乱され、

四方八方から試料表面に付着し、比較的均一な

厚さの膜ができます。イオンビームスパッタ装

置では、ターゲットと試料が高真空中に置かれているため、質の良いコーティングを行うことが可能です。

真空蒸着は真空中で材料を加熱蒸発させて試料表面に薄い金属膜を作るものです。10-3Pa 程度の高真空での蒸発

を利用するので、均一な膜厚のコーティングをするためには試料の回転傾斜を行います。

コーティング材料としては、二次電子放出率が高く安定なことから、Au、Au-Pd、Pt、Pt-Pdなどの貴金属が使

われます。高倍率の観察にはAu-Pd、Pt、Pt-Pd が使われますが、元素分析など、目的によってはC、Alなどが使

われることもあります。Pt、Pt-Pdは真空蒸着するのが難しく、C、Alはスパッタするのが困難です。

コーティングが厚くなると、試料表面の微細構造を覆い隠してしまうので、できるだけ薄いコーティングが良いわ

けですが、薄すぎると膜が連続せず帯電を引き起こします。通常は数nm~10nm程度の厚さにコーティングします。

コーティング

生物の組織や細胞のような含水試料は、そのままSEMの試料室に持ち込むと変形してしまいます。したがって、

一般的には次のような工程で乾燥した後、コーティングを行って観察します。食品もこの手順に準じて行われるのが

普通です。

生物試料の扱い

乾燥までの工程を行うのに適したようなサイズに切り出す作業で、できるだけ変形しないような方法で行う必要が

あります。表面の洗浄が必要な場合もあります。

●組織の摘出と洗浄

摘出した組織は死後変化が始まりますから、グルタ-ルアルデヒド、ホルムアルデヒド、四酸化オスミウムなどの

薬品で化学的に固定します。この段階でオスミウムを多量に組織に付着させることで導電性を持たせることも可能で

す(導電染色)。試料によっては、急速に凍結することで変化を抑える物理固定も使われます。

●固定

組織の中の水を脱水するには、変形を防ぐために濃度を段階的に変えたエタノール系列あるいはアセトン系列中に

試料を一定時間浸漬します。

組織中のエタノールあるいはアセトンなどを除去して乾燥する操作です。自然乾燥をすると表面張力のため試料が

変形するので、臨界点乾燥あるいは凍結乾燥といった特殊な乾燥法を用いて乾燥します。

●脱水

●乾燥

他の非導電性試料の扱いと同じです。

●試料の固定とコーティング

25

残留ガス分子

ターゲット マグネット スパッタ粒子

イオン衝撃

ロータリーポンプ

直流 数百V

試料

+

図46 イオンスパッタ装置の原理

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図47 低真空SEMによるコンクリート片の観察例 図48 簡易凍結観察法の応用例試料:乳酸菌

26

低真空SEM

通常のSEMでは試料室の圧力は10-3~10-4Paに保たれていますが、低真空SEMでは試料室の圧力を数十~数

百Paにすることができます。電子銃部を高真空に保持するためには、電子線通路と試料室の間にオリフィスを置い

て圧力差を付けるのが普通です(p23)。低真空SEMで用いられる真空では、通常のE-T形の二次電子検出器を使う

と放電を起こすため、反射電子検出器が用いられます。反射電子を用いた場合、組成のコントラストが強くなること、

陰影感の強いSEM像となることなどから、二次電子のガス増幅を利用したイオン電流検出法が使われることもあり

ます。

低真空SEMは非導電性試料の無コーティング観察に使われることを前に述べましたが、これだけではなく試料環

境の圧力が上げられることを利用して、ガス放出の多い試料や高真空中で不安定な試料の観察あるいは含水試料の凍

結観察にも使われます。

通常のSEMで、多孔質でガス放出の多い試料を観察しようとすると、試料室の真空がなかなか上がらないため、

試料を試料室に入れてから観察できるまでには非常に長い時間が掛かってしまいます。一方、低真空SEMでは試料

室の真空が数十~数百Pa程度であっても使用できるので、そのような試料を短時間で観察することが可能です。

図47は、コンクリート片を低真空SEMで観察した例ですが、試料室に入れてから数分でSEM像を得ることができ

ました。

含水試料をそのまま観察するには、液体窒素で試料を凍結して観察するクライオステージが使われますが、低真空

SEMでは試料室の圧力が高くできるので、比較的高い温度でも氷が昇華しません。例えば100Pa程度の真空であ

れば-20℃程度まで冷却すると氷の状態で観察することが可能となります。この程度の温度はペルチェ素子を使って

得られるので、液体窒素を使った大がかりな冷却ステージは必要ありません。また、一旦大気中で液体窒素を使って

凍結した試料を試料室に入れ、温度が上昇していく間に手早く撮影することも可能です。図48には、後者の簡易凍

結法で観察した例を示します。

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X線の発生

物質に電子が入射すると種々の電子のほか、

光、X線などの電磁波が放出されることは前に

述べたとおりです。図49に示すように、入射

電子によって内殻の電子が放出され、空位とな

った軌道を外殻の電子が埋めると、差のエネル

ギーを持ったX線が放出されます。これが特性

X線で、元素特有のエネルギー(波長)を持つ

ことから、このX線を検出することにより元素

分析を行うことができます。K殻の電子が励起

されて放出された特性X線をK線と呼び、L殻、

M殻の場合をそれぞれL線、M線と呼びます。

特性X線のエネルギーは重元素ほど大きくなり、

励起するには高いエネルギーを持つ入射電子が

必要となります。一方、入射電子が原子核によ

り減速される時に放出されるX線を連続X線ま

たは白色X線と呼びます。

M殻

L殻

K殻

入射電子

特性X線

図49 特性X線の発生原理

測定系へ

入射X線

-1000V

電子

正孔

P層 真性領域 N層

Auコーティング Auコーティング

図50 EDS検出器の構造 図51 EDSスペクトルの例

元素分析の基礎

X線分光器

エネルギー分散形X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectrometer:EDS)は特性X線のエネルギーを測

定することによりスペクトルを得る装置です。図50のように半導体検出器にX線が入射すると、X線のエネルギー

に相当する数の電子-正孔対が生成されるので、この数(電流)を測定することでX線のエネルギーを知ることがで

きます。検出器は電気的な雑音を減らすために、液体窒素などで冷やされており、B~UまでのX線を同時に測定で

きるのが特徴です。図51は実際に得られたスペクトルの例ですが、横軸はX線のエネルギー、縦軸はX線のカウン

トです。

●EDSの分光原理

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電子プローブ

試料

分光結晶

検出器

ローランド円

X線

図52 WDSの分光原理

波長分散形X線分光器(Wave l eng th

Dispersive X-ray Spectrometer:WDS)

は、特性X線の波長を測定することでスペクト

ルを得る装置です。図52のように、分光結晶

でのX線の回折現象を利用して波長を測定する

もので、分光結晶と検出器はローランド円と呼

ばれる一定半径の円の上を移動します。全波長

範囲をカバーするには複数の分光結晶とそれを

駆動する機構が必要になり、スペクトルを得る

には時間が掛かります。

●WDSの分光原理

EDSとWDSの違いを表2に示します。EDSの特長は、少ないプローブ電流での測定が可能なこと、比較的短時

間でスペクトルが得られることなどです。一方、WDSはエネルギー分解能(波長分解能)が良いこと、微量濃度の

元素が検出できることなどの特長を持っています。SEMにはEDSが取り付けられることが多く、WDSは元素分析

を主な目的にした電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Microanalyzer:EPMA)の分光器として

使われるのが普通です。

●EDSとWDSの違い

EDS WDS

測定元素範囲 B~U B~U

測定方式 Si(Li)半導体検出器による 分光結晶による

エネルギー分散方式 波長分散方式

分解能 E≒130~140eV E≒20eV(エネルギー換算)

測定速度 速い 遅い

多元素同時測定 可 不可

試料の損傷・汚染 少ない 多い

検出限界 1500~2000ppm 10~100ppm

単位電流当たりの 多い 少ない

X線検出量

表2 EDSとWDSの特徴

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特定のエネルギーの特性X線だけに注目して、電子プローブを走査することをX線マッピングといい、試料中での

元素の分布を知ることができます。注意することは、P-B比が極端に悪い場合(バックグラウンドに比べてピークが

小さい場合)は、知りたい元素の分布ではなく連続X線の分布となってしまうことや、分光器のエネルギー分解能と

同じ程度にエネルギーの近接した特性X線の場合は、別な元素の分布が表示されてしまうことがあることなどです。

図53はX線マッピングの例ですが、特性X線の強度は、二次電子、反射電子に比べて弱いので1画面の像を得るに

は長時間掛かります。

定性分析

X線のスペクトルから、電子線が照射されている領域にどんな元素が存在するかという定性分析を行うことができ

ます。分析モードとしては、電子線が照射されている領域のスペクトルを得る点分析、注目した元素が指定した線上

にどのように分布しているかを表示する線分析、同じく注目した元素が2次元的にどのように分布しているかを表示

するマッピングの3種類が使われます。マッピングは面分析と呼ばれることもあります。点分析は試料上の1点(分

析領域参照)の定性分析を行うものですが、ある大きさを持った領域の分析を行う場合は、電子プローブの走査をし

ながら(像を観察しながら)行います。検出限界(どの位微量な元素が検出できるか)は元素によって違いますが、

EDSでは数千ppmです。

X線マッピング

X線マッピングの解像力は、後で述べる分析領域で決まりますが、試料表面付近に特定の元素が局在しているよう

な場合、分析領域より小さな異物であってもその異物を認識することが可能です。

一方、試料上の1点1点を定量分析しながら電子プローブを走査する方法が定量マッピングです。この方法では、

単純なX線マッピングとは違ってP-B比が悪い場合でも正しい元素の分布を知ることができます。

図53 X線マッピングの例試料:コンクリート片

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特性X線の強度は対応する元素の濃度に比例するので、定量分析を行うことができます。実際には予め濃度がわか

っている標準試料のX線強度と未知試料のX線強度を比較することで未知試料の元素濃度を知ることができます。た

だし、試料内部で発生したX線は真空中に放出される前に試料中で吸収を受けたり、混在する元素を励起することが

あるので、これに対する補正を行う必要があります。現在使われているEDSあるいはWDSではこの補正計算が簡単

にできるようになっていますが、この補正を行う時の前提は、発生領域の中で元素の分布が一様であること、試料表

面が平坦で、電子プローブが垂直に入射していることなどです。実際にSEMで扱う試料の多くはこの前提条件を満

たしていないことが多いので、かなりの誤差を持つ可能性があることを念頭に置く必要があります。

定量分析

非導電性試料の場合、通常のSEM観察と同様に金属コーティングを行う必要があります。SEM観察と違う注意は、

試料中に含まれている可能性のある元素と同じ金属をコーティングしてはならないことです。また、軽元素の検出を

目的とするときは、重金属の厚いコーティングによって試料から放出された軽元素のX線が遮られる可能性があるの

で、コーティングはできるだけ薄くしなければなりません。

非導電性試料をそのまま分析をしようとすると、帯電の影響で見かけ上低い加速電圧で分析したことになりますから、

励起エネルギーの高い特性X線が検出されなかったり、定量分析の精度が落ちるといった現象が起きてしまいます。

また線分析、X線マッピングを行ったときに位置ずれを生じることがあります。

低真空SEMを使うと非導電性試料をコーティング無しで分析することができます。ただし、電子線の通路に存在

する空気分子のため入射電子線が散乱され、分析領域がかなり大きくなってしまうので注意が必要です。

非導電性試料の分析

試料に入射した電子はエネルギーを失いながら試料中で拡散しますが、その過程でX線を励起します。したがって、

X線の発生領域はある大きさを持ち、通常の使用条件ではμmオーダーになります。SEM像で観察される数nm~

数十nmの異物を分析しているつもりでも、実際の分析領域ははるかに大きくなるので、注意が必要です。X線の発

生領域を小さくするには加速電圧を下げればよいのですが、特性X線を励起するには、励起しようとする特性X線の

エネルギーよりも大きな加速電圧が必要なので限界があります。さらに分析領域を小さくするには薄膜状の試料を作

って分析する方法が使われます。例えば、厚さ100nm程度の試料を30kVで分析すれば多くの元素で100nm以下

の分析領域が得られます。

分析領域

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歴史

SEMの開発は、Ruskaによる1931年のTEMの発明に遅れること数年で始まりましたが、実用化には数十年を

費やしました。図54にこの間の歴史を示します。

電子線を走査して像を得るというSEMの原形は、1935年にドイツのKnollによって作られました。Knollは、

Ruskaが作った最初のTEMの開発にも関与していますが、テレビカメラの撮像管のターゲット材料を研究するため

この装置を開発しました。真空封じされたガラス管の中に電子銃と試料を収め、約100μm径の電子線を試料に照

射して、試料吸収電流を像にしました。

縮小レンズ系を使ったSEMを作ったのは同じくドイツの von Ardenne で、1938年のことです。この装置の鏡

筒は2m近い高さを持っており、2段の静電レンズを用いた縮小レンズ系で4nmのプローブ径を得ていたとのこと

です。実際には、薄膜状の試料を観察するのを目的とした走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission

Electron Microscope:STEM)専用機で、試料の下に置いた写真フィルムに像を直接描かせるものでした。ブラ

ウン管で像を観察するといった手段は無く、フィルムを現像して初めて結果が得られるものでした。von Ardenne

はバルク試料の観察は行っていませんが、電子増幅を使った二次電子検出器のアイディアを論文に発表しています。

1942年にアメリカRCAの Zworykin はバルク試料を観察するためのSEMを作りましたが、この装置は、電界

放出電子銃と4段の縮小レンズ系を組み合わせたもので、二次電子の検出にシンチレータを使っています。画像の記

録にはFAXが使われました。得られた二次電子像は、TEMのレプリカ法で得られたものに比べてかなり劣っていた

ので、RCAでのSEMの開発は打ち切られました。また、多くの研究者の関心はテレビの開発研究に移ったため、こ

の後しばらくはSEMの開発研究は途絶えることになり、イギリス Cambridge大学の Oatley の研究室での再開を

待たなければなりませんでした。

Oatley の研究室では、SEMに関する多くの基礎研究が行われました。1953年にはMcMullan が加速電圧15

~20kVで、解像力50nmを持つSEMを完成させ、1965年までに5台のSEMが作られました。この間に現在の

二次電子検出器の原形となるE-T検出器、種々の観察手法、その他の応用技術が開発されました。また、1961年に

は、この研究室で作られたSEMがカナダのパルプ会社に設置されています。

実際の商品化は、1965年に、イギリスの Cambridge Scientific Instrument 社、および日本電子株式会社で

行われました。その後の40年間に数万台に及ぶSEMが生産されましたが、この間に、装置の性能・機能とも大きな

進歩を遂げて現在に至っています。

図54 SEMの黎明期における歴史

1930 1940 1950 1960 1970

1931 E. RuskaTEMの発明

1935 M. KnollSEMの原形

1938 M. von Ardennneレンズ系を持ったSEM(STEM)

1942 V.A. Zworykinバルク試料観察のためのSEM

C.W. Oatleyの研究室での基礎研究・応用技術開発

1965SEMの商品化

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